JP4216519B2 - 円筒内面の加工方法および加工装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、円筒内面の加工方法および加工装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、円筒内面の加工方法としては、例えば図8に示すようなものがある。まず、図8(a)に示すように、シリンダボア1内に、先端に刃具3を備えた中ぐり加工用の加工ヘッド5を回転させつつ挿入することで、シリンダボア1の内面に対しファインボーリング工法による中ぐり加工を行う。このとき加工ヘッド5の図中で下方への往路移動で荒加工、上方への復路移動で仕上げ加工を行う。
【0003】
中ぐり加工後は、外周部に砥石7を備えたホーニング用加工ヘッド9を、シリンダボア1内に対して回転かつ往復移動させることで、図8(b)のように荒ホーニング加工を行った後、図8(c)のように仕上げホーニング加工を行う。
【0004】
ここで、シリンダボア1の図中で下方には、通常クランクシャフト支持部11などが存在し、ホーニング加工においては、ホーニング用加工ヘッド9を奥深くまでは挿入できず、シリンダボア1のクランクシャフト支持部11側付近は、ホーニング用加工ヘッド9の往復運動のストロークが不足し、加工効率の悪化を招く。
【0005】
このため、図8(c)の仕上げホーニング加工にてシリンダボア1が全体として加工径が均一になるように、図8(b)の荒ホーニング加工において、加工効率の悪い上記したクランクシャフト支持部11側付近に対し、軸方向の送り動作を一時停止させて回転のみ行わせることで、ここでの研削量を他の部位に比べて多量に行っている。
【0006】
また、特開平8−267353号公報には、シリンダボアに対する中ぐり加工において、シリンダボア下端付近での加工ヘッドの軸方向の送り速度を他の部位に比べて遅くし、シリンダボア下端付近に対する研削量を他の部位に比較して多量に行って、ホーニング加工時の研削代を少なくする加工方法が開示されている。これにより、その後のホーニング加工における加工効率の悪い部位の研削代が少なくなるようにしている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記した従来の円筒内面の加工方法では、前者のものは、仕上げホーニング加工における加工効率の悪い部位に対し、荒ホーニング加工における軸方向の送り動作を一時停止させて回転のみ行わせることから、加工時間が長くなり、また後者のものについても、ホーニング加工における加工効率の悪い部位に対し、中ぐり加工での送り速度を遅くしているので、加工時間が長くなる。
【0008】
そこで、この発明は、加工時間が長くなることなく、ホーニング加工における円筒内面の研削効率の悪い部位の研削量の取り代を少くできるようにすることを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、請求項1の発明は、先端に刃具を備えた中ぐり加工用の加工ヘッドを、円筒部材の一方の開口部から挿入し、他方の開口部に向けて移動させる往路移動の際に、前記円筒部材の内面を荒加工し、この荒加工後、前記加工ヘッドを、前記他方の開口部から前記一方の開口部に向けて移動させる復路移動の際に、前記刃具を前記加工ヘッドの中心軸線と直交する方向で前記円筒部材の内面から離反する方向に移動させて、前記他方の開口部側が大径となるよう仕上げ加工を行う円筒内面の加工方法であって、前記加工ヘッドの先端側に設けた弾性変形部内に油圧空間を設け、この油圧空間が油圧の作用を受けることで、前記加工ヘッドの中心軸線に対して直交する方向に圧力が付与される前記弾性変形部が同方向に移動変形し、前記加工ヘッドは、荒加工用の刃具と仕上げ加工用の刃具とが、外周部の互いに対向する位置に設けられ、前記弾性変形部に所定の圧力を付与して荒加工用の刃具が円筒部材の内面に向けて突出した状態で、加工ヘッドを円筒部材内を往路移動させることで荒加工を行い、この荒加工終了後に前記所定の圧力付与を解除した状態での前記仕上げ加工用の刃具の前記加工ヘッドの回転による回転軌跡円の直径が、前記荒加工用の刃具の荒加工時での前記加工ヘッドの回転による回転軌跡円の直径より大きく、前記荒加工後の前記所定の圧力付与を解除した状態での復路移動の際に、前記弾性変形部に付与する圧力を徐々に増加させつつ、前記仕上げ加工用の刃具を円筒部材の内面から離反させるよう半径方向内側へ向けて移動させて、円筒部材の他方の開口部側をその端部ほど大径となるテーパ形状に仕上げ加工する円筒内面の加工方法としてある。
