JP4245213B2 - 酢酸ビニル樹脂系エマルジョン製造用乳化用分散安定剤およびその用途 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(以下、AA化PVAと略記する)からなる酢酸ビニル樹脂系エマルジョン製造用乳化用分散安定剤およびそれを用いた酢酸ビニル樹脂系エマルジョンに関し、更に詳しくは流動安定性、低温安定性、放置安定性、耐水接着力等に優れた酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得るのに有用な乳化用分散安定剤およびそれを用いた酢酸ビニル樹脂系エマルジョンに関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリ酢酸ビニルエマルジョンのようなビニル樹脂系のエマルジョンの乳化用分散安定剤として、従来からポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVAと略記する)が知られており、近年ではポリ酢酸ビニルエマルジョンの耐水接着強度の向上を目的として、アセト酢酸エステルで変性したAA化PVAも用いられるようなってきた。
本出願人も、かかるAA化PVAを用いて、▲1▼pka≧4の有機酸の多価金属塩を共存させてpH2.5〜6.5で乳化重合する方法(特開平1−204901号公報)や▲2▼酸性亜硫酸塩を共存させて乳化重合する方法(特開平7−138305号公報)を提案し、更には、▲3▼酢酸塩及び酢酸を特定量含有するAA化PVAの乳化分散安定剤(特開平9−31112号公報)や▲4▼鉄分を特定量含有するAA化PVAの乳化分散安定剤(特開平9−77948号公報)を提案した。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のいずれの方法においても、得られるエマルジョンの耐水接着力の向上は見られるものの、耐熱水接着力については、必ずしも十分ではなく、耐熱水接着力、流動安定性、低温安定性、放置安定性等が更に改善された酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得るのに有用な乳化用分散安定剤が望まれるところである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者はかかる現況に鑑みて鋭意検討した結果、ブロックキャラクター[η]が0.6以下で、かつ平均重合度が500〜1500であるAA化PVAからなる乳化用分散安定剤が、上記の目的に合致することを見出して本発明を完成するに至った。
尚、ここで言うブロックキャラクター[η]とは、13C−NMRの測定(内部標準物質として3-(Trimethylsilyl)propionic-2,2,3,3,-d4acid,sodiumsaltを使用)により、40〜49ppmの範囲に見られるメチレン炭素部分に基づく吸収[(OH,OH)=46〜49ppmの吸収、(OH,OR)=43.5〜45.5ppmの吸収、(OR,OR)=40〜43ppmの吸収、但し、ORはO−酢酸基又はO−アセト酢酸基を表す]の吸収強度比から求められるもので、より具体的には下記(3)式より算出される値である。
【数3】
[η]=(OH,OR)/2(OH)(OR) ・・・ (3)
〔但し、(OH,OR)、(OH)、(OR)は、いずれもモル分率で計算するものとする〕
【0005】
【発明に実施の形態】
以下、本発明について詳述する。
本発明の酢酸ビニル樹脂系エマルジョン製造用乳化用分散安定剤に用いられるAA化PVAは、上記の如くそのブロックキャラクター[η]が0.6以下(更には0.55以下、特に経済的なことを考慮すれば0.30〜0.55)であることが必要で、かかるブロックキャラクターが0.6を越えると耐熱水接着力が低下して本発明の目的を達成することが困難となる。
従来より、未変性のPVAのブロックキャラクター値をコントロールするにあたっては、酸ケン化してブロック性を下げたり、或いは(誘電率の低い溶媒の存在下で)アルカリケン化したりしてブロック性を上げたりすることが行われてきたが、本発明で用いられるような上記の如き特定のブロックキャラクター値のAA化PVAを得るには、一般のAA化PVAの製造時に多少の工夫を要する。
【0006】
すなわち、ケン化反応時に酢酸基をブロック性が高い状態で残存させておき、その後アセト酢酸エステル化することが必要であり、該ブロック性を上げる手段としては、誘電率の低い溶剤(酢酸メチル、ヘキサン、ベンゼン、酢酸エチル、流動パラフィン、トルエン、アセトン、酢酸イソプロピル、トリクロロエチレン、キシレン等)を3〜40重量%(更には5〜20重量%、特に10〜20重量%)含有させる方法、ケン化温度を40〜50℃に上げる方法、ケン化時の樹脂分を上げる方法、ケン化反応系内の水分をなくする方法等が挙げられ、これらの方法を適宜組み合わせることにより可能となる。
【0007】
以下、具体的に本発明で用いるAA化PVAの製造法について説明する。
