JP4243142B2 - 積層ポリエステルフイルム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は両表面にコート層を有する積層ポリエステルフイルムに関する。更に詳しくは、優れた平坦性と巻取り性とを、長手方向に均質に有する、磁気記録媒体のベースフィルムとして好適な積層ポリエステルフイルムおよびそれを用いた磁気記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の塗布型磁気記録媒体(磁性粉末を有機高分子バインダーに混入させて非磁性支持体上に塗布してなる磁気記録媒体)は、磁性層の厚みが2μm程度以上と厚いことから、記録波長が長い、すなわち記録密度の低い磁気記録媒体であった。そこで、記録密度を向上させるために、磁性層の厚みを薄くする検討され、真空蒸着、スパッタリングまたはイオンプレーティング等の薄膜形成手段によって形成される強磁性金属薄膜を磁性層(磁性層の厚みは0.2μm以下)とした磁気記録媒体や、磁性層を塗布する際に非磁性下地層を設けることで従来の塗布型に比べてより薄い磁性層(磁性層の厚みは0.13μm程度)を塗布した磁気記録媒体が提案されてきている。
【0003】
このように磁性層が薄くなると、非磁性支持体(ベースフィルム)の表面状態が磁性層の表面性に大きな影響を及ぼす。特に金属薄膜型の磁気記録媒体では、非磁性支持体の表面状態がそのまま磁性層(磁気記録層)表面の凹凸として発現し、それが記録・再生信号の雑音となる。従って、非磁性支持体の表面はできるだけ平坦でなくてはならない。一方、非磁性支持体(ベースフィルム)の表面が平坦過ぎると、フィルム―フィルム相互の滑り性が悪化し、ブロッキング現象が発生したり、ロールに巻いたときの形状(ロールフォーメーション)が悪化したりする。そのため、非磁性支持体(ベースフィルム)の製膜、製膜工程での搬送、傷付き、巻取りおよび巻出しといったハンドリングの観点からは、非磁性支持体(ベースフィルム)の表面は出来るだけ粗いことが望ましい。
【0004】
また、前述の従来の塗布型磁気記録媒体は、バインダー中に潤滑剤を分散させることで磁性層面の走行性を向上させることができた。しかし、金属薄膜型磁気記録媒体は、磁性層が金属薄膜であることからこのような対策をとれず、磁性層面の走行性、特に高温高湿条件下の走行性が劣るという問題も潜在している。
【0005】
そのため、優れた品質の高密度磁気記録媒体を製造するには、上記二律背反する性質、すなわち、電磁変換特性等に要求される平坦性と、フィルムのハンドリング性や磁気記録媒体の走行性に必要な凹凸とを、ベースフィルムの表面に具備させなくてはならない。
【0006】
そこで、(1)不連続皮膜を表面に塗布形成したベースフィルムが、特開昭60−180839号(特許文献1)、特開昭60−180838号(特許文献2)および特開昭60−180837号(特許文献3)などで、(2)微細凹凸を有する連続皮膜を表面に塗布形成したベースフィルムが、特開平5−210833号(特許文献4)などで、(3)共押出成形により表裏の表面状態を相違させたベースフィルムが特開平2−214657号(特許文献5)などで、またこれら(1)または(2)と(3)とを組合せたベースフィルムが特開平3−73409号(特許文献6)などで提案されている。
【0007】
上記(1)〜(3)および上記(1)または(2)と(3)とを組合せたベースフィルムは、フィルム―フィルム間の滑り性を向上させつつ、ブロッキングを抑えられるものの、ベースフィルムの製膜、製膜工程での搬送、傷付き、巻取り、巻出しといったハンドリングの問題および金属薄膜型磁気記録媒体としたときの高温高湿条件下の走行性が劣るという問題は依然として解消されていなかった。
【0008】
これらの課題に対して、特定の表面粗さの範囲、表面のうねり指数、層間空気流動時間を有するポリエステルとポリエーテルイミドからなるポリエステルフイルム(特開2001−319323号公報、特許文献7)や特定の厚み、長さ、表面粗さ、帯電位を有するポリエステルフイルムロール(特開2001−243614号公報、特許文献8)等が提案されているが、特に平坦な表面性の点で不十分であり、更なる改良が求められていた。
【0009】
また、フィルム表面を平坦化してくると、フイルムをロールに巻いて使用する場合、フィルムロールの外層側と内層側で、表面特性が異なるという問題が発生してきた。そして、フィルムの長手方向において、磁気記録媒体の走行性に必要な微小突起の高さが均一になっていない結果、表面の平坦性と走行性のバランスが乱れ、お大幅な歩留りの低下が発生してきた このように、表面欠点が少なく、巻取り性に優れ、金属薄膜型磁気記録媒体としたときの電磁変換特性や走行性に均質に優れる積層ポリエステルフイルムは未だ提供されていないのが現状である。
【0010】
【特許文献1】
特開昭60−180839号公報
【特許文献2】
特開昭60−180838号公報
【特許文献3】
特開昭60−180837号公報
【特許文献4】
特開平5−210833号公報
【特許文献5】
特開平2−214657号公報
【特許文献6】
特開平3−73409号公報
【特許文献7】
特開2001−319323号公報
【特許文献8】
特開2001−243614号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、かかる従来技術の欠点を解消し、磁気記録媒体としたときに優れた電磁変換特性が得られる平坦性および転写やブロッキングが生じない取扱い性をフィルムの長手方向全体に有する積層ポリエステルフイルムおよびそれをベースフイルムに用いた磁気記録媒体、特に強磁性金属薄膜型磁気記録媒体を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
かくして本発明の目的は、本発明によれば、不活性粒子Cを含有するコート層Cと、不活性粒子を含有しないポリエステル層Aと、多価アルコールと炭素数8個以上の脂肪族モノカルボン酸とからなるエステルワックス、不活性粒子B1およびB2を含有するポリエステル層Bと、不活性粒子Dを含有するコート層Dとがこの順で積層された積層フイルムであって、
(1)不活性粒子B1は、平均粒径(dB1)が0.01〜0.5μm、破壊強度(SB1)が50〜500Kgf/mm2およびポリエステル層Bのポリエステル層Aと接していない表面に存在する頻度(NB1)が1×104〜5×106個/mm2の範囲にあること;
(2)不活性粒子B2は、平均粒径(dB2)が0.1〜1.0μmでかつdB1よりも0.03μm以上大きく、破壊強度(SB2)が5〜50Kgf/mm2およびポリエステル層Bのポリエステル層Aと接していない表面に存在する頻度(NB2)が1×103〜5×104個/mm2の範囲にあること;
(3)不活性粒子Cは、平均粒径(dC)が5〜50nm、破壊強度(SC)が1〜100Kgf/mm2およびコート層Cのポリエステル層Aと接していない表面に存在する頻度(NC)が1〜50個/μm2の範囲にあること;
(4)不活性粒子Dは、平均粒径(dD)が10〜100nm、破壊強度(SD)が5〜50Kgf/mm2およびコート層Dのポリエステル層Bと接していない表面に存在する頻度(ND)が1〜25個/μm2の範囲にあること;および、
(5)不活性粒子Cと不活性粒子Dとの頻度の比(NC/ND)が0.1〜10の範囲にあること
を同時に具備する積層ポリエステルフイルムによって達成される。
【0013】
