JP5280324B2 - 精密打抜き用高炭素鋼板 - Google Patents
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また、特公昭58−734号公報では、0.01重量%以下に低S化することによりMnS系介在物を低減すると共に、Ca−Al添加によって脱硫の促進及び硫化物の形態制御を図り、材料の異方性を抑え、精密打抜き加工性を改善している。しかし、S量の低減及びCa−Al添加が必要なため、製造コストの上昇が避けられない。
金型寿命に関しては、通常の打抜き加工を対象とする金型寿命の改善策は従来から種々提案されている(特公昭62−59167号公報,特公平2−19173号公報,特開平3−44447号公報,特開平4−235252号公報)。しかし、精密打抜き加工で要求される精密打抜き面をほぼ100%剪断面とする条件下で金型寿命を改善する手段は明らかにされていない。
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、C含有量:0.15〜0.90重量%の中・高炭素鋼板において切欠き引張伸びElVが精密打抜き性に密接な関係をもつことに着目し、炭化物の析出形態を制御することにより、精密打抜き性に優れ、良好な形状精度の部品に打抜き加工できる中・高炭素鋼板を提供することを目的とする。
この炭素鋼板は、更にCr:1.2質量%以下,Mo:0.3質量%以下,Cu:0.3質量%以下,Ni:2.0質量%以下,N:0.01質量%以下の1種又は2種以上を含むことができる。また、Ti:0.01〜0.05質量%及びB:0.0005〜0.0050質量%,Ca:0.01質量%以下を含むこともできる。S含有量は、0.01質量%以下に規制することが好ましい。
炭化物球状化率は、鋼板断面の金属組織を観察するとき、炭化物総数が300個以上の領域を観察視野にとり、最大長さpを特定し、最大長さpと直角方向の最大長さqとの比p/qが3未満の炭化物(以下、球状化炭化物という)の個数が観察視野内の炭化物総数に占める割合(%)で表わされる。また、炭化物平均粒径は、同じ炭化物総数300個以上の観察視野において個々の炭化物について測定した円相当径を全測定炭化物で平均した値で表わされる。
金型寿命は、精密打抜き時の荷重−ストローク曲線で囲まれる面積、すなわち剪断エネルギにも大きく影響される。具体的には、剪断エネルギが低い材料ほど金型にかかる負担が軽減され、型摩耗の程度が小さくなる。剪断エネルギは、素材の引張強さと良好な相関関係にあり、引張強さの上昇に伴って剪断エネルギが直線的に増加することを考慮すると、引張強さの低下が金型寿命の改善に有効であると考えられる。そこで、本発明者等は、ElV値及び引張強さTSが金型寿命に及ぼす影響を種々調査・研究した。その結果、D値[=(3×ElV 2+18×ElV)/TS]を3以上にするとき、金型寿命が顕著に改善されることを見出した。
本発明では、C:0.15〜0.90質量%を含む中・高炭素高鋼を対象としている。Cは、炭素鋼において最も基本となる合金成分であり、含有量の如何に応じて焼入れ硬さ,炭化物量等が大きく変動する。C含有量が0.15質量%未満では、各種機械構造用部品に適用する上で十分な焼入れ硬さが得られない。逆に0.90質量%を超えるC含有量では、熱延後の靭性低下により鋼帯の製造性・取扱い性が悪化すると共に、焼鈍後においても十分な延性が得られないため、加工度の高い部品への適用が困難になる。したがって、本発明では適度な焼入れ硬さ及び加工性を兼ね備えた鋼板を得るために、C含有量が0.15〜0.90質量%の範囲にある鋼材を対象としている。なお、C含有量が低くなるほど精密打抜き性が一層改善されるため、精密打抜き性が特に重視される用途では0.15〜0.50質量%の範囲にC含有量を設定することが好ましい。
Mnは、鋼板の焼入れ性を改善し、強靭化にも有効な合金成分である。十分な焼入れ性を確保するためには、0.3質量%以上のMn量が必要である。しかし、1.0質量%を超える多量のMnが含まれるとフェライトが硬化し、精密打抜き性が劣化する。
Pは、延性及び靭性に悪影響を及ぼす成分であることから、上限を0.03質量%に規定する。