本発明に用いられるAA化PVAは、後述するようにPVAにジケテンを反応させたり、PVAとアセト酢酸エステルを反応させてエステル交換したりして、PVAにアセト酢酸エステル基を導入させたもので、かかるPVAとしては、一般的にはポリ酢酸ビニルの低級アルコール溶液をアルカリや酸などのケン化触媒によってケン化したケン化物又はその誘導体が用いられ、更には酢酸ビニルと共重合性を有する単量体と酢酸ビニルとの共重合体のケン化物等を用いることもでき、該単量体としては、例えばエチレン、プロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル等、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテルなどのポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン等が挙げられる。
【0008】
AA化PVAの原料となるPVAは、上記の如きケン化物を用いることができるのであるが、かかるケン化物を製造する時には、上述したように多少の工夫が必要となってくる。
すなわち、得られるPVAのケン化度を85モル%以上(更には87〜95モル%、特に89〜93モル%)とすることが必要で、かかるケン化度が85モル%未満では、PVAに曇点が発現して乳化剤としての使用温度が制限される結果となって、好ましくない。
【0009】
また、得られるPVAの平均重合度は500〜1500(更には800〜1300、特に900〜1200)とする必要があり、かかる重合度が500未満ではエマルジョンの製造時にエマルジョン粒子が凝集して好ましいエマルジョンを得ることができなくなり、逆に1500を越えるとエマルジョンの粘度が高くなりすぎて接着剤等に使用したときの作業性に問題があるばかりではなく、被着体に対する”ぬれ性”が低下して接着強度の低下を招いて本発明の目的を達成することは困難となる。
更に該PVAの形状としては、特に限定されないが、後述のジケテンの均一吸着、吸収による反応の均一化及びジケテンとの反応率の向上等を考慮すれば、粉末状、なかんずく粒径分布が狭く、かつ多孔性であるものが好ましく、その粒度としては50〜450メッシュが好ましく、更には80〜320メッシュのものが好ましい。
【0010】
また、該PVAは製造工程中のアルコール類及び水分を数重量%含むことがあるが、これらの成分中にはジケテンと反応して、ジケテンを消費し、ジケテンの反応率を低下せしめるので、反応に供する際には、加熱、減圧操作を行うなどして可及的に減少せしめてから使用することが望ましい。
また、本発明においては、上記の如く粉末状のPVAを原料PVAとすることができるが、製造工程の簡略化の点を考慮すれば、原料PVAの製造時のケン化工程後の溶剤(メタノール、エタノール、(イソ)プロパノール等)を含有したスラリー状のPVAを脂肪酸エステルで置換して原料PVAとして用いることが好ましい。
上記の如く得られたPVAにアセト酢酸エステル基を導入するにあたっては、PVAとジケテンを反応させる方法、PVAとアセト酢酸エステルを反応させエステル交換する方法や、酢酸ビニルとアセト酢酸ビニルを共重合させる方法等を挙げることができるが、製造工程が簡略で、品質の良いAA化PVAが得られる点から、PVA(粉末)とジケテンを反応させる方法で製造するのが好ましい。
【0011】
以下、かかる方法について説明するが、これに限定されるものではない。
PVA粉末とジケテンを反応させる方法としては、PVAとガス状あるいは液状のジケテンを直接反応させても良いし、有機酸をPVA粉末に予め吸着吸蔵せしめた後、不活性ガス雰囲気下で液状又はガス状のジケテンを噴霧、反応するか、またはPVA粉末に有機酸と液状ジケテンの混合物を噴霧、反応するなどの方法が用いられる。
【0012】
有機酸を使用する方法では、有機酸としては酢酸が最も有利であるが、これのみに限られるものではなく、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸等も任意に使用される。有機酸の量は反応系内のPVA粉末が吸着及び吸蔵しうる限度内の量、換言すれば反応系の該樹脂と分離した有機酸が存在しない程度の量が好ましい。具体的には、PVA100重量部に対して0.1〜80重量部、好ましくは、0.5〜50重量部、特に好ましくは5〜30重量部の有機酸を共存させるのが適当である。かかる範囲外では、アセト酢酸エステル化度(以下AA化度と略記する)分布の不均一な生成物が得られやすく、未反応のジケテンが多くなる傾向があり、又、ゲル等が生じたりする場合もあり、好ましくない。
【0013】
有機酸をPVAに均一吸着、吸蔵するには、有機酸を単独でPVAに噴霧する方法、適当な溶剤に有機酸を溶解しそれを噴霧する方法等、任意の手段が実施可能である。
PVAとジケテンとの反応条件としては、PVA粉末に液状ジケテンを噴霧等の手段によって均一に吸着、吸収せしめる場合は、不活性ガス雰囲気下、温度20〜120℃に加温し、所定の時間撹拌あるいは流動化を継続することが好ましい。
【0014】
