JP4152225B2 - 曲げ性に優れた帯状打抜き刃用鋼板および打抜き刃 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、段ボール,板紙,樹脂シート,皮革などを打ち抜くための帯状打抜き刃に用いる鋼板およびその帯状打抜き刃に関する。
【0002】
【従来の技術】
上記の帯状打抜き刃は、トムソン刃,ルール,ダイなどの称呼を有し、鉄鋼材料からなる帯状薄板の一方の側端部に先端先細りの刃先を形成したものである。帯状打抜き刃を使用するときは、予めベニア板等にレーザー加工等で所定の打抜き形状の溝を形成しておき、帯状打抜き刃の刃先の無い側端部を上記の溝にはめ込んで「木型」と呼ばれる打抜き型を作製する。その際、溝に嵌合するように帯状打抜き刃は所定の形状に曲げ加工される。溝の深さは帯状打抜き刃の幅より浅いため、刃先はベニヤ板の板面から突き出ており、刃の周囲には刃先の突き出し量より少し厚い弾性体ブロックを貼り付ける。そして、この木型の上に被打抜き材を押し当てて切断すると所定形状に打ち抜かれたものが弾性体の反発力で押し戻され、容易に取り出せる。
【0003】
帯状打抜き刃には、刃物としての「切れ味」および「耐久性」に優れる点以外に、木型作製時に曲げ半径の小さい屈曲加工が容易に行える特性を具備すること、すなわち「曲げ性」に優れることが要求される。
優れた「切れ味」を実現するには刃先部が硬いこと,刃付け加工部全体の剛性が高いことが必要であり、「耐久性」を確保するには刃先部およびその近傍の耐摩耗性が高いことが必要である。このため、帯状打抜き刃の板厚中央部付近はC量の多い鋼で構成される。C量が多いため刃先部分は高周波焼入れ処理により顕著に硬化させることができる。
十分な「曲げ性」を確保するには、胴部(=刃付け加工部以外の部分)の表面付近をC量の少ない軟質な鋼で構成する手法が採られる。これにより屈曲加工時に表面のクラック発生を抑制できる。
【0004】
このように板厚中央部をC量の多い硬質の鋼で構成し、表層部をC量の少ない軟質の鋼で構成する方法として、特許文献1に開示されるように、C量の多い鋼板の両面をC量の少ない鋼で鋳ぐるみ、これを熱間圧延等で所定厚さにして3層構造の複合材料とする方法が提案されてきた。しかし、その製造中にCの拡散が起こるため、中心層のC濃度が低下してしまうなどの不具合が問題となる。これを解決するために特許文献1では、中心層と外側層の間に中間的なC量の中間層を介在させた5層構造のクラッド材を用いたトムソン刃を提案している。
【0005】
また、クラッド材ではなく、単一部材からなる鋼板を用いて板厚中心部と表層部にC含有量の差を付ける技術も古くから利用されている。これは、中・高炭素鋼板を還元性雰囲気中で熱処理することにより表層部の脱炭を行うものである。鋼種としてはJIS規格に規定されるS55C,SAE1050,SAE1055など、恒温変態や焼戻しで300HV以上の硬度と適度な靱性が付与でき、かつ焼入れで500HV以上の硬度が得られるものが主として使用されている。
【0006】
【特許文献1】
特開平6−190797号公報(特許請求の範囲,段落0005,0006,0012)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記クラッド材を用いる方法は、そのクラッド材の製造自体が特殊工程を必要とするので、普通鋼板の製造設備を用いて安価に大量生産するのは困難である。また、クラッド各層の接合力が不十分な欠陥部分では所望の曲げ性が得られない問題がある。
【0008】
他方、中・高炭素鋼板の表層部を脱炭処理する方法は、素材鋼板の製造が比較的容易であり、「切れ味」を満たすための硬さも十分に得られる。しかし、「曲げ性」に関しては、昨今、更なる性能向上が望まれるようになってきた。すなわち、環境問題などの理由で家電製品などの梱包・緩衝材は発砲スチロールから段ボールに移行しつつあり、また、パッケージの意匠性も向上しつつある。さらに、緩衝材等の設計がコンピュータを用いて迅速かつ容易に行えるようになった。このため、従来にも増して多種多様で複雑形状の打抜きに対応することが必要になり、「曲げ性」の更なる改善が望まれている。同時に、過酷な使用でも刃の寿命が低下しないよう、「耐久性」の向上も望まれている。
【0009】
