本発明は、変速比が異なる複数のギヤ段を有する遊星歯車式、平行軸式などの有段変速機にも、変速比を連続的に変化させることができるベルト式等の無段変速機にも適用され得る。
手動変速モードは、ギヤ段ホールド等の変速比を切り換えるものでも、変速レンジを切り換えるものでも良く、変速比切換かレンジ切換かを運転者が任意に選択できるものでも良い。変速比切換は、有段変速機におけるギヤ段切換(ギヤ段ホールド)だけでなく、無段変速機において変速比を段階的に変化させる場合も含む。この手動変速モードでは、例えばアップシフトスイッチおよびダウンシフトスイッチ(押釦やレバーなど)による変速指令に従って、それ等の変速比や変速レンジを順番に高速側或いは低速側へ切り換えるように構成される。
変速要素が変速レンジの場合、一般には変速比或いはギヤ段の変速範囲の上限(変速比が小さい高速側)が異なる複数の変速レンジが定められ、運転者の変速指令に従ってそれ等の変速レンジが電気的に切り換えられるように構成される。各変速レンジでは、例えば車速およびアクセル開度或いはスロットル弁開度等の運転状態をパラメータとして予め定められた変速マップや演算式などの変速規則に従って、変速比或いはギヤ段の変速範囲内で自動的に変速が行われるが、運転者の変速指令に従って変速レンジが切り換えられる場合は、一般に下り坂などの動力源ブレーキの作動時であるため、各変速レンジにおける最高速の変速比或いはギヤ段の間で変速が行われる。
自動切換手段は、例えば手動変速モードで変速比が大きい低速側のギヤ段や変速レンジが設定されている場合に車速が増加し、エンジン等の動力源がオーバー回転となるような時に、ギヤ段や変速レンジを強制的に高速側へ切り換えるように構成される。また、変速要素が変速比(ギヤ段)の場合には、ノッキングやエンジンストールの発生を防止するために、車速が低下した時に変速比(ギヤ段)を強制的に低速側へ切り換えるように構成される。なお、動力源のオーバー回転やノッキング、或いはエンジンストールを回避するための自動切換に限定されるものではなく、その他の目的で強制的に変速要素を切り換える場合にも本発明は適用され得る。
手動変速規制手段は、例えば自動切換手段による自動変速が終了するまで運転者の手動操作による変速指令をキャンセルしたり、前記特許文献2のように、自動変速の進行度合に基づいて運転者が自動変速実行中であることを認識できない間だけ手動操作による変速指令をキャンセルしたり、或いは自動変速の開始時或いは判定時などから変速の種類等に応じて予め定められた所定時間(運転者が自動変速実行中であることを認識できるようになるまでの時間など)が経過するまで手動操作による変速指令をキャンセルしたりするなど、種々の態様が可能である。
手動変速規制手段による規制が規制解除手段によって解除されると、手動操作による変速指令に従って変速要素が切り換えられ、その変速要素の切換に応じて変速が実行されるが、例えば自動切換手段による自動変速を途中で中止して飛び変速を行うようにしても良いし、自動切換手段による自動変速が終了した後に手動操作による変速を実行するようにしても良いなど、種々の態様が可能である。自動切換手段による自動変速の進行度合に応じて、手動操作による変速の態様を変更することも可能である。
上記規制解除手段は、運転者の1回目の変速指令については手動変速規制手段によって変速要素の切換がキャンセルされるが、2回目以降の変速指令については、その変速指令に従って変速要素が切り換えられるようにするものであれば良い。したがって、例えば運転者の変速指令のための手動操作の回数を検知する操作回数検知手段を設け、その操作回数検知手段によって検知された操作回数が2回以上となった場合に、手動変速規制手段による規制を解除して、その2回目以降の手動操作による変速指令については、その変速指令に従って変速要素が切り換えられるように構成される。また、例えば1回目の変速指令の手動操作が検知された時に、その1回目の変速指令については手動変速規制手段によって変速要素の切換がキャンセルされることを許容するとともに、そのキャンセル後に手動変速規制手段による規制を終了させることにより、2回目以降の変速指令については、通常の手動変速モードによりその変速指令に従って変速要素が切り換えられるように構成することもできるなど、種々の態様が可能である。
