図1は、車両用自動変速機(以下、自動変速機という)10の骨子図であり、図2は複数の変速段を成立させる際の摩擦係合要素すなわち摩擦係合装置の作動状態を説明する作動表である。この自動変速機10は、車両の左右方向(横置き)に搭載するFF車両に好適に用いられるものであって、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース26内において、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置12を主体として構成されている第1変速部14と、ダブルピニオン型の第2遊星歯車装置16およびシングルピニオン型の第3遊星歯車装置18を主体としてラビニヨ型に構成されている第2変速部20とを共通の軸心C上に有し、入力軸22の回転を変速して出力回転部材24から出力する。この入力軸22は入力部材に相当するものであり、本実施例では走行用の動力源であるエンジン30によって回転駆動される流体式伝動装置としてのトルクコンバータ32のタービン軸である。また、出力回転部材24は自動変速機10の出力部材に相当するものであり、図3に示す差動歯車装置40に動力を伝達するためにそのデフドリブンギヤ(大径歯車)42と噛み合う出力歯車すなわちデフドライブギヤとして機能している。エンジン30の出力は、トルクコンバータ32、自動変速機10、差動歯車装置40、および一対の車軸44を経て一対の駆動輪46へ伝達されるようになっている(図3参照)。なお、この自動変速機10やトルクコンバータ32は中心線(軸心)Cに対して略対称的に構成されており、図1の骨子図においてはその中心線Cの下半分が省略されている。
トルクコンバータ32は、エンジン30の動力を流体を介することなく入力軸22に直接伝達するロックアップクラッチ34を備えている。このロックアップクラッチ34は、係合側油室36内の油圧と解放側油室38内の油圧との差圧ΔPにより摩擦係合させられる油圧式摩擦クラッチであり、それが完全係合(ロックアップON)させられることにより、エンジン30の動力が入力軸22に直接伝達される。また、所定の目標スリップ回転速度で係合するように差圧ΔPすなわちトルク容量がフィードバック制御されることにより、例えば50rpm程度の所定のスリップ量でタービン軸(入力軸22)をエンジン30の出力回転部材(クランク軸)に対して追従回転させる。
自動変速機10は、第1変速部14および第2変速部20の各回転要素(サンギヤS1〜S3、キャリアCA1〜CA3、リングギヤR1〜R3)の連結状態に応じて第1速ギヤ段「1st」〜第6速ギヤ段「6th」の6つの前進ギヤ段が成立させられるとともに、後進ギヤ段「R」が成立させられる。図2に示すように、例えば前進ギヤ段では、クラッチC1とブレーキB2との係合により第1速ギヤ段「1st」が、クラッチC1とブレーキB1との係合により第2速ギヤ段「2nd」が、クラッチC1とブレーキB3との係合により第3速ギヤ段「3rd」が、クラッチC1とクラッチC2との係合により第4速ギヤ段「4th」が、クラッチC2とブレーキB3との係合により第5速ギヤ段「5th」が、クラッチC2とブレーキB1との係合により第6速ギヤ段「6th」が、それぞれ成立させられるようになっている。また、ブレーキB2とブレーキB3との係合により後進ギヤ段「R」が成立させられ、クラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3のいずれも解放されることによりニュートラル状態となるように構成されている。
図2の作動表は、上記各ギヤ段とクラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3の作動状態との関係をまとめたものであり、「○」は係合、「◎」はエンジンブレーキ時のみ係合を表している。第1速ギヤ段「1st」を成立させるブレーキB2には並列に一方向クラッチF1が設けられているため、発進時(加速時)にはクラッチC1のみを係合させ、エンジンブレーキを作用させるときにはクラッチC1とブレーキB2とを係合させる。また、各ギヤ段の変速比は、第1遊星歯車装置12、第2遊星歯車装置16、および第3遊星歯車装置18の各ギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。
このように本実施例の自動変速機10は、複数の係合装置すなわちクラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3を選択的に係合させることにより変速比が異なる複数のギヤ段を成立させるものであり、図2の作動表から明らかなように、クラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3の何れか2つを掴み替える所謂クラッチツウクラッチにより連続するギヤ段の変速を行うことができる。これ等のクラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)は、多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置であり、油圧制御回路50(図3参照)のリニアソレノイド弁SL1〜SL5の励磁、非励磁や電流制御により、係合、解放状態が切り換えられるとともに係合、解放時の過渡油圧などが制御される。
図3は、図1の自動変速機10などを制御するために車両に設けられた制御系統の要部、およびエンジン30から駆動輪46までの動力伝達系の概略構成を説明するブロック線図である。
