JP4166096B2 - シートベルトリトラクター - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両緊急時にウェビングの引き出しを抑えて乗員の移動を抑制すると共に、乗員へ作用する衝撃荷重を吸収するエネルギー吸収手段を備えたシートベルトリトラクターに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
シートベルトリトラクターにおいて、従来からコンパクト化を犠牲にすることなくエネルギー吸収性能を向上させたものが知られている。
一例として、ロッキングベース及びウェビングが巻装されるボビン(巻取ドラム)の双方に係合する線材(ワイヤ)を有してロッキングベースとボビンとの相対回転の際に、線材をしごいてそれによって、エネルギーを吸収するエネルギー吸収手段を装備したシートベルト装置(特許文献参照)が知られている。
【0003】
【特許文献】
特開2002−53007号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従来のシートベルト装置においては、線材(ワイヤ)は、ロッキングペースに一端が取り付けられた係合ピンを蛇行するよう係合されている。
この時、係合ピンにしごかれる前の線材の一部としごかれた後の線材の一部が、線材を巻き付けるボス部と同一平面上に設けられているので、線材の長さを長く設定することができず、エネルギー吸収(EA)時問を長くすることは出来ない。また、係合ピンもボス部と同一平面上に取り付けられているので、間隔が狭く、線材を複数回重ね合わせて巻き付けることができないという問題がある。
したがって、本発明の目的は、前記従来の問題を解決するためになされたものである。
【0005】
すなわち、その目的は、変形部材を渦巻状に複数回巻回して長くし、巻取軸又はトーションバー並びに変形部材(ワイヤ)の両部材によるエネルギー吸収(EA)時間を長くとることができ、また、プレート体の巻取部との間隔を大きくとることができ、変形部材(ワイヤ)を巻取部の外周方向上に複数回に巻き付けることができるようにすることである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係る発明は、ウェビングが巻装された巻取ドラムと、巻取ドラムに嵌挿され、その一端部が巻取ドラムの一端部に相対回転不能に結合されると共に、ウェビングの巻取方向に付勢されたトーションバーと、トーションバーの他端部に配置されウェビング引出方向への回転を抑止する緊急ロック機構と、車両の緊急時に緊急ロック機構を作動させるロック起動装置と、巻取ドラムの他端部側面に近接するその側面に巻取部を有すると共にトーションバーの他端部に相対回転不能に結合されたプレート体と、プレート体の巻取部に一端が結合され、その一端部に続く部分が巻取ドラムの他端部外周縁に設けられたワイヤ案内部に配置され、該ワイヤ案内部に続く部分は巻取部の巻取面と異なる面上に巻回収納されていると共に、車両緊急時に巻取ドラムによってプレート体の巻取部に巻き付けられるワイヤと、ワイヤの略中間部位を配置させると共に、巻取ドラムの他端部外周縁部に設けられた屈曲路とからなり、前記ワイヤ案内部は屈曲路に設けられ、かつ巻取ドラムとプレート体との間に配置され、プレート体よりワイヤの径の距離だけ離間してプレート体に相対回転不能に結合される円板部材を有すると共にその円板部材がプレート体の巻取部とワイヤの他端側とを覆う構成にしたことを特徴とするシートベルトリトラクターである。
【0007】
請求項1記載の構成によれば、ワイヤを巻取部の外周方向上に位置付けるので、シートベルトリトラクターの構成部材は車両緊急時後も移動せず、各部材の位置関係を一定に保持でき、簡単な構造で設計することができる。変形前のワイヤ(他端側)を収納する外周方向の面がプレート体の巻取部と異なっているので、ワイヤを長く設けることができ、トーションバー並びにワイヤの両部材によるエネルギー吸収時間を長くとることができる。また、屈曲路が巻取ドラムの外周縁に設けられており、プレート体の巻取部との間隔を大きくとることができ、ワイヤを巻取部の外周方向上に複数回に巻き付けていくことができる。
また、ワイヤは、巻取ドラムの他端部外周縁に設けられた屈曲路を摺動して変形部材案内部によって巻取部の外周方向上へ常に位置付けされるので、ワイヤによる安定したエネルギー吸収を行うことができる。
