JP4227820B2 - 新規な酵素 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、糖化ヘモグロビンα鎖N端の糖化ペプチドよりも、糖化ヘモグロビンβ鎖N端の糖化ペプチドに特異性の高い酵素、該酵素を用いた測定方法、試薬に関する。更に詳しくは臨床の現場で簡便、正確及び安価にヘモグロビンA1cを測定する為の酵素、該酵素を用いた測定方法及び試薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
糖化蛋白はグルコースなどの還元糖が共存する場合、タンパク質のアミノ基とアルデヒド基が非酵素的かつ非可逆的に結合し、アマドリ転移することにより生成される。生体内では血液中のヘモグロビンが糖化されたグリコヘモグロビン、アルブミンが糖化されたグリコアルブミン、血液中のタンパク質が糖化されたフルクトサミンなどが知られている。これらの血中濃度は、過去の一定期間の平均血糖値を反映しており、その測定値は糖尿病の病状の診断及び症状の管理の重要な指標となり得るために測定手段の確立は臨床上、極めて有用である。
【0003】
その中でも、現在、糖尿病診断の指標となる最も一般的かつ臨床データのそろっているものは、血中ヘモグロビンA1c濃度であり、特にその簡便、正確な測定手段の確立が求められている。また、醤油や味噌などの食品中のアマドリ化合物を定量することにより、その食品の製造後の保存状況や期間を知ることができ、品質管理に役立つと考えられる。
【0004】
従来、アマドリ化合物の測定法としては、高速液体クロマトグラフィーを用いる方法(非特許文献1)、ホウ酸を結合させた固体を詰めたカラムを用いる方法(非特許文献2)、抗原−抗体反応を利用する方法(非特許文献3)還元能をテトラゾリウム塩を用いて比色定量する方法(非特許文献4)、チオバリビツール酸を用いて比色定量する方法(非特許文献5)等が知られている。
【0005】
しかしながらこれらの方法は、いずれも操作が煩雑であったり、高価な機器が必要であったり、必ずしも正確で迅速な方法ではなかった。現在、上記方法よりも操作が簡単で、安価に、短時間で精度良く糖蛋白質を測定する方法として、酵素的方法が提案されている。アマドリ化合物を定量する方法として、特許文献1)〜7)、糖尿病の診断のための糖化蛋白質の測定法として、特許文献8)〜11)等が知られている。
【0006】
上記方法で使用されている糖化アミノ酸若しくは糖化ペプチドに作用する酵素としては、これまでにコリネバクテリウム属(特許文献12)、アスペルギルス属(特許文献13)、ニシリウム属(特許文献14)、フザリウム属(特許文献15〜17)、ギベレラ属(特許文献18、19)、カンジダ属(特許文献20)、アスペルギルス属(特許文献21、22)由来のフルクトシルアミンオキシダーゼが報告されている。
【0007】
ヘモグロビンはα鎖およびβ鎖の2本のポリペプチドからなる分子量64,500の4量体である。ヘモグロビンのα鎖のN末端アミノ酸配列はバリン−ロイシン−セリン−・・・、β鎖のN末端アミノ酸配列はバリン−ヒスチジン−ロイシン−・・・である。ヘモグロビンA1cはβ鎖のN末端バリンが糖化されたものと定義されており、ヘモグロビン中のどのアミノ酸が糖化されているかはわからない糖化ヘモグロビンとは区別されている。現在臨床現場では、その正確性からヘモグロビンA1cが多用されており、グリコヘモグロビンを測定することはほとんどなくなってきた。
【0008】
糖化ヘモグロビンの酵素を用いた測定法として、ロイシンのC末端側を切断するプロテアーゼとジペプチジルカルボキシペプチダーゼを作用させてβ鎖のN末端糖化バリンのみを遊離させる方法が考案された(特許文献23)が、この方法ではプロテアーゼにより多量のペプチドが遊離するため、目的とするフルクトシルバリルヒスチジルロイシンを完全に分解するためには高価なジペプチジルカルボキシペプチダーゼが多量に必要となる等の問題がある。
【0009】
また、N末端の糖化バリルヒスチジンに作用するFAODを用いた測定法(特許文献24)が報告されたが、これには糖化ヘモグロビンのα鎖から遊離するペプチドに対する反応性については全く述べられていなかった。つまり、ヘモグロビンのβ鎖N末端バリンの糖化部位を特異的に認識して測定しているのではなくα鎖およびβ鎖の両方のN末端糖化バリンを測定するものであり、本来のヘモグロビンA1c、すなわちβ鎖のN末端糖化バリンを測定しているものではなかった。
これまでにHbA1cを酵素を持いて簡便、安価、迅速に測定する方法はなかった。
【0010】
【非特許文献1】
Chromatogr. Sci., 10:659(1979)
【非特許文献2】
Clin.Chem.26:1598(1982)
【非特許文献3】
JJCLA 18:620(1993)
【非特許文献4】
Clin. Chim. Acta 127:87(1982)
【非特許文献5】
Clin.Chim.Acta 112:197(1981)
【特許文献1】
特公平05−33997号公報
【特許文献2】
特公平6−65300号公報
【特許文献3】
特開平02−195900号公報
【特許文献4】
特開平03−155780号公報
【特許文献5】
特開平04−4874号公報
【特許文献6】
特開平05−192193号公報
【特許文献7】
特開平06−46846号公報
【特許文献8】
特開平02−195899号公報
【特許文献9】
特開平02−19590号公報
【特許文献10】
特開平05−192193号公報
【特許文献11】
特開平06−46846号公報
【特許文献12】
特開昭61−268178号公報
【特許文献13】
特開平3−155780号公報
【特許文献14】
特開平4−4874号公報
【特許文献15】
特開平5−192193号公報
【特許文献16】
特開平7−289253号公報
【特許文献17】
特開平8−154672号公報
【特許文献18】
特開平5−192193号公報
【特許文献19】
特開平7−289253号公報
【特許文献20】
特開平6−46846号公報
【特許文献21】
特開平10−33177号公報
【特許文献22】
特開平10−33180号公報
【特許文献23】
特開2000−300294号公報
【特許文献24】
特開2001−95598号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は糖化ヘモグロビンα鎖N端の糖化ペプチドよりも、糖化ヘモグロビンβ鎖N端の糖化ペプチドに特異性の高い酵素、該酵素を用いた測定方法、試薬を提供することにあり、さらに詳しくはヘモグロビンA1cを酵素を用いて簡便、正確、安価に測定する酵素、測定方法及び試薬を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決するために、ヘモグロビンβ鎖N末端にのみ作用する酵素を探索した。探索に当たってヘモグロビンα鎖の配列はN端よりVLSであり、β鎖の配列はN端よりVHLであることから、N端はα鎖もβ鎖も同じであり、N末端の糖化アミノ酸を遊離してヘモグロビンβ鎖N末端にのみ作用する酵素を探索することは不可能である。そこで本発明者らはヘモグロビンα鎖及びβ鎖N末端糖化物のモデル基質である1デオキシフルクトシルバリルロイシン(以下FVLと略す)及び1デオキシフルクトシルバリルヒスチジン(以下FVHと略す)をハシバらの方法(Hashiba H,J.Agric.Food Chem.24:70,1976)を用いて合成、精製した。
【0013】
本発明者らは自然界に存在する酵素(各地の土壌等から単離した菌)や購入した保存菌を培養し、FVHに作用し、FVLに実質的に作用しないFAODを生産する菌株をスクリーニングし、鋭意検討を重ねた結果、ネオコスモスポラ・バシンフェクタ(Neocosmospora vasinfecta)NBRC7590、コニオケチジウム・サボリ(Coniochaetidium savoryi)ATCC36547、アルスリニウム・エスピー(Arthrinium sp.)TO6(FERM P−19211)、アルスリニウム・ファエオスペルマム(Arthrinium phaeospermum)NBRC31950、アルスリニウム・ファエオスペルマム(Arthrinium phaeospermum)NBRC6620、アルスリニウム・ジャポニカム(Arthrinium japonicum)NBRC31098、ピレノケータ・エスピー(Pyrenochaeta sp.)YH807(FERM P−19210)、ピレノケータ・ゲンチアニコラ(Pyrenochaeta gentianicola)MAFF425531、ピレノケータ・テレストリス(Pyrenochaeta terrestris)NBRC 30929、レプトスフェリア・ノドラム(Leptosphaeria nodorum)(分生子世代名フォーマ・ヘンネべルギー(Phoma hennebergii))NBRC7480、レプトスフェリア・ドリオラム(Leptosphaeria doliolum)JCM2742、レプトスフェリア・マクランス(Leptosphaeria maculans)(分生子世代名フォーマ・リンガム(Phoma lingum))MAFF7
