図1は、本発明の一実施例である制御装置が適用されるハイブリッド車両の駆動装置の一部を構成する変速機構10を説明する骨子図である。図1において、変速機構10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接に連結された無段変速部としての差動部11と、その差動部11と駆動輪38との間の動力伝達経路で伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている有段式自動変速機としての有段式自動変速部20(以下、自動変速部20という)と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この変速機構10は、車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、走行用の駆動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪38との間に設けられて、図5に示すようにエンジン8からの動力を駆動装置の他の一部として動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)36および一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪38へ伝達する。なお、変速機構10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の変速機構10を表す部分においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。
差動部11は、第1電動機M1と、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構であってエンジン8の出力を第1電動機M1および伝達部材18に分配する差動機構としての動力分配機構16と、伝達部材18と一体的に回転するように設けられている第2電動機M2とを備えている。なお、この第2電動機M2は伝達部材18から駆動輪38までの間の動力伝達経路を構成するいずれの部分に設けられてもよい。本実施例の第1電動機M1および第2電動機M2は発電機能をも有する所謂モータジェネレータであるが、第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2は駆動力を出力するためのモータ(電動機)機能を少なくとも備える。
動力分配機構16は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置24と、切換クラッチC0および切換ブレーキB0とを主体的に備えている。この第1遊星歯車装置24は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を回転要素(要素)として備えている。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1である。
この動力分配機構16においては、第1キャリヤCA1は入力軸14すなわちエンジン8に連結され、第1サンギヤS1は第1電動機M1に連結され、第1リングギヤR1は伝達部材18に連結されている。また、切換ブレーキB0は第1サンギヤS1とケース12との間に設けられ、切換クラッチC0は第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1との間に設けられている。それら切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放されると、動力分配機構16は第1遊星歯車装置24の3要素である第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動状態とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されるとともに、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、例えば所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、動力分配機構16が差動状態とされると差動部11がその変速比γ0(入力軸14の回転速度/伝達部材18の回転速度)が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する無段変速状態とされる。
この状態で、上記切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0が係合させられると動力分配機構16は前記差動作用が不能な非差動状態とされる。具体的には、上記切換クラッチC0が係合させられて第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1とが一体的に係合させられると、動力分配機構16は第1遊星歯車装置24の3要素である第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1が共に回転すなわち一体回転させられるロック状態とされて前記差動作用が不能な非差動状態とされることから、エンジン8の回転と伝達部材18の回転速度とが一致する状態となるので、差動部11は変速比γ0が「1」に固定された変速機として機能する定変速状態とされる。次いで、上記切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられて第1サンギヤS1がケース12に連結させられると、動力分配機構16は第1サンギヤS1が非回転状態とさせられるロック状態とされて前記差動作用が不能な非差動状態とされることから、第1リングギヤR1は第1キャリヤCA1よりも増速回転されるので、動力分配機構16は増速機構として機能するものであり、差動部11は変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定された増速変速機として機能する定変速状態とされる。このように、本実施例では、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、動力分配機構16を差動状態と非差動状態とに選択的に切り換える係合装置、言い換えれば差動部11を変速比が連続的変化可能な無段変速機として作動する無段変速状態と、無段変速機として作動させず無段変速作動を非作動として変速比変化を一定にロックするロック状態すなわち1または2種類以上の変速比の単段または複数段の変速機として作動する定変速状態、換言すれば変速比が一定の1段または複数段の変速機として作動する定変速状態とに選択的に切換える差動状態切換装置として機能している。
自動変速部20は、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第3遊星歯車装置28、およびシングルピニオン型の第4遊星歯車装置30を備えている。第2遊星歯車装置26は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第3遊星歯車装置28は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転および公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。第4遊星歯車装置30は、第4サンギヤS4、第4遊星歯車P4、その第4遊星歯車P4を自転および公転可能に支持する第4キャリヤCA4、第4遊星歯車P4を介して第4サンギヤS4と噛み合う第4リングギヤR4を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ4を有している。第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3、第4サンギヤS4の歯数をZS4、第4リングギヤR4の歯数をZR4とすると、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3、上記ギヤ比ρ4はZS4/ZR4である。
自動変速部20では、第2サンギヤS2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第2キャリヤCA2は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第4リングギヤR4は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第2リングギヤR2と第3キャリヤCA3と第4キャリヤCA4とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第3リングギヤR3と第4サンギヤS4とが一体的に連結されて第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。このように、自動変速部20と伝達部材18とは自動変速部20の変速段を成立させるために用いられる第1クラッチC1または第2クラッチC2を介して選択的に連結されている。言い換えれば、第1クラッチC1および第2クラッチC2は、伝達部材18と自動変速部20との間すなわち差動部11と駆動輪38との間の動力伝達経路を動力伝達可能状態と動力遮断状態とに切り換えられる第2係合装置として機能している。つまり、第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとの一方が係合されることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、或いは第1クラッチC1および第2クラッチC2が解放されることで上記動力伝達経路が動力遮断状態とされる。
前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3は従来の車両用自動変速機においてよく用いられている油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介装されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
