JP4302285B2 - マルテンサイト系ステンレス鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、マルテンサイト系ステンレス鋼板およびその製造方法に関し、特にプレス成形加工製品および精密剪断加工製品などの用途に好適に適用することのできるマルテンサイト系ステンレス鋼板およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、高強度と高加工性とをともに要求される製品、たとえば爪切り用刃物などは、焼なまし状態の炭素鋼板を所定寸法に剪断加工した後、所望の形状にプレス成形加工し、その後、焼入焼戻しを行い、さらにメッキあるいは塗装などの防錆および表面光沢向上のための表面処理を行って製造される。この製造方法には、製造工程数が多く、製造に長期間を要するという問題がある。この問題を解消するための有効な方法として、工程省略、たとえば表面処理工程の省略が提案されている。
【0003】
表面処理工程の省略は、素材を炭素鋼板から耐食性のよい、かつ焼入れの可能なマルテンサイト系ステンレス鋼板に変更し、表面光沢を向上させるための処理を施すことによって実現できる。しかしながら、本発明者らの調査によると素材を炭素鋼板からマルテンサイト系ステンレス鋼板に変更すると、プレス加工時に加工割れが発生しやすくなるという問題がある。また従来から、マルテンサイト系ステンレス鋼板を剪断加工すると、ざらざらした粗い剪断切口面が形成され、精密剪断加工製品にマルテンサイト系ステンレス鋼板を適用することができないという問題がある。したがって、加工性および表面光沢が良好でかつ、剪断切口面が平滑なマルテンサイト系ステンレス鋼板の開発が望まれている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、前記問題を解決し、優れた成形加工性および表面光沢を有し、かつ平滑な剪断切口面を有するマルテンサイト系ステンレス鋼板およびその製造方法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、質量%でCr:11.00〜18.00%,C:0.15〜0.40%,Si:1.0%以下,Mn:1.0%以下,P:0.040%以下,S:0.03%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物から成り、
平均粒径が1.0μm以上である大略的に球状の炭化物を含み、さらに、
日本工業規格Z2245に規定されたロックウェル硬さBスケールの硬さ値HRBが85以下であることを特徴とするマルテンサイト系ステンレス鋼板である。
【0006】
本発明に従えば、炭化物が球状であり、平均炭化物粒径が充分に大きく、さらに硬さが充分に低いので、マルテンサイト系ステンレス鋼板の変形能を高めることができる。これによって、プレス成形加工時における加工割れの発生を防止することができる。したがって、マルテンサイト系ステンレス鋼板を従来の炭素鋼板に代わって、加工条件の厳しい用途に適用することが可能となり、炭素鋼板で必要であった防錆のための表面処理工程を省略することができる。
【0007】
また本発明は、焼なまし状態で剪断加工され、その後、プレス成形加工され、さらに焼入焼戻しされるマルテンサイト系ステンレス鋼板であって、
剪断加工されたマルテンサイト系ステンレス鋼板の剪断切口面には、平滑な剪断面が剪断切口面全体に対して30%以上の面積割合になるように形成されることを特徴とする。
【0008】
本発明に従えば、剪断切口面には平滑な剪断面が充分な割合で形成されるので、剪断切口面の粗さを小さく平滑にすることができ、寸法精度を向上することができる。したがって、マルテンサイト系ステンレス鋼板を精密打抜製品に適用することが可能となる。
【0009】
また本発明は、質量%で、Cr:11.00〜18.00%,C:0.15〜0.40%,Si:1.0%以下,Mn:1.0%以下,P:0.040%以下,S:0.03%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物から成るマルテンサイト系ステンレス溶鋼を溶製して連続鋳造し、連続鋳造された鋳片をAr3点以上の熱延仕上げ温度で熱間圧延してコイル状に巻取り、巻取った熱間圧延コイルをコイル状のまま焼鈍炉に装入し、熱間圧延コイルにAc1点超の予め定める温度とAr1点未満の予め定める温度との間で加熱冷却を複数回繰返す焼なましを行うマルテンサイト系ステンレス鋼板の製造方法である。
