JP4224336B2 - 合成コランダムセル - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、合成コランダムセルに関する。
背景技術
六方晶系の合成コランダム(合成サファイア)は、硬度、透光性及び耐薬品性に優れているため、例えば、フッ酸等の液中に含まれる微粒子を測定する微粒子計に組み込むフローセル等として用いられている。
【0002】
このような合成コランダムからなる製品を製造するには、所定の寸法に切り出した合成コランダム片を接合することになるが、合成コランダム片のような単結晶体にあっては、結晶の方向によって熱膨張係数が異なるので、単に接合しただけでは剥離が生じ易く、フッ酸等を通すフローセルとしては不向きである。
【0003】
そこで、特公平5−79640号公報に記載されているように、単結晶の合成コランダムのインゴットを切削して第一角柱を製作し、この第一角柱の一面を赤色光波長λ(=6328Å)のλ/8以下の精度の平面度に光学研磨して第二角柱とし、この第二角柱の光学研磨面を含む4面を冶具で包囲して光学研磨面に対して垂直な面で切断して第一板片とし、次にこの第一板片の上下両面を前記同様に光学研磨して第二板片とし、次にこの第二板片を切断して切断板片として各切断板片を分離し、これら分離した複数の切断板片を組入れ冶具を用いて上下両面の光学研磨面が合うようにして結晶同平面、同稜、同軸、同軸角に一致させて重ね合わせ、各々の透明な境界面に発生する干渉縞が完全に消滅するように微小圧力を印加して、化学的加圧密着させ、更にこれを前記合成コランダムの融点2030℃より低い温度1200℃で加熱し、密着接合させるようにした一体同化した合成コランダムの単結晶構造体の製造方法が知られている。
【0004】
なお、平面度とは、平面形体(P)を幾何学的平行二平面で挟んだとき、平行二平面の間隔が最小となる湯合の、二平面の間隔(f)で表し、平面度Xmm又は平面度Xμm(Xは数値)で表示されるものである。したがって、「λ/8以下の精度の平面度」とは「平面度0.0791μm以下であること」を意味する。
【0005】
この一体同化した合成コランダムの単結晶構造体の製造方法は、第一角柱に赤色光波長のλ/8以下の精度の平面度、すなわち、平面度0.0791μm以下に光学研磨した基準面を形成し、この基準面を有する板片を第一角柱から切り出して、この板片を更に切断して複数の板片に分割し、これら複数の板片を基準面を基準にして組み合わせることで、各結晶同平面、同稜、同軸、同軸角を一致させて重ね合わせることができるので、各々の透明な境界面に発生する干渉縞が完全に消滅するように微小圧力を印加することで単なる密着状態ではなく化学的加圧密着というこれまでにない特殊な密着状態で密着させることができ、更にこれを合成コランダムの融点2030℃より低い温度1200℃という特定の温度で加熱することによって、各切断板片の境界面すら存せず、各板片が剥離しない、すなわち、一体同化した優れた合成コランダムの単結晶構造体を得ることができる。
【0006】
しかしながら、この一体同化した合成コランダムの単結晶構造体の製造方法によって合成コランダムセルを製造するためには、通常は円柱をなすインゴットを切削して角柱を製作し、この角柱の一面を平面度0.0791μmという極めて小さな値になるように研磨しなければならず、しかも、この角柱から切り出した板片についても平面度0.0791μmという極めて小さな値になるように研磨しなければならない上、1200℃という特定の温度管理をしなければならないため、製造工程が複雑で、極めて高精度の研磨が要求されるために製造工程が非効率的であり、工程管理も難しく、実用的な製造方法ではなく、この製造方法によって製造する合成コランダムセルのコストは極めて高くなる。
【0007】
そこで、本発明者は、上述した従来の技術のような非実用的な技術ではなく、平面度をある程度大きな値にしても簡単な工程で合成コランダムを接合できる実用的な技術を開発するための研究を重ね、合成コランダム片同士の研磨面を全面オプティカルコンタクト状態にして重ね合わせて加熱温度を調整しながら加熱したが、この方法では接合面に境界面ができるだけでなく、境界面にしみが発生し、光学的要求を満足することができなかった。そこで、試行錯誤を繰り返した結果、従前当然とされてきた二つの光学部材の接合面の全面をオプティカルコンタクト状態で重ね合わせるという技術常識を覆して合成コランダム片の接合面の一端部のみをオプティカルコンタクト状態にして加熱することで、境界面が存在するもののシミなどが極めて低減し光学的要求に応えられ、しかも、一体同化の程度までは強固でないものの機械的強度としても実用的なものが得られることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0008】
