JP4170426B2 - 単結晶引上げ装置用高温部材及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、チョクラルスキー(CZ)法等による単結晶引上げ装置内の高温雰囲気下で使用される部材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
この種の単結晶引上げ装置の主要部は、図1に示すようにシリコン等の半導体材料を溶融するため石英ルツボ(以下単に「ルツボ」という。)1と、該石英ルツボ1を装着して支持するためのルツボ10としての部材と、このルツボ1の周囲に配置されるヒートシールド(図中、符号なし)としての部材から構成される。ヒートシールドは熱を遮蔽したり、幅射したり、シリコン蒸気を整流したり、装置内温度の均熱性や保温性を良くしたりすることを目的とした部材の総称であり、主にインナーシールド2、アッパーリングシールド3、ロアーリングシールド4、下部シールド5及び上部シールド6から構成される。
【0003】
インナーシールド2は、ルツボ1を加熱するための黒鉛ヒーター8を包囲する円筒形状のものであり、アッパーリングシールド3やロアーリングシールド4は、それぞれインナーシールド2の上下に位置し、いずれも中空円板形状のものである。また、下部シールド5は、ルツボ1の下側に位置し、ルツボ支持回転軸7が通過できる穴を中央部に有し、縦断面が円錐筒状のものが一般的である。さらに、上部シールド6は、ルツボ1の上方に位置しており、シリコン単結晶9が通過できる開口を中央部に有し、縦断面が逆円錐筒状のものである。以下、これらの部材(図中符号2,3,4,5,6)を特に峻別する必要がない場合は、「ヒートシールド」の総称で代表的に説明する。
【0004】
上記したような、単結晶引上げ装置内の高温雰囲気下で使用される部材(以下「高温部材」と略記する。)としては、従来から機械的強度及び耐熱性に優れた黒鉛製の高温部材が用いられてきた。そして、支持ルツボ10が黒鉛製の場合には、内側の石英ルツボ1との熱膨張差に起因する割れを防ぐため、一般に分割型の支持ルツボを用いている。このため、ルツボの製造や引上げ装置のメンテナンスが煩雑になりやすいという事情がある。また、最近では単結晶の大口径化に伴い、単結晶引上げ装置も大型化の傾向にあり、支持ルツボ10をはじめとする装置内の高温部材(図中2,3,4,5,6など)の重量増加が問題とされている。このような重量増加は装置内の自由空間の狭小化とも相まって、いきおいハンドリング性能の低下につながるからである。
【0005】
こうした状況下で、軽量でありながら高強度かつ耐熱性を有し、石英ルツボ1との熱膨張差もあまり変わらない炭素繊維強化炭素複合材(以下「C/C材」という。)が着目され、すでにC/C材からなる支持ルツボ10については公知とされており(実公平3−43250号公報)、また支持ルツボ10以外の高温部材についてもより薄肉化(軽量化)が可能で装置経済性を改善できるとして、その採用が検討されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、C/C材の長所である軽量という特性は、組織構造的に見れば黒鉛よりもはるかにポーラス(多孔質)ということであり、このためC/C材を単結晶引上げ装置内という特殊の高温雰囲気下における高温部材として用いた場合、C/C材製高温部材自体が被るダメージが黒鉛製部材よりも大きく、従って、寿命もむしろ短くなってしまうということが明らかとなってきた。即ち、単結晶引上げ装置の運転中は、支持ルツボ10の上部付近が溶融した単結晶材料11及び石英ルツボ1から発生するSiOガスで充満するため、支持ルツボ10自体や溶融単結晶材料11の上部付近に直面するヒートシールド(図中では主として2,3,6の部材が相当)にC/C材製を使用していれば、その表面に存在する多くの微小気孔にSiOガスが入り込み、むき出しの炭素原子Cと反応してSiC化が容易に進行する。この結果、いわゆる「くわれ」と言われる表層部が欠ける現象が急速に進み、短期間のうちに寿命が尽き、新たな高温部材の交換を余儀なくさせられることになる。
【0007】
また、装置の構造上、温度が比較的低くなる部分に位置するヒートシールド(図中では、主として4の部材,2の部材の下側が相当)の内面には、特にその表面の微小気孔を核としてその周辺でシリコン蒸気が凝縮し、付着しやすくなる。そして、一旦付着すると、シリコン固化物が徐々に堆積し、ヒートシールドの内面全体又は一部をでこぼこ(凹凸)状態にしてしまう。このようなでこぼこ(凹凸)状態が生じたヒートシールドは、冷却後に変形し又は反りとなって現れるため、繰り返して使用することができなくなり、結局寿命が尽きることになる。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、C/C材製高温部材の本来有する長所(軽量かつ高強度という点)を生かしつつ、その短所である、SiC化反応に起因した「くわれ」現象又はシリコン付着成長に起因した冷却後の変形現象が生じやすい点を解消し得る高温部材を提供する点にある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成し得た本発明のうち請求項1記載の発明は、C/C材を全部又は一部に含んで形成される単結晶引上げ装置用高温部材であって、前記C/C材が特性として、嵩密度が1.54g/cm3以上、曲げ強度が192MPa以上、引張り強さが240MPa以上の値を有し、かつ該C/C材の表面の全体又は一部に熱分解炭素の析出層が、前記炭素繊維強化炭素複合材の表面に存在する微小開気孔の内部を被覆して形成されてなることを特徴とする。また、請求項2記載の発明は、炭素繊維強化炭素複合材を全部又は一部に含んで形成される単結晶引上げ装置用高温部材であって、前記炭素繊維強化炭素複合材が特性として、嵩密度が1.63g/cm3以上、曲げ強度が165MPa以上、引張り強さが210MPa以上の値を有し、かつ該炭素繊維強化炭素複合材の表面の全体又は一部に熱分解炭素の析出層が、前記炭素繊維強化炭素複合材の表面に存在する微小開気孔の内部を被覆して形成されてなることを特徴とする。
