本発明は、車両用の自動変速機に好適に適用され、燃料の燃焼によって駆動力を発生するエンジン駆動車両や、電動モータによって走行する電気自動車など、種々の車両用自動変速機に適用され得る。自動変速機としては、例えば遊星歯車式や平行軸式など、複数のクラッチやブレーキの作動状態に応じて複数のギヤ段が成立させられる種々の自動変速機が用いられる。
摩擦係合装置としては油圧式のものが好適に用いられ、例えばソレノイド弁等による油圧制御やアキュムレータの作用などで油圧(係合力)を所定の変化パターンで変化させたり、所定のタイミングで油圧を変化させたりすることによって変速制御が行われるが、電磁式等の他の摩擦係合装置を用いることもできる。これ等の摩擦係合装置は、油圧シリンダ等のアクチュエータによって係合させられる単板式或いは多板式のクラッチやブレーキ、ベルト式のブレーキなどである。
多重変速は、第1変速を実行させるための第1変速制御、すなわち摩擦係合装置の係合解放状態を切り換える途中で、アクセル操作などにより第2変速を行うべき判断が為された場合に、直ちにその第2変速を実行させるための第2変速制御に切り換える制御である。これ等の第1変速および第2変速の変速判断は、アクセル操作や車速変化に伴って変速マップ等の変速条件に従って自動的に行われる場合でも、シフトレバーなどによる運転者の手動変速操作に応じて行われる場合でも良い。
上記第1変速および第2変速は、複数の摩擦係合装置の何れか1つを解放するとともに他の1つを係合させるクラッチツークラッチ変速であっても良いが、一方向クラッチを備えることにより、単一の摩擦係合装置を解放するだけで第1変速制御を実施し、その摩擦係合装置を係合するだけで第2変速制御を実施する場合であっても良い。
第2変速制御で係合させられる係合側摩擦係合装置の係合終了判定に伴って第2変速制御を終了させる際には、例えばその係合側摩擦係合装置の係合力を定常値まで上昇させて完全係合させることになるが、その他の終了処理を行う場合であっても良い。
本発明は、種々の多重変速のうち特に第1変速の変速前ギヤ段へ戻り変速する多重変速に有効で、第1変速制御で解放した摩擦係合装置を第2変速制御で係合させる際に、その係合終了判定を適切に行うことができる。戻り多重変速は、アップシフトに続いてダウンシフトを行う場合でも、ダウンシフトに続いてアップシフトを行う場合でも良い。
係合判定禁止手段は、総ての多重変速について所定の待機期間が経過するまで係合終了判定処理の実施を禁止するものでも良いが、戻り多重変速以外の多重変速については係合終了を誤判定する可能性が低いため、係合判定禁止手段によって係合終了判定処理の実施を必ずしも禁止する必要はなく、戻り多重変速の場合だけ係合終了判定処理の実施を禁止するようにしても良い。
係合終了判定処理の実施が禁止される所定の待機期間は、戻り多重変速において係合側摩擦係合装置の係合以外の要因、例えば各部の慣性や摩擦、動力源の応答遅れなどにより、入力軸回転速度が同期回転速度近傍に保持される可能性が完全に、或いは殆ど無くなるのに必要な時間であり、予め一定時間が定められても良いが、第1変速出力から第2変速出力までの経過時間や変速の種類、係合側摩擦係合装置の仕様、車速、入力トルク、作動油の温度など、摩擦係合装置の係合力(油圧など)の応答遅れや入力軸回転速度の変化態様に影響する運転状態、車両状態等をパラメータとして設定されるようにすることもできる。
第2発明では判定禁止解除手段が設けられ、入力軸回転速度が第2変速の変速後ギヤ段の同期回転速度近傍から外れている場合には、係合終了判定処理の実施の禁止が解除されるようになっているが、第1発明の実施に際しては、このような判定禁止解除手段は必ずしも必要ない。その場合は、戻り多重変速の場合だけ係合判定禁止手段により係合終了判定処理の実施を禁止し、戻り多重変速以外の多重変速は、始めから係合終了判定処理の実施を許容するようにしても良い。
また、特に第2発明のように判定禁止解除手段を設ける場合等には、多重変速か否かを区別することなく、連続するギヤ段の単一のアップシフトやダウンシフト、或いは飛越し変速を含む総ての変速時に、係合判定禁止手段により係合終了判定処理の実施を禁止する処理を行うようにしても良い。
第3発明の長期化手段は、総ての多重変速について判定時間を長期化するものでも良いが、戻り多重変速以外の多重変速については係合終了を誤判定する可能性が低いため、長期化手段によって判定時間を必ずしも長期化する必要はなく、戻り多重変速の場合だけ判定時間を長期化するようにしても良い。この長期化手段は、通常の単一変速時の判定時間に所定の加算時間を加算して長期化するものでも良いが、予め定められた比較的長時間の判定時間を通常の判定時間に置き換えて長期化するものでも良い。
長期化手段によって長期化された後の判定時間は、戻り多重変速において係合側摩擦係合装置の係合以外の要因、例えば各部の慣性や摩擦、動力源の応答遅れなどにより、入力軸回転速度が同期回転速度近傍に保持される可能性が完全に、或いは殆ど無くなるのに必要な時間よりも長い時間である。このような長期化後の判定時間、或いは長期化のために通常の判定時間に加算する加算時間は、予め一定時間が定められても良いが、第1変速出力から第2変速出力までの経過時間や変速の種類、係合側摩擦係合装置の仕様、車速、入力トルク、作動油の温度など、摩擦係合装置の係合力(油圧など)の応答遅れや入力軸回転速度の変化態様に影響する運転状態、車両状態等をパラメータとして設定されるようにすることもできる。
