JP5927771B2 - ヘモグロビンA1cの測定方法 - Google Patents

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Description

[1]
本発明は、ヘモグロビンA1c(以下HbA1cとも記載)の測定方法に関する。HbA1cは、ヘモグロビンのβ鎖が糖化された糖化タンパク質のことである。
[2]
[2−1]
糖尿病患者の血糖コントロールマーカーとして、血液中に含まれる糖化タンパク質であるヘモグロビンA1c(HbA1c)や、グリコアルブミンの測定が重用されている。これらの糖化タンパク質は、血液中に存在するD−グルコースと、血液タンパク質を構成するアミノ酸残基とが非酵素的に反応して生成するため、血液中のグルコース量をよく反映する。
血液タンパク質の主な糖化部位は、内部リジン残基のε−アミノ基、およびアミノ末端(N末端)アミノ酸のα−アミノ基である。例えば、アルブミンでは、内部リジン残基のε−アミノ基にD−グルコースが結合して糖化タンパク質が生じる。また、ヘモグロビンでは、内部リジン残基のε−アミノ基、もしくは、α鎖またはβ鎖のN末端アミノ酸であるバリンのα−アミノ基にD−グルコースが結合して糖化タンパク質が生じる。
糖尿病の診断に際しては、糖化タンパク質のなかでも、2〜3ヶ月の中期的な生活習慣を反映するとされるHbA1c(ヘモグロビンのβ鎖が糖化された糖化タンパク質)が重要であるとされている。
[2−2]
近年、血液中の糖化タンパク質を簡便且つ短時間で測定できる酵素的測定法(以下、「酵素法」と称する。)が開発され、既に商品化されている。酵素法を利用することにより、糖化タンパク質をハイスループットに測定することが可能となり、臨床検査分野で役立てられている。
これまでに例えば以下のような酵素法が知られている。
まず、プロテアーゼで糖化タンパク質を加水分解し、次に、加水分解で生じたフルクトシルバリン(以下FVとも記載)、フルクトシルリジン(以下FKとも記載)、フルクトシルバリルヒスチジン(以下FVHとも記載)などの糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドをフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(以下FAODとも記載)で酸化的加水分解する。最後に、オキシダーゼ反応により生じた過酸化水素を、ペルオキシダーゼ−色原体反応システムにより比色定量する。
すなわち上記の酵素法は、以下の(1)および(2)の反応を含む。
(1)プロテアーゼにより、糖化タンパク質を糖化アミノ酸または糖化ペプチドに断片化する反応(以下「断片化反応」とも記載)
(2)断片化された糖化アミノ酸または糖化ペプチドとFAODとが酸化還元反応を行い、これによって発色する反応(以下「発色反応」とも記載)
これらの酵素法を実施する手段は特に限定されず、市販の器具や機器を適宜選択して使用して良いが、汎用の自動分析機(たとえば、日立7180形自動分析機)を用いるのが便利である。
これらの自動分析機に酵素法を適用するためには、典型的には、測定前に、酵素法を実施するための試薬を、液状の2剤(第一試薬(以下R1とも記載)、第二試薬(以下R2とも記載))に分けて調製する。
典型的な測定パターンは、測定セルに試料を分注したあと、第一試薬を投入し数分間(たとえば、前出の日立7180形自動分析機では約5分間)一定温度で保持(この工程を以下第一反応とも記載)した後、第二試薬を投入してさらに数分間(たとえば、前出の日立7180形自動分析機では約5分間)一定温度で保持(この工程を以下第二反応とも記載)する。
この手順においては、典型的には、プロテアーゼをR1に、FAODをR2に配することにより、R1投入後に「断片化反応」が開始され、次いでR2投入後に「発色反応」が開始される。そして、この間にほぼ一定の時間間隔で吸光度が継続して測定される。
特開2004−275013 特開2003−235585 WO2004/104203 WO2007/125779 WO2004/038033 WO2004/038034 WO2005/056823
Arch. Microbiol., 180: 227−231 (2003) Biochem. Biophys. Res. Commun., 311: 104−111 (2003)
[3]
[3−1]
酵素法による糖化タンパク質の測定では、主反応酵素の一つであるFAODの基質特異性が重要な要素となる。
HbA1cの測定においては、糖化ヘモグロビンのβ鎖に特異的な測定を行うために、以下の(1)〜(4)に示すような基質特異性を有するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼが望まれている。
(1)フルクトシルバリルヒスチジン(FVH)に作用すること。
これは、ヘモグロビンα鎖およびβ鎖のN末端アミノ酸が共にバリンであることから、β鎖に特異的な測定を行うためには、β鎖のN末端アミノ酸2残基(すなわち、フルクトシルバリルヒスチジン)を、α鎖のN末端アミノ酸2残基(すなわち、フルクトシルバリルロイシン)と区別して認識する必要があるためである。
(2)フルクトシルバリルロイシン(FVL)に対する反応性が低いこと。
(3)フルクトシルバリン(FV)に対する反応性が低いこと。
このことから、当然に、ヘモグロビンβ鎖に特異的な測定を行うためには、α鎖のN末端アミノ酸2残基(すなわち、フルクトシルバリルロイシン(以下FVLとも記載))に対する反応性が低いこと、および、フルクトシルバリンに対する反応性が低いことが望まれる。
(4)フルクトシルリジン(FK)に対する反応性が低いこと
さらに、HbA1cの測定においては、プロテアーゼによる糖化タンパク質の加水分解工程で、不所望なフルクトシルリジンが比較的多量に生じる場合があるため、当該フルクトシルリジンに対する反応性が低いフルクトシルアミノ酸オキシダーゼが望まれる。
この点は、特に糖化アルブミンと区別して測定を行うために重要である。すなわち、血液サンプル中には糖化アルブミンが含まれているので、HbA1cを測定する場合には、この影響を回避する必要がある。糖化アルブミンは、アルブミンのリジン残基のε−アミノ基が糖化されているため、プロテアーゼによる切断によって発生するフルクトシルリジンにFAODが反応すると、測定値が高値化する。
[3−2]
我々の検討によれば、上記の(1)〜(4)に示す基質特異性の全てを有し、かつ、その程度が実用上十分なレベルを満足させるFAODは、これまで見出されていない。
例えば、特許文献1では、フルクトシルバリルヒスチジンに作用するオキシダーゼ(実質的にFAODと同義)を生産する菌株がスクリーニングされている。
しかしながら、特許文献1の実施例に示されているネオコスモスポラ・バシンフェクタ、コニオケチジウム・サボリ、アルスレニウム・エスピーTO6、ピレノケータ・エスピーYH807、カーブラリア・クラベータYH923、レプトスフェリア・ノドラムNBRC7480、プレオスポラ・ハーブラムNBRC32012、オフィオボラス・ヘルポトリカスNBRC6158由来の各FAODは、FVHに反応し、FVLへの作用は全くないかFVHと比較して約5分の1〜約156分の1であるものの、FVに対して最も高い反応性を示す。
また、フルクトシルバリルヒスチジンに作用するオキシダーゼ(実質的にFAODと同義)に関して、遺伝子組み換え体を用いて当該オキシダーゼの産生、抽出、及び精製を行った報告があり、該オキシダーゼをコードする遺伝子も単離されている(特許文献2、特許文献3、非特許文献1、非特許文献2参照)。
しかしながら、特許文献2の実施例に示されているアカエトミエラ属、アカエトミウム属、シエラビア属、カエトミウム属、ゲラシノスポラ属、ミクロアスカス属、コニオカエタ属、ユウペニシリウム属の各糸状菌が生産する酵素は、それぞれFVHに反応するものの、FKに対しても反応する。
また、特許文献4には、上記のうち、コニオカエタ属、ユウペニシリウム属の各糸状菌が生産する酵素をさらに改変させた酵素が例示されているが、これらの改変酵素もそれぞれFVHに反応するものの、FKに対しても反応する。
特許文献3には、カーブラリア・クラベータYH923由来のケトアミンオキシダーゼ(ケトアミンオキシダーゼはFVHに反応するため実質的にFAODと同義)をさらに改変させた酵素がいくつか例示されており、FKに対する反応性がFVHに対する反応性の2.5%にまで低減させたことが記載されている。しかしながら、当該酵素は、FVに対してFVHより高い反応性を有する。
また、特許文献3には、ネオコスモスポラ・ヴァシンフェクタ474由来の酵素、および、該酵素をさらに改変させた酵素が例示されているが、いずれもFKに対する反応性がFVHに対する反応性の20%にまでしか低減されていないし、FVに対してFVHより高い反応性を有する。
特許文献5には、バラ科、ブドウ科又はセリ科植物由来の脱フルクトシル化酵素(実質
的にFAODと同義)が開示されている。また、特許文献6には、ショウガ科植物由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼ(実質的にFAODと同義)が開示されている。
しかしながら、これらの酵素は、それぞれFVHに反応するものの、FVに対しても反応する。また、その他の基質に対する特異性は不明である。
[3−3]
上記に示したとおり、[3−1]で示した(1)〜(4)に示す基質特異性の全てを有し、かつ、その程度が実用上十分なレベルを満足させるFAODは知られていない。
それにもかかわらず、いくつかの先行文献において「HbA1cの測定方法」と称される方法が開示されているが、これらの方法においては、FAOD単独ではヘモグロビンβ鎖とα鎖との区別が不十分であるためヘモグロビンβ鎖に特異的な測定ができないので、さらに他の手段を組み合わせて複雑な測定系を構築することにより、測定系全体としてヘモグロビンβ鎖に特異的な測定を達成したと考えられる。
そのような測定系の一つに、プロテアーゼ消化後に生じるFVH以外の糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを、FVHの測定に影響を与えないように変化させ測定系外に除去する方法がある。
例えば、特許文献2では、プロテアーゼ消化後に生じるFKを、FKに作用する酵素で消化した後、FVHを測定する方法について言及されている。しかしFKのみを測定系から除いただけでは、FVが残るため、依然としてヘモグロビンβ鎖とα鎖との区別ができない。
また、そのような測定系の一つに、FAODとプロテアーゼの組み合わせや、反応条件などを検討することにより、測定系全体としてヘモグロビンβ鎖に特異的な測定を可能にさせる方法がある。
例えば、特許文献3には、基質特異性が不十分なFAODを使用する場合であっても、FAODとプロテアーゼの特定の組み合わせや、反応条件の選定などを検討した結果、測定系全体としてヘモグロビンβ鎖に特異的な測定が可能であるとされる方法が、いくつか開示されている。
しかしながら、これらの測定系は、2剤を越える数の試薬を必要とする方法であるため、汎用の自動分析機に適用することはできない(実施例には、R1、R2以外にも種々の試薬を必要とすることが記載されている。)。
また、特許文献3では、実施例に記載された試薬組成・処方においては、測定系全体としてヘモグロビンβ鎖に特異的な測定が可能になっていることが確認されているとされるが、これらの測定系は非常に複雑に構築されているため、明細書の記載に基づく限り、実施例に記載されている組成・処方以外でも、ヘモグロビンβ鎖に特異的な測定ができる確証はない。
さらに、このような複雑な測定系においては、不測の事態によって測定系のバランスが崩れると測定値に大きな影響を及ぼすリスクも考えられる。
[3−4]
また、HbA1cをより正確に測定するために、測定対象物であるHbA1cがプロテアーゼで加水分解される前に、予め、測定対象物に存在している遊離の糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドをFAODにより消去する測定系(いわゆる消去系)が開発されてきた。
予め測定対象物に存在している遊離の糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドは、例えば、高カロリー輸液用製剤が投与された患者から得られた測定対象物のHbA1c値を測定する際に問題となる。
その理由は、輸液によって高濃度の糖およびアミノ酸が体内に補充された場合に、血中
もしくは輸液バック中で遊離の糖化アミノ酸または糖化ペプチドが生成するためであると考えられている。特に、HbA1c測定の場合には、FAODの基質特異性が厳密でないと、FVやFKなどの混入によって測定値が異常に高値を示すことになる。
この消去系を含む糖化タンパク質測定方法は、以下の(1)〜(4)の反応を含む。これらの反応において少なくとも消去反応と除去反応とは、発色反応よりも前に行う必要がある。
(1)遊離アミンをFAODで消去する反応(以下「消去反応」とも記載)
(2)消去反応で発生した過酸化水素を除去する反応(以下「除去反応」とも記載)
(3)断片化反応
(4)発色反応
この手順においては、典型的には、FAODをR1に、プロテアーゼをR2に配することにより、R1投入後に「消去反応」が開始され、それに引続いてすぐに(ほぼ同時に)「除去反応」が開始される。次いでR2投入後に「断片化反応」が開始され、それに引続いてすぐに(ほぼ同時に)「発色反応」が開始される。
例えば、特許文献7の実施例には、第一反応において、ジベレラ属由来FAOD(アークレイ社製)を用いて、試料にもともと含まれるFVHおよびFVを予め消去した後に、第二反応において、第一反応で投入された該FAODをそのまま使用して、プロテアーゼで分解されたFVHを測定する方法が開示されている。
しかしながら、特許文献7の実施例において使用されているジベレラ属由来FAOD(アークレイ社製)は、上記のとおりFVとも反応するので、依然としてヘモグロビンβ鎖とα鎖との区別ができず、基質特異性は不十分である。
特許文献7では、実施例に記載された特定の試薬組成・処方において、測定系全体としてヘモグロビンβ鎖に特異的な測定が可能になっているとされるが、使用されているメタロプロテイナーゼの由来が明確でなく、明細書の記載に基づく限り、当業者がヘモグロビンβ鎖に特異的な測定ができる方法を確実に再現することができない。(プロテイナーゼは、タンパク質を基質とするペプチド結合加水分解酵素の総称に過ぎない。また、メタロプロテイナーゼは、活性中心に金属を含むプロテイナーゼの総称に過ぎない。いずれも慣用的に用いられている呼び方であり、具体的に、「活性中心に金属を含む」こと以外に何ら物質を特定するものではなく、また、「タンパク質を基質とする」こと以外に何ら物理化学的特性を特定するものでもない。)
さらに、このような複雑な測定系においては、不測の事態によって測定系のバランスが崩れると測定値に大きな影響を及ぼすリスクも考えられる。
[3−5]
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来よりシンプルかつ正確な、HbA1cの測定方法、HbA1cの測定用試薬組成物、HbA1cの測定キット、およびHbA1cの測定用センサー、等を提供することにある。
[4]
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた。その結果、ヘモグロビンβ鎖に特異的な測定を行うためには、意外にも、必ずしも上記[1−1]で示した(1)〜(4)の基質特異性をすべて満たすFAODを用いる必要はなく、FVHに対してある程度以上の基質特異性と親和性を有するFAODを用いることにより、すなわち、以下の(a)および(b)に示す特性を満たすFAODを用いることにより、シンプルで正確性の高い測定方法を構築できることを見出し、本発明に到達した。

(a)FKに対する反応性がFVHに対する反応性の30%以下であること。
(b)FVHに対するKm値が0.9mM以下であること。
すなわち本発明の概要は、以下の通りである。
項1.
以下の(1)および(2)の反応工程を含む、ヘモグロビンA1c測定方法。
(1)糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端からフルクトシルバリルヒスチジンを切り出す能力を有するプロテアーゼにより、糖化タンパク質を糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドに断片化する反応
(2)断片化されたフルクトシルバリルヒスチジンに反応し、かつ、以下の(a)および(b)に示す特性を満たすフルクトシルアミノ酸オキシダーゼが、該フルクトシルバリルヒスチジンと酸化還元反応を行い、発生した過酸化水素または酸素を定量する反応
(a)フルクトシルリジンに対する反応性がフルクトシルバリルヒスチジンに対する反応性の30%以下であること。
(b)フルクトシルバリルヒスチジンに対するKm値が0.9mM以下であること。
項2.
項1に記載のヘモグロビンA1c測定方法において、さらに、(1)および(2)の反応工程を開始する前に、以下の(3)および(4)の反応工程を含むヘモグロビンA1c測定方法。
(3)フルクトシルアミノ酸オキシダーゼが、測定対象物中に存在する遊離の糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドと酸化還元反応を行い、過酸化水素を発生させる反応。
(4)発生した過酸化水素を、(1)および(2)の反応工程に影響を与えないように変化させる反応。
項3.
項2に記載のヘモグロビンA1c測定方法において、
第一試薬および第二試薬の2種類の試薬を用意し、
ここで、第一試薬は、(3)および(4)の反応工程に必要な物質を全て含み、
第二試薬は、第一試薬と合わせることによって(1)および(2)の反応工程に必要な物質を全て含むよう構成されており、
まず、測定対象物と第一試薬とを混合することにより(3)および(4)の反応工程を開始させ、
次いで、上記の測定対象物と第一試薬との混合物に、さらに第二試薬を混合させることにより(1)および(2)の反応工程を開始させる、
ヘモグロビンA1c測定方法。
項4.
項3に記載のヘモグロビンA1c測定方法において、測定対象物と第一試薬とを混合してから測定終了までの時間が10分以下である、ヘモグロビンA1c測定方法。
項5.
項1ないし4に記載のヘモグロビンA1c測定方法において、ヘモグロビンA1cの測定が行われている間のいずれかの時点で、ヘモグロビンが本来有している色の吸光度、または、ヘモグロビンが酸化した物質の吸光度を測定することにより、ヘモグロビンの測定を行う、ヘモグロビンとヘモグロビンA1cとを同時に測定する方法。
項6.
項1ないし5に記載のヘモグロビンA1c測定方法において、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼが、以下の(I)から(III)のいずれかに記載のフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質である、ヘモグロビンA1c測定方法。
(I)配列番号1に記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(II)配列番号1に記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、下記の(a)から(c)に示す特性を全て有する、フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質。
(III)配列番号1に記載されるアミノ酸配列と86.0%以上の相同性を有するアミ
ノ酸配列からなり、且つ、下記の(a)から(c)に示す特性を全て有する、フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質。
(a)FVHに反応する。
(b)FKに対する反応性がFVHに対する反応性の30%以下である。
(c)FVHに対するKm値が0.9mM以下である。
項7.
項6に記載のヘモグロビンA1c測定方法において、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼが、(II)または(III)に記載のタンパク質であって、アミノ末端から58番目のイソロイシン、アミノ末端から110番目のグリシンおよびアミノ末端から282番目のフェニルアラニンのうち少なくとも1箇所以上が他のアミノ酸に置換されているタンパク質である、ヘモグロビンA1c測定方法。
項8.
項6に記載のヘモグロビンA1c測定方法において、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼの熱安定性が、以下の(x)または(y)のいずれかである、ヘモグロビンA1c測定方法。
(x)50℃10分処理後の酵素残存活性が70%以上である。
(y)55℃10分処理後の酵素残存活性が20%以上である。
項9.