【0010】
これらにより、C/C材製高温部材の表面に存在する多くの微小開気孔(奥の深い開気孔を含む)の内面にまで熱分解炭素が効率良く析出できるようになり、高温部材の表面全体にわたってCとSiOガスとの反応が有効に抑制され、SiC化の進行を阻止することができる。また、高温部材の表面に存在する微小窪み全体が熱分解炭素で埋められる結果、シリコンの凝縮が起こりやすい核としての微小窪みをなくすことができるので、シリコンの付着を大きく抑制することができる。従って、従来の黒鉛製高温部材の内面に生じていた程のシリコン付着層による著しいでこぼこ(凹凸)状態の形成を回避することができ、この結果、冷却後の変形,反りを防止することができる。しかも、C/C材として、ある程度の機械的強度を有するものを使用するので、上記の特有の作用効果を確保しながら高温部材の一層の薄肉化を図ることが可能となり、装置の軽量化ひいてはハンドリング性能の一層の向上に貢献することができる。
【0011】
また、請求項3記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明の構成のうち、C/C材が特性として、さらに弾性係数が50GPa以上、シャルピー衝撃強さが30kgcm/cm2以上の値を有するものであることを特徴とする。これにより、請求項1記載の発明の効果を一層確実,顕著なものとすることができる。
【0012】
また、請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明の構成のうち、高温部材がルツボであることを特徴とする。これにより、軽量かつ高強度でありながらも、SiC化を阻止でき、くわれが発生しにくく長寿命の単結晶引上げ装置用ルツボを提供することができる。
【0013】
また、請求項5記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明の構成のうち、高温部材がヒートシールドであることを特徴とする。これにより、軽量かつ高強度でありながらも、SiC化を阻止でき、くわれが発生しにくく又変形や反りの少ない長寿命の単結晶引上げ装置用ヒートシールドを提供することができる。
【0014】
また、請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明の構成のうち、ヒートシールドが、インナーシールド、アッパーリングシールド、ロアーリングシールド、下部シールド又は上部シールドのいずれかであることを特徴とする。これにより、単結晶引上げ装置の少なくとも主要なヒートシールドの延命化を可能として、装置の運転コストの低減化を図ることができる。
【0015】
また、請求項7記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の発明の構成のうち、高温部材の表面に形成される前記熱分解炭素が、RC(ラフコラム),ISO(アイソ)組織もしくはSC(スムースコラム)組織又はこれらを組み合わせた組織の結晶構造からなるものであることを特徴とする。熱分解炭素をSiC化が進みにくい組織の結晶構造を有するものに任意に形成可能とすることで、請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の発明の効果を一層確実、顕著なものとすることができる。
【0016】
また、請求項8記載の発明の製造方法は、嵩密度が1.54g/cm3以上、曲げ強度が192MPa以上、引張り強さが240MPa以上の特性値を有するC/C材の表面の全体又は一部に、前記炭素繊維強化炭素複合材の表面に存在した微小開気孔の内部表面に、熱分解炭素の析出層を被覆形成するように、化学蒸着法により熱分解炭素の析出層を形成する工程を含むことを特徴とする。また、請求項9記載の発明の製造方法は、嵩密度が1.63g/cm3以上、曲げ強度が165MPa以上、引張り強さが210MPa以上の特性値を有する炭素繊維強化炭素複合材の表面の全体又は一部に、前記炭素繊維強化炭素複合材の表面に存在した微小開気孔の内部表面に、熱分解炭素の析出層を被覆形成するように、化学蒸着法により熱分解炭素の析出層を形成する工程を含むことを特徴とする。これらにより、C/C材製高温部材の本来有する長所(軽量かつ高強度という点)を生かしつつ、その短所である、SiC化反応に起因した「くわれ」現象又はシリコン付着成長に起因した冷却後の変形現象が生じやすい点を解消し得る長寿命の高温部材を得ることができる。
【0017】
また、請求項10記載の発明は、請求項8又は9に記載の発明の構成のうち、C/C材が特性として、さらに弾性係数が50GPa以上、シャルピー衝撃強さが30kgcm/cm2以上の値を有するものであることを特徴とする。これにより、請求項8又は9に記載の発明で得られる高温部材に比べ同等以上の長寿命を有する高温部材を得ることができる。