以上のように構成された変速機構10では、例えば、図2の係合作動表に示されるように、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第5速ギヤ段(第5変速段)のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。特に、本実施例では動力分配機構16に切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、差動部11は前述した無段変速機として作動する無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動する定変速状態を構成することが可能とされている。したがって、変速機構10では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。言い換えれば、変速機構10は、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。また、差動部11も有段変速状態と無段変速状態とに切り換え可能な変速機であると言える。
例えば、変速機構10が有段変速機として機能する場合には、図2に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により、変速比γ1が最大値例えば「3.357」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.180」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.424」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第4速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0の係合により、変速比γ5が第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第5速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2および第3ブレーキB3の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「3.209」程度である後進ギヤ段が成立させられる。なお、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば切換クラッチC0のみが係合される。
しかし、変速機構10が無段変速機として機能する場合には、図2に示される係合表の切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって変速機構10全体としてのトータル変速比(総合変速比)γTが無段階に得られるようになる。
図3は、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部20とから構成される変速機構10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28、30のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度NEを示し、横線XGが伝達部材18の回転速度を示している。
また、差動部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する第1サンギヤS1、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する第1キャリヤCA1、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する第1リングギヤR1の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は第1遊星歯車装置24のギヤ比ρ1に応じて定められている。さらに、自動変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第2サンギヤS2および第3サンギヤS3を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第2キャリヤCA2を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する第4リングギヤR4を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応し且つ相互に連結された第2リングギヤR2、第3キャリヤCA3、第4キャリヤCA4を、第8回転要素(第8要素)RE8に対応し且つ相互に連結された第3リングギヤR3、第4サンギヤS4をそれぞれ表し、それらの間隔は第2、第3、第4遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρ2、ρ3、ρ4に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、差動部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ1に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第2、第3、第4遊星歯車装置26、28、30毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の変速機構10は、動力分配機構16(差動部11)において、第1遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(第1キャリヤCA1)が入力軸14すなわちエンジン8に連結されるとともに切換クラッチC0を介して第2回転要素(第1サンギヤS1)RE2と選択的に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結されるとともに切換ブレーキB0を介してケース12に選択的に連結され、第3回転要素(第1リングギヤR1)RE3が伝達部材18および第2電動機M2に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部(有段変速部)20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により第1サンギヤS1の回転速度と第1リングギヤR1の回転速度との関係が示される。
例えば、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0の解放により無段変速状態(差動状態)に切換えられたときは、第1電動機M1の発電による反力を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される第1サンギヤS1の回転が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y3との交点で示される第1リングギヤR1の回転速度が下降或いは上昇させられる。また、切換クラッチC0の係合により第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1とが連結されると、動力分配機構16は上記3回転要素が一体回転する非差動状態とされるので、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度NEと同じ回転で伝達部材18が回転させられる。或いは、切換ブレーキB0の係合によって第1サンギヤS1の回転が停止させられると動力分配機構16は増速機構として機能する非差動状態とされるので、直線L0は図3に示す状態となり、その直線L0と縦線Y3との交点で示される第1リングギヤR1すなわち伝達部材18の回転速度は、エンジン回転速度NEよりも増速された回転で自動変速部20へ入力される。
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は出力軸22に連結され、第8回転要素RE8は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
自動変速部20では、図3に示すように、第1クラッチC1と第3ブレーキB3とが係合させられることにより、第8回転要素RE8の回転速度を示す縦線Y8と横線X2との交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第1速の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第2速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L3と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第3速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第4速の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第4速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度NEと同じ回転速度で第8回転要素RE8に差動部11すなわち動力分配機構16からの動力が入力される。しかし、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、差動部11からの動力がエンジン回転速度NEよりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L5と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第5速の出力軸22の回転速度が示される。
図4は、本実施例の変速機構10を制御するための電子制御装置40に入力される信号及びその電子制御装置40から出力される信号を例示している。この電子制御装置40は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8、第1、第2電動機M1、M2に関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の駆動制御を実行するものである。