手動変速モードの他に、総ての変速範囲で自動的に変速する自動変速モードを備えており、運転者がそれ等の変速モードを任意に選択できる変速制御装置が広く知られているが、本発明は、少なくとも手動変速モードを備えておれば良く、自動変速モードは必ずしも必要ない。例えば、変速要素がギヤ段或いは変速比の場合に、運転者の手動操作による変速指令だけで変速制御を行う変速制御装置にも本発明は適用され得る。
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1の(a) は、車両用自動変速機10の骨子図で、(b) は複数の変速段を成立させる際の係合要素の作動状態を説明する作動表である。この自動変速機10は、車両の前後方向(縦置き)に搭載するFR車両に好適に用いられるもので、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置12を主体として構成されている第1変速部14と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置16およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置18を主体として構成されている第2変速部20とを同軸線上に有し、入力軸22の回転を変速して出力軸24から出力する。入力軸22は入力部材に相当するもので、本実施例では走行用の動力源であるエンジン30によって回転駆動されるトルクコンバータ32のタービン軸であり、出力軸24は出力部材に相当するもので、プロペラシャフトや差動歯車装置を介して左右の駆動輪を回転駆動する。なお、この自動変速機10は中心線に対して略対称的に構成されており、図1(a) では中心線の下半分が省略されている。
図2は、上記自動変速機10の第1変速部14および第2変速部20の各回転要素(サンギヤS1〜S3、キャリアCA1〜CA3、リングギヤR1〜R3)の回転速度を直線で表すことができる共線図で、下の横線が回転速度「0」で、上の横線が回転速度「1.0」すなわち入力軸22と同じ回転速度であり、クラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2の作動状態(係合、解放)に応じて第1速ギヤ段「1st」〜第8速ギヤ段「8th」の8つの前進ギヤ段が成立させられるとともに、第1後進ギヤ段「Rev1」および第2後進ギヤ段「Rev2」の2つの後進ギヤ段が成立させられる。図1の(b) の作動表は、上記各ギヤ段とクラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2の作動状態との関係をまとめたもので、「○」は係合、「◎)」はエンジンブレーキ時のみ係合を表している。第1速ギヤ段「1st」を成立させるブレーキB2には並列に一方向クラッチF1が設けられているため、発進時(加速時)には必ずしもブレーキB2を係合させる必要は無いのである。また、各ギヤ段の変速比(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT )は、第1遊星歯車装置12、第2遊星歯車装置16、および第3遊星歯車装置18の各ギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められ、第1速ギヤ段「1st」の変速比が最も大きく、高速側(第8速ギヤ段「8th」側)程小さくなる。なお、図1(a) の符号26はトランスミッションケースで、符号48は機械式のオイルポンプである。
上記クラッチC1〜C4、およびブレーキB1、B2は、多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置で、油圧制御回路98(図3参照)に設けられたソレノイドバルブやリニアソレノイドバルブの励磁、非励磁、或いは電流値制御などにより、係合、解放状態が切り換えられるとともに係合、解放時の過渡油圧などが制御される。