発明者らは中・高炭素鋼板の表層部を脱炭処理した従来の帯状打抜き刃を使って厳しい曲げ試験を種々行った。その結果、クラックが発生するのは板厚が厚い胴部ではなく、刃付け加工部であることが判明した。図1(a)は、帯状打抜き刃の曲げ加工部分を模式的に示した斜視図である。図1(b)は、(a)のX−X'線に沿って切断した断面を、また図1(c)は同Y−Y'線に沿って切断した断面をそれぞれ刃先の方から見た模式図である。脱炭処理は刃付け加工前に行われるため、胴部には脱炭表層が存在するのに対し(図1(b))、刃付け加工部にはそれがない(図1(c))。この差が、胴部より板厚の薄い刃付け加工部でクラックが発生する原因になっていると考えられる。
【0010】
本発明は、以上のような状況に鑑み、中・高炭素鋼板の表層部を脱炭処理した鋼板において、帯状打抜き刃の刃付け加工部での曲げ性を改善し、また、その部分での耐摩耗性をも同時に改善する技術の提供を目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
刃付け加工部の曲げ性を胴部と同等以上に向上させるには、刃付け加工部にも脱炭された表層(脱炭表層)を形成すればよいと考えられる。しかし、そのためには刃付け加工をした後に脱炭処理を施す必要があり、鋼板製造段階で脱炭処理する場合と比べコスト高となる。また、刃先部分については焼入れによる硬度確保のため脱炭を回避しなければならないという問題が生じる。さらに、耐摩耗性を考慮すると、刃付け加工部に軟質な脱炭表層を形成することは好ましいとはいえない。
そこで発明者らは、素材の金属組織自体を見直すべく、種々実験を重ねた。その結果、ベイナイトあるいは焼戻しマルテンサイトの組織中に一定量以上の球状炭化物を分散させたとき、刃付け加工部における曲げ性が顕著に向上することを見出した。また、このとき同時に耐摩耗性も向上した。本発明はこのような知見に基づいて完成したものである。
【0012】
すなわち、上記目的は、フェライト単相組織からなる厚さ5μm以上好ましくは5〜20μmの脱炭表層を両面に形成した鋼板において、表面からの深さが100μm以上の領域である基地部が、C:0.40〜0.80質量%を含有する化学組成を有し、ベイナイト中に1体積%以上の球状炭化物を含む金属組織、あるいは焼戻しマルテンサイト中に1体積%以上の球状炭化物を含む金属組織を有し、かつ300HV〜450HVの硬さに調整されている曲げ性に優れた帯状打抜き刃用鋼板によって達成される。
特に、基地部の化学組成が、質量%で、C:0.40〜0.80%,Si:0.5%以下,Mn:0.2〜2.0%,P:0.02%以下,S:0.02%以下,Cr:1.0%以下,残部Feおよび不可避的不純物からなるものが提供される。
また特に板厚が0.4〜1.5mmであるものが提供される。
【0013】
また、これらの鋼板からなる帯状素材の側端部に先端先細りの刃付け加工部を有し、その先端部分に基地部の組織を焼入れしてなる硬さ500HV以上の刃先焼入れ部を有する帯状打抜き刃が提供される。
【0014】
【発明の実施の形態】
図2に、本発明の鋼板を用いて得られた帯状打抜き刃の組織構造を概念的に表した断面図を示す。これは、帯状素材を長手方向に見た断面であり、その一方の側端部に刃付け加工部を有している。段ボールを打ち抜く一般的な帯状打抜き刃の場合、胴部の厚さ(すなわち素材鋼板の板厚)が例えば0.7mm程度、刃付け加工部+胴部の長さが例えば25mm程度、刃先の角度が例えば45°程度のものが使用される。本明細書では、素材鋼板の表面からの深さが100μm以上の領域を「基地部」と呼び、表面からの深さが100μm未満の領域を「表層部」と呼ぶ。基地部と表層部は組織状態の相違を意味するのではなく、単に表面からの深さ位置による領域の違いを表している。つまり、基地部と表層部の境界で急激な組織変化が起きているわけではない。なお、図2中、脱炭表層の厚さは誇張して示してある。
【0015】
鋼板両面の表層部のうち、表面から少なくとも5μm厚さの領域は脱炭されており、その金属組織はフェライト単相であることが必要である。本明細書では、最表層に形成されたこの脱炭された層を「脱炭表層」と呼ぶ。脱炭表層の組織(フェライト単相)の中に炭化物やパーライトが少量(脱炭表層中での炭化物の体積率が1.5%以下)混入しても構わない。脱炭表層の厚さが5μm未満では胴部での曲げ性確保が不十分となる。ただし、20μmを超えても更なる曲げ性向上効果は期待できないので、脱炭処理の経済性を考慮すると、脱炭表層の厚さは5〜20μmとするのが望ましい。
