JP4161683B2 - 感光性セラミックス組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、感光性セラミックス組成物に関する。本発明の感光性セラミックス組成物は、高周波無線用セラミックス多層基板などの回路材料などに用いられる。
【0002】
【従来の技術】
携帯電話をはじめとする無線通信技術の普及が著しい。従来の携帯電話は800MHz〜1.5GHzの準マイクロ波帯を用いたものであったが、情報量の増大に伴い、搬送周波数をより高周波であるマイクロ波帯からミリ波帯とした無線技術が提案され、実現される状況にある。こうした高周波無線回路は、移動体通信やネットワーク機器としての応用が期待されており、中でもブルートゥース(Bluetooth)やITS(Intelligent Transport System,高度交通情報システム)での利用によってますます重要な技術となりつつある。
【0003】
これらの高周波回路を実現するためには、そこで使用される基板材料も、使用波長帯、すなわち、1〜100GHzで優れた高周波伝送特性をもつ必要がある。優れた高周波伝送特性を実現するためには、誘電損失が低いこと、加工精度が高いこと、寸法安定性がよいといった要件が必要であり、なかでもセラミックス基板が有望視されてきた。
【0004】
しかしながら、これまでのセラミックス基板材料は、寸法安定性に優れているものの、微細加工度が低かったため、特に高周波領域において十分な特性を得ることができなかった。このような微細加工精度の問題を改良する方法として、感光性セラミックス組成物から形成したグリーンシートを用いたフォトリソグラフィー技術によるビアホール形成方法が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、感光性セラミックス組成物の感度や解像度が低いため高アスペクト比のもの、例えば50μmを越えるような厚みのシートに対し、100μm以下のビアホールを精度良く、かつ均一に形成できないという欠点があった。
【0005】
また、セラミックス基板材料を多層基板として使用する際には、セラミックスグリーンシートにビアホールを形成する工程、ビアホールに導体ペーストあるいは導電性金属粉末を充填する工程、セラミックスグリーンシート表面に電極や回路などの導体パターンを形成する工程、ビアホールおよび導体パターンが形成されたセラミックスグリーンシートを積層および圧着し、適当な基板サイズにカットした後、焼成する工程を経ることとなる。このとき、焼成工程によって通常10〜20%収縮するが、必ずしも均一には収縮しないため寸法精度の低下が生じており、歩留まりを下げる要因となっていた。
【0006】
【特許文献1】
特開平6−202323号公報(特許請求の範囲)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
寸法安定性に優れ、誘電正接の低いセラミックス基板材料の微細加工度を高めて、高周波領域において十分な特性を得ることができるようにするため、フォトリソグラフィー法を用いた高アスペクト比かつ高精細のビアホール形成が可能とすることが必須である。それに対応した感光性セラミックス組成物を提供することが本発明が解決しようとする課題である。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、フォトリソグラフィー法を用いた高アスペクト比かつ高精細のビアホール形成が可能となる感光性セラミックス組成物について鋭意検討を重ねたところ、セラミックス組成物中での露光光の散乱、反射を低減することが重要であり、そのための方法としてセラミックス組成物中の無機粉末表面に他の異質表面材料よりなる部分を形成することで、無機粉末表面の散乱、反射を低減することを想起した。種々の無機粉末表面に各種の無機粉末とは物理的性質および/または化学的性質が異なる異質表面材料を真空蒸着法や湿式コーティング法などを用いて形成し、それらの無機粉末の集合体について光の透過特性を評価したところ、異質表面材料を形成したことによって、光の直進性が向上することが判明したものである。つまり、無機粉末と感光性有機成分を必須成分とする感光性セラミックス組成物であって、該無機粉末の少なくとも一部に該無機粉末内層部分とは物理的性質および/または化学的性質が異なる異質表面材料よりなる部分が形成されている感光性セラミックス組成物により、前記課題が解決されるものであることを解明したものである。
【0009】
即ち、本発明は、基本的には、「無機粉末と感光性有機成分を必須成分とする感光性セラミックス組成物であって、該無機粉末表面の少なくとも一部に該無機粉末内層部分よりも屈折率の低い無機材料よりなる部分が形成されており、屈折率の低い材料よりなる部分の厚みtが5≦t≦200(nm)を満たすことを特徴とする感光性セラミックス組成物」という構成をよりなるものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明は、感光性セラミックス組成物中の無機粉末表面の少なくとも一部に該無機粉末内層部分よりも屈折率の低い無機材料(以下、前記屈折率の低い無機材料を低屈折率表面材料という)よりなる部分を形成することによって、特に、組成物中の無機粉末と有機成分の界面においての反射・散乱を削減する等により、高アスペクト比かつ高精細なビアホール形成を可能にしたことを特徴とする。
【0011】
本発明の感光性セラミックス組成物は、無機粉末と感光性有機成分を必須成分とするものであり、該無機粉末表面の少なくとも一部に該無機粉末内層部分よりも屈折率の低い無機材料(低屈折率表面材料)よりなる部分が形成されている必要がある。前記内層部分は、前記無機粉末において、前記低屈折率表面材料材料よりなる部分の内側の部分であり、無機粉末の主要部を占めるものであって、低屈折率表面材料以外は実質上全て内層部分である。なお、特に限定されるものではないが、低屈折率表面材料は、無機粉末中、好ましくは1×10-4〜2×10(より好ましくは1×10-3〜1×10、更に好ましくは2.5×10-2〜5)重量%の範囲の比率を占めるものである。従って、内層部分の占める比率は、おおよそ、その残余と言うことになるものである。前記数値範囲外である場合、後述する低屈折率表面材料よりなる部分の厚みが適切な範囲内に設定することが困難になる恐れがあり、又、内層部分の占める比率が極端に低減すると、最終的に得られるセラミックス材料の最適な材料設計に支障をきたす場合があり、好ましくないことがある。なお、前記無機粉末の内層部分の特性(屈折率など)は低屈折率表面材料も含めた無機粉末全体の特性であると近似しても実質上差し支えない場合があり得る。前記内層部分の特性をより厳密に測定する場合は、無機粉末の半径(非球体の場合は中心から表面までの距離)をrとして、表面から0.2*rより深部(深さ0.2*rからrまでの範囲)について前記特性を測定して、その平均値等を用いればよい。
