JP4151300B2 - 無段変速装置 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
この発明に係る無段変速装置は、自動車用自動変速装置として、或はポンプ等の各種産業機械の運転速度を調節する為の変速装置として利用する。
【0002】
【従来の技術】
自動車用自動変速装置として、図6に示す様なトロイダル型無段変速ユニットを使用する事が研究され、一部で実施されている。このトロイダル型無段変速ユニットは、ダブルキャビティ型と呼ばれるもので、請求項に記載した第一の回転軸に相当する入力軸1の両端部周囲に、それぞれが請求項に記載した外側ディスクである入力側ディスク2、2を、ボールスプライン3、3を介して支持している。従ってこれら両入力側ディスク2、2は、互いに同心に、且つ、同期した回転を自在に支持されている。又、上記入力軸1の中間部周囲に出力歯車4を、この入力軸1に対する相対回転を自在として支持している。そして、この出力歯車4の中心部に設けた円筒部の両端部に、請求項に記載した内側ディスクに相当する出力側ディスク5、5を、スプライン係合させている。従ってこれら両出力側ディスク5、5は、上記出力歯車4と共に、同期して回転する。
【0003】
又、上記各入力側ディスク2、2と上記各出力側ディスク5、5との間には、それぞれ複数個ずつ(通常2〜3個ずつ)のパワーローラ6、6を挟持している。これら各パワーローラ6、6は、それぞれトラニオン7、7の内側面に、支持軸8、8及び複数の転がり軸受を介して、回転自在に支持されている。上記各トラニオン7、7は、それぞれの長さ方向(図6の表裏方向)両端部に、これら各トラニオン7、7毎に互いに同心に設けられた枢軸(図示せず)を中心として揺動変位自在である。これら各トラニオン7、7を傾斜させる動作は、図示しない油圧式のアクチュエータによりこれら各トラニオン7、7を上記枢軸の軸方向に変位させる事により行なうが、総てのトラニオン7、7の傾斜角度は、油圧式及び機械式に互いに同期させる。
【0004】
上述の様なトロイダル型無段変速ユニットの運転時には、エンジン等の動力源に繋がる駆動軸9により一方(図6の左方)の入力側ディスク2を、ローディングカム式の押圧装置10を介して回転駆動する。この結果、前記入力軸1の両端部に支持された1対の入力側ディスク2、2が、互いに近づく方向に押圧されつつ同期して回転する。そして、この回転が、上記各パワーローラ6、6を介して上記各出力側ディスク5、5に伝わり、前記出力歯車4から取り出される。
【0005】
上記入力軸1と出力歯車4との回転速度の比を変える場合で、先ず入力軸1と出力歯車4との間で減速を行なう場合には、上記各トラニオン7、7を図6に示す位置に揺動させ、上記各パワーローラ6、6の周面をこの図6に示す様に、上記各入力側ディスク2、2の内側面の中心寄り部分と上記各出力側ディスク5、5の内側面の外周寄り部分とにそれぞれ当接させる。反対に、増速を行なう場合には、上記各トラニオン7、7を図6と反対方向に揺動させ、上記各パワーローラ6、6の周面を、図6に示した状態とは逆に、上記各入力側ディスク2、2の内側面の外周寄り部分と上記各出力側ディスク5、5の内側面の中心寄り部分とに、それぞれ当接する様に、上記各トラニオン7、7を傾斜させる。これら各トラニオン7、7の傾斜角度を中間にすれば、入力軸1と出力歯車4との間で、中間の速度比(変速比)を得られる。
【0006】
上述の図6に示したトロイダル型無段変速ユニットの場合には、入力軸1から出力歯車4への動力の伝達を、一方の入力側ディスク2と出力側ディスク5との間と、他方の入力側ディスク2と出力側ディスク5との間との、2系統に分けて行なうので、大きな動力の伝達を行なえる。
【0007】
更に、上述の様に構成され作用するトロイダル型無段変速ユニットを実際の自動車用の無段変速機に組み込む場合、遊星歯車機構と組み合わせて無段変速装置を構成する事が、特開平1−169169号公報、同1−312266号公報、同10−196759号公報、同11−63146号公報等に記載されている様に、従来から提案されている。
【0008】
図7は、上記各公報のうちの特開平11−63146号公報に記載された無段変速装置を示している。この無段変速装置は、ダブルキャビティ型のトロイダル型無段変速ユニット11と遊星歯車式変速ユニット12とを組み合わせて成る。そして、低速走行時には動力をこのトロイダル型無段変速ユニット11のみで伝達し、高速走行時には動力を、主として上記遊星歯車式変速ユニット12により伝達すると共に、この遊星歯車式変速ユニット12による速度比を、上記トロイダル型無段変速ユニット11の速度比を変える事により調節自在としている。
【0009】
この為に、上記トロイダル型無段変速ユニット11の中心部を貫通し、両端部に1対の入力側ディスク2、2を支持した、請求項に記載した第一の回転軸に相当する入力軸1の先端部(図7の右端部)と、上記遊星歯車式変速ユニット12を構成するリング歯車13を支持した支持板14の中心部に固定した伝達軸15とを、高速用クラッチ16を介して結合している。上記トロイダル型無段変速ユニット11の構成は、次述する押圧装置10aの点を除き、前述の図6に示した従来構造の場合と、実質的に同様である。
【0010】
又、駆動源であるエンジン17のクランクシャフト18の出力側端部(図7の右端部)と上記入力軸1の入力側端部(=基端部=図7の左端部)との間に、発進クラッチ19と油圧式の押圧装置10aとを、動力の伝達方向に関して互いに直列に設けている。この押圧装置10aには、図示しない制御器の信号に基づき、上記クランクシャフト18から前記トロイダル型無段変速ユニット11に伝えられる動力の大きさ(トルク)に応じた押圧力を発生できるだけの、所望の油圧を導入自在としている。