請求項2の発明は、請求項1の発明の円筒内面の加工方法において、前記弾性変形部は、該弾性変形部を前記油圧空間への油圧の作用によって弾性変形させるパワーユニットを備えている。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1または2の発明の円筒内面の加工方法において、前記円筒部材はエンジンのシリンダボアであり、前記仕上げ加工により大径となるシリンダボアの他方の開口部側は、クランクケース側であり、前記仕上げ加工後に、前記シリンダボアの内面をホーニング加工するものとしてある。
【0014】
請求項4の発明は、中ぐり加工用の加工ヘッドの先端外周の互いに対向する位置に、荒加工用の刃具と仕上げ加工用の刃具とをそれぞれ設けるとともに、前記加工ヘッドの中心軸線に直交する方向でかつ、前記仕上げ加工用の刃具から荒加工用の刃具に向かう方向に圧力が付与されることで、同方向に移動変形しつつ前記各刃具を同方向に移動させる弾性変形部を前記加工ヘッドの先端側に設けた円筒内面の加工装置であって、前記弾性変形部は、内部に設けた油圧空間に油圧が作用することで、前記加工ヘッドの中心軸線に対して直交する方向に圧力が付与されて同方向に移動変形し、前記荒加工用の刃具は、加工ヘッドを円筒部材内を往路移動させる際に、前記弾性変形部に所定の圧力を付与して円筒部材の内面に向けて突出した状態で荒加工を行い、前記仕上げ加工用の刃具は、前記荒加工終了後に前記所定の圧力付与を解除した状態で、前記加工ヘッドの回転による回転軌跡円の直径が、前記荒加工用の刃具の荒加工時での前記加工ヘッドの回転による回転軌跡円の直径より大きく、かつ前記所定の圧力付与を解除した状態から前記加工ヘッドを円筒部材内を復路移動させる際に、前記弾性変形部への圧力付与の増加に伴って前記円筒部材の内面から離れる方向に移動する構成としてある。
【0015】
請求項5の発明は、請求項4の発明の構成において、前記弾性変形部は、圧力が付与されていない初期状態では、前記荒加工用の刃具が、加工ヘッドと円筒部材の各中心軸線を相互に一致させた状態で、荒加工前の円筒部材の内面に対して半径方向内側に位置する一方、前記仕上げ加工用の刃具が、荒加工後の円筒部材の内面より半径方向外側に位置している構成としてある。
請求項6の発明は、請求項4または5の発明の構成において、前記弾性変形部は、該弾性変形部を前記油圧空間への油圧の作用によって弾性変形させるパワーユニットを備えている。
【0016】
【発明の効果】
請求項1または4の発明によれば、中ぐり加工用の加工ヘッドを往復移動させ、かつ復路移動による仕上げ加工の際には、刃具を加工ヘッドの中心軸線に対し円筒部材の内面から離反する方向に移動させるようにしたので、円筒内面における軸方向の一部の加工量を多くする際に、加工ヘッドの軸方向の送り動作を一時停止させたり、送り速度を遅くする必要がないことから、加工時間の短縮化を図ることができる。
また、弾性変形部の油圧空間に対して所定の圧力を付与しつつ中ぐり加工用の加工ヘッドを往路移動させて荒加工を行い、この荒加工に続いて加工ヘッドを復路移動させて、他方の開口側端部をテーパ形状に仕上げ加工を行う際には、前記所定の圧力付与を解除した状態から、弾性変形部に付与する圧力を増加させつつ仕上げ加工用の刃具を半径方向外側位置から同内側位置へ円筒内面から離れる方向に移動させて行うので、付与する圧力を減少させながら行う場合に比べ、テーパ形状となる加工径を高精度に制御することができる。
【0017】
請求項2または6の発明によれば、油圧空間への油圧の作用によってパワーユニットが弾性変形部を弾性変形させることができる。
請求項3の発明によれば、シリンダボアにおけるクランクケース側が、中ぐり加工後のホーニング加工による加工効率の悪い部位であっても、この部位の中ぐり加工による加工量を多くしてあり、かつこの部位は開口端部側ほど大径のテーパ形状となるので、中ぐり加工後のホーニング加工では、シリンダボア内面の内径を全長にわたり均一にすることができる。