【0012】
該低屈折率表面材料よりなる部分の厚みtが5≦t≦200(nm)を満たすことが好ましい。上記領域であれば、無機粉末表面への接着性が良好であり、かつ無機粉末と有機成分の界面で発生する反射・散乱を削減する。より好ましくは、10≦t(nm)であると、反射・散乱低減の効果が大きい。また、t≦150(nm)であると、反射・散乱の効果がより大きくなり、また無機粉末の凝集を避けることができるため、より好適に使用できる。さらには、40≦t(nm)であると、より好適に使用できる。反射散乱の低減が通常フォトリソグラフィー法で使用される紫外光領域でより大きくなるからである。また、t≦100(nm)であると、さらに好ましい。前記範囲にあれば、無機粉末の凝集を避けることが可能であるうえに、均一な厚みで形成できるため、反射・散乱低減の効果が大きくなるからである。又、前記数値範囲に関して、便宜的には平均値がその数値範囲を満たすものであっても良いが、厳密には、大部分の無機粉末表面において、その数値範囲を満たすことが好ましいものである。前記大部分とは、面積比で、好ましくは50(より好ましくは65、更に好ましくは75)%以上である。もっとも、感光性有機成分に対する無機粉末内層部分の屈折率が余り高くない無機粉末、例えば、無機粉末内層部分の屈折率(R1)と感光性有機成分の屈折率(R3)が、以下の数値範囲を満たす無機粉末については、その表面に低屈折率表面材料よりなる部分を形成しなくても良く、そのような無機粉末が含まれて(感光性セラミックス組成物中、好ましくは0〜40重量%、より好ましくは0〜35重量%、更に好ましくは0〜20重量%)いても良い。
【0013】
R1−R3≦0.05
なお、低屈折率表面材料よりなる部分の形態としては、前記の通りの均一な厚みを有する平坦な形態が好ましいが、なんらこれに限定されるものではなく、表面に凹凸を有していたり、あるいは粒状であっても良い場合がある。また、感光性セラミックス組成物をペーストとして取り扱う際(混練等)に無機粉末表面から低屈折率表面材料よりなる部分が実質上剥離さえしなければ、両者の接着形態は特に限定されるものではないが、無機粉末表面をプラズマ処理し粗化した後に低屈折率表面材料を形成することによって達成される物理的な束縛効果を利用するものや、化学的な働きによって界面改質を行うことによって結合状態を強化するカップリング剤(例えば、チッソ株式会社製シランカップリング剤 製品名サイラエース ビニルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N,N’−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン)を低屈折率表面材料形成時の溶液に添加すること、また微粒子間の衝突に発生するメカノケミカル反応を用いた接着(例えば、ホソカワミクロン株式会社製メカノフュージョンAMS−Labを用いた表面改質処理)によって、接着性を向上させる方法等が挙げられる。
【0014】
無機粉末表面積(S1)に対する低屈折率表面材料よりなる部分の面積(S2)の面積比(S2/S1)は、1であることが勿論最も好ましいが、完全に覆い尽くされていなくても、差し支えなく、その場合、S2/S1は、好ましくは0.4以上(より好ましくは0.6以上、更に好ましくは0.8以上)である。
【0015】
また、本発明の低屈折率表面材料の屈折率が無機粉末の屈折率よりも低いことが肝要である。一般に無機材料は有機材料よりも密度が高く、無機粉末の屈折率は感光性有機成分のそれよりも高い。そのため、低屈折率表面材料の屈折率が無機粉末の屈折率よりも低くなるように選ぶことによって、低屈折率表面材料と有機成分との屈折率差を小さくすることができ、光の反射・散乱を低減する効果が大きくなるからである。特に限定されるものではないが、該低屈折率表面材料の屈折率(R2)と該無機粉末内層部分の屈折率(R1)の屈折率差(R1−R2)は、好ましくは0.05以上(より好ましくは0.1以上、更に好ましくは0.2以上)である。なお、前記屈折率差(R1−R2)の上限については特に限定されるものではないが、通常使用される該無機粉末の屈折率は2.5を越えるものはほとんどなく、一方、空気屈折率は1.0であることから、低屈折率表面材料の屈折率範囲は、その中間的な値をとることになるので、好ましくは1以下(より好ましくは0.6以下、更に好ましくは0.4以下)である。あるいは、感光性有機成分部分の屈折率R3との屈折率差(R2−R3)は、有機成分の屈折率は2.0を越えるものは少なく、また過度に大きいと散乱の原因となるので、上限については好ましくは0.8以下(より好ましくは0.5以下、更に好ましくは0.3以下)である。また下限については好ましくは−0.15以上である。
【0016】
本発明の低屈折率表面材料の屈折率が厚さ方向に傾斜を有している場合は、最表面の屈折率を採用するものとする。なお、前記屈折率が厚さ方向に傾斜させる手法としては、低屈折率表面材料の屈折率自体が内層に向かうに従って高くなるように物理的及び/又は化学的特性制御によるものであっても良いし、内層に向かうに従って、低屈折率表面材料の含有率が低下して無機粉末内層部分の材料等の高屈折率材料の含有率が上昇するように含有率勾配によるものであっても良い。
【0017】
また本発明の感光性セラミック組成物が含有する成分のうち、最大の屈折率を持つ成分をN1、最小の屈折率を持つ成分の屈折率をN2とした時に、N1−N2の値が0.15よりも小さいことが高アスペクト比かつ高精細なビアホールなどのパターン形成に好ましい。0.10よりも小さいことがより好ましく、0.07よりも小さいことが更に好ましい。前記上限値を上回ると異なる屈折率差により生じる多重散乱のため、フォトリソグラフィでの光線の直進性が劣化し、加工形状が悪化することとなり好ましくないことがある。但し、前記最大の屈折率を持つ成分も最小の屈折率を持つ成分も、感光性セラミック組成物中の含有が5.0重量%以上であるものとする。なお、前記成分、特に最小の屈折率をもつ成分については、感光性有機成分も含まれるものである。又、屈折率をもつ成分とは、感光性セラミックス組成物を構成するドメイン(又は相)単位のものである。例えば、感光性樹脂は、有機溶媒やその他の添加物等とともにゾル乃至はゲル形態を成しているので、これを1つのドメイン(又は相)として、つまり、この混合物の状態で、屈折率をもつ成分として考えるものである。同様に、無機粉末の内層部分を1つの屈折率をもつ成分、その内層部分よりも屈折率の低い無機材料(低屈折率表面材料)よりなる部分も1つの屈折率をもつ成分として考えるものである。
【0018】
なお、前記低屈折率表面材料の屈折率などの測定が困難な場合には、以下の方法により、前記構成などを有する本発明の感光性セラミックス組成物であることが判断できる。
【0019】
