図1は、本発明が適用された車両用の自動変速機10の構成を説明する骨子図である。また、図2は、自動変速機10の複数のギヤ段(変速段)を成立させる際の係合装置(係合要素)の作動の組み合わせを説明する作動図表(係合作動表)である。この自動変速機10は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース(以下、ケースと表す)30内において、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置12を主体として構成されている第1変速部14と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置16およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置18を主体として構成されている第2変速部20とを共通の軸心C上に備え、入力軸22の回転を変速して出力軸24から出力する。入力軸22は入力回転部材に相当するものであり、本実施例では走行用の動力源であるエンジン26によって回転駆動されるトルクコンバータ28のタービン軸である。出力軸24は出力回転部材に相当するものであり、例えば差動歯車装置(終減速機)70や一対の車軸72等を順次介して左右の駆動輪74を回転駆動する(図3参照)。なお、この自動変速機10は中心線(軸心)Cに対して略対称的に構成されており、図1の骨子図においてはその軸心Cの下半分が省略されている。
第1遊星歯車装置12は、サンギヤS1、互いに噛み合う複数対のピニオンギヤP1、そのピニオンギヤP1を自転および公転可能に支持するキャリヤCA1、ピニオンギヤP1を介してサンギヤS1と噛み合うリングギヤR1を備え、サンギヤS1、キャリアCA1、およびリングギヤR1によって3つの回転要素が構成されている。キャリヤCA1は入力軸22に連結されて回転駆動され、サンギヤS1は回転不能にケース30に一体的に固定されている。リングギヤR1は中間出力部材として機能し、入力軸22に対して減速回転させられて、回転を第2変速部20へ伝達する。本実施例では、入力軸22の回転をそのままの速度で第2変速部20へ伝達する経路が、予め定められた一定の変速比(=1.0)で回転を伝達する第1中間出力経路PA1であり、第1中間出力経路PA1には、入力軸22から第1遊星歯車装置12を経ることなく第2変速部20へ回転を伝達する直結経路PA1aと、入力軸22から第1遊星歯車装置12のキャリヤCA1を経て第2変速部20へ回転を伝達する間接経路PA1bとがある。また、入力軸22からキャリヤCA1、そのキャリヤCA1に配設されたピニオンギヤP1、およびリングギヤR1を経て第2変速部20へ伝達する経路が、第1中間出力経路PA1よりも大きい変速比(>1.0)で入力軸22の回転を変速(減速)して伝達する第2中間出力経路PA2である。
第2遊星歯車装置16は、サンギヤS2、ピニオンギヤP2、そのピニオンギヤP2を自転および公転可能に支持するキャリヤCA2、ピニオンギヤP2を介してサンギヤS2と噛み合うリングギヤR2を備えている。また、第3遊星歯車装置18は、サンギヤS3、互いに噛み合う複数対のピニオンギヤP2およびP3、そのピニオンギヤP2およびP3を自転および公転可能に支持するキャリヤCA3、ピニオンギヤP2およびP3を介してサンギヤS3と噛み合うリングギヤR3を備えている。
第2遊星歯車装置16および第3遊星歯車装置18では、一部が互いに連結されることによって4つの回転要素RM1〜RM4が構成されている。具体的には、第2遊星歯車装置16のサンギヤS2によって第1回転要素RM1が構成され、第2遊星歯車装置16のキャリヤCA2および第3遊星歯車装置のキャリヤCA3が互いに一体的に連結されて第2回転要素RM2が構成され、第2遊星歯車装置16のリングギヤR2および第3遊星歯車装置18のリングギヤR3が互いに一体的に連結されて第3回転要素RM3が構成され、第3遊星歯車装置18のサンギヤS3によって第4回転要素RM4が構成されている。この第2遊星歯車装置16および第3遊星歯車装置18は、キャリアCA2およびCA3が共通の部材にて構成されているとともに、リングギヤR2およびR3が共通の部材にて構成されており、且つ第2遊星歯車装置16のピニオンギヤP2が第3遊星歯車装置18の第2ピニオンギヤを兼ねているラビニヨ型の遊星歯車列とされている。
第1回転要素RM1(サンギヤS2)は、第1ブレーキB1を介してケース30に選択的に連結されて回転停止され、第3クラッチC3を介して中間出力部材である第1遊星歯車装置12のリングギヤR1(すなわち第2中間出力経路PA2)に選択的に連結され、さらに第4クラッチC4を介して第1遊星歯車装置12のキャリヤCA1(すなわち第1中間出力経路PA1の間接経路PA1b)に選択的に連結されている。第2回転要素RM2(キャリヤCA2およびCA3)は、第2ブレーキB2を介してケース30に選択的に連結されて回転停止させられるとともに、第2クラッチC2を介して入力軸22(すなわち第1中間出力経路PA1の直結経路PA1a)に選択的に連結されている。第3回転要素RM3(リングギヤR2およびR3)は、出力軸24に一体的に連結されて回転を出力するようになっている。第4回転要素RM4(サンギヤS3)は、第1クラッチC1を介してリングギヤR1に連結されている。なお、第2回転要素RM2とケース30との間には、第2回転要素RM2の正回転(入力軸22と同じ回転方向)を許容しつつ逆回転を阻止する一方向クラッチF1が第2ブレーキB2と並列に設けられている。
図2に戻り、この係合作動表は、自動変速機10の各ギヤ段を成立させる際のクラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2の作動状態を説明する図表であり、「○」は係合状態を、「(○)」はエンジンブレーキ時のみ係合状態を、空欄は解放状態をそれぞれ表している。このように、自動変速機10においては、3組の遊星歯車装置12、16、18を備え、クラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2を選択的に係合することにより変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が異なる複数のギヤ段例えば前進8段の多段変速が達成される。また、特に、第2ブレーキB2と並列に一方向クラッチF1が設けられていることから、第1ギヤ段(1st)を成立させる際に、第2ブレーキB2はエンジンブレーキ時には係合させられる一方、駆動時には解放させられる。
