JP4187418B2 - 車両走行状態制御装置及び車両 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ブレーキペダルからアクセルペダルへの踏み換え時など、車両が坂路下方へずり落ちる(ずり下がる)際に機能する車両走行状態制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ブレーキペダルからアクセルペダルへ踏み換える際などに、登坂路において車両が坂路下方へずり落ちる状況となった場合に、自動的に制動力を作用させる技術が知られている。例えば特開平10−16745号には、運転者が前進操作をしているにもかかわらず、車両の後退が検知された場合に、制動力を作用させて車両の後退速度を緩和させる技術が開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、このようなずり落ち時の制動力制御を継続して実施すると、制御中の後退速度において、そのまま後退できるものと、運転者が判断してしまうおそれがある。このずり落ち速度を緩和させる制御は、本来、ブレーキペダルからアクセルペダルへの踏み換え時などに機能して、運転者の操作を一時的に補うための制御である。従って、運転者のブレーキ・アクセル操作を補いつつも、適切なブレーキ・アクセル操作を運転者に促す必要がある。
【0004】
また、ずり落ち速度の緩和用として一時的に制動力を作用させる程度であれば、所定車輪に制動力を作用させる車両の旋回挙動制御や加速スリップを抑制するトラクション制御等で用いるブレーキアクチュエータをそのまま利用できるが、ずり落ち速度の緩和制御を長時間継続させることを想定すると、より耐久性の強い別のブレーキアクチュエータが必要となる。
【0005】
本発明はこのような課題を解決すべくなされたものであり、その目的は、登坂路での発進操作の際に運転者の操作を補いつつ、適切なブレーキ・アクセル操作を運転者に促すことができる車両走行状態制御装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明にかかる車両走行状態制御装置は、前進操作又は後退操作に基づく車両の進行方向に対して、逆方向に車両が進行した際に、車両の走行制御を行う車両走行状態制御装置であって、前進・後退操作を検知する操作状態検知手段と、実際に車両が進行する実進行方向を検知する実進行方向検知手段と、運転者のブレーキ操作とは別に、所定の車輪に制動力を付与する制動力付与手段と、操作状態検知手段の検知結果から把握される運転者の進行希望方向と実進行方向とが逆方向の場合に、制動力付与手段の動作制御を実施して、車両の実進行方向と同じ方向に回転する車輪に対して制動力を作用させる制御手段と、この制御手段による制御が所定時間を超えて継続した場合に、車両の実進行方向と同じ方向に回転する車輪に対する制動力の作用を終了させるように、制動力付与手段の動作制御を行う終了制御手段とを備えて構成する。
【0007】
制御手段では、運転者の進行希望方向と実進行方向とが逆方向の場合、すなわち車両が坂路下方へずり落ちている場合に、ずり落ち方向に回転している車輪に対して制動力が作用するように、制動力付与手段の動作制御を実施して、車両のずり落ち速度を緩和させる。そして、終了制御手段では、制御手段による制御が所定時間を超えて継続した場合に、この制御手段による制御を終了させて、運転者に適切なブレーキ・アクセル操作を促す。また同時に、制動力付与手段が長時間動作することを回避して、制動力付与手段の保護を図る。
【0008】
また、本発明にかかる車両走行状態制御装置では、終了制御手段は、制御手段によって制御中の制動力付与手段を、運転者の発進操作に基づいて直ちに非制御状態とした場合に比べて、車輪に作用する制動力が緩慢な減少傾向となるように、制動力付与手段の動作制御を行うことを特徴とする。