【0022】
請求項5の発明によれば、初期状態の弾性変形部に対して圧力を付与することで、荒加工用の刃具が円筒部材の内面に対して半径方向外側へ移動するので、この状態で加工ヘッドを往路移動させることで、荒加工を行うことができ、荒加工後、圧力付与を解除した後、再度圧力を付与することで、仕上げ加工用の刃具が、荒加工後の円筒部材の内面に対して半径方向外側位置から同内側位置に向かって移動するので、この移動の過程で加工ヘッドを復路移動させることにより、テーパ形状の加工を容易に行うことができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0024】
図1は、この発明の実施の一形態を示す中ぐり加工用の加工ヘッド13の断面図である。この加工ヘッド13は、図2に示すような工作機械(例えば、マシニングセンタ)におけるハウジング15の下端から突出する主軸16に装着して使用される。主軸16は、ハウジング15内に上下方向に延長された状態で回転可能に収容され、下端にATCシャンクを有するツールホルダを備えている。このツールホルダに、上記した加工ヘッド13が着脱可能に取り付けられる。
【0025】
上記した工作機械にて、ワーク支持台17上に固定される円筒部材としての図示しないシリンダブロックのシリンダボア内面に対し、加工ヘッド13が回転しながら図中で下方への往路移動で荒加工を行った後、図中で上方への復路移動で仕上げ加工を行う。
【0026】
図1に示すように、中ぐり加工用の加工ヘッド13は、主軸16のツールホルダに装着されるシャンク部19を有しており、シャンク部19には、図1中で上下方向にエア通路21が形成されている。このエア通路21の上端は、主軸16内に設けたエア通路に連通し、主軸16内のエア通路は、図2に示すように、主軸16の上端に対して回転可能でかつ、ハウジング15の上部に固定してある回転継手23から、エア配管25を介してエアコントローラ27に接続されている。すなわち、このエアコントローラ27によって、加工ヘッド13におけるシャンク部19内のエア通路21のエア圧が制御される。
【0027】
上記エア通路21の下方の、シャンク部19に連続するボディ部28内には、空油圧変換部29が設けられている。空油圧変換部29は、第1シリンダ31内に第1ピストン33が摺動シール34を介して図中で上下方向に移動可能に収容され、第1ピストン33の下部に連結ロッド35を介して第2ピストン37が連結されている。この第2ピストン37は、第1シリンダ31の下部に連通する小径の第2シリンダ39内に、摺動シール40を介して上下動可能に収容されている。
【0028】
第2ピストン37の下部は、作動油が充填される作動油空間42となっており、エア通路21を通してエア圧が第1ピストン33に作用することで、第1ピストン33が下降し、これに伴い第2ピストン37が下降することで、作動油空間42内の油圧が増圧される。
【0029】
上記した作動油空間42の下部には、連通路41が連通してボディ部28に形成されており、連通路41は、ボディ部28の下端に固定された弾性変形部43にわたって形成されている。弾性変形部43の内部には、パワーユニット45が設けられている。パワーユニット45は、凸ブロック47と凹ブロック49との間に油圧空間51が形成され、この油圧空間51と前記した連通路41とが、弾性変形部43および凹ブロック49に形成してある油通路53を通して連通している。
【0030】
弾性変形部43にはS字状のスリット55が形成されており、油圧空間51に油圧が作用すると、弾性変形部43における下部の移動部57が図1中で左方向にシフトする。この移動部57の下部にはボーリングバー59が装着され、ボーリングバー59の図1中で左右方向両側の下部には、荒加工用の刃具61と、仕上げ加工用の刃具63とがそれぞれ取り付けられている。
【0031】
したがって、前記図2に示してあるエアコントローラ27により、図1に示してあるエア通路21内にエア圧を供給すると、第1ピストン33が下降し、これに伴い第2ピストン37も下降して、作動油空間42内の油圧が高まり、作動油空間42に連通するパワーユニット45内の油圧空間51に油圧が作用し、移動部57がボーリングバー59先端の各刃具61,63とともに図1中で左方向へシフトするよう弾性変形部43が弾性変形する。
