JP6363327B2 - 改変アマドリアーゼ - Google Patents

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本発明は、改変アマドリアーゼ、その遺伝子および組み換え体DNA、並びに糖化アミノ酸への作用が改変されたアマドリアーゼの製造法に関する。
糖化蛋白質は、グルコースなどのアルドース(アルデヒド基を潜在的に有する単糖およびその誘導体)のアルデヒド基と、蛋白質のアミノ基が非酵素的に共有結合を形成し、アマドリ転移することにより生成したものである。蛋白質のアミノ基としてはアミノ末端のαアミノ基、蛋白質中のリジン残基側鎖のεアミノ基が挙げられる。生体内で生じる糖化蛋白質としては血液中のヘモグロビンが糖化された糖化ヘモグロビン、アルブミンが糖化された糖化アルブミンなどが知られている。
これら生体内で生じる糖化蛋白質の中でも、糖尿病の臨床診断分野において、糖尿病患者の診断や症状管理のための重要な血糖コントロールマーカーとして、糖化ヘモグロビン(HbA1c)が注目されている。ヘモグロビンはαサブユニット(以降α鎖と表記)2分子とβサブユニット(以降β鎖と表記)2分子の計4分子のサブユニットから構成される蛋白質であり、β鎖のアミノ末端が糖化されたヘモグロビンはHbA1cと称されている。血液中のHbA1c濃度は過去の一定期間の平均血糖値を反映しており、その測定値は糖尿病の症状の診断や管理において重要な指標となっている。
このHbA1cを迅速かつ簡便に測定する方法として、アマドリアーゼを用いる酵素的方法、すなわち、HbA1cをプロテアーゼ等で分解し、そのβ鎖アミノ末端より遊離させたα−フルクトシルバリルヒスチジン(以降αFVHと表す)、若しくはα−フルクトシルバリン(以降αFVと表す)を定量する方法が提案されている(例えば、特許文献1〜7参照)。
実際には、HbA1cからαFVを切り出す方法では、夾雑物等による影響が大きく、定量性が低いと考えられている。そのため、現在では特定のプロテアーゼを用いてHbA1cのβ鎖からαFVHを遊離させ、それを定量することによりHbA1cを測定する方法が主流となっている。
アマドリアーゼは、酸素の存在下で、イミノ2酢酸若しくはその誘導体(「アマドリ化合物」ともいう)を酸化して、グリオキシル酸若しくはα−ケトアルデヒド、アミノ酸若しくはペプチド、および過酸化水素を生成する反応を触媒する。
アマドリアーゼは、細菌、酵母、真菌から見出されているが、特にHbA1cの測定に有用である、αFVHおよび/またはαFVに対する酵素活性を有するアマドリアーゼとしては、例えば、コニオカエタ(Coniochaeta)属、ユーペニシリウム(Eupenicillium)属、ピレノケータ(Pyrenochaeta)属、アルスリニウム(Arthrinium)属、カーブラリア(Curvularia)属、ネオコスモスポラ(Neocosmospora)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、フェオスフェリア(Phaeosphaeria)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、エメリセラ(Emericella)属、ウロクラディウム(Ulocladium)属、ペニシリウム(Penicillium)属、フザリウム(Fusarium)属、アカエトミエラ(Achaetomiella)属、アカエトミウム(Achaetomium)属、シエラビア(Thielavia)属、カエトミウム(Chaetomium)属、ゲラシノスポラ(Gelasinospora)属、ミクロアスカス(Microascus)属、レプトスフェリア(Leptosphaeria)属、オフィオボラス(Ophiobolus)属、プレオスポラ(Pleospora)属、コニオケチジウム(Coniochaetidium)属、ピチア(Pichia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、アルスロバクター(Arthrobacter)属由来のアマドリアーゼが報告されている(例えば、特許文献1、6〜16、非特許文献1〜9参照)。なお、上記報告例の中で、アマドリアーゼは、文献によってはケトアミンオキシダーゼやフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ、フルクトシルペプチドオキシダーゼ、フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ、フルクトシルアミンオキシダーゼ等の表現で記載されている場合もある。
酵素的方法によるHbA1cの測定においては、アマドリアーゼの性質として厳密な基質特異性が要求される。例えば、先述の様に、特定のプロテアーゼにより遊離されたαFVHを定量することによりHbA1cの測定を実施する場合には、検体中に遊離状態で存在する、および/または、プロテアーゼ等を用いたHbA1cの処理工程において遊離される、αFVH以外の糖化アミノ酸や糖化ペプチドには作用し難いアマドリアーゼを用いることが望ましい。また、ヘモグロビン分子中に含まれるリジン残基側鎖のε位のアミノ基は糖化を受けることが知られており、この糖化を受けたリジン残基に由来する、ε位のアミノ基が糖化されたε−フルクトシルリジン(以降εFKと表す)が、プロテアーゼ処理等によって遊離されることが示唆されている(非特許文献10参照)。
実際、現在実用化されているHbA1c測定法として、測定用のサンプルとして全血を利用するキットが存在しているが、全血中には、HbA1cのβ鎖アミノ末端に由来するαFVH以外にも、種々の糖化アミノ酸が存在していることが示唆されている(特許文献17参照)。このような現象は、例えば、特に高カロリーアミノ酸輸液が投与された患者で多く発生し、同様の現象が糖化アルブミンの測定においても正誤差を生じ得ることが報告されている(非特許文献11〜13参照)。この現象は、高カロリーアミノ酸輸液によって、高濃度の糖およびアミノ酸が体内に補充された結果、血中もしくは輸液バッグ中で遊離の糖化アミノ酸または糖化ペプチドが生成し、これを測り込んでしまうために、測定値が異常に高値となるものと考えられている。
具体的に、高カロリー輸液にどの程度のアミノ酸および糖が含まれているかというと、例えば、アミノトリパ(登録商標)1号輸液(大塚製薬工場社製)中には、L−ロイシンが31.4mM、L−アラニンが26.4mM、グリシンが23.1mM、L−バリンが20.1mM、L−イソロイシンが17.9mM、グルコースが521mM含有されている。また、ユニカリック(登録商標)N輸液(テルモ社製)中には、L−ロイシンが30.9mM、L−アラニンが29.0mM、グリシンが22.0mM、L−バリンが23.0mM、L−イソロイシンが19.4mM、グルコースが971mM含まれている。このような種々のアミノ酸を含有する輸液を体内に補充することにより、血中には、種々の糖化アミノ酸、例えば、α−フルクトシルロイシン(以降αFLと表す)、α−フルクトシルアラニン(以降αFAと表す)、α−フルクトシルグリシン(以降αFGと表す)、αFV、α−フルクトシルイソロイシン(以降αFIと表す)等が生成され得る。HbA1cを測定するにあたっては、αFVH以外のこれらの物質は、測定誤差の原因物質となることが予測されるため、こうした糖化アミノ酸に対し作用し難い、基質特異性の高いアマドリアーゼが強く望まれている。
一般的な技術として、酵素の基質特異性を改変するためには、酵素をコードするDNAに変異を加え、酵素のアミノ酸に置換を導入し、目的とする基質特異性を備えた酵素を選抜する方法が知られている。また、アミノ酸配列の同一性の高い酵素において、アミノ酸置換によって基質特異性を高めたという例が既に知られている場合には、その情報をもとに基質特異性の向上を予想することが可能である。
実際、カーブラリア・クラベータ(Curvularia clavata)YH923由来のケトアミンオキシダーゼおよびネオコスモスポラ・ヴァシンフェクタ(Neocosmospora vasinfecta)474由来のケトアミンオキシダーゼについては、数個のアミノ酸を置換することによって、αFVHに対する基質特異性が向上した改変型ケトアミンオキシダーゼが示されている(特許文献1参照)。例えば、カーブラリア・クラベータYH923由来のケトアミンオキシダーゼにおいては、58位のイソロイシンをバリンに、62位のアルギニンをヒスチジンに、330位のフェニルアラニンをロイシンに置換することにより、ε−フルクトシル−(α−ベンジルオキシカルボニルリジン)(以降εFZKと表す)に対する酵素活性をαFVHに対する酵素活性で割って導いた活性比であるεFZK/αFVHが0.95から0.025へと低減し、かつ、αFVに対する酵素活性をαFVHに対する酵素活性で割って導いた活性比であるαFV/αFVHが6.3から2.2へと低減することが示されている。
しかし、上記文献において開示される改変型ケトアミンオキシダーゼはαFV/αFVHが低減しているものの、αFVの影響を十分に回避できたとはいえない。また、εFZKやαFV以外の糖化アミノ酸に対する反応性の低減を確認している旨の記載もない。
また、アスペルギルス・ニードランス(Aspergillus nidulans)A89由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼにアミノ酸置換を導入し、基質特異性を改変することにより、αFVHに対する反応性を新たに付与した改変型フルクトシルアミノ酸オキシダーゼが報告されている(特許文献11参照)。例えば、Aspergillus nidulans A89由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼの、59位のセリンをグリシンに、かつ65位のリジンをグリシンに置換することにより、または109位のリジンをグルタミンに置換することにより、新たにαFVHに対する酵素活性が付与され、αFV/αFVHは2.9となることが示されている。しかしながら、当該アミノ酸置換が糖化アミノ酸に対する反応性の低減に寄与するとの記載はなく、この変異型フルクトシルアミノ酸オキシダーゼにおいても、αFV等の糖化アミノ酸の影響を十分に回避できたとはいえない。
実際の測定条件は個々に異なるが、公知の文献中に、各種アマドリアーゼのεFKに対する酵素活性をαFVHに対する酵素活性で割って導いた活性比である「εFK/αFVH」および/またはεFKに対する酵素活性をαFVに対する酵素活性で割って導いた活性比である「εFK/αFV」を低減させた改変型アマドリアーゼに関する開示がみられる:Coniochaeta属由来のアマドリアーゼ、Aspergillus nidulans由来フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ、Penicillium chrysogenum由来フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ、Cryptococcus neoformans由来フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ、Neocosmospora vasinfecta由来ケトアミンオキシダーゼ、Eupenicillium terrenum由来アマドリアーゼにアミノ酸置換を導入し、基質特異性を改変することにより、εFK/αFVHおよび/またはεFK/αFVが低い改変型アマドリアーゼが報告されている(特許文献18参照)。
例えば、Coniochaeta属由来のアマドリアーゼの98位のグルタミン酸をアラニンに、154位のセリンをアスパラギンに、259位のバリンをシステインに置換することにより、εFK/αFVHが0.316から0.017まで低減され、αFV/αFVHは3.37から2.32に低減されることが示されている。また、Phaeosphaeria nodorum由来フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼにアミノ酸置換を導入し、基質特異性を改変することにより、εFK/αFVHが低い改変型アマドリアーゼが報告されている(例えば、特許文献14参照)。
また、Phaeosphaeria nodorum由来フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼの58番目のイソロイシンをスレオニンに、282番目のフェニルアラニンをチロシンに置換することにより、εFK/αFVHが0.13から0.02まで低減され、αFV/αFVHは4.9から0.5に低減されることが示されている。さらに58番目のイソロイシンをスレオニンに、282番目のフェニルアラニンをチロシンに、110番目のグルタミンをフェニルアラニン、チロシン、ヒスチジン、アスパラギン酸、またはリジンに置換することにより、αFV/αFVHは4.9から0.4に低減されることが示されている。
しかしながら、これらの置換を導入することによっても、αFVHを測定する上でαFVの影響が回避されているとは言い難い。
例えば、上述のPhaeosphaeria nodorum由来フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼの58番目のイソロイシンをスレオニンに置換することにより、αFV/αFVHは4.9から0.5に低減されるが、この置換を有する酵素を用いてαFVH(終濃度26μM)を測定する際に、13μMのαFVを共存させた場合には、αFVHのみを測定した吸光度変化量に比べて約50%も測定値が上乗せされることが示されている(特許文献19参照)。さらに、αFVおよびεFK以外の糖化アミノ酸に対する反応性の低減に寄与するとの記載もない。
なお、各種アマドリアーゼを利用して、実際に血液試料中のHbA1cを測定するためには、アマドリアーゼおよび各種の必要とされる成分が処方された測定用試薬組成物を調製し、これを所定の方法で使用して測定を行う。そして、精度の高い測定値を得るという目的のために、酵素自体の性質を向上させる取り組みに加え、例えば、測定誤差の原因物質となり得るεFK等の影響をできる限り受け難い測定用試薬組成物や、αFVやεFKなどの糖化アミノ酸の影響をできる限り受け難い測定方法の開発も行われている。
例えば、αFVやεFKなどの糖化アミノ酸の影響を低減するための試みとして、アマドリアーゼによってαFVHを測定するのに先立ち、εFK等の影響物質を別の酵素を用いて消去する方法が開示されている(例えば、特許文献16参照)。この方法により影響物質の量を予め減らすことによって、測定値の精度向上が期待できる。しかし、この方法は、消去操作という付随的な前処理が必要となり、測定操作が複雑化するという課題を有する。消去に要する時間、消去反応を停止させる時間など、消去工程に伴う作業に要する時間の分だけ測定時間が長くなる点も課題である。さらに、消去酵素の反応性や安定性まで考慮に入れて、消去にも、測定にも、そして保存にも適した試薬処方を組まねばならないという点は、処方の検討上、大きな制約となり得る。