図3において、電子制御装置100は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン30の出力制御や自動変速機10の変速制御、ロックアップクラッチ34のON・OFF制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用やリニアソレノイド弁SL1〜SL5を制御する変速制御用、油圧制御回路50のリニアソレノイド弁SLUおよびソレノイド弁SLを制御するロックアップクラッチ制御用等に分けて構成される。
上記電子制御装置100には、アクセル開度センサ54により検出されたアクセルペダル52の操作量であるアクセル開度Accを表すアクセル開度信号、エンジン回転速度センサ56により検出されたエンジン30の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、冷却水温センサ58により検出されたエンジン30の冷却水温TW を表す信号、吸入空気量センサ60により検出されたエンジン30の吸入空気量Qを表す信号、吸入空気温度センサ62により検出された吸入空気の温度TA を表す信号、スロットル弁開度センサ64により検出された電子スロットル弁の開度θTHを表すスロットル弁開度信号、車速センサ66により検出された出力回転部材24の回転速度NOUT すなわち車速Vに対応する車速信号、ブレーキスイッチ70により検出された常用ブレーキであるフットブレーキ(ホイールブレーキ)の作動中(踏込操作中)を示すフットブレーキペダル68の操作(オン)BONを表す信号、レバーポジションセンサ74により検出されたシフトレバー72のレバーポジション(操作位置、シフトポジション)PSHを表す信号、タービン回転速度センサ76により検出されたタービン回転速度NT(=入力軸22の回転速度NIN)を表す信号、AT油温センサ78により検出された油圧制御回路50内の作動油の温度であるAT油温TOIL を表す信号、アップシフトスイッチ80によって検出される変速レンジのアップシフト指令RUPを表す信号、ダウンシフトスイッチ82によって検出される変速レンジのダウンシフト指令RDNを表す信号、などがそれぞれ供給される。
また、電子制御装置100からは、電子スロットル弁の開度θTHを操作するスロットルアクチュエータへの駆動信号、エンジン30の点火時期を指令する点火信号、エンジン30の吸気管または筒内に燃料を供給し或いは停止する燃料噴射装置によるエンジン30への燃料供給量を制御する燃料供給量信号、シフトインジケータを作動させるためのレバーポジションPSH表示信号、自動変速機10のギヤ段を切り換えるために油圧制御回路50内のシフト弁を駆動するシフトソレノイドを制御する信号およびライン圧を制御するリニアソレノイド弁を駆動するための指令信号、ロックアップクラッチ34の係合、解放、スリップ量を制御するリニアソレノイド弁を駆動するための指令信号などがそれぞれ出力される。
前記シフトレバー72は、例えば運転席の近傍に配設され、図3に示すように、5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、または「S」へ手動操作されるようになっている。
「P」ポジションは、自動変速機10内の動力伝達経路を解放、すなわち自動変速機10内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態(中立状態)とし、且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力回転部材24の回転を阻止(ロック)するための駐車ポジション(位置)であり、「R」ポジションは自動変速機10を前記後進ギヤ段「R」として後進走行するための後進走行ポジション(位置)であり、「N」ポジションは自動変速機10内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態とするための中立ポジション(位置)であり、「D」ポジションは自動変速機10の全変速範囲である第1速ギヤ段「1st」〜第6速ギヤ段「6th」の総ての前進ギヤ段を用いて変速制御を行う自動変速モード(Dレンジ)を成立させる前進走行ポジション(位置)であり、「S」ポジションは前進ギヤ段の変速範囲を制限した複数種類の変速レンジを切り換えることにより手動変速が可能なシーケンシャルモード(以下、Sモードという)を成立させる前進走行ポジション(位置)である。この「S」ポジションには、シフトレバー72の操作毎に変速レンジをアップ側にシフトさせるためのアップシフト位置「+」、シフトレバー72の操作毎に変速レンジをダウン側にシフトさせるためのダウンシフト位置「−」が備えられており、それ等の操作が前記アップシフトスイッチ80、ダウンシフトスイッチ82によって検出される。アップシフト位置「+」およびダウンシフト位置「−」は何れも不安定で、シフトレバー72はスプリング等の付勢手段により自動的に「S」ポジションへ戻されるようになっており、アップシフト位置「+」またはダウンシフト位置「−」への操作回数或いは保持時間などに応じて変速レンジが変更される。上記Sモードは、手動変速モードに相当する。