【0016】
本発明では、刃付け加工部の曲げ性および耐久性(耐摩耗性)を改善するために基地部の化学組成と組織状態が重要となる。
基地部の化学組成において、Cは、鋼材の強度を支配する重要な元素である。帯状打抜き刃の用途では基地部の硬さとして300HV以上が必要であり、また、刃先に焼入れを行った際500HV以上の硬さが得られることが要求されるので、少なくとも0.4質量%以上のCを含有する中・高炭素鋼を使用する。ただし、C含有量が0.8質量%を超えるとベイナイトまたは焼戻しマルテンサイトの靱性が低下し、曲げ性が劣化するため、本発明ではC:0.4〜0.8質量%の鋼を使用する。熱処理鋼帯としての作り易さや、機械的性質、経済性のバランスを考慮するとC:0.50〜0.70質量%が好ましい。
【0017】
Siは、溶鋼中における脱酸効果を有するが、本発明ではSi無添加でも脱酸不良の弊害はあまりない。むしろ、添加量が多いと曲げ性の劣化を招く場合があるので、Si含有量は0.5質量%以下に抑えることが望ましい。
【0018】
Mnは、焼入れ性を向上させる効果がある。その効果を十分発揮させるには0.2質量%以上のMn含有が望ましい。ただし、2.0質量%を超えるとベイナイト変態を抑制させる作用が強まるので連続熱処理に適用しにくくなる。このため、Mn含有量は0.2〜2.0質量%とすることが望ましい。熱処理鋼帯としての作り易さや、機械的性質、経済性のバランスを考慮するとMn:0.40〜1.00質量%が特に好ましい。
【0019】
P,Sは、靱性に悪影響を及ぼすので、本発明ではこれらはいずれも0.02質量%以下に低減することが望ましい。
【0020】
Crは、鋼帯の強度向上および焼入れ性向上に有効であるため、必要に応じて添加する。焼入れ性向上効果自体はMnより小さいものの、適量添加でパーライト変態を抑制しながらベイナイトの健全性を保つことが可能である。ただし、多量に添加すると熱延板や焼鈍鋼板の材質硬化によりその後の作り込みに支障が出る場合があり、また鋼の靱性も損なうので、Cr含有量は1.0質量%以下とすることが望ましい。特に好ましいCr含有量は0.1〜0.5質量%である。
後述の金属組織が得られ、曲げ性を損なわない範囲で上記以外の元素を含有してもよい。
【0021】
基地部の金属組織は、刃物としての基本的特性である硬さおよび耐摩耗性を確保するために、ベイナイトまたは焼戻しマルテンサイトを主体とした組織を採用する。フェライトやパーライト組織は実質的に存在しないことが望ましい。ベイナイト組織となるか焼戻しマルテンサイト組織となるかは熱処理履歴によって決まる。すなわち周知のとおり、前者はオーステナイト領域からの冷却過程における恒温変態処理によって得られ、後者はオーステナイト領域からの焼入れ処理で実質的にマルテンサイト単相組織としたのち、焼戻し処理することによって得られる。
【0022】
本発明では、脱炭表層が削り取られて基地部が露出した刃付け加工部での曲げ性を改善するために、その基地部を上記のベイナイト組織または焼戻しマルテンサイト組織のいずれかをベースとし、さらにその中に球状炭化物が分散した組織状態とする。種々検討の結果、基地部に球状炭化物が1体積%以上存在するとき、その曲げ性は顕著に向上することがわかった。また、このとき同時に耐摩耗性も一層向上することがわかった。球状炭化物の粒径は概ね0.2〜4.0μmであることが望ましい。
【0023】
球状炭化物の存在が曲げ性を顕著に向上させるメカニズムについてはまだ不明な点が多いが、ベイナイトまたは焼戻しマルテンサイトと球状炭化物との硬度差がHV値にして約700以上と著しく大きいため、屈曲加工箇所において球状炭化物の周囲で微視的な降伏が誘起され、マクロ的に見るとランダムに分散した位置で局部変形が進行するので、割れにつながる大きな応力集中が避けられ、その結果曲げ性が向上するものと推察される。
なお、胴部については板厚が厚いこともあり、球状炭化物を分散させた基地部の組織だけでは安定して十分な曲げ性を確保することは難しく、脱炭表層の形成を欠くことはできない。
【0024】