第4発明では長期化解除手段が設けられ、入力軸回転速度が第2変速の変速後ギヤ段の同期回転速度近傍から外れている場合には、判定時間の長期化が解除されるようになっているが、第3発明の実施に際しては、このような長期化解除手段は必ずしも必要ない。その場合は、戻り多重変速の場合だけ判定時間を長期化し、戻り多重変速以外の多重変速では、例えば単一変速の時と同じ通常の判定時間を用いて係合終了判定処理が行われるようにしても良い。
また、特に第4発明のように長期化解除手段を設ける場合等には、多重変速か否かを区別することなく、連続するギヤ段の単一のアップシフトやダウンシフト、或いは飛越し変速を含む総ての変速時に、長期化手段によって長期化された場合と同じ或いは同程度の判定時間を用いて係合終了判定処理が行われるようにしても良い。
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)車両などの横置き型の車両用駆動装置の骨子図であり、ガソリンエンジン等の内燃機関によって構成されているエンジン10の出力は、トルクコンバータ12、自動変速機14を経て、図示しない差動歯車装置から駆動輪(前輪)へ伝達されるようになっている。上記エンジン10は車両走行用の動力源で、トルクコンバータ12は流体継手である。
自動変速機14は、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置20を主体として構成されている第1変速部22と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置26およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置28を主体として構成されている第2変速部30とを同軸線上に有し、入力軸32の回転を変速して出力歯車34から出力する。入力軸32は入力部材に相当するもので、本実施例ではトルクコンバータ12のタービン軸であり、出力歯車34は出力部材に相当するもので、差動歯車装置を介して左右の駆動輪を回転駆動する。なお、自動変速機14は中心線に対して略対称的に構成されており、図1では中心線の下半分が省略されている。
上記第1変速部22を構成している第1遊星歯車装置20は、サンギヤS1、キャリアCA1、およびリングギヤR1の3つの回転要素を備えており、サンギヤS1が入力軸32に連結されて回転駆動されるとともに、リングギヤR1が第3ブレーキB3を介して回転不能にケース36に固定されることにより、キャリアCA1が中間出力部材として入力軸32に対して減速回転させられて出力する。また、第2変速部30を構成している第2遊星歯車装置26および第3遊星歯車装置28は、一部が互いに連結されることによって4つの回転要素RM1〜RM4が構成されており、具体的には、第3遊星歯車装置28のサンギヤS3によって第1回転要素RM1が構成され、第2遊星歯車装置26のリングギヤR2および第3遊星歯車装置28のリングギヤR3が互いに連結されて第2回転要素RM2が構成され、第2遊星歯車装置26のキャリアCA2および第3遊星歯車装置28のキャリアCA3が互いに連結されて第3回転要素RM3が構成され、第2遊星歯車装置26のサンギヤS2によって第4回転要素RM4が構成されている。上記第2遊星歯車装置26および第3遊星歯車装置28は、キャリアCA2およびCA3が共通の部材にて構成されているとともに、リングギヤR2およびR3が共通の部材にて構成されており、且つ第2遊星歯車装置26のピニオンギヤが第3遊星歯車装置28の第2ピニオンギヤを兼ねているラビニヨ型の遊星歯車列とされている。
上記第1回転要素RM1(サンギヤS3)は第1ブレーキB1によって選択的にケース36に連結されて回転停止させられ、第2回転要素RM2(リングギヤR2、R3)は第2ブレーキB2によって選択的にケース36に連結されて回転停止させられ、第4回転要素RM4(サンギヤS2)は第1クラッチC1を介して選択的に前記入力軸32に連結され、第2回転要素RM2(リングギヤR2、R3)は第2クラッチC2を介して選択的に入力軸32に連結され、第1回転要素RM1(サンギヤS3)は中間出力部材である前記第1遊星歯車装置20のキャリアCA1に一体的に連結され、第3回転要素RM3(キャリアCA2、CA3)は前記出力歯車34に一体的に連結されて回転を出力するようになっている。
上記クラッチC1、C2およびブレーキB1、B2、B3(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)は、多板式のクラッチやバンドブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置であり、油圧制御回路98(図3参照)のリニアソレノイド弁SL1〜SL5の励磁、非励磁や図示しないマニュアルバルブによって油圧回路が切り換えられることにより、図2に示すように係合、解放状態が切り換えられ、シフトレバー72(図3参照)の操作位置(ポジション)に応じて前進6段、後進1段の各ギヤ段が成立させられる。図2の「1st」〜「6th」は前進の第1速ギヤ段〜第6速ギヤ段を意味しており、「Rev」は後進ギヤ段であり、それ等の変速比(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT )は、前記第1遊星歯車装置20、第2遊星歯車装置26、および第3遊星歯車装置28の各ギヤ比ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。図2の「○」は係合、空欄は解放を意味している。