【0011】
又、上記入力軸1の回転に基づく動力を取り出す為の、請求項に記載した第二の回転軸に相当する出力軸20を、上記入力軸1と同心に配置している。そして、この出力軸20の周囲に前記遊星歯車式変速ユニット12を設けている。この遊星歯車式変速ユニット12を構成する太陽歯車21は、上記出力軸20の入力側端部(図7の左端部)に固定している。従ってこの出力軸20は、上記太陽歯車21の回転に伴って回転する。この太陽歯車21の周囲には前記リング歯車13を、上記太陽歯車21と同心に、且つ、回転自在に支持している。そして、このリング歯車13の内周面と上記太陽歯車21の外周面との間に、複数の遊星歯車22、22を設けている。これら各遊星歯車22、22は、それぞれ1対ずつの遊星歯車素子23a、23bにより構成している。これら各遊星歯車素子23a、23bは、互いに噛合すると共に、外径側に配置した遊星歯車素子23aが上記リング歯車13に噛合し、内径側に配置した遊星歯車素子23bが上記太陽歯車21に噛合している。この様な各遊星歯車22、22は、キャリア24の片側面(図7の左側面)に回転自在に支持している。又、このキャリア24は、上記出力軸20の中間部に、回転自在に支持している。
【0012】
又、上記キャリア24と、前記トロイダル型無段変速ユニット11を構成する1対の出力側ディスク5、5とを、動力伝達機構25により、回転力の伝達を可能な状態に接続している。この動力伝達機構25は、上記入力軸1及び上記出力軸20と平行な伝達軸26と、この伝達軸26の一端部(図7の左端部)に固定したスプロケット27aと、上記各出力側ディスク5、5に固定したスプロケット27bと、これら両スプロケット27a、27b同士の間に掛け渡したチェン28と、上記伝達軸26の他端(図7の右端)と上記キャリア24とにそれぞれ固定されて互いに噛合した第一、第二の歯車29、30とにより構成している。従って上記キャリア24は、上記各出力側ディスク5、5の回転に伴って、これら出力側ディスク5、5と反対方向に、上記第一、第二の歯車29、30の歯数及び上記1対のスプロケット27a、27bの歯数に応じた速度で回転する。
【0013】
一方、上記入力軸1と上記リング歯車13とは、この入力軸1と同心に配置された前記伝達軸15を介して、回転力の伝達を可能な状態に接続自在としている。この伝達軸15と上記入力軸1との間には、前記高速用クラッチ16を、これら両軸15、1に対し直列に設けている。従って、上記高速用クラッチ16の接続時にこの伝達軸15は、上記入力軸1の回転に伴って、この入力軸1と同方向に同速で回転する。
【0014】
又、図7に示した無段変速装置は、モード切換手段を構成するクラッチ機構を備える。このクラッチ機構は、上記高速用クラッチ16と、上記キャリア24の外周縁部と上記リング歯車13の軸方向一端部(図7の右端部)との間に設けた低速用クラッチ31と、このリング歯車13と無段変速装置のハウジング(図示省略)等、固定の部分との間設けた後退用クラッチ32とから成る。各クラッチ16、31、32は、何れか1個のクラッチが接続された場合には、残り2個のクラッチの接続が断たれる。
【0015】
上述の様に構成する無段変速装置は、先ず、低速走行時には、上記低速用クラッチ31を接続すると共に、上記高速用クラッチ16及び後退用クラッチ32の接続を断つ。この状態で前記発進クラッチ19を接続し、前記入力軸1を回転させると、トロイダル型無段変速ユニット11のみが、この入力軸1から上記出力軸20に動力を伝達する。この様な低速走行時には、それぞれ1対ずつの入力側ディスク2、2と、出力側ディスク5、5との間の速度比を、前述の図6に示したトロイダル型無段変速ユニット単独の場合と同様にして調節する。
【0016】
これに対して、高速走行時には、上記高速用クラッチ16を接続すると共に、上記低速用クラッチ31及び後退用クラッチ32の接続を断つ。この状態で上記発進クラッチ19を接続し、上記入力軸1を回転させると、この入力軸1から上記出力軸20には、前記伝達軸15と前記遊星歯車式変速ユニット12とが、動力を伝達する。即ち、上記高速走行時に上記入力軸1が回転すると、この回転は上記高速用クラッチ16及び伝達軸15を介してリング歯車13に伝わる。そして、このリング歯車13の回転が複数の遊星歯車22、22を介して太陽歯車21に伝わり、この太陽歯車21を固定した上記出力軸20を回転させる。この状態で、上記トロイダル型無段変速ユニット11の速度比を変える事により上記各遊星歯車22、22の公転速度を変化させれば、上記無段変速装置全体としての速度比を調節できる。
【0017】
即ち、上記高速走行時に上記各遊星歯車22、22が、上記リング歯車13と同方向に公転する。そして、これら各遊星歯車22、22の公転速度が遅い程、上記太陽歯車21を固定した出力軸20の回転速度が速くなる。例えば、上記公転速度とリング歯車13の回転速度(何れも角速度)が同じになれば、上記リング歯車13と出力軸20の回転速度が同じになる。これに対して、上記公転速度がリング歯車13の回転速度よりも遅ければ、上記リング歯車13の回転速度よりも出力軸20の回転速度が速くなる。反対に、上記公転速度がリング歯車13の回転速度よりも速ければ、上記リング歯車13の回転速度よりも出力軸20の回転速度が遅くなる。
【0018】
