JP4189486B2 - リチウム−鉄−マンガン系複合酸化物の製造方法 - Google Patents

リチウム−鉄−マンガン系複合酸化物の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、リチウムイオン二次電池用正極材料として有用なリチウム-鉄-マンガン系複合酸化物の製造方法に関する。
現在、我が国において、携帯電話、ノートパソコンなどのポータブル機器に搭載されている二次電池の殆どは、傑出したエネルギー密度を有するリチウムイオン二次電池である。リチウムイオン二次電池は、さらに、電気自動車、電力負荷平準化システムなどの種々の分野における大型電池としても、今後重要な役割を担うものと予測されており、その重要性はますます高まっている。
従来から、鉄を活用した4V級リチウム二次電池正極材料は、電池の低コスト化、素材コストの安定化などの観点から必要とされてきた。本発明者らは、LiFeO2-Li2MnO3固溶体(
本明細書においては、組成式Li1+x(FeyMn1-y)1-xO2(式中、0.4≦y≦0.6かつ0.33≧x≧0.2)として記述する)が、4V級鉄系正極材料となりうることをすでに見出している。(特許文献1)。また、ニッケルイオンを固溶させることにより、充放電特性を改善しうることを
も可能なことを明らかにしている(特許文献2)。
さらに、上記組成式において、Fe/(Fe+Mn)比(y値)が0.5付近で、最も充放電容量が大きくなること、および3価鉄イオンは4価のマンガンイオンに構造中で取り囲まれることによって充放電可能になることも、見出されている(非特許文献1)。
しかしながら、上記組成式で表される材料の充放電特性は、容量および可逆性の低さから、さらなる改善が必要であり、充放電特性を向上させる製造プロセスの確立が、該材料の実用化のために、極めて重要である。すなわち、該材料の充放電特性をさらに改善するためには、鉄イオンを含む不純物量を可能な限り低減して目的物質中の鉄イオン量を仕込み組成に可能な限り近づけること、および図1の層状岩塩型構造を有するLi2MnO3のLi-Mn混合層(図1ではLi-Fe-Mn混合層と記載)内にできるだけ多く鉄イオンを占有させることが
きわめて重要であるが、それを達成しうる製造プロセスは未だ確立されていない。
製造プロセスにおける目的物質であるリチウム-鉄-マンガン系複合酸化物は、非特許文献1に示されている様に、通常、三段階の製造工程((1)鉄-マンガン共沈物の調製工程、(2)共沈物の水熱処理工程、(3)水熱処理生成物の焼成工程)より製造されている。従来技術
においては、(1)鉄-マンガン共沈物の調製は、室温条件下に、鉄-マンガン混合硝酸塩水
溶液に対し水酸化カリウム水溶液などのアルカリ性溶液を徐々に滴下することにより、行われている。この際には、酸-アルカリ中和熱の発生により、鉄-マンガン混合硝酸塩溶液側の温度が室温よりも高くなる。この温度上昇に伴い、不純物としてスピネルフェライトの一種であるMnFe2O4が混在しやすくなると言われている(非特許文献2)。このスピネル
フェライト中では、鉄イオンが仕込み組成のFe/(Fe+Mn)比=0.5よりも大きくなり、結果として共沈物側の鉄イオン量が低下する。また、生成したスピネルフェライトは、高温においても極めて安定であるため、最終焼成工程終了後にも、目的生成物中に不純物としてそのまま残留する。その結果、目的生成物中に含まれる鉄イオン量が相対的に減少して、充放電特性を劣化させている可能性がある。
特開2002-068748号公報 特開2003-048718号公報 M.Tabuchi, A.Nakashima, H.Shigemura, K.Ado, H.Kobayashi, H.Sakaebe, H.Kageyama, T.Nakamura, M.Kohzaki, A.Hirano and R.Kanno, Journal of The Electrochemical Society, 149, A509-A524, 2002(以下においては、これを"田渕文献"として引用する。) U.Schwertmann and R.M.Cornell, "Iron Oxides in the Laboratory−Preparation and Characterization", Wiley-Vch, Weinheim, p90-91, 2000
