JP4234842B2 - シリコン単結晶ウエーハおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、チョクラルスキー法(以下、CZ法)により育成され、COPと呼ばれる微小ピットが少ないシリコン単結晶ウエーハおよびその製造方法に関する。
【0002】
【従来技術】
半導体デバイス用の基板には主にCZ法で製造されたウエーハが用いられている。CZ法とは、石英ルツボ内のシリコン融液に種結晶を漬け、石英ルツボおよび種結晶を回転させながら、一定速度で円柱状のシリコン単結晶を引上げる方法である。
【0003】
半導体デバイスの構造は微細化の一途をたどっており、それに伴ない基板となるシリコンウエーハにもより一層の高い品質が求められる。品質の中でも特に鏡面加工・洗浄工程を経て製品となったシリコンウエーハの表面に存在するCOP(Crystal Originated Pit)と呼ばれる微小ピットは、微細化されたデバイスパターンがその上に形成されるとデバイス不良の原因となるため、その低減が強く求められている。
【0004】
COPの検出は一般的には表面異物検査装置により行われているが、表面異物検査装置の検出精度は0.11μm程度までである。一方、セコエッチング法は、重クロム酸カリウム(1規定):フッ酸(50%)=1:2の混合液中にシリコンウエーハを液面に垂直に浸漬し、そのまま縦置きの状態で無攪拌状態のまま30分間保持した後、水洗かつ乾燥させて、ウエーハ表面に現れたエッチピットを計測する方法である。ウエーハ表面のCOPはセコエッチングによってフローパターンと呼ばれるエッチピット(さざなみ模様を伴なうエッチピット)として検出される。セコエッチング法は、0.11μm未満のサイズのCOPも検出することが可能である。
【0005】
COPの発生原因については、これまでの多くの研究によってある程度明らかにされつつある。COPの原因は、シリコン結晶内部に形成される微小なボイド(空洞)と考えられている。シリコンウエーハを製造する工程で結晶がボイドの位置でスライスされ、ウエーハの表面で切断されたボイドがCOPとなる。また、COPの原因となるボイドの形成過程は次のように考えられている。シリコン単結晶の育成過程において、結晶が凝固する際に多くの点欠陥(原子空孔)が固液界面付近で取り込まれ、取り込まれた原子空孔は結晶が冷却されるにつれて過飽和状態となり、1100℃付近で凝集(析出)してボイドを形成する。また原子空孔が関係して形成される結晶欠陥はボイドだけではなく、後述するように、その濃度に依存して酸化誘起積層欠陥(以下、OSF)の発生核となる欠陥や酸素析出物の発生核となる欠陥を形成することもある。
【0006】
結晶内に導入される点欠陥は原子空孔だけではなく、結晶の育成条件によって格子間原子が導入される場合もある。図1に示すように、導入される点欠陥の種類と濃度は、引上げ速度Vと、固液界面での結晶側の温度勾配Gとの比「V/G値」と強い関係があると考えられている。即ち、V/G値が大きい場合(図1において(V/G)3以上の場合)には結晶内に導入される点欠陥の種類は原子空孔である。また、導入された点欠陥濃度に依存して形成される欠陥の種類も変わると考えられており、V/G値が(V/G)1以上の場合には(図1参照)、導入された原子空孔はボイドを形成し、結果としてこの領域においてはウエーハのCOPサイズが大きくなりCOP密度が高くなる。
【0007】
V/G値が(V/G)1以下(V/G)2以上の場合には、導入された原子空孔はOSFの発生核(以下、OSF核)となる。このOSF核はウエーハ面内でリング状に分布している。そのためこのウエーハを熱酸化することでこのOSF核を起点として発生するOSFもリング状に分布することになり、このリング状の分布領域はリング領域と呼ばれ、このOSFは「OSFリング」と呼ばれている。熱酸化で発生したOSFがデバイス活性なウエーハ表面に存在すると、デバイス特性を劣化させることが判っている。
【0008】
V/G値が(V/G)2以下(V/G)3以上の場合には原子空孔は酸素析出物の発生核(以下、酸素析出核)となるが、この場合の酸素析出核は極めて微小な欠陥であるため、それ自体はデバイス特性を劣化させる原因にはならない。
V/G値が(V/G)3の場合には、原子空孔濃度は零となる。
V/G値が(V/G)3以下になると、結晶内に導入される点欠陥の種類は原子空孔から格子間原子に変わる。(V/G)3以下(V/G)4以上の場合には、デバイス特性を劣化させる欠陥は形成されない。
【0009】
V/G値が(V/G)4以下の場合には、導入された格子間原子は転位ループを形成する。転位ループはそれ自体がデバイス特性を劣化させることが明らかになっている。
【0010】
以上から判るように、V/G値が(V/G)2以下(V/G)4以上の場合であればデバイス特性に悪影響を及ぼす欠陥は形成されず、COPも発生しない。そのため、この条件領域で育成された結晶領域は「無欠陥領域」と呼ばれており、径方向の全面が無欠陥領域で構成されている結晶は「無欠陥領域結晶」と呼ばれている。
【0011】
シリコン単結晶を引上げる際、融液表面から上方にシリコン単結晶を取り囲むように円筒やロートと呼ばれる構造物を設置する方法が多く行われている。これらの構造物は、融液から結晶への輻射や石英ルツボの外側に配置されているヒーターから結晶への熱輻射を遮蔽し、結晶の冷却を促進する効果を有してる。更に引上げ炉の内壁に付着しているSiO粒などの異物が融液表面に落下するのを防止し、該異物が育成中の結晶の表面に付着して単結晶で育成されていた結晶が多結晶化してしまうことを防ぐなどの効果もある。
【0012】
一般に、ウエーハ面内では半径方向にGの値が変化し、結晶が強く冷却される外周部の方がGの値が大きい。従って図2に示すように、一般的な結晶育成方法では温度勾配Gに径方向分布が生じる。上記円筒やロートを設置した場合には特に、円筒やロートの内側を通って成長する結晶は中心部よりも外周部の方が強く冷却されるため、温度勾配Gは中心部で小さく外周部で大きくなる。
