JP5489497B2 - 焼入性に優れたボロン鋼鋼板の製造方法 - Google Patents
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(i)鋼板の製造段階、あるいは部品成形後の焼入れ時に施される高温加熱によって、鋼材表層部の固溶Bが減少する(脱B)。
(ii)脱Bによって表層部の焼入性が低下し、焼入れの際に異常層を生じて表面硬さが低下する。
(iii)特に板厚が大きい場合、焼入れ時の冷却速度が低下するため、表面硬さの低下が顕著になる。場合によっては板厚中心部付近の断面硬さも低下して素材そのものの強度が不足することもある。
本発明はこのような現状に鑑み、浸炭に頼ることなく、通常の焼入れ処理によって部品表層部の高い焼入れ硬さが得られ、かつ加工性の良いボロン鋼鋼板を提供しようというものである。
X=5.5C1/2(1+0.6Si)(1+4.1Mn)(1+0.5Ni)(1+2.3Cr)(1+3.1Mo) …(1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表された当該元素の含有量値が代入され、無添加元素の元素記号の箇所には0(ゼロ)が代入される。
本発明の対象となる鋼板の板厚は、例えば1〜12mmである。
1150〜1320℃に加熱されたスラブを仕上温度800〜900℃で熱間圧延したのち、仕上温度から700℃までの温度域の滞在時間を30sec以下として、巻取温度500〜650℃で巻取り、その後、酸洗を施して熱延酸洗鋼板とする工程(熱延酸洗工程)、
前工程で得られた鋼板を600℃以上Ac1未満の温度範囲で0.5h以上均熱保持して焼鈍する工程(焼鈍工程)、
を有する手法が提供される。
前工程で得られた鋼板を(Ac1−30℃)以上Ac1未満の温度範囲で0.5h以上均熱保持したのち、Ac1以上(Ac1+50℃)の温度範囲で0.5〜20h均熱保持し、その保持温度から少なくとも(Ar1−10℃)までを冷却速度5〜30℃/hで徐冷するヒートパターンで焼鈍する工程(焼鈍工程)、
を採用することがより効果的である。
また、前記熱延酸洗工程と焼鈍工程の間に、
前工程で得られた鋼板を冷間圧延する工程(冷延工程)、
を入れることができる。
[2]通常の鋼板製造工程において、脱Cは熱延工程の仕上圧延終了後、巻取までの間に最も生じやすい。上記[1]の組成面での対策を講じた上で、熱延工程で不可避的に生じる脱Cをできるだけ軽減することにより、浸炭等のC濃化手段に頼ることなく、表層部焼入性を十分に確保することができる。
本発明はこのような知見に基づいて完成したものである。以下、本発明を特定するための事項について説明する。
本明細書において鋼組成における「%」は特に断らない限り「質量%」を意味する。
C:0.10〜0.40%
Cは機械構造用部品としての芯部強度を確保するために必要な元素である。十分な強度を確保するためには0.10%以上のC含有量が必要である。ただし、C含有量が多くなると焼鈍後の加工性が低下する。本発明では、自動車部品をはじめとする各種機械部品に幅広く適用できる加工性を持たせることを考慮して、C含有量は0.40%以下の範囲とする。
Siは脱酸効果があるが、過剰に添加すると加工性を低下させる。また焼鈍時に粒界酸化層の形成を助長し、調質後の部材の疲労特性を低下させる。そのためSi含有量は0.5%以下とする。
Mnは脱酸・脱硫、および焼入性の向上に有効であり、これらの作用を十分に発揮させるために0.50%以上のMn含有量を確保する。ただし、過剰のMn含有は焼鈍材を硬質化させ、加工性の低下を招く要因となるので、Mn含有量は1.60%以下の範囲に制限される。
Crは焼入性を向上させ、強度や耐摩耗性を向上させる作用を有する。ただし0.05%未満ではその作用は十分に発揮されない。一方、過剰のCr添加は焼鈍材を硬質化させ、加工性の低下を招く要因となる。またCrは炭化物を安定化させる作用を有するので、Cr含有量が多いとAc1点以上への加熱を利用した焼鈍を施しても炭化物を固溶させるのに長時間を要する。種々検討の結果、Cr含有量は1.50%以下の範囲に制限される。