すなわち、本発明は上記の従来の一体同化した合成コランダムの単結晶構造体の製造方法の問題点に鑑みて創案されたものであり、簡単な製造工程で、所要の光学的特性と機械的強度が得られる合成コランダムセルを得ることを目的とする。
【0009】
発明の開示
上記の課題を解決し目的を達成するため、本発明は、合成コランダムからなる一対の柱状透光板の間に合成コランダムからなる一対の柱状スペーサ板が配置され、これら柱状透光板とスペーサ板が中心部に流体の流路を形成するように加熱によって接合された合成コランダムセルにおいて、前記柱状透光板と柱状スペーサ板は同一結晶面同士が接合され、且つ前記柱状透光板と柱状スペーサ板のうち少なくとも2つは、流路と平行な面のX線の回折角が異なる構成とした。
【0010】
ここで、合成コランダムセルをフローセル等として用いる場合には、前後の端面は光の入射および出射がない面であるので、他の面に較べて平滑性が要求されない。そこで、研磨しにくいc面を前後の端面とし、接合面はa面またはm面とすることが好ましい。
【0011】
ここで、接合面の平面度は赤色光波長λ(λ=6328Å)の1/2〜1/6の範囲内、すなわち平面度0.3164μm〜0.10546μmにすることが好ましい。接合面の平面度がλ/2より大きい(平面度>λ/2)と十分な接合状態が得られないことがあり、λ/6より小さい平面度(平面度<λ/6)を要求することはコストの増加につながり、実用的でない。また、加熱温度は1100℃〜1800℃の範囲内にすることが好ましい。加熱温度が1100℃未満では十分な接合強度が得られないことがあり、1800℃を越える加熱温度では加熱装置が大型化する。特に好ましくは1300℃〜1500℃の範囲内である。
【0012】
次に、上記合成コランダムセルを得るための製造方法の一例は、第1の合成コランダム片の研磨した接合面上に第2、第3の合成コランダム片の研磨した一方の接合面を重ね合わせて所定の間隔を置いて対向させ、重ね合わせた第1の合成コランダム片の接合面と第2、第3の合成コランダム片の接合面の一端部を密着状態にした後、この状態で合成コランダムの融点以下の温度で加熱することで第1の合成コランダム片と前記第2、第3の合成コランダム片を接合した積層体を形成し、更に、この積層体の第2、第3の合成コランダム片の研磨した他方の接合面上に第4の合成コランダム片の研磨した接合面を重ね合わせ、重ね合わせた第2、第3の合成コランダム片の接合面と第4の合成コランダム片の接合面の一端部を密着状態にした後、この状態で合成コランダムの融点以下の温度で加熱することで前記第2、第3の合成コランダム片と第4の合成コランダム片とを接合して合成コランダムセルとする構成とした。
【0013】
ここで、各合成コランダムの接合面の平面度及び加熱温度については上記合成コランダムの接合方法における平面度及び加熱温度を適用することが好ましい。
【0014】
なお、本明細書中において「密着状態」とは各々の面が厳密に似合った二つの表面を接着剤を用いないで密着させた状態(これを「オプティカルコンタクト」状態とも言う。)を意味する。また、「接合する」とはオプティカルコンタクト状態よりも強い(剥離強度の高い)密着状態にすることを意味する。
【0015】
発明を実施するための最良の形態
本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。なお、実施の形態としては本発明に係る合成コランダムセルであるフローセルを製造する製造方法について説明する。
【0016】
先ず、図1に示すように、円柱状の合成コランダムの結晶ブロック(インゴット)1を軸線(この例ではc軸方向となる)と直交する方向に切断して、第2又は第3の合成コランダム片として用いるスペーサ板を1又は複数枚切り出すためのスペーサ板用円板2と、第1又は第4の合成コランダム片として用いる透光板を1又は複数枚切り出すための透光板用円板3とを切り出す。
【0017】
