以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が好適に適用される車両用自動変速機10の一例を説明する骨子図で、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置12を主体として構成されている第1変速部14と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置16、ダブルピニオン型の第3遊星歯車装置18、シングルピニオン型の第4遊星歯車装置20、および第5遊星歯車装置22を主体として構成されている第2変速部24とを有し、入力軸26の回転を変速して出力歯車28から出力する。入力軸26は入力部材に相当するもので、トルクコンバータ32のタービン軸であり、走行用駆動源としてのエンジン(内燃機関)30のクランク軸31からトルクコンバータ32を介して回転が入力される一方、出力歯車28は出力部材に相当するもので、差動歯車装置などを介して左右の駆動輪を回転駆動する。なお、この車両用自動変速機10は中心線に対して略対称的に構成されており、図1では中心線の下半分が省略されている。
上記第1変速部14を構成している第1遊星歯車装置12のキャリアCA1は入力軸26に連結されて回転駆動され、サンギヤS1は回転不能にケース34に一体的に固定され、リングギヤR1は中間出力部材として入力軸26の回転を減速して第2変速部24へ出力する。このように入力軸26から第1遊星歯車装置12のキャリアCA1、そのキャリアCA1に配設されたピニオンギヤ、および中間出力部材としてのリングギヤR1を経て第2変速部24へ伝達する経路が第2入力経路PA2で、第1遊星歯車装置12のギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1に応じて定められる一定の変速比1/(1−ρ1)で減速される。また、上記第2入力経路PA2とは別に、第1変速部14の第1遊星歯車装置12のキャリアCA1を経由して、入力軸26の回転を変速比1.0でそのまま第2変速部24へ伝達する第1入力経路PA1が設けられている。
前記第2変速部24は主変速部に相当するもので、第2遊星歯車装置16は、ピニオンギヤが大径部および小径部を有する段付ピニオン36にて構成されており、その小径部が第2遊星歯車装置16のピニオンギヤとして機能している一方、大径部には第5遊星歯車装置22のリングギヤR5が噛み合わされている。また、第2遊星歯車装置16、第3遊星歯車装置18のキャリアCA2およびCA3、サンギヤS2およびS3は、それぞれ共通の部材にて構成されているとともに、第2遊星歯車装置16のピニオンギヤ(段付ピニオン36の小径部)は第3遊星歯車装置18の第1ピニオンギヤ(サンギヤS3と噛み合うピニオンギヤ)を兼ねている。
そして、第2変速部24を構成している第2遊星歯車装置16、第3遊星歯車装置18、第4遊星歯車装置20、および第5遊星歯車装置22は、一部が互いに連結されることによって6つの回転要素RM1〜RM6が構成されており、具体的には、第4遊星歯車装置20のサンギヤS4によって第1回転要素RM1が構成され、第2遊星歯車装置16のリングギヤR2によって第2回転要素RM2が構成され、第5遊星歯車装置22のリングギヤR5によって第3回転要素RM3が構成され、第2遊星歯車装置16のキャリアCA2および第3遊星歯車装置18のキャリアCA3が互いに連結されて第4回転要素が構成され、第3遊星歯車装置18のリングギヤR3および第4遊星歯車装置20のキャリアCA4が互いに連結されて第5回転要素RM5が構成され、第2遊星歯車装置16のサンギヤS2、第3遊星歯車装置18のサンギヤS3、および第4遊星歯車装置20のリングギヤR4が互いに連結されて第6回転要素RM6が構成されている。
