図1は、本発明の一実施例である制御装置が適用されるハイブリッド車両の駆動装置の一部を構成する変速機構10を説明する骨子図である。図1において、変速機構10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接に連結された無段変速部11と、その無段変速部11と駆動輪38との間の動力伝達経路で伝達部材(伝動軸)18を介して無段変速部11に直列に連結されている有段式自動変速機として機能する有段式自動変速部20(以下、有段変速部20という)と、この有段変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この変速機構10は、車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーなどを介して直接的に連結された走行用の駆動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪38との間に設けられて、図5に示すようにエンジン8からの動力を駆動装置の他の一部として動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)36および一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪38へ伝達する。なお、変速機構10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の変速機構10を表す部分においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。また、上述のように本実施例の変速機構10においてはエンジン8と無段変速部11とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、上記脈動吸収ダンパーなどを介する連結は直結的(直接的)に含まれる。
無段変速部11は、第1電動機M1と、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構であってエンジン8の出力を第1電動機M1および伝達部材18に分配する差動機構としての動力分配機構16と、伝達部材18と一体的に回転するように設けられている第2電動機M2とを備えている。なお、この第2電動機M2は伝達部材18から駆動輪38までの間の動力伝達経路を構成するいずれの部分に設けられてもよい。本実施例の第1電動機M1および第2電動機M2は発電機能をも有する所謂モータジェネレータであるが、第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2は駆動力を出力するためのモータ(電動機)機能を少なくとも備える。
動力分配機構16は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置24と、切換クラッチC0および切換ブレーキB0とを主体的に備えている。この第1遊星歯車装置24は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を回転要素(要素)として備えている。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1である。
この動力分配機構16においては、第1キャリヤCA1は入力軸14すなわちエンジン8に連結され、第1サンギヤS1は第1電動機M1に連結され、第1リングギヤR1は伝達部材18に連結されている。また、切換ブレーキB0は第1サンギヤS1とケース12との間に設けられ、切換クラッチC0は第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1との間に設けられている。それら切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放されると、動力分配機構16は第1遊星歯車装置24の3要素である第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動状態とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されるとともに、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、例えば所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、動力分配機構16が差動状態とされると無段変速部11がその変速比γ0(入力軸14の回転速度/伝達部材18の回転速度)が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する無段変速状態とされる。
この状態で、上記切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0が係合させられると動力分配機構16は前記差動作用が不能な非差動状態とされる。具体的には、上記切換クラッチC0が係合させられて第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1とが一体的に係合させられると、動力分配機構16は第1遊星歯車装置24の3要素である第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1が共に回転すなわち一体回転させられるロック状態とされて前記差動作用が不能な非差動状態とされることから、エンジン8の回転と伝達部材18の回転速度とが一致する状態となるので、無段変速部11は変速比γ0が「1」に固定された変速機として機能する定変速状態とされる。次いで、上記切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられて第1サンギヤS1がケース12に連結させられると、動力分配機構16は第1サンギヤS1が非回転状態とさせられるロック状態とされて前記差動作用が不能な非差動状態とされることから、第1リングギヤR1は第1キャリヤCA1よりも増速回転されるので、無段変速部11は変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定された増速変速機として機能する定変速状態とされる。このように、本実施例では、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、無段変速部11を、変速比が連続的変化可能な電気的な無段変速機として作動する無段変速状態と、電気的な無段変速機として作動させず無段変速作動を非作動として変速比変化を一定にロックするロック状態すなわち1または2種類以上の変速比の単段または複数段の変速機として作動する定変速状態、換言すれば変速比が一定の1段または複数段の変速機として作動する定変速状態とに選択的に切換える差動状態切換装置として機能している。
有段変速部20は、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第3遊星歯車装置28、およびシングルピニオン型の第4遊星歯車装置30を備えている。第2遊星歯車装置26は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第3遊星歯車装置28は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転および公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。第4遊星歯車装置30は、第4サンギヤS4、第4遊星歯車P4、その第4遊星歯車P4を自転および公転可能に支持する第4キャリヤCA4、第4遊星歯車P4を介して第4サンギヤS4と噛み合う第4リングギヤR4を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ4を有している。第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3、第4サンギヤS4の歯数をZS4、第4リングギヤR4の歯数をZR4とすると、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3、上記ギヤ比ρ4はZS4/ZR4である。
有段変速部20では、第2サンギヤS2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第2キャリヤCA2は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第4リングギヤR4は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第2リングギヤR2と第3キャリヤCA3と第4キャリヤCA4とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第3リングギヤR3と第4サンギヤS4とが一体的に連結されて第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3は従来の車両用自動変速機においてよく用いられている油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介装されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
