JP4193480B2 - 共重合体ラテックス及びその製造方法並びに紙塗工用組成物 - Google Patents

共重合体ラテックス及びその製造方法並びに紙塗工用組成物 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、共重合体ラテックス及びその製造方法並びに紙塗工用組成物に関し、更に詳しくは、紙に対する接着強度に優れ、紙への塗工時にブロッキングの発生を低減できる等塗工操業性に優れ、得られる塗工紙の強度にも優れる紙塗工用組成物を与える共重合体ラテックス及びその製造方法並びに紙塗工用組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、顔料と水性バインダーとを主体とした紙塗工用組成物を紙に塗工し、印刷適性に優れた塗工紙が製造されている。共重合体ラテックスは、その優れた接着性を発揮することから、紙塗工用組成物の主バインダーとして使用されている。
【0003】
近年、印刷の高級化、高速化にともない、塗工紙に要求される性能も厳しくなってきており、表面強度、耐水性、剛性、インキ転移性、印刷光沢や耐ブリスター性等の改良が要求されるようになった。更に、近年はコスト低減の目的等からバインダー量を低減する要求が高まっており、より少量の使用量でも十分な表面強度を示すバインダーが求められている。
【0004】
また、塗工紙の製造そのものも高速化しており、接着性のみならず、塗工操業性の改良、特に主な障害であるロール汚れ性の改良、即ち共重合体ラテックスの粘着性の低減(ベトツキ防止性)も強く要求されている。
【0005】
共重合体ラテックスに対しては、前記の性質、特に接着性の改良が求められ、そのために、例えば共重合体組成を調整する等の改良方法が提案されている。しかし、接着性と他の特性とは互いに背反することが多く、全ての特性をバランスよく高いレベルにすることは非常に困難である。
【0006】
一方、トルエン不溶分を80%以上、且つアセトン膨潤度を100%以上とするとする共重合体ラテックスが開示されている(特許文献1参照。)。
また、トルエン不溶分を80%以上とする共重合体ラテックスが開示されている(特許文献2参照。)。
【0007】
【特許文献1】
特開平7−243194号公報
【特許文献2】
特開2000−154496号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記特許文献1における共重合ラテックスは、含まれる重合体の柔軟性及びラテックスとしての接着強度を向上させるために重合体の架橋度を高くし、且つ架橋密度を低くするよう設計されたものであり、その手段として、分子量調節剤としてα−メチルスチレンダイマー及び/又はターピノーレンを使用し、また、α−メチルスチレンダイマー又はターピノーレンを使用する場合、更にt−ドデシルメルカプタンを併用するものであり、その使用量が多いのが特徴である。しかし、上記特許文献1の方法にて得られた共重合体ラテックスでは、トルエン不溶分の割合が未だ十分とはいえず、ベトツキ防止性が不十分である。また、分子量調節剤の使用量を単純に減ずることによってトルエン不溶分の割合を高めるだけでは、接着強度が著しく低下する。
【0009】
また、上記特許文献2における共重合ラテックスには、分子量の高いゲル成分と、それ以外の重合体が含まれる。ゲル成分の含量が高いためにブリスターの発生が抑制されるとともに得られる塗工紙の強度が上がるが、ゲル成分以外に少量生成する重合体成分の分子量が小さくなることが予想され、ベトツキ防止性が十分とはいえない。また、接着強度向上のために重合体の架橋点間分子量を高めるといった発想はなく、更なる改良要求に対しては十分な対応がとれていなかった。更には、上記特許文献2は、より高水準な塗工操業性の達成を意図したものでなく、塗工操業性に悪影響を及ぼす低分子量の重合体成分については全く認識されていない。即ち、従来の技術では、重合体の架橋度を著しく高めた中で架橋密度を低くし、且つ、低分子量の重合体成分の生成を抑制するのは不可能であり、塗工紙の接着強度を低下させることなく、より高水準の塗工操業性を発現させるのは困難であった。
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであって、従来に比べ、ラテックスの機械的安定性、ベトツキ防止性に優れ、特に高温時のベトツキ防止性が著しく改善されて塗工操業性に優れ、しかも、接着強度、印刷光沢等の塗工紙特性に優れ、更に広い塗工操業条件及び印刷速度にわたって上記の優れた印刷適性を有する紙塗工用組成物を与える共重合体ラテックス及びその製造方法並びに紙塗工用組成物を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は以下の通りである。
[1] 分子量調節剤として、メルカプタン類を用いることなく、α−メチルスチレンダイマーのみを用いて、共役ジエン系単量体及びエチレン系不飽和カルボン酸単量体、並びに該共役ジエン系単量体及び該エチレン系不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な単量体を、30〜45℃の重合温度範囲で、コア部重合とシェル部重合との多段階重合により、得られる重合体のコア及びシェルの割合は、用いられる単量体全量を100重量%とした場合、コア部に用いられる単量体の割合が40〜90重量%、シェル部に用いられる単量体の割合が10〜60重量%であり、GPC測定によって求められたポリスチレン換算の分子量で100万に対応する溶出時間T1より早く検出されるピーク1に相当する成分及び上記溶出時間T1より遅く検出されるピーク2に相当する成分からなり、上記ピーク1に相当する成分の含量が85重量%以上であり、上記ピーク2に相当する成分の重量平均分子量が5万以上であり、下記〔1〕のトルエン不溶分の測定方法による該重合体のトルエン不溶分の含量が94重量%以上、且つ、下記〔2〕の膨潤度の測定方法によるアセトンによる膨潤度が200%以上である共重合体ラテックスを製造することを特徴とする共重合体ラテックスの製造方法。
〔1〕トルエン不溶分の測定方法
共重合体ラテックスをpH8.0に調整した後、イソプロパノールで凝固し、この凝固物を洗浄、乾燥した後、所定量(0.03g)の試料を100mlのトルエンに20時間浸漬する。その後、120メッシュの金網で濾過し、得られる残存固形分の重量を測定し、初めの共重合ラテックスの全固形分に対する割合を求めることによって得られる。
