JP4240723B2 - 化粧材 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、住宅の外装及び内装材等の各種用途に用いる耐水性及び耐候性が良好な化粧材に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、転写法により各種の化粧材が製造されている。その場合、転写層を被転写体となる基材に接着させる手段として、樹脂の接着性、強度と成形性の両立性が良いことから、ウレタン樹脂を転写層に使用することがあった。しかも、ウレタン樹脂としては、2液硬化型等の転写前の硬化反応進行によって経時的な接着力低下が起こらず、加熱及び冷却によって転写時点で十分な初期密着が得られて使い易く且つ転写時に加熱軟化させることによって凹凸追従性も良い事から、熱可塑性ウレタン樹脂を使用することがあった。
すなわち、特開平11−34597号公報に開示の如く、転写シートの転写層には、そのうち被転写体に面する層(例えば絵柄インキ層や接着剤層等)に熱可塑性ウレタン樹脂を使用した層とするのである。そして、この様な転写シートを用いて、例えば、固体粒子衝突圧を転写圧として用いた転写方法によって基材に装飾層として転写層を転写して、化粧材を製造していた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の様な熱可塑性ウレタン樹脂を使用すると、耐水性(例えば耐温水性)が不足する事があった。それは、特に被転写面が目地溝等を有する凹凸面で、非転写領域と転写領域との境界での転写層の切れ(箔切れ性)を良くするため、該熱可塑性ウレタン樹脂には低分子量の樹脂を使うのが良い。しかし、その反面、該熱可塑性ウレタン樹脂には、一般に水酸基(ポリオールとイソシアネートとを反応させてウレタンを生成した際の残留水酸基)を有する。よって、該熱可塑性ウレタン樹脂が低分子量であると、側鎖の水酸基以外に末端にも水酸基が存在し、結果的に水酸基価が高い樹脂となっとしまうからであった。そして、水酸基価が大きいと、耐水性評価等の水廻り試験において、樹脂の親水性が増している為に、吸水、膨潤する傾向が高くなり、その為に耐水性が劣化するのである。したがって、凹凸追従性等は良好てあるが、冷水または温水に長時間浸漬させた後の層間の密着力、すなわち、密着力の耐水性が劣った。
【0004】
また、化粧材等に於いては、通常、耐候性が要求され、経時的に褪色せず、或いはまた耐候性試験後の層間の密着力、すなわち、密着力の耐候性が低下しない事が重要であった。更に、また、耐擦傷性、耐汚染性等の表面物性も要求され、装飾層を転写形成後、転写適性と表面物性との両立の観点から、その上の表面層は塗工形成する事があった。しかし、いくら表面物性が良い表面層であっても、その密着力が耐水性に劣っていては、十分とは言えなかった。
【0005】
そこで、本発明の課題は、密着力の耐水性、特に耐温水性が良好でしかも耐候性も良好更に表面物性も良好な化粧材を提供する事である。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決すべく、本発明の化粧材では、基材上に、接着剤層、装飾層、表面層を順次形成してなる化粧材において、前記装飾層のうち少なくとも最上層が、分子中に水酸基が無く且つ加水分解性シリル基を有する熱可塑性ウレタン樹脂で、且つそのイソシアネート成分が水添MDIとIPDIとの質量比60/40〜70/30の混合系であり、表面層がケイ素系樹脂からなる構成とした。
【0007】
この様な構成とすることで、密着力の耐温水性が良好で、且つ耐候性も良好な化粧材となる。更に表面物性を与える表面層と装飾層との密着性についても、耐温水性及びその耐候性をより良好にできる。
【0011】
また、本発明の化粧材は、上記構成に於いて更に、前記装飾層のうち最下層が、分子中に水酸基が無い熱可塑性ウレタン樹脂で、且つそのイソシアネート成分が水添MDIとIPDIとの質量比60/40〜70/30の混合系である構成とした。この様な構成とすることで、基材上の層、特に装飾層について、密着力の耐温水性及び耐候性を良好にできる上、表面層によって耐擦傷性等の表面物性も良好にできる。
【0013】
【発明の実施形態】
以下、図面を参照しながら本発明の化粧材、及び本発明の化粧材を得るに適した転写シート、転写方法について、実施の形態を説明する。
【0014】
転写シート:先ず、図1は本発明の化粧材を得るに適した転写シートSの形態例の幾つかを例示する断面図である。図1(A)に示す如く、本発明の化粧材を得るに適した転写シートSは、支持体シート1と転写層2とからなり、且つ転写層2は、その樹脂分が、分子中に水酸基が無い熱可塑性ウレタン樹脂で、且つそのイソシアネート成分が、水添MDIとIPDIとの質量比60/40〜70/30の混合系である層とした。該特定の樹脂を使用する層は、好ましくは転写層のうちの少なくとも被転写体に面する層とするのが、転写層と被転写体との密着性の点で望ましい。転写層2は一層及び多層の場合が有るが、一層の場合ではその層自体が、上記特定の熱可塑性ウレタン樹脂からなる層となる。例えば、転写層が(単層の)絵柄インキ層のみからなる場合には、該絵柄インキ層が被転写体に面することになり、該絵柄インキ層が上記特定の熱可塑性ウレタン樹脂からなる層となる。
【0015】
また、本発明の化粧材を得るに適した転写シートは、図1(B)に例示する転写シートSの如く、絵柄層4と接着剤層5との2層構成等と転写層2が複層からなる場合には、同図の場合では被転写体に面する少なくとも接着剤層5を上記特定の熱可塑性ウレタン樹脂からなる層とするのが好ましい。
【0016】
以下、転写シートの各層について更に詳述する。
【0017】
〔支持体シート〕
支持体シート1としては、転写層と剥離性が有り、また被転写体の被転写面が凹凸である場合には更に、凹凸への追従性を有するもので有れば、従来公知のもので良く特に制限は無い。従って、被転写面が平面或いは二次元的凹凸表面の場合には、延伸性が無い紙等でも良いが、三次元的凹凸表面の場合には、少なくとも転写時には延伸性の有る支持体シートを用いる。延伸性のある支持体シートとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン3元共重合体、オレフィン系熱可塑性エラストマー等のポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂等の樹脂フィルム(シート)を用いる。また、これら樹脂フィルムは、低延伸又は無延伸のものが延伸性の点で好ましい。また、支持体シートはこれらの単層又は異種材料からなる複層構成としても良い。例えば、被転写面が平面的な場合には、上質紙にポリプロピレンを積層した構成の支持体シートは転写性に優れ且つ安価である点で好ましい支持体シートの一つである。なお、支持体シートの厚みは、通常は20〜200μm程度である。
【0018】
なお、支持体シートには必要に応じ、転写層側に転写層との剥離性を向上させる為、支持体シートの構成要素として離型層を設けても良い。この離型層は支持体シートを剥離時に、支持体シートの一部として転写層から剥離除去される。離型層としては、例えば、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ワックス等の単体又はこれらを含む混合物が用いられる。例えば上記した上質紙にポリプロピレンを離型層として積層した支持体シートである。
【0019】
〔転写層〕
転写層2は、単層又は多層からなり被転写体に転写移行させる層であり、その樹脂分が、分子中に水酸基が無く且つそのイソシアネート成分が特定比率の水添MDIとIPDIからなる熱可塑性ウレタン樹脂からなる層とする。該特定の熱可塑性ウレタン樹脂は、最低限の密着対象部分、すなわち転写層の被転写体に対する密着性の点で、転写層のうちの少なくとも被転写体に面する層(化粧材等の転写物に於いて転写層の最下層)に適用するのが好ましい。例えば、前述図1(A)の転写シートSの如く、転写層2が絵柄インキ層3のみからなる場合には、該絵柄インキ層3が上記特定の熱可塑性ウレタン樹脂からなる層とする。また、例えば、前述図1(B)の転写シートSの如く、転写層2が絵柄層4と接着剤層5との2層構成の場合は、少なくとも接着剤層5を上記特定の熱可塑性ウレタン樹脂からなる層とする。
【0020】