従って、上記高速走行時には、前記トロイダル型無段変速ユニット11の速度比を減速側に変化させる程、無段変速装置全体の速度比は増速側に変化する。この様な高速走行時の状態では、上記トロイダル型無段変速ユニット11に、入力側ディスク2、2からではなく、出力側ディスク5からトルクが加わる(低速時に加わるトルクをプラスのトルクとした場合にマイナスのトルクが加わる)。即ち、前記高速用クラッチ16を接続した状態では、前記エンジン17から入力軸1に伝達されたトルクは、前記伝達軸15を介して前記遊星歯車式変速ユニット12のリング歯車13に伝達される。従って、入力軸1の側から各入力側ディスク2、2に伝達されるトルクは殆どなくなる。
【0019】
一方、上記伝達軸15を介して前記遊星歯車式変速ユニット12のリング歯車13に伝達されたトルクの一部は、前記各遊星歯車22、22から、キャリア24及び動力伝達機構25を介して各出力側ディスク5、5に伝わる。この様に各出力側ディスク5、5からトロイダル型無段変速ユニット11に加わるトルクは、無段変速装置全体の速度比を増速側に変化させるべく、トロイダル型無段変速ユニット11の速度比を減速側に変化させる程小さくなる。この結果、高速走行時に上記トロイダル型無段変速ユニット11に入力されるトルクを小さくして、このトロイダル型無段変速ユニット11の構成部品の耐久性向上を図れる。
【0020】
更に、自動車を後退させるべく、前記出力軸20を逆回転させる際には、前記低速用、高速用両クラッチ31、16の接続を断つと共に、前記後退用クラッチ32を接続する。この結果、上記リング歯車13が固定され、上記各遊星歯車22、22が、このリング歯車13並びに前記太陽歯車21と噛合しつつ、この太陽歯車21の周囲を公転する。そして、この太陽歯車21並びにこの太陽歯車21を固定した出力軸20が、前述した低速走行時並びに上述した高速走行時とは逆方向に回転する。
【0021】
上述の様に構成する無段変速装置の場合、伝達効率の確保と耐久性の確保とを高次元で両立させられる反面、全体が大型化し、従来の自動変速機と同様のスペースに組み込む事が難しくなる可能性がある。即ち、図7に示した無段変速装置の場合、入力軸1と平行に伝達軸26を設けている。この伝達軸26は、入力側、出力側各ディスク2、5の他、これら各ディスク2、5の近傍に設けるトラニオン7、7(図6参照)との干渉を防止する必要上、上記入力軸1から離れた位置に配置する必要がある。しかも、上記伝達軸26の端部に、スプロケット27a或は第一の歯車29等の回転伝達用の部材を設ける必要がある。この為、無段変速機を収納したハウジングが大型化し(断面積が大きくなり)、車両の床下の限られた空間内への設置が困難になる可能性がある。
【0022】
この様な事情に鑑みて特開平6−174033号公報には、図8に示す様な無段変速装置が記載されている。この無段変速装置の場合には、トロイダル型無段変速ユニット11aを構成する、一体化した出力側ディスク5aと、遊星歯車式変速ユニット12aを構成する太陽歯車21aとを、入力軸1の周囲に設置した中空回転軸33により連結している。又、リング歯車13aと出力軸20とを連結している。更に、キャリア24aを、上記入力軸1に結合固定している。そして、このキャリア24aに支持された遊星歯車22を構成する遊星歯車素子23a、23bを、互いに噛合させると共に、上記太陽歯車21a又は上記リング歯車13aに噛合させている。
【0023】
この様な図8に示した無段変速装置の場合、上記入力軸1を同一方向に回転させた状態のまま、上記出力軸20の停止状態を実現できる事に加えて、この出力軸20の回転方向を変換できる。図9は、上記リング歯車13aの歯数z13と上記太陽歯車21aの歯数z21との比i(z13/z21)を2とした場合に、上記トロイダル型無段変速ユニット11aの速度比(CVU速度比)と無段変速装置全体としての速度比(T/M速度比)との関係を示している。尚、速度比が「−」であるとは、出力部(出力側ディスク5a、出力軸20)が入力部(入力側ディスク2、2)と逆方向に回転する状態を指す。又、上記無段変速装置全体としての速度比が「0」の場合には、上記入力部が回転したままで、上記出力軸20が停止状態となる。
【0024】
この様な図9から明らかな通り、上記図8に示した構造によれば、上記リング歯車13aの歯数z13と上記太陽歯車21aの歯数z21との比i(z13/z21)を適切に規制する事により、出力軸20の回転方向を、停止状態を挟んで変換できる、速度比が無限大の無段変速装置を実現できる。但し、上記トロイダル型無段変速ユニット11aを通過するトルクが大きくなる範囲が広い為、このトロイダル型無段変速ユニット11aの耐久性確保と小型・軽量化とを両立させる事が難しい。即ち、停止状態及びそれに近い状態(無段変速装置全体としての速度比の絶対値が小さい状態)では、上記トロイダル型無段変速ユニット11aを通過するトルクが大きくなる。図9から明らかな通り、上記図8に示した構造では、全範囲で無段変速装置全体としての速度比の値が小さい為、上記無段変速ユニット11aの耐久性確保が難しくなる。
【0025】
これに対して、図8の構造で、リング歯車13aと太陽歯車21aとに同一の遊星歯車を噛合させる、所謂シングルピニオン式の遊星歯車式変速ユニットを使用した場合には、トロイダル型無段変速ユニット11aの速度比と無段変速装置全体としての速度比との関係は、図10に示す様になる。この図10も、上記リング歯車13aの歯数z13と上記太陽歯車21aの歯数z21との比i(z13/z21)を2とした場合で示している。この様な図10から明らかな通り、シングルピニオン式の遊星歯車式変速ユニットを使用した場合には、無段変速装置全体としての速度比の絶対値が大きくなり、上記トロイダル型無段変速ユニット11aを通過するトルクを小さく抑えられる。この為、このトロイダル型無段変速ユニット11aの耐久性確保が容易になる反面、速度比の幅が狭くなり、単独で停止状態を実現したり、回転方向を変換する事はできない。