以上のように構成された変速機構10では、例えば、図2の係合作動表に示されるように、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第5速ギヤ段(第5変速段)のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。特に、本実施例では動力分配機構16に切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、無段変速部11は前述した無段変速機として作動する無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動する定変速状態を構成することが可能とされている。したがって、変速機構10では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた無段変速部11と有段変速部20とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた無段変速部11と有段変速部20とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。言い換えれば、変速機構10は、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。また、無段変速部11も有段変速状態と無段変速状態とに切り換え可能な変速機であると言える。
例えば、変速機構10が有段変速機として機能する場合には、図2に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により、変速比γ1が最大値例えば「3.357」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.180」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.424」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第4速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0の係合により、変速比γ5が第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第5速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2および第3ブレーキB3の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「3.209」程度である後進ギヤ段が成立させられる。なお、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば切換クラッチC0のみが係合される。
しかし、変速機構10が無段変速機として機能する場合には、図2に示される係合表の切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、無段変速部11が無段変速機として機能し、それに直列の有段変速部20が有段変速機として機能することにより、有段変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその有段変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって変速機構10全体としてのトータル変速比(総合変速比)γTが無段階に得られるようになる。
図3は、差動部或いは第1変速部として機能する無段変速部11と自動変速部或いは第2変速部として機能する有段変速部20とから構成される変速機構10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28、30のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度NEを示し、横線XGが伝達部材18の回転速度を示している。
また、無段変速部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する第1サンギヤS1、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する第1キャリヤCA1、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する第1リングギヤR1の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は第1遊星歯車装置24のギヤ比ρ1に応じて定められている。さらに、有段変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第2サンギヤS2および第3サンギヤS3を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第2キャリヤCA2を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する第4リングギヤR4を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応し且つ相互に連結された第2リングギヤR2、第3キャリヤCA3、第4キャリヤCA4を、第8回転要素(第8要素)RE8に対応し且つ相互に連結された第3リングギヤR3、第4サンギヤS4をそれぞれ表し、それらの間隔は第2、第3、第4遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρ2、ρ3、ρ4に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、無段変速部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ1に対応する間隔に設定される。また、有段変速部20では各第2、第3、第4遊星歯車装置26、28、30毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の変速機構10は、動力分配機構16(無段変速部11)において、第1遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(第1キャリヤCA1)が入力軸14すなわちエンジン8に連結されるとともに切換クラッチC0を介して第2回転要素(第1サンギヤS1)RE2と選択的に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結されるとともに切換ブレーキB0を介してケース12に選択的に連結され、第3回転要素(第1リングギヤR1)RE3が伝達部材18および第2電動機M2に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して有段変速部20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により第1サンギヤS1の回転速度と第1リングギヤR1の回転速度との関係が示される。
例えば、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0の解放により無段変速状態(差動状態)に切換えられたときは、第1電動機M1の発電による反力を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される第1サンギヤS1の回転が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y3との交点で示される第1リングギヤR1の回転速度が下降或いは上昇させられる。
また、切換クラッチC0の係合により第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1とが連結されると、動力分配機構16は上記3回転要素が一体回転する非差動状態とされるので、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度NEと同じ回転で伝達部材18が回転させられる。或いは、切換ブレーキB0の係合により第1サンギヤS1の回転が停止させられると動力分配機構16は増速機構として機能する非差動状態とされるので、直線L0は図3に示す状態となり、その直線L0と縦線Y3との交点で示される第1リングギヤR1すなわち伝達部材18の回転速度は、エンジン回転速度NEよりも増速された回転で有段変速部20へ入力される。