26528、プレオスポラ・ハーブラム(Pleospora herbarum)NBRC32012、プレオスポラ・ベタエ(Pleospora betae)(分生子世代名フォーマ・ベタエ(Phoma betae))NBRC5918、オフィオボラス・ヘルポトリカス(Ophiobolus herpotrichus)NBRC6158、カーブラリア・クラベータ(Curvularia clavata)YH923(FERM P−19209)などの微生物が糖化ヘモグロビンα鎖N端の糖化ペプチドよりも、糖化ヘモグロビンβ鎖N端の糖化ペプチドに特異性の高い酵素を生産することを発見した。これらの生産性を下記表1に示し、それらの精製酵素の性質を下記表2および表3示した。
【0014】
【表1】
【0015】
【表2】
【0016】
【表3】
【0017】
さらに本酵素を用いてヘモグロビンA1cを正確、簡便、安価に測定できることを見出し本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は
1)糖化ヘモグロビン瘢スN端の糖化ペプチドよりも、糖化ヘモグロビンβ鎖N端の糖化ペプチドに特異的に作用する酵素。
2)糖化ヘモグロビンβ鎖N端の糖化ペプチドに作用し、糖化ヘモグロビンα鎖N端の糖化ペプチドに実質的に作用しない酵素。
3)糖化ヘモグロビンβ鎖N端の糖化ペプチドが1-デオキシフルクトシル-L-バリル-L-ヒスチジンであり、ヘモグロビンα鎖N端の糖化ペプチドが、1-デオキシフルクトシル-L-バリル-L-ロイシンであることを特徴とする1)及び2)に記載の酵素。
4)酵素がフルクトシルアミンオキシダーゼである1)〜3)記載の酵素
5)酵素がネオコスモスポラ属、コニオケチジウム属、アルスリニウム属、ピレノケータ属、レプトスフェリア属、プレオスポラ属、オフィオボラス属、カーブラリア属、フォーマ属由来であることを特徴とする1)〜4)記載の酵素。
6)ネオコスモスポラ属、コニオケチジウム属、アルスリニウム属、ピレノケータ属、レプトスフェリア属、プレオスポラ属、オフィオボラス属、カーブラリア属、フォーマ属の培養物から糖化ヘモグロビンα鎖N端の糖化ペプチドよりも、糖化ヘモグロビンβ鎖N端の糖化ペプチドに特異的に作用する酵素を製造する方法。
7)糖化ヘモグロビンα鎖N端の糖化ペプチドよりも、糖化ヘモグロビンβ鎖N端の糖化ペプチドに特異性の高い酵素を用いることを特徴とする、アマドリ化合物の測定方法。
8)糖化ヘモグロビンβ鎖N端の糖化ペプチドに作用し、糖化ヘモグロビンα鎖N端の糖化ペプチドに実質的に作用しない酵素を用いることを特徴とするアマドリ化合物の測定方法。
9)アマドリ化合物がヘモグロビンA1cであることを特徴とする8)記載の方法。
10)糖化ヘモグロビンα鎖N端の糖化ペプチドよりも、糖化ヘモグロビンβ鎖N端の糖化ペプチドに特異性の高い酵素を含有する試薬。
11)プロテアーゼ、糖化ヘモグロビンα鎖N端の糖化ペプチドよりも、糖化ヘモグロビンβ鎖N端の糖化ペプチドに特異性の高い酵素を含有する試薬。に関する。
【0018】
さらに詳しくは、ヘモグロビンA1cの本来の定義であるβ鎖のN末端バリンの糖化部位を特異的に認識し、測定するために必要な特異性を備えた酵素、該酵素を用いた測定方法及び試薬に関する。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明について、以下具体的に説明する。
<アマドリ化合物>
本発明に於けるアマドリ化合物とは、タンパク質等のアミノ基をもつ化合物とグルコース等のアルデヒド基を持つ化合物がメイラード反応により、生じる下記の一般式(1)−(CO)−CHR−NH−(Rは、水素原子か水酸基を示す)で表されるケトアミン構造を有する化合物のことを指す。アマドリ化合物には糖化ヘモグロビンや糖化アルブミンのような糖化タンパク質やペプチドが糖化された糖化ペプチド等が含まれる。
<糖化ヘモグロビン>
ヘモグロビンがメイラード反応により糖化されたアマドリ化合物のことを指し、α鎖及びβ鎖N末端のバリンや分子内のリジンが糖化されていると言われている。
<ヘモグロビンA1c>
糖化ヘモグロビンのうちヘモグロビンβ鎖N末端のバリンが糖化された分子を指し、さらにアマドリ転移する前のシッフベースである不安定型ヘモグロビンとも区別される。
【0020】
本発明に用いることが出来る酵素は、糖化ヘモグロビンα鎖N端の糖化ペプチドよりも、糖化ヘモグロビンβ鎖N端の糖化ペプチドに特異性の高い、若しくは、FVLよりもFVHに特異性の高い酵素であればいかなる酵素を用いても良いが、糖化ヘモグロビンβ鎖N端の糖化ペプチドに作用し、糖化ヘモグロビンα鎖N端の糖化ペプチドに実質的に作用しないFAOD、若しくは、FVHに作用し、FVLに実質的に作用しない酵素が好ましい。
【0021】
特異性の高い酵素とは、通常、測定したい基質に対する活性を100%とした時、測定対象でない基質に対する相対活性が例えば80%以下であることをいい、好ましくは50%以下、より好ましくは30%以下である酵素をいう。また、実質的に作用しない酵素とは、通常、測定したい基質に対する活性を100%とした時、測定対象でない基質に対する相対活性が例えば20%以下であることをいい、好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下である酵素をいう。
【0022】
酵素の種類としてはでヒドロゲナーゼ、オキシダーゼ、キナーゼ等どのような酵素であっても糖化ヘモグロビンα鎖N端の糖化ペプチドよりも、糖化ヘモグロビンβ鎖N端の糖化ペプチドに特異性の高い酵素であれば用いることが出来るが、オキシダーゼが最も良く研究されており、使いやすさの点でオキシダーゼが好ましい。
【0023】
以下に本発明に使用できる酵素の具体例を示すが、これによりなんら限定されるものではない。また、本発明の酵素を生産する能力を有するその変異株であっても使用できることは言うまでもない。表1にまとめたように、本発明に使用することが出来るオキシダーゼとしてはネオコスモスポラ属、コニオケチジウム属、アルスリニウム属、ピレノケータ属、レプトスフェリア属、プレオスポラ属、オフィオボラス属、カーブラリア属、フォーマ属に属する菌株が挙げられる。また、表1中のレプトスフェリア・ノドラム、レプトスフェリア・マクランス、プレオスポラ・ベタエはいずれも分生子世代がフォーマ属であり、本発明の酵素はフォーマ属にも広く分布していることがわかる。
【0024】
また、より好ましくはネオコスモスポラ・バシンフェクタ NBRC7590菌株、コニオケチジウム・サボリATCC36547菌株、アルスリニウム・エスピーTO6(FERM P−19211)、アルスリニウム・ファエオスペルマムNBRC31950、アルスリニウム・ファエオスペルマムNBRC6620、アルスリニウム・ジャポニカムNBRC31098、ピレノケータ・エスピーYH807(FERM P−19210)、ピレノケータ・ゲンチアニコラMAFF425531、ピレノケータ・テレストリスNBRC30929、レプトスフェリア・ノドラム(分生子世代名フォーマ・ヘンネレルギー)NBRC7480、レプトスフェリア・ドリオラムJCM2742、レプトスフェリア・マクランス(分生子世代名フォーマ・リンガム)MAFF726528、プレオスポラ・ハーブラムNBRC32012、プレオスポラ・ベタエ(分生子世代名フォーマ・ベタエ)NBRC5918、オフィオボラス・ヘルポトリカスNBRC6158、カーブラリア・クラベータYH923(FERM P−19209)などが挙げられる。
【0025】
これらの菌株のうち、アルスリニウム・エスピーTO6(FERM P−19211)、ピレノケータ・エスピーYH807(FERM P−19210)、カーブラリア・クラベータYH923(FERM P−19209)は本発明者等が新規に単離した菌株であり、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託した。
