JP2005336560A - 精密打抜き部品用高炭素鋼板および精密打抜き部品 - Google Patents
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Abstract
【課題】 軸受けや歯車などの高硬度鋼製機械部品の製造に適した、精密打抜き性と熱処理後の機械的特性を兼備させた高炭素鋼板を提供する。
【解決手段】 C:0.7〜0.9質量%、Si:0.5質量%以下、Mn:0.2〜1.2質量%、P:0.02質量%以下、S:0.01質量%以下,Cr:0.1〜1.0質量%を含み、残部が実質的にFeからなる成分組成を有するとともに、炭化物の最大長さが5.0μm以下で、炭化物球状化率が90%以上、かつ粒径2.0μm以上の球状炭化物が断面の顕微鏡観察で100μm2当り2個以下である炭化物と等軸状フェライトとからなる組織を有し、さらに断面硬さが200HV以下である特性を備えさせた鋼板。
【選択図】 なし
【解決手段】 C:0.7〜0.9質量%、Si:0.5質量%以下、Mn:0.2〜1.2質量%、P:0.02質量%以下、S:0.01質量%以下,Cr:0.1〜1.0質量%を含み、残部が実質的にFeからなる成分組成を有するとともに、炭化物の最大長さが5.0μm以下で、炭化物球状化率が90%以上、かつ粒径2.0μm以上の球状炭化物が断面の顕微鏡観察で100μm2当り2個以下である炭化物と等軸状フェライトとからなる組織を有し、さらに断面硬さが200HV以下である特性を備えさせた鋼板。
【選択図】 なし
Description
本発明は、精密打抜き加工で成形され、熱処理によって硬さ57HRC以上に調質して使用される鋼製部品の素材として好適な高靭性高炭素鋼板に関する。
鋼製機械部品の中でも、軸受け、歯車などの耐摩耗性を必要とする部品は、高い面圧強度を確保するために熱処理によって少なくとも57HRC以上の硬さに調質されて使用されている。従来の軸受けや歯車の製造方法は、一般的に鍛造や切削によって所望形状に加工される場合が多い。さらに、これらの用途では従来は比較的炭素含有量の低い、いわゆる肌焼き鋼(例えばJIS規格のSCr415)のように0.1〜0.2質量%程度のC量を含む鋼材を使用し、鍛造や切削による加工を行った後、浸炭焼き入れ処理を行って表面硬さを高める製造方法が採られている。しかし、近年はコストダウンを狙って、鍛造や切削を行わずに、板材からの精密打抜き加工で成形される場合が多くなっており、さらに鋼材の化学成分も従来の肌焼き鋼から高炭素鋼に変更し、浸炭焼き入れを廃して通常の焼き入れ焼戻し処理のみで目標の高硬度を得る手法が採られるようになってきている。
高炭素鋼板を用いて精密打抜き加工で所望の部品形状に成形しようとする場合、従来の高炭素鋼板では加工性が必ずしも十分ではないため、精密打抜き加工品の打抜き端面性状が不良であったり、打抜き型の摩耗が大きく型寿命が短くなったりする問題がある。また、熱処理後の機械的性質(強度,靭性,疲労強度,耐摩耗性)を確保することが大前提となるため、精密打抜き性を向上させるためにCなどの合金元素添加量を無闇に低減することはできない。このため、精密打抜き性と熱処理後の機械的特性を兼備した高炭素鋼板が求められていた。
特許文献1には、0.1〜0.8質量%の炭素を含む亜共析鋼において、炭化物の球状化率と平均炭化物粒径を制御することで局部延性と焼き入れ性を高めた鋼板が示されている。しかし、この方法は広く低合金炭素鋼の加工と熱処理性に関して述べられたものに過ぎず、本発明が対象とするような軸受けや歯車などの非常に高硬度に調質される用途に対して、特に強度,靭性,疲労強度,耐摩耗性を兼備することを前提としての有用な知見をもたらすものではない。
本発明が対象とする軸受けや歯車などは上述したように57HRC以上に調質されて使用されるので、その靭性は概して低い。そのため、表面欠陥が存在すると、その欠陥が応力集中を招き、疲労破壊や衝撃破壊、さらには転動疲労や摩耗の原因となる。例えば歯車は、高炭素鋼板を精密打抜き加工によって成形した部品を熱処理した後、バレル研磨などで表面研磨し、さらにその後ショットピーニングを施して製造されている。打抜き端面に破断面や二次剪断面などの欠陥があると、そこが応力集中部になり歯先の耐久性は著しく低下する。
部品の耐久性を向上させるためには、第一に、精密打抜き加工で破断面や二次剪断面などの打抜き端面不良を生じさせることのない優れた精密打抜き性を付与する必要がある。精密打抜き加工に伴う表面キズや熱処理に伴う組織的欠陥を低減する必要がある。第二に、万一不可避的状況で表面欠陥が存在しても、著しい脆性破壊を生じないよう、組織形態を亀裂伝播抵抗の高いものに調質することが求められる。このように、精密打抜き加工で成形される鋼製部品の素材鋼板としては、上記二つの要素を兼ね備えた特性が要求されている。
特開平11−80886号公報
高炭素鋼板を素材として軸受けや歯車などの機械部品を製造する際には、素材鋼板に、精密打抜き性を持たせる必要がある。さらに、成形後に熱処理を施される際に、比較的簡単な焼き入れ焼戻し法に基づく熱処理によって亀裂伝播抵抗に優れた組織形態に調質する必要がある。