【0018】
さらに、請求項11記載の発明は、請求項8〜10のいずれか1項に記載の発明の構成のうち、化学蒸着法により熱分解炭素を析出する速度が、0.2μm/hr以下であることを特徴とする。これにより、請求項7又は請求項8に記載の発明で得られる高温部材よりもSiOガス反応抑制力の点でさらに優れた効果を発揮し得る高温部材を得ることができる。
【0019】
上記において、C/C材とは、炭素繊維にピッチ又は樹脂を含浸させてプリプレグにして成形し、炭素化処理、黒鉛化処理を施して得られたものであり、黒鉛の特性を有しつつ機械的強度を向上させたものである。製法としては、まず成形体の製作に際し、ピッチ系又はPAN系の炭素繊維を出発物質とするUD又は2−Dに樹脂を含浸させたプリプレグにして積層・硬化させたり、3−D又はn−D織物に樹脂を含浸させて加熱・硬化させる等の方法が有効である。
【0020】
また、高温部材がルツボの場合は、上記方法以外にも、フィラメントワインディング(FW)法の実施が可能であり、この方法により炭素繊維を巻き付けた後加熱・硬化させることによりルツボ成形体を効率よく得ることができる。こうして製作された成形体に対して非酸化性雰囲気下で炭化を行い、炭素化C/Cにする。続いてピッチ又は樹脂の再含浸、炭化、又はCVD処理を繰り返しながら緻密化を行う。次に高温熱処理を行なって黒鉛化C/Cにする。最後に高純度化処理(ハロゲンガスと反応させて金属不純物を除去する処理)を行うことにより、単結晶引上げ装置用の高温部材に適したC/C材を得る。
【0021】
このようにして得られたC/C材は内部に炭素繊維を有する複合材であるがために、全体的にポーラスであり、特に表面には開気孔等に起因する微小な窪みが多数散らばった状態で存在している。このような状態の表面にSiOガスが接触すると、マトリックスであるむき出し状態の炭素原子Cと容易に反応してSiC化し、つまり「くわれ」が生じやすくなり、またシリコン蒸気が接触すると、雰囲気温度の低下と共にシリコン蒸気の凝縮が微小な窪みを中心として進み、シリコン付着層が形成されやすくなる。
【0022】
そこで、かかるSiC化の進行やシリコン付着層の形成を阻止又は可能な限り遅らせるために、C/C材の表面に存在する多数の微小開気孔の内面を覆うように、また微小な窪みの内面を埋めるように、熱分解炭素を析出する手段が非常に有効となる。
【0023】
ここで、熱分解炭素は、炭化水素類を熱分解させて基材の表面から内部にかけて析出せしめる緻密質で高純度の気液不透過性に優れた炭素である。従って、この熱分解炭素を、C/C材からなる成形体の表面部に析出せしめ、上記のように多数の開気孔の内面を覆うことによりSiOガスとC/C材の表面に現れた炭素原子Cとの接触を断ち、また多数の微小窪みを埋めることによりシリコン蒸気がC/C材の表面に凝着しにくくして、SiC化の進行やシリコン付着層の形成を効果的に抑制することができる。
【0024】
なお、熱分解炭素の析出は、SiC化が進みやすい部分やシリコン蒸気の蒸着が進みやすい部分のみに実施することも可能である。例えば、ルツボであれば、内面だけ全体的に析出させるとか、内面のうちわん曲隅部のみに又はわん曲隅部と直胴部のみに析出させることも可能である。また、ヒートシールドについて言えば、例えばインナーシールドであれば上部内面のみに析出させたり、ロアーリングシールドやアッパーリングシールドであればリングの内面側のみに析出させても十分な効果を発揮することができる。
【0025】
熱分解炭素の析出速度によっては、析出層の形成厚みに注意する必要がある。即ち、形成される析出層が厚すぎると、C/C基材との熱膨張係数の差が影響してC/C材に亀裂が生じやすくなり、またC/C材から剥離しやすくなるからである。具体的には、上記亀裂や剥離を回避するためには、析出層の厚み100μm以下となるように、より好ましくは20μm以下となるように熱分解炭素を析出させればよい。しかし、析出層の厚みがあまり薄すぎても良くない。例えば、搬送途中の接触等によりひっかき傷が生じただけでC/C材がむき出し状態となれば、SiC化抑制効果がなくなるからである。この観点から、厚みが少なくとも1μm以上となるように熱分解炭素を析出させることが望ましい。
【0026】
また、C/C材は、その特性として、嵩密度が1.54g/cm3以上、曲げ強度が192MPa以上、引張り強さが240MPa以上(若しくは、嵩密度が1.63g/cm 3 以上、曲げ強度が165MPa以上、引張り強さが210MPa以上)であるものが望ましく、さらに特性として弾性係数が50GPa以上、シャルピー衝撃強さが30kgcm/cm2以上であるものがより好ましい。ある程度の機械的強度が確保されたC/C材を使用することにより、SiC化反応に起因した「くわれ」現象やシリコン付着成長に起因した冷却後の変形現象の発生防止という効果に加えて、一層の薄肉化が可能となり、装置の軽量化ひいてはハンドリング性能の一層の向上にもつながるC/C材製高温部材とすることができるからである。
【0027】