また、有段変速部20において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は出力軸22に連結され、第8回転要素RE8は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
有段変速部20では、図3に示すように、第1クラッチC1と第3ブレーキB3とが係合させられることにより、第8回転要素RE8の回転速度を示す縦線Y8と横線X2との交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第1速の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第2速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L3と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第3速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第4速の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第4速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度NEと同じ回転速度で第8回転要素RE8に無段変速部11すなわち動力分配機構16からの動力が入力される。しかし、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、無段変速部11からの動力がエンジン回転速度NEよりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L5と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第5速の出力軸22の回転速度が示される。
図4は、本実施例の変速機構10を制御するための電子制御装置40に入力される信号及びその電子制御装置40から出力される信号を例示している。この電子制御装置40は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8、電動機M1、M2に関するハイブリッド駆動制御、有段変速部20の変速制御等の駆動制御を実行するものである。
電子制御装置40には、図4に示す各センサやスイッチから、エンジン水温を示す信号、シフトポジションを表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、ギヤ比列設定値を示す信号、M(モータ走行)モードを指令する信号、エアコンの作動を示すエアコン信号、出力軸22の回転速度に対応する車速信号、有段変速部20の作動油温を示す油温信号、サイドブレーキ操作を示す信号、フットブレーキ操作を示す信号、触媒温度を示す触媒温度信号、アクセルペダル46の操作量を示すアクセル開度信号Acc、カム角信号、スノーモード設定を示すスノーモード設定信号、車両の前後加速度を示す加速度信号、オートクルーズ走行を示すオートクルーズ信号、車両の重量を示す車重信号、各駆動輪の車輪速を示す車輪速信号、変速機構10を有段変速機として機能させるために無段変速部11を定変速状態(非差動状態)に切り換えるための有段スイッチ操作の有無を示す信号、変速機構10を無段変速機として機能させるために無段変速部11を無段変速状態(差動状態)に切り換えるための無段スイッチ操作の有無を示す信号、第1電動機M1の回転速度NM1を表す信号、第2電動機M2の回転速度NM2を表す信号などが、それぞれ供給される。
また、上記電子制御装置40からは、スロットル弁の開度を操作するスロットルアクチュエータへの駆動信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、エンジン8の点火時期を指令する点火信号、電動機M1およびM2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、無段変速部11や有段変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路42に含まれる電磁弁を作動させるバルブ指令信号、上記油圧制御回路42の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
図5は、電子制御装置40による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図5において、有段変速制御手段54は、例えば変速線図記憶手段56に予め記憶された図6の実線および一点鎖線に示す変速線図(変速マップ)から車速Vおよび有段変速部20の出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて有段変速部20の変速を実行すべきか否かを判断してすなわち有段変速部20の変速すべき変速段を判断して有段変速部20の自動変速制御を実行する。例えば、有段変速制御手段54は図2の係合表内において切換クラッチC0および切換ブレーキB0の係合を除いた作動により自動変速を実行する。
ハイブリッド制御手段52は、変速機構10の前記無段変速状態すなわち無段変速部11の差動状態においてエンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて無段変速部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速において、アクセルペダル操作量Accや車速Vから運転者の要求出力を算出し、運転者の要求出力と充電要求値から必要な駆動力を算出し、エンジン回転速度NEとトータル出力とを算出し、そのトータル出力とエンジン回転速度NEとに基づいて、エンジン出力を得るようにエンジン8を制御するとともに第1電動機M1の発電量を制御する。言い換えれば、ハイブリッド制御手段52は同じ車速および同じ有段変速部20のギヤ比すなわち伝達部材18の回転速度が同じであっても、第1電動機M1の発電量を制御することでエンジン回転速度NEを制御することが可能である。
ハイブリッド制御手段52は、その制御を動力性能や燃費向上などのために有段変速部20の変速段を考慮して実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度NE例えば目標エンジン回転速度NE *と車速Vおよび有段変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、無段変速部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段52は予め記憶されたエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとをパラメータとする二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に設定されたエンジン8の最適曲線(マップ、関係図)を記憶しており、その最適曲線に沿ってエンジン8が作動させられるように、例えば要求駆動力を充足するために必要なエンジン出力を発生するためのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとなるように変速機構10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように無段変速部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内例えば13〜0.5の範囲内で制御する。
このとき、ハイブリッド制御手段52は、第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ58を通して蓄電装置60や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は第1電動機M1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ58を通して電気エネルギが第2電動機M2或いは第1電動機M1へ供給され、その第2電動機M2或いは第1電動機M1から伝達部材18へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機M2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。また、ハイブリッド制御手段52は、エンジン8の停止又はアイドル状態に拘わらず、無段変速部11の電気的CVT機能によって電動機のみ例えば第2電動機M2のみを駆動力源としてモータ走行させることができる。
