JP4165924B2 - 低温で流通・販売できる米飯食品 - Google Patents
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Description
【産業の属する技術分野】
本発明は、低温で流通・販売できる米飯食品に関する。より詳細には本発明は、低温で流通可能な米飯類に適した原料米を簡単に見分けて選び出し、それを原料米とした、低温で保存あるいは、冷凍後に解凍しても硬くなりにくく、かつ、粘りを維持した炊飯米を用いた米飯食品に関する。
【0002】
本発明において、「低温流通」とは、未凍結食品あるいは凍結品を解凍した食品の10℃以下で凍結しない程度の温度帯での流通を意味し、「低温販売」とは、生活者が食品を口にするまでを意味する。「加熱」とは、デンプンが糊化する50℃以上の温度まで、電子レンジあるいは湯せん等により上昇させることを意味する。
【0003】
【従来の技術】
米を炊飯した米飯は、時間の経過と共に硬くなってゆく。この現象は米飯の老化と呼ばれ、その変化の度合いは低温の方が大きい。老化はデンプンの経時的な変化であり、水と熱により糊化したデンプンが、再結晶化するために起こるといわれている。米飯の老化を制御する方法としては、炊飯時の加水量を多くすることや酵素類(αアミラーゼ、βアミラーゼ、グルコアミラーゼ、プロテアーゼ等)、デンプン類(α化デンプン、加工デンプン等)、多糖類(ジェランガム、ヒアルロン酸等)、糖類(アンヒドロ糖、デキストリン、ブドウ糖、果糖、サイクロデキストリン)、糖アルコール類(トレハロース、マルチトール、ソルビトール、ラクチトール等)、乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド)の添加等がある。これらは各々若干の効果を有するものの、これらの技術のみで米飯の老化を抑えることはできない。例えば、上記いずれの技術を用いた場合あるいは組み合わせた場合でも、5℃で24時間保存した米飯は硬く、そのまま食するのは困難な状態となる。
【0004】
上記の理由により、一旦低温化に保存されたご飯は電子レンジ等の加熱が必要となる。よって、例えばチルド弁当総菜店においては、一般に、そのまま喫食する場合も想定して米飯の老化が少ない15℃以上にて流通、販売されている。すなわち15℃以上で流通販売すれば米飯の老化は制御されるわけであるが、本温度帯では細菌の繁殖が問題となり、制菌剤等の使用が必要となる。
【0005】
また、冷凍米飯食品を未加熱で解凍する場合も、デンプンの老化は障害となり、これは特に低温での未加熱解凍で顕著である。このとき、食感の劣化とともに白ろう化と呼ばれる米飯表面の白色化が起こり、これらの現象は、プラスの温度域でも確認されるが、前記の如く、冷凍米飯食品を低温解凍した場合に特に顕著である。例えば、加水量を増加させて炊飯した場合、未凍結で低温保存したときの喫食可能時間は延長されるが、一旦凍結し、低温解凍した場合では食感の劣化は僅かに抑えられるものの、白ろう化現象は、むしろ大きくなる。よって、米飯食品の品質劣化に対しては、未凍結品を低温保存するよりも、一旦凍結した米飯食品をゆっくりと解凍する方が、その変化が大きいといえる。すなわち、食感劣化や白ろう化の障害は、解凍時の0℃以下の温度域、特に−5℃から0℃での進行が早く、そのため、冷凍米飯食品を解凍する場合には電子レンジあるいは湯せん等による加熱解凍もしくは常温以上での自然解凍により、−5℃から0℃の温度域を早く通過させる必要がある。この理由により、実際に低温で解凍可能な冷凍米飯商材は存在せず、冷凍米飯類は低温流通、低温販売されることはない。
【0006】
さらに、米飯食品類の種類によっても老化のしやすさは異なる。例えば、オニギリよりも寿司の方が老化による変化は小さく、実際に常温以上の温度で解凍する冷凍寿司商材は存在するが、レンジ加熱を必要としない冷凍オニギリ商材は存在しない。また、7〜10℃で流通されているチルド寿司商材があるのに対して、他の米飯食品では低温流通、特に細菌繁殖がほとんどなく、制菌剤を必要としない5℃以下のチルド温度域で流通されているものはない。すなわち、7〜10℃で流通されている現存のチルド寿司においても、ネタの保存性等の問題からより低温での流通が望まれるが、米飯を5℃にて流通できる技術が確立していないために、7〜10℃で流通されている訳である。また、寿司が老化しにくい理由は、糖類など調味料によるわずかな耐老化性向上と、ネタと一緒に喫食するという米飯の食感が分かりにくい食品形態のためである。