また、本発明にかかる車両は、坂路においてブレーキペダルが離された場合に、ずり下がりに抗するための制動力が車輪に付与される車両であって、制動力を付与する制動力付与手段と、制動力を制御する制動力制御手段と、を備え、制動力制御手段は、所定時間が経過して付与した制動力を低減する場合には、緩やかに制動力を低減すると共に、運転者の発進操作に基づいて付与した制動力を低減する場合には、緩やかな低減に比べて直ちに制動力を低減することを特徴とする。
ここで、上記制御手段は、制御対象の車輪がロック状態である場合、付与した制動力を所定量低減させることが好ましい。このとき、所定量は付与した制動力よりも小さいことが好ましい。
【0009】
このように終了制御手段では、制動力付与手段の動作制御を直ちに非制御状態として制御を終了させた場合に比べて、車輪に作用する制動力が緩慢な減少傾向となるように、制動力の減少状態を制御する。これにより、車両のずり落ち速度が大きく変化することが防止されると共に、運転者に対してずり落ち速度を緩和させる制動力制御が終了することを知らせる。また、ブレーキペダルやアクセルペダルを踏むための十分な時間的余裕を、運転者に与える。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態につき、添付図面を参照して説明する。
【0011】
図1に、実施形態かかる4輪駆動車両の駆動系を概略的に示す。エンジン1の回転出力は、変速機2を介して変速され、さらにセンターデファレンシャル3を介して前輪側の駆動軸4Fと後輪側の駆動軸4Rとに配分される。また、前輪側の駆動軸4Fがフロントデファレンシャル5Fを介して左右の駆動軸6FL、6FRに連結され、駆動軸6FL、6FRには、左右前輪となる車輪FL、FRが連結されている。また、後輪側の駆動軸4Rがリアデファレンシャル5Rを介して左右の駆動軸6RL、6RRに連結され、駆動軸6RL、6RRには、左右後輪となる車輪RL、RRが連結されている。このような機構を介して、エンジン1の駆動トルクが各車輪FL,FR,RL,RRに伝達される。
【0012】
各車輪FL,FR,RL,RRには制動装置20を設けており、制動装置20を構成するホイールシリンダ21と、マスタシリンダ30とを接続する作動液の液圧系には、運転者のブレーキ操作とは別に、ホイールシリンダ21内の液圧を増減制御するブレーキアクチュエータ200を設けている。
【0013】
図2に、ブレーキアクチュエータ200の構成を概略的に示す。なお、ブレーキアクチュエータ200は、各車輪FL,FR,RL,RRの制動装置20毎に、独立に液圧を制御し得る機構となっており、図2には1つの車輪に関するブレーキアクチュエータ200の構成を代表的に示すが、他の車輪に関しても同様な構成となっている。
【0014】
マスタシリンダ30とホイールシリンダ21とを接続する管路201には、遮断弁(非通電時:開弁)210を備えており、作動液の液圧制御を実行する際に閉弁して、マスタシリンダ30とホイールシリンダ21との間の管路201を遮断する。また、遮断弁210よりもホイールシリンダ21側の管路201には、保持弁(非通電時:開弁)220を備えており、保持弁220を閉弁させることで、保持弁220からホイールシリンダ21側の液圧系を閉塞状態とすることができる。
【0015】
保持弁220とホイールシリンダ21との管路201は、管路202によって、リザーバ40に接続しており、この管路202には減圧弁(非通電時:閉弁)230を備えており、通電状態/非通電状態の2値状態の駆動制御信号によって減圧弁230をduty駆動することで、管路202の連通状態を変化させることができる。
【0016】
モータ50によって回転駆動される液圧ポンプ51は、制動力を制御する際の液圧源として機能し、液圧ポンプ51の吐出口は、管路203を介して、遮断弁210と保持弁220との間の管路201に接続している。なお、液圧ポンプ51の吐出口側には、吐出方向とは逆方向の作動液の流れを阻止する逆止弁253を設けている。
【0017】
一方、液圧ポンプ51の吸込口側は、管路204を介してリザーバ40に接続しており、管路204には、吸込方向とは逆方向の作動液の流れを阻止する逆止弁251、252を配している。
【0018】