【0013】
一定の引上げ炉内構造を有する引上げ炉を用いて結晶引上げを行う場合、主に融液側の温度条件を調整することによってさまざまな引上げ速度で結晶を引上げることができる。低引上げ速度においてはウエーハ全面でV/G値が(V/G)1以下になる。引上げ速度を上げていき、V/G値が(V/G)3に近い条件で結晶を育成するとV/G値は(V/G)1から(V/G)4までの様々な値を横切るため、OSFリングを含む様々な欠陥が同心円状に分布することとなる。OSFリングの直径は引上げ速度が高くなるにつれて大きくなる。更に引上げ速度を上げるとOSFリングはウエーハの外周部から外側に消滅し、ウエーハ全面でV/G値が(V/G)1以上になる。
【0014】
融液側の温度を調整して更に引上げ速度を増大すると、結晶の外形が変形しはじめ、円柱形状から多角形形状に変形する。変形が進むと正常な引上げが困難となり、結晶の変形率を(最大直径−最小直径)/(最小直径)と定義したとき、変形率=7.5%を限度として、それ以上の引上げ速度では正常な引上げを行うことができなくなる。以後、変形率が7.5%となる引上げ速度を「最大引上げ速度」という。
【0015】
従来、引上げ炉の生産性を確保した上でOSFリング等の重大結晶欠陥の発生しないウエーハを製造するため、高い引上げ速度でOSFリングをウエーハの外周部から外側に消滅させる条件で製造が行われていた。この条件においては、COPの値が高くなるという問題を有していた。
【0016】
従来、COPを含む有害結晶欠陥の発生しない結晶を育成する手段として、前記した「無欠陥領域結晶」を製造する努力が払われてきた。例えば、特開平8−330316号公報では、V/G値を結晶中心位置の結晶外周から30mmまでの位置の間では0.20〜0.22mm2/℃・分とし、結晶外周から30mmまでの位置と結晶外周位置との間では0.20〜0.22mm2/℃・分とするか若しくは結晶外周に向かって漸次増加させることにより、結晶全面にわたり「無欠陥領域」が形成された結晶を製造する方法(即ち、V/G=0.20〜0.22とすれば、V/G値は(V/G)4〜(V/G)2の範囲内に入る。)が開示されている。ただし、この文献では「引上速度」をVとし、「シリコン融液から1300℃までの温度範囲における引上軸方向の結晶内温度勾配の平均値」をGとしている。
【0017】
「無欠陥領域」はV/G値が(V/G)2以下の低V/G領域にあり、かつ「無欠陥領域」のV/G値範囲は非常に狭い。温度勾配Gを大きくすることによってV/G値を下げようとすると、結晶は急冷される傾向になるため温度勾配の結晶径方向のバラツキ△Gが大きくなり、ウエーハ全面で無欠陥領域を形成することはできない。そのためにウエーハ全面で無欠陥領域を形成する手段としては引上げ速度Vを下げる手段を採用せざるを得ず、従来の「無欠陥領域結晶」は生産性を犠牲にすることにより実現されていた。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、生産性を犠牲にすることなくCOP密度を低減させることが可能なシリコン単結晶の製造方法を提供することにある。
【0019】
【課題を解決するための手段】
従来の「無欠陥領域結晶」においては、COPの値をほぼ零にすることができる。一方、デバイス歩留の低下要因を大まかに調べてみると、COP密度を零(無欠陥領域結晶)にする必要はなく、デバイスの種類やデザインルールによっては、ある程度のCOPサイズと密度が許容できることが判ってきた。
【0020】
また、V/G値が(V/G)1以上の領域においてはどのV/G値でもCOPサイズや密度が有害レベルにあるわけではなく、V/G値が(V/G)1に非常に近い領域においては、COPサイズと密度が上記のデバイスで許容できる範囲内に入っていることも明らかになった。
【0021】
一方、高い引上げ速度でOSFリングをウエーハの外周に消滅させ、ウエーハ全面でV/G値が(V/G)1以上となるような条件で引上げたウエーハにおいては、V/G値のウエーハ径方向の変動が大きく、このため、ウエーハ面内には必ずV/G値が非常に高くてCOPサイズと密度が上記のデバイスで許容できる範囲から外れる部位が存在する。OSFリングをウエーハの外周に消滅させた通常引上げ結晶においてCOPが無害化できないのは、このようなウエーハ面内でのV/G値のばらつきが原因であることがつきとめられた。
【0022】
本発明は、以上のような新たな知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1)チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を育成するにあたり、シリコン単結晶の引上速度をV(mm/分)とし、シリコン融液と結晶との固液界面における結晶側の温度勾配をG(℃/mm)とするとき、結晶径方向のV/G値のバラツキ△(V/G)が10%以下であり、かつ熱酸化処理をした際にリング状に発生する酸化誘起積層欠陥がウエーハ外周部に消滅するように制御される引上げ速度で引上げることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
(2)熱酸化処理をした際にリング状に発生する酸化誘起積層欠陥がウエーハ外周部に消滅する最低引上げ速度をV0 とするとき、引上げ速度がV0 〜1.5×V0 であることを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶の製造方法。
