一般に、無段変速機は車両の燃費を良くする装置として知られている一方、有段式自動変速機のような歯車式伝動装置は伝達効率が良い装置として知られている。しかし、それ等の長所を兼ね備えた動力伝達機構は未だ存在しなかった。例えば、上記のような従来の車両用駆動装置の制御装置では、第1電動機から第2電動機への電気エネルギの電気パスすなわち車両の駆動力の一部を電気エネルギで伝送する伝送路を含むため、エンジンの高出力化に伴ってその第1電動機を大型化させねばならないとともに、その第1電動機から出力される電気エネルギにより駆動される第2電動機も大型化させねばならないので、駆動装置が大きくなるという問題があった。或いは、エンジンの出力の一部が一旦電気エネルギに変換されて駆動輪に伝達されるように制御されるので、高速走行などのような車両の走行条件によってはかえって燃費が悪化する可能性があった。
そこで、本発明者等は、以上の課題を解決するために種々検討を重ねた結果、第1電動機および第2電動機は、エンジン出力が比較的小さい常用出力域ではそれほどの大きさを要しないが、高出力走行時のようにエンジンの高出力域例えば最大出力域であるときにはそれに見合う容量或いは出力を備えるために大きなものが必要となることから、そのようなエンジンの出力が大きい領域であるときには、専ら機械的な動力伝達経路でエンジンの出力を駆動輪へ伝達するような状態とすると、第1電動機および第2電動機が小型となって車両の駆動装置がコンパクトとなるという点を見いだした。また、同様に専ら機械的な動力伝達経路でエンジンの出力を駆動輪へ伝達するような状態とすると、高速走行時には、エンジンの出力の一部が第1電動機により一旦電気エネルギに変換されて第2電動機により駆動輪に動力伝達するための電気パスが無くなって動力と電気との間の変換損失が抑制されるので燃費が一層向上するという点を見いだした。そして、このような知見に基づいて為された電気的な無段変速機として作動可能な無段変速状態と有段変速機として作動可能な有段変速状態とに切り換え可能に構成される駆動装置を、車両の所定条件に基づいて切換制御することで駆動装置を小型化できたり、燃費を向上できることが考えられる。
しかしながら、無段変速状態と有段変速状態との切換えが上記車両の所定条件に基づいて制御される場合にはユーザの趣向とは異なる変速状態に切り換えられる可能性がありユーザにドライバビリティーの低下の印象を与えてしまうことが考えられる。例えば、有段式自動変速機の場合には、アップシフトをするとエンジン回転速度が低下し、その後加速とともに再びエンジン回転速度が上昇する。この時、エンジン回転速度の低下が大きいのは一般的にユーザにとって好ましいものとされないが、エンジン回転速度がある程度リズミカルに変化するのは心地よいとするユーザも多い。一方、無段変速機の場合には、変速比の段階的な変化が無く、また最適燃費率を実現するようにエンジン回転速度が制御される。したがって、リズミカルなエンジン回転速度の変化が無いことで、ユーザによっては違和感を感じたり加速のリズムが分かり難くなる可能性があり、このような無段変速機のフィーリングを好ましく思わないことが考えられる。
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、電気的な無段変速機として機能する無段変速状態と有段変速機として機能する有段変速状態とに切り換えられる駆動装置を提供するとともに、無段変速状態と有段変速状態との切換えにおいてユーザの趣向を反映できる車両用駆動装置の制御装置を提供することにある。
すなわち、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、エンジンの出力を駆動輪へ伝達する車両用駆動装置の制御装置であって、(a) 電気的な無段変速機として作動可能な無段変速状態と有段の変速機として作動可能な有段変速状態とに切り換え可能な変速状態切換型変速機構と、(b) 手動操作により前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかを選択するための変速状態手動選択装置と、(c) その変速状態手動選択装置における選択状態に基づいて前記変速状態切換型変速機構を前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換えるとともに、駆動レンジの選択中であって車両状態が予め定められた強制領域となると、前記変速状態手動選択装置における選択状態に拘わらず前記変速状態切換型変速機構を前記無段変速状態と前記有段変速状態のいずれか一方の状態とする切換制御手段とを、含むことにある。
このようにすれば、電気的な無段変速機として作動可能な無段変速状態と有段の変速機として作動可能な有段変速状態とに切り換え可能な変速状態切換型変速機構が、手動操作により前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかを選択するための変速状態手動選択装置における選択状態に基づいて切換制御手段により無段変速状態と有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換えられることから、ユーザの趣向を反映した走行が得られる。例えば、ユーザは無段変速機のフィーリングや燃費改善効果が得られる走行を所望すれば変速状態切換型変速機構が無段変速状態とされるように手動操作により選択すればよいし、また有段変速機の変速に伴うエンジン回転速度の変化によるフィーリング向上を所望すれば変速状態切換型変速機構が有段変速状態とされるように手動操作により選択すればよい。また、切換制御手段により、駆動レンジの選択中であって車両状態が予め定められた強制領域となると、前記変速状態手動選択装置における選択状態に拘わらず前記変速状態切換型変速機構を前記無段変速状態と前記有段変速状態のいずれか一方の状態とされるので、たとえば電気パスの機能不全のときには車両の走行が確保され、車両停止のときにはエンジンの作動が確保される。
ここで、好適には、請求項2にかかる発明では、前記変速状態手動選択装置において前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれもが選択されていない場合には、前記切換制御手段は、車両の所定条件に基づいて前記変速状態切換型変速機構を前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換えるものである。このようにすれば、切換型変速機構が切換制御手段により無段変速状態と有段変速状態とのいずれかに車両の所定条件に基づいて選択的に切り換えられることから、電気的な無段変速機の燃費改善効果と機械的に動力を伝達する有段変速機の高い伝達効率との両長所を兼ね備えた駆動装置が得られる。例えば、車両の低中速走行および低中出力走行では、上記変速状態切換型変速機構が無段変速状態とされて車両の燃費性能が確保されるが、高速走行では変速状態切換型変速機構が有段の変速機として作動可能な有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジンの出力が駆動輪へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる場合に発生する動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されるので、燃費が向上させられる。また、高出力走行では上記変速状態切換型変速機構が有段変速状態とされるので、電気的な無段変速機として作動させる領域が車両の低中速走行および低中出力走行となって、電動機が発生すべき電気的エネルギ換言すれば電動機が伝える電気的エネルギの最大値を小さくできてその電動機或いはそれを含む車両の駆動装置が一層小型化される。
また、好適には、請求項3にかかる発明の要旨とするところは、エンジンの出力を駆動輪へ伝達する車両用駆動装置の制御装置であって、(a) 電気的な無段変速機として作動可能な無段変速状態と有段の変速機として作動可能な有段変速状態とに切り換え可能な変速状態切換型変速機構と、(b) 手動操作により前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかを選択するための変速状態手動選択装置と、(c) 前記変速状態切換型変速機構を前記無段変速状態或いは前記有段変速状態とするための領域が設定された予め記憶された関係から車両の所定条件に基づいて前記変速状態切換型変速機構を前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換える切換制御手段と、(d) 前記変速状態手動選択装置における選択状態に基づいて前記領域を変更する変速状態領域変更手段とを、含むことにある。
このようにすれば、電気的な無段変速機として作動可能な無段変速状態と有段の変速機として作動可能な有段変速状態とに切り換え可能な変速状態切換型変速機構が、前記無段変速状態或いは前記有段変速状態とするための領域が設定された予め記憶された関係から車両の所定条件に基づいて切換制御手段により前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換えられるとともに、手動操作により前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかを選択するための変速状態手動選択装置における選択状態に基づいて変速状態領域変更手段により前記領域が変更されることから、ユーザの趣向を反映した走行が得られる。例えば、ユーザは無段変速機のフィーリングや燃費改善効果が得られる走行を所望すれば変速状態切換型変速機構が無段変速状態とされるように手動操作により選択すればよいし、また有段変速機の変速に伴うエンジン回転速度の変化によるフィーリング向上を所望すれば変速状態切換型変速機構が有段変速状態とされるように手動操作により選択すればよい。
また、好適には、請求項4にかかる発明では、前記変速状態手動選択装置において前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれもが選択されていない場合には、前記切換制御手段は、前記変速状態切換型変速機構を前記無段変速状態に切り換えるものである。このようにすれば、電気的な無段変速機の燃費改善効果が得られる。また、ユーザは変速状態切換型変速機構を有段変速状態としたい場合のみ手動操作により選択すればよいので、操作が簡単になる。
また、好適には、請求項5にかかる発明では、前記変速状態手動選択装置は、前記無段変速状態と前記有段変速状態とが選択的に切り換えられる切換装置である。このようにすれば、ユーザが簡単に無段変速状態と前記有段変速状態とを選択できる。
また、好適には、請求項6にかかる発明では、前記車両の所定条件は、予め設定された高速走行判定値に基づいて定められたものであり、前記切換制御手段は、実際の車速が前記高速走行判定値を越えたときに前記変速状態切換型変速機構を前記有段変速状態とするものである。このようにすれば、例えば実際の車速が高車速側に設定された高速走行判定値を越えると、専ら機械的な動力伝達経路でエンジンの出力が駆動輪へ伝達されて、電気的な無段変速機として作動させる場合に発生する動力と電気との間の変換損失が抑制されるので燃費が向上させられる。また、上記高速走行判定値は、車両の高速走行を判定するために予め設定された値である。