〔2〕膨潤度の測定方法
共重合体ラテックスをpH8.0に調整した後、イソプロパノールで凝固し、この凝固物を洗浄、乾燥した後、100℃、圧力150kg/cmで10分間プレスし、厚さ2mmのフィルムとする。得られたフィルムを縦20mm、横20mmの正方形状に裁断し、重量を測定する(W1グラム)。その後、このフィルムをアセトン中に20時間浸漬する。浸漬後、表面に付着したアセトンを拭き取り、重量を測定する(W2グラム)。膨潤度は、下記式(1)により求められる。
膨潤度(%)={(W2−W1)/W1}×100 (1)
[2] 上記α−メチルスチレンダイマーの使用量は、上記単量体全量を100重量部とした場合に2重量部以下である上記[1]に記載の共重合体ラテックスの製造方法。
[3] 上記共役ジエン系単量体がブタジエンであり、上記エチレン系不飽和カルボン酸単量体がアクリル酸及び/またはイタコン酸であり、該共役ジエン系単量体及び該エチレン系不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な上記単量体がメタクリル酸メチル、スチレン及びアクリロニトリルから選ばれた少なくとも1種である上記[2]に記載の共重合体ラテックスの製造方法。
[4] 上記[1]から[3]のいずれか一項に記載の方法によって得られたことを特徴とする共重合体ラテックス。
[5] 上記[4]に記載の共重合体ラテックスを含有することを特徴とする紙塗工用組成物。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明の共重合ラテックスの製造方法は、メルカプタン類を用いることなく、α−メチルスチレンダイマーのみを用いて、共役ジエン系単量体(以下、「単量体(a)」ともいう。)及びエチレン系不飽和カルボン酸単量体(以下、「単量体(b)」ともいう。)、並びに該共役ジエン系単量体及び該エチレン系不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な単量体を、30〜45℃の重合温度範囲で、コア部重合とシェル部重合との多段階重合、好ましくは多段階の乳化重合による製造方法である。
【0012】
上記単量体(a)としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン等を挙げることができる。これらのうち、ブタジエンが好ましい。また、これらは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0013】
また、上記単量体(b)としては、例えば、(イ)アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸類、(ロ)マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のジカルボン酸類、(ハ)マレイン酸メチル,イタコン酸メチル,β−メタクリルオキシエチルアシッドヘキサハイドロフタレート等のハーフエステル類等が挙げられる。尚、上記(イ)、(ロ)の不飽和カルボン酸類の無水物である、アクリル酸無水物、マレイン酸無水物等は、水性媒体中で乳化重合する際にカルボン酸に変化するので、乳化重合の際の単量体として用いることができる。上記単量体(b)は1種単独で、あるいは2種以上を組み合せて使用することができる。
【0014】
更に、上記共役ジエン系単量体及びエチレン系不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な単量体(以下、「単量体(c)」ともいう。)を用いることもでき、この単量体(c)としては、例えば、(イ)アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルへキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸へキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸2−エチルへキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸グリシジル等のアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステル、あるいはグリシジルエステル、(ロ)スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物、(ハ)アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等のエチレン系不飽和カルボン酸のアクリルアミド又はメタクリルアミド化合物、(ニ)酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル類、(ホ)アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物等が挙げられる。これらのうち、芳香族ビニル化合物としてのスチレンが、また、シアン化ビニル化合物としてのアクリロニトリルが好ましい。また、これらは1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0015】
上記各単量体の使用量は特に限定されないが、好ましくは単量体(a)が40〜80重量%、単量体(b)が1〜6重量%、単量体(c)が14〜59重量%(但し、これらの合計を100重量%とする。)、より好ましくは単量体(a)が45〜75重量%、単量体(b)が1〜5重量%、単量体(c)が20〜54重量%である。
【0016】
本発明において、上記性質の共重合体ラテックスを製造するために、用いる単量体を全量一括して重合する1工程で行うのではなく、少なくとも2工程を備える多段階重合とするものである。即ち、各工程において上記単量体を任意の割合及び組み合わせを同一あるいは変化させて重合するものである。これによって異相構造を有する重合体、具体的にはコア/シェル型重合体を主成分とした共重合体ラテックスを得ることができ、更に詳しくは、ガラス転移温度が低く、耐衝撃性に優れたコア部と、このコア部を被覆する、剛性、ベトツキ防止性に有利なガラス転移温度が高いシェル部と、を有する重合体を含む共重合ラテックスを得ることができる。
【0017】