【0010】
本発明に従えば、オーステナイト域(以後、γ域とよぶことがある)とフェライト域(以後、α域とよぶことがある)との間で加熱冷却を複数回繰返す焼なましが行われ、好ましくは1段目の加熱におけるγ域での保持時間が2段目以降よりも長時間に設定されるので、1段目の加熱保持処理において球状化しにくい成分偏析部の炭化物を球状化することができる。これによって、2段目以降の加熱冷却処理において、γ域における炭化物の球状化とα域における炭化物の成長とを促進させることができる。したがって、炭化物の形状を略球状に形成することができ、炭化物の平均粒径を大きくすることができる。
【0011】
また本発明は、前記焼なまし後、脱スケール、冷間圧延を行い、さらに光輝焼鈍または焼鈍酸洗を行うことを特徴とする。
【0012】
本発明に従えば、マルテンサイト系ステンレス鋼板が光輝焼鈍または焼鈍酸洗によって仕上げられるので、調質圧延を省略することができる。したがって、加工硬化による硬さの増加を防止することができ、軟質なマルテンサイト系ステンレス鋼板を製造することができる。また、光輝焼鈍と焼鈍酸洗とが選択的に選ばれるので、異なる表面光沢を有するマルテンサイト系ステンレス鋼板を製造することができる。したがって、表面光沢に関する多様な要求に充分対応することができる。
【0013】
また本発明は、前記光輝焼鈍または焼鈍酸洗を行った後、伸び率0.2%以下で調質圧延を行うことを特徴とする。
【0014】
本発明に従えば、調質圧延が行われるので、表面光沢を向上することができる。したがって、表面光沢に関する高度な要求に充分に対応することができる。また、調質圧延の伸び率が充分に低く設定されるので、マルテンサイト系ステンレス鋼板の加工硬化を防止することができる。これによって、軟質で優れた加工性および表面光沢を有するマルテンサイト系ステンレス鋼板を製造することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の実施の一形態であるマルテンサイト系ステンレス鋼板1の電子顕微鏡組織を示す拡大像である。本実施の形態のマルテンサイト系ステンレス鋼板は焼なまし状態で鉄鋼メーカから加工メーカに出荷される。図1には出荷状態のマルテンサイト系ステンレス鋼板を示す。加工メーカでは、マルテンサイト系ステンレス鋼板を打抜きなどによって所定寸法に剪断加工した後、所望の形状にプレス成形加工し、その後、焼入焼戻しを行って製品化する。マルテンサイト系ステンレス鋼板1は、素地鋼3中に多数の炭化物4が分散した炭化物組織を有する。炭化物4は、鉄クロム複合炭化物から成り、その形状は大略的に球状である。以後、このような炭化物を球状炭化物と呼ぶことがある。
【0016】
マルテンサイト系ステンレス鋼板は、質量%でCr:11.00〜18.00%,C:0.15〜0.40%,Si:1.0%以下,Mn:1.0%以下,P:0.040%以下,S:0.03%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物から成る。Crはマルテンサイト系ステンレス鋼板の耐食性を担う主要元素である。Cr含有量の下限値が11.0%に限定されるのは、11.0%未満のCr含有量では充分な耐食性を確保することができないからであり、Cr含有量の上限値が18.00%に限定されるのは、18.00%を超えるCr含有量ではδフェライトの析出によって、熱間加工性および製品性能が低下するからである。
【0017】
Cは、最も有効な強化元素である。またCは、オーステナイト生成元素であり、マルテンサイト相を形成するために有効な元素である。Cの下限値が0.15%に限定されるのは、0.15%未満のC含有量では焼入れ硬さが充分に確保できないからであり、Cの上限値が0.40%に限定されるのは、0.40%を超えるC含有量では、焼戻し時に炭化物の析出量が増大し、耐食性および靭性が低下するからである。