電子制御装置40には、図4に示す各センサやスイッチから、エンジン水温を示す信号、シフトポジションを表す信号PSH、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、ギヤ比列設定値を示す信号、M(モータ走行)モードを指令する信号、エアコンの作動を示すエアコン信号、出力軸22の回転速度に対応する車速信号、自動変速部20の作動油温を示す油温信号、サイドブレーキ操作を示す信号、フットブレーキ操作を示す信号、触媒温度を示す触媒温度信号、アクセルペダルの操作量を示すアクセル開度信号Acc、カム角信号、スノーモード設定を示すスノーモード設定信号、車両の前後加速度を示す加速度信号、オートクルーズ走行を示すオートクルーズ信号、車両の重量を示す車重信号、各駆動輪の車輪速を示す車輪速信号、変速機構10を有段変速機として機能させるために差動部11を定変速状態(非差動状態)に切り換えるための有段スイッチ操作の有無を示す信号、変速機構10を無段変速機として機能させるために差動部11を無段変速状態(差動状態)に切り換えるための無段スイッチ操作の有無を示す信号、第1電動機M1の回転速度NM1を表す信号、第2電動機M2の回転速度NM2を表す信号などが、それぞれ供給される。
また、上記電子制御装置40からは、スロットル弁の開度を操作するスロットルアクチュエータへの駆動信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、エンジン8の点火時期を指令する点火信号、電動機M1およびM2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、差動部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路42に含まれる電磁弁を作動させるバルブ指令信号、上記油圧制御回路42の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
図5は、電子制御装置40による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図5において、有段変速制御手段54は、例えば変速線図記憶手段56に予め記憶された図6の実線および一点鎖線に示す変速線図(変速マップ)から車速Vおよび自動変速部20の出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて自動変速部20の変速を実行すべきか否かを判断してすなわち自動変速部20の変速すべき変速段を判断して自動変速部20の自動変速制御を実行する。
ハイブリッド制御手段52は、変速機構10の前記無段変速状態すなわち差動部11の差動状態においてエンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速において、アクセルペダル操作量Accや車速Vから運転者の要求出力を算出し、運転者の要求出力と充電要求値から必要な駆動力を算出し、エンジン回転速度NEとトータル出力とを算出し、そのトータル出力とエンジン回転速度NEとに基づいて、エンジン出力を得るようにエンジン8を制御するとともに第1電動機M1の発電量を制御する。
ハイブリッド制御手段52は、その制御を燃費向上などのために自動変速部20の変速段を考慮して実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度NEと車速Vおよび自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、差動部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段52は無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立した予め記憶されたエンジン8の最適燃費率曲線に沿ってエンジン8が作動させられるように変速機構10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように差動部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内例えば13〜0.5の範囲内で制御する。
このとき、ハイブリッド制御手段52は、第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ58を通して蓄電装置60や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は第1電動機M1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ58を通して電気エネルギが第2電動機M2或いは第1電動機M1へ供給され、その第2電動機M2或いは第1電動機M1から伝達部材18へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機M2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。
また、ハイブリッド制御手段52は、エンジン8の停止状態であっても差動部11の電気的CVT機能によって電動機のみ例えば第2電動機M2のみを駆動力源として車両を発進および走行させるすなわちモータ発進およびモータ走行させることができる。特に、ハイブリッド制御手段52は、このモータ発進およびモータ走行時には、作動していないエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、第1電動機M1を空転させることで動力分配機構16の差動作用によりエンジン回転速度NEを略零すなわちエンジン回転速度NEを零或いは零に近い値に維持させられる。但し、ハイブリッド制御手段52は、エンジン8の停止状態で差動部11が有段変速状態(定変速状態)であっても第1電動機M1および/または第2電動機M2を作動させてモータ走行させることもできる。
図7は、車両の発進・走行のための駆動力源をエンジン8と第1、第2電動機M1、M2とで切り換えるための言い換えればエンジン走行とモータ走行とを切り換えるためのエンジン発進・走行領域とモータ発進・走行領域との境界線を有する予め記憶された関係であり、車速Vと駆動力関連値である出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された駆動力源切換線図(駆動力源マップ)の一例である。また、図7の実線に対して一点鎖線に示すようにヒステリシスが設けられている。この図7の駆動力源切換線図は例えば変速線図記憶手段56に予め記憶されている。このように、ハイブリッド制御手段52による前記モータ発進およびモータ走行は、図7から明らかなように一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる車両状態が比較的低出力トルクTOUT時或いは車速の比較的低車速時すなわち低負荷域で実行される。よって、車両発進時や軽負荷走行時には通常は上記モータ発進・走行がエンジン発進・走行に優先して実行される。
また、ハイブリッド制御手段52は、車両の停止状態又は低車速状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によってエンジン8の作動状態を維持させられる。例えば、車両停止時に蓄電装置60の充電状態SOCが低下して第1電動機M1による発電が必要となった場合には、エンジン8の動力により第1電動機M1が発電させられてその第1電動機M1の回転速度が引き上げられ、車速Vで一意的に決められる第2電動機M2の回転速度が車両停止状態により零(略零)となっても動力分配機構16の差動作用によってエンジン回転速度NEが自律回転可能な回転速度以上に維持される。さらに、ハイブリッド制御手段52は、前記モータ発進に替えてエンジン8を駆動力源として車両を発進させるすなわちエンジン発進させる場合には、第1電動機M1の発電による反力を制御することで動力分配機構16の差動作用により伝達部材18の回転速度を引き上げてエンジン発進を制御する。上述したように通常は前記モータ発進が優先して実行されるが、車両状態によってはこのエンジン発進制御も通常実行されるものである。
図5に戻り、増速側ギヤ段判定手段62は、変速機構10を有段変速状態とする際に切換クラッチC0および切換ブレーキB0のいずれを係合させるかを判定するために、例えば車両状態に基づいて変速線図記憶手段56に予め記憶された図6に示す変速線図に従って変速機構10の変速されるべき変速段が増速側ギヤ段例えば第5速ギヤ段であるか否かを判定する。
切換制御手段50は、例えば変速線図記憶手段56に予め記憶された前記図6の破線および二点鎖線に示す切換線図(切換マップ、関係)から車速Vおよび出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて変速機構10の切り換えるべき変速状態を判断してすなわち変速機構10を無段変速状態とする無段制御領域内であるか或いは変速機構10を有段変速状態とする有段制御領域内であるかを判定して、変速機構10を前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換える。
具体的には、切換制御手段50は有段変速制御領域内であると判定した場合は、ハイブリッド制御手段52に対してハイブリッド制御或いは無段変速制御を不許可すなわち禁止とする信号を出力するとともに、有段変速制御手段54に対しては、予め設定された有段変速時の変速制御を許可する。このときの有段変速制御手段54は、変速線図記憶手段56に予め記憶された例えば図6に示す変速線図に従って自動変速部20の自動変速制御を実行する。例えば変速線図記憶手段56に予め記憶された図2は、このときの変速制御において選択される油圧式摩擦係合装置すなわちC0、C1、C2、B0、B1、B2、B3の作動の組み合わせを示している。すなわち、変速機構10全体すなわち差動部11および自動変速部20が所謂有段式自動変速機として機能し、図2に示す係合表に従って変速段が達成される。
