JP2022064241A - 鋼板及びその製造方法、並びに、部材 - Google Patents

鋼板及びその製造方法、並びに、部材 Download PDF

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Abstract

【課題】せん断端面を有するとともに、高強度であり、かつ、耐遅れ破壊特性にも優れる鋼板を提供する。【解決手段】次式(1)を満足させ、母材領域の硬さに対する加工領域の硬さの比率を120%以下にする。0<S/t2≦0.012 ・・・(1)ここで、S:せん断端面に垂直でかつ板厚方向に平行な面における加工領域の面積(mm2)t:鋼板の板厚(mm)である。【選択図】図1

Description

本発明は、自動車用の部品等に用いられる鋼板及びその製造方法、並びに、該鋼板を用いてなる部材に関する。
近年、地球環境保全の観点から、CO2排出量の抑制を目的として自動車のさらなる燃費改善が求められている。自動車の燃費改善には、部品の薄肉化による自動車の軽量化が有効である。そのため、近年、自動車用の部品に対する高強度鋼板の使用量が増加しつつある。
しかし、高強度鋼板を使用した部品では、一般的に耐遅れ破壊特性の劣化が懸念される。ここで、遅れ破壊とは、応力が加わった状態で部品が水素侵入環境下に置かれたときに、水素が部品を構成する鋼板内に侵入し、原子間結合力を低下させることや局所的な変形を生じさせることで微小亀裂が生じ、その微小亀裂が進展することで破壊に至る現象である。
特に、自動車用の部品は、通常、鋼板をせん断加工により所定の大きさに切り取ったのち、所定形状にプレス加工等して製造される。せん断加工により切断された鋼板の端面(以下、せん断端面ともいう)では、せん断加工時に導入される歪による残留応力が大きく、この残留応力が遅れ破壊の発生を招く要因の1つとなる。
このようなせん断端面を有する鋼板の遅れ破壊を抑制する技術として、例えば、特許文献1には、
「高強度鋼板からなる金属板のせん断加工方法であって、
金属板の少なくとも一部の端部に対し2度せん断加工を施し、
上記2度せん断加工のうちの2度目のせん断加工の切り代を、上記金属板の板厚の1.2倍以上20倍未満とすることを特徴とする金属板のせん断加工方法。」
が開示されている。
国際公開2020/145063号
しかし、特許文献1の技術では、遅れ破壊を抑制する効果が見られるものの、その効果は必ずしも十分とは言えず、この点のさらなる改善が求められているのが現状である。
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたものであって、せん断端面を有するとともに、高強度であり、かつ、耐遅れ破壊特性にも優れる鋼板、及び、その製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記の鋼板を用いてなる部材を提供することを目的とする。
さて、発明者らは、上記の目的を達成すべく、鋭意検討を重ねたところ、以下の知見を得た。
(a)せん断端面を有する鋼板における遅れ破壊の発生は、せん断加工により鋼板に歪が導入される領域(以下、加工領域ともいう)の大きさ(広さ)及び歪導入量と相関がある。
(b)特に、加工領域の大きさを鋼板の板厚との関係で一定以下、具体的には、後述する(1)式を満足させ、かつ、歪導入量に比例する加工領域の硬さを、歪が導入されていない母材領域の硬さの1.20倍以下に抑制する、換言すれば、母材領域の硬さに対する加工領域の硬さの比率を120%以下とすることにより、耐遅れ破壊特性が大幅に向上する。
(c)また、上記(b)のような鋼板を得るには、被せん断加工材(以下、被加工材ともいう)となる素材鋼板の(同一の)端面に対し複数回(n回、nは2以上の整数)のせん断加工を施し、最後(n回目)のせん断加工における切り代を、その直前(n-1回目)のせん断加工におけるクリアランス及び素材鋼板の板厚に応じて適正に制御する、具体的には、後述する式(I)~(III)を満足させることが有効であり、これにより、加工領域の大きさ及び歪導入量が大幅に低減され、耐遅れ破壊特性が大幅に向上する。
本発明は、上記の知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.せん断端面を有する鋼板であって、
該鋼板は、該せん断端面を含む加工領域と、母材領域とを有し、
次式(1)を満足し、
該母材領域の硬さに対する該加工領域の硬さの比率が120%以下であり、
引張強さが1180MPa以上である、鋼板。
0<S/t2≦0.012 ・・・(1)
ここで、
S:せん断端面に垂直でかつ板厚方向に平行な面における加工領域の面積(mm2
t:鋼板の板厚(mm)
である。
2.組織全体に対する面積率で、マルテンサイト:40%以上100%以下、フェライト:0%以上60%以下、及び、その他の金属相:5%以下である組織を有し、
前記鋼板の表面から板厚1/4位置までの深さ領域において、円相当直径で4.0μm以上の介在物粒子の個数密度が5個/mm2以上27個/mm2以下である、前記1に記載の鋼板。
3.質量%で、
C:0.05%以上0.60%以下、
Si:0.01%以上2.00%以下、
Mn:0.10%以上3.20%以下、
P:0.050%以下、
S:0.0050%以下、
Al:0.10%以下、及び
N:0.010%以下
を含有し、残部はFe及び不可避的不純物である成分組成を有する、前記1または2に記載の鋼板。
4.前記成分組成が、さらに、質量%で、
Cr:0.50%以下、
Mo:0.15%以下、
V:0.05%以下、
Nb:0.020%以下、
Ti:0.020%以下、
Cu:0.20%以下、
Ni:0.10%以下、
B:0.0020%以下、
Sb:0.10%以下、及び
Sn:0.10%以下のうちから選ばれた少なくとも1種を含有する、前記3に記載の鋼板。
5.被加工材となる素材鋼板を準備する、準備工程と、
該素材鋼板の少なくとも1つの端面にn回のせん断加工を施す、nが2以上の整数である、せん断加工工程と、をそなえ、
該せん断加工工程におけるn回目のせん断加工の切り代T(mm)が、該素材鋼板の板厚t(mm)及びn-1回目のせん断加工におけるクリアランスa(%)との関係で、次式(I)~(III)のいずれかを満足する、鋼板の製造方法。
(I)a>30の場合 0.002×a×t≦T≦0.07×a×t
(II)30≧a>5の場合 0.06×t≦T≦2.1×t
(III)5≧aの場合 0.012×a×t≦T≦0.42×a×t
6.前記素材鋼板が、組織全体に対する面積率で、マルテンサイト:40%以上100%以下、フェライト:0%以上60%以下、及び、その他の金属相:5%以下である組織を有し、
前記素材板材の表面から板厚1/4位置までの深さ領域において、円相当直径で4.0μm以上の介在物粒子の個数密度が5個/mm2以上27個/mm2以下である、前記5に記載の鋼板の製造方法。
7.前記素材鋼板が、質量%で、
C:0.05%以上0.60%以下、
Si:0.01%以上2.00%以下、
Mn:0.10%以上3.20%以下、
P:0.050%以下、
S:0.0050%以下、
Al:0.10%以下、及び
N:0.010%以下
を含有し、残部はFe及び不可避的不純物である成分組成を有する、前記5または6に記載の鋼板の製造方法。
8.前記成分組成が、さらに、質量%で、
Cr:0.50%以下、
Mo:0.15%以下、
V:0.05%以下、
Nb:0.020%以下、
Ti:0.020%以下、
Cu:0.20%以下、
Ni:0.10%以下、
B:0.0020%以下、
Sb:0.10%以下、及び
Sn:0.10%以下のうちから選ばれた少なくとも1種を含有する、前記7に記載の鋼板の製造方法。
9.前記準備工程が、
