JP5633426B2 - 熱処理用鋼材 - Google Patents
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特許文献1には、C:0.30〜0.80重量%、Si:0.05〜0.40重量%、Mn:0.50重量%以下、Cr:1.00〜3.00重量%、Mo:0.40〜1.00重量%、V:0.01〜0.40重量%、N:0.005〜0.02重量%、P:0.010重量%以下、S:0.006重量%以下、酸可溶Al:0.010〜0.10重量%を含む連鋳スラブを熱間圧延してベイナイト組織にした後、炭化物の平均粒径を1μm以下に調整した鋼板を850〜1100℃でオーステナイト化し、次いでマルテンサイト生成温度以下に急冷し、200〜600℃に焼き戻す高強度高靭性鋼板の製造方法が開示されている。
すなわち、特許文献1に開示された高強度高靭性鋼板は、強度および靭性を確保するために多量の合金元素を含有する。このため、鋼板自体の軟質化を図ることが困難であり、熱処理前において優れた加工性を確保することが困難である。
この点を解消するには、熱処理における加熱条件を炭化物が固溶するのに十分な条件とすればよいが、生産性の低下を招くので好ましくない。
本発明者らは、先ず、熱処理用鋼材の加工性を向上させることについて検討した。
上述したように、熱処理用鋼材に施される成形加工には、近年、増肉加工や鍛造といった難成形が採用されるようになってきており、熱処理用鋼材の加工性を向上させるために、球状化焼鈍による軟質化が図られている。しかし、球状化焼鈍による軟質化には自ずと限界がある。
そこで、これらの課題を一気に解決する方法として、熱処理用鋼材の化学組成にBを含有させることを着想した。
すなわち、Bを含有させることにより焼入れ性を確保と熱処理後の靭性の向上とを図ったのであるが、Bによる作用効果が十分に奏されずに、熱処理後において目的とする高い強度と優れた靭性とを確保することができない場合があることが判明したのである。
その結果、熱処理用鋼材の加工性を向上させるための前提条件としていた炭化物の球状化処理により、Bの作用効果が阻害されることが判明した。
そこで、本発明者らはさらに検討を行い、従来技術において炭化物の完全な球状化(球状化率:100%)を目的として施されていた炭化物の球状化処理を、熱処理前において優れた加工性を確保しつつ熱処理における炭化物の固溶を促して熱処理後において高い強度と優れた靭性とを確保するように、適度な球状化率を目的として施すという、従来技術において全く検討されていなかった方法を着想したのである。しかも、炭化物の大きさの影響をも考慮して、炭化物の大きさに応じた球状化率とすることを着想したのである。
(1)質量%で、C:0.35%超0.6%以下、Si:0.5%以下、Mn:0.5%以上1.5%以下、P:0.03%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.1%以下、N:0.01%以下、B:0.005%以下およびTi:0.1%以下を含有し、残部Feおよび不純物からなる化学組成を有し、フェライトと炭化物と介在物とからなるとともに、前記フェライトの平均線分長が5μm以上、粒径が0.18μm以上である炭化物に占める粒径が0.5μm以上の粗大炭化物の個数比率が0.5以上、粒径が0.18μm以上である炭化物の球状化率が0.6以上0.85以下である鋼組織を有することを特徴とする熱処理用鋼材。
[C:0.35%超0.6%以下]
Cは、熱処理後の鋼材の強度を主に決定する重要な元素である。C含有量が0.35%以下では熱処理後において十分な強度が得られない場合がある。したがって、C含有量は0.35%超とする。一方、C含有量が0.6%超では、熱処理後の鋼材の靱性の劣化が著しくなる。また、熱処理前の鋼材における炭化物が著しく増加するため、強度が上昇して成形性の劣化が著しくなる。したがって、Cの含有量は0.6%以下とする。好ましくは0.5%以下である。