また、好適には、前記車両の所定条件は、予め設定された高速走行判定値に基づいて定められたものであり、前記切換制御手段は、実際の車速が前記高速走行判定値を越えたときに前記変速状態切換型変速機構の無段変速状態を禁止するものである。このようにすれば、例えば実際の車速が高車速側に設定された高速走行判定値を越えると、変速状態切換型変速機構の無段変速状態が禁止されて、電気的な無段変速機として作動させる場合に発生する動力と電気との間の変換損失が抑制されるので、専ら機械的な動力伝達経路でエンジンの出力が駆動輪へ伝達されて、車両の燃費が向上させられる。
また、好適には、請求項7にかかる発明では、前記車両の所定条件は、予め設定された高出力走行判定値に基づいて定められたものであり、前記切換制御手段は、車両の駆動力関連値が前記高出力走行判定値を越えたときに前記変速状態切換型変速機構を前記有段変速状態とするものである。このようにすれば、例えば要求駆動力或いは実際の駆動力などの駆動力関連値が比較的高出力側に設定された高出力走行判定値を越えると、専ら機械的な動力伝達経路でエンジンの出力が駆動輪へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる場合の電動機が伝える電気的エネルギの最大値を小さくできてその電動機或いはそれを含む車両の駆動装置が一層小型化される。ここで、上記駆動力関連値は、エンジンの出力トルク、変速機の出力トルク、駆動輪の駆動トルク等の動力伝達経路における伝達トルクや回転力、それを要求するスロットル開度など、車両の駆動力に直接或いは間接的に関連するパラメータである。また、上記高出力走行判定値は、車両の高出力走行を判定するために予め設定された値である。
また、好適には、前記車両の所定条件は、予め設定された高出力走行判定値に基づいて定められたものであり、前記切換制御手段は、車両の駆動力関連値が前記高出力走行判定値を越えたときに前記変速状態切換型変速機構の無段変速状態を禁止するものである。このようにすれば、例えば要求駆動力或いは実際の駆動力などの駆動力関連値が比較的高出力側に設定された高出力走行判定値を越えると、変速状態切換型変速機構の無段変速状態が禁止されて、電気的な無段変速機として作動させる場合の電動機が伝える電気的エネルギの最大値が小さくされるので、専ら機械的な動力伝達経路でエンジンの出力が駆動輪へ伝達されて、その電動機或いはそれを含む車両の駆動装置が一層小型化される。
また、好適には、請求項8にかかる発明では、前記車両の所定条件は、高速走行判定線および高出力走行判定線を含む、車速と車両の駆動力とをパラメータとする予め記憶された切換線図から実際の車速と車両の駆動力関連値とに基づいて定められるものである。このようにすれば、高車速判定または高トルク判定が簡単に判定される。
また、好適には、請求項9にかかる発明では、前記切換制御手段は、前記変速状態切換型変速機構を前記電気的な無段変速状態とするための制御機器の機能低下を判定する故障判定条件が成立した場合には、前記変速状態手動選択装置における選択状態に拘わらず前記変速状態切換型変速機構を前記有段変速状態に切り替えるものである。このようにすれば、ユーザにより無段変速状態が選択されたときに前記変速状態切換型変速機構が無段変速状態とされないフェール時の場合でも優先的に有段変速状態とされることで、有段走行ではあるが無段走行と略同様の車両走行が確保される。
また、好適には、請求項10にかかる発明では、前記切換制御手段は、車速が零と判定された場合には、前記変速状態手動選択装置における選択状態に拘わらず前記変速状態切換型変速機構を前記無段変速状態に切り替えるものである。このようにすれば、車両停止状態すなわち駆動輪の回転が零と判定されるような所定車輪速以下のときであっても駆動輪に作動的に連結されているエンジンがエンジンストールすることが防止されるので、エンジンの作動が必要とされる場合例えば蓄電装置への充電や補機の駆動等の場合にエンジンの作動が確保される。
また、好適には、請求項11にかかる発明では、前記変速状態切換型変速機構は、第1電動機と、前記エンジンの出力をその第1電動機および伝達部材へ分配する動力分配機構と、その伝達部材と前記駆動輪との間に設けられた第2電動機とを備える。好適には、前記動力分配機構は、前記エンジンに連結された第1要素と、第1電動機に連結された第2要素と、第2電動機および伝達部材に連結された第3要素とを有する。その動力分配機構は、前記変速状態切換型変速機構を前記無段変速状態および前記有段変速状態のいずれかの状態に切換可能とするための作動状態切換装置を有し、前記切換制御手段は、その作動状態切換装置を制御することで前記無段変速状態と前記有段変速状態とを選択的に切り換えるものである。このようにすれば、切換制御手段により作動状態切換装置が制御されることにより、車両の駆動装置内の変速状態切換型変速機構が無段変速機として作動可能な無段変速状態と有段変速機として作動可能な有段変速状態とに簡単に切り換えられる。
また、好適には、請求項12にかかる発明では、前記動力分配機構は、前記エンジンに連結された第1要素と前記第1電動機に連結された第2要素と前記伝達部材に連結された第3要素とを有するものであり、前記作動状態切換装置は、前記第1要素乃至第3要素のうちのいずれか2つを相互におよび/またはその第2要素を非回転部材に連結する係合装置例えば摩擦係合装置であり、前記切換制御手段は、前記係合装置を解放してその第1要素、第2要素、および第3要素を相互に相対回転可能とすることにより前記無段変速状態とし、前記係合装置を係合してその第1要素、第2要素、および第3要素のうちの少なくとも2つを相互に連結するか或いはその第2要素を非回転状態とすることにより前記有段変速状態とするものである。このようにすれば、動力分配機構が簡単に構成されるとともに切換制御手段により無段変速状態と有段変速状態とが簡単に制御される。
また、好適には、請求項13にかかる発明では、前記動力分配機構は遊星歯車装置であり、前記第1要素はその遊星歯車装置のキャリヤであり、前記第2要素はその遊星歯車装置のサンギヤであり、前記第3要素はその遊星歯車装置のリングギヤであり、前記係合装置は、前記キャリヤ、サンギヤ、リングギヤのうちのいずれか2つを相互に連結するクラッチおよび/またはそのサンギヤを非回転部材に連結するブレーキを備えたものである。このようにすれば、動力分配機構の軸方向寸法が小さくなるとともに、1つの遊星歯車装置によって簡単に構成される。
また、好適には、請求項14にかかる発明では、前記遊星歯車装置はシングルピニオン型遊星歯車装置である。このようにすれば、動力分配機構の軸方向寸法が小さくなるとともに、動力分配機構が1つのシングルピニオン型遊星歯車装置によって簡単に構成される。
また、好適には、請求項15にかかる発明では、前記切換制御手段は、前記シングルピニオン型遊星歯車装置を変速比が1である変速機とするために前記キャリヤとサンギヤを相互に連結するか、或いは前記シングルピニオン型遊星歯車装置を変速比が1より小さい増速変速機とするために前記サンギヤを非回転状態とするように前記係合装置を制御するものである。このようにすれば、動力分配機構が1つのシングルピニオン型遊星歯車装置による単段または複数段の定変速比を有する変速機として前記切換制御手段によって簡単に制御される。
また、好適には、請求項16にかかる発明では、前記変速状態切換型変速機構は、前記伝達部材と前記駆動輪との間において前記動力分配機構と直列に設けられた自動変速機を含み、その自動変速機の変速比に基づいて前記変速状態切換型変速機構の変速比が形成されるものである。このようにすれば、自動変速機の変速比を利用することによって駆動力が幅広く得られるようになる。
また、好適には、請求項17にかかる発明では、前記動力分配機構の変速比と前記自動変速機の変速比とに基づいて前記変速状態切換型変速機構の総合変速比が形成されるものである。このようにすれば、自動変速機の変速比を利用することによって駆動力が幅広く得られるようになるので、動力分配機構における無段変速制御の効率が一層高められる。また、好適には、前記自動変速機は有段式自動変速機である。このようにすれば、前記変速状態切換型変速機構において動力分配機構と有段式自動変速機とで無段変速状態としての無段変速機が構成され、動力分配機構と有段式自動変速機とで有段変速状態としての有段式自動変速機が構成される。
また、好適には、請求項18にかかる発明では、前記自動変速機は有段式自動変速機であり、前記有段式自動変速機の変速は、予め記憶された変速線図に基づいて実行されるものである。このようにすれば、有段式自動変速機の変速が容易に実行される。
また、好適には、前記変速状態切換型変速機構において、第2電動機が前記伝達部材に直接に連結される。このようにすれば、前記自動変速機の出力軸に対して低トルクの出力でよいので、第2電動機が一層小型化される。
図1は、本発明の一実施例である制御装置が適用されるハイブリッド車両の駆動装置としての変速状態切換型変速機構10(以下、変速機構10という)を説明する骨子図である。図1において、変速機構10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接に連結された切換型変速部11と、その切換型変速部11と出力軸22との間で伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている有段式自動変速機としての自動変速部20と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この変速機構10は、車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、走行用の駆動力源としてのエンジン8と一対の駆動輪との間に設けられて、図5に示すように動力を差動歯車装置(終減速機)36および一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪38へ伝達する。なお、変速機構10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の変速機構10を表す部分においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。
切換型変速部11は、第1電動機M1と、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に合成し或いは分配する機械的機構であって、エンジン8の出力を第1電動機M1および伝達部材18に分配し、或いはエンジン8の出力とその第1電動機M1の出力とを合成して伝達部材18へ出力させる動力分配機構16と、伝達部材18と一体的に回転するように設けられている第2電動機M2とを備えている。なお、この第2電動機M2は伝達部材18から出力軸22までの間のいずれの部分に設けられてもよい。本実施例の第1電動機M1および第2電動機M2は発電機能をも有する所謂モータジェネレータであるが、第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2は駆動力を出力するためのモータ(電動機)機能を少なくとも備える。