上記単量体の重合は、上記のように乳化重合法により行うことが好ましく、通常、水性媒体中で乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤、還元剤等が用いられる。上記乳化剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等を1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0018】
上記アニオン性界面活性剤としては、例えば高級アルコールの硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、ポリエチレングリコールアルキルエーテルの硫酸エステル等が挙げられる。
上記ノニオン性界面活性剤としては、通常のポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型等が用いられる。
【0019】
上記両性界面活性剤としては、アニオン部分としてカルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、燐酸エステル塩を、カチオン部分としてはアミン塩、第4級アンモニウム塩を持つものが挙げられ、具体的にはラウリルベタイン、ステアリルベタイン等のベタイン類、ラウリル−β−アラニン、ステアリル−β−アラニン、ラウリルジ(アミノエチル)グリシン、オクチルジ(アミノエチル)グリシン、等のアミノ酸タイプのもの等が用いられる。
【0020】
上記重合開始剤としては、無機系あるいは有機系のラジカル触媒を用いることが好ましい。このラジカル触媒は、熱又は還元性物質の存在下でラジカル分解して単量体を付加重合させるものである。無機系触媒としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩等が挙げられ、有機系触媒としては、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類等が挙げられる。
【0021】
また、上記還元剤としては、例えば、エルソルビン酸、エルソルビン酸ナトリウム、エルソルビン酸カリウム、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウム、糖類、ロンガリットソディウムホルムアルデヒドスルホキシレート、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム等の亜硫酸塩、ピロ亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸水素カリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カリウム等のピロ亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、亜燐酸、亜燐酸ナトリウム、亜燐酸カリウム、亜燐酸水素ナトリウム、亜燐酸水素カリウム等の亜燐酸塩、ピロ亜燐酸、ピロ亜燐酸ナトリウム、ピロ亜燐酸カリウム、ピロ亜燐酸水素ナトリウム、ピロ亜燐酸水素カリウム等のピロ亜燐酸塩、メルカプタン等が挙げられる。これらは1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記還元剤の使用量は、単量体100重量部に対して、好ましくは0.01〜10重量部である。
【0022】
また、ラジカル触媒及び還元剤のより具体的な添加方法として、例えば、両者を別々の供給配管から同時に連続的に反応系内に添加する方法、ラジカル触媒が還元剤よりも過剰に存在する重合系内に還元剤を連続的に添加する方法、還元剤がラジカル触媒よりも過剰に存在する重合系内にラジカル触媒を連続的に添加する方法が挙げられる。尚、ラジカル触媒と還元剤との等量比は、100/1から1/100の間とするのが好ましい。
更に、ラジカル触媒及び還元剤以外に、更に酸化還元触媒を重合系内に添加して乳化重合を行うことができる。酸化還元触媒としては、金属触媒、例えば、2価の鉄イオン、3価の鉄イオン、銅イオン等が挙げられる。上記還元剤と同様に、酸化還元触媒も、重合系にそれぞれ回分的、連続的あるいはこの両者を組み合わせて添加することができる。ラジカル触媒、還元剤、及び酸化還元触媒の好ましい組み合わせとして、ラジカル触媒として過硫酸カリウム、還元剤として亜硫酸水素ナトリウム、及び酸化還元触媒として硫酸第一鉄を用いたものが挙げられる。
【0023】
本発明において、分子量調節剤の種類及び使用量は、本発明の意図する共重合体ラテックスを得るために重要な因子の一つである。本発明では、上記分子量調節剤として、メルカプタン類を除くものを用いる。メルカプタン類は、ゲル成分以外に生成する重合体を低分子量化しやすく、ベトツキ防止性に悪影響を及ぼすためである。本発明に関わる分子量調節剤としては、α−メチルスチレンダイマーである。
上記分子量調節剤の使用量は、単量体全量を100重量部とした場合に、好ましくは2重量部以下、より好ましくは0.05〜1.2重量部、更に好ましくは0.1〜0.8重量部である。その使用量が多すぎると、低分子量の重合体成分が多量に生成し、ベトツキ防止性及び機械的安定性が低下する。上記分子量調節剤の重合系内への添加方法としては、一括添加、回分的添加、連続的添加のいずれでもよく、これらを組み合わせてもよい。
【0024】
本発明においては、必要により種々の重合調節剤を添加してもよい。例えば、pH調節剤、各種キレート剤等を使用することができる。
上記pH調節剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム等が挙げられ、これらは1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合後のpH調節剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウムが好適である。更には、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムを混合して使用するのが好ましく、この場合、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムの等量比は9/1〜1/9の間とするのが好ましい。
また、上記キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0025】