項6に記載のヘモグロビンA1c測定方法において、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼの「フルクトシルバリンに対する反応性の、フルクトシルバリルヒスチジンに対する反応性に対する比率」が5.0以下である、ヘモグロビンA1c測定方法。
項10.
以下の(1)および(2)を含む、ヘモグロビンA1c測定キット。
(1)糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端からフルクトシルバリルヒスチジンを切り出す能力を有するプロテアーゼ
(2)フルクトシルバリルヒスチジンに反応し、かつ、以下の(a)および(b)に示す特性を満たすフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ
(a)フルクトシルリジンに対する反応性がフルクトシルバリルヒスチジンに対する反応性の30%以下であること。
(b)フルクトシルバリルヒスチジンに対するKm値が0.9mM以下であること。
項11.
項10に記載のヘモグロビンA1c測定キットにおいて、さらに、過酸化水素または酸素を定量するために必要な試薬を含む、ヘモグロビンA1c測定キット。
項12.
以下の(1)および(2)を含む、ヘモグロビンA1c測定センサー。
(1)糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端からフルクトシルバリルヒスチジンを切り出す能力を有するプロテアーゼ
(2)フルクトシルバリルヒスチジンに反応し、かつ、以下の(a)および(b)に示す特性を満たすフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ
(a)フルクトシルリジンに対する反応性がフルクトシルバリルヒスチジンに対する反応性の30%以下であること。
(b)フルクトシルバリルヒスチジンに対するKm値が0.9mM以下であること。
上記において、基質特異性(FKに対する反応性のFVHに対する反応性に対する比率、FK/FVHとも表記)は、各基質を2mM以上になるように調製して、後述の活性測定法を用い、下記計算式により算出した値とする。
基質特異性(FK/FVH)=(FKを基質としたときの活性値)÷(FVHを基質としたときの活性値)
例えば、後述の<5.参考例3>および/または<7.基質特異性評価方法>に記載の方法により測定することにより算出できる。
また、上記においてFVHに対するKm値は、FVH濃度を1.75mM、0.35mMになるように調製した試薬を用いて、後述の活性測定法を実施し、ラインウィーバー・バークプロットより算出した値とする。
[5]
本発明により、従来よりシンプルで正確性の高いHbA1cの測定方法を構築することができる。
FAODの違いによる反応タイムコースの差を示した図 本発明の方法とHPLC法との相関 本発明の方法とHPLC法との相関 本発明の方法とHPLC法との相関 本発明の方法とHPLC法との相関 本発明の方法とHPLC法との相関 短時間での測定で本発明を実施した際の反応タイムコース 短時間での測定で本発明を実施した際の、本発明の方法とHPLC法との相関 短時間での測定で本発明を実施した際の標準物質の測定結果 高値直線性の確認
[6]
本発明の実施の形態について詳細に説明すれば以下のとおりであるが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本明細書中に記載された非特許文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。また本明細書中の「〜」は「以上、以下」を意味し、例えば明細書中で「★〜☆」と記載されていれば「★以上、☆以下」を示す。また本明細書中の「および/または」は、いずれか一方または両方を意味する。
[6−1]
[測定対象物]
本発明の測定方法の測定対象物は、HbA1c(ヘモグロビンのβ鎖が糖化された糖化タンパク質)である。
測定対象試料は、HbA1cの有無や濃度を検出すべき対象物であれば特に限定されるものではなく、例えば、全血、血漿、血清、血球等の他に、尿、髄液等の生体試料(すなわち生体から採取された試料)や、ジュース等の飲料水、醤油、ソース等の食品類等の試料に対しても適用できる。
本発明の方法は、糖尿病の診断に応用することができるため、上記の中でも特に全血試料、血球試料に有用である。特に限定されるものではないが、赤血球内の糖化ヘモグロビンを測定する場合には、全血をそのまま溶血したり、全血から分離した赤血球を溶血したりして、この溶血試料を測定用の試料とすればよい。
溶血方法は、特に制限されず、例えば、界面活性剤を用いる方法、超音波による方法、浸透圧の差を利用する方法、凍結溶解による方法等が使用できる。この中でも、操作の簡便性等の理由から、界面活性剤を用いる方法または、浸透圧の差を利用する方法が好ましい。また、自動溶血機能付きの自動分析機(例えば、日本電子BM9130形自動分析機)では、自動溶血時の攪拌力が強いため、界面活性剤では、気泡を発生しサンプリングに支障をきたすことから、浸透圧の差を利用する方法がより好ましい。
前記界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン−p−t−オクチルフェニルエーテル(Triton系界面活性剤等)、ポリオキシエチレン ソルビタン アルキルエステル(Tween系界面活性剤等)、ポリオキシエチレン アルキルエーテル(Brij系界面活性剤等)等の非イオン性界面活性剤が使用でき、具体的には、例えば、商品名TritonX−100、商品名Tween−20、商品名Brij35等があげられる。前記界面活性剤による処理条件は、通常、処理溶液中の血球濃度が1〜10体積%の場合、前記処理溶液中の濃度が0.1〜1重量%になるように前記界面活性剤を添加し、室温で5秒〜1分程度攪拌すればよい。
また、前記浸透圧の差を利用する場合は、例えば、全血の体積に対し2〜100倍体積量の精製水を添加して溶血させる。
なお、溶血処理は、後述の、本発明の測定方法の具体的な態様において、第一反応と同時に行うこともできる。
[6−2]
[測定方法の基本構成]
本発明の測定方法は、前述のように、以下の(1)および(2)の反応工程を含む方法により、HbA1cを測定する方法である。
(1)糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端からFVHを切り出す能力を有するプロテアーゼにより、糖化タンパク質を糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドに断片化する反応
(2)断片化されたFVHに反応し、かつ、以下の(a)および(b)に示す特性を満たすFAODが、該FVHと酸化還元反応を行い、発生した過酸化水素または酸素を定量する反応
(a)FKに対する反応性がFVHに対する反応性の30%以下であること。
(b)FVHに対するKm値が0.9mM以下であること。
本発明の測定方法の具体的な態様は、上記の(1)および(2)の反応工程を含むように設計されていれば特に限定されない。
好ましくは、測定試薬を、自動分析機に適用できる2剤に分けて調製して測定を行う。以下に典型的な2つの態様を例示する。
[6−2−1]
[態様1]
例えば、R1にプロテアーゼ、R2にFAODを配した試薬を作製し、自動分析機を用いて測定を行えばよい。
この試薬を自動分析機に適用した場合、第一反応で、R1投入により、プロテアーゼによりHbA1cからFVHを切り出す工程(「断片化反応」)が開始され、次いで第二反応で、R2投入により、FVHにFAODが作用して酸化還元反応により過酸化水素を生成する工程が開始される。
第二反応では、さらにそれに引続いてすぐに(ほぼ同時に)、前記発生した過酸化水素を定量する工程を含む。
過酸化水素を定量するためには、例えば、得られた過酸化水素に酸化酵素(例えば、ペルオキシダーゼ)と酸化により発色する基質とを添加して、前記発生した過酸化水素と前記基質とを前記酸化酵素により反応させる工程を含むことが好ましい。
例えば、ペルオキシダーゼによって、測定対象HbA1c由来の過酸化水素を還元し、同時に酸化により発色する基質(発色性基質)を酸化し、発色した前記基質の発色程度を例えば分光光度計等により吸光度として測定することによって過酸化水素の量が決定でき
、その結果から適宜計算によって(例えば、この過酸化水素濃度と検量線等とを用いて)試料中のHbA1cを測定することができる。
酸化酵素および酸化により発色する基質の添加順序は特に制限されない。R2を添加した時に両者が揃っていれば良く、それぞれR1、R2のどちらに配してもよい。
過酸化水素を定量するために必要な試薬については、「測定方法のその他の構成」の[2]定量系(発色系)の項で詳述する。
[6−2−2]
[態様2]
別の態様としては、R1にFAOD、R2にプロテアーゼを配した試薬を作製し、自動分析機を用いて測定を行ってもよい。
この試薬を自動分析機に適用した場合、第一反応では、R1投入により、FAODが測定対象物中に何らかの理由で存在している遊離の糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドに作用して過酸化水素が生成する(「消去反応」)。
この、「測定対象物中に何らかの理由で存在している遊離の糖化アミノ酸および/または糖化ペプチド」は、本来FAODが作用すべき対象である「プロテアーゼによってHbA1cから切り出された」ものではなく、非測定対象であり、上記の反応によって生成した過酸化水素は、例えばR1にカタラーゼ等を配することにより、それに引続いてすぐに(ほぼ同時に)、後の反応に影響を与えないように変化させることができる(「除去反応」)。なおこの場合は、ペルオキシダーゼはR2に配することが好ましい。
第二反応では、R2投入により、プロテアーゼによるHbA1cからFVHを切り出す工程(「断片化反応」)が開始され、それに引続いてすぐに(ほぼ同時に)、切り出されたFVHにFAODが作用して酸化還元反応により過酸化水素を生成する工程が開始される。
第二反応においては、FAODを新たに添加する必要はなく(R2にFAODを配する必要はなく)、R1に配されたものをそのまま用いることができるが、必要であればR2にもFAODを配し、第二反応で追添しても差し支えない。
予め第一反応で、測定対象物中にもともと存在する遊離の糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを消去しているため、第二反応において、HbA1cをプロテアーゼで分解しても、もはやFAODと非測定対象物とが反応することはなく、プロテアーゼによってHbA1cから切り出されたもののみをFAODと反応させることができる。
第二反応においては、R1で添加したカタラーゼの影響を排除するため、R2にアジ化ナトリウムなどのカタラーゼ阻害剤を配してもよい。
あるいは、カタラーゼとペルオキシダーゼの基質に対する親和性の違いを利用して、カタラーゼとペルオキシダーゼとの添加比率を適切に設定することにより、R2にカタラーゼ阻害剤を配さない設定も可能である。例えば、第二反応において、過剰量のペルオキシダーゼおよび発色性基質を添加すればよい。この場合、ペルオキシダーゼは、前記カタラーゼの添加量(U)に対し、例えば、5〜100倍の活性(U)量を添加することが好ましい。
測定対象に血球が含まれる場合、非測定対象の消去には、血球中に本来存在しているカタラーゼやグルタチオンペルオキシダーゼ等の作用を利用しても良い。
また、非測定対象の糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドから発生する過酸化水素
を除去する方法としては、この他に以下の方法も採用できる。
例えば、プロテアーゼを添加する前に、FAODとペルオキシダーゼならびに電子供与体を共存させる方法がある。これによれば、プロテアーゼを添加する前に、非測定対象の糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドより発生した過酸化水素は、ペルオキシダーゼ反応によって脱水素を起こし、電子は電子供与体に供与され、その結果、過酸化水素は除去される。
また、プロテアーゼを添加する前に、FAODとペルオキシダーゼならびに酸化により発色する発色剤を添加し、この発色量を予め測定しておき、この発色量で補正を行うことも可能である。
[6−2−3]
上記の態様においては、ヘモグロビン(以下Hbとも記載)を同時測定することも可能である。
例えば、HbA1cの測定が行われている間のいずれかの時点で、Hbが本来有している赤色(550nm付近)の吸光度を測定することにより、HbとHbA1cの同時測定をすることができる。
ここで、発色反応において、酸化により発色する基質を適宜選択することにより、Hb測定とHbA1c測定とで測定波長が一致しないよう設定することが好ましい。これにより、互いの測定に与える影響を小さくすることができる。
また、Hbは反応液中で酸化されメトヘモグロビンに変化し、徐々に吸光度が変化するので、HbおよびHbA1cの測定値に影響を与える場合がある。
これを防止するためには、試料に、前処理として、フェロシアン化物、亜硝酸塩、硝酸カリウム、アジ化物などの酸化剤を加えることにより予めHbをメトヘモグロビンに変えておく(以下「メト化」とも記載)ことが好ましい。あるいは、R1に同様に前処理として、フェロシアン化物、亜硝酸塩、硝酸カリウム、アジ化物などの酸化剤を配しておき第一反応でメト化を行わせることもできる。
[6−3]
[プロテアーゼ]
本発明に用いるプロテアーゼは、糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端からFVHを切り出す能力があるものであれば特に限定されず、該プロテアーゼがさらにFV、FVLおよびFKのいずれか1つ以上を切り出すものであっても差し支えないし、さらに、アミノ酸配列上のその他の位置に作用して上記以外の糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出すものであっても差し支えない。
これらのプロテアーゼは、市販のものをそのまま用いても良いし、公知文献に記載されたものをその記載にしたがって製造したものを使用しても良い。公知のプロテアーゼとして、例えば、以下のものが挙げられる。
メタロプロテアーゼ、ニュートラルプロテアーゼ、エラスターゼ、ブロメライン、パパイン、トリプシン(たとえば、豚膵臓由来)、プロテイナーゼK、ズブチリシン、アミノペプチダーゼ、Bacillussubtilis由来のプロテアーゼ(例えばプロテアーゼN(シグマ・アルドリッチ社製)、プロテアーゼN「アマノ」(天野エンザイム(株)製))、Corynebacterium(例えばCorynebacterium ureolyticum KDK1002(FERM P−17135))由来のプロテアーゼ、Pseudomonas(例えばPseudomonas alcaligenes KDK1001(FERM P−17133))由来のプロテアーゼ、Sphingobacterium(例えばSphingobacterium mizutae KDK1003(FERM P−17348))由来のプロテアーゼ、Sphingomonas(例えばSphingomonas parapaucimobilis KDK1004(FERM BP−7041))由来のプロテアーゼ、Comamonas(例えばComamonas acidovorans KDK1005(FERM P−17346))由来のプロテアーゼ、Mucor(例えばMucor circinelloides f.janssenii KDK3004(FERM P−17345))由来のプロテアーゼ、Penicillium(例えばPenicillium waksmanii KDK3005(FERM P−17344))由来のプロテアーゼ、セリンカルボキシペプチダーゼ(EC3.4.16.1)、デブロッキングアミノペプチダーゼ(Deblocking Aminopeptidase)(例えばPfu N−acetyl Deblocking Aminopeputidase、Pyrococcus由来)、ジペプチジルアミノペプチダーゼ(Dipeptidyl Aminopeptidase)、ロイシンアミノペプチダーゼ(Leucine Aminopeptidase)、N−アシルアミノアシル−ペプチドハイドロラーゼ(N−Acylaminoacyl−peptide hydrolase)、ヘミセルラーゼ(Hemicelullase)、エンドプロテイナーゼGlu−C、リゾバクター(例えばリゾバクター・エンザイモゲネスYK−366(FERM BP−10010))由来のプロテアーゼ、バチラス(例えばバチラス・エスピー ASP−842(FERM BP−08641))由来のプロテアーゼ、エアロモナス(例えばエアロモナス・ヒドロフィラNBRC3820)由来のプロテアーゼ、ジペプチジルカルボキシペプチダーゼ(EC3.4.15.1)(例えばアンギオテンシン変換酵素)、デオキシン1(from Penicillium)、GODO高純度プロテアーゼ(from Bacillus)、プロテアーゼS“アマノ”(from Bacillus)、アミノペプチダーゼM(from Hog kidney)、アミノペプチダーゼT(from Thermus)、乳酸菌(from Lactobacillus)G15、G30、プロテアーゼP“アマノ”(from Aspergillus)、プロテアーゼK“アマノ”(alkaline proteinase from Aspergillus)、プロテイナーゼK(ProteinaseK from Tritirachium)、ペクチナ−ゼXP−534(from Bacillus)、スミチームMP(from Aspergillus)、プロテアーゼタイプXXIII(from Aspergillus)。
本発明に用いるプロテアーゼは、上記以外のものであっても、製造方法が知られているプロテアーゼについて精製し構造を解明したもの、あるいは、精製した酵素の部分アミノ酸配列等を明らかにし、その情報を利用して新規にスクリーニングして得られたものであっても良い。また、データベースに公開されている情報などから推定される遺伝子やタンパク質の配列を利用して、新規にスクリーニングして得られたものであっても良い。
さらには、遺伝子やタンパク質の配列が現実に知られているプロテアーゼ、あるいは、上記の方法により新規に得られたプロテアーゼに、さらに遺伝子工学的または化学的等の方法で改変を加えたものであっても良い。
本発明に用いるプロテアーゼは、安定性、反応速度(比活性)、入手の容易性などから、以下のものが好ましい。
メタロプロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、セリンカルボキシペプチダーゼ、プロテイナーゼK、ブロメライン、パパイン、ブタ膵臓由来トリプシン、Bacillus subtilis由来プロテアーゼ、Aspegillus oryzae由来プロテアーゼ、Aspegillus saitoi由来プロテアーゼ、Streptomyces griseus由来プロテアーゼ等が使用でき、好ましくはエンドプロテアーゼである。
市販品としては、例えば、プロテアーゼA「アマノ」G(天野エンザイム社製)、プロテアーゼM「アマノ」G(天野エンザイム社製)、プロテアーゼS「アマノ」G(天野エンザイム社製)、ペプチダーゼR(天野エンザイム社製)、パパインM−40(天野エンザイム社製)、サーモリシン(大和化成社製)、サモアーゼPC10(大和化成社製)、商品名プロテアーゼN(フルカ社製)、商品名プロテアーゼN「アマノ」(天野製薬社製)、Bacillus属由来メタロプロテイナーゼ(東洋紡社製:商品名トヨチーム)、エンドプロテイナーゼGlu−C(ロシュ社製)等があげられる。なかでも、Bacillus属由来メタロプロテイナーゼ(東洋紡社製:商品名トヨチーム)、サーモリシン(天野エンザイム社製)、サモアーゼPC10(天野エンザイム社製)、プロテアーゼ(Streptomyces griseus由来、フルカ社製)、プロテアーゼ(Aspegillus saitoi由来、シグマ社製)がより好ましい。
[6−4]
[フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ]
FAODは、公知文献では「フルクトシルペプチドオキシダーゼ」「フルクトシルアミンオキシダーゼ」「真核型アマドリアーゼ」「フルクトシルアミンデグリカーゼ」「脱フルクトシル化酵素」「ケトアミンオキシダーゼ」「フルクトシルアミン酸化酵素」など、種々の名称で呼ばれている。
[6−4−1]
本発明に用いるFAODは、FVHに反応し、かつ、以下の(a)および(b)に示す特性を満たすFAODであれば、特に限定されない。
(a)FKに対する反応性がFVHに対する反応性の30%以下であること。
(b)FVHに対するKm値が0.9mM以下であること。
本発明に用いるFAODはFK/FVH(FKに対する反応性のFVHに対する反応性に対する比率)が30%以下であるが、さらにはFK/FVHが13%以下であることが好ましい。さらにはFK/FVHが5%以下であることが好ましい。さらにはFK/FVHが2%以下であることが好ましい。
本発明に用いるFAODはFVHに対するKm値が0.9mM以下であるが、さらにはFVHに対するKm値が0.6mM以下であることが好ましい。さらには0.5mM以下であることが好ましい。さらには0.4mM以下であることが好ましい。
本発明に用いるFAODは、さらには、FV/FVH(FVに対する反応性のFVHに対する反応性に対する比率)が低いほど好ましい。好ましくは6.1以下である。さらに好ましくは4.8以下である。さらに好ましくは3.5以下である。さらに好ましくは2.0以下である。
本発明に用いるFAODの基質特異性は、[3−1]で説明した(1)〜(4)を完全に満たすものでなくてもかまわない。
本発明に用いるFAODは、FVHに対して強い親和性を有する(FVHに対するKm値が0.9mM以下である)ので、FVH以外の糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドが存在してもFVHに優先的に作用する。
特に、[6−2−2]で説明した[態様2]においては、FAODが作用する対象となる糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドの濃度は、第二反応でのR2投入直後はゼロであり、プロテアーゼによる切り出しが開始された後も非常に低濃度であって、さらに、それらはすぐにFAODの作用を受けて変化するため、第二反応の間はずっと低濃度のままであるから、FVHに対して強い親和性を有する(FVHに対するKm値が0.9mM以下である)FAODを用いることで、FVHに対してのみ選択的に反応が進む。
また、FVHに対して強い親和性を有するFAODを用いることにより、従来のFAODを用いるより反応が早く進むことにもなる。
したがって、本発明の方法を用いることにより、現在、第一反応5分・第二反応5分の
計10分で行われている測定が、5分以下で行われる場合、従来の方法と比較してそのメリットは大きくなる。さらに測定時間が3分以下、さらには1分(たとえば第一反応30秒・第二反応30秒の計1分)以下などと短くなるにつれて、本発明のメリットはさらに大きくなる。
また、上記のFAODを用いることにより、本発明ではプロテアーゼの選択に制約を受けない。[6−3]で好ましいものとして記載したプロテアーゼは、入手の容易性など実用上の観点も含めて例示したに過ぎない。
なお、FVHを高い選択性で切り出す能力を有するプロテアーゼを選定することが好ましいことは言うまでもない。
別の観点からは、本発明に用いるFAODは、熱安定性および/または比活性などの酵素特性に優れていることが好ましい。
熱安定性は、50℃10分処理後の酵素残存活性が70%以上であることが好ましい。さらには80%以上であることが好ましい。さらには90%以上であることが好ましい。または、熱安定性は、55℃10分処理後の酵素残存活性が20%以上であることが好ましい。さらには30%以上であることが好ましい。さらには40%以上であることが好ましい。
比活性は、2.0以上であることが好ましい。さらに好ましくは3.0以上、さらに好ましくは4.0以上、さらに好ましくは5.0以上である。
[6−4−2]
このようなFAODとしては、例えば、市販のものでは、FPO−301(商標)(東洋紡績株式会社)などを使用することができる。
また、このようなFAODとしては、後述の[8][参考例]にその入手方法・特性等を詳細に示した、Phaeosphaeria nodorum由来酵素およびその改変体から選ばれるFAODが挙げられる。
ここではその要旨を例示する。詳細は、後述の[8][参考例]を参照されたい。