動力分配機構16は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置24と、切換クラッチC0および切換ブレーキB0とを主体的に備えている。この第1遊星歯車装置24は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を回転要素(要素)として備えている。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1である。
この動力分配機構16においては、第1キャリヤCA1は入力軸14すなわちエンジン8に連結され、第1サンギヤS1は第1電動機M1に連結され、第1リングギヤR1は伝達部材18に連結されている。また、切換ブレーキB0は第1サンギヤS1とトランスミッションケース12との間に設けられ、切換クラッチC0は第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1との間に設けられている。それら切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放されると、第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1がそれぞれ相互に相対回転可能な状態とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されるとともに、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、切換型変速部11がその変速比γ0(入力軸14の回転速度/伝達部材18の回転速度)が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する無段変速状態とされる。
この状態で、エンジン8の出力で車両走行中に上記切換クラッチC0が係合させられて第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1とが一体的に係合させられると、第1遊星歯車装置24の3要素S1、CA1、R1が一体回転することから、エンジン8の回転と伝達部材18の回転速度とが一致する状態となるので、切換型変速部11は変速比γ0が「1」に固定された変速機として機能する定変速状態とされる。次いで、上記切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられて第1サンギヤS1が非回転状態とされると、第1リングギヤR1は第1キャリヤCA1よりも増速回転されるので、切換型変速部11は変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定された増速変速機として機能する定変速状態とされる。このように、本実施例では、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、切換型変速部11を、変速比が連続的変化可能な無段変速機として作動可能な無段変速状態と、無段変速機として作動させず無段変速作動を非作動として変速比変化を一定にロックするロック状態すなわち1または2種類以上の変速比の単段または複数段の変速機として作動可能な定変速状態、換言すれば変速比が一定の1段または複数段の変速機として作動可能な定変速状態とに選択的に切換える作動状態切換装置として機能している。
自動変速部20は、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第3遊星歯車装置28、およびシングルピニオン型の第4遊星歯車装置30を備えている。第2遊星歯車装置26は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第3遊星歯車装置28は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転および公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。第4遊星歯車装置30は、第4サンギヤS4、第4遊星歯車P4、その第4遊星歯車P4を自転および公転可能に支持する第4キャリヤCA4、第4遊星歯車P4を介して第4サンギヤS4と噛み合う第4リングギヤR4を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ4を有している。第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3、第4サンギヤS4の歯数をZS4、第4リングギヤR4の歯数をZR4とすると、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3、上記ギヤ比ρ4はZS4/ZR4である。
自動変速部20では、第2サンギヤS2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第2キャリヤCA2は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第4リングギヤR4は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第2リングギヤR2と第3キャリヤCA3と第4キャリヤCA4とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第3リングギヤR3と第4サンギヤS4とが一体的に連結されて第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3は従来の車両用自動変速機においてよく用いられている油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介装されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
以上のように構成された変速機構10では、例えば、図2の係合作動表に示されるように、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第5速ギヤ段(第5変速段)のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力歯車回転速度NOUT )が各ギヤ段毎に得られるようになっている。特に、本実施例では動力分配機構16に切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、切換型変速部11は前述した無段変速機として作動可能な無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動可能な定変速状態を構成することが可能とされている。したがって、変速機構10では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた切換型変速部11と自動変速部20とで有段変速機として作動可能な有段変速状態が構成され、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた切換型変速部11と自動変速部20とで電気的な無段変速機として作動可能な無段変速状態が構成される。言い換えれば、変速機構10は、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。また、切換型変速部11も有段変速状態と無段変速状態とに切り換え可能な変速機であると言える。
例えば、変速機構10が有段変速機として機能する場合には、図2に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により、変速比γ1が最大値例えば「3.357」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.180」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.424」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第4速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0の係合により、変速比γ5が第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第5速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2および第3ブレーキB3の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「3.209」程度である後進ギヤ段が成立させられる。なお、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば切換クラッチC0のみが係合される。
しかし、変速機構10が無段変速機として機能する場合には、図2に示される係合表の切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、切換型変速部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって変速機構10全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
