JP4151950B2 - 接着剤組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は新規な接着剤組成物、詳しくは低温で造膜性及び粘性に優れるとともに、環境汚染が無く、特に紙用途に適合した接着剤として使用できる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなる接着剤組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
酢酸ビニルモノマーを乳化重合して得られる酢酸ビニル樹脂エマルジョンは、従来、接着剤、塗料、紙加工、繊維加工などに広く使用されている。このように広く使用されてはいるものの、種々の欠点がある。即ち、粘度の温度依存性が大きく、冬季など低温時に粘度が著しく上昇して作業性が悪くなる。特に、低温における造膜性が悪く、フタル酸ジブチルなどの可塑剤の添加が必要になる。従って得られた皮膜は可塑剤の添加により可とう性にはなるが、強度が弱くなり、耐熱性が低下する。特に冬季用として使用する場合には可塑剤の添加量が多くなり、この傾向が顕著になる。
更に、最近可塑剤は内分泌攪乱作用があると疑われる化学物質として使用に不安がもたれている。
【0003】
可塑剤を削減する試みとして特開平11−092734号のようにエチレン含有量が15〜35重量%であるエチレン酢酸ビニル共重合体系樹脂エマルジョンに酢酸ビニルをシード重合してなる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンが開示されているが、なお、低温における造膜性が不十分である、或いは、0℃における粘度が20℃における粘度に対して10倍程度に粘度が高くなる、更に0℃雰囲気中に継続的に放置した場合では0℃での初期粘度に比べて1.5倍程度に高くなり低温下の粘度が著しく高くなってしまい、冬季における作業性が悪いことなどの問題が指摘されている。
【0004】
また、アクリル樹脂エマルジョンをシードとして酢酸ビニルモノマーを乳化重合した酢酸ビニル樹脂系エマルジョンは低温造膜性に優れ、可塑剤を含まないために環境汚染がないことで評価が得られているものの、エマルジョンの平均粒子径が0.2〜0.3μm(Malvern Instruments Ltd社製レーザー式粒子径測定器による)と小さいために、被着体が紙である場合には、塗布したエマルジョンが紙の内部に吸い込まれて塗布後にオープンタイムを持つ加工ラインにおいては接着層が乾燥して接着不良となるため、安心して使用できないという問題があつた。
【0005】
このような状況に鑑みて、従来の酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの課題、即ち可塑剤使用による強度や耐熱性の低下等の問題を解消するとともに、低温造膜性、貯蔵安定性、低温下の粘度上昇が少ない良好な作業性並びに耐水性、耐熱性等の接着性能に優れ、かつ被着体が紙の場合において紙内部への吸い込みがなく、オープンタイムがあるラインにおいても接着不良の発生しない酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなる接着剤組成物を提供せんとするものである。
【0006】
【特許文献1】
特開平11−92734号公報
【特許文献2】
特開2000−239307号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明においては前記のような課題を解決するために酢酸ビニルモノマーをアクリル樹脂系エマルジョンならびにエチレン・酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの混合体をシードとして乳化重合して調製されたことを特徴とする接着剤組成物を提供せんとするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
以下、本発明になる接着剤組成物について説明する。
本発明の接着剤組成物はアクリル樹脂系エマルジョンならびにエチレン・酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの両者の混合体をシードとして酢酸ビニルモノマーを乳化重合して得られるものである。
【0009】
該アクリル樹脂系エマルジョンはアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチルなどアクリル酸エステル類や、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチルなどメタクリル酸エステルなどのアクリル系モノマー或いは更にスチレン、ビニルトルエン、アクリルアミド等のモノマーとを保護コロイドの存在下において公知な方法により乳化(共)重合した市販のものが使用される。
【0010】