【0026】
寄託したこれらの菌学的性質を示すと次の通りであり、以下のように同定した。
1.アルスリニウム・エスピー(Arthrinium sp.)TO6(FERM P−19211)について、宇田川俊一ら訳の「カビの分離・培養と同定」(医歯薬出版株式会社 1983)、宇田川俊一ら著の「菌類図鑑」(講談社サイエンティフィク 1986)、M. B. Ellis著「Dmataceous Hyrhomycetes」(commonwealth agricultural bureaux 1988)を参考とし、その菌学的特性を検討した結果、
(1) 分生子は1細胞である。
(2) 分生子は外生する。
(3) 分生子は暗褐色である。
(4) 分生子は丸く、レンズ型で無色の帯がみられる。
(5) 分生子は分生子柄と1つの連結部で接する。
(6) 菌糸は有隔壁である。
(7) 分生子の大きさは6〜9μm×2〜4μmである。
(8) 分生子柄は厚さ1.2〜2.5μmである。
【0027】
以上の形態的な特徴から、本菌株はアルスリニウム・サッカリコラ(Arthrinium Saccharicola)(分生子の大きさは9〜10μm、分生子柄の厚さは2〜4μm)、アルスリニウム・ファエオスペルマム(Arthrinium phaeospermum)(分生子の大きさは9〜10μm、分生子柄の厚さは1〜1.5μm)、アルスリニウム・サッカリ(Arthrinium sacchari)(分生子の大きさは6〜8μm、分生子柄の厚さは1〜1.5μm)のいずれかに分類されると思われるが、これらの菌株とは分生子の大きさや分生子柄の厚みが若干異なることから、本菌株をアルスリニウム・エスピー(Arthrinium sp.)と同定した。
【0028】
培地における生育状況
(1)オートミール寒天培地、25℃、6日間培養後、直径約8.5cmもしくはそれ以上に達し、コロニー裏面は無色で、白色で羊毛状のコロニーの上に暗褐色の胞子(塊)がみられる。
(2)ポテトデキストロース寒天培地上、25℃、6日間培養後、直径約8.5cmもしくはそれ以上に達し、コロニー裏面は無色で、白色で羊毛状のコロニーになる。
2.ピレノケータ・エスピー(Pyrenochaeta sp.)YH807(FERM P−19210)について、宇田川俊一ら訳の「カビの分離・培養と同定」(医歯薬出版株式会社 1983)、宇田川俊一ら著の「菌類図鑑」(講談社サイエンティフィク 1986)、Braian C. Sutton著「The Coelomycetes」(commonwealth agricultural bureaux 1980)を参考とし、その菌学的特性を検討した結果、
(1)分生子は楕円形で平滑な1細胞で、5〜7×1.5〜3.0μm。
(2)コロニーは暗緑褐色であり、色素は生成しない。
(3)胞子は連鎖せず、子実体(分生子殻)内部に形成される。
(4)菌糸は有隔壁である。
(5)分生子殻は暗褐色の球形〜亜球形もしくは倒洋ナシ形で1つの孔口をもつ。分生子殻は直径200〜300μmで開口部周辺に剛毛を形成する。
【0029】
以上の形態的な特徴から、本菌株はピレノケータ・ルビ-イダエイ(Pyrenochaeta rubi-idaei)(分生子>3.5μm×2.0〜2.5μm)に分類されると思われるが、これとは分生子のサイズが若干異なることから、本菌株をピレノケータ・エスピー(Pyrenochaeta sp.)と同定した。
【0030】
培地における生育状況
(1)オートミール寒天培地上、25℃、6日間培養後、直径約2.3cmもしくはそれ以上に達し、コロニー裏面は暗緑褐色で暗緑褐色のコロニーになる。培地中に色素は生産しない。気生菌糸は疎である。
(2)ポテトデキストロース寒天培地上、25℃、6日間培養後、直径約2.0cmもしくはそれ以上に達し、コロニー裏面は暗緑褐色で暗緑褐色のコロニーになる。オートミール寒天培地上よりも気生菌糸が認められる。
(3)YM寒天培地上、25℃、6日間培養すると褐色〜黒色の子実体(分生子殻)が生じる。
3.カーブラリア・クラベータ(Curvularia clavata)YH923(FERM P−19209)について、宇田川俊一ら訳の「カビの分離・培養と同定」(医歯薬出版株式会社 1983)、宇田川俊一ら著の「菌類図鑑」(講談社サイエンティフィク 1986)、M. B. Ellis著「Dmataceous Hyrhomycetes」(commonwealth agricultural bureaux 1988)を参考とし、その菌学的特性を検討した結果、
(1)菌糸は有隔壁である。
(2)分生子はポロ型分生子で紡錘こん棒形、3つの隔壁を有し、ほとんど全てが下方より3番目の細胞がふくれている。基部にへそ(hilum)があるが、顕著に突出していない。
(3)2番目の隔壁は正中にない。
(4)分生子の両端細胞はほとんど淡褐色、中間部細胞は褐色〜濃褐色、下方より3番目の細胞は最も濃色である。平坦でくびれなし、26〜34×10〜12μm。
(5)分生子柄は菌糸上に頂生または側生し、上方でしばしば湾曲し、ジグザグ状を呈する。
(6)分生子柄は無色〜淡褐色、平滑またはこぶ状、直径2.5〜4.0μm。
【0031】
以上の形態的な特徴から、本菌株はカーブラリア・クラベータ(Curvularia clavata)と同定した。
培地における生育状況
(1)オートミール寒天培地、25℃、7日間培養後、直径約5.5cmもしくはそれ以上に達し、コロニー裏面及びコロニーは暗緑褐色で、ビロード状の気生菌糸が認められる。
(2)ポテトデキストロース寒天培地上、25℃、7日間培養後、直径約4.0cmもしくはそれ以上に達し、コロニー裏面は黒色で、灰白色で羊毛状の気生菌糸を形成する。
【0032】
次に本発明に使用しうるFAOD生産菌の培養方法について述べる。本発明FAOD生産菌の培養手段としては固体培養でも液体培養でもよいが、好ましくはフラスコまたはジャーファーメンター等による通気培養である。培地としては微生物の培養に通常用いられるものが広く使用される。炭素源としてはグルコース、グリセロール、ソルビトール、ラクトースまたはマンノースなど、窒素源としては酵母エキス、肉エキス、トリプトン、ペプトンなど、無機塩としては塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウムなどを用いればよい。pHはpH5.0〜8.0、培養温度25〜37℃で目的とする酵素が最高力価となる培養時間、例えば2〜10日間にて目的とする酵素を採取すればよい。
【0033】
次いで酵素を採取するに当たっては培養液から菌体を遠心分離等によって分離し、菌体をリン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液などの緩衝液に懸濁した後、リゾチーム処理、超音波処理、ガラスビーズ破砕などの各種菌体破砕方法によって破砕して遠心分離し、可溶性画分を粗酵素液として回収する。
【0034】
このようにして得られた粗製のFAOD含有液を公知の蛋白質、酵素の単離、精製手段を用いて処理することにより、精製されたFAODを得ることができる。例えばアセトン、エタノールなどの有機溶媒による分別沈殿法、硫安などによる塩析法、イオン交換クロマトグラフィー法、疎水クロマトグラフィー法、アフィニティークロマトグラフィー法、ゲルろ過法などの一般的な酵素精製法を適宜選択、組み合わせて精製FAODを得ることができ、適宜安定化剤、例えばショ糖、グリセロールまたはアミノ酸などを1〜50%程度、補酵素などを0.01〜0.1%程度として単独または2種以上適宜組み合わせて加えて凍結保存してもよい。
【0035】
つぎに本発明で得られるFAODの酵素作用および酵素活性測定法を述べる。酵素作用
酸素の存在化、FVHに作用し、過酸化水素、グルコソン、およびバリルヒスチジンを生成させる。
酵素活性測定方法
測定試薬
50mM トリス塩酸緩衝液(pH7.5)
1mM フルクトシルバリルヒスチジン
0.02% 4−アミノアンチピリン
0. 02% TOOS
5U/ml ペルオキシダーゼ(メルク社製)
(TOOS:N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン)