本発明においては、接着強度、印刷光沢等の塗工紙特性と機械的安定性、ベトツキ防止性等の塗工操業性とのバランスをより高水準なものとするために、コア/シェル型重合体のコア部に耐衝撃性を、シェル部に適度な硬さを付与するような工程をそれぞれ備えることが好ましい。コア/シェル型重合体とするためのコア部の形成工程について、重合工程は1工程でもよいし、2工程以上でもよい。1工程であっても、2工程以上であっても、各工程において用いる単量体の種類及び使用量は特に限定されない。各単量体の使用量の合計は以下の通りである。即ち、コア部の形成に用いる単量体全量を100重量%とした場合に、好ましくは単量体(a)が50〜95重量%及び単量体(b)が0〜5重量%、より好ましくは単量体(a)が55〜90重量%及び単量体(b)が0.5〜3重量%である。残部は、単量体(c)である。
また、各工程における単量体の添加方法も特に限定されず、用いる単量体を全量一括で仕込んで重合してもよいし、所定量の単量体を連続的に添加してもよいし、任意の間隔をおいて添加してもよい。各単量体を連続的に重合系内に添加する場合には、重合反応が一気に進行して反応熱が発生し、かかる反応熱によって重合系内の温度が急激に上昇するのを防止することができる。
【0026】
コア/シェル型重合体とするためのシェル部の形成工程についても、重合工程は1工程でもよいし、2工程以上でもよい。1工程であっても、2工程以上であっても、各工程において用いる単量体の種類及び使用量は特に限定されない。シェル部の形成に用いる単量体は、コア部の形成において用いた単量体と同じとしてもよいし、異なっていてもよい。各単量体の使用量の合計は以下の通りである。即ち、シェル部の形成に用いる単量体全量を100重量%とした場合に、好ましくは単量体(a)を0〜50重量%及び単量体(b)を0.5〜30重量%、より好ましくは単量体(a)を10〜40重量%及び単量体(b)を1〜25重量%である。残部は、単量体(c)である。
シェル部の形成は、コア部を構成する重合体の存在下において行われ、用いる単量体を全量一括で仕込んで重合してもよいし、所定量の単量体を連続的に添加してもよいし、任意の間隔をおいて添加してもよい。各単量体を連続的に重合系内に添加する場合には、重合反応が一気に進行して反応熱が発生し、かかる反応熱によって重合系内の温度が急激に上昇するのを防止することができる。
【0027】
本発明の共重合体ラテックスの製造方法において、より好ましい態様は、コア部の重合を2工程以上、且つシェル部の重合を1工程とするものである。コア部形成のための重合工程を2工程以上とする場合、コア粒子においても、その内部から表層にかけて相対的に硬くなるよう、各工程における単量体のガラス転移温度、即ち単量体組成を適宜調整することにより、従来に比べ、ベトツキ防止性、接着強度、耐水強度のバランスは向上する。更に、重合反応の進行に伴い、架橋性の単量体である共役ジエン系単量体の使用量を段階的に減量することで、重合反応の進行に伴って生じる架橋反応を制御することが可能となり、接着強度発現に有利な高分子量の重合体を形成することができ、架橋点間分子量を高く維持することができる。
【0028】
本発明において得られるコア/シェル型重合体のコア及びシェルの割合は、特に限定されないが、用いられる単量体全量を100重量%とした場合、コア部に用いられる単量体の割合が40〜90重量%、シェル部に用いられる単量体の割合が10〜60重量%であることが好ましい。
【0029】
また、コア部を形成するための工程及びシェル部を形成するための工程では、還元剤を連続的に添加することが好ましい。特に、重合開始初期、即ち、該コア部形成においてより還元剤を連続的に添加することが好ましく、これによって、ラテックスの機械的、化学的安定性が著しく向上し、前述の効果を奏することができる。また、共重合体ラテックス製造時の重合安定性が向上する。
【0030】
本発明の共重合ラテックスの製造方法における重合温度は、本発明の意図する架橋構造を有し、低分子量の重合体成分の含有量が少ない共重合体ラテックスを得るための重要な因子の一つである。即ち、本発明においては、重合温度は、30〜45℃である。更に、前述のコア部を形成する工程における重合温度は40℃以下であることが好ましい。重合温度が高すぎると、架橋反応が著しく進行して、架橋点間分子量が低下するとともに、非常にタイトな架橋構造を形成し、更に低分子量の重合体が多量に生成するため、接着強度、ベトツキ防止性が不十分となる。
即ち、本発明においては、メルカプタン類でない、α−メチルスチレンダイマーの分子量調節剤を特定量用い、単量体組成を適宜調整して30〜45℃で重合することによって、架橋しやすいブタジエン等の共役ジエン系単量体を用いる場合でも、得られる重合体のGPC測定によって求められるゲル成分の含量が高く、トルエン不溶分の含量が高く、且つ、架橋点間分子量が高く、更には、低分子量の重合体成分の含有量が少ない共重合体ラテックスを製造することができる。
【0031】
上記製造方法によって得られる本発明の共重合ラテックスは、含まれる重合体全量に対するゲル成分の含量が85重量%以上であり、好ましくは87重量%以上、より好ましくは90〜95重量%である。ここで、「ゲル成分」とは、下記条件により測定したGPCから得られるポリスチレン換算の重量平均分子量Mw(以下、単に「Mw」ともいう。)が100万以上を示すもの、即ち、縦軸を検出量、横軸を溶出時間としたクロマトグラムにおいて、分子量が100万に対応する溶出時間より早く検出されるピークに相当する成分である。上記ゲル成分の含量が85重量%未満では、重合体の架橋度が低下するため、ベトツキ防止性が不十分となる傾向にある。また、重合体の強度が低下し、良好な接着強度が得られない傾向にある。更に、ゲル成分以外の低分子量の重合体成分の含有量が増加し、機械的安定性も低下する。
本発明の共重合体ラテックスにおいて、上記ゲル成分の含量を85重量%以上とするためには、前述の分子量調節剤の量・種類、重合温度、単量体の組成等、特定の組み合わせにより制御することができる。
【0032】
(GPC測定条件)
1.試料の調製
固形分を50重量%に調整した共重合体ラテックス0.05gに、水0.05gと、常法に従い洗浄、水洗したカチオン交換樹脂約1gとを加え、陽イオンを除去する。次いで、テトラヒドロフラン20mlを加え、2時間放置し、溶解する。次にポリテトラフルオロエチレン製メンブレインフィルター(ポアサイズ3μm、ADVANTEC社製)で濾過し、濾液を測定試料とする。
2.装置、測定条件等
測定装置;「HLC−8220」(東ソー社製)
カラム;有機溶媒系GPCカラム「TSKgel GMHHR−H(30)」(充填剤;ポリスチレンゲル、粒子径;30μm、カラムサイズ;7.8mmI.D.×300mm、東ソー社製)