さらに、プレート体に巻き付けられるワイヤは、円板部材によって変形前のワイヤに干渉されず巻取部の同一平面上に整然と重ねられていき、安定したエネルギー吸収を行うことができる。また、変形前のワイヤも巻取ドラムの他端側側面と円板部材とによって巻取ドラムの屈曲路への供給位置が一定に行われ、安定したエネルギー吸収を行うことができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、プレート体の巻取部に取り付けられるワイヤは複数の凸部によって形成された屈曲溝に配置され、その屈曲溝は巻取ドラムの屈曲路の曲率半径より小さく形成されている請求項1に記載のシートベルトリトラクターである。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、曲率半径の差だけで、ワイヤを巻取ドラムの屈曲路から引き出すことができ、固定のために別部材を用いなくてもワイヤの固定を容易に行うことができる。
【0014】
請求項3に係る発明は、プレート体の複数の凸部において、屈曲溝を形成する凸部間で少なくとも一組の相対向するリブを設けると共にそのリブ間はワイヤの径より小さくした請求項2に記載のシートベルトリトラクターである。
【0015】
請求項3に係る発明によれば、プレート体側面の屈曲溝に配置されたワイヤは、その側面から垂直方向(トーションバーの軸方向)へ抜けにくくなり、より強固に固定することができ、組み付け時の初期設定を安定させることができる。また、取付後は、持ち運びや組立作業を容易に行うことができる。
【0016】
請求項4に係る発明は、トーションバーの他端部と、プレート体との間にクラッチ機構を備えた請求項1〜3のいずれか1項に記載のシートベルトリトラクターである。
【0017】
請求項4に係る発明によれば、エネルギー吸収時の荷重を任意に下げることで、乗員の体格、衝突の規模等のパラメータに応じて最適な条件でエネルギー吸収を作動させることができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明のシートベルトリトラクターの好適な実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明に係るシートベルトリトラクター全体の正面図であり、図2は図1のシートベルトリトラクターの要部を構成する巻取ドラム2、コネクタ3、ハウジング9、トーションバー4、ロッキングベース5、ベースストッパ7等の組立てを説明するための分解斜視図である。
【0019】
図2において、シートベルトリトラクターにはウェビングが巻装される略円筒状の巻取ドラム2が設けられている。この巻取ドラム2の中心にはトーションバー4が挿通され、かつ、その一端部は後述するコネクタ3を介して巻取ドラム2の一端部と一体的に結合されると共に、ハウジング9の一対の側板(9b、9c)に回転自在に支持されている。そして、前記側板9cには、巻取ドラム2をウェビング巻取方向に常時回転付勢する渦巻バネ19(図1)が装着され、トーションバー4は、そのウェビングの巻取方向に回転付勢される。
なお、本実施形態においては、衝突時等の緊急時にガス圧等によりウェビングの弛みを巻取り、乗員の移動を規制するプリテンショナー15(図1)も側板9cに具備された構造とされている。
【0020】
ハウジングの側板9b側のトーションバー4の外側他端部には略円盤状のロッキングベース5が一体的に結合されて、ウェビング引出方向への回転を抑止する緊急ロック機構を構成している。
【0021】
トーションバー4の他端部近傍には後述するクラッチ機構が配置されており、巻取ドラム2の他端部側面に近接し、トーションバー4の他端部に後述の第2のエネルギー吸収手段が配置され、車両緊急時の衝撃エネルギーの吸収を、これらトーションバー4(第1のエネルギー吸収手段)と第2のエネルギー吸収手段とで行う。
【0022】
ハウジング9は、車体に固定される背板の両側から左右の側板(9b、9c)が立ち上がり、略コ字状の断面を有するように金属板をプレス成形したものである。左の側板9cには孔9dを、右の側板9bにはロック歯9aを形成し、左右の側板(9b、9c)の対向位置には、巻取ドラム2と組み合されたトーションバー4が回転自在に橋架されており、巻取ドラム2はウェビング巻き取り方向に常時付勢されている。
また、ベースストッパ7は、巻取ドラム2からロッキングベース5が抜けるのを防止するためのである。
【0023】
(第1のエネルギー吸収手段)
図2に示すように、トーションバー4の一端部はこれと同形のコネクタ3の孔に嵌合され、他端部はロッキングベース5と一体回転可能に結合されている。
コネクタ3はハウジング9の側板9cに穿設された孔9dに回転自在に支持され、かつ、巻取ドラム2の一端部に形成されたコネクタ3の外形に対応した六角形の嵌合凹部に嵌合され、これにより、トーションバー4は巻取ドラム2と一体回転可能となっている。