本発明は、組成式Li1+x(FeyMn1-y)1-xO2で表されるリチウム-鉄-マンガン系複合酸化物を製造するに際し、不純物としてのスピネルフェライト(MnFe2O4)の生成を抑制すること
により、目的とする複合酸化物中の鉄イオン量の低下を防止しうる新たな技術を提供することを主な目的とする。
本発明者は、上述の様に、目的生成物中の鉄イオン量の低下が充放電特性を劣化させているとの推定の下に、鋭意研究を進めた結果、鉄-マンガン共沈物の調製時の温度上昇を
抑制することにより、高容量のリチウム-鉄-マンガン系複合酸化物を得ることに成功した。
すなわち、本発明は、下記のリチウム−鉄―マンガン系複合酸化物の製造方法を提供する。
1.層状岩塩型構造を有し、組成式Li1+x(FeyMn1-y)1-xO2(但し、0.4≦y≦0.6かつ0.33
≧x≧0.2)で表されるリチウム-鉄-マンガン系複合酸化物を製造する方法において、
(1)鉄塩-マンガン塩混合水溶液を20℃以下に保持しつつ、アルカリを添加することにより、鉄-マンガン共沈物を形成させる工程、
(2)得られた共沈物を酸化する工程、
(3)得られた酸化物にリチウム塩水溶液と酸化剤とを加えた後、100〜400℃で水熱反応処
理する工程、および
(4)水熱反応処理生成物を50〜200℃で乾燥する工程
を備えたことを特徴とするリチウム-鉄-マンガン系複合酸化物の製造方法。
2.工程(1)における保持温度を10℃以下とする請求項1に記載のリチウム-鉄-マンガン
系複合酸化物の製造方法。
3.上記項1または2に記載の方法で得られたリチウム-鉄-マンガン系複合酸化物にさらにリチウム塩を混合した後、大気中、酸化雰囲気中または還元雰囲気中200〜1000℃で焼
成するリチウム-鉄-マンガン系複合酸化物の製造方法。
以下、層状岩塩型構造を有し、組成式Li1+x(FeyMn1-y)1-xO2(但し、0.4≦y≦0.6かつ0.33≧x≧0.2)で表されるリチウム-鉄-マンガン系複合酸化物を製造するための本発明方法に関し、工程(1)〜(4)および(5)のそれぞれについて詳細に説明する。
I.工程(1)
工程(1)は、鉄塩とマンガン塩の混合溶液にアルカリ水溶液を添加して共沈物を得る工
程である。
鉄源材料およびマンガン源材料としては、それぞれの金属の水溶性塩(塩化物、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩など)、水酸化物などが挙げられる。これらの塩は、無水物および水和物のいずれであってもよい。これらの塩類および水酸化物は、両金属につい
て、それぞれ単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、金属源としては、いずれの金属についても、金属酸化物を塩酸などの酸で溶解させた水溶液を用いてもよい。
混合水溶液中のFe/(Fe+Mn)モル比は、目的とする複合金属酸化物中のFe/(Fe+Mn)モル比に応じて、適宜選択することができるが、上記組成式に対応して、0.4≦y≦0.6程度とす
ることがより好ましい。
本発明においては、鉄塩とマンガン塩の混合溶液に対しアルカリ水溶液を添加して、鉄-マンガン共沈物を沈殿させるに際し、反応温度を20℃以下、より好ましくは10℃以下、
さらに好ましくは+5〜-15℃程度に保持する。この温度制御により、不純物としてのスピ
ネルフェライト(MnFe2O4)の生成を抑制して、目的とする複合酸化物中の鉄イオン量の低
下を防止することが可能となる。特に、0℃以下の低温状態を維持するために、不凍液と
しての機能を発揮するに必要な量のメタノール、エタノール、エチレングリコールなどを水100重量部に対し不凍液1-50重量部の割合で混合溶液に添加する。