測定試薬1mlを光路長1cmのセルにいれ、37℃で5分間予備加温した後、0.05mlの酵素液を添加して5分間反応させる。反応後、0.5%SDS(ソディウムドデシルスルフェイト)2mlを添加して反応を停止させ、波長555nmにおける吸光度(Aa)を測定する。また、ブランクとしてFVHを含まない測定試薬を用いて同様の操作を行って吸光度を測定する(Ab)。この吸光度(Aa)とブランクの吸光度(Ab)の吸光度差(Aa−Ab)より酵素活性を求める。酵素活性1単位は37℃で1分間に1マイクロモルの過酸化水素を生成させる酵素量とした。
【0036】
次に本発明の酵素を用いた測定法について述べる。
【0037】
本発明に使用しうる測定方法については前記糖化ヘモグロビンα鎖N端の糖化ペプチドよりも、糖化ヘモグロビンβ鎖N端の糖化ペプチドに特異的に作用する酵素を用いた測定方法であればいかなる測定方法を用いても良いが、現在糖化ヘモグロビンの1デオキシフルクトシル基に直接作用する酵素は知られておらず、一度ヘモグロビンを断片化し、そのフラグメントに本発明の酵素を作用させれば良い。
【0038】
ヘモグロビンの断片化方法としては化学法、酵素法が挙げられるが、その正確さ、簡便さから酵素法が好ましい。これまでヘモグロビンA1cのβ鎖N末端の糖化アミノ酸を切り出すプロテアーゼが報告されておりこれら公知のプロテアーゼを用いればよいが、ヘモグロビンN末端の糖化アミノ酸を切り出すとα鎖由来のものかβ鎖由来のものか見分けがつかなくなるのでヘモグロビンA1cのN末端の2アミノ酸以上からなる、糖化ペプチドを切り出すプロテアーゼが好ましく、N末端の2アミノ酸を切り出すプロテアーゼが最も好ましい。
【0039】
好ましいプロテアーゼの例を具体的に以下に挙げるが、これは1例に過ぎない。スミチームP(パパイン;新日本化学社製)、ビオプラーゼSP-10、ビオプラーゼAL15FG(ナガセケムテックス社製)、オリエンターゼ10B(阪急バイオインダストリー社製)、エンチロン(洛東化成工業)、プロテアーゼタイプVIII、プロテアーゼタイプXXIV、プロテアーゼタイプXIV、 バチルスグロビギ(Bacillus globigii)由来プロテアーゼ、(以上シグマ社製)等。
【0040】
本発明に於けるプロテアーゼの活性測定は、カゼイン−フォリン法で行った。活性の単位1Uは37℃、1分間に1gのチロシンに相当するフォリン試薬の発色を示す酵素量を1Uと定義した。
【0041】
さらにプロテアーゼを用いたヘモグロビンの分解方法、試薬において、前記プロテアーゼを単独で使用することはもちろんであるが、加えてその反応前後若しくは同時に他のエンドプロテアーゼ、または他のエキソプロテアーゼを作用させても良い。
【0042】
本発明の糖化ヘモグロビンα鎖N端の糖化ペプチドよりも、糖化ヘモグロビンβ鎖N端の糖化ペプチドに特異的に作用する酵素を用いた測定方法に於ける酵素作用の検出は、例えばデヒドロゲナーゼを用いた場合には補酵素の変化量を、例えば補酵素としてNADを用いて生成される変化の量として還元型補酵素である還元型NADをその極大吸収波長域である340nm付近の波長にて比色計で測定する等公知の技術を用い直接定量するか、若しくは生じた還元型補酵素を各種ジアフォラーゼ、またはフェナジンメトサルフェート等の電子キャリアー及びニトロテトラゾリウム、WST−1、WST−8(以上同人化学研究所社製)に代表される各種テトラゾリウム塩等の還元系発色試薬を用い間接的に定量してもよく、またこれ以外の公知の方法により直接、間接的に測定してもよい。
【0043】
また例えばオキシダーゼを用いた場合には、酸素の消費量または反応生成物の量を測定することが好ましい。反応生成物として、例えばケトアミンオキシダーゼを用いた場合には反応により過酸化水素及びグルコソンが生成し、過酸化水素及びグルコソン共に公知の方法により直接、間接的に測定する事が出来る。
【0044】
上記過酸化水素の量は、例えばパーオキシダーゼ等を用いて色素等を生成し、発色、発光、蛍光等により定量しても良く、また電気化学的手法によって定量しても良く、カタラーゼ等を用いてアルコールからアルデヒドを生成せしめて、生じたアルデヒドの量を定量しても良い。
【0045】
過酸化水素の発色系は、パーオキシダーゼの存在下で4−AA若しくは3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)等のカップラーとフェノール等の色原体との酸化縮合により色素を生成するトリンダー試薬、パーオキシダーゼの存在下で直接酸化、呈色するロイコ型試薬(N−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−4,4−ビス(ジメチルアミノ)ビフェニルアミン(DA64)、10−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−3,7−ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン(DA67);以上和光純薬社製等)等を用いることが出来る。
【0046】
また過酸化水素を電極を用いて測定する場合、電極には、過酸化水素との間で電子を授受する事の出来る材料である限り特に制限されないが、例えば白金、金若しくは銀等が挙げられ、電極測定方法としてはアンペロメトリー、ポテンショメトリー、クーロメトリー等の公知の方法を用いることが出来、さらにオキシダーゼまたは基質と電極との間の反応に電子伝達体を介在させ、得られる酸化、還元電流或いはその電気量を測定しても良い。電子伝達体としては電子伝達機能を有する任意の物質が使用可能であり、例えばフェロセン誘導体、キノン誘導体等の物質が挙げられる。またオキシダーゼ反応により生成する過酸化水素と電極の間に電子伝達体を介在させ得られる酸化、還元電流またはその電気量を測定しても良い。
【0047】
本発明の酵素を用いたヘモグロビンA1cの測定用試薬の液組成については、使用するプロテアーゼ及び糖化ヘモグロビン瘢スN端の糖化ペプチドよりも、糖化ヘモグロビンβ鎖N端の糖化ペプチドに特異的に作用する酵素の至適pHを考慮し、反応が効率よく進行するようにpH及びプロテアーゼ濃度を決定すればよい。
【0048】
例えばスミチームP(パパイヤ由来、新日本化学社製)をプロテアーゼとして用いる場合には、タンパク質分解活性がpH5.5〜9.0付近で強いことから、反応のpHは5.5〜9.0を選択することができる。またプロテアーゼ濃度は実際に使用される反応時間中に被検液中のタンパク質を十分に分解し得る濃度で有れば良く0.01〜1000U/mlが好ましく、0.1 〜500U/ml がさらに好ましい。
【0049】
また、例えば糖化ヘモグロビンα鎖N端の糖化ペプチドよりも、糖化ヘモグロビンβ鎖N端の糖化ペプチドに特異的に作用する酵素としてフルクトシルアミンオキシダーゼ(Arthrinium sp. TO6由来)を用いる場合、至適pHが7〜8であり、反応のpHは7〜8を選択できる。また酵素添加濃度は実際に使用される反応時間中に被検液から生成された糖化アミノ酸を十分に測定し得る濃度で有れば良く、0.01U〜1000U/mlが好ましく、0.1U〜500U/mlがより好ましく、0.5U〜100U/mlが最も好ましい。
【0050】
本発明に於ける糖化タンパク質定量用試薬としては、糖化ヘモグロビンα鎖N端の糖化ペプチドよりも、糖化ヘモグロビンβ鎖N端の糖化ペプチドに特異的に作用する酵素を含有するものとして調製すれば良く、好ましくはプロテアーゼ及び該糖化ヘモグロビンα鎖N端の糖化ペプチドよりも、糖化ヘモグロビンβ鎖N端の糖化ペプチドに特異的に作用する酵素を含有するものとして調整すれば良く、例えば液状品及び液状品の凍結物あるいは凍結乾燥品として提供できる。
【0051】
さらに、本発明に基づく糖化蛋白質を定量する酵素反応組成には、例えば界面活性剤、塩類、緩衝剤、pH調製剤や防腐剤などを適宜選択して添加しても良い。
【0052】
かくして調整された本発明のヘモグロビンA1c測定用試薬を用いて、被検液中の糖化ヘモグロビンを測定するには、測定用試薬0.01〜5.0mlに溶血された被検液0.001〜0.5mlを加え、37℃の温度にて反応させ、レートアッセイを行う場合には、反応開始後の一定時間後の2点間の数分ないし数十分間、例えば3分後と4分後の1分間、または3分ごと8分後の5分間における変化した補酵素、溶存酸素、過酸化水素若しくはその他生成物の量を直接または間接的に前記の方法で測定すれば良く、エンドポイントアッセイの場合には反応開始後一定時間後の変化した補酵素、溶存酸素、過酸化水素若しくはその他生成物の量を同様に測定すれば良い。この場合既知濃度のヘモグロビンA1cを含む試料を用いて測定した場合の吸光度等の変化と比較すれば被検液中のヘモグロビンA1cの量を求めることができる。
【0053】