本発明に用いるFAODとして、例えば、以下の(I)から(III)のいずれかに記載の、フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。
(I)配列番号1に記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(II)配列番号1に記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質。
(III)配列番号1に記載されるアミノ酸配列と86.0%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、且つフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質。
このようなFAODとしては、中でも、上記(II)または(III)に記載のタンパク質であって、アミノ末端から58番目のイソロイシン、アミノ末端から110番目のグリシンおよびアミノ末端から282番目のフェニルアラニンのうち少なくとも1箇所以上が他のアミノ酸に置換されているタンパク質が好ましい。
このようなFAODとしては、上記アミノ末端から58番目のイソロイシンが、メチオニン、トレオニン、アラニン、アスパラギン、セリン、バリン、または、ロイシンに置換されているタンパク質が好ましい。
このようなFAODとしては、上記アミノ末端から110番目のグリシンが、グルタミン、メチオニン、グルタミン酸、トレオニン、アラニン、システイン、ヒスチジン、リシン、アスパラギン、アルギニン、セリン、バリン、ロイシン、アスパラギン酸、イソロイシン、チロシンまたはフェニルアラニンに置換されているタンパク質が好ましい。
このようなFAODとしては、上記アミノ末端から282番目のフェニルアラニンが、
チロシンに置換されているタンパク質が好ましい。
あるいは、これらの変異が組み合わさったものでも良い。このような変異体としては、例えば、後述の[参考例]に具体的に記載されたものが挙げられる。
上記のFAODの入手方法については、後述の[参考例]で詳細に述べるが、例えば、以下の(IV)から(VII)のいずれかのポリヌクレオチドを含有する組換えベクターを作製し、該組換えベクターで宿主を形質転換した形質転換体を培養してフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質を生成させ、当該タンパク質を採取すればよい。
(IV)配列番号2に記載される塩基配列からなるポリヌクレオチド。
(V)配列番号2に記載される塩基配列において、1つ以上30以下の塩基が置換、欠失、挿入および/または付加された塩基配列からなり、且つフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
(VI)本発明のタンパク質のうちの何れかのタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
(VII)上記(IV)から(VI)のいずれかのポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、且つフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
[6−4−3]
なお、現時点では本願発明に使用することはできないFAODであっても、今後遺伝子工学的または化学的等の方法で改変を加え、上記の特性を有するように改良したものは、本願発明に使用できる。
あるいは、今後新規に得られたFAODであって、上記の特性を有するFAODは、本願発明に使用できる。
そして、そのようなFAODを用いて構築したHbA1cの測定系もまた、本願発明の技術思想に包含される。
本願出願時点で、市販されていたり、文献に記載されていたりして公知となっているFAODとしては、例えば、特許文献2に記載の、コニオカエタ属、ユウペニシリウム属由来酵素およびその改変体、あるいは、特許文献3に記載のカーブラリア・クラベータYH923またはネオコスモスポラ・ヴァシンフェクタ474由来酵素およびその改変体が挙げられる。
本願出願時点で公知のFAODとして、さらには、以下のもの(由来のもの)が例示できる。
FPOX−CE(キッコーマン社製、Coniochaeta sp.由来)あるいはその184、272、388位のいずれか1つ以上を改変したもの、FPOX−EE(キッコーマン社製、Eupenicillium terrenum由来)あるいはその184、272、388、94、265、302位のいずれか1つ以上を改変したもの、Arthrobacter sp.FV1−1(FERM P−18754)由来あるいはその51位および/または354位を改変したもの、Pichia sp.N1−1由来、Pichia sp.N1−1由来、Corynebacterium由来、Trichosporon mucoidesKDK4001(FERM P−17134)由来、Aspergillus terreus GP−1(FERMBP−5684)由来、Penicilium janthinellumS−3413(FERM BP−5475)由来、Gibberella fujikuroi IFO6356由来、Fusarium oxysporum S−1F4(FERM BP−5010)由来、Agrobacterium tumefaciens C58(ATCC33970)由来、Corynebacterium sp.(FERM P−8245)由来、Achaetomiella virescens ATCC 32393由来、Chaetomium sp. NISL 9335(FERM BP−7799)由来、Eupenicillium terrenum ATCC 18547由来、Eupenicillium senticosum IFO 9158由来、Eupenicillium idahoense IFO 9510由来、Eupenicillium euglaucum IFO 31729由来、Coniochaeta sp. NISL 9330(FERMBP−7798)由来、Neocosmospora vasinfecta NBRC7590由来、Coniochaetidium savoryi ATCC36547由来、Arthrinium sp. TO6(FERM P−19211)由来、Arthrinium phaeospermum NBRC31950由来、Arthrinium phaeospermum NBRC6620由来、Arthrinium japonicum NBRC31098由来、Pyrenochaeta sp. YH807(FERM P−19210)由来、Pyrenochaeta gentianicola)MAFF425531由来、Pyrenochaeta terrestris NBRC 30929由来、Leptosphaeria nodorum(分生子世代名(Phoma hennebergii))NBRC7480由来、Leptosphaeria doliolum JCM2742由来、Leptosphaeria maculans(分生子世代名(Phoma lingum))MAFF7 26528由来、Pleospora herbarum NBRC32012由来、Pleospora betae(分生子世代名(Phoma betae))NBRC5918由来、Ophiobolus herpotrichus NBRC6158由来、Curvularia clavata YH923(FERM P−19209)由来、Fusarium proliferatum GL2−1(FERM P−19005)由来、Candida guilliermondii 7087株(FERM BP−3878)由来、Fusarium oxysporum S−1F4(FERM BP−5010)由来、バラ科植物由来、ブドウ科植物由来、セリ科植物由来、ショウガ科植物由来、フザリウム・オキシスポルムIFO−9972由来あるいはその332位を改変したもの。
[6−5]
[測定方法のその他の構成]
[6−5−1]
[プロテアーゼとFAOD]
HbA1cとプロテアーゼとを、それぞれR1、R2のどちらに配するかは、測定目的や測定対象試料などに応じて、適宜決定されうる。
HbA1cとプロテアーゼとを反応させる際の具体的な条件は、所望のFVHが調製され得る条件であれば特に限定されるものではなく、試料の濃度や種類、プロテアーゼの種類や濃度などに応じて適宜好適な条件を検討の上、採用されればよい。
本発明におけるプロテアーゼおよびFAODの添加量は、特に限定されない。非測定対象の糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドの消去ならびにプロテアーゼによってHbA1cから切り出されたFVHとの反応が十分に行うことができる量であればよい。
例えば、プロテアーゼは、0.1〜30MU/Lの範囲であり、好ましくは2〜15MU/Lであり、より好ましくは3〜10MU/Lである。
また、例えば、FAODは、0.1〜45U/Lの範囲であり、好ましくは2〜15U/Lであり、より好ましくは3〜10U/Lである。
プロテアーゼによってHbA1cから切り出されたFVHのみをFAODと反応させる際の具体的な条件は、FVHに作用して、酸化的加水分解反応により酸素が消費され、過酸化水素が発生し得る条件であれば特に限定されるものではなく、試料の濃度や種類、プロテアーゼの種類や濃度に応じて適宜好適な条件を検討の上、採用されればよい。
反応温度は、例えば、2〜60℃、好ましくは4〜40℃である。
反応時間は、特に限定されるわけではないが、例えば、全工程であれば、0.5〜30分間、好ましくは10分以下であり、さらに好ましくは5分以下、さらに好ましくは3分以下、さらに好ましくは2分以下、さらに好ましくは1分以下である。
第一反応では、特に限定されるわけではないが、例えば、全工程であれば、0.25 〜15分間が例示できる。好ましくは5分以下であり、さらに好ましくは2.5分以下、さらに好ましくは1.5分以下、さらに好ましくは1分以下、さらに好ましくは0.5分以下である。
第二反応では、特に限定されるわけではないが、例えば、全工程であれば、0.25 〜 15分間が例示できる。好ましくは5分以下であり、さらに好ましくは2.5分以下、さらに好ましくは1.5分以下、さらに好ましくは1分以下、さらに好ましくは0.5分以下である。
好ましい第一反応時間−第二反応時間の組合せは10分−10分、さらに好ましくは5分−5分、さらに好ましくは2.5分−2.5分、さらに好ましくは1.5分―1.5分、さらに好ましくは1分−1分、さらに好ましくは0.5分−0.5分である。
pHは、例えば、6〜9の範囲である。また、この処理は、通常、緩衝液中で行われ、前記緩衝液としては、特に制限されないが、例えば、トリス塩酸緩衝液、リン酸緩衝液、HEPES緩衝液、MES緩衝液、PIPES緩衝液等があげられる。
なお、FAODを、非測定対象の糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを消去するためにも用いる場合は、R1とR2の液量比などを考慮して、両方の反応を行いうる条件に適宜設定すればよい。
なお、本発明において、酵素の活性については、明細書に記載がないものについては、原則として、市販品については容器や添付の説明書・パンフレット等に測定法や単位の記載があればそれに従う。また、文献に記載されたものであれば、その文献に記載されている活性測定方法に従う。
活性の定義(測定方法)がわからない場合や、測定に必要な試薬の入手に制約がある場合などにおいては、当業者の常識に基づいて合理的に適宜基質を選定し、測定条件を決定した上で測定する。
[6−5−2]
[定量系(発色系)]
FVHとFAODとが酸化還元反応を行い、これによって発生する過酸化水素または酸素を定量する反応の、具体的な条件は、反応により生じた過酸化水素の量または酸素の量を測定し得る方法であれば、その具体的方法は特に限定されるものではない。
例えば、過酸化水素を定量する方法としては、酸化還元反応により過酸化水素が発生した反応液に、ペルオキシダーゼ、および酸化により発色する還元剤(以下、発色系基質とも記載)を添加し、前記ペルオキシダーゼを触媒として前記過酸化水素と前記還元剤との間で酸化還元反応を生じさせる方法が挙げられる。
前記酸化還元反応により前記還元剤を発色させ、この発色強度を測定することにより前記過酸化水素量を測定できる(発色系)。
上記の定量系(発色系)に用いるペルオキシダーゼは特に限定されるものではなく、例えば市販のものが使用できる。好適なものとしては、西洋ワサビ、微生物などに由来するものが挙げられる。中でも、西洋ワサビ由来のペルオキシダーゼが好ましい。前記ペルオキシダーゼは、高純度かつ低価格のものが商業的に入手可能である。
本発明におけるペルオキシダーゼの濃度は、例えば、0.01kU/L〜4MU/Lの範囲であり、好ましくは0.1kU/L〜200kU/L、より好ましくは5kU/L〜100kU/Lである。
本発明に用いる発色性基質としては、特に限定されないが、水素供与体、ロイコ体、テトラゾリウム塩などが挙げられる。
水素供与体はカップラーと組み合せて用いることができる。例えば、水素供与体として
のトリンダー試薬とカップラーとしての4−アミノアンチピリンとの組み合せがあげられる。
上記トリンダー試薬としては、限定されないが、例えば、フェノール、フェノール誘導体、アニリン誘導体、ナフトール、ナフトール誘導体、ナフチルアミン、ナフチルアミン誘導体等があげられる。
これらは、例えば、ペルオキシダーゼの存在下で、カップラー(4−アミノアンチピリン(4−AA)など)に対して酸化縮合反応し色素を生成する。
水素供与体としては、N−エチル−N−スルホプロピル−3−メトキシアニリン、N−エチル−N−スルホプロピルアニリン、N−エチル−N−スルホプロピル−3,5−ジメトキシアニリン、N−スルホプロピル−3,5−ジメトキシアニリン、N−エチル−N−スルホプロピル−3,5−ジメチルアニリン、N−エチル−N−スルホプロピル−3−メチルアニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)アニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン、N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン、N−スルホプロピルアニリン、N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−2,5−ジメチルアニリン、N−エチル−N−(3−メチルフェニル)−N’−サクシニルエチレンジアミン、N−エチル−N−(3−メチルフェニル)−N’−アセチルエチレンジアミン等が挙げられる。
カップラーとしては、前記4−アミノアンチピリンの他に、アミノアンチピリン誘導体、バニリンジアミンスルホン酸、メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)(更に具体的には、3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンヒドラゾン)、スルホン化メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(SMBTH)(更に具体的には、スルホン化3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンヒドラゾン)等も使用できる。
ロイコ体としては、特に限定されないが、例えば、トリフェニルメタン誘導体、フェノチアジン誘導体、ジフェニルアミン誘導体などが使用できる。
これらは、ペルオキシダーゼの存在下で直接酸化呈色する。
例えば、4,4’−ベンジリデンビス(N,N−ジメチルアニリン)、4,4’−ビス[N−エチル−N−(3−スルホプロピルアミノ)−2,6−ジメチルフェニル]メタン、1−(エチルアミノチオカルボニル)−2−(3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシフェニル)−4,5−ビス(4−ジエチルアミノフェニル)イミダゾール、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルアミン、N−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルアミン塩(例えばナトリウム塩)、10−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−3,7−ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン塩等が挙げられる。
特に好ましくは、N−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルアミンナトリウムである。
テトラゾリウム塩としては、2,3,5−トリフェニルテトラゾリウム塩、2,5−ジフェニル−3−(1−ナフチル)−2H−テトラゾリウム塩、3,3’−[3,3’−ジメトキシ−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジイル]−ビス[2−(4−ニトロフェニル)−5−フェニル−2H−テトラゾリウム]塩、3,3’−[3,3’−ジメトキシ−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジイル]−ビス(2,5−ジフェニル−2H−テトラゾリウム)塩、2−(4−ヨードフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルホフェニル)−2H−テトラゾリウム塩、3,3’−(1,1’−ビフェニル−4,4’−ジイル)−ビス(2,5−ジフェニル−2H−テトラゾリウム)塩、3−(4,5−ジメチル−2−チアゾリル)−2,5−ジフェニル−2H−テトラゾリウム塩等が挙げられる。
上記発色系基質の使用量としては、溶解度を考慮して反応終濃度として0.001〜10mmol/Lが好ましい。より好ましくは0.005〜0.5mmol/Lである。
[6−5−3]
[定量系(センサー系)]
この工程における前記過酸化水素量の測定において、前記ペルオキシダーゼ等を用いた発色方法以外に、各種センサー系を用いた測定法が当業者に一般的に知られている(限定されないが、例えば、特開2001−204494号公報を参照のこと。)。
具体的には、各種センサー系に用いる電極としては、酸素電極、カーボン電極、金電極、または白金電極などが挙げられる。本発明において、作用電極として酵素を固定化したこれらの電極を用い、対極(例えば、白金電極など)、および参照電極(例えば、Ag/Cl電極など)と共に、本発明に好適な条件下の緩衝液中に挿入して一定温度に保持しながら、作用電極に一定の電圧を加え、さらに試料を添加して、酵素反応の結果生じる過酸化水素に起因する電流の増加値を測定することができる。
また、カーボン電極、金電極、および白金電極などを用いてアンペロメトリック系で測定する方法として、固定化電子メディエーターを用いる系がある。例えば、作用電極として、酵素および電子メディエーター(例えば、フェリシアン化カリウム、フェロセン、オスミウム誘導体、およびフェナジンメトサルフェートなど)を吸着、または共有結合法により高分子マトリクスに固定化した電極を用い、対極(例えば、白金電極など)、および参照電極(例えば、Ag/AgCl電極など)と共に、本発明に好適な条件下の緩衝液中に挿入して一定温度に保持する。続いて、作用電極に一定の電圧を加え、試料を添加して酵素反応の結果生じる過酸化水素に起因する電流の増加値を測定することができる。
この工程で消費された酸素量を測定することで糖化アミン(糖化アミノ酸および/または糖化ペプチド)量を測定することもできる(限定されないが、例えば、特開2001−204494号公報を参照のこと)。
具体的には、酸素電極を用い、電極表面に酸素を固定化して、本発明に好適な条件下の緩衝液中に挿入して一定温度に保持する。ここに試料を加えて、電流の減少値を測定する。
カーボン電極、金電極、白金電極などを用いてアンペロメトリック系で測定する場合には、作用電極として酵素を固定化したこれらの電極を用い、対極(例えば、白金電極など)、および参照電極(例えば、Ag/AgCl電極など)と共に、メディエーターを含む電流の増加量を測定する。メディエーターとしては、フェリシアン化カリウム、フェロセン、オスミウム誘導体、およびフェナジンメトサルフェートなどを用いることができる。
[6−5−4]
[その他の組成]
本発明において、上記構成の他、緩衝剤(例えば、ホウ酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、およびGOOD緩衝液など)が含まれていてもよい。
さらに上記試薬組成物には、酵素反応を妨害するイオンを捕捉するキレート試薬(例えば、EDTAおよびO−ジアニシジンなど)、過酸化水素の定量の妨害物質であるアスコ
ルビン酸を消去するアスコルビン酸オキシダーゼ、各種界面活性剤(例えば、トリトンX−100およびNP−40など)、ならびに各種抗菌剤および防腐剤(例えば、ストレプトマイシンおよびアジ化ナトリウムなど)などが含まれていてもよい。
さらには、塩類、酵素安定化剤、色源体安定化剤などを、必要に応じて添加することができる。
これらの試薬は、単一試薬でも2種類以上の試薬を組み合わせてなるものであってもよい。
本発明に用いることができる緩衝剤(緩衝液)は特に限定されない。各試薬の設定pHなどに応じて適宜選択される。
例えば、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液、フタル酸緩衝液、GOOD緩衝液などが挙げられる。
本発明では、6〜8.5のpH範囲において充分な緩衝能力を有する緩衝剤を使用することが好ましい。このpH範囲の緩衝剤としては、リン酸塩、トリス、ビス−トリスプロパン、2−〔4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル〕エタンスルホン酸(HEPES)、2−モルホリノエタンスルホン酸(MES)、ピペラジン−1,4−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノメタンスルホン酸(TES)、および、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸(TAPSO)などが挙げられる。特に、好ましい緩衝剤はMESおよびPIPESである。また特に、好ましい濃度範囲は20〜200mMであり、好ましいpH範囲はpH6〜7である。
本発明に用いることができる界面活性剤は特に限定されない。例えば、非イオン界面活性剤および/または両性イオン界面活性剤などを用いることができる。
非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ソルビタンエステル、アルキルポリグルコシド、脂肪酸ジエタノールアミド、アルキルモノグリセリルエーテルなどが挙げられる。
両性イオン界面活性剤としては、例えばアルキルジメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタインなどが挙げられる。
防腐剤としては、アジ化物、キレート剤、抗生物質、抗菌剤などが挙げられる。キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸およびその塩等が挙げられる。抗生物質としては、ゲンタマイシン、カナマイシン、クロラムフェニコール等が挙げられる。抗菌剤としては、イミダゾリジニルウレア等が挙げられる。
塩類としては塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アルミニウム等が挙げられる。
酵素安定化剤としては、シュークロース、トレハロース、シクロデキストリン、グルコン酸塩、アミノ酸類等が挙げられる。
また、酵素安定化剤として、血清アルブミン類、グロブリン類または繊維性タンパク質類などの不活性タンパク質を添加することができる。好ましいタンパク質は、ウシ血清アルブミンである。好ましい不活性タンパク質は、酵素分解を起こすプロテアーゼ不純物を含まないものである。
上記の各成分(試薬中に存在するプロテアーゼ、FAODなどの酵素、および、他の成分)の濃度・条件等は、使用する試薬・酵素等の種類により、反応性および/または安定性などを考慮して適宜決定することが出来る。
その際には、試薬中に存在するそれぞれの成分が互いに干渉しあうことにより、HbA
1cの測定や試薬の安定性等に影響が及ぶ可能性についても、考慮することが好ましい。例えば、第二反応で、プロテアーゼとFAODが共存する場合は、できるだけ両酵素の特性を活かせるよう適宜条件決定することができる。