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、高炭素鋼板において精密打抜き性と熱処理後の強靭性を兼備させるために必要な諸条件を明らかにし、軸受けや歯車などの高硬度鋼製機械部品の製造に適した、精密打抜き性と熱処理後の機械的特性に優れた高靭性高炭素鋼板を提供することを目的とする。
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、高炭素鋼板において精密打抜き性と熱処理後の強靭性を兼備させるために必要な諸条件を明らかにし、軸受けや歯車などの高硬度鋼製機械部品の製造に適した、精密打抜き性と熱処理後の機械的特性に優れた高靭性高炭素鋼板を提供することを目的とする。
本発明の精密打抜き部品用高炭素鋼板は、その目的を達成するため、C:0.7〜0.9質量%、Si:0.5質量%以下、Mn:0.2〜1.2質量%、P:0.02質量%以下、S:0.01質量%以下,Cr:0.1〜1.0質量%を含み、残部が実質的にFeの組成を有し、炭化物の最大長さが5.0μm以下で、炭化物球状化率が90%以上、かつ粒径2.0μm以上の球状炭化物が断面の顕微鏡観察で100μm2当り2個以下である炭化物と等軸状フェライトとからなる組織を有し、さらに断面硬さが200HV以下で、しかもJIS5号引張試験片の平行部長手方向中央位置における幅方向両サイドに開き角45度、深さ2mmのVノッチを入れた試験片を用いて引張試験を行い、平行部長手方向中央の標点間距離10mmに対する破断後の伸び率として表される切欠き伸びが15%以上であることを特徴とする。
本発明の精密打抜き部品用高炭素鋼板はさらに、Ni:1.5質量%以下、Mo:0.5質量%以下、Cu:0.5質量%以下,V:0.5質量%以下、Ti:0.2質量%以下、Nb:0.2質量%以下,B:0.01質量%以下、Ca:0.01質量%以下の1種または2種以上を含んでいてもよい。
このような鋼板に精密打抜き加工とその後の熱処理を施すことにより、57HRC以上に調質された精密打抜き部品を得る。
このような鋼板に精密打抜き加工とその後の熱処理を施すことにより、57HRC以上に調質された精密打抜き部品を得る。
なお、本明細書中では、「精密打抜き加工」とは、打抜き面を平滑かつ高精度なせん断面にするための加工である。一般的にクリアランスを通常の打抜きに比べて極めて小さくし、材料を強く拘束することにより材料への静水圧を高め、打抜き加工時の亀裂発生を抑制することで高精度のせん断面が得やすくなる。
また、本発明で規定する「球状炭化物」,「炭化物球状化率」および「球状化炭化物粒径」は次の通り定義する。すなわち、鋼材断面の金属組織観察において、炭化物総数が300個以上となる領域を観察視野にとり、最大長さpとその直角方向の最大長さqの比p/qが3未満のものを「球状炭化物」とし、その炭化物の個数が観察視野内の炭化物総数に占める割合(%)を「炭化物球状化率」とする。また「球状炭化物粒径」とは、上記で定義される球状炭化物の最大長さpとその直角方向の最大長さqの平均値を言う。
また、本発明で規定する「球状炭化物」,「炭化物球状化率」および「球状化炭化物粒径」は次の通り定義する。すなわち、鋼材断面の金属組織観察において、炭化物総数が300個以上となる領域を観察視野にとり、最大長さpとその直角方向の最大長さqの比p/qが3未満のものを「球状炭化物」とし、その炭化物の個数が観察視野内の炭化物総数に占める割合(%)を「炭化物球状化率」とする。また「球状炭化物粒径」とは、上記で定義される球状炭化物の最大長さpとその直角方向の最大長さqの平均値を言う。
本発明では、高炭素鋼板の成分・組成と組織,特に炭化物の存在状態を調整することにより、鋼板の硬さと加工性を精密打抜き加工に最適な状態にすることができる。そしてこの鋼板に精密打抜き加工と焼き入れ焼戻し処理することにより、焼き入れ不良を起こすことなく、高い硬さと優れた靭性を有する機械部品を製造することができる。
したがって本発明により、高炭素鋼を素材として、所望形状への精密打抜き加工と、加工品の単純なる焼き入れ焼戻し処理により、複雑形状の自動車部品等、高硬度および高靭性を必要とする各種機械部品を生産性良く製造できる。
したがって本発明により、高炭素鋼を素材として、所望形状への精密打抜き加工と、加工品の単純なる焼き入れ焼戻し処理により、複雑形状の自動車部品等、高硬度および高靭性を必要とする各種機械部品を生産性良く製造できる。
本発明では、高炭素鋼板に精密打抜き性と熱処理後の機械的特性を兼ね備えさせることを目的としている。
本発明で考える精密打抜き性とは、次の二点を意図している。一点目は、精密打抜き面性状、すなわち精密打抜き面において破断面や二次剪断面などの欠陥が少ないことであり、二点目は、金型寿命、すなわち連続して精密打抜き加工を行った際の金型の摩耗損傷が少なく、精密打抜き面性状の劣化が少ないことである。
本発明で考える精密打抜き性とは、次の二点を意図している。一点目は、精密打抜き面性状、すなわち精密打抜き面において破断面や二次剪断面などの欠陥が少ないことであり、二点目は、金型寿命、すなわち連続して精密打抜き加工を行った際の金型の摩耗損傷が少なく、精密打抜き面性状の劣化が少ないことである。