また、各ギヤ段毎に異なる変速比は、第1遊星歯車装置12、第2遊星歯車装置16、および第3遊星歯車装置18の各ギヤ比ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。また、クラッチC1〜C4、およびブレーキB1、B2(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBと表す)は、多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置(以下、係合装置という)であり、油圧制御回路76(図3参照)内のリニアソレノイドバルブSL1〜SL6の励磁、非励磁や電流制御により、係合、解放状態が切り換えられるとともに係合、解放時の過渡油圧などが制御される。
図3は、図1の自動変速機10などを制御するために車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。電子制御装置100は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン26の出力制御や自動変速機10の変速制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用やリニアソレノイドバルブSL1〜SL6を制御する変速制御用等に分けて構成される。
図3において、車両に設けられたセンサやスイッチなどから、例えばクランク角度(位置)ACR(°)およびエンジン26の回転速度NEに対応するクランクポジションを検出するクランクポジションセンサ32、トルクコンバータ28のタービン回転速度NTすなわち自動変速機10の入力軸22の回転速度NINを検出するタービン回転速度センサ34、車速Vに対応する出力軸24の回転速度NOUTを検出する出力軸回転速度センサ36、エンジン26の吸入空気量QAIRを検出する吸入空気量センサ38、手動変速操作装置としてのシフトレバー40のレバーポジション(操作位置)PSHを検出するシフトポジションセンサ42、アクセルペダル44の操作量であるアクセル開度Accを検出するアクセル開度センサ46、吸気配管48に設けられた電子スロットル弁50の開き角すなわちスロットル弁開度θTHを検出するスロットルポジションセンサ52、常用ブレーキであるフットブレーキ54の操作の有無を表すブレーキ操作信号BONを検出するブレーキスイッチ56、油圧制御回路76内の作動油の温度であるAT油温TOILを検出するためのAT油温センサ58、車両の加速度(減速度)Gを検出するための加速度センサ60等から、クランク角度(位置)ACR(°)およびエンジン回転速度NE、タービン回転速度NT(=入力軸回転速度NIN)、車速V、出力軸回転速度NOUT、吸入空気量QAIR、レバーポジションPSH、アクセル開度Acc、スロットル弁開度θTH、ブレーキ操作信号BON、AT油温TOIL、加速度(減速度)Gなどを表す信号が電子制御装置100に供給される。
上記アクセルペダル44は、運転者の要求する車両駆動力に応じて踏み込み操作されるもので、出力操作部材に相当し、その操作量であるアクセル開度Accは加速要求量に相当する。
上記タービン回転速度NT(=入力軸回転速度NIN)、車速V、出力軸回転速度NOUTなどはエンジン回転速度NEに1対1に対応する関連値(相当値)であって、エンジン回転速度NEを含むこれらエンジン回転速度関連値は、エンジン26から駆動輪74までの動力伝達経路における回転部材の回転速度である。また、このエンジン回転速度関連値としてその他に、例えば車軸72の回転速度、図示しないプロペラシャフトの回転速度、差動歯車装置70の出力軸の回転速度などが用いられる。以下、本実施例では、特に区別しない限りエンジン回転速度と表したものはエンジン回転速度関連値をも表すものとする。
また、電子制御装置100からは、エンジン26の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号SE、例えば電子スロットル弁50の開閉を制御するためのスロットルアクチュエータ62への駆動信号や燃料噴射装置64から噴射される燃料の量を制御するための噴射信号やイグナイタ66によるエンジン26の点火時期を制御するための点火時期信号などが出力されている。また、自動変速機10の変速制御の為の変速制御指令信号SP、例えば自動変速機10の変速段を切り換えるために油圧制御回路76内のリニアソレノイドバルブSL1〜SL6の励磁、非励磁などを制御するためのバルブ指令信号やライン油圧PLを制御するためのリニアソレノイドバルブSLTへの駆動信号などが出力されている。
図4は、クラッチCおよびブレーキBの各油圧アクチュエータの作動を制御するリニアソレノイドバルブSL1〜SL6等に関する回路図であって、油圧制御回路76の要部を示す回路図である。
図4において、クラッチC1、C2、およびブレーキB1、B2の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)78、80、86、88には、油圧供給装置90から出力されたDレンジ圧(前進レンジ圧、前進油圧)PDがそれぞれリニアソレノイドバルブSL1、SL2、SL5、SL6により調圧されて供給され、クラッチC3およびC4の各油圧アクチュエータ82、84には、油圧供給装置90から出力されたライン油圧PL1がそれぞれリニアソレノイドバルブSL3、SL4により調圧されて供給されるようになっている。なお、ブレーキB2の油圧アクチュエータ88には、リニアソレノイドバルブSL6の出力油圧およびリバース圧(後進レンジ圧、後進油圧)PRのうち何れか供給された油圧がシャトル弁99を介して供給される。