また、熱分解炭素をC/C材の表面部に析出させるには、炭化水素類あるいは炭化水素化合物に対して濃度調整用として通常窒素ガスまたは水素ガスを用い、炭化水素濃度3〜30%好ましくは5〜15%とし、全圧を100Torr以下にして反応操作をすればよい。このような操作を行った場合、炭化水素がC/C材の表面から内部にかけて脱水素、熱分解、重合などによって巨大炭素化合物を形成し、これがC/C材上に析出し、更に脱水素反応が進み、最終的に緻密な熱分解炭素の析出層がC/C材の表面から内部にかけて形成される。なお、一般に基材の表面に比較的厚みの薄い「被覆層」を形成する操作を「CVD法」と称し、また基材の比較的深部にまで析出させて「含浸層」を形成する操作を「CVI法」と称して区別されることがあるが、本発明でいう「析出層」は、これらの「被覆層」及び「含浸層」の両方を含む概念である。
【0028】
析出の温度範囲は一般に800〜2500℃までの広い範囲であるが、C/C材の深部まで析出させるためには1300℃以下の比較的低温領域で反応操作することが望ましい。また、C/C材の奥深くにまで存在する多数の微小開気孔表面にまで熱分解炭素を析出させるためには、析出速度を遅めにし、具体的には0.2μm/hr以下にコントロールすることが望ましい。さらに、熱分解炭素の析出効率を高めるために、いわゆる等温法、温度勾配法、圧力勾配法、パルス法等の操作を適宜使用することも可能である。
【0029】
また、熱分解炭素の組織の形態のうち、上記にいうISO組織とは光学的に等方的な組織をいい、RC組織とは粗い柱状の炭素組織をいい、SC組織とは滑らかな柱状の炭素組織をいう。熱分解炭素の析出層は、前記のISO組織、RC組織、SC組織のいずれかの組織の結晶構造を有するように形成し、また、これらを組み合わせた組織の結晶構造を有するように形成するものであっても、SiC化を抑えることができる。なお、操業条件により析出速度が早い場合は、SC組織が形成されやすく、遅くなるほどRC組織やISO組織が形成されやすくなるという特徴がある。従って、これらの点を考慮して、任意に析出する組織を制御することが可能である。
【0030】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明に係る単結晶引き上げ装置用高温部材の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
(1)図2は、本発明に係るルツボの一例についての縦断面図であり、C/C材製のルツボ本体22の表面の全体に熱分解炭素の析出層23aが形成されたルツボ21を示している。また、C/C材としては、ルツボに必要な機械的強度を確保すると共に熱分解炭素の析出のし易さを考慮して、その特性として、嵩密度が1.3 g/cm3以上、曲げ強度が80MPa 以上、引張り強さが100MPa 以上、シャルピー衝撃強さが30kgcm/cm2以上、弾性係数が50GPa 以上の値を有するものを使用する。
【0031】
図3に示すルツボ31は、図2に示されるルツボ21と異なる構成例であり、ルツボ本体32の内面の一部に熱分解炭素を析出させた例を示している。即ち、図3のルツボ31では、わん曲隅部32bと直胴部32aがC/C材により形成され、底部32cが黒鉛材により形成されたルツボ本体32の内面のうち、わん曲隅部32bと直胴部32aのみに熱分解炭素を析出させた例を示している。図中33aは、熱分解炭素の析出層である。
【0032】
なお、ルツボの形状は、図2や図3に示すように一般にコップ状をしており、具体的に図2について言えば、底部22cと、該底部22cに連続してわん曲しながら上方へ立ち上がる部分、つまりわん曲部22bと、このわん曲隅部22bに連続して真っ直ぐ上方に伸び上がる直胴部22aとによって構成される。
【0033】
また、C/C材からなるルツボ本体22の製造は、後の実施例の項で説明するフィラメントワインディング(FW)法による以外に、炭素繊維からなる2−Dクロスに樹脂を含浸させて積層する方法や短繊維を使用した分散型C/Cの製造法等により行うこともできる。
【0034】
上述のように熱分解炭素は、ルツボ本体22の表面に存在する微小開気孔の内面を被覆したり、微小な窪みを埋めるように析出させるものであるが、その析出作用の様子をさらに詳しく説明する。図4は、C/C材製ルツボの表面の一部拡大断面図であり、同図(a)は、ルツボ本体42の表面全体に熱分解炭素の析出層43が良好に形成されている状況を模式的に示しており、同図(b),(c)はその形成が良好でない状況を模式的に示している。なお、図4における析出層43とは、図2における析出層23aや図3における析出層33aの両者を含む意味である。
【0035】
ルツボ本体42の表面及び内部には、開気孔44や閉気孔45のように微小な孔が存在している。これらの孔のうち開気孔44は表面の窪み(深い窪みと浅い窪みの両者を含めた意味の窪み)を形成するので、C/C材の表面積は見かけ以上に大きい。特に、図示のように入口が狭く内部が広い開気孔(窪み)については、図4(a)のように開気孔44の内面にまで十分に熱分解炭素の析出層43を形成する必要がある。
【0036】
この熱分解炭素の析出層43の形成を、例えば析出速度が比較的速い条件で行うと、図4(b)に示すように析出層43は開気孔44の開口部を覆うに止まり、その内部にまで十分に行き渡らない。このような状態の開口部は強度的に不安定で弱いため亀裂46が生じやすく、熱分解炭素析出層が行き渡っていない内側部分(C/C材がむき出し状態となっている部分)44aをSiOガス存在下の外部に晒す恐れがある。またC/C材によっては、図4(c)に示すように開気孔44の開口部が塞がれていない場合もあり、この場合も図4(b)の場合と同様、C/C材が露出している部分44aをSiOガス存在下の外部に晒すことになる。