上記の決定は、必ずしも最適解である必要はなく、目的や状況に応じて、HbA1cの測定に関して実用上十分な性能が担保されていれば差し支えない。
[6−6]
[HbA1c測定キット]
本発明のHbA1c測定キット(以下「本発明のキット」ともいう)は、以下の(1)および(2)を含む、HbA1c測定キットである。
(1)糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端からFVHを切り出す能力を有するプロテアーゼ
(2)FVHに反応し、かつ、以下の(a)および(b)に示す特性を満たすFAOD
(a)FKに対する反応性がFVHに対する反応性の30%以下であること。
(b)FVHに対するKm値が0.9mM以下であること。
本発明のキットを用いてHbA1cを測定する手段は特に限定されず、市販の器具や機器を適宜選択して使用して良いが、汎用の自動分析機を用いるのが便利である。
本発明のキットの形態は特に限定されるものではないが、好ましくは、汎用の自動分析機(たとえば、日立7180形自動分析機)に適用できることが好ましい。典型的には、測定前に、酵素法を実施するための試薬を、液状の2剤(第一試薬(以下R1とも記載)、第二試薬(以下R2とも記載))に分けて調製することができるようになっていればよい。具体的な形態としては、例えば、水溶液、懸濁液または凍結乾燥粉末など形態が採用され得る。中でも、直接自動分析機にセットできる2剤の液状試薬が好ましい。
本発明のキットは、様々な添加物を備え得るが、当該添加物の配合法は特に制限されるものではない。
本発明のHbA1c測定キットは、さらに、過酸化水素または酸素を定量するために必要な試薬を含んでいても良い。
過酸化水素を定量するために必要な試薬としては、ペルオキシダーゼ、および発色性基質が例示できる。
本発明のキットには、例えば、フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ、緩衝液、プロテアーゼ、POD、発色試薬、酵素反応を妨害するイオンを捕捉するキレート試薬、過酸化水素の定量の妨害物質であるアスコルビン酸を消去するアスコルビン酸オキシダーゼ、界面活性剤、安定化剤、賦形剤、抗菌剤、防腐剤、ウェルプレート、蛍光スキャナー、自動分析機、および本発明にかかる測定方法を紙などの記録媒体に記載した取り扱い説明書などが含まれていてもよい。
本発明の測定キットは、本発明のHbA1cの測定方法に利用し得るものである。よって、本発明のキットは、本発明の測定方法の実施に用いられる物品により構成されていてもよい。上記物品の説明については、本発明の測定方法の項における緩衝剤等の説明を援用することができる。
なお、本発明のキットには、測定に必要な全ての構成をセットにしたものだけでなく、分割されている各構成それぞれも、実質的に包含される。例えば、液状のR1とR2のセットであれば、R2と組合せて使用することを前提としたR1、または、R2と組合せて使用することを前提としたR2についても、実質的に本発明のキットに包含される。
[6−7]
[HbA1c測定センサー]
本発明のHbA1c測定センサー(以下「本発明のセンサー」)は、HbA1cを検出するために用いられるセンサーであり、以下の(1)および(2)を含む、HbA1c測定センサーである。
(1)糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端からFVHを切り出す能力を有するプロテアーゼ
(2)FVHに反応し、かつ、以下の(a)および(b)に示す特性を満たすFAOD
(a)FKに対する反応性がFVHに対する反応性の30%以下であること。
(b)FVHに対するKm値が0.9mM以下であること。
本発明のセンサーの一実施形態は、上記のプロテアーゼおよびFAODを支持体に固定して用いることができる。支持体としては、該FAODを固定化できるものであれば、特に限定されるものではなく、形状や材質は該タンパク質の性質に応じて好適なものを使用してよい。支持体の形状は、該FAODが固定化できる十分な面積を有するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、基板、ビーズおよび膜などが挙げられる。支持体の材料としては、例えば、無機系材料、天然高分子、および合成高分子などが挙げられる。
なお、本発明は上記の各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種種の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
本発明のセンサーは、本発明のHbA1cの測定方法に利用し得るものである。よって、本発明のセンサーは、本発明の測定方法の実施に用いられる物品により構成されていてもよい。上記物品の説明については、本発明の測定方法および本発明のキットの項における緩衝剤等の説明を援用することができる。
なお、本発明のセンサーには、測定に必要な全ての構成を搭載したものだけでなく、分割されている各構成それぞれも、実質的に包含される。例えば、センサーと組合せて使用することを前提とした使い捨てチップについても、実質的に本発明のセンサーに包含される。
[7]
[実施例1]FAODの違いによる反応タイムコースの差
以下の測定を実施した。
1.試薬
R1
MES緩衝液(pH6.5) 100mM
NaCl 2.992g/L
DA−64(和光純薬) 50.5mg/L
R2
MES緩衝液(pH6.5) 100mM
ペルオキシダーゼ(PEO−302 東洋紡績)20kU/L
FAOD
(1)後述の参考例9に記載のIE353−G110E(実施例)
(2)FPOX−CE(キッコーマン)(比較例)
DA−64は、N−(カルボキシメチルアミノ−カルボニル)−4,4’−ビス(ジメチルアミノ)−ジフェニルアミンナトリウム塩
2.試料
FVH 0.12mM
FV 0.12mM
FK 0.12mM
3.測定パラメーター
測定機種 日立7170
分析法/測定ポイント 2ポイントエンド(10)16−34
このパラメータを用いた場合、測定に要する時間は、第一反応約300秒、第二反応約300秒の計約600秒である。
波長(副/主) 800/700
液量比 試料/R1/R2 18μL/162μL/54μL(S:R1=1:9)
反応温度 37℃
ABS LIMIT 32000増加
キャリブレーション 0.0−10000吸光度打出し

(Hb濃度の測定)
37℃にインキュベートされたR1;180μLに下記の検体を精製水で1/20倍希釈したものからHbA1c検体15μLを添加し、37℃で反応を開始し、5分後に505nmの吸光度を測定した。
結果を、キャリブレーター1(Hb 101.0μmol/L、HbA1c 3.54μmol/L、HbA1c%が5.0%)とキャリブレーター2(Hb 153.8μmol/L、HbA1c 13.70μmol/L、HbA1c%が10.2%)とを用いて作成した検量線と対比してHb濃度を求めた。

(HbA1c濃度の測定)
また、R1添加、5分後にR2;60μLを添加した。R2添加前及び添加5分後の660nmの吸光度を測定した。結果を、上記と同じキャリブレーター1とキャリブレーター2とを用いて作成した検量線と対比してHbA1c濃度を求めた。

(HbA1c % の測定)
上記で得られた各検体のHb濃度(μmol/L)とHbA1c濃度(μmol/L)から、下記式によりHbA1c(%)を算出した。
HbA1c(%)=
{96.3×HbA1c濃度(μmol/L)/Hb濃度(μmol/L)}+1.62
実施例で用いたFAODは、後述の参考例9(表7)に記載されているとおり、FKに対する反応性がFVHに対する反応性の3%であった。また、FVHに対するKm値は0.32mMであった。一方、比較例で用いたFPOX−CEは、実施例で用いたFAODと同時に測定したところ、FKに対する反応性がFVHに対する反応性の23%であり、また、FVHに対するKm値は0.92mMであった。
図1に反応タイムコースを示す。
実施例のFAODを用いてHbA1c測定系を組んだ場合は、FVHに対して速やかに反応しタイムコースがエンドになっているのに対し、比較例のFPOX−CEを用いてHbA1c測定系を組んだ場合はやや遅れて反応している。一方FVに対しては、TCのFAODよりもFPOX−CEの方が速やかに反応している。FKに対しては、両方の測定系ともに、反応性は低い。
この結果は、実施例のFAODが、FVHに対する親和性が向上しており、特に、基質濃度が低い場合や、反応時間を長くとれない場合に有利であることを示す。
(HPLC法との相関)
以下の測定を実施した。
[酵素法]
1.試薬
R1
PIPES緩衝液(pH6.5) 100mM
NaCl 2.992g/L
DA−67(和光純薬) 10mg/L
FAOD 後述の参考例9に記載のIE353−G110E
R2
PIPES緩衝液(pH6.5) 100mM
ペルオキシダーゼ(PEO−302 東洋紡績製)20kU/L
プロテアーゼ 各々2MU/L
(1)NEP−201(東洋紡績製)
(2)サーモライシン(大和化成社製)
(3)プロティナーゼK(シグマ社製)
(4)プロテアーゼ(Streptomyces griseus由来、フルカ社製)
(5)プロテアーゼ(Aspegillus saitoi由来、シグマ社製)
2.試料
全血 60検体
3.測定パラメーター
実施例1と同じ。
[HPLC法]
アークレイ社製HA8160を用いて通法に従い測定を実施した。
図2〜図6に相関データを示す。上記(1)〜(5)のプロテアーゼを用いたときの相関式はそれぞれ次のとおり。
(1)Y=1.0397X−0.2364 、R2=0.9850
(2)Y=1.0122X−0.0391 、R2=0.9829
(3)Y=1.0485X−0.2381 、R2=0.9798
(4)Y=1.0441X−0.2385 、R2=0.9826
(5)Y=1.0397X−0.1573 、R2=0.9824
このように、どのプロテアーゼと組み合わせても、実施例とHPLC法との相関はきわめて良好で、本発明の方法が正確にHbA1cを測定できていることを示す。
[実施例3](短時間(60秒−60秒)での測定)
[酵素法]
1.試薬
R1
PIPES緩衝液(pH6.5) 100mM
NaCl 2.992g/L
DA−67(和光純薬) 10mg/L
FAOD 後述の参考例9に記載のIE353−G110E
R2
PIPES緩衝液(pH6.5) 100mM
ペルオキシダーゼ(PEO−302 東洋紡績)20kU/L
サーモライシン 10MU/L
2.試料
(1)全血 180検体
(2)標準物質
3.測定パラメーター
実施例1と同じ。測光ポイントの13−20ポイントから測定結果を算出した。
分析法/測定ポイント 2ポイントエンド(10)13−20

このパラメータを用いた場合、測定に要する時間は、第一反応約60秒、第二反応約60秒の計約120秒である。
[HPLC法]
アークレイ社製HA8160を用いて通法に従い測定を実施した。(メーカーに推奨されている方法)
3検体について測定タイムコースの一例を図7に示す。また、相関データを図8に示す。また、標準物質の測定結果を図9に示す。
これらの結果より、本発明を用いることにより短時間測定が可能となり、測定結果の迅速なレポートが可能になる。
[実施例4、比較例1]高値直線性の確認
[実施例4]
1.試薬
R1
PIPES緩衝液(pH6.5) 50mM
NaCl 2.992g/L
FAOD(FPO−301(東洋紡社製) 2kU/L
DA−67(和光純薬) 50μmol/L
R2
PIPES緩衝液(pH6.5) 100mM
ペルオキシダーゼ(PEO−302 東洋紡績)20kU/L
サーモライシン 5MU/L

[比較例1]
1.試薬
R1
PIPES緩衝液(pH6.5) 50mM
NaCl 2.992g/L
FAOD(FPOX−CE(キッコーマン社製) 2kU/L
DA−67(和光純薬) 50μmol/L
R2
PIPES緩衝液(pH6.5) 100mM
ペルオキシダーゼ(PEO−302 東洋紡績)20kU/L
サーモライシン 5MU/L

2.試料
(1)HbA1c%が4.2%と13.7%の2濃度の検体を用いて、各々を混合し直線性試料を作成した。なお、試料の濃度については、アークレイ社製HA8160を用いて、メーカーに推奨されている方法を用いて測定を実施した。

3.測定パラメーター
実施例2と同じ。測光ポイントの13−20ポイントから測定結果を算出した。
分析法/測定ポイント 2ポイントエンド(10)13−20
このパラメータを用いた場合、測定に要する時間は、第一反応約60秒、第二反応約60秒の計約120秒である。
実施例4の測定結果を図10、表10に、比較例1の結果を図10、表11に示す。
図10において、高値領域において比較例1のHbA1c(%)の測定値が実施例4の測定値より低下してくる傾向が見られる。
その理由は、比較例1では、特に高値試料では短時間で反応が終了せず、HbA1cの測定が十分にできていないためだと考えられる。
このことは、表10および表11の最右欄に示されている、各直線性試料(希釈系列)の「HbA1c測定値」の「差分」の値が、実施例4では全ての測定対象範囲において1.0μmol/L前後の値を示したのに対し、比較例1では10水準希釈系列の6番目までは、差分が1.0μmol/L前後の値を示したが、7番目以降においては0.8μmol/L付近に低下したことからも裏付けられる。
これらの結果より、本発明を用いることにより短時間において高値試料についても正確に測定することが可能となる。
[8]
[参考例]
以下、本発明に用いることができるFAODについて具体的に説明する。
以下の説明では、FAODのことを「フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ」とも呼んでいる。
本参考例では、まず、[8−1]本発明に用いることができるFAODタンパク質、[8−2]該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、[8−3]該ポリヌクレオチドを含有する組換えベクター、該組換えベクターで宿主を形質転換した形質転換体、および、[8−4]該形質転換体を培養してフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質を得る方法について概説し、次いで、[8−5]具体的な例示をする。
[8−1]
<1.本発明に用いることができるFAODタンパク質>
本発明に用いることができるFAODタンパク質は、以下の(I)から(III)のいずれかに記載の、フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質である。つまり、
(I)配列番号1に記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(II)配列番号1に記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質;
(III)配列番号1に記載されるアミノ酸配列と86.0%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、且つフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質。
上記配列番号1に示されるアミノ酸配列は、Phaeosphaeria nodorumのゲノムデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/viewer.fcgi?db=nucleotide&val=NZ_AAGI00000000)に基づき探索をし、単離をしたフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼのアミノ酸配列である。
また、本発明に用いることができるFAODは、上記で説示したタンパク質のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質をも包含するが、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加される部位は、置換、欠失、挿入および/または付加後のタンパク質がフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有していれば、該アミノ酸配列中のどの部位であってもよい。ここで「1または数個のアミノ酸残基」とは、具体的には10個以内の範囲のアミノ酸残基数であり、好ましくは6個以内の範囲のアミノ酸残基である。
また、本発明に用いることができるFAODは、上記で説示した本発明にかかるタンパク質のアミノ酸配列(配列番号1に示す)において、当該アミノ酸配列と86.0%以上、より好ましくは90.0%以上、より好ましくは95.0%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、且つフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質を包含する。
なお、アミノ酸配列の相同性は、公知の方法で求めることができる。具体的には、GENETYX−WIN(株式会社ゼネティックス社製の商品名)を当該商品のマニュアルに従って使用し、配列番号1に示すアミノ酸配列と比較対象のアミノ酸配列とのホモロジーサーチ(homology search)により一致するアミノ酸配列の割合(%)として、相同性を計算することができる。相同性は、比較対象の配列の全領域にわたって最適な状態にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定され得る。ここで、比較対象の塩基配列またはアミノ酸配列を最適な状態にアラインメントするために、付加または欠失(例えば、ギャップ等)を許容してもよい。
上述した、「配列番号1に記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質」、または、「配列番号1に記載されるアミノ酸配列と86.0%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、且つフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質」では、配列番号1に記載されるアミノ酸配列において、アミノ末端から58番目のイソロイシン、および/またはアミノ末端から110番目のグリシンが他のアミノ酸に置換されていることが好ま
しい。
上記タンパク質では、上記アミノ末端から58番目のイソロイシンおよび/またはアミノ末端から110番目のグリシンが、他のアミノ酸に置換されている。上記他のアミノ酸としては特に限定されず、適宜公知のアミノ酸に置換され得る。置換されるアミノ酸としては、例えば、天然のタンパク質の構成成分である基本アミノ酸、何らかの化学修飾を受けた修飾アミノ酸、基本アミノ酸から誘導された特殊アミノ酸などを挙げることできるが、これらに限定されない。
アミノ末端から58番目のイソロイシンを他のアミノ酸に置換することによって、上記タンパク質のフルクトシルバリルヒスチジンに対する基質特異性を更に上昇させることが可能となり、アミノ末端から110番目のグリシンを他のアミノ酸の置換することによって、上記タンパク質の熱安定性を更に上昇させることが可能となる。
以下に、まず、アミノ末端から58番目のイソロイシンが他のアミノ酸に置換されている場合について、具体的に説明する。
上記アミノ末端から58番目のイソロイシンは、例えばメチオニン、トレオニン、アラニン、アスパラギン、セリン、バリン、または、ロイシンに置換されていることが好ましい。上記構成であれば、フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼの基質特異性(フルクトシルバリルヒスチジンに対する反応性)を更に上昇させることができる。
フルクトシルバリルヒスチジンに対する基質特異性を更に上昇させる(換言すれば、フルクトシルバリンおよびフルクトシルリジンの両基質への反応性を大幅に低下させる)という観点からは、上記アミノ末端から58番目のイソロイシンは、トレオニン、セリン、バリンまたはアラニンに置換されることが更に好ましい。
一方、基質特異性のみならず熱安定性をも上昇させるという観点からは、上記アミノ末端から58番目のイソロイシンは、メチオニン、セリンまたはアラニンに置換されることが更に好ましい。
したがって、基質特異性を更に上昇させるとともに熱安定性をも上昇させるという観点からは、上記アミノ末端から58番目のイソロイシンは、セリンまたはアラニンに置換されることが最も好ましいといえる。
アミノ末端から58番目のイソロイシンが他のアミノ酸に置換されている場合には、アミノ末端から58番目以外の部位においても、アミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加され得る。このとき、アミノ末端から58番目以外で置換、欠失、挿入、および/または付加が生じる箇所としては、特に限定されない。
次いで、アミノ末端から110番目のグリシンが他のアミノ酸に置換されている場合について、具体的に説明する。
上記アミノ末端から110番目のグリシンは、例えば、トリプトファンおよびプロリン以外のアミノ酸に置換されていることが好ましい。更に具体的には、上記アミノ末端から110番目のグリシンは、グルタミン、メチオニン、グルタミン酸、トレオニン、アラニン、システイン、ヒスチジン、リシン、アスパラギン、アルギニン、セリン、バリン、ロイシン、アスパラギン酸、イソロイシン、チロシンまたはフェニルアラニンに置換されていることが好ましい。上記構成であれば、フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼの熱安定性を上昇させることができる。
熱安定性のみならず比活性をも上昇させるという観点からは、上記アミノ末端から110番目のグリシンは、グルタミン酸(E)、アラニン(A)、バリン(V)またはチロシン(Y)に置換されることが更に好ましい。
熱安定性のみならずKm評価をもより良いものとするという観点からは、上記アミノ末
端から110番目のグリシンは、ヒスチジン(H)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、チロシン(Y)、またはフェニルアラニン(F)に置換されることが更に好ましい。
熱安定性のみならず基質特異性をも上昇させるという観点からは、上記アミノ末端から110番目のグリシンは、グルタミン酸(E)、またはアスパラギン酸(D)に置換されることが更に好ましい。
アミノ末端から110番目のグリシンが他のアミノ酸に置換されている場合には、アミノ末端から110番目以外の部位においても、アミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加され得る。このとき、アミノ末端から110番目以外で置換、欠失、挿入、および/または付加が生じる箇所としては、特に限定されない。
配列番号1に示されるアミノ酸配列において、アミノ末端から58番目のアミノ酸と、アミノ末端から110番目のアミノ酸との両方が、他のアミノ酸に置換されていることが好ましい。上記構成によれば、フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼの熱安定性を上昇させる傾向を示すとともに、フルクトシルリジンへの反応性を低下させる傾向を示す。また、上述したように上記アミノ末端から110番目のグリシンが置換される具体的なアミノ酸は特に限定されないが、例えば、グルタミンであることが好ましい。上記構成であれば、更にフルクトシルバリンおよびフルクトシルリジンへの反応性を低下させることができる。
上記「配列番号1に記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質」、または、「配列番号1に記載されるアミノ酸配列と86.0%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、且つフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質」では、配列番号1に記載されるアミノ酸配列におけるアミノ末端から58番目・110番目のアミノ酸以外に、アミノ末端から282番目のフェニルアラニンが他のアミノ酸に置換されていることが好ましい。上記構成によれば、フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼの熱安定性を上昇させることができる。