うるち米とは遺伝的な性質が異なるもち米も耐老化性が高いことが知られている。しかしながら、もち米には特有な臭いがあり、また、食感も粘りが強すぎることから前記の総菜類には向かない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、低温保存あるいは冷凍後に解凍しても硬くなりにくい米飯食品の提供を目的とする。本発明は未加熱で喫食できる低温流通米飯食品あるいは冷凍米飯食品を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、低温で流通可能な米飯類のための、原料米の簡単な見分け方の提供を目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らはリン含有量が1,200ppm以上、かつアミロース含有量が15重量%以下の低アミロース米が耐老化性を示すことを見いだし、これらが低温流通、販売に適することを発見した。この発見を基に本発明は完成されたものである。
【0009】
すなわち、まず本発明においては、リン含有量を指標に、低温保存中の食感劣化が少ない米飯類の原料米であるかどうかを簡単に見分けることをができることを見いだした。リン含有量は一定量以上のリン含有量であるがどうかで判別することができる。一定量以上のリン含有量であるという要件を満たしているものを低温で流通・販売できる米飯食品の原料米であると判定することを特徴とする低温で流通・販売できる米飯食品の原料米の見分け方を提供することができる。
上記の一定量以上のリン含有量であるという要件は、上記の要件が、原料米がうるち米の場合、その90%に搗精した精白米を硫酸によって加水分解した後に、バナドモリブドリン酸による比色法にて測定したリン含有量が乾物中の含有量で1,200ppm以上、好ましくは1,300ppm以上、最も好ましくは1,400ppm以上であるという要件である。
上記の一定量以上のリン含有量であるという要件のほかに、一定量以下のアミロース含有量であるという要件も満たしていることが好ましく、したがって本発明は、一定量以上のリン含有量であるという要件を満たしているものであって、かつ、一定量以下の、好ましくは15重量%以下、最も好ましく12重量%以下のアミロース含有量であるという要件も満たしているものを低温で流通・販売できる米飯食品の原料米であると判定することを特徴とする低温で流通・販売できる米飯食品の原料米の見分け方を提供することができる。
本発明は、上記の見分け方で選択した原料米を用いたことを特徴とする低温で流通・販売できる米飯食品、すなわち原料米をそのリン含有量によって判別し、一定量以上のリン含有量であるという要件を満たしているものを原料米として選択したことを特徴とする低温で流通・販売できる米飯食品、を要旨としている。
【0010】
本発明は、原料米として一定量以上のリン含有量であるという要件を満たしている精白米を選択使用したことを特徴とする低温で流通・販売できる米飯食品を要旨としている。
本発明は、原料米がうるち米の場合、その90%に搗精した精白米を硫酸によって加水分解した後に、バナドモリブドリン酸による比色法にて測定したリン含有量が乾物中の含有量で1,200ppm以上、好ましくは1,300ppm以上、最も好ましくは1,400ppm以上であるという要件を満たしたうるち米の精白米を原料米として選択したことを特徴とする低温で流通・販売できる米飯食品を要旨としている。
【0011】