この逆止弁251、252の間の管路204は、管路205を介してリザーバタンク31に接続されており、リザーバタンク31内の作動液は、管路204を介して、液圧ポンプ51に吸い込まれる。また管路205の途中には、この管路205を開閉させる吸込弁(非通電時:閉弁)240を備えている。
【0019】
このように、液圧ポンプ51や各種の弁装置などによって構成されるブレーキアクチュエータ200は、制御装置100によって動作制御が実施される。
【0020】
図3に示すように、制御装置100には、各車輪FL,FR,RL,RRの回転方向と回転速度を検出すべく、各車輪FL,FR,RL,RRに対応して設けられた車輪速センサ110、シフトレバーのシフトポジションを検知するシフトポジションセンサ120、ブレーキペダル10の踏み込み量を検出するブレーキペダルセンサ130、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルセンサ140などの検出結果が与えられる。
【0021】
次に、制御装置100で実施するアクチュエータ200の制御処理のうち、登坂路などにおいて車両が坂路下方へずり落ちる状態となった場合に、このずり落ち状態を緩和させる制御処理について、図4のフローチャートに沿って説明する。なお、この制御は各車輪毎に個別に実施しているため、図4のフローチャートでは、特定の1車輪に関する制御フローチャートを示す。
【0022】
このフローチャートはイグニションスイッチのオン操作によって起動する。まず、ステップ(以下、「ステップ」を「S」と記す)102に進み、シフトポジションセンサ120の検知結果をもとに運転者の進行希望方向を判定する。これは、シフトレバーが前進側のシフトポジションに操作されている場合には運転者の進行希望方向は前進方向であり、シフトレバーが後退側のシフトポジションに操作されている場合には運転者の進行希望方向は後退方向であると判定する。
【0023】
続くS104では、前進・後退のうち車体が実際に進行している方向となる、車体の実進行方向を判定する。
【0024】
例えば、坂路で発進する状況では、ブレーキペダルからアクセルペダルへ踏み換える際に、ブレーキペダル10及びアクセルペダルがともに踏み込まれていない状態が一時的に生じるため、坂路下方へ車体がずり落ちる状態となる場合がある。このような場合には、通常、各車輪FL,FR,RL,RRは車体のずり落ち方向と同じ方向に回転することになるため、車輪(特定の車輪又は全車輪)の回転方向をもとに車体の実進行方向が判定できる。
【0025】
また、この実施形態では、4輪駆動車両を例に説明しているため、例えば、S102で判定した運転者の進行希望方向と反対方向に回転している車輪が1輪でも存在する場合(全車輪の回転方向が一致していない場合)には、車体の実進行方向は進行希望方向とは逆方向であると判定することも可能である。
【0026】
いずれかの判定手法によって車体の実進行方向を判定した後、S106に進み、ずり落ち緩和制御が実行中か否かを示すフラグFの値が、実行中を示すF=1に設定されているかを判断する。初期時にはフラグFの値がF=0に設定されているため、「No」と判断されてS108に進む。
【0027】
S108では、S102及びS104の判定結果をもとに、車体の実進行方向と運転者の進行希望方向とが一致しているかが判断され、車体の実進行方向と運転者の進行希望方向とが一致する場合には、S108で「Yes」と判断され、このままこのルーチンを終了する。
【0028】
これに対し、車体の実進行方向と運転者の進行希望方向とが逆方向である場合には(S108で「No」)、S110に進み、フラグFの値をF=1にセットしてずり落ち緩和制御の実行中を示し、続くS112では、ずり落ち緩和制御の実行時間を計時するタイマのカウントを開始する。
【0029】
前述したように、ブレーキペダル10及びアクセルペダルがともに踏み込まれていない状態で、坂路下方へ車体がずり落ちている状況では、各車輪FL,FR,RL,RRは車体のずり落ち方向と同じ方向に回転している。そこで、続くS114では、ホイールシリンダ圧を、予め規定したΔP1だけ増圧させる増圧制御を実施して、車輪の回転速度を緩和すべく比較的小さな制動力を付与する。