また、上記第1回転要素RM1(サンギヤS4)は第1ブレーキB1によってケース34に選択的に連結されて回転停止させられ、第2回転要素RM2(リングギヤR2)は第2ブレーキB2によってケース34に選択的に連結されて回転停止させられ、第4回転要素RM4(キャリアCA2、CA3)は第3ブレーキB3によってケース34に選択的に連結されて回転停止させられ、第6回転要素RM6(サンギヤS2、S3、およびリングギヤR4)は第1クラッチC1を介して中間出力部材である前記第1遊星歯車装置12のリングギヤR1すなわち第2入力経路PA2に選択的に連結され、第1回転要素RM1(サンギヤS4)は第2クラッチC2を介して同じくリングギヤR1すなわち第2入力経路PA2に選択的に連結され、第2回転要素RM2(リングギヤR2)は第3クラッチC3を介して第1入力経路PA1すなわち入力軸26に選択的に連結され、第3回転要素RM3(リングギヤR5)は第4クラッチC4を介して第1入力経路PA1すなわち入力軸26に選択的に連結され、第5回転要素RM5(リングギヤR3およびキャリアCA4)は前記出力歯車28に一体的に連結されて回転を出力するようになっている。第1ブレーキB1〜第3ブレーキB3、第1クラッチC1〜第4クラッチC4は、何れも油圧シリンダによって摩擦係合させられる多板式の油圧式摩擦係合装置である。
図2の(a) は、上記第1変速部14および第2変速部24の各回転要素の回転速度を直線で表すことができる共線図であり、下の横線が回転速度「0」で、上の横線が回転速度「1.0」すなわち入力軸26と同じ回転速度である。また、第1変速部14の各縦線は、左側から順番にサンギヤS1、リングギヤR1、キャリアCA1を表しており、それ等の間隔は第1遊星歯車装置12のギヤ比ρ1に応じて定められる。図は、ギヤ比ρ1=0.427の場合である。第2変速部24の6本の縦線は、左側から順番に第1回転要素RM1(サンギヤS4)、第2回転要素RM2(リングギヤR2)、第3回転要素RM3(リングギヤR5)、第4回転要素RM4(キャリアCA2、CA3)、第5回転要素RM5(リングギヤR3およびキャリアCA4)、第6回転要素RM6(サンギヤS2、S3、およびリングギヤR4)を表しており、それ等の間隔は第2遊星歯車装置16のギヤ比ρ2、第3遊星歯車装置18のギヤ比ρ3、第4遊星歯車装置20のギヤ比ρ4、第5遊星歯車装置22のギヤ比ρ5に応じて定められる。図は、ギヤ比ρ2=0.349、ρ3=0.419、ρ4=0.301、ρ5=0.262の場合である。なお、第2変速部24の丸付きの数字「1」〜「6」はそれぞれ第1回転要素RM1〜第6回転要素RM6を表している。
そして、この共線図から明らかなように、第1クラッチC1および第3ブレーキB3が係合させられて、第6回転要素RM6が第1変速部14を介して減速回転させられるとともに第4回転要素RM4が回転停止させられると、出力歯車28に連結された第5回転要素RM5は「1st」で示す回転速度で回転させられ、最も大きい変速比(=入力軸26の回転速度/出力歯車28の回転速度)の第1速前進ギヤ段「1st」が成立させられる。第1クラッチC1および第2ブレーキB2が係合させられて、第6回転要素RM6が第1変速部14を介して減速回転させられるとともに第2回転要素RM2が回転停止させられると、出力歯車28に連結された第5回転要素RM5は「2nd」で示す回転速度で回転させられ、第1速前進ギヤ段「1st」よりも変速比が小さい第2速前進ギヤ段「2nd」が成立させられる。第1クラッチC1および第1ブレーキB1が係合させられて、第6回転要素RM6が第1変速部14を介して減速回転させられるとともに第1回転要素RM1が回転停止させられると、第5回転要素RM5は「3rd」で示す回転速度で回転させられ、第2速前進ギヤ段「2nd」よりも変速比が小さい第3速前進ギヤ段「3rd」が成立させられる。第1クラッチC1および第2クラッチC2が係合させられて、第2変速部24が第1変速部14を介して一体的に減速回転させられると、第5回転要素RM5は「4th」で示す回転速度すなわち第1変速部14のリングギヤR1と同じ回転速度で回転させられ、第3速前進ギヤ段「3rd」よりも変速比が小さい第4速前進ギヤ段「4th」が成立させられる。