上記本発明の積層ポリエステルフイルムは、その好ましい態様として、さらに、(1)不活性粒子B1は、架橋シリコーン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリエステル、架橋ポリスチレン、酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ケイ素、カオリン及びクレーからなる群から選ばれる少なくとも1種の粒子であること、(2)不活性粒子B2は、架橋シリコーン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリエステル、架橋ポリスチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種の粒子であること、(3)不活性粒子Cは、架橋シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、架橋ポリエステルおよび全芳香族ポリエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂からなること、(4)不活性粒子Dは、架橋シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、架橋ポリエステルおよび全芳香族ポリエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂からなること、(5)コート層Dは、セルロース化合物を0.1〜30重量%含有すること、(6)ポリエステル層Bは、多価アルコールと炭素数8個以上の脂肪族モノカルボン酸とからなるエステルワックスを含有すること、(7)ポリエステル層Aと層Bの厚みの和は2μm以上7μm以下であり、ポリエステル層Aの厚みは0.8μm以上であり、かつポリエステル層Bの厚みは、不活性粒子B2の平均粒径に対して0.5倍以上であること、(8)ポリエステル層Aまたは層Bを構成するポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートであること、(9)ポリエステル層Aまたは層Bを構成するポリエステルが、ポリエチレン−2,6−ナフタレートであること、(10)不活性粒子Cの平均粒径(dC)と不活性粒子Dの平均粒径(dD)との比(dC/dD)が、0.25〜0.80の範囲にあること、および(11)デジタル記録方式の磁気記録媒体のベースフイルムとして用いられること、のいずれかを具備する積層ポリエステルフィルムも包含するものである。
【0014】
また、本発明によると、上記本発明の積層ポリエステルフイルムと、該積層ポリエステルフイルムのコート層Cの表面に設けられた磁性層と、該積層ポリエステルフイルムのコート層Dの表面に設けられたバックコート層とからなる磁気記録媒体、特にその好ましい態様として、磁性層が強磁性金属薄膜層である磁気記録媒体も提供される。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、ポリエステル層Aの片面にポリエステル層Bを積層した積層フィルムである。
【0016】
前記ポリエステル層A、層Bをそれぞれ形成するポリエステルA、Bとしては、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステルが挙げられ、特に芳香族ポリエステルが好ましい。ポリエステルA、Bは同じ種類でも、異なる種類であっても良い。以下、ポリエステル層Aを層A、ポリエステル層Bを層B、ポリエステルAを樹脂A、ポリエステルBを樹脂Bと称することがある。
【0017】
上記芳香族ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート)などを例示することができる。これらのうち、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートが好ましい。
【0018】
これらポリエステルは、ホモポリエステルであっても、コポリエステルであっても良い。コポリエステルの場合、例えば、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレートの共重合成分としては、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、p−キシリレングリコールなどの他のジオール成分、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸(ただし、ポリエチレン−2,6−ナフタレートの場合)、2,6−ナフタレンジカルボン酸(ただし、ポリエチレンテレフタレートの場合)、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などの他のジカルボン酸成分、p−オキシエトキシ安息香酸などのオキシカルボン酸成分などが挙げられる。これら共重合成分の量は、本発明の効果を損なわない限り、20モル%以下、さらには10モル%以下であることが好ましい。
【0019】
さらにトリメリット酸、ピロメリット酸、ペンタエリスリトールなどの3官能以上の多官能化合物を共重合させることも出来る。この場合、ポリマーが実質的に線状である量、例えば2モル%以下で、共重合させるのが良い。
【0020】
ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート以外の他のポリエステルの場合の共重合成分についても、上記と同様に考えるとよい。
【0021】
更に上記ポリエステルには本発明の効果を損なわない程度であれば、顔料、染料、酸化防止剤、帯電防止剤、光安定剤、遮光剤(例えばカーボンブラック、酸化チタン等)の如き添加剤を必要に応じて含有させることができる。
【0022】
本発明における積層ポリエステルフィルムは、ポリエステル層A、層Bが同じポリエステルからなるのが好ましいが、異なるポリエステルからなってもよい。例えば、層A、層Bが共にポリエチレンテレフタレート又はポリエチレン−2,6−ナフタレートからなる積層フィルムが好ましいが、層A(又は層B)がポリエチレンテレフタレート、層B(又は層A)がポリエチレン−2,6−ナフタレートからなる積層フィルムであっても良い。
【0023】
前記ポリエステルAは従来から知られている方法で製造することができる。例えば、ポリエチレンテレフタレートはテレフタル酸とエチレングリコールとをエステル化反応またはジメチルテレフタレートとエチレングリコールとをエステル交換反応せしめ、次いで反応生成物を重縮合せしめる方法で製造することができる。
【0024】
上記の方法(溶融重合)により得られたポリエステルは、必要に応じて固相状態での重合方法(固相重合)により、さらに重合度の高いポリマーとすることができる。
【0025】
上記の重合においては公知の触媒を用いることができ、溶融重合でのエステル交換触媒としてはマンガン、カルシウム、マグネシウム、チタンの酸化物、塩化物、炭酸塩、カルボン酸塩等が好ましく、特に酢酸塩即ち、酢酸マンガン、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、酢酸チタンが好ましく挙げられる。
【0026】
また、重縮合触媒としては、アンチモン化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物を挙げることができる。
【0027】
前記アンチモン化合物としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酢酸アンチモン等が好ましく挙げられる。
【0028】
前記チタン化合物としては、有機チタン化合物が好ましく挙げられ、例えば特開平5−298670号に記載されているものを挙げることができる。更に説明すると、チタンのアルコラートや有機酸塩、テトラアルキルチタネートと芳香族多価カルボン酸又はその無水物との反応物等を例示でき、好ましい具体例としてチタンテトラブトキシド、チタンイソプロポキシド、蓚酸チタン、酢酸チタン、安息香酸チタン、トリメリット酸チタン、テトラブチルチタネートと無水トリメリット酸との反応物等を挙げることができる。
【0029】
また、前記ゲルマニウム化合物としては、例えば特許2792068号に記載されているものを挙げることができる。更に説明すると、(イ)無定形酸化ゲルマニウム、(ロ)結晶性ゲルマニウム、(ハ)酸化ゲルマニウムをアルカリ金属又はアルカリ土類金属もしくはそれらの化合物の存在下にグリコールに溶解した溶液、および(ニ)酸化ゲルマニウムを水に溶解し、これにグリコールを加え水を留去して調整した酸化ゲルマニウムのグリコール溶液、等を挙げることができる。ただし、ゲルマニウム化合物を重縮合触媒として採用する場合、その量が多いと、ポリエステル合成の際の副生成DEG量が増加して先述のポリエステル層Aの熱安定性を低下させるので、ポリエステルAに含有されるゲルマニウム元素(Ge)としては10ppm以下にするのが好ましい。更に好ましくは5ppm以下である。そして、熱安定性を低下させないためには、ポリエステルAがゲルマニウム元素(Ge)を実質的に含有しないことが特に好ましい。
【0030】
また、前記ポリエステルAには熱安定性を維持するために、従来ポリエステルの製造工程で添加されるリン化合物を含有することが好ましい。このリン化合物は特に限定されないが、正リン酸、亜リン酸、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ-n-ブチルホスフェートが好ましく挙げられる。
【0031】