油圧供給装置90は、エンジン26によって回転駆動される機械式のオイルポンプ68(図1参照)から発生する油圧を元圧としてライン油圧PL1(第1ライン油圧PL1)を調圧する例えばリリーフ型のプライマリレギュレータバルブ(第1調圧弁)92、第1調圧弁92によるライン油圧PL1の調圧のために第1調圧弁92から排出される油圧を元圧としてライン油圧PL2(第2ライン油圧PL2、セカンダリ圧PL2)を調圧するセカンダリレギュレータバルブ(第2調圧弁)94、アクセル開度Acc或いはスロットル弁開度θTHで表されるエンジン負荷等に応じたライン油圧PL1、PL2に調圧されるために第1調圧弁92および第2調圧弁94へ信号圧PSLTを供給するリニアソレノイドバルブSLT、ライン油圧PL1を元圧としてモジュレータ油圧PMを一定値に調圧するモジュレータバルブ96、およびケーブルやリンクなどを介して機械的に連結されるシフトレバー40の操作に伴い機械的に作動させられて油路が切り換えられることにより入力されたライン油圧PL1をシフトレバー40が「D」ポジション或いは「S」ポジションへ操作されたときにはDレンジ圧PDとして出力し或いは「R」ポジションへ操作されたときにはリバース圧PRとして出力するマニュアルバルブ98等を備えており、ライン油圧PL1、PL2、モジュレータ油圧PM、Dレンジ圧PD、およびリバース圧PRを供給する。
リニアソレノイドバルブSL1〜SL6は、基本的には何れも同じ構成で、電子制御装置100により独立に励磁、非励磁され、各油圧アクチュエータ78〜88の油圧が独立に調圧制御されてクラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2の係合圧が制御される。そして、自動変速機10は、例えば図2の係合作動表に示すように予め定められた係合装置が係合されることによって各変速段が成立させられる。また、自動変速機10の変速制御においては、例えば変速に関与するクラッチCやブレーキBの解放と係合とが同時に制御される所謂クラッチ・ツウ・クラッチ変速が実行される。例えば、図2の係合作動表に示すように5速→4速のダウンシフトでは、クラッチC2が解放されると共にクラッチC4が係合され、変速ショックを抑制するようにクラッチC2の解放過渡油圧とクラッチC4の係合過渡油圧とが適切に制御される。このように、自動変速機10の係合装置(クラッチC、ブレーキB)がリニアソレノイドバルブSL1〜SL6により各々制御されるので、係合装置の作動の応答性が向上される。或いはまた、その係合装置の係合/解放作動の為の油圧回路が簡素化される。
シフトレバー40は例えば運転席の近傍に配設され、図5に示すように、5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、または「S」へ手動操作されるようになっている。
「P」ポジション(レンジ)は自動変速機10内の動力伝達経路を解放しすなわち自動変速機10内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態(中立状態)とし且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力軸24の回転を阻止(ロック)するための駐車ポジション(位置)であり、「R」ポジションは自動変速機10の出力軸24の回転方向を逆回転とするための後進走行ポジション(位置)であり、「N」ポジションは自動変速機10内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態とするための中立ポジション(位置)であり、「D」ポジションは自動変速機10の変速を許容する変速範囲(Dレンジ)で第1ギヤ段「1st」〜第8ギヤ段「8th」の総ての前進ギヤ段を用いて自動変速制御を実行させる前進走行ポジション(位置)であり、「S」ポジションはギヤ段の変化範囲を制限する複数種類の変速レンジすなわち高車速側のギヤ段が異なる複数種類の変速レンジを切り換えることにより手動変速が可能な前進走行ポジション(位置)である。
この「S」ポジションにおいては、シフトレバー40の操作毎に変速範囲をアップ側にシフトさせるためのレバーポジションPSHとしての「+」ポジション、シフトレバー40の操作毎に変速範囲をダウン側にシフトさせるためのレバーポジションPSHとしての「−」ポジションが備えられている。例えば、「S」ポジションにおいては、「8」レンジ〜「L」レンジの何れかがシフトレバー40の「+」ポジション或いは「−」ポジションへの操作に応じて変更される。また、「S」ポジションにおける「L」レンジは第1ギヤ段「1st」にて第2ブレーキB2を係合させて一層エンジンブレーキ効果が得られるためのエンジンブレーキレンジでもある。
上記「D」ポジションは自動変速機10の変速可能な例えば図2に示すような第1速ギヤ段乃至第8速ギヤ段の範囲で自動変速制御が実行される制御様式である自動変速モードを選択するシフトポジションでもあり、「S」ポジションは自動変速機10の各変速レンジの最高速側ギヤ段を超えない範囲で自動変速制御が実行されると共にシフトレバー40の手動操作により変更された変速レンジ(すなわち最高速側ギヤ段)に基づいて手動変速制御が実行される制御様式である手動変速モードを選択するシフトポジションでもある。
図6は、電子制御装置100による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図6において、エンジン出力制御手段102は、例えばスロットルアクチュエータ62により電子スロットル弁50を開閉制御する他、燃料噴射量制御のために燃料噴射装置64を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ66を制御するエンジン出力制御指令信号SEを出力する。例えば、エンジン出力制御手段102は、図7に示すようなスロットル弁開度θTHをパラメータとしてエンジン回転速度NEとエンジントルク推定値TE0との予め実験的に求めて記憶された関係(エンジントルクマップ)から実際のエンジン回転速度NEおよび後述する目標エンジントルク設定手段108によりアクセル開度Accに基づいて求められた目標エンジントルクTE *が得られるように、スロットルアクチュエータ62によりスロットル弁開度θTHを制御する他、燃料噴射装置64により燃料噴射量を制御したり、イグナイタ66により点火時期を制御する。尚、実際のエンジン回転速度NEは、車速Vと変速比γとから一意的に決まっているので、エンジン出力制御手段102は、実質的には実際のエンジン回転速度NEにおいて目標エンジントルクTE *が得られるようにスロットル弁開度θTHを制御している。