Alは、溶鋼の脱酸剤として添加される成分であるが、鋼中の全Al量が0.1質量%を超えると鋼材の清浄度が損われ、鋼板表面に疵が発生し易くなる。
Crは、焼入れ性の改善に有効であり、焼戻し軟化抵抗を大きくする作用を呈する。しかし、1.2質量%を超える多量のCrが含まれると、焼鈍後も軟化し難く、却って精密打抜き性が低下する。したがって、Crを添加する場合には、Cr含有量の上限を1.2質量%に設定する。
Moは、少量の添加でCrと同様に焼入れ性及び焼戻し軟化抵抗を改善する作用を呈する。しかし、0.3質量%を超える多量のMoが含まれると、焼鈍によっても軟質化し難く、却って焼入れ前のプレス成形性や精密打抜き性が低下する。したがって、Moを添加する場合には、Mo含有量の上限を0.3質量%に設定する。
Niは、焼入れ性を改善すると共に、低温靭性の向上に有効な合金成分である。また、Cu添加に起因する溶融金属脆化の悪影響を打ち消す作用も呈する。溶融金属脆化の防止には、0.2質量%以上のCuを添加する場合、Cu添加量と当量程度のNiを添加することが有効である。しかし、2.0質量%を超える多量のNiを添加すると、焼鈍によっても軟質化し難く、却って焼入れ前のプレス加工性や精密打抜き性が低下する。
Tiは、溶鋼の脱酸調整に使用される合金成分であり、脱窒作用も呈する。また、鋼板に固溶しているNを窒化物として固定するため、焼入れ性改善に必要な有効B量が確保される。Ti添加で生成した炭窒化物は、焼入れ時の結晶粒粗大化を防止する作用を呈する。これらの作用を安定して得るためには、少なくとも0.01質量%以上のTi含有量が必要である。しかし、0.05質量%を超える過剰量のTiが含まれると、経済的に不利になる。
Nは、Tiと結合してTiNを形成し、焼入れ時の結晶粒微細化に有効な合金成分である。しかし、0.01質量%を超えるN含有量では、鋼材の延性が低下する。また、過剰量のNは、Bと結合し焼入れ性改善に有効なB量を消費する。
Bは、ごく微量の添加でCr,Moと同様に焼入れ性を改善する。焼入れ性改善効果は0.0005質量%以上のB含有量で顕著になるが、0.0050質量%で飽和する。
Sは、MnS系介在物を生成する成分である。MnS系介在物の量が多くなると精密打抜き性が劣化するので、鋼中のS量は可能な限り低減することが好ましいが、本発明で規定する炭化物形態が得られる限り、極低S化を要することなく一般的な市販鋼に対しても精密打抜き性改善の効果は得られる。しかし、C含有量が0.8質量%近くまで高くなった場合でも高い精密打抜き性を安定して確保するためには、S含有量を0.01質量%以下に低減した鋼を使用することが好ましい。
MnS系介在物は、Ca添加により効果的に形態制御される。通常のMnS系介在物は、細長い形状を呈し、精密打抜き時にミクロボイド生成の起点になり易い。これに対し、Ca添加した鋼材ではMn,S,Caの複合介在物となり、介在物が球状化するためミクロボイドの発生が抑えられる。しかし、0.01質量%を超える過剰量のCaを添加すると、介在物の粗大化に起因する弊害が現れるようになる。したがって、Caを添加する場合、Ca含有量の上限を0.01質量%に設定する。
炭化物球状化率は、「球状化した炭化物」が全炭化物に占める割合を示す。本件明細書では、鋼板断面の金属組織観察視野で最大長さpとそれに直交する方向の最大長さqの比p/qが3未満の炭化物を「球状化した炭化物」として扱った。たとえば、再生パーライトにおける炭化物では、ほとんどp/q≧3の炭化物である。他方、Ac1変態点以上の加熱で残留した未溶解炭化物を起点として成長した炭化物では、比p/qが3未満になる。
炭化物の形状を立体的に正確に捉えて規定することは難しく、製品鋼板の適否を判定する上でも煩雑である。これに対し、鋼板断面の平面的な金属組織を観察することは容易である。本発明者等は、鋼板断面の金属組織の中で観察される炭化物形状について比p/qを用いて球状化の程度を捉えたとき、鋼板の精密打抜き性に対する炭化物形状の影響を適切に評価できることを確認した。そして、種々の実験結果から、比p/qが3未満の「球状化した炭化物」の数が全炭化物数の80%以上を占め、更には平均炭化物粒径を特定範囲に調整するとき、鋼板が高い精密打抜き性を示すことを見出した。