上記混合溶液から鉄-マンガン共沈物を形成させるためのアルカリ源としては、水酸化
リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニアなどを水溶液の形態(通常0.1〜20M程度、好ましくは0.5〜10M程度)で使用する。アルカリ源水溶液は、攪拌下に、混合溶液が完全にアルカリ性(pH11以上)となるまで滴下する。アルカリ源として水酸化リチウムを使用する場合には、目的とする複合酸化物中のリチウム成分の一部を構成することになる。
II.工程(2)
次いで、0〜150℃程度(より好ましくは20〜100℃程度)で2〜7日間程度(より好ましくは3〜5日間程度)の時間をかけて、共沈物を含む反応液に空気を吹き込みつつ、共沈物の酸
化と熟成とを行う。次いで、得られた酸化物を蒸留水で洗浄して、過剰のアルカリ成分および残留塩類を除去し、精製した共沈物を得る。
III.工程(3)
次いで、精製した共沈物を所定の容器(例えば、ポリテトラフルオロエチレン製ビーカー)中で蒸留水と混合し、これに水酸化リチウム(無水物および/または水和物)、塩化リチウム、硝酸リチウムなどのリチウム塩を0.1〜10M程度(より好ましくは1〜8M程度)の濃度
となるように加えて攪拌し、さらに塩素酸カリウムなどの酸化剤を0.1〜10M程度(より好
ましくは0.5〜5M程度の濃度)となるように加えて攪拌した後、この容器を水熱反応装置(例えば、オートクレーブ)内に静置して、容器内の混合物を水熱反応に供する。この水熱反応処理用混合物は、リチウム塩と酸化剤とを含む液を予め調製した後、これに上記の生成共沈物を加え、攪拌することにより、調製しても良い。
水熱反応条件は、特に限定されるものではないが、通常100〜400℃程度の温度で0.1〜150時間程度であり、より好ましくは150〜250℃程度の温度で1〜100時間程度である。
水熱反応処理終了の反応液を放冷させた後、残存するリチウム塩などを除去するために、水熱反応処理生成物を水、水-アルコール、アセトンなどにより洗浄し、ろ過する。か
くして、精製した水熱反応生成物を得る。
IV.工程(4)
次いで、得られた水熱反応生成物を大気中において50〜200℃程度(より好ましくは70〜150℃程度の温度)で乾燥することにより、所望の層状岩塩型リチウム-鉄-マンガン系複合酸化物を得る。
V.工程(5)
本発明においては、さらに必要に応じて、層状岩塩型リチウムフェライト系複合酸化物としての結晶性を一層向上させるためには、上記で得られた複合酸化物を粉砕し、粉末形
態或いは水溶液形態のLi塩(水酸化リチウム、塩化リチウム、硝酸リチウムなど)と混合し、大気中、酸化性雰囲気中、不活性雰囲気中或いは還元雰囲気中で200〜1000℃程度(より好ましくは300〜800℃程度)で1〜100時間程度(より好ましくは20-60時間程度)焼成してもよい。リチウム塩は、反応の均一性を確保するために、水溶液の形態で使用することがより好ましい。さらに、この焼成終了後、過剰のリチウム塩を除去するために、焼成物を水洗処理或いは溶媒洗浄処理し、濾過した後、80℃以上の温度(より好ましくは100℃程度の温度)で加熱乾燥してもよい。
さらに、この加熱乾燥物を粉砕し、焼成し、洗浄し、乾燥するという一連の操作を繰り返し行うことにより、リチウムフェライト系複合酸化物の優れた特性(リチウムイオン二
次電池用正極材料としての作動電圧領域における安定的な充放電特性、高容量など)をよ
り一層改善することができる。
本発明によるリチウム-鉄-マンガン系複合酸化物を用いるリチウムイオン二次電池は、公知の手法により製造することができる。すなわち、正極材料として、本発明方法により得られた複合酸化物を使用し、負極材料として、公知の金属リチウム、炭素系材料(活性
炭、黒鉛)などを使用し、電解液として、公知のエチレンカーボネート、ジメチルカーボ
ネートなどの溶媒に過塩素酸リチウム、LiPF6などのリチウム塩を溶解させた溶液を使用