アクリル樹脂系エマルジョンの乾燥皮膜のガラス転移温度は0〜−60℃の範囲であるものが望ましく、この温度範囲となるようにアクリル系モノマーを選定して調整することができる。ガラス転移温度が0℃以上であると酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの造膜温度が2℃以下にならなくなる。
また、ガラス転移温度が−60℃未満の場合、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなる接着剤組成物が凝集力に乏しく接着性能が低下するため好ましくない。
【0011】
エチレン・酢酸ビニル樹脂系エマルジョンは公知の合成方法で合成されたエチレン含有率が10〜40重量%であつて、樹脂分45〜60重量%、ガラス転移点が−10〜−30℃の市販のものが使用される。
なお、変性されたエチレン・酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの使用は、アクリル樹脂エマルジヨンと併用して酢酸ビニルエマルジョンをシード重合する際に樹脂エマルジョンを不安定化させゲル化の原因になるため適さない。
【0012】
シードに使用するエチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジヨンとアクリル樹脂エマルジョンの配合比率は樹脂分比で1/2〜2/1であることが好ましい。この範囲外では、初期強度が得られにくく好ましくない。また、エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョンによっては酢酸ビニ樹脂系エマルジヨンのシード重合が円滑に進行せず、ブツが生じたり、沈降してしまうなどするため適さない。
【0013】
また、アクリル樹脂系エマルジョン並びにエチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョンの樹脂分合計とシード重合された酢酸ビニル樹脂系エマルジョン全体の樹脂分の比率は7.5〜20重量%が適している。 7.5重量%以下では組成物の粘度が低くなったり、造膜性に問題が生じる等のため適さない。20重量%以上では粘度が高くなりすぎて重合安定性が悪くなるため適さない。
【0014】
シード重合はアクリル樹脂エマルジョンとエチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョンの混合体、保護コロイドとしてのポリビニルアルコールを含む水系エマルジョン中で重合開始剤の存在下において行われる。
【0015】
重合開始剤には、過酸化物系開始剤、アゾ系開始剤、過硫酸塩系開始剤などが使用される。
過酸化物系開始剤としては、ベンゾイルペルオキサイド、ラウリルペルオキサイド、メチルエチルケトンペルオキサイド、ジクミルペルオキサイド、ブチルヒドロペルオキサイド、過酸化水素等が挙げられる。
【0016】
アゾ系開始剤としては、アゾビスイソブチルニトリル、アゾビスシアノバレリアン酸、アゾビスシアノペンタン酸などが挙げられる。
【0017】
過硫酸塩系開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0018】
このほかに重合調整剤として、例えばチオグリコール酸、ブチネメルカプタン、ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ラウリルメルカプタン等が適宜も使用されてもよい。
【0019】
シード重合は、重合用反応容器に水と保護コロイドとなるポリビニルアルコール(以下PVA)を配合し溶解させ、アクリル樹脂系エマルジョン並びにエチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョンを入れ、重合開始剤を用いて酢酸ビニルモノマーを添加しながら進めることができる。この場合、酢酸ビニルモノマーの一部若しくは全部を重合開始剤と水及びアクリル樹脂系エマルジョン、エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョンと一緒に重合用容器に添加するか、或いは酢酸ビニルモノマーの一部あるいは全量を重合中に連続的若しくは断続的に添加しながら進めることができる。
【0020】
また、酢酸ビニルモノマーの他に、(メタ)アクリル酸エステル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、(メタ)アクリル酸等のコモノマーと共重合させることもできる。
なお、必要により充填材、顔料、消泡剤、防腐材等を適時添加できる。
【0021】
保護コロイドとして使用されるPVAはケン化度87〜99%、重合度400〜4000のものが重合安定性、放置安定性、低温造膜性、構造粘性、耐水性等のバランスに優れるため、単独又は併用される。
保護コロイドを形成させる成分としてPVA以外に界面活性剤が使用されてもよい。
【0022】