この場合、同図では円板2の方が円板3より厚さが薄い状態で示しているが、これらの円板2、3の厚みは製作する合成コランダムセルの寸法に応じたものであればよく、同図に示すものに限定されない。
【0018】
次いで、図2(a)に示すように、スペーサ板用円板2から第2又は第3の合成コランダム片として用いる複数のスペーサ板4を切り出す。また、同図(b)に示すように、透光板用円板3から第1又は第4の合成コランダム片として用いる複数の透光板5を切り出す。ここでは、第2、第3の合成コランダム片はいずれも同寸法のスペーサ板4を、第1、第4の合成コランダム片はいずれも同寸法の透光板5を用いているが、それぞれ異なる寸法のものを用いることもできる。
【0019】
この後、図3(a)に示すように、スペーサ板4は接合面となる上下面とフローセルの貰通穴の壁面となる側面とを赤色光波長λ(λ=6328Å)の1/4程度の平面度、すなわち平面度0.1582μm程度となるように研磨して研磨面4a、4b、4cとする。
【0020】
この湯合、研磨面4a、4bの平面度は、赤色光波長入の1/4に限定されるものではないが、入の1/2〜1/6の範囲内、すなわち平面度0.3164μm〜0.10546μmの範囲内にすることが好ましい。研磨面4a、4bの平面度がλ/2より大きい(平面度>λ/2)と、後述する透光板5の接合面と合わせて一端部を密着状態にする作業に手間がかかったり、密着状態にできないことがある。また、研磨面4a、4bをλ/6より小さい平面度(平面度<λ/6)にするためには研廉に時間がかかるなど効率が悪く、コストが高くなる。
【0021】
なお、ここではスペーサ4の上下面を研磨面4a、4bにしているが、後にスペーサ4の厚みを調整するために一枚の透光板5と接合した後に接合していない面を研磨するので、この段階で上下面を研磨することは必ずしも必要でない。ただし、上下面を研磨しておくことで、研顔面4a、4bのいずれの面も接合面として透光板5の接合面と重ね合わせることができて作業性が向上し、また透光板5の接合面と相性の良い研磨面4a、4bのいずれかを選択的に使用することができ、接合精度や接合強度が向上する。また、研磨面4cは貫通穴の壁面を形成することになるので、その平面度はフローセルとして使用する場合に要求される程度の平面度に研磨すればよい。
【0022】
一方、同図(b)に示すように、透光板5についても、接合面となる上下面を赤色光波長λ(λ=6328Å)の1/4程度の平面度となるように研磨して研磨面5a、5bとする。
【0023】
この場合、研磨面5a、5bの平面度は赤色光波長λの1/4に限定されるものではないが、λの1/2〜1/6の範囲内、すなわち平面度0.3164μm〜0.10546μmの範囲内にすることが好ましい。研磨面5a、5bの平面度がλ/2より大きい(平面度>λ/2)と、スペーサ板4の接合面となる研磨面4a、4bと透光板5の接合面となる研磨面5a、5bを合わせて一端部を密着状態にする作業に手間がかかったり、密着状態にできないことがある。また、研磨面5a、5bをλ/6より小さい平面(平面度<λ/6)にするためには研磨に時間がかかるなど効率が悪く、コストが高くなる。
【0024】
なお、ここでは透光板5の上下面を研磨して研磨面5a、5bとしているが、ス
ペーサ4と接合するのは一方の面のみであるので、接合する面を予め接合面として指定しておき、その接合面のみを研磨することもでき、両面を研磨することは必ずしも必要でない。接合面を指定した湯合には、接合面でない面の平面度はフローセルとして使用する場合に要求される程度の平面度に研磨すればよい。ただし、両面を同程度の平面度に研磨しておくことで、研磨面5a、5bのいずれの面も接合面としてスペーサ4の接合面と重ね合わせることができて作業性が向上し、またスペーサ4の接合面と相性の良い研磨面5a、5bのいずれかを選択的に使用することができ、接合精度や接合強度が向上する。
【0025】
これらのスペーサ板4及び透光板5は複数枚を予め形成して任意にそれぞれ二枚のスペーサ板4及び透光板5を選択して用いることができ、これにより作業効率が向上する。もちろん、研磨の工程から二枚のスペーサ板4及び透光板5を特定して用いることもできる。また、スペーサ板4及び透光板5は、スペーサ板4、4の研磨していない側面を透光板5の側面に合わせたときに、2つのスペーサ板4の間隔が所要の間隔になるように寸法を設定している。このようにすることで接合作業の作業効率が向上する。