したがって、緊急ロック機構が作動してトーションバー4の他端部が固定されても、トーションバー4の一端部はウェビングの引き出しにより巻取ドラム2と一体に回転し、つまり、巻取ドラム2の回転力でトーションバー4はねじれ、それのねじれ抵抗によりウェビングの引き出しエネルギーを吸収することができる。
このように、トーションバー4は第1のエネルギー吸収手段として働く。
【0024】
(第2のエネルギー吸収手段)
次に第2のエネルギー吸収手段を図3〜7に従って説明する。
図3は、第2のエネルギー吸収手段を構成するプレート組立体2eの組立てを説明するための分解斜視図である。プレート組立体2eは、プレート体2a、複数回巻回された渦巻き状のワイヤ2b及び中心孔の周りに円周状に複数設けた凸部2qを有する円板部材2cからなっている。
【0025】
図3において、ワイヤの一端部2gはプレート体2aに固定し、ワイヤの巻回部2hは円板部材2cの(図3からみて)背面に係止している。
【0026】
図4は第2のエネルギー吸収手段の全体を示した分解斜視図である。プレート組立体2eと巻取ドラム2とをリテーナ2dで取り付ける。
図5は巻取ドラム2の正面図であり、その変形部材案内部は係合ピン14、屈曲路2j、斜面2t等から構成されている。
また、図6及び図7は、図3で示されたプレート体2aとワイヤ2bと円板部材2cとで組み立てられたプレート組立体2eの側面図及びその一部断面正面図である。
【0027】
図4において、巻取ドラム2のロッキングベース側つまり図中左側の端面には、第2のエネルギー吸収手段の一部を構成するための略円形の収納凹部2fが設けられている。さらに、収納凹部2fの中央には、ロッキングベースのボス部5c(図2)を受容する嵌合孔2kが設けられている。収納凹部2fの底面の嵌合孔2kより外周側における所定箇所には、ワイヤ2bと係合するための係合ピン14が設けられている。また、その所定箇所には、ワイヤ2bを位置付ける斜面2t(図5)を形成している。ここでは、3個の略半円状の係合ピン14が、周方向に沿って収納凹部2fの底面に一体的に突設され、ワイヤ2bは渦巻き状をなし、その外周部2iは係合ピン14の円弧状摺接面に適合した湾曲形状となっている。
【0028】
図6は、図3に示された各分解部品を組立てたプレート組立体2eの側面図である。図示のように、円板部材2cとプレート体2aは、渦巻き状のワイヤ2bを介在させた状態で互いに嵌合一体化されている。プレート体2aと円板部材2cはワイヤ2bの略径に相当する距離だけ離間して巻取部2mを形成し、円板部材2cがプレート体2aに相対回転不能に結合する。その際、ワイヤ2bの屈曲した一端部2gはプレート体2aの屈曲溝2n(図7)中に設置して固定している。
【0029】
このようにプレート体2aに一端が固定されたワイヤ2bはプレート体2aと円板部材2cとの間の隙間部分を通って、巻取ドラム2とプレート組立体2eとが相対回転するときに、ワイヤ2bの巻取部2mとなるプレート体2a上面に至っている。
組立て状態では、円板部材2cはプレート体2aの巻取部2mとワイヤ2bの一端部2gとを覆うように構成されている。
【0030】
図7はプレート組立体2eの内部構造を示すためにその一部を破断して示した正面図である。図示のように、プレート体2aの巻取部2mに複数の略半円の凸部2pによって屈曲溝2nを形成し、その屈曲溝2nにワイヤ2bの一端部2gを配置し結合する。その屈曲溝2nは巻取ドラム2の屈曲路2j(図4)の曲率半径より小さく形成する。
【0031】
図8はこの屈曲溝2nの別の実施形態を示すものであって、プレート体2aの複数の凸部2pにおいて、屈曲溝2nを形成する凸部2p間で少なくとも一組の相対向するリブ2rを設け、そのリブ間はワイヤ2bの径より小さくしたものである。
【0032】
図9は、図4に示された巻取ドラム2とプレート組立体2eとの組立てた状態を示す正面断面図、図10は図9に示された組立体の一部切断側面図、図11及び図12は、図9に示された組立体において、緊急ロック機構が作動後において巻取ドラム2がある程度回転した後における正面断面図及び一部切断側面図である。
【0033】
以上の構成からなる第2のエネルギー吸収手段は、巻取ドラム2とロッキングベース5との間に区画された収納空間内に収納される。緊急ロック機構が作動した後、巻取ドラム2が回転すると、図9及び図10に示されたワイヤ2bは図11及び図12に示されたように前記巻取部2mに巻き取られる。
その際、ワイヤ2bは円板部材2cとプレート体2aとの間で、その円板部材2c外周面より突出した湾曲形状の外周部2iを巻取ドラム2の3個の略半円形の係合ピン14に摺接しながら斜面に沿って相対移動する。
【0034】