検出器;示差屈折率計
温度;40℃
溶媒;テトラヒドロフラン
流速;1ml/分
試料濃度;0.2重量%
注入量;50μl
尚、測定に際しては、分子量既知のポリスチレン標準物質を用いて、予め検量線を作成し、これを用いた。
【0033】
また、本発明の共重合ラテックスに含有されるゲル成分は、上記GPC測定条件に従って得られたクロマトグラム(図1)を用いて説明すると、クロマトグラム中の溶出曲線1において、溶出曲線1と横軸で囲まれた部分を全面積S(S=S1+S2)とした場合、ポリスチレン換算の分子量で100万に対応する溶出時間T1より早く検出されるピーク1に相当する成分である(面積はS1)。また、ピーク2は、ポリスチレン換算の分子量で100万に対応する溶出時間T1より遅く検出されるゲル成分以外の重合体成分である(面積はS2)。
ゲル成分の含量A(重量%)は、下記式(1)により求められる。
A(重量%)={S1/(S1+S2)}×100 (1)
【0034】
本発明の共重合体ラテックスに含有される重合体のうち、上記ゲル成分以外の重合体成分(例えば、図1におけるピーク2)の重量平均分子量Mwは、5万以上であり、好ましくは6万以上、特に好ましくは6.5万以上である。Mwが3万未満であると、良好な接着強度が得られず、またベトツキ防止性が低下する。
【0035】
また、本発明の共重合ラテックスは、含まれる重合体全量に対するトルエン不溶分が94重量%以上であり、より好ましくは95〜99重量%である。このトルエン不溶分が少ないと、ベトツキ防止性及び機械的安定性が不十分であり、接着強度も不十分となる傾向にある。
上記トルエン不溶分の測定方法は、以下の通りである。即ち、共重合体ラテックスをpH8.0に調整した後、イソプロパノールで凝固し、この凝固物を洗浄、乾燥した後、所定量(約0.03g)の試料を100mlのトルエンに20時間浸漬する。その後、120メッシュの金網で濾過し、得られる残存固形分の重量を測定し、初めの共重合ラテックスの全固形分に対する割合を求めることによって得られる。
【0036】
本発明の共重合体ラテックスに含まれる重合体のうち、特にゲル成分は、接着強度を高めるために柔軟性を有することが好ましく、架橋密度が低く、架橋点間分子量が大きいことが好ましい。従って、ここでいう架橋密度の尺度として、含まれる重合体のアセトンに対する膨潤度が200%以上、より好ましくは230%以上である。この膨潤度が低いと、柔軟性、耐衝撃性が不十分であり、十分な強度が得られない傾向にある。
上記膨潤度の測定方法は、以下の通りである。即ち、共重合体ラテックスをpH8.0に調整した後、イソプロパノールで凝固し、この凝固物を洗浄、乾燥した後、100℃、圧力150kg/cmで10分間プレスし、厚さ2mmのフィルムとする。得られたフィルムを縦20mm、横20mmの正方形状に裁断し、重量を測定する(W1グラム)。その後、このフィルムをアセトン中に20時間浸漬する。浸漬後、表面に付着したアセトンを拭き取り、重量を測定する(W2グラム)。膨潤度は、下記式(2)により求められる。
膨潤度(%)={(W2−W1)/W1}×100 (2)
【0037】
本発明において、上記ゲル成分の含量及びトルエン不溶分は分子量調節剤の種類あるいは使用量、重合温度、単量体組成等によって制御される。例えば、分子量調節剤の量を少なくすることにより、コア/シェル構造を形成することとなる重合体の架橋が促進され、上記ゲル成分の含量及びトルエン不溶分は増加し、強度が向上することが知られている。しかしながら、更に架橋が進行した場合、逆に強度は低下する。本発明の製造方法において、特定の分子量調節剤を用い、特定の重合条件にて得られた共重合ラテックスは、コア/シェル構造を形成することとなる重合体の架橋度が極めて高いのにもかかわらず、架橋点間分子量が大きく、結果として、上記アセトン膨潤度を高い水準に維持できる。また、本発明により得られた共重合ラテックスは、上記ゲル成分の含量及びトルエン不溶分は、強度に対して正の相関があり、重合体がより高度に架橋された状態においても強度低下することなく、むしろ強度は向上する。更に、本発明により得られた共重合ラテックスは、低分子量の重合体成分が極めて少なく、コア/シェル構造を形成することとなる重合体が高度に架橋された状態、及び、特定のコア/シェル構造による効果と相まって、ベトツキ防止性、機械的安定性に優れ、塗工操業性を著しく改善できる。
【0038】
本発明の共重合体ラテックスは、オフセット輪転印刷、オフセット枚葉印刷、凸版印刷、グラビア印刷等に好適な各種印刷用紙のコーティング剤、カーペットバッキング剤、接着剤、塗料等としても使用することができる。
【0039】
本発明の紙塗工用組成物は、上記共重合体ラテックスを含有するものである。紙塗工用組成物は、無機あるいは有機顔料に、共重合体ラテックス、必要に応じて他のバインダー、耐水強度改良剤、顔料分散剤、粘度調節剤、着色顔料、蛍光染料及びpH調節剤等種々の助剤を配合して調製することができる。上記共重合体ラテックスの配合量は、顔料100重量部に対して好ましくは1〜30重量部(固形分として)、より好ましくは3〜25重量部である。共重合体ラテックスが1重量部未満であると、接着強度が著しく低下し、一方30重量部を超えるとインク乾燥性の低下が著しい。
【0040】
上記無機顔料としてはクレー、硫酸バリウム、酸化チタン、炭酸カルシウム、サチンホワイト、タルク、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛等が挙げられる。また、上記有機顔料としてはポリスチレン、尿素ホルマリン樹脂等が挙げられる。これらは目的、用途に応じて、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせ用いることができる。
【0041】
上記他のバインダーとしては、カゼイン、カゼイン変性物、澱粉、澱粉変性物、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等の水溶性バインダーを用いることができる。
本発明の紙塗工用組成物は、各種紙製品等に対して優れた塗工操業性を示し、特に、オフセット枚葉印刷用途に使用した場合は、塗工紙の表面強度、印刷光沢に優れ、オフセット輪転印刷用途に使用した場合は、表面強度と耐ブリスター性に極めて優れた特性を示す。