【0018】
Siは、脱酸剤として有効な元素であり、さらにフェライト生成元素である。Siの上限値が1.0%に限定されるのは、1.0%を超えるSi含有量ではオーステナイト相が形成されにくくなりマルテンサイト相の形成が抑制されるからである。Mnは、脱酸剤および脱硫剤として有効な元素であるとともに、オーステナイト生成元素であり、焼入れ性を向上させる元素である。Mnの上限値が1.0%に限定されるのは、1.0%を超えるMnを添加しても効果が飽和してそれ以上の向上が望めないからである。PおよびSの上限値がそれぞれ0.04%,0.03%に限定されるのは、上限値を超えるPおよびS含有量では、熱間加工性および耐応力腐食割れ性が低下するからである。マルテンサイト系ステンレス鋼板は、この他にMo,V,B,Nを含んでも差しつかえない。
【0019】
本実施の形態のマルテンサイト系ステンレス鋼板は、平均粒径1.0μm以上の球状炭化物を有し、さらに日本工業規格Z2245に規定されたロックウェル硬さBスケールの硬さ値HRB(以後、硬さHRBと呼ぶ)で85以下の硬さを有する。炭化物の平均粒径および硬さHRBがこのような範囲に限定されるのは、次のプレス成形加工試験の結果によるものである。
【0020】
表1に示すような異なる炭化物の平均粒径および硬さHRBを有する複数のマルテンサイト系ステンレス鋼板を準備し、打抜き加工後プレス成形加工を行い、成形加工性を評価した。マルテンサイト系ステンレス鋼板の板厚は、1.6mmに設定した。成形加工性の評価結果および成形加工性の評価基準を表1に示す。
【0021】
【表1】
【0022】
表1から次のことが判る。
(1)炭化物の平均粒径が1.0μm以上で、かつ硬さHRBが85以下では、加工割れの発生が全く認められず、成形加工性が良好である。
(2)炭化物の平均粒径が1.0μmであっても硬さHRBが86では、微小な加工割れの発生が認められ、成形加工性にやや問題がある。
(3)炭化物の平均粒径が1.0μm未満で、かつ硬さHRBが85超では、加工割れの発生が認められ、成形加工性が不良である。
【0023】
前記(1)および(3)の結果は、球状炭化物の平均粒径が大きくなるにつれて、マルテンサイト系ステンレス鋼板が軟質化し、変形能が向上することによるものと考えられる。また前記(2)の結果は、球状炭化物の平均粒径が大きくても、加工硬化などによって硬さが硬くなると効果が相殺されて変形能の向上が抑制されることによるものと考えられる。これは、後述の調質圧延の伸び率が高い場合などに該当する。
【0024】
図2は、剪断加工製品の剪断切口面の構成を簡略化して示す断面図である。図2の紙面の上下方向が板厚方向であり、紙面の左右方向が板幅方向である。剪断加工製品の剪断切口面5は、角部のだれ6と、だれ6の下部に連なる平滑な剪断面7と、剪断面7の下部に連なる粗さの粗い破断面8と、板面より下方に突出したかえり9とを含む。平滑な剪断面7は、ポンチおよびダイスの切込みによって形成される。粗さの粗い破断面8は、亀裂の進行によって形成される。亀裂は、変形が進行して材料の変形能の限界を超えたときに発生する。破断面8には、段差および停留亀裂(以後、2次剪断と呼ぶ)が形成されることがある。2次剪断は、ポンチおよびダイスから発生する亀裂がうまく会合しないときに形成される。
【0025】
剪断切口面の性状は、剪断面7の剪断切口面全体に対する割合が大きく、破断面8の割合が小さいほど良好であるといわれており、特に2次剪断の生じない剪断切口面が望ましいとされている。破断面8の割合の大きい剪断切口面および2次剪断の発生した剪断切口面が望ましくないのは、剪断加工後に行われるプレス成形加工において、切欠効果によってその部分から加工割れが発生しやすいからであり、さらに剪断切口面の寸法精度を低下させるからである。剪断切口面の性状は、材料の変形能およびポンチとダイスとのクリアランスによって影響される。
【0026】
本実施の形態のマルテンサイト系ステンレス鋼板を剪断加工するとき、剪断切口面には平滑な剪断面7が剪断切口面全体に対して30%以上の面積割合になるように形成されることが好ましい。以後、前記面積割合を剪断破面率と呼ぶ。これは、次の理由による。
【0027】