また、本実施例の無段変速部11は、機械的な動力伝達経路が構成される非差動状態(定変速状態)に切換え可能であり、その非差動状態では第1電動機M1を発電機として機能させて反力トルクを発生させる必要がないので、ハイブリッド制御手段52により電動機(モータ)として機能させられて発生させられる回転駆動トルクを伝達部材18に伝達可能となる。従って、ハイブリッド制御手段52は、無段変速部11が有段変速状態(定変速状態)において第2電動機M2に加えて或いは単独で第1電動機M1を作動させてエンジン回転速度NEを制御することができる。但し、無段変速部11の有段変速状態では動力分配機構16の第2回転要素RE2(第1サンギヤS1)も車速Vに引きずられるため無段変速部11の無段変速状態に比較してエンジン回転速度NEの一定時間当たりの変化率は小さい。また、無段変速部11の非差動状態であっても切換ブレーキB0の係合による非差動状態の場合には、第1電動機M1はケース12に連結されて回転不能であるので、エンジン回転速度NEの制御に用いることはできない。
増速側ギヤ段判定手段62は、変速機構10を有段変速状態とする際に切換クラッチC0および切換ブレーキB0のいずれを係合させるかを判定するために、例えば車両状態に基づいて変速線図記憶手段56に予め記憶された図6に示す変速線図に従って変速機構10の変速されるべき変速段が増速側ギヤ段例えば第5速ギヤ段であるか否かを判定する。
切換制御手段50は、例えば変速線図記憶手段56に予め記憶された前記図6の破線および二点鎖線に示す切換線図(切換マップ、関係)から車速Vおよび出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて変速機構10の切り換えるべき変速状態を判断してすなわち変速機構10を無段変速状態とする無段制御領域内であるか或いは変速機構10を有段変速状態とする有段制御領域内であるかを判定して、変速機構10を前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換える。
具体的には、切換制御手段50は有段変速制御領域内であると判定した場合は、ハイブリッド制御手段52に対してハイブリッド制御或いは無段変速制御を不許可すなわち禁止とする信号を出力するとともに、有段変速制御手段54に対しては、予め設定された有段変速時の変速制御を許可する。このときの有段変速制御手段54は、変速線図記憶手段56に予め記憶された例えば図6に示す変速線図に従って有段変速部20の自動変速制御を実行する。図2は、このときの変速制御において選択される油圧式摩擦係合装置すなわちC0、C1、C2、B0、B1、B2、B3の作動の組み合わせを示している。すなわち、変速機構10全体すなわち無段変速部11および有段変速部20が所謂有段式自動変速機として機能し、図2に示す係合表に従って変速段が達成される。
例えば、増速側ギヤ段判定手段62により第5速ギヤ段が判定される場合には、変速機構10全体として変速比が1.0より小さな増速側ギヤ段所謂オーバードライブギヤ段が得られるために切換制御手段50は無段変速部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が0.7の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を解放させ且つ切換ブレーキB0を係合させる指令を油圧制御回路42へ出力する。また、増速側ギヤ段判定手段62により第5速ギヤ段でないと判定される場合には、変速機構10全体として変速比が1.0以上の減速側ギヤ段が得られるために切換制御手段50は無段変速部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が1の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を係合させ且つ切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路42へ出力する。このように、切換制御手段50によって変速機構10が有段変速状態に切り換えられるとともに、その有段変速状態における2種類の変速段のいずれかとなるように選択的に切り換えられて、無段変速部11が副変速機として機能させられ、それに直列の有段変速部20が有段変速機として機能することにより、変速機構10全体が所謂有段式自動変速機として機能させられる。
しかし、切換制御手段50は、変速機構10を無段変速状態に切り換える無段変速制御領域内であると判定した場合は、変速機構10全体として無段変速状態が得られるために無段変速部11を無段変速状態として無段変速可能とするように切換クラッチC0および切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路42へ出力する。同時に、ハイブリッド制御手段52に対してハイブリッド制御を許可する信号を出力するとともに、有段変速制御手段54には、予め設定された無段変速時の変速段に固定する信号を出力するか、或いは変速線図記憶手段56に予め記憶された例えば図6に示す変速線図に従って有段変速部20を自動変速することを許可する信号を出力する。この場合、有段変速制御手段54により、図2の係合表内において切換クラッチC0および切換ブレーキB0の係合を除いた作動により自動変速が行われる。このように、切換制御手段50により無段変速状態に切り換えられた無段変速部11が無段変速機として機能し、それに直列の有段変速部20が有段変速機として機能することにより、適切な大きさの駆動力が得られると同時に、有段変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその有段変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって変速機構10全体として無段変速状態となりトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
ここで前記図6について詳述すると、図6は有段変速部20の変速判断の基となる変速線図記憶手段56に予め記憶された変速線図(関係)であり、車速Vと駆動力関連値である出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された変速線図(変速マップ)の一例である。図6の実線はアップシフト線であり一点鎖線はダウンシフト線である。また、図6の破線は切換制御手段50による有段制御領域と無段制御領域との判定のための判定車速V1および判定出力トルクT1を示している。つまり、図6の破線はハイブリッド車両の高速走行を判定するための予め設定された高速走行判定値である判定車速V1の連なりである高車速判定線と、ハイブリッド車両の駆動力に関連する駆動力関連値例えば有段変速部20の出力トルクTOUTが高出力となる高出力走行を判定するための予め設定された高出力走行判定値である判定出力トルクT1の連なりである高出力走行判定線とを示している。さらに、図6の破線に対して二点鎖線に示すように有段制御領域と無段制御領域との判定にヒステリシスが設けられている。つまり、この図6は判定車速V1および判定出力トルクT1を含む、車速Vと出力トルクTOUTとをパラメータとして切換制御手段50により有段制御領域と無段制御領域とのいずれであるかを領域判定するための予め記憶された切換線図(切換マップ、関係)である。なお、この切換線図を含めて変速マップとして変速線図記憶手段56に予め記憶されてもよい。また、この切換線図は判定車速V1および判定出力トルクT1の少なくとも1つを含むものであってもよいし、車速Vおよび出力トルクTOUTの何れかをパラメータとする予め記憶された切換線であってもよい。
上記変速線図や切換線図等は、マップとしてではなく実際の車速Vと判定車速V1とを比較する判定式、出力トルクTOUTと判定出力トルクT1とを比較する判定式等として記憶されてもよい。この場合には、切換制御手段50は、車両状態例えば実際の車速が判定車速V1を越えたときに変速機構10を有段変速状態とする。また、切換制御手段50は、車両状態例えば有段変速部20の出力トルクTOUTが判定出力トルクT1を越えたときに変速機構10を有段変速状態とする。また、無段変速部11を電気的な無段変速機として作動させるための電動機等の電気系の制御機器の故障や機能低下時、例えば第1電動機M1における電気エネルギの発生からその電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスに関連する機器の機能低下すなわち第1電動機M1、第2電動機M2、インバータ58、蓄電装置60、それらを接続する伝送路などの故障や、故障(フェイル)とか低温による機能低下或いは機能不全が発生した場合には、無段制御領域であっても車両走行を確保するために切換制御手段50は変速機構10を優先的に有段変速状態としてもよい。