すなわち、該低屈折率表面材料よりなる部分を有しない以外は光学的構成要素が該感光性セラミックス組成物と実質上同じである無低屈折率表面材料系感光性セラミックス組成物の光線直進透過率(ST2)と、該低屈折率表面材料よりなる部分を有する該感光性セラミックス組成物の光線直進透過率(ST1)とが、1.1≦ST1/ST2
なる関係を有していれば、当該感光性セラミックス組成物と判断できる。
【0020】
前記該低屈折率材料を有しない以外は光学的構成要素が該感光性セラミックス組成物と実質上同じである無低屈折率表面材料系感光性セラミックス組成物とは、最も分かり易い例は、該低屈折率表面材料を有しない以外は組成及び構造が該感光性セラミックス組成物と実質上同じである感光性セラミックス組成物であるが、これに限らず、本発明の感光性セラミックス組成物と比較して、無機粉末の屈折率や感光性有機成分部分の屈折率がそれぞれ同じであり、無機粉末と感光性有機成分の体積比率が同じであり、無機粉末の平均粒径や真球度も同じであるなど、低屈折率表面材料以外の光線直進透過率に影響する光学的構成要素が同じでさえあれば、化学組成等が相違していても良い。従って、有機成分に感光性が無くても良い。なお、無低屈折率表面材料系感光性セラミックス組成物とは、本発明の低屈折率表面材料を有していないというだけの意味である。
【0021】
また、光線直進透過率とは、試料に照射した光量のうち、光路を変えず平行光のまま通過した光量の割合を示す。測定に用いる光線は露光にて使用する光源と同じ波長の光源、例えば高圧水銀灯やそのうちの選択された波長光源(g線 436nmやi線 365nm、またこれらの波長領域と同じ挙動を示す光源(ハロゲンランプなどの可視光源)による測定が好ましい。
なお、本発明の好ましい態様では、前記光線直進透過率比(ST1/ST2)は1.2以上であり、より好ましい態様では、1.5以上である。なお、このパラメータについては、特に上限値は規定されないが、材料の制約などにより2.0が限界と思われる。
【0022】
また、本発明の低屈折率表面材料が、ZnS、CeF2,MgF2、SiO2のうち少なくとも1種類を含むことが好ましい。これらの材料は、吸収係数が比較的小さいことにより透明性が高いからである。吸収係数は成膜方法等の影響によって変化する。S.Aizenburg and R. Chabot J.Appl.Phys.42(1971)2953やPei-Fu Gu, Yen ming Chan, Xue Qun Hu and Jin-Fa Tang Appl. Opt. 28(1989)3318等で示されたデータによると、SiO2は、2×10―5程度である。これは、波長550nmでの測定値である。
【0023】
また、無機粉末の平均粒径が、0.1〜10μmの間であることが好ましい。ここで言う粒子径とはレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて得られた値である。又、平均粒子径は、50%分布粒子径とする。なお、50%分布粒子径とは粒度分布が50%のところの粒子径を指し、今後特に断りがない限り平均粒子径とはこの粒子径を指す。平均粒子径が0.1μmよりも小さいと、感光性有機成分と混合、分散することが困難となるうえに、低屈折率表面材料よりなる部分を形成するに十分な無機粉末表面が存在しない。一方、10μmよりも大きいと、主として使用する光の波長である紫外線領域から可視領域にかけて、光の散乱体として無視できなくなる。さらに、0.3μmよりも大きいとより好適に使用できる。なぜなら、感光性有機成分との混合、分散が、該平均粒径では三本ロールなどを用いる物理的な手法も使用することができ、比較的容易に混合分散できるからである。また、平均粒径5μmよりも小さいと、さらに好ましく使用することができる。前述したように、5μmよりも小さいと、粒子そのものの光の散乱が少なくなること、また感光性有機成分と混合、分散した際に、粘度が安定し、シート化した際のシート面内での強度ばらつきを抑制することができるからである。
【0024】
またさらには平均粒径が0.5μmよりも大きいとより好ましく使用することができる。該平均粒径以上とすることで、感光性有機成分と混合、分散した状態において、露光光が効率よく吸収され、かつ現像時に現像液に浸漬した際に、現像液が均一に拡散する。これにより、露光・現像の工程時間が短縮されるからである。
【0025】
さらには、平均粒径3.5μm以下であると、露光・現像によって得られた断面形状を比較的平滑に得ることができることから、高解像度のパターンを必要とする場合には、より好適に用いられる。
【0026】
また、無機粉末(ここにおける、材質としての無機粉末とは、厳密には無機粉末内層部分を指すが、近似的には、含有比率が少ないので低屈折表面材料も含まれたものであっても良い。以下、無機粉末の材質に関しては同様の状況とする。)が、アルミナ、ジルコニア、マグネシア、ベリリア、ムライト、スピネル、フォルステライト、アノーサイト、セルジアンおよび窒化アルミの群から少なくとも1種類を含むことが好ましい。これらの材料は、ガラスセラミックスにおいて機械的強度の向上や、線膨張係数などの熱物性の制御、あるいは誘電率や誘電正接の制御等を目的として、ガラスセラミックス中に含まれる材料である。これらの材料の熱膨張係数は10-6〜10-7台(/℃)と小さく(測定領域:25〜300℃)、熱による変形が小さい。そのため表面に低屈折率表面材料よりなる部分を形成した後、工程中の温度変化等があっても、低屈折率表面材料よりなる部分の剥離や脱落が少ないからである。
【0027】
無機粉末は焼成工程において焼結するものであり、本発明の目的とする基板形成では、1000℃以下、特に600〜950℃の温度での焼成が好ましいので、いわゆる低温焼成無機粉末が好ましい。もちろん、これらの無機粉末が基板の電気的特性、強度、熱膨張係数などの基本物性を決めるものであり、慎重に選択することが必要である。低温焼成が可能なセラミックス材料やガラス・セラミックス材料が選択される。ガラス・セラミックス材料においては、ガラス成分が焼結されるが、セラミックス成分はフィラーとしての役割を果たすものを用いることができるので形成された基板の強度や誘電的特性上好ましい無機粉末となる。
【0028】
従来のガラス・セラミックスは、その殆どは誘電損失が高く、十分満足できる高周波特性を有するものでなかった。従って、本発明の無機粉末は、Cu、Ag、Auなどを配線導体として多層化が可能な600〜950℃での焼成が可能であるとともに、GaAsなどのチップ部品やプリント基板の熱膨張係数と近似した熱膨張係数を有し、高周波領域においても低誘電率でかつ誘電損失が低い基板を与えるものであることが好ましい。
【0029】
上記に示したような特性に応じて、無機粉末の成分は決定されるが、代表的な例として以下の4例をあげることができる。
【0030】