スラブを加熱して保持する、スラブ加熱工程と、
該スラブを熱間圧延して熱延鋼板とする、熱間圧延工程と、
該熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板とする、冷間圧延工程と、
該冷延鋼板を焼鈍する、焼鈍工程と、
を有し、
該スラブ加熱工程では、
該スラブの表面温度で300℃から1220℃までの温度域の平均加熱速度が0.10℃/s以上であり、
該温度域において、該スラブの表面温度Tsに対する該スラブの中心温度Tcの平均温度比Tc/Tsが0.60以上0.85以下であり、
該スラブの表面温度で1220℃以上での保持時間が30分以上であり、
該焼鈍工程では、
焼鈍温度がAC1点以上、焼鈍時間が30秒以上である、前記5~8のいずれかに記載の鋼板の製造方法。
10.前記1~4のいずれかに記載の鋼板を用いてなる、部材。
本発明によれば、せん断端面を有するとともに、高強度であり、かつ、耐遅れ破壊特性にも優れる鋼板が得られる。そして、特に、本発明の鋼板及び該鋼板を用いてなる部材を自動車用の部品に適用することにより、自動車車体の軽量化を通じて、自動車車体の高性能化が可能となる。
試験片の切断面におけるせん断端面近傍のSEM像の一例である。 加工領域を確定したSEM像の一例である。 確定した加工領域を二値化して表示したSEM像の一例である。
本発明を、以下の実施形態に基づき説明する。
本発明の一実施形態に従う鋼板は、せん断端面を有する鋼板であって、該鋼板は、該せん断端面を含む加工領域と、母材領域とを有する。
ここで、加工領域は、せん断加工により歪が導入された領域であり、その一部にせん断端面を含む。母材領域は、加工領域以外の領域(せん断加工により歪が導入されていない領域)である。なお、加工領域と母材領域は、後述する方法により画定される。また、本発明の一実施形態に従う鋼板では、端面の1つがせん断端面であれば、他の端面は、せん断端面であっても、せん断端面でなくともよい。ここで、端面とは、鋼板の平面部(表面および裏面)以外の面である。また、せん断端面とは、せん断加工により切断された面(端面)である。
そして、本発明の一実施形態に従う鋼板では、次式(1)を満足させ、かつ、母材領域の硬さに対する加工領域の硬さの比率を120%以下とすることが極めて重要である。
0<S/t2≦0.012 ・・・(1)
ここで、
S:せん断端面に垂直でかつ板厚方向に平行な面における加工領域の面積(mm2
t:鋼板の板厚(mm)
である。
0<S/t2≦0.012
上述したとおり、せん断端面を有する鋼板における遅れ破壊の発生は、加工領域の大きさと相関がある。そして、特に、せん断端面を有する鋼板における耐遅れ破壊特性を向上させるには、せん断端面に垂直でかつ板厚方向に平行な面における加工領域の面積S(以下、加工領域の面積Sともいう)を鋼板の板厚tの2乗で除した値である、S/t2(以下、S/t2ともいう)を0.012以下にすることが必要である。S/t2は、好ましくは0.011以下、より好ましくは0.010以下、さらに好ましくは0.009以下である。S/t2の下限については特に限定されるものではないが、せん断端面を有する以上、Sは0にはならないので、S/t2は0超となる。
ここで、加工領域の面積Sは、以下のようにして測定する。
すなわち、せん断端面に垂直でかつ板厚方向に平行な面が露出するように、測定対象物である鋼板を切断し、試験片を採取する。そして、試験片の切断面を鏡面研磨し、ピクリン酸で組織の流れ(メタルフロー)を現出させる。そして、せん断端面近傍の領域を倍率:200倍で走査電子顕微鏡(以下、SEMともいう)により観察する。ついで、図1に示すように、当該切断面のせん断端面から200μm位置において、板厚方向に50μm間隔で基準点を設置する。そして、せん断端面から200μm位置においてそれぞれの基準点から最も近い距離にある組織の流れを特定し、当該組織の流れに沿うように、すなわち、せん断端面から200μm位置における当該組織の流れを通り、かつ、せん断端面に垂直な方向と平行になるように直線(以下、基準線ともいう)を引く。そして、それぞれの組織の流れが基準線から板厚方向に10μmずれた地点(以下、境界基準点ともいう)を、板厚方向に隣接する境界基準点とそれぞれつなげる。そして、これらの境界基準点をつないだ線(以下、境界線ともいう)により、加工領域(境界線~せん断端面までの領域)と母材領域とを確定する。ついで、画定した加工領域のSEM写真を二値化することにより、画定した加工領域の面積を求め、求めた面積を、加工領域の面積Sとする。
なお、参考のため、試験片の切断面におけるせん断端面近傍のSEM像の一例を図1に、加工領域を確定した図の一例を図2に、確定した加工領域を二値化して表示したSEM像の一例を図3にそれぞれ示す。
ここで、測定対象物である鋼板の切断位置は、鋼板を板厚方向に投影したときのせん断端面の投影線(以下、せん断端面の投影線ともいう)の中心位置(両端から等距離となる位置)とすればよい。
また、せん断端面の投影線が接線連続であるものについては、1つのせん断端面とカウントする。
加えて、せん断端面の投影線が直線ではない場合には、投影図において、せん断端面の投影線の両端を結ぶ直線に対して直角になる方向を、せん断端面に垂直な方向とする。なお、せん断端面の投影線が直線の場合には、投影図において、せん断端面の投影線に対して直角になる方向を、せん断端面に垂直な方向とする。また、せん断端面の投影線が略円形のように、測定対象物である鋼板の端面の全周にわたる場合には、測定対象物である鋼板の切断位置を基準位置とする。そして、投影図において、せん断端面の投影線上の基準位置における接線方向に対して直角になる方向を、せん断端面に垂直な方向とする。
なお、せん断端面に垂直な方向は、鋼板の表面と平行、つまり、板厚方向に対して直角になる方向とする。また、せん断端面に垂直でかつ板厚方向に平行な面は、せん断端面に垂直な方向と、板厚方向とを含む面となる。
母材領域の硬さに対する加工領域の硬さの比率:120%以下
上述したとおり、せん断端面における遅れ破壊の発生は、加工領域への歪導入量と相関がある。特に、せん断端面を有する鋼板の耐遅れ破壊特性を向上させるには、歪導入量に比例する加工領域の硬さを、歪が導入されていない母材領域の硬さの1.20倍以下とする、すなわち、母材領域の硬さに対する加工領域の硬さの比率を120%以下にすることが必要である。母材領域の硬さに対する加工領域の硬さの比率は、好ましくは、117%以下、より好ましくは115%以下、さらに好ましくは112%以下である。なお、せん断加工を施すと、歪が導入される領域の硬さは増加するので、母材領域の硬さに対する加工領域の硬さの比率は100%以上になる。
ここで、加工領域の硬さおよび母材領域の硬さは、それぞれ以下のようにして測定する。
すなわち、せん断端面に垂直でかつ板厚方向に平行な面が露出するように、測定対象物である鋼板を切断し、試験片を採取する。そして、試験片の切断面の板厚中心位置(板厚1/2位置)において、せん断端面から20μmおよび1mmの位置で測定したビッカース硬さを、それぞれ加工領域の硬さおよび母材領域の硬さとする。また、ビッカース硬さは、JIS Z 2244(2009)に準拠して測定するものとし、測定荷重はいずれもの場合も10gfとする。
なお、測定対象物である鋼板の切断位置等は、加工領域の面積Sを測定する場合と同様である。
また、2以上のせん断端面を有する鋼板では、それぞれのせん断端面に対して、上掲式(1)を満足させ、かつ、母材領域の硬さに対する加工領域の硬さの比率を120%以下にすることが好適である。
引張強さ(TS):1180MPa以上