ところで、高炭素鋼板の機械的性質は炭化物の存在形態に極めて大きく依存している。本発明者等の検討結果では、炭化物の存在状態の調整により鋼板の硬さを低下させるほど、金型寿命は良好となる傾向が認められた。しかしながら、精密打抜き面性状は鋼板の硬さを低下させても必ずしも向上するとは限らず、焼鈍過程で粗大な棒状炭化物が形成された場合などでは硬さが低下しても精密打抜き面性状はむしろ悪化する場合があることが明らかになった。
また、熱処理を施して57HRC以上に調質した後の機械的性質に関する調査を行ったところ、精密打抜き面に破断面が含まれる場合の衝撃強度は、破断面が含まれず剪断面だけで構成された精密打抜き面の場合の衝撃強度に比べて低下することがわかった。素材鋼板の加工性が不充分であると精密打抜き面に破断面が形成されることから、素材の加工性の優劣が製品の耐久性に密接に関与していることが明らかになった。
また、熱処理を施して57HRC以上に調質した後の機械的性質に関する調査を行ったところ、精密打抜き面に破断面が含まれる場合の衝撃強度は、破断面が含まれず剪断面だけで構成された精密打抜き面の場合の衝撃強度に比べて低下することがわかった。素材鋼板の加工性が不充分であると精密打抜き面に破断面が形成されることから、素材の加工性の優劣が製品の耐久性に密接に関与していることが明らかになった。
本発明で対象としている軸受けや歯車など、調質硬さ57HRC以上の鋼製機械部品の場合、熱処理硬さを確保するために少なくとも0.7質量%以上のCを含有させる必要がある。本発明者等は、0.7質量%以上のCを含む高炭素鋼板において、精密打抜き性に及ぼす組織形態と硬さ、加えて合金元素の影響に付き広範囲な調査を行った。その結果、同一の成分鋼で比較した場合、硬さが低いほど、フェライト粒径が大きいほど、炭化物粒径が大きいほど、炭化物粒子間隔が大きいほど、炭化物の球状化率が大きいほど、精密打抜き面性状が向上することが明らかになった。ここに列挙した因子のうち、フェライト粒径,炭化物粒径,炭化物粒子間隔は、等軸状フェライト+球状炭化物組織を有する鋼の硬さを決定する因子である。したがって、精密打抜き面性状を変化させる因子は『硬さ』と『炭化物の球状化率』であるといえる。
この点に関してさらに詳細に検討を行った結果、本発明が対象とする高炭素鋼の場合、硬さ200HV以下、球状化率90%以上であれば、精密打抜き面で破断面の形成を十分に抑制できることがわかった。同時に、例えば、Si量が0.5質量%を超えると、硬さ200HV以下、球状化率90%以上であっても良好な精密打抜き面性状は得られないなど、合金元素量によっても精密打抜き面性状が影響されることがわかった。
本発明鋼板は所定形状に精密打抜き成形された後、熱処理され、軸受けや歯車として必要な硬さに調質されているが、調質後に完成品として使用される際には、靭性も必要特性として挙げられている。
本発明のような鋼の場合、打抜き端面に微小な欠陥が存在すると、著しい靭性劣化となって製品の信頼性を低下させることがある。粒径が大きな炭化物は打抜き加工時に基地のフェライト組織との界面で剥離を生じ、微視亀裂となりやすい。炭化物の粒径が微小であれば、界面での剥離が起こり難くなる。本発明者等は、検討の過程で、その臨界粒径が約2.0μmであることを確認した。打抜き端面での微小亀裂の発生を抑制するためには、粒径2.0μmより大きい球状炭化物の出現頻度を少なくとも断面積100μm2当り2個以下に抑えることが必要であることも確認した。
本発明のような鋼の場合、打抜き端面に微小な欠陥が存在すると、著しい靭性劣化となって製品の信頼性を低下させることがある。粒径が大きな炭化物は打抜き加工時に基地のフェライト組織との界面で剥離を生じ、微視亀裂となりやすい。炭化物の粒径が微小であれば、界面での剥離が起こり難くなる。本発明者等は、検討の過程で、その臨界粒径が約2.0μmであることを確認した。打抜き端面での微小亀裂の発生を抑制するためには、粒径2.0μmより大きい球状炭化物の出現頻度を少なくとも断面積100μm2当り2個以下に抑えることが必要であることも確認した。
次に本発明鋼板の成分・組成、組織形態等について詳しく説明する。
C:0.7〜0.9質量%
通常の焼き入れ焼戻しによって、57HRC以上の硬さを安定して調質するためには、少なくとも0.7%以上のCが必要である。しかし、C含有量が多くなると不可避的に粗大な炭化物が形成され易く、しかも炭化物の体積率が増加し、精密打抜き面性状が劣化する上、旧オーステナイト粒界に網状炭化物が形成され、熱処理後の機械的性質が劣化する。このため、C含有量の上限は0.9%とする。
C:0.7〜0.9質量%
通常の焼き入れ焼戻しによって、57HRC以上の硬さを安定して調質するためには、少なくとも0.7%以上のCが必要である。しかし、C含有量が多くなると不可避的に粗大な炭化物が形成され易く、しかも炭化物の体積率が増加し、精密打抜き面性状が劣化する上、旧オーステナイト粒界に網状炭化物が形成され、熱処理後の機械的性質が劣化する。このため、C含有量の上限は0.9%とする。
Si:0.5質量%以下
Siの含有量が0.5%を超えると、フェライト相の固溶強化によって精密打抜き性が劣化する。したがって、Si含有量の上限は0.5%とする。
Mn:0.2〜1.2質量%
Mnは焼き入れ性を確保するために必要な元素である。含有量が0.2%に満たないとその効果は小さい。逆に1.2%を超えて含有させると、フェライト相の固溶強化によって精密打抜き性が劣化する。したがって、Mn含有量の範囲は0.2〜1.2%とする。