【0026】
又、米国特許第5607372号明細書には、図11に示す様な無段変速装置が記載されている。この無段変速装置の場合も、出力側ディスク5aと太陽歯車21aとを、入力軸1の周囲に設置した中空回転軸33により連結している。又、キャリア24bを、この入力軸1に結合固定している。そして、このキャリア24bに互いに同軸に支持された遊星歯車22a、22bのうち、一方(図11の左方)の遊星歯車22aを、上記太陽歯車21aに噛合させている。これに対して、他方(図11の右方)の遊星歯車22bを、伝達軸34の基端部(図11の左端部)に固定した歯車35に噛合させている。尚、図11には、動力の伝達方向に関して上記伝達軸34よりも後方に、速度比や回転方向を変える為の遊星歯車機構やクラッチ機構が設けられているが、本発明と直接は関係しない為、説明は省略する。
【0027】
図11に示した無段変速装置の場合、トロイダル型無段変速ユニット11aの速度比と無段変速装置全体としての速度比との関係は、図12の様になる。尚、この図12は、上記太陽歯車21aと上記歯車35との間の速度比(両歯車21a、35同士の間の歯車伝達機構の歯数により定まる、両歯車21a、35の速度の比)が1.1(10%増速)の場合に就いて示している。この様な図12から明らかな通り、図11に示した構造の場合には、無段変速装置全体としての速度比の幅は狭いが、この速度比の絶対値が大きい範囲を広くできる。この為、上記トロイダル型無段変速ユニット11a部分を通過するトルクを低減してこのトロイダル型無段変速ユニット11aの耐久性向上を図れる。但し、単独では、停止状態や回転方向の変換を実現する事はできない。
【0028】
更に、特開2000−220719号公報には、図13に示す様な無段変速装置が記載されている。この無段変速装置は、前述の図8に示した構造と図11に示した構造とを組み合わせた如きもので、トロイダル型無段変速ユニット11aと遊星歯車式変速ユニット12bとを組み合わせて成る。このうちのトロイダル型無段変速ユニット11aは、前述した図8、11と同様の構成で、入力軸1と、1対の入力側ディスク2、2と、出力側ディスク5aと、複数のパワーローラ6、6とを備える。
【0029】
又、上記遊星歯車式変速ユニット12bは、上記入力軸1及び一方(図13の右方)の入力側ディスク2に結合固定されたキャリア24cを備える。このキャリア24cの径方向中間部に、その両端部にそれぞれ遊星歯車素子37a、37bを固設した第一の伝達軸36を、回転自在に支持している。又、上記キャリア24cを挟んで上記入力軸1と反対側に、その両端部に太陽歯車39a、39bを固設した第二の伝達軸38を、上記入力軸1と同心に、回転自在に支持している。そして、上記第一の伝達軸36の両端部に固設した各遊星歯車素子37a、37bと、上記出力側ディスク5aに結合した中空回転軸33の端部に固設した太陽歯車21a又は上記第二の伝達軸38の一端部(図13の左端部)に固設した太陽歯車39aとを、それぞれ噛合させている。又、一方(図13の左方)の遊星歯車素子37aを、別の遊星歯車素子40を介して、上記キャリア24cの周囲に回転自在に設けたリング歯車13bに噛合させている。
【0030】
一方、上記第二の伝達軸38の他端部(図13の右端部)に固設した太陽歯車39bの周囲に設けた第二のキャリア41に遊星歯車素子42a、42bを、回転自在に支持している。尚、この第二のキャリア41は、上記入力軸1と同心に配置された出力軸20の基端部(図13の左端部)に固設されている。又、上記各遊星歯車素子42a、42bは、互いに噛合すると共に、一方の遊星歯車素子42aを上記太陽歯車39bに、他方の遊星歯車素子42bを、上記第二のキャリア41の周囲に回転自在に設けた第二のリング歯車43に、それぞれ噛合させている。又、上記リング歯車13bと上記第二のキャリア41とを低速用クラッチ31aにより係脱自在とすると共に、上記第二のリング歯車43とハウジング等の固定の部分とを、高速用クラッチ16aにより係脱自在としている。
【0031】
上述の様な、図13に示した無段変速装置の場合、上記低速用クラッチ31aを接続し、上記高速用クラッチ16aの接続を断った状態では、上記入力軸1の動力が上記リング歯車13bを介して上記出力軸20に伝えられる。そして、前記トロイダル型無段変速ユニット11aの速度比を変える事により、無段変速装置全体としての速度比、即ち、上記入力軸1と上記出力軸20との間の速度比が変化する。この際のトロイダル型無段変速ユニット11aの速度比と無段変速装置全体としての速度比との関係は、図14の線分αに示す様になる。この状態での両速度比同士の関係は、前述の図9に示した、図8に示した無段変速装置の場合と同様である。
【0032】
これに対して、上記低速用クラッチ31aの接続を断ち、上記高速用クラッチ16aを接続した状態では、上記入力軸1の動力が上記第一、第二の伝達軸36、38を介して上記出力軸20に伝えられる。そして、上記トロイダル型無段変速ユニット11aの速度比を変える事により、無段変速装置全体としての速度比が変化する。この際のトロイダル型無段変速ユニット11aの速度比と無段変速装置全体としての速度比との関係は、図14の線分βに示す様になる。この場合には、上記トロイダル型無段変速ユニット11aの速度比を大きくする程、無段変速装置全体としての速度比が大きくなる。尚、上記図14は、上記太陽歯車39aの歯数Z39と上記リング歯車13bの歯数Z13との比i1 (=Z39/Z13)を2とし、前記太陽歯車21aと前記太陽歯車39aとの間の歯車伝達機構の歯数の比i2 を1.1(10%増速)とし、上記太陽歯車39bの歯数と上記第二のリング歯車43の歯数との比i3 を2.8とした場合で示している。