上記アミノ末端から282番目のフェニルアラニンが置換される具体的なアミノ酸としては特に限定されないが、例えば、チロシンであることが好ましい。上記構成であれば、更にフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼの熱安定性を上昇させることができる。
本発明におけるフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性は、後述する参考例の「活性測定法」の項において説明した方法によって測定される。フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を測定する場合、フルクトシルバリルヒスチジンを基質として用いればよい。なお、本発明の説明において「フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有する」とは、フルクトシルバリルヒスチジンを基質としたオキシダーゼ活性を少なくとも有すればよいが、好ましくは0.1U/mg‐protein以上を意味し、さらに好ましくは1.0U/mg‐protein以上を意味する。また、本発明にかかるタンパク質は、上記フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性に加えて、他の酵素活性(限定されないが、例えば、フルクトシルバリンに対するオキシダーゼ活性)をさらに有してよい。
上記本発明に用いることができるFAODタンパク質は、例えば、自然界から単離した当該タンパク質を産生する生物(例えば、細菌、酵母、昆虫、線虫、ゼブラフィッシュ、哺乳類など)を用いて生産されてもよい。つまり、本発明に用いることができるFAODタンパク質には、様々な生物種由来のタンパク質が包含される。また、本発明に用いることができるFAODタンパク質は、遺伝子組み換え技術を用いて生産されてもよいし、またはアミノ酸合成機などを用いて化学合成されてもよい。遺伝子組み換え技術において、
好適に用いられる各種組換えタンパク質発現系は、例えば、大腸菌発現系、昆虫細胞発現系、哺乳類細胞発現系、および無細胞発現系を用いてもよく、これらに限定されない。本発明に用いることができるFAODタンパク質等の製造方法については後述する。
また本発明に用いることができるFAODタンパク質等は、例えば、分子間架橋および/または分子内架橋(例えば、ジスルフィド結合など)が施されたもの、化学修飾(例えば、糖鎖、リン酸もしくはその他の官能基など)されたもの、標識(例えば、ヒスチジンタグ、Mycタグ、またはFlagタグなど)が付与されたもの、または融合タンパク質(例えば、ストレプトアビジン、シトクロム、GSTまたはGFPなど)を付与されたものなどが含まれるが、特にこれらに限定されない。さらに、本発明に用いることができるFAODタンパク質は、フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性が実質的に維持される限り、数種のタンパク質の断片を組み合わせて構成したキメラタンパク質も含み得る。
本発明に用いることができるFAODタンパク質と、血清タンパク質、有機酸、または、デキストランをはじめとする賦形剤等とからフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ剤を構成してもよい。上記フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ剤には、酵素剤の構成物品として公知の物品が含まれていてもよい。
[8−2]
<2.本発明に用いることができるFAODタンパク質をコードするポリヌクレオチド>
本発明に用いることができるFAODタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、以下の(IV)〜(VII)の何れかのポリヌクレオチドからなる、フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドである。
(IV)配列表の配列番号2に記載される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(V)配列番号2に記載される塩基配列において、1つ以上30以下の塩基が置換、欠失、挿入および/または付加された塩基配列からなり、且つフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(VI)本発明にかかるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(VII)上記(IV)から(VI)の何れかのポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、且つフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は、「遺伝子」、「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。ここで、ポリヌクレオチドは、DNAの形態(例えば、cDNAもしくはゲノムDNA)、またはRNA(例えば、mRNA)の形態で存在し得る。DNAまたはRNAは、二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖)であっても、非コード鎖(アンチセンス鎖)であってもよい。
また、本発明に用いることができるFAODタンパク質をコードするポリヌクレオチドは化学的に合成してもよく、コードするタンパク質の発現が向上するように、コドンユーセージ(Codon usage)を変更してもよい。勿論、同じアミノ酸をコードするコドン同士であれば置換することも可能である。
本発明に用いることができるFAODタンパク質をコードするポリヌクレオチドの作製方法としては特に限定されず、適宜公知の方法によって作製することが可能である。例えば、野生型のフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼをコードするポリヌクレオチド(配列番号2)に対して、必要に応じて適宜変異を導入することによって作製することが
可能である。また、化学合成法によって作製することも可能である。
本発明に用いることができるFAODタンパク質をコードするポリヌクレオチドを作製する方法としては、通常行われるポリヌクレオチド改変方法が用いられる。すなわち、タンパク質の遺伝情報を有するポリヌクレオチドの特定の塩基を置換、欠失、挿入および/または付加することで、所望の組換えタンパク質の遺伝情報を有するポリヌクレオチドを作製することができる。ポリヌクレオチドの塩基を変換する具体的な方法としては、例えば市販のキット(KOD−Plus Site−Directed Mutagenesis Kit;東洋紡績製,Transformer Site−Directed Mutagenesis Kit;Clonetech製,QuickChange Site Directed Mutagenesis Kit;Stratagene製など)の使用、またはポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)の利用が挙げられる。これらの方法は当業者に公知である。
本発明に用いることができるFAODタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、上記本発明にかかるタンパク質をコードしていればその塩基配列は特に限定されるものではない。よって本発明に用いることができるFAODタンパク質のアミノ酸配列に応じた塩基配列からなる全てのポリヌクレオチドが本発明に含まれる。
本発明に用いることができるFAODタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、当該ポリヌクレオチドを構成する塩基の一部が化学的に合成された塩基(いわゆる非天然型塩基を含む)で置換されたものでもよい。また、該ポリヌクレオチドが置換される部位は特に限定されず、置換後の塩基配列から発現するタンパク質が好適な性質を有していればよい。
本発明に用いることができるFAODタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、本発明に用いることができるFAODタンパク質をコードするポリヌクレオチドのみからなるものであってもよいが、その他の塩基配列が付加されていてもよい。付加される塩基配列としては、限定されないが、標識(例えば、ヒスチジンタグ、MycタグまたはFLAGタグなど)、融合タンパク質(例えば、ストレプトアビジン、シトクロム、GST、GFPまたはMBPなど)、プロモーター配列(例えば、酵母由来プロモーター配列、ファージ由来プロモーター配列または大腸菌由来プロモーター配列など)、およびシグナル配列(例えば、小胞体移行シグナル配列、および分泌配列など)をコードする塩基配列などが挙げられる。これらの塩基配列が付加される部位は特に限定されるものではなく、例えば、翻訳されるタンパク質のN末端であっても、C末端でもあってもよい。
また本発明に用いることができるFAODタンパク質をコードするポリヌクレオチドには、上記本発明に用いることができるFAODタンパク質をコードするポリヌクレオチド(例えば、配列番号2に示される塩基配列を有するポリヌクレオチド)、またはこれに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドも含まれる。
ここで、「ストリンジェントな条件」とは、相同性が高い核酸同士、例えば完全にマッチしたハイブリッドの融解温度(Tm値)から15℃、好ましくは10℃、更に好ましくは5℃低い温度までの範囲の温度でハイブリダイズする条件をいう。例えば、一般的なハイブリダイゼーション用緩衝液中で、68℃、20時間の条件でハイブリダイズする条件をいう。更に具体的には、上記ハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている周知の方法で行うことができる。
本発明に用いることができるFAODタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列は、Science, 214: 1205 (1981)に記載されたジデオキシ法により決定され得る。
本発明に用いることができるFAODタンパク質をコードするポリヌクレオチドの一例に関して、以下に更に詳細に説明するが、これに限定されるものではない。なお、本発明に用いることができるFAODタンパク質をコードするポリヌクレオチドには、以下に記載する置換のあらゆる組み合わせによって生じるポリヌクレオチドが包含される。
まず、本発明に用いることができるFAODタンパク質の一例である、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、アミノ末端から58番目のイソロイシンが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドについて説明する。
本発明に用いることができるFAODタンパク質をコードするポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、アミノ末端から58番目のイソロイシンが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドであることが好ましい。更に具体的には、配列番号2に示されるポリヌクレオチドにおいて、「att(172番目〜174番目)」がイソロイシン以外をコードするコドンに置換されたポリヌクレオチドであることが好ましい。
上記「att」を置換する具体的なコドンとしては特に限定されないが、例えば、メチオニン、トレオニン、アラニン、アスパラギン、セリン、バリン、または、ロイシンをコードするコドンであることが好ましい。更に具体的には、上記「att」は、「atg(メチオニンをコードするコドン)」、「acc(トレオニンをコードするコドン)」、「gct(アラニンをコードするコドン)」、「aac(アスパラギンをコードするコドン)」、「tcg(セリンをコードするコドン)」、「gtc(バリンをコードするコドン)」、または、「ctc(ロイシンをコードするコドン)」に置換されることが好ましいが、これらに限定されない。上記アミノ酸をコードする別のコドンに置換することも勿論可能である。
更に、本発明に用いることができるFAODタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、上記置換に加えて、配列番号1に示されるアミノ酸配列におけるアミノ末端から282番目のフェニルアラニンが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドであることが好ましい。更に具体的には、配列番号2に示されるポリヌクレオチドにおいて、「ttc(844番目〜846番目)」がフェニルアラニン以外をコードするコドンに置換されたポリヌクレオチドであることが好ましい。
上記「ttc」を置換する具体的なコドンとしては特に限定されないが、例えば、チロシンをコードするコドンであることが好ましい。更に具体的には、上記「ttc」は、「tat(チロシンをコードするコドン)」に置換されることが好ましいが、これに限定されない。上記「ttc」を、チロシンをコードする別のコドンに置換することも勿論可能である。
更に、本発明に用いることができるFAODタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、上記置換に加えて、配列番号1に示されるアミノ酸配列におけるアミノ末端から110番目のグリシンが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドであることが好ましい。更に具体的には、配列番号2に示されるポリヌクレオチドにおいて、「gga(328番目〜330番目)」がグリシン以外をコードするコドンに置換されたポリヌクレオチドであることが好ましい。
上記「gga」を置換する具体的なコドンとしては特に限定されないが、例えば、グルタミンをコードするコドンであることが好ましい。更に具体的には、上記「gga」は、「cag(グルタミンをコードするコドン)」に置換されることが好ましいが、これに限定されない。上記「gga」を、グルタミンをコードする別のコドンに置換することも勿論可能である。
次いで、本発明に用いることができるFAODタンパク質の一例である、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、アミノ末端から110番目のグリシンが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドについて説明する。
本発明に用いることができるFAODタンパク質をコードするポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、アミノ末端から110番目のグリシンが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドであることが好ましい。更に具体的には、配列番号2に示されるポリヌクレオチドにおいて、「gga(328番目〜330番目)」がグリシン以外をコードするコドンに置換されたポリヌクレオチドであることが好ましい。
上記「gga」を置換する具体的なコドンとしては特に限定されないが、例えば、トリプトファンおよびプロリン以外のアミノ酸をコードするコドンであることが好ましい。更に具体的には、グルタミン、メチオニン、グルタミン酸、トレオニン、アラニン、システイン、ヒスチジン、リシン、アスパラギン、アルギニン、セリン、バリン、ロイシン、アスパラギン酸、イソロイシン、チロシンまたはフェニルアラニンをコードするコドンであることが好ましい。更に具体的には、上記「gga」は、「acg(トレオニンをコードするコドン)」、「gcg(アラニンをコードするコドン)」、「gtg(バリンをコードするコドン)」、「ctg(ロイシンをコードするコドン)」、「att(イソロイシンをコードするコドン)」、「atg(メチオニンをコードするコドン)」、「ttc(フェニルアラニンをコードするコドン)」、「tcc(セリンをコードするコドン)」、「cag(グルタミンをコードするコドン)」、「tgt(システインをコードするコドン)」、「tac(チロシンをコードするコドン)」、「aac(アスパラギンをコードするコドン)」、「aag(リジンをコードするコドン)」、「cac(ヒスチジンをコードするコドン)」、「agg(アルギニンをコードするコドン)」、「gac(アスパラギン酸をコードするコドン)」、または「gag(グルタミン酸をコードするコドン)」に置換されることが好ましいが、これらに限定されない。上記アミノ酸(置換後のアミノ酸)をコードする別のコドンに置換することも勿論可能である。
更に、本発明に用いることができるFAODタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、上記置換に加えて、配列番号1に示されるアミノ酸配列におけるアミノ末端から282番目のフェニルアラニンが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドであることが好ましい。更に具体的には、配列番号2に示されるポリヌクレオチドにおいて、「ttc(844番目〜846番目)」がフェニルアラニン以外をコードするコドンに置換されたポリヌクレオチドであることが好ましい。
上記「ttc」を置換する具体的なコドンとしては特に限定されないが、例えば、チロシンをコードするコドンであることが好ましい。更に具体的には、上記「ttc」は、「tat(チロシンをコードするコドン)」に置換されることが好ましいが、これに限定されない。上記「ttc」を、チロシンをコードする別のコドンに置換することも勿論可能である。
[8−3]
<3.本発明に用いることができるFAODタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクター・該ベクターで形質転換された形質転換体>
本発明に用いることができるFAODタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターは、上記ポリヌクレオチドを含むものであれば、その他の構成は特に限定されるものではない。
該ベクターを構成するベースとなるベクターとしては、宿主に対して好適なベクターが適宜選択され得る。例えば、ベースとなるベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド、アデノウイルス、またはレトロウイルスなどを使用することが可能であるが、これらに限定されない。
該ベクターとしてプラスミドベクターを用いる場合、例えば、pBluescript(登録商標)、pUC18などが使用できる。この場合、ベクターが導入される宿主としては、例えば、酵母、大腸菌(エシェリヒア・コリーW3110(Escherichia coli)、エシェリヒア・コリーC600、エシェリヒア・コリーJM109、エシェリヒア・コリーDH5α)、昆虫細胞、哺乳類細胞などが利用可能である。
更に、具体的には、上記宿主として、大腸菌(例えば、Escherichia coliなど)等の細菌、酵母(例えば、出芽酵母Saccharomyces cerevisiae、分裂酵母Schizosaccharomyces pombeなど)、昆虫細胞、線虫(例えば、Caenorhabditis elegansなど)、アフリカツメガエル(例えば、Xenopus laevisなど)の卵母細胞、哺乳類細胞(例えば、CHO細胞、COS細胞、およびBowes黒色腫細胞)や各種ヒト培養細胞などを用いることが可能であるが、これらに限定されない。また、本明細書中で使用される場合、用語「形質転換体」には、細胞、組織または器官だけでなく、生物個体をも含まれる。
該べクターは、導入されるべき宿主に依存して、発現制御領域(例えば、プロモーター、ターミネーター、および/または複製起点等)を含有することが可能である。プロモーターとしては、ウイルス性プロモーター(例えば、SV40初期プロモーター、SV40後期プロモーター等)などが挙げられるが、これに限定されない。
上記ベクターは、少なくとも1つの選択マーカーを含むことが好ましい。このようなマーカーとしては、アンピシリン、ジヒドロ葉酸レダクターゼ、ネオマイシン耐性遺伝子などが挙げられる。上記選択マーカーを用いれば、本発明に用いることができるFAODタンパク質をコードするポリヌクレオチドが宿主に導入されたか否か、さらには宿主中で確実に発現しているか否かを確認することができる。
上記宿主に該ベクターを導入する方法としては特に限定されるものではないが、例えば、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。更に具体的には、エシェリヒア属に属する宿主微生物にベクターを導入する場合は、カルシウムイオンの存在下で組換えDNAを導入する方法や、エレクトロポレーション法を用いる方法が適用され得る。その他、市販のコンピテントセル(例えば、コンピテントハイJM109、コンピテントハイDH5α;東洋紡績製)を用いて遺伝子導入が行われても良い。
上記ベクターを構築するには、本発明にかかるポリヌクレオチド(遺伝子)を分離および精製した後、制限酵素処理などを用いて切断した該ポリヌクレオチドの断片と、ベースとなるベクターを制限酵素で切断して得た直鎖ポリヌクレオチドとを結合閉鎖させて構築することができる。結合閉鎖する際には、ベクターおよび該ポリヌクレオチドの性質に応じてDNAリガーゼなどが使用され得る。該ベクターを複製可能な宿主に導入した後、ベクターのマーカーおよび酵素活性の発現を指標としてスクリーニングして、上記ポリヌクレオチド(遺伝子)を含有する形質転換体を得ることができる。よって、該ベクターには
薬剤耐性遺伝子などのマーカー遺伝子が含まれていることが好ましい。
上記ベクターを用いて、該ベクターで形質転換された形質転換体を作製することができる。該ベクターによって形質転換される宿主は、特に限定されないが、上述したように酵母、大腸菌、昆虫細胞、および哺乳類細胞などが挙げられる。
[8−4]
<4.本発明に用いることができるFAODタンパク質の製造方法>
本発明に用いることができるFAODタンパク質の製造方法は、上記形質転換体を培養する工程(「培養工程」という)を含む。本発明に用いることができるFAODタンパク質の製造方法には、上記培養工程の他、形質転換体を用いたタンパク質生産において含まれ得るその他の工程が含まれていてもよい。その他の工程としては、例えば、培養工程後に、該形質転換体が生産したタンパク質を回収する工程や、当該タンパク質を精製する工程が挙げられる。
(4−1)培養工程
上記培養工程では、上記の形質転換体が栄養培地などで培養されることにより、多量の組換えタンパク質を安定して生産し得る。形質転換体の培養形態(培養方法、培養条件など)は、宿主の栄養生理的性質を考慮して選択すればよく、多くの場合は液体培養で行う。工業的には通気攪拌培養を行うのが有利である。
培養工程で用いられる栄養培地の栄養源としては、培養に通常用いられるものが広く使用されてよい。炭素源としては資化可能な炭素化合物であればよく、例えば、グルコース、シュークロース、ラクトース、マルトース、ラクトース、糖蜜、またはピルビン酸などが使用される。また、窒素源としては資化可能な窒素化合物であればよく、例えば、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、カゼイン加水分解物、または大豆粕アルカリ抽出物などが使用される。これらに加えて、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、鉄、マンガン、亜鉛などの塩類、特定のアミノ酸、特定のビタミンなどが必要に応じて培地に添加されてよい。
上記の形質転換体の培養温度は、当該形質転換体が本発明にかかるタンパク質を生産可能な範囲内であれば適宜変更し得るが、例えば、大腸菌(エシェリヒア・コリー)を宿主として利用する場合、好ましくは20〜42℃程度であり、より好ましくは20〜30℃である。当該温度範囲であれば、活性を有するタンパク質を多く生産することができる。
培養時間は、本発明にかかるタンパク質が最高収量に達する適当な時期に培養を完了すればよく、通常は6〜48時間程度である。培地のpHは本発明にかかる形質転換体が好適に発育し、且つ本発明にかかるタンパク質を生産可能な範囲内で適宜変更し得るが、好ましくはpH6.0〜9.0程度の範囲である。
(4−2)回収工程
回収工程では、上記培養工程中に形質転換体によって生産された、本発明に用いることができるFAODタンパク質が回収される。