図3は、ステンレス鋼板の局部伸びと剪断破面率との関係を示すグラフである。図3には、2次剪断発生領域も併せて示している。局部伸びは、1.6mmのステンレス冷間圧延鋼板から切欠き試験片を作成し、切欠き試験片の伸びを測定することによって求めた。切欠き試験片は、JIS13B号試験片の標点間中心位置の両端部にVノッチを形成することによって作成した。Vノッチの寸法は、角度:45°,深さ:2.0mmに設定した。
【0028】
剪断破面率は、ステンレス鋼板を打抜きによって剪断加工し、剪断切口面および剪断面の面積を求めることによって算出した。打抜き条件は、ポンチ径:9.9mm,ダイス径:10.0mm,クリアランス:板厚の5%,打抜き速度:15m/minに設定した。2次剪断の発生の有無は、目視観察によって行った。図3中の黒丸印は、マルテンサイト系ステンレス鋼SUS420J2を表す記号であり、白三角印はフェライト系ステンレス鋼SUS430を表す記号であり、白四角印はオーステナイト系ステンレス鋼SUS304を表す記号である。
【0029】
図3から、クリアランスが一定の場合、局部伸びと剪断破面率とは、ステンレス鋼の鋼種にかかわらず正比例関係にあり、局部伸びが小さくなるにつれて剪断破面率が直線的に減少することが判る。また2次剪断は、局部伸びの値にかかわらず剪断破面率30%未満の領域で発生することが判る。したがって、ステンレス鋼の局部伸びを向上させれば、換言すればステンレス鋼の変形能を向上させれば、剪断破面率を高くすることができ、2次剪断の発生を防止することができる。
【0030】
以上述べたように、化学成分、球状炭化物の平均粒径および硬さHRBが本発明の範囲を満たすマルテンサイト系ステンレス鋼板は、優れた変形能を有するので、プレス成形加工における加工割れの発生を防止することができる。また、好ましくは剪断加工時における剪断破面率が30%以上になるように形成されるので、2次剪断の発生を防止することができ、プレス成形加工性をさらに向上させることができる。したがって、優れたプレス成形加工性を有するマルテンサイト系ステンレス鋼板を提供することができる。また、剪断切口面の寸法精度を向上することができるので、精密打抜製品に適用することが可能となる。またマルテンサイト系ステンレス鋼板は、耐食性に優れているので、従来の炭素鋼板で必要であった防錆のための表面処理工程を省略することができる。したがって、製造所要日数を短縮することが可能となり、納期短縮ならびにコストダウンを図ることができる。
【0031】
図4は、図1に示すマルテンサイト系ステンレス鋼板1の製造工程を簡略化して示す図である。図4を参照して、図1に示すマルテンサイト系ステンレス鋼板1の製造方法を説明する。第1工程では、マルテンサイト系ステンレス溶鋼の溶製が行われる。溶製は、前述のような化学成分になるように電気炉、転炉、および真空脱ガス設備を用いて行われる。第2工程では、連続鋳造が行われ、鋳片が製造される。第3工程では、鋳片の熱間圧延が行われる。熱間圧延は、Ar3点以上の熱延仕上げ温度で行われる。Ar3点は、冷却時におけるA3変態点を表す。熱間圧延されたマルテンサイト系ステンレス熱間圧延鋼板は、コイル状に巻取られる。第4工程では、焼なましが行われる。焼なましは、巻取った熱間圧延コイルをコイル状のままベル型焼鈍炉に装入し、N2またはH2またはN2−H2混合雰囲気中で加熱・冷却することによって行われる。
【0032】
図5は、焼なまし工程におけるヒートパターンの一例を簡略化して示す図である。焼なましは、熱間圧延コイルをAc1点超の予め定める温度に加熱して所定時間保持し、その後、Ar1点未満の予め定める温度に冷却する処理を複数回繰返すことによって行われる。Ac1点は、加熱時におけるA1変態点を表し、Ar1点は冷却時におけるA1変態点を表す。本実施の形態では、加熱および冷却が3回繰返される。繰返し回数は2回でもよく、4回以上でもよい。
【0033】