また、ジケテンガスを反応させる場合、接触温度は0〜250℃、好ましくは、25〜100℃であり、ガス状のジケテンがPVAとの接触時に液化しない温度とジケテン分圧条件下に接触させることが好ましいが、一部のガスが液滴となることは、なんら支障はない。
接触時間は接触温度に応じて、即ち温度が低い場合は時間が長く、温度が高い場合は、時間が短くてよいのであって、1分〜6時間の範囲から適宜選択する。
ジケテンガスを供給する場合には、ジケテンガスそのままか、ジケテンガスと不活性ガスとの混合ガスでも良く、粉末PVAに該ガスを吸収させてから昇温しても良いが、該粉末を加熱しながら、加熱した後に該ガスを接触させるのが好ましい。
【0015】
アセト酢酸エステル化(以下AA化と略記する)の反応の触媒としては、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、第一アミン、第二アミン、第三アミンなどの塩基性化合物が有効であり、該触媒量は公知の反応方法に比べて少量で良く、PVA粉末に対し0.1〜1.0重量%である。PVA粉末は、通常酢酸ナトリウムを含んでいるので触媒を添加しなくてもよい場合が多い。触媒量が多すぎるとジケテンの副反応が起こりやすく好ましくない。
AA化を実施する際の反応装置としては、加温可能で撹拌機の付いた装置であれば十分である。例えば、ニーダー、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー
その他各種ブレンダー、撹拌乾燥装置である。
【0016】
かくして得られたAA化PVAのアセト酢酸エステル基の含有量は0.5〜5モル%(更に1〜5モル%、特に2〜4モル%)とすることが好ましく、かかる含有量が0.5モル%未満では耐熱水接着力が不十分となり、逆に5モル%を越えるとエマルジョンの安定性が低下して好ましくない。
また、AA化PVA中に含まれるアセト酢酸エステル基の含有量と酢酸基の含有量の関係が下記の(1)式の如くなるように調整することも好ましい。
【数4】
0.20≦[AA]/{[AA]+[AC]}≦0.45 ・・・ (1)
(但し、[AA]はアセト酢酸エステル基の含有量(モル%)、[AC]は酢酸基の含有量(モル%)をそれぞれ表す)
上記(1)式において、中央の計算値が0.20未満の時は耐水接着力が不足し、逆に0.45を越えるときはエマルジョンの安定性が低下して好ましくない。更には該計算値が0.25〜0.40の範囲が好ましい。
【0017】
かくして得られたAA化PVAは、流動性等の性状に優れ、かつ低温安定性、放置安定性、耐水接着性等に優れた酢酸ビニル樹脂系のエマルジョンを得る為の乳化用分散安定剤として有用であり、かかるAA化PVAを乳化分散安定剤として用いた酢酸ビニルモノマーの乳化重合法について、具体的に説明する。
乳化重合を行う際には、乳化分散安定剤(上記のAA化PVA)、水及び重合触媒の存在下に酢酸ビニルモノマーを一時又は連続的に添加して、加熱・撹拌するが如き通常の乳化重合法が実施され得る。かかるAA化PVAは、粉末のまま或いは水溶液にして水媒体に加えられる。使用量は、該AA化PVAの変性量や要求されるエマルジョンの樹脂分等によって多少異なるが、通常は不飽和単量体に対して1〜50重量%、好ましくは2〜20重量%程度の範囲から好適に選択される。
【0018】
使用される触媒としては、ラジカル発生剤なかんずく水溶性触媒が好適に用いられ、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等がそれぞれ単独又は酸性亜硫酸ナトリウムと併用して用いられる。また、過酸化水素−酒石酸、過酸化水素−鉄塩、過酸化水素−アスコルビン酸−鉄塩、過酸化水素−ロンガリット、過酸化水素−ロンガリット−鉄塩などのレドックス系触媒が用いられ、更には、化薬アクゾ社製「カヤブチルB」や同社製「カヤブチルA−50C」等の有機過酸化物とレドッックス系からなる触媒が用いられ、エマルジョンの耐熱水接着力の観点から過硫酸系の触媒が好適に用いられる。又、AA化PVA単独で本発明の効果を十分に得ることは可能であるが、必要に応じて更に各種界面活性剤(例えばドデシルベンゼンスルホン酸、脂肪酸塩等のアニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤など)あるいは乳化剤(例えばカルボキシメチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース,メチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリアクリル酸誘導体、(無水)マレイン酸−ビニルエーテル共重合体、(無水)マレイン酸−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−(メタ)アリルスルホン酸(塩)共重合体ケン化物など)、保護コロイドとして公知の各種PVA及びPVA誘導体も適宜併用することもできる。
更に、フタル酸エステルや燐酸エステル等の可塑剤、炭酸ナトリウム,酢酸ナトリウム,燐酸ナトリウム等のpH調整剤等も併用され得る。
【0021】