なお、本明細書に於ける記述では、絵柄インキ層3と絵柄層4を次の様に区別する。絵柄インキ層は絵柄層の一種で、バインダー樹脂を必須成分として該樹脂中に着色剤や充填剤等を適宜含有する層であり、例えば絵柄パターンを表す為にインキを印刷して得られる層である。なお、絵柄インキ層は、インキを用いて印刷して得られる層以外に、塗液等を用いて塗工や手描き等のその他の形成方法で得られる層も包含し、これらも含めて「絵柄インキ層」と呼ぶことにする。これに対して、絵柄層は、バインダー樹脂不必須の層で、絵柄インキ層以外に例えば金属薄膜層等も包含する層である。また、絵柄インキ層等の絵柄層は、模様等の絵柄パターンを表す為にパターン状に形成された層や、全面ベタ柄を表す為に全面に形成された層等の意匠表現の為の層以外に、帯電防止層や導電層等と機能付与の為の層も包含する。
【0021】
なお、転写層2としては、従来公知の転写シート同様に、更に適宜、剥離層等も転写層の構成要素とすることもある。絵柄インキ層、接着剤層、絵柄層、剥離層等の転写層を構成する各層は、従来公知の印刷法や塗工法、或いは手描き等の任意の形成手段で形成すれば良い。
【0022】
例えば、絵柄インキ層はグラビア印刷、シルクスクリーン印刷、オフセット印刷、グラビアオフセット印刷、インキジェットプリント等の従来公知の方法、材料で絵柄等を印刷した層である。また、この様な絵柄インキ層を含む絵柄層としては、この他、アルミニウム、クロム、金、銀等の金属を公知の蒸着法等を用いて部分的或いは全面に形成した金属薄膜層等がある。
【0023】
絵柄インキ層や絵柄層の絵柄は任意であり、用途に応じて、例えば、木目模様、石目模様、布目模様、タイル調模様、煉瓦調模様、皮絞模様、文字、幾何学模様、全面ベタ等を用いる。
【0024】
なお、絵柄インキ層等の絵柄層は、絵柄模様を表す為にパターン状に形成された柄パターン層と、全面ベタとして形成される全ベタ層とがある。また、多色刷り等では柄パターン層は2層以上からなる。例えば、図2の転写シートSの絵柄インキ層3は、柄パターン層3aとその上に形成された全ベタ層3bの両方とからなる。この様に、絵柄層は多層構成の場合がある。例えば、図1(A)の転写シートSの絵柄インキ層3は、柄パターン層と全ベタ層からる場合もある。絵柄インキ層が被転写体に面する層の場合は、特定の熱可塑性ウレタン樹脂で形成された層とするが、絵柄インキ層が多層構成、例えば図2の様に絵柄インキ層3が柄パターン層3aと全ベタ層3bとからなる場合には、その層の中で被転写体と面する層(転写後に於ける転写層の最下層)、つまり少なくとも全ベタ層を前記特定の樹脂で形成した層とすれば良く、柄パターン層は他の樹脂で形成した層としても良い。
【0025】
そして、絵柄インキ層形成用のインキは、一般的なインキ同様に、バインダー等からなるビヒクル、顔料や染料等の着色剤、これに適宜加える各種添加剤からなる。バインダーの樹脂には、アクリル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、セルロース系樹脂、ウレタン樹脂、等の単体又はこれらを含む混合物を用いる。
【0026】
また、上記着色剤としては、チタン白、カーボンブラック、弁柄、黄鉛、群青等の無機顔料、アニリンブラック、キナクリドン、イソインドリノン、フタロシアニンブルー等の有機顔料、アルミニウム箔粉、二酸化チタン被覆雲母の箔粉等の光輝性顔料、或いはその他染料等の公知の着色剤を用いることができる。
【0027】
そして、絵柄インキ層に於ける上記ウレタン樹脂としては、基本的には、熱可塑性ウレタン樹脂の他、ポリオールとイソシアネートとの2液硬化型等で熱硬化性等の硬化性樹脂等も使用できる。但し、硬化性樹脂は、凹凸の被転写面への転写の場合には、転写シートが被転写体に圧接する前で既に硬化が完了する等、熱可塑性が失われた状態であると、特に全面ベタ柄等では絵柄インキ層の凹凸追従性が低下するので好ましく無い。従って、ウレタン樹脂を硬化性樹脂として使用する場合には、硬化が進行していても、転写シートを被転写体に圧接時点では、所望の凹凸追従性が確保できる程度の半硬化、或いは未硬化状態で使用して、圧接後に完全硬化させるのが好ましい。
【0028】
特に本発明では、上記ウレタン樹脂として、絵柄インキ層を被転写体に面する層として形成する場合は、前述した特定の熱可塑性ウレタン樹脂を用いるのが好ましい。この結果、密着力の耐温水性及び耐候性を向上できる。
【0029】
一方、絵柄インキ層を被転写体に接しない層として成形する場合でも、上記特定の熱可塑性ウレタン樹脂を含む、分子中に水酸基が無い(熱可塑性や硬化性の)ウレタン樹脂は、層間密着力、及び転写層全体の耐温水性が良くでき好ましい樹脂の一つである。例えば、転写層を絵柄インキ層と接着剤層の2層構成とする場合には、本発明では密着力の耐温水性及び耐候性向上の為に接着剤層に該特定の熱可塑性ウレタン樹脂を用いるのが好ましいが、この接着剤層に接する絵柄インキ層には、必ずしも該特定の熱可塑性ウレタン樹脂を用いる必要は無い。しかし、この場合でも、絵柄インキ層には、接着剤層と同類の(熱可塑性や硬化性の)ウレタン樹脂を用いるが、これらの層間密着力の点で好ましい。
【0030】
この様に、絵柄インキ層のバインダー樹脂にウレタン樹脂を使用する時は、該絵柄インキ層が特に被転写体に面する層として形成する場合には、水酸基を持たず且つ特定のイソシアネート成分の熱可塑性ウレタン樹脂を使用するのが好ましく、該絵柄インキ層を被転写体に接しない層として形成する場合には、その他のウレタン樹脂、或いはウレタン樹脂以外の樹脂を使用しても良い。
【0031】
但し、ウレタン樹脂としては、経時での物性変化が無く使い易く且つ凹凸追従性も確保し易い点では、分子中の水酸基の有無に拘らず熱可塑性ウレタン樹脂が好ましい。また、耐候性の点ではそのイソシアネート成分は水添MDI、IPDI等の脂肪族や脂環式のイソシアネートであるのものが好ましい。この様な熱可塑性ウレタン樹脂としては、ポリエステル系ウレタン樹脂、ポリエーテル系ウレタン樹脂、アクリル系ウレタン樹脂等を、単独使用又は混合使用する。なお、熱可塑性ウレタン樹脂は、架橋構造を持たないウレタン樹脂であり、通常その骨格構造は直線状であるが、枝分かれした構造でも良い。また、水分等で硬化せず経時的安定性が良好な点で、イソシアネート基を持たない「飽和」熱可塑性ウレタン樹脂が好ましい。
【0032】
そして、熱可塑性ウレタン樹脂を分子中に水酸基が無い樹脂とするのには、ポリエステル系ウレタン樹脂、ポリエーテル系ウレタン樹脂、アクリル系ウレタン樹脂等で水酸基が有るタイプのウレタン樹脂について、その水酸基をアルキル基等の他の基で置換する事によって無くす事によって得られる。
【0033】
そして、熱可塑性ウレタン樹脂の分子中に水酸基が無いと、転写物をキッチン、浴室等の水廻り用途に適用する場合に行う耐温水性試験等の水廻り試験において、水分子と相互作用が少なく、したがって、密着力の耐温水性は良好となる。しかも、水酸基をアルキル基等で置換して水酸基を無くした熱可塑性ウレタン樹脂の場合では、樹脂の分子量を略維持できるので、熱軟化温度は顕著に変化せず、転写過熱時の凹凸追従性や熱融着による転写接着性も低下させずに済む。これに対して、樹脂の水酸基の(相対的な)含有量を減らす為に高分子化した樹脂の場合では、高分子化によって樹脂の弾性率や強度は向上するが、転写シートとしての転写層の箔切れ性が低下し、非転写部(転写部の周縁部、隣接部)に余剰の転写層が残留し、いわゆる「箔バリ」を生じてしまう事が起きる。したがって、水酸基の無い熱可塑性ウレタン樹脂としては、高分子化によって相対的に水酸基含有量(水酸基価)を少なくした樹脂に比べて、必要十分な低分子量のままで水酸基を他の基で置換する等して無くした水酸基無しの樹脂の方が好ましい。
【0034】
なお、ポリエステル系ウレタン樹脂を使用する場合は経時での剥離性低下の防止、及び転写後に転写層上に表面層を塗工等で形成する場合に、該表面層中へのインキの流れ出し防止の為に、(1)ポリエステルポリオール成分にジアミン化合物を添加しウレタン骨格の一部をウレア化する、(2)ポリエステルポリオール成分にフェニル基を導入する、(3)アルコール成分をポリカーボネート系としたポリエステルポリオール成分にジアミン化合物を添加しウレタン骨格の一部をウレア化する、などによって作られた熱可塑性ウレタン樹脂を用いると良好な結果が得られる。