変速制御手段104は、例えば図8に示すような車速Vおよびアクセル開度Accを変数として予め記憶された関係(変速マップ、変速線図)から実際の車速Vおよびアクセル開度Accに基づいて変速判断を行い、自動変速機10の変速を実行すべきか否かを判断し、例えば自動変速機10の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速機10の自動変速制御を実行する。このとき、変速制御手段104は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように、自動変速機10の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合および/または解放させる変速制御指令信号SP(変速出力指令、油圧指令)を油圧制御回路76へ出力する。
その指令SPに従って、自動変速機10の変速が実行されるように油圧制御回路76内のリニアソレノイドバルブSL1〜SL6が駆動させられて、その変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータが作動させられる。
図8の変速線図において、実線はアップシフトが判断されるための変速線(アップシフト線)であり、破線はダウンシフトが判断されるための変速線(ダウンシフト線)である。また、この図8の変速線図における変速線は、実際のアクセル開度Acc(%)を示す横線上において実際の車速Vが線を横切ったか否かすなわち変速線上の変速を実行すべき値(変速点車速)VSを越えたか否かを判断するためのものであり、この値VSすなわち変速点車速の連なりとして予め記憶されていることにもなる。なお、図8の変速線図は自動変速機10で変速が実行される第1変速段乃至第8変速段のうちで第1変速段乃至第6変速段における変速線が例示されている。
例えば、変速制御手段104は、実際の車速Vが2速→3速アップシフトを実行すべき2速→3速アップシフト線を横切ったと判断した場合には、すなわち変速点車速V2−3を越えたと判断した場合には、ブレーキB1を解放させると共にクラッチC3を係合させる指令を油圧制御回路76に出力する、すなわち非励磁によってブレーキB1の係合油圧を排油(ドレン)させる指令をリニアソレノイドバルブSL5に出力すると共に、励磁によってクラッチC3の係合油圧を供給させる指令をリニアソレノイドバルブSL3に出力する。
このように、変速制御手段104は、リニアソレノイドバルブSL1〜SL6の励磁、非励磁をそれぞれ制御することにより、リニアソレノイドバルブSL1〜SL6にそれぞれ対応するクラッチC1〜C4、およびブレーキB1、B2の係合、解放状態を切り換えて第1ギヤ段「1st」〜第8ギヤ段「8th」の何れかの前進ギヤ段を成立させる。
また、変速制御手段104は、シフトレバー40が「S」ポジションへ操作されて前記手動変速モードが実行中であるか否かをレバーポジションPSHに基づいて判定する手動変速モード判定手段106を備え、その手動変速モード判定手段106により手動変速モードが実行中であると判定されているときには、すなわち手動変速モードが選択されているときには、シフトレバー40の「+」ポジション或いは「−」ポジションへの操作に応じて変更される「8」レンジ〜「L」レンジに対応して、変速線図の高車速側の変速線からは変速判断を行わずに低車速側の変速線からのみ変速判断を行い、自動変速機10の自動変速制御を実行する。
例えば、変速制御手段104は、前記図8の変速線図において各レンジに対応して高車速側の変速線が削除された予め記憶された複数の変速線図から実際の車速Vおよびアクセル開度Accに基づいて変速判断を行っても良いし、図8の変速線図の高車速側の変速線のみ無効とするように変速判断を行っても良い。例えば、第1変速段乃至第6変速段における変速線が例示されている図8の変速線図は「6」レンジに対応した変速線図であるとも言える。
車両姿勢安定制御手段132および運転支援系制御手段134は、アクセル開度Accに拘わらず車両状態を自動制御するために車両に対する出力要求量としての要求駆動力FDを出力する。
例えば、車両姿勢安定制御手段132は、車両姿勢安定制御としてアクセル開度Accに拘わらず旋回中の車両姿勢を安定化させる所謂VSCシステムを機能的に備えている。このVSCシステムは、車両の旋回中の後輪横滑り傾向所謂オーバステア傾向或いは前輪横滑り傾向所謂アンダステア傾向の程度に基づいて、後輪横滑り抑制モーメント或いは前輪横滑り抑制モーメントを発生させて車両姿勢の安定性を確保するように、例えば駆動力Fを抑制するための要求駆動力FDVを目標エンジントルク設定手段108へ出力すると共に車輪の制動力を制御する。
また、運転支援系制御手段134は、運転支援系制御としてアクセル開度Accに拘わらず車速Vを自動制御する自動車速制御システム所謂クルーズコントロールシステムを機能的に備えている。このクルーズコントロールシステムは、運転者により設定された目標車速V*となるように、例えば駆動力Fを制御するための要求駆動力FDCを目標エンジントルク設定手段108へ出力すると共に車輪の制動力を制御する。
図9は、前記目標エンジントルク設定手段108が備える機能を説明する概略図である。図9において、出力割合算出部120は、例えばアクセル開度Accと非線形アクセル開度Accpとの予め実験的に求められて記憶された関係(マップ、非線形マップ)から実際のアクセル開度Accに基づいて非線形アクセル開度Accp(=map(アクセル開度Acc))を求める。
この非線形マップは、運転者がアクセルペダル44を踏込操作している角度と感性的な角度とが同じになるように、アクセル開度Accを変数として非線形アクセル開度Accpを求めるための線形補間した関数の一例であって、変速段γや良く知られたノーマルモード、パワーモード、スノーモード等の変速モードをパラメータとして予め複数種類設定されている。例えば、非線形マップAに示すように、積雪路や凍結路の走行時に好適に選択されるスノーモードのときにはノーマルモードのときに比べて同じアクセル開度Accに対する出力割合すなわち非線形アクセル開度Accpが小さくなるように設定される。