上記シフトレバー72は、例えば図4に示すシフトパターンに従って駐車ポジション「P」、後進走行ポジション「R」、ニュートラルポジション「N」、前進走行ポジション「D」、「4」、「3」、「2」、「L」へ操作されるようになっており、「P」および「N」ポジションでは動力伝達を遮断するニュートラルが成立させられるが、「P」ポジションでは図示しないメカニカルパーキング機構によって機械的に駆動輪の回転が阻止される。
図3は、図1のエンジン10や自動変速機14などを制御するために車両に設けられた制御系統を説明するブロック線図で、アクセルペダル50の操作量(アクセル開度)Accがアクセル操作量センサ51により検出されるようになっている。アクセルペダル50は、運転者の出力要求量に応じて大きく踏み込み操作されるもので、アクセル操作部材に相当し、アクセル操作量Accは出力要求量に相当する。また、エンジン10の吸気配管には、スロットルアクチュエータ54によって開度θTHが変化させられる電子スロットル弁56が設けられている。この他、エンジン10の回転速度NEを検出するためのエンジン回転速度センサ58、エンジン10の吸入空気量Qを検出するための吸入空気量センサ60、吸入空気の温度TA を検出するための吸入空気温度センサ62、上記電子スロットル弁56の全閉状態(アイドル状態)およびその開度θTHを検出するためのアイドルスイッチ付スロットルセンサ64、車速Vに対応する出力歯車34の回転速度(出力軸回転速度に相当)NOUT を検出するための車速センサ66、エンジン10の冷却水温TW を検出するための冷却水温センサ68、フットブレーキ操作の有無を検出するためのブレーキスイッチ70、シフトレバー72のレバーポジション(操作位置)PSHを検出するためのレバーポジションセンサ74、タービン回転速度NTを検出するためのタービン回転速度センサ76、油圧制御回路98内の作動油の温度であるAT油温TOIL を検出するためのAT油温センサ78、イグニッションスイッチ82などが設けられており、それらのセンサから、エンジン回転速度NE、吸入空気量Q、吸入空気温度TA 、スロットル弁開度θTH、車速V(出力軸回転速度NOUT )、エンジン冷却水温TW 、ブレーキ操作の有無、シフトレバー72のレバーポジションPSH、タービン回転速度NT、AT油温TOIL 、イグニッションスイッチ82の操作位置などを表す信号が電子制御装置90に供給されるようになっている。上記タービン回転速度NTは、入力部材である入力軸32の回転速度(入力軸回転速度NIN)と同じである。
油圧制御回路98は、自動変速機14の変速制御に関して図5に示す回路を備えている。図5において、オイルポンプ40から圧送された作動油は、リリーフ型の第1調圧弁100により調圧されることによって第1ライン圧PL1とされる。オイルポンプ40は、例えば前記エンジン10によって回転駆動される機械式ポンプである。第1調圧弁100は、タービントルクTT すなわち自動変速機14の入力トルクTIN、或いはその代用値であるスロットル弁開度θTHに応じて第1ライン圧PL1を調圧するもので、その第1ライン圧PL1は、シフトレバー72に連動させられるマニュアルバルブ104に供給される。そして、シフトレバー72が「D」ポジション等の前進走行ポジションへ操作されているときには、このマニュアルバルブ104から第1ライン圧PL1と同じ大きさの前進ポジション圧PD がリニアソレノイド弁SL1〜SL5へ供給される。リニアソレノイド弁SL1〜SL5は、それぞれ前記クラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3に対応して配設されており、電子制御装置90から出力される駆動信号に従ってそれぞれ励磁状態が制御されることにより、それ等の係合油圧PC1、PC2、PB1、PB2、PB3がそれぞれ独立に制御され、これにより第1速ギヤ段「1st」〜第6速ギヤ段「6th」の何れかを択一的に成立させることができる。リニアソレノイド弁SL1〜SL5は何れも大容量型で、出力油圧がそのままクラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3に供給され、それ等の係合油圧PC1、PC2、PB1、PB2、PB3を直接制御する直接圧制御が行われる。
前記電子制御装置90は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、図6に示すようにエンジン制御手段120および変速制御手段130の各機能を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用と変速制御用とに分けて構成される。
エンジン制御手段120は、エンジン10の出力制御を行うもので、前記スロットルアクチュエータ54により電子スロットル弁56を開閉制御する他、燃料噴射量制御のために燃料噴射弁92(図3参照)を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置94を制御する。電子スロットル弁56の制御は、例えば図7に示す関係から実際のアクセル操作量Accに基づいてスロットルアクチュエータ54を駆動し、アクセル操作量Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させる。また、エンジン10の始動時には、スタータ(電動モータ)96によってクランキングする。