【0030】
図2を参照すると、ブレーキアクチュエータ200の増圧制御時には、遮断弁210に通電して閉弁状態とし、かつ吸込弁240に通電して開弁状態とし、モータ50を駆動して液圧ポンプ51から作動液を圧送させる。これにより、管路203及び管路201を経由して、作動液がホイールシリンダ21内に供給される。そして、ΔP1の増圧分に対応する時間が経過した後、保持弁220に通電して閉弁状態とすることで、ホイールシリンダ21の内圧がΔP1だけ増加した状態となる。なお、このΔP1は、車輪がロックしない程度に制動力が作用するように、予め規定した増圧値である。
【0031】
このような制御処理が各車輪FL,FR,RL,RRの制動装置20に対して実施され、この制御処理により、車体のずり落ち方向に回転している各車輪に対して制動力が作用して、車体のずり落ち速度が抑制されることになる。
【0032】
次のルーチンでは、S102及びS104において同様に、運転者の進行希望方向と車体の実進行方向が判定された後、S106に進み、ずり落ち緩和制御が開始されている場合には、フラグFの値がF=1に設定されているため、S106で「Yes」と判断されてS115に進む。
【0033】
このフローチャートの制御処理では、運転者がブレーキペダルからアクセルペダルへ踏み換えることを前提としており、アクセルペダルが踏み込まれることで車体の実進行方向が反転して、運転者の進行希望方向と一致した場合には、速やかに車体のずり落ち緩和制御を終了させることが望ましい。そこで、S115では、S102及びS104の判定結果をもとに、再び車体の実進行方向と運転者の進行希望方向とが一致しているかが判断され、車体の実進行方向と運転者の進行希望方向とが一致する場合には、S115で「Yes」と判断され、S130以降の制御終了処理に移行する。なお、S130以降の制御終了処理については後に説明する。
【0034】
また、各車輪の動きに着目し、車体としては坂路下方へのずり落ち状態ではあるが、エンジン1の駆動力が伝達される結果、運転者の進行希望方向に回転を始めた車輪が存在する場合には、この車輪には、車体のずり落ち緩和制御を終了させることが望ましい。そこで、前回のルーチンで制動力が付与されたものの、依然として車体の実進行方向と運転者の進行希望方向とが逆方向である場合には、S115で「No」と判断されてS116に進み、さらに、制御対象となっている車輪の回転方向が、運転者の進行希望方向と一致したかを判断する。その結果、このフローチャートで制御対象となる車輪の回転方向が、車体の進行希望方向と一致した場合には、S116で「Yes」と判断されてS130以降の制御終了処理に移行する。従って、アクセルペダルが踏み込まれることで、回転方向が進行希望方向と一致した車輪から、順次、ずり落ち緩和制御が終了する。
【0035】
これに対し、車輪が車体のずり落ち方向に回転している間は、S116で「No」と判断されてS118に進む。
【0036】
S118では、先のS112で開始したタイマのカウント値Tが所定のしきい値Ta以下であるかを判断する。このしきい値Taは、運転者が現状の速度において坂路下方へ走行できるものと判断してしまうことを防止すると共に、ブレーキアクチュエータ200を構成する遮断弁210などの各弁装置を、継続通電による発熱から保護するために、予め規定した時間である。このしきい値となるTa時間は、設計思想やブレーキアクチュエータ200の耐久性等に応じて適宜設定することができ、特に限定するものではないが、一例としては3秒程度である。
【0037】
タイマのカウント値Tがしきい値Ta以下の場合には、S118で「Yes」と判断されてS120に進む。
【0038】
ずり落ち緩和制御が好適に機能している場合には、車輪は坂路下方へ向かって徐々に回転するが、低μ路など、車輪と路面との間の摩擦力が小さい場合には、前回のルーチンにおけるS114で設定した制動力によっても、車輪がロック状態となる場合も起こり得る。そこで、S120では、制御対象の車輪について、車輪の回転が停止したロック状態であるかを判断する。
【0039】