Siの含有量が0.5%を超えると、フェライト相の固溶強化によって精密打抜き性が劣化する。したがって、Si含有量の上限は0.5%とする。
Mn:0.2〜1.2質量%
Mnは焼き入れ性を確保するために必要な元素である。含有量が0.2%に満たないとその効果は小さい。逆に1.2%を超えて含有させると、フェライト相の固溶強化によって精密打抜き性が劣化する。したがって、Mn含有量の範囲は0.2〜1.2%とする。
P:0.02質量%以下
Pはオーステナイト粒界に偏析し、靭性を低下させる元素である。0.02%を超えて含有させると延性−脆性遷移温度の上昇を招くので、P含有量は0.02%以下に限定する。
S:0.01質量%以下
SはMnS系介在物を形成し、精密打抜き性を劣化させるのみならず、熱処理後の靭性にも悪影響をあたえるため、0.01%以下に限定する。
Pはオーステナイト粒界に偏析し、靭性を低下させる元素である。0.02%を超えて含有させると延性−脆性遷移温度の上昇を招くので、P含有量は0.02%以下に限定する。
S:0.01質量%以下
SはMnS系介在物を形成し、精密打抜き性を劣化させるのみならず、熱処理後の靭性にも悪影響をあたえるため、0.01%以下に限定する。
Cr:0.1〜1.0質量%
Crは焼き入れ性と熱処理安定性を高める効果を有する元素である。含有量が0.1%に満たないとその効果が認められない。逆に1.0%を超えて含有させると炭化物の球状化と粗大化が抑制されて素材の硬さが高くなり、また炭化物の硬さが著しく上昇することによって精密打抜き性が大幅に劣化する。したがってCr含有量の範囲は0.1〜1.0%とする。
Crは焼き入れ性と熱処理安定性を高める効果を有する元素である。含有量が0.1%に満たないとその効果が認められない。逆に1.0%を超えて含有させると炭化物の球状化と粗大化が抑制されて素材の硬さが高くなり、また炭化物の硬さが著しく上昇することによって精密打抜き性が大幅に劣化する。したがってCr含有量の範囲は0.1〜1.0%とする。
Ni:1.5質量%以下
Niは焼き入れ性を向上させるとともに熱処理後の靭性、特に低温靭性を向上させる元素である。Ni含有量が0.2%に満たないとその効果が認められない。しかし、1.5%を超えて過剰に含有させるフェライト相の固溶強化により精密打抜き性が劣化する。したがってNiを含有させる場合は0.2%以上が好ましく、1.5%を上限とする。
Niは焼き入れ性を向上させるとともに熱処理後の靭性、特に低温靭性を向上させる元素である。Ni含有量が0.2%に満たないとその効果が認められない。しかし、1.5%を超えて過剰に含有させるフェライト相の固溶強化により精密打抜き性が劣化する。したがってNiを含有させる場合は0.2%以上が好ましく、1.5%を上限とする。
Mo:0.5質量%以下
Moは焼き入れ性を向上させる効果を有するとともに、焼戻し軟化抵抗を増大させる効果を有する元素である。そのため、Moを含有させることによって同じ調質硬さを得るための焼戻し温度を高めることができ、靭性の向上に効果がある。Mo含有量が0.1%に満たないとその効果が認められない。しかし、0.5%を超えて含有させると製造性に困難を来たすようになる。したがってMoを含有させる場合は0.1%以上が好ましく、0.5%を上限とする。
Cu:0.5質量%以下
Cuは熱延中に生成する酸化スケールの剥離性を向上させるので、鋼板の表面性状改善に有効である。しかし、過剰に含有させると熱間脆性を生じるようになるので、含有させる場合は0.5%を上限とする。
Moは焼き入れ性を向上させる効果を有するとともに、焼戻し軟化抵抗を増大させる効果を有する元素である。そのため、Moを含有させることによって同じ調質硬さを得るための焼戻し温度を高めることができ、靭性の向上に効果がある。Mo含有量が0.1%に満たないとその効果が認められない。しかし、0.5%を超えて含有させると製造性に困難を来たすようになる。したがってMoを含有させる場合は0.1%以上が好ましく、0.5%を上限とする。
Cu:0.5質量%以下
Cuは熱延中に生成する酸化スケールの剥離性を向上させるので、鋼板の表面性状改善に有効である。しかし、過剰に含有させると熱間脆性を生じるようになるので、含有させる場合は0.5%を上限とする。
V:0.5質量%以下
VはMoと同様に焼き入れ性の向上、焼戻し軟化抵抗の向上が得られる元素である。含有量が0.5%を超えると製造性に困難を来たすので、含有させる場合は0.5%を上限とする。
Ti:0.2質量%以下
Tiは炭窒化物を形成することで焼入れ時のオーステナイト粒径を微細化させる効果を有する元素である。しかし、含有量が0.2%を超えるとその効果は飽和するので、含有させる場合は0.2%を上限とする。
VはMoと同様に焼き入れ性の向上、焼戻し軟化抵抗の向上が得られる元素である。含有量が0.5%を超えると製造性に困難を来たすので、含有させる場合は0.5%を上限とする。
Ti:0.2質量%以下
Tiは炭窒化物を形成することで焼入れ時のオーステナイト粒径を微細化させる効果を有する元素である。しかし、含有量が0.2%を超えるとその効果は飽和するので、含有させる場合は0.2%を上限とする。
Nb:0.2質量%以下
