JP4154692B2 - 塗布膜の乾燥装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は塗布膜の乾燥方法及び装置に係り、特に、連続走行する帯状のウェブの表面に塗布液を塗布して塗布膜を形成した後、前記ウェブを乾燥装置を通過させて前記塗布膜を乾燥する塗布膜の乾燥方法及び装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
連続走行するウェブにて塗布液を塗布して塗布膜を形成した後、形成された塗布膜を乾燥装置で乾燥する乾燥工程は、写真用フィルム、磁気記録媒体、インクジェット記録用シート等の各種の塗布製品を製造する分野で多用されており、製品の品質を左右する重要な工程となっている。乾燥工程では、様々な要因により気流の乱れがしばしば発生し、その気流の乱れにより乾燥風の風向及び風速が乱され、塗布後のウェブ塗布膜面にウェブ塗布膜面に細波状のムラが生じる、いわゆる風ムラが発生する。風ムラが生じたウェブは、膜厚分布の不均一により故障等のトラブルを招くため、塗布製品の生産における不良項目の1つとして挙げられる。
【0003】
そのため、この風ムラの発生を防止するために、数々の試みがなされている。特許文献1で開示されている塗着シートの乾燥方法では、乾燥室内にシート材よりも幾分広い多孔性障壁が、移動するシート材(ウェブ)の塗着面に対して接近した位置に設けられている。多孔性障壁の上面には、多孔性障壁とシート材(ウェブ)の塗着面との間よりも相当に大きい間隔で、多数の開口を有する分布板が設けられている。この多孔性障壁と分布板により、多孔性障壁とシート材(ウェブ)との間に乾燥風及び蒸気からなる実質的な静止状の雰囲気気体領域が形成されるため、シート材(ウェブ)における風ムラの発生を防止することができる。
【0004】
又、特許文献2では、25°Cで剪断速度が0.1s-1において、粘度が0.5mPas以下の塗布液をウェット膜厚50μm以上で支持体上に塗布した塗膜を乾燥する乾燥工程で、温度を制御したエアを塗布膜面へ吹き付けることにより乾燥を行い、塗布膜面に到達する乾燥風の風速が塗布後20秒以内は0.1〜10m/秒とすることを特徴とした塗膜の乾燥方法及び乾燥装置が開示されている。これにより、乾燥工程における風ムラ等による故障を回避し安定した良質の塗布乾燥製品を得ることができる。
【0005】
更に、特許文献3では、塗布装置と乾燥装置との間を走行する支持体の塗布面に直交方方向から風が当たるのを防止すると共に、塗布面上の気流を支持体の走行方向成分のみに規制することでムラのない塗布面を得ることが開示されている。
【0006】
【特許文献1】
特公平2−58554号公報
【0007】
【特許文献2】
特開2000−329463号公報
【0008】
【特許文献3】
特開2003−103211号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1の塗着シート材の乾燥方法では、様々な要因によって、シート材(ウェブ)の塗布膜面にあたる乾燥風が全体又は局部的に均一でなくなる、即ち吹き出された乾燥風の風向及び風速に乱れが発生する可能性がある。この乱れた乾燥風がシート材(ウェブ)の塗布膜面へ吹き付けられると、塗布膜面が流動した状態で乾燥されて塗布膜不均一によるムラが発生する。これは、品質上問題となるだけでなく、故障の要因につながる。
【0010】
又、特許文献2の塗膜の乾燥方法及び乾燥装置では、吹き付ける乾燥風の風速や、吹き付ける時間等の乾燥条件で風ムラの発生を抑えているが、実際にウェブの塗布膜面上に流れる乾燥風を制御していないため、塗布膜の乾燥の環境の変化によって発生する乾燥風の乱れが風ムラの主な要因であるので、風ムラの発生を根本的に解消したとはいえない。
【0011】
