JP4154881B2 - シリコン半導体基板の熱処理方法 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、シリコン単結晶から得られる集積回路を形成させるためのシリコン半導体用基板の製造方法に関し、より詳しくはチョクラルスキー法(以下、CZ法という)によるシリコン単結晶から製造され、半導体用としてデバイス性能に優れるウェーハの熱処理方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
半導体の集積回路などデバイスに用いられるシリコン半導体用基板(ウェーハ)は、主にCZ法によるシリコン単結晶から製造されている。CZ法は、石英るつぼ内の溶融したシリコンに種結晶を浸けて引上げ、単結晶を成長させるもので、このシリコン単結晶の引上げ育成過程にて様々な微量の不純物が混入してくる。それら不純物の中で最も多いのは、石英るつぼから混入してくる酸素である。溶融シリコン中に溶け込んでいる酸素は、育成されるシリコン単結晶中に取り込まれ、凝固直後の高温では十分固溶しているが、冷却するにつれて溶解度が減少するため、通常、単結晶中には過飽和な状態で存在している。
【0003】
この単結晶から採取したウェーハ中で過飽和に固溶した酸素は、その後のデバイスの製造工程における熱履歴により酸化物として析出してくるが、その析出物はデバイスが形成されるいわゆる活性化領域に生じると、他の不純物と同様にデバイスの性能を阻害する。しかし、その反面、シリコン基板内部に生じた析出物はBMD(Bulk Micro Defect)とも呼ばれ、デバイスの製造過程でウェーハに侵入しその性能を劣化させる、金属不純物を捕獲するゲッタリング源として有効に作用する。この析出物がゲッタリング源として効果的に作用するためには、ある程度以上の密度で存在する必要がある。しかし、その存在密度は高くなり過ぎると、デバイス活性領域にまでBMDが析出してデバイス特性を低下させたり、基板の機械的強度を低下させたりするなどの難点が生じてくる。
【0004】
デバイスを製造する過程において、ウェーハ表面近傍のデバイスが形成される領域すなわち活性化領域は無欠陥とし、内部にはゲッタリング源の析出物を生じさせる熱処理サイクルが提案されている。その代表的なものは
(a) 非酸化性雰囲気中にて、1100℃以上の高温で8〜76時間加熱する酸素の外方拡散処理をおこなって、表面に低酸素層、すなわちDZ(Denuded Zone)と呼ばれる無欠陥層となる部分を形成させ、次いで
(b) 600〜750℃の低温で加熱することにより、バルク内に有効な析出核を形成させた後、
(c) 1000〜1150℃の中温あるいは高温で熱処理し、SiO2の析出物を成長させて、そこにゲッタリング源となるBMDを形成させる、
という高−低−高(または中)サイクルと呼ばれている処理方法である。しかし、この処理方法は多大の時間を要し、生産性が低下するという問題点がある。
【0005】
これに対してデバイスの形成に先立ち、ハロゲンランプなどによる光の照射、すなわち、ランプアニールでウェーハに短時間の急速昇降温焼鈍(RTA:Rapid Thermal Annealing)処理を施すことにより、その後の製造プロセスにおける熱履歴で生じてくる酸素析出物の分布を制御する方法が提案されている。
例えば、米国特許第5401669号の発明では、窒素または窒素を含む雰囲気中で、1175〜1275℃の温度に3〜60秒保持後、5℃/秒以上の冷却速度で冷却する処理をおこなう。また米国特許第5994761号の発明では、酸化雰囲気中での加熱により表面に数十オングストロームの酸化被膜を付けた後、窒素またはアルゴンなど不活性雰囲気中で1150〜1300℃の温度に1〜60秒保持し、5〜200℃/秒の冷却速度で冷却している。
【0006】
このような処理を施した後、さらに不活性雰囲気中にて、800℃で4時間加熱および1000℃にて16時間加熱のようなデバイスの製造過程と同様な熱処理を施すと酸素析出物が析出してくる。その分布は、表層の活性化領域には析出がなく内部には多く析出し、前述の高−低−高(または中)サイクルと同様な結果が得られるというものである。
【0007】
