ところで、上述した特許文献1には前記ハイブリッド車両の駆動装置に用いられるエンジン始動方法として、例えば、動力分配機構に作動的に連結された第1電動機、エンジン、および第2電動機の相互の相対回転速度の関係に基づいて、第1電動機の回転速度を引き上げるともに第2電動機が発生するトルク或いは動力分配機構の出力軸に設けられたブレーキにより動力分配機構の出力軸の回転速度を制動することで、エンジン回転速度を点火可能な回転速度以上に引き上げてエンジンの始動が行われる技術が示されている。
しかしながら、第1電動機の回転速度を引き上げることでのエンジン始動方法が一律に適用されることが、エンジン始動に要する時間は短い程よいとされることもあり必ずしも適切ではない可能性があった。
例えば、上記動力分配機構の使い方の一態様として、動力分配機構をその差動作用が働く状態である差動状態と働かない状態である非差動状態とに切り換え可能に構成することも考えられる。しかし、このように差動状態と非差動状態とに切り換え可能に構成される動力分配機構の場合にも、前述と同様に特許文献1に示される様なエンジン始動方法が一律に適用することができないという問題があった。例えば、動力分配機構が非差動状態とされて機械的な動力伝達経路が構成される場合には、第1電動機および第2電動機の回転速度が車速に対して一意的に固定されることになることから、差動状態と異なり車速と無関係に第1電動機の回転速度を速やかに引き上げることができないので特許文献1に示される様なエンジン始動方法が適用されない可能性があった。
上記のような不都合は、前記動力分配機構の出力軸と駆動輪との間に自動変速機が設けられて駆動装置が構成される場合や、上記のような動力分配機構を備えて電気的な無段変速機として作動する無段変速状態と有段変速機として作動する有段変速状態とに切り換え可能に駆動装置を構成する場合も同様である。
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、電気的な無段変速機として作動する無段変速状態或いは差動状態と有段の変速機として作動する有段変速状態或いは非差動状態とに切換可能な差動機構を変速機構として備える車両用駆動装置において、エンジンの始動に際してエンジン回転速度が速やかに上昇させられてエンジン始動性が向上する車両用駆動装置の制御装置を提供することにある。
すなわち、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、エンジンの出力を駆動輪へ伝達する車両用駆動装置の制御装置であって、(a) 前記エンジンに連結された第1要素と第1電動機に連結された第2要素と第2電動機および伝達部材に連結された第3要素とを有するとともにその第1要素乃至第3要素のうちのいずれか2つを相互に連結し或いはその第2要素を非回転部材に連結する係合装置を有する動力分配機構を備え、電気的な無段変速機として作動する無段変速状態と有段の変速機として作動する有段変速状態とに切り換え可能な変速機構と、(b) 車両状態に基づいて前記係合装置を解放してその第1要素、第2要素、および第3要素を相互に相対回転可能とすることにより前記無段変速状態とし、前記係合装置を係合してその第1要素、第2要素、および第3要素のうちの少なくとも2つを相互に連結するか或いはその第2要素を非回転状態とすることにより前記有段変速状態とする切換制御手段と、(c) 前記変速機構の前記有段変速状態での車両走行中において前記エンジンを始動する際は、前記切換制御手段により前記変速機構を前記無段変速状態に切り換えさせるエンジン始動制御手段とを、含むことにある。
このようにすれば、前記変速機構の前記有段変速状態での車両走行中において前記エンジンを始動する際は、エンジン始動制御手段により前記変速機構が前記無段変速状態に切り換えられるので、車速に対して第2要素および第3要素の回転速度が一意的に固定されるか、或いは第2要素の回転速度が非回転状態とされ且つ車速に対して第3要素の回転速度が一意的に固定される前記変速機構の前記有段変速状態に比較して、例えば第1電動機により第2要素の回転速度が速やかに引き上げられるか或いは第1電動機により第2要素の回転速度が引き上げられることが可能とされ、第1要素、第2要素、および第3要素の相互の相対回転速度の関係に基づいて第1要素すなわち第1要素に連結されたエンジン回転速度がエンジン点火可能回転速度以上に速やかに上昇させられてエンジンの始動性が向上する。また、3つの要素と係合装置により動力分配機構が簡単に構成されるとともに、前記切換制御手段により係合装置が制御されることにより変速機構が無段変速状態と有段変速状態とに簡単に切り換えられる。
ここで、好適には、請求項2にかかる発明の要旨とするところは、エンジンの出力を駆動輪へ伝達する車両用駆動装置の制御装置であって、(a) 差動状態と非差動状態とに切り換えられる動力分配機構と、(b) その動力分配機構が非差動状態で車両が走行中の前記エンジンの始動に際しては、その動力分配機構を差動状態に切り換えるエンジン始動制御手段とを、含むことにある。
このようにすれば、前記動力分配機構が非差動状態での車両走行中において前記エンジンを始動する際は、エンジン始動制御手段によりその動力分配機構が差動状態に切り換えられるので、前記動力分配機構の非差動状態に比較してエンジン回転速度がエンジン点火可能回転速度以上に速やかに上昇させられることが可能とされてエンジンの始動性が向上する。
また、好適には、請求項3にかかる発明では、前記動力分配機構を有する変速機構を備え、前記動力分配機構は、前記エンジンに連結された第1要素と第1電動機に連結された第2要素と第2電動機および伝達部材に連結された第3要素とを有し、その第1要素、第2要素、第3要素が相対回転可能な差動状態とその第1要素、第2要素、第3要素が一体回転させられるかまたはその第2要素が非回転部材に連結させられる非差動状態とに切り換えられるものであり、前記変速機構は、その動力分配機構が差動状態であるときに電気的な無段変速機として作動し、その非差動状態であるときに有段変速機として作動するものである。このようにすれば、車速に対して第2要素および第3要素の回転速度が一意的に固定されるか、或いは第2要素の回転速度が非回転状態とされ且つ車速に対して第3要素の回転速度が一意的に固定される前記動力分配機構の前記非差動状態に比較して、例えば第1電動機により第2要素の回転速度が速やかに引き上げられるか或いは第1電動機により第2要素の回転速度が引き上げられることが可能とされ、第1要素、第2要素、および第3要素の相互の相対回転速度の関係に基づいて第1要素すなわち第1要素に連結されたエンジン回転速度がエンジン点火可能回転速度以上に速やかに上昇させられてエンジンの始動性が向上する。また、3つの要素により動力分配機構が簡単に構成されるとともに、差動状態と非差動状態とに簡単に切り換えられる。
また、好適には、請求項4にかかる発明では、前記エンジン始動制御手段は、前記第1電動機によりエンジンを回転駆動してそれを始動させるものである。このようにすれば、第1電動機により第2要素の回転速度が速やかに引き上げられ、第1要素、第2要素、および第3要素の相互の相対回転速度の関係に基づいて第1要素すなわち第1要素に連結されたエンジン回転速度がエンジン点火可能回転速度以上に速やかに上昇させられてエンジンの始動性が向上する。
また、好適には、請求項5にかかる発明では、前記エンジン始動制御手段は、エンジン回転速度が所定値すなわちエンジン点火可能回転速度以上の時には前記変速機構を前記有段変速機として作動する状態に維持させるものである。このようにすれば、エンジン始動が必要な際にはエンジン始動制御手段により例えば前記変速機構が前記無段変速走行に切り換えられ第1電動機により第2要素の回転速度が引き上げられることでエンジン回転速度をエンジン点火可能回転速度以上に上昇させるエンジン始動制御に比較して速やかにエンジンが始動させられてエンジンの始動性が更に向上する。
また、好適には、請求項6にかかる発明の要旨とするところは、エンジンの出力を駆動輪へ伝達する車両用駆動装置の制御装置であって、(a) 前記エンジンに連結された第1要素と第1電動機に連結された第2要素と第2電動機および伝達部材に連結された第3要素とを有するとともにその第1要素乃至第3要素のうちのいずれか2つを相互に連結し或いはその第2要素を非回転部材に連結する係合装置を有する動力分配機構と、前記伝達部材と前記駆動輪との間に前記動力分配機構に直列に設けられる自動変速部とを備え、電気的な無段変速機として作動する無段変速状態と有段の変速機として作動する有段変速状態とに切り換え可能な変速機構と、(b) 車両状態に基づいて前記係合装置を解放してその第1要素、第2要素、および第3要素を相互に相対回転可能とすることにより前記無段変速状態とし、前記係合装置を係合してその第1要素、第2要素、および第3要素のうちの少なくとも2つを相互に連結するか或いはその第2要素を非回転状態とすることにより前記有段変速状態とする切換制御手段と、(c) 前記自動変速部でエンジンの回転方向が反転させられる後進走行時に前記エンジンを始動する際は、前記切換制御手段により前記変速機構を前記無段変速状態に切り換えさせ且つ前記第1電動機によりエンジンを回転駆動してそれを始動させるエンジン始動制御手段とを、含むことにある。
このようにすれば、前記伝達部材と前記駆動輪との間に前記動力分配機構に直列に設けられる前記自動変速部でエンジンの回転方向が反転させられる後進走行時に前記エンジンを始動する際は、エンジン始動制御手段により前記切換制御手段を用いて前記変速機構が前記無段変速状態に切り換えられ第1電動機により第2要素の回転速度が引き上げられるので、第1要素、第2要素、および第3要素の相互の相対回転速度の関係に基づいて第1要素すなわち第1要素に連結されたエンジン回転速度がエンジン点火可能回転速度以上に速やかに上昇させられて後進走行中にエンジンが始動可能とされることでエンジンの始動性が向上する。また、3つの要素と係合装置により動力分配機構が簡単に構成されるとともに、前記切換制御手段により係合装置が制御されることにより変速機構が無段変速状態と有段変速状態とに簡単に切り換えられる。
また、好適には、請求項7にかかる発明の要旨とするところは、エンジンの出力を駆動輪へ伝達する車両用駆動装置の制御装置であって、(a) 前記エンジンに連結された第1要素と第1電動機に連結された第2要素と第2電動機および伝達部材に連結された第3要素とを有するとともにその第1要素乃至第3要素が相対回転可能な差動状態とその第1要素乃至第3要素が共に回転させられるかまたはその第2要素が非回転部材に連結させられる非差動状態とに切り換えられる動力分配機構と、(b) その動力分配機構に直列に設けられる自動変速部と、(c) 前記自動変速部でエンジンの回転方向が反転させられる後進走行時に前記エンジンを始動する際は、その動力分配機構を差動状態に切り換えさせ且つ前記第1電動機によりエンジンを回転駆動してそれを始動させるエンジン始動制御手段とを、含むことにある。
このようにすれば、前記伝達部材と前記駆動輪との間に前記動力分配機構に直列に設けられる前記自動変速部でエンジンの回転方向が反転させられる後進走行時に前記エンジンを始動する際は、エンジン始動制御手段により前記動力分配機構が差動状態に切り換えられ第1電動機により第2要素の回転速度が引き上げられるので、第1要素、第2要素、および第3要素の相互の相対回転速度の関係に基づいて第1要素すなわち第1要素に連結されたエンジン回転速度がエンジン点火可能回転速度以上に速やかに上昇させられて後進走行中にエンジンが始動可能とされることでエンジンの始動性が向上する。また、3つの要素により動力分配機構が簡単に構成されるとともに、差動状態と非差動状態とに簡単に切り換えられる。
また、好適には、請求項8にかかる発明では、前記自動変速部の変速比に基づいて前記駆動装置の変速比が形成されるものである。このようにすれば、自動変速部の変速比を利用することによって駆動力が幅広く得られるようになる。
また、好適には、請求項9にかかる発明では、前記変速機構は、前記伝達部材と前記駆動輪との間において前記動力分配機構と直列に設けられた自動変速部を含み、その自動変速部の変速比に基づいて前記変速機構の変速比が形成されるものである。このようにすれば、自動変速部の変速比を利用することによって駆動力が幅広く得られるようになる。