ここで述べた溶血された披検液とは、溶血操作を行った後のヘモグロビンA1cを含有する被検液であり、さらに詳しくは、全血遠心分離された赤血球、洗浄赤血球等の溶血液が挙げられる。
【0054】
【実施例】
本発明を実施例に基づいて説明する。
【0055】
【実施例1】
ネオコスモスポラ・バシンフェクタNBRC7590菌株由来のFAODの培養方法、精製方法および理化学的性質
<培養方法および精製方法>
500mlの三角フラスコ3本に100mlの2%のマンノース、3%の酵母エキス、0.1%のKH2PO4、0.05%MgSO4・7H2Oを含有する培地(pH6.0)をそれぞれ入れ、殺菌後、ネオコスモスポラ・バシンフェクタNBRC7590菌株を植菌し、28℃、4日間振とう培養した。
【0056】
培養終了後、集菌し、300mlの10mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.5)に懸濁させ、超音波破砕により菌体の可溶化を行った(10U)。この可溶化液を10mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.5)に1晩透析させた後、Q−セファロース・ビッグビーズ(100ml)樹脂(ファルマシア社製)イオン交換クロマトグラフィーを行った。溶出は0~1Mのリニアグラジエントにより行い、0.2〜0.3MのNaClの溶出画分(9U)を回収した。
【0057】
この酵素液に15%硫酸アンモニウムの濃度となるように硫酸アンモニウムを溶解し、フェニルセファロース・ファーストフロー(50ml)(ファルマシア社製)の疎水クロマトグラフィーを行った。溶出は15〜0Mの硫酸アンモニウムのリニアグラジエントにより行い、5〜2%の硫酸アンモニウムの溶出画分(7U)を回収した。ついで、この酵素液を10mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.0)にて1晩透析し、ハイドロキシアパタイト(30ml)(ペンタックス社製)クロマトグラフィーを行った。溶出は0~0.1Mのリン酸緩衝液(pH7.0)によるリニアグラジエントにより行い、0.03~0.04Mのリン酸緩衝液の溶出画分(3U)を回収し、精製FAODを得た。
【0058】
<理化学的性質>
(1)基質特異性
本発明ネオコスモスポラ・バシンフェクタ由来FAODの各種基質に対する特異性は表 の通りである。FVに対して最も高い反応性を示し、FVHに対してFVの29%反応し、FVLには全く作用しなかった。
(2)Km値
本発明ネオコスモスポラ・バシンフェクタ由来FAODのFVHに対するKm値は3mMであった。
(3)至適pH
前記酵素活性測定法に従って至適pHを求めたもので、その結果を図1に示した。pH4.5〜5.5の範囲は100mMの酢酸緩衝液(図中、○)、pH5〜6の範囲は100mMのクエン酸緩衝液(図中、□)、pH6〜7.5の範囲は100mMのリン酸緩衝液(図中、△)7.5〜9の範囲は100mMのトリス塩酸緩衝液(図中、●)、pH9.5〜10の範囲は100mMのグリシン緩衝液(図中、黒四角)を使用した場合の活性値を示すもので、至適pHは6.3〜6.7にあった。
(4)pH安定性
0.5U/mlの本発明ステフィリウム・エスピー由来FAODを100mMの各種緩衝液中で37℃、1時間処理し、その残存活性を前記酵素活性測定法に従って測定した。その結果を図2に示した。pH4.5〜5.5の範囲は100mMの酢酸緩衝液(図中、○)、pH5〜6の範囲は100mMのクエン酸緩衝液(図中、□)、pH6〜7.5の範囲は100mMのリン酸緩衝液(図中、△)7.5〜9の範囲は100mMのトリス塩酸緩衝液(図中、●)、pH9.5〜10の範囲は100mMのグリシン緩衝液(図中、黒四角)を使用した。pH5.75〜7.36の範囲で良好な安定性を示した。
(5)至適温度
前記酵素活性測定法に従って、温度30〜60℃の範囲で変化させて至適温度を求めた結果は図3に示す通りであり、至適温度は45−50℃であった。
(6)熱安定性
0.5U/mlの本発明ステフィリウム・エスピー由来FAODを100mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.5)中で各温度で10分間加熱処理した後の残存活性を前記酵素活性測定法に従って測定した。その結果、図4に示す通り、少なくとも45℃、10分間加熱処理における残存活性が少なくとも80%以上を示した。
(7)分子量
TSK G−3000SWXL(トーソー社製)を用いたHPLCにより分子量を測定した。その結果、分子量は37,000であった。
【0059】
以上の結果を上記表2にまとめた。
【0060】
【実施例2】
コニオケチジウム・サボリATCC菌株由来のFAODの培養方法、精製方法および酵素学的性質
<培養法および精製方法>
実施例1で記載した培養方法により培養を行った。
【0061】
培養終了後、集菌し、300mlの10mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.5)に懸濁させ、超音波破砕により菌体の可溶化を行った(15U)。この可溶化液を10mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.5)に1晩透析させた後、Q−セファロース・ビッグビーズ(100ml)樹脂(ファルマシア社製)イオン交換クロマトグラフィーを行った。溶出は0~1Mのリニアグラジエントにより行い、0.15〜0.25MのNaClの溶出画分(13U)を回収した。
【0062】
この酵素液に15%硫酸アンモニウムの濃度となるように硫酸アンモニウムを溶解し、フェニルセファロース・ファーストフロー(50ml)(ファルマシア社製)の疎水クロマトグラフィーを行った。溶出は15〜0Mの硫酸アンモニウムのリニアグラジエントにより行い、4〜0%の硫酸アンモニウムの溶出画分(8U)を回収した。ついで、この酵素液を10mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.0)にて1晩透析し、ハイドロキシアパタイト(30ml)(ペンタックス社製)クロマトグラフィーを行った。溶出は0~0.1Mのリン酸緩衝液(pH7.0)によるリニアグラジエントにより行い、0.03~0.04Mのリン酸緩衝液の溶出画分(4U)を回収し、精製FAODを得た。
【0063】
<理化学的性質>
(1)基質特異性
本発明コニオケチジウム・サボリ由来FAODの各種基質に対する特異性は表の通りである。FVに対して最も高い反応性を示し、FVHに対してはFVの26%反応し、FVLには全く作用しなかった。
(2)Km値
本発明コニオケチジウム・サボリ由来FAODのFVHに対するKm値は1.6mMであった。
(3)至適pH
実施例1と同様にして至適pHを求めたもので、至適pHは6.3〜6.7にあった。
(4)pH安定性
実施例1と同様にしてpH安定性を求めたもので、pH5.8〜7の範囲で良好な安定性を示した。
(5)至適温度
実施例1と同様にして至適温度を求めたもので、至適温度は37℃であった。
(6)熱安定性
実施例1と同様にして至適温度を求めたもので、少なくとも37℃、10分間加熱処理における残存活性が少なくとも80%以上を示した。
(7)分子量
TSK G−3000SWXL(トーソー社製)を用いたHPLCにより分子量を測定した。その結果、分子量は27,000であった。
【0064】
以上の結果の結果は上記表2にまとめた。
【0065】
【実施例3】
アルスレニウム・エスピーTO6(FERMP−19211)菌株由来のFAODの培養方法、精製方法および酵素学的性質
<培養方法>
500ml容坂口フラスコに100 mlのYMG培地(1.0%グルコース、1.0%ポリペプトン、0.3%酵母エキス、0.3%麦芽エキス、0.1% KH2PO4、0.05% MgSO4・7H2O、pH 6.0)を入れ、殺菌後、アルスレニウム・エスピーTO6を植菌し、30℃、4日間振盪培養した。
<精製方法>