しかしながら、上記米国特許第5401669号の発明の場合、短時間の処理で高密度の酸素析出物を生成できるが、十分な厚さのDZが安定して得られないようであり、米国特許第5994761号の発明では、DZが確保できても内部の析出物が多くなり、ウェーハ強度が低下するおそれのあることや、表面の酸化膜を処理後除去しなければならない等の問題がある。
【0008】
表面の活性化領域には十分なDZがあり、内部にはゲッタリング源が多量に存在するというすぐれた形態のウェーハを、短時間のRTA処理により実現させるこの方法は、デバイス用ウェーハの製造工程の合理化に極めて望ましいと考えられるが、安定してこのようなウェーハを生産するには改良すべき点が多く残されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、シリコンウェーハの酸素析出物分布の制御を目的としたRTA処理において、表面には十分な厚さのDZが形成され、このDZに近接してゲッタリング源となる高密度の酸素析出物またはBMDが生じ、かつその内部には酸素析出物の密度が少ないウェーハを安定して得るためのシリコン半導体基板の熱処理方法を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、シリコンウェーハの表面部におけるDZの形成、および内部におけるBMDの形成に対するRTA処理の効果について種々検討を行った。まず、窒素を含有する雰囲気中で、シリコン単結晶から採取したウェーハを急速昇温し、次いで一定温度に保持した後、酸素を含有する雰囲気に変更して、急冷による急速降温の熱処理を行った。その後、アルゴン雰囲気にて酸素析出評価熱処理を施した結果、表面近傍には酸素析出物が少なく、中心部には酸素析出物が多いウェーハが得られることを確認した。
【0011】
そして、特に、急速降温時の酸素雰囲気の性状や冷却速度を変えることにより、表面近くにできた析出物のない層、すなわちDZの厚さが変化し、内部の析出物の発生量も変化することがわかった。
【0012】
これら酸素析出物は、デバイス形成の活性化領域となる表面から20〜40μmまでの深さには存在せず、その直ぐ下の部分に多量に存在し、中心部には少ないという分布が望ましい。これは、表面直下に十分な厚さのDZと、それに近接して多数のゲッタリング源があり、そしてDZから離れた中心部ではゲッタリング効果は期待できないので、そこには機械的強度を低下させる析出物は少ない方がよいからである。
【0013】
ウェーハを熱処理する場合、デバイスを形成させる側の表面で生じる現象は、裏面側の表面でも同様に生じる。したがって、ウェーハの厚さ方向を横軸にとり酸素析出物の密度または析出量を縦軸にとってその分布を見ると、横方向両端の表面部のDZを除く内部では、M字形になっていることが望ましい。また、このようにウェーハの厚さ方向の析出物分布が、厚さ方向の中心位置に対して対象形であることは、析出物形成により何らかの状態変化があったとしても、ウェーハの反りなどの問題が生じない利点がある。
【0014】
そこで、表面部には十分なDZが形成され、かつ内部の酸素析出物がM字形分布となるような、RTA処理が可能か否かをさらに検討した。その結果、酸素量のやや多い単結晶によるウェーハを用い、RTA処理での雰囲気を制御し、加熱条件と加熱後の冷却速度を管理することにより、M字形の分布が実現できることを知見した。
【0015】
本発明は、上述の知見に基づいて完成されたものであり、下記(1)および(2)のシリコン半導体用基板の熱処理方法を要旨としている。
(1)酸素濃度が11〜17×1017atoms/cm3(ASTM F121−79)のシリコン単結晶より採取した基板用素材に、窒素の単独ガス、窒素を90%以上含有する窒素と酸素の混合ガス、または窒素を90%以上含有する窒素と不活性ガスの混合ガスのガス雰囲気で1100〜1280℃の温度まで昇温して0〜600秒の加熱を施した後、酸素の単独ガス、酸素を10%以上含有する酸素と窒素の混合ガス、または酸素を10%以上含有する酸素と不活性ガスの混合ガスのガス雰囲気(但し、酸素10%と窒素90%の混合ガスは除く)に変更して100〜25℃/秒の冷却速度で降温することを特徴とするシリコン半導体用基板の熱処理方法。