また、好適には、請求項10にかかる発明では、前記動力分配機構の変速比と前記自動変速部の変速比とに基づいて前記変速機構の総合変速比が形成されるものである。このようにすれば、自動変速部の変速比を利用することによって駆動力が幅広く得られるようになるので、動力分配機構における無段変速制御の効率が一層高められる。また、好適には、前記自動変速部は有段式自動変速部である。このようにすれば、前記変速機構において動力分配機構と有段式自動変速部とで無段変速状態としての無段変速機が構成され、動力分配機構と有段式自動変速部とで有段変速状態としての有段式自動変速機が構成される。
また、好適には、前記自動変速部は有段式自動変速部であり、前記有段式自動変速部の変速は、予め記憶された変速線図に基づいて実行されるものである。このようにすれば、有段式自動変速部の変速が容易に実行される。
また、好適には、請求項11にかかる発明では、前記動力分配機構は遊星歯車装置であり、前記第1要素はその遊星歯車装置のキャリヤであり、前記第2要素はその遊星歯車装置のサンギヤであり、前記第3要素はその遊星歯車装置のリングギヤであり、前記係合装置は、前記キャリヤ、サンギヤ、リングギヤのうちのいずれか2つを相互に連結するクラッチおよび/またはそのサンギヤを非回転部材に連結するブレーキを備えたものである。このようにすれば、動力分配機構の軸方向寸法が小さくなるとともに、1つの遊星歯車装置によって簡単に構成される。
また、好適には、請求項12にかかる発明では、前記遊星歯車装置はシングルピニオン型遊星歯車装置である。このようにすれば、動力分配機構の軸方向寸法が小さくなるとともに、動力分配機構が1つのシングルピニオン型遊星歯車装置によって簡単に構成される。
また、好適には、請求項13にかかる発明では、前記シングルピニオン型遊星歯車装置を変速比が1である変速機とするために前記キャリヤとサンギヤを相互に連結するか、或いは前記シングルピニオン型遊星歯車装置を変速比が1より小さい増速変速機とするために前記サンギヤを非回転状態とするように前記係合装置が制御されるものである。このようにすれば、動力分配機構が1つのシングルピニオン型遊星歯車装置による単段または複数段の定変速比を有する変速機として前記切換制御手段によって簡単に制御される。
また、好適には、エンジン始動時以外において前記切換制御手段は、車両の所定条件に基づいて前記変速機構を前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換えるものである。このようにすれば、切換型変速機構が切換制御手段により無段変速状態と有段変速状態とのいずれかに車両の所定条件に基づいて選択的に切り換えられることから、電気的な無段変速機の燃費改善効果と機械的に動力を伝達する有段変速機の高い伝達効率との両長所を兼ね備えた駆動装置が得られる。例えば、車両の低中速走行および低中出力走行では、上記変速機構が無段変速状態とされて車両の燃費性能が確保されるが、高速走行では変速機構が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジンの出力が駆動輪へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる場合に発生する動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されるので、燃費が向上させられる。また、高出力走行では上記変速機構が有段変速状態とされるので、電気的な無段変速機として作動させる領域が車両の低中速走行および低中出力走行となって、電動機が発生すべき電気的エネルギ換言すれば電動機が伝える電気的エネルギの最大値を小さくできてその電動機或いはそれを含む車両の駆動装置が一層小型化される。
また、好適には、前記車両の所定条件は、予め設定された高速走行判定値に基づいて定められたものであり、前記切換制御手段は、実際の車速が前記高速走行判定値を越えたときに前記変速機構を前記有段変速状態とするものである。このようにすれば、例えば実際の車速が高車速側に設定された高速走行判定値を越えると、専ら機械的な動力伝達経路でエンジンの出力が駆動輪へ伝達されて、電気的な無段変速機として作動させる場合に発生する動力と電気との間の変換損失が抑制されるので燃費が向上させられる。また、上記高速走行判定値は、車両の高速走行を判定するために予め設定された値である。
また、好適には、前記車両の所定条件は、予め設定された高速走行判定値に基づいて定められたものであり、前記切換制御手段は、実際の車速が前記高速走行判定値を越えたときに前記変速機構の無段変速状態を禁止するものである。このようにすれば、例えば実際の車速が高車速側に設定された高速走行判定値を越えると、変速機構の無段変速状態が禁止されて、電気的な無段変速機として作動させる場合に発生する動力と電気との間の変換損失が抑制されるので、専ら機械的な動力伝達経路でエンジンの出力が駆動輪へ伝達されて、車両の燃費が向上させられる。
また、好適には、前記車両の所定条件は、予め設定された高出力走行判定値に基づいて定められたものであり、前記切換制御手段は、車両の駆動力関連値が前記高出力走行判定値を越えたときに前記変速機構を前記有段変速状態とするものである。このようにすれば、例えば要求駆動力或いは実際の駆動力などの駆動力関連値が比較的高出力側に設定された高出力走行判定値を越えると、専ら機械的な動力伝達経路でエンジンの出力が駆動輪へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる場合の電動機が伝える電気的エネルギの最大値を小さくできてその電動機或いはそれを含む車両の駆動装置が一層小型化される。ここで、上記駆動力関連値は、エンジンの出力トルク、変速機の出力トルク、駆動輪の駆動トルク等の動力伝達経路における伝達トルクや回転力、それを要求するスロットル開度など、車両の駆動力に直接或いは間接的に関連するパラメータである。また、上記高出力走行判定値は、車両の高出力走行を判定するために予め設定された値である。
また、好適には、前記車両の所定条件は、予め設定された高出力走行判定値に基づいて定められたものであり、前記切換制御手段は、車両の駆動力関連値が前記高出力走行判定値を越えたときに前記変速機構の無段変速状態を禁止するものである。このようにすれば、例えば要求駆動力或いは実際の駆動力などの駆動力関連値が比較的高出力側に設定された高出力走行判定値を越えると、変速機構の無段変速状態が禁止されて、電気的な無段変速機として作動させる場合の電動機が伝える電気的エネルギの最大値が小さくされるので、専ら機械的な動力伝達経路でエンジンの出力が駆動輪へ伝達されて、その電動機或いはそれを含む車両の駆動装置が一層小型化される。
また、好適には、前記車両の所定条件は、高速走行判定線および高出力走行判定線を含む、車速と車両の駆動力とをパラメータとする予め記憶された切換線図から実際の車速と車両の駆動力関連値とに基づいて定められるものである。このようにすれば、高車速判定または高トルク判定が簡単に判定される。
また、好適には、前記車両の所定条件は、前記変速機構を前記電気的な無段変速状態とするための制御機器の機能低下を判定する故障判定条件であり、前記切換制御手段は前記故障判定条件が成立した場合に前記変速機構を前記有段変速状態とするものである。このようにすれば、前記変速機構が通常は無段変速状態とされる場合であっても優先的に有段変速状態とされることで、有段走行ではあるが無段走行と略同様の車両走行が確保される。
また、好適には、前記車両の所定条件は、予め設定された前記故障判定条件に基づいて定められたものであり、前記切換制御手段は、前記故障判定条件が成立した場合に前記変速機構の無段変速状態を禁止するものである。このようにすれば、例えば電気的な無駄変速状態するための制御機器の機能低下が判定されると、変速機構の無段変速状態が禁止されるので、前記変速機構が無段変速状態とされない場合でも有段変速状態とされることで、有段走行ではあるが無段走行と略同様の車両走行が確保される。
また、好適には、前記変速機構において、第2電動機が前記伝達部材に直接に連結される。このようにすれば、前記自動変速部の出力軸に対して低トルクの出力でよいので、第2電動機が一層小型化される。
図1は、本発明の一実施例である制御装置が適用されるハイブリッド車両の駆動装置の一部を構成する変速機構10を説明する骨子図である。図1において、変速機構10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接に連結された切換型変速部11と、その切換型変速部11と出力軸22との間で伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている自動変速機として機能する有段式自動変速部20(以下、自動変速部20という)と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この変速機構10は、車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、走行用の駆動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪との間に設けられて、図5に示すようにエンジンからの動力を駆動装置の他の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)36および一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪38へ伝達する。なお、変速機構10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の変速機構10を表す部分においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。
切換型変速部11は、第1電動機M1と、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に合成し或いは分配する機械的機構であって、エンジン8の出力を第1電動機M1および伝達部材18に分配し、或いはエンジン8の出力とその第1電動機M1の出力とを合成して伝達部材18へ出力させる動力分配機構16と、伝達部材18と一体的に回転するように設けられている第2電動機M2とを備えている。なお、この第2電動機M2は伝達部材18から出力軸22までの間のいずれの部分に設けられてもよい。本実施例の第1電動機M1および第2電動機M2は発電機能をも有する所謂モータジェネレータであるが、第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2は駆動力を出力するためのモータ(電動機)機能を少なくとも備える。
動力分配機構16は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置24と、切換クラッチC0および切換ブレーキB0とを主体的に備えている。この第1遊星歯車装置24は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を回転要素(要素)として備えている。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1である。
この動力分配機構16においては、第1キャリヤCA1は入力軸14すなわちエンジン8に連結され、第1サンギヤS1は第1電動機M1に連結され、第1リングギヤR1は伝達部材18に連結されている。また、切換ブレーキB0は第1サンギヤS1とトランスミッションケース12との間に設けられ、切換クラッチC0は第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1との間に設けられている。それら切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放されると、第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1がそれぞれ相互に相対回転可能な差動作用が働く差動状態とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されるとともに、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、例えば所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、切換型変速部11がその変速比γ0(入力軸14の回転速度/伝達部材18の回転速度)が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する無段変速状態とされる。