液体窒素で凍結した菌体を乳鉢で磨砕して菌体破砕を行い、40 mlの0.1Mトリス塩酸緩衝液(pH 7.3)を加えて、5℃で1晩放置した後、遠心分離して無細胞抽出液を得た。得られた無細胞抽出液に40 % 飽和になるように硫酸アンモニウムを加え、遠心分離した上清を40% 飽和硫酸アンモニウムを加えた 0.1 Mトリス塩酸緩衝液(pH 7.3)で平衡化した Butyl Toyopearl 650M (18f×150 mm, 東ソー製) のカラムに供与し、10%飽和になるように硫酸アンモニウムを加えた 0.1 M トリス塩酸緩衝液(pH7.3)で洗浄を行い、0.1 M トリス塩酸 緩衝液(pH 7.3)で溶出した。その溶出液の活性画分に40 % 飽和になるように硫酸アンモニウムを加え、40% 飽和硫酸アンモニウムを加えた0.1 Mトリス塩酸緩衝液(pH 7.3)で平衡化した Phenyl-5PW (8.0f×7.5 mm, 東ソー製) のHPLCカラムに供与し、40% から 0% までの飽和硫酸アンモニウムのリニアグラジエントで溶出した。その活性画分を 50 mM トリス塩酸 緩衝液(pH 7.3)で透析した後、同緩衝液で平衡化した Poros HQ/H (4.6f×50 mm, アプライドバイオシステムズ製) のカラムに供与し、0 から 0.5 M までの NaCl のリニアグラジエントで溶出した。活性画分を回収し、蒸留水に対して透析し、精製FAODを得た。精製の過程を下記表にまとめた。
【0066】
【表4】
【0067】
<理化学的性質>
(1)基質特異性
本発明のアルスレニウム・エスピーTO6由来FAODの各種基質に対する特異性は表3の通りである。反応時の各基質濃度を 1mM とした。その他の反応条件は活性測定法に準じた。アルスレニウム・エスピーTO6由来FAODはFVに対して最も高い反応性を示し、かつ、FVHにも高く反応するが、FVLへの作用はFVHと比較して約40分の1であり、本酵素はFVLへ実質的に作用しないといえる。
(2)Km値
本発明のアルスレニウム・エスピーTO6由来FAODのFVHに対するKm値は0.42mMであった。
(3)至適pH
FVHを1mMになるように溶解したpH3.0〜11.0の各種緩衝液(pH3〜5は10mMの酢酸緩衝液、pH5〜7は10mMのクエン酸緩衝液、pH7〜9は10mMのトリス塩酸緩衝液、pH9〜11は10mMのホウ酸緩衝液)0.45mlを光路長1cmのセルにいれ、37℃で5分間予備加温した後、0.05mlの酵素液を添加して30分間反応させた。反応後、測定試薬(0.04% TOOS、0.04% 4-アミノアンチピリン、パーオキシダーゼ50Uを含む100mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5))0.5mlを加え、2分間発色させた後、0.5%SDS2mlを添加して反応を停止させ、波長555nmにおける吸光度(Aa)を測定した。また、ブランクとして基質を含まない各種緩衝液を加え、同様の操作を行って吸光度を測定した(Ab)。この吸光度(Aa)とブランクの吸光度(Ab)の吸光度差(Aa−Ab)より酵素活性を求めた。
【0068】
その結果、アルスレニウム・エスピーTO6由来FAODの至適pHは7〜8にあった。
(4)pH安定性
酵素液を10mMの各種緩衝液中で4℃、24時間処理し、その残存活性を前記酵素活性測定法に従って測定した。その結果、本発明のアルスレニウム・エスピーTO6由来FAODはpH7〜11の範囲で良好な安定性を示した。
(5)至適温度
FVHを1mMになるように溶解した100mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)0.45mlを光路長1cmのセルにいれ、15〜60℃で5分間予備加温した後、0.05mlの酵素液を添加して10分間反応させた。反応後氷中で冷却した後、測定試薬(0.04% TOOS、0.04% 4-アミノアンチピリン、パーオキシダーゼ50Uを含む100mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5))0.5mlを加え、2分間発色させた後、0.5%SDS2mlを添加して反応を停止させ、波長555nmにおける吸光度(Aa)を測定した。また、ブランクとしてFVHを含まない各種緩衝液を加え、同様の操作を行って吸光度を測定した(Ab)。この吸光度(Aa)とブランクの吸光度(Ab)の吸光度差(Aa−Ab)より酵素活性を求めた。
【0069】
15〜60℃の範囲で変化させて至適温度を求めた結果、本発明のアルスレニウム・エスピーTO6由来FAODの至適温度は30〜40℃であった。
(6)熱安定性
酵素液を100mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)中で各温度30分間加熱処理した後の残存活性を前記酵素活性測定法に従って測定した。その結果、本発明のアルスレニウム・エスピーTO6由来FAODは40℃・30分間の加熱処理までは80%以上の残存活性を示した。
(7)分子量
YMC−Pack Diol-200G(φ6.0×300 mm、ワイエムシー製)によるゲル濾過から本酵素の分子量を求めた。標準蛋白質として牛血清アルブミン、オボアルブミン、大豆トリプシンインヒビター(全てシグマ製)を使用した。その結果、本酵素の分子量は約34,000であった。
【0070】
Laemmliの方法での 10% gel による SDS−PAGE (ドデシル硫酸ナトリウム・ポリアクリルアミドゲル電気泳動)では、分子量は約 50,000 であった。尚、標準蛋白質は SDS-PAGE スタンダード Low (バイオラッド社製) を使用した。
【0071】
以上の結果から、本発明のアルスレニウム・エスピーTO6由来FAODは単量体であることが明らかである。
【0072】
【実施例4】
ピレノケータ・エスピーYH807(FERMP−19210菌株)菌株由来のFAODの培養方法、精製方法および酵素学的性質
<培養方法及び精製方法>
実施例3で記載した製造及び精製法と同様の方法により活性画分を回収し、蒸留水に対して透析し、精製FAODを得た。精製の過程を下記表にまとめた。
【0073】
【0074】
【表5】
【0075】
<理化学的性質>
(1)基質特異性
本発明のピレノケータ・エスピーYH807由来FAODの各種基質に対する特異性は表3の通りである。反応時の各基質濃度を 1mM とした。その他の反応条件は活性測定法に準じた。ピレノケータ・エスピーYH807由来FAODはFVに対して最も高い反応性を示し、かつ、FVHにも高く反応するが、FVLへの作用はFVHと比較して約160分の1であり、本酵素はFVLへ実質的に作用しないといえる。
(2)Km値
本発明のピレノケータ・エスピーYH807由来FAODのFVHに対するKm値は0.99mMであった。
(3)至適pH
実施例3の(3)で記載した方法により本酵素の至適pHを調べた結果、至適pHは7〜8にあった。
(4)pH安定性
実施例3の(4)で記載した方法によりピレノケータ・エスピーYH807由来FAODのpH安定性を調べた結果、pH7〜11の範囲で良好な安定性を示した。
(5)至適温度
実施例3の(5)で記載した方法に従って至適温度を求めた結果、本発明のピレノケータ・エスピーYH807由来FAODの至適温度は30〜40℃であった。
(6)熱安定性
実施例3の(6)で記載した方法に従って熱安定性を求めた結果、ピレノケータ・エスピーYH807由来FAODの熱安定性は、40℃・30分間の加熱処理までは80%以上の残存活性を示した。
(7)分子量
実施例3の(7)で記載した方法に従ってゲル濾過ならびにSDS−PAGEによる分子量を求めた結果、ピレノケータ・エスピーYH807由来FAODの分子量はゲル濾過法で約34,000、SDS−PAGEで約50,000であった。この結果から、本発明のピレノケータ・エスピーYH807由来FAODは単量体であることが明らかである。
【0076】
【実施例5】
カーブラリア・クラベータYH923(FERMP−19209)菌株由来のFAODの培養方法、精製方法および酵素学的性質について
<培養方法および精製方法>
実施例3で記載した製造及び精製法と同様の方法により活性画分を回収し、蒸留水に対して透析し、精製FAODを得た。精製の過程を下記表にまとめた。
【0077】
【表6】
【0078】
理化学的性質
(1)基質特異性
本発明のカーブラリア・クラベータYH923由来FAODの各種基質に対する特異性は表3の通りである。反応時の各基質濃度を 1mM とした。その他の反応条件は活性測定法に準じた。カーブラリア・クラベータYH923由来FAODはFVに対して最も高い反応性を示し、かつ、FVHにも高く反応するが、FVLへの作用はFVHと比較して約30分の1であり、本酵素はFVLへ実質的に作用しないといえる。
(2)Km値
本発明のカーブラリア・クラベータYH923由来FAODのFVHに対するKm値は0.95mMであった。
(3)至適pH
実施例3の(3)で記載した方法により本酵素の至適pHを調べた結果、至適pHは7〜8にあった。