(2)上記(1)の熱処理方法では、例えば、ランプアニールのようにランプ光の照射を用いて、10〜100℃/秒の昇温速度で急速昇降するのが望ましい。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明の熱処理方法によって、半導体用ウェーハに十分なDZとM字形の析出分布が得られる理由と、それを達成するための処理条件について説明する。
1.DZとM字形の析出分布が得られる理由
ウェーハ中に存在する酸素は拡散速度が速くなく、これをDZ形成のために十分排除しようとすれば、前述の高−低−高(または中)サイクルのように、高温での長時間加熱が必要になる。RTA処理のような短時間処理では、シリコン中の酸素拡散などによる排除は十分には進まず、この処理におけるDZは、酸素が存在していても有害な析出物となって出現することが抑止された層であると考えられる。
【0018】
凝固時にシリコン単結晶中に取り込まれた酸素は、温度の低下により過飽和の状態で固溶しているので、何か安定して存在できる場所(サイト)があれば、そこに酸化物の核のようなものが発生する。一旦核ができれば、そこへ優先的に凝集して析出物を形成していく。このようなサイトとしては、結晶中に存在する空孔が重要な役割を果たすと考えられ、空孔が多数存在すれば、より容易に析出物の核形成が促進される。したがって、酸化物析出の熱サイクルに先立っておこなうRTA処理の目的は、析出サイトとなるウェーハ中の空孔分布の制御であるということができる。
【0019】
シリコン単結晶中の空孔は、単結晶育成時のシリコン融液が固化する過程で大量に取り込まれる。そのとき、シリコンの格子間原子(以下、格子間Si原子)も同時に取り込まれるが、空孔の数の方が多い。これらの空孔と格子間Si原子は凝固後の冷却過程で拡散したり、対消滅したりして大幅に減少する。しかし、この時に導入された空孔や格子間Si原子は、単結晶から切り出されたウェーハにもまだ多量に残存している。空孔と格子間Si原子とは放射線などの照射によって生じたフレンケル対のようにほぼ同数ではなく、凝固過程に由来しているため、空孔の数の方が多い。
【0020】
シリコン単結晶から切り出されたままのウェーハの状態では、空孔と格子間Si原子の濃度は、ウエハの厚さ方向にいずれもそれぞれほぼ同一である。このウェーハが加熱され、約700℃を超えて空孔や格子間Si原子が容易に動くことができるようになると、これらは表面への拡散や衝突結合によりさらに減少していく。
【0021】
空孔や格子間Si原子は表面に達すると消滅するので、表面近くでは濃度が大きく低下し、それによって生じる濃度差によって、内部から表面に向けて、いわゆる外方拡散が起きる。一方、内部においてはその温度に応じて動きまわる空孔と格子間Si原子とは、フレンケル対が消滅するように合体減少が進む。
【0022】
シリコン結晶中におけるこれらの移動は、一般的に格子間Si原子が空孔に比べて速いと考えられている。したがって、通常のゆっくりとした加熱や冷却では、表面側は低く、内部の中心は高いという濃度分布の状態で、空孔の濃度と格子間Si原子の濃度との差は縮まることなく、両者とも減少していく。
【0023】
ところがRTAのような急速加熱処理の場合、加熱時にはウェーハ表面の方が内部より速く温度が上昇する。格子間Si原子や空孔は温度が高いほど活発に動き回るので、温度の低い内部では拡散や消滅があまり進まない間に、表面部では外方拡散が急速に進行し、しかも格子間Si原子の方が速やかに動くので、格子間Si原子と空孔の濃度差がどんどん拡大していく。その結果として、内部が表面と同じ温度に到達した時点において、厚さ方向の表面から中心部へ向けての濃度勾配は、空孔に比して格子間原子のそれがはるかに大きなものになってしまう。このようにして昇温過程でできた濃度勾配の差は、温度保持の段階に至っても容易には解消されない。
【0024】
この状態から冷却されると、外方拡散と対の合体消滅とが同時に進行しつつ温度が低下していくが、生じた濃度勾配の違いから表面に近い方が中心部よりも空孔の残存密度が高いものとなる。このようにして、表面直下では空孔の外方拡散と酸素の外方拡散も加わるのでDZが形成され、DZからさらに内部へ入ると、上述のような空孔のM字型分布が得られることになる。
【0025】