εFK等の影響を低減するための別の試みとしては、pH5.5、pH6.5等の弱酸性pH条件下でアマドリアーゼを作用させてαFVHの測定を行う方法が報告されている(特許文献2参照)。しかしながら、εFK以外の糖化アミノ酸についての影響を回避しているという言及はない。
すなわち、天然型若しくは変異型アマドリアーゼを含め、αFVHに対する反応性に対するαFVH以外の糖化アミノ酸に対する反応性の比率が十分に低いアマドリアーゼや、そのようなアマドリアーゼを用いることにより、糖化アミノ酸の影響をできる限り受け難いαFVHの測定を行うための知見は、これまでにごく僅か報告されているにすぎず、αFVHに対する特異性が高く、精度の高いHbA1cの測定を実現し得るアマドリアーゼが求められている。
国際公開第2004/104203号 国際公開第2005/49857号 特開2001−95598号公報 特公平05−33997号公報 特開平11−127895号公報 国際公開第97/13872号 特開2011−229526号公報 特開2003−235585号公報 特開2004−275013号公報 特開2004−275063号公報 特開2010−35469号公報 特開2010−57474号公報 国際公開第2010/41715号 国際公開第2010/41419号 国際公開第2011/15325号 国際公開第2007/10950号 特開2010−110333号公報 国際公開第2012/18094号 特開2010−233501号公報
Biochem. Biophys. Res. Commun. 311, 104−11, 2003 Biotechnol. Bioeng. 106, 358−66, 2010 J. Biosci. Bioeng. 102, 241−3, 2006 Appl. Microbiol. Biotechnol. 74, 813−9, 2007 Eur. J. Biochem. 242, 499−505, 1996 Mar. Biotechnol. 6, 625−32, 2004 Biosci. Biotechnol. Biochem. 66, 1256−61, 2002 Biosci. Biotechnol. Biochem. 66, 2323−29, 2002 Biotechnol. Letters 27, 27−32, 2005 J. Biol. Chem. 279, 27613−20, 2004 検査と技術 32, 542−544, 2004 JJCLA 28, 134−138, 2003 生物試料分析 27, 97−103, 2004
本発明が解決しようとする課題は、糖化ヘモグロビンのβ鎖アミノ末端に由来するα−フルクトシルバリルヒスチジン以外の糖化アミノ酸の存在下においても、α−フルクトシルバリルヒスチジンを正確に測定できるアマドリアーゼを提供することにある。
本発明者らは、前記課題解決のために鋭意研究を重ねた結果、コニオカエタ属をはじめとする複数の微生物由来のアマドリアーゼにおける特定のアミノ酸残基を特定のアミノ酸残基に置換することにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)以下の(i)および(ii):
(i)配列番号1に示すアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列を有する;
(ii)1または数個のアミノ酸の欠失、挿入、付加、および/または置換を行うことで、α−フルクトシルバリルヒスチジンへの反応性に対するα−フルクトシルバリルヒスチジン以外の糖化アミノ酸への反応性の割合が、欠失、挿入、付加、および/または置換を行う前のアマドリアーゼと比較して、低減している
の性質を有するアマドリアーゼ。
(2)以下の(iii)および(iv):
(iii)配列番号1、30、33または35に示すアミノ酸配列に1または数個のアミノ酸の欠失、挿入、付加、および/または置換がなされたアミノ酸配列を有する;
(iv)1または数個のアミノ酸の欠失、挿入、付加、および/または置換を行うことで、α−フルクトシルバリルヒスチジンへの反応性に対するα−フルクトシルバリルヒスチジン以外の糖化アミノ酸への反応性の割合が、欠失、挿入、付加、および/または置換を行う前のアマドリアーゼと比較して、低減している
の性質を有するアマドリアーゼ。
(3)糖化アミノ酸が以下の(a)から(l):
(a)α−フルクトシルロイシン
(b)α−フルクトシルアラニン
(c)α−フルクトシルグリシン
(d)α−フルクトシルバリン
(e)α−フルクトシルイソロイシン
(f)α−フルクトシルスレオニン
(g)α−フルクトシルフェニルアラニン
(h)α−フルクトシルセリン
(i)α−フルクトシルメチオニン
(j)α−フルクトシルグルタミン酸
(k)ε−フルクトシルリジン
(l)β−フルクトシルアラニン
よりなる群から選択される1つまたはそれ以上である、上記(1)または(2)記載のアマドリアーゼ。
(4)配列番号1に示すアミノ酸配列の以下の(m)から(s):
(m)62位のアルギニン
(n)63位のロイシン
(o)64位のアルギニン
(p)261位のチロシン
(q)263位のグリシン
(r)355位のアラニン
(s)417位のアルギニン
よりなる群から選択されるアミノ酸に対応する位置で1つまたはそれ以上のアミノ酸残基の置換を有する、上記(3)記載のアマドリアーゼ。
(5)配列番号1に示すアミノ酸配列の(m)から(s)よりなる群から選択される1つまたはそれ以上のアミノ酸に対応する位置でのアミノ酸残基の置換が以下の(t)から(z):
(t)62位のアルギニンがアラニンまたはセリンに置換されている;
(u)63位のロイシンがアラニンに置換されている;
(v)64位のアルギニンがセリン、アスパラギン酸、グルタミン酸またはヒスチジンに置換されている;
(w)261位のチロシンがフェニルアラニン、アスパラギンまたはリプトファンに置換されている;
(x)263位のグリシンがセリンに置換されている;
(y)355位のアラニンがヒスチジンまたはアスパラギン酸に置換されている;
(z)417位のアルギニンがヒスチジンに置換されている;
である上記(4)記載のアマドリアーゼ。
(6)配列番号1に示すアミノ酸配列において、以下の(aa)から(af):
(aa)261位のチロシンのトリプトファンへの置換および263位のグリシンのセリンへの置換;
(ab)62位のアルギニンのセリンへの置換、261位のチロシンのトリプトファンへの置換および263位のグリシンのセリンへの置換;
(ac)261位のチロシンのトリプトファンへの置換、263位のグリシンのアミノ酸のセリンへの置換および355位のアラニンのヒスチジンへの置換;
(ad)261位のチロシンのトリプトファンへの置換、263位のグリシンのセリンへの置換および355位のアラニンのアスパラギン酸への置換;
(ae)62位のアルギニンのセリンへの置換、261位のチロシンのトリプトファンへの置換、263位のグリシンのセリンへの置換および355位のアラニンのヒスチジンへの置換;
(af)62位のアルギニンのセリンへの置換、261位のチロシンのトリプトファンへの置換、263位のグリシンのセリンへの置換および355位のアラニンのアスパラギン酸への置換
よりなる群から選択されるアミノ酸残基の置換を有する、上記(4)記載のアマドリアーゼ。
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードするアマドリアーゼ遺伝子。
(8)上記(7)記載のアマドリアーゼ遺伝子を含む組換えベクター。
(9)上記(8)記載の組換えベクターを含む宿主細胞。
(10)以下の工程:
(i)上記(9)記載の宿主細胞を培養する工程;
(ii)宿主細胞に含まれるアマドリアーゼ遺伝子を発現させる工程;及び
(iii)培養物からアマドリアーゼを単離する工程
を含む、アマドリアーゼを製造する方法。
(10)上記(1)〜(6)のいずれかに記載のアマドリアーゼを含む、糖化ヘモグロビンの測定に用いるためのキット。
本発明によれば、糖尿病の診断用酵素として、また、糖尿病マーカーの測定キットに有利に利用され得る基質特異性の優れたアマドリアーゼ、具体的には、「αFVHに対する反応性」に対する「αFVH以外の糖化アミノ酸に対する反応性」の割合が低減しているアマドリアーゼを提供することができる。
種々の生物種由来の公知のアマドリアーゼの配列を例示する図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
(アマドリアーゼ)
アマドリアーゼは、ケトアミンオキシダーゼ、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ、フルクトシルペプチドオキシダーゼ、フルクトシルアミンオキシダーゼともいい、酸素の存在下で、イミノ2酢酸若しくはその誘導体(アマドリ化合物)を酸化して、グリオキシル酸若しくはα−ケトアルデヒド、アミノ酸若しくはペプチド、および過酸化水素を生成する反応を触媒する酵素のことをいう。アマドリアーゼは、自然界に広く分布しており、微生物や、動物若しくは植物起源の酵素を探索することにより、得ることができる。微生物においては、例えば、糸状菌、酵母、若しくは細菌等から得ることができる。
一態様において、本発明のアマドリアーゼは、配列番号1、30、33または35に示されるアミノ酸配列を有するアマドリアーゼに基づき作製された、基質特異性が改変されたアマドリアーゼの改変体である。このような変異体の例としては、配列番号1、30、33または35と高い配列同一性(例えば、75%以上、好ましくは、80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、最も好ましくは99%以上)を有するアミノ酸配列を有するアマドリアーゼ、および、配列番号1、30、33または35のアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸が改変若しくは変異、または、欠失、置換、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を有するアマドリアーゼを挙げることができる。
なお、特許請求の範囲に記載されたアミノ酸配列に関する条件を満たす限り、例えば、Eupenicillium属、Pyrenochaeta属、Arthrinium属、Curvularia属、Neocosmospora属、Cryptococcus属、Phaeosphaeria属、Aspergillus属、Emericella属、Ulocladium属、Penicillium属、Fusarium属、Achaetomiella属、Achaetomium属、Thielavia属、Chaetomium属、Gelasinospora属、Microascus属、Leptosphaeria属、Ophiobolus属、Pleospora属、Coniochaetidium属、Pichia属、Corynebacterium属、Agrobacterium属、Arthrobacter属のような、他の生物種に由来するアマドリアーゼに基づき作製されたものでもよい。
図1に示される各種配列は、いずれも配列番号1の配列と75%以上の同一性を有する公知のアマドリアーゼのアミノ酸配列の数例を、公知のアルゴリズムを用いて整列させたものである。184位及び265位以外は配列番号1で示されるアミノ酸配列を最上段に示す。図中に、本発明の変異体における変異点を示している。
図1には、Coniochaeta属由来のアマドリアーゼ、Eupenicillium terrenum由来のアマドリアーゼ(配列番号26)、Pyrenochaeta sp.由来のケトアミンオキシダーゼ(配列番号27)、Arthrinium sp.由来のケトアミンオキシダーゼ(配列番号28)、Curvularia clavata由来のケトアミンオキシダーゼ(配列番号29)、Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼ(配列番号30)、Cryptococcus neoformans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(配列番号31)、Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼ(配列番号32)、Aspergillus nidulans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ、Ulocladium sp.由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(配列番号34)およびPenicillium crysogenum由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼのアミノ酸配列を示してある。
図1から理解されるように、配列番号1で例示されるConiochaeta属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列における特定の位置のアミノ酸に対応する他の生物種由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列における位置は、このような配列同一性に基づく公知の整列処理によって、当業者であれば容易に推定することができる。
一態様において、αFVH以外の糖化アミノ酸への反応性が改変されたアマドリアーゼは、アマドリアーゼのアミノ酸配列において少なくとも1つまたは数個のアミノ酸残基を欠失、挿入、付加、および/または置換することによって得ることができる。
αFVH以外の糖化アミノ酸への反応性の低減をもたらすアミノ酸の置換として、配列番号1に示すアミノ酸配列における以下の位置のアミノ酸に対応する位置のアミノ酸の置換を見出した。
(1)62位のアルギニンの置換、例えば、アラニン、セリンへの置換。
(2)63位のロイシンの置換、例えば、アラニンへの置換。
(3)64位のアルギニンの置換、例えば、セリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジンへの置換。
(4)261位のチロシンの置換、例えば、フェニルアラニン、アスパラギン、トリプトファンへの置換。
(5)263位のグリシンの置換、例えば、セリンへの置換。
(6)355位のアラニンの置換、例えば、ヒスチジン、アスパラギン酸への置換。
(7)417位のアルギニンの置換、例えば、ヒスチジンへの置換。
αFVH以外の糖化アミノ酸への反応性を改変させたアマドリアーゼの変異体は、上記アミノ酸置換や欠失を少なくとも1つ有していればよく、複数のアミノ酸置換または欠失を有していてもよい。例えば、上記アミノ酸置換の1、2、3、4、5、6または7を有している。
その中でも、以下のアミノ酸の位置に対応するアミノ酸の置換を有している変異体が好ましい。
(8)261位のチロシンの置換および263位のグリシンの置換、例えば、261位のトリプトファンへの置換および263位のグリシンのセリンへの置換。
