JP2021116477A - 高炭素鋼板 - Google Patents

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道治 中屋
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真次郎 金只
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Abstract

【課題】焼入れ前の加熱温度を高くしても良好な硬さと靭性のバランスを安定的に有する鋼板部材を製造できる高炭素鋼板を提供すること。【解決手段】高炭素鋼板は、C:0.75質量%以上1.10質量%以下、Si:0.05質量%以上0.40質量%以下、Mn:0.05質量%以上0.70質量%以下、Cr:0.35質量%以下、Nb:0.005質量%以上0.030質量%以下、Ti:0.02質量%以下、Al:0.001質量%以上0.050質量%以下、P:0.03質量%以下、およびS:0.01質量%以下を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる成分組成を有する鋼板であり、当該鋼板のミクロ組織は、フェライトおよびセメンタイトからなる。【選択図】なし

Description

本発明は、高炭素鋼板に関し、特に刃物、ぜんまい、バネおよび工具等の加工素材として有用な高炭素鋼板に関する。
高炭素鋼板は、チェーン、ギアおよびクラッチ等の自動車駆動系部品、刃物、ぜんまい、バネ、ならびに工具等の加工素材として広く用いられている。高炭素鋼板からこのような鋼板部材を製造する場合、通常、高炭素鋼板を打抜き、成形加工した後に、所望の硬さとなるよう焼入れ焼戻し等の熱処理を施す。
これらのうち、丸鋸、バンドソーおよびカーター等の各種刃物、ぜんまい、バネならびに工具等の鋼板部材には、硬さだけでなく、使用時において刃先等が折れないよう良好な靱性も求められる。通常、高炭素鋼板からこのような鋼板部材を製造する際、成形加工後の熱処理時、特に焼入れ前において高温または長時間にて加熱することを避けることによって良好な硬さと靭性のバランスを得ている。具体的には、高温における加熱等を避けることにより、鋼板部材のミクロ組織における未溶解炭化物の過剰な溶解を抑制し、それによりオーステナイト粒の粗大化を防止して、その結果良好な靭性を得ている。
例えば、特許文献1には、質量%で、C:0.4〜0.75%、Si:0.5以下、Mn:0.5〜2%、P:0.02%以下、S:0.02%以下、Ti:0〜0.2%、V:0〜0.5%、Nb:0〜0.5%であり、かつV、Ti、NbについてはV:0.02〜0.5%、Ti:0.02〜0.2%、Nb:0.01〜0.5%の1種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、下記(1)式で定義されるX値が10以下、旧オーステナイト粒径が15μm以下、かつ円相当径1.5μm以上の未溶解炭化物が0.1mmあたり40個以下である焼戻しマルテンサイト組織を有する耐摩耗性および靭性に優れた刃物用鋼材が記載されている。
X=15.3×{C−0.25(V+Ti)−0.13Nb}−[未溶解炭化物の面積率(%)]・・・(1)
そして、特許文献1には、この刃物用鋼材の製造方法における焼入れ処理について、液体化加熱の保持温度790〜900℃、保持温度10〜60分の範囲内において適正な焼入れ処理条件を見出すことができ、加熱保持温度が900℃を超える場合や加熱保持時間が60分を超える場合は、旧オーステナイト粒径が粗大となりやすく、高い靭性を安定して得ることが難しくなることが記載されている。
特開2009−161809号公報
上述したように、通常、刃物等の鋼板部材の製造時では、焼入れ前における加熱温度を900℃を超えない温度、一般的には800℃〜850℃にすることによって、所望する硬さだけでなく、良好な靭性を得ている。
一方、様々な理由から焼入れ前の加熱温度を850℃を超える温度、特に900℃を超える温度にすることが求められる場合がある。
例えば、熱処理設備によっては加熱炉から焼入れ装置までの距離が長い等の理由のため、加熱炉から鋼板部材を取り出した後に速やかに焼入れを行うことが困難な場合がある。このような場合焼入れ性が不安定となるが、予め焼入れ前の加熱温度を高くしておくことによって焼入れ性を安定化することができる。あるいは、加熱炉内で温度ムラが生じてしまうと、鋼板部材のオーステナイト化が部分的に不十分になり、焼入れ性が不安定となることがある。この問題に対しても、予め焼入れ前の加熱温度を高くしておくことによって温度ムラの発生を防止することができる。
しかしながら、焼入れ前の加熱温度を高くすると、鋼板部材の硬さの安定性は向上するが、前述した通り鋼板部材のミクロ組織におけるオーステナイト粒が粗大化するため、靭性が低下してしまう。従って、焼入れ前の加熱温度を高くした場合であっても焼入れ焼戻し後に製造される鋼板部材の靭性低下を招くことなく、かつ良好な硬さも付与することができる加工素材が求められる。
そこで、本発明は、焼入れ前の加熱温度を高くしても良好な硬さと靭性のバランスを安定的に有する鋼板部材を製造できる高炭素鋼板を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、本発明に到達した。すなわち本発明は、以下の好適な態様を包含する。