図4は、油圧制御回路50のうちクラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)AC1、AC2、AB1、AB2、AB3の作動を制御するリニアソレノイド弁SL1〜SL5に関する回路図である。各油圧アクチュエータAC1、AC2、AB1、AB2、AB3には、ライン油圧PLがそれぞれリニアソレノイド弁SL1〜SL5により電子制御装置100からの指令信号に応じた係合圧PC1、PC2、PB1、PB2、PB3に調圧されてそれぞれ直接的に供給されるようになっている。このライン油圧PLは、エンジン30により回転駆動される機械式のオイルポンプ28(図1参照)から発生する油圧を元圧として図示しないリリーフ型調圧弁(レギュレータバルブ)によって、アクセル開度Acc或いはスロットル弁開度θTHで表されるエンジン負荷等に応じた値に調圧されるようになっている。リニアソレノイド弁SL1〜SL5は、基本的には何れも同じ構成で、電子制御装置100により独立に励磁、非励磁され、各油圧アクチュエータAC1、AC2、AB1、AB2、AB3の油圧が独立に調圧制御されてクラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3の係合圧PC1、PC2、PB1、PB2、PB3が制御される。そして、自動変速機10は、図2の係合作動表に示すように所定のクラッチC、ブレーキBが係合させられることによって各ギヤ段が成立させられる。
図5は、電子制御装置100による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図5において、要求変速段判定手段102は、自動変速機10の変速制御を行うための変速段を判定するもので、シフトレバー72が「D」ポジションへ操作されることにより前記自動変速モード(Dレンジ)を成立させられた場合において、例えば図6の(a) に示すように車速Vおよびアクセル開度Accをパラメータとして予め設定された変速マップに従って、総ての前進ギヤ段「1st」〜「6th」のうち、何れの変速段を用いるかの判定を行う。ここで判定された変速段が要求変速段であり、また、この要求変速段は電子制御装置100から自動変速機10の油圧制御回路50に出力されるものであるから、変速出力段とも呼ばれる。図6の(a) の変速マップは変速規則に相当するもので、実線はアップシフトを判断するための変速線(アップシフト線)であり、破線はダウンシフトを判断するための変速線(ダウンシフト線)である。また、シフトレバー72が「S」ポジションへ操作されることにより前記Sモードを成立させられ、アップシフト指令RUPやダウンシフト指令RDNに従って図6の(b) に示すように最高速段すなわち変速比が小さい高速側の変速範囲が異なる6つの変速レンジ「D」、「5」、「4」、「3」、「2」、「L」の何れかを電気的に成立させられるとともに、各変速範囲内において前記図6(a) の変速マップに従って自動変速のための変速段の判定を行う。なお、このSモードで成立させられる第1速ギヤ段「1st」は、エンジンブレーキ作用が得られるように前記ブレーキB2が係合させられる。
評価手段104は、変速出力後であって変速が完了していない場合、すなわち変速の過渡期において、自動変速機10の変速段が実効的あるいは実質的に変速前のものであるか、変速後のものであるかを評価する。たとえば、変速出力がされてから実効的に変速後の変速段にあると判断するのに十分な時間を予め実験的に求めておき、実際の変速出力から、前記十分な時間が経過したか否かによって前記評価を行ったり、あるいは、自動変速機の入力軸22の回転速度と出力軸24の回転速度の比が、変速前の変速段の変速比よりも所定量だけ上回ったり下回ったりしているか否か、入力軸の回転変化の発生により開始するイナーシャ相が開始されているか否かなどによって前記評価を行ったりする。さらに、変速において解放される自動変速機の係合要素の係合油圧が所定値を下回ったか否かによっても前記評価を行うこともできる。
変更手段106は、前記要求変速段判定手段102によって判定された要求変速段と、前記評価手段104によって評価された実際の変速段とを比較し、両者が異なる場合であって、所定の走行条件に該当する場合には、前記実際の変速段を成立させるように前記要求変速段を変更する。ここで、前記所定の走行条件とは、例えば(a)アクセル開度センサ54によって検出されるアクセル開度Accからアクセルがオフと判断された場合、(b)後述するコーストダウン変速手段108による変速制御が行われている場合であってブレーキスイッチ70によってブレーキ操作信号BONが検出されず、ブレーキがオフとされた場合、(c)後述するコーストダウン変速手段108による変速制御が行われている場合であってアクセル開度センサ54によって検出されるアクセル開度Accからアクセルがオンと判断された場合のいずれかに該当する場合などである。
コーストダウン変速手段108は、車両の走行条件が所定の走行条件に該当する場合に、前記要求変速段判定手段102が判定した要求変速段に関わらず、前記変速線として前記コースト用変速線を用いてコーストダウン変速制御を行う。ここで、前記所定の走行条件に該当する場合とは、たとえば(d)アクセルがオフにされたコースト状態であって、出力軸回転速度が所定回転速度以下である場合、または、(e)出力軸回転速度が前記所定回転速度よりも高くてもブレーキがオンである場合のいずれかに該当する場合をいう。
変速実行手段110は、前記要求変速段判定手段102によって判定された要求変速段、変更手段106によって変更された変速段、またはコーストダウン変速手段108によって判定された変速段のいずれかの変速段が成立するように、たとえば図2の係合表に基づいて成立させようとする変速段に対応するクラッチおよびブレーキを係合させるべく、たとえば図4の油圧制御回路50の各リニアソレノイド弁等を作動させる。