第1クラッチC1および第3クラッチC3が係合させられて、第6回転要素RM6が第1変速部14を介して減速回転させられるとともに第2回転要素RM2が入力軸26と一体回転させられると、第5回転要素RM5は「5th」で示す回転速度で回転させられ、第4速前進ギヤ段「4th」よりも変速比が小さい第5速前進ギヤ段「5th」が成立させられる。この第5速前進ギヤ段「5th」は、第1クラッチC1および第4クラッチC4を係合させて成立させることもできる。第3クラッチC3および第4クラッチC4が係合させられて、第2変速部24が入力軸26と一体回転させられると、第5回転要素RM5は「6th」で示す回転速度すなわち入力軸26と同じ回転速度で回転させられ、第5速前進ギヤ段「5th」よりも変速比が小さい第6速前進ギヤ段「6th」が成立させられる。この第6速前進ギヤ段「6th」の変速比は1.0である。第2クラッチC2および第3クラッチC3が係合させられて、第1回転要素RM1が第1変速部14を介して減速回転させられるとともに第2回転要素RM2が入力軸26と一体回転させられると、第5回転要素RM5は「7th」で示す回転速度で回転させられ、第6速前進ギヤ段「6th」よりも変速比が小さい第7速前進ギヤ段「7th」が成立させられる。第3クラッチC3および第1ブレーキB1が係合させられて、第2回転要素RM2が入力軸26と一体回転させられるとともに第1回転要素RM1が回転停止させられると、第5回転要素RM5は「8th」で示す回転速度で回転させられ、第7速前進ギヤ段「7th」よりも変速比が小さい第8速前進ギヤ段「8th」が成立させられる。
また、第2クラッチC2および第2ブレーキB2が係合させられると、第1回転要素RM1が第1変速部14を介して減速回転させられるとともに第2回転要素RM2が回転停止させられることにより、第5回転要素RM5は「Rev」で示す回転速度で逆回転させられ、後進ギヤ段「Rev」が成立させられる。なお、第2クラッチC2および第3ブレーキB3を係合させ、第1回転要素RM1を第1変速部14を介して減速回転させるとともに第4回転要素RM4を回転停止させることにより、上記後進ギヤ段「Rev」よりも変速比が大きい後進ギヤ段を成立させることも可能で、どちらの後進ギヤ段を採用しても良いし、必要に応じて2段で変速することも可能である。
図2の(b) は、上記各ギヤ段とクラッチC1〜C4、ブレーキB1〜B3の作動状態との関係をまとめて示す作動表で、「○」は係合、空欄は解放を表しており、クラッチC1〜C4およびブレーキB1〜B3の何れか2つを掴み替えるだけで、連続する各前進ギヤ段の変速を行うことができる。また、各前進ギヤ段の変速比は、第1遊星歯車装置12、第2遊星歯車装置16、第3遊星歯車装置18、第4遊星歯車装置20の各ギヤ比ρ1〜ρ4によって適宜定められ、例えばρ1=0.427、ρ2=0.349、ρ3=0.419、ρ4=0.301とすれば、図2(b) に示す変速比が得られる。
一方、第1入力経路PA1から伝達される回転速度(実施例では変速比1.0)よりも高回転の増速側変速段である第7速前進ギヤ段「7th」および第8速前進ギヤ段「8th」は、第3クラッチC3を係合させる代わりに第4クラッチC4を係合させ、第3回転要素RM3を入力軸26と一体回転させることによっても成立させることができる。これ等のギヤ段の変速比は、第3クラッチC3を係合させる場合よりも大きくなり、図2(a) における第3回転要素RM3(リングギヤR5)の位置すなわち第5遊星歯車装置22のギヤ比ρ5に応じて適宜定められる。
図3は、第3クラッチC3の代わりに第4クラッチC4を係合させて第7速前進ギヤ段「7th」および第8速前進ギヤ段「8th」を成立させる場合で、第3クラッチC3および第4クラッチC4以外のクラッチおよびブレーキの係合、解放状態は同じである。すなわち、第2クラッチC2および第4クラッチC4が係合させられて、第1回転要素RM1が第1変速部14を介して減速回転させられるとともに第3回転要素RM3が入力軸26と一体回転させられることにより第7速前進ギヤ段「7th」が成立させられ、第4クラッチC4および第1ブレーキB1が係合させられて、第3回転要素RM3が入力軸26と一体回転させられるとともに第1回転要素RM1が回転停止させられることにより第8速前進ギヤ段「8th」が成立させられる。