しかしながら、冷却速度が遅くなると高温に滞在する時間が長くなり、外方拡散が進行することによって空孔が減少して行き、十分なM字型の析出分布が得られない。したがって、RTA処理によって酸素析出物のM字型分布を得ようとすれば、冷却を急速に行わなければならない。また、昇温後、高温の加熱温度に保つ時間が短すぎると、ウェーハ全断面で空孔と格子間Si原子の濃度が熱平衡濃度に安定化する時間が小さくなり、空孔が格子間Si原子よりも過剰となる状態にするための時間が不足してしまう。
【0026】
当初、RTA処理に起因する空孔や格子間原子の挙動は、雰囲気がアルゴンであっても窒素であっても大きく相違しないと思われた。しかしながら、窒素雰囲気中でRTA処理をおこない、M字型析出分布を得ようとすれば、冷却速度を遅くする必要がある。同じ条件のウェーハを、雰囲気のみアルゴンまたは窒素に変えて同じ加熱冷却条件でRTA処理し、酸素析出処理を行うと、窒素雰囲気とした方が、はるかに多くの酸素析出物を発生する。例えば、冷却速度を同じ25℃/秒としたとき、ウェーハ中心部の酸素析出物密度は、アルゴン雰囲気中のRTA処理に比べ2〜3倍以上高い。
【0027】
このようなアルゴン雰囲気との違いは、窒素雰囲気とした場合に、特に高温域において表面に窒化膜が形成され、それによって空孔が発生する可能性があることである。表面にて空孔が生じ、これがシリコン結晶中に注入されると、表面近傍での濃度低下によって生じる外方拡散が大きく阻害される。しかし、格子間Si原子は、このような影響を受けないので、前述のアルゴン雰囲気にてRTAを行った場合と同様な挙動を示す。したがって、アルゴン雰囲気と同じ冷却速度で冷却すれば、空孔の残留が多くなりすぎて十分なDZや析出物のM字型分布が得られなくなる。
【0028】
また、高温でRTA処理すると、ウェーハ内で温度差が生じ易くなり、ウェーハ内にスリップ転位が発生する。そのため、ウェーハのRTA処理では、加熱温度を可能な限り低温にするのが望ましい。可能な限り低温(1280℃以下)でRTA処理するには、昇温から加熱保持する間は窒素雰囲気としてウェーハ内に空孔を注入し、その後の急冷によっても、残留する空孔を多くなるようにするのがよい。しかし、降温時にも窒素雰囲気のままで急冷すると、表面近傍で空孔が多くなりすぎるため、冷却時または冷却開始の直前に、雰囲気を酸素含有ガスに変更して、表面に酸化膜を生成して格子間Si原子を注入し、空孔を消滅させることによって、ウェーハ表面部の空孔濃度を減少させる。
【0029】
上述の通り、初期の昇温時および加熱時に、窒素雰囲気中でウェーハ表面から内部へ空孔が注入されるため、空孔濃度の分布は表面で多く、内部に向かうほど少なくなるV字型分布になる。次いで、降温時には短時間であるが酸素含有雰囲気中で表面から内部へ格子間Si原子が注入されるため、空孔濃度の分布は表面で少なくなる。しかし、急冷により酸素含有雰囲気中の時間が短く、格子間Si原子は内部にまで拡散できないために、V字型分布の空孔濃度が表面部で低下することから、M字型分布になる。
【0030】
それゆえ、RTA処理後、後熱処理を行うとウエハの断面方向での空孔濃度分布に対応した酸素析出物分布が得られ、ウェーハ表面ではDZが形成され、内部では酸素析出物が生成されるため、酸素析出物のM字型分布が得られるようになる。また、保持時間が長くなることにより、酸素の外方拡散もさらに進行すると考えられる。この方法によって得られたウェーハは従来のウェーハに比べて、より低温側でのRTA処理によって、ウェーハに十分なDZと、酸素析出物のM字型分布を得ることができる。
2.DZとM字形の析出物分布を得るための処理条件
本発明の熱処理方法において、ウェーハの酸素濃度は11〜17×1017atoms/cm3(ASTM F121-79)とする。これは11×1017atoms/cm3未満の場合、DZに近い部分の酸素析出物またはBMDの量が不足し、17×1017atoms/cm3を超える場合はBMDの発生量が多くなりすぎ、ウェーハの機械的性質が劣化するおそれがあるからである。
【0031】
本発明の昇温時に窒素雰囲気を用いるRTA処理での加熱温度、すなわち昇温による最高到達温度は1100〜1280℃とする。加熱温度が1100℃未満では酸素析出物のM字型の分布変化が不十分であり、1280℃を超えると、ウェーハ中のスリップ転位の発生が問題となり、いずれの場合もRTA処理の効果が得られなくなる。
【0032】