(3)チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を育成するにあたり、シリコン融液表面よりも上方に円筒あるいはロートを配置し、円筒あるいはロートの中心軸と引上軸を等しくし、該円筒あるいはロートの内側を通過させつつ結晶を育成する方法において、円筒の下端あるいはロートの下端の内径Dと育成されつつある結晶の直径dの関係が、
D<2d
であり、かつ円筒の下端あるいはロートの下端からシリコン融液表面までの距離Lとの関係が、
L>(D−d)/2
である引上げ炉内構造を有する引上げ炉でシリコン単結晶を育成し、かつ熱酸化処理をした際にリング状に発生する酸化誘起積層欠陥がウエーハ外周部に消滅する引上げ速度で引上げることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
(4)熱酸化処理をした際にリング状に発生する酸化誘起積層欠陥がウエーハ外周部に消滅する最低引上げ速度をV0 とするとき、引上げ速度がV0 〜1.5×V0 であることを特徴とする請求項3に記載のシリコン単結晶の製造方法。
(5)採用する引上げ炉において結晶径を所定の大きさに維持しつつ引上げを行うことのできる最大の引上げ速度を最大引上げ速度とし、平均引上げ速度が前記最大引上げ速度の60%以上となるような引上げ速度を用いることを特徴とする請求項1又は3に記載のシリコン単結晶の製造方法。
(6)チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を育成するにあたり、シリコン単結晶の引上速度をV(mm/分)とし、シリコン融液と結晶との固液界面における結晶側の温度勾配をG(℃/mm)とするとき、結晶中心でのV/G値が0.15(mm2 /℃・分)以上0.30(mm2 /℃・分)以下であり、かつ結晶径方向のV/G値のバラツキ Δ(V/G)が10%以下となるように制御される引上げ速度で引上げることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
(7)チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を育成するにあたり、シリコン単結晶の径方向の全面にわたり「無欠陥領域」を形成することが可能な炉内構造かつ引上げ条件を用いて、該引上げ条件で結晶径を所定の大きさに維持しつつ引上げを行うことのできる最大の引上げ速度を最大引上げ速度とし、平均引上げ速度を前記最大引上げ速度の60%以上とすることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
(8)チョクラルスキー法により育成されたシリコン単結晶ウエーハであって、熱酸化処理をした際にリング状に発生する酸化誘起積層欠陥がウエーハ外周部に消滅しており、かつウエーハ表面に存在するCOPと呼ばれる0.11μm以上の大きさを有する微小ピットの平均面積密度が1個/cm2 以下であり、かつ0.14μm以上の大きさを有する微小ピットの平均面積密度が0.01個/cm2以下であり、かつウエーハをセコエッチング液に30分間の無攪拌状態で縦置きして浸積することにより顕在化するフローパターンと呼ばれるエッチピットの平均面積密度が200個/cm2以下であることを特徴とするシリコン単結晶ウエーハ。
(9)チョクラルスキー法により育成されたシリコン単結晶ウエーハであって、熱酸化処理をした際にリング状に発生する酸化誘起積層欠陥が発生せず、かつウエーハ表面に存在するCOPと呼ばれる0.11μm以上の大きさを有する微小ピットの平均面積密度が0.01個/cm2 以上1個/cm2 以下であり、かつ0.14μm以上の大きさを有する微小ピットの平均面積密度が0.01個/cm2以下であり、かつウエーハをセコエッチング液に30分間の無攪拌状態で縦置きして浸積することにより顕在化するフローパターンと呼ばれるエッチピットの平均面積密度が5個/cm2 以上200個/cm2 以下であることを特徴とするシリコン単結晶ウエーハ。
【0023】
【発明の実施の形態】
COPとデバイス歩留との関係を詳しく調査してみると、デバイスの種類やデザインルールによってはCOP密度を零にして「無欠陥領域結晶」を製造する必要はなく、0.11μm以上のCOP平均面積密度が1個/cm2以下であり、かつ0.14μm以上のCOP平均面積密度が0.01個/cm2以下であり、かつフローパターン平均面積密度が200個/cm2以下に低減すれば充分であるが判った。このようなCOP分布を持つ結晶を以下「無害領域結晶」とよぶ。なお、平均面積密度とは、ウエーハ全面で計測された個数をウエーハの表面積で割ったものである。異物検査装置によるCOPサイズ・密度測定に合わせて、セコエッチングによるフローパターンの密度測定を行なえば、異物検査装置では検出できない小さなCOPも検出することが可能になった。
【0024】
本発明者らは、CZシリコン単結晶引上げにおける固液界面付近での結晶側の温度勾配を、計算機シミュレーションにより予測すると同時に、結晶内部に熱電対を差し込みながら実際に結晶成長を行なうなどの実験により厳密に測定した。そして、結晶の引上げ速度をV(mm/分)とし、固液界面における結晶側の結晶軸方向の温度勾配をG(℃/mm)としてV/G値を計算した。その結果、OSFリングがウエーハ外周に消滅するような高い引上げ速度で引上げた結晶であっても、V/G値が一定の値((V/G)0とする)以下であれば、0.11μm以上のCOP密度が0.01個/cm2〜1個/cm2であり、かつ0.14μm以上のCOP密度が0.01個/cm2以下であり、かつフローパターン密度が5個/cm2〜200個/cm2であること、即ち上記「無害領域結晶」となることを見出した。
【0025】
さらに本発明者らは上記測定により、(V/G)0は最大で0.30(mm2/℃・分)であり、(V/G)1=0.15(mm2/℃・分)であることを見出した。
【0026】