本発明が原料米として用いる上記のリン含有量の要件を満足する精白米としては、うるち米の精白米が用いられる。該うるち米は、好ましくは一定量以下のアミロース含有量であるという要件をも満たしているうるち米、好ましくはアミロース含有量15重量%以下のうるち米、最も好ましくはアミロース含有量12重量%以下のうるち米である。該うるち米は、例えば奥羽344号の品種に属するうるち米および低温での流通・販売性においてそれと同等の機能を有するうるち米からなる群から選択される。
【0012】
上記の低温で流通・販売できる米飯食品は、好ましくはフローズン・チルドで未加熱状態でそのまま食する米飯食品、最も好ましくは寿司を挙げることができ、したがって本発明は、精白米を用いた米飯食品であって、その精白米として90%に搗精した精白米を硫酸によって加水分解した後に、バナドモリブドリン酸による比色法にて測定したリン含有量が乾物中の含有量で1,200ppm以上、好ましくは1,300ppm以上、最も好ましくは1,400ppm以上であるうるち米の精白米を選択したこと、ならびに、上記米飯食品が寿司であること、上記米飯食品が圧縮成形されたものであること、および/または、上記米飯食品が冷凍食品であることを特徴とする低温で流通・販売できる米飯食品を要旨としている。
上記冷凍食品は、未加熱のまま喫食できる冷凍食品の態様、圧縮成形されたものの態様、例えば深絞り形態で、減圧包装されたものの態様を好ましい態様として包含している。
上記の米飯食品が寿司である態様、圧縮成形されたものである態様、および/または、冷凍食品である態様において、原料米として用いる上記のリン含有量の要件を満足する精白米としては、うるち米の精白米、特に一定量以下のアミロース含有量であるうるち米の精白米、好ましくはアミロース含有量15重量%以下のうるち米の精白米、最も好ましくはアミロース含有量12重量%以下のうるち米の精白米、例えば奥羽344号の品種に属するうるち米および低温での流通・販売性においてそれと同等の機能を有するうるち米からなる群から選択されるうるち米の精白米が選択使用される。
【0013】
本発明の低温で流通・販売できる米飯食品は、15℃以下の低温で、好ましくは10℃以下の低温で、さらに好ましくは5℃以下の低温で流通・販売できる米飯食品である。本発明の低温で流通・販売できる米飯食品は、Ca塩などの塩類を食品添加物として添加して炊飯された炊飯米を用いたものであり、該塩類は塩濃縮水または添加した水を用いて炊飯することにより添加されるが、低温流通が可能となるため制菌剤を必要としないものであることを特徴としている。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明中で述べる「リン含有量」は、90%に搗精した精白米(米中のリンは糊粉層に多く含まれることから、搗精率に注意してリン含有量の測定を行う必要がある。)を硫酸にて加水分解した後に、バナドモリブドリン酸による比色法にて測定したものであり、乾物中の含有量で示している。本法にて測定した21種の米中のリン含有量は1079−1699ppmであり、特に1300ppmを超えるリン含有量を有する低アミロース米が耐老化性が高かった。
【0015】
米中のリンは、フィチン酸、リン脂質、デンプン中のリンとして存在することが知られている。フィチン酸はmyo−イシトールの六リン酸エステルであり、リン酸の貯蔵物質として穀類種子に存在している。米中のリン脂質は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミンなどとして存在しており、これらは食品用界面活性剤としても使用されている。デンプン中のリンは、根茎デンプンに多いことが知られており、馬鈴薯デンプンを材料として、結合リン酸がαアミラーゼの作用障害になること、デンプンのアミロペクチン区分に局在することなどが知られている(しかしながら、本発明者らの検討結果では、低アミロース米間で、リン含有量とアミロペクチン含有量との間に相関を認めていない)。また、本発明者らがデンプン中のリンについて測定を行った結果、冷アルカリ法にて抽出した未脱脂デンプン中のリンは、耐老化性が高い奥羽344号(アミロース含有量;11.3%)で92〜211ppmであり、奥羽344号より耐老化性が劣るミルキークイーン(アミロース含有量;10.8%)で68ppmと、米中のリン含有量と同様に耐老化性が高い品種でその含有量が高い結果であり、未脱脂ではあるが、デンプン中のリン含有量と耐老化性に関連がある可能性が示唆されている。