コーストダウン変速実行速度設定手段112は、コーストダウン変速を実行する出力軸回転速度であるNOUTCSTBKの値を設定する。具体的には、各変速段毎に、アクセルがオフとされた場合にコーストダウン変速が実行される出力軸回転速度の値NOUTCSTBKが設定される。
禁止手段114は、前記コーストダウン変速線を用いた変速制御から要求変速段判定手段102による通常の変速制御へ復帰させるとき、復帰のための条件が成立した場合であっても、その後所定条件が成立するまではアップ変速を禁止する。具体的には、前記コーストダウン変速手段108によるコーストダウン変速制御が行われ、通常の変速制御に復帰されるための判断がなされた後、予め定められた所定時間が経過するまでの間は、その後、要求変速段判定手段によって判定された要求変速段が現在の変速段よりも高速段である場合には、前記要求変速段へのアップ変速を実行することが禁止される。ここで、前記予め定められた所定時間とは、変速の頻度が高くなりすぎることがないように事前に実験的に求められた値である。
図7は、本実施例における電子制御装置100の制御作動を表すフローチャートであり、例えば所定の周期で繰り返し実行されるものである。まず要求変速段判定手段102に対応するステップ(以下「ステップ」を省略する。)SA1においては、変速出力があったか、すなわち、SA1の実行時において判定される要求変速段SFTOUT(i)がそれ以前に判定された要求変速段SFTOUT(i−1)と異なっているか否かが判断される。本ステップの判断が肯定される場合、すなわちそれまでとは異なった要求変速段が判定された場合には、SA2が実行される。また、本ステップの判断が否定される場合、すなわち、判定される要求変速段が変化していない場合には、SA3が実行される。なお、以降の記載においては、SFTOUT(i)は単にSFTOUTと記す。
SA2においては、変速出力からの経過時間を表すカウンタTENDがリセットされ、SA1において変速出力があったと判定された場合の変速出力からの経過時間の測定が開始される。
続くSA3からSA6までは、評価手段104に対応する。まず、SA3においては、SA1において判定された要求変速段SFTOUTと、現在の自動変速機10の変速段SFTREALとが同一の変速段であるか否かが判定される。本ステップの判断が肯定される場合には、変速が開始されている可能性があるとして、続くSA4が実行される。一方、本ステップの判断が否定される場合には、変速が実行されていないとしてSA8が実行される。
SA4においては、変速出力があってからの経過時間TENDが所定時間A(msec)を経過していないかが判定される。この所定時間Aは、変速出力があってから、変速後の変速段に実効的に切り替わるまでに要する時間であって、予め実験的に得られるものである。本ステップの判断が肯定される場合は、変速が未だ過渡状態にあるとして、SA5が実行される。一方、本ステップの判断が否定される場合には、既に変速が実行され変速後の変速段に実効的に切り替わっているものとして、SA7が実行される。
SA5においては、自動変速機10の入力軸22の回転速度と出力軸24の回転速度との関係から、変速により自動変速機の変速段が実効的に変速前の変速段であるか変速後の変速段への変化が開始したかを判定する。具体的には、自動変速機10の入力軸22の回転速度と1対1の関係にあるタービン回転速度NTと、自動変速機10の出力軸24の回転速度NOUTに変速前の自動変速機の変速段の変速比γ(SFTREAL)を乗じ、50を加えた数とを比較し、タービン回転速度NTのほうが大きいか否かについて判定する。また、自動変速機10の入力軸22の回転速度と1対1の関係にあるタービン回転速度NTと、自動変速機10の出力軸24の回転速度NOUTに変速前の自動変速機の変速段の変速比γ(SFTREAL)を乗じ、50を減じた数とを比較し、タービン回転速度NTのほうが小さいか否かについて判定する。そして、本ステップの判断が肯定される場合には、自動変速機の実効的な変速段は前記変速の変速後の変速段であるとして、続くSA6が実行される。なお、このとき自動変速機10の出力軸24の回転速度NOUTに変速前の自動変速機の変速段の変速比γ(SFTREAL)を乗じた後に加減する数である50(rpm)は、変速におけるイナーシャ相が開始されることにより、もはや実効的に変速前の変速段ではなくなったと判断することができる目安であって、実験的に得られた数値である。
SA6及びSA7は、それぞれ、SA4及びSA5で、自動変速機の変速段が実効的に変速後の変速段であると判断された場合に実行されるステップであり、実行される内容は同一である。その内容とは、現在の変速段を表すSFTREALの値を、変速出力値であるSFTOUTの値すなわち変速後の変速段とする。なお、SA5で未だ実効的に変速前の変速段であると判断された場合には、SFTREALの値は変速前の変速段を表したままである。
SA8においては、現在の車両の走行状態であるアクセル開度Accおよび車速Vと変速線およびアップシフト変速線とから判断される車両がとるべき変速段である判断変速段SFTJDGとともに、次の3つの条件のいずれかが成立するかが判定される。すなわち、(1)アクセルがオフにされ、かつ、要求変速段SFTOUTが実変速段SFTREALより大きいか、判断変速段SFTJDGが実変速段SFTREALよりも大きいかのいずれかの場合、(2)ブレーキがオフにされ、かつ、要求変速段SFTOUTが実変速段SFTREALより小さいか、判断変速段SFTJDGが実変速段SFTREALよりも小さいかのいずれかの場合、(3)アクセルがオンにされ、かつ、要求変速段SFTOUTが実変速段SFTREALより小さいか、判断変速段SFTJDGが実変速段SFTREALよりも小さいかのいずれかの場合、のいずれかが成立するかが判定される。そして、これらのいずれかが成立する場合には続くSA9が実行される。また、これらの何れもが成立しない場合には、次はSA13が実行される。