変速制御手段130は、自動変速機14の変速制御を行うもので、例えば図8に示す予め記憶された変速線図(変速マップ)から実際のスロットル弁開度θTHおよび車速Vに基づいて自動変速機14の変速すべきギヤ段を決定し、すなわち現在のギヤ段から変速先のギヤ段への変速判断を実行し、その決定されたギヤ段への変速作動を開始させる変速出力を実行するとともに、駆動力変化などの変速ショックが発生したりクラッチCやブレーキBの摩擦材の耐久性が損なわれたりすることがないように、油圧制御回路98のリニアソレノイド弁SL1〜SL5の励磁状態を連続的に変化させる。前記図2から明らかなように、本実施例の自動変速機14は、クラッチCおよびブレーキBの何れか1つを解放するとともに他の1つを係合させるクラッチツークラッチ変速により、連続するギヤ段の変速が行われるようになっている。図8の実線はアップシフト線で、破線はダウンシフト線であり、車速Vが低くなったりスロットル弁開度θTHが大きくなったりするに従って、変速比が大きい低速側のギヤ段に切り換えられるようになっており、図中の「1」〜「6」は第1速ギヤ段「1st」〜第6速ギヤ段「6th」を意味している。
そして、シフトレバー72が「D」ポジションへ操作されると、総ての前進ギヤ段「1st」〜「6th」を用いて自動的に変速する最上位のDレンジ(自動変速モード)が成立させられる。また、シフトレバー72が「4」〜「L」ポジションへ操作されると、4、3、2、Lの各変速レンジが成立させられる。4レンジでは第4速ギヤ段「4th」以下の前進ギヤ段で変速制御が行われ、3レンジでは第3速ギヤ段「3rd」以下の前進ギヤ段で変速制御が行われ、2レンジでは第2速ギヤ段「2nd」以下の前進ギヤ段で変速制御が行われ、Lレンジでは第1速ギヤ段「1st」に固定される。したがって、例えばDレンジの第6速ギヤ段「6th」で走行中に、シフトレバー72を「D」ポジションから「4」ポジション、「3」ポジション、「2」ポジションへ操作すると、変速レンジがD→4→3→2へ切り換えられて、第6速ギヤ段「6th」から第4速ギヤ段「4th」、第3速ギヤ段「3rd」、第2速ギヤ段「2nd」へ強制的にダウンシフトさせられ、手動操作でギヤ段を変更することができる。
上記変速制御手段130は多重変速手段132を備えており、第1変速中に第2変速が出力された多重変速時には、第1変速を実行させるための第1変速制御から第2変速を実行させるための第2変速制御へ直ちに切り換えるようになっている。例えば、図10のタイムチャートは、アクセル操作量Accの減少により第4速ギヤ段「4th」から第5速ギヤ段「5th」へのアップシフト判断が為され(時間t1 )、第1クラッチC1を解放するとともに第3ブレーキB3を係合させる4→5アップシフト制御(第1変速制御)を実行している際に、その変速動作の途中で車速Vの低下に伴って第5速ギヤ段「5th」から第4速ギヤ段「4th」へのダウンシフト判断が為され(時間t2 )、上記第1クラッチC1を再び係合するとともに第3ブレーキB3を解放する5→4ダウンシフト制御(第2変速制御)を直ちに実行する戻り多重変速の場合である。図10の油圧指示値1は第3ブレーキB3に関するもので、油圧指示値2は第1クラッチC1に関するもので、実油圧2は、その第1クラッチC1の油圧PC1である。この場合は、第1クラッチC1が、第2変速制御で係合させられる係合側摩擦係合装置に相当する。
図6に戻って、前記電子制御装置90は、自動変速機14の変速制御に関連して更に係合終了判定手段134を備えている。係合終了判定手段134は、予め定められた係合終了判定条件を満足する場合、具体的には自動変速機14の入力軸回転速度すなわちタービン回転速度NTが、所定の判定時間hanteiT以上継続して変速後ギヤ段の同期回転速度近傍にある場合に、その変速制御で係合させられる係合側摩擦係合装置の係合が終了した旨の係合終了判定を行う。変速後ギヤ段の同期回転速度は、変速後ギヤ段の変速比に出力軸回転速度NOUT を掛け算することによって求められ、タービン回転速度NTがその同期回転速度の近傍、例えばタービン回転速度センサ76の誤差±αの範囲内に所定の判定時間hanteiT以上継続して保持されている場合は、係合側摩擦係合装置が完全に係合したものと判断するのである。また、多重変速の場合には、第2変速の変速後ギヤ段の同期回転速度近傍に所定の判定時間hanteiT以上保持されたか否かによって係合終了判定を行う。
上記係合終了判定の基準となる判定時間hanteiTは、変速制御の態様すなわちアップシフトかダウンシフトか、駆動状態のパワーONか被駆動状態のパワーOFFか、或いは変速の種類(どのギヤ段からどのギヤ段への変速か)、などに応じて適宜定められる。例えばパワーON変速では、クラッチCやブレーキBの係合力でタービン回転速度NTが同期回転速度に保持されるため、比較的短時間で係合終了判定を行うことができる。そして、このように係合終了判定が為されると、多重変速手段132を含む前記変速制御手段130は、係合側摩擦係合装置の油圧を定常値であるMAX圧(第1ライン圧PL1)まで上昇させて完全係合させるとともに、必要に応じて油圧制御パターン等を学習補正するなどの終了処理を実行し、一連の変速制御を終了する。
前記図10において実線で示すタイムチャートでは、時間t6 でタービン回転速度NTが第2変速の変速後ギヤ段「4th」の同期回転速度ntdoki4付近に到達し、そこから判定時間hanteiTが経過した時間t7 で係合終了判定手段134により第1クラッチC1の係合終了判定が為され、その係合終了判定に伴って多重変速手段132により時間t8 で第1クラッチC1に関する油圧指示値2がMAX値まで一気に上昇させられて、一連の変速制御が終了する。