上記駆動力関連値とは、車両の駆動力に1対1に対応するパラメータであって、駆動輪38での駆動トルク或いは駆動力のみならず、例えば有段変速部20の出力トルクTOUT、エンジントルクTE、車両加速度や、例えばアクセル開度或いはスロットル開度(或いは吸入空気量、空燃比、燃料噴射量)とエンジン回転速度NEとによって算出されるエンジントルクTEなどの実際値や、運転者のアクセルペダル操作量或いはスロットル開度に基づいて算出される要求駆動力等の推定値であってもよい。また、上記駆動トルクは出力トルクTOUT等からデフ比、駆動輪38の半径等を考慮して算出されてもよいし、例えばトルクセンサ等によって直接検出されてもよい。上記他の各トルク等も同様である。
また、例えば判定車速V1は、高速走行において変速機構10が無段変速状態とされるとかえって燃費が悪化するのを抑制するように、その高速走行において変速機構10が有段変速状態とされるように設定されている。また、判定トルクT1は、車両の高出力走行において第1電動機M1の反力トルクをエンジンの高出力域まで対応させないで第1電動機M1を小型化するために、例えば第1電動機M1からの電気エネルギの最大出力を小さくして配設可能とされた第1電動機M1の特性に応じて設定されることになる。
図7は、エンジン回転速度NEとエンジントルクTEとをパラメータとして切換制御手段50により有段制御領域と無段制御領域とのいずれであるかを領域判定するための境界線としてのエンジン出力線を有する例えば変速線図記憶手段56に予め記憶された切換線図(切換マップ、関係)である。切換制御手段50は、図6の切換線図に替えてこの図7の切換線図からエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとに基づいて、それらのエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとで表される車両状態が無段制御領域内であるか或いは有段制御領域内であるかを判定してもよい。また、この図7は図6の破線を作るための概念図でもある。言い換えれば、図6の破線は図7の関係図(マップ)に基づいて車速Vと出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標上に置き直された切換線でもある。
図6の関係に示されるように、出力トルクTOUTが予め設定された判定出力トルクT1以上の高トルク領域、或いは車速Vが予め設定された判定車速V1以上の高車速領域が、有段制御領域として設定されているので有段変速走行がエンジン8の比較的高トルクとなる高駆動トルク時、或いは車速の比較的高車速時において実行され、無段変速走行がエンジン8の比較的低トルクとなる低駆動トルク時、或いは車速の比較的低車速時すなわちエンジン8の常用出力域において実行されるようになっている。同様に、図7の関係に示されるように、エンジントルクTEが予め設定された所定値TE1以上の高トルク領域、エンジン回転速度NEが予め設定された所定値NE1以上の高回転領域、或いはそれらエンジントルクTEおよびエンジン回転速度NEから算出されるエンジン出力が所定以上の高出力領域が、有段制御領域として設定されているので、有段変速走行がエンジン8の比較的高トルク、比較的高回転速度、或いは比較的高出力時において実行され、無段変速走行がエンジン8の比較的低トルク、比較的低回転速度、或いは比較的低出力時すなわちエンジン8の常用出力域において実行されるようになっている。図7における有段制御領域と無段制御領域との間の境界線は、高車速判定値の連なりである高車速判定線および高出力走行判定値の連なりである高出力走行判定線に対応している。
これによって、例えば、車両の低中速走行および低中出力走行では、変速機構10が無段変速状態とされて車両の燃費性能が確保されるが、実際の車速Vが前記判定車速V1を越えるような高速走行では変速機構10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる場合に発生する動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されて燃費が向上させられる。また、出力トルクTOUTなどの前記駆動力関連値が判定トルクT1を越えるような高出力走行では変速機構10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる領域が車両の低中速走行および低中出力走行となって、第1電動機M1が発生すべき電気的エネルギ換言すれば第1電動機M1が伝える電気的エネルギの最大値を小さくできて第1電動機M1或いはそれを含む車両の駆動装置が一層小型化される。また、他の考え方として、この高出力走行においては燃費に対する要求より運転者の駆動力に対する要求が重視されるので、無段変速状態より有段変速状態(定変速状態)に切り換えられるのである。これによって、ユーザは、例えば図8に示すような有段自動変速走行におけるアップシフトに伴うエンジン回転速度NEの変化すなわち変速に伴うリズミカルなエンジン回転速度NEの変化が楽しめる。
図5に戻り、アクセル開度変化率算出手段80はアクセルペダル46の操作速度であるアクセル開度の変化率Acc’を、例えば電子制御装置40に供給されるアクセルペダル46の操作量を示すアクセル開度信号Accに基づいて算出する。このアクセル開度変化率Acc’は、運転者の要求車両駆動力の増減速度を表すものである。例えば、車両の急発進、急加速、登坂路走行等の要求駆動力の増加速度が大きくなるようなアクセル急踏込みではアクセル開度変化率Acc’が正側に大きくなり、略定速走行となる要求駆動力の増減速度が小さくなるようなアクセルペダル操作ではアクセル開度変化率Acc’が略零或いは小さくなる。
差動状態判定手段82は、有段変速部20の変速の実行が判断された場合例えば有段変速制御手段54により図6に示す変速線図から車両状態に基づいて有段変速部20の変速すべき変速段が判断された場合は、動力分配機構16が差動状態すなわち無段変速部11が無段変速状態とされているか否かを判定する。例えば、差動状態判定手段82は、切換制御手段50により変速機構10が有段変速状態に切換制御されて車両が有段変速走行となる有段制御領域内か或いは変速機構10が無段変速状態に切換制御されて車両が無段変速走行となる無段制御領域内であるかの判定のための例えば図6に示す切換線図から車速Vおよび出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて変速機構10を無段変速状態とする無段制御領域内であるか否かによって無段変速部11が無段変速状態となっているか否かを判定する。
この差動状態判定手段82は、有段変速部20の変速の実行が判断された場合に無段変速部11が差動状態か非差動状態かに基づいてエンジン回転速度が制御されるために無段変速部11が無段変速状態とされているか否かを判定する。
エンジン回転速度制御手段84は、無段時エンジン制御手段86と有段時エンジン制御手段88とを備え、有段変速制御手段54による有段変速部20の変速制御に際して、無段変速部11の電気的な無段変速によりエンジン回転速度NEを制御したり、有段変速部20による変速段の切換えに伴うエンジン回転速度の段階的な変化によりエンジン回転速度NEを制御する。
無段時エンジン制御手段86は、有段変速制御手段54による有段変速部20の変速制御に際して、その変速制御の開始時に動力分配機構16が差動状態の場合にはハイブリッド制御手段52に無段変速部11の電気的な無段変速により第1電動機M1を用いて第1サンギヤS1の回転速度を変化させてエンジン回転速度NEを有段変速部20の変速完了後の目標エンジン回転速度NE *となるように制御する。また、無段時エンジン制御手段86は、上記エンジン回転速度制御と共に有段変速制御手段54に有段変速部20の変速制御を実行させる。上記目標エンジン回転速度NE *は、例えば有段変速部20の変速完了後において要求駆動力を満たすエンジン出力を得るためのエンジン回転速度NEであり、前記ハイブリッド制御手段52において予め記憶されたエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとをパラメータとするエンジン8の最適曲線に沿ってエンジン8が作動させられるようにしてハイブリッド制御手段52により制御されているものである。
一般的に、有段変速部20の変速制御に際して、有段変速制御手段54による有段変速部20の変速判断から有段変速部20の油圧式摩擦係合装置の解放と係合とが実行され実際に変速段の切換えが開始されてエンジン回転速度NEの変化が生じるまでには応答遅れが発生する。そこで、その応答遅れを抑制して速やかに変速完了後のエンジン出力が得られるように無段時エンジン制御手段86は、有段変速部20による変速段の切換えに伴うエンジン回転速度NEの段階的な変化によりエンジン回転速度NEを変化させるのではなく、ハイブリッド制御手段52による第1電動機M1の回転速度制御によりエンジン回転速度NEを有段変速制御手段54による変速判断後から速やかに変化させるように制御する。