図3は、図1の自動変速機10などを制御するために車両に設けられた制御系統を説明するブロック線図で、アクセルペダル50の操作量であるアクセル開度Accがアクセル開度センサ52により検出されるとともに、そのアクセル開度Accを表す信号が電子制御装置90に供給されるようになっている。アクセルペダル50は、運転者の出力要求量に応じて大きく踏み込み操作されるもので、アクセル操作部材に相当し、アクセル開度Accは出力要求量に相当する。また、エンジン30の回転速度NEを検出するためのエンジン回転速度センサ58、エンジン30の吸入空気量Qを検出するための吸入空気量センサ60、吸入空気の温度TA を検出するための吸入空気温度センサ62、エンジン30の電子スロットル弁の全閉状態(アイドル状態)およびその開度θTHを検出するためのアイドルスイッチ付スロットルセンサ64、車速V(出力軸24の回転速度NOUT に対応)を検出するための車速センサ66、エンジン30の冷却水温TW を検出するための冷却水温センサ68、常用ブレーキであるフットブレーキの操作の有無を検出するためのブレーキスイッチ70、シフトレバー72のレバーポジション(操作位置)PSHを検出するためのレバーポジションセンサ74、タービン回転速度NT(=入力軸22の回転速度NIN)を検出するためのタービン回転速度センサ76、前記第2遊星歯車装置16のサンギヤS2の回転速度NS2を検出するためのNS2回転速度センサ77、油圧制御回路98内の作動油の温度であるAT油温TOIL を検出するためのAT油温センサ78、アップシフトスイッチ80、ダウンシフトスイッチ82などが設けられており、それらのセンサやスイッチから、エンジン回転速度NE、吸入空気量Q、吸入空気温度TA 、スロットル弁開度θTH、車速V、エンジン冷却水温TW 、ブレーキ操作の有無、シフトレバー72のレバーポジションPSH、タービン回転速度NT、サンギヤ回転速度NS2、AT油温TOIL 、変速レンジのアップシフト指令RUP、ダウンシフト指令RDN、などを表す信号が電子制御装置90に供給されるようになっている。
上記シフトレバー72は、例えば運転席の近傍に配設され、図4に示すように、5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、または「S」へ手動操作されるようになっている。「P」ポジションは、自動変速機10内の動力伝達を遮断してニュートラル状態(中立状態)とし、且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力軸24の回転を阻止(ロック)するための駐車ポジションである。「R」ポジションは、後進走行を行うための後進走行ポジションで、前記第1後進ギヤ段「Rev1」または第2後進ギヤ段「Rev2」が成立させられる。「N」ポジションは、自動変速機10内の動力伝達を遮断してニュートラル状態(中立状態)とするためのニュートラルポジションである。
また、「D」ポジションは、自動変速機10の全変速範囲である第1速ギヤ段「1st」〜第8速ギヤ段「8th」の総ての前進ギヤ段を用いて変速制御を行う自動変速モード(Dレンジ)を成立させる前進走行ポジションである。「S」ポジションは、前進ギヤ段の変速範囲を制限した複数種類の変速レンジを切り換えることにより手動変速が可能なシーケンシャルモード(以下、Sモードという)を成立させる前進走行ポジションである。この「S」ポジションには、シフトレバー72の操作毎に変速レンジをアップ側(高速側)にシフトさせるためのアップシフト位置「+」、シフトレバー72の操作毎に変速レンジをダウン側(低速側)にシフトさせるためのダウンシフト位置「−」が備えられており、それ等の操作が前記アップシフトスイッチ80、ダウンシフトスイッチ82によって検出される。アップシフト位置「+」およびダウンシフト位置「−」は何れも不安定で、シフトレバー72はスプリング等の付勢手段により自動的に「S」ポジションへ戻されるようになっており、アップシフト位置「+」またはダウンシフト位置「−」への操作回数に応じて変速レンジが変更される。