図3は、無段変速部或いは第1変速部として機能する切換型変速部11と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部20とから構成される変速機構10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、横軸方向において各遊星歯車装置24、26、28、30のギヤ比ρの相対関係を示し、縦軸方向において相対的回転速度を示す二次元座標であり、3本の横軸のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度NEを示し、横軸XGが伝達部材18の回転速度を示している。また、切換型変速部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する第1サンギヤS1、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する第1キャリヤCA1、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する第1リングギヤR1の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は第1遊星歯車装置24のギヤ比ρ1に応じて定められている。すなわち、縦線Y1とY2との間隔を1に対応するとすると、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ1に対応するものとされる。さらに、自動変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第2サンギヤS2および第3サンギヤS3を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第2キャリヤCA2を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する第4リングギヤR4を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応し且つ相互に連結された第2リングギヤR2、第3キャリヤCA3、第4キャリヤCA4を、第8回転要素(第8要素)RE8に対応し且つ相互に連結された第3リングギヤR3、第4サンギヤS4をそれぞれ表し、それらの間隔は第2、第3、第4遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρ2、ρ3、ρ4に応じてそれぞれ定められている。すなわち、図3に示すように、各第2、第3、第4遊星歯車装置26、28、30毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が1に対応するものとされ、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応するものとされる。
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の変速機構10は、動力分配機構(無段変速部)16において、第1遊星歯車装置24の3回転要素(要素)の1つである第1キャリヤCA1が入力軸14に連結されるとともに切換クラッチC0を介して他の回転要素の1つである第1サンギヤS1と選択的に連結され、その他の回転要素の1つである第1サンギヤS1が第1電動機M1に連結されるとともに切換ブレーキB0を介してトランスミッションケース12に選択的に連結され、残りの回転要素である第1リングギヤR1が伝達部材18および第2電動機M2に連結されて、入力軸14の回転を前記伝達部材18を介して自動変速部(有段変速部)20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により第1サンギヤS1の回転速度と第1リングギヤR1の回転速度との関係が示される。例えば、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0の解放により無段変速状態に切換えられたときは、第1電動機M1の発電による反力を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される第1サンギヤS1の回転が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y3との交点で示される第1リングギヤR1の回転速度が下降或いは上昇させられる。また、切換クラッチC0の係合により第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1とが連結されると、上記3回転要素が一体回転するので、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度NEと同じ回転で伝達部材18が回転させられる。また、切換ブレーキB0の係合によって第1サンギヤS1の回転が停止させられると、直線L0は図3に示す状態となり、その直線L0と縦線Y3との交点で示される第1リングギヤR1すなわち伝達部材18の回転速度は、エンジン回転速度NEよりも増速された回転で自動変速部20へ入力される。
自動変速部20では、図3に示すように、第1クラッチC1と第3ブレーキB3とが係合させられることにより、第8回転要素RE8の回転速度を示す縦線Y8と横線X2との交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第1速の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第2速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L3と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第3速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第4速の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第4速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度NEと同じ回転速度で第8回転要素RE8に切換型変速部11すなわち動力分配機構16からの動力が入力される。しかし、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、切換型変速部11からの動力がエンジン回転速度NEよりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L5と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第5速の出力軸22の回転速度が示される。
図4は、本実施例の変速機構10を制御するための電子制御装置40に入力される信号及びその電子制御装置40から出力される信号を例示している。この電子制御装置40は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8、電動機M1、M2に関するハイブリッド駆動制御、前記自動変速部20の変速制御等の駆動制御を実行するものである。
上記電子制御装置40には、図4に示す各センサやスイッチから、エンジン水温を示す信号、シフトポジションを表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度NE を表す信号、ギヤ比列設定値を示す信号、M(モータ走行)モードを指令する信号、エアコンの作動を示すエアコン信号、出力軸22の回転速度に対応する車速信号、自動変速部20の作動油温を示す油温信号、サイドブレーキ操作を示す信号、フットブレーキ操作を示す信号、触媒温度を示す触媒温度信号、アクセルペダルの操作量を示すアクセル開度信号、カム角信号、スノーモード設定を示すスノーモード設定信号、車両の前後加速度を示す加速度信号、オートクルーズ走行を示すオートクルーズ信号、車両の重量を示す車重信号、各駆動輪の車輪速を示す車輪速信号、変速機構10を有段変速機として機能させるために切換型変速部11を定変速状態に切り換えるための有段スイッチ操作の有無を示す信号、変速機構10を無段変速機として機能させるために切換型変速部11を無段変速状態に切り換えるための無段スイッチ操作の有無を示す信号などが、それぞれ供給される。また、上記電子制御装置40からは、スロットル弁の開度を操作するスロットルアクチュエータへの駆動信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、エンジン8の点火時期を指令する点火信号、電動機M1およびM2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフト位置表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、動力分配機構16や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路42に含まれる電磁弁を作動させるバルブ指令信号、上記油圧制御回路42の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
図5は、電子制御装置40による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図5において、切換制御手段50は、高車速判定手段62および高出力走行判定手段64を備えており、車両の所定条件に基づいて変速機構10を前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換える。また、ハイブリッド制御手段52は、変速機構10の前記無段変速状態すなわち切換型変速部11の無段変速状態においてエンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第1電動機M1および/または第2電動機M2との駆動力の配分を最適になるように変化させて切換型変速部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。また、有段変速制御手段54は、例えば変速線図記憶手段56に予め記憶された図6に示す変速線図から車速Vおよび出力トルクTout で示される車両状態に基づいて自動変速部20の変速すべき変速段を判断して自動変速部20の自動変速制御を実行する。
高車速判定手段62は、ハイブリッド車両の実際の車速Vが高速走行を判定するための予め設定された高速走行判定値である判定車速V1以上の高車速となったか否かを判定する。高出力走行判定手段64は、ハイブリッド車両の駆動力に関連する駆動力関連値例えば自動変速部20の出力トルクTout が高出力走行を判定するための予め設定された高出力走行判定値である判定出力トルクT1以上の高トルク(高駆動力)走行となったか否かを判定する。
上記駆動力関連値とは、車両の駆動力に1対1に対応するパラメータであって、駆動輪38での駆動トルク或いは駆動力のみならず、例えば自動変速部20の出力トルクTout 、エンジントルクTe 、車両加速度や、例えばアクセル開度或いはスロットル開度(或いは吸入空気量、空燃比、燃料噴射量)とエンジン回転速度NEとによって算出されるエンジントルクTe などの実際値や、運転者のアクセルペダル操作量或いはスロットル開度に基づいて算出される要求駆動力等の推定値であってもよい。また、上記駆動トルクは出力トルクTout 等からデフ比、駆動輪38の半径等を考慮して算出されてもよいし、例えばトルクセンサ等によって直接検出されてもよい。上記他の各トルク等も同様である。つまり、高出力走行判定手段64では車両の駆動力を直接或いは間接的に示す駆動力関連パラメータに基づいて車両の高出力走行が判定される。