まず第1の様態として、RxO−Al2O3−SiO2系材料(Rはアルカリ金属(x=2)あるいはアルカリ土類金属(x=1)を示す) で表されるアルミノケイ酸塩系化合物が含有されている系である。特に限定されるものではないが、アノーサイト(CaO−Al2O3−2SiO2)、セルジアン(BaO−Al2O3−2SiO2)などであり、低温焼結セラミックス材料として用いられる無機粉末である。
【0031】
また第2の様態として、ガラス粉末が50〜90重量%であり、石英粉末および/またはアモルファスシリカ粉末が10〜50重量%である割合で含有されているものも好ましく使用することができる。ガラス粉末はホウ珪酸ガラスである。この時、石英粉末および/またはアモルファスシリカは、ホウ珪酸ガラスと溶解しないことが好ましい。また、球状シリカである方が、スラリーの充填性が上がり好ましい。石英ないしアモルファスシリカは、単体での誘電正接が、10 −5 台と非常に低いことから、誘電損失が小さく、無機粉末組成中に含有させることで、全体の誘電損失を低減する役割をもつ。
【0032】
また、第3の様態として、ホウ珪酸ガラス粉末30〜60重量%、石英粉末および/またはアモルファスシリカ粉末20〜60重量%と、スピネル、フォルステライト、アノーサイトおよびセルジアンの群から選ばれた少なくとも1種類のセラミックス粉末20〜60重量%との混合物である。
【0033】
前記の第4の態様は、酸化物換算表記でSiO2:30〜70重量%、Al2O3:5〜40重量%、CaO:3〜25重量%、B2O3:3〜50重量%の組成範囲で、総量が85重量%以上となるガラス粉末を30〜60重量%と、アルミナ、ジルコニア、マグネシア、ベリリア、ムライト、スピネル、フォルステライト、アノーサイト、セルジアン、および窒化アルミの群から選ばれた少なくとも1種類のセラミックス粉末70〜40重量%との混合物である。
【0034】
無機粉末はフィラー成分を含むことが可能であり、フィラー成分として前記の通りセラミックス粉末が用いられることが多く、基板の機械的強度の向上や熱膨張係数を制御するのに有効であり、特に、アルミナ、ジルコニア、ムライト、アノーサイトはその効果が優れている。これらのセラミックス粉末の混合により、焼成温度を800〜900℃とし、強度、誘電率、熱膨張係数、焼結密度、体積固有抵抗、収縮率を所望の特性とすることができる。
【0035】
ガラス粉末のSiO2、Al2O3、CaOおよびB2O3などの成分は、ガラス粉末中で総量85重量%以上であることが好ましい。残りの15重量%以下はNa2O、K2O、BaO、PbO、Fe2O3、Mn酸化物、Cr酸化物、NiO、Co酸化物などを含有することができる。ガラス粉末30〜60重量%と組み合わされるセラミックス粉末70〜40重量%はフィラー成分となる。ガラス粉末中のSiO2は30〜70重量%の範囲であることが好ましく、30重量%未満の場合は、ガラス層の強度や安定性が低下し、また誘電率や熱膨張係数が高くなり所望の値から外れやすい。また、70重量%より多くなると焼成基板の熱膨張係数が高くなり、1000℃以下の焼成が困難となる。Al2O3は5〜40重量%の範囲で配合することが好ましい。5重量%未満ではガラス相中の強度が低下する上、1000℃以下での焼成が困難となる。40重量%を越えるとガラス組成をフリット化する温度が高くなりすぎる。CaOは3〜25重量%の範囲で配合するのが好ましい。3重量%より少なくなると所望の熱膨張係数が得られなくなり、また1000℃での焼成が困難となる。25重量%を越えると誘電率や熱膨張係数が大きくなり好ましくない。B2O3はガラスフリットを1300〜1450℃付近の温度で溶解するため、およびAl2O3が多い場合でも誘電率、強度、熱膨張係数、焼結温度などを電気、機械および熱的特性を損なうことのないように焼成温度を800〜900℃の範囲に制御するために配合することが望ましく、配合量として3〜50重量%の範囲が好ましい。
【0036】
なお、無機粉末が、複数種の粉末よりなる混合物であり場合、前記混合物のうち、屈折率が有機成分に比して余り高くない粉末については、本発明の低屈折率表面材料の部分を形成する必要はない場合がある。特に限定されるものではないが、本発明の低屈折率表面材料よりなる部分を無機粉末表面に設けることによる効果が好適に認められるのは、無機粉末の屈折率が1.6以上(より好適には1.65以上、更に好適には1.7以上)であり、また、前記の通りの高屈折率を有する成分が前記無機粉末に占める比率が5重量%以上(より好適には10重量%以上、更に好ましくは20重量%以上)の場合である。
【0037】
なお、グリーンシート形成用の場合などでは、感光性セラミックス組成物における無機粉末の割合(有機溶媒などを含まない状態での割合)は60〜95重量%(より好ましくは60〜90重量%、更に好ましくは65〜85重量%)であることが好ましい。前記数値範囲の下限値を下回ると有機成分が無機成分の間隙を埋め尽くしてしまい通気性が損なわれ、焼結時に有機成分が消失しにくくなったり、また焼結できた場合でも焼結前後での体積変動が有機成分消失の分だけ多くなるため、寸法安定性の保持が難しくなる。一方、上限値を上回るとグリーンシート全体での可撓性が低下して好ましくない場合がある。
【0038】
感光性セラミックス組成物の必須成分である感光性有機成分は、本発明では側鎖にカルボキシル基を有するアクリル系共重合体、光反応性化合物および光重合開始剤を含有することが好ましい。必要に応じて、バインダーポリマー、増感剤、紫外線吸収剤、分散剤、界面活性剤、有機染料、可塑剤、増粘剤、酸化防止剤、ゲル化防止剤などの添加剤成分を加えることができる。
【0039】
本発明に用いる感光性有機成分は、側鎖にカルボキシル基を有するアクリル系共重合体を含有していることが好ましいが、このような側鎖にカルボキシル基を有するアクリル系共重合体を用いた感光性ペーストは、パターン露光後の現像をアルカリ水溶液で実施することができるという特徴を有している。側鎖にカルボキシル基を有するアクリル酸系共重合体は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、ビニル酢酸またはこれらの酸無水物などのカルボキシル基含有不飽和モノマーおよびメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、2−ヒドロキシエチルアクリレートなどのモノマーを選択し、適当なラジカル重合開始剤を用いて共重合することにより得られるが、これに限定されるものではない。不飽和基を有する他の重合性モノマーを共重合成分として加えることも可能である。側鎖にカルボキシル基を有するアクリル系共重合体の酸価は、50〜140であることが好ましい。酸価を140以下とすることで、現像許容幅を広くすることができ、酸価を50以上とすることで、未露光部の現像液に対する溶解性が低下することがなく、従って現像液を濃くする必要がなく露光部の剥がれを防ぎ、高精細なパターンを得ることができる。側鎖にカルボキシル基を有するアクリル系共重合体は、焼成時の熱分解温度が低いことから好ましく用いられる。