特に、(3)の場合は、ポリオール成分にはポリカーボネートジオールとイソホロンジイソシアネートからなるウレタン部分と、側鎖と末端に水酸基を有するアクリル部分とのブロック共重合体で平均分子量が(転写層の転写領域と非転写領域との境界での切れ(箔切れ)を良くする為)25,000程度以下のポリオールを使用した樹脂(アクリル系ウレタン樹脂でもある)が好ましい。
【0035】
そして、本発明に於ける上記特定の熱可塑性ウレタン樹脂は、例えば、イソシアネートとして水添MDIとIPDIとを質量比60/40〜70/30で混合したものと、高分子ポリオール、更に必要に応じ低分子ジオール等の活性水素含有基を有する活性水素化合物を反応させることで得られる。なお、水添MDIとIPDIとは、同時に反応させずに、別々に段階的に反応させて、結果として両者の質量比を60/40〜70/30とする事もできる。
【0036】
なお、水添MDIとは、水添(水素添加)ジフェニルメタンジイソシアネート〔別名:メチレンビス(4−シキロヘキシルイソシアネート)〕の事であり、IPDIとは、イソホロンジイソシアネートの事である。どちらのイソシアネートも、脂環式ジイソシアネートに属する。
【0037】
そして、イソシアネート成分として水添MDIとIPDIのみを用い、なお且つこれらの比率を水添MDI/IPDI=60/40〜70/30(質量比)の範囲内とし、且つ水酸基を持たない構造とした熱可塑性ウレタン樹脂を使用する事で、密着力の耐候性が良好となる。また、密着力の耐温水性も良好となる。
また、水添MDI/IPDIの比率が60/40未満(水添MDIが少ない)となると、密着力の耐温水性が低下し逆に、水添MDI/IPDIの比率が70/30よりも大きいと、この樹脂を含むインキ(或いは塗液)の分散安定性が低下し、沈降、ゲル化等をもたらす。
【0038】
なお、上記高分子ポリオール(ここでの高分子とは低分子ジオールに対する対語で分子量1万未満も含む)としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール等が、単独使用又は2種以上使用される。なお、本発明では、耐候性、及び耐アルカリ性が優れていると言う点に於いて、ポリエーテルジオールよりは、ポリエステルジオールやアクリルポリオールの方が好ましい。
【0039】
例えば上記ポリエステルポリオールとしては、低分子ジオールとジカルボン酸とを反応させて得られる縮合ポリエステルジオールや、ラクトンの開環重合により得られるポリラクトンジオール、ポリカーボネートジオール等がある。
【0040】
なお、上記低分子ジオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、或いは、環状基を有する低分子ジオール類として、ビス(ヒドロキメチル)シクロヘキサン、m或いはp−キシレングリコール、ビス(ヒドロキシメチル)ベンゼン、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、4,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)−ジフェニルプロパン(ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物)等を、単独使用又はこれらに2種以上の混合物が使用される。
【0041】
また、上記ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、アゼライン酸、マレイン酸、フマル酸等の脂肪族ジカルボン酸類、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸類、等が単独使用又は2種以上使用される。
また、上記ラクトンには、ε−カプロラクトン等が使用される。
【0042】
そして、ポリエステルポリオールの場合の具体例としては、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリネオペンチルアジペート、ポリエチレンブチレンアジペート、ポリブチレンヘキサブチレンアジペート、ポリジエチレンアジペート、ポリ(ポリテトラメチレンエーテル)アジペート、ポリエチレンアゼート、ポリエチレンセバケート、ポリブチレンアゼート、ポリブチレンセバケート、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール等が挙げられ、これらが単独使用又は2種以上使用される。
【0043】
また、例えば、アクリルポリオールとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル等の分子中に水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体と、更に必要に応じ、スチレン単量体等とを共重合させて得られるもの等が使用される。なお、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルの意味である。
【0044】
なお、以上説明した熱可塑性ウレタン樹脂は、水酸基の有無及びイソシアネート成分の内容に拘らず、凹凸の被転写面に転写する場合には、その凹凸形状、支持体シート等の転写シートの他の構成要素、転写方法及びその転写条件等にもよるが、樹脂の熱軟化温度は低い程良い。但し、低すぎても得られる化粧材等の転写物に於いて、転写された転写層の耐熱性が低下するので、要求物性を勘案して適度な熱軟化温度の樹脂を選ぶと良い。例えば、熱軟化温度120〜150℃の樹脂を使用する。この場合、本発明では水酸基の無く特定イソシアネート成分からなる熱可塑性ウレタン樹脂を使用する層では、熱軟化温度を低下させる為に低分子量の樹脂を選んでも、水酸基の有る樹脂の様に分子中の水酸基含有量が増加して耐温水性が低下する事が無いことは既に述べた。
なお、上記熱軟化温度は、ここでは、動的粘弾性測定にて貯蔵弾性率の温度上昇に伴う低下度合いが、ガラス転移温度以上の温度領域で大きくなり始める温度である。また、上記貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定器(オリエンテック株式会社製、商品名「レオバイブロン DDV−01FP」)にて、膜厚100μm、測定片サイズ4mm×25mm、測定周波数35Hz、昇温速度2℃/minの測定条件で測定した。
なおまた、熱可塑性ウレタン樹脂は、ガラス転移温度としては例えば−20℃程度、平均分子量としては例えば2万〜3万程度の樹脂等を使用する。
【0045】
なお、絵柄インキ層が特に転写後に最上層となる場合では、表面強度、耐擦傷性、後塗装適性等の表面物性の為に、必要に応じ適宜、体質顔料を含有させても良い。体質顔料としては具体的には、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、アルミナ(α−アルミナ等)、タルク、クレー等の無機質体質顔料からなる粒径0.1〜10μm程度の粉末を使用すると良い。粉末の形状は、球形、多角形、不定形、鱗片形等である。なかでも、後塗装による表面層と、最上層とする絵柄インキ層との(楔効果による)密着性向上の点で、硫酸バリウムが好ましい。体質顔料の添加量は、樹脂100重量部に対して5〜100重量部の範囲で使用する。添加量が100重量部を超えると転写適性(剥離性、凹凸追従性)が低下し、5重量部未満では表面層との密着性向上効果が得られない。
【0046】
なお、前述した如く、絵柄層(含む絵柄インキ層)は機能性層として、抗菌層、防黴層、導電層等の各種機能性を有する層でも良い。例えば、絵柄インキ層として、抗菌層には銀イオン担持ゼオライト粉末等の公知の抗菌剤を、防黴層としては、10,10−オキシビスフェノキシアルシン等の公知の防黴剤を、導電層には黒鉛や銀等の粉末又は箔粉からなる公知の導電剤を、バインダー樹脂中に含有させたりすれば良い。或いは導電層は絵柄層として金属薄膜層等も使用できる。これら絵柄層は、意匠表現用の絵柄層と兼用させる場合もある。
【0047】
また、転写層として剥離層を、支持体シートと転写層間の剥離性を調整する為、また、転写後の転写層の表面保護の為等に、転写後の転写層の最上層として、従来公知の転写シートと同様に設けても良い。剥離層には、例えば、上記絵柄層用インキのバインダーに用いる樹脂等が用いられる。なお、この剥離層は転写時に転写層の一部として被転写体側に転写される。
【0048】