【0037】
従って、多くの開気孔44が存在するルツボ本体42の表面部に熱分解炭素の析出層を円滑に形成するには、熱分解炭素の析出速度があまり早くならないようにし、開気孔44の内部まで十分に析出させる必要がある。この観点からすると、熱分解炭素の析出速度は、0.2μm/hr以下とすることが望ましい。
【0038】
また、この析出層43を構成する熱分解炭素は、ISO組織、RC組織もしくはSC組織又はこれらを組み合わせた組織の結晶構造からなるものであってもよい。これらのいずれの組織構造を有する熱分解炭素であっても、SiC化の抑制効果を発揮できるからである。なお、CVI処理において析出速度を遅くするにつれて、析出する熱分解炭素の組織はISO組織やRC組織となり、C/C材のより深部にまで析出するようになる。
【0039】
(2)図5は、本発明に係るC/C材製のヒートシールドの設置例を示す縦断面図であり、その内面(ルツボ側空間に接触する表面)の全体に斜線で示すように熱分解炭素の析出層12を形成している。C/C材としては、上述のルツボと同じ特性のもの、即ち、嵩密度が1.3 g/cm3以上、曲げ強度が80MPa 以上、引張り強さが100MPa 以上、シャルピー衝撃強さが30kgcm/cm2以上、弾性係数が50GPa 以上のものを使用する。析出層12を形成するには、上述のルツボの場合と同様に実施すればよく、この形成によって図4で説明した作用効果と同様、表面に存在する窪みの内面又は窪み全体も熱分解炭素の析出層で覆われ又は埋められることになる。従って、ルツボの場合と同様、SiOガスとヒートシールド内面の炭素原子Cとの接触を断ち、SiC化の進行を阻止することができる。また、インナーシールド2の下側は比較的低温になるので、この付近でシリコン蒸気は凝縮しやすくなるが、インナーシールド2の内面下側にも熱分解炭素の析出層12を形成しておくことにより、シリコン蒸気の凝縮,付着を有効に回避し、抑制することができる。
【0040】
図5は、ヒートシールドとして筒状のインナーシールド2全体をロアーリングシールド4の内周側上部で支えると共に、インナーシールド2の上端にはアッパーリングシールド3の内周側下部を直接取り付け、さらにこのアッパーリングシールド3の内周側上部で上部シールド6を支える構造例を示したものである。
【0041】
ヒートシールドとしてインナーシールド2,アッパーリングシールド3、ロアーリングシールド4及び上部シールド6が離れて配置される場合は、基本的に空間Sに対してむき出し状態となる表面に熱分解炭素の析出層を形成すればよいが、その場合でも、単結晶引上げ時に発生するSiOガスやシリコン蒸気の量又はこれらがルツボを中心とする空間Sをただよう際の挙動によっては、SiOガスやシリコン蒸気の影響を受けやすい部分が比較的限定される場合もありうる。このような場合は、その影響を受けやすい部分の表面にのみ熱分解炭素の析出層を設けるだけでも、本発明の目的をほぼ有効に達成することができる。さらに、通常は上部シールド6が最も影響を受けやすいことを考慮し、もちろん上部シールド6に対しても本発明は有効であるが、経済的観点からこの上部シールド6だけを使い捨て部材として構成することも可能であり、例えば黒鉛等の基材の上にSiCコートを施したものを採用することも可能である。
【0042】
(3)次に本発明の高温部材を組み込んだ単結晶引上げ装置の運転例について図6を参照しつつ説明する。図6において単結晶引上げ装置の主要部分は、本発明に係るルツボ61と、ルツボ61によりその内側に支持される石英ルツボ1と、ルツボ61の外側で一定距離の位置にルツボ61を覆うように設けられるヒーター8と、さらにその外側に配置されるヒートシールドによって構成されている。ヒートシールドの構成は、図5と同様であり、インナーシールド2,アッパーリングシールド3、ロアーリングシールド4,下部シールド5及び上部シールド6により形成される。13は、インナーシールド2の外周に装着された断熱材層である。
【0043】
ヒータ8が高温に加熱されると、ルツボ61を通して石英ルツボ1の内部が加熱され、石英ルツボ1の内部に蓄えられる結晶の原料が溶融される。ルツボ61は、ルツボ受台14の上に支持されており、このルツボ受台14が図示しない駆動機構により回転軸7を介して回転することで、その内側の石英ルツボ1と一体となって回転する。
【0044】
単結晶の製造は、ヒータ8の加熱によって石英ルツボ1内の結晶原料を溶融しつつルツボ61を回転させながら成長させることにより行うので、ヒーター8の周囲は高温の環境となる。特にルツボ61の上部付近、従って空間S内の上側は下側に比べてより高温雰囲気となる。そのため、石英ルツボ1内で溶融した結晶原料11の上部付近にはSiOガスが発生する。また、同時にシリコン蒸気も立ち上がり、空間S内をヒートシールドに沿って流れる。
【0045】
しかし、ルツボ61は、前述のようにその表面に熱分解炭素の析出層が形成されているので、SiOガスに晒されても、ルツボ本体を構成するC/C材表面部の炭素原子Cとの接触を効果的に遮断でき、SiC化の進行を阻止することができる。また、インナーシールド2,アッパーリングシールド3、ロアーリングシールド4,下部シールド5及び上部シールド6で構成されるヒートシールドの内面にも熱分解炭素の析出層が形成されている(図中、析出層12と表記している)ので、ルツボの場合と同様のSiC化進行抑制効果を発揮できると共に、比較的低温となりやすい部分でのシリコンの凝縮,付着現象の発生,進行を抑制することができる。