Tiは鋼中のNと結合してTiNとして析出する。このためTiは、BNの析出を防止して焼入性の向上に有効な固溶Bを確保する上で有効である。またTiは焼入れ時のオーステナイト結晶粒径を微細化させる作用を有する。これらの作用を十分に発揮させるためには0.01%以上のTi含有が必要である。ただし、Ti含有量が多くなるとTiCが過剰に析出し、加工性を低下させる。検討の結果、Ti含有量は0.30%以下の範囲とする。
Bは微量の添加によって焼入性を著しく向上させる元素である。鋼中に存在するBのうち、焼入性の向上に有効な固溶B量を十分に確保するためには、0.0005%以上のBを含有させる必要がある。ただし、過剰のB含有は鋼の靭性を阻害する要因となるので、B含有量は0.0050%以下の範囲とする。
Pは鋼の靭性に悪影響を与える元素であり、含有量は少ないほうが望ましいが、本発明の成分系では0.03%まで許容される。
Sも鋼の靭性に悪影響を与える元素であり、含有量は少ないほうが望ましいが、本発明の成分系では0.01%まで許容される。
Moは焼入性を向上させる元素である。またNiとの複合添加で鋼の強度・靭性を高める作用を有する他、特殊炭化物を形成することによって耐摩耗性を向上させる作用もある。このため、本発明では必要に応じてMoを含有させることができる。これらの作用を十分に得るためには0.05%以上のMo含有量を確保することがより効果的である。ただしMoは高価な元素であり、Moを添加する場合は0.3%以下の範囲で行う。
Niは焼入性・靭性を向上させる元素であり、本発明では必要に応じて添加することができる。その作用を十分に得るためには0.5%以上のNi含有量を確保することがより効果的である。ただし、あまり多量に添加してもコストに見合った靭性改善効果は期待できない。Niを添加する場合は2.0%以下の範囲で行う。
X=5.5C1/2(1+0.6Si)(1+4.1Mn)(1+0.5Ni)(1+2.3Cr)(1+3.1Mo) …(1)
このX値は、本発明の成分系において、脱Bが生じることを前提とした場合の、表層部の焼入性を評価する指標である。発明者らは詳細な検討の結果、このX値が24以上となる成分組成に調整したとき、通常の焼入れ処理後の断面硬さにおいて、表層部の硬さ低下が顕著に抑制できることを見出した。
本発明のボロン鋼鋼板は、フェライトマトリクス中に炭化物が分散した焼鈍組織を有しており、かつ鋼板断面の表層部において脱Cが抑制されている。脱Cの程度は、表層部と板厚中心部の炭化物量を比較することによって知ることができる。発明者らの検討によれば、前述の成分組成を有する鋼において、表面からの深さが50μm程度の位置における炭化物量が、板厚中心部に対して90%以上に維持されていれば、焼入れ後に問題となる表層部の硬さ低下は顕著に改善されることがわかった。
〔熱延酸洗工程〕
熱延前のスラブ加熱温度は一般的な炭素鋼と同様に1150〜1320℃とすればよい。熱延仕上温度は800〜900℃とする。800℃を下回ると変形抵抗が大きくなり通板性が低下し、また巻取温度500℃以上を確保することが難しくなる。900℃を超えるとオーステナイト粒径が粗大化して熱延材の靱性が低下する。巻取温度は500〜650℃とする。500℃を下回ると熱延材が硬化して製造性が低下する。650℃を上回ると初析フェライトの量が増加し、セメンタイトの分布が不均一になることに加え、パーライトのラメラー間隔が大きくなるため焼鈍によるセメンタイトの球状化が困難になり、焼鈍後の加工性が低下する。
板厚調整のために必要に応じて冷間圧延を行うことができる。
前工程において酸洗を終え、必要に応じて冷間圧延が施された鋼板は、焼鈍に供される。
シンプルな焼鈍方法としては、鋼板を600℃以上Ac1未満の温度範囲で0.5h以上均熱保持する方法が採用できる。これにより、パーライト中の層状炭化物を分断し、球状化して加工性を付与する。保持時間は概ね48h以下とすればよい。均熱保持とは、板厚中心部まで所定の温度範囲に保持されることをいう。
ここで、Ac1は昇温過程におけるA1点(オーステナイト変態開始点)、Ar1は降温過程におけるA1点(フェライト+セメンタイト変態完了点)である。
上記のようにして得られた本発明のボロン鋼鋼板は、一般的な手法により、所定の機械部品に加工され、その後、焼入れ焼戻し処理に供される。焼入れに際しては、特に浸炭等の特殊な雰囲気加熱を行わなくてよい。
〔条件A〕710℃で均熱保持40h