更に、特許文献3は、塗布装置と乾燥装置との間における塗布膜の風ムラを防止するものであり、塗布面上の気流を支持体の走行方向成分のみに規制することは可能である。しかし、本発明の乾燥装置での乾燥のように、塗布膜面に吹き付けた乾燥風の排気の流れによって、塗布膜面に吹き付ける乾燥風の流れを乱す可能性がある。又、乾燥装置内に存在する障害物等に乾燥風が接触することにより、吹き付ける乾燥風の流れを乱す可能性もある。従って、特許文献3のように塗布面上の気流を支持体の走行方向成分のみに規制することは不可能である。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ウェブの塗布膜面に実際に到達した乾燥風の風向及び風速の乱れを制御することにより、ウェブ塗布膜面の風ムラの発生を大幅に削減することができる、極めて優れた塗布膜の乾燥方法及び乾燥装置を提供することを目的とする。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、連続走行する帯状のウェブの表面に塗布液を塗布して塗布膜を形成した後、前記ウェブを乾燥装置を通過させながら給気部から塗布膜面に乾燥風を吹き付けて該塗布膜を乾燥すると共に、吹き付けた乾燥風を、前記ウェブを挟んで前記給気部の反対側に設けられた排気部から乾燥装置外に排気する塗布膜の乾燥装置において、前記乾燥装置を乾燥条件の異なる複数の乾燥ボックスに分割すると共に、分割された乾燥ボックス同士の連結部は、給気部のウェブ側の面と同一面に形成されると共に、この連結部には乾燥風で塗布膜面に吹き付ける流路が形成されたことを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項1によれば、乾燥装置において、異なる乾燥条件で連続して乾燥を行う場合には、異なる乾燥条件の乾燥ボックスを連結して乾燥を行う。その乾燥ボックス同士の連結部に、従来は各乾燥ボックスの互いの乾燥条件に影響しないように連結部を狭くしたり段差を設けたりしていた。しかしながら、連結部を狭くしたり段差を設けたりすることによって吹き付ける乾燥風に空気抵抗が生じ、乾燥風の風向や風速の乱れに影響し、ウェブの塗布膜面上に乾燥風の乱れを発生させる原因となっている。また、従来は連結部では乾燥風の吹き付けが行われないので、連結部の区域だけが無風空間となり、差圧が生じて乾燥風を乱してしまう。そこで、連結部が各給気部のウェブ側の面を同一面に形成させることにより乾燥風の流れをスムーズにし、連結部でも乾燥風を塗布膜面に吹き付ける流路を形成させたことにより、空気抵抗や無風空間によって発生する乾燥風の乱れを大幅に低減することができる。
【0021】
請求項2は請求項1において、前記乾燥装置の内部は、該乾燥装置内を走行するウェブの周辺200mm以内に前記給気部から吹き出された乾燥風の乱れを発生させる障害物を設けない構造に形成されることを特徴とする。
【0022】
乾燥装置では、塗布膜面に吹き付けられる乾燥風が乱れる要因の1つとして、乾燥装置の内部に設けられた段差や突起等の障害物が挙げられる。段差や突起物は、設置当初は設けられていなくても、老朽化によって各部材や装置ががたついたり、必要性によりセンサや装置等を内部に後付けしたりするため、自然に生じてしまうので全くなくすことは難しい。そこで、本願発明者は乾燥装置において障害物が乾燥風に影響する区域の調査を行い、走行するウェブの周囲から200mm以内に段差や突起等の障害物を設けなければ、ウェブ塗布膜面上を流れる乾燥風の乱れが発生し難くなるという知見を得た。請求項5によれば、乾燥装置の内部は、該乾燥装置内を走行するウェブの周辺200mm以内に前記給気部から吹き出された乾燥風の乱れを発生させる障害物を設けない構造に形成されるので、塗布膜面上を流れる乾燥風の乱れが発生し難くなる。これにより、乾燥風の乱れによる塗布膜面の風ムラの発生を効果的に抑制することができる。
【0023】
請求項3は請求項1又は2において、前記給気部は、乾燥風の吹き出し上流側から順に、乾燥風を濾過するフィルタ、乾燥風の圧力分布を均一化する整流多孔板、乾燥風を前記塗布膜面に均一に吹き出す吹き出し量を均一化する吹き出し多孔板の3層構造に形成されることを特徴とする。
【0024】