かくして本発明の乳化用分散安定剤を用いたエマルジョンについて述べてきたが、本発明の乳化用分散安定剤を用いた酢酸ビニル樹脂系エマルジョンは、その形成皮膜が特徴的な物性を示すものである。
すなわち、かかる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンから得られる皮膜の貯蔵弾性率が60〜120℃の範囲において、常に下記(2)式を満足するものであり、かかる式の左辺の値が0.25以下の時は耐熱水接着力が不十分となって接着剤としての良好な物性を得ることができない。
【数5】
E'2/E'1>0.25 ・・・ (2)
ここで、E'1は、上記のエマルジョンから得られた皮膜(PETフィルム上にアプリケーターを用いてエマルジョンをキャスティングした後、該エマルジョンの最低造膜温度より20℃高い温度で4時間乾燥を行って得られた膜厚10μmのフィルム)の貯蔵弾性率(Pa)を、E'2は、その得られた皮膜を4時間沸騰水浸せきして23℃で24時間放置後の貯蔵弾性率(Pa)をそれぞれ表す。また、ここで言う貯蔵弾性率とは、110Hzの振動を与えた時に測定される値で、動的粘弾性測定装置で測定することができ、本発明においては、60〜120℃まで、2℃/minの速度で昇温しながら、該測定装置で連続的に測定した時の値で、E'1及びE'2の値は同温度での値である。
【0022】
上記の如き本発明の酢酸ビニル樹脂系エマルジョンは、接着剤、バインダー、コーティング剤等に用いることができ、特に接着剤として有用で、かかる接着剤として用いるにあたっては、エマルジョンは通常固形分濃度30〜60%程度で使用され、その固形分中の添加剤量が1〜30重量%程度で、充填剤、消泡剤(或いは発泡剤)、着色剤、造膜助剤、防腐・防虫剤、防錆剤等の添加物が配合されて接着剤用途に供される。また、対象となる接着物(被着体)としては、木材、紙、プラスチックス、繊維等が挙げられる。
特に接着剤用途においては、本発明の乳化分散剤をそのまま一液の接着剤と使用することができ、従来の水性高分子−イソシアネート系接着剤やメラミン−ホルムアルデヒド系接着剤等の二液タイプの接着剤と同等の耐熱水接着力を有し、作業性等の大幅な改善を図ることが可能となる。
【0023】
【実施例】
以下、本発明について実施例を挙げて更に詳しく説明する。
尚、例中に断りのない限り、「%」、「部」とあるのは、重量基準を示す。
実施例1
(PVAの製造)
常法により得られたポリ酢酸ビニル(平均重合度1000;完全ケン化してJIS K 6726に準拠して測定、以下同様)のメタノール溶液に酢酸メチルを添加して、ポリ酢酸ビニル/メタノール/酢酸メチル=48/39/13(重量比)になるように調整してポリ酢酸ビニル溶液を得た後、該溶液100部をニーダーに仕込んで、液温を40℃に調整した。液温が40℃になった時点で、触媒として2%の水酸化ナトリウム水溶液3部を仕込んでケン化を1.5時間行った。その後酢酸で中和してケン化反応を停止させた後、メタノールで繰り返し洗浄を行い、次いで乾燥を行って、ケン化度91.1モル%(残酢酸基8.9モル%)のPVAを得た。
【0024】
(AA化PVAの製造)
上記で得られたPVAの粉末200部をニーダーに仕込み、これに酢酸20部を入れて膨潤させ、回転数20rpmで攪拌しながら、65℃に昇温後、ジケテン22部を4時間かけて滴下し、更に30分反応させて、AA化PVAを得た。得られたAA化PVAのブロックキャラクター[η]は0.51で、アセト酢酸エステル基の含有量[AA]は3.1モル%で、酢酸基の含有量[AC]は8.9%であり〔[AA]/{[AA]+[AC]}=3.1/(3.1+8.9)=0.26〕、水酸基の含有量は88.0モル%であった。
【0025】
尚、ブロックキャラクター[η]の算出に当たっては、下記の条件で測定した13C−NMRの測定結果より算出した。
測定機器 :BURKER社製「AVANCE DPX400」
溶媒 :D2O
積算回数 :8192回
パルス間隔 :2秒
内部標準物質:3-(Trimethylsilyl)propionic-2,2,3,3,-d4acid,sodiumsalt
測定温度 :50℃
濃度 :7.5%
得られたAA化PVAを乳化用分散安定剤として用いて、以下の如く酢酸ビニル樹脂エマルジョンを製造して、後述の如くエマルジョンの性状、低温安定性、放置安定性、耐水接着性について評価を行った。
【0026】
(酢酸ビニル樹脂エマルジョンの製造)