し、さらにその他の公知の電池構成要素を使用して、常法に従って、リチウムイオン二次電池を組立てることができる。
本発明方法によれば、不純物としてのスピネルフェライト(MnFe2O4)の生成を抑制する
ことにより、目的とするリチウム-鉄-マンガン系複合酸化物中の鉄イオン量の低下を防止することが出来る。
また、本発明によれば、安価な原料を使用して、既存のリチウムコバルト酸化物系正極材料と同等の作動電圧領域(約4V)において安定に充放電させることができる新規な材料を得ることができる。
本発明方法により製造されたリチウム-鉄-マンガン系複合酸化物は、サイクル劣化の少ない、低コストのリチウムイオン二次電池用正極材料として、極めて有用である。
チタン製ビーカーに0.125molに相当する硝酸鉄(III)九水和物50.50gと0.125molに相当
する塩化マンガン(II)四水和物24.72gとを秤量し、蒸留水300mlおよびメタノール100mlとを加えてよく攪拌し、完全に溶解させた。
得られた鉄-マンガン混合水溶液を入れたビーカーを低温恒温漕内において-10℃で保持した。別のガラス製ビーカーに水酸化リチウム一水和物50gを秤量し、蒸留水300mlを加えて攪拌し完全に溶解させた。得られた水酸化リチウム水溶液を、-10℃に保たれた鉄-マンガン混合水溶液に徐々に滴下して、鉄-マンガン共沈物を作製した。
次いで、共沈物を含む反応液を恒温漕から取り出し、室温で空気を吹き込みながら共沈物を2日間空気酸化した。空気酸化後の共沈物に蒸留水1000mlを加え、よく攪拌した後、
濾過して、過剰の水酸化リチウム、アルコール、水溶性塩などを分離除去した。
容量1000mlのポリテトラフルオロエチレン製ビーカーに水酸化リチウム1水和物60gおよび塩素酸カリウム(酸化剤)60gを秤量し、蒸留水500mlを加えよく攪拌した後、上記で得た濾過物を加え、攪拌して分散させた。このポリテトラフルオロエチレン製ビーカーをオー
トクレーブ中に静置し、220℃で8時間水熱処理を行った。水熱反応終了の処理液を自然冷却した後、オートクレーブから生成物を取り出し、蒸留水にて5回デカンテーションを行
って生成物を洗浄し、濾過し、ポリテトラフルオロエチレン製シャーレに移した。このシャーレ内に水酸化リチウム1水和物0.25mol(10.49g)を蒸留水100mlに溶解させた水酸化リ
チウム水溶液を加え、よく攪拌した後、100℃で乾燥させた。
次いで、乾燥生成物をめのう乳鉢にてよく粉砕した後、得られた粉末をアルミナ製焼成容器に薄く広げて入れ、電気炉を用いて酸素気流中650℃で20時間焼成を行った。焼成生
成物を室温まで24時間かけて冷却し、生成物を粉砕した後、蒸留水で5回デカンテーショ
ンして過剰の水酸化リチウム、炭酸リチウムなどを除去し、濾過し、100℃で12時間乾燥
することにより、目的物質であるリチウム−鉄-マンガン系複合酸化物を得た。
得られた粉末は、図2から明らかな様に、平均粒径100nm程度の板状粒子と推察された
得られた試料のX線回折パターン(図3)から、すべてのピークは
の空間群を有する層状岩塩型構造由来の単位胞(格子定数a= 2.8803(2)Å、c= 14.2741(10)Å)で指数づけ可能であり、層状岩塩型を有するリチウム-鉄-マンガン複合酸化物が生成していることが確認できた。得られた格子定数値は、前出の“田渕文献”に記載されているリチウム-鉄-マンガン複合酸化物の値(a=2.882Å、c=14.287Å)に近かった。
充放電特性評価
得られた試料20mgに対し、アセチレンブラック5mgおよびポリテトラフルオロエチレン
粉末0.5mgを加えて、乳鉢にて混合し、金属アルミニウム集電体に圧着した。得られた正
極合材を120℃で真空乾燥した後、グローブボックス内に導入し、グローブボックス内に
て支持塩LiPF6とエチレンカーボネートおよびジエチルカーボネート混合溶媒からなる電
解液と金属リチウム負極とを用いて、コイン型リチウム二次電池を作製した。
この電池を充放電装置に接続し、充放電電位範囲3-4.3V、充放電電流密度42mA/gで、充電開始で充放電特性評価を行った。