【0026】
そこで、図4に示すように、任意に選択した一枚の透光板5の研磨面5a、5bのいずれかの面を接合面とし(ここでは研磨面5aを接合面とする。)、任意に選択した二枚のスペーサ板4の研磨面4a、4bのいずれかの面を接合面として(ここでは研磨面4bを接合面とする。)重ね合わせて積層体6とする。
【0027】
このとき、上述したように、スペーサ板4,4の他の側面(研磨していない面)を透光板5の側面に合わせたときに予め所要の間隔Lが形成されるようにスペーサ板4及び透光板5の寸法を設定し、作業効率が向上するようにしている。
【0028】
この一枚の透光板5と二枚のスペーサ板4,4との重ね合わせは、例えば図5に示すように、治具台7上の直交する位置決めブロック8,9に前記透光板5の端面及び側面を合わせて、透光板5上に一枚のスペーサ板4の端面及び研磨していない側面をブロック8、9に突き当てて載せ置き、次いで、透光板5の反対側の端面及び側面を位置決めブロック8,9に合わせて、透光板5上に他の一枚のスペーサ板4の端面及び研磨していない側面をブロック8、9に突き当てて載せ置き、更にスペーサ板4,4の一端部を押え治具10にて押圧する。
この操作によって、側面図である図6に示すように、スペーサ板4,4の接合面
となる研磨面4bの一端部下面と透光板5の接合面となる研磨面5aの一端部上面とは、いずれも研磨していることから密着状態(オプティカルコンタクト状態)になり、スペーサ板4,4の研磨面4bの残部下面と透光板5の研磨面5aの残部上面との間には僅かな隙間gが生じる。なお、同図では説明を分りやすくするため隙間gを誇張して描いているが、実際には隙間gを視認することは困難である。
【0029】
図7は上記の積層体6の平面図であり、押え治具10にて押圧した部分においては、スペーサ板4,4の一端部下面と透光板5の一端部上面とはオプティカルコンタクト状態11となり、これ以外の部分においては、スペーサ板4,4の下面と透光板5の上面との間に空気層が介在して干渉縞12が形成される。この干渉縞12は通常積層体6の一端部から他端部に向かって間隔が狭くなるように現れる。
【0030】
なお、上記したように、スペーサ板4,4と透光板5とが一部においてオプティカルコンタクト状態にあると、当該部分において物理吸着し、積層体6はその形状を維持し得る。
【0031】
そこで、積層体6を炉の中に入れ、合成コランダムの融点2030℃よりも低い温度、例えば1300℃にて加熱することによってスペーサ板4の研磨面(接合面)と透光板5の研磨面(接合面)が強固に接合される。
【0032】
この後、炉から積層体6を取り出し、スペーサ板4,4の接合していない研磨面4aを研磨して、図8に示すようにスペーサ板4に研磨面4dを形成すると共にスペーサ板4,4の厚み調整を行なう。なお、研磨面4dの平面度については、上述した研磨面4a、4bと同様である。
【0033】
そして、図9に示すように厚み調整が終了したスペーサ板4,4の研磨面4d上に別の透光板5の研磨面(ここでは、研磨面5bとする。)を載置して積層体14とする。この後、透光板5の一端部を前記と同様にして押え治具10にて押圧し、スペーサ板4,4の接合面となる研磨面4dと新たに載せ置いた透光板5の接合面となる研磨面5bの一端部をオプティカルコンタクト状態とし、残りの部分は干渉縞が生じる状態とする。
【0034】
この後、前記と同様にして積層体14を炉の中に入れ加熱することで、スペーサ板4,4の上側に透光板5を接合する。
【0035】
このようにして二枚の透光板5、5間に二枚のスペーサ板4,4を挟んで貫通穴15を形成したコランダムセル16を得る。
【0036】
この湯合、スペーサ板4と透光板5との間には境界面が残存してスペーサ板4と透光板5とは一体同化していないが、スペーサ板4の接合面と透光板5との接合面の内の加熱前にオプティカルコンタクト状態になっていなかった部分の境界面でのシミなどの発生が極めて少なくなる。スペーサ板4の接合面と透光板5との接合面が加熱前にオプティカルコンタクト状態になっていた部分の境界面ではシミなどが発生する。
【0037】
