JP4191366B2 - 耐熱プラスチック光ファイバケーブル - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は自動車内ケーブル、家庭内ケーブル、工場配線、光電センサ用ケーブルとして利用できる、耐熱性に優れたプラスチック光ファイバ及びケーブルを提供する。
【0002】
【従来の技術】
近年、通信分野において様々なプラスチック光ファイバの開発が行われている。例えば、特公昭63−67164号公報には、ビニリデンフロライド単独重合体、或いはビニリデンフロライドを主成分とする共重合体とポリメチルメタクリレート系共重合体とからなる樹脂組成物を用いて鞘層を構成したプラスチック光ファイバが開示されている。また、本発明者は、ビニリデンフロライドを主成分とする共重合体とメチルメタクリレートを主成分とする樹脂からなる樹脂組成物を用いて第1層目の鞘層を形成し、第2層目の鞘層を該第1層目の鞘層を構成する樹脂組成物より屈折率の低いビニリデンフロライドを主成分とする樹脂を用いて形成したプラスチック光ファイバを先に特開平9−243836号に提案した。さらに、本発明者は、第2鞘層を構成する樹脂として、ビニリデンフロライド成分30〜92モル%、テトラフロロエチレン成分0〜55モル%、ヘキサフロロプロペン成分8〜25モル%からなり、屈折率が1.35〜1.38である樹脂を用いることを特開平11−101915号に提案した。また、被覆材がナイロン12であることも同公報に提案している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
近年、プラスチック光ファイバの高速化が進み、それに伴うLEDの発熱の問題から、100〜105℃程度の高温条件で長期間の使用に耐えるプラスチック光ファイバが要求されてきた。合わせて、プラスチック光ファイバの端末の処理方法においても、従来はファイバの先端部を熱板に押し当てて膨大化せしめ、ファイバがコネクターのフェルールから引っ込む現象を防いでいたが、近年では、当該処理が省略されるようになった。そのため、ファイバが使用中熱によって縮み被覆の中に入り込む(以下、「ピストニング」と呼ぶ)程度を極端に小さくする必要が出てきた。ピストニングが大きい場合、LEDとファイバ、ファイバとファイバ、ファイバとPDなどの結合時の光ロスが大きくなるという不都合が生じるからである。ファイバの縮みやピストニングを小さくするにはファイバの延伸配向をとってやれば良いが、その結果、ファイバは機械的に非常に脆いものとなり実用的ではない。
【0004】
本発明の課題は、100〜105℃の高温に長時間放置してもピストニングが小さく、且つ機械的強度も十分な耐熱プラスチック光ファイバケーブル及びこれに用いるファイバを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明の第一は、耐熱プラスチック光ファイバを裸線として、その周囲にナイロン12を被覆してなるプラスチック光ファイバケーブルであって、耐熱プラスチック光ファイバが、芯の周囲に第1鞘層を形成し、さらに該第1鞘層の周囲に第2鞘層を形成してなる耐熱プラスチック光ファイバであって、上記芯が、モノマー成分としてメチルメタクリレートを90重量%以上含有するポリメチルメタクリレート系樹脂からなり、第1鞘層が、モノマー成分としてビニリデンフロライドを95モル%以上含有するビニリデンフロライド系樹脂60〜90重量%と、ポリメチルメタクリレート系樹脂10〜40重量%を混合してなり、ナトリウムD線での屈折率が1.43〜1.45、融点が140〜180℃である樹脂組成物からなり、第2鞘層が、ビニリデンフロライド成分25〜50モル%、ヘキサフロロプロペン成分10〜15モル%、テトラフロロエチレン成分38〜64モル%からなり、ナトリウムD線での屈折率が1.34〜1.37、融点が140〜180℃である共重合体からなる裸線であり、ナイロン12被覆層の厚さが0.1mm〜0.6mmであり、該ケーブル50cmを105℃の環境下に500時間放置した時の端部における裸線とナイロン12被覆層との位置ずれが0.06mm以下であり、−20℃で曲げ半径5mmで±90°に屈曲させた際の耐屈曲性が1000回以上であることを特徴とする耐熱プラスチック光ファイバケーブルである。
【0006】