【0042】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、本文中、割合を示す「部」及び「%」はそれぞれ重量部及び重量%を意味するものである。
1.共重合体ラテックスの製造
実施例1−1,2
攪拌装置及び温度調節機を備えた耐圧反応容器に、表1に示される1段目成分を仕込み、窒素で重合系内を置換した。その後、重合系内の温度を40℃に昇温し、この温度で1時間重合を行った。次いで、表1に示される2段目成分と、還元剤水溶液の1/2量とを5時間かけて連続的に重合系内に添加し、重合を進めた。その後、重合を完結させるために、残り1/2量の還元剤水溶液を2時間かけて連続的に添加した。最終的な重合転化率はそれぞれ98%であった。
得られた共重合体ラテックスを、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムを用いてpH7.5に調整した後、水蒸気を吹き込んで未反応単量体を除去し、更に加熱水蒸気蒸留によって固形分濃度50%の共重合体ラテックスを得た。
【0043】
実施例1−3,4
攪拌装置及び温度調節機を備えた耐圧反応容器に、表1に示される1段目成分を仕込み、窒素で重合系内を置換した。その後、重合系内の温度を40℃に昇温し、この温度で1時間重合を行った。次いで、表1に示される2段目成分を3時間かけて連続的に重合系内に添加し、重合を進めた。更に、3段目成分と、還元剤水溶液の1/2量とを4時間かけて連続的に重合系内に添加した。その後、重合を完結させるために、残り1/2量の還元剤水溶液を3時間かけて連続的に添加した。最終的な重合転化率はそれぞれ98%であった。
得られた共重合体ラテックスを、上記実施例1−1と同じ方法でpH調整、濃縮を行い、固形分濃度50%の共重合体ラテックスを得た。
【0044】
実施例1−5,6
攪拌装置及び温度調節機を備えた耐圧反応容器に、表1に示される1段目成分を仕込み、窒素で重合系内を置換した。その後、重合系内の温度を40℃に昇温し、この温度で1時間重合を行った。次いで、表1に示される2段目成分と、還元剤水溶液の1/5量とを5時間かけて連続的に重合系内に添加し、重合を進めた。更に、3段目成分と、還元剤水溶液の1/5量とを2時間かけて連続的に重合系内に添加した。その後、4段目成分と、還元剤水溶液の2/5量とを1時間かけて連続的に重合系内に添加した。重合を完結させるために、残り1/5量の還元剤水溶液を2時間かけて連続的に添加した。最終的な重合転化率はそれぞれ98%であった。
得られた共重合体ラテックスを、上記実施例1−1と同じ方法でpH調整、濃縮を行い、固形分濃度50%の共重合体ラテックスを得た。
【0045】
比較例1−1〜3
攪拌装置及び温度調節機を備えた耐圧反応容器に、表1に示される1段目成分を仕込み、窒素で重合系内を置換した。その後、重合系内の温度を50℃に昇温し、この温度で1時間重合を行った。次いで、表1及び表2に示される2段目成分と、還元剤水溶液の1/2量とを5時間かけて連続的に重合系内に添加し、重合を進めた。その後、重合を完結させるために、残り1/2量の還元剤水溶液を2時間かけて連続的に添加した。最終的な重合転化率はそれぞれ98%であった。
得られた共重合体ラテックスを、上記実施例1−1と同じ方法でpH調整、濃縮を行い、固形分濃度50%の共重合体ラテックスを得た。
【0046】
比較例1−4〜6
攪拌装置及び温度調節機を備えた耐圧反応容器に、表2に示される1段目成分を仕込み、窒素で重合系内を置換した。その後、重合系内の温度を60℃に昇温し、この温度で4時間重合を行った。次いで、表2に示される2段目成分を一括して仕込み、更に10時間重合を行った。最終的な重合転化率はそれぞれ98%であった。
得られた共重合体ラテックスを、上記実施例1−1と同じ方法でpH調整、濃縮を行い、固形分濃度50%の共重合体ラテックスを得た。
【0047】
比較例1−7,8
攪拌装置及び温度調節機を備えた耐圧反応容器に、表2に示される1段目成分を仕込み、窒素で重合系内を置換した。その後、重合系内の温度を50℃に昇温し、この温度で1時間重合を行った。次いで、表2に示される2段目成分を3時間かけて連続的に重合系内に添加し、重合を進めた。更に、3段目成分と、還元剤水溶液の1/2量とを4時間かけて連続的に重合系内に添加した。その後、重合を完結させるために、残り1/2量の還元剤水溶液を3時間かけて連続的に添加した。最終的な重合転化率はそれぞれ98%であった。
得られた共重合体ラテックスを、上記実施例1−1と同じ方法でpH調整、濃縮を行い、固形分濃度50%の共重合体ラテックスを得た。
【0048】
比較例1−9,10
攪拌装置及び温度調節機を備えた耐圧反応容器に、表2に示される1段目成分を仕込み、窒素で重合系内を置換した。その後、重合系内の温度を40℃に昇温し、この温度で1時間重合を行った。次いで、表2に示される2段目成分と、還元剤水溶液の1/5量とを5時間かけて連続的に重合系内に添加し、重合を進めた。更に、3段目成分と、還元剤水溶液の1/5量とを2時間かけて連続的に重合系内に添加した。その後、4段目成分と、還元剤水溶液の2/5量とを1時間かけて連続的に重合系内に添加した。重合を完結させるために、残り1/5量の還元剤水溶液を2時間かけて連続的に添加した。最終的な重合転化率はそれぞれ98%であった。
得られた共重合体ラテックスを、上記実施例1−1と同じ方法でpH調整、濃縮を行い、固形分濃度50%の共重合体ラテックスを得た。
【0049】
【表1】
Figure 0004193480
【0050】
【表2】
Figure 0004193480
【0051】
各共重合体ラテックスについて、下記評価を行った。その結果を表3乃至表5に示す。
(1)平均粒子径
大塚電子社製の粒子径測定装置(LPA−3100)を用いた。
(2)GPC測定
本文中に示した方法によって、ゲル成分の含量(%)と、ゲル成分以外の重合体成分の重量平均分子量Mwとを求めた。
(3)トルエン不溶分
本文中に示した。
(4)アセトン膨潤度
本文中に示した。
(5)ベトツキ防止性
ラテックスをポリエチレンテレフタレートフィルム上にNo.18ロッドにより塗布し、120℃で30秒間乾燥させ、皮膜を形成させた。この皮膜と黒羅紗紙とを合わせて、ベンチスーパーカレンダーにより線圧200kg/m、温度70℃(条件A)及び110℃(条件B)で圧着した。その後、両者を引き剥がして、黒羅紗紙のラテックスへの転写の程度を目視により5段階で評価した。転写の程度が少ないものほど高得点とした。数値は測定回数6回の平均値で示した。
(6)機械的安定性