以上のように、本発明では表層部に脱炭表層を有し、基地部の組織を「ベイナイト+1体積%以上の球状炭化物」、または「焼戻しマルテンサイト+1体積%以上の球状炭化物」とした単一部材からなる帯状打抜き刃用鋼板を提供するが、この鋼板は例えば以下のような工程により製造することができる。
熱間圧延 → 冷間圧延 → 熱処理1(脱炭) → 冷間圧延 → 熱処理2(ベイナイト処理または焼入れ・焼戻し処理)
最終板厚は0.4〜1.5mm程度とするのが好適である。
【0025】
ここで、熱処理1は脱炭表層を形成するための脱炭焼鈍である。これは、例えば露点を調整した700℃の75%H2+25%N2+H2Oガスからなる還元性の雰囲気に鋼板表面を約5時間曝す熱処理によって実施できる。
【0026】
熱処理2は基地組織を、(i)ベイナイト+1体積%以上の球状炭化物、または、(ii)焼戻しマルテンサイト+1体積%以上の球状炭化物、とするための熱処理であり、例えば以下のような条件が採用できる。
(i)の場合:
860℃×120秒 → 急冷 → 恒温変態処理;400℃×480秒 → 常温まで空冷
この場合、オーステナイト化温度が高すぎたり、オーステナイト化時間が長すぎたりすると1体積%以上の球状炭化物を分散させることが難しくなる。
(ii)の場合:
焼入れ処理;860℃×120秒 → 約60℃まで急冷 → 焼戻し処理;500℃×180秒→ 常温まで空冷
この場合も、オーステナイト化温度が高すぎたり、オーステナイト化時間が長すぎたりすると1体積%以上の球状炭化物を分散させることが難しくなる。
【0027】
【実施例】
表1に示す鋼を溶製し、板厚3.0mmまで熱間圧延し、板厚2.2mmまで冷間圧延したのち、脱炭焼鈍を施し、次いで板厚0.7mmまで冷間圧延したのち、連続熱処理を施した。表1中、鋼HはCr含有量が比較的多いもの、鋼IはSi含有量が比較的多いものである。
【0028】
【表1】
【0029】
脱炭焼鈍は、露点を調整した75%H2+25%N2+H2O雰囲気(700℃)に鋼板表面を5時間曝す方法で行った。
連続熱処理では、ベイナイト主体の組織を得るための工程X、あるいは焼戻しマルテンサイト主体の組織を得るための工程Yを以下の条件範囲で実施した。
〔工程X〕780〜980℃×30〜600秒保持 → 320〜480℃に保った溶融鉛浴中に急冷 → 320〜480℃×60〜600秒保持 → 常温まで空冷
〔工程Y〕780〜980℃×30〜600秒保持 → 60℃の焼入れ剤中に急冷 → 400℃×300秒保持 → 常温まで空冷
【0030】
得られた鋼板(板厚0.7mm)の断面組織観察を行って、表層部に形成したフェライト単相からなる脱炭表層の厚さ、および基地部の組織構成を調べた。また、基地部に存在する球状炭化物の体積率を画像解析により測定した。さらに、基地部の断面について硬さ(HV)を測定した。
なお、表面から100μm以上の深さまでを削り取って基地部のみを残した試料から分析サンプルを採取し、基地部の化学組成を調べたところ、いずれの鋼も表1に示した溶製時の分析値とよく一致していた。したがって、表1の分析値はそのまま基地部の化学組成として捉えることができる。
【0031】
また、各鋼板から圧延方向が長手方向となるように長さ100mm,幅25mmの短冊状試験片を切り出し、その一方の側端部に切削により刃付け加工を施し、刃先角が45°の刃を形成した。胴部の厚さは0.7mmである。
この刃付け加工した試験片に、ポンチ先端半径0.25mm,曲げ角度120°の突き曲げを行い、胴部および刃付け加工部それぞれについて曲げ性評価を行った。評価基準は胴部,刃付け加工部とも以下のとおりとし、評点4以上を合格と判定した。
評点5:クラック、肌荒れとも認められない
評点4:クラックは認められないが、肌荒れが認められる
評点3:微小なクラックが認められる
評点2:幅方向に連結した微小クラックが認められる
評点1:連結した顕著なクラックが認められる
評点0:試験片が破断した
【0032】
以上の結果を表2に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
本発明例のものは、基地部が硬さ300HV以上のベイナイトまたは焼戻しマルテンサイト組織であって、1体積%以上の球状炭化物が分散した組織形態を呈し、かつ胴部には厚さ5μm以上の脱炭表層が形成されていることにより、胴部の曲げ性が良好であるとともに刃付け加工部の曲げ性も十分に改善されていた。