本発明に係る高炭素鋼板は、
C :0.75質量%以上1.10質量%以下、
Si:0.05質量%以上0.40質量%以下、
Mn:0.05質量%以上0.70質量%以下、
Cr:0.35質量%以下、
Nb:0.005質量%以上0.030質量%以下、
Ti:0.02質量%以下、
Al:0.001質量%以上0.050質量%以下、
P :0.03質量%以下、および
S :0.01質量%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる成分組成を有する鋼板であり、
当該鋼板のミクロ組織は、フェライトおよびセメンタイトからなる。
前述の高炭素鋼板では、前記セメンタイトの球状化率が70%以上であると好ましい。
前述の高炭素鋼板では、前記鋼板のミクロ組織において、1000μm当たりのセメンタイト粒の個数は、200個以上であるとより好ましい。
前述の高炭素鋼板では、さらに、
Mo:0質量%超0.5質量%以下、
B :0質量%超0.005質量%以下、
Ni:0質量%超0.5質量%以下、および
V:0質量%超0.35質量%以下
よりなる群から選択される1種以上の成分組成を有するとさらに好ましい。
本発明によれば、焼入れ前の加熱温度を高くしても良好な硬さと靭性のバランスを安定的に有する鋼板部材を製造できる高炭素鋼板を提供することができる。
本発明者らは、焼入れ前の加熱温度を高くしても良好な硬さと靭性のバランスを安定的に有する鋼板部材を製造できる高炭素鋼板についての様々な研究を重ね、その成分組成について着目し、本発明を完成した。
なお、本明細書において、「硬さ」とは、ビッカース硬さ(HV)に基づく硬さを指す。ただし、ロックウェル硬さ(HRB)と明記している箇所は除く。ビッカース硬さは、後の実施例で詳細に述べる方法により求めることができる。さらに、本明細書において、「靭性」とは、VDA曲げ試験から算出される曲げ角度(°)に基づく曲げ性を指す。VDA曲げ試験から算出される曲げ角度は、後の実施例で詳細に述べる方法により求めることができる。
具体的には、高炭素鋼板の成分組成のうち、特にNbを特定の範囲内の含有量になるように制御し、かつTiを特定の含有量以下になるように制御することによって、焼入れ前の加熱温度を高くしても熱処理後に製造される鋼板部材の靭性低下を抑制できることを見出した。これは、Nbの炭化物であるNbCが高い温度でも溶解せずに安定的に存在し、熱処理後の鋼板部材のミクロ組織に未溶解炭化物が含まれなくても、分散したNbCによってオーステナイト粒を微細な状態に保つことができるためである。一方で、Tiの炭化物のTiCは割れの起点となる粗大な介在物TiNを生成するため、含有量を制御する必要がある。さらに、従来技術のように鋼板部材に未溶解炭化物を含ませることによってオーステナイト粒を微細に保つ場合は、当該未溶解炭化物が曲げ変形時の割れ起点ともなり得るため、その結果、鋼板部材の曲げ性が低下してしまう。本発明では、鋼板部材に含まれるNbCは極めて微細に分散してオーステナイト粒を微細化するため、鋼板部材の曲げ性を高くすることができる。
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
1.成分組成
本実施形態における高炭素鋼板は、以下の主たる成分組成を有する。
[C:0.75質量%以上1.10質量%以下]
Cは、鋼板および熱処理後の鋼板部材の硬さを向上させるために必要な元素である。そのため、C含有量は0.75質量%以上である。さらに、C含有量は、好ましくは0.75質量%超、より好ましくは0.80質量%以上、さらに好ましくは0.82質量%以上、よりさらに好ましくは0.84質量%以上である。一方、C含有量が多すぎると、靱性および衝撃特性に悪影響を及ぼす粗大な未固溶炭化物量が多くなる。そのため、C含有量は、1.10質量%以下、好ましくは1.07質量%以下、より好ましくは1.04質量%以下である。
[Si:0.05質量%以上0.40質量%以下]
Siは、鋼の脱酸剤として作用する元素である。このような作用を有効に発揮させるために、Si含有量は0.05質量%以上必要である。Si含有量は、好ましくは0.10質量%以上、より好ましくは0.20質量%以上である。一方、Siが多すぎると鋼板および熱処理後の鋼板部材の加工性、特に曲げ性が低下するおそれがある。そのため、Si含有量は、0.40質量%以下、好ましくは0.30質量%以下、より好ましくは0.25質量%以下である。
[Mn:0.05質量%以上0.70質量%以下]
Mnは、鋼の焼入れ性を向上させる効果を有する。このような効果を有効に発揮させるため、Mn含有量は0.05質量%以上必要である。Mn含有量は、好ましくは0.10質量%以上、より好ましくは0.20質量%以上である。一方、Mn含有量が過剰になると、マルテンサイト変態点Msが低下し、熱処理歪みが大きくなり、靱性および生産性が低下する。そのため、Mn含有量は、0.70質量%以下、好ましくは0.50質量%以下、より好ましくは0.45質量%以下、さらに好ましくは0.40質量%以下である。
[Cr:0.35質量%以下]