この結果、車輪がロック状態でない場合には、S120で「No」と判断されてS122に進み、前回のルーチンにおいて設定されたホイールシリンダ圧がそのまま保持される。
【0040】
これに対し、制御対象の車輪がロック状態である場合には、S120で「Yes」と判断されてS124に進み、現在設定されているホイールシリンダ圧をΔP2(ΔP1>ΔP2)だけ減圧させる減圧制御を実施する。
【0041】
図2を参照すると、この減圧制御は、所定のduty比による駆動制御信号を減圧弁230に供給して減圧弁230をduty駆動する。これにより、保持弁220とホイールシリンダ21との間に蓄えられていた作動液が、減圧弁230を経由してリザーバ40に流出する状態となる。そして、ΔP2の減圧分に対応する時間が経過した後、減圧弁230に対する通電を停止して閉弁状態とすることで、ホイールシリンダ21の内圧がΔP2だけ低下した状態となる。
【0042】
次回以降のルーチンにおいても、制御対象の車輪がロック状態の場合には、S124に進んで同様な減圧制御が実施され、ロック状態から脱するまでS124の処理が実施される。このような処理を実施することで、車輪がロック状態となることを防止しつつ、ずり落ち方向に回転する車輪の回転速度を緩和させることができる。
【0043】
このようなずり落ち緩和制御がしきい値Ta時間を超えて継続した場合には、S118で「No」と判断されてS126に進み、さらにこのカウント値Tが別のしきい値Tb(Ta<Tb)以下であるかが判断される。このしきい値となるTb時間は、S128で実施した緩減圧制御を継続させる時間であり、ブレーキペダル10やアクセルペダルを踏むための十分な時間的余裕を運転者に与え、かつ、急激な圧力抜けを防止して所定の緩やかな減圧勾配を描くように、予め規定した時間である。特に限定するものではないが、一例としては8秒程度である。
【0044】
タイマのカウント値TがTaを超えて、Ta<T≦Tbの状況では、S126で「Yes」と判断されS128に進み、このずり落ち緩和制御を徐々に終了させるための緩減圧制御を実施する。
【0045】
通常、ブレーキアクチュエータ200に対する制御を終了する場合には、モータ50を停止状態とすると共に、各弁装置(遮断弁210、保持弁220、減圧弁230、吸込弁240)に対する通電を停止する処理が実施される。通常の終了処理では、各弁装置を非通電状態とするため、遮断弁210が開弁状態、保持弁220が開弁状態、減圧弁230が閉弁状態、吸込弁240が閉弁状態となる。図5に示すように、T=0で制御を開始してからT=Taとなるまでの間は、ホイールシリンダ圧が所定圧に維持され、Ta時間が経過した時点で直ちにこのような終了処理を実施した場合を想定すると、ホイールシリンダ圧は、図5に一点鎖線で示すように急激に減少するように推移する。
【0046】
そこで、S128で実施する緩減圧制御は、図5の一点鎖線aで示す減少勾配よりも緩やかな減少勾配となるように、ホイールシリンダ圧の減圧制御を実施する。すなわち、この緩減圧制御では、遮断弁210及び保持弁220に通電して閉弁状態としつつ、duty比が例えば10%程度の駆動制御信号を減圧弁230に供給して減圧弁230をduty駆動する。なお、減圧弁230はduty比が100%の駆動制御信号が供給された場合に全開状態となる。
【0047】
これにより、保持弁220とホイールシリンダ21との間に蓄えられていた作動液が、減圧弁230によって流通量が制御されつつ、管路202を経由してリザーバ40に流出するため、図5の実線bで示すように、ホイールシリンダ圧が徐々に低下する状態となる。
【0048】
このような緩減圧制御を実施している間に先のS126で「No」、すなわちタイマのカウント値Tがしきい値Tbを超えた場合には、S130に進み、前述したような通常の制御終了処理を実施する。すなわち、モータ50を停止状態とすると共に、各弁装置を非通電状態とする。この処理により、遮断弁210が開弁状態、保持弁220が開弁状態、減圧弁230が閉弁状態、吸込弁240が閉弁状態となり、ホイールシリンダ圧は、緩減圧制御時に比べて大きな減少勾配となるが、十分に減圧された状態で終了制御処理が開始されるように、予めしきい値Tbを設定しているため、制動力が大きく変化することはない。