【0046】
単結晶の製造が終了すると、ヒータ8の加熱は終わり、ルツボ61および石英ルツボ1は冷却される。単結晶製造時における加熱により、ルツボ61および石英ルツボ1は、それぞれの熱膨張係数に基づいて膨張するが、加熱を終えた後の冷却工程では、これらのルツボは収縮する。石英ルツボ1の構成材であるSiO2 とルツボ61の構成材であるC/C材とは、その熱膨張差が少なく、膨張と収縮による変形差に伴うこれら二つのルツボ間で生ずる歪みは少なく、熱応力による破壊の問題は生じない。また、ルツボ61は、機械強度の高いC/C材により構成されているので、冷却時のSi残渣のルツボ径方向および高さ方向の膨張による応力に十分耐えることができる。
【0047】
また、ヒートシールドであるインナーシールド2,アッパーリングシールド3、ロアーリングシールド4,下部シールド5及び上部シールド6の内面には、シリコン付着層がほとんど形成されないが、たとえ形成されてもごくわずかであるため、冷却後にこれらのヒートシールドに変形や反りが生ずることはほとんどない。
【0048】
【実施例】
(実施例1及び実施例2)
まず、ルツボ本体(図2の22相当)を形成するC/C材からなる成形体の製造の概略を説明する。製造は、ルツボ2個取り用のFW法に従った。即ち、外形600mmの金属製マンドレルの両端部に球面形状の黒鉛製成形型を取り付けて、全体をカプセル形状の成形型とした。このカプセル成形型をFW装置にセットした後、表面に離型紙を貼り、その上からCF(炭素繊維)材の12Kロービング材にフェノール樹脂(住友デュレス製)を含浸させながら、パラレル巻きとレベル巻きを行った。成形型に対する巻付け角度としては、パラレル巻きは中心軸に対する角度が90°、レベル巻きは1〜10°の範囲に設定して行った。
【0049】
次に、200℃のオーブン中に10時間保持して、樹脂を完全に硬化させた。この硬化体を中央で2分割した後、電気炉にセットし、N2 気流中で1000℃の焼成を行った。次に、焼成により生じた気孔の充填と緻密化の促進のために、ピッチ含浸及び焼成の操作を3回繰り返した。その後、2000℃の熱処理(黒鉛化処理)を行った後、さらに2000℃でハロゲンガスと反応させて高純度化処理を行った。こうして嵩密度が1.3 g/cm3以上、曲げ強度が80MPa 以上、シャルピー衝撃強さが30kgcm/cm2以上、弾性係数が50GPa 以上、引張り強さが100MPa 以上の物性からなるC/C材成形体(ルツボ)を得た。但し、物性は、ルツボの直胴部相当材についての測定値である。
【0050】
上記のC/C材ルツボ(直胴部相当材)から60×10×厚み3(mm)の試験小片を切り出し、そのうちの2つに対して以下の要領でそれぞれのCVD処理(実施例1)とCVI処理(実施例2)を行って、各試験小片の表面部に対して熱分解炭素の析出層を形成した。
【0051】
〔CVD処理〕
上記の如く切り出した試験小片を真空炉内に配置し、2000℃まで昇温した後、CH4 ガスを5l/minの割合で流しながら圧力を5Torrにコントロールしつつ3時間保持し、試験小片の表面に10μmの厚みで熱分解炭素の析出層を形成した。
〔CVI処理〕
以下の要領でCVI処理を行った。即ち、他の試験小片を真空炉内に配置し、1100℃まで昇温した後、CH4 ガスを10l/minの流速で流しながら、圧力を10Torrにコントロールしつつ100時間保持した。試験小片の表面には熱分解炭素の被覆層としては10μmの厚みしか形成されなかったが、CVI処理後の試験小片の重量は実施例1のCVD処理で得た試験小片に比べて約3倍も増加しており、実施例2では試験小片の奥深くまで熱分解炭素が析出していることが確認できた。
【0052】
(比較例1)
実施例1,2の形成に用いられた60×10×厚み3(mm)のC/C材ルツボ品の小片を従来型C/C材ルツボの試験片とした。
【0053】
上記の実施例1,2及び比較例1で得られた各試験小片について、SiOガスとの反応試験を行った。SiOガスとの反応に伴う試験片の重量増加率(%)及びSiC化率(%)は、下記の算出式により求めた。SiOガスとの反応試験は、各試験小片を真空炉内にセットし、温度1800℃、圧力100torrの条件下でSiOガス雰囲気中に5時間さらした。
【0054】
SiOガスが炭素原子Cに接触すると、以下の式で表される反応が進行する。
SiO + 2C → SiC + CO↑
従って、試験前の質量であるCの質量をW1 、試験後の質量であるSiCの質量をW2 と表すと、重量増加率(%)は、
重量増加率=(W2 /W1 −1)×100
で計算され、またSiC化率(%)は、モル比に換算して総重量からSiCの重量%を決定し、
で求めることができる。
【0055】
上記で得られた各試験小片(実施例1,2及び比較例1)について物性と重量増加率(%)、SiC化率(%)の結果との関係をまとめて表1に示す。なお、表2中、d1 は試験を行う前における各試験小片のかさ密度(g/cm3)を、d2 は試験を行った後における各試験小片のかさ密度(g/cm3)を表している。
【0056】
【表1】
【0057】
表1から明らかなように、実施例1,2のSiC化率はいずれも比較例1に比べて低い結果となっており、熱分解炭素析出層の形成によるSiC化抑制効果が得られていることが分かる。