撹拌器、還流冷却器、滴下ロート、温度計を備えたセパラブルフラスコに水60部、上記で得られたAA化PVA4部及びpH調整剤として酢酸ナトリウム0.02部、酢酸ビニルモノマー3.6部を仕込み、撹拌しながらフラスコ内の温度を60℃に上げた。その間窒素ガスでフラスコ内を置換しながら、1%の過硫酸アンモニウム水溶液を5ml添加して重合を開始した。初期重合を30分間行い、残りの酢酸ビニルモノマー32.4部を3時間かけて滴下し、更に1%の過硫酸アンモニウム水溶液5mlを1時間毎に4分割して重合を行った。その後、75℃で1時間熟成した後冷却して、固形分39.8%、粘度34Pa・sec(25℃)の酢酸ビニルのエマルジョンを得た。得られたエマルジョンから皮膜を作製して、貯蔵弾性率を測定したところ、各温度での貯蔵弾性率E'1は、6.6×108Pa(60℃)、8.4×107Pa(80℃)、1.4×107Pa(100℃)、4.9×106Pa(120℃)であり、かかる皮膜を4時間沸騰水浸せきして23℃で24時間放置後の各温度での貯蔵弾性率E'2は、4.5×108Pa(60℃)、3.1×107Pa(80℃)、8.8×106Pa(100℃)、3.5×106Pa(120℃)であった。これらの測定値より、それぞれの温度におけるE'2/E'1の値を算出すると、0.68(60℃)、0.37(80℃)、0.63(100℃)、0.71(120℃)であった。
【0027】
尚、貯蔵弾性率は、(株)レオロジ製「DVE RHEOSPECTOLERDVE−V4」を用いて下記の条件にて測定を行った。
治具 :引っ張り
荷重 :自動静荷重
周波数 :110Hz
昇温速度:2℃/min(室温〜120℃)
変位振幅:15μm
得られた酢酸ビニルのエマルジョンについて、以下の要領で評価を行った。
【0028】
(エマルジョンの性状)
製造後のエマルジョンの状態を目視観察して、以下の通り評価した。
○ −−− 流動性が良好で、粗粒子も認められない
△ −−− 流動性は良好であるが、若干の粗粒子が認められる
× −−− 粗粒子が多く、エマルジョンの凝集が認められる
(低温安定性)
製造後のエマルジョンを0℃で5日間放置後、室温(25℃)に戻して粘度変化を調べて、以下の通り評価した。
○ −−− 粘度上昇が全く認められない
△ −−− 粘度上昇が1.8倍以内
× −−− 粘度上昇が1.8倍を越える
(放置安定性)
製造直後のエマルジョンを室温(23℃)で放置して、粘度が2倍になるまでの日数を調べた。
(耐熱水接着性)
JIS K 6804に準拠して試験片を作製後、JIS K 6852の煮沸繰り返し試験に準拠して接着力(kg/cm2)を測定した。
【0029】
実施例2
実施例1の(PVAの製造)において、平均重合度1200のポリ酢酸ビニルを用い、かつケン化時間を3.0時間とした以外は同様に行って、ケン化度92.8モル%(残酢酸基7.2モル%)のPVAを得て、次いでジケテンの滴下量を34部とした以外は同様にAA化PVAの製造を行って、AA化PVAを得た。
得られたAA化PVAのブロックキャラクター[η]は0.55で、アセト酢酸エステル基の含有量[AA]は4.8モル%で、酢酸基の含有量[AC]は7.2%であり〔[AA]/{[AA]+[AC]}=4.8/(4.8+7.2)=0.40〕、水酸基の含有量は88モル%であった。
【0030】
得られたAA化PVAを乳化用分散安定剤として用いて、実施例1と同様にして、酢酸ビニル樹脂エマルジョン(固形分39.9%、粘度51Pa・sec(25℃)を製造して、同様に評価を行った。また、得られたエマルジョンから皮膜を作製して、実施例1と同様に貯蔵弾性率を測定したところ、各温度での貯蔵弾性率E'1は、6.8×108Pa(60℃)、7.3×107Pa(80℃)、1.3×107Pa(100℃)、5.6×106Pa(120℃)であり、かかる皮膜を4時間沸騰水浸せきして23℃で24時間放置後の各温度での貯蔵弾性率E'2は、4.7×108Pa(60℃)、2.7×107Pa(80℃)、8.1×106Pa(100℃)、4.0×106Pa(120℃)であった。これらの測定値より、それぞれの温度におけるE'2/E'1の値を算出すると、0.69(60℃)、0.37(80℃)、0.62(100℃)、0.71(120℃)であった。
【0031】
実施例3
実施例1の(PVAの製造)において、平均重合度1300のポリ酢酸ビニルを用い、かつケン化時間を1.1時間とした以外は同様に行って、ケン化度89.1モル%(残酢酸基10.9モル%)のPVAを得て、次いでジケテンの滴下量を14部とした以外は同様にAA化PVAの製造を行って、AA化PVAを得た。
得られたAA化PVAのブロックキャラクター[η]は0.45で、アセト酢酸エステル基の含有量[AA]は2.0モル%で、酢酸基の含有量[AC]は10.9%であり〔[AA]/{[AA]+[AC]}=2.0/(2.0+10.9)=0.16〕、水酸基の含有量は87.1モル%で、平均重合度は1300であった。
【0032】
得られたAA化PVAを乳化用分散安定剤として用いて、実施例1と同様にして、酢酸ビニル樹脂エマルジョン(固形分39.6%、粘度46Pa・sec(25℃)を製造して、同様に評価を行った。また、得られたエマルジョンから皮膜を作製して、実施例1と同様に貯蔵弾性率を測定したところ、各温度での貯蔵弾性率E'1は、7.4×108Pa(60℃)、7.6×107Pa(80℃)、1.1×107Pa(100℃)、4.6×106Pa(120℃)であり、かかる皮膜を4時間沸騰水浸せきして23℃で24時間放置後の各温度での貯蔵弾性率E'2は、4.9×108Pa(60℃)、2.7×107Pa(80℃)、6.6×106Pa(100℃)、3.2×106Pa(120℃)であった。これらの測定値より、それぞれの温度におけるE'2/E'1の値を算出すると、0.66(60℃)、0.36(80℃)、0.60(100℃)、0.70(120℃)であった。