一般的な結晶引上げを行った場合、V/G値はウエーハ中心で大きく外周側で小さい傾向にあることは既に述べたが、OSFリングがウエーハ外周に消滅するような高い引上げ速度で引上げた場合、V/Gの径方向のバラツキΔ(V/G)が大きいためにウエーハ面内にV/G値が(V/G)0以上となる領域が必ず発生し、上記無害領域のCOPとすることができなかった。
【0027】
本発明者らは、Δ(V/G)が10%以下になるような引上げを行った場合、OSFリングがウエーハ外周に消滅するような高い引上げ速度で引上げても、ウエーハ面内のV/G値を(V/G)0以下に抑えられ、結果としてCOPを無害なものとできることを見出した。
【0028】
本発明において、Δ(V/G)は結晶内部の同一面内に径位置が異なる3点以上の熱電対を差し込みながら結晶成長を行う実験の結果と、その実験結果に基づいて行った計算機シミュレーションの結果により、同一面内の最大のV/Gと最小のV/Gを求め、「Δ(V/G)=(最大のV/G−最小のV/G)/最小のV/G」として評価する。
【0029】
ウエーハ中の原子空孔は酸素析出物の発生核(以下、酸素析出核)となる。V/G値によって該酸素析出核の発生挙動が異なる点は、COPと同様である。酸素析出核は極めて微小な欠陥であるため、それ自体はデバイス特性を劣化させる原因にはならないが、該酸素析出核を起点として、デバイス製造工程における様々な熱処理を経る間に発生する酸素析出物がウエーハ表面から深い位置に形成された場合には、イントリンシックゲッタリング(以下、IG)層として働き、デバイスプロセス中にウエーハに混入した不純物を吸着し無害化する効果がある。そのため、酸素析出核の分布のバラツキはゲッタリング効果の面内バラツキにつながることになる。従って、△(V/G)は小さいことが望ましい。本発明者らは、△(V/G)が10%以下であるならば、COPが改善されるのみならず、酸素析出などの品質に悪影響を及ぼさないことを見出した。
【0030】
また、本発明者らはΔ(V/G)を10%以下に低減すると、その炉内構造で引上げ可能な最大引上げ速度は無限には大きくならず、ある上限を持つことをも見出した。そして、Δ(V/G)が小さくなる炉内構造の引上げ炉で引上げを行なうと、たとえ最大引上げ速度に近い速度で引上げたとしても、ウエーハ面内のV/G値は低く抑えられ、(V/G)0以下に保持されるのである。即ち、Δ(V/G)が10%以下となる炉内構造の引上げ炉を用いて引上げを行い、OSFリングがウエーハ外周に消滅するような引上げ速度を採用すれば、結晶変形が発生しない通常の引上げ速度で引上げを行う限り、ウエーハ面内のCOPは「無害領域」のレベルに抑えることができるのである。
【0031】
さらに、Δ(V/G)が10%以下となる炉内構造であればどのような炉内構造でも、引上げ速度が最大引上げ速度の60%となるところでちょうどOSFリングがウエーハ外周に消滅することも判明した。即ち、Δ(V/G)が10%以下となる炉内構造の引上げ炉で引上げを行い、平均引上げ速度を最大引上げ速度の60%以上とすれば、OSFリングがウエーハ外周に消滅し、かつCOPが「無害領域」のレベルに抑えられる。最大引上げ速度に近い高速引上げを行う場合、平均引上げ速度を最大引上げ速度の90%以下とすれば、COPを「無害領域」のレベルに抑えることができる。
【0032】
また、Δ(V/G)が10%以下となる炉内構造の引上げ炉を用いて引上げを行い、リングOSFがウエーハ外周部に消滅する最低引上げ速度をV0とするとき、引上げ速度がV0〜1.5×V0でとなる範囲で引上げを行えば、ウエーハ面内のCOPは「無害領域」のレベルに抑えることができる。
【0033】
先に、V/G値は結晶中心よりも結晶外周側で小さくなることを述べた。結晶が冷却されるにしたがって、結晶内に貯えられる熱が結晶表面から放出されていくため、結晶外周側の方が中心部よりも早く冷やされ、固液界面付近の温度勾配Gは外周側の方が大きくなることによる。前述した円筒やロートを設置した場合には特に、円筒やロートの内側を通って成長する結晶は中心部よりも外周部の方が強く冷却されるため、V/G値の面内ばらつきΔ(V/G)は大きくなる。
【0034】
円筒やロートの断熱特性を低下させれば、結晶の冷却能力が低下するのでΔ(V/G)を小さくすることは可能であるが、結晶冷却能力の低下に伴って引上げ炉の生産性が低下するという弊害をもたらすこととなる。本発明者らは、円筒やロートの断熱特性を高く維持したままで外周側の温度勾配Gを大きくさせないためには、固液界面直上における結晶外周からの熱の放出を抑制し、熱を横方向からではなく上方向に抜く方法を考えるに至った。それを実現する方策として、シリコン融液表面から上方に円筒あるいはロートを設置し、その内側を通して結晶を育成させる際に、円筒の下端あるいはロートの下端の内径Dと育成されつつある結晶の直径dの関係が、
D<2d
であり、かつ円筒の下端あるいはロートの下端からシリコン融液表面までの距離Lとの関係が、
L>(D−d)/2
である引上げ炉内構造を有する引上げ炉でシリコン単結晶を育成することにより可能であることを見出した。円筒あるいはロートは、ヒーターや融液から結晶への輻射を抑制し、かつ結晶表面からの抜熱を促進する効果を持っている。円筒の下端あるいはロートの下端と融液表面との距離Lが、円筒あるいはロートの下端と結晶との隙間 (D−d)/2 よりも小さいと、結晶表面からの抜熱量が大きくなり結晶の外周側の温度勾配Gが大きくなるが、Lが(D−d)/2より大きいと円筒あるいはロートの下端とメルトとの間からヒーターからの輻射や融液からの輻射が固液界面付近の結晶表面にあたるため、固液界面直上の結晶表面からの抜熱量は少なくなり、熱は上方向に移動し、距離Lに設置された円筒やロートが設置されている付近で抜熱される。そのため固液界面付近では径方向に均一に抜熱されるようになり、Δ(V/G)も小さくなる。一方、円筒やロートの下端と結晶の隙間が大きくなりすぎると、円筒やロートによる輻射の抑制効果が小さくなるため、円筒あるいはロートの下端の内径Dと結晶の直径dの関係は、D<2d であることが必要である。