これ等の前進ギヤ段「7th」および「8th」を用いた変速制御においても、2つの係合要素(クラッチ、ブレーキ)を掴み替えるだけで、連続する各ギヤ段の変速を行うことができる。また、第7速前進ギヤ段「7th」および第8速前進ギヤ段「8th」の変速比は、第5遊星歯車装置22のギヤ比ρ5に応じて適宜定められ、例えばρ5=0.262とすれば図3(b) に示す変速比が得られる。これを第3クラッチC3を係合させる図2の場合と比較すると、第7速前進ギヤ段「7th」では0.780が0.881になるとともに、第8速前進ギヤ段「8th」では0.602が0.648になり、何れも少し大きな値になって駆動トルクが大きくなる。すなわち、図2の場合に比較してオーバードライブ(OD)側の変速比の間隔が狭いクロスギヤレシオとなり、高速時の走行性能が高くなる。
このように本実施例の車両用自動変速機10は、第7速前進ギヤ段「7th」および第8速前進ギヤ段「8th」の変速比が異なる2種類のギヤ列が定められており、運転者の選択により何れかのギヤ列が設定される。
図4は、上記自動変速機10やエンジン30などを制御するために車両に設けられた制御系統の概略を説明するブロック線図で、アクセルペダル50の操作量Accがアクセル操作量センサ52により検出されるようになっている。アクセルペダル50は、運転者の出力要求量に応じて大きく踏み込み操作されるもので、アクセル操作部材に相当し、アクセル操作量Accは出力要求量に相当する。エンジン30の吸気配管には、スロットルアクチュエータ54によってアクセル操作量Accに応じた開き角(開度)θTHとされる電子スロットル弁56が設けられている。また、エンジン30の回転速度NEを検出するためのエンジン回転速度センサ58、エンジン30の吸入空気量Qを検出するための吸入空気量センサ60、上記電子スロットル弁56の全閉状態(アイドル状態)およびその開度θTHを検出するためのアイドルスイッチ付スロットル弁開度センサ62、車速V(出力歯車28の回転速度Nout に対応)を検出するための車速センサ64、タービン回転速度NT(=入力軸26の回転速度Nin)を検出するためのタービン回転速度センサ66、常用ブレーキであるフットブレーキの操作の有無を検出するためのブレーキスイッチ68、シフトレバー72のレバーポジション(操作位置)PSHを検出するためのレバーポジションセンサ74、Mモードスイッチ76、パワーモードスイッチ78、アップシフトスイッチ80、ダウンシフトスイッチ82などが設けられており、それらのセンサやスイッチから、エンジン回転速度NE、吸入空気量Q、スロットル弁開度θTH、車速V、タービン回転速度NT、ブレーキ操作の有無、シフトレバー72のレバーポジションPSH、変速レンジを手動操作で切り換えることができるMモード(マニュアル変速モード)の選択の有無、走行性能を重視したパワーモードの選択の有無、変速レンジのアップ指令RUP、ダウン指令RDN、などを表す信号が電子制御装置90に供給されるようになっている。
電子制御装置90は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン30の出力制御や自動変速機10の変速制御などを実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用と変速制御用とに分けて構成される。電子制御装置90にはまた、インストルメントパネル等に設けられたMモードインジケータ100、レンジインジケータ102、ギヤ段インジケータ104が接続されており、Mモードインジケータ100にマニュアル変速モードが選択されている旨を表示し、レンジインジケータ102に現在の変速レンジを表示し、ギヤ段インジケータ104に現在のギヤ段を表示する。