(9)62位のアルギニンの置換、261位のチロシンの置換および263位のグリシンの置換、例えば、62位のアルギニンのセリンへの置換、261位のチロシンのトリプトファンへの置換および263位のグリシンのセリンへの置換。
(10)261位のチロシンの置換、263位のグリシンの置換および355位のアラニンの置換、例えば、261位のチロシンのトリプトファンへの置換、263位のグリシンのセリンへの置換および355位のアラニンのヒスチジンへの置換。
(11)261位のチロシンの置換、263位のグリシンの置換および355位のアラニンの置換、例えば、261位のチロシンのトリプトファンへの置換、263位のグリシンのセリンへの置換および355位のアラニンのアスパラギン酸への置換。
(12)62位のアルギニンの置換、261位のチロシンの置換、263位のグリシンの置換および355位のアラニンの置換、例えば、62位のアルギニンのセリンへの置換、261位のチロシンのトリプトファンへの置換、263位のグリシンのセリンへの置換および355位のアラニンのヒスチジンへの置換。
(13)62位のアルギニンの置換、261位のチロシンの置換、263位のグリシンの置換および355位のアラニンの置換、例えば、62位のアルギニンのセリンへの置換、261位のチロシンのトリプトファンへの置換、263位のグリシンのセリンへの置換および355位のアラニンのアスパラギン酸への置換。
本発明のαFVH以外の糖化アミノ酸への反応性を改変させたアマドリアーゼ変異体は、配列番号1、30、33または35に示すアミノ酸配列において、上記の基質特異性の改変をもたらすアミノ酸の置換を有し、それらの置換アミノ酸以外の位置で、さらに1または数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜3個、特に好ましくは1個)のアミノ酸が欠失、挿入、付加および/または置換されたアミノ酸配列からなり、アマドリアーゼ活性を有し、基質特異性が改変されたアマドリアーゼ変異体を包含する。さらに、上記の基質特異性の改変をもたらすアミノ酸の置換変異を有し、配列番号1、30、33または35に示すアミノ酸配列の該置換したアミノ酸以外のアミノ酸を除いた部分のアミノ酸配列に対して、75%以上、好ましくは86%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、最も好ましくは99%以上のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、アマドリアーゼ活性を有し、基質特異性が改変されたアマドリアーゼ変異体を包含する。
上記のアミノ酸置換において、アミノ酸の位置は配列番号1に示されるConiochaeta属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列においては、配列番号1に示されるアミノ酸配列における位置に対応する位置のアミノ酸が置換されている。「対応する位置」の意味については後述する。なお、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するアマドリアーゼは、本明細書中pKK223−3−CFP−T7と称する組換え体プラスミド(寄託番号:FERM BP−10593)を保持する大腸菌が生産するConiochaeta属由来のアマドリアーゼ(CFP−T7)であり、このアマドリアーゼは先に出願人が見出した熱安定性の優れた改変型アマドリアーゼである(国際特許第2007/125779号参照)。CFP−T7は、天然型のConiochaeta属由来のアマドリアーゼに対し、272位、302位および388位に人為的な変異を順次導入することにより獲得した3重変異体である。
(アミノ酸配列の同一性)
アミノ酸配列の同一性は、公知の任意の方法を用いて計算することができる。例えば、GENETYX Ver.11(ゼネティックス社製)のマキシマムマッチングやサーチホモロジー等のプログラム、またはDNASIS Pro(日立ソフト社製)のマキシマムマッチングやマルチプルアライメント等のプログラムにより計算することができる。
(アマドリアーゼをコードする遺伝子の取得)
これらのアマドリアーゼをコードする本発明の遺伝子(以下、単に「アマドリアーゼ遺伝子」ともいう)を得るには、通常一般的に用いられている遺伝子のクローニング方法が用いられる。例えば、アマドリアーゼ生産能を有する微生物菌体や種々の細胞から常法、例えば、Current Protocols in Molecular Biology(WILEY Interscience,1989)記載の方法により、染色体DNAまたはmRNAを抽出することができる。さらにmRNAを鋳型としてcDNAを合成することができる。このようにして得られた染色体DNAまたはcDNAを用いて、染色体DNAまたはcDNAのライブラリーを作製することができる。
次いで、上記アマドリアーゼのアミノ酸配列に基づき、適当なプローブDNAを合成して、これを用いて染色体DNAまたはcDNAのライブラリーからアマドリアーゼ遺伝子を選抜する方法、あるいは、上記アミノ酸配列に基づき、適当なプライマーDNAを作製して、5’RACE法や3’RACE法などの適当なポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction、PCR法)により、アマドリアーゼをコードする目的の遺伝子断片を含むDNAを増幅させ、これらのDNA断片を連結させて、目的のアマドリアーゼ遺伝子の全長を含むDNAを得ることができる。
このようにして得られたアマドリアーゼをコードする遺伝子の好ましい一例として、コニオカエタ属由来のアマドリアーゼ遺伝子(特開2003−235585号公報参照)が挙げられる。
これらのアマドリアーゼ遺伝子は、常法通り各種ベクターに連結されていることが、取扱い上好ましい。例えば、Coniochaeta sp. NISL 9330株由来のアマドリアーゼ遺伝子をコードするDNAがpKK223−3 Vector(アマシャム・バイオテク社製)に挿入された組換え体プラスミドpKK223−3−CFP(特開2003−235585号公報参照)が挙げられる。
(ベクター)
本発明において用いることのできるベクターとしては、上記プラスミドに限定されることなく、それ以外の、例えば、バクテリオファージ、コスミド等の当業者に公知の任意のベクターを用いることができる。具体的には、例えば、pBluescriptII SK+(Stratagene社製)等が好ましい。
(アマドリアーゼ遺伝子の変異処理)
アマドリアーゼ遺伝子の変異処理は、企図する変異形態に応じた、公知の任意の方法で行うことができる。すなわち、アマドリアーゼ遺伝子あるいは当該遺伝子の組み込まれた組換え体DNAと変異原となる薬剤とを接触・作用させる方法;紫外線照射法;遺伝子工学的手法;または蛋白質工学的手法を駆使する方法等を広く用いることができる。
蛋白質工学的手法を駆使する方法としては、一般的に、Site−Specific Mutagenesisとして知られる手法を用いることができる。例えば、Kramer法(Nucleic Acids Res., 12, 9441 (1984): Methods Enzymol., 154, 350 (1987): Gene, 37, 73 (1985))、Eckstein法(Nucleic Acids Res., 13, 8749 (1985): Nucleic Acids Res., 13, 8765 (1985): Nucleic Acids Res, 14, 9679 (1986))、Kunkel法(Proc. Natl. Acid. Sci. U.S.A., 82, 488 (1985): Methods Enzymol., 154, 367 (1987))等が挙げられる。
また、一般的なPCR法として知られる手法を用いることもできる(Technique, 1, 11(1989)参照)。なお、上記遺伝子改変法の他に、有機合成法または酵素合成法により、直接所望の改変アマドリアーゼ遺伝子を合成することもできる。
上記方法により得られるアマドリアーゼ遺伝子のDNA塩基配列の決定若しくは確認を行う場合には、例えば、マルチキャピラリーDNA解析システムApplied Biosystems 3130xlジェネティックアナライザ(Life Technologies社製)等を用いることにより行うことができる。
(形質転換・形質導入)
上述のように得られたアマドリアーゼ遺伝子を、常法により、バクテリオファージ、コスミド、または原核細胞若しくは真核細胞の形質転換に用いられるプラスミド等のベクターに組み込み、各々のベクターに対応する宿主を常法により、形質転換または形質導入をすることができる。例えば、宿主として、エッシェリシア属に属する微生物、例えば得られた組換え体DNAを用いて、例えば、大腸菌K−12株、好ましくは大腸菌JM109株、大腸菌DH5α株(ともにタカラバイオ社製)等を形質転換またはそれらに形質導入してそれぞれの菌株を得る。
(アミノ酸に対応する位置の特定)
「アミノ酸に対応する位置」とは、配列番号1に示すコニオカエタ属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列の特定の位置のアミノ酸に対応する他の生物種由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列における位置をいう。
「アミノ酸に対応する位置」を特定する方法としては、例えばリップマン−パーソン法等の公知のアルゴリズムを用いてアミノ酸配列を比較し、各アマドリアーゼのアミノ酸配列中に存在する保存アミノ酸残基に最大の同一性を与えることにより行うことができる。アマドリアーゼのアミノ酸配列をこのような方法で整列させることにより、アミノ酸配列中にある挿入、欠失にかかわらず、相同アミノ酸残基の各アマドリアーゼ配列における配列中の位置を決めることが可能である。相同位置は、三次元構造中で同位置に存在すると考えられ、対象となるアマドリアーゼの特異的機能に関して類似した効果を有することが推定できる。
なお、本発明において、「配列番号1記載のアミノ酸配列の62位のアルギニンに対応する位置」とは、確定したアマドリアーゼのアミノ酸配列を、配列番号1に示されるコニオカエタ属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列と比較した場合に、配列番号1のアマドリアーゼの62位のアルギニンに対応するアミノ酸を意味するものである。これにより、上記の「対応する位置のアミノ酸」を特定する方法でアミノ酸配列を整列させて特定することができる。
すなわち、Eupenicillium terrenum由来のアマドリアーゼ、Pyrenochaeta sp.由来のケトアミンオキシダーゼ、Arthrinium sp.由来のケトアミンオキシダーゼ、Curvularia clavata由来のケトアミンオキシダーゼ、Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼ、Cryptococcus neoformans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ、Ulocladium sp.由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ、Penicillium crysogenum由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは62位のアルギニン、Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼでは62位のセリン、Aspergillus nidulans由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼでは61位のアルギニンである。
また、本発明において、「配列番号1記載のアミノ酸配列の63位のロイシンに対応する位置」とは、確定したアマドリアーゼのアミノ酸配列を、配列番号1に示されるコニオカエタ属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列と比較した場合に、配列番号1のアマドリアーゼの63位のロイシンに対応するアミノ酸を意味するものである。これにより、上記の「対応する位置のアミノ酸」を特定する方法でアミノ酸配列を整列させて特定することができる。
すなわち、Eupenicillium terrenum由来のアマドリアーゼ、Pyrenochaeta sp.由来のケトアミンオキシダーゼ、Arthrinium sp.由来のケトアミンオキシダーゼ、Curvularia clavata由来のケトアミンオキシダーゼ、Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼ、Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼ、Ulocladiumsp.由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ、Penicillium crysogenum由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは63位のロイシン、Cryptococcus neoformans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは63位のイソロイシン、Aspergillus nidulans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは62位のロイシンである。
さらに、「配列番号1記載のアミノ酸配列の64位のアルギニンに対応する位置」とは、確定したアマドリアーゼのアミノ酸配列を、配列番号1に示されるコニオカエタ属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列と比較した場合に、配列番号1のアマドリアーゼの64位のアルギニンに対応するアミノ酸を意味するものである。これも上記の方法でアミノ酸配列を整列させることにより特定することができる。
すなわち、Eupenicillium terrenum由来のアマドリアーゼ、Pyrenochaeta sp.由来のケトアミンオキシダーゼ、Arthrinium sp.由来のケトアミンオキシダーゼ、Curvularia clavata由来のケトアミンオキシダーゼ、Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼ、Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼ、Ulocladiumsp.由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ、Penicillium crysogenum由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ、Cryptococcus neoformans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは64位のアルギニン、Aspergillus nidulans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは63位のアルギニンである。