また、図2に例示の転写シートSの如く、後塗装適性を考慮したそれ専用の層をプライマー層6等として、転写後に最上層となる層として設けることもできる。プライマー層6には、前記絵柄インキ層で述べた樹脂等を使用できる。なお、プライマー層6は、転写層2のうち支持体シートに接する層である点でで、剥離層とも言える。
【0049】
なお、プライマー層等とする剥離層を設ける場合で、転写シートを転写圧に固体粒子衝突圧を用いる転写方法に適用する場合では、剥離層の厚みは塗布量で0.1〜1.0g/m2 の範囲とするのが、箔バリ、(転写層の微小な)浮き、(固体粒子の衝突衝撃で転写層が粉々になって転写される)粉状転写等の転写不良を防止する点で好ましい。厚みがこれより厚い転写不良が起きやすくなり、厚みがこれより少ないと、剥離層としての効果が低下する。
【0050】
また、上記の様に、転写後の転写層の上に、更に後塗装等によって表面層を設ける場合には、この表面層の転写層に対する密着力の耐温水性、及びその耐候性を考慮した転写層とするのが好ましい。この場合、転写層のうち少なくとも最上層となる層(例えば前述のプライマー層6)を、分子中に水酸基が無く且つ加水分解性シリル基を有する熱可塑性ウレタン樹脂で、且つそのイソシアネート成分が水添MDIとIPDIとの質量比60/40〜70/30の混合系である樹脂とすると、好ましい結果が得られる。但し、この場合、後塗装等で形成する表面層は後述するケイ素系樹脂を用いた組み合わせがより良い結果が得られる。
【0051】
ここで、加水分解性シリル基とは、加水分解性のシリル基であり、例えば、一般式(R1 3-m −Si(R2 m − で表される基である。但し、式中、R1 は、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アシロキシ基、置換アシロキシ基、フェノキシ基、イミノオキシ基、アルケニルオキシ基等の加水分解性の基であり、R2 は、アルキル基、アリール基、アラルキル基等の一価の有機基である。mは0〜2の整数である。
【0052】
この様な加水分解性シリル基の具体例としては、例えば、アルコキシシリル基、ハロシリル基、ヒドロシリル基、アシロキシシリル基、フェノキシシリル基、イミノオキシシリル基、アルケニルオキシシリル基等が挙げられる。
【0053】
上記の様な加水分解性シリル基を、熱可塑性ウレタン樹脂の分子に持たせる方法は、特に限定は無い。例えば、先ず樹脂側にイソシアネート基を導入してから、そのイソシアネート基に対して、アミノ基と加水分解性シリル基とを有するシリル化合物をそのアミノ基で反応させて、最終的に加水分解性シリル基を樹脂骨格に導入する方法である。この方法によれば、シリル化合物として、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のいわゆる市販のシランカップリング剤を使用して容易に目的の樹脂を得ることができる。この方法の他にも、逆に、樹脂側はアミノ基として、シリル化合物側をイソシアネート基としても良い。また、シリル化合物側はイソシアネート基だが、樹脂側は水酸基として、イソシアネート基と水酸基とを反応させてウレタン結合を介して、加水分解性シリル基を樹脂骨格に導入する方法でも良い。
【0054】
また、アクリル系の熱可塑性ウレタン樹脂の場合には、該樹脂の合成時に、アクリル系モノマー等と共に加水分解性シリル基を有するアクリレート等のビニル系モノマー(例えば、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等)を共重合させて加水分解性シリル基を有するアクリルポリオールとして、これを水添MDIとIPDIとの混合系イソシアネートと反応させて、加水分解性シリル基を分子中に有し且つ特定イソシアネート成分の熱可塑性ウレタン樹脂とする方法等でも良い。
【0055】
なお、熱可塑性ウレタン樹脂にイソシアネート基(又は水酸基)を持たせるには、ポリオールとイソシアネート(水添MDI及びIPDI)との反応時にポリイソシアネート(又はポリオール)を過剰配合して、ウレタン化反応の残留基として、未反応のイソシアネート基(又は水酸基)を残存させれば良い。なおもちろんの事、上記反応で得るものは熱可塑性樹脂であるので、2官能化合物と3官能化合物との反応等の様に架橋硬化する様な、ポリオールとイソシアネートとの組み合わせは使用しない。また、その組み合わせを使用したとしても、架橋しない程度に止める。
【0056】
また、熱可塑性ウレタン樹脂にアミノ基を持たせるには、例えば、イソシアネート基を持たせた熱可塑性ウレタン樹脂の該イソシアネート基に、更にジアミン等を反応させれば良い。
【0057】
また、加水分解性シリル基を分子中に導入する為に使用し得る、加水分解性シリル基を有するシリル化合物としては、例えば、加水分解性シリル基として例えばアルコキシ基としてメトキシ基、エトキシ基等を有すると共に、グリシドキシ基、アミノ基、メルカプト基の反応性官能基を有する化合物が挙げられる。この様な加水分解性シリル化合物としては、いわゆるシランカップリング剤を使用できる。
【0058】
なお、シランカップリング剤としては、例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどがある。これらは、樹脂側に例えばイソシアネート基を先ず導入しておき、これと反応させれば良い。
【0059】
なお、前記の加水分解性シリル基を分子中に有し且つイソシアネート成分が水添MDI及びIPDIからなる熱可塑性ウレタン系樹脂の一例としては、例えば、アクリルポリオールと上記の混合系のイソシアネートとを反応させて、末端や側鎖にイソシアネート基を有する熱可塑性ウレタン樹脂を先ず合成し、次にこの樹脂に対して、アルコキシ基等の加水分解性シリル基と共にアミノ基等を分子中に有するシリル化合物を反応させると、前記イソシアネート基と上記シリル化合物のアミノ基とが反応して尿素結合を生じ、この尿素結合を介して加水分解性シリル基が樹脂骨格に導入された構造で、加水分解性シリル基を分子中に有する熱可塑性ウレタン樹脂(熱可塑性アクリルウレタン樹脂)が得られる。なお、前記シリル化合物は、例えばγ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のいわゆるシランカップリング剤を使用することができる。
【0060】
なお、加水分解性シリル基を有する熱可塑性ウレタン樹脂は、加水分解性シリル基を反応させない状態ではもちろん熱可塑性を呈し熱可塑性樹脂であるが、加水分解性シリル基は反応させて架橋硬化反応を生じさせる事ができるので、この硬化反応性に着目すれば、もちろん硬化性樹脂と言える。しかし、少なくとも転写シートの段階に於いて硬化反応前の熱可塑性状態として、こちらに注目すれば「熱可塑性」ウレタン樹脂と言える。
【0061】
また、この様な熱可塑性ウレタン樹脂の一具体例として、ポリオール成分にはポリカーボネートジオールとIPDI(これも最終的にはイソシアネート成分)からなるウレタン部分と、側鎖と末端に水酸基を有するアクリル部分とのブロック共重合体で平均分子量が25,000程度のポリオールを使用し、イソシアネート成分には、水添MDIを使用してイソシアネート基を分子中に有する熱可塑性アクリルウレタン系樹脂に対して、アミノ基と加水分解性シリル基とを有するシリル化合物を反応させて得られる、加水分解性シリル基を導入した熱可塑性ウレタン樹脂等も好ましい。
【0062】
なお、加水分解性シリル基を熱可塑性ウレタン樹脂の分子自体に持たせる以外に、加水分解性シリル基を有する化合物を、転写層のうちの最上層に添加しても、相応の効果は得られる。加水分解性シリル基を有する化合物としては、前述したシランカップリング剤等を使用すれば良い。
【0063】
〔接着剤層〕
転写層2として接着剤層5を設ける場合は、専ら被転写体に面する層として形成されるので、前述特定の熱可塑性ウレタン樹脂を使用するのが好ましい。接着剤層は、ロールコート等の塗工法、スクリーン印刷等の印刷法等の従来公知の形成方法で形成すれば良い。
なお、転写層に接着剤層を設ければ、転写層にはバインダー樹脂非含有の金属薄膜層や、前記特定の熱可塑性ウレタン樹脂をバインダー樹脂としない絵柄インキ層等を設ける事もできる。
但し、例えば、被転写体に転写領域と非転写領域とを意識的に設ける場合には、被転写体側の転写領域のみに接着剤層を形成することで、転写領域に選択的に転写できる利点もあり、この様な場合には、転写層としては接着剤層を設け無い方が好ましい。
【0064】