【0033】
【発明が解決しようとする課題】
図11に示した構造及び図13に示した構造は、トロイダル型無段変速ユニット11aの耐久性を確保し、しかも比較的大きな速度比を得られる構造ではあるが、組立作業が面倒で、製造コストが嵩む。この理由は、入力軸1から伝達軸34(図11)又は第二の伝達軸38(図13)に動力を伝達する為の歯車伝達機構の組立作業が面倒になる為である。この点に就いて、図11の構造を例にして説明する。
【0034】
図11に示した構造で、中空回転軸33から伝達軸34に動力を伝達する為の歯車伝達機構を構成する場合、キャリア24bに互いに同軸に支持された遊星歯車22a、22bを、中空回転軸33の端部に固設した太陽歯車21aと、伝達軸34の基端部に固定した歯車35とに、それぞれ噛合させる必要がある。この場合に、上記太陽歯車21aとこの歯車35との間の速度比が1以外の場合、即ち、上記両遊星歯車22a、22bの歯数が互いに等しく、且つ、上記太陽歯車21aとこの歯車35との歯数が互いに等しい場合以外は、これら各歯車22a、22b、21a、35同士の位相を一致させて、これら各歯車22a、22b、21a、35同士を噛合させる作業が非常に面倒になる。上記速度比を1とすれば、この様な面倒をなくせるが、無段変速装置により得られる速度比が限られる等、設計の自由度が少なくなる為、好ましくない。この様な問題は、図13に示した構造の場合も、全く同様に発生する。
本発明は、この様な事情に鑑みて、図11、図13に示した構造が有する利点をそのままにして、組立作業を容易に行なえる無段変速装置を実現すべく発明したものである。
【0035】
【課題を解決するための手段】
本発明の無段変速装置は、前述の図11或は図13に示した、従来から知られている無段変速装置と同様に、トロイダル型無段変速ユニットと遊星歯車式変速ユニットとを組み合わせて成る。
このうちのトロイダル型無段変速ユニットは、1対の外側ディスクと、内側ディスクと、複数のパワーローラとを備える。
そして、上記1対の外側ディスクは、第一の回転軸(例えば入力軸)を介して互いに同心に、且つ、同期した回転を自在として結合されている。
又、上記内側ディスクは、上記両外側ディスク同士の間に、これら両外側ディスクと同心に、且つ、これら両外側ディスクとは独立した回転を自在として支持されている。
更に、上記各パワーローラは、上記内側ディスクの両側面と上記両外側ディスクの側面との間に、それぞれ複数個ずつ挟持されており、これら内側ディスクと両外側ディスクとの間で動力を伝達する。
【0036】
一方、上記遊星歯車式変速ユニットは、キャリアと、複数の第一の遊星歯車と、第一の太陽歯車と、複数の第二の遊星歯車と、第二の太陽歯車と、リング歯車とを備える。
そして、上記キャリアは、上記1対の外側ディスクにこれら両外側ディスクと同心に結合固定されて、これら両外側ディスクと共に回転する。
又、上記各第一の遊星歯車は、上記キャリアの両側面のうちで一方の外側ディスクに対向する片面に、回転自在に支持されている。
又、上記第一の太陽歯車は、上記第一の回転軸の周囲に配置された中空回転軸により上記内側ディスクに結合された状態で、上記各ディスクと同心に、且つ、回転自在に設けられており、上記各第一の遊星歯車と噛合している。
又、上記各第二の遊星歯車は、上記キャリアの他面に、回転自在に支持されている。
又、上記第二の太陽歯車は、上記各ディスクと同心に、且つ、回転自在に設けられて、上記各第二の遊星歯車と噛合している。
更に、上記リング歯車は、上記各ディスクと同心に、且つ、回転自在に設けられて、上記各第一の遊星歯車と噛合している。
【0037】
特に、本発明の無段変速装置に於いては、上記各第一の遊星歯車と上記各第二の遊星歯車とは上記キャリアに対し、互いに独立して支持された状態で、単一の上記リング歯車に噛合している。
又、上記第一の回転軸と同心に、且つ、この第一の回転軸に対する相対回転を自在に支持された第二の回転軸(例えば出力軸又は伝達軸)が、上記第二の太陽歯車に結合されている。
【0038】
【作用】
上述の様に構成する本発明の無段変速装置の場合には、前述の図11或は図13に示した従来構造の場合と同様に、トロイダル型無段変速ユニットの耐久性を確保し、しかも比較的大きな速度比を得られる。しかも、キャリアに対して第一、第二の遊星歯車を互いに独立して支持すると共に、第一、第二の太陽歯車同士の間での動力伝達を、上記第一、第二の遊星歯車とリング歯車とを介して行なう構造である為、これら各歯車同士の位相を合わせる作業が容易になる。この為、組立作業の容易化による製造コストの低減を図れる。
【0039】
【発明の実施の形態】
図1は、請求項1にのみ対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例の無段変速装置は、トロイダル型無段変速ユニット11aと遊星歯車式変速ユニット12cとを組み合わせて成る。