NbはTi同様、炭窒化物を形成することで焼入れ時のオーステナイト粒径を微細化させる効果を有する元素である。しかし、含有量が0.2%を超えるとその効果は飽和するので、含有させる場合は0.2%を上限とする。
B:0.01質量%以下
Bは微量の含有で焼き入れ性の向上をもたらす元素である。しかし、0.01%を超えて含有させてもその効果は飽和するので、含有させる場合は0.01%を上限とする。
NbはTi同様、炭窒化物を形成することで焼入れ時のオーステナイト粒径を微細化させる効果を有する元素である。しかし、含有量が0.2%を超えるとその効果は飽和するので、含有させる場合は0.2%を上限とする。
B:0.01質量%以下
Bは微量の含有で焼き入れ性の向上をもたらす元素である。しかし、0.01%を超えて含有させてもその効果は飽和するので、含有させる場合は0.01%を上限とする。
Ca:0.01質量%以下
CaはMnS系介在物の形態制御、すなわち、MnS系介在物の形態を細長い板状から球状に変える性質を有することから、精密打抜き性を向上させることができる。含有量が0.01%を超えても特性向上に繋がらないので、含有させる場合は0.01%を上限とする。
CaはMnS系介在物の形態制御、すなわち、MnS系介在物の形態を細長い板状から球状に変える性質を有することから、精密打抜き性を向上させることができる。含有量が0.01%を超えても特性向上に繋がらないので、含有させる場合は0.01%を上限とする。
炭化物の球状化率90%以上、硬さ200HV以下
精密打抜き加工を行うためには、熱処理なしの状態で金属組織はフェライト+炭化物に調整しておかねばならない。この鋼板の製造条件の制御により炭化物の球状化率を調整することで、精密打抜き加工時、打抜き面における破断面の形成を抑制し、適正な形状の精密打抜き加工を行えることを確認した。球状化率の算定法は前記の通りである。
球状化率が高い炭化物は、球状化が不十分な炭化物と比べて打抜き加工時にミクロボイドの生成起点になり難く、加工性がよくなる。そのため打抜き面における破断面の形成を抑制できる。各種試験の結果、この臨界点が90%であることを確認した。90%に満たないと加工性が不足し、精密打抜き面に破断面が形成され、良好な精密打抜き面性状が得られない。
また、硬さが200HVを超えると、金型の摩耗が進行していない状況では打抜き面性状の良好なものが得られたとしても、金型寿命の低下により安定して良好な打抜き面性状を維持することができないなどの弊害がある。
精密打抜き加工を行うためには、熱処理なしの状態で金属組織はフェライト+炭化物に調整しておかねばならない。この鋼板の製造条件の制御により炭化物の球状化率を調整することで、精密打抜き加工時、打抜き面における破断面の形成を抑制し、適正な形状の精密打抜き加工を行えることを確認した。球状化率の算定法は前記の通りである。
球状化率が高い炭化物は、球状化が不十分な炭化物と比べて打抜き加工時にミクロボイドの生成起点になり難く、加工性がよくなる。そのため打抜き面における破断面の形成を抑制できる。各種試験の結果、この臨界点が90%であることを確認した。90%に満たないと加工性が不足し、精密打抜き面に破断面が形成され、良好な精密打抜き面性状が得られない。
また、硬さが200HVを超えると、金型の摩耗が進行していない状況では打抜き面性状の良好なものが得られたとしても、金型寿命の低下により安定して良好な打抜き面性状を維持することができないなどの弊害がある。
炭化物の最大長さが5.0μm以下で、粒径2.0μm以上の球状炭化物が断面の顕微鏡観察で100μm 2 当り2個以下
本発明では、比較的大きく均一な粒径の球状炭化物を分散させることにより所期の目的を達成し様とするものであるが、過剰に大きな粒径の球状炭化物は、打抜き加工時に微視亀裂発生の起点になるので、粒径の過剰に大きな球状炭化物を極力少なくすることが必要である。粒径2.0μm以上の球状炭化物が断面の顕微鏡観察で100μm2当り2個より多くなると、打抜き加工時に微視亀裂が形成される頻度が高まり、熱処理後の靭性が劣化する。また、最大長さが5.0μm以上の炭化物が存在すると、巨大球状炭化物の出現頻度に関係なく靭性の劣化を伴う。
本発明では、比較的大きく均一な粒径の球状炭化物を分散させることにより所期の目的を達成し様とするものであるが、過剰に大きな粒径の球状炭化物は、打抜き加工時に微視亀裂発生の起点になるので、粒径の過剰に大きな球状炭化物を極力少なくすることが必要である。粒径2.0μm以上の球状炭化物が断面の顕微鏡観察で100μm2当り2個より多くなると、打抜き加工時に微視亀裂が形成される頻度が高まり、熱処理後の靭性が劣化する。また、最大長さが5.0μm以上の炭化物が存在すると、巨大球状炭化物の出現頻度に関係なく靭性の劣化を伴う。
切欠き伸び15%以上
切欠き伸びは、局部延性を表す指標の一つである。この値が小さいと局部延性が低く、精密打抜き加工時、打抜き面に局部的な欠陥を起点とするミクロボイドの発生・成長を抑制できず、結果的に打抜き面に破断面を形成することになって精密打抜き面性状を劣化させる。また上記値が小さいと打抜き時に金型にかかる負荷が大きくなって金型寿命を短くすることにもなる。なお、この切欠き伸びは引張試験により測定することができる。すなわち、JIS5号引張試験片の平行部長手方向中央位置における幅方向両サイドに開き角45度、深さ2mmのVノッチを入れた試験片を用いて引張試験を行う。Vノッチを含む長手方向中央の標点間距離10mmに対する伸び率を破断後に求め、その伸び率を切欠き伸びElvとした。