【0035】
これに対し、比較例No.1,2,8はオーステナイト化時間が短く、オーステナイト化が不十分であったため、またNo.16は恒温保持温度が高かったため、これらは基地部の硬さが不十分であった。No.7はオーステナイト化時間が長すぎて炭化物が過剰に溶解したため、基地部の球状炭化物量が少なく、また脱炭表層の厚さが不十分となり、胴部,刃付け加工部とも曲げ性に劣った。No.11はオーステナイト化時間が短く、オーステナイト化が不十分であったため、またNo.17はオーステナイト化温度が高すぎて炭化物が過剰に溶解したため、基地部の球状炭化物量が少なく、刃付け加工部の曲げ性が向上しなかった。No.12はオーステナイト化温度が低すぎたため基地部にフェライト相が混在し、硬さが不足した。No.14はオーステナイト化温度が高すぎたため基地部の球状炭化物が消失し、また脱炭表層も消失したので、胴部,刃付け加工部とも曲げ性に劣った。No.15は恒温保持温度が低すぎたため基地部が硬くなりすぎ、胴部,刃付け加工部とも曲げ性に劣った。No.18,19は素材の脱炭層の深さが不十分または皆無であったため脱炭表層が生成しないかその厚さが不十分となり、胴部の曲げ性に劣った。No.26は鋼のCr含有量が1.0質量%を超えて高かったため、この試料作製に用いた熱処理条件では基地部の靱性が低下し、刃付け加工部の曲げ性改善が図れなかった。No.27は鋼のSi含有量が0.5質量%を超えて高かったため、この試料作製に用いた熱処理条件では胴部,刃付け加工部とも曲げ性改善が図れなかった。
【0036】
なお、本発明例の試験片については、刃先部を高周波焼入れすることにより500HV以上の刃先硬さが得られることを別途確認している。
図3には、表2の本発明例および比較例No.18,19について、脱炭表層の厚さと胴部の曲げ性評点の関係をプロットしたグラフを示してある。
図4には、表2の本発明例および比較例No.7,11,14について、基地部における球状炭化物の体積率と刃付け加工部の曲げ性評点の関係をプロットしたグラフを示してある。
【0037】
【発明の効果】
本発明によれば、中・高炭素鋼板の表層部を脱炭処理した鋼板を用いて、帯状打抜き刃の刃付け加工部での曲げ性を安定的に改善する技術が提供された。また、同時に刃付け加工部の耐摩耗性も向上した。したがって本発明は、多種多様の複雑形状に容易に加工できる性能と、一層の寿命向上が望まれる昨今のトムソン刃の厳しい要求に対応し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (a)は帯状打抜き刃の曲げ加工部分を模式的に示した斜視図、(b)は(a)のX−X'線に沿って切断した断面を刃先側から見た断面図、(c)は同Y−Y'線に沿って切断した断面を刃先側から見た断面図である。
【図2】本発明の鋼板を用いた帯状打抜き刃の組織構造を概念的に表した断面図である。
【図3】脱炭表層の厚さと胴部の曲げ性評点の関係をプロットしたグラフである。
【図4】基地部における球状炭化物の体積率と刃付け加工部の曲げ性評点の関係をプロットしたグラフである。
Claims (5)
- フェライト単相組織からなる厚さ5μm以上の脱炭表層を両面に形成した鋼板において、表面からの深さが100μm以上の領域である基地部が、C:0.40〜0.80質量%を含有する化学組成を有し、ベイナイト中または焼戻しマルテンサイト中に1体積%以上の球状炭化物を含む金属組織を有し、かつ300HV〜450HVの硬さに調整されている曲げ性に優れた帯状打抜き刃用鋼板。
- 基地部の化学組成が、質量%で、C:0.40〜0.80%,Si:0.5%以下,Mn:0.2〜2.0%,P:0.02%以下,S:0.02%以下,Cr:1.0%以下,残部Feおよび不可避的不純物からなるものである請求項1に記載の帯状打抜き刃用鋼板。
- 脱炭表層の厚さが5〜20μmである請求項1または2に記載の帯状打抜き刃用鋼板。
- 板厚が0.4〜1.5mmである請求項1〜3に記載の帯状打抜き刃用鋼板。
- 請求項1〜4に記載の鋼板からなる帯状素材の側端部に先端先細りの刃付け加工部を有し、その先端部分に基地部の組織を焼入れしてなる硬さ500HV以上の刃先焼入れ部を有する帯状打抜き刃。
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