例えば、増速側ギヤ段判定手段62により第5速ギヤ段が判定される場合には、変速機構10全体として変速比が1.0より小さな増速側ギヤ段所謂オーバードライブギヤ段が得られるために切換制御手段50は差動部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が0.7の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を解放させ且つ切換ブレーキB0を係合させる指令を油圧制御回路42へ出力する。また、増速側ギヤ段判定手段62により第5速ギヤ段でないと判定される場合には、変速機構10全体として変速比が1.0以上の減速側ギヤ段が得られるために切換制御手段50は差動部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が1の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を係合させ且つ切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路42へ出力する。このように、切換制御手段50によって変速機構10が有段変速状態に切り換えられるとともに、その有段変速状態における2種類の変速段のいずれかとなるように選択的に切り換えられて、差動部11が副変速機として機能させられ、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、変速機構10全体が所謂有段式自動変速機として機能させられる。
しかし、切換制御手段50は、変速機構10を無段変速状態に切り換える無段変速制御領域内であると判定した場合は、変速機構10全体として無段変速状態が得られるために差動部11を無段変速状態として無段変速可能とするように切換クラッチC0および切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路42へ出力する。同時に、ハイブリッド制御手段52に対してハイブリッド制御を許可する信号を出力するとともに、有段変速制御手段54には、予め設定された無段変速時の変速段に固定する信号を出力するか、或いは変速線図記憶手段56に予め記憶された例えば図6に示す変速線図に従って自動変速部20を自動変速することを許可する信号を出力する。この場合、有段変速制御手段54により、図2の係合表内において切換クラッチC0および切換ブレーキB0の係合を除いた作動により自動変速が行われる。このように、切換制御手段50により無段変速状態に切り換えられた差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、適切な大きさの駆動力が得られると同時に、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって変速機構10全体として無段変速状態となりトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
ここで前記図6について詳述すると、図6は自動変速部20の変速判断の基となる変速線図記憶手段56に予め記憶された変速線図(関係)であり、車速Vと駆動力関連値である出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された変速線図(変速マップ)の一例である。図6の実線はアップシフト線であり一点鎖線はダウンシフト線である。また、図6の破線は切換制御手段50による有段制御領域と無段制御領域との判定のための判定車速V1および判定出力トルクT1を示している。つまり、図6の破線はハイブリッド車両の高速走行を判定するための予め設定された高速走行判定値である判定車速V1の連なりである高車速判定線と、ハイブリッド車両の駆動力に関連する駆動力関連値例えば自動変速部20の出力トルクTOUTが高出力となる高出力走行を判定するための予め設定された高出力走行判定値である判定出力トルクT1の連なりである高出力走行判定線とを示している。さらに、図6の破線に対して二点鎖線に示すように有段制御領域と無段制御領域との判定にヒステリシスが設けられている。つまり、この図6は判定車速V1および判定出力トルクT1を含む、車速Vと出力トルクTOUTとをパラメータとして切換制御手段50により有段制御領域と無段制御領域とのいずれであるかを領域判定するための予め記憶された切換線図(切換マップ、関係)である。なお、この切換線図を含めて変速マップとして変速線図記憶手段56に予め記憶されてもよい。また、この切換線図は判定車速V1および判定出力トルクT1の少なくとも1つを含むものであってもよいし、車速Vおよび出力トルクTOUTの何れかをパラメータとする予め記憶された切換線であってもよい。上記変速線図や切換線図等は、マップとしてではなく実際の車速Vと判定車速V1とを比較する判定式、出力トルクTOUTと判定出力トルクT1とを比較する判定式等として記憶されてもよい。
上記駆動力関連値とは、車両の駆動力に1対1に対応するパラメータであって、駆動輪38での駆動トルク或いは駆動力のみならず、例えば自動変速部20の出力トルクTOUT、エンジントルクTE、車両加速度や、例えばアクセル開度或いはスロットル開度(或いは吸入空気量、空燃比、燃料噴射量)とエンジン回転速度NEとに基づいて算出されるエンジントルクTEなどの実際値や、運転者のアクセルペダル操作量或いはスロットル開度に基づいて算出されるエンジントルクTEや要求駆動力等の推定値であってもよい。また、上記駆動トルクは出力トルクTOUT等からデフ比、駆動輪38の半径等を考慮して算出されてもよいし、例えばトルクセンサ等によって直接検出されてもよい。上記他の各トルク等も同様である。
また、例えば判定車速V1は、高速走行において変速機構10が無段変速状態とされるとかえって燃費が悪化するのを抑制するように、その高速走行において変速機構10が有段変速状態とされるように設定されている。また、判定トルクT1は、車両の高出力走行において第1電動機M1の反力トルクをエンジンの高出力域まで対応させないで第1電動機M1を小型化するために、例えば第1電動機M1からの電気エネルギの最大出力を小さくして配設可能とされた第1電動機M1の特性に応じて設定されることになる。
図8は、エンジン回転速度NEとエンジントルクTEとをパラメータとして切換制御手段50により有段制御領域と無段制御領域とのいずれであるかを領域判定するための境界線としてのエンジン出力線を有する例えば変速線図記憶手段56に予め記憶された切換線図(切換マップ、関係)である。切換制御手段50は、図6の切換線図に替えてこの図8の切換線図からエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとに基づいて、それらのエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとで表される車両状態が無段制御領域内であるか或いは有段制御領域内であるかを判定してもよい。また、この図8は図6の破線を作るための概念図でもある。言い換えれば、図6の破線は図8の関係図(マップ)に基づいて車速Vと出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標上に置き直された切換線でもある。
図6の関係に示されるように、出力トルクTOUTが予め設定された判定出力トルクT1以上の高トルク領域、或いは車速Vが予め設定された判定車速V1以上の高車速領域が、有段制御領域として設定されているので有段変速走行がエンジン8の比較的高トルクとなる高駆動トルク時、或いは車速の比較的高車速時において実行され、無段変速走行がエンジン8の比較的低トルクとなる低駆動トルク時、或いは車速の比較的低車速時すなわちエンジン8の常用出力域において実行されるようになっている。同様に、図8の関係に示されるように、エンジントルクTEが予め設定された所定値TE1以上の高トルク領域、エンジン回転速度NEが予め設定された所定値NE1以上の高回転領域、或いはそれらエンジントルクTEおよびエンジン回転速度NEから算出されるエンジン出力が所定以上の高出力領域が、有段制御領域として設定されているので、有段変速走行がエンジン8の比較的高トルク、比較的高回転速度、或いは比較的高出力時において実行され、無段変速走行がエンジン8の比較的低トルク、比較的低回転速度、或いは比較的低出力時すなわちエンジン8の常用出力域において実行されるようになっている。図8における有段制御領域と無段制御領域との間の境界線は、高車速判定値の連なりである高車速判定線および高出力走行判定値の連なりである高出力走行判定線に対応している。
これによって、例えば、車両の低中速走行および低中出力走行では、変速機構10が無段変速状態とされて車両の燃費性能が確保されるが、実際の車速Vが前記判定車速V1を越えるような高速走行では変速機構10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる場合に発生する動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されて燃費が向上させられる。また、出力トルクTOUTなどの前記駆動力関連値が判定トルクT1を越えるような高出力走行では変速機構10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる領域が車両の低中速走行および低中出力走行となって、第1電動機M1が発生すべき電気的エネルギ換言すれば第1電動機M1が伝える電気的エネルギの最大値を小さくできて第1電動機M1或いはそれを含む車両の駆動装置が一層小型化される。また、他の考え方として、この高出力走行においては燃費に対する要求より運転者の駆動力に対する要求が重視されるので、無段変速状態より有段変速状態(定変速状態)に切り換えられるのである。これによって、ユーザは、例えば図9に示すような有段自動変速走行におけるアップシフトに伴うエンジン回転速度NEの変化すなわち変速に伴うリズミカルなエンジン回転速度NEの変化が楽しめる。
図5に戻り、電動機発進判定手段80は、電動機発進領域判定手段82と電動機使用可否判定手段84とエンジン始動要否判定手段86を備え、車両発進に際してハイブリッド制御手段52にモータ発進させるか否かを以下の様に判定する。
電動機発進領域判定手段82は、車両発進に際して電動機例えば第2電動機を駆動力源とするモータ発進領域か否かを判定する。例えば、電動機発進領域判定手段82は図7に示す駆動力源切換線図から車速Vおよび出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて車両発進のための駆動力源に電動機のみが用いられるモータ発進領域内であるか否かを判定する。車両発進に際しては車速は略零であるので主に出力トルクTOUTに基づいて車両状態が判定される。例えば、車両の急発進時、登坂路発進時等のアクセル急踏込みや大アクセル操作量により要求される出力トルクTOUTがモータ発進領域を越える場合には、モータ発進領域内でないと判定される。