このようにオプティカルコンタクト状態でなかった境界面におけるシミなどの発生が低減するのは、スペーサ板4の研磨面(接合面)と透光板5の研磨面(接合面)に残存していた水分や接合面を清掃する際に用いた溶剤などが加熱によって飛散するためであると推測される。これに対して、オプティカルコンタクト状態であった境界面にシミなどが発生するのは、スペーサ板4の研磨面(接合面)と透光板5の研磨面に残存していた水分や接合面を清掃する際に用いた溶剤などが、加熱してもオプティカルコンタクト状態にあるため、飛散することができなくなるためであると推測される。
【0038】
したがって、境界面にシミなどが発生している一端部は後の工程で除去して、シミなどの少ない部分のみを使用することにより、光学的にも所要の特性が得られ、機械的強度も十分なものが得られる。ただし、各合成コランダム片は一体同化していないので、大きな力が加わったときには境界面から剥離するという特質があるが、実用上は十分な機械的強度が得られる。
【0039】
しかも、従来のようにλ/8の研磨面を基準面として有する1つの板片から複数の板片を切り出して、基準面を基準とすることで複数の板片を結晶軸、同稜、同軸角に一致させて積層して加熱する湯合に比べて、本発明によれば、各合成コランダム片の結晶軸、稜、軸角がある程度ずれていても接合することができる。
【0040】
実験によれば、軸のずれが20°程度であっても光学的にもシミがほとんどない状態で強固に接合することができたが、最終製品との関係や製造工程の容易性を考慮すると、各合成コランダム片の結晶軸のずれは予め5°以内になるようにスペーサ板4及び透光板5を形成しておくことが好ましい。
【0041】
そして、コランダムセルのシミが発生する一端部を除去して所定の寸法に仕上げた後、図10(a)及び(b)に示すように両端面にテーパ加工を施すことで、目的とする合成コランダム製フローセル16が得られる。
【0042】
なお、上記実施形態においては、スペーサ板4の下面と下側の透光板5の上面との加熱接合と、スペーサ板4の上面と上側の透光板5の下面との加熱接合とを別々の工程で行なうようにしたが、同時に行なうことも可能である。
【0043】
尚、従来方法によれば、互いに接合されるコランダム片を結晶同平面、同稜、同軸、同軸角にすることで、接合面が完全に認められない化学的密着状態が得られるが、これは非現実的な手法であるのは先に述べた通りである。
【0044】
本発明に斯かる合成コランダムセルは互いに接合されるコランダム片の軸(c軸)のずれが20°程度であっても光学的に問題がないことが特長であり、以下にコランダム片の軸(c軸)のずれが生じる理由を述べる。
【0045】
図11に示すように、コランダムのバルク単結晶体(インゴット)は六方晶の単結晶がc軸方向に成長することで得られる。バルク単結晶体を得るにはCZ法或いはベルヌーイ法が一般的である。
【0046】
バルク単結晶体を構成する単位結晶は図12に示すように、c軸方向に直交するc面、c軸方向と平行なa面を有する。尚、実際のコランダム結晶はc面とa面の他に、c面とa面の間に傾斜面として存在するn面およびr面を有するが、説明を分りやすくするため、ここではn面およびr面はないものとする。そして、前記c面及びa面の両方に直交する面としてm面がある。このm面は後の切削にて形成される。
【0047】
また、図13に示すように、本実施例にあっては柱状透光板5のa面と柱状スペーサ板4のa面同士を接合し、m面を互いに接合しない面とし、更に研磨しにくいc面を流路が開口する前端面と後端面にしている。
【0048】
上記のバルク単結晶体(インゴット)1から柱状透光板5を得る手順を図14に基づいて説明する。先ずバルク単結晶体(インゴット)1をc軸と直交方向にカットする。カットした円板状体をa面に沿って切断し棒状体を得る。そして、この棒状体をm面に沿って切断し柱状透光板5を得る。
【0049】
この手順ではなく、円板状体をm面に沿って切断し棒状体を得た後、棒状体をa面に沿って切断し柱状透光板5を得るようにしてもよい。また、柱状スペーサ板4についても同様の手順でバルク単結晶体(インゴット)1からa面またはm面に沿って切断して得る。
【0050】
フローセルの場合には、c面が前端面と後端面になるようにするため、流路となる貫通穴15の軸と結晶のc軸とが平行になることを目安に作製するのであるが、前記したように、柱状透光板5(柱状スペーサ板4)をバルク単結晶体(インゴット)1から得るには、最低3回のカットを施す。そして、カットの度に不可避の切断誤差が生じ、これが累積するため、図14に示した手順の場合には、c面よりもa面の誤差が大きくなり、a面よりもm面の誤差が大きくなる。そして、本発明にあっては柱状透光板5と柱状スペーサ板4とを接合する際に、同稜、同軸、同軸角になるようにはしないため、図15に示すように、例えば、一対の柱状透光板5のc軸を比較すると平行にはなっていない。