要求エンジントルク算出部122は、例えば非線形アクセル開度Accpをパラメータとしてタービン回転速度NTと要求エンジントルクTEDとの予め実験的に求められて記憶された関係(マップ、エンジンマップ)から実際のタービン回転速度NTおよび前記出力割合算出部120により算出された非線形アクセル開度Accpに基づいて要求エンジントルクTED(=map(タービン回転速度NT、非線形アクセル開度Accp))を求める。
このエンジンマップは、変速段γをパラメータとして予め複数種類設定されている。例えば、エンジンマップとして、第1速ギヤ段のときに用いられるローギヤ用トルク特性であるエンジンマップAと、第8速ギヤ段のときに用いられるハイギヤ用トルク特性であるエンジンマップBとが設定される。図示の如く、エンジンマップBは、アクセルペダル44の小さな踏込操作でもより大きなエンジントルクTEが得られるようにエンジンマップBに比べて同じタービン回転速度NTに対する要求エンジントルクTEDが大きくなるように設定されている。もちろん、エンジンマップは変速段毎に設定されても良いが、このようにエンジンマップAとエンジンマップBとが設定される場合は、要求エンジントルク算出部122は、それらエンジンマップA、Bに基づいてその間の変速段における要求エンジントルクTEDを補完して求める。
要求エンジントルク補正部124は、前記目標エンジントルク設定手段108に備えられた後述する要求エンジントルク補正手段110に相当するものであり、手動変速モードが選択されているときには、自動変速モードが選択されているときに比べて前記要求エンジントルク算出部122により算出された要求エンジントルクTEDを増加側へ補正して増加要求エンジントルクTEDAとする。
エンジントルク→駆動力変換部126は、要求エンジントルクTED(或いは増加要求エンジントルクTEDA)、自動変速機10の現在の変速段における変速比γ、その変速比γを除くエンジン26と駆動輪74との間の減速比すなわち差動歯車装置70等の減速比i、および駆動輪74のタイヤ有効半径rWから FDD=TED(或いはTEDA)×γ×i/rW (但し、便宜上トルクコンバータ28のトルク比は1とする)に従ってドライバ要求駆動力FDDを算出する。
駆動力調停部128は、上記ドライバ要求駆動力FDD、前記車両姿勢安定制御手段132による要求駆動力FDV、および前記運転支援系制御手段134による要求駆動力FDCのうちで、何れの要求駆動力FDを優先させるかを或いは何れの要求駆動力FDを加減算するかを、予め定められた駆動力調停手順に従って選択し、その選択した要求駆動力FDを目標駆動力F*とする。
駆動力→エンジントルク変換部130は、目標駆動力F*、自動変速機10の現在の変速段における変速比γ、差動歯車装置70等の減速比i、および駆動輪74のタイヤ有効半径rWから TE *=(F*×rW)/(γ×i) (但し、便宜上トルクコンバータ28のトルク比は1とする)に従って目標エンジントルクTE *を算出する。
車両姿勢安定制御手段132や運転支援系制御手段134が備えられる場合には、駆動力調停部128による駆動力調停のためにエンジントルク→駆動力変換部126により要求エンジントルクTED(或いは増加要求エンジントルクTEDA)がドライバ要求駆動力FDDに変換されたが、車両姿勢安定制御手段132および運転支援系制御手段134が備えられない場合には、要求エンジントルクTED或いは増加要求エンジントルクTEDAがそのまま目標エンジントルクTE *とされる。
このように、目標エンジントルク設定手段108は加速操作量に基づいて目標駆動力関連値を設定する目標駆動力関連値設定手段として機能し、要求エンジントルク補正手段110は手動変速モードが選択されているときには自動変速モードが選択されているときに比べて目標駆動力関連値を増加側へ補正する目標駆動力関連値補正手段として機能する。
ところで、手動変速モードが選択されているときには、運転者は車両を加速させるために駆動力Fを増大させることを意図している可能性があるが、変速制御手段104は複数の変速レンジに対応して高車速側の変速段を制限するのみであり、運転者の意図が反映されるように各変速線自体の特性が変更されるものではないことから、運転者の加速意図に応じた駆動力Fを充足することができない可能性がある。
例えば、前記図8の点a〜点fは車両状態の一連の動きを示したものである。図において、点aは第4速ギヤ段にて車両走行していることを示している。点bは、アクセルペダル44の戻し操作が行われて点aに示される車両状態からアクセルオフとされたことを示している。点cおよび点dは、アクセルオフに伴い車両が被駆動状態とされて車速Vが低下していることを示している。点eおよび点fは、アクセルペダル44の踏込み操作が行われて点dに示される車両状態からアクセルオンとされたことを示している。
このような車両状態の一連の動きにおいて、運転者が車両を加速させるために、手動変速モードを選択して変速レンジを低車速側へ切り換える所謂マニュアルダウンシフト操作が行われると、例えば点cにてシフトレバー40操作により「3」レンジが選択されると、3速と4速との間の変速線以上の高車速側の変速線が無効とされ第3速ギヤ段にダウンシフトされる。この状態で、点dから点fまでアクセルペダル44の踏込み操作が行われたとしても、3速→2速ダウンシフト線を高アクセル開度側へ横切ることがないため、第2速ギヤ段へのダウンシフトが行われず、運転者の加速意図に応じた駆動力Fを充足することができない可能性がある。
そこで、運転者が車両を加速させるために駆動力を増大させることを意図している可能性があると考えられる手動変速モード時には、自動変速モード時に比較してダウンシフトにより運転者の加速意図に応じた駆動力が充足されやすくその加速意図が適切に反映されるように、ダウンシフト線を高車速側へ言い換えれば低アクセル開度側へ変更する。つまり、本発明はエンジンブレーキ効果を期待していないダウンシフト後の車両加速を駆動力アシストするものである。
図6に戻り、マニュアルダウン判定手段114は、マニュアルダウンシフトが実行されたか否かを、例えばシフトレバー40が「−」ポジションへ操作されたか否かに基づいて判定する。