電動機使用可否判定手段84は、車両発進に際してハイブリッド制御手段52により差動部11が電気的CVTとして機能させられ第2電動機M2のみを駆動力源としてモータ発進させられるように電動機が使用可能か否かを、例えば第1、第2電動機M1、M2への通電状態、電動機M1、M2の回転速度等に基づいて電動機M1、M2に電力を供給する伝送路や電動機M1、M2自身が正常に作動可能か否かに基づいて判定する。すなわち、電動機使用可否判定手段84は電動機M1、M2およびそれら電動機M1、M2に関連する電気系が正常に作動するか否かを判定するものであり、電動機M1、M2およびそれら電動機M1、M2に関連する電気系の故障(フェール)を判定する電動機フェール判定手段としても機能するものでもある。
エンジン始動要否判定手段86は、車両発進に際してエンジン8を始動する必要があるか否かを、例えば、エンジン水温が定常走行時に比較して低いためにエンジンを作動させて暖気する必要があるか否か、蓄電装置60の充電状態SOCに基づいて第1電動機M1による発電が必要か否か、或いはエアコン等の補機のための駆動電流の不足やそれら補機をエンジン8により駆動する必要が生じたか否かに基づいて判定する。
そして、電動機発進判定手段80は、車両発進に際して第2電動機を駆動力源とするモータ発進領域であること、電動機が使用可能であること、およびエンジン8を始動する必要がないことが成立した場合には車両発進に際してハイブリッド制御手段52にモータ発進させると判定する。反対に、電動機発進判定手段80は、車両発進に際して第2電動機を駆動力源とするモータ発進領域でないこと、電動機が使用不能であること、およびエンジン8を始動する必要があることのいずれか1つでも成立した場合には車両発進に際してハイブリッド制御手段52にモータ発進させないと判定する、すなわちハイブリッド制御手段52によるモータ発進を禁止する。
エンジン発進判定手段88は、無段発進領域判定手段90を備え、ハイブリッド制御手段52によるモータ発進が禁止された場合にそのモータ発進に替えてハイブリッド制御手段52にエンジン8を駆動力源とするエンジン発進をさせるか否かを以下の様に判定する。
無段発進領域判定手段90は、ハイブリッド制御手段52により車両の停止状態に拘わらずエンジン8の作動状態が維持されるとともにエンジン発進されるために差動部11が電気的CVTとして機能させられる無段発進領域であるか否かを判定する。例えば、無段発進領域判定手段90は図6に示す切換線図から車速Vおよび出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて変速機構10を無段変速状態とする無段制御領域内であるか否かを判定する。
そして、エンジン発進判定手段88は、無段発進領域であればハイブリッド制御手段52にエンジン発進させると判定する。但し、エンジン発進判定手段88は、前記電動機使用可否判定手段84によって第1、第2電動機M1、M2およびそれら電動機M1、M2に関連する電気系の故障(フェール)が判定された場合には、たとえ無段発進領域であってもハイブリッド制御手段52により差動部11が電気的CVTとして機能させられないので、ハイブリッド制御手段52にエンジン発進させないと判定する。
前記電動機発進判定手段80および前記エンジン発進判定手段88は、ハイブリッド制御手段52による通常のモータ発進やエンジン発進が可能か否かを判定するものであり、通常のモータ発進やエンジン発進において第1、第2電動機M1、M2およびそれら電動機M1、M2に関連する電気系の故障(フェール)や無段発進領域でない場合等により、適切な発進性能が確保されない場合或いは車両発進が困難な場合に、適切な発進性能が確保されるように通常のモータ発進制御やエンジン発進制御に替えて他の車両発進制御を実行させるためのものでもある。適切な発進性能とは、車両発進が可能となることはもちろんのこと、例えば運転者のアクセル操作量Accに基づく車両発進時の要求駆動トルクを得ることができる発進性能である。
スリップ発進制御手段92は、C0スリップ可否判定手段94とC0スリップ制御手段96とB0スリップ制御手段98とギヤ比列変更手段100とを備え、エンジン8を駆動力源とするエンジン発進時には切換クラッチC0または切換ブレーキB0をスリップ係合状態とする。具体的には、第1、第2電動機M1、M2およびそれら電動機M1、M2に関連する電気系の故障(フェール)発生時、或いは車両状態が変速機構10を無段変速状態とする無段制御領域内でない場合に適切な発進性能が確保されるように、例えば前記電動機発進判定手段80および前記エンジン発進判定手段88によりハイブリッド制御手段52による通常のモータ発進やエンジン発進が可能でないと判定された場合に適切な発進性能が確保されるように、スリップ発進制御手段92は、それら通常のモータ発進やエンジン発進に替えて、エンジン8の作動を維持するとともに切換クラッチC0または切換ブレーキB0をスリップ係合状態とするフリクションスタートによるエンジン発進を実行する。
言い換えれば、スリップ発進制御手段92は、第1電動機M1または第2電動機M2を駆動力源とすることができず且つ差動部(無段変速部)11を電気的な無段変速機として作動させられないときには、エンジン8を駆動力源とし、切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0をスリップ係合状態として車両を発進させる。
C0スリップ可否判定手段94は、車両発進に際して切換クラッチC0がスリップ制御可能か否かを判定する。車両停止状態において無段発進領域判定手段90により無段発進領域でないと判定された場合に例えば動力分配機構16が非差動状態とされると、駆動輪38の回転速度で一意的に決められる動力分配機構16の第3回転要素RE3(伝達部材18)の回転速度が略零とされそれに引きずられるようにしてエンジン8の作動が維持されない。そこで、無段発進領域でないことに基づいて差動部11が非差動状態とされて電気的CVTとして機能させられない場合であってもエンジン作動が維持されるようにすなわちエンジンストールしないように、C0スリップ可否判定手段94は切換制御手段50により切換クラッチC0をスリップ制御可能か否かを判定する。
例えば、C0スリップ可否判定手段94は、切換制御手段50の指令により切換クラッチC0の油圧アクチュエータを制御する油圧制御回路42に備えられた例えば大流量のリニヤソレノイド弁等の制御系統すなわち切換クラッチC0の解放と係合との切換えを制御する油圧制御系が正常に作動しているか否かに基づいて切換クラッチC0がスリップ制御可能か否かを判定する。また、同時にC0スリップ可否判定手段94は差動部11が電気的CVTとして機能させられない場合であっても、切換制御手段50により切換クラッチC0がスリップ制御させられるか否かを判定するので、C0スリップ制御によりエンジン発進するフリクションスタートすなわちC0スリップ発進が可能か否かを判定するC0スリップ発進可否判定手段としても機能する。
C0スリップ制御手段96は、ハイブリッド制御手段52による通常のエンジン発進が実行されない場合に、C0スリップ可否判定手段94により切換クラッチC0がスリップ制御可能であると判定されると、車両停止状態でエンジン作動を維持するとともに車両をエンジン発進するために切換制御手段50による切換クラッチC0のスリップ制御を実行させる。切換制御手段50はC0スリップ発進のために切換クラッチC0をスリップ係合させその後切換クラッチC0を完全係合させる指令を油圧制御回路42へ出力する。この切換クラッチC0のスリップ制御が行われると、車両停止状態で動力分配機構16が非差動状態とされないのでエンジン8の作動が維持される。また、電気系の故障(フェール)或いは無段制御領域内でないことに基づいて差動部11が電気的CVTとして機能させられない場合に切換クラッチC0がスリップ制御されると、動力分配機構16が徐々に一体回転させられてエンジン8の回転速度NE(動力)が徐々に伝達部材18に伝達されてエンストすることなくエンジン発進が可能となる。
B0スリップ制御手段98は、ハイブリッド制御手段52によるハイブリッド制御手段52による通常のエンジン発進が実行されない場合に、C0スリップ可否判定手段94によりC0スリップ制御が可能でないと判定されると、切換クラッチC0のスリップ制御に替えて車両停止状態でエンジン作動を維持するとともに車両をエンジン発進するために切換制御手段50による切換ブレーキB0のスリップ制御を実行させる。切換制御手段50はB0スリップ制御によりエンジン発進するフリクションスタートすなわちB0スリップ発進のために切換ブレーキB0をスリップ係合させその後切換ブレーキB0を完全係合させる指令を油圧制御回路42へ出力する。この切換ブレーキB0のスリップ制御が行われると、車両停止状態で動力分配機構16が非差動状態とされないのでエンジン8の作動が維持される。また、電気系の故障(フェール)或いは無段制御領域内でないことに基づいて差動部11が電気的CVTとして機能させられない場合に切換ブレーキB0がスリップ制御されると、動力分配機構16の第2回転要素RE2(第1サンギヤS1)の回転速度が徐々に回転停止させられてエンジン8の回転速度NE(動力)が徐々に伝達部材18に伝達されてエンストすることなくエンジン発進が可能となる。
このように、C0スリップ制御手段96およびB0スリップ制御手段98のいずれかによって電気系の故障(フェール)時或いは無段制御領域内でない場合のエンジン発進が可能となるが、動力分配機構16を徐々に一体回転させるC0スリップ制御の方が動力分配機構16を徐々に増速機構として機能させるB0スリップ制御に比較して、自動変速部20への入力トルクすなわち駆動トルクが低下することがないので車両発進時に得られる駆動トルクに関しては有利である。また、B0スリップ制御はスリップ量が多くなりスリップ制御が難しい反面、C0スリップ制御は切換クラッチC0の分担トルクが小さいのでスリップ制御性が有利であり切換クラッチC0の耐久性が優る。よって、C0スリップ可否判定手段94はC0スリップ発進を優先するために切換クラッチC0をスリップ制御可能か否かを判定するのである。