図3の電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン30の出力制御や自動変速機10の変速制御などを実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や変速制御用などに分けて構成される。
図5は、上記電子制御装置90による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図5において、エンジン出力制御手段102は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータにより電子スロットル弁を開閉制御する他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置による燃料噴射を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置による点火時期を制御するなどしてエンジン30の出力制御を実行する。スロットル制御は、予め記憶された関係からアクセル開度Accに基づいてスロットルアクチュエータを駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるように行われる。
変速制御手段104は、自動変速機10の変速制御を行うもので、シフトレバー72が「D」ポジションへ操作されることにより前記自動変速モード(Dレンジ)を成立させ、例えば図6に示すように車速Vおよびアクセル開度Accをパラメータとして予め設定された変速マップに従って、総ての前進ギヤ段「1st」〜「8th」を用いて自動変速を行う。図6の変速マップは変速規則に相当するもので、実線はアップシフトを判断するためのアップシフト線であり、破線はダウンシフトを判断するためのダウンシフト線である。また、シフトレバー72が「S」ポジションへ操作されることにより前記Sモードを成立させ、アップシフト指令RUPやダウンシフト指令RDNに従って図7に示すように最高速ギヤ段すなわち変速比が小さい高速側の変速範囲が異なる8つの変速レンジD、7、6、5、4、3、2、Lを順次高速側(アップ側)または低速側(ダウン側)へ切り換えるとともに、各変速レンジの変速範囲内において前記図6の変速マップに従って自動変速を行う。したがって、例えば下り坂などでシフトレバー72をダウンシフト位置「−」へ繰り返し操作すると、変速レンジが例えば6レンジから、5レンジ、4レンジ、3レンジへ切り換えられ、第6速ギヤ段「6th」から第5速ギヤ段「5th」、第4速ギヤ段「4th」、第3速ギヤ段「3rd」へ順次ダウンシフトされて、エンジンンブレーキ力が増大させられる。このSモードで成立させられる第1速ギヤ段「1st」は、エンジンブレーキ作用が得られるように前記ブレーキB2が係合させられる。上記Sモードは手動変速モードに相当し、そのSモードで運転者のシフトレバー操作に従って切り換えられる複数の変速レンジは変速要素であり、アップシフト指令RUPおよびダウンシフト指令RDNは変速指令に相当する。
電子制御装置90はまた、上記Sモードでの走行時であっても所定の強制切換条件を満足する場合には、変速レンジを強制的に切り換えるSモード時レンジ自動切換手段110を備えている。Sモード時レンジ自動切換手段110は、手動変速規制手段112、規制解除手段114、および操作回数検知手段116を備えており、図8のフローチャートに従って信号処理を行う。図8のステップS2およびS3は、Sモード時レンジ自動切換手段110の主要部で、ステップS2は強制切換条件を満足するか否かを判断するステップである。また、ステップS7は手動変速規制手段112に相当し、ステップS6およびS9は規制解除手段114に相当し、ステップS5およびS8は操作回数検知手段116に相当する。なお、規制解除手段114および操作回数検知手段116を合わせて請求項1の規制解除手段と見做すこともできる。