経過時間判定手段116は、前記マニュアルダウン判定手段114によりマニュアルダウンシフトが実行されたと判定されてからの経過時間が予め定められた所定時間T以内であるか否かを判定する。上記所定時間Tは、ダウンシフトに要する変速時間やダウンシフト線の変更を行う車速Vの領域を考慮して後述する変更手段112によるダウンシフト線の変更を行うための予め実験的に求められた判定時間であって、例えば5秒程度の数秒程度に設定される。
例えば、低車速側の変速段ほど変速時間が長いことを考慮して、所定時間Tは、マニュアルダウンシフト後の変速段が低車速側である程長くされる。また、特定の車速領域例えば20Km/h程度から100Km/h程度にてダウンシフト線の変更が行われるように所定時間Tが設定される。
加速要求量判定手段118は、加速要求量が予め定められた所定量よりも大きいか否かを、例えばアクセル開度Accが所定開度Acc’より大きいか否かに基づいて判定する。例えば、この所定開度Acc’は、予め求められた一定値例えば30%程度のアクセル開度判定値が設定されても良いし、ロードロード(走行抵抗)相当のスロットル弁開度θTH例えば現在の車速Vが維持できるスロットル弁開度θTH以上となるように予め実験的に求められたアクセル開度判定値が設定されても良い。
前記変更手段112は、運転者が車両を加速させるために駆動力を増大させることを意図している可能性があると考えられるマニュアルダウンシフト後の所定時間T内で且つ加速要求量が所定量よりも大きいときは自動変速モード時に比較して加速要求量が所定量とされた運転者の加速意図に応じた駆動力がダウンシフトにより充足されやすくその加速意図が適切に反映されるように、前記マニュアルダウン判定手段114によりマニュアルダウンシフトが実行されたと判定されたときから予め定められた所定時間T以内であると前記経過時間判定手段116により判定されている間で且つ前記加速要求量判定手段118により加速要求量が所定量よりも大きいと判定された場合には、自動変速モードが選択されているときに比べてダウンシフトされやすいように変速線図を変更する。例えば、変更手段112は、マニュアルダウンシフトが実行されたときから所定時間T以内で且つ加速要求量が所定量よりも大きい場合には、図8の一点鎖線に示すような自動変速モードが選択されているときに比べてダウンシフトされやすいように予め記憶された加速時ダウンシフト線から実際の車速Vおよびアクセル開度Accに基づいて変速判断を行うように、前記変速制御手段104に指令を出力する。尚、図8の一点鎖線は「3」レンジが選択されているときの加速時ダウンシフト線であって、図示はしないが他のレンジも同様に自動変速モードが選択されているときに比べてダウンシフトされやすいようにダウンシフト線が変更される。これにより、点dから点fまでアクセルペダル44の踏込み操作が行われると、点eにて3速→2速ダウンシフト線を高アクセル開度側へ横切ることとなり、第2速ギヤ段へのダウンシフトが行われて運転者の加速意図に応じた駆動力Fを充足することができる。また、変更手段112は、前記マニュアルダウン判定手段114によりマニュアルダウンシフトが実行されたと判定されてからの経過時間が所定時間Tを経過した後は変速制御手段104への指令を解除する。
ここで、前記要求エンジントルク補正手段110の機能を以下に詳しく説明する。要求エンジントルク補正手段110は、前記目標エンジントルク設定手段108に備えられ、前記変更手段112により自動変速モードが選択されているときに比べてダウンシフトされやすいように変速線図が変更されているときには、例えば変更手段112により加速時ダウンシフト線から変速判断を行うように前記変速制御手段104に指令が出力されているときには、前記変更手段112により変速線図が変更されていないときに比べて、前記要求エンジントルク算出部122により算出された要求エンジントルクTEDを増加側へ補正して増加要求エンジントルクTEDAとする。つまり、要求エンジントルク補正手段110は、要求エンジントルクTEDを増加側へ補正することにより目標エンジントルクTE *を増加させて、アクセルペダル44の踏込みに対する電子スロットル弁50の開きゲインを大きくする。
例えば、要求エンジントルク補正手段110は、変速段や車速Vに基づいて要求エンジントルクTEDを所定値増加する。この所定値すなわち増加量は、前記要求エンジントルク算出部122による要求エンジントルクTEDの算出に用いられるエンジンマップがハイギヤ用程同じタービン回転速度NTに対する要求エンジントルクTEDが大きくなるように設定されているように、高車速側の変速段である程より大きくされる。また、比較的高車速側の変速段となる車速Vが増加する程所定値がより大きくされる。
図10は、電子制御装置100の制御作動の要部すなわち手動変速モードが選択されているときの駆動力アシスト制御を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。また、図11は、図10のフローチャートに示す制御作動を説明するタイムチャートであって、アクセル開度Accに示す点a〜点fはそれぞれ前記図8に示す点a〜点fに対応している。
図10において、前記経過時間判定手段116に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S1において、マニュアルダウンシフトが実行されてから所定時間T以内であるか否かが判定される。
図11のt1時点は、アクセルペダル44の戻し操作が行われてアクセルオフとされ、車両状態が点aから点bへ変化させられたことを示している。このときアクセルペダル44の全閉補償としてスロットル弁開度θTHはアイドル用スロットル弁開度θIDLとされる。
また、図11のt2時点は、アクセルオフに伴い車速Vが低下して車両状態が点cへ変化させられたときに、マニュアルダウンシフトが実行されて変速レンジが「4」レンジから「3」レンジへ切換え操作され、第4速ギヤ段から第3速ギヤ段へのダウンシフト指令が出力されたことを示している。このダウンシフト指令によるダウンシフトに伴って、被駆動状態ではあるがエンジン回転速度NEおよびタービン回転速度NTが上昇させられる。