請求項3によれば、乾燥風を吹き付ける際に、先ず最初に第1層目のフィルタで乾燥風内に含まれる不純物を除去することにより、乾燥風をウェブ塗布膜面に吹き付ける際に粉塵等が付着することを防止することができる。次に、第2層目の整流多孔板で乾燥風の吹き出し圧力を均一化して風速及び風向を整流することにより、乾燥風の給気や濾過で乱れた風向及び風速を一定化させることができる。そして、第3層目の吹き出し多孔板でウェブ塗布膜面上へ多数の箇所から乾燥風を吹き付けることにより、ウェブ塗布膜面上に対して均一に乾燥風を給気することができる。給気部においてこれらの層構成で給気を行うことにより、極めて清潔で、且つ安定した風向及び風速の乾燥風をウェブ塗布膜面に対して均一に供給することができる。
【0025】
請求項4は請求項3において、前記整流多孔板の開口率は10%以下であることを特徴とする。これにより、整流効果を高めることができる。
請求項5は請求項1〜4において、前記乾燥装置のウェブ入口部及び/又はウェブ出口部には、ウェブ走行用開口とは別の通風用開口を有することを特徴とする。これにより、乾燥装置内外の差圧によって生じる風が直接ウェブの塗布膜面に当たらないようにすることができる。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面に従って本発明に係る塗布膜の乾燥方法及び装置の好ましい実施の形態について詳説する。
【0027】
図1は、本発明の乾燥装置を組み込んだ塗布乾燥ライン10の概略構成図である。
【0028】
図1に示すように、塗布乾燥ライン10は、主として送出機12と巻取機14との間を白色矢印の示す方向に連続走行するウェブ16に塗布液を塗布して塗布膜を形成する塗布装置18と、この塗布液を乾燥させる乾燥装置20とで構成される。塗布装置18と乾燥装置20は、精密な塗布及び乾燥を行うために、クリーンルーム5内に設置される。クリーンルーム5は、例えば天井面から清浄な空調エアをダウンフローすることによって、常に加圧された清浄な状態を維持している。
【0029】
連続走行するウェブ16としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド、ポリプロピレン(PP)、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系フィルム等のプラスチックフィルム、アルミ等の金属箔、各種紙、或いはこれらの積層体が挙げられる。ウェブ16の走行は、塗布乾燥ライン10全体において設定した任意の速度でサクションローラ22により制御される。
【0030】
塗布装置18は、コーティングローラ24と塗布ヘッド26から成り、塗布ヘッド26の先端から塗布液を押し出し、コーティングローラ24に巻き掛けられたウェブ16と塗布ヘッド26との間にビードを形成させる。これにより、ビードを介して有機溶剤系の塗布液がウェブ16に塗布される。尚、塗布装置18は、ここで示したエクストルージョン型に限定されるものではなく、ロールコータ型、グラビアコータ型、スライドコート型、或いはそれ以外の塗布方式であってもよい。また、本発明の乾燥装置は有機溶剤系の塗布液に限らず水系に適用することもできるが、風ムラが発生し易い有機溶剤系の塗布液において特に効果を発揮する。
【0031】
有機溶剤系の塗布液としては、例えば、メチルエチルケトン(MEK)、水エタノール、1―メトキシ−2−プロパノールアセテート(MMPG−AC)、N−メチルピロリドン(NMP)、ノルマルプロピルアルコール(n−PrOH)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アノンから成る組成のものが使用される。ウェブ16に塗布液を塗布する塗布条件としては、例えば、ウェット塗布量が70cc/m2 以下のときは粘度が20cp以下、塗布量が15〜70cc/m2 の時は粘度が1.1〜12cp、塗布量が4〜9cc/m2 のときは1〜5cpで塗布が行われるように、塗布液は調製される。こうして塗布液が塗布されたウェブ16は、乾燥装置20へ走行されて、最終的にウェブ16の塗布膜面の膜厚が乾膜状態で1〜5μm程度になる。
【0032】