この状態で、エンジン8の出力で車両走行中に上記切換クラッチC0が係合させられて第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1とが一体的に係合させられると、第1遊星歯車装置24の3要素S1、CA1、R1が一体回転させられる非差動状態とされることから、エンジン8の回転と伝達部材18の回転速度とが一致する状態となるので、切換型変速部11は変速比γ0が「1」に固定された変速機として機能する定変速状態とされる。次いで、上記切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられて第1サンギヤS1が非回転状態とされる非差動状態とされると、第1リングギヤR1は第1キャリヤCA1よりも増速回転されるので、切換型変速部11は変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定された増速変速機として機能する定変速状態とされる。このように、本実施例では、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、切換型変速部11を、変速比が連続的変化可能な無段変速機として作動する無段変速状態と、無段変速機として作動させず無段変速作動を非作動として変速比変化を一定にロックするロック状態すなわち1または2種類以上の変速比の単段または複数段の変速機として作動する定変速状態、換言すれば変速比が一定の1段または複数段の変速機として作動する定変速状態とに選択的に切換える作動状態切換装置として機能している。
自動変速部20は、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第3遊星歯車装置28、およびシングルピニオン型の第4遊星歯車装置30を備えている。第2遊星歯車装置26は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第3遊星歯車装置28は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転および公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。第4遊星歯車装置30は、第4サンギヤS4、第4遊星歯車P4、その第4遊星歯車P4を自転および公転可能に支持する第4キャリヤCA4、第4遊星歯車P4を介して第4サンギヤS4と噛み合う第4リングギヤR4を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ4を有している。第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3、第4サンギヤS4の歯数をZS4、第4リングギヤR4の歯数をZR4とすると、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3、上記ギヤ比ρ4はZS4/ZR4である。
自動変速部20では、第2サンギヤS2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第2キャリヤCA2は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第4リングギヤR4は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第2リングギヤR2と第3キャリヤCA3と第4キャリヤCA4とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第3リングギヤR3と第4サンギヤS4とが一体的に連結されて第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3は従来の車両用自動変速機においてよく用いられている油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介装されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
以上のように構成された変速機構10では、例えば、図2の係合作動表に示されるように、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第5速ギヤ段(第5変速段)のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力歯車回転速度NOUT )が各ギヤ段毎に得られるようになっている。特に、本実施例では動力分配機構16に切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、切換型変速部11は前述した無段変速機として作動する無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動する定変速状態を構成することが可能とされている。したがって、変速機構10では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた切換型変速部11と自動変速部20とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた切換型変速部11と自動変速部20とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。言い換えれば、変速機構10は、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。また、切換型変速部11も有段変速状態と無段変速状態とに切り換え可能な変速機であると言える。
例えば、変速機構10が有段変速機として機能する場合には、図2に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により、変速比γ1が最大値例えば「3.357」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.180」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.424」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第4速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0の係合により、変速比γ5が第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第5速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2および第3ブレーキB3の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「3.209」程度である後進ギヤ段が成立させられる。なお、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば切換クラッチC0のみが係合される。
しかし、変速機構10が無段変速機として機能する場合には、図2に示される係合表の切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、切換型変速部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって変速機構10全体としてのトータル変速比(総合変速比)γTが無段階に得られるようになる。
図3は、無段変速部或いは第1変速部として機能する切換型変速部11と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部20とから構成される変速機構10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、横軸方向において各遊星歯車装置24、26、28、30のギヤ比ρの相対関係を示し、縦軸方向において相対的回転速度を示す二次元座標であり、3本の横軸のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度NEを示し、横軸XGが伝達部材18の回転速度を示している。また、切換型変速部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する第1サンギヤS1、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する第1キャリヤCA1、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する第1リングギヤR1の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は第1遊星歯車装置24のギヤ比ρ1に応じて定められている。すなわち、縦線Y1とY2との間隔を1に対応するとすると、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ1に対応するものとされる。さらに、自動変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第2サンギヤS2および第3サンギヤS3を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第2キャリヤCA2を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する第4リングギヤR4を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応し且つ相互に連結された第2リングギヤR2、第3キャリヤCA3、第4キャリヤCA4を、第8回転要素(第8要素)RE8に対応し且つ相互に連結された第3リングギヤR3、第4サンギヤS4をそれぞれ表し、それらの間隔は第2、第3、第4遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρ2、ρ3、ρ4に応じてそれぞれ定められている。すなわち、図3に示すように、各第2、第3、第4遊星歯車装置26、28、30毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が1に対応するものとされ、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応するものとされる。
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の変速機構10は、動力分配機構(無段変速部)16において、第1遊星歯車装置24の3回転要素(要素)の1つである第1キャリヤCA1が入力軸14に連結されるとともに切換クラッチC0を介して他の回転要素の1つである第1サンギヤS1と選択的に連結され、その他の回転要素の1つである第1サンギヤS1が第1電動機M1に連結されるとともに切換ブレーキB0を介してトランスミッションケース12に選択的に連結され、残りの回転要素である第1リングギヤR1が伝達部材18および第2電動機M2に連結されて、入力軸14の回転を前記伝達部材18を介して自動変速部(有段変速部)20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により第1サンギヤS1の回転速度と第1リングギヤR1の回転速度との関係が示される。例えば、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0の解放により無段変速状態に切換えられたときは、第1電動機M1の発電による反力を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される第1サンギヤS1の回転が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y3との交点で示される第1リングギヤR1の回転速度が下降或いは上昇させられる。また、切換クラッチC0の係合により第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1とが連結されると、上記3回転要素が一体回転するロック状態とされるので、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度NEと同じ回転で伝達部材18が回転させられる。また、切換ブレーキB0の係合によって第1サンギヤS1の回転が停止させられると、直線L0は図3に示す状態となり、その直線L0と縦線Y3との交点で示される第1リングギヤR1すなわち伝達部材18の回転速度は、エンジン回転速度NEよりも増速された回転で自動変速部20へ入力される。