【0035】
従来知られている「無欠陥領域結晶」を育成することのできる引上げ炉を用いて径方向全面にわたり無欠陥領域が形成されている結晶を育成する際には、低い引上げ速度でリングOSFをウエーハ内周に消滅させた上、結晶面内の全ての位置においてV/G値が(V/G)2〜(V/G)4の狭い範囲に収められている。このような引上げを行った場合、結果としてΔ(V/G)が10%以下に抑えられていることが本発明者らの検討によって明らかになった。この無欠陥領域結晶を育成すると同じ引上げ条件(結晶回転、ルツボ回転、Arガス流量、炉内圧力、融液表面位置、ヒーター位置、予備ヒーター出力等)および同じ炉内構造(ヒーター、断熱材構造、円筒、ロート、ルツボ、ペデスタル等)をそのまま用いて、結晶径を所定の大きさに維持できるようにルツボを囲むヒーターの入力パワーを調整しつつ、引上げ速度を無欠陥領域結晶を育成するときよりも速くすると、Δ(V/G)が小さいまま、V/G値は(V/G)1より大きくなり、リング領域を結晶の外側に消滅させ、かつCOPが「無害領域」まで低減した本発明の結晶を育成することができる。
【0036】
前述したように、上記のような炉内構造を用いて「最大引上げ速度」の60%以上の引上げ速度を採用すれば、リングOSF領域は結晶の外周に排除することができる。また、先に述べたように、Δ(V/G)が小さい条件で引上げを行なうので、たとえ最大引上げ速度に近い速度で引上げたとしても、V/G値は(V/G)0以下に低く抑えられ、リング領域が外側に消滅し、かつCOPが「無害領域」まで低減した結晶を育成することができる。最大引上げ速度に近い高速引上げを行う場合、平均引上げ速度を最大引上げ速度の90%以下とすれば、COPを「無害領域」のレベルに抑えることができる。
【0037】
ウエーハ面内にリングOSFが存在しない場合は、リング領域がウエーハ外周から外側に消滅したか、あるいはウエーハ中心から内側に消滅したかのどちらかである。ウエーハ中心から内側に消滅した場合はCOPが消滅しており、ウエーハ外周から外側に消滅した場合は、COPの密度が高いか、あるいは本発明のように0.11μm以上のCOP密度が0.01個/cm2〜1個/cm2、0.14μm以上のCOP密度が0.01個/cm2以下、フローパターン密度が5個/cm2〜200個/cm2の範囲に存在する。従って、COPの密度を評価することにより、リング領域がウエーハ外周から外側に消滅したか、あるいはウエーハ中心から内側に消滅したかを判断することができる。
【0038】
【実施例】
<実施例1>
本実施例では図3に示すCZ法によるシリコン単結晶の製造装置20を用いた。
【0039】
シリコン単結晶の製造装置20は、シリコンを溶解するための部材やシリコン結晶を引上げる機構などを有しており、シリコン溶解のための部材は加熱チャンバ2a内に収容され、シリコン結晶を引上げる機構は、引上げチャンバ2bの内部および外部に設けられている。また、加熱チャンバ2aと引上げチャンバ2bの間には中間チャンバ2cが設けられている。
【0040】
加熱チャンバ2a内には、溶解しているシリコンLを収容するルツボ3が設けられ、このルツボ3は図示しない駆動装置に回転軸5によって回転・昇降自在に支持されている。駆動装置は、シリコン単結晶Sの引上げに伴なう液面低下を補償すべくルツボ3を液面低下分だけ上昇させ、また、シリコン融液Lの攪拌を行なうためにルツボ3を所定の回転数で回転させる。回転軸は加熱チャンバ2aを貫通しているが、チャンバ2内外の気密を保持し、また極めて悪い温度条件の下での使用となるために、図示しない特殊なベアリングで保持されている。
【0041】
ルツボ3は従来と同じ石英ルツボ3aとこれを保護する黒鉛ルツボ3bとから構成されている。
【0042】
ルツボ3の側壁部分には、シリコンを溶解させる加熱ヒータ4がルツボ3の周囲を取り囲むように配置されている。この加熱ヒーター4の外側には、この加熱ヒーターからの熱が加熱チャンバ2aに直接輻射されるのを防止する断熱材12がその周囲を取り囲むように設けられている。なお、加熱ヒータ4と断熱材12は支持台16に取り付けられている。この支持台16は熱抵抗率の非常に大きな材料を用いて作られている。
【0043】
引上げチャンバ2bには、一端がワイヤ巻き上げ機11に取り付けられ、中間チャンバ2cの天井部6aの頂壁を挿通して垂れ下げられた引上げワイヤ8が設けられ、この引上げワイヤ8の下端には、種結晶9を保持するチャック10が取り付けられている。ワイヤ巻き上げ機8は種結晶9の下端側に徐々に成長するシリコン単結晶Sをその成長速度等に従って引上げ、同時に、ルツボ3の回転方向とは反対に常時回転させる。
【0044】
この引上げチャンバ2bの収容部に形成されたガス導入口13からはアルゴンガスが導入され、このアルゴンガスは加熱チャンバ2a内に流通した後にガス排出口14から排出されるようになっている。このようにチャンバ2内にアルゴンガスを流通させるのは、前述のように、加熱ヒータ4の加熱によるシリコンの溶解に伴なってチャンバ2内に発生するSiOガスやCOガスをシリコン融液内に混入させないようにするためである。
【0045】
融液表面より上方には、カーボンや、あるいはMoで構成された1重あるいは複重構造のロートが設置されている。複重構造の場合には、その重なりの間に断熱材が装填されている場合もある。本実施例においては、2重構造で間に断熱材を装填したカーボン製のロートを用いた。
【0046】
このような引上げ装置を用いて、以下の条件でシリコン単結晶の引上げを行なった。なお、COPの測定は、全ての実施例に関して、異物検査装置LS6000で測定した。
・結晶径d: 208mm
・ロート下端の内径D: 260mm
・ロート下端と融液表面との距離L: 50mm
・平均引上げ速度V: 0.65mm/分