一方、乾燥装置20は、ウェブ16の走行方向に対して塗布装置18の下流側に配設され、ウェブ16に乾燥風を吹きつけることによって、塗布膜面を乾燥させる。乾燥装置20と塗布装置18は、乾燥時の熱が塗布装置18に悪影響を及ぼすことを防止するため、及び、ウェブ16の塗布膜面に熱風の乾燥風をすぐに当てないため、或いは、関連装置の収納スペースを確保するために、1000mm程度の間隔をあけて設置することが好ましい。
【0033】
乾燥装置20は、主に乾燥ボックス30a,30b、給気部36a,36b、排気部38a,38b、連結部40で構成される。この乾燥装置20には、弱風・低温の乾燥を行う第1の乾燥ボックス30aと、強風・高温で乾燥を行う第2の乾燥ボックス30bが設けられる。第1の乾燥ボックス30aには塗布装置18から走行するウェブ16を乾燥装置20内に搬入するためのウェブ入口部32が、第2の乾燥ボックス30bには乾燥処理後のウェブ16を搬出するためのウェブ出口部34が設けられる。ウェブ入口部32は、乾燥装置20内外の差圧によって生じる風が直接ウェブ16の塗布膜面に当たらないように、差圧による風を優先して通過させる通風用開口32Aをウェブ走行用開口32Bとは別に設け、通風用開口32Aにラッパ管状のガイド部材32Cが取り付けられる。また、ウェブ16の周囲を取り囲むようにウェブ走行ボックス32Dが配置される。これら通風用開口32A、ガイド部材32C及びウェブ走行ボックス32Dは、ウェブ出口部34に設けてもよく、ウェブ入口部32とウェブ出口部34の両方に設けてもよい。
【0034】
各乾燥ボックス30a,30bの上部には、第1及び第2のエア管39a,39bから供給されたエアを、所定の乾燥温度に加熱する第1及び第2の加熱器42a,42bが各々に設けられる。そして、各加熱器42a,42bで加熱された乾燥風は、第1及び第2の給気部36a,36bで調整されてウェブ16の塗布膜面に吹き付けられる。ウェブ16の塗布膜面上に吹き付けられた乾燥風は、各乾燥ボックス30a,30bの底部に設けられた第1及び第2の排気部38a,38bから排気される。
【0035】
第1及び第2の給気部36a,36bは、上から高機能フィルタ44a,44b、整流多孔板46a,46b、及び各吹き出し多孔板48a,48bの3層で構成される。第1及び第2の高機能フィルタ44a,44bは、各加熱器42a,42bからの乾燥風中に含まれる塵等を濾過除去するために設けられ、HEPA等の精密濾過を行えるフィルタを使用することが好ましい。第1及び第2の整流多孔板46a,46bは、濾過された乾燥風の圧力を均一化する板材であり、各整流多孔板46a,46bには乾燥風を整流するための多数の孔(図示せず)が設けられ、その開孔率が整流多孔板46a,46bの全面積の10%以下になるように孔の配置及び大きさが設定される。尚、図1の乾燥装置20では、板材の代わりに金網状のスリットを用いている。第1及び第2の吹き出し多孔板48a,48bは、走行するウェブ16の塗布膜面に対して乾燥風を吹き付けるための多数の孔が開いた板材であり、ウェブ16の塗布膜面に対し、ウェブ16の走行方向へ均等に吹き付けられるように孔の配置及び大きさが設定される。尚、図1の乾燥装置20では、板材の代わりに金網状のスリットを用いている。
【0036】
第1及び第2の排気部38a,38bは、各排気多孔板50a,50b及び各排気口52a,52bで構成される。第1及び第2の排気多孔板50a,50bは、ウェブ16の塗布膜面に吹き付けられた乾燥風を排気するための多数の孔が開口され、多数の孔は均一に排気を行うように孔の配置及び大きさが設定される。その開孔率は、各排気多孔板50a,50bの全面積の30%以下になるように設定される。尚、図1の乾燥装置20では、板材の代わりに金網状のスリットを用いている。第1及び第2の排気口52a,52bは、各乾燥ボックス30a,30bの底部に設置される。各排気多孔板50a,50bを通過した乾燥風は、下にある各排気口52a,52bから系外へと排気される。各排気口52a,52bは、ウェブ16の塗布膜面の乾燥に影響しない程度で効率よく排気を行える構造であることが好ましい。
【0037】