ところで、上記図10においては、5→4ダウンシフト出力(時間t2 )の直後においても、タービン回転速度NTが変速後ギヤ段「4th」の同期回転速度ntdoki4の近傍に停滞しており、実油圧2(PC1)のグラフから明らかなように第1クラッチC1が解放状態であるにも拘らず、係合終了判定手段134により係合終了判定が為される可能性がある。すなわち、4→5アップシフトで第1クラッチC1が解放されても、タービン回転速度NTはエンジン10やトルクコンバータ12等の慣性によりしばらくは変速前ギヤ段である第4速ギヤ段「4th」の同期回転速度ntdoki4の近傍に停滞しているため、その間に5→4ダウンシフトの変速出力が為されると、例えば時間t3 で誤って係合終了判定が為される可能性があるのである。そして、このように係合終了判定が為されると、変速制御の終了処理により破線で示すように時間t4 で第1クラッチC1の油圧指示値2がMAX値まで一気に高められて第1クラッチC1が完全係合させられるが、油圧指示値2に従って実油圧2(PC1)がMAX圧(第1ライン圧PL1)に達するまでには、リニアソレノイドバルブSL1の応答遅れなどで時間が掛かる。このため、実油圧2がMAX圧に達して第1クラッチC1が完全係合させられる時間t5 までの間にタービン回転速度NTが低下し、その状態で実油圧2がMAX圧まで急上昇させられて第1クラッチC1が係合させられることにより、タービン回転速度NTが破線で示すように急に持ち上げられ、この時の回転速度変化に起因してショックが発生することがある。
これに対し、本実施例では、前記図6に示すように係合判定禁止手段136および判定禁止解除手段138を備えている。これ等の係合判定禁止手段136および判定禁止解除手段138は、前記係合終了判定手段134と同様に電子制御装置90の信号処理によって実行される。図9は、係合終了判定手段134との関係で係合判定禁止手段136および判定禁止解除手段138の機能を具体的に説明するフローチャートで、何らかの変速制御が開始された場合に例えば十数m秒程度のサイクルタイムで繰り返し実行される。この図9のフローチャートにおいて、ステップS1およびS3は係合判定禁止手段136に相当し、ステップS2、S4、およびS5は判定禁止解除手段138に相当し、ステップS6およびS7は係合終了判定手段134に相当する。この実施例は第1発明、第2発明の一実施例に相当する。
図9のステップS1では多重変速か否かを判断し、多重変速の場合にはステップS2以下を実行するが、多重変速でない場合には直ちにステップS6を実行し、前記係合終了判定手段134により係合終了判定条件を満足するか否かを判断するとともに、係合終了判定条件を満足するようになったら、ステップS7で係合終了判定を行う。すなわち、連続するギヤ段の単一のアップシフトやダウンシフト、或いは飛越し変速では、タービン回転速度NTが係合側摩擦係合装置の係合以外の要因で変速後ギヤ段の同期回転速度近傍に滞留して係合終了を誤判定する可能性が無いため、直ちに係合終了判定手段134による係合終了判定処理を行うのである。
多重変速の場合に実行するステップS2では、タービン回転速度NTが第2変速の変速後ギヤ段の同期回転速度(図10のntdoki4)近傍か否かを判断し、同期回転速度近傍の場合はステップS3を実行する。同期回転速度近傍か否かは、前記係合終了判定手段134の係合終了判定条件と同じ基準で判断すれば良い。また、ステップS3では、第2変速の出力時点(図10の時間t2 )からの経過時間が予め定められた待機期間timeTに達したか否かを判断し、待機期間timeTに達するまではステップS2以下を繰り返すが、待機期間timeTに達したらステップS6以下を実行し、係合終了判定処理を行う。待機期間timeTは、戻り多重変速において係合側摩擦係合装置の係合以外の要因、例えば各部の慣性や摩擦、エンジン10の出力の応答遅れなどにより、タービン回転速度NTが同期回転速度近傍に保持される可能性が完全に、或いは殆ど無くなるのに必要な時間であり、余裕を持って予め一定時間が定められる。
これにより、図10に示すような戻り多重変速において、実油圧2(PC1)が低くて係合側摩擦係合装置である第1クラッチC1が係合していないにも拘らず、時間t3 等で誤って係合終了判定が為されることが防止される。また、待機期間timeTが経過すると、ステップS6以下の係合終了判定処理が行われるようになるが、待機期間timeTが経過した後まで第1クラッチC1の係合以外の要因でタービン回転速度NTが同期回転速度ntdoki4の近傍に保持されることはなく、実際に実油圧2(PC1)が上昇して第1クラッチC1がトルクを持つことにより、その第1クラッチC1の係合に基づいてタービン回転速度NTが引き上げられ、同期回転速度ntdoki4の近傍に達する(時間t6 )とともに判定時間hanteiTが経過した時間t7 において始めて係合終了判定が為されるようになる。したがって、その終了判定に伴って時間t8 で第1クラッチC1の油圧指示値2がMAX値まで一気に上昇させられても、ショックを生じることなく第1クラッチC1がMAX圧で完全係合させられるようになり、一連の変速制御が適正に終了させられる。