図4の充放電曲線は、各充放電条件での充放電容量を計測した結果を示しており(右上
がりの曲線が充電曲線に、右下がりの曲線が放電曲線に対応する)、表1は充放電容量を
示す。なお、以下の各表には、下記実施例2および比較例1で得られた複合酸化物についての結果を併せて示してある。
図4および表1から明らかな様に、充電容量は100mAh/g以上を有し、初期放電時に4V平坦領域が現れ、初期放電平均電圧も3.80V以上、10サイクル後も3.5V以上で54mAh/g程度の放電容量を有していることが明らかである。このことから、本発明方法により得られた物質が、4V級リチウム二次電池材料として良好な特性を有していることが確認できた。
化学分析
誘導結合プラズマ(ICP)法により得られたLi、FeおよびMn含有量(重量%)から、以下の式1および2を用いて計算された組成式Li1+x(FeyMn1-y)1-xO2中のxおよびy値は、表2に示す様に、それぞれ0.20および0.503と見積もられ、仕込み組成からの推定組成式Li1.2Fe0.4Mn0.4O2から予測されるx値0.20およびy値0.50に近い組成を有する目的試料が得られてい
ることがわかった。
式1:x=(Li量/6.94-鉄量/55.85-マンガン量/54.94)/(Li量/6.94+鉄量/55.85+マンガン量/54.94)
式2:y=鉄量/55.85/(鉄量/55.85+マンガン量/54.94)
ここで、“6.94”、“55.85”および“54.94”という値は、それぞれリチウム、鉄およ
びマンガンの原子量である。
X線リートベルト解析
図3のX線回折パターン(2θ範囲30-125°、0.02°ステップで各ステップ3.5s積算で測定)を“RIETAN-2000” (F. Izumi and T. Ikeda, Mater. Sci. Forum, 321-324 (2000) 198-203)により、最小自乗法にてフィッティングを行い、以下の層状岩塩型構造モデル(図1参照)を用いた際のLi単独層内格子位置(3a位置)に混在する遷移金属(M)占有率(%)とLi-Mn-Fe混合層内格子位置(3b位置)中に存在する遷移金属(M')占有率(%)とを可変パラメータとして算出した。
構造モデル:(Li1-mMm)3a[Li1-nM 'n]3bO2;ここで、括弧の添え字の3aは3a位置のイオン分布を、3bは3b位置でのイオン分布を表す。
両占有率の和を全遷移金属量(%)と定義した。X線回折結果に基づく各種のパラメータ
を表3に示す。
前記の“田渕文献”に記載の様に、中性子回折を用いた3a位置にはLiイオン以外に主に鉄イオンが混在することがわかっている。すなわち、3a位置への遷移金属の混在は、鉄イオンの乱れによって引き起こされている。充放電時に脱離・挿入されるリチウムイオンは3a位置のリチウムイオンであり、リチウムイオン脱離・挿入は3a位置のリチウムイオンが隣接する6c位置の空孔を介して隣の3a位置に移ることによって起こるため、3a位置における遷移金属イオンの存在は、リチウムイオン拡散の妨げとなり、充放電特性劣化の原因となりうる。従ってこの3a位置の遷移金属イオン量をできる限り少なくすることが望ましい。本発明により得られる複合酸化物の3a位置遷移金属イオン量は、約6.1%程度と低いものであり、そのため充放電特性の良好な材料が作製できていることがわかる。
また得られた全遷移金属量は、本物質中の鉄イオン量に依存すると思われる。全遷移金
属量に対する鉄イオン量(Fe/(Fe+Mn)比、y値)が0.5である場合に、鉄イオンがすべて3価
であって、かつマンガンイオンがすべて4価の場合には、組成式はLi(4-z)/3FezMn(2-2z)/3O2のz=0.4の場合に相当し、Li1.2Fe0.4Mn0.4O2で表される。すなわち、この組成では全