さらに、「配列番号1記載のアミノ酸配列の261位のチロシンに対応する位置」とは、確定したアマドリアーゼのアミノ酸配列を、配列番号1に示されるコニオカエタ属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列と比較した場合に、配列番号1のアマドリアーゼの261位のチロシンに対応するアミノ酸を意味するものである。これも上記の方法でアミノ酸配列を整列させることにより特定することができる。
すなわち、Eupenicillium terrenum由来のアマドリアーゼ、Arthrinium sp.由来のケトアミンオキシダーゼ、Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼ、Cryptococcus neoformans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ、Aspergillus nidulans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ、Penicillium crysogenum由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは261位のチロシン、Pyrenochaeta sp.由来のケトアミンオキシダーゼ、Curvularia clavata由来のケトアミンオキシダーゼ、Ulocladium sp.由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは259位のチロシン、Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼでは257位のチロシンである。
さらに、「配列番号1記載のアミノ酸配列の263位のグリシンに対応する位置」とは、確定したアマドリアーゼのアミノ酸配列を、配列番号1に示されるコニオカエタ属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列と比較した場合に、配列番号1のアマドリアーゼの263位のグリシンに対応するアミノ酸を意味するものである。これにより、上記の「対応する位置のアミノ酸」を特定する方法でアミノ酸配列を整列させて特定することができる。
すなわち、Eupenicillium terrenum由来のアマドリアーゼ、Arthrinium sp.由来のケトアミンオキシダーゼ、Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼ、Aspergillus nidulans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ、Penicillium crysogenum由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは263位のグリシン、Pyrenochaeta sp.由来のケトアミンオキシダーゼ、Curvularia clavata由来のケトアミンオキシダーゼ、Ulocladium sp.由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは261位のグリシン、Cryptococcus neoformans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは263位のセリン、Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼでは259位のグリシンである。
さらに、「配列番号1記載のアミノ酸配列の355位のアラニンに対応する位置」とは、確定したアマドリアーゼのアミノ酸配列を、配列番号1に示されるコニオカエタ属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列と比較した場合に、配列番号1のアマドリアーゼの355位のアラニンに対応するアミノ酸を意味するものである。これにより、上記の「対応する位置のアミノ酸」を特定する方法でアミノ酸配列を整列させて特定することができる。
すなわち、Eupenicillium terrenum由来のアマドリアーゼ、Aspergillus nidulans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ、Cryptococcus neoformans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ、Penicillium crysogenum由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは355位のアラニン、Pyrenochaeta sp.由来のケトアミンオキシダーゼ、Curvularia clavata由来のケトアミンオキシダーゼ、Ulocladium sp.由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは353位のアラニン、Arthrinium sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは356位のアラニン、Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼでは355位のセリン、Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼでは351位のアラニンである。
さらに、「配列番号1記載のアミノ酸配列の417位のアルギニンに対応する位置」とは、確定したアマドリアーゼのアミノ酸配列を、配列番号1に示されるコニオカエタ属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列と比較した場合に、配列番号1のアマドリアーゼの417位のアルギニンに対応するアミノ酸を意味するものである。これにより、上記の「相当する位置のアミノ酸残基」を特定する方法でアミノ酸配列を整列させて特定することができる。
すなわち、Eupenicillium terrenum由来のアマドリアーゼでは417位のアルギニン、Pyrenochaeta sp.由来のケトアミンオキシダーゼ、Curvularia clavata由来のケトアミンオキシダーゼ、Ulocladium sp.由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは416位のアルギニン、Arthrinium sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは419位のアルギニン、Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼでは418位のイソロイシン、Cryptococcus neoformans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ、Aspergillus nidulans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは418位のアルギニン、Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼでは414位のアルギニン、Penicillium crysogenum由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは417位のリジンである。
(本発明のアマドリアーゼの生産)
上記のようにして得られた基質特異性が改善されたアマドリアーゼの生産能を有する菌株を用いて、当該アマドリアーゼを生産するには、この菌株を通常の固体培養法で培養してもよいが、可能な限り液体培養法を採用して培養するのが好ましい。
また、上記菌株を培養する培地としては、例えば、酵母エキス、トリプトン、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカーあるいは大豆若しくは小麦ふすまの浸出液等の1種以上の窒素源に、塩化ナトリウム、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化第2鉄、硫酸第2鉄あるいは硫酸マンガン等の無機塩類の1種以上を添加し、さらに必要により糖質原料、ビタミン等を適宜添加したものが用いられる。
また、培地に当該アマドリアーゼが作用し得る基質やその類似化合物、例えば糖化アミノ酸、糖化ペプチド類、糖化蛋白質分解物、若しくは糖化ヘモグロビンや糖化アルブミン等の糖化蛋白質を添加することにより目的の酵素の製造量を向上させることができる。
培地の初発pHは、pH7〜9に調整するのが適当である。培養は、20〜42℃の培養温度、好ましくは37℃前後の培養温度で4〜24時間、さらに好ましくは37℃前後の培養温度で8〜16時間、通気攪拌深部培養、振盪培養、静置培養等により実施するのが好ましい。
培養終了後、該培養物よりアマドリアーゼを採取するには、通常の酵素採取手段を用いて得ることができる。例えば、常法により菌体を、超音波破壊処理、磨砕処理等するか、またはリゾチーム等の溶菌酵素を用いて本酵素を抽出するか、またはトルエン等の存在下で振盪若しくは放置して溶菌を行わせ、本酵素を菌体外に排出させることができる。そして、この溶液を濾過、遠心分離等して固形部分を除去し、必要によりストレプトマイシン硫酸塩、プロタミン硫酸塩、若しくは硫酸マンガン等により核酸を除去したのち、これに硫安、アルコール、アセトン等を添加して分画し、沈澱物を採取し、アマドリアーゼの粗酵素を得る。
上記アマドリアーゼの粗酵素よりさらにアマドリアーゼ精製酵素標品を得るには、例えば、セファデックス、スーパーデックス若しくはウルトロゲル等を用いるゲル濾過法、イオン交換性担体、疎水性担体、ヒドロキシアパタイトを用いる吸着溶出法、ポリアクリルアミドゲル等を用いる電気泳動法、蔗糖密度勾配遠心法等の沈降法、アフィニティクロマトグラフィー法、分子ふるい膜若しくは中空糸膜等を用いる分画法等を適宜選択し、またはこれらを組み合わせて実施することにより、精製されたアマドリアーゼ酵素標品を得ることができる。このようにして、所望の糖化アミノ酸に対する反応性が低減したアマドリアーゼを得ることができる。
(本発明のアマドリアーゼにおける、αFVH以外の糖化アミノ酸に対する反応性の低下)
上記のような手段で得られる本発明のアマドリアーゼは、遺伝子改変等により、そのアミノ酸配列に変異を生じた結果、改変前のものと比較して、αFVH以外の糖化アミノ酸に対する反応性が低下し、結果として、αFVHに対する基質特異性が向上していることを特徴とする。具体的には、改変前のものと比較して、「αFVHへの反応性」に対する「αFVH以外の各種糖化アミノ酸に対する反応性」の割合、例えば、「αFLへの反応性」の割合が低減していることを特徴とする。
「糖化アミノ酸」は、アミノ酸または短鎖のペプチドが糖化を受けたものであれば特に限定されないが、例えば、血中や輸液中に遊離状態で存在することが想定される各種のα−糖化アミノ酸、β−糖化アミノ酸および/またはε−糖化アミノ酸が挙げられる。
具体的には、例えば、α−フルクトシルロイシン(αFL)、α−フルクトシルアラニン(αFA)、α−フルクトシルグリシン(αFG)、α−フルクトシルバリン(αFV)、α−フルクトシルイソロイシン(αFI)、α−フルクトシルスレオニン(αFT)、α−フルクトシルフェニルアラニン(αFF)、α−フルクトシルセリン(αFS)、α−フルクトシルメチオニン(αFM)、α−フルクトシルグルタミン酸(αFE)、α−フルクトシルリジン、α−フルクトシルトリプトファン、α−フルクトシルシステイン、α−フルクトシルチロシン、α−フルクトシルアルギニン、α−フルクトシルヒスチジン、α−フルクトシルプロリン、α−フルクトシルアスパラギン酸、ε−フルクトシルリジン(εFK)、α, ε−フルクトシルリジン、β−フルクトシルアラニン(βFA)等が挙げられる。
これらの糖化アミノ酸は、例えば遊離状態で輸液や薬物投与等により血中に持ち込まれ得、あるいは、糖とアミノ酸が血中で反応することにより生成し得る。または、糖化ヘモグロビンを測定するための前処理において、糖化ヘモグロビンや糖化アルブミンなどの糖化蛋白質からプロテアーゼやペプチダーゼ等の作用を受けて糖化アミノ酸として切り出され得る。
例えば、輸液中には、αFL、αFA、αFG、αFV等が多く含まれ、これらは輸液を受けている患者の検体を測定する際の、αFVH以外の各種糖化アミノ酸の代表的な例として想定され得る。
本発明において、糖化アミノ酸には、αFVHを測定することによってHbA1cを測定する方法において測定誤差を生じ得る短鎖の糖化ペプチドを含み得る。
本発明のアマドリアーゼにおける、αFVH以外の糖化アミノ酸に対する反応性の低下において、L−ロイシンとグルコースから生成され得る誤差原因物質であるαFLに対して反応性が低減していることは特に好ましい。αFLは、高カロリーアミノ酸輸液中に最も多く存在する。
具体的には、本発明のアマドリアーゼにおける、αFVHへの反応性に対するαFLへの反応性の割合を示す「αFL/αFVH」は、改変前に対して13%以上、好ましくは23%以上、より好ましくは38%以上、さらに好ましくは72%以上、最も好ましくは83%以上低減していることが好ましい。すなわち、改変前の割合を100とした場合の、変異導入後の反応性の割合は、87%以下まで低下し、好ましくは77%以下まで低下し、より好ましくは62%以下まで低下し、さらに好ましくは28%以下まで低下し、最も好ましくは17%以下まで低下していることが好ましい。
また、本発明のアマドリアーゼにおける、αFVH以外の糖化アミノ酸に対する反応性の低下において、L−アラニンとグルコースから生成され得る誤差原因物質であるαFAに対して反応性が低減していることも好ましい。αFAは、高カロリーアミノ酸輸液中に多く存在する。
具体的には、本発明のアマドリアーゼにおける、αFVHへの反応性に対するαFAへの反応性の割合を示す「αFA/αFVH」は、改変前に対して6%以上、好ましくは33%以上、より好ましくは46%以上、さらに好ましくは53%以上、さらに好ましくは67%以上、最も好ましくは72%以上低減していることが好ましい。すなわち、改変前の割合を100とした場合の、変異導入後の反応性の割合は、94%以下まで低下し、好ましくは67%以下まで低下し、より好ましくは54%以下まで低下し、さらに好ましくは47%以下まで低下し、さらに好ましくは33%以下まで低下し、最も好ましくは28%以下まで低下していることが好ましい。