上記電子制御装置90によるエンジン30の出力制御は、スロットルアクチュエータ54により電子スロットル弁56を開閉制御する他、燃料噴射量制御のために燃料噴射装置92を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置94を制御する。電子スロットル弁56の制御は、例えば実際のアクセル操作量Accに基づいてスロットルアクチュエータ54を駆動し、アクセル操作量Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させる。また、エンジン30の始動時には、スタータ(電動モータ)96によってエンジン30のクランク軸31をクランキングする。
自動変速機10の変速制御は、図5に示す変速制御手段110によって実行される。変速制御手段110は、機能的にギヤ列設定手段112、自動変速手段114、変速レンジ設定手段116、マニュアル変速手段118を備えており、シフトレバー72のレバーポジションPSHに応じて変速制御を行う。シフトレバー72は運転席の近傍に配設され、図6に示すシフトパターン120に従って移動操作されるようになっており、シフトパターン120は、それぞれ一列で形成された第1レバー通路122と第2レバー通路124とを備えており、第1レバー通路122には5つのレバーポジション「P(パーキング)」、「R(リバース)」、「N(ニュートラル)」、「D(ドライブ)」、および「M(マニュアル)」が設けられて、シフトレバー72はその何れかのレバーポジションへ択一的に操作される。これ等のレバーポジション「P」〜「M」のうち「P」、「R」、「N」、および「D」は、レバーポジション「D」が車両の後方側となるように、車両の前後方向に沿って設けられており、レバーポジション「M」は、レバーポジション「D」から車両の幅方向であって運転席に近い側に設けられている。また、第2レバー通路124は、レバーポジション「M」において第1レバー通路122と略直角に交差するように、車両の前後方向に沿って形成されており、その前後方向の両端部すなわちレバーポジション「M」を挟んで互いに反対側に「+」位置および「−」位置が設けられている。
上記レバーポジション「P」は駐車位置で、自動変速機10は動力伝達遮断状態とされるとともに、例えばシフトレバー72の移動操作に従ってパーキングロック機構などにより機械的に出力歯車28、すなわち駆動輪が回転不能に固定される。レバーポジション「R」は後進走行を行なう後進走行位置で、例えばシフトレバー72の移動操作に従って油圧制御回路98(図4参照)のマニュアルバルブが機械的に切り換えられることにより、自動変速機10は前記後進ギヤ段「Rev」が成立させられる。レバーポジション「N」は動力伝達遮断位置で、例えばシフトレバー72の移動操作に従ってマニュアルバルブが機械的に切り換えられることにより、自動変速機10はクラッチC1〜C4、ブレーキB1〜B3の全部または一部が解放されて動力伝達遮断状態とされる。これらのレバーポジション「P」、「R」、「N」へシフトレバー72が操作されると、そのことがレバーポジションセンサ74によって検出され、レンジインジケータ102にそれ等のポジション「P」、「R」、「N」である旨が表示される。
レバーポジション「D」は、自動変速機10の前進ギヤ段を自動的に切り換えて前進走行する前進走行位置すなわち前進走行ポジションで、例えばシフトレバー72の移動操作に従ってマニュアルバルブが機械的に切り換えられることにより、総ての前進ギヤ段「1st」〜「8th」を成立させることが可能とされ、自動変速手段114によりそれ等の総ての前進ギヤ段「1st」〜「8th」を用いて自動的に変速する最上位のDレンジ(自動変速モード)が成立させられる。すなわち、シフトレバー72がレバーポジション「D」へ操作されると、そのことをレバーポジションセンサ74の信号から判断してDレンジを電気的に成立させ、第1速前進ギヤ段「1st」〜第8速前進ギヤ段「8th」の総ての前進ギヤ段を用いて変速制御を行う。