Crは、鋼の焼入れ性を向上させる効果を有し、かつ一定量含有させることにより、焼鈍において炭化物を粗大な球状化炭化物にすることを促進し、より軟質にすることができる。このような効果を有効に発揮させるため、Cr含有量は、好ましくは0質量%超、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上、よりさらに好ましくは0.10質量%以上である。一方、Crは過剰になると靱性が劣化するおそれがある。そのため、Cr含有量は、0.35質量%以下、好ましくは0.30質量%以下、より好ましくは0.25質量%以下である。
[Nb:0.005質量%以上0.030質量%以下]
Nbは、NbC等の炭化物を生成する。NbCは、セメンタイトとは異なり、900℃またはそれ以上の高い温度であっても溶解せずに安定して存在し、当該高い温度でオーステナイト粒界の移動を妨げてオーステナイト粒の粗大化を抑制することができる。そのために、Nb含有量は0.005質量%以上において必要である。Nb含有量は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.015質量%以上である。このような効果を発揮させるためには、熱間圧延前のスラブ加熱時に一度NbCを溶解させ、熱間圧延後の巻き取り段階において再度微細に析出させる必要がある。一方、C含有量が多い本実施形態における高炭素鋼板において多量のNbを添加すると、当該加熱時にNbCを溶解させることが困難となる。そのため、Nb含有量は、0.030質量%以下、好ましくは0.025質量%以下、より好ましくは0.020質量%未満である。
[Ti:0.02質量%以下]
Tiは、Nbと同様に炭化物であるTiCを生成し、高い温度であっても溶解せずに安定して存在し、オーステナイト粒界の移動を妨げてオーステナイト粒の粗大化を抑制する効果を有する。しかし、Tiの添加により不可避的に生成する粗大な介在物TiNが割れの起点となり、鋼板および熱処理後の鋼板部材の靭性を低下させる。そのため、Ti含有量は、0.02質量%以下にする必要がある。Ti含有量は、好ましくは0.02質量%未満、より好ましくは0.015質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以下である。または、Ti含有量は、0質量%でもよい。すなわち、Ti含有量は、0質量%以上0.020質量%以下の範囲であればよい。
[Al(sol−AL):0.001質量%以上0.050質量%以下]
Alは、鋼の脱酸剤として作用するとともに、鋼中に存在する固溶NをAlNとして固定し、鋼板の冷間加工性を向上させる元素である。このような作用を有効に発揮させるために、Al含有量は0.001質量%以上必要である。しかし、Al含有量が過剰になると、鋼板中に介在物となるAlが過剰に生成し、冷間加工性が劣化することがある。そのため、Al含有量は、0.050質量%以下である。Al含有量は、好ましくは0.04質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下、さらに好ましくは0.008質量%以下である。
[P:0.03質量%以下]
Pは、不純物元素として不可避的に存在し、結晶粒界に偏析して鋼板および鋼板部材の曲げ性を劣化させる。そのため、P含有量は、0.03質量%以下にする必要がある。P含有量は、好ましくは0.02質量%以下、より好ましくは0.015質量%以下、さらに好ましくは0.010質量%以下である。または、P含有量は、0質量%でもよい。すなわち、P含有量は、0質量%以上0.03質量%以下の範囲であればよい。
[S:0.01質量%以下]
Sは、不純物元素として不可避的に存在し、硫化物を形成して鋼板および鋼板部材の曲げ加工性を劣化させる。そのため、S含有量は、0.01質量%以下にする必要がある。S含有量は、好ましくは0.007質量%未満、より好ましくは0.005質量%以下、より好ましくは0.004質量%以下である。または、S含有量は、0質量%でもよい。すなわち、S含有量は、0質量%以上0.01質量%以下の範囲であればよい。
[残部]
残部はFeおよび不可避不純物である。不可避不純物としては、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる微量元素(例えば、As、Sb、Sn等)の混入が許容される。なお、前述したようなPおよびSは、通常含有量が少ないほど好ましいため、不可避不純物ともいえる。しかし、これらの元素は当該範囲まで含有量を抑えることによって本発明がその効果を発揮することができるため、上記のように規定している。このため、本明細書において、残部を構成する「不可避不純物」は、その組成範囲が規定されている元素を除いた概念である。
さらに、必要に応じて、以下の元素から選択される1種以上を添加してよい。
[Mo:0質量%超0.5質量%以下]
Moは、少量でもCrと同様に鋼の焼入れ性および焼戻し軟化抵抗の改善に有効な元素である。このような効果を得るため、Mo含有量は、好ましくは0質量%超、より好ましくは0.001質量%以上、さらに好ましくは0.01質量%以上である。しかし、Mo含有量が過剰になると、焼鈍による鋼板の軟質化が困難となり、焼入れ前の冷間加工性が低下するおそれがある。そのため、Mo含有量は、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下である。