衝突等の緊急時に緊急ロック機構が作動すると、トーションバー4の他端部に結合されているロッキングベース5のウェビング引き出し方向への回転が阻止される。そして、ウェビングに作用する荷重によって所定以上の回転トルクが巻取ドラム2に作用すると、トーションバー4(第1のエネルギー吸収手段)の一端部で捩り変形が始まる。
これにより、巻取ドラム2がトーションバー4の捩り変形量の分だけ巻取ドラム2が回転し、同時に他端が固定されたウェビング引き出し方向に回転することで、衝撃エネルギーが吸収される。また、トーションバー4の捩り変形の開始によって、巻取ドラム2とロッキングベース5との間に相対回転が発生し、これに基づき第2のエネルギー吸収手段による衝撃エネルギーの吸収も開始される。
【0035】
巻取ドラム2がロッキングベース5に対して回転する間、ワイヤ2bの一端部2gが固定されたプレート体2aはロッキングベース5に結合されて回転せず、他方巻取ドラム2に一体形成された係合ピン14は回転するため、係合ピン14の間でワイヤ2bがしごかれていく。換言すれば、ワイヤ2bは、係合ピン14間を蛇行するように順次しごかれながら係合ピン14間を斜面2tに位置付けされながら摺動していき、その際、高い摺動抵抗及びワイヤ2bの屈曲抵抗が生じ、この摺動抵抗及び屈曲抵抗により、衝撃エネルギーの吸収が行われる。
【0036】
つまり、車両緊急時に緊急ロック機構が作動して、巻取ドラム2に作用するウェビング引き出し方向の荷重が所定以上になると、トーションバー4(第1のエネルギー吸収手段)と第2のエネルギー吸収手段との双方が、それぞれエネルギー吸収機構として作動して、車両緊急時の衝撃エネルギーを吸収する。
【0037】
(クラッチ機構)
次に、プレート体2aと緊急ロック機構のロッキングベース5との係脱を行い、プレート体2aを巻取ドラム2との相対回転可能状態から、ロッキングベース5と切り離して巻取ドラム2と一体回転可能にするクラッチ機構について説明する。
このクラッチ機構は、プレート体2aがトーションバー4の他端部に相対回転不能に設けられた第1状態からトーションバー4の他端部と相対回転可能に設けられた第2状態に切り替えるためのもので、衝突検出後の任意のタイミングで切り替えを開始するクラッチ解除機構をも有している。
【0038】
クラッチ機構は、図2に示されるように、緊急ロック機構に相対回転不能に結合されたジョイントプレート5bと、プレート体2aの巻取ドラム2反対側面に旋回可能に枢着されて、ジョイントプレート5bに面接触して外方へ旋回する3つからなるジョイントパウル12を備えている。
ジョイントパウル12は、弓形部材で、その一端部にはプレート体2aの巻取ドラム2反対側に枢着されるピン12bが形成され、そのピン12bを中心に旋回する。また、その内周壁中央部には内側突部12a(図16)を形成している。
【0039】
ジョイントパウル12を位置決め支持するために断面凹状で円形をなしたパウルホルダ(樹脂バネ)13が設けられている。パウルホルダ13にはその円周上にジョイントパウル12の位置に対応し、かつ、それぞれにリブ13aを形成した爪状部13cが設けられており、そのリブ13aに形成され内部に傾斜した斜面13b、及び前記爪状部13cによりジョイントパウル12外側面に接触することで、その樹脂バネ作用により、ジョイントパウル12を常に軸心方向に付勢させる。
なお、ジョイントパウル12が前記樹脂バネの弾発力に抗して外方に旋回して、パウルホルダ13の前記リブ13aを乗り越えると、パウルホルダ13は押圧解除された前記爪状部13cがジョイントパウル12の内側に復帰し、パウルホルダ13のリブ背面13dがジョイントパウルの切欠部12cに当接する。一方、プレート体2aには、ジョイントパウル12がパウルホルダ13を乗り越えた直後にジョイントパウルのプレート体2aに対する旋回を抑止する突起2sが設けられているため、ジョイントパウル12はパウルホルダのリブ背面13dとプレート体の突起2sに挟持された状態となり、プレート体2aに対して旋回が抑止される。
従って、一度クラッチが切り離された後には、再びクラッチが作動することはない。
【0040】
(クラッチ解除機構)
図13はクラッチを解除するためのリリースリング8、ハウジング9、ケーシング10等の組立てを説明するための分解斜視図であり、図14は図13に示されたリリースリング8、ケーシング10、ピストン10a、ガスジェネレータ10b、ガスジェネレータホルダ11等を拡大した分解斜視図である。
図13及び図14によりクラッチ解除機構を説明すると、リリースリング8はトーションバー4(図2)の他端側のハウジングの側板9bに固定されたケーシング10上に回転可能に載置されており、ジョイントパウル12の外周に配置される。
【0041】