〔条件B〕(a)700℃で均熱保持20h→(b)760℃で均熱保持10h→(c)650℃まで10℃/hで冷却、その後、炉冷
焼鈍条件Bにおいて、(a)の700℃は(Ac1−30℃)以上Ac1未満の範囲にあり、(b)の760℃はAc1以上(Ac1+50℃)の温度範囲にあり、(c)の650℃は(Ar1−10℃)以下(Ar1−80℃)以上の温度範囲にある。
焼鈍後の供試材について断面中心硬さ、T.EL、Elvを測定した。その結果を表4に示す。
Claims (4)
- 質量%で、C:0.10〜0.40%、Si:0.50%以下、Mn:0.50〜1.60%、Cr:0.05〜1.50%、Ti:0.01〜0.30%、B:0.0005〜0.0050%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、残部がFeおよび不可避的不純物、かつ下記(1)式で定義されるX値が24以上である組成を有するスラブを1150〜1320℃に加熱し、仕上温度800〜900℃で熱間圧延したのち、仕上温度から700℃までの温度域の滞在時間を10〜30secとして、巻取温度500〜650℃で巻取り、その後、酸洗を施して熱延酸洗鋼板とする工程(熱延酸洗工程)、
前工程で得られた鋼板を600℃以上Ac1未満の温度範囲で0.5h以上均熱保持して焼鈍することにより、鋼板の断面において、表面からの深さが25〜75μmの表層部領域における炭化物の面積率Asと、板厚中心位置を含む板厚方向長さ50μmの中心部領域における炭化物の面積率Acの比As/Acが0.90以上である焼鈍組織とする工程(焼鈍工程)、
を有する、鋼板表面の焼入性に優れたボロン鋼鋼板の製造方法。
X=5.5C 1/2 (1+0.6Si)(1+4.1Mn)(1+0.5Ni)(1+2.3Cr)(1+3.1Mo) …(1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表された当該元素の含有量値が代入され、無添加元素の元素記号の箇所には0(ゼロ)が代入される。 - 質量%で、C:0.10〜0.40%、Si:0.50%以下、Mn:0.50〜1.60%、Cr:0.05〜1.50%、Ti:0.01〜0.30%、B:0.0005〜0.0050%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、残部がFeおよび不可避的不純物、かつ下記(1)式で定義されるX値が24以上である組成を有するスラブを1150〜1320℃に加熱し、仕上温度800〜900℃で熱間圧延したのち、仕上温度から700℃までの温度域の滞在時間を30sec以下として、巻取温度500〜650℃で巻取り、その後、酸洗を施して熱延酸洗鋼板とする工程(熱延酸洗工程)、
前工程で得られた鋼板を(Ac1−30℃)以上Ac1未満の温度範囲で0.5h以上均熱保持したのち、Ac1以上(Ac1+50℃)の温度範囲で0.5〜20h均熱保持し、その保持温度から少なくとも(Ar1−10℃)までを冷却速度5〜30℃/hで徐冷するヒートパターンで焼鈍することにより、鋼板の断面において、表面からの深さが25〜75μmの表層部領域における炭化物の面積率Asと、板厚中心位置を含む板厚方向長さ50μmの中心部領域における炭化物の面積率Acの比As/Acが0.90以上である焼鈍組織とする工程(焼鈍工程)、
を有する、鋼板表面の焼入性に優れたボロン鋼鋼板の製造方法。
X=5.5C 1/2 (1+0.6Si)(1+4.1Mn)(1+0.5Ni)(1+2.3Cr)(1+3.1Mo) …(1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表された当該元素の含有量値が代入され、無添加元素の元素記号の箇所には0(ゼロ)が代入される。 - 前記スラブが、質量%で、さらにMo:0.3%以下、Ni:2.0%以下の1種以上を含有する組成を有するものである、請求項1または2に記載のボロン鋼鋼板の製造方法。
- 前記熱延酸洗工程と焼鈍工程の間に、
前工程で得られた鋼板を冷間圧延する工程(冷延工程)、
を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載のボロン鋼鋼板の製造方法。
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