SA9は、変更手段106に対応し、判断変速段を表すSFTJDGの値および要求変速段を表すSFTOUTの値を、実変速段を表すSFTREALの値にする。ここで、実変速段SFTREALが変速前の変速段を表している場合には、判断変速段SFTJDGおよび要求変速段SFTOUTの何れもが変速前の変速段とされることにより、変速を行う必要がなくなり、変速がキャンセルされることになる。一方、実変速段SFTREALが変速後の変速段を表している場合には、判断変速段SFTJDGおよび要求変速段SFTOUTの何れもが変速後の変速段とされることにより、変速を行われた直後に逆戻りするような変速が行われるのを防ぐ。言い換えれば、本ステップの作動は、判断変速段SFTJDGの値および要求変速段SFTOUTの値の何れをも強制的に実変速段SFTREALの値に書き換えることにより、いわばそれまでの変速履歴に影響されないようにコーストダウン変速条件を判定するための初期化に相当するものである。
続くSA10においては、SA8で成立したと判断された(1)乃至(3)のいずれか条件のうち、成立したのが(1)の条件であるか否かが判断される。すなわち、SA8の3つの条件のうち、(1)が成立するのは要求変速段SFTOUTが実変速段SFTREALより大きい、もしくは判断変速段SFTJDGが実変速段SFTREALより大きい、すなわちアップ変速の場合である。一方、(2)および(3)が成立するのは要求変速段SFTOUTが実変速段SFTREALより小さい、もしくは判断変速段SFTJDGが実変速段SFTREALより小さい、すなわちダウン変速の場合である。そして、アップ変速およびダウン変速の場合では、この後に行われるべき作動が異なるために、場合分けをするのである。そして、本ステップの判断が肯定された場合、すなわちSA8で成立したのが(1)の条件であり、変速はアップ変速である場合にはSA11が実行される。また、本ステップの判断が否定された場合、すなわちSA8で成立したのが(2)または(3)の条件であり、変速はダウン変速であった場合にはSA12が実行される。
SA11は、コーストダウン変速手段108に対応するものであって、SA10の判断が肯定された場合、すなわちSA8において条件(1)が成立した場合に実行されるステップである。本ステップにおいては、コーストダウン制御、すなわち、通常の変速線図に加えてコーストダウン変速線を用いた自動変速機の変速制御が行うようにされる。これは、コーストダウン制御を行わない場合、自動変速機がアップ変速してしまうおそれがあり、そのような場合に生ずるビジーシフトを回避するためである。
SA12は、SA10の判断が否定された場合、すなわちSA8において条件(2)または(3)が成立した場合に実行されるステップである。本ステップにおいては、それまで実行されていたコーストダウン制御の実行から通常の制御に復帰するための所定の手段である復帰フェーズに移行させられる。これは、引き続きコーストダウン制御が実行される場合、自動変速機の出力軸回転速度NOUTが、コーストダウン変速線を下回ることにより再度ダウン変速してしまうおそれがあり、そのような場合に生ずるビジーシフトを回避するためである。また、本ステップが実行される際、コーストダウン制御の実行が強制的に終了させられ、通常の制御に復帰させられる際に、タイマTDLYが初期化(TDLY=0)され、コーストダウン制御復帰フェーズに移行させられてからの経過時間が検出される。
SA13乃至SA16は、車両の走行状態に応じてコーストダウン制御が実行されるか否かが決定される作動を示している。まずSA13においては、コーストダウン制御が行われる出力軸回転速度であるNOUTCSTBKと、現在の出力軸24の回転速度NOUTが比較され、現在の出力軸回転速度NOUTがNOUTCSTBKを上回っているか否かが判断される。そして、本判断が肯定される場合、すなわちNOUTがNOUTCSTBKを上回っている場合には、SA15が実行され、本判断が否定される場合、すなわちNOUTがNOUTCSTBKを上回っていない場合には、SA14が実行される。なお、コーストダウン制御が行われる出力軸回転速度NOUTCSTBKは、設定手段112により、車両の走行状態を変速線図に適用した結果得られる変速段である判断変速段SFTJDGの各変速段毎に定められている。
SA15においては、車両の常用ブレーキが操作されているか否かを、例えばフットブレーキのブレーキペダル68が操作されているか否かをブレーキスイッチ70によってブレーキ操作信号BONが検出されるか否かによって判断する。そして、本判断が肯定される場合、すなわちブレーキが操作されていると判断される場合にはSA16が実行され、本判断が否定される場合、すなわちブレーキ操作がされていないと判断される場合にはSA16が実行されることなくSA17に移る。
SA14およびSA16はいずれもコーストダウン変速手段108に対応するものであって、コーストダウン制御、すなわち、通常の変速線図に加えてコーストダウン変速線を選択した自動変速機の変速制御が行われる。
SA17およびSA18は、コーストダウン制御を終了する際に従来から用いられていた手順である。SA17においてアクセルがオンにされるなどによりアイドル信号IDLがオフにされた場合にはSA17の判断が肯定され、SA18においてコーストダウン復帰フェーズに移行させられる。一方、SA17の判断が否定された場合には、引き続きコーストダウン制御が実行される。