遷移金属量は0.8(80%)となる。ところが、後述の様に、57Feメスバウワ分光の結果から鉄イオンの一部が4価に酸化されているため、組成式はLi(4-z)/3Fe3+ zM 4+ (2-2z)/3O2(M=Mn、Fe)へと変化し、zは0.4より小さくなる。目的物質中の全遷移金属量は3価鉄量と以下の式3の関係があるため、
式3:全遷移金属量(%)=100×(z+2/3-2z/3)=100×(2+z)/3
において、z=0.4の時は全遷移金属量は80%であるが、z<0.4では全遷移金属量は80%以下に下がりうる。しかしながら、全ての鉄が4価になった状態(z=0)においても、全遷移金属量は、式3より、2/3(67%)以上はあるはずである。本実施例においては、この量が71.2%であり、均質な試料が得られているものと解釈できる。
57 Feメスバウワ分光
得られた物質中の鉄イオン価数を推定するために、室温(25℃)にて57Feメスバウワ分光スペクトルを測定した(図5参照:±2.5mm/sの速度範囲、速度較正用標準物質α-Fe)。黒丸が実測スペクトルであり、実線が計算スペクトルであり、波線と一点鎖線のダブレットは各鉄成分に対応する計算スペクトルの構成成分である。得られたスペクトル(●)は非対称ダブレット形状であり、試料が常磁性体であることを示している。
非対称ダブレットをフィッティングするために異性体シフト値の異なる2つの対称的な
ダブレット(AおよびB成分)を用いた。A成分の異性体シフト値は+0.3378(4)mm/sであり、
文献(G.Prado, A.Rougier, L.Fournes and C.Delmas, Journal of The Electrochemical Society, 147, 2880-28874)中の電気化学的に酸化したLi0.53(Ni0.9Fe0.1)1.06O2試料中
の3価鉄の値(+0.33mm/s)に近いことから、A成分は3価鉄成分と帰属された。一方、B成分
の異性体シフト値は、-0.020(4)mm/sであり、前述のLi0.53(Ni0.9Fe0.1)1.06O2試料中の4価鉄の値(-0.11mm/s)に近いことから、B成分は4価鉄成分と解釈できる。これらAおよびB
成分の面積比は73.1:26.9であることから、この試料中で鉄イオンは3価と4価の混合原子価状態にあることがわかる。これらの結果を表4に示す。なお、表4には、後述の磁化測定データを併せて記載してある。
“田渕文献”に記載の様に、本実施例で得られた物質は、3価鉄成分が充電時に4価に酸化され、放電時に3価に戻ることにより、4V領域で充放電する材料である。そのため、単
純には目的物質中の3価鉄イオン量は100%に近いことが望ましい。しかしながら、高電流
密度下での充放電試験において、正極材料は高電子伝導性を有する必要があり、本実施例による物質では、電子伝導性は鉄イオンの3価/4価混合原子化状態により発現している。
本実施例物質の場合には、4価鉄量は26.9%あることから、充放電特性が良好な試料が得られたものと解釈できる。
磁化測定
本実施例で得られた複合酸化物は、メスバウワ分光スペクトルにより、室温では常磁性体であることが明らかとなったが、3価鉄イオンを含むため、試料中にスピネルフェライ
トに代表されるフェリ磁性を有する微量(1%以下)の磁性不純物(LiFe5O8あるいはMnFe2O4)
が、共沈物沈殿形成工程(1)或いは水熱反応工程(3)において、混入してくる可能性がある。前述の粉末X線回折により、このような微量磁性不純物を検出することは、きわめて困
難である。
そこで振動型磁束計を用いて、上記不純物の自発磁化を測定し、その値を不純物量に比例するパラメータとして評価を行った。磁化測定は、±10kOeの磁場範囲において、25℃
で行った。磁化の較正用標準物質としてマンガンタットン塩((NH4)2Mn(SO4)2・6H2O)を用いた。
得られた磁化曲線を図6に示す。波線は+7から+10kOeの磁場範囲の磁化曲線を自発磁化
算出のため一次回帰分析し、零磁場に補外して自発磁化を算出していることを示している。