クラッチ解除機構は、図13及び図14に示すように、ケーシング10と、衝突検出後、任意のタイミングで、シリンダ10e内にガスを発生させるガスジェネレータ(ガス発生手段)10bと、ガスの圧力でシリンダ内で押圧駆動され、リリースリング8の外周を押してリリースリング8を回転させるピストン10aとからなっており、ガスジェネレータ10bはガスジェネレータホルダ11によりケーシング10に取り付けられている。
【0042】
リリースリング8の外周には、ピストン10aに当接される当接部8bと、外周上に均一な間隔で配置される3つのテーパ部8aが設けられ、他方、リリースリング8を保持するケーシング10には、回転したリリースリング8のテーパ部8aに対応するテ―パ付き凸部10dが設けられている。
作動時、ガスの圧力により押圧駆動されたピストン10aがリリースリング8の外周に設けられた当接部8bに当り、これにより、リリースリング8が回転する。それによって、リリースリング8のテ―パ部8aがケーシングのテーパ付き凸部10dに案内されて巻取ドラム2(図1)の方へ後退して、ジョイントパウル12(図2)の外周部から後退する。
【0043】
次に、クラッチ機構の動作を図17〜図22に基づいて説明する。
図17〜図22はクラッチ機構の動作を説明するためのその一部を切断した側面図及び断面平面図である。
図17〜図22において、クラッチ機構は、既に述べたように、プレート体2aがトーションバー4の他端部に相対回転不能に設けられた第1状態から、トーションバー4の他端部と相対回転可能に設けられた第2状態に切り替える作動を行う。
組付け状態においては、パウルホルダ13のリブ13aに形成した斜面13b(図15)によりジョイントパウル12は軸中心方向に付勢されている。3個のジョイントパウル12は最も内側に収れんした位置でリリースリング8の内周に非接触状態で固定されており、ジョイントパウル12の内側突部12aがジョイントプレート5bの凸部5dに接触している。
【0044】
ここで、緊急ロック機構が作動すると、ロックパウル6の係止歯6b(図24)がハウジングの側板9bに設けたロック歯9a(図2)と噛合い、ジョイントプレート5bと、回転を続けようするプレート体2aとの間で、相対回転が生じる。このとき、ジョイントパウル12とジョイントプレートの凸部5dとの間でも相対回転が生じ、それによって、ジョイントパウル12の内側突部12aをジョイントプレートの凸部5dが押接することでジョイントパウル12は外周方向に力を受け、外向きに展開しようとする。
その力がパウルホルダ13の付勢力を越したとき、ジョイントパウル12はリリースリング8の内周壁に当接する。ジョイントパウル12がリリースリング8の内周壁に当接して外向きの展開が抑制されたときに、ロッキングベース5とプレート体2aが一体となり、巻取ドラム2とプレート体2aとの間に相対回転が生じて、トーションバー4のエネルギー吸収に加えて、ワイヤ2aがしごかれて第2のエネルギー吸収を行う。
【0045】
次に、この状態でクラッチ解除機構が作動すると、ピストン10a(図14)が作動して、リリースリング8を回転させ、リリースリング8の回転でそのテーパ部8aがケーシングのテーパ付き凸部10d(図14)に案内されて、巻取ドラム2の方へ後退し、ジョイントパウル12外周部からも後退する。
ジョイントパウル12はジョイントプレート5bに面接触して外方に拡開して、ジョイントプレートの凸部5dから外れ、プレート体2aとロッキングベース5とを解除させる。
【0046】
つまり、クラッチ起動機構が作動して、リリースリング8を軸方向に移動させると、図21及び図22に示すように、ジョイントパウル12が外向きに展開し、ジョイントプレートの凸部5dとジョイントパウル12は完全に離れるので、ロッキングベース5とプレート体2aと一体固定が解除される。その結果、ワイヤ2bのしごきが停止するので、プレート体2aと巻取ドラム2は一体回転可能となる。ただ、この場合でも、巻取ドラム2とロッキングベース5との相対回転は継続されるのでトーションバー4のみがエネルギー吸収を続ける。
【0047】
(緊急ロック機構)
図23は、緊急ロック機構の組立てを説明するための分解斜視図であり、その機構は、ロッキングベース5、ロッククラッチ体16、カバー体18等から構成されている。図24は、トーションバー4、ロックパウル6、ロッキングベース5等の組立てを説明するための分解斜視図である。
緊急ロック機構の具体的な構成は、公知の種々のものを採用することができるが、一例として、図23及び図24に示すように、ロッククラッチ体16の一側面には、バネ受け部16aが突設され、このバネ受け部16aはロックキングベース5に形成された凹溝状のバネ収容部5a内に相対移動自在に遊嵌されている。