重合温度は使用する重合開始剤の種類により異なってくる。例えば過硫酸アンモニウムなど熱分解により重合を進める場合は60℃以上の温度が適合している。また、過酸化物と還元剤を組み合わせたレドックス系では60℃以下で進めることができる。
【0023】
以下実施例、比較例により説明する。なお、重量部を単に部として記載する。
実施例1
反応容器に水360部をとり、PVA(ケン化度88%、平均重合度500)36部を加え、80℃まで加熱して溶解させたのち、固形分53%、粘度3Pa・s/25℃、エチレン含有率30%、ガラス転移点−18℃のエチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン▲1▼、47部と固形分55%、粘度0.18Pa・s/25℃、ガラス転移点−35℃、粒子径250〜300nmのブチルアクリレート、スチレン、メチルメタクリレートが乳化共重合して調製されたアクリル樹脂系エマルジョン▲2▼、23部を配合し、系内の温度を80℃に保ったままで水20部、過硫酸アンモニウム1部を溶解させた溶液と酢酸ビニルモノマー203部を3時間にわたって滴下して重合を進めた。このようにして得られた樹脂エマルジヨンの性状は表1の通りであつた。
【0024】
実施例2
エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン▲1▼とアクリル樹脂系エマルジョン▲2▼とを使用し、配合を表1の通りとして、実施例1と同様に実施例2の酢酸ビニルエマルジョンの乳化重合を進めた。また、得られた樹脂エマルジョンの性状は表1の通りであつた。
【0025】
実施例3
エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン▲1▼とアクリル樹脂系エマルジョン▲2▼とを使用し、配合を表1の通りとして、実施例1と同様にして実施例3の酢酸ビニルエマルジョンを乳化重合した。また、得られた樹脂エマルジヨンの性状は表1の通りであつた。
【0026】
実施例4
固形分49%、粘度0.4pa・s/25℃、エチレン含有率25%、ガラス転移点−25℃のエチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン▲3▼と、アクリル樹脂系エマルジョン▲2▼とを使用し、配合を表1の通りとして実施例1と同様の条件で酢酸ビニルエマルジョンを乳化重合した。また、得られた樹脂エマルジヨンの性状は表1の通りであつた 。
【0027】
実施例5
エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン▲3▼とアクリル樹脂系エマルジョン▲2▼とを使用し、配合を表2の通りとして、実施例1と同様の条件で酢酸ビニルエマジョンを乳化重合した。また、得られた樹脂エマルジヨンの性状は表2の通りであつた
【0028】
実施例6
エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン▲3▼とアクリル樹脂系エマルジョン▲2▼とを使用し、配合を表2の通りとして、実施例1と同様の条件で酢酸ビニルエマルジョンを乳化重合した。また、得られた樹脂エマルジヨンの性状は表2の通りであつた
【0029】
実施例7
固形分56%、粘度2.5pa・s/25℃、エチレン含有率33%、ガラス転移点−18℃のエチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン▲4▼とアクリル樹脂系エマルジョン▲2▼を使用し、配合を表2の通りとして、実施例1と同様の条件で酢酸ビニルエマルジョンを乳化重合した。また、得られた樹脂エマルジヨンの性状は表2の通りであつた
【0030】
実施例8
エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン▲4▼とアクリル樹脂系エマルジョン▲2▼とを使用し、配合を表2の通りとして、実施例1と同様の条件で酢酸ビニルエマルジョンを乳化重合した。また、得られた樹脂エマルジヨンの性状は表2の通りであつた
【0031】
実施例9
エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン▲4▼とアクリル樹脂系エマルジョン▲2▼とを使用し、配合を表2の通りとして、実施例1と同様の条件で酢酸ビニルエマルジョンを乳化重合した。また、得られた樹脂エマルジヨンの性状は表2の通りであつた
【0032】
比較例1
エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン▲1▼を使用し、配合を表3の通りとして、実施例1と同様の条件で比較例1の酢酸ビニルエマルジョンを乳化重合した。また、得られた樹脂エマルジヨンの性状は表3の通りであつた
【0033】
比較例2
エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン▲4▼を使用し、配合を表3の通りとして、実施例1と同様の条件で比較例2の酢酸ビニルエマルジョンを乳化重合した。また、得られた樹脂エマルジヨンの性状は表3の通りであつた