ギヤ比列変更手段100は、B0スリップ制御手段98によりB0スリップ発進が実行された場合に車両発進後の車両走行における変速制御に用いられるギヤ比列すなわち各変速段の係合装置の係合作動の組合せをC0スリップ発進が実行される場合のギヤ比列から変更する。図10は、例えば変速線図記憶手段56に予め記憶されたB0スリップ発進時の係合作動表であって、図2の係合作動表に相当する図である。図10に示すように車両発進に切換ブレーキB0を用いたので車両発進後の車両走行における各変速段も切換クラッチC0を用いずに切換ブレーキB0を用いた係合作動の組合せとなっている。要するに、C0スリップ発進がB0スリップ発進に優先されるすなわちC0スリップ発進が基本とされるので例えば図2の係合作動表が基本とされるが、B0スリップ発進が実行された場合にはギヤ比列変更手段100は例えば図2の係合作動表を図10の係合作動表に変更する。そして、B0スリップ発進後の車両走行において切換制御手段50は切換ブレーキB0を係合するとともに有段変速制御手段54は図10の係合作動表に従って変速機構10の変速制御を実行する。
図11は手動変速操作装置であるシフト操作装置46の一例を示す図である。シフト操作装置46は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフトレバー48を備えている。そのシフトレバー48は、例えば図2の係合作動表に示されるようにクラッチC1およびクラッチC2のいずれもが係合されないような変速機構10内つまり自動変速部20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、変速機構10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とする中立ポジション「N(ニュートラル)」、前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、または前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。上記「P」乃至「M」ポジションに示す各シフトポジションは、「P」ポジションおよび「N」ポジションは車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであり、「R」ポジション、「D」ポジションおよび「M」ポジションは車両を走行させるときに選択される走行ポジションである。また、「D」ポジションは最高速走行ポジションでもあり、「M」ポジションにおける例えば「4」レンジ乃至「L」レンジはエンジンブレーキ効果が得られるエンジンブレーキレンジでもある。
上記「M」ポジションは、例えば車両の前後方向において上記「D」ポジションと同じ位置において車両の幅方向に隣接して設けられており、シフトレバー48が「M」ポジションへ操作されることにより、「D」レンジ乃至「L」レンジの何れかがシフトレバー48の操作に応じて変更される。具体的には、この「M」ポジションには、車両の前後方向にアップシフト位置「+」、およびダウンシフト位置「−」が設けられており、シフトレバー48がそれ等のアップシフト位置「+」またはダウンシフト位置「−」へ操作されると、「D」レンジ乃至「L」レンジの何れかへ切り換えられる。例えば、「M」ポジションにおける「D」レンジ乃至「L」レンジの5つの変速レンジは、変速機構10の自動変速制御が可能なトータル変速比γTの変化範囲における高速側(変速比が最小側)のトータル変速比γTが異なる複数種類の変速レンジであり、また自動変速部20の変速が可能な最高速側変速段が異なるように変速段(ギヤ段)の変速範囲を制限するものである。また、シフトレバー48はスプリング等の付勢手段により上記アップシフト位置「+」およびダウンシフト位置「−」から、「M」ポジションへ自動的に戻されるようになっている。また、シフト操作装置46にはシフトレバー48の各シフトポジションを検出するためのシフトポジションセンサ49が備えられており、そのシフトレバー48のシフトポジションを表す信号PSHや「M」ポジションにおける操作回数等を電子制御装置40へ出力する。
例えば、「D」ポジションがシフトレバー48の操作により選択された場合には、図6に示す予め記憶された切換マップに基づいて切換制御手段50により変速機構10の変速状態の自動切換制御が実行され、ハイブリッド制御手段52により動力分配機構16の無段変速制御が実行され、有段変速制御手段54により自動変速部20の自動変速制御が実行される。例えば、変速機構10が有段変速状態に切り換えられる有段変速走行時には変速機構10が例えば図2に示すような第1速ギヤ段乃至第5速ギヤ段の範囲で自動変速制御され、或いは変速機構10が無段変速状態に切り換えられる無段変速走行時には変速機構10が動力分配機構16の無段的な変速比幅と自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の範囲で自動変速制御される各ギヤ段とで得られる変速機構10の変速可能なトータル変速比γTの変化範囲内で自動変速制御される。この「D」ポジションは変速機構10の自動変速制御が実行される制御様式である自動変速走行モード(自動モード)を選択するシフトポジションでもある。
或いは、「M」ポジションがシフトレバー48の操作により選択された場合には、変速レンジの最高速側変速段或いは変速比を越えないように、切換制御手段50、ハイブリッド制御手段52、および有段変速制御手段54により変速機構10の各変速レンジで変速可能なトータル変速比γTの範囲で自動変速制御される。例えば、変速機構10が有段変速状態に切り換えられる有段変速走行時には変速機構10が各変速レンジで変速機構10が変速可能なトータル変速比γTの範囲で自動変速制御され、或いは変速機構10が無段変速状態に切り換えられる無段変速走行時には変速機構10が動力分配機構16の無段的な変速比幅と各変速レンジに応じた自動変速部20の変速可能な変速段の範囲で自動変速制御される各ギヤ段とで得られる変速機構10の各変速レンジで変速可能なトータル変速比γTの範囲で自動変速制御される。この「M」ポジションは変速機構10の手動変速制御が実行される制御様式である手動変速走行モード(手動モード)を選択するシフトポジションでもある。
図12は、電子制御装置40の制御作動の要部すなわち非差動状態へ切換可能に構成される変速機構10における車両発進制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
先ず、電動機発進判定手段80に対応するステップ(以下、ステップを省略する)SA1において、車両発進に際して電動機例えば第2電動機を駆動力源とするモータ発進領域か否かが、例えば図7に示す駆動力源切換線図から車速Vおよび出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて車両発進のための駆動力源に電動機のみが用いられるモータ発進領域内であるか否かにで判定される。同時に、ハイブリッド制御手段52により差動部11が電気的CVTとして機能させられ第2電動機M2のみを駆動力源としてモータ発進させられるように電動機が使用可能か否かが、例えば第1、第2電動機M1、M2への通電状態、電動機M1、M2の回転速度等に基づいて電動機M1、M2に電力を供給する伝送路や電動機M1、M2自身すなわち、電動機M1、M2およびそれら電動機M1、M2に関連する電気系が正常に作動可能か否かに基づいて判定される。さらに、エンジン8を始動する必要があるか否かが、例えば、エンジン8の暖気要求があったか否か、蓄電装置60の充電状態SOCに基づいて第1電動機M1による発電が必要か否か、或いはエアコン等の補機のための駆動電流の不足やそれら補機をエンジン8により駆動する必要が生じたか否かに基づいて判定される。
上記SA1の判断が肯定される場合すなわち車両発進に際して第2電動機を駆動力源とするモータ発進領域であること、電動機が使用可能であること、およびエンジン8を始動する必要がないことが成立する場合はハイブリッド制御手段52に対応するSA8において、エンジン8の停止状態で電動機のみ例えば第2電動機M2のみを駆動力源としてモータ発進させられる。このモータ発進は動力分配機構16の差動状態と非差動状態とに拘わらず実行可能であるが、ここでは作動していないエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、動力分配機構16を差動状態としてエンジン回転速度NEを略零に維持させる。そこで、切換制御手段50に対応するSA9において、動力分配機構16が非差動状態であるならば動力分配機構16を差動状態とするように切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0を解放させる指令が油圧制御回路42へ出力される。
上記SA1の判断が否定される場合すなわち車両発進に際して第2電動機を駆動力源とするモータ発進領域でないこと、電動機が使用不能であること、およびエンジン8を始動する必要があることのいずれか1つでも成立した場合はエンジン発進判定手段88に対応するSA2において、エンジン発進させるために差動部11が電気的CVTとして機能させられる無段発進領域であるか否かが、例えば図6に示す切換線図から車速Vおよび出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて変速機構10を無段変速状態とする無段制御領域内であるか否かで判定される。同時に、SA1で判定された電動機M1、M2およびそれら電動機M1、M2に関連する電気系が正常に作動可能か否かの判定結果がこのSA2でも反映される。つまり、SA1で電気系の故障(フェール)が判定された場合には、たとえ無段発進領域内と判定されてもこのSA2の判断は否定される。
上記SA2の判断が肯定される場合はハイブリッド制御手段52に対応するSA7において、差動状態とされている差動部11の電気的CVT機能によってエンジン8の作動状態が維持されるとともに、エンジン8を駆動力源とするエンジン発進が行われる。