Siは、一般に不純物として含有されるが、鋼材の焼入れ性を高める作用を有するので、積極的に含有させてもよい。しかしながら、Si含有量が0.5%超では、Ac3点の上昇が著しくなり、炭化物の固溶が遅延して焼入れ性の低下を招く場合がある。また、熱間圧延時の表面疵を誘発する場合がある。したがって、Si含有量は0.5%以下とする。好ましくは0.3%以下である。
Mnは、Ac3点を低下させ、鋼の焼入れ性を高める作用を有する。Mn含有量が0.5%未満では上記作用による効果を得ることが困難な場合がある。したがって、Mn含有量は0.5%以上とする。一方、Mn含有量が1.5%超では、熱処理用鋼材が硬質化して熱処理前において優れた加工性を確保することが困難となる。また、Mnの偏析に起因するバンド状組織を生じやすくなり靭性を劣化させる。したがって、Mn含有量は1.5%以下とする。好ましくは1%以下である。
Pは、不純物として含有され、熱処理用鋼材の成形性および熱処理後の鋼材の靱性を劣化させる作用を有する。P含有量が0.03%超では上記作用による弊害が著しくなる。したがって、P含有量は0.03%以下とする。好ましくは0.015%以下である。
Sは、不純物として含有され、熱処理用鋼材の成形性および熱処理後の鋼材の靱性を劣化させる作用を有する。S含有量が0.01%超では上記作用による弊害が著しくなる。したがって、S含有量は0.01%以下とする。好ましくは0.005%以下である。
Alは、一般に不純物として含有されるが、脱酸により鋼を健全化する作用を有するので、積極的に含有させてもよい。しかしながら、sol.Al含有量が0.1%超では、Ac3点の上昇が著しくなり、炭化物の固溶が遅延するため、焼入れ性の低下を招く。したがって、sol.Al含有量は0.1%以下とする。好ましく0.05%以下である。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、sol.Al含有量を0.005%以上とすることが好ましい。
Nは、不純物として含有され、熱処理用鋼材の成形性を劣化させる作用を有する。また、鋼中の固溶Bと結合してBNを形成することにより、鋼中の固溶Bの量を減じてしまい、後述するBの作用を阻害する作用を有する。N含有量が0.01%超では、上記作用による弊害が著しくなる。したがって、N含有量は0.01%以下とする。好ましくは0.005%以下である。
Bは、鋼中に固溶状態で存在することにより、熱処理中において焼入れ性を高めるとともに、熱処理後において靭性を向上させる作用を有する。したがって、Bを含有させる。しかしながら、B含有量が0.005%超では、BがFe等と化合物を形成してしまい、Bによる作用効果が減殺されてしまう。したがって、B含有量は0.005%以下とする。上記作用による効果をより確実に得るにはB含有量を0.0001%以上とすることが好ましい。さらに好ましくは0.0003%以上、最も好ましくは0.0005%以上である。
Tiは、焼入れ性を高める作用を有するとともに、鋼中の固溶Nと結合してTiNを形成することにより、鋼中の固溶Nの量を減じて、鋼熱処理用鋼材の成形性を向上させる作用を有する。また、TiはBに比して優先的に鋼中の固溶Nと結合するため、BNの形成による固溶Bの量の低下を抑制し、上述したBの作用をより確実に発揮させる作用を有する。したがって、Tiを含有させる。しかしながら、Ti含有量が0.1%超では、鋼中のCと結合してTiCを多量に形成してしまう。ここで、熱処理によって鋼材の強度上昇に寄与するCは、熱処理の加熱工程において固溶状態で存在するCである。したがって、鋼中にTiCが多量に形成されると熱処理により鋼材の強度上昇に寄与するCの量を減じてしまい、熱処理後の鋼材において目的とする強度が得られない場合がある。したがって、Ti含有量は0.1%以下とする。上記作用による効果をより確実に得るにはTi含有量を0.01%以上とすることが好ましい。