図8のステップS1では手動変速モード実行中か否か、すなわちシフトレバー72が「S」ポジションへ操作されて前記Sモードによる変速制御が行われているか否かを判断し、Sモードでなければそのまま終了するが、Sモードの場合にはステップS2以下を実行する。ステップS2ではエンジン回転速度NEが所定の上限値NEmax 以上か否かを判断し、NE<NEmax の場合にはそのまま終了するが、NE≧NEmax の場合にはステップS3以下を実行する。上限値NEmax は、エンジン30がオーバー回転となる前にアップシフトが行われるように、予め一定値が定められるか、その時のギヤ段或いはエンジン回転速度NEの変化速度等に基づいて設定される。本実施例では、エンジン回転速度NEが上限値NEmax 以上であることが強制切換条件である。なお、エンジン回転速度NEの代りに、タービン回転速度NTや出力軸回転速度NOUT などエンジン回転速度NEに対して略一定の関係を有する回転速度を用いることも可能である。
ステップS3では、現在の変速レンジよりも一つだけ高速側の変速レンジに強制的に切り換える自動アップシフトを実施する。このように変速レンジが高速側へ切り換えられると、最高速ギヤ段が高速側へ1つ増加する一方、前記図6の変速マップはエンジン30がオーバー回転とならないように前記上限値NEmax よりも低い回転速度でアップシフトが行われるように定められているため、変速レンジが高速側へ1つ切り換えられることにより、自動変速機10のギヤ段は新たな最高速ギヤ段へアップシフトされる。これにより、エンジン回転速度NEが低下させられ、オーバー回転が回避される。図9は、Sモード時に強制的に自動アップシフトが行われた場合の変速レンジ指令値のタイムチャートの一例で、時間t1 は、ステップS2の判断がYES(肯定)となってステップS3が実行され、自動アップシフト指令が出力された時間であり、2レンジから3レンジへ切り換える場合である。この図9はあくまでも変速レンジの指令値のタイムチャートで、必ずしもギヤ段の指令値と一致するわけではないが、第2速ギヤ段「2nd」から第3速ギヤ段「3rd」への変速指令は略同時に行われる。ステップS3ではまた、運転者の手動操作によるアップシフトの禁止履歴を表すフラグNuをリセットして「0」にする。
次のステップS4では、所定の規制終了条件を達成したか否かを判断し、規制終了条件に達していない間はステップS5以下を実行するが、規制終了条件を達成した場合には一連の制御を終了する。規制終了条件は、ステップS3の自動アップシフトを知らない運転者のシフトレバー操作(手動操作)によるアップシフト指令RUPで、アップシフトが重複して行われることを防止するためのもので、本実施例では自動アップシフト判定(ステップS2がYESとなった時間)からの経過時間が所定時間timUを経過したか否かによって判断する。所定時間timUは、運転者が自動アップシフト実行中であることを認識できるようになるまでの時間で、変速の種類等に応じて予め設定される。すなわち、運転者が自動アップシフトを認識できるようになれば、それ以後は手動操作に従って変速レンジを切り換えれば良いため、運転者が自動アップシフト実行中であることを認識できない間だけ規制すれば良いのである。
ステップS5では、運転者がアップシフト操作を行ったか否か、すなわちシフトレバー72がアップシフト位置「+」へ操作されてアップシフト指令RUPが入力されたか否かを判断し、アップシフト指令RUPが入力されなければステップS4を繰り返す。アップシフト操作が行われた場合には、ステップS5に続いてステップS6を実行し、手動アップシフト禁止履歴を表すフラグNuが「1」か否かを判断する。この手動アップシフト禁止履歴を表すフラグNuは、ステップS3で「0」にリセットされているため、最初のアップシフト操作時にはNu=0でステップS6の判断はNO(否定)となり、ステップS7を実行する。
ステップS7では、運転者のアップシフト操作に伴うアップシフトを禁止する。これにより、自動アップシフトと重複して変速レンジが高速側へ切り換えられ、運転者の意に反して飛越しアップシフトや2速の連続アップシフトが行われることが防止される。そして、次のステップS8で手動アップシフト禁止履歴を表すフラグNuを「1」にした後、ステップS4以下を繰り返す。