前記SA2の判断が否定される場合はC0スリップ可否判定手段94に対応するSA3において、C0スリップ発進が可能か否かすなわち切換制御手段50により切換クラッチC0がスリップ制御可能か否かが、例えば切換制御手段50の指令により切換クラッチC0の油圧アクチュエータを制御する油圧制御回路42に備えられた例えば大流量のリニヤソレノイド弁等の制御系統が正常に作動しているか否かに基づいて判定される。このSA3の判断が肯定される場合はC0スリップ制御手段96に対応するSA6において、車両停止状態でエンジン作動が維持されるとともに車両をエンジン発進するために切換制御手段50による切換クラッチC0のスリップ制御が実行させられる。そして、切換制御手段50により切換クラッチC0をスリップ係合させその後切換クラッチC0を完全係合させる指令が油圧制御回路42へ出力されてC0スリップ発進が実行される。
上記SA3の判断が否定される場合はB0スリップ制御手段98に対応するSA4において、車両停止状態でエンジン作動が維持されるとともに車両をエンジン発進するために切換制御手段50による切換ブレーキB0のスリップ制御が実行させられる。そして、切換制御手段50により切換ブレーキB0をスリップ係合させその後切換ブレーキB0を完全係合させる指令が油圧制御回路42へ出力されてB0スリップ発進が実行される。続く、ギヤ比列変更手段100に対応するSA5において、B0スリップ発進に優先されるC0スリップ発進時のギヤ比列例えば図2の係合作動表を、B0スリップ発進が実行された後の車両走行におけるギヤ比列例えば図10の係合作動表に変更する。
上述のように、本実施例によれば、切換クラッチC0および切換ブレーキB0を備えることで、差動作用が作動可能な差動状態とその差動作用が不能な非差動状態とに選択的に切り換えられるように構成された動力分配機構16における車両のエンジン8による発進時には、スリップ発進制御手段92により切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0がスリップ係合状態とされることで動力分配機構16が差動状態から非差動状態へ切り換えられる過度状態とされ機械的な動力伝達が可能な状態へ徐々に変化させられる。この結果、第1電動機M1や第2電動機M2の作動に関係なくすなわち差動部11が電気的CVTとして機能させられるか否かに拘わらず、C0スリップ制御或いはB0スリップ制御によりエンジン8を駆動力源とするフリクションスタートが可能となり、例えばハイブリッド制御手段52による通常のモータ発進やエンジン発進が実行される車両発進時に用いられる第1電動機M1や第2電動機M2、またはそれらに関連する電気系の機能低下が発生した時でも発進性能が確保される。
言い換えれば、第1電動機M1または第2電動機M2を駆動力源とすることができず且つ差動部(無段変速部)11を電気的な無段変速機として作動できないときには、スリップ発進制御手段によりエンジン8が駆動力源とされ、切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0がスリップ係合状態とされて車両が発進させられる。この結果、例えばハイブリッド制御手段52による通常のモータ発進やエンジン発進が実行される車両発進時に用いられる第1電動機M1や第2電動機M2、またはそれらに関連する電気系の機能低下が発生した時でも発進性能が確保される。
また、本実施例によれば、動力分配機構16は切換ブレーキB0の係合時には増速機構となるものであり、切換クラッチC0の係合時には動力分配機構16の各回転要素を共に一体回転させるものであるので、切換クラッチC0の係合により動力分配機構16が非差動状態とされた場合の方が伝達部材18から出力されるトルクである自動変速部20への入力トルクすなわち駆動トルクが切換ブレーキB0の係合時に比較して大きくされる。つまり、C0スリップ制御の方がB0スリップ制御に比較して、車両発進時により大きな駆動輪トルクが得られて発進性能が確保される。
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
本実施例も前述の実施例1と同様に車両状態に応じた車両発進制御を実行するものである。実施例1は通常のモータ発進やエンジン発進以外の発進制御方法としてC0スリップ発進制御およびB0スリップ発進制御を実行するものであったが、本実施例は通常のモータ発進やエンジン発進以外の発進制御方法として自動変速部20の第1クラッチC1または第2クラッチC2をスリップ制御してフリクションスタートを実行するものである。
図13は、電子制御装置40による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図であり、図5の機能ブロック線図に相当する図である。この図13は図5のスリップ発進制御手段92に替えてスリップ発進制御手段102が備えられていることを除けばその他は同じである。
スリップ発進制御手段102は、シフトポジション判定手段104とC1/C2スリップ可否判定手段106と差動部ロック制御手段108とC1/C2スリップ制御手段110とを備え、エンジン8を駆動力源とするエンジン発進時には切換クラッチC0または切換ブレーキB0を係合させて動力分配機構16を非差動状態とすると共に、第1クラッチC1または第2クラッチC2をスリップをスリップ係合状態とする。具体的には、第1、第2電動機M1、M2およびそれら電動機M1、M2に関連する電気系の故障(フェール)発生時、或いは車両状態が変速機構10を無段変速状態とする無段制御領域内でない場合に適切な発進性能が確保されるように、例えば前記電動機発進判定手段80および前記エンジン発進判定手段88によりハイブリッド制御手段52による通常のモータ発進やエンジン発進が可能でないと判定された場合に適切な発進性能が確保されるように、スリップ発進制御手段102は、それら通常のモータ発進やエンジン発進に替えて、エンジン8の作動を維持するとともに第1クラッチC1または第2クラッチC2をスリップ係合状態とするフリクションスタートによるエンジン発進を実行する。
言い換えれば、スリップ発進制御手段102は、第1電動機M1または第2電動機M2を駆動力源とすることができず且つ差動部(無段変速部)11を電気的な無段変速機として作動させられないときには、切換クラッチC0または切換ブレーキB0を係合させて動力分配機構16を非差動状態とすると共に、エンジン8を駆動力源とし、第1クラッチC1または第2クラッチC2をスリップ係合状態として車両を発進させる。
シフトポジション判定手段104は、シフトポジションセンサ49から出力される前記信号PSHに基づいてシフトレバー48がいずれのポジションへ操作されたかを判定する。例えば、シフトポジション判定手段104はシフトレバー48のシフトポジションが「D」ポジション或いは「M」ポジションであるか否かに基づいて前進走行が選択されたことを判定し、「R」ポジションであるか否かに基づいて後進走行が選択されたことを判定する前後進走行判定手段としても機能する。
C1/C2スリップ可否判定手段106は、車両発進に際して第1クラッチC1または第2クラッチC2がスリップ制御可能か否かを判定する。車両停止状態において無段発進領域判定手段90により無段発進領域でないと判定された場合に例えば動力分配機構16が非差動状態とされると、駆動輪38の回転速度で一意的に決められる動力分配機構16の第3回転要素RE3(伝達部材18)の回転速度が略零とされそれに引きずられるようにしてエンジン8の作動が維持されない。そこで、無段発進領域でないことに基づいて差動部11が非差動状態とされて電気的CVTとして機能させられない場合であってもエンジン作動が維持されるようにすなわちエンジンストールしないように、C1/C2スリップ可否判定手段106は、差動部11と駆動輪38との間の動力伝達経路を断接可能に切り換えられる第2係合装置としての第1クラッチC1または第2クラッチC2を有段変速制御手段54によりスリップ制御可能か否かを判定する。
例えば、C1/C2スリップ可否判定手段106は、有段変速制御手段54の指令により第1クラッチC1または第2クラッチC2の油圧アクチュエータを制御する油圧制御回路42に備えられた例えば大流量のリニヤソレノイド弁等の制御系統すなわち第1クラッチC1または第2クラッチC2の解放と係合との切換えを制御する油圧制御系が正常に作動しているか否かに基づいて第1クラッチC1または第2クラッチC2がスリップ制御可能か否かを判定する。
また、有段変速制御手段54により自動変速部20が図2の係合作動表に従って各ギヤ段が成立させられる場合にはその図2からも明らかなように、前進走行時には第1クラッチC1により動力伝達経路が断接可能とされ、後進走行時には第2クラッチC2により動力伝達経路が断接可能とされる。よって、C1/C2スリップ可否判定手段106は、シフトポジション判定手段104による前進走行判定時には第1クラッチC1をスリップ制御可能か否かを判定し、シフトポジション判定手段104による後進走行判定時には第2クラッチC2をスリップ制御可能か否かを判定する。また、同時にC1/C2スリップ可否判定手段106は差動部11が電気的CVTとして機能させられない場合であっても、有段変速制御手段54により第1クラッチC1または第2クラッチC2がスリップ制御させられるか否かを判定するので、C1スリップ制御またはC2スリップ制御によりエンジン発進するフリクションスタートすなわちC1スリップ発進またはC2スリップ発進が可能か否かを判定するC1/C2スリップ発進可否判定手段としても機能する。
差動部ロック制御手段108は、車両発進に際して差動部11が電気的CVTとして機能させられないときにC1/C2スリップ可否判定手段106により第1クラッチC1または第2クラッチC2をスリップ制御可能と判定された場合には、無段変速部としての差動部11が非差動状態(ロック状態)とされてもエンジン8の作動が維持され得るので、差動部11の機械的な動力伝達が可能とされるように切換制御手段50によって切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0を係合制御させる。このとき、切換クラッチC0および切換ブレーキB0のいずれの係合による差動部11の非差動状態であってもよいが、動力分配機構16を一体回転させるC0係合制御の方が動力分配機構16を増速機構として機能させるB0係合制御に比較して、自動変速部20への入力トルクすなわち駆動トルクがより大きくなるので車両発進時に得られる駆動トルクに関しては有利である。よって本実施例では、差動部ロック制御手段108は差動部11の非差動状態を切換クラッチC0の係合によるものとする。