自動変速部20では、図3に示すように、第1クラッチC1と第3ブレーキB3とが係合させられることにより、第8回転要素RE8の回転速度を示す縦線Y8と横線X2との交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第1速の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第2速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L3と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第3速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第4速の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第4速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度NEと同じ回転速度で第8回転要素RE8に切換型変速部11すなわち動力分配機構16からの動力が入力される。しかし、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、切換型変速部11からの動力がエンジン回転速度NEよりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L5と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第5速の出力軸22の回転速度が示される。
図4は、本実施例の変速機構10を制御するための電子制御装置40に入力される信号及びその電子制御装置40から出力される信号を例示している。この電子制御装置40は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8、電動機M1、M2に関するハイブリッド駆動制御、前記自動変速部20の変速制御等の駆動制御を実行するものである。
上記電子制御装置40には、図4に示す各センサやスイッチから、エンジン水温を示す信号、シフトポジションを表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度NE を表す信号、ギヤ比列設定値を示す信号、M(モータ走行)モードを指令する信号、エアコンの作動を示すエアコン信号、出力軸22の回転速度に対応する車速信号、自動変速部20の作動油温を示す油温信号、サイドブレーキ操作を示す信号、フットブレーキ操作を示す信号、触媒温度を示す触媒温度信号、アクセルペダルの操作量を示すアクセル開度信号、カム角信号、スノーモード設定を示すスノーモード設定信号、車両の前後加速度を示す加速度信号、オートクルーズ走行を示すオートクルーズ信号、車両の重量を示す車重信号、各駆動輪の車輪速を示す車輪速信号、変速機構10を有段変速機として機能させるために切換型変速部11を定変速状態に切り換えるための有段スイッチ操作の有無を示す信号、変速機構10を無段変速機として機能させるために切換型変速部11を無段変速状態に切り換えるための無段スイッチ操作の有無を示す信号、第1電動機M1の回転速度NM1を表す信号、第2電動機M2の回転速度NM2を表す信号などが、それぞれ供給される。また、上記電子制御装置40からは、スロットル弁の開度を操作するスロットルアクチュエータへの駆動信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、エンジン8の点火時期を指令する点火信号、電動機M1およびM2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、動力分配機構16や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路42に含まれる電磁弁を作動させるバルブ指令信号、上記油圧制御回路42の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
図5は、電子制御装置40による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図5において、切換制御手段50は、高車速判定手段62、高出力走行判定手段64、および電気パス機能判定手段66を備えており、車両状態に基づいて変速機構10を前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換える。また、ハイブリッド制御手段52は、変速機構10の前記無段変速状態すなわち切換型変速部11の無段変速状態においてエンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第1電動機M1および/または第2電動機M2との駆動力の配分を最適になるように変化させて切換型変速部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。また、有段変速制御手段54は、例えば変速線図記憶手段56に予め記憶された図6に示す変速線図から車速Vおよび出力トルクTout で示される車両状態に基づいて自動変速部20の変速すべき変速段を判断して自動変速部20の自動変速制御を実行する。
高車速判定手段62は、ハイブリッド車両の車両状態例えば実際の車速Vが高速走行を判定するための予め設定された高速走行判定値である判定車速V1以上の高車速となったか否かを判定する。高出力走行判定手段64は、ハイブリッド車両の車両状態例えば駆動力に関連する駆動力関連値例えば自動変速部20の出力トルクTout が高出力走行を判定するための予め設定された高出力走行判定値である判定出力トルクT1以上の高トルク(高駆動力)走行となったか否かを判定する。電気パス機能判定手段66は、変速機構10を無段変速状態とするための車両状態例えば制御機器の機能低下が判定される故障判定条件の判定を、例えば第1電動機M1における電気エネルギの発生からその電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスに関連する機器の機能低下すなわち第1電動機M1、第2電動機M2、インバータ58、蓄電装置60、それらを接続する伝送路などの故障や、故障(フェイル)とか低温による機能低下或いは機能不全の発生に基づいて判定する。
上記駆動力関連値とは、車両の駆動力に1対1に対応するパラメータであって、駆動輪38での駆動トルク或いは駆動力のみならず、例えば自動変速部20の出力トルクTout 、エンジントルクTe 、車両加速度や、例えばアクセル開度或いはスロットル開度(或いは吸入空気量、空燃比、燃料噴射量)とエンジン回転速度NEとによって算出されるエンジントルクTe などの実際値や、運転者のアクセルペダル操作量或いはスロットル開度に基づいて算出される要求駆動力等の推定値であってもよい。また、上記駆動トルクは出力トルクTout 等からデフ比、駆動輪38の半径等を考慮して算出されてもよいし、例えばトルクセンサ等によって直接検出されてもよい。上記他の各トルク等も同様である。つまり、高出力走行判定手段64では車両の駆動力を直接或いは間接的に示す駆動力関連パラメータに基づいて車両の高出力走行が判定される。
増速側ギヤ段判定手段68は、変速機構10を有段変速状態とする際に切換クラッチC0および切換ブレーキB0のいずれを係合させるかを判定するために、例えば車両状態に基づいて変速線図記憶手段56に予め記憶された図6に示す変速線図に従って変速機構10の変速されるべき変速段が増速側ギヤ段例えば第5速ギヤ段であるか否かを判定する。これは、変速機構10全体が有段式自動変速機として機能させられる場合に、第1速乃至第4速では切換クラッチC0が係合させられ、或いは第5速では切換ブレーキB0が係合させられるようにするためである。
切換制御手段50は、所定条件としての高車速判定手段62による高車速判定、高出力走行判定手段64による高出力走行判定すなわち高トルク判定、電気パス機能判定手段66による電気パス機能不全の判定の少なくとも1つが発生したことに基づいて、変速機構10を有段変速状態に切り換える有段変速制御領域であると判定して、ハイブリッド制御手段52に対してハイブリッド制御或いは無段変速制御を不許可すなわち禁止とする信号を出力するとともに、有段変速制御手段54に対しては、予め設定された有段変速時の変速制御を許可する。このときの有段変速制御手段54は、変速線図記憶手段56に予め記憶された例えば図6に示す変速線図に従って自動変速部20の自動変速制御を実行する。図2は、このときの変速制御において選択される油圧式摩擦係合装置すなわちC0、C1、C2、B0、B1、B2、B3の作動の組み合わせを示している。すなわち、変速機構10全体すなわち切換型変速部11および自動変速部20が所謂有段式自動変速機として機能し、図2に示す係合表に従って変速段が達成される。
例えば、高車速判定手段62による高車速判定、増速側ギヤ段判定手段68による第5速ギヤ段判定、或いは高出力走行判定手段64による高出力走行判定であっても増速側ギヤ段判定手段68により第5速ギヤ段が判定される場合には、変速機構10全体として変速比が1.0より小さな増速側ギヤ段所謂オーバードライブギヤ段が得られるために切換制御手段50は切換型変速部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が0.7の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を解放させ且つ切換ブレーキB0を係合させる指令を油圧制御回路42へ出力する。また、高出力走行判定手段64による高出力走行判定或いは増速側ギヤ段判定手段68により第5速ギヤ段でないと判定される場合には、変速機構10全体として変速比が1.0以上の減速側ギヤ段が得られるために切換制御手段50は切換型変速部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が1の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を係合させ且つ切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路42へ出力する。このように、切換制御手段50によって所定条件に基づいて変速機構10が有段変速状態に切り換えられるとともに、その有段変速状態における2種類の変速段のいずれかとなるように選択的に切り換えられて、切換型変速部11が副変速機として機能させられ、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、変速機構10全体が所謂有段式自動変速機として機能させられる。
例えば、判定車速V1は、高速走行において変速機構10が無段変速状態とされるとかえって燃費が悪化するのを抑制するように、その高速走行において変速機構10が有段変速状態とされるように設定されている。また、判定トルクT1は、車両の高出力走行において第1電動機M1の反力トルクをエンジンの高出力域まで対応させないで第1電動機M1を小型化するために、例えば第1電動機M1からの電気エネルギの最大出力を小さくして配設可能とされた第1電動機M1の特性に応じて設定されることになる。