また、本発明のケーブルは、裸線をナイロン12で被覆した後、110〜120℃に1時間以上放置してなることが好ましい。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明のプラスチック光ファイバは、芯と、該芯の周囲に形成した第1鞘層と、該第1鞘層の周囲に形成した第2鞘層とからなる裸線であり、本発明のプラスチック光ファイバケーブルは該裸線にナイロン12を被覆してなる。
【0008】
本発明のプラスチック光ファイバの芯は、芯樹脂として、モノマー成分としてメチルメタクリレート(MMA)を90重量%以上含有するポリメチルメタクリレート(PMMA)系樹脂を用いてなる。かかるPMMA系樹脂には、MMA以外のモノマー成分として、他のアクリル酸エステルやメタクリル酸エステル、或いはアクリル酸、メタクリル酸等の他の共重合可能なモノマーを含有することができる。
【0009】
また、本発明のプラスチック光ファイバの第1鞘層を形成する第1鞘樹脂としては、モノマー成分としてビニリデンフロライドを95モル%以上含有するビニリデンフロライド系樹脂60〜90重量%と、PMMA系樹脂10〜40重量%を混合してなる樹脂組成物が用いられる。ビニリデンフロライド系樹脂には、ビニリデンフロライド以外のモノマー成分として、テトラフロロエチレン、トリフロロエチレン、ヘキサフロロプロペン、ヘキサフロロアセトンなどを用いることができる。中でも、当該ビニリデンフロライド系樹脂がPMMA系樹脂と混合して樹脂組成物とした時、透明性が高く且つ高温湿熱下でも白濁しないという特徴から、ビニリデンフロライドの成分が高い方が好ましく、特に単独重合体が好ましい。
【0010】
また、該ビニリデンフロライド系樹脂と混合されるPMMA系樹脂としては、MMA単独重合体(PMMA)の他、MMAと他の共重合可能なモノマー、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレートなどのアクリレート類、エチルメタクリレート、イソプロピルマレイミド等マレイミド類などとの共重合体が挙げられる。尚、共重合体を用いる場合には、モノマー成分としてMMAを50重量%以上含有することが望ましい。
【0011】
上記ビニリデンフロライド系樹脂60〜90重量%とPMMA系樹脂10〜40重量%とを完全に相溶するように良く混練して樹脂組成物とする。本発明では、該樹脂組成物の中でも特に、融点が140〜180℃と非常に高いものがピストニングや縮みを防ぐのに有効であることから、当該高融点のものを選択して用いる。この高融点の樹脂組成物は室内状態で透明であり、更に、85℃、95%湿度の状態でも透明性が保持されることから本発明には特に好ましい。また、PMMA系樹脂からなる芯とも相溶して一体的に密着し、機械的強度が高いことからも、非常に重要な組合せといえる。
【0012】
即ち、ピストニングを抑えるためにファイバの配向を抑制するとき、機械的強度が著しく低下するのを防ぐ上で、第1鞘層がしっかりとPMMA系樹脂からなる芯に付着し、第1鞘層自体は変形流れを起こすことなく形を保っていることが重要である。
【0013】
さらに、本発明において用いられる第1鞘樹脂はナトリウムD線での屈折率(以下、「屈折率」とはナトリウムD線での屈折率を指す)が1.43〜1.45という比較的高いものを用い、プラスチック光ファイバのNAを0.35〜0.43程度にして耐熱高速通信用途に対応させる。
【0014】
次に、本発明のプラスチック光ファイバの第2鞘層を形成するための第2鞘樹脂としては、ビニリデンフロライド成分25モル%〜50モル%、ヘキサフロロプロペン成分10モル%〜15モル%、テトラフロロエチレン成分38〜64モル%からなる共重合体であり、融点が140〜180℃以上、屈折率が1.34〜1.37である透明な樹脂を用いる。
【0015】
本発明において、上記第2鞘樹脂からなる第2鞘層を設ける第1の目的は、先ず第1鞘層にこの第2鞘層を密着させ、裸線として一体化することにある。また、第2の目的は、本発明のケーブルを構成する際に、一体化した裸線とその上に被覆するナイロン12とを非常に強い密着力で密着させて、105℃程度の高温下でも長期にわたりピストニングを防ぐためである。従って、第2鞘樹脂には、融点が140℃〜180℃という高い耐熱性と、ナイロン12との強い密着性が必要となる。
【0016】