1段目の加熱における加熱条件は、加熱温度T1℃,保持時間W1(hr)に設定される。加熱温度T1はAc1点よりも高い温度に設定される。保持時間W1は2段目以降の加熱における保持時間よりも長時間になるように設定される。このように1段目の加熱条件を高温長時間に設定することによって、鋳片の凝固偏析部の濃化元素を拡散させて均質化させることができるので、球状化しにくい成分偏析部の網目状炭化物を球状化させることが可能となる。またマルテンサイト相をオーステナイト相に変態させることができ、マルテンサイト相を完全に消滅させることができる。1段目の冷却における冷却温度L1はAr1点直下の温度からAr1点よりも200℃低い温度の範囲に設定される。これによって、オーステナイト相からフェライト相への変態を完全に終了させることができる。
【0034】
2段目の加熱における加熱条件は、加熱温度T2℃,保持時間W2(hr)に設定される。加熱温度T2は前記加熱温度T1と同じ温度に設定され、保持時間W2は前記保持時間W1よりも短い時間に設定される。この加熱保持中、平均粒径の比較的小さい炭化物は固溶して消滅し、炭化物の個数が減少するとともに炭化物の球状化が促進される。2段目の冷却は、1段目の冷却と同様に行われ、2段目の冷却温度L2は、前記冷却温度L1と同じ温度に設定される。冷却中α域において、前記固溶した炭素は、比較的大きい未固溶の炭化物の周辺に炭化物として析出する。また未固溶の炭化物同志の合体も生ずる。これによって、炭化物の成長が生じ、炭化物の平均粒径が増加する。
【0035】
3段目の加熱における加熱条件は、加熱温度T3℃,保持時間W3(hr)に設定される。3段目の加熱における加熱条件は、2段目の加熱における加熱条件と同一に設定される。3段目の冷却は、熱間圧延コイルの温度がAr1点より200℃以下に達するまで雰囲気ガス中で行われ、それ以後、大気中で放冷される。3段目の加熱冷却によって比較的小さい炭化物の消滅と比較的大きい炭化物の成長とがさらに促進される。1段目〜3段目の加熱における加熱温度T1,T2,T3は同一温度でなくてもよく、2段目および3段目の加熱における保持時間W2,W3は同一時間でなくてもよい。また、1段目および2段目の冷却における冷却温度L1,L2は同一温度でなくてもよい。
【0036】
再び図4を参照して、第5工程では、脱スケールが行われ、電解酸洗処理等によって熱間圧延鋼板の表面の酸化スケールが除去される。第6工程では、冷間圧延が行われる。冷間圧下率は、40%以上に設定される。第7工程では、光輝焼鈍または焼鈍酸洗が行われ、冷間圧延によって加工硬化した素地鋼が焼なましされる。光輝焼鈍は、H2−N2雰囲気中で行われ、冷間圧延後の優れた表面光沢を維持する。焼鈍酸洗は、大気中で焼鈍を行い、酸洗によって酸化スケールを除去する。光輝焼鈍または焼鈍酸洗の選択は要求される表面光沢の程度に応じて行われる。第8工程では、調質圧延が行われる。この調質圧延は、表面光沢を向上させるために行われる。調質圧延の伸び率は、0.2%以下に設定されることが好ましい。これは次の理由による。
【0037】
図6は、調質圧延の伸び率と硬さHRBとの関係を示すグラフである。マルテンサイト系ステンレス鋼板の硬さHRBは、調質圧延の伸び率が大きくなるにつれ、加工硬化によって比例的に増大する。調質圧延の伸び率の上限値が0.2%に限定されるのは、0.2%を超える伸び率を付与すると、図6に示すようにマルテンサイト系ステンレス鋼板の硬さHRBの値が前記硬さの上限値である85を超えるおそれがあるからである。調質圧延が終了すると、マルテンサイト系ステンレス鋼板の一連の製造工程が終了する。
【0038】
このように、焼なまし工程において、Ac1点超の温度とAr1点未満の温度との間で加熱冷却を複数回繰返す焼なましが行われるので、換言すればγ域とα域とを繰返し加熱冷却する焼なましが行われるので、炭化物を迅速に成長させることができる。したがって、平均粒径1.0μm以上の球状炭化物を有するマルテンサイト系ステンレス鋼板を製造することができる。
【0039】
また、調質圧延が行われるので、表面光沢を向上させることができる。すなわち、光輝焼鈍/調質圧延の組合せによって極めて優れた表面光沢を有するマルテンサイト系ステンレス鋼板を製造することができ、酸洗焼鈍/調質圧延の組合せによって優れた表面光沢を有するマルテンサイト系ステンレス鋼板を製造することができる。したがって、表面光沢に関する高度な要求に充分対応することができる。
【0040】