また、本発明におけるポリエステル層Aは、実質的に粒子を含有しないことが必要である。実質的に粒子が含まれてしまうと、ドロップアウトや電磁気変換特性の面で問題が生じることがあるため好ましくない。ここでいう実質的に不活性粒子を含有しないとは、積極的に触媒残渣を析出させたり、不活性粒子を添加したりしていないことを意味し、具体的には、粒径0.05μm以上の不活性粒子の含有量が、層Aの重量を基準として、高々0.001重量%であることが好ましい。
【0032】
ポリエステルBは、ポリエステルAで説明した方法で製造でき、また、ポリエステルAで説明したものを好適に用いることができる。
【0033】
本発明におけるポリエステル層Bは、フィルムに巻取り性などの優れた取扱い性を発現するために粒子を少なくとも2種類、すなわち不活性粒子B1とB2を含有する。
【0034】
不活性粒子B1は、平均粒径(dB1)が0.01〜0.5μm、破壊強度(SB1)が50〜500Kgf/mm2で、かつ層Bの層Aと接していない表面に存在する頻度(NB1)が1×104〜5×106個/mm2の範囲である。好ましくは平均粒径(dB1)が0.03〜0.3μm、破壊強度(SB1)が60〜450kgf/mm2、存在頻度(NB1)が5×104〜1×106個/mm2の範囲にある。
【0035】
不活性粒子B2は、平均粒径(dB2)が0.1〜1.0μmで破壊強度(SB2)が5〜50Kgf/mm2で、かつ層Bの層Aと接していない表面に存在する頻度(NB2)が1×103〜5×104個/mm2の範囲にある。好ましくは、平均粒径(dB2)が0.15〜0.7μm、破壊強度(SB2)が7〜40Kgf/mm2、存在頻度(NB2)が3×103〜1×104個/mm2である。
【0036】
上記dB1およびdB2が、本発明の範囲から外れる場合、巻取り性と平坦性のバランスが取れなくなる。なお、dB2はdB1よりも0.03μm以上、さらに0.05μm以上、特に0.10μm以上大きいことが好ましい。また、不活性粒子B1の破壊強度が上限を超える場合、ロール状に巻き取ると不活性粒子B1によって形成される突起により平坦面の表面が押さえられるためにダメージを受け、均一な平坦性が損なわれる。一方、不活性粒子B1の破壊強度が下限を未満の場合、平坦面との密着性が増すためにブロッキングしやすくなり、平坦性を損ない、電磁変換特性が悪化する。さらにまた、層Bの層Aと接していない表面に存在する不活性粒子B1の頻度が上限を超える場合、粒子同士の凝集が多くなり、生じた凝集巨大粒子が層Aを突上げ、平坦面のうねりが電磁気変換特性を大きく低下させてしまう一方、該不活性粒子B1の層Bの層Aと接していない表面に存在する頻度が下限未満の場合、平坦面との密着性が増大し、ブロッキングによる平坦面の表面平坦性低下が生じる。
【0037】
また、不活性粒子B2の破壊強度(SB2)が上限を超える場合、ロール状に巻き取ると不活性粒子B2によって形成される突起により平坦面の表面が強く押さえられるためにダメージを大きく、電磁気変換特性が大きく悪化する。一方、SB2が下限未満の場合、巻取り性に有効な突起が十分に形成されない。さらにまた、不活性粒子B2の層B表面に存在する頻度(NB2)が上限を超える場合、層Aへの突上げによる平坦面のうねりが増加し、電磁気変換特性を大きく低下させてしまう。一方、NB2が下限未満の場合、巻取り性が大幅に低下する。
【0038】
不活性粒子B1としては、例えば、(1)耐熱性ポリマー粒子(例えば、架橋シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン、架橋アクリル樹脂、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、架橋ポリエステルなどからなる粒子)、(2)金属酸化物(例えば、酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムなど)、(3)金属の炭酸塩(例えば、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなど)、(4)金属の硫酸塩(例えば、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなど)、(5)炭素(例えば、カーボンブラック、グラファイト、ダイアモンドなど)、および(6)粘土鉱物(例えば、カオリン、クレー、ベントナイトなど)などのような無機化合物からなる微粒子が挙げられる。この中で特に架橋シリコーン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリエステル、架橋ポリスチレン、酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ケイ素、カオリン及びクレーからなる群から選ばれる少なくとも1種の粒子であることが好ましい。
【0039】
不活性粒子B2としては、不活性粒子B1で挙げた粒子を同様に挙げられるが、この中でも特に架橋シリコーン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリエステル、架橋ポリスチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種の粒子であることが好ましい。もちろん、フイルム特性に悪影響を及ぼさない範囲で、上記不活性粒子B1およびB2以外の粒子を更に添加することは問題ない。
【0040】
本発明におけるポリエステル層Bは、さらに、炭素数8個以上の脂肪族モノカルボン酸および多価アルコールからなるエステルワックスを0.001〜1重量%含有するのが好ましい。ここで、エステルワックスとは、エステルワックスと部分的にケン化させた部分ケン化エステルワックスとを包含するものである。
【0041】
上記脂肪族モノカルボン酸の炭素数は8個以上、好ましくは8〜34個である。この炭素数が8個未満であると、得られた(部分ケン化)エステルワックスの耐熱性が不充分で、ポリエステルに分散させる際の加熱条件で、該(部分ケン化)エステルワックスが容易に分解されてしまうため、不適切である。
【0042】
炭素数8個以上の脂肪族モノカルボン酸としては、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ペヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、ヘントリアコンタン酸、ペトロセリン酸、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸およびこれらを含む混合物などが挙げられる。
【0043】
上記(部分ケン化)エステルワックスのアルコール成分は、水酸基を2個以上有する多価アルコールである。さらに耐熱性の観点から、水酸基を3個以上有する多価アルコールであることが好ましい。モノアルコールを用いたのでは、生成した(部分ケン化)エステルワックスの耐熱性が不足することがある。
【0044】
上記水酸基を2個有する多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどが好ましく挙げられる。水酸基を3個以上有する多価アルコールとしては、例えばグリセリン、エリスリット、トレイット、ペンタエリスリット、アラビット、キシリット、タリット、ソルビット、マンニットなどが好ましく挙げられる。
【0045】
上記脂肪族モノカルボン酸および多価アルコールから得られるエステルワックスとしては、多価アルコールの水酸基の数にもよるが、モノエステル、ジエステル、トリエステルなどが挙げられる。これらの中、耐熱性の観点から、モノエステルよりもジエステルが、ジエステルよりもトリエステルが好ましい。好ましいエステルワックスとしては、具体的にはソルビタントリステアレート、ペンタエリスリットトリペヘネート、グリセリントリパルミテート、ポリオキシエチレンジステアレートなどが挙げられる。
【0046】
上記脂肪族モノカルボン酸および多価アルコールからなる部分ケン化エステルワックスは、多価アルコールを炭素数8個以上の脂肪族モノカルボン酸で部分エステル化したのち、2価以上の金属水酸化物でケン化することにより得られる。具体的には、例えばモンタン酸ジオールエステルを水酸化カルシウムでケン化した、ワックスE、ワックスOP、ワックスO、ワックスOM、ワックスFL(全て、ヘキスト(株)社製商品名)などが挙げられる。かかる(部分ケン化)エステルワックスは1種単独で使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。