例えば、無段時エンジン制御手段86は、有段変速制御手段54によるダウンシフトが判断された場合には、ダウンシフトに伴ってエンジン回転速度NEを上昇させるのではなくハイブリッド制御手段52により第1電動機M1の回転速度を上昇させてエンジン回転速度NEを引き上げるように制御する。このとき、無段時エンジン制御手段86は、ダウンシフトに伴って上昇する有段変速部20の入力回転速度すなわち車速Vと変速段に基づいて一意的に決まる伝達部材18の回転速度を考慮してエンジン回転速度NEを上記目標エンジン回転速度NE *とするようにハイブリッド制御手段52により第1電動機M1の回転速度を制御させる。
また、無段時エンジン制御手段86は、アクセル開度変化率Acc’に基づいてエンジン回転速度NEの変化率を制御する。前述したようにアクセル開度変化率Acc’は運転者の要求駆動力の増減速度を表すものであり、アクセル開度変化率Acc’の大小は要求駆動力の変化速度の大小でもある。また、運転者の要求駆動力の変化速度は、その要求駆動力を充足するために必要なエンジン出力の変化速度に相当するものであるのでエンジン回転速度の変化速度であるとも言える。例えば、無段時エンジン制御手段86は、アクセル開度変化率Acc’が正側に大きい場合には小さい場合に比較して要求駆動力の増加速度が大きくなるようにエンジン回転速度の上昇速度を大きくするようにハイブリッド制御手段52により第1電動機M1の回転速度を制御させる。
有段時エンジン制御手段88は、有段変速制御手段54による有段変速部20の変速制御に際して、その変速制御の開始時に動力分配機構16が非差動状態の場合には、有段変速制御手段54に有段変速部20の変速制御を実行させて変速段の切換えに伴うエンジン回転速度NEの段階的な変化によりエンジン回転速度NEを有段変速部20の変速完了後の有段時目標エンジン回転速度NE *となるように制御する。上記有段時目標エンジン回転速度NE *は、変速比が固定の無段変速部11において車速Vと変速比とから一意的に決まる伝達部材18の回転速度に基づくエンジン回転速度NEである。
また、有段時エンジン制御手段88は、切換制御手段50に動力分配機構16の非差動状態を維持させたままハイブリッド制御手段52に第1電動機M1および/または第2電動機M2の回転速度を制御させてエンジン回転速度NEを有段時目標エンジン回転速度NE *に少しでも早く到達するように制御する。例えば、動力分配機構16の各回転要素が一体回転させられるC0係合による非差動状態の場合には、有段時エンジン制御手段88は、切換制御手段50に動力分配機構16の非差動状態を維持させたままハイブリッド制御手段52に第1電動機M1および/または第2電動機M2の回転速度を有段時目標エンジン回転速度NE *に近づける方向に制御させてエンジン回転速度NEを有段時目標エンジン回転速度NE *に少しでも早く到達するように制御する。
エンジン回転速度制御手段84は有段変速制御手段54による変速制御の開始時に動力分配機構16が非差動状態の場合には、切換制御手段50に動力分配機構16を差動状態へ切り替えさせて無段時エンジン制御手段86によるエンジン回転速度制御を実行するのではなく、切換制御手段50による動力分配機構16の差動状態への切替えによるエンジン回転速度制御のための応答遅れを発生させないために非差動状態としたまま有段時エンジン制御手段88によるエンジン回転速度制御を実行する。つまり、エンジン回転速度制御手段84は有段変速制御手段54による変速制御の開始時に動力分配機構16が非差動状態の場合には、有段変速部20の変速応答性を向上させるために有段変速制御手段54による変速制御を単独で実行する。
このようにエンジン回転速度制御手段84は、有段変速制御手段54による有段変速部20の変速制御に際して、その変速制御の開始時に動力分配機構16が差動状態か非差動状態かに基づいて無段時エンジン制御手段86によるエンジン回転速度制御とするか有段時エンジン制御手段88によるエンジン回転速度制御とするかを切り換えることで、有段変速部20の変速制御中のエンジン回転速度の制御方法を切り換える。
言い換えれば、エンジン回転速度制御手段84は、有段変速制御手段54による有段変速部20の変速制御に際して、その変速制御の開始時に動力分配機構16が差動状態か非差動状態かに基づいて有段変速部20の変速制御方法を無段時エンジン制御手段86による方法とするか有段時エンジン制御手段88による方法とするかで切り換えることで、有段変速部20の変速制御中のエンジン回転速度の制御方法を切り換える。
図9は、電子制御装置40の制御作動の要部すなわち有段変速部20の変速制御の際のエンジン回転速度制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
先ず、有段変速制御手段54に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S1において、有段変速部20の変速が実行されるか否かが例えば図6に示す変速線図から車速Vおよび有段変速部20の出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて有段変速部20の変速すべき変速段が判断されたかにより判定される。このS1の判断が否定される場合はS8において、現在の車両走行状態が維持されて本ルーチンが終了させられるが、肯定される場合はアクセル開度変化率算出手段80に対応するS2において、アクセル開度の変化率Acc’が例えば電子制御装置40に供給されるアクセルペダル46の操作量を示すアクセル開度信号Accに基づいて算出される。
続く、差動状態判定手段82に対応するS3において、動力分配機構16が差動状態すなわち無段変速部11が無段変速状態とされているか否かが、例えば図6に示す切換線図から車両状態に基づいて変速機構10を無段変速状態として車両が無段変速走行となる無段制御領域内であるか否かによって判定される。
前記S3の判断が否定される場合はエンジン回転速度制御手段84に対応するS4において、有段変速制御手段54によりS1で判断された有段変速部20の変速制御を単独で実行させることで、その変速段の切換えに伴うエンジン回転速度NEの段階的な変化によりエンジン回転速度NEが制御される。このとき、エンジン回転速度制御手段84に対応するS5において、切換制御手段50により動力分配機構16の非差動状態を維持させたままハイブリッド制御手段52による第1電動機M1および/または第2電動機M2の制御によりエンジン回転速度NEが有段変速部20の変速完了後の目標エンジン回転速度NE *に少しでも早く到達するように制御される。
前記S3の判断が肯定される場合はエンジン回転速度制御手段84に対応するS6において、ハイブリッド制御手段52により第1電動機M1を用いて第1サンギヤS1の回転速度を制御させることによりエンジン回転速度NEが制御される。このS6と共にエンジン回転速度制御手段84に対応するS7において、有段変速制御手段54により有段変速部20の変速制御を実行させる。このS6、S7において第1電動機M1を用いてエンジン回転速度NEが有段変速部20の変速完了後の目標エンジン回転速度NE *となるように制御される。
図10〜図13は、図9のフローチャートに示す制御作動を説明するタイムチャートである。
図10は、変速機構10の無段変速状態においてアクセル踏込みにより例えば図6の実線Aに示すように4→2ダウンシフトが発生した場合での制御作動を示す例である。また、図10に示す制御作動は、図9のフローチャートのS1→S2→S3→S6→S7→リターンで示す制御作動に相当する。図10において、t1時点にてアクセル踏込みにより4→2ダウンシフトが判断されると、第1電動機M1により第1サンギヤS1の回転速度を上昇させてエンジン回転速度NEが引き上げられると共に変速制御が開始される。変速段の切換えには応答遅れがあるので有段変速部20の入力回転速度はt2時点まで変化しないが、無段変速部11の無段変速状態によりエンジン回転速度NEは変速段の切換えには関係なく速やかに立ち上がる(t1時点乃至t2時点)。つまり、有段変速部20の変速制御が完了するt3時点までのエンジン回転速度の制御は、変速段の切換えに伴うエンジン回転速度変化によるものではなく第1電動機M1によるエンジン回転速度制御により実行される。よって、アクセル踏込みとエンジン回転速度NEの立ち上がりとの応答遅れが抑制されるすなわち応答性が向上するし、一点鎖線に示す従来例と比較して変速制御が速やかに終了する。また、エンジン出力も速やかに上昇する。アクセル開度変化率Acc’が小さいときすなわちアクセルペダルの操作速度が遅いときには、エンジン回転速度を破線に示すように制御してもよい(t1時点乃至t4時点)。