上記ステップS8で手動アップシフト禁止履歴を表すフラグNuが「1」とされることから、運転者が2速以上のアップシフトを意図してアップシフト操作を2回以上行った場合には、ステップS5に続いて実行されるステップS6の判断はYES(肯定)となる。このため、そのステップS6に続いてステップS9を実行し、ステップS3の自動アップシフトとは別にアップシフト操作に従って変速レンジを更に1つ高速側へ切り換える。これにより、最高速ギヤ段が更に高速側へ1つ増加し、図6のアップシフト条件を満たせばその最高速ギヤ段まで飛びアップシフト、或いは2速の連続アップシフトが行われる。図9の時間t2 は、2回目のアップシフト操作が行われてステップS6の判断がYES(肯定)となり、ステップS9が実行されてアップシフト指令が出力された時間であり、前記所定時間timUを経過する前でも、運転者のアップシフト操作に従って3レンジから4レンジへ切り換えられる。アップシフト操作が3回行われた場合には、再びステップS9が実行されることにより、変速レンジが更に1つ高速側へ切り換えられ、図6の変速マップに従ってアップシフトが行われる。
なお、アップシフト操作が2回行われてステップS9を実行した後は、ステップS4の規制終了条件を達成する前であっても一連の自動アップシフト時の制御を終了し、運転者のシフトレバー操作に従って変速レンジのアップダウンを行う通常のSモードの変速制御へ移行するようにしても良い。また、1回目のアップシフト操作時にステップS6に続いてステップS7を実行し、そのアップシフト操作に伴うアップシフトを禁止した後に、一連の自動アップシフト時の制御を終了して通常のSモードの変速制御へ移行するようにしても良い。
このように、本実施例の車両用自動変速機の変速制御装置においては、手動変速モードであるSモードでの走行時に、エンジン30のオーバー回転を回避するためにステップS3で強制的な自動アップシフトが実施される場合に、所定の規制終了条件を達成してステップS4の判断がYES(肯定)となる前であっても、運転者がシフトレバー72をアップシフト位置「+」へ操作するアップシフト操作を2回以上行った場合にはステップS9を実行し、ステップS3の自動アップシフトとは別にアップシフト操作に従って変速レンジを更に1つ高速側へ切り換える。すなわち、1回目のアップシフト操作によるアップシフト指令RUPは、ステップS3の自動アップシフトで置き換えることができるためキャンセルし、2回以上操作された場合には、運転者が2速以上の変速を意図しているものと判断して、そのアップシフト操作に従って変速レンジを切り換えるようにしたのであり、これにより、エンジン30のオーバー回転を回避するために強制的なアップシフトが実施されている場合でも運転者の意図に合致した変速制御が行われるようになる。
これに対し、従来は所定の規制終了条件を達成してステップS4の判断がYES(肯定)となるまで、運転者のアップシフト操作によるアップシフト指令RUPがキャンセルされるため、運転者が2速以上のアップシフトを意図してアップシフト操作を2回以上行っても、図9に点線で示すように強制的な自動アップシフトが行われるだけで3レンジに保持されるため、運転者に違和感を生じさせる可能性がある。
なお、上記実施例は、シフトレバー72をアップシフト位置「+」またはダウンシフト位置「−」へ操作するシフトレバー操作で変速レンジを切り換える場合であるが、そのシフトレバー操作でギヤ段そのものを切り換える場合、すなわちアップシフト指令RUPが入力される毎に前進ギヤ段「1st」〜「8th」を1速ずつアップ側(高速側)へ切り換える一方、ダウンシフト指令RDNが入力される毎に前進ギヤ段「1st」〜「8th」を1速ずつダウン側(低速側)へ切り換える場合にも、本発明は適用され得る。その場合はギヤ段が変速要素である。