上記の加熱温度に到達後の保持時間は、0〜600秒とする。すなわち、基本的には上記の加熱温度まで昇温する過程で十分な酸素析出物が生成されるため、昇温後はその温度で一定時間保持することなく直ちに降温させればよい。昇温後に一定時間保持すれば、ウェーハ表面での窒化膜生成による空孔の注入量を増大させて、酸素析出物の生成をさらに向上させることができる。600秒を超える保持加熱を行っても、酸素析出物の生成には問題がないが、生産性が低下するためにそのように規定した。なお、点欠陥の均一分布までも十分に行うためには望ましくは100秒から600秒までとするのがよい。
【0033】
本発明のRTA処理では、10〜100℃/秒の昇温速度を確保するのが望ましい。これは、DZ近傍部の酸素析出物の密度を増してM字型分布に近づけ、よりゲッタリング効果を増すためである。急速昇温時、表面が内部より温度が高い温度勾配が生じ、それによって析出核の分布がM字型に近い形に変化する。しかし、昇温速度が遅ければ温度勾配不十分でこの効果が得られず、速すぎれば温度勾配の生じている時間が不十分でやはりこの効果が得られない。したがって昇温速度は10〜100℃/秒とするのが望ましい。
【0034】
昇温時および加熱時の雰囲気ガスは、ウェーハ表面から内部へ空孔が注入されるため、窒素を90%以上含有するガスを用いる必要がある。窒素を90%以上含有する限りにおいて、窒素の単独ガス、窒素と酸素の混合ガス、または窒素とアルゴン等の不活性ガスとの混合ガスのいずれかであってもよい。
【0035】
加熱後の冷却に際しては、酸素を10%以上含有する雰囲気に変更して100〜25℃/秒の冷却速度で降温する必要がある。酸素を含有する雰囲気を必要とするのは、ウェーハ表面から内部へ格子間Si原子を注入させて、空孔濃度をM字型分布に近い形にするためである。したがって、降温時にも窒素雰囲気を使用すると、ウェーハ表面に酸素析出物が異常に発生し、DZが確保できなくなる。本発明では、酸素を10%以上含有する限りにおいて、酸素の単独ガス、酸素と窒素の混合ガス、または酸素と不活性ガスの混合ガスとすることができる。
【0036】
本発明のRTA処理では、降温前の窒素雰囲気から酸素含有雰囲気に変更するタイミングが余りにも早すぎると、多量に格子間Si原子が注入され、酸素析出物の発生が阻害され、M字型の析出分布が得らない恐れがあり、降温前の10〜0秒の間に変更するようにするのが望ましい。さらに、使用される雰囲気ガスは、水分などの不純物成分の含有をできるだけ少なくすることが望ましい。
【0037】
雰囲気ガスとして酸素の単独ガス、酸素と窒素の混合ガス、または酸素と不活性ガスの混合ガスを用いる場合であっても、冷却速度は25℃/秒以上とする。冷却速度が25℃/秒を下回るとM字型分布は維持できても、格子間Si原子の注入量が多くなり、空孔濃度が小さくなるため酸素析出物の密度が少なくなる。なお、温度が低下してくると冷却速度の影響はなくなってくるので、ウェーハが700℃を下回る温度に達すれば、それ以降は冷却速度を制御しなくてもよい。
【0038】
一方、冷却速度が速くなっていくと、酸素析出物が多くなり過ぎるので、その上限は100℃/秒とする。すなわち、冷却時に酸素雰囲気とする時間が短くなりすぎると、酸素析出物の発生量が多くなりすぎ、目的とするM字型分布が得られなくなるばかりでなく、ウェーハの機械的強度も低下する。
【0039】
【実施例】
(実施例1)
酸素濃度が14×1017/cm3(ASTM F121-79)の単結晶から採取した厚さ700μmの8"φウェーハを用い、ハロゲンランプの光源を用いた急速加熱冷却装置により、昇温および加熱時の窒素単独ガスから降温時の酸素単独ガスへと雰囲気を変更してRTA処理を行った。
【0040】
昇温時には常温から加熱温度1180℃までに60秒で昇温し(昇温速度:20℃/sec)、その温度で150秒保持後、冷却した。冷却開始の5秒前に窒素単独ガスから酸素単独ガスに雰囲気に変更して、700℃までの冷却速度を5、25、50および70℃/秒の4種に変化させてウェーハを作製した。
【0041】
比較材として、同じ条件で昇温および加熱を行った後、窒素単独ガスの雰囲気を変更することなく、700℃までの冷却速度を70℃/秒で冷却してウェーハを作製した。
【0042】