精密打抜き加工を行うためには、熱処理なしの状態で金属組織はフェライト+炭化物でなければならない。本発明者等は各種の検討の結果から、前記成分組成とフェライト+炭化物の金属組織を有し、炭化物球状化率が90%以上、硬さが200HV以下の鋼板において、この切欠き伸びElvが15%以上あれば、精密打抜きによって適正な形状の精密打抜きが可能であることを確認した。しかし、切欠き伸びElvが15%に満たないと、良好な打抜き面性状が得られない。
切欠き伸びは、局部延性を表す指標の一つである。この値が小さいと局部延性が低く、精密打抜き加工時、打抜き面に局部的な欠陥を起点とするミクロボイドの発生・成長を抑制できず、結果的に打抜き面に破断面を形成することになって精密打抜き面性状を劣化させる。また上記値が小さいと打抜き時に金型にかかる負荷が大きくなって金型寿命を短くすることにもなる。なお、この切欠き伸びは引張試験により測定することができる。すなわち、JIS5号引張試験片の平行部長手方向中央位置における幅方向両サイドに開き角45度、深さ2mmのVノッチを入れた試験片を用いて引張試験を行う。Vノッチを含む長手方向中央の標点間距離10mmに対する伸び率を破断後に求め、その伸び率を切欠き伸びElvとした。
精密打抜き加工を行うためには、熱処理なしの状態で金属組織はフェライト+炭化物でなければならない。本発明者等は各種の検討の結果から、前記成分組成とフェライト+炭化物の金属組織を有し、炭化物球状化率が90%以上、硬さが200HV以下の鋼板において、この切欠き伸びElvが15%以上あれば、精密打抜きによって適正な形状の精密打抜きが可能であることを確認した。しかし、切欠き伸びElvが15%に満たないと、良好な打抜き面性状が得られない。
なお、本発明で特定される、球状化を含めた炭化物の出現状況は、例えば、以下のような条件で得ることができる。
熱間圧延においては、熱延板パーライト組織の組織単位の大きさ(旧オーステナイト粒径、パーライトのブロック径)を微細化する目的で、仕上げ温度は800〜900℃にすることが好ましい。900℃を超える仕上げ温度では圧延時の回復再結晶が早くなるために、上記の組織単位が粗大化する。仕上げ温度が800℃に満たないと、変形抵抗が高まり圧延機の負荷が大きくなりすぎる。
巻取り温度は、均一なパーライト組織を得るために500〜600℃にすることが好ましい。巻取り温度が600℃を超えると、巻取り後に鋼板表面に脱炭層が形成されやすく、巻取り温度が500℃に満たないとパーライト組織の健全な形成が抑制され、ベイナイト組織が形成される。
熱間圧延においては、熱延板パーライト組織の組織単位の大きさ(旧オーステナイト粒径、パーライトのブロック径)を微細化する目的で、仕上げ温度は800〜900℃にすることが好ましい。900℃を超える仕上げ温度では圧延時の回復再結晶が早くなるために、上記の組織単位が粗大化する。仕上げ温度が800℃に満たないと、変形抵抗が高まり圧延機の負荷が大きくなりすぎる。
巻取り温度は、均一なパーライト組織を得るために500〜600℃にすることが好ましい。巻取り温度が600℃を超えると、巻取り後に鋼板表面に脱炭層が形成されやすく、巻取り温度が500℃に満たないとパーライト組織の健全な形成が抑制され、ベイナイト組織が形成される。
熱延板に施す焼鈍および冷延後の球状化焼鈍は、650℃〜Ac1の温度域に10h以上保持することが好ましい。または、Ac1+10℃〜Ac1+50℃の温度域に5h以上保持した後に1〜30℃/hの冷却速度で650℃〜Ac1の温度域に冷却し、この650℃〜Ac1の温度域に10h以上保持することが好ましい。
本発明における焼鈍の役割は、鋼板中の炭化物を球状化させ、適切な大きさに成長させることにある。したがって前者の焼鈍条件の場合、焼鈍温度が650℃に満たないと炭化物の成長が迅速に行われず、焼鈍温度がAc1を超えるとオーステナイト相が生成し冷却後に再生パーライトが生成され易くなる。後者の焼鈍条件の場合は、意図的にオーステナイト相を生成させ、その後の冷却速度を制御することで再生パーライトの生成を抑制すると言う技術思想のもとに導き出したものである。加熱温度がAc1+10℃に満たないとオーステナイト相の生成量が少なく、Ac1+50℃を超えるとオーステナイト相の生成量が過大となる。
焼鈍後の冷却速度は1〜30℃/hにすることが好ましい。冷却速度が30℃/hを超えると再生パーライトが生成し、1℃/hに満たない冷却速度では焼鈍時間が長くなって経済的に不利であるうえ、場合によっては炭化物粒径が異常に粗大化することがある。
本発明における焼鈍の役割は、鋼板中の炭化物を球状化させ、適切な大きさに成長させることにある。したがって前者の焼鈍条件の場合、焼鈍温度が650℃に満たないと炭化物の成長が迅速に行われず、焼鈍温度がAc1を超えるとオーステナイト相が生成し冷却後に再生パーライトが生成され易くなる。後者の焼鈍条件の場合は、意図的にオーステナイト相を生成させ、その後の冷却速度を制御することで再生パーライトの生成を抑制すると言う技術思想のもとに導き出したものである。加熱温度がAc1+10℃に満たないとオーステナイト相の生成量が少なく、Ac1+50℃を超えるとオーステナイト相の生成量が過大となる。