増速側ギヤ段判定手段68は、変速機構10を有段変速状態とする際に切換クラッチC0および切換ブレーキB0のいずれを係合させるかを判定するために、例えば車両状態に基づいて変速線図記憶手段56に予め記憶された図6に示す変速線図に従って変速機構10の変速されるべき変速段が増速側ギヤ段例えば第5速ギヤ段であるか否かを判定する。これは、変速機構10全体が有段式自動変速機として機能させられる場合に、第1速乃至第4速では切換クラッチC0が係合させられ、或いは第5速では切換ブレーキB0が係合させられるようにするためである。
切換制御手段50は、所定条件としての上記高車速判定手段62による高車速判定および高出力走行判定手段64による高出力走行判定すなわち高トルク判定の少なくとも1つが発生した場合は、変速機構10を有段変速状態に切り換える有段変速制御領域であると判定して、ハイブリッド制御手段52に対してハイブリッド制御或いは無段変速制御を不許可すなわち禁止とする信号を出力するとともに、有段変速制御手段54に対しては、予め設定された有段変速時の変速制御を許可する。このときの有段変速制御手段54は、変速線図記憶手段56に予め記憶された例えば図6に示す変速線図に従って自動変速制御を実行する。図2は、このときの変速制御において選択される油圧式摩擦係合装置すなわちC0、C1、C2、B0、B1、B2、B3の作動の組み合わせを示している。すなわち、変速機構10全体すなわち切換型変速部11および自動変速部20が所謂有段式自動変速機として機能し、図2に示す係合表に従って変速段が達成される。
例えば、高車速判定手段62による高車速判定、増速側ギヤ段判定手段68による第5速ギヤ段判定、或いは高出力走行判定手段64による高出力走行判定であっても増速側ギヤ段判定手段68により第5速ギヤ段が判定される場合には、変速機構10全体として変速比が1.0より小さな増速側ギヤ段所謂オーバードライブギヤ段が得られるために切換制御手段50は切換型変速部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が0.7の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を解放させ且つ切換ブレーキB0を係合させる指令を油圧制御回路42へ出力する。また、高出力走行判定手段64による高出力走行判定或いは増速側ギヤ段判定手段68により第5速ギヤ段でないと判定される場合には、変速機構10全体として変速比が1.0以上の減速側ギヤ段が得られるために切換制御手段50は切換型変速部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が1の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を係合させ且つ切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路42へ出力する。このように、切換制御手段50によって所定条件に基づいて変速機構10が有段変速状態に切り換えられるとともに、その有段変速状態における2種類の変速段のいずれかとなるように選択的に切り換えられて、切換型変速部11が副変速機として機能させられ、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、変速機構10全体が所謂有段式自動変速機として機能させられる。
例えば、判定車速V1は、高速走行において変速機構10が無段変速状態とされるとかえって燃費が悪化するのを抑制するように、その高速走行において変速機構10が有段変速状態とされるように設定されている。また、判定トルクT1は、車両の高出力走行において第1電動機M1の反力トルクをエンジンの高出力域まで対応させないで第1電動機M1を小型化するために、例えば第1電動機M1からの電気エネルギの最大出力を小さくして配設可能とされた第1電動機M1の特性に応じて設定されることになる。また、他の考え方として、この高出力走行においては燃費に対する要求より運転者の駆動力に対する要求が重視されるので、無段変速状態より有段変速状態(定変速状態)を選択するのである。これによって、高出力走行では変速に伴うリズミカルなエンジン回転速度NEの変化が発生する。
しかし、切換制御手段50は、上記高車速判定手段62による高車速判定および高出力走行判定手段64による高出力走行判定のいずれも発生しないときは、変速機構10を無段変速状態に切り換える無段変速制御領域であると判定して、変速機構10全体として無段変速状態が得られるために前記切換型変速部11を無段変速状態として無段変速可能とするように切換クラッチC0および切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路42へ出力する。同時に、ハイブリッド制御手段52に対してハイブリッド制御を許可する信号を出力するとともに、有段変速制御手段54には、予め設定された無段変速時の変速段に固定する信号を出力するか、或いは変速線図記憶手段56に予め記憶された例えば図6に示す変速線図に従って自動変速部20を自動変速制御することを許可する信号を出力する。この場合、有段変速制御手段54により図2の係合表内において切換クラッチC0および切換ブレーキB0の係合を除いた作動により自動変速部20の自動変速制御が行われる。このように、切換制御手段50により所定条件に基づいて無段変速状態に切り換えられた切換型変速部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、適切な大きさの駆動力が得られると同時に、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって変速機構10全体として無段変速状態となりトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
上記ハイブリッド制御手段52は、エンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第1電動機M1および/または第2電動機M2との駆動力の配分を最適になるように変化させる。例えば、そのときの走行車速において、アクセルペダル操作量や車速から運転者の要求出力を算出し、運転者の要求出力と充電要求値から必要な駆動力を算出し、エンジンの回転速度とトータル出力とを算出し、そのトータル出力とエンジン回転速度NEとに基づいて、エンジン出力を得るようにエンジン8を制御するとともに第1電動機M1の発電量を制御する。ハイブリッド制御手段52は、その制御を自動変速部20の変速段を考慮して実行したり、或いは燃費向上などのために自動変速部20に変速指令を行う。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度NEと車速および自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、切換型変速部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段52は無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立した予め記憶された最適燃費率曲線に沿ってエンジン8が作動させられるように変速機構10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように切換型変速部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内例えば13〜0.5の範囲内で制御することになる。
このとき、ハイブリッド制御手段52は、第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ58を通して蓄電装置60や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は第1電動機M1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ58を通して電気エネルギが第2電動機M2或いは第1電動機M1へ供給され、その第2電動機M2或いは第1電動機M1から伝達部材18へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機M2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。また、ハイブリッド制御手段52は、エンジン8の停止又はアイドル状態に拘わらず、切換型変速部11の電気的CVT機能によってモータ走行させることができる。
図6は、自動変速部20の変速判断の基となる変速線図記憶手段56に予め記憶された変速線図(関係)であり、車速Vと駆動力関連値である出力トルクTout とをパラメータとする二次元座標で構成された変速線図(変速マップ)の一例である。図6の実線はアップシフト線であり一点鎖線はダウンシフト線である。また、図6の破線は切換制御手段50による有段制御領域と無段制御領域との判定のための所定条件を定める判定車速V1および判定出力トルクT1を示しており、高車速判定値である判定車速V1の連なりと高出力走行判定値である判定出力トルクT1の連なりである高車速判定線と高出力走行判定線を示している。さらに、図6の破線に対して二点鎖線に示すように有段制御領域と無段制御領域との判定にヒステリシスが設けられている。この図6は判定車速V1および判定出力トルクT1を含む、車速Vと出力トルクTout とをパラメータとして切換制御手段50により有段制御領域と無段制御領域とのいずれであるかを領域判定するための予め記憶された切換線図(切換マップ、関係)でもある。よって車両の所定条件は、この切換線図から実際の車速Vと出力トルクTout とに基づいて定められてもよい。すなわち、この図6は変速マップと所定条件との関係を示す図であるともいえる。なお、この切換線図を含めて変速マップとして変速線図記憶手段56に予め記憶されてもよい。また、この切換線図は判定車速V1および判定出力トルクT1の少なくとも1つを含むものであってもよいし、車速Vおよび出力トルクTout の何れかをパラメータとする予め記憶された切換線であってもよい。上記変速線図や切換線図等は、実際の車速Vと判定車速V1とを比較する判定式、出力トルクTout と判定出力トルクT1とを比較する判定式等として記憶されてもよい。
前記図6の破線は例えば図7に示すエンジン回転速度NEおよびエンジントルクTEをパラメータとする予め記憶された無段制御領域と有段制御領域との境界線としてのエンジン出力線を有する関係図(マップ)に基づいて自動変速部20の変速線図上に置き直された概念的な切換線である。言い換えれば、図7は図6の破線を作るための概念図である。また切換制御手段50は、この図7の関係図(マップ)から実際のエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとに基づいて、それらのエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとで表される車両状態が無段制御領域内であるか或いは有段制御領域内であるかを判定してもよい。