【0032】
図3は、パワーユニット45に油圧が作用して、弾性変形部43が弾性変形し、移動部57が図中で左方向にシフトした状態を示している。
【0033】
ボーリングバー59および弾性変形部43は、外径がほぼ同じの円柱形状を呈し、シリンダブロック65のシリンダボア67内に挿入されて、前記した各刃具61,63によりシリンダボア67の内面を中ぐり加工する。
【0034】
図4は、加工ヘッド13の中心軸線Sに対し、各刃具61,63の位置関係を模式的に示している。なお、図4においては、パワーユニット45などの構成要素は、図1に対して簡略化して示してある。
【0035】
図4(a)は、パワーユニット45に油圧が作用していない初期状態である。このとき、荒加工用の刃具61は、加工ヘッド13の中心軸線Sに対し、仕上げ加工用の刃具63よりも、軸と直交する半径方向内側に位置した状態でボーリングバー59に取り付けられている。
【0036】
すなわち、この初期状態で加工ヘッド13が回転した場合における、刃具61先端の回転軌跡円の直径は、刃具63先端の回転軌跡円の直径よりも小さくなる。具体的には、例えば前者の直径が85.00mmで、後者の直径が86.00mmである。この状態での2つの刃具61,63の各外周側先端相互間の中心線Kは、加工ヘッド13の中心軸線Sに対し、150μm右方向に寄っている。
【0037】
図4(b)は、荒加工時のもので、このとき、パワーユニット45には、最大油圧が作用して弾性変形部43の変形量が最大で、移動部57の図中で左方向へのシフト量が最大となっている。
【0038】
このとき、荒加工用の刃具61は、加工ヘッド13の中心軸線Sに対し、仕上げ用の刃具63よりも、軸と直交する半径方向外側に位置している。具体的には、加工ヘッド13が回転した場合における、刃具61先端の回転軌跡円の直径は85.70mmで、刃具63の同直径は85.30mmである。
【0039】
この状態での2つの刃具61,63の各外周側先端相互間の中心線Kは、加工ヘッド13の中心軸線Sに対し、200μm左方向に寄っている。したがって、この図4(b)の荒加工時では、図4(a)の初期状態に対し、中心線Kは図中で左方向へ350μm(150μm+200μm)寄った(シフトした)状態となる(なお、刃具61,63は直径で示しているため、350μm×2=700μmずれる。)。
【0040】
図4(b)の状態のまま、加工ヘッド13が回転しながら下方に移動する往路移動の際に、刃具61により、シリンダボア67に対して荒加工を行う。このとき、仕上げ加工用の刃具63は、上記した回転軌跡円の関係からシリンダボア67に接触することはない。
【0041】
図4(c)は、仕上げ加工時でのもので、このとき、パワーユニット45には、図4(b)での最大油圧より低い油圧が作用し、弾性変形部43の変形量は、図4(b)のときより小さくなり、これに伴い移動部57のシフト量も同様に小さくなる。
【0042】
このとき、仕上げ加工用の刃具63は、加工ヘッド13の中心軸線Sに対し、荒加工用の刃具61よりも、軸と直交する半径方向外側に位置する。例えば、加工ヘッド13が回転した場合における、刃具61先端の回転軌跡円の直径は85.30mmで、刃具63の同直径は85.70mmである。この状態での2つの刃具61,63の各外周側先端相互間の中心線Kは、加工ヘッド13の中心軸線Sと一致している。
【0043】
図5は、シリンダボア67に対し、上記した加工ヘッド13を用いて荒加工および仕上げ加工を行う場合の動作を示す説明図である。図5(a)において、図中で右側の端部の位置Pは、図4(a)の初期状態に相当し、同左側の端部の位置Qは、図4(b)の荒加工時相当する。位置Pと位置Qとの間の数値は、図4(a)の初期状態からの移動部57のシフト量(μm)を示している。
【0044】
次に、作用を説明する。まず、図5における位置P、すなわち図4(a)の初期状態から、図5(b)に示すように、「▲1▼荒加工シフト」として、図4(b)の荒加工時(図5の位置Q)となるよう各刃具61,63を最大量(350μm)シフトする。