SA19においては、コーストダウン制御復帰フェーズにあるか否かが判定される。本判断が肯定される場合、すなわちSA12もしくはSA18によってコーストダウン制御復帰フェーズに移行させられた場合には、続くSA20以下が実行させられる。一方、本判断が否定される場合、すなわち、コーストダウン制御復帰フェーズにない場合には、本フローチャートは一旦終了し、再度SA1から繰り返し実行される。
SA20においては、コーストダウン制御が復帰フェーズに移行させられてからの経過時間を検出するタイマTDLYの値が所定値C(ms)を経過していないか否かが判定される。そして、本ステップの判断が肯定される場合、すなわちコーストダウン制御が復帰フェーズに移行させられてから所定値C(ms)を経過していない場合には、SA21が実行される。一方本ステップの判断が否定される場合、すなわちコーストダウン制御が復帰フェーズに移行させられてから所定値C(ms)を経過している場合には、SA22が実行される。なお、前記所定値Cは、本ステップの後にアップ変速が実行されたとしてもいわゆるビジーシフトとならないように予め実験的に求められた値である。
禁止手段114に対応するSA21は、SA20の判断が肯定された場合、すなわちSA12またはSA18においてコーストダウン制御が復帰フェーズに移行させられてから所定値C(ms)を経過していない場合に実行される。SA21では、コーストダウン変速線を用いた変速制御から要求変速段判定手段102による通常の変速制御へ復帰させるとき、復帰のための条件が成立した場合であっても、その後所定条件が成立するまでは、自動変速機10のアップ変速が強制的に禁止されるとともに、コーストダウン線が選択されないのでコーストダウン線に基づくダウン変速が禁止される。言い換えれば、コーストダウン復帰フェーズは、コーストダウン復帰フェーズに移行後C(ms)だけ続くことになる。なお、上記コーストダウン復帰フェーズへの移行は前記SA12およびSA18において行われる。このうちSA12は、SA8の(2)または(3)の条件が成立したときに実行される(SA10)が、これら(2)または(3)の条件が成立したときまでに行われたアップ変速の変速判断は、復帰条件成立後から所定値C経過までの間のアップ変速を禁止するためのアップ変速の禁止の対象とはならない。
SA22は、SA20の判断が否定される場合、すなわちすなわちコーストダウン制御が復帰フェーズに移行させられてからC(ms)を経過している場合に実行され、復帰フェーズに移行させられていたコーストダウン制御が終了させられる。
図8、図10、図12、図14は、前記電子制御装置100の制御作動の様子を表すタイムチャートであって、図7のフローチャートのSA1〜SA12が実行される様子を示した図である。図8は、第2速段から第3速段への変速判断がなされた後であって、かつ同様の変速出力がなされる前にアクセルがオフにされることによりアイドル状態となった場合における電子制御装置100の制御作動の様子を示している。時刻ta1において第1速段から第2速段へのアップ変速の変速判断がされ、判断変速段SFTJDGが第2速段とされるとともに要求変速段SFTOUTも第2速段とされ、油圧の遅れによって時刻ta1よりやや遅れた時刻ta2において、実質的に変速後の変速段である第2速段に同期し変速が完了する。すなわち実変速段SFTREALも第2速段となる。その後、時刻ta3において、変速線図より第2速段から第3速段へのアップ変速を行う旨の判断がされ、判断変速段SFTJDGは第3速段とされるが、第2速段から第3速段への変速判断から第2速段から第3速段への変速出力までの処理時間などによりその変速出力は未だなされていないため、SFTOUTは第2速段である。従って、SA1における判断は否定される。さらに、実変速段SFTREALが第2速段である一方、要求変速段SFTOUTも第2速段であるから、SA3の判断も否定される。続いて、時刻ta3において、運転者によりアクセルペダル52が離されアクセル開度Accが零にされることにより、アイドル状態となるため、SA8の(1)の条件が成立する。そのため、SA8の判断が肯定され、SA9において要求変速段SFTOUTおよび判断変速段SFTJDGがいずれも実変速段SFTREALの第2速段とされる。そして、SA8の(1)の条件が成立したことから、SA10の判断も肯定され、SA12においてコーストダウン制御が実行させられるため、第2速段から第3速段へのアップ変速が行われることはない。
これを、従来技術による例である図9と比較すると、本実施例を適用していない図9においては、実変速段SFTREALを評価する評価手段を有さず、要求変速段SFTOUTにのみ基づいて変速制御を行うことから、時刻tb1において運転者によるアクセルペダル52の操作が行われなくなった後においても、既に行われた第2速段から第3速段への変速判断に基づいて同様の変速出力が行われる一方、その直後である時刻tb2に運転者によってなされたブレーキペダル68の操作によって第3速段から第2速段へのコーストダウン制御が行われるため、第2速段から第3速段へのアップ変速直後に第3速段から第2速段へのダウン変速を行わなければならず、ビジーシフトとなる。