しかし、切換制御手段50は、上記高車速判定手段62による高車速判定、高出力走行判定手段64による高出力走行判定、電気パス機能判定手段66による電気パス機能不全の判定のいずれも発生しないときは、変速機構10を無段変速状態に切り換える無段変速制御領域であると判定して、変速機構10全体として無段変速状態が得られるために前記切換型変速部11を無段変速状態として無段変速可能とするように切換クラッチC0および切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路42へ出力する。同時に、ハイブリッド制御手段52に対してハイブリッド制御を許可する信号を出力するとともに、有段変速制御手段54には、予め設定された無段変速時の変速段に固定する信号を出力するか、或いは変速線図記憶手段56に予め記憶された例えば図6に示す変速線図に従って自動変速部20を自動変速することを許可する信号を出力する。この場合、有段変速制御手段54により、図2の係合表内において切換クラッチC0および切換ブレーキB0の係合を除いた作動により自動変速が行われる。このように、切換制御手段50により所定条件に基づいて無段変速状態に切り換えられた切換型変速部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、適切な大きさの駆動力が得られると同時に、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって変速機構10全体として無段変速状態となりトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
上記ハイブリッド制御手段52は、エンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第1電動機M1および/または第2電動機M2との駆動力の配分を最適になるように変化させる。例えば、そのときの走行車速において、アクセルペダル操作量や車速から運転者の要求出力を算出し、運転者の要求出力と充電要求値から必要な駆動力を算出し、エンジンの回転速度とトータル出力とを算出し、そのトータル出力とエンジン回転速度NEとに基づいて、エンジン出力を得るようにエンジン8を制御するとともに第1電動機M1の発電量を制御する。ハイブリッド制御手段52は、その制御を自動変速部20の変速段を考慮して実行したり、或いは燃費向上などのために自動変速部20に変速指令を行う。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度NEと車速および自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、切換型変速部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段52は無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立した予め記憶された最適燃費率曲線に沿ってエンジン8が作動させられるように変速機構10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように切換型変速部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内例えば13〜0.5の範囲内で制御することになる。
このとき、ハイブリッド制御手段52は、第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ58を通して蓄電装置60や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は第1電動機M1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ58を通して電気エネルギが第2電動機M2或いは第1電動機M1へ供給され、その第2電動機M2或いは第1電動機M1から伝達部材18へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機M2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。また、ハイブリッド制御手段52は、エンジン8の停止又はアイドル状態に拘わらず、切換型変速部11の電気的CVT機能によってモータ走行させることができる。さらに、ハイブリッド制御手段52は、エンジン8の停止状態で切換型変速部11が有段変速状態(定変速状態)であっても第1電動機M1および/または第2電動機M2を作動させてモータ走行させることもできる。
図6は、自動変速部20の変速判断の基となる変速線図記憶手段56に予め記憶された変速線図(関係)であり、車速Vと駆動力関連値である出力トルクTout とをパラメータとする二次元座標で構成された変速線図(変速マップ)の一例である。図6の実線はアップシフト線であり一点鎖線はダウンシフト線である。また、図6の破線は切換制御手段50による有段制御領域と無段制御領域との判定のための所定条件を定める判定車速V1および判定出力トルクT1を示しており、高車速判定値である判定車速V1の連なりと高出力走行判定値である判定出力トルクT1の連なりである高車速判定線と高出力走行判定線を示している。さらに、図6の破線に対して二点鎖線に示すように有段制御領域と無段制御領域との判定にヒステリシスが設けられている。この図6は判定車速V1および判定出力トルクT1を含む、車速Vと出力トルクTout とをパラメータとして切換制御手段50により有段制御領域と無段制御領域とのいずれであるかを領域判定するための予め記憶された切換線図(切換マップ、関係)でもある。よって車両の所定条件は、この切換線図から実際の車速Vと出力トルクTout とに基づいて定められてもよい。すなわち、この図6は変速マップと所定条件との関係を示す図であるともいえる。なお、この切換線図を含めて変速マップとして変速線図記憶手段56に予め記憶されてもよい。また、この切換線図は判定車速V1および判定出力トルクT1の少なくとも1つを含むものであってもよいし、車速Vおよび出力トルクTout の何れかをパラメータとする予め記憶された切換線であってもよい。上記変速線図や切換線図等は、実際の車速Vと判定車速V1とを比較する判定式、出力トルクTout と判定出力トルクT1とを比較する判定式等として記憶されてもよい。
前記図6の破線は例えば図7に示すエンジン回転速度NEおよびエンジントルクTEをパラメータとする予め記憶された無段制御領域と有段制御領域との境界線としてのエンジン出力線を有する関係図(マップ)に基づいて自動変速部20の変速線図上に置き直された概念的な切換線である。言い換えれば、図7は図6の破線を作るための概念図である。また切換制御手段50は、この図7の関係図(マップ)から実際のエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとに基づいて、それらのエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとで表される車両状態が無段制御領域内であるか或いは有段制御領域内であるかを判定してもよい。
図6の関係に示されるように、出力トルクTout が予め設定された判定出力トルクT1以上の高トルク領域、或いは車速Vが予め設定された判定車速V1以上の高車速領域が、有段制御領域として設定されているので、有段変速走行がエンジン8の比較的高トルクとなる高駆動トルク時、或いは車速の比較的高車速時において実行され、無段変速走行がエンジン8の比較的低トルクとなる低駆動トルク時、或いは車速の比較的低車速時すなわちエンジン8の常用出力域において実行されるようになっている。同様に、図7の関係に示されるように、エンジントルクTEが予め設定された所定値TE1以上の高トルク領域、エンジン回転速度NEが予め設定された所定値NE1以上の高回転領域、或いはそれらエンジントルクTEおよびエンジン回転速度NEから算出されるエンジン出力が所定以上の高出力領域が、有段制御領域として設定されているので、有段変速走行がエンジン8の比較的高トルク、比較的高回転速度、或いは比較的高出力時において実行され、無段変速走行がエンジン8の比較的低トルク、比較的低回転速度、或いは比較的低出力時すなわちエンジン8の常用出力域において実行されるようになっている。図7における有段制御領域と無段制御領域との間の境界線は、高車速判定値の連なりである高車速判定線および高出力走行判定値の連なりである高出力走行判定線に対応している。
これによって、例えば、車両の低中速走行および低中出力走行では、変速機構10が無段変速状態とされて車両の燃費性能が確保されるが、実際の車速Vが前記判定車速V1を越えるような高速走行では変速機構10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる場合に発生する動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されて燃費が向上させられる。また、出力トルクTout などの前記駆動力関連値が判定トルクT1を越えるような高出力走行では変速機構10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる領域が車両の低中速走行および低中出力走行となって、第1電動機M1が発生すべき電気的エネルギ換言すれば第1電動機M1が伝える電気的エネルギの最大値を小さくできて第1電動機M1或いはそれを含む車両の駆動装置が一層小型化される。また、他の考え方として、この高出力走行においては燃費に対する要求より運転者の駆動力に対する要求が重視されるので、無段変速状態より有段変速状態(定変速状態)に切り換えられるのである。これによって、ユーザは、例えば図8に示すような有段自動変速走行におけるアップシフトに伴うエンジン回転速度NEの変化すなわち変速に伴うリズミカルなエンジン回転速度NEの変化が楽しめる。
図5および図9において、複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフトレバー92を備えた手動変速操作装置であるシフト操作装置90は例えば運転席の横に配設されており、そのシフトレバー92は、例えば図2の係合作動表に示されるようにクラッチC1およびクラッチC2のいずれもが係合されないような変速機構10内つまり自動変速部20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、変速機構10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とする中立ポジション「N(ニュートラル)」、前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、または前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。上記「P」乃至「M」ポジションに示す各シフトポジションは、「P」ポジションおよび「N」ポジションは車両を走行させないときに選択される非走行ポジションすなわち車両を駆動不能な非駆動ポジションであり、「R」ポジション、「D」ポジションおよび「M」ポジションの各走行ポジションは例えば図2の係合作動表に示されるようにクラッチC1およびクラッチC2の少なくともいずれかが係合されるような自動変速部20内の動力伝達経路が連結された車両を駆動可能な駆動ポジションでもある。また、「D」ポジションは最高速走行ポジションでもあり、「M」ポジションにおける例えば「4」レンジ乃至「L」レンジはエンジンブレーキ効果が得られるエンジンブレーキレンジでもある。
上記「M」ポジションは、例えば車両の前後方向において上記「D」ポジションと同じ位置において車両の幅方向に隣接して設けられており、シフトレバー92が「M」ポジションへ操作されることにより、「D」レンジ乃至「L」レンジの何れかがシフトレバー92の操作に応じて選択される。具体的には、この「M」ポジションには、車両の前後方向にアップシフト位置「+」、およびダウンシフト位置「−」が設けられており、シフトレバー92がそれ等のアップシフト位置「+」またはダウンシフト位置「−」へ操作されると、「D」レンジ乃至「L」レンジの何れかが選択される。例えば、「M」ポジションにおいて選択される「D」レンジ乃至「L」レンジの5つの変速レンジは、変速機構10の自動変速制御が可能なトータル変速比γTの変化範囲における高速側(変速比が最小側)のトータル変速比γTが異なる複数種類の変速レンジであり、また有段変速部20の変速が可能な最高速側変速段が異なるように変速段(ギヤ段)の変速範囲を制限するものである。また、シフトレバー92はスプリング等の付勢手段により上記アップシフト位置「+」およびダウンシフト位置「−」から、「M」ポジションへ自動的に戻されるようになっている。また、シフト操作装置90にはシフトレバー92の各シフトポジションを検出するためのシフトポジションセンサ94が備えられており、そのシフトレバー92のシフトポジションを表す信号PSHをシフトポジション判定手段80へ出力する。