[B:0質量%超0.005質量%以下]
Bは、微量添加で焼入れ性を高めるのに有効な元素である。このような効果を得るため、B含有量は、好ましくは0質量%超、より好ましくは0.0005質量%以上、さらに好ましくは0.001質量%以上である。一方、B含有量が過剰であると、鋳造性が低下し、B系化合物が生成して靭性が低下するおそれがある。そのため、B含有量は、好ましくは0.005質量%以下、より好ましくは0.0045質量%以下、さらに好ましくは0.004質量%以下である。
[Ni:0質量%超0.5質量%以下]
Niは、鋼の焼入れ性を改善するとともに、低温靭性の向上に有効な元素である。このような効果を得るため、Ni含有量は、好ましくは0質量%超、より好ましくは0.01質量%以上であり、さらに好ましくは0.05質量%以上である。一方、Niは、鋼の合金元素として高価であり、Ni含有量が過剰であると、鋼板製造に当たりコスト増加をまねく。そのため、Ni含有量は、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下、さらに好ましくは0.15質量%以下である。
[V:0質量%超0.35質量%以下]
Vは、Nbと同様に鋼中で炭窒化物を形成し、鋼の結晶粒の粗大化の防止や鋼板部材の靭性の向上に有効な元素である。このような効果を得るため、V含有量は、好ましくは0質量%超、より好ましくは0.001質量%以上、さらに好ましくは0.01質量%以上であり、さらに好ましくは0.05質量%以上である。一方、V含有量が一定量以上になるとVの効果は飽和する。そのため、V含有量は、好ましくは0.35質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下である。
2.鋼板のミクロ組織
本実施形態における高炭素鋼板のミクロ組織は、フェライトおよびセメンタイト(炭化物)からなる。ミクロ組織におけるフェライトおよびセメンタイトの各々の面積率の割合は特に限定されず、さらに本発明の効果を損なわない範囲において当該ミクロ組織に微量のパーライト、ベイナイト、マルテンサイト等が含まれていても構わない。具体的には、本実施形態における高炭素鋼板のミクロ組織は、フェライト母相中にセメンタイト粒が分散している組織である。なお、NbCは微細であるため、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて2000倍で観察した場合であっても炭化物として観察されない。
鋼板のミクロ組織において、セメンタイトの球状化率は、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、よりさらに好ましくは90%以上である。また、セメンタイトの球状化率の上限は、100%である。本明細書において、セメンタイトの球状化率とは、所定の観察領域内における長径/短径の比(アスペクト比)が3以下となるセメンタイト粒の個数を当該所定の観察領域内で観察された全セメンタイト粒の個数で除した割合(%)をいう。
セメンタイトの球状化率をより大きくすることによって、鋼板の成形加工性を向上させることができ、成形時に割れが生じてしまうおそれを防止することができる。また、冷間圧延の仕上げを良くすることができる。
さらに、鋼板のミクロ組織において、1000μm当たりのセメンタイト粒の個数は、好ましくは200個以上、より好ましくは400個以上、さらに好ましくは600個以上である。1000μm当たりのセメンタイト粒の個数を200個以上にすることによって、個々のセメンタイトのサイズが粗大化して高温での加熱時に未溶解炭化物として残留することを抑制し、鋼板部材における残留未溶解炭化物が亀裂の起点となることを防止することができる。
なお、高炭素鋼板のミクロ組織におけるセメンタイトの長径/短径および1000μm当たりのセメンタイト粒の個数は、例えば実施例で詳細に述べるように走査型電子顕微鏡を用いた画像解析により計測することができる。
3.鋼板の製造方法
本実施形態における高炭素鋼板の製造方法は、前述した成分組成を含有し、当該鋼板のミクロ組織がフェライトおよびセメンタイトからなる高炭素鋼板が得られる方法であれば、一般的な既知の任意の方法を適用することができる。以下、製造方法の1例について説明する。
まず、前述した成分組成を有する圧延用の鋼材(スラブ)を作製する。スラブは既知の任意の方法により準備することができる。スラブの作製方法としては、例えば、上記成分組成を有する鋼を溶製し、造塊または連続鋳造によって、スラブを作製する方法を挙げられる。必要に応じて、造塊または連続鋳造により得た鋳造材を分塊圧延してスラブを得てもよい。
次いで、得られたスラブを用いて熱間圧延を行い、熱延鋼板を得る。熱間圧延は、既知の任意の条件による方法で行ってよい。例えば、熱間圧延は、熱間圧延前の加熱温度を1150℃以上1300℃以下とし、仕上げ圧延温度を800℃以上として行うことができる。仕上げ圧延後、例えば550℃超650℃以下で鋼板を巻き取ってもよい。
熱間圧延後、既知の任意の方法で酸洗することにより、鋼板表層におけるスケールを除去する。