図11は、変速機構10の有段変速状態においてアクセル踏み込みにより4→2ダウンシフトが発生した場合での制御作動を示す例である。また、図11に示す制御作動は、図9のフローチャートのS1→S2→S3→S4→S5→リターンで示す制御作動に相当する。図11において、t1時点にてアクセル踏込みにより4→2ダウンシフトが判断されると変速制御が開始される。変速段の切換えには応答遅れがあるので有段変速部20の入力回転速度はt2時点まで変化しない。ここでは、動力分配機構16を一旦差動状態へ切り替えるのではなく、その切替えによる応答遅れを発生させないために非差動状態としたまま有段変速部20のダウンシフトを単独で実行して変速比の段階的な変化によりエンジン回転速度を上昇させる(t2時点乃至t3時点)。よって、有段変速部20の変速制御が速やかに終了する。また、t2時点乃至t3時点においてこの変速制御が一層速やかに終了させられるように第1電動機M1および/または第2電動機M2の制御によりエンジン回転速度NEを制御してもよい。さらに、図11のt3時点乃至t4時点に示す様に無段変速部11を無段変速状態へ切り換えて第1電動機M1を用いてエンジン回転速度NEを微調整するように制御してもよい。この無段変速状態への切換えは図9のフローチャートのS5において或いはS5に続いて実行される。アクセル開度変化率Acc’が小さいときすなわちアクセルペダルの操作速度が遅いときには、エンジン回転速度を破線に示すように制御してもよい(t2時点乃至t5時点)。
図12は、変速機構10の無段変速状態において車速増加により例えば図6の実線Bに示すように3→4アップシフトが発生した場合での制御作動を示す例である。また、図12に示す制御作動は、図9のフローチャートのS1→S2→S3→S6→S7→リターンで示す制御作動に相当する。図12において、t1時点にて車速増加により3→4アップシフトが判断されると、第1電動機M1により第1サンギヤS1の回転速度を下降させてエンジン回転速度NEが引き下げられると共に変速制御が開始される。変速段の切換えには応答遅れがあるので有段変速部20の入力回転速度はt2時点まで変化しないが、無段変速部11の無段変速状態によりエンジン回転速度NEは変速段の切換えには関係なく速やかに引き下げられる(t1時点乃至t2時点)。つまり、有段変速部20の変速制御が完了するt3時点までのエンジン回転速度の制御は、変速段の切換えに伴うエンジン回転速度変化によるものではなく第1電動機M1によるエンジン回転速度制御により実行される。よって、変速制御が速やかに終了する。このとき、変速ショックを抑制するために図12に示すようにt1時点乃至t2時点ではt2点乃至t3時点に比較してゆっくりエンジン回転速度を低下させてもよい。アクセル開度変化率Acc’が小さいときすなわちアクセルペダルの操作速度が遅いときには、エンジン回転速度を破線に示すように制御してもよい(t1時点乃至t4時点)。
図13は、変速機構10の有段変速状態において車速増加により3→4アップシフトが発生した場合での制御作動を示す例である。また、図13に示す制御作動は、図9のフローチャートのS1→S2→S3→S4→S5→リターンで示す制御作動に相当する。図13において、t1時点にて車速増加により3→4アップシフトが判断されると変速制御が開始される。変速段の切換えには応答遅れがあるので有段変速部20の入力回転速度はt2時点まで変化しない。ここでは、動力分配機構16を一旦差動状態へ切り替えるのではなく、その切替えによる応答遅れを発生させないために非差動状態としたまま有段変速部20のアップシフトを単独で実行して変速比の段階的な変化によりエンジン回転速度を下降させる(t2時点乃至t3時点)。よって、有段変速部20の変速制御が速やかに終了する。また、t2時点乃至t3時点においてこの変速制御が一層速やかに終了させられるように第1電動機M1および/または第2電動機M2の制御によりエンジン回転速度NEを制御してもよい。さらに、図13のt3時点乃至t4時点に示す様に無段変速部11を無段変速状態へ切り換えて第1電動機M1を用いてエンジン回転速度NEを微調整するように制御してもよい。この無段変速状態への切換えは図9のフローチャートのS5において或いはS5に続いて実行される。
上述のように、本実施例によれば、切換クラッチC0および切換ブレーキB0を備えることで無段変速部11を電気的な無段変速機として作動可能とする差動状態とそれを作動不能とする非差動状態とに選択的に切り換えられるように構成された動力分配機構16を備える変速機構10が、有段変速部20の変速制御に際して、エンジン回転速度制御手段84により無段変速部11の電気的な無段変速機としての機能すなわち動力分配機構16の差動作用を用いてエンジン回転速度NEが制御されるので、有段変速部20の変速段の切換えが開始されるか否かに拘わらずエンジン回転速度NEが速やかに変化させられて応答性が向上し、同時に有段変速部20の変速制御が実行されるのでその変速制御が速やかに終了する。例えばアクセル踏み込みによるパワーオンダウンシフト時にエンジン回転速度NEがアクセル踏み込みに追従させられて速やかに吹き上がり、エンジン出力(パワー)が速やかに立ち上がる。また、同時に有段変速部20のダウンシフトが実行されるのでそのダウンシフトが速やかに終了する。
また、本実施例によれば、エンジン回転速度制御手段84は、第1電動機M1を用いてエンジン回転速度NEを有段変速部20の変速完了後の目標エンジン回転速度NE *に制御するので、有段変速部20の変速段の切換に伴うエンジン回転速度NEの変化に因らずエンジン回転速度NEが制御可能となって変速応答性が向上する。
また、本実施例によれば、エンジン回転速度制御手段84は、アクセル開度変化率Acc’に基づいてエンジン回転速度の変化率を制御するので、ユーザの意志が適切にエンジン回転速度NEに反映されて、ドライバビリティーが向上する。
また、本実施例によれば、有段変速部20の変速制御に際して、エンジン回転速度制御手段84により有段変速部20の変速制御の開始時に動力分配機構16が差動状態か非差動状態かに基づいて変速制御中のエンジン回転速度NEの制御方法が切り換えられるので、エンジン回転速度NEが速やかに変化させられて変速応答性が向上する。
例えば、動力分配機構16が差動状態の場合にはエンジン回転速度制御手段84は、動力分配機構16の差動作用により有段変速部20の変速制御中のエンジン回転速度NEを制御するようにエンジン回転速度の制御方法を切り換えるので、有段変速部20の変速段の切換えが開始されるか否かに拘わらずエンジン回転速度NEが速やかに変化させられて応答性が向上し、同時に有段変速部20の変速制御が実行されるのでその変速制御が速やかに終了する。
また、例えば、動力分配機構16が非差動状態の場合にはエンジン回転速度制御手段84は、有段変速部20の変速段の切換えによるエンジン回転速度変化によりその変速制御中のエンジン回転速度NEを制御するようにエンジン回転速度の制御方法を切り換えるので、動力分配機構16を非差動状態から差動状態へ切換制御すること無く有段変速部20の変速段の切換えに伴ってエンジン回転速度NEが速やかに変化させられて変速応答性が向上する。
また、例えば、動力分配機構16が非差動状態の場合にはエンジン回転速度制御手段84は、動力分配機構16を非差動状態としたまま第1電動機M1および/または第2電動機M2を用いて有段変速部20の変速制御中のエンジン回転速度を制御するようにエンジン回転速度の制御方法を切り換えるので、動力分配機構16を非差動状態から差動状態へ切換制御すること無く有段変速部20の変速段の切換えに伴ってエンジン回転速度NEが速やかに変化させられると共に電動機M1、M2を用いてエンジン回転速度NEが有段変速部20の変速完了後の目標エンジン回転速度NE *に制御されて一層変速応答性が向上する。
また、本実施例によれば、有段変速部20の変速制御に際して、エンジン回転速度制御手段84により有段変速部20の変速制御の開始時に動力分配機構16が差動状態か非差動状態かに基づいて有段変速部20の変速制御方法が切り換えられるので、エンジン回転速度NEが速やかに変化させられて変速応答性が向上する。
例えば、動力分配機構16が差動状態の場合にはエンジン回転速度制御手段84は、動力分配機構16の差動作用により有段変速部20のエンジン回転速度NEを制御すると共に有段変速部20の変速制御を実行させるので、有段変速部20の変速段の切換えが開始されるか否かに拘わらずエンジン回転速度NEが速やかに変化させられて応答性が向上し、同時に有段変速部20の変速制御が実行されるのでその変速制御が速やかに終了する。
また、例えば、動力分配機構16が非差動状態の場合にはエンジン回転速度制御手段84は、動力分配機構16を非差動状態としたまま有段変速部20の変速段の切換えによるエンジン回転速度変化によりその変速制御中のエンジン回転速度NEを制御するように有段変速部20の変速制御を実行させるので、動力分配機構16を非差動状態から差動状態へ切換制御すること無く有段変速部20の変速段の切換えに伴ってエンジン回転速度NEが速やかに変化させられて変速応答性が向上する。