図10は、第2速段から第3速段への変速判断がなされた後であって、かつ同様の変速出力がなされた後にアクセルがオフにされることによりアイドル状態となった場合における電子制御装置100の制御作動の様子を示している。時刻tc1において第1速段から第2速段へのアップ変速の変速判断がされ、判断変速段SFTJDGが第2速段とされるとともに要求変速段SFTOUTも第2速段とされ、油圧の遅れによって時刻tc1よりやや遅れた時刻tc2において、実質的に変速後の変速段である第2速段に同期し変速が完了する。すなわち実変速段SFTREALも第2速段となる。その後、時刻tc3において、変速線図より第2速段から第3速段へのアップ変速を行う旨の判断がされ、判断変速段SFTJDGは第3速段とされた後、時刻tc4において同様の変速出力もなされ、要求変速段SFTOUTは第3速段とされる。従って、SA1における判断が肯定される。さらに、実変速段SFTREALが第2速段である一方、要求変速段SFTOUTは第3速段であるから、SA3の判断も肯定される。このとき、変速出力からの経過時間TENDが所定時間Aだけ経過していないとしてSA4の判断が肯定される一方、自動変速機は実効的には未だ変速前の変速段である第2速段にあるとしてSA5の判断が否定される。続いて、時刻tc5において、運転者によりアクセルペダル52が離されアクセル開度Accが零にされることにより、アイドル状態となるため、SA8の(1)の条件が成立する。そのため、SA8の判断が肯定され、SA9において要求変速段SFTOUTおよび判断変速段SFTJDGがいずれも実変速段SFTREALである第2速段とされる。そして、SA8の(1)の条件が成立したことから、SA10の判断も肯定され、SA12においてコーストダウン制御が実行させられるため、第2速段から第3速段へのアップ変速が行われることはない。
これを、従来技術による例である図11と比較すると、本実施例を適用していない図11においては、実変速段SFTREALを評価する評価手段を有さず、要求変速段SFTOUTにのみ基づいて変速制御を行うことから、時刻td1において運転者によるアクセルペダル52の操作が行われなくなった後においても、既に行われた第2速段から第3速段への変速判断に基づいて同様の変速出力が行われる一方、その直後である時刻td2に運転者によってなされたブレーキペダル68の操作によって第3速段から第2速段へのコーストダウン制御が行われるため、第2速段から第3速段へのアップ変速直後に第3速段から第2速段へのダウン変速を行わなければならず、ビジーシフトとなる。
図12は、車両がブレーキON状態で減速走行しており、コーストダウン変速制御が実行されている場合において、第3速段から第2速段への変速判断がなされた後であって、かつ同様の変速出力がなされた後にブレーキがオフにされた場合における電子制御装置100の制御作動の様子を示している。時刻te1においてコーストダウン変速制御によって第3速段から第2速段へのダウン変速の変速判断がされ、判断変速段SFTJDGが第2速段とされるとともに要求変速段SFTOUTも第2速段とされる。従って、SA1における判断が肯定される。一方、油圧の遅れによって、自動変速機の変速段は実質的に変速前の変速段である第3速段にある。すなわち実変速段SFTREALは第3速段のままである。そのため、SA3の判断も肯定される。このとき、変速出力からの経過時間TENDが所定時間Aだけ経過していないとしてSA4の判断が肯定される一方、自動変速機は実効的には未だ変速前の変速段である第2速段にあるとしてSA5の判断が否定される。続いて、時刻te2において、運転者によりブレーキペダル68が離されブレーキ操作信号BONが検出されなくなり、コーストダウン変速制御を終了することとなる。このときSA8の(2)の条件が成立する。そのため、SA8の判断が肯定され、SA9において要求変速段SFTOUTおよび判断変速段SFTJDGがいずれも実変速段SFTREALである第3速段とされる。そして、SA8の(2)の条件が成立したことから、SA10の判断は否定され、SA12においてコーストダウン制御が復帰フェーズに移行させられる。そのため、時刻te2において運転者によりブレーキ操作が行われなくなった以降のコースト走行時であっても、コーストダウン変速線に基づいてダウン変速が行われることはない。
これを、従来技術による例である図13と比較すると、本実施例を適用していない図13においては、実変速段SFTREALを評価する評価手段を有さず、要求変速段SFTOUTにのみ基づいて変速制御を行うことから、時刻tf1において運転者によるブレーキペダル68の操作が行われなくなった後においても、既に行われた第3速から第2速段へのコーストダウン変速判断に基づいて同様の変速出力が行われる。またその後、時刻tf2に運転者によってなされたアクセルペダル52の操作によって第2速段から第3速段へのアップ変速が行われるため、第3速段から第2速段へのダウン変速直後に第2速段から第3速段へのアップ変速を行わなければならず、ビジーシフトとなる。
図14は、車両がブレーキOFF状態で減速走行しており、コーストダウン変速制御が実行されている場合において、第3速段から第2速段への変速判断がなされた後であって、かつ同様の変速出力がなされた後にアクセルがオンにされた場合における電子制御装置100の制御作動の様子を示している。時刻tg1においてコーストダウン変速制御によって第3速段から第2速段へのダウン変速の変速判断がされ、判断変速段SFTJDGが第2速段とされるとともに要求変速段SFTOUTも第2速段とされる。従って、SA1における判断が肯定される。一方、油圧の遅れによって、自動変速機の変速段は実質的に変速前の変速段である第3速段にある。すなわち実変速段SFTREALは第3速段のままである。そのため、SA3の判断も肯定される。このとき、変速出力からの経過時間TENDが所定時間Aだけ経過していないとしてSA4の判断が肯定される一方、自動変速機は実効的には未だ変速前の変速段である第2速段にあるとしてSA5の判断が否定される。続いて、時刻tg2において、運転者によりアクセルペダル52が操作されアイドル状態でなくなる。このときSA8の(3)の条件が成立する。そのため、SA8の判断が肯定され、SA9において要求変速段SFTOUTおよび判断変速段SFTJDGがいずれも実変速段SFTREALである第3速段とされる。そして、SA8の(3)の条件が成立したことから、SA10の判断は否定され、SA12においてコーストダウン制御が復帰フェーズに移行させられる。