図6の関係に示されるように、出力トルクTout が予め設定された判定出力トルクT1以上の高トルク領域、或いは車速Vが予め設定された判定車速V1以上の高車速領域が、有段制御領域として設定されているので、有段変速走行がエンジン8の比較的高トルクとなる高駆動トルク時、或いは車速の比較的高車速時において実行され、無段変速走行がエンジン8の比較的低トルクとなる低駆動トルク時、或いは車速の比較的低車速時すなわちエンジン8の常用出力域において実行されるようになっている。同様に、図7の関係に示されるように、エンジントルクTEが予め設定された所定値TE1以上の高トルク領域、エンジン回転速度NEが予め設定された所定値NE1以上の高回転領域、或いはそれらエンジントルクTEおよびエンジン回転速度NEから算出されるエンジン出力が所定以上の高出力領域が、有段制御領域として設定されているので、有段変速走行がエンジン8の比較的高トルク、比較的高回転速度、或いは比較的高出力時において実行され、無段変速走行がエンジン8の比較的低トルク、比較的低回転速度、或いは比較的低出力時すなわちエンジン8の常用出力域において実行されるようになっている。図7における有段制御領域と無段制御領域との間の境界線は、高車速判定値の連なりである高車速判定線および高出力走行判定値の連なりである高出力走行判定線に対応している。
図8は前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかを選択するための変速状態手動選択装置としての切換装置であるシーソー型スイッチ44(以下、スイッチ44と表す)の一例でありユーザにより手動操作可能に車両に備えられている。このスイッチ44は、ユーザが所望する変速状態での車両走行を択一的に選択可能とするものであり、無段変速走行に対応するスイッチ44の無段と表示された位置(部分)或いは有段変速走行に対応する有段と表示された位置(部分)をユーザにより押されることでそれぞれ無段変速走行すなわち変速機構10が電気的な無段変速機として作動可能な無段変速状態が構成されることか、或いは有段変速走行すなわち変速機構10が有段変速機として作動可能な有段変速状態が構成されることかが選択可能とされる。
手動選択操作判定手段80は、スイッチ44において無段変速走行と有段変速走行との何れが選択されている状態かを判定する。
切換制御手段50は、上述した機能に加え手動選択操作判定手段80によりスイッチ44において無段変速走行と有段変速走行との何れが選択されている状態かが判定された場合にはその判定結果に基づいて変速機構10を無段変速状態と有段変速状態とのいずれかに選択的に切り替える。よって、この場合には切換制御手段50は、上述した車両の所定条件に基づく変速機構10の変速状態の切換えを実行しない。言い換えれば、切換制御手段50は、スイッチ44における選択状態に基づいて変速機構10を前記無段変速状態および前記有段変速状態のいずれかに選択的に切り換える。見方を替えれば、手動操作で前記無段変速状態および前記有段変速状態が切り替えられるので車両の所定条件に基づく有段変速制御領域或いは無段変速制御領域が元々設定されなくてもよいことになる。
また、スイッチ44に無段変速走行或いは有段変速走行の何れも選択されない状態である中立位置が設けられる場合には、スイッチ44がその中立位置の状態であるときすなわちユーザによって所望する変速状態が選択されていないときや所望する変速状態が自動切換のときには、切換制御手段50は上述した車両の所定条件に基づいて変速機構10を前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換える。すなわち切換制御手段50により前記無段変速状態と前記有段変速状態とが手動操作による切換えでなく自動で切り換えられる。この場合を上述した手動操作によって選択される無段変速走行或いは有段変速走行に対してノーマル変速走行と表すこととする。なお、スイッチ44に設けられる中立位置に替えて、スイッチ44の選択状態を有効或いは無効すなわち中立位置相当が選択可能なスイッチがスイッチ44とは別に設けられてもよい。
また、基本は無段変速状態すなわち無段変速走行として予め設定され、ユーザの操作による有段変速走行の選択時のみ切換制御手段50は有段変速状態に切り替えるようにしてもよい。これによって、ユーザは有段変速走行のみを選択するだけで有段変速走行と無段変速走行とが選択できることになる。この場合には、スイッチ44は少なくとも有段変速走行が選択可能であればよい。
電気パス機能判定手段66は、変速機構10を無段変速状態とするための制御機器の機能低下が判定される故障判定条件の判定を、例えば第1電動機M1における電気エネルギの発生からその電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスに関連する機器の機能低下すなわち第1電動機M1、第2電動機M2、インバータ58、蓄電装置60、それらを接続する伝送路などの故障や、故障(フェイル)とか低温による機能低下或いは機能不全の発生に基づいて判定する。
車両停止判定手段82は、ハイブリッド車両が停止状態であるか否かを、例えば駆動輪38の車輪速が零と判定されるような所定車輪速以下となったか否かで判定する。例えば、駆動輪38の車輪速は駆動輪38の回転が図示しない電磁ピックアップ式のセンサにより検出されたパルスから読み込まれている。従って、車輪速が極めて零に近い場合には所定時間内のパルス数にばらつきが生じるためセンサの精度等を考慮して所定車輪速以下を零とする。
切換制御手段50は、上述した機能に加え電気パス機能判定手段66による電気パス機能不全の判定が発生した場合には、変速機構10を無段変速状態に維持することすなわち切換型変速部11を無段変速状態に維持することが困難となる可能性があることから車両走行が確保されるためにスイッチ44における選択状態に拘わらず変速機構10を前記有段変速状態とする。また、切換制御手段50は、車両停止判定手段82により車両が停止状態であると判定された場合には、スイッチ44における選択状態に拘わらず変速機構10を前記無段変速状態としてもよい。これは、車両が停止状態となると駆動輪38に作動的に連結されている伝達部材18の回転速度が駆動輪38に合わせて零或いは極めて零に近い回転速度となり、このとき切換型変速部11が定変速状態とされると図3の共線図から明らかなようにエンジン回転速度が伝達部材18と同等の零或いは極めて零に近い回転速度とされてエンジンストールすることになるので、それを防止するために変速機構10を前記無段変速状態とするのである。これはエンジン回転速度NEを維持したい場合すなわちエンジンの作動が必要とされる場合例えば蓄電装置60への充電や補機の駆動等の場合にエンジン8の作動を確保するために実行される。
言い換えれば、切換制御手段50は、車両状態が変速機構10を強制的に前記無段変速状態或いは前記有段変速状態とする必要がある強制領域であるか否かを判定することにもなる。したがって、切換制御手段50は電気パス機能判定手段66による電気パス機能不全の判定が発生した場合には、車両状態がスイッチ44における選択状態に拘わらず変速機構10を前記有段変速状態とする強制領域にあると判定することになり、また車両停止判定手段82によりハイブリッド車両が停止状態であると判定された場合は、車両状態が変速機構10を前記無段変速状態とする強制領域にあると判定することになる。なお、自動変速部20の動力伝達状態がニュートラル状態とされる場合には車両停止状態であってもこの限りではない。また、高出力走行判定手段64による高出力走行判定が発生した場合において、第1電動機M1の小型化に伴って第1電動機M1が伝える電気的エネルギをエンジンの高出力域まで対応させられない場合には変速機構10が前記有段変速状態とされる強制領域であると考えられるが、第1電動機M1の出力トルクがエンジン8の高出力域まで対応させられる場合にはこの限りではない。本実施例では、第1電動機M1はエンジン8の高出力域まで対応させられるものとする。
図9は、電子制御装置40の制御作動の要部を示すフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
先ず、電気パス機能判定手段66および切換制御手段50に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S1において、例えば、電気パス(電気エネルギ伝達経路)に関連する機器の機能低下すなわち第1電動機M1、第2電動機M2、インバータ58、蓄電装置60、それらを接続する伝送路などの故障や、故障(フェイル)とか低温による機能低下或いは機能不全が発生したか否かが判定されて変速機構10を強制的に前記有段変速状態とする必要がある強制領域であるか否かが判定される。このS1の判断が否定される場合は手動選択操作判定手段80に対応するS2、S3において、スイッチ44の状態がユーザにより無段変速走行と有段変速走行との何れが選択されているかが判定される。図9のフローチャートに従えば、上記S2ではスイッチ44において有段変速走行が選択されているかが判定され、このS2の判断が否定されると上記S3でスイッチ44において無段変速走行が選択されているかが判定される。
上記S3の判断が肯定される場合は切換制御手段50に対応するS4において、変速機構10が無段変速状態とされるように切換クラッチC0および切換ブレーキB0を解放させる指令が油圧制御回路42へ出力される。同時に、ハイブリッド制御手段52に対してハイブリッド制御を許可する信号が出力されるとともに、有段変速制御手段54には、予め設定された無段変速時の変速段に固定する信号が出力されるか、或いは変速線図記憶手段56に予め記憶された変速線図例えば図6に示す変速線図における自動変速部20の変速判断の基となる変速線に従って自動変速することを許可する信号が出力される。したがって、この無段変速走行では、切換型変速部11が無段変速機として機能させられ、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、適切な大きさの駆動力が得られると同時に、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって変速機構10全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
上記S1或いはS2の判断の何れかが肯定される場合は切換制御手段50に対応するS6において、変速機構10が有段変速状態とされるようにハイブリッド制御手段52に対してハイブリッド制御或いは無段変速制御を不許可(禁止)とする信号を出力するとともに、有段変速制御手段54に対しては、予め設定された有段変速時の変速制御を許可する。このときの有段変速制御手段54は、変速線図記憶手段56に予め記憶された例えば図6に示す変速線図に従って自動変速部20の自動変速制御を実行する。図2は、このときの変速制御において選択される油圧式摩擦係合装置すなわちC0、C1、C2、B0、B1、B2、B3の作動の組み合わせを示している。この有段自動変速制御モードの第1速乃至第4速では、切換クラッチC0が係合させられることにより切換型変速部11が固定の変速比γ0が1の副変速機として機能しているが、第5速では、その切換クラッチC0の係合に替えて切換ブレーキB0が係合させられることにより切換型変速部11が固定の変速比γ0が0.7の副変速機として機能している。すなわち、この有段自動変速走行優先では、副変速機として機能する切換型変速部11と自動変速部20とを含む変速機構10全体が所謂有段式自動変速機として機能している。図10は有段自動変速走行におけるアップシフトに伴うエンジン回転速度NEの変化の一例を示したものである。変速に伴うリズミカルなエンジン回転速度NEの変化が発生していることがわかる。