また、上記t2時点から所定時間T以内であるか否かが判定される。この所定時間Tは上記ダウンシフトの変速時間や応答遅れを考慮して変速段毎に設定されている。
上記S1の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが、肯定される場合は前記加速要求量判定手段118に対応するS2において、加速要求量が予め定められた所定量よりも大きいか否かが、例えばアクセル開度Accが所定開度Acc’より大きいか否かに基づいて判定される。
図11のt3時点は、アクセルオフに伴い車速Vがさらに低下して車両状態が点dへ変化させられたときに、マニュアルダウンシフトが実行されてから所定時間T以内にアクセルペダル44が踏込操作されたことを示している。このアクセルペダル44の踏込操作により車両は駆動状態とされ、アクセル開度Accに基づいて算出された目標エンジントルクTE *が得られるようにスロットルアクチュエータ62によりスロットル弁開度θTHが制御される。これにより車両が加速される。また、アクセル開度Accが所定開度Acc’より大きいか否かが判定される。
上記S2の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが、肯定される場合は前記変更手段112に対応するS3において、自動変速モードが選択されているときに比べてダウンシフトされやすいように変速線図が変更される。例えば、図8の一点鎖線に示すようなダウンシフトされやすいように予め記憶された加速時ダウンシフト線から実際の車速Vおよびアクセル開度Accに基づいて変速判断を行うように前記変速制御手段104に指令が出力される。
図11のt3時点でのアクセルペダル44の踏込操作によりアクセル開度Accが所定開度Acc’より大きいと判定されると、加速時ダウンシフト線により変速判断が行われる。図11のt4時点は、アクセルペダル44の踏込操作に伴い車両状態が点fへ変化させられる過程である点eへ変化させられたときに、加速時ダウンシフト線により変速判断が行われて第3速ギヤ段から第2速ギヤ段へのダウンシフト指令が出力されたことを示している。このダウンシフト指令によるダウンシフトに伴って、破線に示す従来例と異なりエンジン回転速度NEおよびタービン回転速度NTが上昇させられると共に、従来例よりも駆動力Fが増加させられて加速度Gがより大きくされたことを示している。
次いで、上記S3にて自動変速モードが選択されているときに比べてダウンシフトされやすいように変速線図が変更されているときには前記要求エンジントルク補正手段110に対応するS4において、変速線図が変更されていないときに比べて要求エンジントルクTEDが増加側へ補正されて増加要求エンジントルクTEDAとされる。つまり、アクセルペダル44の踏込みに対する電子スロットル弁50の開きゲインが大きくされる。
図11のt3時点以降にて要求エンジントルクTEDが増加側へ補正されて増加要求エンジントルクTEDAとされると、実線に示すような要求エンジントルクTEDが増加側へ補正されていない場合に比較して、二点鎖線に示すように電子スロットル弁50の開きゲインがより大きくされて駆動力Fが増加させられ、加速度Gが一層大きくされる。
上述のように、本実施例によれば、自動変速モードと手動変速モードとを選択可能な自動変速機10において、手動変速モードが選択され且つ変速レンジが低車速側へ切り換えられたときには、すなわちマニュアルダウンシフトが行われたときには、マニュアルダウン判定手段114によりマニュアルダウンシフトが実行されたと判定されたときから所定時間T以内であると経過時間判定手段116により判定されている間で且つ加速要求量判定手段118により加速要求量が所定量よりも大きいと判定された場合に、自動変速モードが選択されているときに比べてダウンシフトされやすいように変更手段112により変速線図が変更されるので、運転者が車両を加速させるために駆動力Fを増大させることを意図している可能性があると考えられるマニュアルダウンシフト後の所定時間T内は、自動変速モード時に比較してダウンシフトにより加速要求量が所定量とされた運転者の加速意図に応じた駆動力が充足されやすく、その加速意図が適切に反映される。
また、本実施例によれば、前記所定時間Tは、マニュアルダウンシフト後の変速段が低車速側である程長くされるので、高車速側変速段に比べて変速時間が長い低車速側変速段においても運転者の加速意図が適切に反映される。
また、本実施例によれば、変更手段112により変速線図が変更されているときには、変速線図が変更されていないときに比べて要求エンジントルクTEDが要求エンジントルク補正手段110により増加側へ補正されるので、手動変速モード時には、自動変速モード時に比較してダウンシフトにより運転者の加速意図に応じた駆動力が一層充足されやすく、その加速意図がより適切に反映される。
また、本実施例によれば、要求エンジントルク補正手段110は、実際の変速段が高車速側である程要求エンジントルクTEDをより増加側へ補正するので、高車速側変速段における車両走行時には低車速側変速段における車両走行時に比べて運転者の加速意図に応じた駆動力がより充足される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例において、変更手段112は、マニュアルダウンシフトが実行されたときから所定時間T以内で且つ加速要求量が所定量よりも大きい場合に、自動変速モードが選択されているときに比べてダウンシフトされやすいように変速線図を変更したが、手動変速モードが選択されているときに、自動変速モードが選択されているときに比べてダウンシフトされやすいように変速線図を変更しても良い。
このようにしても、手動変速モードが選択されているときには、自動変速モードが選択されているときに比べてダウンシフトされやすいように変更手段112により変速線図が変更されるので、運転者が車両を加速させるために駆動力Fを増大させることを意図している可能性があると考えられる手動変速モード時には、自動変速モード時に比較してダウンシフトにより運転者の加速意図に応じた駆動力が充足されやすく、その加速意図が適切に反映される。