精密打抜き性は、炭化物の平均粒径を大きくすることによっても顕著に改善される。平均粒径の増大は、鋼中の炭素量は一定であることから炭化物総数の減少を意味する。炭化物総数の減少は、個々の炭化物を起点として生成したミクロボイドの連結を抑制し、結果として精密打抜き性の顕著な向上に寄与するものと推察される。他方、高周波焼入れのような短時間加熱による焼入れでは、炭化物を十分に固溶させる上から、炭化物の粒径が小さいほど焼入れ性が良くなる。精密打抜き性と焼入れ性の向上は、このように炭化物の粒径変化に関して相反する挙動を採る。そこで、精密打抜き性及び焼入れ性の双方を満足させるためには、平均炭化物粒径を厳格に規定することが必要である。
本発明者等による詳細な精密打抜き実験の結果、炭化物球状化率を80%以上,平均炭化物粒径を0.4μm以上とするとき、優れた精密打抜き性を示す鋼板が得られることが判った。しかし、加工後に高周波焼入れする場合に焼入れ性を確保する上では、平均炭化物粒径を1.0μm以下に抑える必要がある。したがって、本発明では、鋼板中の平均炭化物粒径を0.4〜1.0μmの範囲に規定した。
表2中、試験番号3,7,16では、巻取り温度580〜630℃で熱延板を製造した後、酸洗し、AC1変態点以下の700℃に15時間保持して空冷する焼鈍を施した。試験番号8,10,13,15では、巻取り温度580〜630℃で熱延板を製造した後、酸洗し、690℃×4時間保持→730℃×4時間保持→速度10℃/時で冷却→690℃×4時間保持→650℃まで速度10℃/時で冷却→空冷の焼鈍を施した。試験番号14では、巻取り温度580〜630℃で熱延板を製造した後、酸洗し、690℃×4時間保持→770℃×4時間保持→速度10℃/時で冷却→710℃×8時間保持→650℃まで速度10℃/時で冷却→空冷の焼鈍を施した。試験番号9,11では、巻取り温度580〜630℃で熱延板を製造した後、酸洗し、圧下率40%で冷間圧延し、690℃×4時間保持→730℃×4時間保持→速度10℃/時で冷却→690℃×4時間保持→650℃まで速度10℃/時で冷却→空冷の焼鈍を施した。
炭化物球状化率は、走査型電子顕微鏡を用いて鋼板断面の一定領域を観察し、総数300〜1000個の炭化物が析出している部分を観察領域として選定した。炭化物の最大長さpとその直角方向の最大長さqとの比p/qが3未満となるものを「球状化した炭化物」としてカウントし、測定炭化物総数に占める「球状化した炭化物」の数の割合を炭化物球状化率として算出した。
平均炭化物粒径は、炭化物球状化率の測定と同じ観察視野を画像処理し、ここの炭化物の円相当径を算出し、算出結果を全測定炭化物で平均化することにより求めた。
精密打抜き性評価試験では、先端角度90度,先端アール1.0mmのギア歯をもつ加工品が得られる評価用金型を使用し、加工品100個中の全ギア歯の破断面率を調査することにより、精密打抜き面性状を評価した。破断面率は、精密打抜き面の板厚に対する破断面長さの比率で求めた。
表2の調査結果にみられるように、試験番号1は、高いElv値を示し精密打抜き面性状に優れていたが、C含有量が0.1質量%未満の鋼B1を使用しているため加工後の熱処理で焼入れ不良が発生した。他方、試験番号2では、0.9質量%を超えるCを含む鋼B2を使用したため、加工性が著しく悪く、加工後の焼入れにおいても焼き割れが発生した。
これに対し、炭化物球状化率が不足し、平均炭化物粒径も小さく、ElV値が低い試験番号4では、精密打抜き面性状が大きく劣化した。炭化物球状化率は高いが平均炭化物粒径が小さくElV値も低い試験番号5では、精密打抜き面性状が劣化した。逆に、炭化物球状化率は低いが、平均炭化物粒径が大きくElV値が低い試験番号6でも、精密打抜き面性状が劣化した。また、平均炭化物粒径が1.0μmを超えている試験番号12では、同じC含有量の試験番号11に比較して高周波焼入れ後の硬さが低く、焼入れ不良が生じた。
以上の結果から、炭化物球状化率,平均炭化物粒径及びElV値が本発明で規定した条件を満足するとき、優れた精密打抜き性が得られることが判る。