その後、得られた鋼板に焼鈍、特に球状化焼鈍を施す。焼鈍は、得られる焼鈍鋼板のミクロ組織においてパーライト等がほとんど残存せず、フェライトおよびセメンタイトからなるような、一般的な既知の任意の条件による方法で行えばよい。焼鈍(球状化焼鈍)は、通常、鋼板を加熱する工程、加熱した鋼板を均熱保持する工程、および均熱保持後の鋼板を冷却する工程を含む。
鋼板を加熱する工程における加熱速度は特に限定されないが、好ましくは20℃/h以上250℃/h以下である。当該加熱温度を20℃/h以上250℃/h以下の範囲にすることによって、焼鈍中のコイル内の温度偏差およびこれに起因する鋼板の硬さのばらつきの発生を防止することができ、かつ加熱速度が遅すぎることによる生産性の低下を抑制することができる。
加熱した鋼板を均熱保持する工程における均熱保持温度は特に限定されないが、好ましくは660℃以上740℃以下である。さらに、加熱した鋼板を均熱保持する工程における均熱保持時間は特に限定されないが、好ましくは5時間以上40時間以下である。660℃以上740℃以下および5時間以上40時間以下で均熱保持することによって、鋼板におけるセメンタイトを十分に球状化することができ、かつ過剰な加熱による鋼板の生産性の低下を防止することができる。
均熱保持後の鋼板を冷却する工程は特に限定されないが、例えば、炉冷により徐々に鋼板を所定の温度まで冷却する徐冷の後に、急冷を行えばよい。徐冷の際の冷却速度は特に限定されないが、好ましくは1℃/h以上10℃/h以下である。徐冷は、例えば550℃以上650℃以下になるまで行う。急冷の際の冷却速度は特に限定されないが、好ましくは10℃/h以上300℃/h以下である。急冷後は、例えば50℃以下の温度とする。
このような焼鈍を行う際、焼鈍炉の種類や雰囲気組成に限定はされないが、例えばバッチ焼鈍炉を用いて水素、窒素またはそれらの混合雰囲気下で行うことができる。また、必要に応じて、焼鈍後に冷間圧延を施してもよい。この場合、冷間圧延の冷延率を例えば20%以上70%以下の範囲とすることができる。さらに、必要に応じて、冷間圧延後にさらに焼鈍、特に球状化焼鈍を行っても構わない。
このように製造された本実施形態における高炭素鋼板は、必要なサイズで打ち抜かれ、成形加工した後に、焼入れ焼戻し等の熱処理が施され、鋼板部材が製造される。この際、焼入れ前の加熱温度を高くした場合、例えば850℃を超える温度、特に900℃以上の温度とした場合であっても、良好な硬さと靭性のバランスを安定的に有する鋼板部材を製造することができる。そのため、本実施形態における高炭素鋼板は、丸鋸、バンドソーおよびカーター等の各種刃物、ぜんまい、バネならびに工具等のような硬さだけでなく良好な靱性も求められる鋼板部材の加工素材として好適に用いることができる。
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
<実施例1>
本実施例1では、実際の鋼板の製造工程に模して実験用鋼板を製造し、当該実験用鋼板から熱処理後試験片を作製し、当該熱処理後試験片の硬さと靭性を測定し、そのバランスを判定した。
[実験用鋼板の製造]
後の表1に示す成分組成の鋼材(鋼種A〜G)を溶製した後、得られたインゴットを厚さ30mmとなるまで熱間圧延した。その後、熱延した30mmのラフバーを1250℃で30分間加熱した後、仕上温度920℃にて板厚3.0mmとなるまで熱間圧延した。圧延後、得られた熱延鋼板を30℃/sで650℃まで水冷し、次いで620℃の保持炉に挿入し、30分間保持して炉冷した。この工程は、巻き取りとその後の冷却を模した工程である。冷却後、得られた熱延鋼板をさらに常温まで冷却した後、酸洗して表層のスケールを除去した。
その後、得られた熱延鋼板に対して、1回目の焼鈍、冷間圧延および2回目の焼鈍を順に行った。1回目の焼鈍では、鋼板を715℃まで5時間で昇温し、715℃で10時間均熱保持し、次いで675℃まで12時間かけて徐冷し、さらに200℃以下まで1時間で冷却した。次いで、1回目の焼鈍後の鋼板に対いて板厚3.0mmから板厚1.5mmになるまで冷間圧延を施した。すなわち、冷延率を50%とした。最後に、冷延後の鋼板に対して1回目の焼鈍と全く同じ温度および時間条件で2回目の焼鈍を行い、実験用鋼板を得た。
[実験用鋼板の熱処理後試験片の特性測定および判定]
得られた実験用鋼板から、以下に示す方法により熱処理後試験片を作製し、当該熱処理後試験片の硬さと靭性を測定し、そのバランスを判定した。
(熱処理後試験片の作製)
実験用鋼板の表層には熱延および冷延の際の押込み疵やスケール疵等の凹凸欠陥が存在しているため、それらの影響を除去するために鋼板の両面を板厚1.5mmから板厚1.0mmまで研削した。その後、実験用鋼板を後述の特性測定に要する適当なサイズに切断して試験片とし、当該試験片をソルトバスにおいて910℃で3分間加熱後、水冷して焼入れし、その後350℃で10分間焼戻しして、熱処理後試験片を得た。焼戻し温度350℃は、熱処理後試験片のビッカース硬さが560HV程度となるように設定した温度である。
(硬さ)
熱処理後試験片の硬さについては、そのビッカース硬さを測定した。ビッカース硬さは、熱処理後試験片の厚さ方向の1/4位置において、ビッカース硬度計を用いて、JIS Z 2244:2009の規定に準拠し、試験荷重5kgfで5点測定し、その平均値を求めた。結果は後の表2において焼入れ前の加熱条件および焼戻し条件と一緒にまとめて示す。