【0040】
さらに、側鎖にカルボキシル基を有するアクリル系共重合体が、側鎖にエチレン性不飽和基を有することも好ましく、該エチレン性不飽和基としては、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などがあげられる。このようなエチレン性不飽和基側鎖をポリマーに付加させる方法は、ポリマー中の活性水素含有基であるメルカプト基、アミノ基、水酸基やカルボキシル基に対して、グリシジル基やイソシアネート基を有するエチレン性不飽和化合物やアクリル酸クロライド、メタクリル酸クロライドまたはアリルクロライドを付加反応させる。グリシジル基を有するエチレン性不飽和化合物としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、エチルアクリル酸グリシジル、クロトン酸グリシジル、イソクロトン酸グリシジルなどがある。イソシアネート基を有するエチレン性不飽和化合物としては、(メタ)アクリロイルイソシアネート(「(メタ)アクリ・・・」とは、「アクリ・・・」及び/又は「メタクリ・・・」を意味する、以下も同様)、(メタ)アクリロイルエチルイソシアネートなどがある。また、グリシジル基やイソシアネート基を有するエチレン性不飽和化合物やアクリル酸クロライド、メタクリル酸クロライドまたはアリルクロライドは、ポリマー中のメルカプト基、アミノ基、水酸基やカルボキシル基に対して0.05〜0.95モル当量付加させることが好ましい。活性水素含有基がメルカプト基、アミノ基、水酸基の場合にはその全量を側鎖基の導入に利用することもできるが、カルボキシル基の場合には、ポリマーの酸価が好ましい範囲に保持される範囲で付加することが好ましい。
【0041】
感光性有機成分には光反応性化合物が含有され、これらの光反応性化合物の光反応による架橋反応や重合反応が重要な役割をする。このような役割をする光反応性化合物としては、活性な炭素−炭素二重結合を有する化合物で、官能基としてビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基などを有する単官能および多官能化合物から選んだ少なくとも1種が用いられる。光反応性化合物の選択は無機粉末の混合・分散性に影響を与えることもあるので、必要に応じて、好適な光反応性化合物を実験的に選択すれば良い。光反応性化合物は一種に限定されるものではなく複数種を混合して用いることも可能であり、無機粉末の安定分散性を保持することと共に形成されるグリーンシートの形状安定性やパターン形成性にも留意して選択することが好ましい。これに限定されるものではないが、エチレン性不飽和基を有するアミン化合物やウレタン結合を有するアクリロイルまたはメタクリロイル誘導体などを用いることが好ましい。
【0042】
不飽和基を有する光反応性化合物類には、一般的に活性光線のエネルギーを吸収する能力はないので、光反応を開始するためには、光重合開始剤を加えることが必要である。場合によっては光重合開始剤の効果を補助するために増感剤を用いることがある。このような光重合開始剤には1分子系直接開裂型、イオン対間電子移動型、水素引き抜き型、2分子複合系など機構的に異なる種類があり、それらから選択して用いる。本発明に用いる光重合開始剤は、活性ラジカル種を発生するものが好ましい。光重合開始剤や増感剤は1種または2種以上使用することができる。光重合開始剤は、感光性有機成分に対し、好ましくは0.05〜10重量%の範囲で添加され、より好ましくは0.1〜10重量%である。光重合開始剤の添加量をこの範囲内とすることにより、露光部の残存率を保ちつつ良好な光感度を得ることができる。
【0043】
感光性セラミックス組成物中の該感光性有機成分含有率(有機溶媒などを含んだ状態での割合)が、10重量%以上、40重量%以下であることが好ましい。感光性セラミックス組成物を塗布膜もしくはグリーンシートに形成した場合、それらの形成体の可撓性や通気性を両立させることが重要であり、感光性有機成分の含有量はこれらの特性に影響を与える。可撓性を向上させるためには、組成物中の有機成分含有率の高い方が望ましいが、あまり多くなると無機粉末の間隙を埋め尽くしてしまい通気性を損なってしまう。こうした観点から、感光性有機成分の含有率は、20重量%以上であるとより好ましく、また35重量%以下であることもより好ましいものである。
【0044】
本発明の感光性セラミックス組成物は、例えば次のようにして調製することができる。
【0045】
まず、無機粉末表面への低屈折率表面材料よりなる部分の形成を行う。
【0046】
無機粉末の表面の少なくとも一部に低屈折率表面材料よりなる部分を形成する方法としては、スプレーコーティング法や真空蒸着法といった気体雰囲気もしくは真空雰囲気中で無機粉末の表面に形成する方法や、低屈折率表面材料よりなる部分もしくはその前駆体となるものが、溶解もしくは分散されている溶液を無機粉末に付着させ、その後、溶媒を蒸発させ、あるいは必要に応じて光照射や加熱することによって無機粉末表面に付着した溶液を化学反応させることにより低屈折率表面材料よりなる部分を形成する方法が好適に用いられる。
【0047】
スプレードライヤーによる方法は、低屈折率表面材料を含む原液をノズルから噴霧し、ホットプレートや熱風存在下に置かれた無機粉末表面に噴霧された液が瞬間的に乾燥されることにより行われる。
【0048】
真空蒸着法は、金属または非金属の小片を高真空中で加熱蒸発させ、蒸発した蒸着源物質が、被蒸着物質となる無機粉末の表面に凝着されることによって行われる方法である。真空中での蒸発工程であることから、加熱体と被蒸着表面間の距離が分子の平均自由行程にくらべて十分小さくなる程度の高真空に保つこと,表面を清浄にして吸蔵水分などを完全に除去しておくことが好ましい。また、酸化物や窒化物などの物質を蒸着する際には、微量の酸素もしくは窒素ガスを雰囲気ガスとして導入し、蒸着物質が蒸発・気化した状態で反応させ、それを被蒸着物質表面に形成する方法がとられる。
【0049】
溶液を調製し無機粉末表面に付着させる方法は、溶液の組成、濃度などによって付着の度合いを制御でき、無機粉末との混合などによって大量の表面処理が可能となる。溶液の種類としては、たとえばSiO2を含んだ低屈折率表面材料を形成したい場合には、二酸化ケイ素とアルカリとを融解して得られたケイ酸アルカリ塩を濃厚水溶液としたもの.すなわち水ガラスとよばれるものや、あらかじめ物理的もしくは化学的に合成された無機粉末を水や有機溶媒を分散媒として混合したものを好適に使用することができる。無機粉末への付着性を向上させることを目的に、シランカップリング剤を0.01〜3.0重量%程度含有させることもできる。
【0050】