更に、奥羽344号とミルキークイーンを試料として、搗精によって糊粉層に多く含まれるフィチン酸を減少させた場合(このとき、奥羽344号、ミルキークイーンのリン含有量は、それぞれ90%搗精;1,673ppm、1,277ppm、85%搗精;1,225ppm、946ppm、80%搗精;1,104ppm、809ppm)、ミルキークイーンの耐老化性は変化せず、奥羽344号の耐老化性は、搗精率の上昇に伴って、むしろ上昇した。このことは、耐老化性とフィチン酸が関与しないことを示しており、リン脂質、デンプン中のリンが耐老化性と関連している可能性が高いと言える。
【0016】
デンプン中のリンは、グルコースの2位、3位、6位の炭素にリン酸としてエステル結合しており、ほとんどB鎖に、また、B鎖の中でも大部分が外部鎖に結合していることが知られている。さらにこれらは、分岐結合から9グルコース残基以上離れた位置に結合していることから、鎖長を認識するリン酸化酵素の存在の可能性があるとの報告がある。これらのことから、デンプンに結合しているリンが耐老化性と関与すると仮定すると、育種場面においては、このリン酸化酵素を指標あるいは遺伝子導入等の技術により、効率的に耐老化性が高い低アミロース米を選択することが可能と考えられる。
【0017】
また、本発明中で述べる「アミロース含有量」はヨウ素親和力測定法やヨウ素呈色比色法で測定される見かけのアミロース含有量であり、真のアミロース含有量ととは異なっている。一般にデンプン中のα−1,4結合のみからなる成分がアミロースと定義されているが、実際のアミロース成分中には多少ともα−1,6結合も含むため、前記の如くアミロースとヨウ素との親和力を利用した見かけのアミロース含有量がアミロース含有量として一般に多用されている。これらは、乾物換算で表され、前記の方法にて測定された一般的な日本産うるち米のアミロース含有量は15〜22重量%である。一般にアミロース含有量とデンプンの老化は密接に関係し、その含有量が高いものほど老化しやすいことがいわれている。しかしながら、発明者らの検討結果では低アミロース米間でアミロース含有量と耐老化性に関連は認められていない。すなわち、生産年度が異なっても耐老化性が維持されている奥羽344号やその姉妹品種のアミロース含有量は3.7〜13.6重量%と非常に大きく変動する。換言すると、低アミロース米の耐老化性は、アミロース含有量のみでは説明できず、他の要因が大きく関与することを意味している。本発明においての耐老化性はリン含有量が1,200ppm以上で、且つアミロース含有量が15%以下で効果が確認され、リン含有量が1,300ppm以上で、且つアミロース含有量が12%以下でその効果は顕著であった。
【0018】
現在までに低アミロース米として新品種保護法で品種登録されている品種は奥羽344号、ミルキークイーン、ソフト158、彩、西海215号の5品種である。また、中間母本として中母農13号、中母農14号がある。これらは何れも耐老化特性を有するが、特に奥羽344号や種苗登録されていないものではその姉妹品種等がその特性が強いことを確認している。また、これら低アミロース米でも含有リン量が高い方が耐老化性は高く、特に1300ppm以上で顕著である。そして、低アミロース品種間でも耐老化性が高い奥羽344号とその姉妹品種のリン含有は恒常的に高く、平成6年から平成8年に収穫された7試料の平均は、1,500ppmであり、他品種の同8試料では1228ppmであった。すなわち、奥羽344号とその姉妹品種では、リン含有は1,389〜1,630ppmと高い位置で安定している。さらに、生産年度によっては、低アミロース米のうち、奥羽344号と同程度の耐老化性を示すものが出現する。例えば、奥羽344号の平成6〜平成8年産と同程度の耐老化性を示す平成8年産のソフト158では、リン含有が1,430ppmと、耐老化性が低い平成7年産(同1,235ppm)よりもリン含有が高かった。これらのことから、リン含有と耐老化性は何らかの関係があるものと推定できる。