C1/C2スリップ制御手段110は、ハイブリッド制御手段52による通常のエンジン発進が実行されない場合に、C1/C2スリップ可否判定手段106により第1クラッチC1または第2クラッチC2がスリップ制御可能であると判定されると、車両停止状態でエンジン作動が維持されるとともに車両をエンジン発進するために有段変速制御手段54による第1クラッチC1または第2クラッチC2のスリップ制御を実行させる。有段変速制御手段54はC1スリップ発進またはC2スリップ発進させるためにスリップ制御可能と判定された第1クラッチC1または第2クラッチC2をスリップ係合させその後第1クラッチC1または第2クラッチC2を完全係合させる指令を油圧制御回路42へ出力する。この第1クラッチC1または第2クラッチC2のスリップ制御が行われると、電気系の故障(フェール)或いは無段制御領域内でないことに基づいて車両停止状態で動力分配機構16が非差動状態とされてもエンジン8の作動が維持される。また、動力分配機構16が非差動状態とされて第1クラッチC1または第2クラッチC2がスリップ制御されると、エンジン8の回転速度NE(動力)が伝達部材18に伝達されるとともに第1クラッチC1または第2クラッチC2を介して徐々に駆動輪38に伝達されてエンストすることなくエンジン発進が可能となる。例えば、C1/C2スリップ制御手段110は、シフトポジション判定手段104による前進走行判定時には有段変速制御手段54によって第1速ギヤ段を成立させる過程でC1スリップ発進制御を実行させ、シフトポジション判定手段104による後進走行判定時には有段変速制御手段54によって後進ギヤ段を成立させる過程でC2スリップ発進制御を実行させる。
図14は、電子制御装置40の制御作動の要部すなわち非差動状態へ切換可能に構成される変速機構10における車両発進制御作動を説明するフローチャートであって、図12のフローチャートに相当する図であり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
先ず、電動機発進判定手段80に対応するステップ(以下、ステップを省略する)SB1において、車両発進に際して電動機例えば第2電動機を駆動力源とするモータ発進領域か否かが、例えば図7に示す駆動力源切換線図から車速Vおよび出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて車両発進のための駆動力源に電動機のみが用いられるモータ発進領域内であるか否かにで判定される。同時に、ハイブリッド制御手段52により差動部11が電気的CVTとして機能させられ第2電動機M2のみを駆動力源としてモータ発進させられるように電動機が使用可能か否かが、例えば第1、第2電動機M1、M2への通電状態、電動機M1、M2の回転速度等に基づいて電動機M1、M2に電力を供給する伝送路や電動機M1、M2自身すなわち、電動機M1、M2およびそれら電動機M1、M2に関連する電気系が正常に作動可能か否かに基づいて判定される。さらに、エンジン8を始動する必要があるか否かが、例えば、エンジン8の暖気要求があったか否か、蓄電装置60の充電状態SOCに基づいて第1電動機M1による発電が必要か否か、或いはエアコン等の補機のための駆動電流の不足やそれら補機をエンジン8により駆動する必要が生じたか否かに基づいて判定される。
上記SB1の判断が肯定される場合すなわち車両発進に際して第2電動機を駆動力源とするモータ発進領域であること、電動機が使用可能であること、およびエンジン8を始動する必要がないことが成立する場合はハイブリッド制御手段52に対応するSB7において、エンジン8の停止状態で電動機のみ例えば第2電動機M2のみを駆動力源としてモータ発進させられる。このモータ発進は動力分配機構16の差動状態と非差動状態とに拘わらず実行可能であるが、ここでは作動していないエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、動力分配機構16を差動状態としてエンジン回転速度NEを略零に維持させる。そこで、切換制御手段50に対応するSB8において、動力分配機構16が非差動状態であるならば動力分配機構16を差動状態とするように切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0を解放させる指令が油圧制御回路42へ出力される。
上記SB1の判断が否定される場合すなわち車両発進に際して第2電動機を駆動力源とするモータ発進領域でないこと、電動機が使用不能であること、およびエンジン8を始動する必要があることのいずれか1つでも成立した場合はエンジン発進判定手段88に対応するSB2において、エンジン発進させるために差動部11が電気的CVTとして機能させられる無段発進領域であるか否かが、例えば図6に示す切換線図から車速Vおよび出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて変速機構10を無段変速状態とする無段制御領域内であるか否かで判定される。同時に、SB1で判定された電動機M1、M2およびそれら電動機M1、M2に関連する電気系が正常に作動可能か否かの判定結果がこのSB2でも反映される。つまり、SB1で電気系の故障(フェール)が判定された場合には、たとえ無段発進領域内と判定されてもこのSB2の判断は否定される。
上記SB2の判断が肯定される場合はハイブリッド制御手段52に対応するSB6において、差動状態とされている差動部11の電気的CVT機能によってエンジン8の作動状態が維持させられるとともに、エンジン8を駆動力源としてエンジン発進させられる。
前記SB2の判断が否定される場合はシフトポジション判定手段104およびC1/C2スリップ可否判定手段106に対応するSB3において、シフトポジションセンサ49から出力される信号PSHに基づいて前進走行が選択されたと判定された場合にはC1スリップ発進が可能か否かすなわち有段変速制御手段54により第1クラッチC1がスリップ制御可能か否かが、例えば有段変速制御手段54の指令により第1クラッチC1の油圧アクチュエータを制御する油圧制御回路42に備えられた例えば大流量のリニヤソレノイド弁等の制御系統が正常に作動しているか否かに基づいて判定される。或いは、後進走行が選択されたと判定された場合には、同様に、C2スリップ発進が可能か否かすなわち有段変速制御手段54により第2クラッチC2がスリップ制御可能か否かが判定される。
上記SB3の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが、肯定される場合は差動部ロック制御手段108に対応するSB4において、無段変速部としての差動部11を非差動状態(ロック状態)として機械的な動力伝達が可能とされるように切換制御手段50によって切換クラッチC0を係合制御させる。続く、C1/C2スリップ制御手段110に対応するSB5において、車両停止状態でエンジン作動が維持されるとともに車両をエンジン発進するために、前進走行の場合には有段変速制御手段54による第1クラッチC1のスリップ制御が実行させられる。そして、有段変速制御手段54により第1クラッチC1をスリップ係合させその後第1クラッチC1を完全係合させる指令が油圧制御回路42へ出力されてC1スリップ発進が実行される。或いは、後進走行の場合には、同様に、有段変速制御手段54による第2クラッチC2のスリップ制御が実行させられる。そして、有段変速制御手段54により第2クラッチC2をスリップ係合させその後第2クラッチC2を完全係合させる指令が油圧制御回路42へ出力されてC2スリップ発進が実行される。
上述のように、本実施例によれば、切換クラッチC0および切換ブレーキB0を備えることで、差動作用が作動可能な差動状態とその差動作用が不能な非差動状態とに選択的に切り換えられるように構成された動力分配機構16における車両のエンジン8による発進時には、スリップ発進制御手段102により切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0が係合されて動力分配機構16が非差動状態とされることで伝達部材18へ機械的な動力伝達が可能とされると共に、伝達部材18と駆動輪38との間に設けられた第1クラッチC1または第2クラッチC2がスリップ係合状態とされることで伝達部材18へ伝達されたエンジン動力によりフリクションスタートが可能となる。この結果、第1電動機M1や第2電動機M2の作動に関係なくエンジン8を駆動力源とするフリクションスタートが可能となり、例えば通常車両発進時に用いられる第1電動機M1や第2電動機M2、またはそれらに関連する電気系の機能低下が発生した時でも発進性能が確保される。
言い換えれば、第1電動機M1または第2電動機M2を駆動力源とすることができず且つ差動部(無段変速部)11を電気的な無段変速機として作動できないときには、スリップ発進制御手段により切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0が係合されて動力分配機構16が非差動状態とされることで伝達部材18へ機械的な動力伝達が可能とされると共に、エンジン8が駆動力源とされ、伝達部材18と駆動輪38との間に設けられた第1クラッチC1または第2クラッチC2がスリップ係合状態とされて車両が発進させられる。この結果、例えばハイブリッド制御手段52による通常のモータ発進やエンジン発進が実行される車両発進時に用いられる第1電動機M1や第2電動機M2、またはそれらに関連する電気系の機能低下が発生した時でも発進性能が確保される。
また、本実施例によれば、動力分配機構16は切換ブレーキB0の係合時には増速機構となるものであり、切換クラッチC0の係合時には動力分配機構16の各回転要素を共に一体回転させるものであるので、切換クラッチC0の係合により動力分配機構16が非差動状態とされた場合の方が伝達部材18から出力されるトルクである自動変速部20への入力トルクすなわち駆動トルクが切換ブレーキB0の係合時に比較して大きくされる。つまり、C1スリップ発進時またはC2スリップ発進時には、動力分配機構16を切換クラッチC0の係合による非差動状態とした方が車両発進時により大きな駆動輪トルクが得られて発進性能が確保される。
また、本実施例によれば、伝達部材18と駆動輪38との間の動力伝達経路に自動変速機20をさらに備え、第1クラッチC1または第2クラッチC2は自動変速機20の変速段を成立させるために用いられる係合装置であるので、変速機構10は自動変速機20の変速比を利用することによって駆動力が幅広く得られるようになるとともに、自動変速機20内の係合装置をフリクションスタートの際に用いる係合装置として利用できる。