【0049】
この後、S132に進んでタイマのカウント値をリセットし、続くS134ではフラグFの値をF=0にリセットし、次回以降のルーチンに備える。
【0050】
なお、このようにタイマのカウント値TがT≦Tbである間に、運転者のアクセル操作によって、車体の実進行方向と運転者の進行希望方向とが一致した場合(S115で「Yes」)や、車輪の回転方向と運転者の進行希望方向が一致した場合(S116で「Yes」)には、車体のずり落ち緩和制御を終了させるべく、S130〜S134の処理に移行する。
【0051】
なお、フローチャートでは省略したが、ずり落ち緩和制御が実行中(フラグF=1)の状況下で、ブレーキペダル10が踏み込まれた場合には、ブレーキペダル10の踏み込みが検知された時点で、S130〜S134を実行して、ずり落ち緩和制御を直ちに終了させる。
【0052】
以上説明した実施形態では、タイマのカウント値TがTa<T≦Tbの間、減圧弁230を、duty比が10%程度の駆動制御信号によって開閉動作させる場合について例示したが、この間、必ずしもduty比を一定に維持する場合に限定するものではない。例えば、ホイールシリンダ圧が段階的に減少するように駆動制御信号のduty比を段階的に変化させるなど、図5の一点鎖線aで示す減少勾配よりも緩やかな減少勾配となるように、ホイールシリンダ圧の緩減圧制御が実施できればよい。
【0053】
また、S104で実施する車体の実進行方向の判定手法としては、前述した判定手法の他にも、例えば3輪の回転方向が揃った場合には、その回転方向を車体の実進行方向とするなど、特に限定するものではない。また、2輪駆動車両の場合であれば、非駆動輪となる従動輪の回転方向を車体の実進行方向として判定する。
【0054】
さらにこの他にも、対地速センサを用いて、車体の実進行方向を直接的に検知することもできる。例えば車載した対地速センサから、車両後方の路面に向かって所定周波数の超音波を送信し、その反射波を受信する。この際、例えば受信波の周波数が送信波の周波数よりも高い場合には、車体が後退していると判定でき、受信波の周波数が送信波の周波数よりも低い場合には、車体が前進していると判定できる。
【0055】
また、以上説明した実施形態では、図4のフローチャートがイグニションスイッチのオン操作によって起動するものとして説明したが、この例に限定するものではなく、例えば、シフトレバーのシフトポジションが前進位置或いは後退位置にあって、ブレーキペダル10及びアクセルペダルの双方が、ともに踏み込まれていない状況下で、このフローチャートを起動させても良い。
【0056】
さらに、以上説明した実施形態では、制動力を作動液の液圧で制御する場合について説明したが、この他にも、モータで発生する駆動力によって制動力を発生する電子モータブレーキの動作制御においても、このまま適用することが可能である。この場合も、タイマのカウント値TがTa<T≦Tbの間は、通常の制御終了処理における制動力の減少傾向に比べて、緩慢な減少傾向となるように、電子モータブレーキで発生する駆動力を徐々に減少させる緩減少制御を実施する。
【0057】
以上説明した実施形態では、図2で示すように、バキュームブースタタイプのブレーキシステムにおけるアクチュエータを例示したが、この他にもハイドロブースタを備えたブレーキシステムのアクチュエータや、モータにより車輪に制動力を与えるアクチュエータでもよく、運転者のブレーキ操作とは別に車輪に制動力を与え得るブレーキアクチュエータであれば、特に限定するものではない。
【0058】
【発明の効果】
本発明にかかる車両走行状態制御装置は、運転者の進行希望方向と車体の実進行方向とが逆方向の場合に、車両の実進行方向と同じ方向に回転する車輪に対して制動力を作用させる制御手段を備えると共に、制御手段による制御が所定時間を超えて継続した場合に、この制御手段による制御を終了させる終了制御手段とを備える構成を採用した。
【0059】