シフトポジション判定手段80は、前記信号PSHに基づいてシフトレバー92がいずれのポジションへ操作されたかを判定する。例えば、シフトポジション判定手段80はシフトレバー92のシフトポジションが「D」ポジションであるか否かや「N」ポジション或いは「P」ポジションであるか否かを判定する。また、シフトポジション判定手段80は、「M」ポジションにおけるシフトレバー92の手動操作によるアップシフト位置「+」またはダウンシフト位置「−」への操作回数或いは保持時間などに応じて変速レンジを判定する。
例えば、「D」ポジションがシフトレバー92の操作により選択されてシフトポジション判定手段80によりシフトレバー92のシフトポジションが「D」ポジションであると判定された場合には、図6に示す予め記憶された変速マップや切換マップに基づいて切換制御手段50により変速機構10の変速状態の自動切換制御が実行され、ハイブリッド制御手段52により切換型変速部11の無段変速制御が実行され、有段変速制御手段54により有段変速部20の自動変速制御が実行される。例えば、変速機構10が有段変速状態に切り換えられる有段変速走行時には変速機構10が例えば図2に示すような第1速ギヤ段乃至第5速ギヤ段の範囲で自動変速制御され、或いは変速機構10が無段変速状態に切り換えられる無段変速走行時には変速機構10が切換型変速部11の無段的な変速比幅と有段変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の範囲で自動変速制御される各ギヤ段とで得られる変速機構10の変速可能なトータル変速比γTの変化範囲内で自動変速制御される。この「D」ポジションは変速機構10の自動変速制御が実行される制御様式である自動変速走行モード(自動モード)を選択するシフトポジションでもある。
或いは、「M」ポジションがシフトレバー92の操作により選択されてシフトポジション判定手段80によりシフトレバー92のシフトポジションが「M」ポジションであると判定された場合には、シフトポジション判定手段80で判定された変速レンジの最高速側変速段或いは変速比を越えないように、切換制御手段50、ハイブリッド制御手段52、および有段変速制御手段54により変速機構10の各変速レンジで変速可能なトータル変速比γTの範囲で自動変速制御される。例えば、変速機構10が有段変速状態に切り換えられる有段変速走行時には変速機構10が各変速レンジで変速機構10が変速可能なトータル変速比γTの範囲で自動変速制御され、或いは変速機構10が無段変速状態に切り換えられる無段変速走行時には変速機構10が切換型変速部11の無段的な変速比幅と各変速レンジに応じた有段変速部20の変速可能な変速段の範囲で自動変速制御される各ギヤ段とで得られる変速機構10の各変速レンジで変速可能なトータル変速比γTの範囲で自動変速制御される。この「M」ポジションは手動変速制御手段80により変速機構10の手動変速制御が実行される制御様式である手動変速走行モード(手動モード)を選択するシフトポジションでもある。
エンジン始動制御手段82は、エンジン8を始動する必要が生じた場合にそのエンジン始動時にのみ実行される制御である。また、このエンジン始動制御手段82によるエンジン始動制御作動中における切換制御手段50により実行される変速機構10の変速状態の切換制御は、例えば前述した高車速判定手段62による高車速判定、高出力走行判定手段64による高出力走行判定、或いは図6の切換マップに従った領域判定に基づいて実行される切換制御に優先して実行される。このエンジン始動制御手段82は車両状態例えば変速機構10の変速状態、シフトレバー92の各シフトポジション、エンジン回転速度NE、車速V等に基づいて速やかにエンジン始動されるためにエンジン始動制御を変更する。従って、エンジン始動制御手段82は車両状態に拘わらず一律に同じエンジン始動方法でエンジン始動制御をするものではない。また、エンジン8を始動する必要が生じた場合とは、例えば蓄電装置60の充電状態SOCが低下して第1電動機により発電する場合や第2電動機M2の定格出力を越える駆動輪出力が要求された場合等が想定される。以下に、エンジン始動制御手段82による車両状態に基づくエンジン始動制御作動を説明する。
図10はエンジン始動制御の基本的な考え方を説明する共線図であり、自動変速部20が第1速ギヤ段の無段変速走行である前進低車速走行でのエンジン始動時における切換型変速部11を構成する前記3要素の相対回転速度変化を示す関係図である。図10の共線図自体は図3に相当するものである。例えば、図10の実線Aに示す車両状態で第1電動機M1の回転速度が上昇させられると、第1電動機M1に連結された第1サンギヤS1の回転速度が上矢印の如く引き上げられるとともに切換型変速部11を構成する前記3要素の相対回転速度に基づいて第1キャリヤCA1の回転速度すなわち第1キャリヤCA1に連結されたエンジン回転速度NEが引き上げられる。つまり、第1電動機M1の回転速度を上昇させて車両状態を実線Aから実線Bとすることで、エンジン回転速度NEを点火可能なエンジン回転速度NE2(以下、点火可能回転速度NE2と表す)以上に引き上げるのである。例えば、この点火可能回転速度NE2はエンジン8が自律回転可能となるエンジン回転速度でありエンジンの特性により異なるが一般的には450rpm〜500rpmとされるが、本実施例では予め実験等により求められて記憶されている。点火可能回転速度判定手段84は、エンジン回転速度NEが点火可能回転速度NE2以下であるか否かを判定する。また、本実施例では、エンジン8、第1電動機M1と第2電動機M2、および動力分配機構16は同心に配置されているので、第1電動機M1および第2電動機M2を同じ回転方向に回転させることで第2要素RE2および第3要素RE3をエンジン8と同じ方向に回転させられる。
また、エンジン始動制御手段82は、エンジン始動の際に有段変速走行中である場合には切換制御手段50により変速機構10を前記無段変速状態とさせる。これは、自動変速部20の動力伝達経路が連結された車両走行中には第1リングギヤR1の回転速度が車速Vすなわち駆動輪38の回転速度に対して自動変速部20の変速比や差動歯車装置36の減速比等の伝達部材18と駆動輪38との間の動力伝達経路の総減速比に基づいて一意的に決められる言い換えれば駆動輪38の回転速度に対して一意的に固定されるとともに、切換クラッチC0が係合される有段変速状態時には切換型変速部11が一体回転のロック状態となり第1サンギヤS1や第1キャリヤCA1の回転速度も第1リングギヤR1の回転速度と同じとされるか、或いは切換ブレーキB0が係合される有段変速状態時には第1サンギヤS1は回転停止されているので、第1電動機M1により第1サンギヤS1の回転速度が速やかに上昇させられないか或いは第1サンギヤS1を回転させることが不能とされるためである。従って、エンジン始動制御手段82は、車両走行中に変速機構10を前記無段変速状態とさせることで第1電動機M1で第1サンギヤS1の回転速度を引き上げてエンジン回転速度NEを点火可能回転速度NE2以上に引き上げることが可能になる。但し、有段変速走行時のエンジン始動の際にエンジン回転速度NEが既に所定値以上すなわち点火可能回転速度NE2以上であればエンジン点火が可能であるのでエンジン始動制御手段82は、切換制御手段50により変速機構10の前記有段変速状態を維持させたままエンジン点火させる。
また、エンジン始動制御手段82は、エンジン始動の際に無段変速走行中である場合には切換制御手段50により変速機構10の前記無段変速状態を維持させて第1電動機M1で第1サンギヤS1の回転速度を引き上げてエンジン回転速度NEを点火可能回転速度NE2以上に引き上げる。或いは、エンジン始動制御手段82は、エンジン始動の際に無段変速走行中である場合には切換制御手段50により切換クラッチC0を係合或いは半係合させて第1サンギヤS1の回転速度を車速Vに対して一意的に固定される第1リングギヤR1の回転速度まで引き上げてエンジン回転速度NEを引き上げる。この制御は、駆動輪38側からの逆駆動力によりエンジン回転速度NEを点火可能回転速度NE2以上に引き上げられる程車速が高車速である場合に実行される。言い換えれば、エンジン始動制御手段82は、エンジン始動の際に無段変速走行中である場合に車速Vが所定値以上高速走行のときには切換制御手段50により切換クラッチC0を係合或いは半係合させてエンジン回転速度NEを点火可能回転速度NE2以上に引き上げる。上記車速Vの所定値は自動変速部20の変速比等の動力伝達経路の総減速比を考慮してエンジン回転速度NEが点火可能回転速度NE2以上となるエンジン点火可能な車速V2(以下、点火可能車速V2と表す)として予め実験等で定められ、記憶されているものである。例えば、点火可能車速V2は60〜70km/hとされる。点火可能車速判定手段86は車速Vが点火可能車速V2以上であるか否かを判定する。
エンジン始動制御手段82は、シフトレバー92のシフトポジションが非駆動ポジションとなる「N」ポジション或いは「P」ポジションである車両停止中の場合には、ハイブリッド制御手段52により第1電動機M1および第2電動機M2を同じ方向に回転させて第1サンギヤS1および第1リングギヤR1の回転速度を引き上げてエンジン回転速度NEを点火可能回転速度NE2以上に引き上げる。つまり、自動変速部20が動力遮断状態である場合には第1リングギヤR1の回転速度が駆動輪38の回転速度に対して一意的に固定されないので、エンジン始動制御手段82は第1電動機M1で第1サンギヤS1の回転速度を引き上げることに加えて、より速やかにエンジン回転速度NEを引き上げるために第2電動機M2で第1リングギヤR1の回転速度を引き上げるのである。この場合、図2の係合作動表の「N」ポジションに示すように切換クラッチC0が係合されていると切換型変速部11の前記3要素が同一の回転速度とされるのでエンジン回転速度NEを点火可能回転速度NE2以上に引き上げる制御が容易になる。なお、図2の係合作動表の「N」ポジションでは切換クラッチC0が係合されているが「N」ポジションおよび「P」ポジションではエンジン始動時はもちろんのことエンジン始動時以外においても必ずしも切換クラッチC0は係合される必要はない。
また、エンジン始動制御手段82は、シフトレバー92のシフトポジションが駆動ポジションとなる「D」ポジション、「M」ポジション、或いは「R」ポジションである車両走行中の場合には、切換制御手段50により変速機構10の前記無段変速状態を維持させるか或いは前記無段変速状態にさせた後、ハイブリッド制御手段52により第1電動機M1を回転させて第1サンギヤS1の回転速度を引き上げてエンジン回転速度NEを点火可能回転速度NE2以上に引き上げる。つまり、自動変速部20が駆動可能な連結状態である場合には第1リングギヤの回転速度が車速Vに対して一意的に固定されるので、エンジン始動制御手段82は第1電動機M1で第1サンギヤS1の回転速度を引き上げてエンジン回転速度NEを引き上げるのである。この場合、エンジン始動制御手段82は、自動変速部20が動力遮断状態である場合に比較して車速Vの上昇を伴うために緩やかではあるが第2電動機M2を第1電動機M1と同じ方向に回転上昇させて第1リングギヤR1の回転速度を引き上げて第1電動機M1によるエンジン回転速度の引上げを補ってもよい。
図11は上述した後進走行でのエンジン始動時における切換型変速部11の前記3要素の相対回転速度変化を示す関係図であって、図10に相当するものである。例えば、図11の実線Aに示す車両状態で第1電動機M1の回転速度が上昇させられると、第1電動機M1に連結された第1サンギヤS1の回転速度が上矢印の如く引き上げられるとともに第1キャリヤCA1の回転速度すなわち第1キャリヤCA1に連結されたエンジン回転速度NEが引き上げられる。つまり、第1電動機M1の回転速度を上昇させて車両状態を実線Aから実線Bとすることで、エンジン回転速度NEを点火可能回転速度NE2とするのである。