転写方法:本発明の化粧材を得るに適した転写方法では、転写シートとして上述した本発明の転写シートを用いて、その転写層を被転写体に転写移行させる転写方法とする。本転写方法によって、密着力の耐温水性及び耐候性が良好な転写物として後述する化粧材等を得る事ができる。なお、必要に応じ前工程として、下塗り層形成等の被転写体の前処理工程や、転写後の転写層上への表面層形成等の後処理工程を、行っても良い。
【0065】
〔被転写体〕本発明の化粧材を得るに適した転写方法では、その被転写体としては特に限定は無い。例えば、材質としては、無機非金属系、金属系、木質系、プラスチック系等の基材を使用できる。具体的には、ケイ酸カルシウム、中空押し出しセメント、スラグセメント、ALC(軽量気泡コンクリート)、GRC(硝子繊維強化コンクリート)、パルプセメント、石綿セメント、木片セメント、石膏、石膏スラグ等の非陶磁器窯業系材料、杉、檜、樫、ラワン、チーク等の各種樹種からなる木材単板や木材合板、パーティクルボード、集成材、木質中密度繊維板(MDF)等の木質材料、また、鉄、アルミニウム、銅等の金属材料、土器、陶器、磁器、セッ器、硝子、琺瑯等のセラミックス等の無機質材料、ポリプロピレン、ABS樹脂、フェノール樹脂等の樹脂材料等である。
【0066】
また、被転写体の形状は、その被転写面に転写層を転写できれば、平板や屈曲した板、柱状物、成形品等の立体物等と任意である。例えば、被転写体は全体として(包絡面形状が)平板状の板材の他、断面が円弧状に凸又は凹に1方向に湾曲した二次元的凹凸を有するもの等でも良い。被転写面としては、平面以外にも、転写シート及び採用する転写(圧印加)方法が、凹凸追従性(形状追従性)の有るものであれば、凹凸表面でも良い。特に転写圧に固体粒子衝突圧を用いる場合には、なおさらである。表面凹凸形状は任意だが、例えば、転写物として化粧材を得る場合では、複数のタイルや煉瓦を平面に配置した場合の目地、花崗岩の劈開面、砂目等の石材表面の凹凸、木材羽目板、浮造木目等の木材板表面凹凸、簓の無い下見張板の表面凹凸、リシン調、スタッコ調等の吹付塗装面の凹凸等である。
【0067】
例えば、図3の要部拡大斜視図に示す被転写体Bは、大柄な凹部401と大柄な凸部402とからなる大柄な凹凸と、その大柄な凸部402上にある微細な凹凸403とからなる凹凸形状を有する。例えば、大柄の凹凸は段差が1〜10mm、凹部の幅が1〜10mm、凸部の幅が5mm以上のもので構成されるものであり、微細な凹凸形状は、段差及び幅ともに大柄な凹凸形状よりも小さく、具体的には段差が0.1〜5mm程度、凹部の幅及び凸部の幅が0.1mm以上で、大柄な凹凸形状の凸部の幅の1/2未満程度である。
【0068】
(下塗り層)
なお、被転写体の被転写面には、必要に応じて適宜、下塗り層(べースコート層)を設けておいても良い。下塗り層は、被転写体(セメント等のアルカリ性基材)からのアルカリ成分溶出を防止(所謂シーラー)したり、或いは、被転写体(無機系基材等)の表面の凹凸を埋めて表面を平滑にし、転写性等を向上させて転写層の転写に適した表面性を付与したりする(所謂目止め)、等の目的で設ける。また、下塗り層を着色不透明とする事により隠蔽性を持たせて、被転写体自体の色や模様が絵柄インキ層等の転写層の模様に悪影響するのを防ぐ(所謂下地塗装)目的でも使用できる。なお、これらの場合、下塗り層の機能は、接着剤層に兼用させて接着剤層のみで足らす事もできる。下塗り層は用途により1層又は多層で用いる。
下塗り層は、被転写体の材質や表面状態及びその目的に応じて、樹脂等からなる従来公知の塗液を塗工し形成すれば良い。例えば、該樹脂としては、2液硬化型ウレタン樹脂、1液湿気硬化型ウレタン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂等が用いられる。特に、基材が、セメント等のアルカリ性基材の場合は、耐アルカリ性に優れた樹脂が好ましい。耐アルカリ性に優れた樹脂としては、例えば、アクリルウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等が好ましい。
なお、下塗り層の形成方法は、スプレーコート、フローコート等の塗工法、スクリーン印刷等の印刷法等の従来公知の形成方法の中から、被転写体の表面凹凸形状等により適宜選択する。
【0069】
〔被転写体に施す接着剤〕
なお、転写層と被転写体との接着性が無い場合は、被転写体側に接着剤層を予め形成しても良い。特に被転写体の被転写面が凹凸面で転写抜けが起きやすい様な場合には、被転写体側に接着剤層を形成しておくのは効果的である。この為の接着剤に熱可塑性ウレタン樹脂を使用する場合には、前述転写シートの転写層で述べた水酸基が無く特定のイソシアネート成分からなる熱可塑性ウレタン樹脂を用いるのが、耐温水性及び耐候性を向上させる点で好ましい。そうしないと、転写層側に水酸基が無く特定イソシアネート成分からなる熱可塑性ウレタン樹脂を用いても、被転写体側の接着剤層によって効果がなくなってしまうからである。もちろん、被転写体側に施す接着剤に2液硬化型等の硬化性ウレタン樹脂を使用する場合には、この限りでは無い。例えば、ポリオールとイソシアネートとからなる2液硬化型ウレタン樹脂からなる接着剤を使用できる。
【0070】
また、転写層の最下層に上記特定の熱可塑性ウレタン樹脂とし、更にその樹脂として加水分解性シリル基を持たせた樹脂を用いる場合には、被転写体側に形成しておく接着剤層には、後述する本発明の化粧材にて説明する表面層に使用するケイ素系樹脂を使用するのも好ましい。両層の密着力について、耐温水性及びその耐候性を向上できる。
【0071】
なお、被転写体上に接着剤を施して接着剤層を被転写基材上に形成するには、スプレーコート、フローコート等の塗工法、スクリーン印刷等の印刷法等の従来公知の形成方法の中から、被転写体の表面凹凸形状等によって適宜選択すれば良い。
【0072】
〔転写圧の加圧方法〕本発明の化粧材を得るに適した転写方法に於いて、採用する転写圧の加圧方法には基本的には特に制限は無い。従来公知の各種加圧方法を、被転写体、用途等に応じて適宜選択すれば良い。例えば、下記する(1)〜(4)の転写方法が採用する転写圧加圧方法を採用できる。なかでも、特に、本発明の化粧材を得るに適した転写方法で採用するのは、(1)の弾性体ローラによる転写方法による加圧方法と、(4)の固体粒子衝突圧を利用する転写方法による加圧方法である。(1)は所謂ローラ転写方法であり平易に転写でき、また弾性体ローラを軟質とすることで、被転写体に多少の表面凹凸が有っても転写できる方法として好ましい。一方、(4)は平面はもちろん、弾性体ローラ等によっては、従来は不可能であった大きな表面凹凸にも転写できる方法として好ましい。
【0073】
(1)弾性体ローラによる転写方法:弾性体ローラは、例えば、特開平6−99550号公報、特開平8−286599号公報等に記載の様な従来公知のローラ転写法で用いる弾性体ローラで良い。
図4は、弾性体ローラによる転写圧を加圧をして転写する様子を概念的に説明する概念図である。使用する弾性体ローラRとしては、通常、鉄等の剛体の回転軸芯R1の表面周囲を軟質の弾性体R2で被覆したローラを用いる。弾性体R2としては、シリコーンゴム、ネオプレンゴム、フッ素ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、天然ゴム等のゴムを用いる。特に、耐熱性、耐久性、弾性等の点からシリコーンゴムが好ましい。また特に、被転写体の被転写面が凹凸形状(三次元形状)をなす場合は、弾性体として、JIS規格のゴム硬度が60°以下のものを使用することが、転写シートを凹凸面に追従成形させる為に好ましい。弾性体ローラの直径は、通常5〜20cm程度である。また、通常、弾性体ローラは加熱ローラとしても用いる。弾性体ローラの加熱は、ローラ内部の電熱ヒータや、ローラ外部の赤外線輻射ヒータ等の加熱源によって加熱する。
【0074】
(2)真空成形転写方法:特公昭56−45768号公報(オーバーレイ法)、特公昭60−58014号公報(真空プレス法)等に記載されるように、立体形状の被転写体上に転写シートを対向又は載置し、少なくとも被転写体側からの真空吸引による圧力差により転写シートの転写層を被転写体に転写する、所謂真空成形積層法を利用した転写方法。
【0075】
(3)ラッピング転写方法:特公昭61−5895号公報、特開平5−330013号公報等に記載されるように、円柱、多角柱等の柱状の被転写体の長軸方向に、転写シートを供給しつつ、複数の向きの異なるローラーにより、被転写体を構成する複数の側面に順次転写シートを加圧接着して転写層を転写してゆく、所謂ラッピング加工方法による転写方法。