具体的には、油圧制御回路98に設けられた複数のソノレイド弁やリニアソレノイド弁のATソレノイド99の励磁、非励磁を制御することにより油圧回路を切り換え、図2(b) または図3(b) に示すようにクラッチC1〜C4およびブレーキB1〜B3の作動状態を変化させて、第1速前進ギヤ段「1st」〜第8速前進ギヤ段「8th」の何れかの前進ギヤ段を成立させるのである。この変速制御は、例えば車速Vおよびアクセル操作量Accをパラメータとして予め記憶された変速マップ等の変速条件に従って行われ、車速Vが低くなったりアクセル操作量Accが大きくなったりするに従って変速比が大きい低速側の前進ギヤ段を成立させる。このレバーポジション「D」では、レバーポジションセンサ74からの信号に基づいてDレンジであることがレンジインジケータ102に表示されるとともに、変速制御によって逐次切り換えられる実際の前進ギヤ段がギヤ段インジケータ104に表示される。
レバーポジション「M」は手動変速ポジションで、予め定められた複数の変速レンジを手動操作に従って電気的に切り換えるマニュアル変速モードが成立させられ、シフトレバー72のアップダウン操作すなわち「+」位置または「−」位置への操作に従って、マニュアル変速手段118により変速レンジが切り換えられる。図7の(a) 、(b) は、予め定められた変速レンジとその変速範囲を示す図で、(a) は8つの変速レンジでレンジ切換えを行う場合で、(b) は(a) に比較して「7」レンジを除いた7つの変速レンジでレンジ切換えを行う場合である。ギヤ段の欄の数字「1」〜「8」は第1速前進ギヤ段「1st」〜第8速前進ギヤ段「8th」を表しており、変速比が最も大きい最低速前進ギヤ段は何れも第1速前進ギヤ段「1st」で、最高速前進ギヤ段が1つずつ((b) の7レンジ切換えにおけるD−6間を除く)変化している。また、各変速レンジでは、第1速前進ギヤ段「1st」からその最高速前進ギヤ段までの範囲で、前記Dレンジと同じ変速条件に従って自動的に変速が行なわれる。
前記「+」位置はアップシフト位置で、「−」位置はダウンシフト位置であり、シフトレバー72がそれ等の「+」位置または「−」位置へ操作されると、そのことが前記アップシフトスイッチ80、ダウンシフトスイッチ82によって検出され、アップ指令RUPやダウン指令RDNに従って変速レンジが電気的に変更される。したがって、例えば下り坂などでシフトレバー72を「−」位置へ繰り返し操作すると、図7(a) の8レンジ切換えの場合、変速レンジが例えば「D」レンジから、「7」レンジ、「6」レンジ、「5」レンジ・・・へ切り換えられ、前進ギヤ段が第8速前進ギヤ段「8th」から第7速前進ギヤ段「7th」、第6速前進ギヤ段「6th」、第5速前進ギヤ段「5th」・・・へ順次ダウンシフトされて、エンジンブレーキが増大させられる。上記「+」位置および「−」位置は何れも不安定で、シフトレバー72はばね等の付勢手段により自動的にシフトポジション「M」へ戻されるようになっており、「+」位置または「−」位置への操作回数或いは保持時間などに応じて変速レンジが変更される。
このマニュアル変速モードでは、シフトレバー72がレバーポジション「M」へ移動操作されたことをMモードスイッチ76からのON信号によって判断し、マニュアル変速モードが選択されたことを前記Mモードインジケータ100に表示するとともに、現在の変速レンジをレンジインジケータ102に表示し、且つ変速制御によって逐次切り換えられる実際の前進ギヤ段をギヤ段インジケータ104に表示する。Mモードスイッチ76を含むシフトレバー72がモード選択手段に相当する。
また、前記ギヤ列設定手段112および変速レンジ設定手段116は、図8のフローチャートに従って、上記自動変速手段114およびマニュアル変速手段118によって変速制御が行われる前進ギヤ段のギヤ列を設定するとともに、マニュアル変速手段118によって切り換えられる変速レンジを設定する。図8のステップS1〜S8はギヤ列設定手段112によって実行され、ステップS9およびS10は変速レンジ設定手段116によって実行される。変速レンジ設定手段116によって実行されるステップS10は、間引き手段に相当する。