また、第1鞘層だけではファイバを曲げた時の光ロスが大きく、高い通信帯域で使用しづらいところ、かかる第2鞘層を設けることによって、第2鞘樹脂の屈折率が1.34〜1.37と非常に低いことから、第2鞘層によって曲げロスが解消され、さらに数m程度の長さでは第2鞘層を通った光も通信に使うことができるという効果が得られる。この効果を得るためには、第2鞘樹脂自体が光を全反射できるように透明であり、且つ、第1鞘層と第2鞘層との界面で第1鞘樹脂の透明性を損なうような相互作用が無いことである。
【0017】
本発明のプラスチック光ファイバの製造方法としては、溶融状態の芯樹脂、第1鞘樹脂、第2鞘樹脂を3層複合紡糸ダイに供給し、芯の直径を凡そ1.0mmとすると、第1鞘層の厚さは2μm〜25μm程度に、第2鞘層についても2μm〜25μm程度になるよう各樹脂の供給量を調節する。この様に複合紡糸により裸線の元糸を得るが、その元糸は連続的に130〜250℃の温度で数秒〜数十秒程度で1.3〜3倍程度に延伸し、ファイバの機械的強度を付与し、引き続き連続的に同様の温度で数十秒以下の熱処理を行い、配向歪みを除去して寸法安定性を付与する。
【0018】
本発明のプラスチック光ファイバは、その周囲に保護被覆として50μm〜1.0mm程度の厚さでエチレンビニルアルコール共重合体、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリビニリデンフロライド系樹脂などを被覆してケーブルとして用いることができる。低い温度での用途ではこれらケーブルはいずれもそのまま使用することができるが、中でも、被覆材をナイロン12とした本発明のプラスチック光ファイバケーブルは、100〜105℃程度の温度で長期間使用しても、ピストニングを小さく抑えることができる。
特に、該ケーブルを長時間熟成処理したものが好ましい。
【0019】
長時間熟成処理が好ましい理由は、PMMA系樹脂のガラス転移点(Tg)が110℃前後であるのに対し、本発明にかかる第1鞘樹脂や第2鞘樹脂の融点は140℃〜180℃と大きく隔たっているため、第1鞘層や第2鞘層の配向歪みと芯の配向歪みを適度にとる方法として従来の製造方法で行っていた連続加熱による短時間処理を行うだけでは、困難であったり、不十分であるからである。即ち短時間で且つ高い温度条件で処理を行った場合には芯の機械的強度を低下させ、逆に芯に合わせて低い温度条件で処理した場合には鞘層の歪みが取れないので縮みが生じる。そのため本発明の耐熱プラスチック光ファイバケーブルを製造するにあたっては、PMMA系樹脂のTg前後の100℃〜120℃程度の温度条件で、0.1時間〜50時間程度の長時間の熱処理が好適である。この温度は湿度も加わる時には10℃程度低めでも効果がある。より好ましい条件は110〜120℃で1時間以上で、1時間〜24時間が望ましい。この温度が高すぎるとファイバの強度が低下するので上記範囲で実際に効果を確認しながら適宜条件を設定すれば良い。
【0020】
本発明のプラスチック光ファイバケーブルの被覆層としてナイロン12を用いる理由は、前記したように、第2鞘層との密着力が強く、上記熱処理後のケーブルのピストニングが小さく、寸法安定性がよいことと、高硬度であることである。該ナイロン12被覆層の厚さとしては、耐熱性の観点から、0.1mm〜0.6mmが十分な保持力があり好ましい。
【0021】
本発明のプラスチック光ファイバケーブルの特に重要な性能は、ピストニングが低く、且つ機械的強度が高いことである。前記したように、ピストニングとは、裸線とその直接被覆層との間に生じる、裸線の引っ込み又は突出のことであり、その測定方法としては、50cmのケーブルの両端を垂直に切断し、試験環境下に所定時間放置した後、引っ込みか或いは飛び出しを顕微鏡で観察するものである。本発明のナイロン12被覆を施したケーブルは、105℃で500時間放置した時のピストニングが0.06mm以下である。しかも、その時のケーブルの機械的強度としては、該ケーブルを−20℃で曲げ半径5mmで±90°で屈曲せしめた時、1000回以上の屈曲にも断線しない耐屈曲性を備えているものである。
【0022】
【実施例】
芯樹脂として、重量平均分子量が10万でMMA99.5重量%とメチルアクリレート0.5重量%からなるPMMA系樹脂を用いた。この樹脂の屈折率(nd20)は1.49であった。
【0023】
また、230℃、荷重3.8kgのメルトフローインデックス(以下、「メルトフローインデックス」は当該条件のものを指す)が20g/10分のビニリデンフロライドの単独重合体70重量%と、上記芯樹脂と同じPMMA系樹脂30重量%とを溶融混合した透明な樹脂組成物を第1鞘樹脂として用いた。第1鞘樹脂の屈折率は1.44であり、融点は170℃、メルトフローインデックスは18g/10分であった。