【0045】
この状態で、加工ヘッド13を回転させつつシリンダボア67内に挿入し、この挿入方向の往路移動によって、「▲2▼荒加工」として、シリンダボア67の内面が刃具61によって荒加工される。
【0046】
荒加工終了後、各刃具61,63が、シリンダボア67の上記挿入側と反対側の図1中で下部側の開口側からさらに下方に移動したら、「▲3▼荒加工シフト解除」を行い、図4(a)の初期状態(位置P)に戻す。この初期状態で、加工ヘッド13が回転した場合における、仕上げ加工用の刃具63の回転軌跡円の直径(86.00mm)は、荒加工時での荒加工用の刃具61の同回転軌跡円の直径(85.70mm)、つまり荒加工後のシリンダボア67の内径より大きくなっている。
【0047】
したがって、この状態で、回転している加工ヘッド13をシリンダボア67内にて上昇(復路移動)させることで、シリンダボア67の内面に対して仕上げ加工が可能となる。
【0048】
この仕上げ加工時の際には、「▲4▼仕上げシフト」として、各刃具61,63を130μm程度図4(a)の状態から左方向へシフトする。そして、この状態から、加工ヘッド13を回転させつつ上昇させ、さらにシフト量を徐々に増加させながら、シフト量が150μmとなるまで、つまり図4(c)の状態となるまで、「▲5▼テーパ加工」として、仕上げ加工の一部を行う。
【0049】
このシフト量を増加させながらの仕上げ加工は、シリンダボア67の図1中で下部側の開口側端部付近に対してなされ、この開口側端部付近は、図6に示すように、下部側が大径のテーパ部67aに加工される。
【0050】
上記した「▲5▼テーパ加工」に続き、図4(c)の状態のままで、加工ヘッド13を回転させつつ上昇させることで、シリンダボア67の残りの上部側に対して「▲6▼仕上げ加工」がなされる。このとき、仕上げ加工用の刃具63の刃先の位置は、荒加工用の刃具61の刃先より半径方向外側に位置しているので、刃具61により加工した荒加工後のシリンダボア67の内面に対して、仕上げ加工が所望になされる。
【0051】
なお、図5(b)中の「▲7▼工具摩耗補正」は、仕上げ用刃具63の摩耗による補正シフト量領域を示している。仕上げ加工時においては、刃具63の摩耗に伴いシフト量を小さくして、刃具63の半径方向外側への突出量を摩耗前と同等する必要があるため、上記した補正シフト領域を設けている。シフト量50μmが最大摩耗補正時である。
【0052】
ところで、前記図8に示したように、シリンダボア1の図中で下方には、通常クランクケース内にクランクシャフト支持部11などが存在し、中ぐり加工後のホーニング加工においては、ホーニング用加工ヘッド9を奥深くまでは挿入できず、シリンダボア1のクランクシャフト支持部11側付近は、ホーニング用加工ヘッド9の往復運動のストロークが不足し、加工効率の悪化を招くものとなっている。
【0053】
ところが、中ぐり加工におけるシリンダボア67の下部側の開口部付近の加工量を、上記図6で示したように。テーパ形状として他の部位より多くすることで、クランクシャフト支持部11側付近でホーニング用加工ヘッド9の往復運動のストロークが不足しても、シリンダボア67の全長にわたり加工径を均一にすることができる。
【0054】
そして、上記した「▲5▼テーパ加工時」では、加工ヘッド13の送り動作を一時停止させたり、あるいは送り速度を遅くするわけではなく、ボーリングバー59を直径方向にシフトするので、加工時間が長くなることはなく、短縮化されたものとなる。
【0055】
また、上記した「▲5▼テーパ加工時」には、シフト量を増大させながら、つまりエアコントローラ27によりエア圧を増大方向に制御し、パワーユニット45における油圧を増大させながら行うようにしている。
【0056】
ここで、シフト量を変化させる際には、図1における第1ピストン33および第2ピストン37がそれぞれ上下動するが、このとき各ピストン33,37外周の摺動シール34,40と摺動面との間にはスティックスリップ(摩擦)が生じる。このスティックスリップの影響を安定的に作用させるためには、各ピストン33,37に対して連続的に加圧させながら移動させることが重要となる。
【0057】