【0033】
実施例4
実施例1の(PVAの製造)において、平均重合度1300のポリ酢酸ビニルを用い、かつケン化時間を1.0時間とした以外は同様に行って、ケン化度88.8モル%(残酢酸基11.2モル%)のPVAを得て、次いでジケテンの滴下量を12部とした以外は同様にAA化PVAの製造を行って、AA化PVAを得た。
得られたAA化PVAのブロックキャラクター[η]は0.37で、アセト酢酸エステル基の含有量[AA]は1.9モル%で、酢酸基の含有量[AC]は11.2%であり〔[AA]/{[AA]+[AC]}=1.9/(1.9+11.2)=0.15〕、水酸基の含有量は86.9モル%であった。
【0034】
得られたAA化PVAを乳化用分散安定剤として用いて、実施例1と同様にして、酢酸ビニル樹脂エマルジョン(固形分39.8%、粘度52Pa・sec(25℃)を製造して、同様に評価を行った。また、得られたエマルジョンから皮膜を作製して、実施例1と同様に貯蔵弾性率を測定したところ、各温度での貯蔵弾性率E'1は、7.2×108Pa(60℃)、7.4×107Pa(80℃)、1.1×107Pa(100℃)、4.5×106Pa(120℃)であり、かかる皮膜を4時間沸騰水浸せきして23℃で24時間放置後の各温度での貯蔵弾性率E'2は、4.8×108Pa(60℃)、2.7×107Pa(80℃)、6.5×106Pa(100℃)、3.2×106Pa(120℃)であった。これらの測定値より、それぞれの温度におけるE'2/E'1の値を算出すると、0.66(60℃)、0.36(80℃)、0.59(100℃)、0.70(120℃)であった。
【0035】
実施例5
実施例1の(PVAの製造)において、平均重合度1000のポリ酢酸ビニルを用い、かつ水酸化ナトリウム水溶液の仕込量を2.5部とし、かつケン化時間を2.8時間とした以外は同様に行って、ケン化度85.0モル%(残酢酸基15.0モル%)のPVAを得て、次いでジケテンの滴下量を13部とした以外は同様にAA化PVAの製造を行って、AA化PVAを得た。
得られたAA化PVAのブロックキャラクター[η]は0.42で、アセト酢酸エステル基の含有量[AA]は1.1モル%で、酢酸基の含有量[AC]は15.0%であり〔[AA]/{[AA]+[AC]}=1.1/(1.1+15.0)=0.07〕、水酸基の含有量は83.9モル%であった。
【0036】
得られたAA化PVAを乳化用分散安定剤として用いて、実施例1と同様にして、酢酸ビニル樹脂エマルジョン(固形分40.0%、粘度72Pa・sec(25℃)を製造して、同様に評価を行った。また、得られたエマルジョンから皮膜を作製して、実施例1と同様に貯蔵弾性率を測定したところ、各温度での貯蔵弾性率E'1は、6.4×108Pa(60℃)、8.2×107Pa(80℃)、1.3×107Pa(100℃)、4.7×106Pa(120℃)であり、かかる皮膜を4時間沸騰水浸せきして23℃で24時間放置後の各温度での貯蔵弾性率E'2は、3.8×108Pa(60℃)、2.7×107Pa(80℃)、6.4×106Pa(100℃)、3.0×106Pa(120℃)であった。これらの測定値より、それぞれの温度におけるE'2/E'1の値を算出すると、0.59(60℃)、0.33(80℃)、0.49(100℃)、0.64(120℃)であった。
【0037】
実施例6
実施例1の(PVAの製造)において、平均重合度1200のポリ酢酸ビニルを用い、かつ水酸化ナトリウム水溶液の仕込量を4.0部とし、かつケン化時間を2.7時間とした以外は同様に行って、ケン化度95.6モル%(残酢酸基4.4モル%)のPVAを得て、次いでジケテンの滴下量を46部とした以外は同様にAA化PVAの製造を行って、AA化PVAを得た。
得られたAA化PVAのブロックキャラクター[η]は0.59で、アセト酢酸エステル基の含有量[AA]は6.7モル%で、酢酸基の含有量[AC]は4.4モル%であり〔[AA]/{[AA]+[AC]}=6.7/(6.7+4.4)=0.60〕、水酸基の含有量は88.9モル%であった。
【0038】
得られたAA化PVAを乳化用分散安定剤として用いて、実施例1と同様にして、酢酸ビニル樹脂エマルジョン(固形分39.7%、粘度88Pa・sec(25℃)を製造して、同様に評価を行った。また、得られたエマルジョンから皮膜を作製して、実施例1と同様に貯蔵弾性率を測定したところ、各温度での貯蔵弾性率E'1は、6.9×108Pa(60℃)、7.3×107Pa(80℃)、1.2×107Pa(100℃)、5.9×106Pa(120℃)であり、かかる皮膜を4時間沸騰水浸せきして23℃で24時間放置後の各温度での貯蔵弾性率E'2は、4.6×108Pa(60℃)、2.7×107Pa(80℃)、7.3×106Pa(100℃)、4.2×106Pa(120℃)であった。これらの測定値より、それぞれの温度におけるE'2/E'1の値を算出すると、0.67(60℃)、0.37(80℃)、0.61(100℃)、0.72(120℃)であった。