一方、前記ステップS2の判断がNOの場合、すなわちタービン回転速度NTが第2変速の変速後ギヤ段の同期回転速度近傍から外れている場合には、ステップS4を実行する。ステップS4では、ステップS2の判断がNO(否定)となった同期判定不成立の回数を、1回のサイクルタイム毎にカウントアップ(計数)する。このカウンタは、ステップS2の判断がYES(肯定)になった場合にはリセットされ、同期判定不成立の連続回数を計数するようになっている。また、ステップS5では、その不成立回数が予め定められた所定回数以上になったか否かを判断し、所定回数以上になるまではステップS2以下を繰り返すが、所定回数以上になったらステップS6以下を実行して係合終了判定処理を行う。ステップS5の所定回数は、タービン回転速度センサ76のノイズなどで誤って同期判定不成立と判定された場合に、直ちにステップS6以下の係合終了判定処理が行われて係合終了判定が為されることを防止するためのもので、予め数回程度の値が定められているが、これに要する時間は前記待機期間timeTよりも十分に短い。
したがって、戻り多重変速以外の多重変速の場合、通常はステップS2の判断がNO(否定)となり、ステップS2、S4、S5の判定禁止解除手段138の信号処理を所定回数だけ繰り返した後、直ちにステップS6以下の係合終了判定処理へ移行する。これにより、戻り多重変速以外の多重変速では、ステップS3による係合終了判定処理の実施の禁止の影響を殆ど受けることなく係合終了判定処理が行われ、従来と同程度の変速時間で変速制御が終了させられる。また、戻り多重変速の場合でも、タービン回転速度NTが第2変速の変速後ギヤ段の同期回転速度近傍から外れている場合、或いは変速開始当初は同期回転速度近傍であっても、その後に外れた場合には、ステップS2、S4、S5を所定回数だけ繰り返した後、ステップS6以下の係合終了判定処理へ移行するため、係合終了判定処理の実施の禁止期間が必要最小限とされる。
このように、本実施例の変速制御装置は係合判定禁止手段136を備えており、多重変速時には、ステップS3の実行により第2変速の出力時点(図10の時間t2 )から所定の待機期間timeTが経過するまで、ステップS6以下のタービン回転速度NTに基づく係合終了判定処理の実施が禁止されるため、第2変速制御の開始直後にタービン回転速度NTが第2変速の変速後ギヤ段の同期回転速度(図10のntdoki4)の近傍にある場合でも、直ちに係合終了判定が為される恐れはない。このため、係合側摩擦係合装置(図10では第1クラッチC1)の係合以外の要因でタービン回転速度NTが同期回転速度(ntdoki4)の近傍に停滞している場合に、時間t3 で誤って係合終了判定が為され、破線で示すように係合側摩擦係合装置(第1クラッチC1)の油圧(実油圧2)をMAX圧まで高めて変速制御を終了する際に、その油圧上昇の応答遅れの間にタービン回転速度NTが変化し、係合側摩擦係合装置(第1クラッチC1)の係合に伴うタービン回転速度NTの急変化でショックが発生するという問題が解消する。
一方、上記待機期間timeTが経過するとステップS6以下の係合終了判定処理を実行し、タービン回転速度NTに基づく係合終了判定が許容されるが、待機期間timeTが経過した後まで係合側摩擦係合装置(第1クラッチC1)の係合以外の要因でタービン回転速度NTが同期回転速度(ntdoki4)の近傍に保持されることはないため、待機期間timeTが経過した後に係合終了判定が為された場合(時間t6 〜t7 )は、係合側摩擦係合装置(第1クラッチC1)が実際に係合させられている可能性が高い。したがって、その係合終了判定に伴って第2変速制御の終了処理が行われ、係合側摩擦係合装置(第1クラッチC1)の油圧指示値2がMAX値まで一気に上昇させられても(時間t8 )、ショックを生じることなく係合側摩擦係合装置(第1クラッチC1)がMAX圧で完全係合させられるようになり、一連の変速制御が適正に終了させられる。
また、本実施例では、ステップS2でタービン回転速度NTが第2変速の変速後ギヤ段の同期回転速度(ntdoki4)の近傍から外れているか否かを判定し、前記待機期間timeTが経過する前に同期回転速度(ntdoki4)から外れた旨の判定が為された場合(ステップS5の判断がYES)は、係合終了判定処理の実施の禁止が解除されて直ちにステップS6以下の係合終了判定処理が行われるため、係合終了判定処理の実施の禁止期間が必要最小限とされる。すなわち、タービン回転速度NTが同期回転速度(ntdoki4)の近傍から外れている場合には、直ちに係合終了判定が為されて変速制御の終了処理が行われ、係合側摩擦係合装置(第1クラッチC1)が急係合させられてショックを生じる恐れはない一方、その後にタービン回転速度NTが同期回転速度(ntdoki4)の近傍に入った場合は係合側摩擦係合装置(第1クラッチC1)の係合によるもので、係合終了判定が為されることにより変速制御が適正に且つ速やかに終了させられるのであり、戻り多重変速以外の多重変速などで係合終了判定処理の実施の禁止により変速制御時間が不必要に長びくことが防止される。これにより、電子制御装置90の変速制御に要する負荷が軽減されるとともに、多重変速が抑制される等の効果が得られる。
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の実施例において前記実施例と実質的に共通する部分には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