【0047】
上記(部分ケン化)エステルワックスの層Bへの添加量は、0.001〜1重量%、好ましくは0.003〜0.5重量%、さらに好ましくは0.005〜0.5重量%、特に好ましくは0.01〜0.3重量%含有する。この(部分ケン化)エステルワックスの添加量が0.001重量%未満であると、フィルム巻取り性の向上が不十分であり、ブロッキング改良効果も得られない。一方、1重量%を超えると、フィルム製造工程で、ロール上に巻き上げたときに接する反対側の面に、ブリードアウトによってワックス成分が多量に転写され、そのため、例えば金属蒸着層とベースフイルムの接着性を妨げるなどの弊害を生じる。
【0048】
また、本発明における積層ポリエステルフイルムは、磁気テープとした場合の諸特性向上のため、磁性層を設ける側の面、すなわち、ポリエステル層Aのポリエステル層Bと接していない表面に、コート層Cを設けることが必要である。
【0049】
前記コート層Cは、不活性粒子Cを含有する必要があり、該不活性粒子Cは平均粒径(dC)が5〜50nmで破壊強度(SC)が1〜100Kgf/mm2でかつ層C表面に存在する頻度(NC)が1〜50個/μm2の範囲にある必要がある。更に平均粒径(dC)10〜35nm、破壊強度(SC)5〜80kgf/mm2、存在頻度(NC)が2〜40個/μm2の範囲にあることが好ましい。
【0050】
該不活性粒子Cの平均粒径(dC)が上限を超える場合、表面の平坦性を損なってしまい、電磁気変換特性を低下させてしまう。一方、dCが下限未満の場合、ロールとして使用した場合にブロッキングによる表面の粗化を引き起こし、同様に電磁気変換特性を低下させることとなる。また、該SCが上限を超える場合、コート層Cへの不活性粒子Cの固着性が不足し、フイルム製造工程において搬送ロールとの接触で削れてしまい、目標の表面性を得ることが出来ない。一方、SCが下限未満の場合、反対面側(走行面)のフイルム表面との密着性が増大し、ブロッキングが発生する。また、層C表面に存在する頻度(NC)が上限を超える場合、平坦性が損なわれ電磁気変換特性を低下する。一方NCが下限未満の場合、磁気テープにした際の走行性が損なわれてしまう。
【0051】
前記コート層Cを形成する樹脂としては、例えば水性ポリエステル樹脂、水性アクリル樹脂、水性ポリウレタン樹脂などが好ましく挙げられ、特に水性ポリエステル樹脂が好ましい。
【0052】
この水性ポリエステル樹脂としては、酸成分が、例えばイソフタル酸、フタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4′−ジフェニルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、コハク酸、5−スルホイソフタル酸ナトリウム、2−スルホテレフタル酸カリウム、トリメリット酸、トリメシン酸、トリメリット酸モノカリウム塩およびp−ヒドロキシ安息香酸などの多価カルボン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種で、グリコール成分が、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、p−キシリレングリコール、ジメチロールプロパンおよびビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物などの多価ヒドロキシ化合物からなる軍より選ばれた少なくとも1種であるポリエステル樹脂が好ましく用いられる。また、ポリエステル鎖にアクリル重合体鎖を結合させたグラフトポリマーまたはブロックコポリマー、あるいは2種のポリマーがミクロな粒子内で特定の物理的構成(IPN(相互侵入高分子網目)型、コアシェル型など)を形成したアクリル変性ポリエステル樹脂であってもよい。この水性ポリエステル樹脂としては、水に溶解、乳化、微分散するタイプを自由に用いることができるが、水に乳化、微分散するタイプのものが好ましい。また、これらは親水性を付与するため、分子内に例えばスルホン酸塩基、カルボン酸塩基、ポリエーテル単位などが導入されていてもよい。
【0053】
前記コート層Cに含有される不活性粒子Cとしては、特に限定されないが、塗液中で沈降しにくい、比較的低比重のものが好ましい。例えば、架橋シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、架橋ポリエステル、全芳香族ポリエステルなどの有機粒子、二酸化ケイ素(シリカ)、炭酸カルシウムなどからなる粒子が好ましく挙げられる。なかでも、架橋シリコーン樹脂粒子、アクリル樹脂粒子、シリカ粒子、コアシェル型有機粒子(コア:架橋ポリスチレン、シェル:ポリメチルメタクリレートの粒子など)が特に好ましい。
【0054】
前記不活性粒子Cの形状は、後述の体積形状係数(f)が0.1〜π/6、さらに0.2〜π/6、特には0.4〜π/6が好ましい。体積形状係数(f)がπ/6である粒子の形状は、球(真球)である。すなわち、体積形状係数(f)が0.4〜π/6のものは、実質的に球ないしは真球、ラグビーボールのような楕円球を含むものであり、不活性粒子Cとして好ましい。体積形状係数(f)が0.1未満の粒子、例えば薄片状の粒子では、走行耐久性が低下してしまうので好ましくない。
【0055】
また、本発明における積層ポリエステルフイルムは、磁気テープとした場合の諸特性向上のため、磁性層を設ける側の反対面、すなわち、ポリエステル層Bのポリエステル層Aと接していない表面に、コート層Dを設けることが必要である。
【0056】
前記コート層Dは、不活性粒子Dを含有する必要があり、該不活性粒子Dは平均粒径(dD)が10〜100nmで破壊強度(SD)が5〜50Kgf/mm2でかつ層D表面に存在する頻度(ND)が1〜25個/μm2の範囲にある必要がある。更に平均粒径(dD)15〜80nm、破壊強度(SD)5〜30kgf/mm2、存在頻度(ND)が2〜20個/μm2の範囲にあることが好ましい。
【0057】
該不活性粒子Dの平均粒径(dD)が上限を超える場合、ロールとして巻取りを行なった際に、フイルムの搬送工程で削れてしまい、この削れ物が平坦面に反転して表面欠陥となり、電磁気変換特性を低下させてしまう。一方、dDが下限未満の場合、ブロッキングによる平坦面の表面粗化を引き起こすばかりでなく、本発明の主眼であるロールとして製造した場合の長手方向での平坦面突起高さの均一化に対しての効果が低減してしまう。該不活性粒子Dの破壊強度(SD)が上限を超える場合、コート層Cへの固着性が不足するため、フイルム製造工程において搬送ロールとの接触で削れてしまい、削れ物が反対面である平坦面(コート層C)に付着してドロップアウトや出力低下を引き起こす。一方、SDが下限未満の場合、反対面側(平坦面)のフイルム表面との密着性が増大してしまい、ブロッキングによる支障が生じる。また、層D表面に存在する頻度(ND)が上限を超える場合、蒸着工程等での冷却キャンとの密着性が低下してしまい、蒸着時のフイルム変形が生じる。一方、NDが下限未満の場合、ブロッキングによる出力低下が惹起する。
【0058】
前記コート層Dを形成する樹脂としては、例えば水性ポリエステル樹脂、水性アクリル樹脂、水性ポリウレタン樹脂などが好ましく挙げられ、特に水性ポリエステル樹脂が好ましい。
【0059】
この水性ポリエステル樹脂としては、酸成分が、例えばイソフタル酸、フタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4′−ジフェニルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、コハク酸、5−スルホイソフタル酸ナトリウム、2−スルホテレフタル酸カリウム、トリメリット酸、トリメシン酸、トリメリット酸モノカリウム塩、p−ヒドロキシ安息香酸などの多価カルボン酸の1種以上よりなり、グリコール成分が、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、p−キシリレングリコール、ジメチロールプロパン、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物などの多価ヒドロキシ化合物の1種以上より主としてなるポリエステル樹脂が好ましく用いられる。また、ポリエステル鎖にアクリル重合体鎖を結合させたグラフトポリマーまたはブロックコポリマー、あるいは2種のポリマーがミクロな粒子内で特定の物理的構成(IPN(相互侵入高分子網目)型、コアシェル型など)を形成したアクリル変性ポリエステル樹脂であってもよい。この水性ポリエステル樹脂としては、水に溶解、乳化、微分散するタイプを自由に用いることができるが、水に乳化、微分散するタイプのものが好ましい。また、これらは親水性を付与するため、分子内に例えばスルホン酸塩基、カルボン酸塩基、ポリエーテル単位などが導入されていてもよい。