また、前述の実施例において、変更手段112は、マニュアルダウンシフトが実行されたときから所定時間T以内で且つ加速要求量が所定量よりも大きい場合に、自動変速モードが選択されているときに比べてダウンシフトされやすいように変速線図を変更したが、マニュアルダウン判定手段114によりマニュアルダウンシフトが実行されたと判定されたときから予め定められた所定時間T以内であると前記経過時間判定手段116により判定されている間は、ダウンシフトされやすいように変速線図を変更しても良い。
このようにしても、手動変速モードが選択され且つ変速レンジが低車速側へ切り換えられたときには、すなわちマニュアルダウンシフトが行われたときには、マニュアルダウン判定手段114によりマニュアルダウンシフトが実行されたと判定されたときから所定時間T以内であると経過時間判定手段116により判定されている間は、自動変速モードが選択されているときに比べてダウンシフトされやすいように変更手段112により変速線図が変更されるので、運転者が車両を加速させるために駆動力Fを増大させることを意図している可能性があると考えられるマニュアルダウンシフト後の所定時間T内は、自動変速モード時に比較してダウンシフトにより運転者の加速意図に応じた駆動力が充足されやすく、その加速意図が適切に反映される。
また、前述の実施例では、図11のタイムチャートに示すように「4」レンジから「3」レンジへのマニュアルダウン操作を例示したが、「7」レンジから「6」レンジへのマニュアルダウン操作、「6」レンジから「3」レンジへのマニュアルダウン操作等その他種々のマニュアルダウン操作であっても、本発明は適用され得る。
また、前述の実施例では、加速要求量判定手段118は、加速要求量が予め定められた所定量よりも大きいか否かを、例えばアクセル開度Accが所定開度Acc’より大きいか否かに基づいて判定したが、それに替えて或いは加えて、アクセル変化量ΔAccが所定変化量ΔAcc’より大きいか否か、すなわち踏込速度d(Acc)/dtが所定踏込速度d(Acc)/dt’より大きいか否かに基づいて判定しても良い。
また、前述の実施例では、要求エンジントルク補正手段110は、要求エンジントルクTEDを増加側へ補正することにより目標エンジントルクTE *を増加させて、アクセルペダル44の踏込みに対する電子スロットル弁50の開きゲインを大きくしたが、目標エンジントルクTE *が増加させられるように他の駆動力関連値や加速要求値等を増加補正しても良い。例えば、要求エンジントルク補正手段110は、非線形アクセル開度Accpを増加側へ補正したり、ドライバ要求駆動力FDDを増加側へ補正したり、目標駆動力F*を増加側へ補正したり、目標エンジントルクTE *を増加側へ補正しても良い。これらの場合も、要求エンジントルク補正手段110は、変速段や車速Vに基づいて所定値増加補正しても良い。
また、上記要求エンジントルクTEDや目標エンジントルクTE *等は車両を定常状態すなわち安定状態とするときの目標値であるが、目標エンジントルクTE *等へ向かう過渡的な目標値が設定されて例えば加速特性が制御されるような場合に、要求エンジントルク補正手段110はその過渡的な目標値例えば過渡的な要求出力特性を増加側へ補正して見かけ上アクセルペダル44の踏込みに対する電子スロットル弁50の開きゲインを大きくしても良い。この場合も、要求エンジントルク補正手段110は、変速段や車速Vに基づいて増加補正しても良い。
また、前述の実施例では、アクセル開度Accに基づいて目標エンジントルクTE *を算出し、その目標エンジントルクTE *が得られるようにスロットル弁開度θTHが制御される車両であったが、アクセル開度Accに応じて直接的にスロットル弁開度θTHが制御されるような車両であっても本発明は適用され得る。このような車両の場合には、要求エンジントルク補正手段110は、例えば変速段や車速Vに基づいてアクセル開度Accに応じたスロットル弁開度θTHを所定値増加補正する。
また、前述の実施例では、手動変速操作装置としてシフトレバー40が運転席の近傍に手動操作可能に配設されていたが、複数種類のシフトポジション例えば「P」、「R」、「N」、「D」、および「S」が選択可能に操作されるように備えられる範囲で、実施例以外に種々のものが好適に用いられる。例えば、ステアリングホイール近傍に配設される操作装置、押しボタン式のスイッチやスライド式スイッチ等の複数種類のシフトポジションを選択可能なスイッチ、或いは手動操作に因らず運転者の音声に反応して複数種類のシフトポジションを切り換えられる装置や足の操作により複数種類のシフトポジションを切り換えられる操作装置等であってもよい。
また、シフトレバー40が「S」ポジションへ操作されることにより手動変速モードが選択されたが、ギヤ段の変化範囲を制限する複数種類の変速レンジが切り換え可能に構成されればよく、実施例以外に種々のものが好適に用いられる。例えば、「8」〜「L」レンジに対応したシフトポジションが切り換え可能にそれぞれ設けられる操作装置等であってもよい。
また、手動変速モードが選択されたときには複数種類の変速レンジが切り換え可能に構成されたが、自動変速機10が無段変速機(CVT)である場合には、連続的に変化する変速比の変化範囲を制限する複数種類の変速レンジすなわち全ての変速比範囲内のうちで高車速側の変速比が異なる複数種類の変速レンジが切り換え可能に構成される。そして、自動変速機10が無段変速機(CVT)である場合には、自動変速モードが選択されているときに比べてダウンシフトされやすいように変更手段112によりダウンシフト線が変更されることに替えて、例えばアクセル開度をパラメータとして車速と無段変速機の目標入力回転速度との予め定められた無段変速機の変速制御に用いられる良く知られた関係(変速マップ)が自動変速モードが選択されているときに比べてダウンシフトされやすいように変更手段112により変更される。例えば、同じアクセル開度であっても目標入力回転速度が大きくなるようにすなわち変速比がより低車速側となるように(より大きくなるように)変速特性が変更される。このようにしても、自動変速モード時に比較してダウンシフトにより運転者の加速意図に応じた駆動力が充足されやすく、その加速意図が適切に反映される。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。