また、調質圧延工程において、調質圧延の伸び率が0.2%以下に設定されるので、加工硬化による硬さの増加を防止することができ、硬さHRBが85以下であるマルテンサイト系ステンレス鋼板を製造することができる。
【0041】
本実施の形態では、光輝焼鈍または焼鈍酸洗を行った後、調質圧延によって表面光沢の向上を図るように構成されているけれども、本発明の他の実施の形態として調質圧延を省略し、光輝焼鈍または焼鈍酸洗によって仕上げるように構成してもよい。この実施の形態の製造工程は、図4に示す製造工程と類似し、第8工程の調質圧延工程が省略される点を除いて同一であるので、図示を省略する。この実施の形態では、調質圧延工程を省略することができるので、加工硬化による硬さの増加を防止することができ、硬さHRB85以下の軟質なマルテンサイト系ステンレス鋼板を安定して製造することができる。
【0042】
また光輝焼鈍と焼鈍酸洗とが選択的に選ばれるので、光輝焼鈍を選べば優れた表面光沢を有するマルテンサイト系ステンレス鋼板を製造することができる。したがって、異なる表面光沢を有するマルテンサイト系ステンレス鋼板を製造することができ、表面光沢に関する多様な要求に対応することができる。
【0043】
以上述べたように、前記各実施の形態では熱間圧延コイルの焼なまし工程において、1段目の加熱保持時間が2段目以降の加熱保持時間よりも長くなるように設定されているけれども、加熱保持時間は常にこのように限定されるものではなく、1段目の加熱温度を2段目以降の加熱温度よりも高くして、1段目の加熱保持時間を2段目以降の加熱保持時間よりも短く、あるいは同一になるように設定してもよい。
【0044】
(実施例1)
以下、本発明の構成要件を全て満たす実施例1のマルテンサイト系ステンレス冷間圧延鋼板と、本発明の構成要件から外れた比較例1のマルテンサイト系ステンレス冷間圧延鋼板とを製造し、各種の品質特性調査を行って比較した。マルテンサイト系ステンレス冷間圧延鋼板の製造は、前記成分範囲を満たすマルテンサイト系ステンレス溶鋼を溶製し、図4に示す製造工程に従って行った。図4の第7工程では焼鈍酸洗を実施した。熱間圧延鋼板および冷間圧延鋼板の板厚は、実施例1および比較例1ともそれぞれ4.0mm,1.6mmに設定した。実施例1および比較例1の熱間圧延コイルの焼なまし工程におけるヒートパターンおよび調質圧延の伸び率は、表2に示すように設定した。熱間圧延コイルの焼なまし後の硬さHRB、調質圧延後の硬さHRB、炭化物の平均粒径、剪断破面率の測定結果、表面光沢の評価結果およびプレス成形加工における成形加工性の評価結果を表3に示す。成形加工性の評価基準は、前記表1と同一に設定した。
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
表3から、実施例1は比較例1に比べて、炭化物の平均粒径が大きく、熱間圧延コイルの焼なまし後の硬さHRBおよび調質圧延後の硬さHRBが低いことが判る。また、実施例1の剪断破面率は比較例1よりも大きく、2次剪断の発生しない水準であることが判る。また、表面光沢は実施例1および比較例1とも良好であることが判る。さらに、実施例1は、加工割れの発生が全く認められず、成形加工性が良好であることが判る。これに対して、比較例1は加工割れの発生が認められ、成形加工性が不良であることが判る。したがって、実施例1は比較例1よりも優れた品質特性を有している。このように、本発明によれば優れた成形加工性および表面光沢を有し、かつ平滑な剪断切口面を有するマルテンサイト系ステンレス鋼板およびその製造方法を提供することができる。
【0048】
【発明の効果】
以上のように請求項1記載の本発明によれば、炭化物が球状であり、平均炭化物粒径が充分に大きく、さらに硬さが充分に低いので、プレス成形加工時における加工割れの発生を防止することができる。これによって、マルテンサイト系ステンレス鋼板を従来の炭素鋼板に代わって加工の厳しい用途に適用することが可能となり、炭素鋼板で必要であった防錆および表面光沢向上のための表面処理工程を省略することができる。したがって、製造所要日数を短縮することが可能となり、納期短縮ならびにコストダウンを図ることができる。
【0049】