(4)pH安定性
実施例3の(4)で記載した方法によりカーブラリア・クラベータYH923由来FAODのpH安定性を調べた結果、pH7〜11の範囲で良好な安定性を示した。
(5)至適温度
実施例3の(5)で記載した方法に従って至適温度を求めた結果、本発明のカーブラリア・クラベータYH923由来FAODの至適温度は50〜55℃であった。
(6)熱安定性
実施例3の(6)で記載した方法に従って熱安定性を求めた結果、カーブラリア・クラベータYH923由来FAODの熱安定性は、50℃・30分間の加熱処理までは80%以上の残存活性を示した。
(7)分子量
実施例3の(7)で記載した方法に従ってゲル濾過ならびにSDS−PAGEによる分子量を求めた結果、カーブラリア・クラベータYH923由来FAODの分子量はゲル濾過法で約34,000、SDS−PAGEで約50,000であった。この結果から、本発明のカーブラリア・クラベータYH923由来FAODは単量体であることが明らかである。
【0079】
【実施例6】
レプトスフェリア・ノドラムNBRC7480菌株由来FAODの製造及び精製
<培養方法及び精製方法>
実施例3で記載した製造及び精製法と同様の方法により活性画分を回収し、蒸留水に対して透析し、精製FAODを得た。精製の過程を下記表6にまとめた。
【0080】
【表7】
【0081】
理化学的性質
(1)基質特異性
本発明のレプトスフェリア・ノドラムNBRC7480由来FAODの各種基質に対する特異性は表3の通りである。反応時の各基質濃度を 1mM とした。その他の反応条件は活性測定法に準じた。レプトスフェリア・ノドラムNBRC7480由来FAODはFVに対して最も高い反応性を示し、かつ、FVHにも高く反応するが、FVLへの作用はFVHと比較して約5分の1であり、本酵素はFVLへ実質的に作用しないといえる。
(2)Km値
本発明のレプトスフェリア・ノドラムNBRC7480由来FAODのFVHに対するKm値は0.85mMであった。
(3)至適pH
実施例3の(3)で記載した方法によりレプトスフェリア・ノドラムNBRC7480由来FAODの至適pHを調べた結果、至適pHは7〜8にあった。
(4)pH安定性
実施例3の(4)で記載した方法によりレプトスフェリア・ノドラムNBRC7480由来FAODのpH安定性を調べた結果、pH7〜11の範囲で良好な安定性を示した。
(5)至適温度
実施例3の(5)で記載した方法に従って至適温度を求めた結果、本発明のレプトスフェリア・ノドラムNBRC7480由来FAODの至適温度は30〜40℃であった。
(6)熱安定性
実施例3の(6)で記載した方法に従って熱安定性を求めた結果、レプトスフェリア・ノドラムNBRC7480由来FAODの熱安定性は、40℃・30分間の加熱処理までは80%以上の残存活性を示した。
(7)分子量
実施例3の(7)で記載した方法に従ってゲル濾過ならびにSDS−PAGEによる分子量を求めた結果、レプトスフェリア・ノドラムNBRC7480由来FAODの分子量はゲル濾過法で約34,000、SDS−PAGEで約50,000であった。この結果から、本発明のレプトスフェリア・ノドラムNBRC7480由来FAODは単量体であることが明らかである。
【0082】
【実施例7】
プレオスポラ・ハーブラムNBRC32012菌株由来のFAODの培養方法、精製方法および酵素学的性質
<培養方法及び精製方法>
実施例3で記載した製造及び精製法と同様の方法により活性画分を回収し、蒸留水に対して透析し、精製FAODを得た。精製の過程を下記表7にまとめた。
【0083】
【表8】
【0084】
理化学的性質
(1)基質特異性
本発明のプレオスポラ・ハーブラムNBRC32012由来FAODの各種基質に対する特異性は表3の通りである。反応時の各基質濃度を1mM とした。その他の反応条件は活性測定法に準じた。プレオスポラ・ハーブラムNBRC32012由来FAODはFVに対して最も高い反応性を示し、かつ、FVHにも高く反応するが、FVLへの作用はFVHと比較して約156分の1であり、本酵素はFVLへ実質的に作用しないといえる。
(2)Km値
本発明のプレオスポラ・ハーブラムNBRC32012由来FAODのFVHに対するKm値は0.8mMであった。
(3)至適pH
実施例3の(3)で記載した方法により本酵素の至適pHを調べた結果、至適pHは7〜8にあった。
(4)pH安定性
実施例3の(4)で記載した方法によりプレオスポラ・ハーブラムNBRC32012由来FAODのpH安定性を調べた結果、pH7〜11の範囲で良好な安定性を示した。
(5)至適温度
実施例3の(5)で記載した方法に従って至適温度を求めた結果、プレオスポラ・ハーブラムNBRC32012由来FAODの至適温度は30〜40℃であった。
(6)熱安定性
実施例3の(6)で記載した方法に従って熱安定性を求めた結果、プレオスポラ・ハーブラムNBRC32012由来FAODの熱安定性は、40℃・30分間の加熱処理までは80%以上の残存活性を示した。
(7)分子量
実施例3の(7)で記載した方法に従ってゲル濾過ならびにSDS−PAGEによる分子量を求めた結果、プレオスポラ・ハーブラムNBRC32012由来FAODの分子量はゲル濾過法で約34,000、SDS−PAGEで約50,000であった。この結果から、本発明のプレオスポラ・ハーブラムNBRC32012由来FAODは単量体であることが明らかである。
【0085】
【実施例8】
オフィオボラス・ヘルポトリカスNBRC6158菌株由来のFAODの培養方法、精製方法および酵素学的性質
<培養方法>
500ml容坂口フラスコに100 mlのYMG培地(1.0%グルコース、1.0%ポリペプトン、0.3%酵母エキス、0.3%麦芽エキス、0.1% KH2PO4、0.05% MgSO4・7H2O、pH 6.0)を入れ、殺菌後、FAOD生産菌株を植菌し、30℃、10日間振盪培養した。
<精製方法>
実施例で記載した精製法と同様の方法により活性画分を回収し、蒸留水に対して透析し、精製FAODを得た。精製の過程を下記表にまとめた。
【0086】
【表9】
【0087】
理化学的性質
(1)基質特異性
本発明のオフィオボラス・ヘルポトリカスNBRC6158由来FAODの各種基質に対する特異性は表3の通りである。反応時の各基質濃度を 1mM とした。その他の反応条件は活性測定法に準じた。オフィオボラス・ヘルポトリカスNBRC6158由来FAODはFVに対して最も高い反応性を示し、かつ、FVHにも高く反応するが、FVLへの作用はFVHと比較して約156分の1であり、本酵素はFVLへ実質的に作用しないといえる。
(2)Km値
本発明のオフィオボラス・ヘルポトリカスNBRC6158由来FAODのFVHに対するKm値は0.8mMであった。
(3)至適pH
実施例3の(3)で記載した方法によりオフィオボラス・ヘルポトリカスNBRC6158由来FAODの至適pHを調べた結果、至適pHは7〜8にあった。
(4)pH安定性
実施例3の(4)で記載した方法によりオフィオボラス・ヘルポトリカスNBRC6158由来FAODのpH安定性を調べた結果、pH7〜11の範囲で良好な安定性を示した。
(5)至適温度
実施例3の(5)で記載した方法に従って至適温度を求めた結果、本発明のオフィオボラス・ヘルポトリカスNBRC6158由来FAODの至適温度は30〜40℃であった。
(6)熱安定性
実施例3の(6)で記載した方法に従って熱安定性を求めた結果、オフィオボラス・ヘルポトリカスNBRC6158由来FAODの熱安定性は、40℃・30分間の加熱処理までは80%以上の残存活性を示した。
(7)分子量
実施例3の(7)で記載した方法に従ってゲル濾過ならびにSDS−PAGEによる分子量を求めた結果、オフィオボラス・ヘルポトリカスNBRC6158由来FAODの分子量はゲル濾過法で約34,000、SDS−PAGEで約50,000であった。この結果から、本発明のオフィオボラス・ヘルポトリカスNBRC6158由来FAODは単量体であることが明らかである。
【0088】
【実施例9】
ヘモグロビンA1cの測定
<本発明のプロテアーゼを用いた糖化ヘモグロビンの測定>
<反応手順>