市販のマロン式機械的安定度試験機を用いて、固形分濃度30%のラテックス(試料120g)に、ロータ回転数1,000rpm、ロータ荷重15kg、回転時間15分の条件で機械的剪断を与えた後、120メッシュの金網に残る凝集物を捕捉した。捕捉した凝集物を乾燥させた後、元の試料固形分重量に対する凝集物の割合を求めた。
(7)ラテックス再分散性
ラテックスを黒羅紗紙上にNo.18ロッドにより塗布し、室温で1分間乾燥させた後、直ちに40℃の温水で3分間洗浄した。かかる黒羅紗紙を室温で乾燥させた後、黒羅紗紙上に残るラテックス皮膜の程度を5段階で評価した。ラテックス皮膜の程度が小さいものほど高得点とした。数値は測定回数3回の平均値で示した。
【0052】
【表3】
Figure 0004193480
【0053】
【表4】
Figure 0004193480
【0054】
【表5】
Figure 0004193480
【0055】
2.紙塗工用組成物の評価
上記実施例1−1〜6及び比較例1〜10で製造した共重合体ラテックスを用いて、下記の配合処方により、オフセット印刷用紙塗工用組成物を調製した。
(処方)
カオリンクレー 70.0部
炭酸カルシウム 30.0部
分散剤 0.2部
水酸化ナトリウム 0.1部
澱粉 4.0部
共重合体ラテックス(固形分として) 10.0部
水 全固形分が60%となるように適当量添加
【0056】
実施例2−1〜6及び比較例2−1〜10
次に、各紙塗工用組成物を、塗工用原紙の片面に塗工量が13.0±0.5gとなるように、電動式ブレードコータ(熊谷理機社製)を用いて塗工し、150℃の電気式熱風乾燥機にて15秒乾燥させた。その後、23℃、湿度50%の恒温恒湿槽に1昼夜放置し、その後、線圧100kg/cm、ロール温度50℃の条件でスーパーカレンダー処理を4回行った。得られた塗工紙の性能評価は以下の方法にて行った。その結果を表3乃至表5に示す。
【0057】
(1)ドライピック強度
RI印刷機で印刷したときのピッキングの強度を肉眼で判定し、5段階で評価した。ピッキング現象が少ないものほど高得点とした。数値は測定回数6回の平均値で示した。
(2)ウェットピック強度
RI印刷機を用いて、塗工紙表面を給水ロールで湿してからRI印刷機で印刷したときのピッキングの強度を肉眼で判定し、5段階で評価した。ピッキング現象が少ないものほど高得点とした。数値は測定回数6回の平均値で示した。
(3)印刷光沢
RI印刷機を用いてオフセット用インキをベタ塗りし、村上式光沢計を使用して入射角60度で測定した。
【0058】
また、実施例−5、6及び比較例−4、5、9及び10で製造した紙塗工用組成物については、以下の方法にて耐ブリスター性を評価した。その結果を表3〜5に併記した。
【0059】
(4)耐ブリスター性
両面印刷塗工紙を調湿(約6%)した後、加熱したオイルバスに投入し、ブリスターが発生するときの最低温度で示した。
【0060】
3.実施例の効果
3−1.ラテックスの評価結果について
表1より、実施例1−1及び比較例1−1は、用いる単量体の種類及び組成を同一として、分子量調節剤を、α−メチルスチレンダイマーのみ、あるいはα−メチルスチレンダイマー及びt−ドデシルメルカプタンの併用とした例であり、得られた重合体ラテックスは、表3及び表4から、ゲル成分の含量がそれぞれ92%(実施例2−1)及び79%(比較例2−1)であり、分子量調節剤としてメルカプタン類を用いると、ゲル成分の生成量は減少する。また、ゲル成分以外の重合体成分のMwは、それぞれ7.4万及び4.1万であり、3.3万もの差がある。ベトツキ防止性についても、上記Mwが低いと、十分でないことが分かる。更に、アセトン膨潤度は、それぞれ285%及び125%であり、架橋点間分子量に大きな差があることが分かる。
また、表1における実施例1−2及び比較例1−2についても、上記と同様な傾向が表3及び表4において見られる。
比較例1−3乃至1−6も、分子量調節剤としてα−メチルスチレンダイマー及びt−ドデシルメルカプタンを併用した例である。比較例1−3で得られた共重合体ラテックスは、ゲル成分以外の重合体成分のMwは5.9万、アセトン膨潤度が220%と共に十分であるが、ゲル成分の含量が80%、トルエン不溶分が88%と共に低く、バランスがとれていない(表4の比較例2−3)。比較例1−4で得られた重合体ラテックスは、ゲル成分の含量、ゲル成分以外の重合体成分のMw、トルエン不溶分、及びアセトン膨潤度のすべてにおいて、十分とはいえない(表4の比較例2−4)。また、比較例1−5で得られた重合体ラテックスは、トルエン不溶分を除いては、十分ではない。更に、分子量調節剤としてt−ドデシルメルカプタンの使用量をα−メチルスチレンダイマーの2倍量とした比較例1−6では、ゲル成分以外の重合体成分のMwが3.0万となり、アセトン膨潤度も70%にまで低下する(表5の比較例2−6)。
【0061】
表1における実施例1−3及び1−4、並びに表2における比較例1−7及び1−8は、コア部を2段階で、シェル部を1段階で重合した例である。比較例1−7によって得られた重合体ラテックスは、分子量調節剤としてメルカプタン類を用いていないが、得られた重合体ラテックスは、表5から、ゲル成分の含量が82%と低くなった(比較例2−7)。また、比較例1−8によって得られた重合体ラテックスは、分子量調節剤としてα−メチルスチレンダイマーのみを用いたが、その使用量の合計が2.2部と多いため、得られた重合体ラテックスは、表5から、ゲル成分の含量が79%と低くなり、トルエン不溶分も89%にまで低下した(比較例2−8)。また、ベトツキ防止性は、条件A及び条件Bのいずれにおいても著しく劣っていた。
一方、実施例1−3及び1−4によって得られた重合体ラテックスは、表3から、ゲル成分の含量、ゲル成分以外の重合体成分のMw、トルエン不溶分、及びアセトン膨潤度のすべてにおいて、十分高い値を示した。
【0062】
また、表1における実施例1−5及び1−6、並びに表2における比較例1−9及び1−10は、コア部を3段階で、シェル部を1段階で重合した例である。比較例1−9によって得られた重合体ラテックスは、全工程においてα−メチルスチレンダイマー及びt−ドデシルメルカプタンを併用した例であり、ゲル成分以外の重合体成分のMwは10.0万と非常に高く、更にアセトン膨潤度も310%と優れているが、ゲル成分の含量及びトルエン不溶分が十分ではない。比較例1−10によって得られた重合体ラテックスは、シェル部の重合工程のみにおいて、分子量調節剤としてメルカプタン類を用いない例であるが、比較例1−9と同様の結果を示した。