また請求項2記載の本発明によれば、剪断切口面には平滑な剪断面が充分に形成されるので、切口面の粗さを小さく平滑にすることができ、寸法精度を向上することができる。したがって、マルテンサイト系ステンレス鋼板を精密打抜製品に適用することが可能となる。
【0050】
また請求項3記載の本発明によれば、γ域とα域との間で加熱冷却を複数回繰返す焼なましが行われるので、γ域における炭化物の球状化とα域における炭化物の成長とを促進させることができ、炭化物の平均粒径を大きくすることができる。
【0051】
また請求項4記載の本発明によれば、マルテンサイト系ステンレス鋼板が光輝焼鈍または焼鈍酸洗によって仕上げられるので、調質圧延を省略することができる。したがって、加工硬化による硬さの増加を防止することができ、軟質なマルテンサイト系ステンレス鋼板を製造することができる。また、光輝焼鈍と焼鈍酸洗とが選択的に選ばれるので、異なる表面光沢を有するマルテンサイト系ステンレス鋼板を製造することができる。したがって、表面光沢に関する多様な要求に充分対応することができる。
【0052】
また請求項5記載の本発明によれば、調質圧延が行われるので、表面光沢を向上させることができ、表面光沢に関する高度な要求に充分に対応することができる。また調質圧延の伸び率が充分に低く設定されるので、マルテンサイト系ステンレス鋼板の加工硬化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の一形態であるマルテンサイト系ステンレス鋼板1の電子顕微鏡組織を示す拡大像である。
【図2】剪断加工製品の剪断切口面の構成を簡略化して示す断面図である。
【図3】ステンレス鋼板の局部伸びと剪断破面率との関係を示すグラフである。
【図4】図1に示すマルテンサイト系ステンレス鋼板1の製造工程を簡略化して示す図である。
【図5】焼なまし工程におけるヒートパターンの一例を簡略化して示す図である。
【図6】調質圧延の伸び率と硬さHRBとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 マルテンサイト系ステンレス鋼板
3 素地鋼
4 炭化物
5 剪断切口面
7 剪断面
8 破断面
Claims (5)
- 質量%でCr:11.00〜18.00%,C:0.15〜0.40%,Si:1.0%以下,Mn:1.0%以下,P:0.040%以下,S:0.03%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物から成り、
平均粒径が1.0μm以上である大略的に球状の炭化物を含み、さらに、
日本工業規格Z2245に規定されたロックウェル硬さBスケールの硬さ値HRBが85以下であることを特徴とするマルテンサイト系ステンレス鋼板。 - 焼なまし状態で剪断加工され、その後、プレス成形加工され、さらに焼入焼戻しされるマルテンサイト系ステンレス鋼板であって、
剪断加工されたマルテンサイト系ステンレス鋼板の剪断切口面には、平滑な剪断面が剪断切口面全体に対して30%以上の面積割合になるように形成されることを特徴とする請求項1記載のマルテンサイト系ステンレス鋼板。 - 質量%で、Cr:11.00〜18.00%,C:0.15〜0.40%,Si:1.0%以下,Mn:1.0%以下,P:0.040%以下,S:0.03%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物から成るマルテンサイト系ステンレス溶鋼を溶製して連続鋳造し、連続鋳造された鋳片をAr3点以上の熱延仕上げ温度で熱間圧延してコイル状に巻取り、巻取った熱間圧延コイルをコイル状のまま焼鈍炉に装入し、熱間圧延コイルにAc1点超の予め定める温度とAr1点未満の予め定める温度との間で加熱冷却を複数回繰返す焼なましを行うことを特徴とするマルテンサイト系ステンレス鋼板の製造方法。
- 前記焼なまし後、脱スケール、冷間圧延を行い、さらに光輝焼鈍または焼鈍酸洗を行うことを特徴とする請求項3記載のマルテンサイト系ステンレス鋼板の製造方法。
- 前記光輝焼鈍または焼鈍酸洗を行った後、伸び率0.2%以下で調質圧延を行うことを特徴とする請求項4記載のマルテンサイト系ステンレス鋼板の製造方法。
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