エンジン点火制御手段88は、エンジン始動制御手段82によるエンジン始動の際の制御作動において点火可能回転速度判定手段84によりエンジン回転速度NEが点火可能回転速度NE2以下でないと判定された場合には、例えば電子スロットル弁95の開度を制御したり、燃料噴射装置96による燃料供給量を制御したり、点火装置97によるエンジン8の点火時期を制御するなどしてエンジン8を始動するとともにエンジンの出力制御を実行する。
図12は、電子制御装置40の制御作動の要部すなわちエンジン8を始動する必要が生じてエンジン点火するまでの変速機構10の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
先ず、シフトポジション判定手段80に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S1において、シフトレバー92のシフトポジションがいずれのポジションであるかが例えばシフトポジションセンサ94からのシフトレバー92のシフトポジションを表す信号PSHに基づいて判定されることでシフトレバー92のシフトポジションが「D」ポジションであるか否かが判定される。このS1の判断が否定されると同じくシフトポジション判定手段80に対応するS2において、シフトレバー92のシフトポジションが「N」ポジション或いは「P」ポジションであるか否かが判定される。
前記S2の判断が肯定される場合はエンジン始動制御手段82に対応するS3において、ハイブリッド制御手段52により第1電動機M1および第2電動機M2が同じ方向に回転させられ第1サンギヤS1および第1リングギヤR1の回転速度が引き上げられてエンジン回転速度NEが点火可能回転速度NE2以上に引き上げられ、点火可能回転速度判定手段84によりエンジン回転速度NEが点火可能回転速度NE2以下でないと判定される。
前記S1の判断が肯定される場合は切換制御手段50に対応するS4において、車両が有段変速走行中か否かが判定される。例えば、ハイブリッド制御手段52に対する無段変速制御を不許可とする信号が出力されている場合には有段変速走行中であるとの判定となり、反対にハイブリッド制御手段52に対する無段変速制御を許可する信号が出力されている場合には有段変速走行中でないとの判定となる。
前記S2の判断が否定されるか或いは前記S4の判断が否定される場合は点火可能車速判定手段86に対応するS5において、実際の車速Vが点火可能車速V2以上であるか否かが判定される。このS5の判断が否定される場合はエンジン始動制御手段82に対応するS6において、ハイブリッド制御手段52により第1電動機M1が回転させられ第1サンギヤS1の回転速度が引き上げられてエンジン回転速度NEが点火可能回転速度NE2以上に引き上げられ、点火可能回転速度判定手段84によりエンジン回転速度NEが点火可能回転速度NE2以下でないと判定される。また、上記S5の判断が肯定される場合はエンジン始動制御手段82に対応するS7において、切換制御手段50により切換クラッチC0を係合或いは半係合させてエンジン回転速度NEが点火可能回転速度NE2以上に引き上げられ、点火可能回転速度判定手段84によりエンジン回転速度NEが点火可能回転速度NE2以下でないと判定される。
前記S4の判断が肯定される場合は点火可能回転速度判定手段84に対応するS8において、エンジン回転速度NEが点火可能回転速度NE2以下であるか否かが判定される。このS8の判断が肯定される場合はエンジン始動制御手段82に対応するS9において、切換制御手段50により変速機構10を前記無段変速状態に切り換えさせる。続く、エンジン始動制御手段82に対応するS10において、ハイブリッド制御手段52により第1電動機M1が回転させられ第1サンギヤS1の回転速度が引き上げられてエンジン回転速度NEが点火可能回転速度NE2以上に引き上げられ、点火可能回転速度判定手段84によりエンジン回転速度NEが点火可能回転速度NE2以下でないと判定される。
前記S3、前記S6、前記S7、或いは前記S10に続いて、或いは前記S8の判断が否定される場合はエンジン点火制御手段88に対応するS11において、電子スロットル弁95の開度を制御したり、燃料噴射装置96による燃料供給量を制御したり、点火装置97によるエンジン8の点火時期を制御するなどしてエンジン8が始動させられる。
上述のように、本実施例によれば、エンジン8を始動する際はエンジン始動制御手段82によりシフトレバー92のシフトポジション言い換えれば自動変速部20内の動力伝達経路の動力伝達可否状態に応じて実行されるので、エンジン回転速度NEが適切にエンジン点火可能回転速度NE2以上に上昇させられてエンジンの始動性が向上する。
例えば、シフトレバー92のシフトポジションが「N」ポジション或いは「P」ポジションである車両停止中の場合には、駆動輪38との作動的な連結が切り離された第1リングギヤR1の回転速度が駆動輪38の回転速度に対して一意的に固定されないので、エンジン始動制御手段82により第1電動機M1に加えて第2電動機M2を第1電動機M1と同じ方向に回転上昇させ第1サンギヤS1および第1リングギヤR1の回転速度が引き上げられる。結果として、第1電動機M1により第1サンギヤS1の回転速度を引き上げることでのエンジン始動に比較してエンジン回転速度NEがエンジン点火可能回転速度NE2以上に速やかに上昇させられてエンジンの始動性が向上する。この場合、切換クラッチC0が係合されていると切換型変速部11の前記3要素が同一の回転速度とされるのでエンジン回転速度NEを点火可能回転速度NE2以上に引き上げる制御が容易になる。
或いは、シフトレバー92のシフトポジションが「D」ポジション、「M」ポジション、或いは「R」ポジションである車両走行中の場合には、駆動輪38と作動的に連結された第1リングギヤの回転速度が車速Vに対して一意的に固定されるので、エンジン始動制御手段82により変速機構10の前記無段変速状態を維持させるか或いは前記無段変速状態に切り換えられ、第1電動機M1で第1サンギヤS1の回転速度が引き上げられる。この結果、車速Vに対して第1サンギヤS1および第1リングギヤR1の回転速度が一意的に固定されるか、或いは第1サンギヤS1の回転速度が非回転状態とされ且つ車速Vに対して第1リングギヤR1の回転速度が一意的に固定される変速機構10の前記有段変速状態に比較して、例えば第1電動機M1により第1サンギヤS1の回転速度が速やかに引き上げられるか或いは第1電動機M1により第1サンギヤS1の回転速度が引き上げられることが可能とされ、エンジン回転速度NEがエンジン点火可能回転速度NE2以上に速やかに引き上げられてエンジンの始動性が向上する。この場合に、エンジン始動制御手段82により第2電動機M2が第1電動機M1と同じ方向に回転上昇させられることで、自動変速部20が動力遮断状態である場合に比較して車速Vの上昇を伴うために緩やかではあるが第1リングギヤR1の回転速度が引き上げられて第1電動機M1によるエンジン回転速度の引上げが補われる。
また、本実施例によれば、変速機構10の前記有段変速状態での車両走行中においてエンジン8を始動する際は、エンジン始動制御手段82により変速機構10が前記無段変速状態に切り換えられるので、車速Vに対して第1サンギヤS1および第1リングギヤR1の回転速度が一意的に固定されるか、或いは第1サンギヤS1の回転速度が非回転状態とされ且つ車速Vに対して第1リングギヤR1の回転速度が一意的に固定される変速機構10の前記有段変速状態に比較して、例えば第1電動機M1により第1サンギヤS1の回転速度が速やかに引き上げられるか或いは第1電動機M1により第1サンギヤS1の回転速度が引き上げられることが可能とされ、エンジン回転速度NEがエンジン点火可能回転速度NE2以上に速やかに引き上げられてエンジンの始動性が向上する。
また、本実施例によれば、変速機構10の前記有段変速状態での車両走行中においてエンジン8を始動する際に、エンジン回転速度NEが所定値すなわちエンジン点火可能回転速度NE2以上のときにはエンジン始動が可能であるので、エンジン始動制御手段82は切換制御手段50により変速機構10を前記有段変速状態に維持させる。結果として、例えばエンジン始動制御手段82により変速機構10が前記無段変速状態に切り換えられ第1電動機M1により第1サンギヤS1の回転速度が引き上げられることでエンジン回転速度NEをエンジン点火可能回転速度NE2以上に上昇させるエンジン始動制御に比較して速やかにエンジンが始動させられてエンジンの始動性が更に向上する。
また、本実施例によれば、変速機構10の前記無段変速状態での車両走行中においてエンジン8始動する際に、車速Vが所定値すなわち点火可能回転速度NE2以上のときにはエンジン始動制御手段により切換クラッチC0が切換制御手段50を用いて係合或いは半係合させられて変速機構10が有段変速状態に切り換えられるので、第1サンギヤS1の回転速度が車速Vに対して一意的に固定される第1リングギヤR1の回転速度まで引き上げられエンジン回転速度NEがエンジン点火可能回転速度NE2以上に速やかに引き上げられてエンジンの始動性が向上する。例えば、変速機構10の前記無段変速状態で第1サンギヤS1の回転速度を引き上げるために第1電動機M1の回転速度を制御することでのエンジン始動に比較して切換クラッチC0を係合制御するだけでよいので制御が容易となる。
また、本実施例によれば、車両の後進走行時にエンジン8を始動する際は、エンジン始動制御手段82により切換制御手段を用いて切換型変速機構10が前記無段変速状態に切り換えられ第1電動機M1により第1サンギヤS1の回転速度が速やかに引き上げられ、エンジン回転速度NEがエンジン点火可能回転速度NE2以上に速やかに引き上げられて後進走行中であってもエンジンが始動可能とされることでエンジンの始動性が向上する。
また、本実施例によれば、動力分配機構16が、第1キャリヤCA1、第1サンギヤS1、第1リングギヤR1を3要素とするシングルピニオン型の第1遊星歯車装置24によって簡単に且つ動力分配機構16の軸方向寸法が小さく構成される利点がある。さらに、動力分配機構16には油圧式摩擦係合装置すなわち第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1とを相互に連結する切換クラッチC0および第1サンギヤS1をトランスミッションケース12に連結する切換ブレーキB0が設けられているので、切換制御手段50により変速機構10の無段変速状態と有段変速状態とが簡単に制御される。
また、本実施例によれば、動力分配機構16と駆動輪38との間に自動変速部20が直列に介装されており、その動力分配機構16の変速比すなわち切換型変速部11の変速比とその自動変速部20の変速比とに基づいて変速機構10の総合変速比が形成されることから、その自動変速部20の変速比を利用することによって駆動力が幅広く得られるようになるので、切換型変速部11における無段変速制御すなわちハイブリッド制御の効率が一層高められる。
また、本実施例によれば、変速機構10が有段変速状態とされるとき、切換型変速部11が自動変速部20の一部であるかの如く機能して変速比が1より小さいオーバドライブギヤ段である第5速が得られる利点がある。
また、本実施例によれば、切換制御手段50は、車両の所定条件に基づいて変速機構10を前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかに自動的に切り換えられることから、電気的な無段変速機の燃費改善効果と機械的に動力を伝達する有段変速機の高い伝達効率との両長所を兼ね備えた駆動装置が得られる。すなわち、エンジンの常用出力域例えば図7に示す無段制御領域或いは図6に示す車速Vが判定車速V1以下且つ出力トルクTout が判定出力トルクT1以下となる無段制御領域では変速機構10が無段変速状態とされてハイブリッド車両の通常の市街地走行すなわち車両の低中速走行および低中出力走行での燃費性能が確保されると同時に、高速走行例えば図6に示す車速Vが車両の所定条件として予め設定された判定車速V1以上となる有段制御領域では変速機構10が有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて変速機構10が電気的な無段変速機として作動させられる場合に発生する動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されるので燃費が向上させられる。また、高出力走行例えば図6に示す実際の出力トルクTout が車両の所定条件として予め設定された判定出力トルクT1以上となる有段制御領域では変速機構10が有段変速状態とされ、専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて変速機構10が電気的な無段変速機として作動させられる場合は専ら低中出力走行となるので、第1電動機M1が発生すべき電気的エネルギすなわち第1電動機M1が伝える電気的エネルギの最大値を小さくできて言い換えれば第1電動機M1の保障すべき出力容量を小さくできてその第1電動機M1や第2電動機M2、或いはそれを含む車両の駆動装置が一層小型化される。