新品種育成時にリン含有量が1,300ppmを越える低アミロース米を選抜すれば、この品種は耐老化性が高いものであることが推定される。また、施肥中のリンを増加させることにより、米中のリン含有量を増加させる。このとき、前記米成分中のいずれのリン含有量が増加するかは明らかでないが、施肥のコントロールにより耐老化性が向上する可能性がある。
【0019】
また、リン含有が高い低アミロース米に対して、炊飯前あるいは炊飯後に食品用添加物を添加することにより、より耐老化性を高めることができる。食品用添加物としては、塩類が最適であり、アニオン種に関係なくNa、K、Mg、Ca塩などの添加により耐老化性は向上し、その効果は特にCaで顕著である。これらの塩類の添加量は味に影響しない程度の添加量が好ましく、最終製品に対して100ppm以上が適当であり、500ppm以上でその効果が大きい。また、塩類を添加する方法以外でも本来水が含む塩類を濃縮しても同様の効果が得られ、濃縮する方法としては逆浸透膜を利用する方法が代表される。また、本発明者らは、これらの塩類を添加あるいは濃縮水にて炊飯する手法は、特に奥羽344号で効果が高いことを確認しており、その理由として奥羽344号が塩との反応性が高く、その結果他の米より耐老化性が向上すると推定している。
塩類を添加した場合に耐老化性が向上するのと同様の理由で、調味料を添加した米飯食品は老化が遅くなる。白飯と比較して、おにぎりや寿司は老化しにくいのは、前記の塩類の作用によるものである。そして、これらの塩類による耐老化性の向上は、更に他の添加物との相乗効果も期待できる。例えば、Caを添加して作製した冷凍米飯食品を低温解凍した場合、おにぎりよりも寿司の方が品質の劣化が少ない。これは、酢飯の調味料と塩類の相乗効果によるものと考えられる。なお、塩添加時と同様に、調味料の添加効果も奥羽344号で、その効果は高い。
【0020】
その他の添加物を用いても、耐老化性を向上させることが可能である。食品用酵素では、αーアミラーゼ、βーアミラーゼ、グルコアミラーゼ、プロテアーゼを0.01〜100U/米1gの添加が有効であり、これらは炊飯前あるいは炊飯後のいずれに添加しても有効である。デンプンとしてはアミロペクチン含有が高いワキシーコーンスターチ、白玉粉、タピオカデンプンあるいは化工デンプンおよびこれらの分解物が適しており、生米に対して0.5〜20%(W/W)添加が適している。その他の糖類ではジェランガム(対生米0.1〜5.0%)、ヒアルロン酸(対生米0.05〜0.8%)、アンヒドロ酸(対生米0.3〜30%)、デキストリン(対生米0.5〜20%)、サイクロデキストリン(対生米0.5〜20%)、オリゴ糖(0.5〜20%)が良い(括弧内はW/W)。糖アルコールとしてはトレハロース、ラクチトール、マルチトール、ソルビトールが耐老化性を高め、これらの添加量は対生米で0.1〜10%が適当である。乳化剤ではショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセド、リゾレシチン、ジグリセリン脂肪酸エステルの添加が有効であり、好ましくはHLB12以上の乳化剤を対生米0.05〜1.0重量%添加が効果的である。
【0021】
本発明中の低温流通とは10℃以下を示し、プラスの温度帯では5℃前後をピークとした易老化温度域での米飯の流通、さらに、低温解凍に適さない冷凍米飯食品の低温解凍、流通をもターゲットとしている。すなわち一般に、この温度域にて流通された米飯類を炊飯直後に近い食感に戻すためには電子レンジなどの加熱を必要とするが、本発明によれば加熱を必要とせず、炊飯直後と同様の食感を得ることができる。また、電子レンジなどの加熱により温かい米飯として喫食する場合も従来の米飯より美味しい。これは老化したアミロースが再糊化し難いためであり、通常のうるち米よりアミロース含有が低い低アミロース米では再加熱により、より軟らかく粘りがある食感となるためである。
【0022】