第1の乾燥ボックス30aと第2の乾燥ボックス30bとの間は、連結部40で連結されており、走行するウェブ16の塗布膜面を各乾燥条件で連続して乾燥することができる。図2は、乾燥装置20における連結部40の概略構成を示す断面図である。尚、白色矢印はウェブ16の走行方向を示している。図2に示すように、第1の乾燥ボックスの第1の吹き出し多孔板48aと、第2の乾燥ボックスの第2の吹き出し多孔板48bとは、ウェブ16の走行方向に対して下方向に傾斜して設置されている。そして、第1の乾燥ボックス30aと第2の乾燥ボックス30bとの連結部40で形成される隙間には連結部材41が設けられる。連結部材41は、第1及び第2の吹き出し多孔板48a,48bの傾斜と同角度で傾斜した部材であり、第1及び第2の吹き出し多孔板48a,48bと同一面上になるように連結されている。第1の給気部36aとの間には導入孔41aが、傾斜した箇所には吹出孔41bが設けられる。乾燥時において第1の高機能フィルタ44a及び第1の整流多孔板46aを通過した乾燥風は、黒色矢印で示すように、導入孔41aを経て吹出孔41bからウェブ16の塗布膜面へと吹き付けられて、第2の乾燥ボックス30bへの流路を形成する。
【0038】
図3は、乾燥装置20の第1の乾燥ボックス30aを入口方向から見た概略構成を示す断面図である。図3に示すように、第1の乾燥ボックス30aにおいて、搬送ローラ54の上方を走行するウェブ16の塗布膜面の周囲200mm以内、即ち網線で示した区域には第1の給気部36a以外の段差や突起等の障害物を設けないように構成されている。ここでは第1の吹き出し多孔板48aが上述した区域内に存在しているが、給気部36aの一部であるので問題はない。尚、第2の乾燥ボックス30bにおいても同様の構成である。
【0039】
次に、上記の如く構成された乾燥装置20の作用について説明する。
【0040】
図4は、乾燥装置20内を走行するウェブ16に吹き付けられる乾燥風の流れを説明する説明図であり、図4(A)はウェブ16を側面から見た図で、図4(B)はウェブ16を上方から見た図である。尚、白色矢印はウェブ16の走行方向を示している。図4に示すように、本願発明者は、ウェブ16の塗布膜面上において、黒色矢印で示した風向に一定の風向及び風速の乾燥風を吹き付けて流すことにより、塗布膜面の乾燥を行うことが理想的である、という点に着目した。即ち、ウェブの走行速度と同速の乾燥風をウェブ16の塗布膜面の上方から垂直に吹き付けて、ウェブ16の塗布膜面上を走行方向へ流し、ウェブ16の両側面から抜けるという経路を形成すればよい。本来であれば、ウェブ16の塗布膜面上を走行方向に流れるようにすればよいのだが、乾燥風の排気を行う必要があるため上述した経路が理想とされる。
【0041】
しかしながら、乾燥工程において、様々な要因により乾燥風に乱れが生じて乾燥風が上述した経路をたどらないことがある。経路から外れた乾燥風は、その他の乾燥風の風向や風速を乱し、その乱れた乾燥風がウェブ16の塗布膜面に吹き付けられて、塗布膜面上に風ムラが発生する。風ムラは、ウェブ16の膜厚分布不均一をもたらして故障等を起こす原因となるので、塗布膜の乾燥処理によるウェブ16塗布製品の主要な不良項目として挙げられる。
【0042】
そこで、走行するウェブと同じ風向き及び速度で流れる、図4で示した理想的な乾燥風を基準乾燥風として、ウェブ16の塗布膜面に沿って流れる乾燥風の流れを3次元風速計を用いて測定し、測定された乾燥風の流れをウェブ16の走行方向と同じ風向きのX成分、走行方向に直交する風向きのY成分の2成分に分解する。そして、基準乾燥風の風速を100%としたときに、X成分又はY成分の風速と、基準乾燥風の風速との差が100%以内になるように、ウェブ16の塗布膜面に沿って流れる乾燥風の流れを制御するように乾燥を行えば、乾燥時における風ムラの発生を抑制することができるという知見を、本願発明者は得た。尚、X成分又はY成分の風速と基準乾燥風の風速との差は少なければ少ないほどよく、50%以内であることが望ましい。
【0043】