【0076】
(4)固体粒子衝突圧を利用する転写方法:特許第2844524号公報、特開平10−193893号公報等に開示された新規な転写方法である。すなわち、図5の概念図で示す如く、被転写体Bの被転写面(表面)側に、支持体シートと転写層とからなる転写シートSの転写層側を対向させ、該転写シートの支持体シート側に多数の固体粒子Pを衝突させ、その衝突圧を転写圧として利用して、被転写体の被転写面への転写シートの圧接を行う。そして、転写層が被転写体に接着後、転写シートの支持体シートを剥離除去すれば、転写が完了する。なお、固体粒子Pに付記した矢印は、固体粒子の速度ベクトルを表す。
【0077】
次に、上記各種転写方法の中から、更に(4)の転写圧に固体粒子衝突圧を利用する転写方法について、更に説明しておく。
【0078】
固体粒子Pとしては、セラミックビーズ、ガラスビーズ等の非金属無機粒子、亜鉛、鉄等の金属粒子、ナイロンビーズや架橋ゴムビーズ等の樹脂ビーズ等の有機粒子、或いは金属等の無機粒子と樹脂とからなる無機物・樹脂複合粒子等を使用する。粒子形状は球形状が好ましいが、その他の形状でも用い得る。粒径は通常10〜1000μm程度である。
固体粒子は噴出器から転写シートに向かって噴出させ、転写シートに衝突したその衝突圧が転写圧となる。噴出器には、代表的には羽根車や吹出ノズルを用いる。羽根車はその回転により固体粒子を加速し、吹出ノズルは高速の流体流で固体粒子を加速する。羽根車や吹出ノズルには、サンドブラスト或いはショットブラスト、ショットピーニング等とブラスト分野にて使用されているものを流用できる。例えば羽根車には遠心式ブラスト装置、吹出ノズルには加圧式や吸引式ブラスト装置、ウェットブラスト装置等である。遠心式ブラスト装置は羽根車の回転力で固体粒子を加速し噴出する。加圧式ブラスト装置は、圧縮空気に混合しておいて固体粒子を、空気と共に噴出する。吸引式ブラスト装置は、圧縮空気の高速流で生ずる負圧部に固体粒子を吸い込み、空気と共に噴出する。ウェットブラスト装置は、固体粒子を液体と混合して噴出する。
【0079】
図6及び図7は、羽根車による噴出器の一例を示す概念図である。羽根車812は、複数の羽根813がその両側を2枚の側面板814で固定され、且つ回転中心部は羽根813が無い中空部815となっている。更に、この中空部815内に方向制御器816を内在する(図7参照)。方向制御器816は、外周の一部が円周方向に開口した開口部817を有し中空筒状で羽根車812の回転軸芯と同一回転軸芯で、羽根車とは独立して回動自在となっている。羽根車使用時は、方向制御器の開口部を適宜の方向に向くように固定して、固体粒子の噴出方向を調整する。更に、この方向制御器の内部に、内部中空で羽根車812の回転軸芯と同一回転軸芯のもう一つの羽根車が散布器818として内在する(図7参照)。散布器818は外側の羽根車812と共に回転する。そして、前記側面板814の回転中心には回転軸819が固定され、回転軸819は、軸受820で回転自在に軸支され電動機等の回転動力源(図示略)によって駆動回転され、羽根車812が回転する。また回転軸819は、羽根813を間に有する2枚の側面板814間には貫通しておらず、軸無しの空間を形成している。
そして、散布器818の内部に固体粒子Pがホッパ等から輸送管を通って供給される。通常、固体粒子は、羽根車の上方(直上又は斜上方)から供給する。散布器内に供給された固体粒子は散布器の羽根車で外側に飛び散る。飛び散った固体粒子は、方向制御器816の開口部817によって許された方向にのみ放出され、外側の羽根車812の羽根813と羽根813との間に供給される。そして、羽根813に衝突し、羽根車812の回転力で加速され、羽根車から噴出する。
羽根車812の寸法は、通常直径5〜60cm程度、羽根の幅は5〜20cm程度、羽根の長さは、ほぼ羽根車の直径程度、羽根車の回転速度は500〜5000〔rpm〕程度である。固体粒子の噴出速度は10〜50〔m/s〕程度、投射密度(基材単位面積当たりに衝突させる固体粒子の総質量)は10〜150〔kg/m2 〕程度である。
【0080】
次に、図8は吹出ノズルを用いた噴出器の一例を示す概念図である。同図の噴出器840は固体粒子加速流体として空気等の気体を用い、固体粒子噴出時に該気体と固体粒子を混合して噴出する形態の噴出器の一例である。噴出器840は、固体粒子Pと流体Fを混合する誘導室841と、誘導室内に流体を噴出する内部ノズル842と、ノズル開口部843から固体粒子及び流体を噴出する吹出ノズル部844からなる。圧縮機等からの加圧状態の流体Fを、内部ノズル842から噴出し誘導室841を経てノズル844のノズル開口部843から噴出する際に、噴出器内の誘導室841にて、高速で流れる流体流の作用で負圧を作り、この負圧により固体粒子を流体流に導き混合し、流体流で固体粒子を加速、搬送して、ノズル844のノズル開口部843から流体流と共に噴出するものである。なお、固体粒子加速流体に液体を用いる吹出ノズル等もある。
流体圧は吹付圧力で通常0.01〜1MPa程度である。流体流の流速は、液流では通常1〜20m/秒程度、気流では通常5〜80m/秒程度である。
【0081】
噴出器は、1個のみでは加圧領域を所望の形状、大きさに出来ない場合は、複数用いる。また、実際に固体粒子を用いて転写する際は、固体粒子は周囲の雰囲気中に飛散させずに且つ循環再利用するのが好ましく、転写する空間を周囲空間と隔離するチャンバ内で、固体粒子を転写シートに衝突させると良い。支持体シートの剥離は、チャンバ外でも良い。
【0082】
また、好ましくは、予め熱可塑性樹脂の支持体シートからなる転写シートは、赤外線輻射ヒータ等で加熱軟化させて延伸性を付与し、被転写体が熱容量の大きい場合は予め予熱して、初期接着を熱融着させる場合の層(絵柄層や接着剤層等)は、加熱活性化させた状態で固体粒子を転写シートに衝突させる様にする。
なお、熱融着する層を活性化して熱融着させる場合に加熱するタイミングは、衝突圧印加前、衝突圧印加中、或いは衝突圧印加前及び印加中などのいずれでも良い。一方、転写シートが被転写体が凹凸表面の場合はその表面形状に追従し、成形され、転写層が被転写体に十分に接触すれば、冷風等の冷却手段で熱融着した層の冷却を促進しても良い。冷風は、例えば、転写シート側や被転写体側から吹き付ける。
【0083】
化粧材
本発明の化粧材は、図9の断面図で例示する化粧材Dの如く、基材7上に、接着剤層A、装飾層8、表面層9を順次形成してなり、該装飾層のうち最下層が、分子中に水酸基が無い熱可塑性ウレタン樹脂で、且つそのイソシアネート成分が水添MDIとIPDIとの質量比60/40〜70/30の混合系とした構成の化粧材である。
なお、図9の断面図で示す化粧材Dでは、層構成を概念的に示す図として、基材7の化粧面は平面として図示してあるが、凹凸面でも良い。
【0084】
以上の様に、装飾層の最下層に、特定の熱可塑性ウレタン樹脂を使用することで、水廻り用途等で装飾層が膨れたりせず、密着力の耐温水性及び耐候性が良好な化粧材となる。
【0085】
また、装飾層と表面層とを次の様な構成の組み合わせとするのは、表面層と装飾層との密着力の耐温水性及びその耐候性、また表面層及び装飾層の耐候性がより向上する点で好ましい。すなわち、装飾層7のうち少なくとも最上層を、分子中に水酸基は無いが加水分解性シリル基を有する熱可塑性ウレタン樹脂で、且つそのイソシアネート成分が水添MDIとIPDIとの質量比60/40〜70/30の混合系とした樹脂から構成し、表面層8をケイ素系樹脂から構成する組み合わせである。
【0086】
上述の様な構成の本発明の化粧材は、前記本発明の転写シートを用いた上記本発明の転写方法によって、被転写体とする基材に、転写層を転写して装飾層等を形成する事で得る場合に特に適した化粧材である。基材面が凹凸面の場合等では、接着剤層は基材側に施した後、転写層として装飾層を形成し、その後、表面層を形成するのが製造が容易である。但し、本発明の化粧材としては、装飾層の他に接着剤層も転写層として形成しても良い。なお、装飾層は、前述転写シートで述べた絵柄インキ層、絵柄層等に該当する。なお、基材面の凹凸状態、用途等に応じて、基材上の装飾層を含む各層は、転写以外の印刷法或いは塗工法等で形成したものでも良い。
【0087】
〔基材〕
基材7としては、前述の転写方法に於いて述べた被転写体Bを使用する事ができる。従って、ここでは、更なる説明は省略する。