試料が常磁性体である場合には、磁化曲線は傾き正の直線となるが、得られた曲線がほぼ直線状となっているため、磁性不純物量はきわめて微量であることがわかる。自発磁化を見積もるため、+7から+10kOeの磁化を磁場に対して一次回帰直線(図中点線)で近似し、その切片を求め、-7から-10kOeの磁化を磁場に対して一次回帰直線の切片に対応する値の絶対値との平均値をとった。本実施例による試料では、自発磁化は0.0227(11)Gcm3/gと見積もられた。仮にこの不純物がLiFe5O8のみと見積もられるとその室温での自発磁化は
、文献(近角聡信、太田恵造、安達健五、津屋 昇、石川義和 編、磁性体ハンドブック
、朝倉書店、1975年、 p611)から、65Gcm3/gなので、不純物量は0.03%と見積もられる。MnFe2O4の場合は、約75Gcm3/gなので、同文献から、不純物量は0.03%と見積もられる。こ
のように不純物量が少ないため、本実施例による複合酸化物は、良好な充放電特性を発揮するものと考えられる。
比較例1
鉄-マンガン共沈物の形成工程(1)を室温(25℃)で行う以外は実施例1と同様の合成条件により、複合酸化物を調製した。
得られた試料のX線回折パターンから、すべてのピークは
の空間群を有する層状岩塩型構造由来の単位胞(格子定数a= 2.8920(5)Å、c= 14.2677 (19)Å)で指数づけ可能であり、層状岩塩型を有するリチウム-鉄-マンガン複合酸化物が生
成していることが確認できた。得られた格子定数値は、“田渕文献”に記載されているリチウム-鉄-マンガン複合酸化物の値(a=2.882Å、c=14.287Å)に近かった。
充放電特性評価
実施例1と同様の手法により、コイン型リチウム二次電池を作製した。得られた電池を充放電装置に接続し、充放電電位範囲3-4.3V、充放電電流密度42mA/gで、充電開始で充放電特性評価を行った。
表2から明らかな様に、充電容量は100mAh/g以下であり、初期放電時に4V平坦領域が現れるものの、初期放電平均電圧は3.80V未満(3.68V)、10サイクル後は3.5V以上で24mAh/g
程度の放電容量しか有していなかった。
これらの結果から、本比較例により得られた材料が、4V級リチウム二次電池材料としては、十分な充放電特性を有していないことが確認できた。
化学分析
実施例1と同様にして、誘導結合プラズマ(ICP)法により得られたLi、Fe、およびMn含
有量(重量%)を用いて計算した組成式Li1+x(FeyMn1-y)1-xO2中のx値およびy値は、それぞ
れ0.20および0.508と見積もられ、実施例1の試料と差異は認められなかった。
X線リートベルト解析
実施例1と同様の手法により、前記の結晶構造パラメータを算出した。
本比較例により得られた物質の3a位置遷移金属イオン量は、約13.7%程度であり、実施
例1により得られた物質のそれに比して、比べ著しく大きくなっていた。このためリチウム層内でのリチウムイオン拡散が阻害され、良好な充放電特性が得られなかったものと思われる。全遷移金属量は、73.4%で実施例1と大きな差は認められなかった。
57 Feメスバウワ分光
実施例1と同様にして、室温(25℃)にて57Feメスバウワ分光スペクトルを測定した。
得られたスペクトルをフィッティングするために異性体シフト値の異なる2つの対称的
なダブレット(AおよびB成分)を用いた。A成分の異性体シフト値は+0.3413(6)mm/sであり
、文献(G.Prado, A.Rougier, L.Fournes and C.Delmas, Journal of The Electrochemical Society, 147, 2880-28874)中の電気化学的に酸化したLi0.53(Ni0.9Fe0.1)1.06O2試料
中の3価鉄の値(+0.33mm/s)に近いことから、A成分は3価鉄成分と帰属された。一方、B成
分の異性体シフト値は-0.039(5)mm/sであり、前述のLi0.53(Ni0.9Fe0.1)1.06O2試料中の4価鉄の値(-0.11mm/s)に近いことから、B成分は4価鉄成分と解釈できる。これらAおよびB