また、本実施例によれば、車両の所定条件は、判定車速V1および判定出力トルクT1を含む、車速Vと出力トルクTout とをパラメータとする予め記憶された切換線図から実際の車速Vと出力トルクTout とに基づいて定められるものであるので、切換制御手段50による高車速判定または高出力走行判定が簡単に判定される。
また、本実施例によれば、車両の所定条件は、変速機構10を無段変速状態とするための制御機器の機能低下を判定する故障判定条件であり、切換制御手段50はその故障判定条件が成立した場合に変速機構10を有段変速状態とするものであるので、変速機構10が無段変速状態とされない場合でも有段変速状態とされることで、有段走行ではあるが無段走行と略同様の車両走行が確保される。
また、本実施例によれば、第2電動機M2が自動変速部20の入力回転部材である伝達部材18に連結されていることから、その自動変速部20の出力軸22に対して低トルクの出力でよくなるので、第2電動機M2が一層小型化される利点がある。
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
図16は、手動操作によって変速機構10の変速状態を切り換えるための変速状態手動選択装置としてのシーソー型スイッチ44である。前述の実施例では、例えば図6の関係図から車両状態の変化に基づく変速機構10の変速状態の自動切換制御作動を説明したが、例えばシーソー型スイッチ44が手動操作されたことにより変速機構10の変速状態が手動切換制御されてもよい。但し、エンジン始動制御手段82によるエンジン始動制御作動中における切換制御手段50により実行される変速機構10の変速状態の切換制御が、シーソー型スイッチ44による変速機構10の手動切換制御に優先して実行される。例えば、ユーザは無段変速機のフィーリングや燃費改善効果が得られる走行を所望すれば変速機構10が無段変速状態とされるように手動操作により選択すればよいし、また有段変速機の変速に伴うエンジン回転速度の変化によるフィーリング向上を所望すれば変速機構10が有段変速状態とされるように手動操作により選択すればよい。このような、変速機構10の手動切換制御の場合、特に変速比が無段階に制御される無段変速状態の場合にも本発明は適用され得る。また、スイッチ44に無段変速走行或いは有段変速走行の何れも選択されない状態である中立位置が設けられる場合には、スイッチ44がその中立位置の状態であるときすなわちユーザによって所望する変速状態が選択されていないときや所望する変速状態が自動切換のときにも、前述の実施例と同様に本発明が適用され得る。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例のエンジン始動制御手段82により変速機構10、70が無段変速状態とされて実行されたエンジン始動制御作動は、変速機構10、70が有段変速状態に切り換え可能に構成されないすなわち切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられず電気的な無段変速機としての機能のみを有する変速機構にも適用され得る。例えば、エンジン始動制御手段82により第1電動機M1に加えて第2電動機M2を第1電動機M1と同じ方向に回転させ第1サンギヤS1および第1リングギヤR1の回転速度が引き上げられる。好適には、車両停車中の場合のみ、または車両停車中と判定されるような略停車中の場合のみに上記エンジン始動制御が実行されることが考えられる。また、好適には、車両停止状態であるか否かに拘わらず自動変速部20、72の動力伝達経路が遮断された中立状態である場合に、上記エンジン始動制御が実行されてもよい。結果として、第1電動機M1により第1サンギヤS1の回転速度を引き上げることでのエンジン始動に比較してエンジン回転速度NEがエンジン点火可能回転速度NE2以上に速やかに上昇させられてエンジンの始動性が向上する。また、この場合には、切換制御手段50は備えられている必要はない。
また、前述の実施例のエンジン始動制御手段82により第1電動機M1に加えて第2電動機M2を第1電動機M1と同じ方向に回転させ第1サンギヤS1および第1リングギヤR1の回転速度が引き上げられるエンジン始動制御は、起動時のエンジン回転抵抗が大きいときに実行されてもよい。これは、エンジン回転抵抗が大きくなる場合例えば暖機後の暖機温度よりも低い低エンジン水温時、低エンジン油温時のために定常時の回転抵抗よりも回転抵抗が大きい場合には、エンジン始動の際により大きな回転トルクが必要とされるためである。1つの電動機すなわち第1電動機M1による出力によってエンジン回転速度NEを引き上げることに比較して、2つの電動機すなわち第1電動機M1および第2電動機M2による出力によってエンジン回転速度NEが引き上げられることになるので、より大きなエンジン始動に必要な回転トルクが得られエンジン回転速度NEがエンジン点火可能回転速度NE2以上に速やかに上昇させられる。例えば、エンジン回転抵抗は、エンジン水温やエンジン油温等をパラメータとして予め実験等により求められて記憶された関係から実際のエンジン水温やエンジン油温等に基づいてエンジン回転抵抗推定値としてが求められる。そして、その推定値が図示しないエンジン回転抵抗判定手段により判定値を越えているか否かが判定されて2つの電動機を用いるエンジン始動制御が実行される必要があるか否かが判定される。
また、前述の実施例の変速機構10、70は、切換型変速部11が差動状態と非差動状態とに切り換えられることで電気的な無段変速機としての機能する無段変速状態と有段変速機として機能する有段変速状態とに切り換え可能に構成されていたが、無段変速状態と有段変速状態との切換えは切換型変速部11の差動状態と非差動状態との切換えにおける一態様であり、例えば切換型変速部11が差動状態であっても切換型変速部11の変速比を連続的ではなく段階的に変化させて有段変速機として機能させられてもよい。言い換えれば、変速機構10、70(切換型変速部11)の差動状態/非差動状態と、無段変速状態/有段変速状態とは必ずしも一対一の関係にある訳ではないので、変速機構10、70は必ずしも無段変速状態と有段変速状態とに切り換え可能に構成される必要はなく、変速機構10、70(切換型変速部11、動力分配機構16)が差動状態と非差動状態とに切換え可能に構成されれば本発明は適用され得る。
また、前述の実施例では、エンジン8、第1電動機M1と第2電動機M2、および動力分配機構16は同心に配置されていたが、必ずしも同心に配置される必要はない。例えば、第1電動機M1がカウンタギヤを介して第1サンギヤS1(第2要素RE2)に連結されて第1電動機M1と第1サンギヤS1との回転方向が逆になるような場合には、第1電動機M1と第2電動機M2との回転方向を反対とすることで第2要素RE2および第3要素RE3が同じ方向に回転させられる。要するに、エンジン回転速度NEを引き上げるために第2要素RE2および第3要素RE3が同じ方向に回転させられればよい。
また、前述の実施例ではシフトレバー92が「M」ポジションへ操作されることにより、変速レンジが設定されものであったが変速段が設定されることすなわち各変速レンジの最高速変速段が変速段として設定されてもよい。この場合、自動変速部20、72では変速段が切り換えられて変速が実行される。例えば、シフトレバー92が「M」ポジションにおけるアップシフト位置「+」またはダウンシフト位置「−」へ手動操作されると、第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の何れかがシフトレバー92の操作に応じて設定される。
また、前述の実施例の動力分配機構16では、第1キャリヤCA1がエンジン8に連結され、第1サンギヤS1が第1電動機M1に連結され、第1リングギヤR1が伝達部材18に連結されたいたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン8、第1電動機M1、伝達部材18は、第1遊星歯車装置24の3要素CA1、S1、R1のうちのいずれと連結されていても差し支えない。
また、前述の動力分配機構16には切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられていたが、切換クラッチC0および切換ブレーキB0は必ずしも両方備えられる必要はなく、少なくとも切換クラッチC0が備えられていれば本発明は適用され得る。また、上記切換クラッチC0は、サンギヤS1とキャリヤCA1とを選択的に連結するものであったが、サンギヤS1とリングギヤR1との間や、キャリヤCA1とリングギヤR1との間を選択的に連結するものであってもよい。要するに、第1遊星歯車装置24の3要素のうちのいずれか2つを相互に連結するものであればよい。
また、前述の実施例では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0などの油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁粉)クラッチ、電磁クラッチ、噛み合い型のドグクラッチなどの磁粉式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。
また、前述の実施例では、第2電動機M2が伝達部材18に連結されていたが、出力軸22に連結されていてもよいし、自動変速部20、72内の回転部材に連結されていてもよい。
また、前述の実施例では、切換型変速部11すなわち動力分配機構16の出力部材である伝達部材18と駆動輪38との間の動力伝達経路に、自動変速部20、72が介装されていたが、例えば自動変速機の一種である無段変速機(CVT)等の他の形式の動力伝達装置が設けられていてもよい。その無段変速機(CVT)の場合には、動力分配機構16が定変速状態とされることで全体として有段変速状態とされる。有段変速状態とは、電気パスを用いないで専ら機械的伝達経路で動力伝達することである。或いは、上記無段変速機は有段変速機における変速段に対応するように予め複数の固定された変速比が記憶され、その複数の固定された変速比を用いて前述の実施例における手動モード時の自動変速部20、72の変速が実行されてもよい。或いは、自動変速部20、72は必ずしも備えられてなくともよい。この場合には、自動変速部20、72の動力伝達の可否状態に拘わらず実行されるエンジン始動方法がエンジン始動制御手段82により実行されればよい。
また、前述の実施例では、変速機構10、70はエンジン8以外に第1電動機M1或いは第2電動機M2のトルクによって駆動輪38が駆動されるハイブリッド車両用の駆動装置であったが、例えば変速機構10、70を構成する切換型変速部11すなわち動力分配機構16がハイブリッド制御されない電気的CVTと称される無段変速機としての機能のみを有するような車両用の駆動装置であっても本発明は適用され得る。
また、前述の実施例の動力分配機構16は、例えばエンジンによって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車が第1電動機M1および第2電動機M2に接続された差動歯車装置であってもよい。
また、前述の実施例の動力分配機構16は、1組の遊星歯車装置から構成されていたが、2以上の遊星歯車装置から構成されて、定変速状態では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。
また、前述の実施例のスイッチ44はシーソー型のスイッチであったが、例えば押しボタン式のスイッチ、択一的にのみ押した状態が保持可能な2つの押しボタン式のスイッチ、レバー式スイッチ、スライド式スイッチ等の少なくとも無段変速走行と有段変速走行とが択一的に切り換えられるスイッチであればよい。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。