さらに、高カロリーアミノ酸輸液中に多く存在するグリシンとグルコースから生成され得る誤差原因物質であるαFGに対する反応性が低減していることも、本発明のアマドリアーゼの性質として好ましい。
具体的には、本発明のアマドリアーゼにおける、αFVHへの反応性に対するαFGへの反応性の割合を示すαFG/αFVHは、改変前に対して19%以上、好ましくは31%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは69%以上、最も好ましくは75%以上低減していることが好ましい。すなわち、改変前の割合を100とした場合の、変異導入後の反応性の割合は、81%以下まで低下し、好ましくは69%以下まで低下し、より好ましくは50%以下まで低下し、さらに好ましくは31%以下まで低下し、最も好ましくは25%以下まで低下していることが好ましい。
さらに、高カロリーアミノ酸輸液中に多く存在するL−バリンとグルコースから生成され得る誤差原因物質であるαFVに対する反応性が低減していることも、本発明のアマドリアーゼの性質として好ましい。
具体的には、本発明のアマドリアーゼにおける、αFVHへの反応性に対するαFVへの反応性の割合を示すαFV/αFVHは、改変前に対して6%以上、好ましくは19%以上、より好ましくは37%以上、さらに好ましくは49%以上、最も好ましくは56%以上低減していることが好ましい。すなわち、改変前の割合を100とした場合の、変異導入後の反応性の割合は、94%まで低下し、好ましくは81%まで低下し、より好ましくは63%まで低下し、さらに好ましくは51%まで低下し、最も好ましくは44%まで低下していることが好ましい。
真の測定対象物質であるαFVHに対する反応性に対する、上述のような測定誤差原因物質である糖化アミノ酸(例えば、αFL)に対する反応性の割合は、公知のアマドリアーゼの測定法を用いて、任意の条件下で測定し、改変前のものと比較することができる。例えば、pH7.0において、5mMのαFLを添加して測定した活性を、5mMのαFVHを添加して測定した活性で割った比率として求めることにより、αFVHに対する反応性に対するαFLに対する反応性の割合を算出し、これを改変前のものと改変後のもので比較することができる。
改変前のものと比較して基質特異性が向上している本発明のアマドリアーゼの一例としては、例えば、大腸菌JM109(pKK223−3−CFP−T7−62S/261W/263S/355D)株により生産されるアマドリアーゼが挙げられる。このような基質特異性が改善されたアマドリアーゼは、糖化アミノ酸、例えば、αFL、αFA、αFGおよび/またはαFVをノイズとして測り込む度合が良好に低減され、HbA1cのβ鎖アミノ末端由来の糖化アミノ酸であるαFVHのみを測定することが可能となるため、精度の高い測定を行うことができ、産業利用上非常に有利である。
(アマドリアーゼ活性の測定方法)
アマドリアーゼの活性の測定方法としては、種々の方法を用いることができるが、一例として、以下に、本発明で用いるアマドリアーゼ活性の測定方法について説明する。
本発明におけるアマドリアーゼの酵素活性の測定方法としては、酵素の反応により生成する過酸化水素量を測定する方法や、酵素反応により消費する酸素量を測定する方法などが主な測定方法として挙げられる。以下に、一例として、過酸化水素量を測定する方法について示す。
本発明におけるアマドリアーゼの活性測定には、断りのない限り、αFL、αFA、αFG、αFV、若しくはαFVHを基質として用いる。なお、酵素力価は、αFL、αFA、αFG、αFV、若しくはαFVHを基質として測定した時、1分間に1μmolの過酸化水素を生成する酵素量を1Uと定義する。
αFL等の糖化アミノ酸、およびαFVH等の糖化ペプチドは、例えば、阪上らやHashibaやHeynsらの方法に基づき合成、精製したものを用いることができる(特開2001−95598号公報、Agric. Biol. Chem., 42, 763−768 (1978)、Carbohydrate Research, 116, 183−195(1983)参照)。
A.:試薬の調製
試薬1:パーオキシダーゼ、4−アミノアンチピリン溶液
5.0kUのパーオキシダーゼ(キッコーマンバイオケミファ社製)、100mgの4−アミノアンチピリン(東京化成社製)を0.1Mのリン酸カリウム緩衝液(pH7.5、pH7.0またはpH6.5)に溶解し、1,000mlに定容する。
試薬2:TOOS溶液
500mgのTOOS(同仁化学研究所社製)をイオン交換水に溶解し、100mlに定容する。
試薬3:基質溶液(150mM; 終濃度5mM)
αFVH 625mg、αFL 440mg、αFA 377mg、αFG 355mg、またはαFV 419mgをイオン交換水に溶解し、10mlに定容する。
B:活性測定法
2.7mlの試薬1、100μlの試薬2、および100μlの酵素液を混和し、37℃で5分間予備加温する。その後、試薬3を100μl加えて良く混ぜた後、分光光度計(U−3010A、日立ハイテクノロジーズ社製)により、555nmにおける吸光度の経時変化を観測し、555nmにおける吸光度の1分間あたりの変化量(ΔAs)を測定した。なお、対照液は、100μlの試薬3の代わりに100μlのイオン交換水を加える以外は前記と同様にして、555nmにおける吸光度の1分間あたりの変化量(ΔA0)を測定した。37℃で1分間あたりに生成される過酸化水素のマイクロモル数を酵素液中の活性単位(U)とし、下記の式に従って算出した。
活性(U/ml)={(ΔAs−ΔA0)×3.0×df}÷(39.2×0.5×0.1)

ΔAs:反応液の1分間あたりの吸光度変化
ΔA0:対照液の1分間あたりの吸光度変化
39.2:反応により生成されるキノンイミン色素のミリモル吸光係数(mM-1・cm-1
0.5:1molの過酸化水素により生成されるキノンイミン色素のmol数
df:希釈係数
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、それらの例により何ら限定されるものではない。
(Coniochaeta属由来アマドリアーゼの調製)
(1)組換え体プラスミドpKK223−3−CFP−T7 DNAの調製
Coniochaeta属由来アマドリアーゼ遺伝子(配列番号2)の組換え体プラスミドを有する大腸菌JM109(pKK223−3−CFP−T7)株(国際公開第2007/125779号参照)を、3mlのLB−amp培地[1%(w/v)バクトトリプトン、0.5%(w/v)ペプトン、0.5%(w/v)NaCl、50μg/ml アンピシリン]に接種して、37℃で16時間振とう培養し、培養物を得た。
この培養物を10,000×gで、1分間遠心分離することにより集菌して菌体を得た。この菌体より、GenElute Plasmid Mini−Prep Kit(シグマアルドリッチ社製)を用いて組換え体プラスミドpKK223−3−CFP−T7を抽出して精製し、2.5μgの組換え体プラスミドpKK223−3−CFP−T7 DNAを得た。
(2)組換え体プラスミドpKK223−3−CFP−T7 DNAの部位特異的改変操作
得られた組換え体プラスミドpKK223−3−CFP−T7 DNAを鋳型として、配列番号3、4の合成オリゴヌクレオチド、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を用い、以下の条件でPCR反応を行った。
すなわち、10×KOD−Plus−緩衝液を5μl、dNTPが各2mMになるよう調製されたdNTPs混合溶液を5μl、25mMのMgSO溶液を2μl、鋳型となるpKK223−3−CFP−T7 DNAを50ng、上記合成オリゴヌクレオチドをそれぞれ15pmol、KOD−Plus−を1Unit加えて、滅菌水により全量を50μlとした。調製した反応液をサーマルサイクラー(エッペンドルフ社製)を用いて、94℃で2分間インキュベートし、続いて、「94℃、15秒」−「50℃、30秒」−「68℃、6分」のサイクルを30回繰り返した。
反応液の一部を1.0%アガロースゲルで電気泳動し、約6,000bpのDNAが特異的に増幅されていることを確認した。こうして得られたDNAを制限酵素DpnI(NEW ENGLAND BIOLABS社製)で処理し、残存している鋳型DNAを切断した後、大腸菌JM109を形質転換し、LB−amp寒天培地に展開した。生育したコロニーをLB−amp培地に接種して振とう培養し、上記(1)と同様の方法でプラスミドDNAを単離した。該プラスミド中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列を、マルチキャピラリーDNA解析システムApplied Biosystems 3130xlジェネティックアナライザ(Life Technologies社製)を用いて決定し、その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の62位のアルギニンがアラニンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223−3−CFP−T7−62A)を得た。
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の62位のアルギニンをセリンに置換するために、組換え体プラスミドpKK223−3−CFP−T7 DNAを鋳型として、配列番号4、5の合成オリゴヌクレオチド、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の62位のアルギニンがセリンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223−3−CFP−T7−62S)を得た。
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の63位のロイシンをアラニンに置換するために、組換え体プラスミドpKK223−3−CFP−T7 DNAを鋳型として、配列番号6、7の合成オリゴヌクレオチド、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の63位のロイシンがアラニンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223−3−CFP−T7−63A)を得た。
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の64位のアルギニンをセリンに置換するために、組換え体プラスミドpKK223−3−CFP−T7 DNAを鋳型として、配列番号8、9の合成オリゴヌクレオチド、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の64位のアルギニンがセリンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223−3−CFP−T7−64S)を得た。
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の64位のアルギニンをアスパラギン酸に置換するために、組換え体プラスミドpKK223−3−CFP−T7 DNAを鋳型として、配列番号9、10の合成オリゴヌクレオチド、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の64位のアルギニンがアスパラギン酸に置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223−3−CFP−T7−64D)を得た。
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の64位のアルギニンをグルタミン酸に置換するために、組換え体プラスミドpKK223−3−CFP−T7 DNAを鋳型として、配列番号9、11の合成オリゴヌクレオチド、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の64位のアルギニンがグルタミン酸に置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223−3−CFP−T7−64E)を得た。
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の64位のアルギニンをヒスチジンに置換するために、組換え体プラスミドpKK223−3−CFP−T7 DNAを鋳型として、配列番号9、12の合成オリゴヌクレオチド、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の64位のアルギニンがヒスチジンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223−3−CFP−T7−64H)を得た。
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の261位のチロシンをフェニルアラニンに置換するために、組換え体プラスミドpKK223−3−CFP−T7 DNAを鋳型として、配列番号13、14の合成オリゴヌクレオチド、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の261位のチロシンがフェニルアラニンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223−3−CFP−T7−261F)を得た。
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の261位のチロシンをアスパラギンに置換するために、組換え体プラスミドpKK223−3−CFP−T7 DNAを鋳型として、配列番号14、15の合成オリゴヌクレオチド、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の261位のチロシンがアスパラギンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223−3−CFP−T7−261N)を得た。
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の261位のチロシンをトリプトファンに置換するために、組換え体プラスミドpKK223−3−CFP−T7 DNAを鋳型として、配列番号14、16の合成オリゴヌクレオチド、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の261位のチロシンがトリプトファンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223−3−CFP−T7−261W)を得た。