成分の面積比は75.9:24.1であることから、この試料中で鉄イオンは3価と4価の混合原子価状態にあることがわかる。本比較例による試料の4価鉄量は24.1%あることから、実施例試料との差異は認められなかった。
磁化測定
実施例1と同様にして、振動型磁束計を用いて不純物由来の自発磁化を測定し、その値を不純物量に比例するパラメータとして評価を行った。自発磁化は0.0521(10)Gcm3/gと見積もられた。この値は、実施例1試料よりも大きく、比較例1試料は、実施例1試料に比べて、不純物量が多いことがわかる。
実施例2
鉄-マンガン共沈物の形成工程(1)を氷冷下(5℃)で行う以外は実施例1と同様の合成条
件により、リチウム-鉄-マンガン系複合酸化物を調製した。
充放電特性評価
実施例1と同様の手法により、コイン型リチウム二次電池を作製した。得られた電池を充放電装置に接続し、充放電電位範囲3-4.3V、充放電電流密度42mA/gで、充電開始で充放電特性評価を行った。
表2から明らかな様に、充電容量は100mAh/g以上であり、初期放電時に4V平坦領域が現れ、初期放電平均電圧は3.80V以上(3.84V)、10サイクル後は3.5V以上で48mAh/g程度の放
電容量を有していた。
これらの結果から、本実施例により得られた材料が、4V級リチウム二次電池材料としては、十分な充放電特性を有することが確認できた。
得られた材料の化学分析、リートベルト解析、57Feメスバウワ分光スペクトル測定および磁化測定により得られる各パラメータは、表2〜表4に併記した通りである。実施例2の試料は、実施例1の試料と同様の傾向を示し、両者の間で明確な差異は認められなかっ
た。
実施例1および2材料と比較例1材料との総合評価
以上の化学分析、リートベルト解析、57Feメスバウワ分光スペクトル測定および磁化測定により得られる各パラメータは、いずれも実施例1および実施例2による材料の方が、比較例1による材料に比して、リチウムイオン二次電池の正極材料として、充放電に好適な材料であることを明らかにしている。
層状岩塩型リチウム-鉄-マンガン複合酸化物の結晶構造を概略的に示す図面である。 実施例1により得られた試料の透過型電子顕微鏡写真である。 実施例1により得られた試料の実測による(上方に示す)および計算による(下方に示す)X線回折図である。両者の残差および計算回折図により予想されるピーク位置(縦棒)を回折図の下に示してある。 実施例1により得られた試料を正極として使用するリチウム二次電池の充放電特性を示すグラフである。 実施例1により得られた試料の室温における57Feメスバウワ分光スペクトルを示すチャートである。 実施例1により得られた試料の室温における磁化の磁場依存性を示すチャートである。

Claims (3)

  1. 層状岩塩型構造を有し、組成式Li1+x(FeyMn1-y)1-xO2(但し、0.4≦y≦0.6かつ0.33≧x≧0.2)で表されるリチウム-鉄-マンガン系複合酸化物を製造する方法において、
    (1)鉄塩-マンガン塩混合水溶液を20℃以下に保持しつつ、アルカリを添加することにより、鉄-マンガン共沈物を形成させる工程、
    (2)得られた共沈物を酸化する工程、
    (3)得られた酸化物にリチウム塩水溶液と酸化剤とを加えた後、100〜400℃で水熱反応処
    理する工程、および
    (4)水熱反応処理生成物を50〜200℃で乾燥する工程
    を備えたことを特徴とするリチウム-鉄-マンガン系複合酸化物の製造方法。
  2. 工程(1)における保持温度を10℃以下とする請求項1に記載のリチウム-鉄-マンガン系複
    合酸化物の製造方法。
  3. 請求項1または2に記載の方法で得られたリチウム-鉄-マンガン系複合酸化物にさらにリチウム塩を混合した後、大気中、酸化雰囲気中または還元雰囲気中200〜1000℃で焼成す
    るリチウム-鉄-マンガン系複合酸化物の製造方法。
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