この際、バネ収容部5aに収容保持されたコイルスプリングよりなる戻しパネ17によって、バネ受け部16aが所定方向に弾発付勢されており、ロッククラッチ体16はウェビングの引出方向に付勢された状態でロックベース5と同期回転すべく構成されている。
【0048】
ロッキングベース5の巻取ドラム2側の面に突設された円筒状のボス部5cの挿通穴にトーションバー4が嵌挿されており、これにより、トーションバー4はロッキングベース5と一体回転可能に結合される。
【0049】
ロッククラッチ体16には、ロックパウル6(図24)に突設された連動ピン6aが摺動案内される突出ガイド溝16cが形成されており、戻しバネ17の付勢力に抗したロッキングベース5とロッククラッチ体16との相対回転により、連動ピン6aが突出ガイド溝16cに沿って摺動案内されるように構成され、この摺動案内により、ロックパウルの6の係止歯6bがロッキングベース5の外周面より出没自在に突出するように構成されている。
そして、これらロッキングベース5、ロックパウル6、巻取ドラム2に設けられたロック歯9a(図2)、ロッククラッチ体16等により緊急ロック機構が構成されている。
また、この緊急ロック機構を作動させるべく、カパー体18内には、ウェビングの急激な引き出し及び、車両の急激な加速度の変化に反応して起動する緊急ロック起動機構とが備えられている。
ロッキングベース5とロックパウル6はジョイントプレート5bで取り付けられている。
【0050】
ロックパウル6の先端に係止歯6bが形成されており、連動ピン6aによりロックパウル6がロッキングベース5に摺動可能に配置されている。また、ハウジング9の側板9bにロックパウル6の係止歯6bが噛合可能なロック歯9aを設け、車両緊急時には、ロックパウル6の係止歯6bをロック歯9aに噛合させることで、ロッキングベース5のウェビング引き出し方向への回転を阻止する。
【0051】
以上のように、本発明では、第2エネルギー吸収手段が、巻取ドラム2とロッキングベース5とによる区画される収納空間内に収納されているため、トーションバー4とは別個にエネルギー吸収を行うための第2のエネルギー吸収手段を備えたにも拘わらず、シートベルトリトラクターの軸方向への寸法拡大がなく、コンパクト化が犠牲にされていない。
また、第2エネルギー吸収手段を構成するワイヤ2b及び係合ピン4は、ともに構造が簡単であり、製造が容易である。
【0052】
図25は、本発明のウェビング引張力とウェビング引き出し量との関連を示す線図である。
シートベルトリトラクター全体でのエネルギー吸収荷重は、23に示すように、トーションバー4が捩り変形を起こす時のエネルギー吸収荷重f1と、第2エネルギー吸収手段によるエネルギー吸収荷重f2の総和f3となる。
そして、エネルギー吸収高荷重の場合、OABDFとなり、クラッチ機構による切り替えによってエネルギー吸収低荷重の場合、OACEとなり、エネルギーの吸収中荷重の場合、OABDCEとなる。
【0053】
また、トーションバー4の捩り変形によるエネルギー吸収域に対し、第2のエネルギー吸収手段の摺動抵抗によるエネルギー吸収域は、独自に自由に設定することができる。
例えば、第2のエネルギー吸収手段によるエネルギー吸収域をトーションバー4の捩り変形によるエネルギー吸収域の一部に重なるように設定することで、トーションバー4の捩り変形によるエネルギー吸収域の一部では、双方のエネルギー吸収荷重の総和による高いエネルギー吸収荷重を確保できる。また、双方のエネルギー吸収域が重ならない範囲では、トーションバー4の捩り変形によるエネルギー吸収作用だけで、低いエネルギー吸収荷重に設定することができる。このように、シートベルトリトラクターのエネルギー吸収機構に作動途中でエネルギー吸収荷重が変化するエネルギー吸収特性を持たせることもできる。
【0054】
さらに、シートベルトリトラクター全体でのエネルギー吸収荷重の調整は、トーションバー4の軸径や材料の変更だけでなく、第2のエネルギー吸収手段の寸法、形状、材質の変更までもが関連し、多種の要素が関連する。例えば、トーションバー4の軸径の拡大や材料の変更等によらずとも、残りの要素の設計変更で、所望のエネルギー吸収荷重を実現することも可能である。すなわち、シートベルトリトラクター1のトーションバー4や巻取ドラム2の径の縮減によるシートベルトリトラクターのコンパクト化を犠牲にすることなく、エネルギー吸収荷重をより高く設定することが容易にできる。そして、トーションバー4及び第2のエネルギー吸収手段の双方の寸法や材料を変更可能な場合には、双方でエネルギー吸収荷重の調整やエネルギー吸収域の調整を行うことで、車両構造の差異等に応じた特異なエネルギー特性の要求にも容易に対応可能で、多様なニーズにも柔軟に対応可能になる。