また、冷凍した米飯食品を低温解凍して食することも可能である。低温解凍する冷凍米飯の代表としては冷凍寿司が挙げられる。冷凍寿司では、加熱解凍時に特に魚介類の寿司種が加熱変性しやすい。本発明は低温解凍によっても炊飯直後と同様の米飯食感が得られるため、喫食時に米飯だけでなく、魚介類も製造直後に近い食感を得ることが可能である。同様に冷凍のおにぎり、ピラフ、混ぜご飯などにも適しており、これらは低温解凍と同様に前述の如く電子レンジなどの加熱によっても美味しく食べられる。
冷凍米飯食品を未加熱で喫食する場合、解凍スピードをコントロールできる形態にして商品を提供することも重要である。これは、冷凍米飯食品の品質が、凍結速度は極端に遅くなければ品質に大きな影響を与えないのに対し、解凍時の−5℃から0℃の温度域の通過時間の影響を大きく受けるためであり、この温度域をいかに早く通過させるかが品質のポイントとなる。このような理由から、一般米を用いた低温解凍を前提とした冷凍米飯食品の場合には、バラ凍結が適しており、ブロック状に凍結することや圧縮、成形した商品は解凍速度が遅くなるため適さない。しかしながら、耐老化性が高い低アミロース米を使用すれば、解凍速度が品質に与える影響が小さいことから、ブロック状あるいは圧縮、成型した食品も喫食可能となる。同様の理由により、包装時の含気量が少ないことが熱効率の面から有効であり、また包装形態としては、解凍時に空気との接触面積が大きいものが好ましい。よって、常温以下での解凍を行う冷凍米飯食品には、減圧深絞り包装が最も適している。
【0023】
低アミロース米を大ロットで炊飯するのには連続炊飯器内で一次蒸らし、二次浸漬、二次蒸らしの各工程を順次行う蒸煮炊飯が適している。通常うるち米と比較して、低アミロース米の溶出成分はアミロペクチン含有量が高く、粘度が高い。そのため釜炊飯方式では炊飯中の炊飯水粘度が上昇し、このために釜内の対流が不十分となるためである。その結果、釜底面のみが著しく加熱され焦飯となり、表層あるいは内部では芯が残るご飯となってしまう。また、蒸煮炊飯中においての各種添加物の添加は二次蒸しの工程が最も適当である。
【0024】
【実施例】
本願発明の詳細を実施例で説明する。本願発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0025】
実施例1
平成6年から平成8年に収穫された低アミロース米16種を加水量1.35倍にて炊飯した後に、5℃にて24時間保存し、官能評価に供した。官能評価は加水量1.35倍にて加水した茨城県産コシヒカリを硬さ0とし、1.2倍の加水量で炊飯した茨城県産コシヒカリを硬さ1とした。なお、パネルは良く訓練された米飯用パネル10名を用いた。
リン含有量の測定は、精白米の米粉を硫酸にて加水分解した後に、バナドモリブドリン酸による比色法にて測定した。なお、リン含有量は乾物含有量で示した。5℃24時間後の官能評価とリン含有量との相関を図1に示した。
官能評価による耐老化性と精白米中のリン含有量は高い相関を示した。特に、リン含有量が1300ppmを越える低アミロース米の5℃24時間後の食感は、コシヒカリの1.2倍加水品の炊飯直後よりも軟らかく、再加熱なしでも十分に喫食可能であった。収穫年度にかかわらず、耐老化性が高い奥羽344号、その姉妹品種(奥羽343号)は、平成6年〜平成8年産でリン含有量は1,300ppm以上であった。
【0026】
比較例1
実施例1での官能評価とヨウ素比色法により測定したアミロース含有量との相関を図2に示した。一般にいわれる、アミロース含有量と耐老化性の相関は確認できなかった。
【0027】
実施例2
市販の炊飯器にて加水量1.35倍で炊飯した米飯を用いて、各製品を作製した。各製品を未凍結品については、5℃24時間の保存、凍結品は−35℃にて凍結後、5℃24時間保存解凍し、官能評価に供した。パネルは、良く訓練された米飯用の10名のパネルを用い、商品価値の有無を判定させた。全員が可食と判断したものを〇、過半数が可食と判断したものを△、半数以上が不可食と判断したものを×で示した。結果を表1に示した。
【0028】
【表1】
【0029】