【0060】
前記コート層Dに含有される不活性粒子Dとしては、特に限定されないが、塗液中で沈降しにくい、比較的低比重のものが好ましい。例えば、架橋シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、架橋ポリエステル、全芳香族ポリエステルなどの有機粒子、二酸化ケイ素(シリカ)、炭酸カルシウムなどからなる粒子が好ましく挙げられる。なかでも、架橋シリコーン樹脂粒子、アクリル樹脂粒子、シリカ粒子、コアシェル型有機粒子(コア:架橋ポリスチレン、シェル:ポリメチルメタクリレートの粒子など)が特に好ましく挙げられる。
【0061】
前記不活性粒子Dの形状は、後述の体積形状係数(f)が0.1〜π/6、さらに0.2〜π/6、特には0.4〜π/6が好ましい。体積形状係数(f)がπ/6である粒子の形状は、球(真球)である。すなわち、体積形状係数(f)が0.4〜π/6のものは、実質的に球ないしは真球、ラグビーボールのような楕円球を含むものであり、不活性粒子Dとして好ましい。体積形状係数(f)が0.1未満の粒子、例えば薄片状の粒子では、走行耐久性が低下してしまうので好ましくない。
【0062】
また、前記コート層Dには、セルロース化合物が1〜50重量%含有されていることが好ましい。このセルロース化合物がコート層Dにこの範囲で含有されることにより、反対面のコート層Cに対するブロッキングとフイルム製造工程やテープ製造時のフイルム搬送時の巻取り性を効率的に両立しやすい、不連続な面を形成することができる。さらに好ましいコート層Dに含有されるセルロース化合物の割合は、3〜25重量%、特に5〜20重量%である。
【0063】
該コート層Dに含有されるセルロース化合物は、特に限定されず、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が例示でき、特にメチルセルロースが好ましい。
【0064】
ところで、本発明の積層ポリエステルフィルムは、コート層Dとコート層Aのブロッキングを回避し、かつフィルムをロール状に巻いた時の内層と外層の平坦面(層A)表面の平坦性を均一に保つためには、先述の不活性粒子Dと不活性粒子Cとの夫々の面での存在頻度の比(NC/ND)が0.1〜10の範囲にあることが必要である。NC/NDが上限を超えた場合、不活性粒子Dの削れ物量が増大し、磁気テープとした際のドロップアウトが増大してしまう。一方、NC/NDが下限未満の場合、巻き取り性と電磁気変換特性のバランスがとれなくなる。
【0065】
また、本発明の積層ポリエステルフィルムは、コート層Dとコート層Aのブロッキングを回避し、かつフィルムをロール状に巻いた時の内層と外層の平坦面(層A)表面の平坦性を均一に保ちながらも、不活性粒子DまたはCの脱落を抑えるために、先述の不活性粒子Dと不活性粒子Cとの平均粒径の比(dC/dD)が0.25〜0.90の範囲にあることが好ましい。更に好ましくは0.35〜0.80、特に好ましいのは0.50〜70の範囲である。dC/dDが上限を超えた場合、不活性粒子Cの削れ物量が増大し、磁気テープとした際のドロップアウトが増大することがある。一方、dC/dDが下限未満の場合、巻き取り性と電磁気変換特性のバランスがとれ難くなる。
【0066】
本発明の積層ポリエステルフィルムの全厚みは、2μm以上8μm未満、好ましくは2.5〜7.5μmである。ポリエステル層Aとポリエステル層Bの厚み構成は、好ましくはB層の厚みが積層フィルムの全厚みの1/50〜1/2、さらに好ましくは1/30〜1/3、特に好ましくは1/20〜1/4である。コート層Cの厚みは、通常1〜100nm、好ましくは2〜50nm、さらに好ましくは3〜10nm、特に好ましくは3〜8nmである。コート層Dの厚みは、通常0.5〜15nm、好ましくは1〜10nm、更に好ましくは2〜8nm、特に好ましくは3〜7nmである。
【0067】
本発明における積層ポリエステルフィルムは、従来から知られている、または当業界に蓄積されている方法に準じて製造することができる。そのうち、ポリエステル層Aとポリエステル層Bとの積層構造は、共押出し法により製造するのが好ましく、コート層Cおよびコート層Dの積層は塗布法により行うのが好ましい。
【0068】
例えば、二軸配向ポリエステルフィルムで説明すると、押出し口金内または口金以前(一般に、前者はマルチマニホールド方式、後者はフィードブロック方式と呼ぶ)で、上記(部分ケン化)エステルワックス及び不活性粒子B1およびB2を微分散(必要に応じて上記(部分ケン化)エステルワックスも微分散)、含有させたポリエステルBと、実質的に不活性粒子を含有しないポリエステルAとを、それぞれさらに高精度ろ過したのち、溶融状態にて積層複合し、上記好適な厚み比の積層構造となし、次いで口金より融点(Tm)〜(Tm+70)℃の温度でフィルム状に共押出ししたのち、40〜90℃の冷却ロールで急冷固化し、未延伸積層フィルムを得る。その後、上記未延伸積層フィルムを常法に従い、一軸方向(縦方向または横方向)に(Tg−10)〜(Tg+70)℃の温度(ただし、Tg:ポリエステルのガラス転移温度)で2.5〜8.0倍の倍率で、好ましくは3.0〜7.5倍の倍率で延伸し、次いで上記延伸方向とは直角方向(一段目延伸が縦方向の場合には、二段目延伸は横方向となる)に(Tg)〜(Tg+70)℃の温度で2.5〜8.0倍の倍率で、好ましくは3.0〜7.5倍の倍率で延伸する。さらに、必要に応じて、縦方向および/または横方向に再度延伸してもよい。すなわち、2段、3段、4段あるいは多段の延伸を行うとよい。全延伸倍率としては、通常9倍以上、好ましくは10〜35倍、さらに好ましくは12〜30倍である。
【0069】
さらに、前記二軸配向フィルムは(Tg+70)〜(Tm−10)℃の温度、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルムの場合、180〜250℃で熱固定結晶化することによって、優れた寸法安定性が付与される。その際、熱固定時間は1〜60秒が好ましい。
【0070】
なお、積層ポリエステルフィルムの製造に際し、ポリエステルA、Bに所望により上記不活性粒子以外の添加剤、例えば安定剤、着色剤、溶融ポリマーの固有抵抗調整剤などを添加含有させることができる。
【0071】
本発明におけるポリエステル層Aへのコート層Cおよびコート層Dの積層は、水性塗液を塗布する方法で行うのが好ましい。
【0072】
塗布は、最終延伸処理を施す以前のポリエステル層Aの表面にコート層C用の塗液、また、最終延伸処理を施す以前のポリエステル層Bの表面にコート層D用の塗液となるように行い、塗布後にフィルムを少なくとも一軸方向に延伸するのが好ましい。この延伸の前ないし途中でコート層CおよびDは乾燥される。その中で、塗布は、未延伸積層フィルムまたは縦(一軸)延伸積層フィルム、特に縦(一軸)延伸積層フィルムに行うのが好ましい。塗布方法としては特に限定されないが、例えば、ロールコート法、ダイコート法などが挙げられる。
【0073】
前記塗液、特に水性塗液の固形分濃度は、0.2〜8重量%、さらに0.3〜6重量%、特に0.5〜4重量%であることが好ましい。そして、水性塗液には、本発明の効果を妨げない範囲で、他の成分、例えば他の界面活性剤、安定剤、分散剤、紫外線吸収剤、増粘剤などを添加することができる。
【0074】
本発明においては、磁気記録媒体としてのヘッドタッチ、走行耐久性をはじめとする各種性能を向上させ、同時に薄膜化を達成するには、積層フィルムのヤング率を、縦方向および横方向でそれぞれ、通常4500N/mm2以上および6000N/mm2以上、好ましくは4800N/mm2以上および6800N/mm2以上、さらに好ましくは5500N/mm2以上および8000N/mm2以上、特に好ましくは5500N/mm2以上および10,000N/mm2以上とする。
【0075】
また、ポリエステル層A、Bの結晶化度は、ポリエステルがポリエチレンテレフタレートの場合は30〜50%、ポリエチレン−2,6−ナフタレートの場合は28〜38%であることが望ましい。いずれも下限を下回ると、熱収縮率が大きくなるし、一方上限を上回るとフィルムの耐摩耗性が悪化し、ロールやガイドピン表面と摺動した場合に白粉が生じやすくなる。