本発明の一実施形態に従う鋼板の引張強さは、1180MPa以上である。本発明の一実施形態に従う鋼板の引張強さは、好ましくは1250MPa以上、より好ましくは1300MPa以上、さらに好ましくは1400MPa以上である。なお、本発明の一実施形態に従う鋼板の引張強さの上限は特に限定されないが、他の特性とのバランスの取りやすさの観点およびせん断加工時の刃の損傷を防ぐ観点から、2500MPa以下が好ましい。
また、「耐遅れ破壊特性に優れる」とは、後述する方法により求めた臨界負荷応力が降伏強度(以下、単にYSともいう。)以上であることを意味する。臨界負荷応力は、好ましくは(YS+100)MPa以上、より好ましくは(YS+200)MPa以上である。
ここで、引張強さ(TS)および降伏強度(YS)は、以下のようにして測定する。
すなわち、鋼板の母材領域の板幅中央部から、圧延方向が長手方向となるように、標点間距離50mm、標点間幅25mmのJIS5号試験片を採取する。ついで、採取したJIS5号試験片を用い、JIS Z 2241(2011)の規定に準拠して引張試験を行い、引張強度(TS)及び降伏強度(YS)を測定する。なお、引張速度は10mm/分とする。
また、本発明の一実施形態に従う鋼板の板厚tは、好ましくは0.2mm以上3.2mm以下である。
なお、後述する被加工材となる素材鋼板の板厚は、本発明の一実施形態に従う鋼板の板厚と同じになる。そのため、これらの板厚についてはいずれもtと表記している。
次に、本発明の一実施形態に従う鋼板の好適な組織について説明する。
マルテンサイトの組織全体に対する面積率:40%以上100%以下
TS≧1180MPaの高強度を得るため、マルテンサイトの組織全体に対する面積率(以下、単に面積率ともいう)は40%以上とすることが好ましい。マルテンサイトの面積率が40%未満であると、フェライト、残留オーステナイト、パーライトおよびベイナイトなどの面積率が増加し、強度の低下を招くおそれがある。マルテンサイトの面積率は、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上である。また、マルテンサイトの面積率は100%であってもよい。
なお、ここでいうマルテンサイトは、マルテンサイト変態点(単にMs点ともいう。)以下でオーステナイトから生成した硬質な組織を指し、焼入れままのいわゆるフレッシュマルテンサイトと、フレッシュマルテンサイトが再加熱されて焼戻されたいわゆる焼戻しマルテンサイトの両方を含むものとする。
フェライトの面積率:0%以上60%以下
鋼板の強度を確保する観点から、フェライトの面積率は60%以下とすることが好ましい。フェライトの面積率は、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは40%以下である。また、フェライトの面積率は0%であってもよい。
なお、ここでいうフェライトは、BCC格子の結晶粒からなる組織であり、比較的高温でオーステナイトからの変態により生成する。
その他の金属相の面積率:5%以下
本発明の一実施形態に従う鋼板の組織には、マルテンサイト及びフェライト以外のその他の金属相を含んでいてもよい。ここで、その他の金属相の面積率は5%以下であれば許容される。
その他の金属相としては、例えば、残留オーステナイト、パーライト及びベイナイトが挙げられる。
なお、ここでいう残留オーステナイトとは、マルテンサイト変態せずに残ったオーステナイトである。パーライトとは、フェライトと針状セメンタイトからなる組織である。ベイナイトとは、針状又は板状のフェライト中に微細な炭化物が分散した硬質な組織であり、比較的低温(マルテンサイト変態点以上)でオーステナイトから生成する。
ここで、各相の面積率は以下のようにして測定する。
すなわち、鋼板の母材領域から、圧延方向に平行なL断面が試験面となるように試験片を採取する。ついで、試験片の試験面を鏡面研磨し、ナイタール液で組織現出する。組織現出した試験片の試験面を、SEMにより倍率1500倍で観察し、ポイントカウンティング法により、板厚1/4位置におけるマルテンサイトの面積率及びフェライトの面積率を測定する。また、その他の金属相の面積率は、100%からマルテンサイトの面積率及びフェライトの面積率を減ずることにより算出する。
なお、SEM像では、マルテンサイトは白色の組織を呈している。また、マルテンサイトのうち焼戻しマルテンサイトでは、内部に微細な炭化物が析出している。フェライトは、黒色の組織を呈している。これらの点から、SEM像において各相を識別する。ただし、ブロック粒の面方位とエッチングの程度によっては、内部の炭化物が現出しにくい場合もあるので、その場合はエッチングを十分に行い確認するものとする。
鋼板の表面から板厚1/4位置までの深さ領域における、円相当直径で4.0μm以上の介在物粒子の個数密度:5個/mm2以上27個/mm2以下
鋼板の表面~板厚1/4位置までの深さ領域では、せん断時に大きなひずみが入る。そのため、当該領域における円相当直径で4.0μm以上の介在物粒子(以下、単に粗大介在物粒子ともいう)が多くなると、加工領域が増加し、耐遅れ破壊特性が劣化し易くなる。そのため、粗大介在物粒子の個数密度は27個/mm2以下とすることが好ましい。粗大介在物粒子の個数密度は、より好ましくは25個/mm2以下、さらに好ましくは20個/mm2以下である。
一方、粗大介在物粒子は、せん断加工時の亀裂の進展を促進する役割を果たす。すなわち、粗大介在物粒子の数を過度に減少させると、せん断加工時の亀裂の進展が抑制される。そのため、却って、加工領域が増加し、耐遅れ破壊特性が劣化し易くなる。よって、粗大介在物粒子の個数密度は5個/mm2以上とすることが好ましい。粗大介在物粒子の個数密度は、より好ましくは10個/mm2以上、さらに好ましくは12個/mm2以上である
ここで、粗大介在物粒子の個数密度は以下のようにして測定する。
すなわち、鋼板の母材領域から、圧延方向に平行なL断面が試験面となるように試験片を採取する。ついで、試験片の試験面を鏡面研磨し、ナイタール液で組織現出する。組織現出した試験片の試験面を、走査電子顕微鏡(SEM)により倍率5000倍で観察し、表面から板厚1/4位置までを連続的に撮影する。そして、得られたSEM像を二値化し、白色を呈している各介在物粒子の面積を測定し、次式により各介在物粒子の円相当直径を算出する。
[介在物粒子の円相当直径(μm)]
=([介在物粒子の面積(μm2)]÷π)0.5×2
そして、SEM像で観察された円相当直径で4.0μm以上の介在物粒子の個数をカウントし、カウントした円相当直径で4.0μm以上の介在物粒子の個数をSEM像による観察範囲の面積で除することにより、粗大介在物粒子の個数密度を算出する。
次に、本発明の一実施形態に従う鋼板の好適な成分組成について説明する。なお、成分組成における単位はいずれも「質量%」であるが、以下、特に断らない限り、単に「%」で示す。
本発明の一実施形態に従う鋼板の好適な成分組成は、
C:0.05%以上0.60%以下、
Si:0.01%以上2.00%以下、
Mn:0.10%以上3.20%以下、
P:0.050%以下、
S:0.0050%以下、
Al:0.10%以下、及び
N:0.010%以下
を含有し、
さらに、任意に、
Cr:0.50%以下、
Mo:0.15%以下、
V:0.05%以下、
Nb:0.020%以下、
Ti:0.020%以下、
Cu:0.20%以下、
Ni:0.10%以下、
B:0.0020%以下、
Sb:0.10%以下、及び
Sn:0.10%以下
のうちから選ばれた少なくとも1種を含有し、残部がFe及び不可避的不純物である。
C:0.05%以上0.60%以下