【0039】
実施例7
実施例1の(PVAの製造)において、平均重合度1400のポリ酢酸ビニルを用い、かつケン化時間を1.0時間とした以外は同様に行って、ケン化度88.3モル%(残酢酸基11.7モル%)のPVAを得て、次いでジケテンの滴下量を48部とした以外は同様にAA化PVAの製造を行って、AA化PVAを得た。
得られたAA化PVAのブロックキャラクター[η]は0.39で、アセト酢酸エステル基の含有量[AA]は0.3モル%で、酢酸基の含有量[AC]は11.7%であり〔[AA]/{[AA]+[AC]}=0.3/(0.3+11.7)=0.03〕、水酸基の含有量は88モル%であった。
【0040】
得られたAA化PVAを乳化用分散安定剤として用いて、実施例1と同様にして、酢酸ビニル樹脂エマルジョン(固形分39.9%、粘度43Pa・sec(25℃)を製造して、同様に評価を行った。また、得られたエマルジョンから皮膜を作製して、実施例1と同様に貯蔵弾性率を測定したところ、各温度での貯蔵弾性率E'1は、7.0×108Pa(60℃)、7.3×107Pa(80℃)、1.5×107Pa(100℃)、5.3×106Pa(120℃)であり、かかる皮膜を4時間沸騰水浸せきして23℃で24時間放置後の各温度での貯蔵弾性率E'2は、4.1×108Pa(60℃)、2.0×107Pa(80℃)、6.6×106Pa(100℃)、3.4×106Pa(120℃)であった。これらの測定値より、それぞれの温度におけるE'2/E'1の値を算出すると、0.58(60℃)、0.27(80℃)、0.44(100℃)、0.64(120℃)であった。
【0041】
実施例8
実施例1の(PVAの製造)において、平均重合度1200のポリ酢酸ビニルを用い、かつ水酸化ナトリウム水溶液の仕込量を2.5部とし、かつケン化時間を2.7時間とした以外は同様に行って、ケン化度86.2モル%(残酢酸基13.8モル%)のPVAを得て、次いでジケテンの滴下量を3部とした以外は同様にAA化PVAの製造を行って、AA化PVAを得た。
得られたAA化PVAのブロックキャラクター[η]は0.39で、アセト酢酸エステル基の含有量[AA]は0.4モル%で、酢酸基の含有量[AC]は15.8%であり〔[AA]/{[AA]+[AC]}=0.4/(0.4+13.8)=0.03〕、水酸基の含有量は85.8モル%であった。
【0042】
得られたAA化PVAを乳化用分散安定剤として用いて、実施例1と同様にして、酢酸ビニル樹脂エマルジョン(固形分39.8%、粘度63Pa・sec(25℃)を製造して、同様に評価を行った。また、得られたエマルジョンから皮膜を作製して、実施例1と同様に貯蔵弾性率を測定したところ、各温度での貯蔵弾性率E'1は、6.3×108Pa(60℃)、6.9×107Pa(80℃)、1.3×107Pa(100℃)、4.7×106Pa(120℃)であり、かかる皮膜を4時間沸騰水浸せきして23℃で24時間放置後の各温度での貯蔵弾性率E'2は、3.5×108Pa(60℃)、2.4×107Pa(80℃)、6.6×106Pa(100℃)、2.8×106Pa(120℃)であった。これらの測定値より、それぞれの温度におけるE'2/E'1の値を算出すると、0.56(60℃)、0.35(80℃)、0.51(100℃)、0.59(120℃)であった。
【0043】
実施例9
実施例1の(PVAの製造)において、平均重合度800のポリ酢酸ビニルを用い、かつ水酸化ナトリウム水溶液の仕込量を3.0部とし、かつケン化時間を1.4時間とした以外は同様に行って、ケン化度92.3モル%(残酢酸基7.7モル%)のPVAを得て、次いでジケテンの滴下量を53部とした以外は同様にAA化PVAの製造を行って、AA化PVAを得た。
得られたAA化PVAのブロックキャラクター[η]は0.58で、酸エステル基の含有量[AA]は7.2モル%で、酢酸基の含有量[AC]は7.7%であり〔[AA]/{[AA]+[AC]}=7.2/(7.2+7.7)=0.48〕、水酸基の含有量は85.1モル%であった。
【0044】
得られたAA化PVAを乳化用分散安定剤として用いて、実施例1と同様にして、酢酸ビニル樹脂エマルジョン(固形分39.8%、粘度39Pa・sec(25℃)を製造して、同様に評価を行った。また、得られたエマルジョンから皮膜を作製して、実施例1と同様に貯蔵弾性率を測定したところ、各温度での貯蔵弾性率E'1は、6.4×108Pa(60℃)、7.0×107Pa(80℃)、1.2×107Pa(100℃)、4.8×106Pa(120℃)であり、かかる皮膜を4時間沸騰水浸せきして23℃で24時間放置後の各温度での貯蔵弾性率E'2は、4.5×108Pa(60℃)、2.7×107Pa(80℃)、9.4×106Pa(100℃)、3.8×106Pa(120℃)であった。これらの測定値より、それぞれの温度におけるE'2/E'1の値を算出すると、0.70(60℃)、0.38(80℃)、0.78(100℃)、0.79(120℃)であった。
【0045】
比較例1