【0055】
なお、ワイヤ2bと係合ピン14との摺動抵抗の調整は、屈曲路の形状、それぞれの接触面の粗さや、接触面積の広さ等、多種の要素から設定する構成とするとよい。このように多種の要素から摺動抵抗を設定する構成とすると、例えば、寸法等の制限で一部の要素の変更が困難になっても、他の要素の変更によって、確保する摺動抵抗を要求される任意値に比較的容易に調整することが可能になる。
【0056】
以上のように、本発明のシートベルトリトラクターによれば、車両の緊急時にロック起動装置が緊急ロック機構を作動させて、トーションバー4の他端部がウェビング引き出し方向への回転が抑止され、巻取ドラム2の回転も抑止される。このとき、所定値以上の引き出し力でウェビングが引き出されると、トーションバー4は一端部が回転しようとする巻取ドラム2に相対回転不能に結合され他端部が回転抑止した緊急ロック装置に相対回転不能に結合されているのでねじれ変形を行い、巻取ドラム2が回転する。同時に、回転している巻取ドラム2と回転が抑止されたトーションバー4他端部側のプレート体2aとの間でも相対回転が生じ、回転している巻取ドラム2は回転が抑止されたプレート体2aの巻取部2mに一端が結合されているワイヤ2bを屈曲路2jにおいて随時変形させながらプレート体2aの巻取部2mに巻き付けていく。このとき、巻き付けられるワイヤ2bは巻取ドラム2の端部側外周縁に設けられたワイヤ案内部によって巻取部2mの外周方向上へ位置付けられている。
【0057】
ワイヤ案内部が屈曲路2jに設けられているので、ワイヤ2bは変形させられながら巻取部2mの外周方向上に位置付けられていくのである。
円板部材2cとプレート体2aは巻取部2mの外周方向に沿って平行であるので、ワイヤ2bは両部材に案内されながら、巻取ドラム2によって巻取部2mの外周方向上に2重3重に巻き付けられていく。また、円板部材2cは変形前のワイヤ2b(他端側)と変形後のワイヤ2b(一端側)とが互いに干渉することを防止している。
巻取ドラム2より巻取部2mの屈曲溝2nの曲率半径が小さいので、巻取ドラム2とプレート体2aとが相対回転したときには、ワイヤ2bは巻取ドラム2の屈曲路2jから引き出される。
複数の凸部2pによって形成される屈曲溝2nに少なくとも一組のリブ2rが形成され、そのリブ2r間はワイヤ2bの径より小さいので、屈曲溝に配置されたワイヤ2bは狭持に結合される。
トーションバー4及びワイヤ2bのエネルギー吸収途中に、クラッチ機構がプレート体2aをトーションバー4の他端部と相対回転可能にするので、ワイヤ2bの変形を任意のタイミングで止めることができる。
【0058】
【発明の効果】
請求項1に係る発明に対応する効果:ワイヤを巻取部の外周方向上に位置付けるので、シートベルトリトラクターの構成部材は車両緊急時後も移動せず、各部材の位置関係を一定に保持でき、簡単な構造で設計することができる。変形前のワイヤ(他端側)を収納する外周方向の面がプレート体の巻取部と異なっているので、ワイヤを長く設けることができ、トーションバー及びワイヤの両部材によるエネルギー吸収時間を長くとることができる。また、屈曲路が巻取ドラムの外周縁に設けられており、プレート体の巻取部との間隔を大きくとることができ、ワイヤを巻取部の外周方向上に複数回に巻き付けていくことができる。
また、ワイヤは、巻取ドラムの他端部外周縁に設けた屈曲路を摺動して変形部材案内部によって巻取部外周方向上へ常に位置付けされるので、ワイヤによる安定したエネルギー吸収を行うことができる。
さらに、プレート体に巻き付けられるワイヤは、円板部材によって変形前のワイヤに干渉されず巻取部の同一平面上に整然と重ねられていき、安定したエネルギー吸収を行うことができる。また、変形前のワイヤも巻取ドラムの他端側側面と円板部材とによって巻取ドラムの屈曲路への供給位置が一定に行われ、安定したエネルギー吸収を行うことができる。
【0061】
請求項2に係る発明に対応する効果:曲率半径の差だけで、ワイヤを巻取ドラムの屈曲路から引き出すことができ、固定のために別部材を用いなくてもワイヤの固定を容易に行うことができる。
【0062】
請求項3に係る発明に対応する効果:プレート体側面の屈曲溝に配置されたワイヤは、その側面から垂直方向(トーションバーの軸方向)へ抜けにくくなり、より強固に固定することができ、組み付け時の初期設定を安定させることができる。また、取付後は、持ち運びや組立作業を容易に行うことができる。
【0063】
請求項4に係る発明に対応する効果:エネルギー吸収時の荷重を任意に下げることで、乗員の体格、衝突の規模等のパラメータに応じて最適な条件でエネルギー吸収を作動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係るシートベルトリトラクター全体を示す正面図である。