Cは、鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、所定量のマルテンサイトを確保するために有効な元素である。また、Cは、マルテンサイトの強度を上昇させ、所定の強度を確保する観点からも有効な元素である。そのため、優れた耐遅れ破壊特性を得つつ、所定の強度を得る観点から、C含有量は0.05%以上とすることが好ましい。なお、TS≧1250MPaを得る観点からは、C含有量は0.11%以上とすることがより好ましい。また、TS≧1300MPaを得る観点からは、C含有量は0.125%以上とすることがさらに好ましい。一方、C含有量が0.60%を超えると、強度が過度に高まる。したがって、C含有量は0.60%以下とすることが好ましい。C含有量は、より好ましくは0.50%以下、さらに好ましくは0.40%以下である。
Si:0.01%以上2.00%以下
Siは、固溶強化により鋼板の強度を高める元素である。このような効果を十分に得るには、Si含有量は0.01%以上とすることが好ましい。Si含有量は、より好ましくは0.02%以上、さらに好ましくは0.03%以上である。一方、Si含有量が多くなり過ぎると、板厚方向に粗大なMnSが生成し易くなる。これにより、せん断加工時に歪が導入され易くなり、加工領域が増加して耐遅れ破壊特性が劣化するおそれがある。したがって、Si含有量は2.00%以下とすることが好ましい。Si含有量は、より好ましくは1.70%以下、さらに好ましくは1.50%以下である。
Mn:0.10%以上3.20%以下
Mnは、鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、所定量のマルテンサイトを確保するために有効な元素である。ここで、Mn含有量が0.10%未満では、鋼板の表層部にフェライトが生成し、強度が低下する傾向にある。したがって、Mn含有量は0.10%以上とすることが好ましい。Mn含有量は、より好ましくは0.20%以上、さらに好ましくは0.30%以上である。一方、Mnは、MnSの生成・粗大化を特に助長する元素である。特に、Mn含有量が3.20%を超えると、粗大なMnSの生成量が増加する。これにより、せん断加工時に歪が導入され易くなり、加工領域が増加して耐遅れ破壊特性が劣化するおそれがある。したがって、Mn含有量は3.20%以下とすることが好ましい。Mn含有量は、より好ましくは3.00%以下、さらに好ましくは2.80%以下である。
P:0.050%以下
Pは、鋼を強化する元素である。しかし、P含有量が多くなると、Pが粒界に偏析する。これにより、せん断加工時に歪が導入され易くなり、加工領域が増加して耐遅れ破壊特性が劣化するおそれがある。したがって、P含有量は0.050%以下が好ましい。P含有量は、より好ましくは0.030%以下、さらに好ましくは0.010%以下である。なお、P含有量の下限は特に限定されるものではないが、好適には0.003%程度である。
S:0.0050%以下
Sは、MnS、TiS、Ti(C、S)等の介在物を形成し、耐遅れ破壊特性を劣化させる元素である。このような耐遅れ破壊特性が劣化を抑制する観点から、S含有量は0.0050%以下とすることが好ましい。S含有量は、より好ましくは0.0020%以下、さらに好ましくは0.0010%以下、よりさらに好ましくは0.0005%以下である。なお、S含有量の下限は特に限定されるものではないが、好適には0.0002%程度である。
Al:0.10%以下
Alは、十分な脱酸を行い、鋼中の粗大な介在物を低減するために添加される。その効果を十分に得る観点から、Al含有量は0.005%以上とすることが好ましい。Al含有量は、より好ましくは0.010%以上である。一方、Al含有量が0.10%超になると、熱間圧延後の巻取り時に生成したセメンタイトなどのFeを主成分とする炭化物が焼鈍工程で固溶しにくくなり、粗大な介在物や炭化物が生成する傾向がある。その結果、鋼板の強度が低下するおそれがある。また、せん断加工時に歪が導入され易くなり、加工領域が増加して耐遅れ破壊特性が劣化するおそれがある。したがって、Al含有量は0.10%以下とすることが好ましい。Al含有量は、より好ましくは0.08%以下、さらに好ましくは0.06%以下である。
N:0.010%以下
Nは、鋼中でTiN、(Nb、Ti)(C、N)、AlN等の窒化物、炭窒化物系の粗大介在物を形成する元素である。すなわち、Nが過剰に含有されていると、粗大介在物の生成により耐遅れ破壊特性が劣化するおそれがある。このような耐遅れ破壊特性の劣化を防止する観点から、N含有量は0.010%以下とすることが好ましい。N含有量は、より好ましくは0.007%以下、さらに好ましくは0.005%以下である。なお、N含有量の下限は特に限定されるものではないが、好適には0.0003%程度である。
以上、本発明の一実施形態に従う鋼板の基本成分組成について説明したが、さらに、
Cr:0.50%以下、
Mo:0.15%以下、
V:0.05%以下、
Nb:0.020%以下、
Ti:0.020%以下、
Cu:0.20%以下、
Ni:0.10%以下、
B:0.0020%以下、
Sb:0.10%以下、及び
Sn:0.10%以下
のうちから選ばれた少なくとも1種の任意添加元素、例えば、
Cr:0.50%以下、Mo:0.15%以下及びV:0.05%以下のうちから選ばれた少なくとも1種、
Nb:0.020%以下及びTi:0.020%以下のうちから選ばれた少なくとも1種、
Cu:0.20%以下及びNi:0.10%以下のうちから選ばれた少なくとも1種、
B:0.0020%以下、並びに/又は
Sb:0.10%以下及びSn:0.10%以下のうちから選ばれた少なくとも1種、
を含有させることができる。
なお、任意添加元素を好適な下限値未満で含む場合、当該元素は不可避的不純物として含まれるものとする。
Cr:0.50%以下
Crは、鋼の焼入れ性の向上効果を得る目的で含有させることができる。このような効果を得るには、Cr含有量は0.01%以上とすることが好ましい。Cr含有量は、より好ましくは0.02%以上、さらに好ましくは0.03%以上である。一方、Cr含有量が多くなりすぎると、炭化物が粗大化する。これにより、せん断加工時に歪が導入され易くなり、加工領域が増加して耐遅れ破壊特性が劣化するおそれがある。そのため、Cr含有量は0.50%以下とすることが好ましい。Cr含有量は、より好ましくは0.10%以下である。
Mo:0.15%以下
Moは、Crと同様、鋼の焼入れ性の向上効果を得る目的で含有させることができる。このような効果を得るには、Mo含有量は0.01%以上とすることが好ましい。Mo含有量は、より好ましくは0.02%以上、さらに好ましくは0.03%以上である。一方、Mo含有量が多くなりすぎると、炭化物が粗大化する。これにより、せん断加工時に歪が導入され易くなり、加工領域が増加して耐遅れ破壊特性が劣化するおそれがある。そのため、Mo含有量は0.15%以下とすることが好ましい。Mo含有量は、より好ましくは0.10%以下である。
V:0.05%以下
Vは、Cr及びMoと同様、鋼の焼入れ性の向上効果を得る目的で含有させることができる。このような効果を得るには、V含有量は0.001%以上とすることが好ましい。V含有量は、より好ましくは0.002%以上、さらに好ましくは0.003%以上である。一方、V含有量が多くなりすぎると、炭化物が粗大化する。これにより、せん断加工時に歪が導入され易くなり、加工領域が増加して耐遅れ破壊特性が劣化するおそれがある。そのため、V含有量は0.05%以下とすることが好ましい。V含有量は、より好ましくは0.04%以下、さらに好ましくは0.03%以下である。
Nb:0.020%以下