これを、従来技術による例である図15と比較すると、本実施例を適用していない図15においては、実変速段SFTREALを評価する評価手段を有さず、要求変速段SFTOUTにのみ基づいて変速制御を行うことから、時刻th1において運転者によるアクセルペダル52の操作が行われた後においても、既に行われた第3速から第2速段へのコーストダウン変速判断に基づいて同様の変速出力が行われる。またその後、時刻th2に運転者によってなされたアクセルペダル52の操作によって第2速段から第3速段へのアップ変速が行われるため、第3速段から第2速段へのダウン変速直後に第2速段から第3速段へのアップ変速を行わなければならず、ビジーシフトとなる。
以上の実施例によれば、アクセル低開度かつ低車速でのアップ変速後、例えば、第2速段から第3速段への変速後には、設定手段112により所定回転速度NOUTCSTBKとして3速段に対応した回転速度が設定されるが、この回転速度をアクセルがオフされることに伴うダウン変速を避けるように設定しておくことにより、上記ダウン変速を避けることができる。また、第2速段から第3速段への変速開始直後の変速段が実質的に第2速段にあるときには、第2速段を維持するようにされ、アップ変速後の変速段が継続されることに伴うその後のブレーキがオンとされることによるコーストダウン変速の頻度が増すことが防止でき、また、このときは、上記所定回転速度として第2速段に対応した回転速度が設定され、コーストダウン変速を適切に行うことができる。
また、前記評価手段104は、自動変速機10の入力軸回転速度に対応するタービン回転速度NTと出力軸回転速度NOUTおよび変速前の変速段における変速比γ(SFTREAL)とに基づいて現在実行中の変速における変速後の変速段への入力軸回転速度の変化が実効的に開始されたか否かを評価するものであるので、現在実行中の変速における変速後の変速段が実効的に開始されたか否かが、センサ等によって検出可能な値、および予め知ることのできる値とに基づいて評価することができる。
また、前記評価手段104は、測定が容易な自動変速機10の変速のための変速出力がされてからの経過時間TENDに基づいて現在実行中の変速における変速後の変速段への変化が実効的に開始されたか否かを評価するものであるので、より容易に評価することが可能となる。
また、前記変更手段106は、コースト用変速線を用いた変速制御中にブレーキがオフにされたとき、かつ、評価された変速段SFTREALと要求変速段SFTOUT又は判断変速段SFTJDGとが一致しないときには、該評価された変速段SFTREALを成立させるよう要求変速段SFTOUTおよび判断変速段SFTJDGを変更することから、変速頻度を低減することができる。
また、変更手段106は、コースト用変速線を用いた変速制御中にアクセルがオンにされたとき、かつ、評価された変速段SFTREALと要求変速段SFTOUT又は判断変速段SFTJDGとが一致しないときには、該評価された変速段SFTREALを成立させるように要求変速段SFTOUTおよび判断変速段SFTJDGを変更することから、変速頻度を低減することができる。
また、禁止手段114は、コースト用変速線を用いた変速制御から復帰させる場合であっても、所定時間であるコーストダウン復帰フェーズに移行させられてからの経過時間TDLYが所定値C(ms)を経過するまではアップ変速を禁止するので、変速頻度を低減することができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、図7のSA12において(2)の条件が成立した場合を対象として、コーストダウン復帰フェーズに移行せず、コーストダウン制御を継続したままコーストダウン線を例えばNOUTCSTBKで上限ガードするなどして低車速側に変更しても良い。
また、前記変更手段106は車両の走行条件を判定する際に、ブレーキスイッチ70によってブレーキ操作信号BONを検出することによって行ったが、これに限られず、例えば図示しないブレーキ制御信号またはブレーキ圧等でブレーキのオンオフを判定するようにしても良い。このようにすれば、クルーズコントロールによる自動停止をも対象とすることができる。
また、前述の実施例においては、第3速段から第2速段へのコーストダウン変速について説明されていたが、これに限られず、他の変速段間のコーストダウン変速であってもよい。
また、前述の実施例においては、自動変速機10としては前進6速の有段式自動変速機が用いられたが、これに限られず、たとえばそれよりも少ない前進4段や前進5段の有段式自動変速機が用いられても良いし、或いはそれよりも多い前進7段や前進8段の自動変速機であってもよい。また、無段式自動変速機(CVT)が有段変速モードで使用される場合であっても適用可能である。
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において種々の改良が加えられて実施されるものである。