いずれの品種も、凍結品(5℃24時間保存し、解凍)よりも、未凍結品(5℃24時間保存)の方が品質が良好であり、また、白飯よりも、調味料を使用したおにぎり、すしの方が品質変化が少なかった。未凍結品では、低アミロース米である奥羽344号、ミルキークイーンが、全ての製品種で十分に可食であり、コシヒカリでは、すしのみが十分に可食であった。凍結品では、白飯ではいずれの品種とも、不可食であったが、おにぎり、すしで奥羽344号のみ十分に可食であった。
【0030】
実施例3
市販の炊飯器にて加水量1.35倍で炊飯したミルキークイーンを用いて、すしを作製し、トレーに10個づつ並べた後に、含気包装および減圧包装を行った。それぞれの試料を−35℃にて凍結し、5℃24時間保存後に、官能評価を行った。パネルは、良く訓練された米飯用の10名のパネルを用い、食感については実施例1の評価基準にて、また、外観については、基準とした1.2倍加水の茨城コシヒカリと同程度のものを0、僅かに劣るものを−1、少し劣るものを−2として判断させ、各平均値を求めた。結果を表2に示した。
【0031】
【表2】
【0032】
減圧包装することにより、−5℃から0℃に昇温する時間が短縮され、これに伴って、解凍、保存による食感の劣化が小さくなり、外観上の白ろう化が改善された。
【0033】
【発明の効果】
リン含有量を指標に、低温保存中の食感劣化が少ない米飯類の原料米であるかどうかを簡単に見分けることをができる。
原料米を選択するだけで、低温保存あるいは冷凍後に解凍しても硬くなりにくい米飯類、特に未加熱でそのまま喫食できる低温流通性米飯食品あるいは冷凍米飯食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】低アミロース米の耐老化性とリン含有量の関係を示す図面である。
【図2】低アミロース米の耐老化性とアミロース含有量の関係を示す図面である。
Claims (11)
- 原料米として、90%に搗精した精白米を硫酸によって加水分解した後に、バナドモリブドリン酸による比色法にて測定したリン含有量が乾物中の含有量で1,400ppm以上であるという要件を満たしており、かつ、アミロース含量が15重量%以下であるうるち米の精白米(ただし、奥羽344号、奥羽343号または奥羽354号を除く。)を選択使用したことを特徴とする冷凍で流通・販売後未加熱喫食用の、白飯以外の米飯食品の冷凍品。
- 上記米飯食品が食品添加物を添加して炊飯された炊飯米を用いたもの、または、通常に炊飯した炊飯米に調味料を添加した物である請求項1の冷凍で流通・販売後未加熱喫食用の、白飯以外の米飯食品の冷凍品。
- 食品添加物が塩類である請求項2の冷凍で流通・販売後未加熱喫食用の、白飯以外の米飯食品の冷凍品。
- 上記塩類がCa塩である請求項3の冷凍で流通・販売後未加熱喫食用の、白飯以外の米飯食品の冷凍品。
- 上記塩類が塩濃縮水または添加した水を用いて炊飯することにより添加される請求項3または4の冷凍で流通・販売後未加熱喫食用の、白飯以外の米飯食品の冷凍品。
- 上記米飯食品が寿司である請求項2、3または4の冷凍で流通・販売後未加熱喫食用の、白飯以外の米飯食品の冷凍品。
- 上記米飯食品が圧縮成形されたものである請求項1ないし6のいずれかの冷凍で流通・販売後未加熱喫食用の、白飯以外の米飯食品の冷凍品。
- 上記米飯食品がブロック凍結された冷凍食品である請求項1ないし7のいずれかの冷凍で流通・販売後未加熱喫食用の、白飯以外の米飯食品の冷凍品。
- 冷凍食品が減圧包装されたものである請求項1ないし8のいずれか冷凍で流通・販売後未加熱喫食用の、白飯以外の米飯食品の冷凍品。
- 深絞り形態で包装されたものである請求項9の冷凍で流通・販売後未加熱喫食用の、白飯以外の米飯食品の冷凍品。
- 上記米飯食品が制菌剤を使用しないものである請求項1ないし10のいずれかの冷凍で流通・販売後未加熱喫食用の、白飯以外の米飯食品の冷凍品。
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-
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