方法としては、前述のように種々あるが、容易な方法として、低屈折率表面材料を含む溶液を調製し、これを無機粉末と混合して攪拌して付着させる方法である。その後、吸引濾過を行った後、オーブンにて乾燥させることによって作製する。
【0051】
次に、感光性有機成分(例えば、側鎖にカルボキシル基を有する重合体、光重合開始剤等)に、必要に応じて溶媒や各種添加剤を混合した後、濾過し、有機ビヒクルを作製する。これに、必要に応じて前処理された無機粉末とフィラー成分からなる無機成分を添加し、ボールミルなどの混練機で均質に混合・分散して感光性セラミックス組成物のスラリーまたはペーストを作製する。このスラリーまたはペーストの粘度は無機粉末と有機成分の配合比、有機溶媒の量、可塑剤その他の添加剤の添加割合によって適宜調整されるが、その範囲は1〜5Pa・sが好ましい。スラリーもしくはペーストを構成する際に用いる溶媒は、感光性有機成分を溶解し得るものであればよい。例えば、メチルセルソルブ、エチルセルソブル、ブチルセルソブル、メチルエチルケトン、ジオキサン、アセトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、テトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド、γ−ブチロラクトン、トルエン、トリクロロエチレン、メチルイソブチルケトン、イソフォロンなどや、これのうち1種以上を含有する有機溶媒混合物が用いられる。
【0052】
得られたペーストをドクターブレード法、押し出し成形法などの一般的な方法でポリエステルなどのフィルム上に厚さ0.05〜0.5mmに連続的に成形し、溶媒を乾燥除去することにより、感光性セラミックス組成物であるグリーンシートが得られる。ビアホールは、この感光性セラミックス組成物であるグリーンシートに対して、ビアホール形成用パターンを有するフォトマスクを通したパターン露光を行い、アルカリ水溶液で現像することによって形成される。露光に用いる光源は超高圧水銀灯が最も好ましいが、必ずしもこれに限定されるものではない。露光条件はグリーンシートの厚みによって異なるが、例えば、5〜100mW/cm2の出力の超高圧水銀灯を用いて5秒〜30分間露光を行うことが好ましい。なおビアホール形成と同じ手法でシート積層時のアライメント用ガイド孔を形成しておくことができる。
【0053】
このようにして、焼成前の厚みが10〜500μm、最密なビアホールパターン部分がビアホール直径20〜200μm、ビアホールピッチ30〜250μmのシートを作製することができる。本発明では、この状態のビアホールが高アスペクト比で形成でき、さらにシート厚みを厚くすることができることから、基板の絶縁性が高く、さらに高密度配線が可能となったことを特徴としている。
【0054】
次に必要な枚数の配線パターンの形成されたシートをガイド孔を用いて積み重ね、80〜150℃の温度で5〜25MPaの圧力で接着し、多層シートを作製する。焼成は焼成炉において行う。焼成雰囲気や温度は感光性セラミックス組成物中の無機粉末や有機成分の種類によって異なるが、空気中、窒素雰囲気中、または水素還元雰囲気中等で焼成する。本発明の感光性セラミックス組成物の焼成は600〜950℃の温度で行うことが好ましい。このようにして得られたセラミックス多層基板は高周波回路用基板として好適に用いられる。
【0055】
感光性セラミックス組成物から形成されたグリーンシートの焼成を行う場合、グリーンシートの上面および下面に難焼結性のセラミックスシートを積層して焼成してもよい。それによって、厚み方向のみ収縮させ、X−Y平面にはほぼ無収縮となるようにできるが、X−Y平面方向の焼成収縮率が1%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.1%以下である。
【0056】
難焼結性のセラミックスとは、基板焼結温度では焼結しないセラミックス粉末で、アモルファスシリカ、石英、アルミナ、マグネシア、ヘマタイト、チタン酸バリウムおよび窒化硼素などから選択して用いることができる。これらの材料から得られるシートは、ダミー用グリーンシートまたは拘束シートなどと称せられる。このシートには、しばしば酸化鉛、酸化ビスマス、酸化亜鉛、酸化マンガン、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウムなどの酸化剤やガラス・セラミックスグリーンシートとの密着性改良材となる酸化物粉末が1〜5重量%添加されることが好ましい。このような難焼結性のセラミックスシートの例としては、アルミナ粉末にポリビニルブチラール、ジオクチルフタレート、適当な酸化物、有機溶媒などを加えて、ドクターブレード法によってシート状に形成したものをあげることができる。
【0057】
グリーンシートの上下の面に拘束シートを配置した状態での焼成工程によりX−Y平面方向の収縮は制限されるが、組成物の成分や配合組成、焼成時の諸条件により不可避の収縮が存在するので、収縮率を1%以下に抑制できるならば、ほぼ無収縮を達成したものと考えることができるが、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.1%以下に抑制することが好ましい。このような条件はスクリーン印刷等で形成した塗布膜にも適用(セラミックス等よりなる基板に感光性セラミックス組成物のペーストを塗布する手法であり、一般的には、前記基板はそのまま残り完成品の一部を構成する)することが可能であり、塗布膜の場合には、膜の下面には既に基板が存在しているので、膜の上面に拘束シートを配した状態で実施することができる。
【0058】
【実施例】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。なお、濃度(%)は特に断らない限り重量%である。また、屈折率は特に断らない限り、ナトリウムD線での測定値である。実施例に用いた無機微粒子成分および有機成分は次の通りである。
【0059】
A.無機粉末
無機粉末I:
アルミナ粉末49.8%+ガラス粉末50.2%の複合セラミックス
アルミナ粉末の特性:平均粒子径2μm、屈折率1.78(ナトリウムD線での値)
ガラス粉末の組成:Al2O3(10.8%)、SiO2(51.5%)、PbO(15.6%)、CaO(7.1%)、MgO(2.86%)、Na2O(3%)、K2O(2%)、B2O3(5.3%)
ガラス粉末の特性:ガラス転移点565℃、熱膨張係数60.5×10-7/K、誘電率8.0(1MHZ)、平均粒子径2μm、ガラス粉末の屈折率1.58(ナトリウムD線での値)
無機粉末II :
Al2O3−SiO2−B2O3系ガラス粉末
ガラス粉末の組成:Al2O3(8.7%)、SiO2(67%)、ZrO2(2.7%)、K2O(1.6%)、B2O3(12.5%)