【0058】
(実施例3,実施例4)
次に、本発明に係るインナーシールドの試験小片を製作すべく、以下の要領で実施した。まず炭素繊維織布、いわゆるCFクロスとして6K平織り(トレカT−300)を使用し、このCFクロスにフェノール樹脂(住友デュレス製PR−50273)を含浸させた後、樹脂量及び揮発分を調整してプリプレグを得た。
【0059】
次に、このプリプレグを300×300(mm)に裁断したものを、定盤の上に順々に40枚積み重ね、一番上に耐熱ナイロンシートを掛けて真空パックし、真空引きしながら160℃に設定したオーブン内に2時間放置して熱硬化させた。こうして300×300×厚み12(mm)の大きさで嵩密度1.35の炭素繊維強化樹脂複合材(CFRP)を得た。
【0060】
得られたCFRPを電気炉にセットし、N2 ガスを流しながら10℃/hの昇温速度で800℃まで昇温し、C/C材を得た。この後、ピッチ含浸,焼成を3回繰り返して緻密化処理を行った。さらに、最終熱処理としてはN2 ガスを流しながら2000℃まで加熱した。こうして黒鉛化処理を行った後、さらに2000℃でハロゲンガスと反応させて高純度化処理を行い、最終的に、嵩密度1.6(g/cm3),曲げ強さ155MPa,引張り強さ205MPa,弾性係数105GPa,シャルピー衝撃強さ45kgcm/cm2 の物性からなる2D−C/C材を得た。この2D−C/C材から60×10×厚み3(mm)の試験小片を切り出し、そのうち2つに対してルツボの場合と同じ要領でそれぞれCVD処理(実施例3)とCVI処理(実施例4)を行って、各試験小片の表面に10μmの厚みで熱分解炭素の析出層を形成した。
【0061】
得られたインナーシールド用試験小片(実施例3,4)についても物性を調べた後、上述のルツボについての試験小片(実施例1,2及び比較例1)の場合と同様にSiOガスとの反応試験を行って、重量増加率(%)及びSiC化率(%)を調べた。その結果を表2に示す。
【0062】
(比較例2)
実施例3,4の形成に用いられた60×10×厚み3(mm)の2D−C/C材を従来型C/C材インナーシールドの試験片とし、これについても実施例3,4と同様にSiOガスとの反応試験を行った。その結果を表2に併せて示す。
【0063】
【表2】
【0064】
表2から明らかなように、本発明インナーシールドに係る実施例3のSiC化率は比較例2に比べて約74%も少なく、また実施例4のSiC化率は比較例2に比べて約77%も少なくなっており、いずれの場合も熱分解炭素析出層の形成によりSiC化抑制効果が得られていることが分かる。また、CVI処理により熱分解炭素の析出層を形成させた場合には、さらに優れたSiC化抑制効果が得られることが分かる。
【0065】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のうち請求項1記載の発明は、C/C材を全部又は一部に含んで形成される単結晶引上げ装置用高温部材であって、前記C/C材が特性として、嵩密度が1.3g/cm3以上、曲げ強度が80MPa以上、引張り強さが100MPa以上の値を有し、かつ該C/C材の表面の全体又は一部に熱分解炭素の析出層を、前記炭素繊維強化炭素複合材の表面に存在する微小開気孔の内部を被覆して形成したものである。また、請求項2記載の発明は、炭素繊維強化炭素複合材を全部又は一部に含んで形成される単結晶引上げ装置用高温部材であって、前記炭素繊維強化炭素複合材が特性として、嵩密度が1.63g/cm3以上、曲げ強度が165MPa以上、引張り強さが210MPa以上の値を有し、かつ該炭素繊維強化炭素複合材の表面の全体又は一部に熱分解炭素の析出層が、前記炭素繊維強化炭素複合材の表面に存在する微小開気孔の内部を被覆して形成されてなることを特徴とする。
【0066】
これらにより、C/C材製高温部材の表面に存在する多くの微小開気孔(奥の深い開気孔を含む)の内面にまで熱分解炭素が効率良く析出できるようになり、高温部材の表面全体にわたってCとSiOガスとの反応が有効に抑制され、SiC化の進行を阻止することができる。また、高温部材の表面に存在する微小窪み全体が熱分解炭素で埋められる結果、シリコンの凝縮が起こりやすい核としての微小窪みをなくすことができるので、シリコンの付着を大きく抑制することができる。従って、従来の黒鉛製高温部材の内面に生じていた程のシリコン付着層による著しいでこぼこ(凹凸)状態の形成を回避することができ、この結果、冷却後の変形,反りを防止することができる。しかも、C/C材として、ある程度の機械的強度を有するものを使用するので、上記の特有の作用効果を確保しながら高温部材の一層の薄肉化を図ることが可能となり、装置の軽量化ひいてはハンドリング性能の一層の向上に貢献することができる。
【0067】
また、請求項3記載の発明によれば、請求項1又は2に記載の発明の効果を一層確実,顕著なものとすることができる。また、請求項4記載の発明によれば、軽量かつ高強度でありながらも、SiC化を阻止でき、くわれが発生しにくく長寿命の単結晶引上げ装置用ルツボを提供することができる。また、請求項5記載の発明によれば、軽量かつ高強度でありながらも、SiC化を阻止でき、くわれが発生しにくく又変形や反りの少ない単結晶引上げ装置用ヒートシールドとすることができる。
【0068】