これにより、制御中の速度において、坂路下方へそのまま走行できるものと、運転者が判断してしまうことを防止できると共に、運転者のブレーキ・アクセル操作を補いつつ、適切なブレーキ・アクセル操作を運転者に促すことが可能となる。また、制動力付与手段が長時間継続して動作することを防止できるため、継続通電による発熱から、制動力付与手段を保護することができる。
【0060】
また、本発明にかかる車両走行状態制御装置によれば、制御手段によって制御中の制動力付与手段を直ちに非制御状態とした場合に比べて、車輪に作用する制動力が緩慢な減少傾向となるように、終了制御手段によって制動力付与手段の動作制御を行うこととした。
【0061】
これにより、車両のずり落ち速度が大きく変化することを防止することができる。また、運転者に対してずり落ち速度を緩和させる制動力制御が終了することを知らせると共に、ブレーキペダルやアクセルペダルを踏むための十分な時間的余裕を、運転者に与えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態に係る車両の駆動系及び液圧制御系を概略的に示す構成図である。
【図2】ブレーキアクチュエータの構成のうち、1つの車輪の制動力制御に関する液圧制御系を代表的に示す構成図である。
【図3】電気系及び液圧系の全体的な制御系の構成を概略的に示すブロック図である。
【図4】車両のずり落ち速度緩和制御を示すフローチャートである。
【図5】車両のずり落ち速度緩和制御の継続時間に対する、ホイールシリンダ圧の推移例を示すグラフである。
【符号の説明】
1…エンジン、10…ブレーキペダル、20…制動装置、21…ホイールシリンダ、100…制御装置、200…ブレーキアクチュエータ、210…遮断弁、220…保持弁、230…減圧弁、240…吸込弁
Claims (6)
- 前進操作又は後退操作に基づく車両の進行方向に対して、逆方向に車両が進行した際に、制動力の制御を行う車両走行状態制御装置であって、
前進・後退操作を検知する操作状態検知手段と、
実際に車両が進行する実進行方向を検知する実進行方向検知手段と、
運転者のブレーキ操作とは別に、所定の車輪に制動力を付与する制動力付与手段と、
前記操作状態検知手段の検知結果から把握される運転者の進行希望方向と、前記実進行方向とが逆方向の場合に、前記制動力付与手段の動作制御を実施して、車両の実進行方向と同じ方向に回転する車輪に対して制動力を作用させる制御手段と、
前記制御手段による制御が所定時間を超えて継続した場合に、前記車両の実進行方向と同じ方向に回転する車輪に対する制動力の作用を終了させるように、前記制動力付与手段の動作制御を行う終了制御手段とを備え、
前記終了制御手段は、前記制御手段によって制御中の前記制動力付与手段を、運転者の発進操作に基づいて直ちに非制御状態とした場合に比べて、車輪に作用する制動力が緩慢な減少傾向となるように、制動力付与手段の動作制御を行うことを特徴とする車両走行状態制御装置。 - 前記制御手段は、制御対象の車輪がロック状態である場合、付与した前記制動力を所定量低減させることを特徴とする請求項1記載の車両走行状態制御装置。
- 前記所定量は、付与した前記制動力よりも小さいことを特徴とする請求項2記載の車両走行状態制御装置。
- 坂路においてブレーキペダルが離された場合に、ずり下がりに抗するための制動力が車輪に付与される車両であって、
前記制動力を付与する制動力付与手段と、
前記制動力を制御する制動力制御手段と、を備え、
前記制動力制御手段は、
所定時間が経過して付与した制動力を低減する場合には、緩やかに前記制動力を低減すると共に、運転者の発進操作に基づいて付与した前記制動力を低減する場合には、前記緩やかな低減に比べて直ちに前記制動力を低減することを特徴とする車両。 - 前記制御手段は、制御対象の車輪がロック状態である場合、付与した前記制動力を所定量低減させることを特徴とする請求項4記載の車両。
- 前記所定量は、付与した前記制動力よりも小さいことを特徴とする請求項5記載の車両。
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