上記溶血試薬0.9mlに全血より分離した赤血球若しくは標準糖化ペプチド溶液0.1mlを添加し、37℃−10分間インキュベーションし溶血試料とした。溶血試料はヘモグロビン濃度を求める目的でA570nmを測定した。続いてR1試薬240μlおよび溶血試料6μlを混合し、37℃5分反応を行い750nmを測光した(A0)。さらにR2試薬60μlを添加し37℃−5分間インキュベーションし750nmを測光した(A1)。ブランクの測定は、試料に蒸留水を用いてブランクの吸光度変化(ブランクΔA=A1ブランク−A0ブランク)を測定した。また試料に検体及び糖化ヘモグロビン値既知の試料を用いて感度(感度ΔA=(A1-A0)−ブランクΔA)を求め、糖化ヘモグロビン濃度を算出した。さらに糖化ヘモグロビン濃度をヘモグロビン濃度で除し、糖化ヘモグロビン値を算出した。
<試料>
健常者全血5検体、糖尿病患者全血5検体
100μM、80μM、60μM、40μM、20μMのFVH若しくはFVL
<ヘモグロビンA1cのHPLCを用いた測定>
HPLC法の測定はHbA1c測定装置(アークレイ社製)にて測定した。
標準糖化ペプチド(FVH,FVL)の測定結果を図5に、検体の測定結果を表9に示す。
【0089】
【表10】
【0090】
図5から分かるように、本発明の酵素を用いた測定試薬はFVLには作用せず、FVHにのみ作用することから、正確にヘモグロビンβ鎖N末端の糖化ペプチドのみを検出できることが明らかであり、糖化ヘモグロビンではなくヘモグロビンA1cを正確に測定していることが明らかであった。
また表10よりHPLC法で測定したヘモグロビンA1cの測定値と酵素法の値が極めて良く一致することから、正確にヘモグロビンA1cを測定していることが明白であった。
【0091】
【発明の効果】
本発明の糖化ヘモグロビンα鎖N端の糖化ペプチドよりも、糖化ヘモグロビンβ鎖N端の糖化ペプチドに特異性の高い酵素、該酵素を用いた測定方法、試薬を用いろことにより、ヘモグロビンA1cをより簡便、正確、安価に測定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1はネオコスモスポラ・バシンフェクタ由来のFAODの至適pH曲線を示す。
【図2】図2はネオコスモスポラ・バシンフェクタ由来のFAODのpH安定性曲線を示す。
【図3】図3はネオコスモスポラ・バシンフェクタ由来のFAODの至適温度曲線を示す。
【図4】図4はネオコスモスポラ・バシンフェクタ由来のFAODの熱安定性曲線を示す。
【図5】図5は標準糖化ペプチド(FV、FVH)の測定曲線を示す。
Claims (20)
- 1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ロイシン(FVL)よりも、1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ヒスチジン(FVH)に特異性の高い酵素(フルクトシルアミンオキシダーゼ)であって、以下の性質を有する酵素;
(1)分子量(Da):37,000(ゲルろ過法)
(2)基質特異性:FVHに対する活性を29とした場合のFVLに対する活性が0
(3)至適pH:6.3〜6.7
(4)至適温度:45〜50℃ - 1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ロイシン(FVL)よりも、1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ヒスチジン(FVH)に特異性の高い酵素(フルクトシルアミンオキシダーゼ)であって、以下の性質を有する酵素;
(1)分子量(Da):27,000(ゲルろ過法)
(2)基質特異性:FVHに対する活性を26とした場合のFVLに対する活性が0
(3)至適pH:6.3〜6.7
(4)至適温度:37℃ - 1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ロイシン(FVL)よりも、1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ヒスチジン(FVH)に特異性の高い酵素(フルクトシルアミンオキシダーゼ)であって、以下の性質を有する酵素;
(1)分子量(Da):50,000(SDS−PAGE)
(2)基質特異性:FVHに対する活性を16.1とした場合のFVLに対する活性が0.4
(3)至適pH:7〜8
(4)至適温度:30〜40℃ - 1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ロイシン(FVL)よりも、1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ヒスチジン(FVH)に特異性の高い酵素(フルクトシルアミンオキシダーゼ)であって、以下の性質を有する酵素;
(1)分子量(Da):50,000(SDS−PAGE)
(2)基質特異性:FVHに対する活性を18.0とした場合のFVLに対する活性が0.1
(3)至適pH:7〜8
(4)至適温度:30〜40℃ - 1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ロイシン(FVL)よりも、1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ヒスチジン(FVH)に特異性の高い酵素(フルクトシルアミンオキシダーゼ)であって、以下の性質を有する酵素;
(1)分子量(Da):50,000(SDS−PAGE)
(2)基質特異性:FVHに対する活性を20.4とした場合のFVLに対する活性が0.7
(3)至適pH:7〜8
(4)至適温度:50〜55℃ - 1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ロイシン(FVL)よりも、1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ヒスチジン(FVH)に特異性の高い酵素(フルクトシルアミンオキシダーゼ)であって、以下の性質を有する酵素;
(1)分子量(Da):50,000(SDS−PAGE)
(2)基質特異性:FVHに対する活性を11.8とした場合のFVLに対する活性が2.4
(3)至適pH:7〜8
(4)至適温度:30〜40℃ - 1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ロイシン(FVL)よりも、1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ヒスチジン(FVH)に特異性の高い酵素(フルクトシルアミンオキシダーゼ)であって、以下の性質を有する酵素;
(1)分子量(Da):50,000(SDS−PAGE)
(2)基質特異性:FVHに対する活性を27.6とした場合のFVLに対する活性が0.2
(3)至適pH:7〜8
(4)至適温度:30〜40℃ - 1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ロイシン(FVL)よりも、1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ヒスチジン(FVH)に特異性の高い酵素(フルクトシルアミンオキシダーゼ)であって、以下の性質を有する酵素;
(1)分子量(Da):50,000(SDS−PAGE)
(2)基質特異性:FVHに対する活性を16.2とした場合のFVLに対する活性が0.6
(3)至適pH:7〜8
(4)至適温度:30〜40℃ - 請求項1に記載の酵素の製造方法であって、ネオコスモスポラ属の菌の培養物から製造する方法。
- 請求項2に記載の酵素の製造方法であって、コニオケチジウム属の菌の培養物から製造する方法。
- 請求項3に記載の酵素の製造方法であって、アルスリニウム属の菌の培養物から製造する方法。
- 請求項4に記載の酵素の製造方法であって、ピレノケータ属の菌の培養物から製造する方法。
- 請求項5に記載の酵素の製造方法であって、カーブラリア属の菌の培養物から製造する方法。
- 請求項6に記載の酵素の製造方法であって、レプトスフェリア属の菌の培養物から製造する方法。
- 請求項7に記載の酵素の製造方法であって、プレオスポラ属の菌の培養物から製造する方法。
- 請求項8に記載の酵素の製造方法であって、オフィオボラス属の菌の培養物から製造する方法。
- 請求項1〜8のいずれかに記載の酵素を用いることを特徴とする、アマドリ化合物の測定方法。
- アマドリ化合物がヘモグロビンA1cであることを特徴とする請求項17に記載の測定方法。
- 請求項1〜8のいずれかに記載の酵素を含有する試薬。
- プロテアーゼを含有する請求項19に記載の試薬。
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