図10〜図12は、このようにSモードでギヤ段そのものを手動操作で切り換える場合の実施例で、図10は前記図5に対応する機能ブロック線図であり、前記Sモード時レンジ自動切換手段110の替わりにSモード時ギヤ段自動切換手段120を備えている。このSモード時ギヤ段自動切換手段120は、前記実施例のようにエンジン30のオーバー回転を回避するために強制的にアップシフトを行うだけでなく、エンジン30のノッキングやエンジンストールを防止するために強制的にダウンシフトを行うように構成されており、手動変速規制手段122、規制解除手段124、および操作回数検知手段126を備えている。そして、強制的な自動アップシフトに関しては、前記図8のフローチャートと同様にして、その自動アップシフトの実行時であっても一定の条件下で手動操作によるアップシフトを実行する一方、強制的な自動ダウンシフトに関しては、図11のフローチャートに従って自動ダウンシフトの実行時であっても一定の条件下で手動操作によるダウンシフトを実行する。図11のステップR2およびR3は、Sモード時ギヤ段自動切換手段120によって強制的に自動ダウンシフトを行う主要部で、ステップR2は強制切換条件を満足するか否かを判断するステップである。また、ステップR7は手動変速規制手段122に相当し、ステップR6およびR9は規制解除手段124に相当し、ステップR5およびR8は操作回数検知手段126に相当する。なお、規制解除手段124および操作回数検知手段126を合わせて請求項1の規制解除手段と見做すこともできる。
図11のステップR1では手動変速モード実行中か否か、すなわちシフトレバー72が「S」ポジションへ操作されてSモードによる変速制御が行われているか否かを判断し、Sモードでなければそのまま終了するが、Sモードの場合にはステップR2以下を実行する。ステップR2ではエンジン回転速度NEが所定の下限値NEmin 以下か否かを判断し、NE>NEmin の場合にはそのまま終了するが、NE≦NEmin の場合にはステップR3以下を実行する。下限値NEmin は、エンジン30がノッキングを発生する前にダウンシフトが行われるように、予め一定値が定められるか、その時のギヤ段或いはエンジン回転速度NEの変化速度等に基づいて設定される。本実施例では、エンジン回転速度NEが下限値NEmin 以下であることが強制切換条件である。なお、エンジン回転速度NEの代りに、タービン回転速度NTや出力軸回転速度NOUT などエンジン回転速度NEに対して略一定の関係を有する回転速度を用いることも可能である。
ステップR3では、現在のギヤ段よりも一つだけ低速側のギヤ段に強制的に切り換える自動ダウンシフトを実施する。これにより、エンジン回転速度NEが上昇させられ、ノッキングやエンジンストールが回避される。図12は、Sモード時に強制的に自動ダウンシフトが行われた場合のギヤ段指令値のタイムチャートの一例で、時間t1 は、ステップR2の判断がYES(肯定)となってステップR3が実行され、自動ダウンシフト指令が出力された時間であり、第6速ギヤ段「6th」から第5速ギヤ段「5th」へダウンシフトする場合である。ステップR3ではまた、運転者の手動操作によるダウンシフトの禁止履歴を表すフラグNdをリセットして「0」にする。
次のステップR4では、所定の規制終了条件を達成したか否かを判断し、規制終了条件に達していない間はステップR5以下を実行するが、規制終了条件を達成した場合には一連の制御を終了する。規制終了条件は、ステップR3の自動ダウンシフトを知らない運転者のシフトレバー操作(手動操作)によるダウンシフト指令RDNで、ダウンシフトが重複して行われることを防止するためのもので、本実施例では自動ダウンシフト判定(ステップR2がYESとなった時間)からの経過時間が所定時間timDを経過したか否かによって判断する。所定時間timDは、運転者が自動ダウンシフト実行中であることを認識できるようになるまでの時間で、変速の種類等に応じて予め設定される。すなわち、運転者が自動ダウンシフトを認識できるようになれば、それ以後は手動操作に従ってギヤ段を切り換えれば良いため、運転者が自動ダウンシフト実行中であることを認識できない間だけ規制すれば良いのである。
ステップR5では、運転者がダウンシフト操作を行ったか否か、すなわちシフトレバー72がダウンシフト位置「−」へ操作されてダウンシフト指令RDNが入力されたか否かを判断し、ダウンシフト指令RDNが入力されなければステップR4を繰り返す。ダウンシフト操作が行われた場合には、ステップR5に続いてステップR6を実行し、手動ダウンシフト禁止履歴を表すフラグNdが「1」か否かを判断する。この手動ダウンシフト禁止履歴を表すフラグNdは、ステップR3で「0」にリセットされているため、最初のダウンシフト操作時にはNd=0でステップR6の判断はNO(否定)となり、ステップR7を実行する。