・最大引上げ速度Vmax(この引上げ炉で引上げ可能な最大引上げ速度): 0.75mm/分
・固液界面での結晶軸方向の結晶側の温度勾配(結晶中心)G: 4.0℃/mm
・固液界面での結晶軸方向の結晶側の温度勾配の面内バラツキ△G: 8%
この引上げ条件は、
・V/G=0.163(mm2/℃・分)
・Δ(V/G)=8%
・D<2d の条件を満たしている。
・L>(D−d)/2 の条件を満たしている。
・V/Vmax は、87%である、
なお、この炉内構造、かつ引上げ条件で、結晶径を維持したまま引上げ速度を下げていった場合にリング領域が結晶外周部に消滅している最小引上げ速度(V0)は0.45mm/分であった。また、さらに引上げ速度を下げた場合には、径方向全てにわたって無欠陥領域を形成することはできない事が分かっている。
【0047】
この条件で引上げられた結晶の品質を調査したところ、以下の結果が得られた。
・リング領域は、結晶外周部に消滅している。
・0.11μm以上のCOPの平均面積密度: 0.32個/cm2
・0.14μm以上のCOPの平均面積密度: 0.0032個/cm2
・フローパターンの平均面積密度: 172個/cm2
この結果から、結晶中心でのV/G値が0.15(mm2/℃・分)以上0.30(mm2/℃・分)以下に入っており、Δ(V/G)値が10%以下であれば、COPが低減された品質の良好な結晶を製造することができることが判る。
【0048】
<実施例2>
図3の引上装置を用いて、以下の条件でシリコン単結晶の引上げを行なった。
・結晶径d: 208mm
・ロート下端の内径D: 250mm
・ロート下端と融液表面との距離L: 80mm
・平均引上げ速度V: 0.50mm/分
・最大引上げ速度Vmax: 0.58mm/分
・固液界面での結晶軸方向の結晶側の温度勾配(結晶中心)G: 2.2℃/mm
・固液界面での結晶軸方向の結晶側の温度勾配の面内バラツキ△G: 7%
この引上げ条件は、
・V/G=0.227(mm2/℃・分)
・Δ(V/G)=7%
・D<2d の条件を満たしている、
・L>(D−d)/2 の条件を満たしている、
・V/Vmax は、86%である、
なお、この炉内構造、かつ引上げ条件で、結晶径を維持したまま引上げ速度を下げていった場合にV0=0.35mm/分であった。また、さらに引上げ速度を下げた場合には、径方向全てにわたって無欠陥領域を形成することはできない事が分かっている。
【0049】
この条件で引上げられた結晶の品質を調査したところ、以下の結果が得られた。
・リング領域は、結晶外周部に消滅している。
・0.11μm以上のCOPの平均面積密度: 0.32個/cm2
・0.14μm以上のCOPの平均面積密度: 0.0063個/cm2
・フローパターンの平均面積密度: 83個/cm2
この結果から、D<2d、かつ L>(D−d)/2であれば、COPが低減された品質の良好な結晶を製造することができることが判る。
【0050】
<実施例3>
本実施例では図4に示すCZ法によるシリコン単結晶の製造装置20を用いた。
【0051】
図4の装置が図3の装置と異なる箇所は、結晶に対する熱遮蔽部材がロートから円筒に変更されているのみであり、その外の部分は同じである。円筒は、融液表面より上方に設置され、カーボンや、あるいはMoで構成された1重あるいは複重構造を有している。複重構造の場合には、その重なりの間に断熱材が装填されている場合もある。本実施例においては、1重構造のカーボン製の円筒を用いた。
【0052】
このような引上げ装置を用いて、以下の条件でシリコン単結晶の引上げを行なった。
・結晶径d: 208mm
・円筒下端の内径D: 240mm
・ロート下端と融液表面との距離L: 65mm
・平均引上げ速度V: 0.55mm/分
・最大引上げ速度Vmax: 0.65mm/分
・固液界面での結晶軸方向の結晶側の温度勾配(結晶中心)G: 3.2℃/mm
・固液界面での結晶軸方向の結晶側の温度勾配の面内バラツキ△G: 6%
この引上げ条件は、
・V/G=0.172(mm2/℃・分)
・Δ(V/G)=6%
・D<2d の条件を満たしている、
・L>(D−d)/2 の条件を満たしている、
・V/Vmax は、85%である、
なお、この炉内構造、かつ引上げ条件で、結晶径を維持したまま引上げ速度を下げていった場合にV0=0.39mm/分であった。また、さらに引上げ速度を下げた場合には、径方向全てにわたって無欠陥領域を形成することはできないことが判っている。
【0053】
この条件で引上げられた結晶の品質を調査したところ、以下の結果が得られた。
・リング領域は、結晶外周部に消滅している。
・0.11μm以上のCOPの平均面積密度: 0.45個/cm2
・0.14μm以上のCOPの平均面積密度: 0.0035個/cm2
・フローパターンの平均面積密度: 65個/cm2
この結果から、D<2d、かつ L>(D−d)/2であれば、COPが低減された品質の良好な結晶を製造することができることが判る。
【0054】
<実施例4>
図3の引上装置を用いて、以下の条件でシリコン単結晶の引上げを行なった。
・結晶径d: 208mm
・ロート下端の内径D: 250mm
・ロート下端と融液表面との距離L: 100mm
・平均引上げ速度V: 0.35mm/分
・最大引上げ速度Vmax: 0.41mm/分
・固液界面での結晶軸方向の結晶側の温度勾配(結晶中心)G: 1.5℃/mm
・固液界面での結晶軸方向の結晶側の温度勾配の面内バラツキ△G: 3%
この引上げ条件は、
・V/G=0.233(mm2/℃・分)
・Δ(V/G)=3%
・D<2d の条件を満たしている、
・L>(D−d)/2 の条件を満たしている、
・V/Vmax は、85%である、
なお、この炉内構造、かつ引上げ条件で、結晶径を維持したまま引上げ速度を下げていった場合にV0=0.25mm/分であった。また、さらに引上げ速度を下げた場合には、ある引上げ速度において、径方向全てにわたって無欠陥領域を形成することができる事が分かっている。