ガラス粉末の特性:ガラス転移点500℃、熱膨張係数42×10-7/K、誘電率4.7(1MHz)、平均粒子径3μm、屈折率1.68
B.無機粉末表面に形成する低屈折率表面材料
溶液コーティングを行うために、オルガノゾルを作製し、使用した。ゾルの平均粒径は、株式会社堀場製作所製動的光散乱式粒径分布装置LB−500を用いて測定・算出した。また、ゾルを乾燥させた後、液浸法を用いて屈折率を測定した。
【0060】
コーティング材I:ZrO2ゾル(平均粒径12nm)、溶媒γ−ブチロラクトン、濃度11%、乾燥後屈折率2.0
コーティング材II:TiO2ゾル(平均粒径7nm)、溶媒プロピレングリコール、濃度21%、乾燥後屈折率2.3
コーティング材III:CeO2ゾル(平均粒径17nm)、溶媒ベンジルアルコール、濃度12%、乾燥後屈折率2.3
コーティング材IV:Ta2O5ゾル(平均粒径14nm)、溶媒ベンジルアルコール、濃度19%、乾燥後屈折率2.0
コーティング材V:Y2O3ゾル(平均粒径19nm)、溶媒γ−ブチロラクトン、濃度25%、乾燥後屈折率2.0
コーティング材VI:ZnSゾル(平均粒径13nm)、溶媒γ−ブチロラクトン、濃度18%、乾燥後屈折率2.2
コーティング材VII:Al2O3ゾル(平均粒径9nm)、溶媒プロピレングリコール、濃度9%、乾燥後屈折率1.7
コーティング材VIII:CeF2ゾル(平均粒径17nm)、溶媒ブタノール、濃度22%、乾燥後屈折率1.6
コーティング材IX:MgF2ゾル(平均粒径19nm)、溶媒エタノール、濃度14%、乾燥後屈折率1.4
コーティング材X:SiO2ゾル(平均粒径8nm)、溶媒γ―ブチロラクトン、濃度20%、乾燥後屈折率1.4
C.感光性有機成分
ポリマー1:メタクリル酸40重量%、メチルメタクリレート30重量%およびスチレン30重量%からなる共重合体のカルボキシル基に対して0.4当量のグリシジルメタクリレートを付加反応させた重量平均分子量43,000、酸価95を有するポリマー
光反応性化合物1:ビス(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピル)イソプロピルアミン(GMPA)
光反応性化合物2:TN−1(根上工業株式会社製、ウレタンプレポリマー、分子量約12,000)
光反応性化合物3:ビス(4−メタクリロイルチオフェニル)スルフィド(住友精化株式会社製:高屈折率モノマーMPSMA)
光重合開始剤:IC−369(チバ・ガイギー社製、Irgacure-369)
溶媒:メチルエチルケトンとn−ブチルアルコールの9:1混合溶媒。
【0061】
D.有機ビヒクルの作製
溶媒およびポリマーを混合し、撹拌しながら60℃に加熱し、すべてのポリマーを溶解させた。溶液を室温まで冷却し、光反応性化合物、光重合開始剤を加えて溶解させた。その溶液を真空脱泡した後、250メッシュのフィルターで濾過し、有機ビヒクルを作製した。ポリマー10重量部、光反応性化合物(複数種を用いる場合は均等割り)10重量部、光開始剤3.5重量部の配合比とした。
【0062】
なお、この有機ビヒクルの屈折率R3は、各実施例の低屈折率表面材料の屈折率R2に対して、−0.15≦R2−R3≦0.3となるように調製した。
【0063】
E.無機粉末処理
上記コーティング材を用いて、無機粉末表面に低屈折率表面材料よりなる部分を形成した。使用する無機粉末とコーティング材を混合し、室温で1時間攪拌した。次に、この液を、濾紙(Whatman社製GF/B)を用いて吸引濾過した。これをマッフル炉に入れて、500℃で加熱した。
【0064】
無機粉末表面への低屈折率表面材料の付着状況は、走査電子顕微鏡によって低屈折率表面材料の付着状態を調べ、形成された低屈折率表面材料よりなる部分の厚み測定には、透過電子顕微鏡を用いて測定し、平均値を算出した。
【0065】
F.ペースト調製
上記の有機ビヒクルに無機粉末を混合した(以下、混合粉末と表記する)。この混合粉末をボールミルで20時間湿式混合し、ペーストとした。有機ビヒクル中のポリマーと光反応性化合物とを合わせた20重量部に対して混合粉末の量は80重量部とした。
【0066】
G.グリーンシートの作製
成形は紫外線を遮断した室内でポリエステルのキャリアフィルムとブレードとの間隔を0.1〜0.8mmとし、成形速度0.2m/min.でドクターブレード法によって行った。シートの厚みは100、150または200μmである。
【0067】
H.光透過性の測定
上記に示したグリーンシートの作製方法と同じ方法で光透過性の測定を行うための試料を作製した。その時の厚みを50μmとした。このグリーンシートを40mm角に切断した後、温度80℃で1時間乾燥し、溶媒を蒸発させた。次に、スガ試験機株式会社ヘーズコンピューターHGM−2DPを用いて、光透過率を測定した。測定項目は、全光線透過率、光線直進透過率である。全光線透過率は、試料に照射した光量のうち、試料を通過した全光量の割合を示す。光線直進透過率は、試料に照射した光量のうち、光路を変えず平行光のまま通過した光量の割合を示す。全光線透過率が高いと透明性が高く、シート厚みを厚くした際に底部まで露光光が到達しやすくなる。また光線直進透過率が高いと、フォトマスクのパターンの転写性が高くなり、露光・現像後のビア断面形状が矩形に近づく。すなわち、全光線透過率が高いほど厚いシートへの貫通穴形成ができ、光線直進透過率が高いほど高アスペクト比のビア断面を得ることができる。
【0068】
I.ビアホ−ルの形成
グリーンシートを100mm角に切断した後、温度80℃で1時間乾燥し、溶媒を蒸発させた。ビア径30〜100μm、ビアホールピッチ500μmのクロムマスクを用いて、シートの上面から15〜25mW/cm2の出力の超高圧水銀灯を用いてシートとマスクの間を密着条件下で、1分間パターン露光した。次に、25℃に保持した0.5重量%モノエタノールアミンの水溶液により現像し、その後、スプレーを用いてビアホールを水洗浄した。
【0069】
J.焼成時に用いる拘束シートの作製
アルミナ粉末またはジルコニア粉末またはマグネシア粉末にポリビニルブチラール、ジオクチルフタレート、有機溶媒など加えて、ドクターブレード法によってシート上に作製したものを用いた。
【0070】
K.多層基板の作製
本発明の感光性セラミックス組成物からなるグリーンシートを5〜6枚積層し、上下に無収縮焼成のための拘束シートを配置し、80℃でプレス圧力150kg/cm2にて熱圧着した。得られた多層体を空気中で、900℃の温度で30分間焼成して、多層基板を作製した。焼成収縮率はX−Y面方向で測定した。
【0071】
L.誘電率の測定
誘電率はインピーダンズアナライザーあるいは空洞共振器を用い、ネットワークアナライザーにより測定した。
【0072】
実施例1
無機粉末として無機粉末Iを、低屈折率表面材料としてコーティング材Xを用いて、低屈折率表面材料よりなる部分の形成を行った。走査電子顕微鏡で観察したところ、表面にコーティング材によって形成されたSiO2があることを確認した。さらに透過電子顕微鏡にて、測定した結果、形成されたSiO2の厚みは70nmであることがわかった。上記処理を経た無機粉末を無機粉末原料とする。