図8のステップS1では、シフトレバー72が前進走行ポジションであるDポジションまたはMポジションへ操作されているか否かをレバーポジションPSHを表す信号によって判断し、DまたはMポジションの場合にはステップS2を実行する。ステップS2では、マニュアル変速モードか否か、すなわちシフトレバー72がMポジション(±位置を含む)へ操作されているか否かをMモードスイッチ76からの信号によって判断し、マニュアル変速モードの場合にはステップS6以下を実行するが、そうでない場合、すなわちDポジションで自動変速モードの場合にはステップS3を実行する。
ステップS3では、パワーモードスイッチ78によりパワーモードが選択されているか否かを判断し、パワーモードが選択されていない場合には、ステップS4で、オーバードライブ(OD)の変速比の間隔が広いワイドギヤレシオの8段の前進ギヤ段から成るギヤ列、具体的には前記図2に示す第1速前進ギヤ段「1st」〜第8速前進ギヤ段「8th」のギヤ列を選択する。これにより、パワーモードが選択されていない自動変速モードでは、前記自動変速手段114により図2に示す第1速前進ギヤ段「1st」〜第8速前進ギヤ段「8th」を用いて変速制御が行われる。
ステップS3の判断がYES(肯定)の場合、すなわちパワーモードが選択されている場合には、ステップS5で、オーバードライブ(OD)の変速比の間隔が狭いクロスギヤレシオの8段の前進ギヤ段から成るギヤ列、具体的には前記図3に示す第1速前進ギヤ段「1st」〜第8速前進ギヤ段「8th」のギヤ列を選択する。これにより、パワーモードが選択されている自動変速モードでは、前記自動変速手段114により図3に示す第1速前進ギヤ段「1st」〜第8速前進ギヤ段「8th」を用いて変速制御が行われる。
また、シフトレバー72がMポジションへ操作されている場合に実行するステップS6では、ステップS3と同様にパワーモードスイッチ78によりパワーモードが選択されているか否かを判断し、パワーモードが選択されていない場合には、ステップS7で、オーバードライブ(OD)がワイドギヤレシオの8段の前進ギヤ段から成るギヤ列、具体的には前記図2に示す第1速前進ギヤ段「1st」〜第8速前進ギヤ段「8th」のギヤ列を選択するとともに、ステップS9で、前記図7の(a) に示すように「D」レンジ、「7」レンジ、「6」レンジ、・・・「L」レンジの8つの変速レンジでレンジ切換えを行う8レンジ切換えに設定する。これにより、パワーモードが選択されていないマニュアル変速モードでは、前記マニュアル変速手段118により図7の(a) に示す8つの変速レンジ「D」〜「L」を用いてレンジ切換えが行われるとともに、各変速レンジで定められた前進ギヤ段の範囲内で変速制御が行われる。したがって、「D」レンジにおいて第8速前進ギヤ段「8th」で走行中にシフトレバー72が「−」位置へ操作されると、「7」レンジに切り換えられ、第8速前進ギヤ段「8th」から第7速前進ギヤ段「7th」へダウンシフトされるとともに、シフトレバー72が更に「−」位置へ操作されると「6」レンジに切り換えられ、第7速前進ギヤ段「7th」から第6速前進ギヤ段「6th」へ順番にダウンシフトされる。
ステップS6の判断がYES(肯定)の場合、すなわちパワーモードが選択されている場合には、ステップS8で、オーバードライブ(OD)がクロスギヤレシオの8段の前進ギヤ段から成るギヤ列、具体的には前記図3に示す第1速前進ギヤ段「1st」〜第8速前進ギヤ段「8th」のギヤ列を選択するとともに、ステップS10で、前記図7の(b) に示すように「7」レンジを削減した「D」レンジ、「6」レンジ、「5」レンジ、・・・「L」レンジの7つの変速レンジでレンジ切換えを行う7レンジ切換えに設定する。これにより、パワーモードが選択されているマニュアル変速モードでは、前記マニュアル変速手段118により図7の(b) に示す7つの変速レンジ「D」〜「L」を用いてレンジ切換えが行われるとともに、各変速レンジで定められた前進ギヤ段の範囲内で変速制御が行われる。したがって、「D」レンジにおいて第8速前進ギヤ段「8th」で走行中にシフトレバー72が「−」位置へ操作されると、「6」レンジに切り換えられ、第8速前進ギヤ段「8th」から第7速前進ギヤ段「7th」を飛び越して第6速前進ギヤ段「6th」へダウンシフトされる。