図11は前記図6に相当する機能ブロック線図で、前記係合判定禁止手段136および判定禁止解除手段138の代りに判定時間長期化手段140および長期化解除手段142を備えており、電子制御装置90の信号処理によって機能が実行される。図12は、前記係合終了判定手段134との関係で判定時間長期化手段140および長期化解除手段142の機能を具体的に説明するフローチャートで、何らかの変速制御が開始された場合に例えば十数m秒程度のサイクルタイムで繰り返し実行される。図12のフローチャートにおいて、ステップR1およびR2は判定時間長期化手段140に相当し、ステップR3、R6、およびR7は長期化解除手段142に相当し、ステップR4、R5、およびR9は係合終了判定手段134に相当する。また、図13は前記図10に対応する図で、戻り多重変速時のタイムチャートの一例である。この実施例は第3発明、第4発明の一実施例で、判定時間長期化手段140は長期化手段に相当する。なお、ステップR1、R3、R6、R7は、それぞれ前記ステップS1、S2、S4、S5と同じ信号処理を行うものであるため、詳しい説明を省略する。
図12のステップR1では多重変速か否かを判断し、多重変速でない通常の変速時にはステップR8で判定時間hanteiTとして予め定められた第1時間TH1を設定する。また、ステップR9では、その判定時間hanteiT=TH1を基準として係合終了判定条件を満足するか否か、具体的には自動変速機14の入力軸回転速度すなわちタービン回転速度NTが、その判定時間hanteiT=TH1以上継続して第2変速の変速後ギヤ段の同期回転速度近傍にあるか否かを判断する。そして、タービン回転速度NTが判定時間hanteiT=TH1以上継続して変速後ギヤ段の同期回転速度近傍にある場合には、ステップR5を実行し、その変速制御で係合させられる係合側摩擦係合装置の係合が終了した旨の係合終了判定を行う。
ここで、多重変速以外の変速、すなわち連続するギヤ段の単一のアップシフトやダウンシフト、或いは飛越し変速では、タービン回転速度NTが係合側摩擦係合装置の係合以外の要因で変速後ギヤ段の同期回転速度近傍に滞留して係合終了を誤判定する可能性が低いため、前記判定時間hanteiTすなわち第1時間TH1としては、比較的短い時間を設定することができる。また、変速制御の態様すなわちアップシフトかダウンシフトか、駆動状態のパワーONか被駆動状態のパワーOFFか、或いは変速の種類(どのギヤ段からどのギヤ段への変速か)、などに応じて適宜定められ、例えばパワーON変速ではクラッチCやブレーキBの係合力でタービン回転速度NTが同期回転速度に保持されるため、第1時間TH1として比較的短い時間を設定できる。
一方、多重変速の場合には、ステップR1に続いてステップR2を実行し、判定時間hanteiTとして予め定められた第2時間TH2を設定する。ステップR3では、タービン回転速度NTが第2変速の変速後ギヤ段の同期回転速度近傍か否かを判断し、同期回転速度近傍の場合は、ステップR4でその判定時間hanteiT=TH2を基準として係合終了判定条件を満足するか否か、具体的には自動変速機14の入力軸回転速度すなわちタービン回転速度NTが、その判定時間hanteiT=TH2以上継続して変速後ギヤ段の同期回転速度近傍にあるか否かを判断し、判定時間hanteiT=TH2以上に達するまでステップR3以下を繰り返す。そして、タービン回転速度NTが判定時間hanteiT=TH2以上継続して変速後ギヤ段の同期回転速度近傍にあると、ステップR4の判断がYES(肯定)になってステップR5を実行し、その変速制御で係合させられる係合側摩擦係合装置の係合が終了した旨の係合終了判定を行う。
この場合の判定時間hanteiTすなわち第2時間TH2は、戻り多重変速において係合側摩擦係合装置の係合以外の要因、例えば各部の慣性や摩擦、エンジン10の出力の応答遅れなどにより、タービン回転速度NTが同期回転速度近傍に保持される可能性が完全に、或いは殆ど無くなるのに必要な時間よりも長い時間で、前記第1時間TH1よりも十分に長く、余裕を持って予め一定時間が定められても良いが、変速制御の態様すなわちアップシフトかダウンシフトか、駆動状態のパワーONか被駆動状態のパワーOFFか、或いは変速の種類(どのギヤ段からどのギヤ段への変速か)、などに応じてきめ細かく設定されるようにすることもできる。
これにより、図13に示すような戻り多重変速において、実油圧2(PC1)が低くて係合側摩擦係合装置である第1クラッチC1が係合していないにも拘らず、通常の判定時間hanteiT=TH1による係合終了判定処理により時間t3 で誤って係合終了判定が為されることが防止される。また、タービン回転速度NTが第2変速の変速後ギヤ段の同期回転速度近傍に保持されたまま、判定時間hanteiT=TH2に達してステップR4の判断がYES(肯定)になると、ステップR5で係合終了判定が行われるが、判定時間hanteiT=TH2に達するまで第1クラッチC1の係合以外の要因でタービン回転速度NTが同期回転速度ntdoki4の近傍に保持されることはないため、第1クラッチC1の係合に基づいてタービン回転速度NTが同期回転速度ntdoki4の近傍に保持されていると考えられる。したがって、その係合終了判定に伴って第1クラッチC1の油圧指示値2がMAX値まで一気に上昇させられても、ショックを生じることなく第1クラッチC1がMAX圧で完全係合させられるようになり、一連の変速制御が適正に終了させられる。