このうちのトロイダル型無段変速ユニット11aは、前述した各従来構造と同様に、それぞれが外側ディスクである1対の入力側ディスク2、2と、内側ディスクである一体型の出力側ディスク5aと、複数のパワーローラ6、6(図6、8、11、13参照)とを備える。そして、上記1対の入力側ディスク2、2は、第一の回転軸である入力軸1を介して互いに同心に、且つ、同期した回転を自在として結合されている。又、上記出力側ディスク5aは、上記両入力側ディスク2、2同士の間に、これら両入力側ディスク2、2と同心に、且つ、これら両入力側ディスク2、2に対する相対回転を自在として支持されている。更に、上記各パワーローラ6、6は、上記出力側ディスク5aの両側面と上記両入力側ディスク2、2の側面との間に、それぞれ複数個ずつ挟持されている。そして、これら両入力側ディスク2、2の回転に伴って回転しつつ、これら両入力側ディスク2、2から上記出力側ディスク5aに動力を伝達する。
【0040】
一方、上記遊星歯車式変速ユニット12cは、キャリア24dと、複数の第一の遊星歯車44と、第一の太陽歯車45と、複数の第二の遊星歯車46と、第二の太陽歯車47と、リング歯車48とを備える。
このうちのキャリア24dは、上記1対の入力側ディスク2、2に、これら両入力側ディスク2、2と同心に結合固定されて、これら両入力側ディスク2、2と共に回転する。即ち、上記キャリア24dを構成する、それぞれが円輪状である3枚の支持板49a、49b、49cのうち、中央の支持板49aを、上記入力軸1の端部に結合固定している。これに対して、最もトロイダル型無段変速ユニット11a寄り(図1の左方)の支持板49bは、一方(図1の右方)の入力側ディスク2の外側面(図1の右側面)に結合固定している。そして、互いに平行に、且つ、上記入力軸1と同心に配置された1対の支持板49a、49bの、円周方向に関して等間隔複数個所(一般的には3〜4個所)同士を、上記入力軸1と平行に配置した第一の連結軸50により、連結固定している。上記各第一の遊星歯車44は、これら各第一の連結軸50の周囲に、図示しないラジアルニードル軸受を介して、回転自在に支持している。本例の場合、上記各第一の遊星歯車44は、シングルピニオン型である。
【0041】
又、上記第一の太陽歯車45は、中空回転軸33により、上記出力側ディスク5aに結合されている。この出力側ディスク5aは、上記入力軸1の周囲に、この入力軸1と同心に、且つ、この入力軸1に対する相対回転を自在に設けている。そして、上記中空回転軸33の基端部(図1の左端部)を上記出力側ディスク5aの中心部に結合固定すると共に、上記中空回転軸33の先端部外周面に、上記第一の太陽歯車45を固設している。従ってこの第一の太陽歯車45は、上記出力側ディスク5aと同期して回転する。この様な第一の太陽歯車45は、上記各第一の遊星歯車44と噛合している。
【0042】
又、前記キャリア24dを構成する、前記中央の支持板49aと、最もトロイダル型無段変速ユニット11aから遠い側(図1の右側)の支持板49cとの、円周方向に関して等間隔複数個所(一般的には3〜4個所)同士を、上記入力軸1と平行に配置した第二の連結軸51により、連結固定している。前記各第二の遊星歯車46は、これら各第二の連結軸51の周囲に、図示しないラジアルニードル軸受を介して、回転自在に支持している。
【0043】
又、第二の回転軸であって、上記入力軸1と同心に、且つ、この入力軸1に対する相対回転を自在に支持された出力軸20の基端部(図1の左端部)を、上記各第二の遊星歯車46の内側に挿入している。この出力軸20の基端部には、前記第二の太陽歯車47が固設されており、この第二の太陽歯車47と上記各第二の遊星歯車46とを、互いに噛合させている。
【0044】
更に、上記各第一の遊星歯車44と上記各第二の遊星歯車46とを、前記リング歯車48に噛合させている。このリング歯車48は、上記トロイダル型無段変速ユニット11aを構成する入力側、出力側各ディスク2、5aと同心に、且つ、回転自在に設けられている。この様な構成により、上記入力軸1の回転を、上記キャリア24dと上記第二の遊星歯車46と上記第二の太陽歯車47とを介して、上記出力軸20に伝達自在としている。又、上記出力側ディスク5aの回転を、前記中空回転軸33、上記第一の太陽歯車45、上記第一の遊星歯車44を介して上記キャリア24dに伝達自在とし、このキャリア24dの回転速度を調節自在としている。
【0045】
上述の様に構成する本発明の無段変速装置の場合には、上記トロイダル型無段変速ユニット11a部分での、上記各入力側ディスク2、2と上記出力側ディスク5aとの間の速度比、即ち、上記トロイダル型無段変速ユニット11aの変速比(CVU速度比)を調節する事により、前記入力軸1と前記出力軸20との間の速度比、即ち、無段変速装置全体としての変速比(T/M速度比)を変える事ができる。即ち、上記入力軸1の回転は、上述の様に、上記キャリア24dと上記第二の遊星歯車46と上記第二の太陽歯車47とを介して、上記出力軸20に伝達されるが、この場合に於ける速度比は、第二の遊星歯車46の公転速度に応じて変化する。そして、この公転速度は、上記トロイダル型無段変速ユニット11aの速度比を調節する事により変化する。
【0046】
例えば、上記トロイダル型無段変速ユニット11aの速度比をeCVU とし、第一の太陽歯車45の歯数をzS1とし、第二の太陽歯車45の歯数をzS2とした場合に、無段変速装置全体としての速度比eCVT は、次の(1)式で表される。
eCVT =1+(zS1/zS2)・(eCVU −1) −−− (1)
又、無段変速装置への入力トルクをTINとした場合に、上記トロイダル型無段変速ユニット11aを構成する1対の入力側ディスク2、2への入力トルクTCVU は、次の(2)式で表される。
TCVU =TIN・(zS1・eCVU )/(zS2−zS1+zS1・eCVU )−−− (2)
この(2)式中、eCVU の値は負であるから、第一の太陽歯車45の歯数zS1を第二の太陽歯車47の歯数zS2よりも多く(zS1>zS2)すれば、上記入力側ディスク2、2への入力トルクTCVU を上記無段変速装置への入力トルクTINよりも小さく(TCVU <TIN)できる事が分かる。