【0088】
〔接着剤層〕
接着剤層Aは、基材7に直接、接着剤を施して形成したり、転写シートの転写層として形成したり、或いはこれら両方によって形成したりする。基材に接着剤を施して形成する場合は、前述転写方法にて述べた被転写体に施す接着剤の説明と同様であり、転写層として形成する場合は前述転写シートに於いて述べた接着剤層5の説明と同様である。従って、更なる説明はここでは省略する。
【0089】
〔装飾層〕
装飾層8は、転写層として形成する場合は、前述転写シートで述べた絵柄インキ層3、絵柄層4が該当し、従って更なる説明は省略する。なお、この装飾層8は、形成面が凹凸面の場合は転写法が形成し易いが、形成面次第では、転写以外の印刷法、塗工法等で基材上に直接形成する事もできる。
【0090】
〔表面層〕
表面層9は、化粧材に於ける最外層として形成され、表面の耐久性、意匠感等を付与する。表面層には、用途、要求物性に応じたものを形成すれば良い。例えば、ポリフッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル樹脂、ウレタン樹脂、ケイ素系樹脂の1種又は2種以上等を用いた塗料で形成すれば良い。
【0091】
また、表面層の樹脂をケイ素系樹脂から構成し、なお且つ装飾層のうち表面層に接する少なくとも最上層を、分子中に水酸基が無く且つ加水分解性シリル基を有する熱可塑性ウレタン樹脂で、且つそのイソシアネート成分が水添MDIとIPDIとの質量比60/40〜70/30の混合系とした組み合わせも好ましい。この結果、表面層によって耐候性、耐擦傷性、耐汚染性等を向上できる上、表面層と装飾層との密着力について、耐温水性及びその耐候性を良好にできる。装飾層の樹脂の加水分解性シリル基がこれら両層の分子的結合の橋渡しの役目を担い、その結果、表面層と装飾層との密着が良くなるからである。
【0092】
上記ケイ素系樹脂としては、例えば、アルコキシシランの加水分解縮合物、シリル基含有ビニル系樹脂等を使用できる。
【0093】
なお、前記加水分解縮合物の基になるアルコキシシランは、一般式:Rn Si(OR′)4-n で表される化合物であり、nは0〜2の整数である。このうち、nが0又は1であるアルコキシシランを主成分とするものが、耐擦傷性、耐候性に優れ好ましい。また、Rは炭素数1〜8、好ましくは1〜3の有機基であり、R′は炭素数1〜5、好ましくは1〜4の有機基である。
そして、これらアルコキシシランの加水分解縮合物は、例えば、アルコール等の溶液中で必要量の水及び酸触媒を用いてアルコキシシランを反応させれば得られる。
【0094】
また、前記シリル基含有ビニル系樹脂は、一般式:Xn −Si(R1 3-n −CHR2 −で表されるシリル基を少なくとも1つ有するビニル系樹脂である。Xは、ハロゲン、アルコキシ、アシルオキシ、ケトキシメート、アミノ、酸アミド、アミドオキシ、メルカプト、アルケニルオキシ、フェノキシ等の加水分解性基である。また、R1 、及びR2 はそれぞれ、水素、炭素数1〜10の、アルキル基、アリール基、アラルキル基等の1価の炭化水素基である。nは1〜3の整数である。また、このシリル基は、加水分解性基Xを1以上有するので、加水分解性シリル基でもある。
なお、ビニル系樹脂は、ビニル系モノマーの重合物であり、例えば、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂等である。
【0095】
なお、表面層は、上記の様な樹脂を含む塗液を塗工すれば形成できる。塗工はスプレー塗装、カーテンコート、軟質ゴムローラやスポンジローラを使用したロールコート等の公知の塗工法で行えば良い。表面層の厚さは通常1〜100μm程度である。
なお、該塗液中には、用途、要求物性に応じて、ベンゾトリアゾール、超微粒子酸化セリウム等の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤等の光安定剤、シリカ、球状α−アルミナ、鱗片状α−アルミナ等の粒子からなる減摩剤、着色顔料、体質顔料、滑剤、防黴剤、抗菌剤等を添加しても良い。
【0096】
発明品の用途
本発明の化粧材、或いは、本発明の転写シートを用いた本発明の転写方法で得られる化粧材等の転写物の用途は、特に制限は無い。例えば、化粧材として、サイディング等の外壁、塀、屋根、門扉、破風板等の外装、壁面、天井、床等の建築物の内装、窓枠、扉、手摺、敷居、鴨居等の建具類の表面化粧、箪笥等の家具やテレビ受像機等の弱電・OA機器のキャビネットの表面化粧、自動車、電車、航空機、船舶等の乗物内装材等の各種分野で用いられ得る。なお、化粧材等の転写物の形状は、平板以外にも、曲面板、棒状体、立体物等でも良い。平板や曲面板では化粧材は化粧板として用いられる。なかでも、本発明では、耐温水性及び耐候性が良くなるので、キッチン、浴室等の水廻り用途は好適である。
【0097】
【実施例】
次に実施例及び比較例により本発明を更に説明する。
【0098】
〔実施例1〕
図10の断面図で示す如き、化粧面が凹凸面の化粧材Dを次の様にして製作した。被転写体Bとする基材7としては、図3の斜視図で示す如き、幅7mm、深さ3mmの目地溝(大柄な凹部401)で区画された天面部(大柄な凸部402)からなり、天面部上に深さが0.1〜1mmに分布する花崗岩劈開面状凹凸(微細な凹凸403)を有する凹凸面で、厚さ12mmの押出セメント板を用意した。
そして、この基材の被転写面に予め、下塗り層として、目止めの為のシーラー層(アクリル系水性エマルションからなるシーラー剤をスプレー塗装)と、下地色調整の為のべースコート層(チタン白で着色されたアクリル系水性エマルション塗料をスプレー塗装)とを形成した。
【0099】
そして更に転写層の接着の為に、上記の基材上に、アクリルウレタン系ポリオールの主剤と1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート系硬化剤とかなる2液硬化型ウレタン樹脂系接着剤を、スプレー塗装で塗布量が固形分5g/m2 となる様に塗布した後、150℃の熱風乾燥炉(ノズルジェット乾燥機)で60秒間加熱して揮発成分を乾燥して、(イソシアネートは未硬化の)接着剤層Aを基材7上に形成した。
【0100】
一方、転写シートは図2の断面図で示す如き転写シートSとして、厚さ80μmの表面未処理エチレン−プロピレンランダム共重合体(エチレンが3重量%)フィルム(濡れ指数32以下)からなる支持体シート1の片面に、転写層2として、先ず後塗装で形成する表面層9との密着力向上の為、水酸基をアルキル基で置換して水酸基を無くし且つイソシアネート成分を水添MDI/IPDI=60/40質量比とした熱可塑性ウレタン樹脂(ポリオール成分にポリカーボネートジオールを含むアクリル系のウレタン樹脂)からなるインキをグラビア印刷してプライマー層6を形成し、次いで、装飾層8とする絵柄インキ層3として、バインダーの樹脂が上記同様のイソシアネート成分比率で水酸基が無い特定の熱可塑性ウレタン樹脂で、着色剤がキナクリドン、イソインドノリン、フタロシアニンブルー、及びカーボンブラックの無機顔料からなる着色剤を用い、希釈溶剤にメチルエチルケトンとトルエンとイソプロピルアルコールの5:3:2重量比の混合溶剤を用いた着色インキを用いてグラビア印刷の多色刷で、大理石調の石目柄の柄パターン層3aを、さらに柄パターン層の上に、バインダーの樹脂も上記同様のイソシアネート成分比率で水酸基が無い特定の熱可塑性ウレタン樹脂として、着色剤をチタン白のみに変更した着色インキのクビラビア印刷で厚さ3μmの白ベタ層の全ベタ層3bとを形成したものを用意した。
【0101】
そして、接着剤層Aが形成された前記基材7を、熱風乾燥炉で基材(接着剤層)を100℃に予熱した後、上記転写シートを転写層側が基材側を向くようにして置き、基材速度30m/分で転写シート及び基材を搬送しつつ、転写シートの支持体シート側に、多数の固体粒子を衝突させて、転写を行った。なお、固体粒子としては、50℃に加熱された平均粒径0.4mmの球状形状の亜鉛球を、図6及び図7の如き羽根車で35m/秒の速度に加速して、転写シートに衝突させた。そして、25℃の冷風で冷却して、転写層が基材に密着後、支持体シートを剥離した。
【0102】