逆に、各ピストン33,37に対して減圧させながら移動させた場合は、前記したスティックスリップが逆方向に働き、切削送り量に対して補正エア圧量の指示値は漸減するのであるが、断続的動作となり加工孔形状はステップ状となって滑らかなテーパ形状にはできない。さらに、スティックスリップの断続的作用と補正エア圧の漸減作用とが重なり、コントロールがうまくきかない不感帯ができ、加工孔形状が不安定なものとなる。
【0058】
一方、補正エア圧を漸増させながらの加工は、スティックスリップが同じようにあっても、シフト動作の際には、スティックスリップは一定量で連続的に働き漸増していくので、加工孔形状が安定したものとなる。
【0059】
したがって、上記実施形態では、「▲5▼テーパ加工時」において、シフト量を増大させながら、つまりエアコントローラ27によりエア圧を増大方向に制御し、パワーユニット45における油圧を増大させながら行うようにしているので、シリンダボア67におけるテーパ形状が滑らかで安定したものとなり、加工径を高精度に制御することができる。
【0060】
図6中でa:bがテーパ比であるが、このテーパ比は、テーパ加工するときに、加工ヘッド13の送り量もしくは回転量に対してどれだけの補正エア量の増加値を、テーパ加工指示値としてエアコントローラ27に送るかによって決まる。
【0061】
補正エア量の順次増加は、エアコントローラ27にテーパ加工のためのパルス信号を送ることにより行われ、これは工作機械の主軸の回転に伴うパルスをエアコントローラ27に送る方法や、工作機械の主軸の送りスライド量をパルス状にして送る方法や、パルスの開始点と終止点だけを指定してエアコントローラ27内でパルスを自ら形成される方法などがある。
【0062】
図7は、図6のテーパ部67aに代えて、上部側の他の部位に比べて大径となる段部67bを、仕上げ加工にて形成したものである。この場合にも、前記図1の加工ヘッド13を往路移動させる際に、図4(b)の状態にて刃具61により、同様の荒加工を行う。
【0063】
続く復路移動の際には、図5(b)の「▲4▼仕上げシフト」を行い、この状態でシフト量を変化させずに、「▲5▼テーパ加工」に代わる段部67bの加工を行う。その後は、シフト量を図5(b)の「▲6▼仕上げ加工」に対応する状態として、「▲6▼仕上げ加工」と同様の加工を行う。
この場合にも、「▲5▼テーパ加工」に代わる段部67bの加工では、加工ヘッド13の送り動作を一時停止させたり、あるいは送り速度を遅くするわけではないので、加工時間が長くなることはなく、短縮化されたものとなる。
【0064】
また、上記した段部67bの加工には、シフト量を増大させながら、つまりエアコントローラ27によりエア圧を増大方向に制御し、パワーユニット45における油圧を増大させながら行うようにしているので、シリンダボア67における段部67bの形状が滑らかで安定したものとなり、加工径を高精度に制御することができる。
【0065】
なお、上記した実施形態では、ボーリングバー59に装着する刃具を、荒加工用の刃具61と仕上げ加工用の刃具63の2つ用いているが、仕上げ加工用の刃具63のみを使用し、シフト量を適宜調整することで、上記したテーパ部67aや段部67bの加工を行うこともできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施の一形態を示す中ぐり加工用の加工ヘッドの断面図である。
【図2】図1の加工ヘッドが使用される工作機械の全体を示す斜視図である。
【図3】図1の加工ヘッドにおけるパワーユニットに油圧が作用し、弾性変形部が弾性変形して移動部がシフトした状態を示す動作説明図である。
【図4】図1の加工ヘッドの中心軸線に対する刃具の位置関係を示す模式図であり、(a)はパワーユニットに油圧が作用していない初期状態、(b)は荒加工時の状態、(c)は仕上げ加工時の状態である。
【図5】シリンダボアに対し、加工ヘッドを用いて荒加工および仕上げ加工を行う場合の動作を示す説明図である。
【図6】下部側が大径のテーパ部に加工されたシリンダボアの断面図である。
【図7】下部側が大径の段部に加工されたシリンダボアの断面図である。
【図8】従来の円筒内面の加工方法を示す動作説明図で、(a)は中ぐり加工、(b)は荒ホーニング加工、(c)は仕上げホーニング加工である。
【符号の説明】