Nbは、旧γ粒の微細化により高強度化に寄与する元素である。このような効果を得るためには、Nb含有量を0.001%以上とすることが好ましい。Nb含有量は、より好ましくは0.002%以上、さらに好ましくは0.003%以上である。一方、Nb含有量が過剰になると、熱間圧延工程のスラブ加熱時に未固溶で残存するNbN、Nb(C、N)、(Nb、Ti)(C、N)等のNb系の粗大な析出物が増加する。これにより、せん断加工時に歪が導入され易くなり、加工領域が増加して耐遅れ破壊特性が劣化するおそれがある。そのため、Nb含有量は0.020%以下とすることが好ましい。Nb含有量は、より好ましくは0.015%以下、さらに好ましくは0.010%以下である。
Ti:0.020%以下
Tiは、Nbと同様、旧γ粒の微細化により高強度化に寄与する元素である。このような効果を得るためには、Ti含有量を0.001%以上とすることが好ましい。Ti含有量は、より好ましくは0.002%以上、さらに好ましくは0.003%以上である。一方、Ti含有量が過剰になると、熱間圧延工程のスラブ加熱時に未固溶で残存するTiN、Ti(C、N)、Ti(C、S)、TiS等のTi系の粗大な析出物が増加する。これにより、せん断加工時に歪が導入され易くなり、加工領域が増加して耐遅れ破壊特性が劣化するおそれがある。そのため、Ti含有量は0.020%以下とすることが好ましい。Ti含有量は、より好ましくは0.015%以下、さらに好ましくは0.010%以下である。
Cu:0.20%以下
Cuは、自動車の使用環境での耐食性を向上させ、かつ腐食生成物が鋼板表面を被覆して鋼板への水素侵入を抑制する効果がある。この効果を得るため、Cu含有量は0.001%以上とすることが好ましい。Cu含有量は、より好ましくは0.002%以上である。一方、Cu含有量が過剰になると、表面欠陥の発生を招き、めっき性や化成処理性を劣化させる。そのため、Cu含有量は0.20%以下とすることが好ましい。Cu含有量は、より好ましくは0.15%以下、さらに好ましくは0.10%以下である。
Ni:0.10%以下
Niは、Cuと同様、自動車の使用環境での耐食性を向上させ、かつ腐食生成物が鋼板表面を被覆して鋼板への水素侵入を抑制する効果がある。このような効果を得るためには、Ni含有量を0.001%以上とすることが好ましい。Ni含有量は、より好ましくは0.002%以上である。一方、Ni含有量が過剰になると、表面欠陥の発生を招き、めっき性や化成処理性を劣化させる。そのため、Ni含有量は0.10%以下とすることが好ましい。Ni含有量は、より好ましくは0.08%以下、さらに好ましくは0.06%以下である。
B:0.0020%以下
Bは、鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、所定量のマルテンサイトを確保するために有効な元素である。このような効果を得るためには、B含有量を0.0001%以上にすることが好ましい。B含有量は、より好ましくは0.0002%以上、さらに好ましくは0.0003%以上である。一方、B含有量が0.0020%超になると、焼鈍時のセメンタイトの固溶速度を低下させ、未固溶のセメンタイトなどのFeを主成分とする炭化物が残存することとなる。これにより、せん断加工時に歪が導入され易くなり、加工領域が増加して耐遅れ破壊特性が劣化するおそれがある。したがって、B含有量は0.0020%以下とすることが好ましい。B含有量は、より好ましくは0.0015%以下、さらに好ましくは0.0010%以下である。
Sb:0.10%以下
Sbは、鋼板表層部での酸化や窒化を抑制し、ひいては鋼板表層部での酸化や窒化に伴う鋼中のCやBの低減を抑制する。また、Sbは、鋼板表層部でのフェライト生成を抑制し、高強度化に寄与する。このような効果を得るためには、Sb含有量を0.002%以上とすることが好ましい。Sb含有量は、より好ましくは0.003%以上、さらに好ましくは0.004%以上である。一方、Sb含有量が0.10%を超えると、旧γ粒界にSbが偏析する。これにより、せん断加工時に歪が導入され易くなり、加工領域が増加して耐遅れ破壊特性が劣化するおそれがある。したがって、Sb含有量は0.10%以下とすることが好ましい。Sb含有量は、より好ましくは0.08%以下、さらに好ましくは0.06%以下である。
Sn:0.10%以下
Snは、Sbと同様、鋼板表層部での酸化や窒化を抑制し、ひいては鋼板表層部での酸化や窒化に伴う鋼中のCやBの低減を抑制する。また、Snは、鋼板表層部でのフェライト生成を抑制し、高強度化に寄与する。このような効果を得るためには、Sn含有量を0.002%以上とすることが好ましい。Sn含有量は、より好ましくは0.003%以上、さらに好ましくは0.004%以上である。一方、Sn含有量が0.10%を超えると、旧γ粒界にSnが偏析する。これにより、せん断加工時に歪が導入され易くなり、加工領域が増加して耐遅れ破壊特性が劣化するおそれがある。したがって、Sn含有量は0.10%以下とすることが好ましい。Sn含有量は、より好ましくは0.08%以下、さらに好ましくは0.06%以下である。
上記の元素以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
なお、本発明の一実施形態に従う鋼板は、めっき層を有していてもよい。めっき層としては、例えば、Zn系めっきやAl系めっきなどが挙げられる。
次に、本発明の一実施形態に従う鋼板の製造方法について説明する。
本発明の一実施形態に従う鋼板の製造方法は、
被加工材となる素材鋼板を準備する、準備工程と、
該素材鋼板の少なくとも1つの端面にn回のせん断加工を施し、nが2以上の整数である、せん断加工工程と、をそなえる。
・準備工程
被加工材となる素材鋼板としては、例えば、
組織全体に対する面積率で、マルテンサイト:40%以上100%以下、フェライト:0%以上60%以下、及び、その他の金属相:5%以下である組織を有し、
前記素材板材の表面から板厚1/4位置までの深さ領域において、円相当直径で4.0μm以上の介在物粒子の個数密度が5個/mm2以上27個/mm2以下である、鋼板が好適である。このような鋼板を使用することにより、後述するせん断加工工程で形成される加工領域をより有利に低減できる。
また、被加工材となる素材鋼板としては、上述した成分組成を有する鋼板が好適である。
このような素材鋼板は、例えば、
スラブを加熱して保持する、スラブ加熱工程と、
該スラブを熱間圧延して熱延鋼板とする、熱間圧延工程と、
該熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板とする、冷間圧延工程と、
該冷延鋼板を焼鈍する、焼鈍工程と、
を有し、
該スラブ加熱工程では、
該スラブの表面温度で300℃から1220℃までの温度域の平均加熱速度が0.10℃/s以上であり、
該温度域において、該スラブの表面温度Tsに対する該スラブの板厚中心温度Tcの平均温度比Tc/Tsが0.60以上0.85以下であり、
該スラブの表面温度で1220℃以上での保持時間が30分以上であり、
該焼鈍工程では、
焼鈍温度がAC1点以上、焼鈍時間が30秒以上である、素材鋼板の製造方法により、準備することができる。
以下、上記の素材鋼板の製造方法におけるスラブ加熱工程及び焼鈍工程の好適条件について説明する。
スラブの表面温度で300℃から1220℃までの温度域の平均加熱速度:0.10℃/s以上
鋼板の表面から板厚1/4位置までの深さ領域における、円相当直径で4.0μm以上の介在物粒子の個数密度を所定の範囲に制御するには、スラブの表面温度で300℃から1220℃までの温度域の平均加熱速度(以下、平均加熱速度ともいう)は速い方が好ましく、特には0.10℃/s以上とすることが好ましい。平均加熱速度は、より好ましくは0.11℃/s以上、さらに好ましくは0.12℃/s以上である。平均加熱速度の上限は特に限定しないが、好適には0.17℃/s以下である。