【0047】
例えば、図2は、前記リング歯車48の歯数と第一太陽歯車45の歯数zS1との比を2とし、このリング歯車48の歯数と第二太陽歯車47の歯数zS2との比を2.2(zS1/zS2=1.1)とした場合に於ける、上記トロイダル型無段変速ユニット11aの速度比eCVU と、上記無段変速装置全体としての速度比eCVT との関係を示している。この図2は、前述の図12と実質的に同様の特性を表したものである。
上記(2)式から明らかな通り、本例の構造によれば、前述の図11に示した従来構造の場合と同様に、トロイダル型無段変速ユニットの耐久性を確保する事ができる。
【0048】
特に本例の構造によれば、前記キャリア24dに対して前記第一、第二の遊星歯車44、46を、互いに独立して支持すると共に、上記第一、第二の太陽歯車45、47同士の間での動力伝達を、上記第一、第二の遊星歯車44、46と上記リング歯車48とを介して行なう構造を採用している。即ち、前述の図11に示した従来構造の場合とは異なり、上記第一、第二の遊星歯車44、46同士が互いに結合固定されてはいない。従って、これら第一、第二の遊星歯車44、46と、上記第一、第二の太陽歯車45、47及び上記リング歯車48との位相を合わせる作業が容易になる。この為、組立作業の容易化による製造コストの低減を図れる。
【0049】
次に、図3は、請求項1〜2に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例は、前述の図13に示した構造に改良を加えて、この図13に示した構造と同様の機能を確保しつつ、組立性を向上させたものである。
この様な本例の場合、入力軸1及び1対の入力側ディスク2、2と共に回転するキャリア24eの径方向(図3の上下方向)に関する幅寸法を、上述した第1例の場合よりも大きくしている。そして、この様なキャリア24eに、それぞれがダブルピニオン型である、第一、第二の遊星歯車44a、46aを支持している。即ち、これら第一、第二の遊星歯車44a、46aは、それぞれ1対ずつの遊星歯車素子52a、52b、53a、53bにより構成している。そして、これら各遊星歯車素子52a、52b、53a、53bを、互いに噛合させると共に、内径側の遊星歯車素子52a、53aを、中空回転軸33及び伝達軸54に固設した第一、第二の太陽歯車45、47に、外径側の遊星歯車素子52b、53bをリング歯車48に、それぞれ噛合させている。本実施例の場合には、上記伝達軸54が、特許請求の範囲に記載した第二の回転軸に相当する。
【0050】
一方、上記伝達軸54の他端部(図3の右端部)に固設した太陽歯車39cの周囲に設けた第二のキャリア41aに遊星歯車素子42a、42bを、回転自在に支持している。尚、この第二のキャリア41aは、上記入力軸1と同心に配置された出力軸20aの基端部(図3の左端部)に固設されている。又、上記各遊星歯車素子42a、42bは、互いに噛合すると共に、一方の遊星歯車素子42aを上記太陽歯車39cに、他方の遊星歯車素子42bを、上記第二のキャリア41aの周囲に回転自在に設けた第二のリング歯車43aに、それぞれ噛合させている。又、上記リング歯車48と上記第二のキャリア41aとを低速用クラッチ31bにより係脱自在とすると共に、上記第二のリング歯車43aとハウジング等の固定の部分とを、高速用クラッチ16bにより係脱自在としている。
【0051】
この様に構成する本例の無段変速装置の場合、上記低速用クラッチ31bを接続し、上記高速用クラッチ16bの接続を断った状態では、上記入力軸1の動力が上記リング歯車48を介して上記出力軸20aに伝えられる。そして、トロイダル型無段変速ユニット11aの速度比を変える事により、無段変速装置全体としての速度比eCVT 、即ち、上記入力軸1と上記出力軸20aとの間の速度比が変化する。この際のトロイダル型無段変速ユニット11aの速度比eCVU と無段変速装置全体としての速度比eCVT との関係は、上記リング歯車48の歯数z48と上記第一の太陽歯車45の歯数z45との比をi1 (=z48/z45)とした場合に、次の(3)式で表される。
eCVT =(eCVU +i1 −1)/i1 −−− (3)
そして、上記両速度比eCVU 、eCVT 同士の関係が、図4の線分αに示す様になる。
【0052】
これに対して、上記低速用クラッチ31bの接続を断ち、上記高速用クラッチ16bを接続した状態では、上記入力軸1の動力が前記第一の遊星歯車44a、前記リング歯車48、前記第二の遊星歯車46a、前記伝達軸54、前記各遊星歯車素子42a、42b、前記第二のキャリア41aを介して、上記出力軸20aに伝えられる。そして、上記トロイダル型無段変速ユニット11aの速度比eCVU を変える事により、無段変速装置全体としての速度比eCVT が変化する。この際のトロイダル型無段変速ユニット11aの速度比eCVU と無段変速装置全体としての速度比eCVT との関係は、次の(4)式の様になる。尚、この(4)式中、i1 は上記リング歯車48の歯数z48と前記第一の太陽歯車45の歯数z45との比(z48/z45)を、i2 は上記リング歯車48の歯数z48と前記第二の太陽歯車47の歯数z47との比(z48/z47)を、i3 は前記第二のリング歯車43aの歯数z43と前記太陽歯車39cの歯数z39との比(z43/z39)を、それぞれ表している。
eCVT ={1/(1−i3 )}・{1+(i2 /i1 )・(eCVU −1)}−−− (4)
【0053】