これらのウェーハをアルゴン雰囲気中で、800℃で4時間および1000℃で16時間の析出処理を行った後、ウェーハを劈開し、ライトエッチング液で5分間エッチング処理して、その劈開断面の光学顕微鏡写真により析出物の深さ方向の分布を測定した。
【0043】
図1は、実施例1におけるウェーハ表面からの深さと酸素析出物の密度との関係を示す図である。同図から明らかなように、雰囲気を変更した場合には、冷却速度が5℃/秒であると、酸素析出物の密度は小さく、M字型分布が得られない。これに対し、冷却速度が25℃/秒以上であると、酸素析出物の密度が高く、M字型析出分布が得られる。また、冷却速度が大きくなるほど、ウェーハ断面内部の酸素析出物密度が大きく、冷却速度によってBMD密度を調整できることが分かる。
【0044】
比較材による昇温時、降温時とも窒素単独ガスの雰囲気を変更しない場合には、酸素析出物の密度が高く、M字型の析出分布が得られるものの、ウェーハ表面に酸素析出物が異常に発生し、DZが確保できなくなっている。
(実施例2)
実施例1と同じウェーハを用い、同じ急速加熱冷却装置により、昇温および加熱時の窒素単独ガスから降温時の酸素と窒素の混合ガスへと雰囲気を変更してRTA処理を行った。
【0045】
昇温時には加熱温度1180℃までに60秒で昇温し(昇温速度:20℃/sec)、その温度で150秒保持後、冷却した。冷却開始の5秒前に窒素単独ガスから酸素と窒素の混合ガス(酸素含有率90%)雰囲気に変更して、700℃までの冷却速度を5、25、50および70℃/秒の4種に変化させてウェーハを作製した。
【0046】
これらのウェーハをアルゴン雰囲気中で800℃で4時間および1000℃で16時間の析出処理を行った後、ウェーハを劈開し、ライトエッチング液で5分間エッチング処理して、その劈開断面の光学顕微鏡写真により析出物の深さ方向の分布を測定した。
【0047】
図2は、実施例2におけるウェーハ表面からの深さと酸素析出物の密度との関係を示す図である。図1と同様に、雰囲気を変更した場合には、冷却速度が5℃/秒であると、酸素析出物の密度は小さく、M字型分布が得られていない。これに対し、冷却速度が25℃/秒以上であると、酸素析出物の密度が高く、M字型の析出分布が得られている。さらに、実施例1に比べて、冷却時に酸素と窒素の混合ガス(酸素含有率90%)の雰囲気を用いることによって、同じ冷却速度であっても、ウェーハ断面中央部の酸素析出物密度が高くなることが分かる。
【0048】
【発明の効果】
本発明の急速昇降温(RTA)熱処理によれば、デバイスを製造する過程での熱処理過程において、十分な厚さのDZが形成され、このDZに近接してゲッタリング源となる高密度の酸素析出物またはBMDが生じ、かつ内部には酸素析出物が少ないシリコンウェーハを容易に得ることができる。従来、このようなウェーハは、高温の長時間にわたる熱処理と、さらに温度を変えた熱処理によって得られていたが、本発明の適用により短時間の処理にて同様な効果を得ることができ、半導体デバイス製造の生産性向上、コスト合理化に寄与する効果は大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1におけるウェーハ表面からの深さと酸素析出物の密度との関係を示す図である。
【図2】実施例2におけるウェーハ表面からの深さと酸素析出物の密度との関係を示す図である。
Claims (2)
- 酸素濃度が11〜17×1017atoms/cm3(ASTM F121−79)のシリコン単結晶より採取した基板用素材に、窒素の単独ガス、窒素を90%以上含有する窒素と酸素の混合ガス、または窒素を90%以上含有する窒素と不活性ガスの混合ガスのガス雰囲気で1100〜1280℃の温度まで昇温して0〜600秒の加熱を施した後、酸素の単独ガス、酸素を10%以上含有する酸素と窒素の混合ガス、または酸素を10%以上含有する酸素と不活性ガスの混合ガスのガス雰囲気(但し、酸素10%と窒素90%の混合ガスは除く)に変更して100〜25℃/秒の冷却速度で降温することを特徴とするシリコン半導体用基板の熱処理方法。
- 上記の基板用素材の熱処理はランプ光の照射を用いて、10〜100℃/秒の昇温速度で急速昇温することを特徴とする請求項1に記載のシリコン半導体用基板の熱処理方法。
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