【0024】
さらに、第2鞘樹脂としては、ビニリデンフロライド成分40モル%、テトラフロロエチレン成分48モル%、ヘキサフロロプロペン成分12モル%からなる共重合体で、屈折率が1.36、融点が155℃、メルトフローインデックスが7g/10分の透明樹脂を用いた。
【0025】
上記芯樹脂、第1鞘樹脂、第2鞘樹脂を溶融し、3層を同時に複合紡糸した。このファイバの紡糸工程では2倍の延伸倍率で線引きを行い、且つ数十秒の短時間の間、150℃で連続的に加熱による大きな配向除去の処理を経て、芯径が970μm、第1鞘層の厚さが7μm、第2鞘層の厚さが8μm、外径が1.00mmのプラスチック光ファイバ裸線を得た。次いで、このプラスチック光ファイバ裸線にナイロン12を厚さ250μmで被覆し、外径が1.5mmのケーブルを金属性のボビンに巻き取った。その後、該ボビンを115℃のオ−ブンに15時間入れて熟成し、本発明のプラスチック光ファイバケーブルを得た。
【0026】
本ケーブル50mについて伝送損失を測定した。入射NA0.15の単色光を用いて測定し、650nmにて180dB/kmであった。また、当該ケーブルを105℃に500時間保存した後の伝送損失は185dB/kmであった。同様に85℃、95%湿度で1000時間保存したときの伝送損失は、210dB/kmで吸湿によるOH吸収の理論ロス増で、安定していた。
【0027】
本ケーブルのピストニングを測定した。即ち、本ケーブル50cmを新しい剃刀で垂直に切り落とし、105℃で500時間保存後のピストニングと、ケーブルの縮みを測定した。その結果、ピストニングは0.03mmで裸線が被覆の中に引っ込む程度で、ケーブルの縮みは0.2%に過ぎなかった。
【0028】
本ケーブルの機械的強度として−20℃で曲げ半径5mmで±90°で屈曲せしめた時、1500回で断線した。また、105℃で500時間保存後のケーブルのそれは1300回と強い強度を示した。
【0029】
このケーブルの曲げによる光保持率を測定した。測定は入射NA0.6のLED光源を用い、曲げ半径10mmの棒に1回巻き付けた時の光ロスを求めたところ、1.6dBと許容レベルであった。
【0030】
このファイバの伝送帯域を、測定パルス法で測定したところ、20mの帯域は入射NA0.65で170MHzであった。
【0031】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、高温条件下の使用においても長期間ピストニングを低いレベルにとどめ、機械的強度にも優れた耐熱プラスチック光ファイバケーブルが提供され、各種配線、特に、高温度の条件で使用する配線として非常に有用である。
Claims (2)
- 耐熱プラスチック光ファイバを裸線として、その周囲にナイロン12を被覆してなるプラスチック光ファイバケーブルであって、耐熱プラスチック光ファイバが、芯の周囲に第1鞘層を形成し、さらに該第1鞘層の周囲に第2鞘層を形成してなる耐熱プラスチック光ファイバであって、上記芯が、モノマー成分としてメチルメタクリレートを90重量%以上含有するポリメチルメタクリレート系樹脂からなり、第1鞘層が、モノマー成分としてビニリデンフロライドを95モル%以上含有するビニリデンフロライド系樹脂60〜90重量%と、ポリメチルメタクリレート系樹脂10〜40重量%を混合してなり、ナトリウムD線での屈折率が1.43〜1.45、融点が140〜180℃である樹脂組成物からなり、第2鞘層が、ビニリデンフロライド成分25〜50モル%、ヘキサフロロプロペン成分10〜15モル%、テトラフロロエチレン成分38〜64モル%からなり、ナトリウムD線での屈折率が1.34〜1.37、融点が140〜180℃である共重合体からなる裸線であり、ナイロン12被覆層の厚さが0.1mm〜0.6mmであり、該ケーブル50cmを105℃の環境下に500時間放置した時の端部における裸線とナイロン12被覆層との位置ずれが0.06mm以下であり、−20℃で曲げ半径5mmで±90°に屈曲させた際の耐屈曲性が1000回以上であることを特徴とする耐熱プラスチック光ファイバケーブル。
- 裸線をナイロン12で被覆した後、110〜120℃に1時間以上放置してなる請求項2に記載の耐熱プラスチック光ファイバケーブル。
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