表4中、試験番号23,28,34,38では、巻取り温度580〜630℃で熱延板を製造した後、酸洗し、Ac1変態点以下の700℃に15時間保持して空冷する焼鈍を施した。試験番号27では、巻取り温度580〜630℃で熱延鋼板を製造した後、酸洗し、680℃で10時間保持して空冷する焼鈍を施した。試験番号29,31,35,37では、巻取り温度580〜630℃で熱延板を製造した後、酸洗し、690℃×4時間保持→730℃×4時間保持→速度10℃/時で冷却→690℃×4時間保持→650℃まで速度10℃/時で冷却→空冷の焼鈍を施した。試験番号36では、巻取り温度580〜630℃で熱延板を製造した後、酸洗し、690℃×4時間保持→770℃×4時間保持→速度10℃/時で冷却→710℃×8時間保持→650℃まで速度10℃/時で冷却→空冷の焼鈍を施した。試験番号30,32では、巻取り温度580〜630℃で熱延板を製造した後、酸洗し、圧下率40%で冷間圧延し、690℃×4時間保持→730℃×4時間保持→速度10℃/時で冷却→690℃×4時間保持→650℃まで速度10℃/時で冷却→空冷の焼鈍を施した。
炭化物球状化率が不足し、平均炭化物粒径も小さく、ElV値が低い試験番号24では、同程度のCを含む鋼種に比較して精密打抜き面性状が大きく劣化した。炭化物球状化率は高いが平均炭化物粒径が小さくElV値も低い試験番号25では、精密打抜き面性状が劣化した。逆に、炭化物球状化率は低いが、平均炭化物粒径が大きくElV値が低い試験番号26でも、精密打抜き面性状が劣化した。
以上の結果から、炭化物球状化率,平均炭化物粒径及,ElV値及びD値が本発明で規定した条件を満足するとき、優れた精密打抜き性が得られ、しかも金型が長寿命化されることが判る。
Claims (5)
- C:0.15〜0.90質量%,Si:0.40質量%以下,Mn:0.3〜1.0質量%,P:0.03質量%以下,全Al:0.10質量%以下,残部がFe及び不可避的不純物の組成をもち、球状化率80%以上,平均粒径0.4〜1.0μmの炭化物がフェライトマトリックスに分散した組織をもち、JIS5号引張試験片の平行部長手方向中央位置における幅方向両サイドに開き角45度,深さ2mmのVノッチを入れた試験片を用いて引張試験し、平行部長手方向中央部の標点間距離10mmに対する破断後の伸び率として表わされる切欠き引張伸びElvが20%以上である精密打抜き用高炭素鋼板。
- C:0.15〜0.90質量%,Si:0.40質量%以下,Mn:0.3〜1.0質量%,P:0.03質量%以下,全Al:0.10質量%以下を含み、更にCr:1.2質量%以下,Mo:0.3質量%以下,Cu:0.3質量%以下,Ni:2.0質量%以下の1種又は2種以上を含み、残部がFe及び不可避的不純物の組成をもち、球状化率80%以上,平均粒径0.4〜1.0μmの炭化物がフェライトマトリックスに分散した組織をもち、JIS5号引張試験片の平行部長手方向中央位置における幅方向両サイドに開き角45度,深さ2mmのVノッチを入れた試験片を用いて引張試験し、平行部長手方向中央部の標点間距離10mmに対する破断後の伸び率として表わされる切欠き引張伸びElvが20%以上である精密打抜き用高炭素鋼板。
- C:0.15〜0.90質量%,Si:0.40質量%以下,Mn:0.3〜1.0質量%,P:0.03質量%以下,全Al:0.10質量%以下,Ti:0.01〜0.05質量%,B:0.0005〜0.0050質量%,N:0.01質量%以下,残部がFe及び不可避的不純物の組成をもち、球状化率80%以上,平均粒径0.4〜1.0μmの炭化物がフェライトマトリックスに分散した組織をもち、JIS5号引張試験片の平行部長手方向中央位置における幅方向両サイドに開き角45度,深さ2mmのVノッチを入れた試験片を用いて引張試験し、平行部長手方向中央部の標点間距離10mmに対する破断後の伸び率として表わされる切欠き引張伸びElvが20%以上である精密打抜き用高炭素鋼板。
- 更にCa:0.01質量%以下を含む請求項1〜3の何れかに記載の精密打抜き用高炭素鋼板。
- JIS5号引張試験で得られる引張強さTS及び切欠き引張伸びElv値で定義されるD値[=(3×Elv2+18×Elv)/TS]が3以上である請求項1〜4の何れかに記載の精密打抜き用高炭素鋼板。
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