一方、実施例1−5及び1−6によって得られた重合体ラテックスは、いずれもゲル成分の含量、ゲル成分以外の重合体成分のMw、トルエン不溶分、及びアセトン膨潤度のすべてにおいて、十分高い値を示した(表3)。特に、実施例2−6では、ゲル成分以外の重合体成分のMwが8.2万という非常に高い値であり、実施例2−1と同様にベトツキ防止性に非常に優れている。
また、ラテックスの再分散性については、表3乃至表5より、比較例2−1乃至2−8では、2.6〜4.0と低かった。一方、実施例2−1乃至2−6では4.8〜5.0と高かった。
【0063】
3−2.塗工紙の評価結果について
表3乃至表5より、比較例2−1乃至2−8では、ドライピック強度、ウェットピック強度及び印刷光沢のすべてにおいて十分ではなかった。比較例2−9及び2−10では、実施例2−1乃至2−6よりもドライピック強度及びウェットピック強度において優れた物性を示したが、印刷光沢及び耐ブリスター性を合わせたバランス特性においては十分とはいえない。一方、実施例2−1乃至2−6では、上記3−1で記載したように、共重合体ラテックスのベトツキ防止性の高さから、優れた塗工操業性を発揮するだけでなく、各種物性バランスに優れた塗工紙を提供することができることが分かる。
【0064】
【発明の効果】
本発明の共重合体ラテックスの製造方法によれば、得られる重合体のGPC測定によって求められたゲル成分の含量が85重量%以上、トルエン不溶分の含量が94重量%以上、且つ得られる重合体のアセトンによる膨潤度が200%以上である共重合体ラテックスを効率的に製造することができる。また、メルカプタン類を除く分子量調節剤の所定量を用いて50℃以下で重合することにより、上記性質のみならず、重合体が高度に架橋した状態においても、分子量が従来より高く、更に分子量の低い成分の含有量が少ないラテックスを効率的に製造することができる。
本発明の共重合体ラテックスは、得られる重合体全量に対するゲル成分の含量が85重量%以上、トルエン不溶分の含量が94重量%以上、且つ得られる重合体のアセトンによる膨潤度が200%以上であり、更にゲル成分以外の重合体成分の重量平均分子量が3万以上であることによって、従来に比べて、含まれる重合体の凝集力及びラテックスとしての接着力が極めて高い。特に、アセトンによる膨潤度が200%以上と高いため、重合体が高度に架橋していても架橋点間分子量が大きいので、接着性をはじめとするラテックス性能及び柔軟性を十分に併せ持つ。
本発明の紙塗工用組成物は、高速印刷時における変形速度の極めて大きい衝撃に対して、優れた強度を発現するとともに、印刷光沢等の印刷適性にも優れる。また、重合体が高度に架橋していることに加え、低分子量の重合体成分が量的に極めて少ない状態にあるため、機械的安定性及びベトツキ防止性が格段に優れ、塗工操業時のロール汚れ等を発生させることがなく、塗工操業性が著しく向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】GPC測定によって得られるクロマトグラムであり、検出曲線の一例を示す説明図である。

Claims (5)

  1. 分子量調節剤として、メルカプタン類を用いることなく、α−メチルスチレンダイマーのみを用いて、共役ジエン系単量体及びエチレン系不飽和カルボン酸単量体、並びに該共役ジエン系単量体及び該エチレン系不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な単量体を、
    30〜45℃の重合温度範囲で、コア部重合とシェル部重合との多段階重合により、
    得られる重合体のコア及びシェルの割合は、用いられる単量体全量を100重量%とした場合、コア部に用いられる単量体の割合が40〜90重量%、シェル部に用いられる単量体の割合が10〜60重量%であり、GPC測定によって求められたポリスチレン換算の分子量で100万に対応する溶出時間T1より早く検出されるピーク1に相当する成分及び上記溶出時間T1より遅く検出されるピーク2に相当する成分からなり、
    上記ピーク1に相当する成分の含量が85重量%以上であり、
    上記ピーク2に相当する成分の重量平均分子量が5万以上であり、
    下記〔1〕のトルエン不溶分の測定方法による該重合体のトルエン不溶分の含量が94重量%以上、且つ、下記〔2〕の膨潤度の測定方法によるアセトンによる膨潤度が200%以上である共重合体ラテックスを製造することを特徴とする共重合体ラテックスの製造方法。
    〔1〕トルエン不溶分の測定方法
    共重合体ラテックスをpH8.0に調整した後、イソプロパノールで凝固し、この凝固物を洗浄、乾燥した後、所定量(0.03g)の試料を100mlのトルエンに20時間浸漬する。その後、120メッシュの金網で濾過し、得られる残存固形分の重量を測定し、初めの共重合ラテックスの全固形分に対する割合を求めることによって得られる。
    〔2〕膨潤度の測定方法
    共重合体ラテックスをpH8.0に調整した後、イソプロパノールで凝固し、この凝固物を洗浄、乾燥した後、100℃、圧力150kg/cmで10分間プレスし、厚さ2mmのフィルムとする。得られたフィルムを縦20mm、横20mmの正方形状に裁断し、重量を測定する(W1グラム)。その後、このフィルムをアセトン中に20時間浸漬する。浸漬後、表面に付着したアセトンを拭き取り、重量を測定する(W2グラム)。膨潤度は、下記式(1)により求められる。
    膨潤度(%)={(W2−W1)/W1}×100 (1)
  2. 上記α−メチルスチレンダイマーの使用量は、上記単量体全量を100重量部とした場合に2重量部以下である請求項1に記載の共重合体ラテックスの製造方法。
  3. 上記共役ジエン系単量体がブタジエンであり、上記エチレン系不飽和カルボン酸単量体がアクリル酸及び/またはイタコン酸であり、該共役ジエン系単量体及び該エチレン系不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な上記単量体がメタクリル酸メチル、スチレン及びアクリロニトリルから選ばれた少なくとも1種である請求項2に記載の共重合体ラテックスの製造方法。
  4. 請求項1から3のいずれか一項に記載の方法によって得られたことを特徴とする共重合体ラテックス。
  5. 請求項4に記載の共重合体ラテックスを含有することを特徴とする紙塗工用組成物。
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