【0076】
本発明によれば、コート層Cとポリエステル層Aとポリエステル層Bとコート層Dとがこの順で積層された積層フイルム積層ポリエステルフイルムをベースフイルムとする磁気記録媒体が同様に提供される。
【0077】
本発明の積層ポリエステルフイルムから磁気記録媒体を製造する実施態様は、下記のとおりである。
【0078】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、コート層Cの表面、すなわち平坦面側の表面に、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の方法により、鉄、コバルト、クロムまたはこれらを主成分とする合金もしくは酸化物より成る強磁性金属薄膜層を形成し、またその表面に、目的や用途などの必要に応じてダイアモンドライクカーボン(DLC)等の保護層やフッ素カルボン酸系潤滑層を順次設け、更に層B側の表面に公知のバックコート層を設けることにより、特に短波長領域の出力、S/N、C/N等の電磁変換特性に優れ、ドロップアウト、エラーレートの少ない高密度記録用蒸着型磁気記録媒体とすることができる。この蒸着型磁気記録媒体は、アナログ信号記録用Hi8、デジタル信号記録用デジタルビデオカセットレコーダ(DVC)、データ8ミリ、マンモス、AIT用テープ媒体として極めて有用である。
【0079】
また、本発明の積層ポリエステルフイルムは、コート層Cの表面、すなわち平坦面側表面に、鉄または鉄を主成分とする針状微細磁性粉を塩化ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体等のバインダーに均一分散し、磁性層厚みが1μm以下、好ましくは0.1〜1μmとなるように塗布し、更に層B側の表面に公知の方法でバックコート層を設けることにより、特に短波長領域での出力、S/N、C/N等の電磁変換特性に優れ、ドロップアウト、エラーレートの少ない高密度記録用メタル塗布型磁気記録媒体とすることができる。また、必要に応じて層A側の表面に、該メタル粉含有磁性層の下地層として微細な酸化チタン粒子等を含有する非磁性層を磁性層と同様の有機バインダー中に分散、塗設することもできる。このメタル塗布型磁気記録媒体は、アナログ信号記録用8ミリビデオ、Hi8、βカムSP、W−VHS、データ8ミリ、DDSIV、デジタルβカム、D2,D3,SX、LTO、DLT等用テープ媒体として極めて有用である。
【0080】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明における各特性は、以下の方法によって測定または評価される。また、実施例中の「部」および「%」は、特に断らない限り、「重量部」および「重量%」である。
【0081】
(1)粒子の平均粒径1(平均粒径:0.06μm以上)
島津製作所製CP−50型セントリフューグル パーティクルサイズ アナライザー(Centrifugal Particle Size Analyzer)を用いて測定する。得られる遠心沈降曲線を基に算出した各粒径の粒子とその存在量との積算曲線から、50マスパーセントに相当する粒径「等価球直径」を読み取り、この値を上記平均粒径とする(Book「粒度測定技術」日刊工業新聞発行、1975年、頁242〜247参照)。
【0082】
(2)粒子の平均粒径2(平均粒径:0.06μm未満)
小突起を形成する平均粒径0.06μm未満の粒子は、光散乱法を用いて測定する。即ち、Nicomp Instruments Inc.社製のNICOMP MODEL 270 SUBMICRON PARTICLE SIZERにより求められる全粒子の50重量%の点にある粒子の「等価球直径」をもって表示する。
【0083】
(3)層厚
フィルムの全厚はマイクロメーターにてランダムに10点測定し、その平均値を用いる。層厚は、薄い側の層厚を以下に述べる方法にて測定し、また厚い側の層厚は全厚より薄い側の層厚に引き算して求める。即ち、二次イオン質量分析装置(SIMS)を用いて、表層から深さ5000nmの範囲のフィルム中の粒子の内最も高濃度の粒子に起因する元素とポリエステルの炭素元素の濃度比(M+/C+)を粒子濃度とし、表面から深さ5000nmまで厚さ方向の分析を行う。表層では表面という界面の為に粒子濃度は低く、表面から遠ざかるにつれて粒子濃度は高くなる。本発明の場合、粒子濃度は一旦安定値1になった後、上昇或いは減少して安定値2になる場合と、単調に減少する場合とがある。この分布曲線をもとに、前者の場合は(安定値1+安定値2)/2の粒子濃度を与える深さをもって、また後者の場合は粒子濃度が安定値1の1/2になる深さ(この深さは安定値1を与える深さよりも深い)をもって、当該層の層厚とする。
測定条件は以下の通りである。
▲1▼測定装置
二次イオン質量分析装置(SIMS):PERKIN ELMER社製 6300
▲2▼測定条件一次イオン種:O2 +
一次イオン加速電圧:12kV
一次イオン電流:200nA
ラスター領域:400μm□
分析領域:ゲート30%
測定真空度:6.0×10-9Torr
E−GUNN:0.5kV−3.0A
なお、表層から5000nmの範囲に最も多く含有する粒子がシリコーン樹脂以外の有機高分子粒子の場合はSIMSでは測定が難しいので、表面からエッチングしながらFT−IR(フーリエトランスフォーム赤外分光法)、粒子によってはXPS(X線高電子分光法)等で上記同様の濃度分布曲線を測定し、層厚を求める。
【0084】
(4)粒子(B1,B2,C)破壊強度
島津製作所(株)製の微小圧縮試験機(MCTM−201型)を使用して、負荷速度0.0145gf/sec、0〜1gfまでの負荷を加えて粒子の破壊荷重を測定した。そして破壊時の荷重、粒径から破壊強度を次式により求めた。
【0085】
【数1】
【0086】
(5)層B表面中の粒子(B1,B2)の存在頻度
試料フィルム小片を走査型電子顕微鏡用試料台に固定し、日本電子(株)製スパッターリング装置(JFC−1100型イオンエッチング装置)を用いてフィルム表面に下記条件にてイオンエッチング処理を施す。条件は、ベルジャー内に試料を設置し、約10-3Torrの真空状態まで真空度を上げ、電圧0.25kV、電流12.5mAにて約10分間イオンエッチングを実施する。更に同装置にて、フィルム表面に白金スパッターを施し、Field Emission型電子顕微鏡にて加速電圧2.0kV、5,000倍で10視野観察する。この電子顕微鏡像から粒子のカウントを行い、求める。
【0087】
(6)コート層C表面中の粒子(C)およびコート層D表面中の粒子(D)の存在頻度
Digital Instruments社製の原子間力顕微鏡Nano ScopeIII AFMのJスキャナーを使用し、走査範囲を2μm2とし、粒子の個数をカウントし求める。
短針:単結合シリコンセンサー
走査モード:タッピングモード
画素数:256×256データポイント
スキャン速度:2.0Hz
測定環境:室温、大気中
【0088】
(7)ヤング率
フィルムを試料巾10mm、長さ15cmに切り、チャック間100mm、引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分の条件下で万能引張試験装置(東洋ボールドウィン製、商品名:テンシロン)にて引っ張る。得られた荷重―伸び曲線の立ち上がり部の接線よりヤング率を計算する。
【0089】
(8)層A中の不活性粒子
試料フィルム小片を走査型電子顕微鏡用試料台に固定し、日本電子(株)製スパッターリング装置(JFC−1100型イオンエッチング装置)を用いてフィルム表面に下記条件にてイオンエッチング処理を施す。条件は、ベルジャー内に試料を設置し、約10-3Torrの真空状態まで真空度を上げ、電圧0.25kV、電流12.5mAにて約10分間イオンエッチングを実施する。更に同装置にて、フィルム表面に金スパッターを施し、走査型電子顕微鏡にて5,000〜10,000倍で観察し、日本レギュレーター(株)製ルーゼックス500にて各不活性粒粒子の等価球径分布を求める。得られら等価球形分布から、粒径が100nmを超える不活性粒子を抜き出し、その重量積算50%の点から、粒径100nmを超える不活性粒子の平均粒径を算出する。
【0090】
(9)走行面(コート層D)が平坦面(コート層C)に与えるダメージ評価