13 加工ヘッド
43 弾性変形部
61 荒加工用の刃具
63 仕上げ用の刃具
65 シリンダブロック(円筒部材)
67 シリンダボア
67a テーパ部
S 中心軸線
Claims (6)
- 先端に刃具を備えた中ぐり加工用の加工ヘッドを、円筒部材の一方の開口部から挿入し、他方の開口部に向けて移動させる往路移動の際に、前記円筒部材の内面を荒加工し、この荒加工後、前記加工ヘッドを、前記他方の開口部から前記一方の開口部に向けて移動させる復路移動の際に、前記刃具を前記加工ヘッドの中心軸線と直交する方向で前記円筒部材の内面から離反する方向に移動させて、前記他方の開口部側が大径となるよう仕上げ加工を行う円筒内面の加工方法であって、前記加工ヘッドの先端側に設けた弾性変形部内に油圧空間を設け、この油圧空間が油圧の作用を受けることで、前記加工ヘッドの中心軸線に対して直交する方向に圧力が付与される前記弾性変形部が同方向に移動変形し、前記加工ヘッドは、荒加工用の刃具と仕上げ加工用の刃具とが、外周部の互いに対向する位置に設けられ、前記弾性変形部に所定の圧力を付与して荒加工用の刃具が円筒部材の内面に向けて突出した状態で、加工ヘッドを円筒部材内を往路移動させることで荒加工を行い、この荒加工終了後に前記所定の圧力付与を解除した状態での前記仕上げ加工用の刃具の前記加工ヘッドの回転による回転軌跡円の直径が、前記荒加工用の刃具の荒加工時での前記加工ヘッドの回転による回転軌跡円の直径より大きく、前記荒加工後の前記所定の圧力付与を解除した状態での復路移動の際に、前記弾性変形部に付与する圧力を徐々に増加させつつ、前記仕上げ加工用の刃具を円筒部材の内面から離反させるよう半径方向内側へ向けて移動させて、円筒部材の他方の開口部側をその端部ほど大径となるテーパ形状に仕上げ加工することを特徴とする円筒内面の加工方法。
- 前記弾性変形部は、該弾性変形部を前記油圧空間への油圧の作用によって弾性変形させるパワーユニットを備えていることを特徴とする請求項1記載の円筒内面の加工方法。
- 前記円筒部材はエンジンのシリンダボアであり、前記仕上げ加工により大径となるシリンダボアの他方の開口部側は、クランクケース側であり、前記仕上げ加工後に、前記シリンダボアの内面をホーニング加工することを特徴とする請求項1または2記載の円筒内面の加工方法。
- 中ぐり加工用の加工ヘッドの先端外周の互いに対向する位置に、荒加工用の刃具と仕上げ加工用の刃具とをそれぞれ設けるとともに、前記加工ヘッドの中心軸線に直交する方向でかつ、前記仕上げ加工用の刃具から荒加工用の刃具に向かう方向に圧力が付与されることで、同方向に移動変形しつつ前記各刃具を同方向に移動させる弾性変形部を前記加工ヘッドの先端側に設けた円筒内面の加工装置であって、前記弾性変形部は、内部に設けた油圧空間に油圧が作用することで、前記加工ヘッドの中心軸線に対して直交する方向に圧力が付与されて同方向に移動変形し、前記荒加工用の刃具は、加工ヘッドを円筒部材内を往路移動させる際に、前記弾性変形部に所定の圧力を付与して円筒部材の内面に向けて突出した状態で荒加工を行い、前記仕上げ加工用の刃具は、前記荒加工終了後に前記所定の圧力付与を解除した状態で、前記加工ヘッドの回転による回転軌跡円の直径が、前記荒加工用の刃具の荒加工時での前記加工ヘッドの回転による回転軌跡円の直径より大きく、かつ前記所定の圧力付与を解除した状態から前記加工ヘッドを円筒部材内を復路移動させる際に、前記弾性変形部への圧力付与の増加に伴って前記円筒部材の内面から離れる方向に移動することを特徴とする円筒内面の加工装置。
- 前記弾性変形部は、圧力が付与されていない初期状態では、前記荒加工用の刃具が、加工ヘッドと円筒部材の各中心軸線を相互に一致させた状態で、荒加工前の円筒部材の内面に対して半径方向内側に位置する一方、前記仕上げ加工用の刃具が、荒加工後の円筒部材の内面より半径方向外側に位置していることを特徴とする請求項4記載の円筒内面の加工装置。
- 前記弾性変形部は、該弾性変形部を前記油圧空間への油圧の作用によって弾性変形させるパワーユニットを備えていることを特徴とする請求項4または5記載の円筒内面の加工装置。
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