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の263位のグリシンをセリンに置換するために、組換え体プラスミドpKK223−3−CFP−T7 DNAを鋳型として、配列番号17、18の合成オリゴヌクレオチド、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の263位のグリシンがセリンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223−3−CFP−T7−263S)を得た。
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の355位のアラニンをヒスチジンに置換するために、組換え体プラスミドpKK223−3−CFP−T7 DNAを鋳型として、配列番号19、20の合成オリゴヌクレオチド、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の355位のアラニンがヒスチジンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223−3−CFP−T7−355H)を得た。
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の355位のアラニンをアスパラギン酸に置換するために、組換え体プラスミドpKK223−3−CFP−T7 DNAを鋳型として、配列番号20、21の合成オリゴヌクレオチド、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の355位のアラニンがアスパラギン酸に置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223−3−CFP−T7−355D)を得た。
続いて、配列番号1記載のアミノ酸配列の417位のアルギニンをヒスチジンに置換するために、組換え体プラスミドpKK223−3−CFP−T7 DNAを鋳型として、配列番号22、23の合成オリゴヌクレオチド、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の417位のアルギニンがヒスチジンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223−3−CFP−T7−417H)を得た。
(3)各種改変型アマドリアーゼの生産
上記の手順により得られた上記組換え体プラスミドを保持するそれぞれの大腸菌JM109株を、0.1mMのIPTGを添加したLB−amp培地3mlにおいて、30℃で16時間培養した。得られた各培養菌体を20mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で洗浄した後、同緩衝液に懸濁して超音波破砕処理を行い、20,000×gで10分間遠心分離して、基質特異性確認のための酵素液0.6mlを調製した。
(4)αFL/αFVH、αFA/αFVH、αFG/αFVHおよびαFV/αFVHの測定
上述の酵素液を用いて、上記のB:活性測定法に示した方法により、αFVHに対するαFL、αFA、αFGまたはαFVの酵素活性を測定した。また、比較のために、大腸菌JM109(pKK223−3−CFP−T7)株から生産した改変前のアマドリアーゼについても、同様の測定を行った。なお、活性測定にはpH7.0に調整した試薬1:パーオキシダーゼ、4−アミノアンチピリン溶液を用いた。
その結果、上述の酵素活性測定の結果から得られた大腸菌JM109(pKK223−3−CFP−T7)株によって生産される改変前のアマドリアーゼのαFL/αFVHは1.53であり、αFA/αFVHは2.86であり、αFG/αFVHは0.16であり、αFV/αFVHは3.07であった。
これに対し、部位特異的変異導入により作製した改変後の各種のアマドリアーゼのαFL/αFVH、および改変前のアマドリアーゼのαFL/αFVHの値を100%とした時の改変後のアマドリアーゼのαFL/αFVHの比率を算出した。同様に、αFA/αFVH、αFG/αFVHおよびαFV/αFVHに対しても算出し、結果を表1に示した。表中のデータにおいて、上段の数値はαFVHの反応性に対する各種糖化アミノ酸の反応性の割合であり、下段の数値はCFP−T7の反応性を100とした場合の、変異導入後の反応性の比率である。
Figure 0006363327
すなわち、表1に示す通り、本実施例の条件下では、CFP−T7のαFL/αFVHを100%とした場合に対して、CFP−T7−64Hを除く全ての改変型アマドリアーゼのαFL/αFVHは、いずれも87%以下にまで低下し、顕著なものでは77%まで低下し、特に、CFP−T7−62SおよびCFP−T7−64Dにおいては62%まで低下し、さらに、CFP−T7−261Fにおいては28%まで低下し、さらに、CFP−T7−261Wにおいては17%まで低下し、基質特異性が改善されていることがわかった。
CFP−T7のαFL/αFVHを100%とした場合に対して、改変型アマドリアーゼのαFL/αFVHが65%以下まで低下すると、輸液中に最も多く含まれ得るαFLよりもαFVHが優先的に反応することとなるために、このような改変は特に有用であると考えられる。
同様に、CFP−T7のαFA/αFVHを100%とした場合に対して、CFP−T7−62Aを除く全ての改変型アマドリアーゼのαFA/αFVHは、いずれも94%以下にまで低下し、顕著なものでは67%まで低下し、特に、CFP−T7−355Hにおいては54%まで低下し、さらに、CFP−T7−62Sにおいては47%まで低下し、さらに、CFP−T7−355Dにおいては33%まで低下し、さらに、CFP−T7−261Wにおいては28%まで低下し、基質特異性が改善されていることがわかった。
同様に、CFP−T7のαFG/αFVHを100%とした場合に対して、表1に示す全ての改変型アマドリアーゼのαFG/αFVHは、いずれも81%以下にまで低下し、より顕著なものでは69%以下まで低下し、特に、CFP−T7−355Dにおいては50%まで低下し、さらに、CFP−T7−64EおよびCFP−T7−261Fにおいては31%まで低下し、さらに、CFP−T7−62S、CFP−T7−64S、CFP−T7−64DおよびCFP−T7−261Wにおいては25%まで低下し、基質特異性が改善されていることがわかった。
さらに同様に、CFP−T7のαFV/αFVHを100%とした場合に対して、表1に示す全ての改変型アマドリアーゼのαFV/αFVHは、いずれも94%以下にまで低下し、顕著なものでは81%まで低下し、特に、CFP−T7−62Sにおいては63%まで低下し、さらに、CFP−T7−261WおよびCFP−T7−355Hにおいては51%まで低下し、さらに、CFP−T7−261Fにおいては44%まで低下し、基質特異性が改善されていることがわかった。
さらに、CFP−T7−355Dは、αFL/αFVH、αFA/αFVH、αFG/αFVHおよびαFV/αFVH、全てにおいて少なくともCFP−T7と比較して69%以下にまで低下し、同様にCFP−T7−62Sは少なくとも63%まで低下し、同様にCFP−T7−261Wは少なくとも51%まで低下する有用な変異であった。
一方、CFP−T7−64Hは、αFA、αFGおよびαFVへの反応はCFP−T7に比べて顕著に低減しているにも関わらず、αFLに対しては反応性が向上することが分かった。また、CFP−T7−62Aは、αFL、αFGおよびαFVへの反応はCFP−T7に比べて顕著に低減しているにも関わらず、αFAに対しては反応性が向上することが分かった。
このように、いくつかの位置に置換を導入することにより、αFVHを測定する際の誤差原因物質となり得るαFGおよびαFVへの反応を低減できた。また、置換の位置やアミノ酸の種類により効果の有無や程度には差がみられたが、αFLまたはαFAに対しても反応性を低減できる複数の置換を見出した。
なお、国際公開第2004/104203号において、カーブラリア・クラベータYH923由来のケトアミンオキシダーゼの62位のアルギニンをヒスチジンに置換することにより、αFVHへの反応性に対するεFZK(ε−フルクトシル−(α−ベンジルオキシカルボニルリジン)に対する反応性の割合であるεFZK/αFVHが0.95から0.24へと低減することが開示されていたため、配列番号1記載のアミノ酸配列の62位のアルギニンをヒスチジンに置換した場合の効果についても検証した。
具体的には、組換え体プラスミドpKK223−3−CFP−T7 DNAを鋳型として、配列番号4、24の合成オリゴヌクレオチド、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を用い、上記と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号1記載のアミノ酸配列の62位のアルギニンがヒスチジンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223−3−CFP−T7−62H)を得た。得られた組換え体プラスミドを用いて上記の方法で培養して、各種改変型アマドリアーゼの粗酵素液0.6mlを調製した。
C.試薬の調製
試薬4:基質溶液(60mM; 終濃度2mM)
αFVH 250mg、εFK 185mgをイオン交換水に溶解し、10mlに定容する。
上述の酵素液を用いて、上記のB:活性測定法において試薬3の代わりに試薬4を用いた方法により、αFVHに対するFKの酵素活性を測定した。また、比較のために、大腸菌JM109(pKK223−3−CFP−T7)株から生産した改変前のアマドリアーゼについても、同様の測定を行った。なお、活性測定にはpH7.5に調整した試薬1:パーオキシダーゼ、4−アミノアンチピリン溶液を用いた。
その結果、大腸菌JM109(pKK223−3−CFP−T7)株によって生産される改変前のアマドリアーゼのεFK/αFVHは0.18であり、大腸菌JM109(pKK223−3−CFP−T7−62H)株によって生産される、62位のアミノ酸をヒスチジンに置換する変異導入後のアマドリアーゼのεFK/αFVHは0.26であった。つまり、CFP−T7においては、62位のアルギニンをヒスチジンに置換することは、基質特異性を逆に悪化させ、カーブラリア・クラベータYH923由来のケトアミンオキシダーゼにおけるεFZKを用いた基質特異性改変知見と逆の効果を奏することが確認された。
(基質特異性改善に有効な変異の蓄積)
表2に示した各種組換え体プラスミドDNAを鋳型として、合成オリゴヌクレオチド(配列番号4、5、18、19、20、21、25)、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を用い、上記(2)と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109株の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。
これにより、その結果、261位のチロシンがトリプトファンに置換され、かつ263位のグリシンがセリンに置換された二重変異体であるpKK223−3−CFP−T7−261W/263S、62位のアルギニンがセリンに置換され、261位のチロシンがトリプトファンに置換され、かつ263位のグリシンがセリンに置換された三重変異体であるpKK223−3−CFP−T7−62S/261W/263S、261位のチロシンがトリプトファンに置換され、263位のグリシンがセリンに置換され、かつ355位のアラニンがヒスチジンに置換された三重変異体であるpKK223−3−CFP−T7−261W/263S/355H、261位のチロシンがトリプトファンに置換され、263位のグリシンがセリンに置換され、かつ355位のアラニンがアスパラギン酸に置換された三重変異体であるpKK223−3−CFP−T7−261W/263S/355D、62位のアルギニンがセリンに置換され、261位のチロシンがトリプトファンに置換され、263位のグリシンがセリンに置換され、かつ355位のアラニンがヒスチジンに置換された四重変異体であるpKK223−3−CFP−T7−62S/261W/263S/355H、62位のアルギニンがセリンに置換され、261位のチロシンがトリプトファンに置換され、263位のグリシンがセリンに置換され、かつ355位のアラニンがアスパラギン酸に置換された四重変異体であるpKK223−3−CFP−T7−62S/261W/263S/355Dを得た。
そして、配列番号1記載のアミノ酸配列に表2中の「アミノ酸変異」の欄に記載した複数のアミノ酸置換が導入された改変型アマドリアーゼを生産する大腸菌JM109株を得た。
上記のようにして得られた改変型アマドリアーゼ生産能を有する大腸菌JM109株を、上記(3)記載の方法で培養して、各種改変型アマドリアーゼの粗酵素液0.6mlを調製した。
上述の酵素液を用いて、上記のB:活性測定法に示した方法により、αFVHに対するαFL、αFA、αFGまたはαFVの酵素活性を測定した。なお、活性測定にはpH7.0に調整した試薬1:パーオキシダーゼ、4−アミノアンチピリン溶液を用いた。結果を表2に示す。表中のデータにおいて、上段の数値はαFVHの反応性に対する、各種糖化アミノ酸の反応性の割合であり、下段の数値はCFP−T7の反応性を100とした場合の、変異導入後の反応性の比率である。
Figure 0006363327
すなわち、表2に示す通り、実施例1で確認された各種の単独変異を組み合わせて作製した各種多重変異体においては、ほとんどの場合、基質特異性が顕著に改善した。
具体的には、261位のチロシンがトリプトファンに置換され、かつ263位のグリシンがセリンに置換された二重変異体におけるαFL/αFVHは、CFP−T7のαFL/αFVHを100%とした場合に対して17%であり、αFA/αFVHは、CFP−T7のαFA/αFVHを100%とした場合に対して30%であり、αFG/αFVHは、CFP−T7のαFG/αFVHを100%とした場合に対して25%であり、αFV/αFVHは、CFP−T7のαFV/αFVHを100%とした場合に対して44%であった。
さらに同様に、62位のアルギニンがセリンに置換され、261位のチロシンがトリプトファンに置換され、かつ263位のグリシンがセリンに置換された三重変異体におけるαFL/αFVHは7%であり、αFA/αFVHは5%であり、αFG/αFVHは6%であり、αFV/αFVHは17%であった。
さらに同様に、前記三重変異体に対して変異を蓄積させた62位のアルギニンがセリンに置換され、261位のチロシンがトリプトファンに置換され、263位のグリシンがセリンに置換され、かつ355位のアラニンがアスパラギン酸に置換された四重変異体におけるαFL/αFVHは2%であり、αFA/αFVHは2%であり、αFG/αFVHは0%であり、αFV/αFVHは6%であり、CFP−T7と比較して顕著に改善した。
すなわち、得られたさらなる多重変異体の基質特異性は段階的に改善しており、実施例1で確認された本発明の変異点を適宜組み合わせることによって、一層優れた基質特異性を有するアマドリアーゼが作出され得ることが明らかとなった。