上記S3の判断が肯定される場合、すなわちスイッチ44の状態が無段変速走行優先或いは有段変速走行優先の何れも押されていない中立位置の状態である場合は切換制御手段50に対応するS5において、車両の所定条件に基づいて変速機構10が前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換えられる。すなわち変速機構10において無段変速状態と前記有段変速状態とが手動操作による切換えに替えて自動で切り換えられることになる。すなわち、この前記ノーマル変速走行では、車両の所定条件に基づいて上記S4で示した無段変速走行および上記S6で示した有段変速走行のいずれかに自動で切り換えられる。
上記S1では変速機構10を前記有段変速状態とする強制領域であるか否かが判定されたが、それに加えて或いはそれに替えてこのS1において変速機構10を前記無段変速状態とする強制領域であるか否かが判定されてもよい。例えば、車両停止中であってもエンジン回転速度NEを維持したい場合には車両停止判定手段82および切換制御手段50に対応するS1において、ハイブリッド車両が停止状態であるか否かが判定されて変速機構10を強制的に前記無段変速状態とする必要がある強制領域であるか否かが判定される。尚、S1で前記無段変速状態とする強制領域の判定が肯定される場合は図9のフローチャートに矢印としては示されていないが前記S4に進むことになる。
上述のように、本実施例によれば、電気的な無段変速機として作動可能な無段変速状態と有段の変速機として作動可能な有段変速状態とに切り換え可能な変速状態切換型変速機構10が、手動操作により前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかを選択するためのシーソー型スイッチ44における選択状態に基づいて切換制御手段50(S4、S6)により無段変速状態と有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換えられることから、ユーザの趣向を反映した走行が得られる。例えば、ユーザは無段変速機のフィーリングや燃費改善効果が得られる走行を所望すれば変速機構10が無段変速状態とされるように手動操作により選択すればよいし、また有段変速機の変速に伴うエンジン回転速度の変化によるフィーリング向上を所望すれば変速機構10が有段変速状態とされるように手動操作により選択すればよい。
また、本実施例によれば、スイッチ44において前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれもが選択されていない場合には、切換制御手段50(S5)により車両の所定条件に基づいて変速機構10が前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかに自動的に切り換えられることから、電気的な無段変速機の燃費改善効果と機械的に動力を伝達する有段変速機の高い伝達効率との両長所を兼ね備えた駆動装置が得られる。すなわち、エンジンの常用出力域例えば図7に示す無段制御領域或いは図6に示す車速Vが判定車速V1以下且つ出力トルクTout が判定出力トルクT1以下となる無段制御領域では変速機構10が無段変速状態とされてハイブリッド車両の通常の市街地走行すなわち車両の低中速走行および低中出力走行での燃費性能が確保されると同時に、高速走行例えば図6に示す車速Vが判定車速V1以上となる有段制御領域では変速機構10が有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて無段変速状態とされた場合の動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されるので、燃費が向上させられる。また、高出力走行例えば図6に示す実際の出力トルクTout が判定出力トルクT1以上となる有段制御領域では変速機構10が有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて無段変速状態として作動させる領域が車両の低中速走行および低中出力走行となるので、第1電動機M1が発生すべき電気的エネルギすなわちが第1電動機M1が伝える電気的エネルギの最大値を小さくできてその第1電動機M1や第2電動機M2、或いはそれを含む車両の駆動装置が一層小型化される。
また、本実施例によれば、スイッチ44において前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれもが選択されていない場合には、切換制御手段50は変速機構10を前記無段変速状態に切り換えてもよい。こうすることで、電気的な無段変速機の燃費改善効果が得られ、また、ユーザは変速機構10を有段変速状態としたい場合のみ手動操作により選択すればよいので、操作が簡単になる。
また、本実施例によれば、スイッチ44は、前記無段変速状態と前記有段変速状態とが択一的に切り換えられる切換装置であるので、ユーザが簡単に無段変速状態と前記有段変速状態とを選択できる。
また、本実施例によれば、車両の所定条件は、予め設定された高速走行判定値である判定車速V1に基づいて定められたものであり、切換制御手段50は実際の車速Vがその判定車速V1を越えたときに変速機構10を有段変速状態とするものであるので、例えば実際の車速Vが高車速側に設定された判定車速V1を越えるような高速走行となると、専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて変速機構10が電気的な無段変速機として作動させられる場合に発生する動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されるので燃費が向上させられる。
また、本実施例によれば、車両の所定条件は、予め設定された高出力走行判定値である判定出力トルクT1に基づいて定められたものであり、切換制御手段50は実際の出力トルクTout がその判定出力トルクT1を越えたときに変速機構10を有段変速状態とするものであるので、例えば実際の出力トルクTout が高出力側に設定された判定出力トルクT1を越えるような高出力走行となると、専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて変速機構10が電気的な無段変速機として作動させられる場合は専ら低中出力走行となるので、第1電動機M1が発生すべき電気的エネルギの最大値を小さくできてすなわち第1電動機M1の保障すべき出力容量を小さくできてその第1電動機M1や第2電動機M2、或いはそれを含む車両の駆動装置が一層小型化される。
また、本実施例によれば、車両の所定条件は、判定車速V1および判定出力トルクT1を含む、車速Vと出力トルクTout とをパラメータとする予め記憶された切換線図から実際の車速Vと出力トルクTout とに基づいて定められるものであるので、切換制御手段50による高車速判定または高出力走行判定が簡単に判定される。
また、本実施例によれば、切換制御手段50(S1、S6)は、変速機構10を電気的な無段変速状態とするための制御機器の機能低下を判定する故障判定条件が成立した場合には、スイッチ44における選択状態に拘わらず変速機構10を有段変速状態とするように判定するものであるので、ユーザにより無段変速状態が選択されたときに変速機構10が無段変速状態とされないフェール時の場合でも優先的に有段変速状態とされることで、有段走行ではあるが無段走行と略同様の車両走行が確保される。
また、本実施例によれば、切換制御手段50(S1、S4)は、車速が零と判定された場合には、スイッチ44における選択状態に拘わらず変速機構10を無段変速状態とするように判定するものであるので、車両停止状態すなわち駆動輪38の回転が零と判定されるような所定車輪速以下のときであっても駆動輪38に作動的に連結されているエンジン8がエンジンストールすることが防止されてエンジン8の作動が必要とされる場合例えば蓄電装置60への充電や補機の駆動等の場合にエンジン8作動が確保される。
また、本実施例によれば、動力分配機構16が、第1キャリヤCA1、第1サンギヤS1、第1リングギヤR1を3要素とするシングルピニオン型の第1遊星歯車装置24によって簡単に且つ動力分配機構16の軸方向寸法が小さく構成される利点がある。さらに、動力分配機構16には油圧式摩擦係合装置すなわち第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1とを相互に連結する切換クラッチC0および第1サンギヤS1をトランスミッションケース12に連結する切換ブレーキB0が設けられているので、切換制御手段50により変速機構10の無段変速状態と有段変速状態とが簡単に制御される。
また、本実施例によれば、動力分配機構16と駆動輪38との間に自動変速部20が直列に介装されており、その動力分配機構16の変速比すなわち切換型変速部11の変速比とその自動変速部20の変速比とに基づいて変速機構10の総合変速比が形成されることから、その自動変速部20の変速比を利用することによって駆動力が幅広く得られるようになるので、切換型変速部11における無段変速制御すなわちハイブリッド制御の効率が一層高められる。
また、本実施例によれば、変速機構10が有段変速状態とされるとき、切換型変速部11が自動変速部20の一部であるかの如く機能して変速比が1より小さいオーバドライブギヤ段である第5速が得られる利点がある。
また、本実施例によれば、第2電動機M2が自動変速部20の入力回転部材である伝達部材18に連結されていることから、その自動変速部20の出力軸22に対して低トルクの出力でよくなるので、第2電動機M2が一層小型化される利点がある。
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
図12は本発明の他の実施例における変速機構70の構成を説明する骨子図、図13はその変速機構70の変速段と油圧式摩擦係合装置の係合の組み合わせとの関係を示す係合表、図14はその変速機構70の変速作動を説明する共線図である。