Cr、Nb、NiおよびMoは、任意元素であり、いずれも鋼の焼入れ性を高める作用を有する。また、Nbは、熱処理後の鋼材の靭性を向上させる作用も有する。したがって、Cr、Nb、NiおよびMoの1種または2種以上を含有させてもよい。しかしながら、いずれの元素も過剰に含有させると熱処理前の鋼材の成形性の低下が著しくなる。また、CrおよびMoは、鋼中の炭化物に濃化して、熱処理の加熱工程における炭化物の固溶を遅延させ、焼入れ性を低下させる。したがって、各元素の含有量の上限は上記のとおりとする。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、Cr:0.1%以上、Nb:0.03%以上、Ni:0.18%以上およびMo:0.03%以上のいずれかを満足させることが好ましい。
残部は、Feおよび不純物である。
本発明に係る熱処理用鋼材は、フェライトと炭化物と介在物とからなる鋼組織を有する。ここで、炭化物にはセメンタイトやM23C6等の金属元素比率が高い炭化物が含まれる。なお、上記介在物は上記化学組成とすることにより不可避的に含有されるMnSやTiN等の介在物である。
フェライト平均線分長は5μm以上とする。
フェライト平均線分長が大きいほど熱処理用鋼材は軟質化して成形性が向上する。フェライト平均線分長が5μm未満では上述した難成形を可能にするだけの優れた加工性を確保することが困難である。したがって、フェライト平均線分長は5μm以上とする。
[粒径が0.18μm以上である炭化物に占める粒径が0.5μm以上の粗大炭化物の個数比率:0.5未満、かつ、粒径が0.18μm以上である炭化物の球状化率:0.7以上0.91以下]
粒径が0.18μm以上である炭化物に占める粒径が0.5μm以上の粗大炭化物の個数比率(以下、「粗大炭化物比率」という。)が0.5以上である場合には、粒径が0.18μm以上である炭化物の球状化率(以下、「実効球状化率」という。)を0.6以上0.85以下とし、粗大炭化物比率が0.5未満である場合には、実効球状化率を0.7以上0.91以下とする。
一方、粗大炭化物比率が高い場合には、粗大炭化物比率が低い場合に比して軟質で加工性に優れる。また、実効球状化率が高い場合には、実効球状化率が低い場合に比して軟質で加工性に優れる。したがって、粗大炭化物比率が低い場合には、加工性が低下する傾向にあるため、実効球状化率の下限をより高く制限することにより、優れた加工性を確保する。逆に、粗大炭化物比率が高い場合には、加工性が比較的良好であるため、実効球状化率の下限の制限はやや緩和される。
粗大炭化物比率や実効球状化率は、球状化焼鈍の温度と時間と冷却条件を制御することにより決定することが可能である。
本発明の熱処理用鋼材は上記化学組成と鋼組織を満足するものであればよく、その製造条件は特に限定する必要はない。以下では、本発明の熱処理用鋼材の好適な製造条件を説明する。
連続鋳造法を用いる場合には、鋳造速度を2.0m/分未満とすると、Mnの中心偏析あるいはV字状偏析が効果的に抑制されるので好ましい。また、鋳造速度を1.2m/分以上とすると、鋳片表面部の清浄度を良好な状態に保つことができるとともに生産性も確保することができるので好ましい。
熱間圧延条件は特に限定しないが、熱間圧延工程においてパーライトを均一に生成させた方が炭化物球状化処理において上記鋼組織の形成が容易になるので好ましい。そこで、1000℃以上1300℃以下の温度域で熱間圧延を開始し、熱間圧延完了温度を850℃以上とすることが好ましい。また、巻取温度は、加工性の観点からは高い方が好ましいが、高すぎるとスケール生成による歩留まりが低下するので、500℃以上650℃以下とすることが好ましい。
本発明の熱処理用鋼材の好ましい製造方法としては、脱スケール処理後に球状化焼鈍を行うものであってもよく、脱スケール処理後に冷間圧延を行い、その後に球状化焼鈍を行うものであってもよい。製品の板厚精度要求レベル等に合わせて適宜プロセスを選択すればよい。冷間圧延に供する鋼材が硬質である場合には、冷間圧延前に球状化焼鈍を施して冷間圧延に供する鋼材の加工性を高めておくことが好ましい。
冷間圧延条件は特に限定しないが、冷間圧延後Ac1点未満の球状化焼鈍を施す場合には、フェライトの粒成長を促進させる観点から、圧下率を50%以下とすることが好ましい。一方、平坦を確保する観点からは圧下率を10%以上とすることが好ましい。