スラブの表面温度で300℃から1220℃までの温度域における、スラブの表面温度Tsに対するスラブの板厚中心温度Tcの平均温度比Tc/Ts:0.60以上0.85以下
スラブの加熱中、特にスラブの表面温度で300℃から1220℃までの温度域において、スラブ表面に対してスラブの板厚中心部での加熱速度を遅くすることにより、スラブの板厚中心部において粗大介在物粒子の生成を促進させることができる。また、その一方で、スラブ表面~板厚1/4位置での粗大介在物粒子の生成を抑制することができる。すなわち、スラブの表面温度Tsに対するスラブの板厚中心温度Tcの平均温度比Tc/Ts(以下、Tc/Tsともいう)を小さくするほど、スラブ表面~板厚1/4位置での粗大介在物粒子の生成を抑制することが可能となる。そのため、Tc/Tsは0.85以下とすることが好ましい。Tc/Tsは、より好ましくは0.83以下、さらに好ましくは0.80以下である。一方、Tc/Tsが小さくなりすぎると、スラブ表面~板厚1/4位置での粗大介在物粒子の生成が過度に抑制され、粗大介在物粒子の個数密度が5個/mm2未満となる。その結果、却って耐遅れ破壊特性が劣化する。したがって、Tc/Tsは0.60以上とすることが好ましい。Tc/Tsは、より好ましくは0.65以上、さらに好ましくは0.70以上である。
ここで、Tc/Tsは以下のようにして算出する。
スラブの長手方向および幅方向の中心位置に、板厚中心に届くように微小な穴を開け、板厚中心位置に温度測定センサを埋め込むことにより、スラブ加熱中の板厚中心温度(Tc)を測定する。また、熱電対または非接触の放射温度計により、スラブ加熱中の表面温度(Ts)を測定する。そして、スラブ加熱中のスラブの表面温度(Ts)が300℃から1220℃になるまでのTc及びTsの時間積分値を算出し、Tcの時間積分値をTsの時間積分値で除した値を、Tc/Tsとする。
スラブの表面温度で1220℃以上での保持時間:30分以上
スラブの表面温度で1220℃以上での保持時間(以下、スラブ保持時間ともいう)が長いほど、未固溶で残っていた粗大介在物が溶解し易くなる。そのため、スラブ保持時間は30分以上とすることが好ましい。スラブ保持時間は、より好ましくは60分以上、さらに好ましくは90分以上である。また、スラブ保持時間の上限は、粗大介在物をわずかに残してせん断加工時の亀裂進展を促進し、加工領域を低減する観点から、180分以下とすることが好ましい。
焼鈍温度:AC1点以上
焼鈍温度がAC1点未満では、オーステナイトが生成せず、所定量のマルテンサイトを生成させること、ひいては所望の強度を得ることが困難となる。したがって、焼鈍温度はAC1点以上とすることが好ましい。焼鈍温度は、より好ましくは(AC1点+10℃)以上である。焼鈍温度の上限は特に限定されないが、焼鈍温度の上昇に伴いオーステナイト粒径が増加すると、マルテンサイト以外の金属相が生成する。そのため、焼鈍温度は900℃以下とすることが好ましい。
なお、AC1点は次式により算出する。
C1点(℃)=723+22(%Si)-18(%Mn)+17(%Cr)+4.5(%Mo)+16(%V)
式中、(%元素記号)は、各元素の含有量(質量%)である。
焼鈍時間:30秒以上
焼鈍温度での保持時間(以下、焼鈍時間ともいう)が30秒未満となると、炭化物の溶解が十分に進行しないために、これ以降の工程で熱処理を行う場合に残存している炭化物が粗大化する。これにより、せん断加工時に歪が導入され易くなり、加工領域が増加して耐遅れ破壊特性が劣化するおそれがある。また、オーステナイト変態が十分に進行しないために、所定量のマルテンサイトを生成させること、ひいては所望の強度を得ることが困難となる。したがって、焼鈍時間は30秒以上とすることが好ましい。焼鈍時間は、より好ましくは35秒以上である。焼鈍時間の上限は特に限定されないが、オーステナイト粒径の粗大化を抑制する観点から、焼鈍時間は900秒以下とすることが好ましい。
なお、焼鈍温度は、保持中、一定であってもよく、また、上記の温度範囲内にあれば、保持中、常に一定としなくてもよい。スラブの保持についても同様である。
また、スラブの成分組成は、上記の成分組成とすることが好適である。
なお、上記以外の各工程の条件については特に限定されず、常法に従えばよい。
例えば、熱間圧延工程では、仕上げ圧延温度を840℃以上、巻取り温度を630℃以下とすることが好ましい。
仕上げ圧延温度が840℃未満では、温度の低下に時間がかかり、介在物及び粗大炭化物が生成して耐遅れ破壊特性を劣化させるおそれがある。また、鋼板の内部の品質も低下するおそれがある。したがって、仕上げ圧延温度は840℃以上が好ましい。仕上げ圧延温度は、より好ましくは860℃以上である。なお、仕上げ圧延温度の上限は特に限定されないが、後工程である巻取り温度までの冷却が困難になるため、仕上げ圧延温度は950℃以下が好ましい。仕上げ圧延温度は、より好ましくは920℃以下である。
また、巻取り温度が630℃超になると、地鉄表面が脱炭する可能性があり、鋼板内部と表面で組織差が生じ、合金濃度ムラの原因となるおそれがある。また、脱炭により表層にフェライトが生成し、強度が低下するおそれがある。したがって、巻取り温度は630℃以下が好ましい。巻取り温度は、より好ましくは600℃以下である。巻取り温度の下限は特に限定されないが、冷間圧延性の低下を防ぐために、巻取り温度は500℃以上が好ましい。
さらに、巻取り後の熱延鋼板を酸洗してもよい。酸洗条件は特に限定されず、常法に従えばよい。加えて、巻取り後の熱延鋼板に、組織軟質化のための熱処理を施してもよい。
また、冷間圧延工程では、圧下率を20%以上とすることが好ましい。圧下率が20%未満の場合、表面の平坦度が悪く、組織が不均一となるおそれがあるためである。
加えて、焼鈍工程の後に、焼戻し処理を行ってもよい。また、鋼板にZn系めっきやAl系めっきなどのめっき処理を施してもよい。さらに、焼鈍工程の後、または、めっき処理後に、鋼板に形状調整のための調質圧延を施してもよい。
・せん断加工工程
ついで、上記のようにして準備した素材鋼板の少なくとも1つの端面にn回のせん断加工を施す。
ここで、nは2以上の整数である。nの上限については特に限定されるものではないが、後述するように、最後のせん断加工条件をその直前のせん断加工条件に応じて適正に制御すれば、それ以前のせん断加工条件は耐遅れ破壊特性に影響を及ぼさない。そのため、nは小さい方が好ましく、好適には、nは3以下である。
そして、本発明の一実施形態に従う鋼板の製造方法では、最後(n回目)のせん断加工における切り代Tを、その直前(n-1回目)のせん断加工におけるクリアランスa及び素材鋼板の板厚tに応じて適正に制御する、具体的には、次式(I)~(III)を満足させることが重要である。
(I)a>30の場合 0.002×a×t≦T≦0.07×a×t
(II)30≧a>5の場合 0.06×t≦T≦2.1×t
(III)5≧aの場合 0.012×a×t≦T≦0.42×a×t
すなわち、一般的な条件でせん断加工を行うと、せん断端面の近傍に加工領域が形成される。そのため、最後(n回目)のせん断加工の際の切り代を調整し、n-1回目までのせん断加工により生じた加工領域を素材鋼板の板厚tに応じて除去する(切り落とす)ことが重要である。ただし、最後(n回目)のせん断加工の際の切り代が大きくなりすぎると、当該せん断加工によって、加工領域が形成されるとともに、当該加工領域の硬さが上昇する。
また、n-1回目のせん断加工におけるクリアランスが30≧a>5の場合、当該クリアランスの影響による加工領域の増減はごくわずかである。そのため、この場合には、素材鋼板の板厚tのみに応じてn回目のせん断加工における切り代Tを制御する。