2枚のフィルムのコート層C形成面側(A面)と、他方の表面(B面)を重ね合せ、これに25℃×40%RHの雰囲気下にて、15N/mm2の荷重下で2時間処理し、処理後のコート層C形成面をDigital Instruments社製の原子間力顕微鏡Nano ScopeIII AFMのJスキャナーを使用し、走査範囲を10μm2とし、20nm以上の高さを有する突起高さをカウントする。
短針:単結合シリコンセンサー
走査モード:タッピングモード
画素数:256×256データポイント
スキャン速度:2.0Hz
測定環境:室温、大気中
処理前後での突起高さ変化率{(処理前の突起数−処理後の突起数)/処理前の突起数}}×100を下記の要領で評価する。
○:変化率が10%以下
△:変化率が10〜25%
×:変化率が25%以上
【0091】
(10)磁気テープの製造及び特性評価
積層ポリエステルフィルムの第一の層側の表面(コート層C側の表面)に、真空蒸着によりコバルト−酸素薄膜を110nmの厚みで形成し、次にコバルト−酸素薄膜層上に、スパッタリング法によりダイヤモンド状カーボンを10nmの厚みで形成させ、更に含フッ素カルボン酸系潤滑剤を順次設ける。続いて、コバルト−酸素薄膜を形成したのとは反対側の表面に、カーボンブラック、ポリウレタン、シリコーンからなるバックコート層を厚みが500nmとなるように設け、スリッターにより幅8mm及び6.35mmにスリットし、市販のリールに巻き取り、磁気テープを作成した。市販のHi8方式8mmビデオテープレコーダーを用いてビデオS/N比を、市販のカメラ一体型デジタルビデオテープレコーダーを用いてドロップアウト(DO)個数を求める。
DO個数の測定は、作成した6.35mmテープを市販のカメラ一体型デジタルビデオテープレコーダーで録画後、1分間の再生をして画面に現れたブロック状のモザイクの個数をカウントし、下記の基準で判定した。モザイクは少ないほど好ましい。
○:30個以下
△:50個以下
×:51個以上
C/Nは、市販のHi8用VTR(SONY株式会社製、EV−BS3000)を用いて、7MHz±1MHzのC/Nの測定を行った。このC/Nを市販のHi8用ビデオテープ(SONY株式会社製、蒸着型テープ E6−120HME4)と比較して、下記の基準で評価した。C/Nは値が増えるほど好ましい。
◎:市販品に対して+3dB以上
○:市販品に対して+1〜+3dB未満
△:市販品と同じか+1dB未満
×:市販品未満
【0092】
(11)長手方向の表面変化
300mm幅のフイルムを硬度50度のコアに、張力50Kg/cm2、接圧50Kg/cm2、巻取り速度50m/分で5000m巻取り、室温・大気中(湿度40%RH、温度25℃)で、5日間放置した。その後、表層側端部から500mの位置(A部)と巻新側端部から500mの位置(B部)のコート層C形成面をDigital Instruments社製の原子間力顕微鏡Nano ScopeIII AFMのJスキャナーを使用し、以下の条件で走査範囲を10μm2とし、10点平均粗さ(Rz)を測定する。
短針:単結合シリコンセンサー
走査モード:タッピングモード
画素数:256×256データポイント
スキャン速度:2.0Hz
測定環境:室温、大気中
得られたA部のRz(RzA)とB部のRz(RzB)とから、下記式によりロールの長手方向の変化率(△Rz)を算出し、以下の基準で評価した。
【0093】
【数2】
○:△Rzが15%未満
△:△Rzが15〜30%
×:△Rzが30%以上
【0094】
[実施例1]
ジメチルテレフタレート100部とエチレングリコール70部の混合物に、エステル交換触媒として酢酸マンガン・4水塩0.025部を添加し、内温を150℃から徐々に上げながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応が95%となった時点で、安定剤として亜リン酸を0.01部添加し、充分撹拌した後、エチレングリコール2.5部中で無水トリメリット酸0.8部とテトラブチルチタネート0.65部を反応せしめた液(チタン含有率は11重量%)0.014部を添加して充分撹拌した後、次いで反応生成物を重合反応器に移し、高温真空下(最終内温295℃)にて重縮合を行い、固有粘度(オルトクロロフェノール、35℃)0.60のポリエステルA用のポリエチレンテレフタレート(樹脂A1)を得た。
【0095】
さらに、上記と同様の方法で、エステル交換反応を行い、エステル交換反応が95%となった時点で、安定剤として亜リン酸を0.01部添加し、充分撹拌した後、三酸化アンチモン0.03部添加した。系内に混入した水を充分留出させた後、滑剤として、平均粒径0.3μm,破壊強度10kgf/mm2のシリコーン粒子(不活性粒子B1)および平均粒径0.1μm,破壊強度400kgf/mm2のθ型アルミナ(不活性粒子B2)を、樹脂中にそれぞれ0.05%および1.5%添加して充分撹拌した後、次いで反応生成物を重合反応器に移し、高温真空下(最終内温295℃)にて重縮合を行い、固有粘度(オルトクロロフェノール、35℃)0.70のポリエチレンテレフタレートを得た。
【0096】
得られたポリエチレンテレフタレート99.7%に、炭素数が8個以上の脂肪族モノカルボン酸および多価アルコールからなる(部分ケン化)エステルワックスとしてソルビタントリステアレート(融点55℃)の粉末0.15%をまぶし、ベント付き二軸ルーダーにて練り込み、固有粘度(オルトクロロフェノール、35℃)0.69のポリエステル層B用のポリエチレンテレフタレート(樹脂B1)を得た。
【0097】
得られた樹脂A1、樹脂B1を、それぞれ170℃で3時間乾燥後、2台の押し出し機に供給し、溶融温度280〜300℃にて溶融し、平均目開き11μmの鋼線フィルターで高精度ろ過したのち、マルチマニホールド型共押出しダイを用いて、ポリエステル層Aの片面にポリエステル層Bを積層させ、急冷して厚さ89μmの未延伸積層ポリエステルフィルムを得た。
【0098】
得られた未延伸フィルムを予熱し、さらに低速・高速のロール間でフィルム温度100℃にて3.3倍に延伸し、急冷して縦延伸フィルムを得た。次いで縦延伸フィルムのA層側に下記に示す組成(固形分換算)の水性塗液(全固形分濃度1.0%)をキスコート法により塗布した。
【0099】
コート層C用塗液の固形分組成
バインダー:アクリル変性ポリエステル(高松油脂株式会社製、IN−170−6) 60%
不活性粒子C:アクリルフィラー(平均粒径20nm、破壊強度5kgf/mm2、日本触媒株式会社製、エポスター) 7%
界面活性剤X:(日本油脂株式会社製、ノニオンNS−208.5) 3%
界面活性剤Y:(日本油脂株式会社製、ノニオンNS−240) 30%
C層厚み(乾燥後):8nm
続いてB層側に下記に示す組成(固形分換算)の水性塗液(全固形分濃度1.0%)をキスコート法により塗布した。
【0100】
コート層D用塗液の固形分組成
バインダー:アクリル変性ポリエステル(高松油脂株式会社製、IN−170−6) 45%
不活性粒子D:アクリルフィラー(平均粒径30nm、破壊強度10kgf/mm2、日本触媒株式会社製、エポスター) 7%
界面活性剤X:(日本油脂株式会社製、ノニオンNS−208.5) 3%
界面活性剤Y:(日本油脂株式会社製、ノニオンNS−240) 30%
メチルセルロース:(信越化学(株)製、メトローズSM15) 15%
D層厚み(乾燥後):7nm
【0101】
続いてステンターに供給し、110℃にて横方向に4.2倍に延伸した。得られた二軸延伸フィルムを、220℃の熱風で4秒間熱固定し、全厚み6.4μmで、ポリエステル層Bの厚み1.0μmの積層二軸配向ポリエステルフィルムを得た。このフィルムのポリエステル層A、Bの厚みについては、2台の押し出し機の吐出量により調整した。このフィルムのコート層C側の表面に存在する不活性粒子Cの突起頻度は10個/μm2、コート層D側の表面に存在する不活性粒子Dの突起頻度は10個/μm2、層B表面に存在する不活性粒子B1の突起頻度は3×105個/mm2、不活性粒子B2の突起頻度は5×103個/mm2であった。また、このフィルムのヤング率は縦方向5000N/mm2、横方向7000N/mm2であった。この積層フィルムのその他の特性およびこのフィルムを用いた強磁性薄膜蒸着型磁気テープの特性を表1に示す。
【0102】
[実施例2〜4]
ポリエステル層Bに含有させる不活性粒子B1およびB2の種類、平均粒径、破壊強度、層B表面上の突起頻度、コート層Cに含有させる不活性粒子Cの種類、平均粒径、破壊強度、層C表面上の突起頻度およびコート層Dに含有させる不活性粒子Dの種類、平均粒径、破壊強度、層D表面上の突起頻度を表1に示すとおり変更した以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた積層ポリエステルフィルムの特性、およびそのフィルムを用いた強磁性薄膜蒸着型磁気テープの特性を表1に示す。