焼鈍後の冷却速度は1〜30℃/hにすることが好ましい。冷却速度が30℃/hを超えると再生パーライトが生成し、1℃/hに満たない冷却速度では焼鈍時間が長くなって経済的に不利であるうえ、場合によっては炭化物粒径が異常に粗大化することがある。
各工程での保持時間については、Ac1以下の温度では炭化物の球状化と成長を意図したものであるから最低10h必要である。Ac1以上の温度での保持時間は、オーステナイト相を適度に成長させるために最低5時間の保持が必要である。しかし、比較的高炭素の成分系ではあまり長時間保持すると炭化物粒径が粗大化して靭性を低下させることがあるので60h程度に留めることが好ましい。また長時間の保持は不経済でもある。
熱延板に焼鈍を施した後の冷間圧延は、2回焼鈍−1回冷延の場合は30%以上の冷延率で、3回焼鈍−2回冷延の場合は1回あたり20%以上の冷延率で行う。各冷延率が小さすぎると炭化物の球状化および成長が不十分となる。
熱延板に焼鈍を施した後の冷間圧延は、2回焼鈍−1回冷延の場合は30%以上の冷延率で、3回焼鈍−2回冷延の場合は1回あたり20%以上の冷延率で行う。各冷延率が小さすぎると炭化物の球状化および成長が不十分となる。
表1に示す化学成分を有する鋼を溶製し、表2に示す条件で熱間圧延を施して板厚2.5〜4.2mmの熱延板を得た。この熱延板に、表2に示す種々の組み合わせで焼鈍、冷延を施し、板厚2.0mmの鋼板を得た。次にこの鋼板を用いて精密打抜き性評価を行った。また、鋼材から採取した試験片に、表3に示す熱処理を施した後、断面のビッカース硬さと衝撃特性を測定した。なお、衝撃試験は、精密打抜き加工により採取した図1に示す形状の試験片を用い、JIS Z2242に準じて行った。
金属組織形態と炭化物の球状化率および硬さ、打抜き性評価試験結果、さらに熱処理条件と熱処理後の硬さを表4に示す。
なお、炭化物の球状化率は、走査電子顕微鏡により鋼板断面の一定領域内を観察し、炭化物の最大長さpとその直角方向の長さqの比(p/q)が3未満となるものを「球状化した炭化物」としてカウントし、測定炭化物総数に占める当該「球状化した炭化物」の数の割合を算出して求めた。その際、炭化物総数は300〜1000個の範囲であった。
金属組織形態と炭化物の球状化率および硬さ、打抜き性評価試験結果、さらに熱処理条件と熱処理後の硬さを表4に示す。
なお、炭化物の球状化率は、走査電子顕微鏡により鋼板断面の一定領域内を観察し、炭化物の最大長さpとその直角方向の長さqの比(p/q)が3未満となるものを「球状化した炭化物」としてカウントし、測定炭化物総数に占める当該「球状化した炭化物」の数の割合を算出して求めた。その際、炭化物総数は300〜1000個の範囲であった。
切欠き伸びの測定は、切欠き引張試験によって行った。切欠き引張試験は、JIS5号引張試験片の平行部長手方向中央位置における幅方向両サイドに開き角45度、深さ2mmのVノッチを入れた試験片を用いて引張試験を行う方法を採用した。Vノッチを含む長手方向中央の標点間距離10mmに対する伸び率を破断後に求め、その伸び率を切欠き伸びElvとした。Elvは局部延性を示す指標であり、通常の引張試験にて(全伸び−均一伸び)で求められる局部伸びに比べて、より良好に局部延性を評価し得るものである。
精密打抜き性の評価は、先端角度90度、先端部半径1.0mmのギア歯を有する加工品が得られる評価用金型を用いて精密打抜き加工を行うことで評価した。加工品100個中の全ギア歯の破断面率を調べることにより、先端の打抜き破面において全面剪断面が得られたものを◎、板厚に対する破断面の比率が5%未満のものを○、5〜20%のものを△、20%以上のものを×とした。
精密打抜き性の評価は、先端角度90度、先端部半径1.0mmのギア歯を有する加工品が得られる評価用金型を用いて精密打抜き加工を行うことで評価した。加工品100個中の全ギア歯の破断面率を調べることにより、先端の打抜き破面において全面剪断面が得られたものを◎、板厚に対する破断面の比率が5%未満のものを○、5〜20%のものを△、20%以上のものを×とした。
表4の評価結果に示すように、試験番号1〜4に示す通り、本発明の請求項で特定した範囲内の組成を有する鋼種A〜Dを用い、熱処理前の組織を等軸状フェライト+球状炭化物組織とし、硬さを200HV以下、炭化物の球状化率を90%以上、炭化物の最大長さを5.0μm以下、粒径2.0μm以上の球状炭化物が断面の顕微鏡観察で100μm2当り2個以下、切欠き伸びが15%以上であるものは、精密打抜き性に優れ、熱処理後の表面硬さも高い数値を示している。
これに対し、本発明範囲内にあるA鋼を使用しても、焼鈍温度が低いために組織状態にパーライトを含む番号5は精密打抜き性が不良であった。また番号6では焼鈍時間が短いために硬く、番号7では調質圧延率が過大であるために硬く、番号8では冷間圧延率が低いために球状化率が低く、番号9では熱延の巻取り温度が低すぎるために熱延板組織がベイナイトになり球状化しても炭化物が大きくならず、番号10では焼鈍温度が高すぎるため焼鈍後再生パーライトが出現して、いずれも精密打抜き性が不良になっている。さらに番号11では、焼鈍時間が長すぎたために炭化物粒径が大きくなりすぎ、熱処理後の衝撃値が低くなっている。