そして、X成分又はY成分の風速と基準乾燥風の風速との差が100%以内、望ましくは50%以内になるように乾燥を行うために、本願発明者は乾燥装置における乾燥風の乱れの要因を3次元風速計を用いて調査したところ、乾燥風の風向及び風速を乱す第1の要因として乾燥風の排気であることに、本願発明者は着目した。図5は、従来の排気方法による乾燥風の流れを示す説明図であり、図5(A)はウェブ16を側面から見た図であり、図5(B)はウェブ16を上方から見た図である。尚、白色矢印はウェブ16の走行方向を、黒色矢印は乾燥風の風向を示している。図5に示すように、ウェブ16の下方の一箇所のみに排気口56を設けると、走行するウェブ16に吹き付けられた乾燥風は一箇所の排気口56に集中して流れてしまう。これにより、吹き付ける位置によってはウェブ16の走行方向と反対の方向に流れたり、吹き付ける位置と排気口56との位置関係により乾燥風の風速に影響を及ぼす可能性がある。従って、図1の乾燥装置20で示すように、各乾燥ボックス30a,30bに各排気口52a,52bを設け、各排気口52a,52bの上方に排気を均一に行うために各排気多孔板50a,50bを設けることにより、乾燥風は乾燥装置20の底部全面に配置された各排気多孔板50a,50bの多数の孔から均一に流れるので、風向及び風速を乱さずに排気することができる。
【0044】
又、乾燥風の風向及び風速を乱す第2の要因は走行するウェブ16の周囲の段差や突起等の障害物の存在であることに、本願発明者は着目した。図6は障害物が存在する場合の乾燥風の流れを示す説明図であり、図6(A)は突起58がある例を、図6(B)は段差60がある例を示している。尚、白色矢印はウェブ16の走行方向を、黒色矢印は乾燥風の風向を示している。図6(A)に示すように、乾燥装置20において、最初は存在していなくても、必要に応じてセンサ等の装置を後付けしたり、各吹き出し多孔板48a,48bの脱着を容易にするために蝶ネジで取りつけられたりすることにより、ウェブ16の塗布膜面の上方に突起58が存在するケースが多く見られる。これらの突起58により、吹き付けられる乾燥風の風向が乱れて、風ムラを生じさせることがある。又、各乾燥ボックス30a,30bの連結部40の繋ぎ目等や各装置及び部材の取付不具合等によって、ウェブ16の上方の段差60が形成される。段差60は、乾燥風の風向を乱す上、段差60とウェブ16との間に無風空間を形成する。乾燥装置20内でこの無風空間が形成されると、差圧が生じて無風空間へ乾燥風が高速で流れる可能性があり、この高風速の乾燥風により風ムラが発生する。従って、図2及び図3の乾燥装置20に示すように、走行するウェブ16の塗布膜面上の周囲200mm以内に上述した障害物を設けないように装置及び部材を構成し、各乾燥ボックス30a,30bを連結する連結部40に段差をなくすように各吹き出し多孔板48a,48b及び連結部材41を設けて、連結部材41から乾燥風の吹き出しを行うことにより、乾燥風が乾燥装置20内の障害物に衝突して乱れることがなく、且つ無風空間が形成されないので、ウェブ16の塗布膜面に対して極めて安定した効果的な乾燥を行うことができる。
【0045】
更に、乾燥風の風向及び風速を乱す第3の要因がウェブ16の塗布膜面へ供給される乾燥風の風向及び風速の不安定であることに、本願発明者は着目した。即ち、外気を温度制御された乾燥風がウェブ16の塗布膜面上に吹き付けられるまでに、乾燥風自体の圧損や風向の不安定性によって乾燥風の風速及び風向に乱れが生じて、風ムラの原因となる可能性がある。従って、図1の乾燥装置20に示すように、各給気部36a,36bにおいて、第1段階である各高機能フィルタ44a,44bで乾燥風の濾過を行い、第2段階である各整流多孔板46a,46bで乾燥風の圧力を均一にして乾燥風の風向及び風速を安定させ、第3段階である各吹き出し多孔板で乾燥風を一定の風向で吹き付ける、3段階の給気を順番を変えずに行うことにより、極めて安定した乾燥風を走行するウェブ16の塗布膜面に対して均一に吹き付けることができるので、風ムラの発生を低減した効果的な乾燥を行うことができる。
【0046】