変速機構70は、前述の実施例と同様に第1電動機M1、動力分配機構16、および第2電動機M2を備えている切換型変速部11と、その切換型変速部11と出力軸22との間で伝達部材18を介して直列に連結されている前進3段の自動変速部72とを備えている。動力分配機構16は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置24と切換クラッチC0および切換ブレーキB0とを有している。自動変速部72は、例えば「0.532」程度の所定のギヤ比ρ2を有するシングルピニオン型の第2遊星歯車装置26と例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ3を有するシングルピニオン型の第3遊星歯車装置28とを備えている。第2遊星歯車装置26の第2サンギヤS2と第3遊星歯車装置28の第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第2遊星歯車装置26の第2キャリヤCA2と第3遊星歯車装置28の第3 リングギヤR3とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第2リングギヤR2は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結され、第3キャリヤCA3は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結されている。
以上のように構成された変速機構70では、例えば、図13の係合作動表に示されるように、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、および第2ブレーキB2が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第4速ギヤ段(第4変速段)のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力歯車回転速度NOUT )が各ギヤ段毎に得られるようになっている。特に、本実施例では動力分配機構16に切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、切換型変速部11は前述した無段変速機として作動可能な無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動可能な定変速状態を構成することが可能とされている。したがって、変速機構70では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた切換型変速部11と自動変速部72とで有段変速機として作動可能な有段変速状態が構成され、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた切換型変速部11と自動変速部72とで電気的な無段変速機として作動可能な無段変速状態が構成される。言い換えれば、変速機構70は、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。
例えば、変速機構70が有段変速機として機能する場合には、図13に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により、変速比γ1が最大値例えば「2.804」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.531」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第4速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2および第2ブレーキB2の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「2.393」程度である後進ギヤ段が成立させられる。なお、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば切換クラッチC0のみが係合される。
しかし、変速機構70が無段変速機として機能する場合には、図13に示される係合表の切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、切換型変速部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部72が有段変速機として機能することにより、自動変速部72の第1速、第2速、第3速の各ギヤ段に対しその自動変速部72に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって変速機構70全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
図14は、無段変速部或いは第1変速部として機能する切換型変速部11と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部72から構成される変速機構70において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放される場合、および切換クラッチC0または切換ブレーキB0が係合させられる場合の動力分配機構16の各要素の回転速度は前述の場合と同様である。
自動変速部72では、図14に示すように、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより、第7回転要素RE7(R2)の回転速度を示す縦線Y7と横線X2との交点と第5回転要素RE5(CA3)の回転速度を示す縦線Y5と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第6回転要素RE6(CA2,R3)の回転速度を示す縦線Y6との交点で第1速の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第2速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L3と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第3速の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第3速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度NEと同じ回転速度で第7回転要素RE7に切換型変速部11からの動力が入力される。しかし、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、切換型変速部11からの動力がエンジン回転速度NEよりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第4速の出力軸22の回転速度が示される。
本実施例の変速機構70においても、無段変速部或いは第1変速部として機能する切換型変速部11と、有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部72とから構成されるので、前述の実施例と同様の効果が得られる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例の動力分配機構16では、第1キャリヤCA1がエンジン8に連結され、第1サンギヤS1が第1電動機M1に連結され、第1リングギヤR1が伝達部材18に連結されたいたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン8、第1電動機M1、伝達部材18は、第1遊星歯車装置24の3要素CA1、S1、R1のうちのいずれと連結されていても差し支えない。
また、前述の動力分配機構16には切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられていたが、切換クラッチC0および切換ブレーキB0は必ずしも両方備えられる必要はなく、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の一方のみが備えられていてもよい。また、上記切換クラッチC0は、サンギヤS1とキャリヤCA1とを選択的に連結するものであったが、サンギヤS1とリングギヤR1との間や、キャリヤCA1とリングギヤR1との間を選択的に連結するものであってもよい。要するに、第1遊星歯車装置24の3要素のうちのいずれか2つを相互に連結するものであればよい。
また、前述の実施例では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0などの油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁粉)クラッチ、電磁クラッチ、噛み合い型のドグクラッチなどの磁粉式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。
また、前述の実施例では、第2電動機M2が伝達部材18に連結されていたが、出力軸22に連結されていてもよいし、自動変速部20、72内の回転部材に連結されていてもよい。
また、前述の実施例では、切換型変速部11すなわち動力分配機構16の出力部材である伝達部材18と駆動輪38との間の動力伝達経路に、自動変速部20、72が介装されていたが、例えば自動変速機の一種である無段変速機(CVT)等の他の形式の動力伝達装置が設けられていてもよいし、必ずしも設けられていなくてもよい。その無段変速機(CVT)の場合には、動力分配機構16が定変速状態とされることで全体として有段変速状態とされる。有段変速状態とは、電気パスを用いないで専ら機械的伝達経路で動力伝達することである。
また、前述の実施例では、変速機構10、70はエンジン8以外に第1電動機M1或いは第2電動機M2のトルクによって駆動輪38が駆動されるハイブリッド車両用の駆動装置であったが、例えば変速機構10、70を構成する切換型変速部11すなわち動力分配機構16がハイブリッド制御されない電気的CVTと称される無段変速機としての機能のみを有するような車両用の駆動装置であっても本発明は適用され得る。
また、前述の実施例の動力分配機構16は、例えばエンジンによって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車が第1電動機M1および第2電動機M2に接続された差動歯車装置であってもよい。
また、前述の実施例の動力分配機構16は、1組の遊星歯車装置から構成されていたが、2以上の遊星歯車装置から構成されて、定変速状態では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。
また、前述の実施例のスイッチ44はシーソー型のスイッチであったが、例えば押しボタン式のスイッチ、択一的にのみ押した状態が保持可能な2つの押しボタン式のスイッチ、レバー式スイッチ、スライド式スイッチ等の少なくとも無段変速走行と有段変速走行とが択一的に切り換えられるスイッチであればよい。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。