【図2】 図1で示されたハウジング、巻取ドラム、トーションバー、ロッキングベース、ベースストッパ等の組立てを説明するための分解斜視図である。
【図3】 プレート組立体の組立てを説明する分解斜視図である。
【図4】 プレート組立体、リテーナ、巻取ドラム等の組立てを説明する分解斜視図である。
【図5】 巻取ドラムの正面図である。
【図6】 プレート組立体の側面図である。
【図7】 プレート組立体の一部断面正面図である。
【図8】 プレート体の他の実施例を示す部分拡大正面断面図である。
【図9】 図4に示されたプレート組立体と巻取ドラムとを組み立てた組立体の正面断面図である。
【図10】 図9に示された前記組立体の一部切断側面図である。
【図11】図9に示された前記組立体を回転させた正面断面図である。
【図12】図11に示された組立体の一部切断側面図である。
【図13】図2で示されたリリースリング、ハウジング、ケーシング等の組立てを説明するための分解斜視図である。
【図14】リリースリング、ケーシング、ピストン、ガスジェネレータ、ガスジェネレータホルダ等の分解斜視図である。
【図15】パウルホルダの拡大斜視図である。
【図16】ジョイントパウルの拡大斜視図である。
【図17】クラッチ機構の動作前状態の一部切断側面図である。
【図18】図17に示されたクラッチ機構の断面平面図である。
【図19】クラッチ機構係止している状態を説明するための一部切断側面図である。(第1状態)
【図20】図19に示されたクラッチ機構の断面平面図である。
【図21】クラッチ機構が外れた状態の一部切断側面図である。(第2状態)
【図22】図21に示されたクラッチ機構の断面平面図である。
【図23】ロッキングベース、ロッククラッチ体、カバー体等の組立てを説明するための分解斜視図である。
【図24】図2で示されたトーションバー、ロッキングベース等の組立てを説明するための分解斜視図である。
【図25】本発明のウェビング引張力とウェビング引き出し量との関連を示す線図である。
【符号の説明】
1…シートベルトリトラクター、2…巻取ドラム、2a…プレート体、2b…ワイヤ、2c…円板部材、2j…屈曲路、3…コネクタ、4…トーションバー、5…ロッキングベース、5b…ジョイントプレート、6…ロックパウル、7…ベースストッパ、8…リリースリング、8a…テーパ、8b…当接部、9…ハウジング、10…ケーシング、10a…ピストン、10b…ガス発生手段、11…ガスジェネレータホルダ、12…ジョイントパウル、13…パウルホルダ、14…係合ピン、15…プリテンショナー、16…ロッククラッチ体、17…戻しばね。
Claims (4)
- ウェビングが巻装された巻取ドラムと、巻取ドラムに嵌挿され、その一端部が巻取ドラムの一端部に相対回転不能に結合されると共に、ウェビングの巻取方向に付勢されたトーションバーと、トーションバーの他端部に配置されウェビング引出方向への回転を抑止する緊急ロック機構と、車両の緊急時に緊急ロック機構を作動させるロック起動装置と、巻取ドラムの他端部側面に近接するその側面に巻取部を有すると共にトーションバーの他端部に相対回転不能に結合されたプレート体と、プレート体の巻取部に一端が結合され、その一端部に続く部分が巻取ドラムの他端部外周縁に設けられたワイヤ案内部に配置され、該ワイヤ案内部に続く部分は巻取部の巻取面と異なる面上に巻回収納されていると共に、車両緊急時に巻取ドラムによってプレート体の巻取部に巻き付けられるワイヤと、ワイヤの略中間部位を配置させると共に、巻取ドラムの他端部外周縁部に設けられた屈曲路とからなり、前記ワイヤ案内部は屈曲路に設けられ、かつ
巻取ドラムとプレート体との間に配置され、プレート体よりワイヤの径の距離だけ離間してプレート体に相対回転不能に結合される円板部材を有すると共にその円板部材がプレート体の巻取部とワイヤの他端側とを覆う構成にしたことを特徴とするシートベルトリトラクター。 - プレート体の巻取部に取り付けられるワイヤは複数の凸部によって形成された屈曲溝に配置され、その屈曲溝は巻取ドラムの屈曲路の曲率半径より小さく形成されている請求項1に記載のシートベルトリトラクター。
- プレート体の複数の凸部において、屈曲溝を形成する凸部間で少なくとも一組の相対向するリブを設けると共にそのリブ間はワイヤの径より小さくした請求項2に記載のシートベルトリトラクター。
- トーションバーの他端部と、プレート体との間にクラッチ機構を備えた請求項1〜3のいずれか1項に記載のシートベルトリトラクター。
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