(靭性)
熱処理後試験片の靭性については、VDA曲げ試験に基づき測定した。熱処理後試験片のサイズは、板厚1.0mm×幅(圧延方向と垂直方向)16mm×長さ60mmとした。なお、切断した熱処理後試験片の端面はフライス加工で仕上げた。VDA曲げ試験は、具体的には、ドイツ自動車工業会で規定されたVDA基準(VDA238−100)に基づいて以下の測定条件で評価を行った。本実施例では曲げ試験で得られる最大荷重時の変位をVDA基準で角度に変換し、曲げ角度を算出した。結果は後の表2において焼入れ前の加熱条件および焼戻し条件と一緒にまとめて示す。
測定条件
試験方法:ロール支持、ポンチ押し込み
ロール径:φ30mm
ポンチ形状:先端R=0.4mm
ロール間距離:板厚×2+0.5mm
押し込み速度:20mm/min
試験片寸法:16mm×60mm
曲げ稜線:圧延直角方向
試験機:島津製作所製 万能材料試験機 オートグラフ AG−X plus
(硬さと靭性のバランス)
測定したビッカース硬さおよび算出したVDA曲げ角度について、ビッカース硬さは560HV程度となるよう焼戻し温度を設定しているため、主にVDA曲げ角度について良好な値を有しているか否かで硬さと靭性のバランスの判定を行った。本実施例1では、VDA曲げ角度が35°以上の場合を〇(良好)とし、30°以上35°未満の場合を△(やや悪い)とし、30°未満の場合を×(悪い)として硬さと靭性のバランスを判定した。この判定結果も後の表2において焼入れ前の加熱条件および焼戻し条件と一緒にまとめて示す。
以下の表1に示す成分組成において、「−」の箇所は添加していないことを意味する。また、「<」は、当該元素が分析下限値未満であったことを意味する。
Figure 2021116477
Figure 2021116477
[考察]
上記表2に示す通り、鋼種の成分組成が本発明の条件を満たす試験片No.1および試験片No.6の判定結果は「〇」であった。すなわち、焼入れ前の加熱温度が910℃であっても、焼入れ焼戻し後の靭性が低下することなく、良好な硬さと靭性のバランスを有していることがわかった。
これに対して、鋼種の成分組成にNbを含有せず、かつTiを含有する試験片No.2は、判定結果が「×」であり、焼入れ焼戻し後の靭性が顕著に低下していた。
鋼種の成分組成にNbを含有しない試験片No.3は、判定結果が「△」であり、焼入れ焼戻し後の靭性がやや低下していた。
鋼種の成分組成にNbを含有せず、かつSiを多く含有する試験片No.4は、判定結果が「×」であり、焼入れ焼戻し後の靭性が顕著に低下していた。
鋼種の成分組成にNbを含有せず、かつMoを多く含有する試験片No.5は、判定結果が「×」であり、焼入れ焼戻し後の靭性が顕著に低下していた。
鋼種の成分組成にNbを含有しているが、Tiを多く含有する試験片No.7は、判定結果が「×」であり、焼入れ焼戻し後の靭性が顕著に低下していた。
<実施例2>
本実施例2では、実際に鋼板を製造する際に用いられる製造機を用いて鋼板を製造し、当該鋼板におけるミクロ組織パラメータおよび特性を測定し、当該鋼板から熱処理後試験片を作製し、当該熱処理後試験片の硬さと靭性を測定し、そのバランスを判定した。
[鋼板の製造]
後の表3に示す成分組成の鋼材(鋼種HおよびI)を溶製した後、連続鋳造によりスラブを製造した。得られたスラブを加熱した後、粗圧延により、厚さ30mmのラフバーとした。粗圧延の終了温度は約1070℃とした。次いで、仕上げ圧延終了温度を890℃として板厚1.6mmとなるまで仕上げ圧延し、610℃で巻き取った。次いで、得られた熱延鋼板を常温まで冷却し、酸洗してスケールを除去した。
その後、得られた熱延鋼板に対して焼鈍および冷間圧延を行った。焼鈍では、鋼板を690℃まで約20時間で昇温し、690℃で26時間均熱保持し、次いで60℃以下まで約34時間かけて冷却した。最後に、焼鈍後の鋼板が板厚1.6mmから板厚0.6mmになるまで冷間圧延を行った。すなわち、冷延率を63%とした。
[鋼板におけるミクロ組織パラメータおよび特性の測定]
得られた鋼板について、以下に示す方法によりそのミクロ組織パラメータおよび特性を測定した。
(ミクロ組織パラメータの測定)
上記方法により得た鋼板を適当なサイズに切断し、鋼板の試験片を得た。試験片の板幅方向中央部の圧延方向に平行な板厚断面を表面研磨した後、ピクラール液で腐食後、板厚の1/4位置のミクロ組織を走査型電子顕微鏡により倍率2000倍で観察した。観察視野は1000μmとした。
観察されたミクロ組織は、フェライト母相中に白いセメンタイト粒が分散している組織であった。なお、NbCは微細であり2000倍では炭化物として観察されなかった。画像解析により観察視野1000μm当たりの白く観察されるセメンタイト粒の個数を計測した。さらに、観察視野1000μmにおいて、画像解析により各セメンタイト粒の長径および短径を測定した。長径/短径の比(アスペクト比)が3以下となるセメンタイト粒の個数を計測された観察視野1000μm当たりのセメンタイト粒の個数で除した割合を球状化率(%)とした。結果は後の表4においてまとめて示す。
(硬さ)