成分・組成が本発明範囲を外れた鋼を使用した番号12〜17では、精密打抜き性と熱処理後の機械的特性の両立はできなかった。
すなわち、試験番号12は、鋼のC含有量が少ないために精密打抜き性は良好であるが、焼き入れ効果が発揮されず、熱処理後の表面硬さが低すぎる。番号13は、使用した鋼のC含有量が多すぎるために炭化物が大きくなりすぎて精密打抜き性を低下させるばかりでなく、長時間焼鈍による炭化物の粗大球状化と合わさって熱処理後の衝撃特性が低下している。また、番号14,15,16は、使用した鋼のSi,Mn,Cr含有量が多すぎるために熱処理前にすでに硬く、しかも切欠き伸びが低下している。このために、精密打抜き性が悪くなっている。さらに、試験番号17は、使用した鋼のSi,Mn含有量が少ないので精密打抜き性には優れるものの、焼入れ性が不充分で、熱処理しても所望の表面硬度は得られない。
すなわち、試験番号12は、鋼のC含有量が少ないために精密打抜き性は良好であるが、焼き入れ効果が発揮されず、熱処理後の表面硬さが低すぎる。番号13は、使用した鋼のC含有量が多すぎるために炭化物が大きくなりすぎて精密打抜き性を低下させるばかりでなく、長時間焼鈍による炭化物の粗大球状化と合わさって熱処理後の衝撃特性が低下している。また、番号14,15,16は、使用した鋼のSi,Mn,Cr含有量が多すぎるために熱処理前にすでに硬く、しかも切欠き伸びが低下している。このために、精密打抜き性が悪くなっている。さらに、試験番号17は、使用した鋼のSi,Mn含有量が少ないので精密打抜き性には優れるものの、焼入れ性が不充分で、熱処理しても所望の表面硬度は得られない。
このように、高炭素鋼板の成分・組成を調整するとともに、組織,特に炭化物の存在状態を調整することにより、硬さと局部延性を精密打抜き加工に最適な状態にすることができる。そしてこの鋼板から精密打抜き加工された部品を焼き入れ焼戻し処理することにより、焼き入れ不良を起こすことなく、高い硬さと優れた靭性を有する機械部品を製造することができる。
Claims (5)
- C:0.7〜0.9質量%、Si:0.5質量%以下、Mn:0.2〜1.2質量%、P:0.02質量%以下、S:0.01質量%以下,Cr:0.1〜1.0質量%を含み、残部が実質的にFeの組成を有し、炭化物の最大長さが5.0μm以下で、炭化物球状化率が90%以上、かつ粒径2.0μm以上の球状炭化物が断面の顕微鏡観察で100μm2当り2個以下である炭化物と等軸状フェライトとからなる組織を有し、さらに断面硬さが200HV以下で、しかもJIS5号引張試験片の平行部長手方向中央位置における幅方向両サイドに開き角45度、深さ2mmのVノッチを入れた試験片を用いて引張試験を行い、平行部長手方向中央の標点間距離10mmに対する破断後の伸び率として表される切欠き伸びが15%以上であることを特徴とする精密打抜き部品用高炭素鋼板。
- さらにNi:1.5質量%以下、Mo:0.5質量%以下、Cu:0.5質量%以下の1種または2種以上を含む組成を有する請求項1に記載の精密打抜き部品用高炭素鋼板。
- さらにV:0.5質量%以下、Ti:0.2質量%以下、Nb:0.2質量%以下の1種または2種以上を含む組成を有する請求項1または2に記載の精密打抜き部品用高炭素鋼板。
- さらにB:0.01質量%以下、Ca:0.01質量%以下の1種または2種を含む組成を有する請求項1〜3のいずれかに記載の精密打抜き部品用高炭素鋼板。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の鋼板に精密打抜き加工とその後の熱処理を施したことを特徴とする精密打抜き部品。
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JP2004157754A JP2005336560A (ja) | 2004-05-27 | 2004-05-27 | 精密打抜き部品用高炭素鋼板および精密打抜き部品 |
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---|---|---|---|---|
JP2007291495A (ja) * | 2006-03-28 | 2007-11-08 | Jfe Steel Kk | 極軟質高炭素熱延鋼板およびその製造方法 |
JP2010138453A (ja) * | 2008-12-11 | 2010-06-24 | Nisshin Steel Co Ltd | 耐摩耗性焼入れ焼戻し部品用鋼材および製造方法 |
JP2011012317A (ja) * | 2009-07-02 | 2011-01-20 | Nippon Steel Corp | 打抜きカエリの小さい軟質高炭素鋼板及びその製造方法 |
CN112098249A (zh) * | 2020-09-15 | 2020-12-18 | 东北大学 | 一种利用冲击断口显微硬度分布定性评估钢板止裂韧性的方法 |
-
2004
- 2004-05-27 JP JP2004157754A patent/JP2005336560A/ja not_active Withdrawn
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