【0055】
この条件で引上げられた結晶の品質を調査したところ、以下の結果が得られた。
・リング領域は、結晶外周部に消滅している。
・0.11μm以上のCOPの平均面積密度: 0.10個/cm2
・0.14μm以上のCOPの平均面積密度: 0個/cm2
・フローパターンの平均面積密度: 45個/cm2
この結果から、径方向の全面にわたり無欠陥領域を形成することが可能な引上げ条件かつその炉内構造を用いて、結晶径を所定の大きさに維持しつつ、平均引上げ速度を最大引上げ速度の60%以上とすることによって、COPが低減された品質の良好な結晶を製造することができることが判る。
【0056】
<実施例5>
図3の引上装置を用いて、以下の条件でシリコン単結晶の引上げを行なった。
・結晶径d: 310mm
・ロート下端の内径D: 400mm
・ロート下端と融液表面との距離L: 100mm
・平均引上げ速度V: 0.55mm/分
・最大引上げ速度Vmax: 0.68mm/分
・固液界面での結晶軸方向の結晶側の温度勾配(結晶中心)G: 2.3℃/mm
・固液界面での結晶軸方向の結晶側の温度勾配の面内バラツキ△G: 5%
この引上げ条件は、
・V/G=0.239(mm2/℃・分)
・Δ(V/G)=5%
・D<2d の条件を満たしている、
・L>(D−d)/2 の条件を満たしている、
・V/Vmax は、81%である、
なお、この炉内構造、かつ引上げ条件で、結晶径を維持したまま引上げ速度を下げていった場合にV0=0.41mm/分であった。また、さらに引上げ速度を下げた場合には、ある引上げ速度において、径方向全てにわたって無欠陥領域を形成することはできる事が分かっている。
この条件で引上げられた結晶の品質を調査したところ、以下の結果が得られた。
・リング領域は、結晶外周部に消滅している。
・0.11μm以上のCOPの平均面積密度: 0.13個/cm2
・0.14μm以上のCOPの平均面積密度: 0.003個/cm2
・フローパターンの平均面積密度: 61個/cm2
この結果から、径方向の全面にわたり無欠陥領域を形成することが可能な引上げ条件かつその炉内構造を用いて、結晶径を所定の大きさに維持しつつ、平均引上げ速度を最大引上げ速度の60%以上とすることによって、COPが低減された品質の良好な結晶を製造することができることが判る。
【0057】
<実施例6>
図3の引上装置を用いて、以下の条件でシリコン単結晶の引上げを行なった。
・結晶径d: 208mm
・ロート下端の内径D: 420mm
・ロート下端と融液表面との距離L: 80mm
・平均引上げ速度V: 0.25mm/分
・最大引上げ速度Vmax: 0.41mm/分
・固液界面での結晶軸方向の結晶側の温度勾配(結晶中心)G: 1.6℃/mm
・固液界面での結晶軸方向の結晶側の温度勾配の面内バラツキ△G: 7%
この引上げ条件は、
・V/G=0.156(mm2/℃・分)
・Δ(V/G)=8%
・D<2d の条件を満たしていない、
・L>(D−d)/2 の条件を満たしていない、
・V/Vmax は、61%である、
なお、この炉内構造、かつ引上げ条件でのV0は0.25mm/分であった。また、結晶径を維持したまま引上げ速度を下げていった場合には、径方向全てにわたって無欠陥領域を形成することができる事が分かっている。
【0058】
この条件で引上げられた結晶の品質を調査したところ、以下の結果が得られた。
・リング領域は、結晶外周部に消滅している。
・0.11μm以上のCOPの平均面積密度: 0.88個/cm2
・0.14μm以上のCOPの平均面積密度: 0.0086個/cm2
・フローパターンの平均面積密度: 174個/cm2
この結果から、結晶中心でのV/G値が0.15(mm2/℃・分)以上0.30(mm2/℃・分)以下に入っており、Δ(V/G)値が10%以下であれば、COPが低減された品質の良好な結晶を製造することができることが判る。
【0059】
<比較例1>
図3の引上装置を用いて、以下の条件でシリコン単結晶の引上げを行なった。
・結晶径d: 208mm
・ロート下端の内径D: 255mm
・ロート下端と融液表面との距離L: 22mm
・平均引上げ速度V: 1.05mm/分
・最大引上げ速度Vmax: 1.22mm/分
・固液界面での結晶軸方向の結晶側の温度勾配(結晶中心)G:3.1℃/mm
・固液界面での結晶軸方向の結晶側の温度勾配の面内バラツキ△G:12%
この引上げ条件は、
・V/G=0.339(mm2/℃・分)
・Δ(V/G)=12%
・D<2d の条件を満たしている、
・L>(D−d)/2 の条件を満たしていない、
・V/Vmax は、86%である、
なお、この炉内構造、かつ引上げ条件で、結晶径を維持したまま引上げ速度を下げていった場合にV0=0.73mm/分であった。また、さらに引上げ速度を下げた場合には、径方向全てにわたって無欠陥領域を形成することはできない事が分かっている。
この条件で引上げられた結晶の品質を調査したところ、以下の結果が得られた。
・リング領域は、結晶外周部に消滅している。
・0.11μm以上のCOPの平均面積密度: 1.22個/cm2
・0.14μm以上のCOPの平均面積密度: 0.008個/cm2
・フローパターンの平均面積密度: 422個/cm2
・この結果から、V/G値が0.30(mm2/℃・分)を越える場合には、COPを低減できないことが判る。
【0060】
<比較例2>
図4の引上装置を用いて、以下の条件でシリコン単結晶の引上げを行なった。
・結晶径d: 208mm
・ロート下端の内径D: 265mm
・ロート下端と融液表面との距離L: 29mm
・平均引上げ速度V: 0.38mm/分
・最大引上げ速度Vmax: 1.10mm/分
・固液界面での結晶軸方向の結晶側の温度勾配(結晶中心)G: 2.9℃/mm