また、請求項6記載の発明によれば、単結晶引上げ装置の少なくとも主要なヒートシールドの延命化を可能として、装置の運転コストの低減化を図ることができる。また、請求項7記載の発明によれば、熱分解炭素をSiC化が進みにくい組織の結晶構造を有するものに任意に形成可能とすることで、請求項1〜6のいずれか一項に記載の発明の効果を一層確実、顕著なものとすることができる
【0069】
また、請求項8又は9に記載の発明によれば、C/C材製高温部材の本来有する長所(軽量かつ高強度という点)を生かしつつ、その短所である、SiC化反応に起因した「くわれ」現象又はシリコン付着成長に起因した冷却後の変形現象が生じやすい点を解消し得る長寿命の高温部材を製造することができる。
【0070】
また、請求項10記載の発明によれば、請求項8又は9に記載の発明で得られる高温部材に比べ同等以上の長寿命を有する高温部材を得ることができる。さらに、請求項11記載の発明によれば、請求項8〜10のいずれか1項に記載の発明で得られる高温部材よりもSiOガス反応抑制力の点でさらに優れた効果を発揮し得る高温部材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】代表的な単結晶引上げ装置の要部断面概略説明図である。
【図2】本発明に係るルツボの縦断面図である。
【図3】本発明に係る他のルツボの縦断面図である。
【図4】C/C材製ルツボの表面の一部拡大断面図であり、(a)は表面に熱分解炭素の被覆層が良好に形成された状態を示し、(b)及び(c)はその形成が良好でない状態を示している。
【図5】本発明に係るヒートシールドを配置した単結晶引上げ装置の要部断面概略説明図である。
【図6】本発明に係る高温部材を配置した単結晶引上げ装置の運転状況を示す概略断面説明図である。
【符号の説明】
1 石英ルツボ
2 インナーシールド
3 アッパーリングシールド
4 ロアーリングシールド
5 下部シールド
6 上部シールド
7 回転軸
8 ヒーター
9 シリコン単結晶
11 溶融結晶原料
12,23a,33a,43 熱分解炭素被覆層
13 断熱材層
14 ルツボ受台
21,31,61 熱分解炭素を被覆したルツボ
44 開気孔
45 閉気孔
46 亀裂
Claims (11)
- 炭素繊維強化炭素複合材を全部又は一部に含んで形成される単結晶引上げ装置用高温部材であって、前記炭素繊維強化炭素複合材が特性として、嵩密度が1.54g/cm3以上、曲げ強度が192MPa以上、引張り強さが240MPa以上の値を有し、かつ該炭素繊維強化炭素複合材の表面の全体又は一部に熱分解炭素の析出層が、前記炭素繊維強化炭素複合材の表面に存在する微小開気孔の内部を被覆して形成されてなることを特徴とする単結晶引上げ装置用高温部材。
- 炭素繊維強化炭素複合材を全部又は一部に含んで形成される単結晶引上げ装置用高温部材であって、前記炭素繊維強化炭素複合材が特性として、嵩密度が1.63g/cm3以上、曲げ強度が165MPa以上、引張り強さが210MPa以上の値を有し、かつ該炭素繊維強化炭素複合材の表面の全体又は一部に熱分解炭素の析出層が、前記炭素繊維強化炭素複合材の表面に存在する前記微小開気孔の内部を被覆して形成されてなることを特徴とする単結晶引上げ装置用高温部材。
- 炭素繊維強化炭素複合材が特性として、さらに弾性係数が50GPa以上、シャルピー衝撃強さが30kgcm/cm2以上の値を有するものである請求項1又は2に記載の単結晶引上げ装置用高温部材。
- 高温部材がルツボである請求項1〜3のいずれか1項に記載の単結晶引上げ装置用高温部材。
- 高温部材がヒートシールドである請求項1〜3のいずれか1項に記載の単結晶引上げ装置用高温部材。
- ヒートシールドが、インナーシールド、アッパーリングシールド、ロアーリングシールド、下部シールド又は上部シールドのいずれかである請求項5記載の単結晶引上げ装置用高温部材。
- 高温部材の表面に形成される前記熱分解炭素の析出層が、RC(ラフコラム),ISO(アイソ)組織もしくはSC(スムースコラム)組織又はこれらを組み合わせた組織の結晶構造からなるものである請求項1〜6のいずれか一項に記載の単結晶引上げ装置用高温部材。
- 嵩密度が1.54g/cm3以上、曲げ強度が192MPa以上、引張り強さが240MPa以上の特性値を有する炭素繊維強化炭素複合材の表面の全体又は一部に、前記炭素繊維強化炭素複合材の表面に存在した微小開気孔の内部表面に、熱分解炭素の析出層を被覆形成するように、化学蒸着法により熱分解炭素の析出層を形成する工程を含むことを特徴とする単結晶引上げ装置用高温部材の製造方法。
- 嵩密度が1.63g/cm3以上、曲げ強度が165MPa以上、引張り強さが210MPa以上の特性値を有する炭素繊維強化炭素複合材の表面の全体又は一部に、前記炭素繊維強化炭素複合材の表面に存在した微小開気孔の内部表面に、熱分解炭素の析出層を被覆形成するように、化学蒸着法により熱分解炭素の析出層を形成する工程を含むことを特徴とする単結晶引上げ装置用高温部材の製造方法。
- 炭素繊維強化炭素複合材が特性として、さらに弾性係数が50GPa以上、シャルピー衝撃強さが30kgcm/cm2以上の値を有するものである請求項8又は9に記載の単結晶引上げ装置用高温部材の製造方法。
- 化学蒸着法により熱分解炭素を析出する速度が、0.2μm/hr以下である請求項8〜10のいずれか1項に記載の単結晶引上げ装置用高温部材の製造方法。
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