一方、n-1回目のせん断加工におけるクリアランスが比較的大きい場合、具体的には、a>30の場合、n-1回目のせん断加工で導入される加工領域が(30≧a>5の場合と比較して)相対的に大きくなる。また、クリアランスに応じて当該加工領域が増加する。そのため、素材鋼板の板厚tに加え、クリアランスに応じて、n回目のせん断加工における切り代Tを制御する(大きくする)ことが必要である。
また、n-1回目のせん断加工におけるクリアランスが比較的小さい場合、具体的には、5≧aの場合、n-1回目のせん断加工で導入される加工領域が(30≧a>5の場合と比較して)相対的に小さくなる。また、クリアランスに応じて当該加工領域が減少する。そのため、素材鋼板の板厚tに加え、クリアランスに応じて、n回目のせん断加工における切り代Tを制御する(小さくする)ことが必要である。
以上のことから、n回目のせん断加工における切り代Tを、その直前のn-1回目のせん断加工におけるクリアランスa及び素材鋼板の板厚tに応じて、上掲式(I)~(III)を満足するように制御することが重要となる。
なお、最後(n回目)のせん断加工の際にも加工領域は形成されるが、上掲式(I)~(III)の上限値内の切り代とする、換言すれば、n回目のせん断加工の切断位置をn-1回目のせん断加工において形成された加工領域と母材領域の境界近傍に設定することによって、切り代が大きい通常のせん断加工に比べて最後(n回目)のせん断加工の際に形成される加工領域の範囲は大幅に縮小される。
すなわち、切り代が大きい通常のせん断加工では、ポンチの上刃から生じた亀裂は下刃に向かって(ポンチの上刃と下刃をつなぐ直線に沿って)板厚方向に進行する。一方、n回目のせん断加工のように、切断位置がn-1回目のせん断加工において形成された加工領域と母材領域の境界近傍になると、ポンチ上刃の直下では、n-1回目のせん断加工により導入された歪の影響等により圧縮応力が高くなる。そのため、n回目のせん断加工により生じる亀裂は、高い圧縮応力場を避けようとポンチの上刃と下刃をつなぐ直線より母材側へ食い込み、その後、下刃へ向かって進行する。その結果、n-1回目のせん断加工において形成された加工領域と、n回目のせん断加工時に形成される加工領域の一部とが同時に取り除かれる。そのため、最後(n回目)のせん断加工の際に形成される加工領域の範囲は、切り代が大きい通常のせん断加工(n-1回目以前のせん断加工)の際に形成される加工領域の範囲に比べて大幅に縮小される。
ここで、上掲式(I)の下限値は、好ましくは0.0023×a×t、より好ましくは0.003×a×t、さらに好ましくは0.0033×a×tである。
上掲式(I)の上限値は、好ましくは0.053×a×t、より好ましくは0.04×a×t、さらに好ましくは0.027×a×tである。
上掲式(II)の下限値は、好ましくは0.07×t、より好ましくは0.09×t、さらに好ましくは0.10×tである。
上掲式(II)の上限値は、好ましくは1.6×t、より好ましくは1.2×t、さらに好ましくは0.8×tである。
上掲式(III)の下限値は、好ましくは0.014×a×t、より好ましくは0.018×a×t、さらに好ましくは0.020×a×tである。
上掲式(III)の上限値は、好ましくは0.32×a×t、より好ましくは0.24×a×t、さらに好ましくは0.16×a×tである。
ここで、n回目のせん断加工における切り代Tは、鋼板を板厚方向に投影したときの、n-1回目のせん断加工によるせん断端面の投影線の中心位置(両端から等距離となる位置)と、n回目のせん断加工によるせん断端面の投影線の中心位置(両端から等距離となる位置)の距離とする。他の回のせん断加工における切り代も同様である。
また、クリアランスa(%)は、次式により算出する。
a=L/t × 100
ここで、
L:上刃(可動刃)と下刃(固定刃)の隙間(mm)
である。
より具体的には、(せん断加工に使用する切断装置の)上刃と下刃の隙間Lをノギス等の測定治具を用いて測定し、測定したLを素材鋼板の板厚t(mm)で除することにより求める。
なお、上記以外の条件については特に限定されず、常法に従えばよい。
例えば、n回目のせん断加工におけるクリアランスは5%以上30%以下、シャー角は0°以上2°以下が好ましい。特に、クリアランスが5%未満では加工領域が大きくなりやすく、クリアランスが30%超およびシャー角が2°超では、バリの過剰生成により耐遅れ破壊特性が劣化しやすい。
また、n-1回目のせん断加工におけるクリアランスは、上掲式(I)~(III)を満足させれば特に限定されるものではないが、1%以上40%以下が好ましく、5%以上30%以下がより好ましい。さらに、n-1回目のせん断加工におけるシャー角は、0°以上2°以下が好ましい。なお、n-1回目のせん断加工における切り代は特に限定されず、最終製品とする部材の形状などに応じて適宜設定すればよい。
加えて、n-1回目よりも前のせん断加工条件は特に限定されず、最終製品とする部材の形状などに応じて適宜設定すればよい。
また、せん断加工における切り出しは、せん断切断(機械切断)により行うものとする。ここで、せん断切断(機械切断)は、被加工材をせん断力により機械的に切断する方法であり、例えば、シャーカッターや打ち抜き加工機による切断加工などが挙げられる。
次に、本発明の一実施形態に従う部材について説明する。
本発明の一実施形態に従う部材は、上記した本発明の一実施形態に従う鋼板を用いてなるものであり、例えば、本発明の一実施形態に従う鋼板をプレス成形して得た、プレス成形品などが挙げられる。
本発明の一実施形態に従う部材は、自動車用の部品等に用いて特に好適である。
[実施例1]
表1に示す組織および引張特性を有する素材鋼板を準備し、該素材鋼板に表2に示す条件でシャーカッターによるせん断加工を施し、せん断端面を有する鋼板を得た。なお、シャーカッターによるせん断加工はいずれも、同じ端面に対して行った。
ここで、素材鋼板の組織の同定、粗大介在物粒子の個数密度の測定、及び、機械特性の測定はそれぞれ、前述した要領で行ったものである(なお、上記したせん断端面を有する鋼板でも、素材鋼板と同じ、組織、粗大介在物粒子の個数密度、及び、引張特性が得られた。)。
また、組織の同定(ポイントカウンティング法)では、SEMによる観察領域(82μm×57μmの領域)上に間隔が均等となるように16×15の格子を置いた。そして、格子点おける各相の点数を数え、格子点総数に対する各相が占める格子点数の割合を、各相の面積率とした。また、各相の面積率は、別々の3つのSEM像から求めた各相の面積率の平均値とした。
また、粗大介在物粒子の個数密度の測定では、SEMによる観察領域を25μm×17μmとした。
上記のようにして得たせん断端面を有する鋼板を用いて、前述した要領で、せん断端面に垂直でかつ板厚方向に平行な面において加工領域と母材領域とを確定し、加工領域の面積S(mm2)を求めた。そして、求めた加工領域の面積Sから、S/t2の値を算出した。結果を表2に併記する。
また、上記のようにして得たせん断端面を有する鋼板を用いて、前述した要領で、加工領域の硬さおよび母材領域の硬さを測定し、母材領域の硬さに対する加工領域の硬さの比率を算出した。結果を表2に併記する。
さらに、以下の要領で、耐遅れ破壊特性を評価した。
すなわち、上記のようにして得たせん断端面を有する鋼板から、長手方向がせん断端面となるように110mm×30mmの試験片を採取し、当該試験片に、長手方向に対してV字曲げ加工を施した。ついで、ボルト、ナット及びテーパーワッシャーを用いて、V字曲げ加工した試験片を板面の両側からボルトで締め込み、狙い値で700MPaから2400MPaまでの10MPa間隔の種々の負荷応力がV字曲げ部にかかるように、種々の成形部材試験片を作製した。ここで、負荷応力の調整は、負荷応力とボルト締込量の相関を用いて行った。なお、負荷応力とボルト締込量の相関は、YUモデルを用いたCAE解析により求めた。また、CAE解析では、引張試験により求めた応力-ひずみ曲線を用いた。