・固液界面での結晶軸方向の結晶側の温度勾配の面内バラツキ△G: 8%
この引上げ条件は、
・V/G=0.131(mm2/℃・分)
・Δ(V/G)=8%
・D<2d の条件を満たしている、
・L>(D−d)/2 の条件を満たしていない、
・V/Vmax は、35%である、
なお、この炉内構造、かつ引上げ条件で、結晶径を維持したまま引上げ速度を上げていった場合にV0=0.66mm/分であった。また、さらに引上げ速度を下げた場合には、径方向全てにわたって無欠陥領域を形成することはできない事が分かっている。
この条件で引上げられた結晶の品質を調査したところ、以下の結果が得られた。
・リング領域は、ウエーハ面内に同心円状に現れている。
・0.11μm以上のCOPの平均面積密度: 0.5個/cm2
・0.14μm以上のCOPの平均面積密度: 0.001個/cm2
・フローパターンの平均面積密度: 54個/cm2
・この結果から、Δ(V/G)が10%以下であっても、V/G値が0.15(mm2/℃・分)未満である場合には、リング領域を結晶の外周に消滅させることはできないことが判る。
【0061】
<比較例3>
図3の引上装置を用いて、以下の条件でシリコン単結晶の引上げを行なった。
・結晶径d: 208mm
・ロート下端の内径D: 255mm
・ロート下端と融液表面との距離L: 17mm
・平均引上げ速度V: 1.21mm/分
・最大引上げ速度Vmax: 1.43mm/分
・固液界面での結晶軸方向の結晶側の温度勾配(結晶中心)G: 4.1℃/mm
・固液界面での結晶軸方向の結晶側の温度勾配の面内バラツキ△G: 17%
この引上げ条件は、
・V/G=0.295(mm2/℃・分)
・Δ(V/G)=17%
・D<2d の条件を満たしている、
・L>(D−d)/2 の条件を満たしていない、
・V/Vmax は、85%である、
なお、この炉内構造、かつ引上げ条件で、結晶径を維持したまま引上げ速度を下げていった場合にV0=0.86mm/分であった。また、さらに引上げ速度を下げた場合には、径方向全てにわたって無欠陥領域を形成することはできない事が分かっている。
この条件で引上げられた結晶の品質を調査したところ、以下の結果が得られた。
・リング領域は、結晶外周部に消滅している。
・0.11μm以上のCOPの平均面積密度: 0.32個/cm2
・0.14μm以上のCOPの平均面積密度: 0個/cm2
・フローパターンの平均面積密度: 818個/cm2
・この結果から、V/G値が0.30(mm2/℃・分)未満であってもΔ(V/G)が10%を越える場合には、フローパターン(小さなCOP)を低減できないことが判る。
【0062】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、リング領域がなく、かつCOPが少ない良好な品質を有する結晶を、生産性を犠牲にすることなく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】V/G値と、結晶に導入される点欠陥濃度、形成される欠陥種との関係を示す図である。
【図2】従来の結晶育成方法における温度勾配Gの径方向分布、および結晶断面での欠陥分布を示す図である。
【図3】本発明の実施例、および比較例に用いるシリコン単結晶の概略構成図である。
【図4】本発明の他の実施例、および比較例に用いるシリコン単結晶の概略構成図である。
【符号の説明】
2a・・・・加熱チャンバ、
2b・・・・引上げチャンバ
2c・・・・中間チャンバ
3 ・・・・ルツボ
4 ・・・・加熱ヒータ
6a・・・・天井部
12・・・・断熱材
22・・・・ロート
32・・・・円筒
S ・・・・シリコン単結晶
L ・・・・溶融シリコン
Claims (4)
- チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を育成するにあたり、シリコン単結晶の引上速度をV(mm/分)とし、シリコン融液と結晶との固液界面における結晶側の温度勾配をG(℃/mm)とするとき、結晶径方向のV/G値のバラツキ△(V/G)が10%以下であり、かつ熱酸化処理をした際にリング状に発生する酸化誘起積層欠陥がウエーハ外周部に消滅するように制御される引上げ速度で引上げることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
- 熱酸化処理をした際にリング状に発生する酸化誘起積層欠陥がウエーハ外周部に消滅する最低引上げ速度をV0とするとき、引上げ速度がV0〜1.5×V0であることを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶の製造方法。
- 採用する引上げ炉において結晶径を所定の大きさに維持しつつ引上げを行うことのできる最大の引上げ速度を最大引上げ速度とし、平均引上げ速度が前記最大引上げ速度の60%以上となるような引上げ速度を用いることを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶の製造方法。
- チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を育成するにあたり、シリコン単結晶の引上速度をV(mm/分)とし、シリコン融液と結晶との固液界面における結晶側の温度勾配をG(℃/mm)とするとき、結晶中心でのV/G値が0.15(mm2/℃・分)以上0.30(mm2/℃・分)以下であり、かつ結晶径方向のV/G値のバラツキ Δ(V/G)が10%以下となるように制御される引上げ速度で引上げることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
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