上記形質転換体がタンパク質を細胞外に分泌する場合、その培養物には本発明に用いることができるFAODタンパク質が含まれている。よって培養物を本発明にかかるタンパク質としてそのまま利用することが可能である。この時、例えばろ過や遠心分離などにより、培養液と本発明にかかる形質転換体とを分離してもよい。
また本発明に用いることができるFAODタンパク質が形質転換体内に存在する場合、形質転換体を培養して得られた培養物から、ろ過または遠心分離などの手段を用いて形質転換体を採取し、該形質転換体を機械的方法またはリゾチームなどの酵素的方法で破壊後
、目的のタンパク質を回収すればよい。また、必要に応じて、キレート剤(例えば、EDTAなど)および界面活性剤(例えば、トリトン−X100など)を添加して本発明にかかるタンパク質を可溶化し、当該タンパク質を水溶液として分離採取してもよい。
(4−3)精製工程
精製工程は、上記回収工程によって得られたタンパク質を精製する工程である。
精製工程の具体的な方法は特に限定されるものではないが、例えば、本発明に用いることができるFAODタンパク質を含む溶液を、減圧濃縮、膜濃縮、塩析処理(例えば、硫酸アンモニウムまたは硫酸ナトリウムなどを用いる)、または親水性有機溶媒(例えばメタノール、エタノール、アセトンなど)による分別沈殿法に供すればよい。上記操作によって、目的である本発明に用いることができるFAODタンパク質を沈殿させ、精製することができる。
また、前記精製工程では、加熱処理、等電点処理、ゲルろ過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、またはこれらの組み合わせを用いて精製を行ってもよい。
上記手法を用いて得られた目的のタンパク質を含む精製酵素は、電気泳動(SDS−PAGE)を行えば単一のバンドを示す程度に純化されていることが好ましい。
上記の精製酵素は、例えば凍結乾燥、真空乾燥、またはスプレードライなどにより粉末化して流通させることが可能である。また、精製酵素を使用する際は、その用途によって適宜緩衝液に溶解した状態で使用することができる。緩衝液としては、例えば、ホウ酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、およびGOOD緩衝液などが目的のタンパク質の性質、および/または実験条件もしくは環境に応じて好適に選択されてよい。さらに、アミノ酸(例えば、グルタミン酸、グルタミン、またはリジンなど)、および血清アルブミンなどを精製酵素に添加することにより、タンパク質を安定化することができる。
[8−5]
次いで、具体的な参考例について例示する。
<1.活性測定試薬>
表1に参考例において使用した活性測定試薬の組成を示した。なお、参考例において使用した試薬は特記しない限り、ナカライテスク社より購入したものを用いた。
参考例におけるフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼの活性測定条件を以下に示した。
<2.活性測定法>
下記参考例1〜3における活性測定法を以下に説明する。
各基質に対する酵素活性は、酵素反応により生成する過酸化水素を追随するペルオキシダーゼ反応により生じた色素の吸光度の増加で測定した。活性測定試薬3mLを37℃で
5分間予備加温後、予め、酵素希釈液(50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5))で希釈した酵素溶液0.1mLを加え、反応を開始する。
37℃で5分間反応させ、500nmの吸光度変化を測定する(ΔODtest/min)。盲検では、酵素溶液の代わりに酵素希釈液0.1mLを加え、上記同様に操作を行って吸光度変化を測定した(ΔODblank/min)。得られた吸光度変化より、下記計算式に基づき酵素活性を算出した。尚、上記条件で1分間に1マイクロモルの基質を酸化する酵素量を1単位(U)とする。
−計算式−
活性値(U/mL)={ΔOD/min(ΔODtest−ΔODblank)×3.1(mL)×希釈倍率}/{13×1.0(cm)×0.1(mL)}
3.1(mL):全液量
13:ミリモル吸光係数
1.0cm:セルの光路長
0.1(mL):酵素サンプル液量
<3.参考例1:フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ遺伝子のクローニング>
Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼのcDNAクローニングを行うために、Phaeosphaeria nodorumのゲノムデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sutils/genom_table.cgi?organism=fungi&database=321614)を検索した。
ゲノムデータベースから、FAD依存オキシドレダクターゼ(FAD−dependent oxidoreductase)をコードすることが予測される遺伝子を抽出した。検索結果から得られた種々の遺伝子のうち、フルクトシルバリンに実質的に作用する酵素をコードする可能性を有するという観点からさらに絞り込みを行った結果、GenBank no. AAGI01000177 239512 bp Phaeosphaeria nodorum SN15 cont1.177, whole genome shotgun Sequence(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/viewer.fcgi?tool=portal&db=nuccore&term=&query%5Fkey=11&dopt=gb&dispmax=20&page=1&qty=1&WebEnv=0x3fThZQ1ubv2E4QUtcTFzS2yHOV3ljOuR6kUwGyNOVEiqCGdFac8yYAlfzZG%2DvpBxXqNrPNESW3skk%402644558678701720%5F0135SID&WebEnvRq=1)の75,143 bpから76,625 bpの配列に相当する遺伝子をクローニング候補遺伝子とした。
次に、上記クローニング候補遺伝子のcDNAについて、スプライシング部位(エキソン−イントロン)の予測ツール(http://www.fruitfly.org/seq_tools/splice.html)の使用や、既知の他の生物種のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ遺伝子との比較により、タンパク質をコードする部分に対応するcDNA全配列を推定した。この情報をもとに、定法である遺伝子断片のPCRによる全合成、すなわち全RNAの調製からmRNAの抽出を経て逆転写を行うことでcDNA全配列を合成した。前記のcDNAを、Blunting high(東洋紡績社製)を用いて末端の平滑化を行い、pUC118のSmaI部位へサブクローニングした。cDNA部分についてシーケンス解析を行った結果、配列番号2に示した塩基配列が得られた。配列番号2に示した塩基配列におけるcDNAのコーディング領域は1番目の塩基から1314番目の塩基であり、開始コドンは1番目の塩基から3番目の塩基、終止コドンTAGは1312番目の塩基から1314番目の塩基に相当する。配列番号2に示した塩基配列から明らかとなったアミノ酸配列は、配列番号1に示した。
なお、後述の参考例2及び3に示すように、得られたcDNAは、新規なフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼをコードするものであった。
<4.参考例2:フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ遺伝子の大腸菌での大量発現と精製、酵素アッセイ>
上記配列番号2に示した塩基配列を有するフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ遺伝子を含むプラスミドを作製し、大腸菌におけるフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼタンパク質の大量発現を試みた。
フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ遺伝子の終止コドンを除いた全長cDNA領域(配列番号2に示した塩基配列の1番目から1311番目の塩基まで)をPCRで増幅した。その際、アミノ酸配列のN末端側に配列番号3に示すプライマーP1(5’−GGAATTCCATATGGCGCCCTCCAGAGCAAACACCAGTGTCATT−3’)(上記塩基配列における「CATATG」はNdeI部位)を用いてNdeI切断部位を挿入し、C末端側に配列番号4に示すプライマーP2(5’−CCGCTCGAGCAAGTTCGCCCTCGGCTTATCATGATTCCAACC−3’)(上記塩基配列における「CTCGAG」はXhoI部位)を用いてXhoI切断部位を導入した。本DNA断片をpET−23bベクター(ノバジェン社)のNdeI−XhoI部位へT7プロモーターと正方向になるようにサブクローニングした。作製したプラスミドは、フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ発現用プラスミドとしてpIE353と命名した。
前記のプラスミドpIE353を用いて大腸菌BL21 CodonPlus(DE3)−RIL(ストラタジーン社)を形質転換した。その後、アンピシリン耐性を示す形質転換体BL21 CodonPlus(DE3)−RIL(pIE353)を選択した。
前記形質転換体の培養用の培地として、200mLのTB培地を容積2Lの坂口フラスコに分注し、121℃、20分間オートクレーブを行ったものを用いた。前記培地を放冷後、別途無菌濾過したアンピシリンを終濃度が100μg/mLになるように培地に添加した。この培地に100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地で予め30℃、16時間培養したBL21 CodonPlus(DE3)−RIL(pIE353)の培養液を2mL接種した。
続いて、30℃で24時間通気攪拌培養を行った。培養終了後、菌体を遠心分離により集菌し、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)に懸濁した後、細胞を超音波破砕した。
次に、前記懸濁液を遠心分離して、上清液を粗酵素液として得た。フルクトシルバリルヒスチジンを基質として含む酵素活性測定試薬を用いて測定した粗酵素液のフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性は、約1.0U/mLであった。得られた粗酵素液についてMagExtractor−His−tag−(東洋紡績製)を用いて、規定のプロトコールに従って精製し、精製酵素標品(IE353)を得た。本方法により得られたIE353標品は、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により、単一であることが確認された。
前記IE353標品の酵素活性を、フルクトシルバリルヒスチジンを基質として含む酵素活性測定試薬を用いて測定し、フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有することを確認した。
<5.参考例3:各フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼタンパク質の特性評価>
本発明にかかるフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ(IE353)、及び従来の酵素FPOX−CE及びFPOX−EE(ともにキッコーマン製)の、熱安定性、基質特異性及びフルクトシルバリルヒスチジン(FVH)に対するKm値を測定した結果を表2に示す。
熱安定性は50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)に各酵素を0.1mg/mLになるように調製し、50℃、10分間熱処理を行い、下記計算式により算出した。
熱安定性(%)=(50℃、10分熱処理後の活性値)÷(熱処理なし活性値)×100
基質特異性は各基質を10mMになるように調製して、前述した活性測定法を用い、下
記計算式により算出した。なお、下記式中で、FKは、酵素反応の基質としてのフルクトシルリジンを指す。また、当該式で定義される基質特異性の値が小さいほど、FVHに対する特異性に優れ、好ましいと判定される。
基質特異性(FK/FVH)=(FKを基質としたときの活性値)÷(FVHを基質としたときの活性値)
FVHに対するKm値はFVH濃度を1.75mM、0.88mM、0.58mM、0.35mM、0.25mM、0.18mMになるように試薬を調製し、それぞれを用いて前述した活性測定を実施し、ラインウィーバー・バークプロットより算出した。
表2の結果から明らかなように、IE353はFPOX―CE及びFPOX―EEと比較して熱安定性が高く、基質特異性に優れ、且つKm値も低いことがわかる。Km値が低いことは基質との親和性が高い、つまり低い基質濃度でも反応性が良いことを示している。よって、糖化タンパク質測定試薬におけるフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼの添加量を減らすことができる。
<6.活性測定方法>
以下の参考例4〜7、参考例1におけるFAODの活性測定方法を、以下に示す。
各基質に対するFAODの酵素活性は、酵素反応によって生成される過酸化水素を用いたペルオキシダーゼ反応により生じた色素の吸光度の増加を測定した。
まず、活性測定試薬3mLを37℃にて5分間加温した後、当該活性測定試薬に、予め酵素希釈液(0.1%トリトンX100を含む50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5))にて希釈した酵素溶液0.1mLを加え、反応を開始した。
37℃にて5分間反応させた後、単位時間あたりの500nmの吸光度変化を測定した(ΔODtest/min)。盲検としては、酵素溶液の代わりに酵素希釈液0.1mLを用い、同様の操作を行って吸光度変化を測定した(ΔODblank/min)。
下記計算式に基づいて、得られた吸光度変化から酵素活性を算出した。なお、上記条件下で1分間に1マイクロモルの基質を酸化する酵素量を1単位(U)と規定した。
−計算式−
活性値(U/mL)={((ΔODtest/min)−(ΔODblank/min))×3.1mL×希釈倍率}/(13×1.0cm×0.1mL)
なお、上記計算式において、「3.1mL」は全液量を示し、「13」はミリモル吸光係数を示し、「1.0cm」はセルの光路長を示し、「0.1mL」は酵素サンプル液量を示す。
<7.基質特異性評価方法>
以下の参考例4〜7、参考例1におけるFAODの基質特異性評価方法を、以下に説明する。
各基質(FK:フルクトシルリジン、FV:フルクトシルバリン、FVH:フルクトシルバリルヒスチジン)の濃度が2mMになるように活性測定試薬を調製し、上述した活性測定法に従って、下記計算式により活性値比(基質特異性)を算出した。
(FV/FVH)=(FVを基質としたときの活性値)÷(FVHを基質としたときの活性値)
(FK/FVH)=(FKを基質としたときの活性値)÷(FVHを基質としたときの活性値)
なお、当該式で定義される活性値比の値が小さいほど、FVHに対する特異性に優れ、好ましいと判定される。
<8.熱安定性評価方法>
以下の参考例4〜7、参考例1におけるFAODの熱安定性評価方法を、以下に説明する。
精製酵素標品を0.1mg/mLになるように50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)に溶解し、50℃にて10分間の加熱処理を施した。なお、後述する3重変異タンパク質では、加熱温度は55℃とした。そして、以下の計算式に基づいて、精製酵素標品の熱安定性(%)を算出した。
熱安定性(%)=[(50℃、10分間加熱処理後の活性値)/(加熱処理前の活性値)]×100
<9.参考例4:フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ遺伝子・タンパク質の改変>
配列番号1に示したアミノ酸配列の58番目のイソロイシンをランダムに他のアミノ酸に置換するために、プライマーR1およびプライマーR2を合成した。
・プライマーR1:5’−cttattgaggtcattgcctgcagattgcgatgaagg−3’(配列番号5)
・プライマーR2:5’−nnsatgggcgttagcttgcgaaacccagtggac−3’(配列番号6)
上記pIE353、プライマーR1、およびプライマーR2、およびKOD−Plus
Site−Directed Mutagenesis Kit(東洋紡績製)を用いて、上記58番目のイソロイシンに変異が導入された組換えプラスミドを作製した。当該組換えプラスミドを用いてBL21 CodonPlus(DE3)−RILを形質転換した後、アンピシリン耐性を示す100個のコロニーをピックアップした。100個のコロニーに導入されている100個の組換えプラスミドの塩基配列を確認したところ、配列番号1に示したアミノ酸配列の58番目のイソロイシンが19種類のアミノ酸の各々に置換されたプラスミドを取得することに成功した。
具体的には、配列番号1に示したアミノ酸配列の58番目をコードする塩基配列(att)がトレオニン(T)をコードする塩基配列(acc)に置換されたプラスミド(pIE353−I58T)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58Tと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の58番目をコードする塩基配列(att)がアラニン(A)をコードする塩基配列(gct)に置換されたプラスミド(pIE353−I58A)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58Aと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の58番目をコードする塩基配列(att)がバリン(V)をコードする塩基配列(gtc)に置換されたプラスミド(pIE353−I58V)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58Vと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の58番目をコードする塩基配列(att)がロイシン(L)をコードする塩基配列(ctc)に置換されたプラスミド(pIE353−I58L)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58Lと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の58番目をコードする塩基配列(att)が
メチオニン(M)をコードする塩基配列(atg)に置換されたプラスミド(pIE353−I58M)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58Mと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の58番目をコードする塩基配列(att)がフェニルアラニン(F)をコードする塩基配列(ttc)に置換されたプラスミド(pIE353−I58F)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58Fと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の58番目をコードする塩基配列(att)がセリン(S)をコードする塩基配列(tcg)に置換されたプラスミド(pIE353−I58S)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58Sと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の58番目をコードする塩基配列(att)がグルタミン(Q)をコードする塩基配列(caa)に置換されたプラスミド(pIE353−I58Q)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58Qと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の58番目をコードする塩基配列(att)がシステイン(C)をコードする塩基配列(tgc)に置換されたプラスミド(pIE353−I58C)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58Cと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の58番目をコードする塩基配列(att)がチロシン(Y)をコードする塩基配列(tac)に置換されたプラスミド(pIE353−I58Y)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58Yと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の58番目をコードする塩基配列(att)がアスパラギン(N)をコードする塩基配列(aac)に置換されたプラスミド(pIE353−I58N)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58Nと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の58番目をコードする塩基配列(att)がリジン(K)をコードする塩基配列(aag)に置換されたプラスミド(pIE353−I58K)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58Kと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の58番目をコードする塩基配列(att)がヒスチジン(H)をコードする塩基配列(cac)に置換されたプラスミド(pIE353−I58H)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58Hと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の58番目をコードする塩基配列(att)がアルギニン(R)をコードする塩基配列(cgc)に置換されたプラスミド(pIE353−I58R)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58Rと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の58番目をコードする塩基配列(att)がアスパラギン酸(D)をコードする塩基配列(gac)に置換されたプラスミド(pIE353−I58D)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58Dと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の58番目をコードする塩基配列(att)がグルタミン酸(E)をコードする塩基配列(gaa)に置換されたプラスミド(pIE353−I58E)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58Eと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の58番目をコードする塩基配列(att)がトリプトファン(W)をコードする塩基配列(tgg)に置換されたプラスミド(pIE353−I58W)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製
酵素標品を、IE353−I58Wと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の58番目をコードする塩基配列(att)がプロリン(P)をコードする塩基配列(ccc)に置換されたプラスミド(pIE353−I58P)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58Pと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の58番目をコードする塩基配列(att)がグリシン(G)をコードする塩基配列(gtt)に置換されたプラスミド(pIE353−I58G)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58Gと呼ぶ。