更に、表面層9として、転写後のプライマー層6の上に、アクリル系水性エマルションからなる上塗り塗料(トップコート剤)を30g/m2 (固形分基準)スプレー塗布後、150℃の熱風乾燥炉で45秒間加熱乾燥して固化させて透明な表面層を形成し、基材に施した接着剤層は完全硬化させて、図10の如き化粧材Dとして、外装サイディングとする表面層付きの化粧板を得た。
【0103】
〔実施例2〕
実施例1に於いて、転写層のプライマー層及び絵柄インキ層(柄パターン層と全ベタ層)の全層に用いた熱可塑性ウレタン樹脂のイソシアネート成分について、水添MDIとIPDIとの比率を水添MDI/IPDI=70/30に変更した樹脂を用いて転写シートを作製した。また、この転写シートを用いて、実施例1と同様にして化粧材を作製した。
【0104】
〔比較例1〕
実施例1に於いて、転写層のプライマー層及び絵柄インキ層(柄パターン層と全ベタ層)の全層に用いた熱可塑性ウレタン樹脂のイソシアネート成分について、水添MDIとIPDIとの比率を水添MDI/IPDI=80/20に変更した樹脂を用いて転写シートを作製した。また、この転写シートを用いて、実施例1と同様にして化粧材を作製した。
【0105】
〔比較例2〕
実施例1に於いて、転写層のプライマー層及び絵柄インキ層(柄パターン層と全ベタ層)の全層に用いた熱可塑性ウレタン樹脂のイソシアネート成分について、水添MDIとIPDIとの比率を水添MDI/IPDI=50/50に変更した樹脂を用いて転写シートを作製した。また、この転写シートを用いて、実施例1と同様にして化粧材を作製した。
【0106】
〔性能評価結果〕
表1に樹脂内容と共に性能評価を纏めて示す。密着力の耐温水性及び耐候性(これらを総称して「二次密着性」と呼称する)等は次の様に評価した。
【0107】
▲1▼耐温水性:耐水性の評価として行った耐温水性は、次の様な耐温水性試験を行った。すなわち、80℃の温水中に化粧材を10日間浸漬後、取り出して風乾し、転写層(及び表面層)の膨れの有無を目視で外観を観察して評価した。更に、この温水試験後の(二次)密着性について、40℃で3日間乾燥した後、表面に4mm間を開けて井桁状に直行して縦横にそれぞれ2本の切り込みを、深さが基材にまで達する様に入れた後、ビニルクロステープNo.750(積水化学工業株式会社製)を25mm幅に切断したものを貼り付け、その上から消しゴムで加圧して良く密着させた後、貼付け面に対して垂直方向(90°剥離)に勢い良くテープを引き剥がして、井桁部分で転写層(及び表面層)がテープと共に剥がれるか否かで評価した。剥がれ無きものを良好、剥がれ有りのものを不良とした。
また、下記の耐候性試験を行った後での化粧材についても同様に、上記の耐温水性を評価して、その耐候性を評価した。
【0108】
▲2▼耐候性:化粧材を紫外線耐光性試験機(岩崎電気株式会社製、「アイスーパーUVテスター」、S−UV、DEWタイプ)によって、紫外線照射量80mW/cm2 、光源からの距離240mm、ブラックパネル温度46℃の条件で、照射時間20時間と、非照射で結露した状態下での4時間とを1サイクルとして繰り返す条件下で、800時間の促進耐光性試験を行って評価した。そして、基材上の各層の溶解の有無を目視で外観を観察して評価した。溶解無きものは良好、溶解有りは不良である。また、外観の色変化度合いを、測色計(ミノルタ株式会社製、CM−S3w)によってSCI方式(正反射光を含む方式)にて測定して、CIE(国際照明委員会)規定のL* * * 表色系の色差ΔE(ΔE={(ΔL* 2 +(Δa* 2 +(Δb* 2 0.5 )によって評価した。
【0109】
【表1】
Figure 0004240723
【0110】
表1の如く、実施例1及び実施例2はともに、密着力の耐温水性は、試験後の外観は剥離無く良好で、また二次密着性も良好であった。しかも、耐候性試験後のものでも、同様に外観及び二次密着性共に良好であった。また、耐候性として外観の褪色度合いは、色差ΔEが3未満と少なく良好であった。そして、転写層の形成に用いたインキは沈殿せず、その経時的安定性は良好であった。したがって、総合判定は、実施例1及び実施例2共に良好となった。
【0111】
一方、イソシアネート成分が水添MDIとIPDIではあるが、特定範囲外である比較例1及び比較例2は、耐温水性、耐候性、インキ経時安定性の全てを満足せず、総合判定は不良となった。すなわち、比較例1では、多すぎる水添MDIがインキの分散性低下をもたらし、インキが沈殿し攪拌してもゲル化したままで、実用上問題があった。但し、この比較例1は、耐温水性及びその耐候性は外観及び二次密着性共に良好で、また外観の耐候性(色変化)も良好であった。
また、IPDIが多すぎる比較例2では、インキ経時安定性は良好であるが、耐温水性は外観は良好だが、密着力が、その耐温水性、耐候性も含めて不良でプライマー層と絵柄インキ層間で層間剥離してしまった。また、外観の耐候性も不良で色差ΔEが3より大きくなる。
【0112】
【発明の効果】
(1)本発明の化粧材を得るに適した転写シートによれば、密着力の耐温水性及び耐候性が良好な化粧材等の転写物が得られる。また、ウレタン樹脂が熱可塑性であるので、凹凸の被転写面への転写も可能となる。
【0113】
本発明の化粧材を得るに適した転写方法によれば、上記本発明の化粧材を得るに適した転写シートによる効果である密着力の耐温水性及び耐候性が良好な化粧材等の転写物が容易に得られる。また、被転写面が凹凸面の場合でも対応可能である。
更に、転写圧に固体粒子衝突圧を利用すれば、弾性体ローラを用いる等の従来の弾性体ローラ転写法では不可能な様な凹凸面でも、容易に転写して転写物を製造できるので、高意匠の化粧材等の転写物が得られる。
或いは、転写圧に弾性体ローラによる加圧を利用すれば、基材の被転写面が平坦乃至は比較的平坦な場合に、前記の如き密着力の耐温水性及び耐候性に優れた転写物を平易に製造できる。
【0114】
▲5▼本発明の化粧材によれば、密着力の耐温水性及び耐候性が良好となる。
▲6▼更に、装飾層の最上層を、分子中に水酸基が無く且つ加水分解性シリル基を有しイソシアネート成分が水添MDI/IPDI=60/40〜70/30質量比の熱可塑性ウレタン樹脂を用い、装飾層の上の表面層にケイ素系樹脂を用いれば、表面層による耐候性、耐擦傷性、耐汚染性等の表面物性と共に、表面層と装飾層との密着力の耐温水性及びその耐候性がより向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の転写シートの形態例の幾つかを示す断面図。
【図2】本発明の転写シートの別の形態例を示す断面図。
【図3】被転写体(基材)の一例を示す斜視図。
【図4】本発明の転写方法にて、転写圧に弾性体ローラによる加圧を利用する転写方法を示す概念図。
【図5】本発明の転写方法にて、転写圧に固体粒子衝突圧を利用する転写方法を示す概念図。
【図6】固体粒子噴出に使用する羽根車を用いた噴出器の一例を概念的に説明する斜視図。
【図7】図6の羽根車内部を説明する概念図。
【図8】吹出ノズルによる噴出器の一例を概念的に説明する断面図。
【図9】本発明の化粧材の一形態を例示する断面図。
【図10】本発明の化粧材の別の形態例を示す断面図。
【符号の説明】
1 支持体シート
2 転写層
3 絵柄インキ層
3a 柄パターン層
3b 全ベタ層
4 絵柄層
5 接着剤層
6 プライマー層
7 基材
8 装飾層
9 表面層
401 大柄な凹部(溝状凹部)
402 大柄な凸部(平坦状凸部)
403 微細な凹凸
812 羽根車
813 羽根
814 側面板
815 中空部
816 方向制御器
817 開口部
818 散布器
819 回転軸
820 軸受
840 吹出ノズルを用いた噴出器
841 誘導室
842 内部ノズル
843 ノズル開口部
844 ノズル
A 接着剤層
B 被転写体
D 化粧材
F 流体
P 固体粒子
S 転写シート

Claims (2)

  1. 基材上に、接着剤層、装飾層、表面層を順次形成してなる化粧材において、前記装飾層のうち少なくとも最上層が、分子中に水酸基が無く且つ加水分解性シリル基を有する熱可塑性ウレタン樹脂で、且つそのイソシアネート成分が水添MDIとIPDIとの質量比60/40〜70/30の混合系であり、表面層がケイ素系樹脂からなる化粧材。
  2. 前記装飾層のうち最下層が、分子中に水酸基が無い熱可塑性ウレタン樹脂で、且つそのイソシアネート成分が水添MDIとIPDIとの質量比60/40〜70/30の混合系である、請求項1記載の化粧材。
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