【0051】
上記のずれを測定した結果を図16に示す。図16は一対の柱状透光板5のそれぞれのa面とm面について、c軸とのずれ角をX線回折によって測定したものである。
【0052】
従来の方法では、2つのコランダム片を、結晶同平面、同稜、同軸、同軸角となる条件で接合しているため、仮にc軸からずれていても、そのずれ角は2つの柱状透光板5において等しく、例えば、「表」において、サンプル1のa面▲1▼とa面▲2▼の値が等しくなる。
【0053】
しかしながら、前記した特殊な接合方法によって得られる本発明の合成コランダムセルの特長は、厳密に接合する結晶面さえ同一(a面同士またはm面同士)であるならば、同稜、同軸、同軸角であることには拘らないので、セルを構成する柱状スペーサ板4および柱状透光板5の流路と平行な面のc軸とのずれ角が一致しない。
【0054】
さらに、本発明に係る合成コランダムセルによれば、複数の合成コランダム片の接合申は研磨されて重ね合わされて一端部を密着状態にして合成コランダムの融点以下の温度で加熱されて接合されている構成としたので、境界面があるもののシミなどがなく所要の光学的特性を持ち、境界面から剥離するもののかなり高い剥離強度を有し、製造工程が簡単で、製造コストも廉価になる実用に適した合成コランダムセルが得られる。
【0055】
ここで、合成コランダム片の接合面の平面度を赤色光波長λの1/2〜1/6の範囲内にすることで、研磨作業効率が向上し、コランダムセルの製造をより効率的に行うことができるという効果が得られる。また、加熱温度を1100℃から1800℃の範囲内にすることで、合成コランダム片間の剥離強度として十分なものが得られ、また温度管理も容易になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】合成コランダムのインゴットからスペーサ板用円板と透光板用円板とを切り出した状態を示す説明図
【図2】(a)はスペーサ板用円板からスペーサ板を切り出した状態を示す説明図、同図(b)は透光板用円板から透光板を切り出した状態を示す説明図
【図3】(a)はスペーサ板を研磨した状態を説明する説明図、同図(b)は透光板を研磨した状態を説明する説明図
【図4】(a)は透光板上にスペーサ板をセットした積層体の斜視図、同図(b)はその側面図
【図5】治具台上で透光板上にスペーサ板をセットした積層体の一端部を押圧している状態の斜視図
【図6】一端部が押圧された積層体の他端部の隙間を誇張して示した図
【図7】一端部が押圧された積層体の平面図
【図8】加熱処理後の積層体のスペーサ板上面を研磨した状態を示す図
【図9】図8に示した積層体のスペーサ板上に別の透光板を重ねた状態を示す図
【図10】(a)は本発明方法によって製造した合成コランダムセルからなるフローセルの平面図、同図(b)はフローセルの側面図
【図11】コランダムのバルク単結晶体(インゴット)の斜視図
【図12】コランダムの結晶面を示す図
【図13】合成コランダムセルの各面と結晶面との関係を示す分解図
【図14】バルク単結晶体からコランダム片(透光板)の切出し手順を示す図
【図15】本発明に係るコランダムセルのc軸方向を示す側面図
【図16】各面の軸ずれ量を示す表
Claims (2)
- 合成コランダムからなる一対の柱状透光板の間に合成コランダムからなる一対の柱状スペーサ板が配置され、これら柱状透光板とスペーサ板が中心部に流体の流路を形成するように加熱によって接合された合成コランダムセルにおいて、前記柱状透光板と柱状スペーサ板は同一結晶面同士が接合され、且つ前記柱状透光板と柱状スペーサ板のうち少なくとも2つは、流路と平行な面のX線の回折角が異なることを特徴とする合成コランダムセル。
- 請求項1に記載の合成コランダムセルにおいて、この合成コランダムセルの前後の端面はコランダム結晶構造のc面となり、柱状透光板とスペーサ板の互いに接合される面はコランダム結晶構造のa面またはm面となるようにしたことを特徴とする合成コランダムセル。
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