球状化焼鈍の焼鈍温度をAc1点以上とする場合には、炭化物が部分的に固溶し、フェライトの粒成長が促進される。そして、固溶した炭化物は、球状化焼鈍後の冷却過程において、未固溶の炭化物を核として析出したり、新たな炭化物として析出したりする。いずれも比較的高温域において成長する炭化物であるため、粗大炭化物比率が高くなる。しかし、新たな炭化物として析出する炭化物は、粒界に沿って析出するため棒状であり、また合金元素の濃化が然程進行していないため、熱処理において比較的容易に固溶する。したがって、球状化焼鈍後の冷却条件を制御し、球状化率を制御することにより、熱処理後において高い強度と優れた靭性とを具備させることが可能となる。
球状化焼鈍の焼鈍温度をAc1点未満とする場合には、炭化物は殆ど固溶しないので、異常粒成長を利用してフェライトの粒成長を促進させることが有効である。異常粒成長を利用してフェライトの粒成長を促進させるには、球状化焼鈍を施す前に50%以下の圧下率の冷間圧延を施すことが好ましい。
通常の球状化焼鈍における焼鈍後の冷却は、球状化率を高めるために徐冷とされるが、本発明では炭化物中への合金元素の濃化を抑制するとともに球状化率を抑制する観点から、焼鈍温度から最終鋼組織形成が完了する650℃までの温度域を2℃/h以上の平均冷却速度で冷却することが好ましい。
また、得られた熱延焼鈍鋼板および冷延焼鈍鋼板から試験片を採取し、焼入シミュレータを用いて、850℃の温度に10分間保持した後に80℃の油に浸漬しで焼入れを行い、さらに200℃の温度に2時間保持する焼戻しを行った。得られた試験片を2.5mm厚に研削し、3枚重ねして、2mmUノッチ入りシャルピー試験を行って、吸収エネルギーを求めた。
なお、表1および2において下線を付された数値等は、その数値等により示される含有量、鋼組織の特徴、または機械特性が本発明の範囲外であることを示している。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.35%超0.6%以下、Si:0.5%以下、Mn:0.5%以上1.5%以下、P:0.03%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.1%以下、N:0.01%以下、B:0.005%以下およびTi:0.1%以下を含有し、残部Feおよび不純物からなる化学組成を有し、
フェライトと炭化物と介在物とからなるとともに、前記フェライトの平均線分長が5μm以上、粒径が0.18μm以上である炭化物に占める粒径が0.5μm以上の粗大炭化物の個数比率が0.5以上、粒径が0.18μm以上である炭化物の球状化率が0.6以上0.85以下である鋼組織を有することを特徴とする熱処理用鋼材。 - 質量%で、C:0.35%超0.6%以下、Si:0.5%以下、Mn:0.5%以上1.5%以下、P:0.03%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.1%以下、N:0.01%以下、B:0.005%以下およびTi:0.1%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
フェライトと炭化物と介在物とからなるとともに、前記フェライトの平均線分長が5μm以上、粒径が0.18μm以上である炭化物に占める粒径が0.5μm以上の粗大炭化物の個数比率が0.5未満、粒径が0.18μm以上である炭化物の球状化率が0.7以上0.91以下である鋼組織を有することを特徴とする熱処理用鋼材。 - 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Cr:0.5%以下、Nb:0.1%以下、Ni:1.0%以下およびMo:0.5%以下からなる群から選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱処理用鋼材。
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