このように、本実施例の変速制御装置においては、シフトレバー72がMポジションへ操作されてマニュアル変速モードが選択された場合にパワーモードが設定されている時には、そのパワーモードの選択に基づいてステップS8で図3に示すようにオーバードライブ(OD)の変速比の間隔が狭いクロスギヤレシオのギヤ列が選択されるとともに、ステップS10で図7の(b) に示すように「7」レンジを削減した7レンジ切換えが設定され、マニュアル変速手段118は、シフトレバー72によるアップダウン操作に従って変速比の間隔が狭い第7速前進ギヤ段「7th」を飛ばして変速を行う。これにより、元々のギヤ列が変速比の間隔が狭いクロスギヤレシオであっても、シフトレバー72による変速操作で変化する駆動力(動力源ブレーキを含む)の変化量が大きくなって、少ない変速操作で所望の駆動力が速やかに得られるようになり、マニュアル変速モードの操作性が向上する。
なお、上記実施例では「7」レンジが削減され、手動操作による変速で第7速前進ギヤ段「7th」を飛ばして変速が行われるようになっていたが、変速比の間隔が狭い第6速前進ギヤ段「6th」を飛ばして、第7速前進ギヤ段「7th」から第5速前進ギヤ段「5th」へダウンシフトされるように、「7」レンジの代わりに「6」レンジを削減するようにしても良い。
また、上記実施例の自動変速機10は、オーバードライブ(OD)の変速比の間隔が異なる2種類のギヤ列を選択できるものであったが、図9〜図11に示す車両用自動変速機210のように、アンダードライブ(具体的には第1速前進ギヤ段「1st」および第2速前進ギヤ段「2nd」)の変速比の間隔が異なる2種類のギヤ列を選択できるものにも、本発明は適用できる。すなわち、シフトレバー72がMポジションへ操作されてマニュアル変速モードが選択された場合に、図11に示すようにアンダードライブの変速比の間隔が狭いクロスギヤレシオのギヤ列が選択されている時には、その変速比の間隔が狭い第2速前進ギヤ段「2nd」或いは第3速前進ギヤ段「3rd」を飛ばして手動操作による変速が行われるように、「2」レンジ或いは「3」レンジを削除するのである。
上記自動変速機210は、第1遊星歯車装置212を主体として構成されている第1変速部214と、第2遊星歯車装置216、第3遊星歯車装置218、および第4遊星歯車装置220を主体として構成されている第2変速部222とを有し、入力軸26の回転を変速して出力軸226から出力するように構成されている。そして、図10、図11に示すようにクラッチC1〜C5、ブレーキB1、B2の係合、解放状態を切り換えることにより第1速前進ギヤ段「1st」〜第8速前進ギヤ段「8th」の8つの前進ギヤ段を成立させることができるとともに、図10に示すように第1速前進ギヤ段「1st」および第2速前進ギヤ段「2nd」の変速比の間隔が広いワイドギヤレシオのギヤ列と、図11に示すように第1速前進ギヤ段「1st」および第2速前進ギヤ段「2nd」の変速比の間隔が狭いクロスギヤレシオのギヤ列との2種類のギヤ列を選択することが可能で、運転者の選択により何れかのギヤ列が設定される。図10および図11に示す各ギヤ段の変速比は、第1遊星歯車装置212、第2遊星歯車装置216、第3遊星歯車装置218、第4遊星歯車装置220の各ギヤ比ρ1〜ρ4が、ρ1=0.500、ρ2=0.444、ρ3=0.500、ρ4=0.483の場合である。図9〜図11は、それぞれ前記図1〜図3に対応する。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
10、210:車両用自動変速機 72:シフトレバー(モード選択手段) 76:Mモードスイッチ 78:パワーモードスイッチ 110:変速制御手段 112:ギヤ列設定手段 114:自動変速手段 116:変速レンジ設定手段(間引き手段) 118:マニュアル変速手段