本発明の実施の形態である乾燥装置20では、上述した3つの要因に対処するために、乾燥条件等を維持する新たな装置及び部材を特に設ける必要がないので、設備コスト及びランニングコストをかけずに風ムラの発生を極めて効果的に抑えることができる。
【0047】
尚、上述した本発明の実施の形態である乾燥装置20において、部材及び装置の大きさ、形状、配置等は特に限定するものではない。乾燥装置20において2つの乾燥ボックス30a,30bを設けたが、1つ又は3つ以上設けてもよい。各整流多孔板46a,46b及び各吹き出し多孔板48a,48bは、特に金網状のスリットに限定するものではなく、機能を満たすのであれば多数の孔が開いた板材でもよい。本発明の実施の形態では塗布乾燥ライン10全体がクリーンルーム5の内部に設置されているが、特に限定するものではない。乾燥装置20のみをクリーンルーム5内に設置してもよい。
【0048】
乾燥装置20では、給気部36a,36b及び排気部38a,38bの構成や、障害物による乾燥風の乱れを抑制する構成を全て含む態様で説明したが、これらを個々に設けてもよい。
【0049】
又、上述した塗布乾燥ライン10は、塗布膜の乾燥に限定されるものではなく、塗布膜一般の乾燥に適用できる。
【0050】
更に、本発明において、塗布に用いられる塗布液の溶媒は揮発性の有機溶剤を用いる系、とりわけ、乾燥速度の速い溶剤を用いる系の場合に効果的であるが、これに限定されるものではない。水溶性の溶媒に対して用いてもよい。
【0051】
【実施例】
以下、実施例を用いた各試験により本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0052】
試験1は、上述した本発明の実施の形態である塗布乾燥ライン10で塗布膜の乾燥を行ったもので、本発明の風ムラ防止対策である▲1▼排気多孔板50a,50b、▲2▼乾燥ボックス30a、30bの間の連結部40で連続吹き出しを行う連結部材41、▲3▼ウェブの周辺200mm以内に障害物を設けない構造、▲4▼給気部36a,36bの構造、の全てを備えた乾燥装置20を用いた。
【0053】
試験2は、試験1から▲1▼の排気多孔板50a,50bを除いた乾燥装置20を用いた。
【0054】
試験3は、試験1から▲2▼の連結部材41を除いた場合であり、連結部材41を除去して各乾燥ボックス30a,30bの間に段差がある乾燥装置20を用いた。
【0055】
試験4は、▲3▼のウェブの周辺200mm以内に障害物を設けない構造を除いた場合であり、ウェブ16の塗布膜面の周囲200mm以内に突起や段差などの障害物のある乾燥装置20を用いた。
【0056】
表1は試験1〜4における塗布膜の乾燥結果を示している。尚、表に示される%はウェブ16の塗布膜面の全体における膜厚分布不均一の発生した面積の割合である。
【0057】
【表1】
表1から分かるように、排気を均等に行って、走行するウェブ周辺200mm以内に障害物がなく、連結部40に無風空間を形成しない、即ち本発明を全て用いた試験1では、膜厚分布不均一の発生率が3%未満という極めて低い結果であり、塗布面の良好な乾燥を行うことができた。
【0058】
これに対し、試験2の排気多孔板50a,50bを除いた場合には、膜厚分布不均一の発生率が5〜10%であり、試験3の連結部構造を除いた場合、及び試験4のウェブ16の周辺200mm以内に障害物を設けない構造を除いた場合には膜厚分布不均一の発生率が10%以上になった。
【0059】
この結果から分かるように、連結部構造及びウェブの周辺200mm以内に障害物を設けない構造は、風ムラの防止対策として大きな比重を占めている。従って、走行するウェブと同じ風向き及び速度で流れる乾燥風を基準乾燥風として、ウェブの塗布膜面に沿って流れる乾燥風の流れをX成分、Y成分の2成分に分解すると共に、基準乾燥風の風速を100%としたときに、X成分又はY成分の風速と、基準乾燥風の風速との差が100%以内、望ましくは50%以内になるように乾燥を行うには、連結部材41及びウェブ16の周辺200mm以内に障害物を設けない構造を少なくとも実施することが好ましく、排気多孔板50a,50bや給気部36a,36bの構造を実施すれば更に好ましい。