そして、作製した種々の成形部材試験片を、pH=3(25℃)の塩酸水溶液中に96時間浸漬し、浸漬後に遅れ破壊(割れ)がなかった成形部材試験片の負荷応力の最大値を、臨界負荷応力とした。求めた臨界負荷応力を表2に併記する。
なお、遅れ破壊の判定は目視、及び、実体顕微鏡で倍率:20倍に拡大した画像にて行い、長さ:200μm以上の亀裂が確認されなかった場合には「遅れ破壊(割れ)なし」と、長さ:200μm以上の亀裂が1つでも確認された場合には「遅れ破壊(割れ)あり」と判定した。
そして、求めた臨界負荷応力により、以下の基準で耐遅れ破壊特性を評価した。
合格(優れる):臨界負荷応力が降伏応力YS以上
不合格:臨界負荷応力が降伏応力YS未満
Figure 2022064241000002
Figure 2022064241000003
表2に示したように、発明例のせん断端面を有する鋼板はいずれも、高強度であり、かつ、耐遅れ破壊特性にも優れていた。
一方、比較例では、十分な耐遅れ破壊特性が得られなかった。
[実施例2]
表3に示す成分組成(残部はFe及び不可避的不純物)を有するスラブに、表4に記載の条件でスラブ加熱を行い、ついで、熱間圧延して熱延鋼板を得た。得られた熱延鋼板を研削加工したのち、表5に記載の板厚となるように冷間圧延して冷延鋼板を得た。ついで、得られた冷延鋼板に、表4に示す条件で焼鈍を施し、素材鋼板を準備した。この素材鋼板に、表6に示す条件でシャーカッターによるせん断加工を施し、せん断端面を有する鋼板を得た。なお、シャーカッターによるせん断加工はいずれも、同じ端面に対して行った。
また、表3における各元素の空欄は、当該元素を意図的に添加していないことを表しており、当該元素を含有しない(0質量%)場合だけでなく、当該元素を不可避的に含有する場合も含む。
そして、実施例1と同じ要領で、組織の同定、粗大介在物粒子の個数密度の測定、機械特性の測定、S/t2の値の算出、母材領域の硬さに対する加工領域の硬さの比率の算出、及び、耐遅れ破壊特性の評価を行った。結果を表5および表6に併記する。
Figure 2022064241000004
Figure 2022064241000005
Figure 2022064241000006
Figure 2022064241000007
表6に示したように、発明例のせん断端面を有する鋼板はいずれも、高強度であり、かつ、耐遅れ破壊特性にも優れていた。
一方、比較例では、十分な耐遅れ破壊特性が得られなかった。

Claims (10)

  1. せん断端面を有する鋼板であって、
    該鋼板は、該せん断端面を含む加工領域と、母材領域とを有し、
    次式(1)を満足し、
    該母材領域の硬さに対する該加工領域の硬さの比率が120%以下であり、
    引張強さが1180MPa以上である、鋼板。
    0<S/t2≦0.012 ・・・(1)
    ここで、
    S:せん断端面に垂直でかつ板厚方向に平行な面における加工領域の面積(mm2
    t:鋼板の板厚(mm)
    である。
  2. 組織全体に対する面積率で、マルテンサイト:40%以上100%以下、フェライト:0%以上60%以下、及び、その他の金属相:5%以下である組織を有し、
    前記鋼板の表面から板厚1/4位置までの深さ領域において、円相当直径で4.0μm以上の介在物粒子の個数密度が5個/mm2以上27個/mm2以下である、請求項1に記載の鋼板。
  3. 質量%で、
    C:0.05%以上0.60%以下、
    Si:0.01%以上2.00%以下、
    Mn:0.10%以上3.20%以下、
    P:0.050%以下、
    S:0.0050%以下、
    Al:0.10%以下、及び
    N:0.010%以下
    を含有し、残部はFe及び不可避的不純物である成分組成を有する、請求項1または2に記載の鋼板。
  4. 前記成分組成が、さらに、質量%で、
    Cr:0.50%以下、
    Mo:0.15%以下、
    V:0.05%以下、
    Nb:0.020%以下、
    Ti:0.020%以下、
    Cu:0.20%以下、
    Ni:0.10%以下、
    B:0.0020%以下、
    Sb:0.10%以下、及び
    Sn:0.10%以下のうちから選ばれた少なくとも1種を含有する、請求項3に記載の鋼板。
  5. 被加工材となる素材鋼板を準備する、準備工程と、
    該素材鋼板の少なくとも1つの端面にn回のせん断加工を施す、nが2以上の整数である、せん断加工工程と、をそなえ、
    該せん断加工工程におけるn回目のせん断加工の切り代T(mm)が、該素材鋼板の板厚t(mm)及びn-1回目のせん断加工におけるクリアランスa(%)との関係で、次式(I)~(III)のいずれかを満足する、鋼板の製造方法。
    (I)a>30の場合 0.002×a×t≦T≦0.07×a×t
    (II)30≧a>5の場合 0.06×t≦T≦2.1×t
    (III)5≧aの場合 0.012×a×t≦T≦0.42×a×t
  6. 前記素材鋼板が、組織全体に対する面積率で、マルテンサイト:40%以上100%以下、フェライト:0%以上60%以下、及び、その他の金属相:5%以下である組織を有し、
    前記素材板材の表面から板厚1/4位置までの深さ領域において、円相当直径で4.0μm以上の介在物粒子の個数密度が5個/mm2以上27個/mm2以下である、請求項5に記載の鋼板の製造方法。
  7. 前記素材鋼板が、質量%で、
    C:0.05%以上0.60%以下、
    Si:0.01%以上2.00%以下、
    Mn:0.10%以上3.20%以下、
    P:0.050%以下、
    S:0.0050%以下、
    Al:0.10%以下、及び
    N:0.010%以下
    を含有し、残部はFe及び不可避的不純物である成分組成を有する、請求項5または6に記載の鋼板の製造方法。
  8. 前記成分組成が、さらに、質量%で、
    Cr:0.50%以下、
    Mo:0.15%以下、
    V:0.05%以下、
    Nb:0.020%以下、
    Ti:0.020%以下、
    Cu:0.20%以下、
    Ni:0.10%以下、
    B:0.0020%以下、
    Sb:0.10%以下、及び
    Sn:0.10%以下のうちから選ばれた少なくとも1種を含有する、請求項7に記載の鋼板の製造方法。
  9. 前記準備工程が、
    スラブを加熱して保持する、スラブ加熱工程と、
    該スラブを熱間圧延して熱延鋼板とする、熱間圧延工程と、
    該熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板とする、冷間圧延工程と、
    該冷延鋼板を焼鈍する、焼鈍工程と、
    を有し、
    該スラブ加熱工程では、
    該スラブの表面温度で300℃から1220℃までの温度域の平均加熱速度が0.10℃/s以上であり、
    該温度域において、該スラブの表面温度Tsに対する該スラブの中心温度Tcの平均温度比Tc/Tsが0.60以上0.85以下であり、
    該スラブの表面温度で1220℃以上での保持時間が30分以上であり、
    該焼鈍工程では、
    焼鈍温度がAC1点以上、焼鈍時間が30秒以上である、請求項5~8のいずれかに記載の鋼板の製造方法。
  10. 請求項1~4のいずれかに記載の鋼板を用いてなる、部材。
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