ステップR7では、運転者のダウンシフト操作に伴うダウンシフトを禁止する。これにより、自動ダウンシフトと重複してギヤ段が低速側へ切り換えられ、運転者の意に反して飛越しダウンシフトや2速の連続ダウンシフトが行われることが防止される。そして、次のステップR8で手動ダウンシフト禁止履歴を表すフラグNdを「1」にした後、ステップR4以下を繰り返す。
上記ステップR8で手動アップシフト禁止履歴を表すフラグNdが「1」とされることから、運転者が2速以上のダウンシフトを意図してダウンシフト操作を2回以上行った場合には、ステップR5に続いて実行されるステップR6の判断はYES(肯定)となる。このため、そのステップR6に続いてステップR9を実行し、ステップR3の自動ダウンシフトとは別にダウンシフト操作に従ってギヤ段を更に1つ低速側へ切り換える。これにより、飛びダウンシフト或いは2速の連続ダウンシフトが行われる。図12の時間t2 は、2回目のダウンシフト操作が行われてステップR6の判断がYES(肯定)となり、ステップR9が実行されてダウンシフト指令が出力された時間であり、前記所定時間timDを経過する前でも、運転者のダウンシフト操作に従って第5速ギヤ段「5th」から第4速ギヤ段「4th」へ切り換えられる。ダウンシフト操作が3回行われた場合には、再びステップR9が実行されることにより、ギヤ段が更に1つ低速側へ切り換えられてダウンシフトが行われる。
なお、ダウンシフト操作が2回行われてステップR9を実行した後は、ステップR4の規制終了条件を達成する前であっても一連の自動ダウンシフト時の制御を終了し、運転者のシフトレバー操作に従ってギヤ段のアップダウンを行う通常のSモードの変速制御へ移行するようにしても良い。また、1回目のダウンシフト操作時にステップR6に続いてステップR7を実行し、そのダウンシフト操作に伴うダウンシフトを禁止した後に、一連の自動ダウンシフト時の制御を終了して通常のSモードの変速制御へ移行するようにしても良い。
このように、手動変速モードであるSモードでの走行時に、エンジン30のノッキングやエンジンストールを回避するためにステップR3で強制的な自動ダウンシフトが実施される場合に、所定の規制終了条件を達成してステップR4の判断がYES(肯定)となる前であっても、運転者がシフトレバー72をダウンシフト位置「−」へ操作するダウンシフト操作を2回以上行った場合にはステップR9を実行し、ステップR3の自動ダウンシフトとは別にダウンシフト操作に従ってギヤ段を更に1つ低速側へ切り換える。すなわち、1回目のダウンシフト操作によるダウンシフト指令RDNは、ステップR3の自動ダウンシフトで置き換えることができるためキャンセルし、2回以上操作された場合には、運転者が2速以上の変速を意図しているものと判断して、そのダウンシフト操作に従ってギヤ段を切り換えるようにしたのであり、これにより、エンジン30のノッキングやエンジンストールを回避するために強制的なダウンシフトが実施されている場合でも運転者の意図に合致した変速制御が行われるようになる。
これに対し、従来は所定の規制終了条件を達成してステップR4の判断がYES(肯定)となるまで、運転者のダウンシフト操作によるダウンシフト指令RDNがキャンセルされるため、運転者が2速以上のダウンシフトを意図してダウンシフト操作を2回以上行っても、図12に点線で示すように強制的な自動ダウンシフトが行われるだけで第5速ギヤ段「5th」に保持されるため、運転者に違和感を生じさせる可能性がある。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
10:自動変速機 72:シフトレバー 90:電子制御装置 104:変速制御手段 110:Sモード時レンジ自動切換手段(自動切換手段) 112、122:手動変速規制手段 114、124:規制解除手段 116、126:操作回数検知手段 120:Sモード時ギヤ段自動切換手段(自動切換手段) Sモード:シーケンシャルモード(手動変速モード) RUP:アップシフト指令(変速指令) RDN:ダウンシフト指令(変速指令)