(本発明のアマドリアーゼにおける各種糖化アミノ酸に対する反応性の低下)
次に、改変型アマドリアーゼを用いて、αFVHの反応性に対するαFL、αFA、αFG、αFV以外の糖化アミノ酸、すなわちαFI、α−フルクトシルスレオニン(αFT)、α−フルクトシルメチオニン(αFM)、α−フルクトシルフェニルアラニン(αFF)、α−フルクトシルセリン(αFS)、α−フルクトシルグルタミン酸(αFE)、εFK、β−フルクトシルアラニン(βFA)の反応性についても評価した。
D.:試薬の調製
試薬5:アマドリアーゼ溶液
配列番号1記載のアマドリアーゼ、及び配列番号1記載のアマドリアーゼの62位のアルギニンがセリンに置換され、261位のチロシンがトリプトファンに置換され、263位のグリシンがセリンに置換され、かつ355位のアラニンがアスパラギン酸に置換された改変型のアマドリアーゼ(以降CFP−T7−62S/261W/263S/355Dと表記)を実施例1(3)と同様に調製した。
試薬6:基質溶液(60mM; 終濃度2mM)
αFVH 250mg、αFL 176mg、αFA 151mg、αFG 142mg、αFV 167mg、αFI 176mg、αFT 169mg、αFF 196mg、αFM 187mg、αFS 160mg、αFE 185mg、εFK 185mgまたはβFA 151mgをイオン交換水に溶解し、10mlに定容する。
上記のB:活性測定法において酵素液の代わりに試薬5を、試薬3の代わりに試薬6を用いた方法により、αFVHに対する各種糖化アミノ酸の酵素活性を測定した。なお、活性測定にはpH6.5に調整した試薬1:パーオキシダーゼ、4−アミノアンチピリン溶液を用いた。
以上のように測定した活性値から、αFVHの活性値を1とした場合のαFLの活性値に相当するαFL/αFVHを算出した。αFA、αFV、αFG、αFI、αFT、αFF、αFS、αFM、αFE、εFK、またはβFAに対しても同様にして、αFA/αFVH、αFV/αFVH、αFG/αFVH、αFI/αFVH、αFT/αFVH、αFF/αFVH、αFS/αFVH、αFM/αFVH、αFE/αFVH、εFK/αFVHまたはβFA/αFVHを算出した。比較例としてCFP−T7、実施例としてCFP−T7−62S/261W/263S/355Dを用いた。また、本発明の変異導入前の反応性の割合(比率1)に対する、変異導入後の反応性の割合(比率2)の比率を算出した(比率2/比率1)。以上の結果を表3に示す。
Figure 0006363327
表3に示す通り、本実施例の条件下では、CFP−T7のαFL/αFVHは95%となった。これに対し、CFP−T7の62位のアルギニンがセリンに置換され、261位のチロシンがトリプトファンに置換され、263位のグリシンがセリンに置換され、かつ355位のアラニンがアスパラギン酸に置換された改変型のアマドリアーゼのαFL/αFVHは3%であり、CFP−T7と比較して0.03まで低減し、すなわち97%もαFL/αFVHを低減することができ、基質特異性が顕著に改善した。
さらに、CFP−T7のαFA/αFVHは151%であり、改変型のアマドリアーゼのαFA/αFVHは2%であり、CFP−T7と比較して0.01まで低減し、すなわち99%もαFA/αFVHを低減することができ、基質特異性が顕著に改善した。
さらに、CFP−T7のαFV/αFVHは225%であり、改変型のアマドリアーゼのαFV/αFVHは7%であり、CFP−T7と比較して0.03まで低減し、すなわち97%もαFV/αFVHを低減することができ、基質特異性が顕著に改善した。
さらに、CFP−T7のαFI/αFVHは269%であり、改変型のアマドリアーゼのαFI/αFVHは8%であり、CFP−T7と比較して0.05まで低減し、すなわち95%もαFI/αFVHを低減することができ、基質特異性が顕著に改善した。
さらに、CFP−T7のαFM/αFVHは244%であり、改変型のアマドリアーゼのαFM/αFVHは4%であり、CFP−T7と比較して0.02まで低減し、すなわち98%もαFM/αFVHを低減することができ、基質特異性が顕著に改善した。
αFL、αFA、αFV、αFI、αFM以外の糖化アミノ酸、具体的にはαFG、αFT、αFF、αFS、αFE、εFK、またはβFAに対しても、反応性が少なくとも0.5まで低下し、より顕著なものは0.29まで低下し、さらに顕著なものは0.14まで低下し、さらに顕著なものは0.04まで低下した。すなわち、改変前の反応性の割合を100%とした場合に、改変後の反応性の割合は、少なくとも50%まで低下し、より顕著なものは71%まで低下し、さらに顕著なものは86%まで低下し、さらに顕著なものは96%まで低下し、基質特異性が改善された。
以上より、CFP−T7の62位のアルギニンがセリンに置換され、261位のチロシンがトリプトファンに置換され、263位のグリシンがセリンに置換され、かつ355位のアラニンがアスパラギン酸に置換された改変型のアマドリアーゼは、糖化アミノ酸の影響を低減させ、αFVHに特異的に反応することが可能であることが示唆された。
(αFV、αFLまたはεFKが共存するフルクトシルペプチド試料の測定)
(5)αFV、αFLまたはεFKを含むフルクトシルペプチド試料の調製
(試薬7)に記載したαFVH、若しくはαFVの溶液を混合し、イオン交換水で希釈することで、0.6mM αFVH溶液、0.6mM αFV溶液、0.12mM αFV溶液、0.06mM αFV溶液、0.6mM αFL溶液、0.12mM αFL溶液、0.6mM εFK溶液を調製した。
0.6mM αFVH溶液に等量のイオン交換水、あるいは0.6mM αFV溶液、あるいは0.6mM αFL溶液、あるいは0.6mM εFK溶液を混合することで、0.3mM αFVH溶液、あるいは0.3mM αFVとの混合溶液、あるいは0.3mM αFLとの混合溶液、あるいは0.3mM εFKとの混合溶液とした。
同様にして、0.6mM αFVH溶液に0.12mM αFV溶液、あるいは0.06mM αFV溶液、あるいは0.12mM αFL溶液を混合することで、0.3mM αFVH溶液と0.06mM αFVとの混合溶液、あるいは0.03mM αFVとの混合溶液、あるいは0.06mM αFLとの混合溶液とした。
(6)αFV、αFLまたはεFKを含むフルクトシルペプチド試料の測定
(試薬7)
アマドリアーゼ溶液
比較例:5.0U/ml CFP−T7
実施例:21.0U/ml CFP−T7−62S/261W/263S/355D
(試薬8)
6.3U/ml パーオキシダーゼ(キッコーマンバイオケミファ社製)
0.62mM 4−アミノアンチピリン(和光純薬工業社製)
0.7mM TOOS(同仁化学研究所社製)
126mM リン酸緩衝液(pH6.5)
25μlの(試薬7)に150μlの(試薬8)を加え、37℃で5分間加温した。次いで上記(5)で調製した35μlのフルクトシルペプチド試料あるいはαFV、αFLまたはεFKとの混合試料を添加して反応を開始し、37℃で5分間反応後の波長545nmにおける吸光度を自動分析装置Bio Majesty JCA‐BM1650(日本電子)で測定した。試料の代わりにイオン交換水を用いて同様に操作して測定した波長545nmにおける吸光度(試薬ブランク)を対照として、下記の式により、それぞれの試料を測定した場合の吸光度変化量を算出した。

吸光度変化量=ΔAes−Ae0
ΔAes:反応開始から5分経過後の吸光度
ΔAe0:対照液を添加した場合の反応開始から5分経過後の吸光度

得られた各吸光度変化量を用いて、0.3mM αFVHのみを含む試料を測定した時の吸光度変化量を1とした場合の、αFVHに加えてαFVH以外の糖化アミノ酸を混合させた試料を測定した時の吸光度変化量の割合を求めた。
具体的には、まず、CFP−T7を用いて、0.3mM αFVHのみを含む試料を測定した時の吸光度変化量を求めた。また、0.3mM αFVHおよび0.3mM、0.06mMまたは0.03mM αFVを含む混合試料を測定した時の吸光度変化量を求めた。そして、0.3mM αFVHのみを含む試料を測定した時の吸光度変化量を1とした場合の、0.3mM、0.06mMまたは0.03mM αFV混合試料を測定した時の吸光度変化量割合である「ΔA(αFVH+αFV)/ΔAαFVH」を算出した。
同様に、0.3mM αFVHまたは0.3mM、0.06mM αFLを含む混合試料を測定した時の吸光度変化量を求め、0.3mM αFVHのみを含む試料を測定した時の吸光度変化量を1とした場合の0.3mMまたは0.06mM αFL混合試料を測定した時の吸光度変化量の割合である「ΔA(αFVH+αFL)/ΔAαFVH」を算出した。
同様に、0.3mM αFVHおよび0.3mM εFKを含む混合試料を測定した時の吸光度変化量を求め、0.3mM αFVHのみを含む試料を測定した時の吸光度変化量を1とした場合の0.3mM εFK混合試料を測定した時の吸光度変化量の割合である「ΔA(αFVH+εFK)/ΔAαFVH」を算出した。
一方、CFP−T7に代えて、CFP−T7−62S/261W/263S/355Dを用いて、同様に、上述の各試料を測定し、その吸光度変化量から、「ΔA(αFVH+αFV)/ΔAαFVH」「ΔA(αFVH+αFL)/ΔAαFVH」「ΔA(αFVH+εFK)/ΔAαFVH」を算出した。そして、各々について、双方を比較した。結果を表4に示す。表中、右から3列目の数値は、CFP−T7を用いて、0.3mM αFVHのみを含む試料を測定した時の吸光度変化量を1とした場合の、αFVHに加えて右から4列目に記載の糖化アミノ酸を混合させた試料を測定した時の吸光度変化量の割合である。また、表中、右から2列目の数値は、CFP−T7−62S/261W/263S/355Dを用いて、同様に各試料を測定した場合の、0.3mM αFVHのみを含む試料を測定した時の吸光度変化量を1とした場合の、αFVHに加えて右から4列目に記載の糖化アミノ酸を混合させた試料を測定した時の吸光度変化量の割合である。
Figure 0006363327
表4から明らかなように、CFP−T7−62S/261W/263S/355Dを含む試薬を用いて測定した「ΔA(αFVH+αFV)/ΔAαFVH」、「ΔA(αFVH+αFL)/ΔAαFVH」、「ΔA(αFV+εFK)/ΔAαFVH」は、全て、本発明の置換を導入する前のCFP−T7を含む試薬を用いて得られた値よりも低値であった。すなわち、本発明の置換を導入することにより、混合させるαFVH以外の糖化アミノ酸の測定値に与える影響が低減していることが確認された。
表4中、最右列には、上述の「混合させるαFVH以外の糖化アミノ酸の測定値に与える影響が低減」した度合を「糖化アミノ酸の影響低減率(%)」として示した。この数値は、右から3列目の数値と右から2列目の数値の差分(減少分)を計算し、これを右から3列目の数値で割ることにより算出される。
具体的には、CFP−T7に代えてCFP−T7−62S/261W/263S/355Dを用いた場合は、0.3mM αFLを混合させた時に、αFVHのみを測定する場合よりも測定値が高値に出る度合が53%減少した。また、0.06mM αFLを混合させた時には、24%減少することが分かった。また、0.3mM αFVを混合させた時には、αFVの影響が41%減少し、0.06mM αFVを混合させた時には、18%減少し、0.03mM αFVを混合させた時には、9%減少することが分かった。また同様に、CFP−T7よりもCFP−T7−62S/261W/263S/355Dを用いた場合は、0.3mM εFKを含んでいる時には、εFKの影響が8%減少することが分かった。
また、表4より、0.06mMのαFLまたは0.03mMのαFVを混合した場合、つまり終濃度が10μMのαFLまたは5μMのαFVが共存している場合において、CFP−T7−62S/261W/263S/355Dを用いることにより、共存するαFLまたは5μMのαFVの影響は5%以内に抑えられ、正確にαFVHを測定できることが分かった。
生物試料分析 Vol27, p97−103, 2004によれば、高カロリーアミノ酸輸液であるユニカリック(登録商標)を投与した患者の血液中に含まれる糖化アルブミンを酵素法で測定した際に、糖化アルブミン量を血清アルブミン量で割って得られる値が、HPLC法による測定値と比較して平均6.88%高いことが示されている。この知見を元に、血清アルブミン量を3.8g/dL、アルブミンの分子量を66,000として計算を行った場合、ユニカリック(登録商標)の投与により、血中の糖化アミノ酸濃度が39.4μM上昇すると考えられる。また、ユニカリック(登録商標)にはL−ロイシンが12.9%、L−バリンが9.6%含まれていることから、これらの全量が糖化されたと仮定すると、高カロリーアミノ酸輸液に由来して体内へと混入した39.4μMの糖化アミノ酸のうち、αFLは5μMが含まれ、αFVは4μMが含まれることになる。
例えば、上記のような値をもとに、CFP−T7−62S/261W/263S/355Dの効果を推定してみると、CFP−T7−62S/261W/263S/355Dは10μMのαFLまたは5μMのαFVが共存しても、ほとんど影響を受けず、正確にαFVHを測定できると考えられ、ユニカリック(登録商標)を投与された患者の血液中に持ち込まれると予測される糖化アミノ酸による影響を受ける可能性は顕著に低いことが示唆される。すなわち、本発明の置換を導入したアマドリアーゼを用いることにより、従来課題とされていた高カロリーアミノ酸輸液由来の糖化アミノ酸の影響をほとんど受けることなく、αFVHを簡便かつ精度よく定量できることが分かった。
(各種アマドリアーゼへの点変異導入)
本発明の知見は、まずConiochaeta属由来のアマドリアーゼを用いて検証されたが、上述の通り、配列同一性に基づく公知の整列処理による情報を参考にして、その他の生物種由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列における対応する位置に同様な変異を導入することにより、同様な効果を奏することが期待できるという示唆を与え得る。そこで、発明者らは、実際に本発明の知見を、Coniochaeta属由来のアマドリアーゼ以外の複数のアマドリアーゼにも導入して、この検証を行った。
1.Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼ遺伝子への点変異導入
配列番号30はNeocosmospora vasinfecta由来ケトアミンオキシダーゼのアミノ酸配列であり、配列番号30のアミノ酸配列をコードする遺伝子(配列番号36)を挿入した組換え体プラスミドpET22b―NvFXを大腸菌で発現させることにより、Neocosmospora vasinfecta由来ケトアミンオキシダーゼの活性が確認されている(国際公開第2012/18094号パンフレット参照)。