取得した各プラスミドを用いてBL21 CodonPlus(DE3)−RILを形質転換した後、アンピシリン耐性を示す形質転換体をそれぞれ選抜した。
上述した上記IE353の場合と同様に、各形質転換体を培養し、得られた粗酵素液から精製を行うことにより、それぞれの精製酵素標品(IE353−I58T、IE353−I58A、IE353−I58V、IE353−I58L、IE353−I58G、IE353−I58M、IE353−I58F、IE353−I58S、IE353−I58Q、IE353−I58C、IE353−I58Y、IE353−I58N、IE353−I58K、IE353−I58H、IE353−I58R、IE353−I58D、IE353−I58E、IE353−I58W、IE353−I58P)を得た。各精製酵素標品をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動にて分析し、各精製酵素標品が単一のタンパク質であることを確認した。
本明細書において、例えば「IE353−I58T」は、上記IE353標品(野生型)のN末端から58番目のアミノ酸がIからTに改変されたことを示す。改変箇所が複数の場合は、さらに「+」を介してそれぞれの改変内容を記載する。(例えば、「IE353−I58T+F282Y」などと記載する。
<10.参考例5:フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ変異タンパク質の特性評価>
まず、上述した活性測定方法にしたがって、野生型フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ(IE353)、および、19種類の精製酵素標品(IE353−I58T、IE353−I58A、IE353−I58V、IE353−I58L、IE353−I58G、IE353−I58M、IE353−I58F、IE353−I58S、IE353−I58Q、IE353−I58C、IE353−I58Y、IE353−I58N、IE353−I58K、IE353−I58H、IE353−I58R、IE353−I58D、IE353−I58E、IE353−I58W、IE353−I58P)の酵素活性を測定した。
上記精製酵素標品の中でフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するものは、IE353、IE353−I58T、IE353−I58M、IE353−I58S、IE353−I58V、IE353−I58A、IE353−I58N、およびIE353−I58Lであった。
これらの精製酵素標品に関して、上述した基質特異性評価方法および熱安定性評価方法に従って、更に基質特異性および熱安定性を評価した。その結果を、表3に示す。
熱安定性(%)は、野生型を1.00とした比に基づいても評価し、1.00よりも数値が上昇しているものを「熱安定性が向上している」と評価した。これによって、より客観的に熱安定性を評価することができる。
表3に示すように、配列番号1に示したアミノ酸配列の58番目のイソロイシンを他のアミノ酸(T、M、S、V、A,N、またはL)に置換した変異タンパク質は、野生型フルクトシルバリスヒスチジンオキシダーゼタンパク質と比較してFK/FVH、FV/FVHが低減すること、つまり基質特異性が向上していることが明らかになった。更に、58番目のイソロイシンをメチオニン(M)、アラニン(A)またはセリン(S)に置換した変異タンパク質は、野生型のタンパク質と比較して熱安定性も向上していることが明らかになった。
<11.参考例6:更なるアミノ酸置換を含むフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ変異タンパク質(2重変異タンパク質)、および当該変異タンパク質の特性評価>
配列番号1に示したアミノ酸配列の58番目のイソロシンの置換に加えて他のアミノ酸をも置換した場合に、当該変異タンパク質の特性がどのように変化するか検討した。
まず、配列番号1に示したアミノ酸配列の282番目のフェニルアラニンがチロシンに置換された変異タンパク質の発現プラスミドを作製した。以下に、当該発現プラスミドの作製方法を説明する。
配列番号1に示したアミノ酸配列の282番目のフェニルアラニンをチロシンに置換するために、プライマーY1およびプライマーY2を合成した。
・プライマーY1:5’−tatacgcgcttcaagatgcatcaaccctttggcg−3’(配列番号7)
・プライマーY2:5’−gccaggaaactcgtcgcagactttgatcacg−3’(配列番号8)
上記pIE353、プライマーY1、プライマーY2、およびKOD−Plus Site−Directed Mutagenesis Kit(東洋紡績製)を用いて、上記282番目のフェニルアラニンがチロシンに置換された組換えプラスミドを作製した。更に詳細には、配列番号1に示したアミノ酸配列の282番目のフェニルアラニンをコードする塩基配列(ttc)がチロシン(Y)をコードする塩基配列(tat)に置換された組換えプラスミド(pIE353−F282Y)を取得することに成功した。なお、後
述する表4に示すように、pIE353−F282Yから得られる精製酵素標品(IE353−F282Y)は、野生型のフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼと比較して、熱安定性が向上していた。
上記pIE353−F282Y、プライマーR1、およびプライマーR2、およびKOD−Plus Site−Directed Mutagenesis Kit(東洋紡績製)を用いて、282番目のアミノ酸であるフェニルアラニンからチロシンへの置換に加えて、更に58番目のイソロイシンが他のアミノ酸へ置換された変異タンパク質の発現プラスミドを作製した。なお、当該発現プラスミドの作製方法は、58番目のイソロイシンのみを置換したときと基本的に同じであるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
以上のようにして作製した発現プラスミドを用いて、表3に示す精製酵素標品と同様の方法にて各精製酵素標品を取得し、これらの精製酵素標品の基質特異性および熱安定性を評価した。その結果を、表4に示す。
表4の結果から明らかなように、IE353−F282Yに対して更に配列番号1に示したアミノ酸配列の58番目のイソロイシンを他のアミノ酸に置換した変異タンパク質も、改変前のフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼタンパク質(IE353−F282Y)と比較してFK/FVH、FV/FVHが低減していること、つまり基質特異性が向上していることが明らかになった。
また、熱安定性に関しては、好ましい特性が得られているものが多く得られた。例えば、置換したアミノ酸が特にM、Aの場合には、野生型と比較して熱安定性が大幅に向上していた。
<12.参考例7:更なるアミノ酸置換を含むフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ変異タンパク質(3重変異タンパク質)、および当該変異タンパク質の特性評価>
配列番号1に示したアミノ酸配列における58番目のイソロシンの置換、および282番目のフェニルアラニンの置換に加えて他のアミノ酸をも置換した場合に、当該変異タン
パク質の特性がどのように変化するか検討した。
まず、配列番号1に示したアミノ酸配列の282番目のフェニルアラニンがチロシンに置換されるとともに、110番目のグリシンがグルタミンに置換された変異タンパク質の発現プラスミドを作製した。以下に、当該発現プラスミドの作製方法を説明する。
配列番号1に示したアミノ酸配列の282番目のフェニルアラニンをチロシンに置換するために、プライマーQ1およびプライマーQ2を合成した。
・プライマーQ1:5’−taccaagctctcgtggacgcgggcttggat−3’(配列番号9)
・プライマーQ2:5’−cagtaccaagctctcgtggacgcgggctt−3’(配列番号10)
上記pIE353−F282Y、プライマーY1、プライマーY2、およびKOD−Plus Site−Directed Mutagenesis Kit(東洋紡績製)を用いて、上記282番目のフェニルアラニンがチロシンに置換されるとともに、110番目のグリシンがグルタミンに置換された組換えプラスミドを作製した。更に詳細には、配列番号1に示したアミノ酸配列の282番目のフェニルアラニンをコードする塩基配列(ttc)がチロシン(Y)をコードする塩基配列(tat)に置換されるとともに、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目のグリシンをコードする塩基配列(gga)がグルタミン(Q)をコードする塩基配列(cag)に置換された組換えプラスミド(pIE353−G110Q+F282Y)を取得しすることに成功した。
上記pIE353−G110Q+F282Y、プライマーR1、およびプライマーR2、およびKOD−Plus Site−Directed Mutagenesis Kit(東洋紡績製)を用いて、282番目のアミノ酸であるフェニルアラニンからチロシンへの置換および110番目のアミノ酸であるグリシンからグルタミンへの置換に加えて、更に58番目のイソロイシンが他のアミノ酸へ置換された変異タンパク質の発現プラスミドを作製した。なお、当該発現プラスミドの作製方法は、58番目のイソロイシンのみを置換したときと基本的に同じであるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
以上のようにして作製した発現プラスミドを用いて、表3に示す精製酵素標品と同様の方法にて各精製酵素標品を取得し、これらの精製酵素標品の基質特異性および熱安定性を評価した。その結果を、表5に示す。
また、ここで例示されているFAODの一部、および、FPOX−CEに関して、FVHに対するKm値を、FVH濃度を1.75mM、0.35mMになるように調製した試薬を用いて前述した活性測定を実施し、ラインウィーバー・バークプロットより算出した。
表5の結果から明らかなように、IE353−G110Q+F282Yに対して更に配列番号1に示すアミノ酸配列の58番目のイソロイシンを他のアミノ酸に置換した変異タンパク質も、改変前のフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼタンパク質(IE353−F282Y)と比較してFK/FVH、FV/FVHが低減していること、つまり基質特異性が向上していることが明らかになった。
また、置換したアミノ酸がVの場合、FVHに対するKm値が、FPOX−CEより大幅に低減していた。
また、置換したアミノ酸がM、A、Sの場合には、熱安定性も向上していることが明らかになった。よって、配列番号1に示したアミノ酸配列に更なる変異が導入されたフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ改変体に関しても、58番目のイソロイシンを他のアミノ酸に置換することによって基質特異性が向上することが明らかになった。
<13.参考例1:更なるアミノ酸置換を含むフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ変異タンパク質(3重変異タンパク質)、および当該変異タンパク質の特性評価>
上述した参考例10では110番目のグリシンをグルタミンに置換しているが、他のアミノ酸に置換した場合にも同様の効果があるか否かを検証した。更に具体的には、IE353−I58T+F282Yに対して、更に110番目のグリシンを他のアミノ酸に置換し、これらの精製酵素標品の基質特異性を調べた。
まず、配列番号1に示したアミノ酸配列の282番目のフェニルアラニンがチロシンに置換されるとともに、58番目のイソロイシンがトレオニンに置換された変異タンパク質の発現プラスミドを作製した。以下に、当該発現プラスミドの作製方法を説明する。
配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目のグリシンをランダムに他のアミノ酸に置換するために、プライマーR3およびプライマーR4を合成した。
・プライマーR3:5’−snnagacttcaggtctgcaatgtctttttc−3’(配列番号11)
・プライマーR4:5’−taccaagctctcgtggacgcgggcttggat−3’(配列番号12)
参考例9で取得した発現プラスミドpIE353−I58T+G110Q+F282Y、プライマーR3、プライマーR4、および、KOD−Plus Site−Directed Mutagenesis Kitを用いて、更に110番目のグリシンに変異が導入された組換えプラスミドを作製した。
当該組換えプラスミドを用いてBL21 CodonPlus(DE3)−RILを形質転換した後、アンピシリン耐性を示す100個のコロニーをピックアップした。100個のコロニーに導入されている100個の組換えプラスミドの塩基配列を確認したところ、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目のグリシンが19種類のアミノ酸(野生型も含む)の各々に置換されたプラスミドを取得することに成功した。
具体的には、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目をコードする塩基配列(gga)がアラニン(A)をコードする塩基配列(gcg)に置換されたプラスミド(pIE353−I58T+G110A+F282Y)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58T+G110A+F282Yと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目をコードする塩基配列(gga)がバリン(V)をコードする塩基配列(gtg)に置換されたプラスミド(pIE353−I58T+G110V+F282Y)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58T+G110V+F282Yと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目をコードする塩基配列(gga)がロイシン(L)をコードする塩基配列(ctg)に置換されたプラスミド(pIE353−I58T+G110L+F282Y)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58T+G110L+F282Yと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目をコードする塩基配列(gga)がメチオニン(M)をコードする塩基配列(atg)に置換されたプラスミド(pIE353−I58T+G110M+F282Y)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58T+G110M+F282Yと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目をコードする塩基配列(gga)がフェニルアラニン(F)をコードする塩基配列(ttc)に置換されたプラスミド(pIE353−I58T+G110F+F282Y)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58T+G110F+F282Yと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目をコードする塩基配列(gga)がセリン(S)をコードする塩基配列(tcc)に置換されたプラスミド(pIE353−I58T+G110S+F282Y)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58T+G110S+F282Yと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目をコードする塩基配列(gga)がトレオニン(T)をコードする塩基配列(acg)に置換されたプラスミド(pIE353−I58T+G110T+F282Y)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58T+G110T+F282Yと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目をコードする塩基配列(gga)がシステイン(C)をコードする塩基配列(tgt)に置換されたプラスミド(pIE353−I58T+G110C+F282Y)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58T+G110C+F282Yと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目をコードする塩基配列(gga)
がチロシン(Y)をコードする塩基配列(tac)に置換されたプラスミド(pIE353−I58T+G110Y+F282Y)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58T+G110Y+F282Yと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目をコードする塩基配列(gga)がアスパラギン(N)をコードする塩基配列(aac)に置換されたプラスミド(pIE353−I58T+G110N+F282Y)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58T+G110N+F282Yと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目をコードする塩基配列(gga)がリジン(K)をコードする塩基配列(aag)に置換されたプラスミド(pIE353−I58T+G110K+F282Y)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58T+G110K+F282Yと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目をコードする塩基配列(gga)がヒスチジン(H)をコードする塩基配列(cac)に置換されたプラスミド(pIE353−I58T+G110H+F282Y)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58T+G110H+F282Yと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目をコードする塩基配列(gga)がアルギニン(R)をコードする塩基配列(agg)に置換されたプラスミド(pIE353−I58T+G110R+F282Y)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58T+G110R+F282Yと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目をコードする塩基配列(gga)がアスパラギン酸(D)をコードする塩基配列(gac)に置換されたプラスミド(pIE353−I58T+G110D+F282Y)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58T+G110D+F282Yと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目をコードする塩基配列(gga)がグルタミン酸(E)をコードする塩基配列(gag)に置換されたプラスミド(pIE353−I58T+G110E+F282Y)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58T+G110E+F282Yと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目をコードする塩基配列(gga)がトリプトファン(W)をコードする塩基配列(tgg)に置換されたプラスミド(pIE353−I58T+G110W+F282Y)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58T+G110W+F282Yと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目をコードする塩基配列(gga)がプロリン(P)をコードする塩基配列(ccc)に置換されたプラスミド(pIE353−I58T+G110P+F282Y)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58T+G110P+F282Yと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目をコードする塩基配列(gga)がイソロイシン(I)をコードする塩基配列(att)に置換されたプラスミド(pIE353−I58T+G110I+F282Y)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−I58T+G110I+F282Yと呼ぶ。
上記精製酵素標品の中でフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するもの
は、IE353−I58T+G110Q+F282Y、IE353−I58T+G110V+F282Y、IE353−I58T+G110L+F282Y、IE353−I58T+G110I+F282Y、IE353−I58T+G110M+F282Y、IE353−I58T+G110F+F282Y、IE353−I58T+G110S+F282Y、IE353−I58T+G110T+F282Y、IE353−I58T+G110Y+F282Y、IE353−I58T+G110N+F282Y、IE353−I58T+G110H+F282Y、IE353−I58T+G110R+F282Y、IE353−I58T+G110E+F282Y、IE353−I58T+G110K+F282Y、および、IE353−I58T+G110D+F282Yであった。これらの精製酵素標品に関して基質特異性を評価した。その結果を、表6に示す。
表6の結果から明らかなように、IE353−I58T+F282Yに対して更に配列番号1に示すアミノ酸配列の110番目のグリシンを他のアミノ酸に置換した変異タンパク質はIE353−I58T+G110Q+F282Yと同様にFV/FVHが低減していること、つまり基質特異性が向上していることが明らかになった。
<14.活性測定方法>
以下の参考例8〜10におけるFAODの活性測定方法を、以下に示す。
各基質に対するFAODの酵素活性は、酵素反応によって生成される過酸化水素を用いたペルオキシダーゼ反応により生じた色素の吸光度の増加を測定することによって求めた。
まず、活性測定試薬3mLを37℃にて5分間加温した後、当該活性測定試薬に、予め酵素希釈液(0.1%トリトンX100を含む50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5))にて希釈した酵素溶液0.1mLを加え、反応を開始した。
37℃にて5分間反応させた後、単位時間あたりの500nmの吸光度変化を測定した(ΔODtest/min)。盲検としては、酵素溶液の代わりに酵素希釈液0.1mLを用い、同様の操作を行って吸光度変化を測定した(ΔODblank/min)。
下記計算式に基づいて、得られた吸光度変化から酵素活性を算出した。なお、上記条件下で1分間に1マイクロモルの基質を酸化する酵素量を1単位(U)と規定した。
(計算式)
活性値(U/mL)={((ΔODtest/min)−(ΔODblank/min))×3.1mL×希釈倍率}/(13×1.0cm×0.1mL)
なお、上記計算式において、「3.1mL」は全液量を示し、「13」はミリモル吸光係数を示し、「1.0cm」はセルの光路長を示し、「0.1mL」は酵素サンプル液量を示す。
<15.比活性の算出方法>
以下の参考例8〜10における比活性は、精製酵素標品の活性値(U/mL)と、280nmにおける吸光度(A280)とに基づいて、以下計算式にて算出した。
(計算式)
比活性(U/A280)=活性値(U/mL)/A280(Abs)
なお、比活性の値が高いほど好ましいと判定される。
<16.Km評価方法>
以下の参考例8〜10におけるKm評価方法について、以下に説明する。