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
図17は、手動操作によって動力分配機構16の差動状態と非差動状態すなわち変速機構10の無段変速状態と有段変速状態との切換えを選択するための変速状態手動選択装置としてのシーソー型スイッチ44(以下、スイッチ44と表す)の一例でありユーザにより手動操作可能に車両に備えられている。このスイッチ44は、ユーザが所望する変速状態での車両走行を択一的に選択可能とするものであり、無段変速走行に対応するスイッチ44の無段と表示された位置(部分)或いは有段変速走行に対応する有段と表示された位置(部分)をユーザにより押されることで、それぞれ無段変速走行すなわち変速機構10を電気的な無段変速機として作動可能な無段変速状態とするか、或いは有段変速走行すなわち変速機構10を有段変速機として作動可能な有段変速状態とするかが選択可能とされる。前述の実施例では、例えば図6の関係図から車両状態の変化に基づく変速機構10の変速状態の自動切換制御作動を説明したが、その自動切換制御作動に替えて或いは加えて例えばスイッチ44が手動操作されたことにより変速機構10の変速状態が手動切換制御されてもよい。つまり、切換制御手段50は、スイッチ44の無段変速状態とするか或いは有段変速状態とするかの選択操作に従って優先的に変速機構10を無段変速状態と有段変速状態とに切り換える。例えば、ユーザは無段変速機のフィーリングや燃費改善効果が得られる走行を所望すれば変速機構10が無段変速状態とされるように手動操作により選択すればよいし、また有段変速機の変速に伴うエンジン回転速度の変化によるフィーリング向上を所望すれば変速機構10が有段変速状態とされるように手動操作により選択すればよい。また、スイッチ44に無段変速走行或いは有段変速走行の何れも選択されない状態である中立位置が設けられる場合には、スイッチ44がその中立位置の状態であるときすなわちユーザによって所望する変速状態が選択されていないときや所望する変速状態が自動切換のときには、変速機構10の変速状態の自動切換制御作動が実行されればよい。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例の図9のフローチャートのステップS1では図6に示す変速線図から車両状態に基づいて有段変速部20の変速すべき変速段が判断されたかにより有段変速部20の変速制御の実行が判定されたが、例えば良く知られたシフト操作装置において変速レンジ或いは変速段が手動操作によって切換可能に構成される場合に、その手動操作に基づいて有段変速部20の変速が発生したときに有段変速部20の変速制御の実行が判定されてもよい。つまり、手動操作に基づいて有段変速部20の変速が実行される場合であっても本発明は適用され得る。
また、前述の実施例の変速機構10、70は、無段変速部11が無段変速状態と定変速状態とに切り換えられることで電気的な無段変速機として機能する無段変速状態と有段変速機として機能する有段変速状態とに切り換え可能に構成されていたが、有段変速状態に切換可能に構成されない変速機構すなわち無段変速部11が切換クラッチC0および切換ブレーキB0を備えず電気的な無段変速機としての機能のみを有する無段変速部11であっても本実施例は適用され得る。
また、前述の実施例の図9のフローチャートのステップS6およびS7は同時に実行開始されたが、先にS6が実行開始されそのS6の実行中にS7が実行されるようにしてもよい。
また、前述の実施例の図9のフローチャートのステップS2およびS5は必ずしも必要ではなく省略されても本発明は適用され得る。
また、前述の実施例の変速機構10、70は、無段変速部11が差動状態と非差動状態とに切り換えられることで電気的な無段変速機として機能する無段変速状態と有段変速機として機能する有段変速状態とに切り換え可能に構成されていたが、無段変速状態と有段変速状態との切換えは無段変速部11の差動状態と非差動状態との切換えにおける一態様であり、例えば無段変速部11が差動状態であっても無段変速部11の変速比を連続的ではなく段階的に変化させて有段変速機として機能させられてもよい。言い換えれば、変速機構10、70(無段変速部11)の差動状態/非差動状態と、無段変速状態/有段変速状態とは必ずしも一対一の関係にある訳ではないので、変速機構10、70は必ずしも無段変速状態と有段変速状態とに切り換え可能に構成される必要はなく、変速機構10、70(無段変速部11、動力分配機構16)が差動状態と非差動状態とに切換え可能に構成されれば本発明は適用され得る。
また、前述の実施例の動力分配機構16では、第1キャリヤCA1がエンジン8に連結され、第1サンギヤS1が第1電動機M1に連結され、第1リングギヤR1が伝達部材18に連結されていたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン8、第1電動機M1、伝達部材18は、第1遊星歯車装置24の3要素CA1、S1、R1のうちのいずれと連結されていても差し支えない。
また、前述の実施例では、エンジン8は入力軸14と直結されていたが、例えばギヤ、ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。
また、前述の実施例では、第1電動機M1および第2電動機M2は、入力軸14に同心に配置されて第1電動機M1は第1サンギヤS1に連結され第2電動機M2は伝達部材18に連結されていたが、必ずしもそのように配置される必要はなく、例えばギヤ、ベルト等を介して作動的に第1電動機M1は第1サンギヤS1に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されてもよい。
また、前述の動力分配機構16には切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられていたが、切換クラッチC0および切換ブレーキB0は必ずしも両方備えられる必要はない。また、上記切換クラッチC0は、サンギヤS1とキャリヤCA1とを選択的に連結するものであったが、サンギヤS1とリングギヤR1との間や、キャリヤCA1とリングギヤR1との間を選択的に連結するものであってもよい。要するに、第1遊星歯車装置24の3要素のうちのいずれか2つを相互に連結するものであればよい。
また、前述の実施例の変速機構10、70では、ニュートラル「N」とする場合には切換クラッチC0が係合されていたが、必ずしも係合される必要はない。
また、前述の実施例では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0などの油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁粉)クラッチ、電磁クラッチ、噛み合い型のドグクラッチなどの磁粉式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。
また、前述の実施例では、第2電動機M2が伝達部材18に連結されていたが、出力軸22に連結されていてもよいし、有段変速部20、72内の回転部材に連結されていてもよい。
また、前述の実施例では、有段変速部20、72は伝達部材18を介して無段変速部11と直列に連結されていたが、入力軸14と平行にカウンタ軸が設けられそのカウンタ軸上に同心に有段変速部20、72が配設されてもよい。この場合には、無段変速部11と有段変速部20、72とは、例えば伝達部材18としてのカウンタギヤ対、スプロケットおよびチェーンで構成される1組の伝達部材などを介して動力伝達可能に連結される。
また、前述の実施例の差動機構としての動力分配機構16は、例えばエンジンによって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車が第1電動機M1および第2電動機M2に作動的に連結された差動歯車装置であってもよい。
また、前述の実施例の動力分配機構16は、1組の遊星歯車装置から構成されていたが、2以上の遊星歯車装置から構成されて、非差動状態(定変速状態)では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。
また、前述の実施例のスイッチ44はシーソー型のスイッチであったが、例えば押しボタン式のスイッチ、択一的にのみ押した状態が保持可能な2つの押しボタン式のスイッチ、レバー式スイッチ、スライド式スイッチ等の少なくとも無段変速走行(差動状態)と有段変速走行(非差動状態)とが択一的に切り換えられるスイッチであればよい。また、スイッチ44に中立位置が設けられる場合にその中立位置に替えて、スイッチ44の選択状態を有効或いは無効すなわち中立位置相当が選択可能なスイッチがスイッチ44とは別に設けられてもよい。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。