【0034】
比較例3
エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン▲3▼を使用し、配合を表3の通りとして、実施例1と同様の条件で比較例3の酢酸ビニルエマルジョンを乳化重合した。また、得られた樹脂エマルジヨンの性状は表3の通りであつた
【0035】
比較例4
アクリル樹脂系エマルジョン▲2▼を使用し、配合を表3の通りとして、実施例1と同様の条件で比較例4の酢酸ビニルエマルジョンを乳化重合した。また、得られた樹脂エマルジヨンの性状は表3の通りであつた
【0036】
比較例5
実施例1に使用した反応容器に水602部にPVA(ケン化度88%、平均重500)50部を80℃まで加熱して溶解させたのち、温度を80℃に保ったまま重合触媒(過硫酸アンモニウム1部を水20部に溶解させた溶液)と酢酸ビニルモノマー328部を3時間 掛けて滴下し乳化重合させた。
反応終了後に可塑剤としてジブチルフタレート(以下DBPという)50部を混合して比較例5のエマルジョンを調製した。得られた樹脂エマルジョンの性状は表3の通りであつた。
【0037】
比較例6
エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン▲1▼とアクリル樹脂エマルジョン▲2▼とを使用し、配合を表4として、実施例1に準じて酢酸ビニル樹脂エマルジョンを合成した。得られた樹脂エルジョンの性状は表4の通りであつた。
【0038】
比較例7
エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン▲3▼とアクリル樹脂系エマルジョン▲2▼とを使用し、配合を表4として、実施例4に準じて酢酸ビニル樹脂エマルジョンを合成した。樹脂エマルジョンの性状は表4の通りであつた。
【0039】
以下に表1〜表4を記載する。配合の重量部はすべて部を表示し、エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョンをエチレン・酢酸ビニルEと表示し、アクリル樹脂系エマルジョンをアクリルEと表示する。
【表1】
*合成可否/合成可否は樹脂エマルジョンの合成が問題なく進行した場合を○、合成に問題がある場合を×とした。
*平均粒子径/Malvern Instruments Ltd社製 レーザー式粒子径測定器による測定。
【0040】
【表2】
*合成可否/樹脂エマルジョンの合成が問題なく進行した場合を○、合成に問題がある場合を×とした。
*平均粒子径/Malvern Instruments Ltd社製 シーザー式粒子径測定器による測定。
【0041】
【表3】
*合成可否/合成が問題なく進行した場合を○、合成に問題がある場合を×とした。
*平均粒子径/Malvern Instruments Ltd社製 レーザー式粒子径測定器による測定。
【0042】
【表4】
*合成可否/合成が問題なく進行した場合を○、進行に問題があつた場合を×とする。
*平均粒子径/Malvern Instruments Ltd社製 レーザー式粒子径測定器による測定。
【0043】
以上の実施例、比較例の樹脂エマルジョンについて紙の表面に塗布・圧締したのち、経過時間ごとの紙破率の測定結果は表5の通りであつた。
【表5】
接着力試験
各接着剤をライナー紙(160g/m2)の表面に30グラム/尺2塗布したのち、直ちに同一ライナー紙を重ね、鉄製ハンドロール2回通しで圧締したのち、直後、5秒後、10秒後、15秒後に重ねたライナー紙を剥離した際の紙破率を測定する。
【0044】
【発明の効果】
本発明になる接着剤組成物は初期接着力、低温造膜性に優れるためフルシーズン安心して各種接着作業に使用できる。しかもエマルジョンの粒子径が0.3〜5μmとアクリル樹脂エマルジョンをシードにしてシード重合して得られる酢酸ビニル樹脂エマルジヨンが0.2〜0.3μmであるのに対して大きいため、被着体が紙である場合において接着剤が紙間に浸透してしまうことがなく、紙加工に使用された場合において乾燥接着することがない。このため塗布後の乾燥による接着不良が発生しない。
また、内分泌攪乱作用が疑われているフタル酸ジブチルなどの可塑剤を含有しないものであるため環境に優しい接着剤として木工、紙加工、繊維加工等の各種用途に安心して使用できる。
Claims (1)
- エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョンと、乾燥皮膜のガラス転移温度が0〜−60℃であるアクリル樹脂系エマルジョンの樹脂分比率が1/2〜2/1の範囲である混合体をシードとして、酢酸ビニルモノマーを乳化重合して調製された接着剤組成物であり、シード重合された酢酸ビニル樹脂系エマルジョン全体に対する前記混合体の比率が樹脂分で7.5〜20重量%であることを特徴とする接着剤組成物。
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