上記方法により得た鋼板をJIS G 2245:2016に規定されているロックウェル硬さ試験に準拠して、ロックウェル硬さ(HRB)を測定した。結果は後の表4においてまとめて示す。結果は後の表4においてまとめて示す。
(引張特性)
上記方法により得た鋼板から、圧延方向と垂直方向にJIS5号試験片を作製した。当該試験片を用いて、JIS Z 2241:2011の金属材料引張試験方法に準拠して、降伏点(YP:Yield Point)(単位:MPa)、最大強度(TS:Tensile Strength)(単位:MPa)および伸び(EL:Elongetion)(単位:%)を求めた。結果は後の表4においてまとめて示す。
[鋼板の熱処理後試験片の特性測定および判定]
得られた鋼板から、以下に示す方法により熱処理後試験片を作製し、当該熱処理後試験片の硬さと靭性を測定し、そのバランスを判定した。
(熱処理後試験片の作製)
鋼板を後述の特性評価に要する適当なサイズに切断して試験片とし、当該試験片をソルトバスにおいて910℃で3分間または10分間加熱後、水冷して焼入れし、その後350℃または325℃で10分間焼戻しして、熱処理後試験片を得た。焼戻し温度350℃は、熱処理後試験片のビッカース硬さが560HV程度となるように設定した温度である。一方、焼戻し温度325℃は、熱処理後試験片のビッカース硬さが600HV程度となるように設定した温度である。
(硬さおよび靭性)
熱処理後試験片の硬さおよび靭性については、当該試験片の板厚は異なるが、前述の実施例1と同様の測定方法および同様の測定条件でビッカース硬さおよびVDA曲げ角度を測定した。結果は後の表5において、焼入れ前の加熱条件および焼戻し条件と一緒にまとめて示す。
(硬さと靭性のバランス)
測定したビッカース硬さおよび算出したVDA曲げ角度について、ビッカース硬さは560HV程度または600HV程度となるように焼戻し温度を設定しているため、主にVDA曲げ角度について良好な値を有しているか否かで硬さと靭性のバランスの判定を行った。ビッカース硬さの値を大きく設定すると、VDA曲げ角度の値は小さくなる。そのため、本実施例2では、試験片No.8〜試験片No.11については、VDA曲げ角度が40°以上の場合を〇(良好)とし、40°未満の場合を×(悪い)として硬さと靭性のバランスを判定した。一方、試験片No.12〜試験片No.15については、VDA曲げ角度が30°以上の場合を〇(良好)とし、30°未満の場合を×(悪い)として硬さと靭性のバランスを判定した。この判定結果も後の表5において焼入れ前の加熱条件および焼戻し条件と一緒にまとめて示す。
以下の表3に示す成分組成において、「−」の箇所は添加していないことを意味する。
Figure 2021116477
Figure 2021116477
Figure 2021116477
[考察]
上記表5に示す通り、鋼種の成分組成が本発明の条件を満たす試験片No.8および試験片No.9は、加熱時間にかかわらずいずれも判定結果が「〇」であった。すなわち、焼入れ前の加熱温度が高く、さらには焼入れ前の加熱時間を変動させても、焼入れ焼戻し後の靭性が低下することなく、良好な硬さと靭性のバランスを安定的に有していることがわかった。
これに対して、鋼種の成分組成にNbを含有しない試験片No.10および試験片No.11について、加熱時間が3分である試験片No.10は判定結果が「〇」であったが、加熱時間が10分である試験片No.11は判定結果が「×」であった。つまり、焼入れ前の加熱温度が高い場合、焼入れ前の加熱時間の変動によって、焼入れ焼戻し後の靭性が顕著に低下していた。
また、ビッカース硬さが600HV程度となるよう設定された場合において、鋼種の成分組成が本発明の条件を満たす試験片No.12および試験片No.13は、いずれも判定結果が「〇」であった。すなわち、別のビッカース硬さとなるように設定された場合でも、焼入れ焼戻し後の靭性が低下することなく、良好な硬さと靭性のバランスを安定的に有していることがわかった。
これに対して、鋼種の成分組成にNbを含有しない試験片No.14および試験片No.15は、いずれも判定結果が「×」であった。つまり、焼入れ前の加熱温度が高い場合、焼入れ焼戻し後の靭性が顕著に低下しており、さらには焼入れ前の加熱時間の変動によっても焼入れ焼戻し後の靭性が顕著に低下していた。
<実施例3>
本実施例3では、実施例2と同様に、実際に鋼板を製造する際に用いられる製造機を用いて鋼板を製造し、当該鋼板から熱処理後試験片を作製し、当該熱処理後試験片の硬さと靭性を測定し、そのバランスを判定した。
[鋼板の製造]
上記表3に示す鋼種Hの成分組成の鋼材を溶製した後、連続鋳造によりスラブを製造した。得られたスラブを加熱した後、粗圧延により、厚さ35mmのラフバーとした。粗圧延の終了温度は約1090℃とした。次いで、仕上げ圧延終了温度を890℃として板厚2.0mmとなるまで仕上げ圧延し、610℃で巻き取った。次いで、得られた熱延鋼板を常温まで冷却し、酸洗してスケールを除去した。
その後、得られた熱延鋼板に対して焼鈍を行った。焼鈍では、鋼板を690℃まで約20時間で昇温し、690℃で26時間均熱保持し、次いで60℃以下まで約34時間かけて冷却した。すなわち、本実施例3では、前述の実施例2の鋼板の製造過程から冷間圧延の工程を省いた過程によって、鋼板を製造した。
[鋼板の熱処理後試験片の特性測定および判定]