【0073】
無機粉末原料(70%)、感光性有機成分としてポリマー1(15%)、光反応性化合物1(5%)、光反応性化合物2(5%)、光反応性化合物3(5%)および光重合開始剤を用い、光透過性評価試料及び厚み100μmのグリーンシートを得た。光透過性の測定を行ったところ、全光線透過率が60%、光線直進透過率が6.5%であった。
【0074】
露光エネルギー量は900mJとした。ビアホールの形成を試みたところ、30μmのビアホールが形成できた。得られたシートを硬化させた後、アルミナ拘束シートを用いて、900℃、30分間焼成して得られた多層白基板に亀裂は見られず、曲げ強度は270MPaであった。また誘電率は7.8(1MHz)であった。
【0075】
また、200μmのグリーンシートを作製し、これについてビアホールの形成を試みたところ、50μmのビアホールが形成できた。
【0076】
実施例2a〜2h
実施例1のうちコーティング材Xの溶媒であるγ−ブチロラクトンの量を増減し、表1の通り濃度を変化させた。異なる濃度のコーティング材を用いて、光透過性評価試料および厚み100μmのグリーンシートを作製した。その結果、表1に示す結果を得た。露光エネルギーは、1500mJとした。
【0077】
【表1】
【0078】
表1に示したように、形成される低屈折率表面材料よりなる部分の厚みの変化に応じて光透過性ならびにビアホール形成特性が変化する。
【0079】
実施例3a〜3d、比較例1a〜1f
無機粉末Iのうちアルミナ成分のみについて、これにコーティング材I〜Xを加えてコーティングした後、無機粉末Iのガラス粉末を加えて無機粉末原料を作製した。実施例1と同様に有機ビヒクル作製後、厚み100μmのグリーンシートと光透過性評価試料を作製した。光透過性評価並びにビアホール形成特性を評価したところ表2に示す結果を得た。露光エネルギー量は、1200mJとした。
【0080】
【表2】
【0081】
表2に示したように、アルミナ粉末の屈折率(1.7〜1.8)と同等または小さい屈折率の低屈折率表面材料を含有するコーティング材を使用した時の方が、光透過性が高く、ビアホール加工径も小さくなることがわかる。
【0082】
実施例4a〜4g
無機粉末IIを作製し、これを粉砕加工して平均粒子径の異なる粉末を得た後、これにコーティング材VIIIを用いる以外は、実施例1と同様にして、低屈折率表面材料よりなる部分を無機粉末表面に形成し、無機粉末原料とした。実施例1と同じように、光透過性評価試料および厚み100μmのグリーンシートを作製し評価した。露光エネルギー量を1100mJとした。その結果を表3に示す。
【0083】
【表3】
【0084】
表3に示したように、平均粒径によって光透過性が変化し、加工できるビアホール径にも変化がでることがわかった。また、平均粒径が小さいと、無機粉末原料と有機成分を混合した際に粘度が急激に上昇し、グリーンシートに作製した後も、表面に粉末が析出した。その一方、平均粒径が大きい状態では、グリーンシート表面の凹凸が大きい上に、露光、現像した後のビアホール形状を見ると、粒子が脱落したことによる多数の穴が見られた。
【0085】
【発明の効果】
本発明では、前記の通りの無機粉末を含む感光性セラミックス組成物を用いることにより、フォトリソグラフィー法を用いて高アスペクト比かつ高精細のビアホール形成が可能なセラミックス基板材料を得ることができる。
Claims (12)
- 無機粉末と感光性有機成分を必須成分とする感光性セラミックス組成物であって、該無機粉末表面の少なくとも一部に該無機粉末内層部分よりも屈折率の低い無機材料よりなる部分が形成されており、屈折率の低い材料よりなる部分の厚みtが5≦t≦200(nm)を満たすことを特徴とする感光性セラミックス組成物。
- 上記屈折率の低い材料の屈折率(R2)と該無機粉末内層部分の屈折率(R1)、および、該感光性有機成分の屈折率(R3)が下記の式、
0.05≦R1−R2
−0.15≦R2−R3
を満足する請求項1記載の感光性セラミックス組成物。 - 上記感光性セラミックス組成物の光線直進透過率(ST1)と、該屈折率の低い材料よりなる部分を有しない感光性セラミックス組成物の光線直進透過率(ST2)が、1.1≦ST1/ST2 なる関係を有している請求項1記載の感光性セラミックス組成物。
- 上記屈折率の低い材料が、ZnS、CeF2、MgF2、およびSiO2よりなる群から選ばれる少なくとも1種類を含む請求項1記載の感光性セラミックス組成物。
- 最大の屈折率を持つ成分の屈折率をN1、最小の屈折率を持つ成分の屈折率をN2としたときに、N1−N2<0.15であり、かつ焼成前後の収縮率がX−Y面方向で1%以内となる請求項1記載の感光性セラミックス組成物。
- 上記無機粉末が、アルミナ、ジルコニア、マグネシア、ベリリア、ムライト、スピネル、フォルステライト、アノーサイト、セルジアンおよび窒化アルミよりなる群から選ばれる少なくとも1種類を含む請求項1記載の感光性セラミックス組成物。
- 上記無機粉末に、RxO−Al2O3−SiO2系材料(Rはアルカリ金属(x=2)あるいはアルカリ土類金属(x=1)を示す)が含有されている請求項1記載の感光性セラミックス組成物。
- 上記該無機粉末に、ガラス粉末が50〜90重量%であり、石英粉末および/またはアモルファスシリカ粉末が10〜50重量%である割合で含有されている請求項1記載の感光性セラミックス組成物。
- 上記無機粉末が、ホウ珪酸ガラス粉末30〜60重量%、石英粉末および/またはアモルファスシリカ粉末20〜60重量%、およびスピネル、フォルステライト、アノーサイトおよびセルジアンの群から選ばれた少なくとも1種類のセラミックス粉末20〜60重量%の混合物である請求項1記載の感光性セラミックス組成物。
- 上記無機粉末が、酸化物換算表記で、SiO2:30〜70重量%、Al2O3:5〜40重量%、CaO:3〜25重量%、B2O3:3〜50重量%の組成範囲で、総量が85重量%以上となるガラス粉末を30〜60重量%と、アルミナ、ジルコニア、マグネシア、ベリリア、ムライト、スピネル、フォルステライト、アノーサイト、セルジアン、および窒化アルミの群から選ばれた少なくとも1種類のセラミックス粉末70〜40重量%との混合物である請求項1記載の感光性セラミックス組成物。
- 上記感光性有機成分が、側鎖にカルボキシル基を有するアクリル系共重合体、光反応性化合物および光重合開始剤を含有する請求項1記載の感光性セラミックス組成物。
- 上記感光性有機成分の含有率が、10重量%以上、40重量%以下である請求項1記載の感光性セラミックス組成物。
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