基質であるフルクトシルバリルヒスチジンの濃度が1.75mMまたは0.35mMに調製された活性測定試薬を調製した。
上述した活性測定法にしたがって、各活性測定試薬を用いた場合の精製酵素標品の活性値を求めた。次いで、下記計算式に基づいてKm評価を行った。
(計算式)
Km評価=基質濃度0.35mMでの活性値(U/mL)/基質濃度1.75mMでの活性値(U/mL)
また、FVHに対するKm値を、FVH濃度を1.75mM、0.35mMになるように調製した試薬を用いて前述した活性測定を実施し、ラインウィーバー・バークプロットより算出した。
なお、Km評価の値が小さいほど、Km値(Michaelis定数)が低減する。

<17.基質特異性評価方法>
以下の参考例8〜10におけるFAODの基質特異性評価方法を、以下に説明する。
各基質(FK:フルクトシルリジン、FV:フルクトシルバリン、FVH:フルクトシルバリルヒスチジン)の濃度が2mMになるように活性測定試薬を調製し、上述した活性測定法に従って活性値を算出し、下記計算式により活性値比(基質特異性)を算出した。つまり、
(FV/FVH)=(FVを基質としたときの活性値)/(FVHを基質としたときの活性値)
(FK/FVH)=(FKを基質としたときの活性値)/(FVHを基質としたときの活性値)
なお、当該計算式で定義される活性値比の値が小さいほど、FVHに対する特異性に優れ、好ましいと判定される。
<18.熱安定性評価方法>
以下の参考例8〜10におけるFAODの熱安定性評価方法を、以下に説明する。
精製酵素標品を0.1mg/mLになるように50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)に溶解し、50℃にて10分間の加熱処理を施した。そして、以下の計算式に基づいて、精製酵素標品の熱安定性(%)を算出した。つまり、
熱安定性(%)=[(50℃、10分間加熱処理後の活性値)/(加熱処理前の活性値)]×100
なお、当該計算式で定義される熱安定性の値が高いほど、熱安定性に優れ、好ましいと判定される。
<19.参考例8:フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ遺伝子・タンパク質の改変>
配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目のグリシンをランダムに他のアミノ酸に置換するために、プライマーR3およびプライマーR4を合成した。
・プライマーR3:5’−snnagacttcaggtctgcaatgtctttttc−3’(配列番号11)
・プライマーR4:5’−taccaagctctcgtggacgcgggcttggat−3’(配列番号12)
上記pIE353、プライマーR3、およびプライマーR4、およびKOD−Plus
Site−Directed Mutagenesis Kit(東洋紡績製)を用いて、上記110番目のグリシンに変異が導入された組換えプラスミドを作製した。当該組換えプラスミドを用いてBL21 CodonPlus(DE3)−RILを形質転換した後、アンピシリン耐性を示す100個のコロニーをピックアップした。100個のコロニーに導入されている100個の組換えプラスミドの塩基配列を確認したところ、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目のグリシンが19種類のアミノ酸(野生型のグリシンを除く)の各々に置換されたプラスミドを取得することに成功した。
具体的には、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目のグリシンをコードする塩基配列(gga)がトレオニン(T)をコードする塩基配列(acg)に置換されたプラスミド(pIE353−G110T)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−G110Tと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目のグリシンをコードする塩基配列(gga)がアラニン(A)をコードする塩基配列(gcg)に置換されたプラスミド(pIE353−G110A)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−G110Aと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目のグリシンをコードする塩基配列(gga)がバリン(V)をコードする塩基配列(gtg)に置換されたプラスミド(pIE353−G110V)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−G110Vと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目のグリシンをコードする塩基配列(gga)がロイシン(L)をコードする塩基配列(ctg)に置換されたプラスミド(pIE353−G110L)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−G110Lと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目のグリシンをコードする塩基配列(gga)がイソロイシン(I)をコードする塩基配列(att)に置換されたプラスミド(pIE353−G110I)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−G110Iと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目のグリシンをコードする塩基配列(gga)がメチオニン(M)をコードする塩基配列(atg)に置換されたプラスミド(pIE353−G110M)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−G110Mと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目のグリシンをコードする塩基配列(gga)がフェニルアラニン(F)をコードする塩基配列(ttc)に置換されたプラスミド(pIE353−G110F)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−G110Fと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目のグリシンをコードする塩基配列(gga)がセリン(S)をコードする塩基配列(tcc)に置換されたプラスミド(pIE353−G110S)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られ
る精製酵素標品を、IE353−G110Sと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目のグリシンをコードする塩基配列(gga)がグルタミン(Q)をコードする塩基配列(cag)に置換されたプラスミド(pIE353−G110Q)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−G110Qと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目のグリシンをコードする塩基配列(gga)がシステイン(C)をコードする塩基配列(tgt)に置換されたプラスミド(pIE353−G110C)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−G110Cと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目のグリシンをコードする塩基配列(gga)がチロシン(Y)をコードする塩基配列(tac)に置換されたプラスミド(pIE353−G110Y)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−G110Yと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目のグリシンをコードする塩基配列(gga)がアスパラギン(N)をコードする塩基配列(aac)に置換されたプラスミド(pIE353−G110N)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−G110Nと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目のグリシンをコードする塩基配列(gga)がリジン(K)をコードする塩基配列(aag)に置換されたプラスミド(pIE353−G110K)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−G110Kと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目のグリシンをコードする塩基配列(gga)がヒスチジン(H)をコードする塩基配列(cac)に置換されたプラスミド(pIE353−G110H)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−G110Hと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目のグリシンをコードする塩基配列(gga)がアルギニン(R)をコードする塩基配列(agg)に置換されたプラスミド(pIE353−G110R)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−G110Rと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目のグリシンをコードする塩基配列(gga)がアスパラギン酸(D)をコードする塩基配列(gac)に置換されたプラスミド(pIE353−G110D)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−G110Dと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目のグリシンをコードする塩基配列(gga)がグルタミン酸(E)をコードする塩基配列(gag)に置換されたプラスミド(pIE353−G110E)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−G110Eと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目のグリシンをコードする塩基配列(gga)がトリプトファン(W)をコードする塩基配列(tgg)に置換されたプラスミド(pIE353−G110W)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−G110Wと呼ぶ。
また、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目のグリシンをコードする塩基配列(gga)がプロリン(P)をコードする塩基配列(ccc)に置換されたプラスミド(pIE353−G110P)を取得することに成功した。なお、当該プラスミドから得られる精製酵素標品を、IE353−G110Pと呼ぶ。
取得した各プラスミドを用いてBL21 CodonPlus(DE3)−RILを形質転換した後、アンピシリン耐性を示す形質転換体をそれぞれ選抜した。
上述した上記IE353の場合と同様に、各形質転換体を培養し、得られた粗酵素液から精製を行うことにより、それぞれの精製酵素標品(IE353−G110Q、IE353−G110A、IE353−G110V、IE353−G110L、IE353−G110I、IE353−G110M、IE353−G110F、IE353−G110S、IE353−G110T、IE353−G110C、IE353−G110Y、IE353−G110N、IE353−G110K、IE353−G110H、IE353−G110R、IE353−G110D、IE353−G110E、IE353−G110W、IE353−G110P)を得た。
各精製酵素標品をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動にて分析し、各精製酵素標品が単一のタンパク質であることを確認した。
<20.参考例9:フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ変異タンパク質の特性評価>
まず、上述した活性測定方法(基質としては、フルクトシルバリルヒスチジンを用いた)にしたがって、野生型フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ(IE353)、および、19種類の精製酵素標品(IE353−G110Q、IE353−G110A、IE353−G110V、IE353−G110L、IE353−G110I、IE353−G110M、IE353−G110F、IE353−G110S、IE353−G110T、IE353−G110C、IE353−G110Y、IE353−G110N、IE353−G110K、IE353−G110H、IE353−G110R、IE353−G110D、IE353−G110E、IE353−G110W、IE353−G110P)の酵素活性を測定した。
IE353−G110Pはフルクトシルバリルヒスチジン活性が検出できなかったため、その他の精製酵素標品に関して、熱安定性、比活性、Km値、および基質特異性に関する評価を実施した。その結果を、表7に示す。なお、表7において「Xのアミノ酸」とは、110番目のグリシンが置換されたアミノ酸(換言すれば、IE353−G110XにおけるX)を示す。
表7の結果から明らかなように、配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目のグリシンを他のアミノ酸に置換した変異体は、IE353−G110Wを除き、野生型(IE353)と比較して熱安定性が向上していた。
また、比活性、Km評価、基質特異性(FK/FVH、FV/FVH)に関しても、好ましい特性を有する改変タンパク質が存在することも明らかになった。例えば、置換したアミノ酸がグルタミン酸(E)の場合、比活性が約2.5倍上昇し、基質特異性も向上している。よって、110番目のグリシンを他のアミノ酸に置換することにより熱安定性のみならず、他の特性も向上するものが得られることが明らかになった。
FVHに対するKm値は、いずれの場合も、参考例7で測定したFPOX−CEより大幅に低減していた。
<21.参考例10:更なるアミノ酸置換を含むフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ変異タンパク質(2重変異タンパク質)、および当該変異タンパク質の特性評価>
配列番号1に示したアミノ酸配列の110番目のグリシンの置換に加えて他のアミノ酸をも置換した場合に、当該変異タンパク質の特性がどのように変化するか検討した。
まず、配列番号1に示したアミノ酸配列の282番目のフェニルアラニンがチロシンに置換された変異タンパク質の発現プラスミドを作製した。以下に、当該発現プラスミドの作製方法を説明する。
配列番号1に示したアミノ酸配列の282番目のフェニルアラニンをチロシンに置換するために、プライマーY1およびプライマーY2を合成した。
・プライマーY1:5’−tatacgcgcttcaagatgcatcaaccctttggcg−3’(配列番号7)
・プライマーY2:5’−gccaggaaactcgtcgcagactttgatcacg−3’(配列番号8)
上記pIE353、プライマーY1、プライマーY2、およびKOD−Plus Site−Directed Mutagenesis Kit(東洋紡績製)を用いて、上記282番目のフェニルアラニンがチロシンに置換された組換えプラスミドを作製した。更に詳細には、配列番号1に示したアミノ酸配列の282番目のフェニルアラニンをコードする塩基配列(ttc)がチロシン(Y)をコードする塩基配列(tat)に置換された組換えプラスミド(pIE353−F282Y)を取得することに成功した。
上述した各種精製酵素標品と同様の方法にて、所望の精製酵素標品(IE353−F282Y)を得た。
下記表8に示すように、pIE353−F282Yから得られる精製酵素標品(IE353−F282Y)は、野生型のフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ(IE353)と比較して、熱安定性が向上していた。
上記pIE353−F282Y、プライマーR3、およびプライマーR4、およびKOD−Plus Site−Directed Mutagenesis Kit(東洋紡績製)を用いて、282番目のアミノ酸であるフェニルアラニンからチロシンへの置換に加えて、更に110番目のグリシンが他のアミノ酸へ置換された変異タンパク質の発現プラスミドを作製した。なお、当該発現プラスミドの作製方法は、110番目のグリシンのみを置換したときと基本的に同じであるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
以上のようにして作製した発現プラスミドを用いて、表7に示す精製酵素標品と同様の方法にて各精製酵素標品を取得し、これらの精製酵素標品の特性を評価した。なお、IE353−G110P+F282Yはフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性が検出できなかったので、その他の精製酵素標品に関して、その特性を評価した。その結果を、表9に示す。なお、表9において「Xのアミノ酸」とは、110番目のグリシンが置換されたアミノ酸(換言すれば、IE353−G110X+F282YにおけるX)を示す。
表9の結果から明らかなように、IE353−F282Yに対して更に110番目のグリシンを他のアミノ酸に置換しても、熱安定性が向上していることが明らかになった。
また、比活性、Km評価、基質特異性(FK/FVH、FV/FVH)に関しても、好ましい特性が得られているものもある。
よって、配列番号1に示されるアミノ酸配列における110番目のグリシン以外のアミノ酸に対して変異が導入されたものに関しても、更に110番目のグリシンを他のアミノ酸に置換することによって熱安定性を向上させることが可能であることが明らかになった
FVHに対するKm値は、いずれの場合も、参考例7で測定したFPOX−CEより大幅に低減していた。
本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
本発明により、よりシンプルで正確性の高いHbA1cの測定方法を構築することができる。本発明は、予防医学に基づく臨床検査分野、診断医療分野、製薬分野および保健医学分野をはじめ、生命科学分野の産業に広く利用することができる。

Claims (10)

  1. 以下の(1)および(2)の反応工程を含み、さらに(5)の工程を含む、ヘモグロビンA1c測定方法。
    (1)糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端からフルクトシルバリルヒスチジンを切り出す能力を有するプロテアーゼにより、糖化タンパク質を糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドに断片化する反応
    (2)断片化されたフルクトシルバリルヒスチジンに反応し、かつ、以下の(a)および(b)に示す特性を満たすフルクトシルアミノ酸オキシダーゼが、該フルクトシルバリルヒスチジンと酸化還元反応を行い、発生した過酸化水素または酸素を定量する反応
    (a)フルクトシルリジンに対する反応性がフルクトシルバリルヒスチジンに対する反応性の30%以下であること。
    (b)フルクトシルバリルヒスチジンに対するKm値が0.9mM以下であること。
    (5)フルクトシルアミノ酸オキシダーゼを含む第一試薬およびプロテアーゼを含む第二試薬の2種類の試薬を用意し、
    ここで、第二試薬は、第一試薬と合わせることによって、前記(1)および(2)の反応工程に必要な物質を全て含むよう構成されており、
    まず、測定対象物と第一試薬とを混合させ、
    次いで、前記の測定対象物と第一試薬との混合物に、さらに第二試薬を混合させることにより(1)および(2)の反応工程を開始させる。
  2. 請求項1に記載のヘモグロビンA1c測定方法において、
    第一試薬は、以下の(3)および(4)の反応工程に必要な物質を全て含み、
    まず、測定対象物と第一試薬とを混合することにより(3)および(4)の反応工程を開始させる工程を含むヘモグロビンA1c測定方法。
    (3)フルクトシルアミノ酸オキシダーゼが、測定対象物中に存在する遊離の糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドと酸化還元反応を行い、過酸化水素を発生させる反応。
    (4)発生した過酸化水素を、(1)および(2)の反応工程に影響を与えないように変化させる反応。
  3. 請求項2に記載のヘモグロビンA1c測定方法において、プロテアーゼを添加してから反応タイムコースがエンドになるまでの時間が5分以下である、ヘモグロビンA1c測定方法。
  4. 請求項2に記載のヘモグロビンA1c測定方法において、プロテアーゼを添加してから反応タイムコースがエンドになるまでの時間が2.5分以下である、ヘモグロビンA1c測定方法。
  5. 請求項2に記載のヘモグロビンA1c測定方法において、プロテアーゼを添加してから反応タイムコースがエンドになるまでの時間が1分以下である、ヘモグロビンA1c測定方法。
  6. 請求項1ないし5のいずれかに記載のヘモグロビンA1c測定方法において、ヘモグロビンA1cの測定が行われている間のいずれかの時点で、ヘモグロビンが本来有している色の吸光度、または、ヘモグロビンが酸化した物質の吸光度を測定することにより、ヘモグロビンの測定を行う、ヘモグロビンとヘモグロビンA1cとを同時に測定する方法。
  7. 請求項1ないし6のいずれかに記載のヘモグロビンA1c測定方法において、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼが、以下の(I)または(II)に記載のフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質である、ヘモグロビンA1c測定方法。
    (I)配列番号1に記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
    (II)配列番号1に記載されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ、下記の(a)から(c)に示す特性を全て有する、フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質。
    (a)FVHに反応する。
    (b)FKに対する反応性がFVHに対する反応性の30%以下である。
    (c)FVHに対するKm値が0.9mM以下である。
  8. 請求項7に記載のヘモグロビンA1c測定方法において、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼが、(II)に記載のタンパク質であって、アミノ末端から58番目のイソロイシン、アミノ末端から110番目のグリシンおよびアミノ末端から282番目のフェニルアラニンのうち少なくとも1箇所以上が他のアミノ酸に置換されているタンパク質である、ヘモグロビンA1c測定方法。
  9. 請求項7に記載のヘモグロビンA1c測定方法において、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼの熱安定性が、以下の(x)または(y)のいずれかである、ヘモグロビンA1c測定方法。
    (x)50℃10分処理後の酵素残存活性が70%以上である。
    (y)55℃10分処理後の酵素残存活性が20%以上である。
  10. 請求項7に記載のヘモグロビンA1c測定方法において、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼの「フルクトシルバリンに対する反応性の、フルクトシルバリルヒスチジンに対する反応性に対する比率」が5.0以下である、ヘモグロビンA1c測定方法。
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