Neocosmospora vasinfecta由来ケトアミンオキシダーゼに基質特異性改善型変異を導入するために、組換え体プラスミドpET22b―NvFXを鋳型にして、配列番号37、38の合成オリゴヌクレオチド、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を用い、実施例1と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号30記載のアミノ酸配列の62位のアルギニンがセリンに置換されたNeocosmospora vasinfecta由来ケトアミンオキシダーゼ遺伝子をコードする組換え体プラスミド(pET22b―NvFX−62S)を得た。
そして、実施例1と同様の条件で大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、大腸菌BL21(DE3)(pET22b―NvFX−62S)株を得た。
2.Penicillium crysogenum由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ遺伝子への点変異導入
配列番号35はフルクトシルペプチドオキシダーゼ活性を付与するために60位のセリンをグリシンへ置換したPenicillium crysogenum由来フルクトシルアミノ酸オキシダーゼのアミノ酸配列であり、配列番号35のアミノ酸配列をコードする遺伝子を挿入した組換え体プラスミドpET22b―PcFXを大腸菌で発現させることにより、Penicillium crysogenum由来フルクトシルアミノ酸オキシダーゼの活性が確認されている(国際公開第2012/18094号パンフレット参照)。
Penicillium crysogenum由来フルクトシルアミノ酸オキシダーゼに基質特異性改善型変異を導入するために、組換え体プラスミドpET22b―PcFXを鋳型にして、配列番号40、41の合成オリゴヌクレオチド、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を用い、実施例1と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号35記載のアミノ酸配列の62位のアルギニンがセリンに置換されたPenicillium crysogenum由来フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ遺伝子をコードする組換え体プラスミド(pET22b―PcFX−62S)を得た。
そして、実施例1と同様の条件で大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、大腸菌BL21(DE3)(pET22b―PcFX−62S)株を得た。
3.Aspergillus nidulans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ遺伝子への点変異導入
配列番号33はフルクトシルペプチドオキシダーゼ活性を付与するために59位のセリンをグリシンへ置換したAspergillus nidulans由来フルクトシルアミノ酸オキシダーゼのアミノ酸配列であり、配列番号33のアミノ酸配列をコードする遺伝子を挿入した組換え体プラスミドpET22b―AnFXを大腸菌で発現させることにより、Aspergillus nidulans由来フルクトシルアミノ酸オキシダーゼの活性が確認されている(国際公開第2012/18094号パンフレット参照)。
Aspergillus nidulans由来フルクトシルアミノ酸オキシダーゼに基質特異性改善型変異を導入するために、組換え体プラスミドpET22b―AnFXを鋳型にして、配列番号43、44の合成オリゴヌクレオチド、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を用い、実施例1と同様の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号33記載のアミノ酸配列の61位のアルギニンがセリンに置換されたAspergillus nidulans由来フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ遺伝子をコードする組換え体プラスミド(pET22b―AnFX−61S)を得た。
そして、実施例1と同様の条件で大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、大腸菌BL21(DE3)(pET22b―AnFX−61S)株を得た。
4.点変異を導入した各種アマドリアーゼの基質特異性改善効果の評価
上記のようにして得られた改変型アマドリアーゼ生産能を有する大腸菌BL21(DE3)(pET22b―NvFX−62S)株、大腸菌BL21(DE3)(pET22b―PcFX−62S)株、大腸菌BL21(DE3)(pET22b―AnFX−61S)株を、実施例1の方法で培養して、各種改変型アマドリアーゼの粗酵素液0.6mlを調製した。比較対象として、変異を導入する前のアマドリアーゼ生産能を有する大腸菌BL21(DE3)(pET22b―NvFX)株、大腸菌BL21(DE3)(pET22b―PcFX)株、大腸菌BL21(DE3)(pET22b―AnFX)株も、同様の方法で培養して、各種アマドリアーゼの粗酵素液0.6mlを調製した。得られた各粗酵素液をサンプルとし、実施例1(4)に準じた活性測定法に従って、各種改変型アマドリアーゼの基質特異性評価を行った。結果を表5に示す。表中のデータにおいて、上段の数値はαFVHの反応性に対する各種糖化アミノ酸の反応性の割合であり、下段の数値は改変前の各種アマドリアーゼの反応性を100とした場合の、変異導入後の反応性の比率である。
Figure 0006363327
表5に示す通り、本実施例の条件下では、NvFXのαFL/αFVHを100%とした場合に対して、NvFX−62SのαFL/αFVHは、91%まで低下した。同様に、αFA/αFVHは64%まで低下し、αFG/αFVHは68%まで低下し、αFV/αFVHは78%まで低下した。
また、PcFXのαFL/αFVHを100%とした場合に対して、PcFX−62SのαFL/αFVHは、81%まで低下した。同様に、αFA/αFVHは86%まで低下し、αFG/αFVHは36%まで低下し、αFV/αFVHは87%まで低下した。
また、AnFXのαFL/αFVHを100%とした場合に対して、AnFX−61SのαFL/αFVHは、67%まで低下した。同様に、αFA/αFVHは21%まで低下し、αFG/αFVHは30%まで低下し、αFV/αFVHは63%まで低下した。
すなわち、配列番号1に示すConiochaeta属由来のアマドリアーゼの62位のアルギニンに対応する位置のアミノ酸のセリンへの置換は、Neocosmospora vasinfecta由来ケトアミンオキシダーゼ、Penicillium crysogenum由来フルクトシルアミノ酸オキシダーゼおよびAspergillus nidulans由来フルクトシルアミノ酸オキシダーゼにおいても実際に基質特異性が改善されたアマドリアーゼの作製に有効な置換であることが確認された。

Claims (10)

  1. 以下の(i)および(ii)の性質を有するアマドリアーゼ:
    (i)配列番号1に示すアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する;
    (ii)以下の置換:
    (t)配列番号1の62位のアルギニンに対応する位置のアミノ酸のセリンへの置換;
    (u)配列番号1の63位のロイシンに対応する位置のアミノ酸のアラニンへの置換;
    (v)配列番号1の64位のアルギニンに対応する位置のアミノ酸のセリン、アスパラギン酸もしくはグルタミン酸への置換;および
    (z)配列番号1の417位のアルギニンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換;
    から選択される1以上のアミノ酸残基の置換を有し、基質終濃度5mM、pH7.0で活性を測定して、α−フルクトシルバリルヒスチジンへの反応性に対する、以下の(a)から(d):
    (a)α−フルクトシルロイシン
    (b)α−フルクトシルアラニン
    (c)α−フルクトシルグリシン
    (d)α−フルクトシルバリン
    よりなる群から選択される1以上の糖化アミノ酸への反応性の割合が、上記置換のいずれも有さないアマドリアーゼと比較して、低減している。
  2. 以下の(i)および(ii)の性質を有するアマドリアーゼ:
    (i)配列番号1に示すアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する;
    (ii)以下の置換:
    (t)配列番号1の62位のアルギニンに対応する位置のアミノ酸のセリンへの置換;
    (u)配列番号1の63位のロイシンに対応する位置のアミノ酸のアラニンへの置換;
    (v)配列番号1の64位のアルギニンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換;および
    (z)配列番号1の417位のアルギニンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換;
    から選択される1以上のアミノ酸残基の置換を有し、基質終濃度5mM、pH7.0で活性を測定して、α−フルクトシルバリルヒスチジンへの反応性に対する、以下の(b)から(d):
    (b)α−フルクトシルアラニン
    (c)α−フルクトシルグリシン
    (d)α−フルクトシルバリン
    よりなる群から選択される1以上の糖化アミノ酸への反応性の割合が、上記置換のいずれも有さないアマドリアーゼと比較して、低減している。
  3. 配列番号1に示すアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、以下の置換:
    (ab)配列番号1記載のアミノ酸配列の62位のアルギニンに対応する位置のアミノ酸のセリンへの置換、配列番号1記載のアミノ酸配列の261位のチロシンに対応する位置のアミノ酸のトリプトファンへの置換および配列番号1記載のアミノ酸配列の263位のグリシンに対応する位置のアミノ酸のセリンへの置換;
    (ae)配列番号1記載のアミノ酸配列の62位のアルギニンに対応する位置のアミノ酸のセリンへの置換、配列番号1記載のアミノ酸配列の261位のチロシンに対応する位置のアミノ酸のトリプトファンへの置換、配列番号1記載のアミノ酸配列の263位のグリシンに対応する位置のアミノ酸のセリンへの置換および配列番号1記載のアミノ酸配列の355位のアラニンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換;
    (af)配列番号1記載のアミノ酸配列の62位のアルギニンに対応する位置のアミノ酸のセリンへの置換、配列番号1記載のアミノ酸配列の261位のチロシンに対応する位置のアミノ酸のトリプトファンへの置換、配列番号1記載のアミノ酸配列の263位のグリシンに対応する位置のアミノ酸のセリンへの置換および配列番号1記載のアミノ酸配列の355位のアラニンに対応する位置のアミノ酸のアスパラギン酸への置換
    よりなる群から選択されるアミノ酸残基の置換を有し、基質終濃度5mM、pH7.0で活性を測定して、α−フルクトシルバリルヒスチジンへの反応性に対する、以下の(a)から(d):
    (a)α−フルクトシルロイシン
    (b)α−フルクトシルアラニン
    (c)α−フルクトシルグリシン
    (d)α−フルクトシルバリン
    よりなる群から選択される1以上の糖化アミノ酸への反応性の割合が、上記置換のいずれも有さないアマドリアーゼと比較して、低減している、アマドリアーゼ。
  4. 以下の(i)および(ii)の性質を有するアマドリアーゼ:
    (i)配列番号30、33または35に示すアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する;
    (ii)以下の置換:
    (t)配列番号1の62位のアルギニンに対応する位置のアミノ酸のセリンへの置換;
    (u)配列番号1の63位のロイシンに対応する位置のアミノ酸のアラニンへの置換;および
    (v)配列番号1の64位のアルギニンに対応する位置のアミノ酸のセリン、アスパラギン酸もしくはグルタミン酸への置換;
    から選択される1以上のアミノ酸残基の置換を有し、基質終濃度5mM、pH7.0で活性を測定して、α−フルクトシルバリルヒスチジンへの反応性に対する、以下の(a)から(d):
    (a)α−フルクトシルロイシン
    (b)α−フルクトシルアラニン
    (c)α−フルクトシルグリシン
    (d)α−フルクトシルバリン
    よりなる群から選択される1以上の糖化アミノ酸への反応性の割合が、上記置換のいずれも有さないアマドリアーゼと比較して、低減している。
  5. 以下の(i)および(ii)の性質を有するアマドリアーゼ:
    (i)配列番号30、33または35に示すアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する;
    (ii)以下の置換:
    (t)配列番号1の62位のアルギニンに対応する位置のアミノ酸のセリンへの置換;
    (u)配列番号1の63位のロイシンに対応する位置のアミノ酸のアラニンへの置換;および
    (v)配列番号1の64位のアルギニンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換;
    から選択される1以上のアミノ酸残基の置換を有し、基質終濃度5mM、pH7.0で活性を測定して、α−フルクトシルバリルヒスチジンへの反応性に対する、以下の(b)から(d):
    (b)α−フルクトシルアラニン
    (c)α−フルクトシルグリシン
    (d)α−フルクトシルバリン
    よりなる群から選択される1以上の糖化アミノ酸への反応性の割合が、上記置換のいずれも有さないアマドリアーゼと比較して、低減している。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載のアマドリアーゼのアミノ酸配列をコードするアマドリアーゼ遺伝子。
  7. 請求項6記載のアマドリアーゼ遺伝子を含む組換えベクター。
  8. 請求項7記載の組換えベクターを含む宿主細胞。
  9. 以下の工程:
    (i)請求項8記載の宿主細胞を培養する工程;
    (ii)宿主細胞に含まれるアマドリアーゼ遺伝子を発現させる工程;及び
    (iii)培養物からアマドリアーゼを単離する工程
    を含む、アマドリアーゼを製造する方法。
  10. 請求項1〜5のいずれか1項に記載のアマドリアーゼを含む、糖化ヘモグロビンの測定に用いるためのキット。
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