得られた鋼板から、以下に示す方法により熱処理後試験片を作製し、当該熱処理後試験片の硬さと靭性を測定し、そのバランスを判定した。
(熱処理後試験片の作製)
鋼板を後述の特性評価に要する適当なサイズに切断して試験片とし、当該試験片をソルトバスにおいて910℃で10分間加熱後、水冷して焼入れし、その後450℃、425℃または400℃で10分間焼戻しして、熱処理後試験片を得た。焼戻し温度450℃、425℃および400℃は、熱処理後試験片のビッカース硬さが、470HV〜520HV程度となるように設定した温度である。
(硬さおよび靭性)
熱処理後試験片の硬さおよび靭性については、当該試験片の板厚は異なるが、前述の実施例1および実施例2と同様の測定方法および同様の測定条件でビッカース硬さおよびVDA曲げ角度を測定した。結果は後の表6において、焼入れ前の加熱条件および焼戻し条件と一緒にまとめて示す。
(硬さと靭性のバランス)
測定したビッカース硬さおよび算出したVDA曲げ角度について、ビッカース硬さは470HV〜520HV程度となるように焼戻し温度を設定しているため、主にVDA曲げ角度について良好な値を有しているか否かで硬さと靭性のバランスの判定を行った。一般的に、鋼板(熱処理後試験片)の板厚がより厚くなれば曲げ部の外側のひずみが大きくなるため、VDA曲げ角度の値の絶対値は小さくなる。すなわち、本実施例3における熱処理後試験片の板厚は2.0mmであるため、板厚が1.0mmである前述の実施例1の熱処理後試験片および板厚が0.6mmである前述の実施例2の熱処理後試験片と比べると、そのVDA曲げ角度の値の絶対値は、より小さくなることが想定される。一方、ビッカース硬さの値を小さく設定すると、VDA曲げ角度の値は大きくなる。そのため、本実施例3では、これらの要素を考慮して、硬さと靭性のバランスを総合的に判定した。試験片No.16については、VDA曲げ角度が29°以上の場合、当該バランスが〇(良好)であるとして判定した。試験片No.17については、VDA曲げ角度が25°以上の場合、当該バランスが〇(良好)であるとして判定した。試験片No.18については、VDA曲げ角度が23°以上の場合、当該バランスが〇(良好)であるとして判定した。この判定結果も後の表6において焼入れ前の加熱条件および焼戻し条件と一緒にまとめて示す。
Figure 2021116477
[考察]
上記表6に示す通り、鋼種の成分組成が本発明の条件を満たす試験片No.16〜試験片No.18の硬さと靭性のバランスの判定結果は「〇」であった。すなわち、焼入れ前の加熱温度が高く、かつ、板厚がより厚い2.0mmであっても、焼入れ焼戻し後の靭性が顕著に低下することなく、試験片は良好な硬さと靭性のバランスを有していることがわかった。また、試験片No.16〜試験片No.18では、焼戻し温度を変動させて、それに伴いビッカース硬さをある程度変動させている。しかしながら、焼入れ焼戻し後の試験片の靭性は大きく変動することはなく、各試験片は一定の良好な曲げ性を維持していることが分かった。一方、前述した実施例2における表5の試験片No.11および試験片No.15の結果によると、板厚が本実施例3の試験片よりも薄い0.6mmであっても、鋼種の成分組成にNbを含有しない場合には、焼入れ前の加熱温度を高くして、かつ、焼戻し温度を変動させると、焼入れ焼戻し後の靭性が顕著に低下することが分かる。
このように、本発明における高炭素鋼板は、鋼板の板厚が厚くても、良好な硬さと靭性のバランスを安定的に保持することができる。従って、例えば鋼板がバネ等に加工された場合であっても、脆性的に破壊し難いことが想定されるため、本発明における高炭素鋼板は、多くの工具等の鋼板部材に好適に加工することができる。

Claims (4)

  1. C :0.75質量%以上1.10質量%以下、
    Si:0.05質量%以上0.40質量%以下、
    Mn:0.05質量%以上0.70質量%以下、
    Cr:0.35質量%以下、
    Nb:0.005質量%以上0.030質量%以下、
    Ti:0.02質量%以下、
    Al:0.001質量%以上0.050質量%以下、
    P :0.03質量%以下、および
    S :0.01質量%以下
    を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる成分組成を有する鋼板であり、
    当該鋼板のミクロ組織は、フェライトおよびセメンタイトからなる、高炭素鋼板。
  2. 前記セメンタイトの球状化率が70%以上である、請求項1に記載の高炭素鋼板。
  3. 前記鋼板のミクロ組織において、1000μm当たりのセメンタイト粒の個数は、200個以上である、請求項1または2に記載の高炭素鋼板。
  4. さらに、
    Mo:0質量%超0.5質量%以下、
    B :0質量%超0.005質量%以下、
    Ni:0質量%超0.5質量%以下、および
    V:0質量%超0.35質量%以下
    よりなる群から選択される1種以上の成分組成を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の高炭素鋼板。
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