(PVAの製造)
常法により得られたポリ酢酸ビニル(平均重合度1000)のメタノール溶液(樹脂分48%に調整)100部を還流冷却器を備えたニーダーに仕込んで、還流を起こすまで昇温した。還流が始まった時点で、触媒として硫酸0.6部を仕込んでケン化を15時間行った。その後水酸化ナトリウムで中和してケン化反応を停止させた後、メタノールで繰り返し洗浄を行い、次いで乾燥を行って、ケン化度91.1モル%(残酢酸基8.9モル%)のPVAを得た。
上記で得られたPVAを用いて、実施例1と同様にAA化PVAの製造を行って、ブロックキャラクター[η]が0.68のAA化PVAを得た。
【0046】
得られたAA化PVAを乳化用分散安定剤として用いて、実施例1と同様にして、酢酸ビニル樹脂エマルジョン(固形分39.6%、粘度2.6Pa・sec(25℃))を製造して、同様に評価を行った。また、得られたエマルジョンから皮膜を作製して、実施例1と同様に貯蔵弾性率を測定したところ、各温度での貯蔵弾性率E'1は、6.0×108Pa(60℃)、5.8×107Pa(80℃)、9.3×107Pa(100℃)、3.7×106Pa(120℃)であり、かかる皮膜を4時間沸騰水浸せきして23℃で24時間放置後の各温度での貯蔵弾性率E'2は、3.0×108Pa(60℃)、1.0×107Pa(80℃)、2.0×106Pa(100℃)、8.5×106Pa(120℃)であった。これらの測定値より、それぞれの温度におけるE'2/E'1の値を算出すると、0.50(60℃)、0.18(80℃)、0.21(100℃)、0.23(120℃)であった。
【0047】
比較例2
実施例1の(PVAの製造時)において、平均重合度2000のポリ酢酸ビニルを用い、かつケン化時間を16時間とした以外は同様に行って、ケン化度91.0モル%(残酢酸基9.0モル%)のPVAを得て、同様にAA化PVAの製造を行って、ブロックキャラクター[η]が0.51のAA化PVAを得て、乳化用分散安定剤として用いて、実施例1と同様にして、酢酸ビニル樹脂エマルジョン(固形分39.3%、粘度354Pa・sec(25℃))を製造して、同様に評価を行った。
【0048】
比較例3
実施例1の(PVAの製造時)において、PVAの製造時に平均重合度300のポリ酢酸ビニルを用いた以外は同様に行って、ブロックキャラクター[η]が0.51のAA化PVAを得て、乳化用分散安定剤として用いて、実施例1と同様にして、酢酸ビニル樹脂エマルジョンの製造を試みたが、製造中にエマルジョン粒子が凝集して、粘度が上昇して流動性のあるエマルジョンが得られず、評価もできなかった。
実施例及び比較例の評価結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【発明の効果】
本発明の酢酸ビニル樹脂系エマルジョン製造用乳化用分散安定剤は、特定のAA化PVAを用いているため、かかるPVAを乳化用分散安定剤として用いた場合には、流動性等の性状に優れ、かつ低温安定性、放置安定性、耐水接着性等に優れた酢酸ビニル樹脂系のエマルジョンを得ることができ、かかるエマルジョンを接着剤用途に用いたときには、一液タイプで、二液タイプ(主剤+架橋剤)と同等以上の(耐水)接着力を得ることができ大変有用である。
Claims (6)
- ブロックキャラクター[η]が0.6以下で、かつ平均重合度が500〜1500であるアセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂からなることを特徴とする酢酸ビニル樹脂系エマルジョン製造用乳化用分散安定剤。
- アセト酢酸エステル基の含有量が0.5〜5モル%であることを特徴とする請求項1記載の酢酸ビニル樹脂系エマルジョン製造用乳化用分散安定剤。
- 水酸基の含有量が85モル%以上であることを特徴とする請求項1または2記載の酢酸ビニル樹脂系エマルジョン製造用乳化用分散安定剤。
- 下記(1)式を満足することを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の酢酸ビニル樹脂系エマルジョン製造用乳化用分散安定剤。
【数1】
0.20≦[AA]/{[AA]+[AC]}≦0.45 ・・・ (1)(但し、[AA]はアセト酢酸エステル基の含有量(モル%)、[AC]は酢酸基の含有量(モル%)をそれぞれ表す) - 請求項1〜4いずれか記載の乳化用分散安定剤を用い、酢酸ビニルモノマーを乳化重合して得られたことを特徴とする酢酸ビニル樹脂系エマルジョン。
- 得られる皮膜の貯蔵弾性率が60〜120℃の範囲において、下記(2)式を満足することを特徴とする請求項5記載の酢酸ビニル樹脂系エマルジョン。
【数2】
E'2/E'1>0.25 ・・・ (2)
(但し、E'1は得られる皮膜の沸騰水浸せき前の貯蔵弾性率(Pa)、E'2は得られた皮膜を4時間沸騰水浸せきして23℃で24時間放置後の貯蔵弾性率(Pa)をそれぞれ表し、貯蔵弾性率の値はE'1及びE'2共に同温度での値とする)
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