【0103】
[実施例5]
コート層Dにセルロース化合物を含有させず、その代わりにアクリル変性ポリエステルバインダー含有量を増加させ、かつ不活性粒子Dとして表1に記載の不活性粒子Dを使用した以外は実施例1と同様な操作を繰返した。得られた積層ポリエステルフィルムの特性、およびそのフィルムを用いた強磁性薄膜蒸着型磁気テープの特性を表1に示す。
【0104】
[実施例6]
ポリエステル層Aおよびポリエステル層Bにおけるジメチルテレフタレートの代わりに2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルを同モル量使用した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル層A、B用のポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)(樹脂A2、B2)を得た。固有粘度(オルトクロロフェノール、35℃)は樹脂A2は0.60、樹脂B2は0.67であった。
【0105】
この樹脂A2、B2を、それぞれ170℃で6時間乾燥後、実施例1と同様にして、各層厚みを調整し、厚さ89μmの未延伸積層熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0106】
得られた未延伸フィルムを予熱し、さらに低速・高速のロール間でフィルム温度135℃にて3.6倍に延伸し、急冷して縦延伸フィルムを得た。次いで縦延伸フィルムのA層側に、実施例1と同組成の水性塗液(全固形分濃度1.0%)を、B層側にも実施例1と同組成の水性塗液(全固形成分濃度1.0%)を実施例1と同様に塗布した。
【0107】
続いてステンターに供給し、155℃にて横方向に5.7倍に延伸した。得られた二軸延伸フィルムを、200℃の熱風で4秒間熱固定し、全厚み4.4μm、熱可塑性樹脂層Bの厚み0.6μmの積層二軸配向ポリエステルフィルムを得た。このフィルムの熱可塑性樹脂層A、Bの厚みについては、2台の押し出し機の吐出量により調整した。このフィルムのヤング率は縦方向5500N/mm2、横方向10,500N/mm2であった。この積層フィルムのその他の特性、およびこのフィルムを用いた強磁性薄膜蒸着型磁気テープの特性を表1に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
[比較例1〜7]
ポリエステル層Bに含有させる不活性粒子B1およびB2の種類、平均粒径、破壊強度、層B表面上の突起頻度およびコート層Cに含有させる不活性粒子Cの種類、平均粒径、破壊強度、層C表面上の突起頻度、コート層Dに含有させる不活性粒子Dの種類、平均粒径、破壊強度、層D表面上の突起頻度を表2に示すとおり変更した以外は、実施例1と同様にして積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムは、フイルム表面の平坦性の均質性が損なわれてしまい、磁気テープにした際、十分な電磁変換特性を得ることができなかった。その他の特性、およびこのフィルムを用いた強磁性薄膜蒸着型磁気テープの特性を表2に示す。
【0110】
【表2】
【0111】
表1から明らかなように、本発明による積層ポリエステルフィルムは、片面が非常に均質に平坦で、巻取り性が極めて良好であり、優れた電磁変換特性を示し、一方、表2から明らかなように本発明の要件を満たさないものは、これらの特性を同時に満足できない。
【0112】
【発明の効果】
本発明の積層ポリエステルフイルムは、均質な平坦性に優れながら、さらに巻取り性も優れ、高密度磁気記録媒体のベースフィルムとして用いると、得られる磁気記録媒体に、ドロップアウトが少なく、電磁変換特性に優れ、しかも走行耐久性に優れるという特性を同時に具備させることができ、その工業的価値は極めて高い。
Claims (12)
- 不活性粒子Cを含有するコート層Cと、不活性粒子を含有しないポリエステル層Aと、多価アルコールと炭素数8個以上の脂肪族モノカルボン酸とからなるエステルワックス、不活性粒子B1およびB2を含有するポリエステル層Bと、不活性粒子Dを含有するコート層Dとがこの順で積層された積層フイルムであって、
(1)不活性粒子B1は、平均粒径(dB1)が0.01〜0.5μm、破壊強度(SB1)が50〜500Kgf/mm2およびポリエステル層Bのポリエステル層Aと接していない表面に存在する頻度(NB1)が1×104〜5×106個/mm2の範囲にあること;
(2)不活性粒子B2は、平均粒径(dB2)が0.1〜1.0μmでかつdB1よりも0.03μm以上大きく、破壊強度(SB2)が5〜50Kgf/mm2およびポリエステル層Bのポリエステル層Aと接していない表面に存在する頻度(NB2)が1×103〜5×104個/mm2の
範囲にあること;
(3)不活性粒子Cは、平均粒径(dC)が5〜50nm、破壊強度(SC)が1〜100Kgf/mm2およびコート層Cのポリエステル層Aと接していない表面に存在する頻度(NC)が1〜50個/μm2の範囲にあること;
(4)不活性粒子Dは、平均粒径(dD)が10〜100nm、破壊強度(SD)が5〜50Kgf/mm2およびコート層Dのポリエステル層Bと接していない表面に存在する頻度(ND)が1〜25個/μm2の範囲にあること;および、
(5)不活性粒子Cと不活性粒子Dとの頻度の比(NC/ND)が0.1〜10の範囲にあること
を同時に具備することを特徴とする積層ポリエステルフイルム。 - 不活性粒子B1は、架橋シリコーン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリエステル、架橋ポリスチレン、酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ケイ素、カオリン及びクレーからなる群から選ばれる少なくとも1種の粒子である請求項1記載の積層ポリエステルフイルム。
- 不活性粒子B2は、架橋シリコーン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリエステル、架橋ポリスチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種の粒子である請求項1記載の積層ポリエステルフイルム。
- 不活性粒子Cは、架橋シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、架橋ポリエステルおよび全芳香族ポリエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂からなる請求項1記載の積層ポリエステルフイルム。
- 不活性粒子Dは、架橋シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、架橋ポリエステルおよび全芳香族ポリエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂からなる請求項1記載の積層ポリエステルフイルム。
- コート層Dは、セルロース化合物を0.1〜30重量%含有する請求項1記載の積層ポリエステルフイルム。
- ポリエステル層Aと層Bの厚みの和は2μm以上7μm以下であり、ポリエステル層Aの厚みは0.8μm以上であり、かつポリエステル層Bの厚みは、不活性粒子B2の平均粒径に対して0.5倍以上である請求項1記載の積層ポリエステルフィルム。
- ポリエステル層Aまたは層Bを構成するポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートである請求項1記載の積層ポリエステルフイルム。
- ポリエステル層Aまたは層Bを構成するポリエステルが、ポリエチレン−2,6−ナフタレートである請求項1記載の積層ポリエステルフイルム。
- デジタル記録方式の磁気記録媒体のベースフイルムとして用いられる請求項1〜9のいずれかに記載の積層ポリエステルフイルム。
- 請求項1記載の積層ポリエステルフイルムと、該積層ポリエステルフイルムのコート層Cの表面に設けられた磁性層と、該積層ポリエステルフイルムのコート層Dの表面に設けられたバックコート層とからなる磁気記録媒体。
- 磁性層が強磁性金属薄膜層である請求項11記載の磁気記録媒体。
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