一方、前記ステップR3の判断がNO(否定)の場合、すなわち多重変速であっても第2変速の変速出力時点からタービン回転速度NTが第2変速の変速後ギヤ段の同期回転速度近傍から外れている場合、或いは図13のように戻り多重変速で最初は同期回転速度近傍に保持されていたが判定時間hanteiT=TH2に達する前に同期回転速度近傍から逸脱した場合には、ステップR3に続いてステップR6およびR7を実行する。そして、ステップR3の判断がNO(否定)となった同期判定不成立の連続回数が所定回数以上になると、ステップR7の判断がYES(肯定)になって前記ステップR8へ移行し、通常の変速時の判定時間hanteiT=TH1を基準として係合終了判定処理を行う。
これにより、戻り多重変速以外の多重変速では、ステップR2による判定時間hanteiTの長期化による影響を殆ど受けることなく、ステップR8へ移行して通常の判定時間hanteiT=TH1で係合終了判定処理が行われるため、従来と同程度の変速時間で変速制御が終了させられる。また、戻り多重変速の場合でも、タービン回転速度NTが第2変速の変速後ギヤ段の同期回転速度近傍から外れている場合、或いは変速開始当初は同期回転速度近傍であっても、その後に外れた場合には、同じくステップR8へ移行して通常の判定時間hanteiT=TH1で係合終了判定処理が行われるため、ステップR2による判定時間hanteiTの長期化による影響が必要最小限とされる。
このように、本実施例の変速制御装置は判定時間長期化手段140を備えており、係合終了判定手段134によって係合終了判定処理が行われる際に基準となる判定時間hanteiTとして、多重変速時には単一変速時よりも長い第2時間TH2が設定されるため、第2変速の出力時点(図13の時間t2 )でタービン回転速度NTが第2変速の変速後ギヤ段の同期回転速度(図13のntdoki4)の近傍にある場合でも、係合側摩擦係合装置(図13では第1クラッチC1)の係合以外の要因でタービン回転速度NTが同期回転速度(ntdoki4)の近傍に停滞している時には、係合終了判定が為される前にタービン回転速度NTが同期回転速度(ntdoki4)の近傍から逸脱し、係合終了判定手段134による係合終了判定が否定される。したがって、係合側摩擦係合装置(第1クラッチC1)の係合以外の要因でタービン回転速度NTが同期回転速度(ntdoki4)の近傍に停滞している場合に誤って係合終了判定が為され、図13に破線で示すように係合側摩擦係合装置(第1クラッチC1)の油圧(実油圧2)をMAX圧まで高めて変速制御を終了する際に、その油圧上昇の応答遅れの間にタービン回転速度NTが変化し、係合側摩擦係合装置(第1クラッチC1)の係合に伴うタービン回転速度NTの急変化でショックが発生するという問題が解消する。
一方、第2変速の出力時点(図13の時間t2 )でタービン回転速度NTが第2変速の変速後ギヤ段の同期回転速度(ntdoki4)の近傍にある場合でも、判定時間hanteiT=TH2以上継続してその同期回転速度(ntdoki4)の近傍に維持されている場合には、ステップR4の判断がYES(肯定)になって係合終了判定が為されるが、判定時間hanteiT=TH2以上継続して係合側摩擦係合装置(第1クラッチC1)の係合以外の要因でタービン回転速度NTが同期回転速度(ntdoki4)の近傍に保持されることはないため、係合側摩擦係合装置(第1クラッチC1)が実際に係合させられている可能性が高い。したがって、その係合終了判定に伴って第2変速制御の終了処理が行われ、係合側摩擦係合装置(第1クラッチC1)の油圧指示値2がMAX値まで一気に上昇させられても、ショックを生じることなく係合側摩擦係合装置(第1クラッチC1)がMAX圧で完全係合させられるようになり、一連の変速制御が適正に終了させられる。
また、本実施例では、ステップR3でタービン回転速度NTが第2変速の変速後ギヤ段の同期回転速度(ntdoki4)の近傍から外れているか否かを判定し、その同期回転速度(ntdoki4)から外れた旨の判定が為された場合(ステップR7の判断がYES)は、ステップR8へ移行して通常の判定時間hanteiT=TH1を基準として係合終了判定処理が行われるようになるため、タービン回転速度NTが同期回転速度(ntdoki4)の近傍から逸脱した後、再び同期回転速度(ntdoki4)の近傍に入った場合の係合終了判定(図13の時間t6 〜T7 )が速やかに行われる。すなわち、タービン回転速度NTが同期回転速度(ntdoki4)の近傍から外れた後再び同期回転速度(ntdoki4)の近傍に入った場合は、係合側摩擦係合装置(第1クラッチC1)の係合に基づくものと考えられるため、単一変速時と同様に比較的短時間で係合終了判定を行うことが可能なのであり、変速制御が適正に且つ速やかに終了させられるとともに、判定時間hanteiTの長期化により変速制御時間が不必要に長びくことが防止される。これにより、電子制御装置90の変速制御に要する負荷が軽減されるとともに、多重変速が抑制される等の効果が得られる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
14:自動変速機 90:電子制御装置 130:変速制御手段 132:多重変速手段 134:係合終了判定手段 136:係合判定禁止手段 138:判定禁止解除手段 140:判定時間長期化手段(長期化手段) 142:長期化解除手段 NT:タービン回転速度(入力軸回転速度) C1、C2:クラッチ(摩擦係合装置) B1〜B3:ブレーキ(摩擦係合装置) timeT:待機期間 hanteiT:判定時間