【0060】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の塗布膜の乾燥方法及び乾燥装置によれば、乾燥工程での排気を均一に行うことにより、乾燥風の排気の集中による乾燥風の風向及び風速の乱れを最小限に抑えることができる。又、走行するウェブの周囲200mm以内に突起や段差等の障害物をなくし、連結部においても乾燥風を吹き付けることにより、乾燥工程ウェブ塗布膜面上での乾燥風の風向及び風速の乱れを防止することができる。
【0061】
これにより、走行するウェブと同一の方向及び速度で流れる乾燥風を基準乾燥風として、塗布膜面上を沿って流れる乾燥風の流れをX成分、Y成分の2成分に分解すると共に、基準乾燥風の風速を100%としたときに、X成分又はY成分の風速と、基準乾燥風の風速との差が100%以内、望ましくは50%以内になるように、ウェブの塗布膜面に沿って流れる乾燥風を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態の乾燥装置を用いた塗布乾燥ラインの概略構成図
【図2】本発明の実施の形態の乾燥装置における連結部の概略断面図
【図3】本発明の実施の形態の乾燥装置を入口方向から見た概略断面図
【図4】ウェブに吹き付けられる乾燥風の理想的な流れを説明する説明図
【図5】従来の排気方法による乾燥風の流れを示す説明図
【図6】従来の乾燥装置内に障害物が存在する場合の乾燥風の流れを示す説明図
【符号の説明】
5…クリーンルーム、10…塗布乾燥ライン、12…送出機、14…巻取機、16…ウェブ、18…塗布装置、20…乾燥装置、22…サクションローラ、24…コーティングローラ、26…塗布ヘッド、30a…第1の乾燥ボックス、30b…第2の乾燥ボックス、32…ウェブ入口部、32A…通風用開口、32B…ウェブ走行用開口、32C…ガイド部材、32D…ウェブ走行ボックス、34…ウェブ出口部、36a…第1の給気部、36b…第2の給気部、38a…第1の排気部、38b…第2の排気部、40…連結部、42a…第1の加熱器、42b…第2の加熱器、44a…第1の高機能フィルタ、44b…第2の高機能フィルタ、46a…第1の整流多孔板、46b…第2の整流多孔板、48a…第1の吹き出し多孔板、48b…第2の吹き出し多孔板、50a…第1の排気多孔板、50b…第2の排気多孔板、52a…第1の排気口、52b…第2の排気口、54…搬送ローラ、56…排気口、58…突起、60…段差
Claims (5)
- 連続走行する帯状のウェブの表面に塗布液を塗布して塗布膜を形成した後、前記ウェブを乾燥装置を通過させながら給気部から塗布膜面に乾燥風を吹き付けて該塗布膜を乾燥すると共に、吹き付けた乾燥風を、前記ウェブを挟んで前記給気部の反対側に設けられた排気部から乾燥装置外に排気する塗布膜の乾燥装置において、
前記乾燥装置を乾燥条件の異なる複数の乾燥ボックスに分割すると共に、分割された乾燥ボックス同士の連結部は、給気部のウェブ側の面と同一面に形成されると共に、この連結部には乾燥風で塗布膜面に吹き付ける流路が形成されたことを特徴とする塗布膜の乾燥装置。 - 前記乾燥装置の内部は、該乾燥装置内を走行するウェブの周辺200mm以内に前記給気部から吹き出された乾燥風の乱れを発生させる障害物を設けない構造に形成されることを特徴とする請求項1に記載の塗布膜の乾燥装置。
- 前記給気部は、乾燥風の吹き出し上流側から順に、乾燥風を濾過するフィルタ、乾燥風の圧力分布を均一化する整流多孔板、乾燥風を前記塗布膜面に均一に吹き出す吹き出し量を均一化する吹き出し多孔板の3層構造に形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗布膜の乾燥装置。
- 前記整流多孔板の開口率は10%以下であることを特徴とする請求項3に記載の塗布膜の乾燥装置。
- 前記乾燥装置のウェブ入口部及び/又はウェブ出口部には、ウェブ走行用開口とは別の通風用開口を有することを特徴とする請求項1〜4の何れか1に記載の塗布膜の乾燥装置。
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