そして、上記両速度比eCVU 、eCVT 同士の関係が、図4の線分βに示す様になる。この場合には、上記トロイダル型無段変速ユニット11aの速度比を大きくする程、無段変速装置全体としての速度比が大きくなる。尚、上記図4は、上記リング歯車48の歯数z48と上記第一太陽歯車45の歯数z45との比i1 を2とし、上記リング歯車48の歯数z48と前記第二太陽歯車47の歯数z47との比i2 を2.2とし、上記第二のリング歯車43aの歯数z43と上記太陽歯車39cの歯数z39との比i3 を2.8とした場合で示している。
【0054】
上記図4に記載した、上記両速度比eCVU 、eCVT 同士の関係は、前述の図14に記載した、前述の図13に記載した従来構造に於ける両速度比eCVU 、eCVT 同士の関係と同じである。但し、本例の場合には、前述した第1例の場合と同様に、各歯車同士の位相合わせが容易で、製造作業の能率化によるコスト低減を図れる。
【0055】
次に、図5は、請求項1〜3に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合には、入力軸1及び1対の入力側ディスク2、2と共に回転するキャリア24fに支持した第一、第二の遊星歯車44b、46bの構造を工夫する事により、上述した第2例の場合に比べて軽量化を可能にしている。即ち、本例の場合には、上記第一、第二の遊星歯車44b、46bを構成する1対ずつの遊星歯車素子のうち、上記キャリア24fの径方向に関して外側の遊星歯車素子55として、軸方向寸法の長いものを使用している。そして、上記第一、第二の遊星歯車44b、46bを構成する、上記キャリア24fの径方向に関して内側の遊星歯車素子52a、53aを、それぞれ第一、第二の太陽歯車45、47に噛合させると同時に、上記1個の遊星歯車素子55に噛合させている。更に、この遊星歯車素子55を、軸方向(図5の左右方向)に関する幅寸法が小さいリング歯車48aに噛合させている。本実施例の場合も、伝達軸54が、特許請求の範囲に記載した第二の回転軸に相当する。
【0056】
この様な本例の場合、直径が大きなリング歯車48aの幅寸法を小さくする事により、軽量化が可能になる。又、遊星歯車素子の他、これらを支持する為の軸や軸受等を含めて、部品点数を低減する事ができ、部品加工、部品管理、組立作業の簡略化が可能になり、コスト低減を図れる。
但し、本例の構造を採用する場合には、上記リング歯車48aの歯数z48と第一の太陽歯車45の歯数z45との差(z48−z45)、並びに、このリング歯車48aの歯数z48と上記第二の太陽歯車47の歯数z47との差(z48−z47)を、何れも上記第一、第二の遊星歯車44b、46bの数n(通常3又は4)の整数倍とする必要がある。即ち、kを自然数とした場合に、(z48−z45)=k・n、且つ、(z48−z47)=k・nとする必要がある。この理由は、上記各歯車45、47、44b、46b同士を確実に噛合させる為である。
この様な本例の無段変速装置が、入力軸1と出力軸20aとの間で動力を伝達する際の作用は、前述の第2例の場合と同様である。
【0057】
【発明の効果】
本発明は、以上に述べた通り構成され作用するので、大きな速度比を有する無段変速装置に組み込むトロイダル型無段変速ユニットの耐久性の確保と小型・軽量化とを高次元で両立させると共に、遊星歯車式変速ユニット部分の組立作業の容易化を図れる。この結果、大きな速度比を有し、小型且つ軽量で、しかも優れた耐久性を有する無段変速装置のコストを低減して、この様な無段変速装置の実現に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、半部略断面図。
【図2】この第1例の構造で、トロイダル型無段変速ユニットの速度比と無段変速装置全体としての速度比との関係を示す線図。
【図3】本発明の実施の形態の第2例を示す、半部略断面図。
【図4】この第2例の構造で、トロイダル型無段変速ユニットの速度比と無段変速装置全体としての速度比との関係を示す線図。
【図5】本発明の実施の形態の第3例を示す、半部略断面図。
【図6】従来から知られているトロイダル型無段変速ユニットの1例を示す断面図。
【図7】従来から知られている、トロイダル型無段変速ユニットと遊星歯車式変速ユニットとを組み合わせて成る無段変速装置の第1例を示す略断面図。
【図8】同第2例を示す半部略断面図。
【図9】この第2例の構造で、トロイダル型無段変速ユニットの速度比と無段変速装置全体としての速度比との関係を示す線図。
【図10】上記第2例の構造で、遊星歯車式変速ユニットを構成する各遊星歯車をシングルピニオン型とした場合に於ける、トロイダル型無段変速ユニットの速度比と無段変速装置全体としての速度比との関係を示す線図。
【図11】従来から知られている、トロイダル型無段変速ユニットと遊星歯車式変速ユニットとを組み合わせて成る無段変速装置の第3例を示す断面図。
【図12】この第3例の構造で、トロイダル型無段変速ユニットの速度比と無段変速装置全体としての速度比との関係を示す線図。
【図13】従来から知られている、トロイダル型無段変速ユニットと遊星歯車式変速ユニットとを組み合わせて成る無段変速装置の第4例を示す断面図。
【図14】この第4例の構造で、トロイダル型無段変速ユニットの速度比と無段変速装置全体としての速度比との関係を示す線図。
【符号の説明】
1 入力軸
2 入力側ディスク
3 ボールスプライン
4 出力歯車
5、5a 出力側ディスク
6 パワーローラ
7 トラニオン
8 支持軸
9 駆動軸
10、10a 押圧装置
11、11a トロイダル型無段変速ユニット
12、12a、12b、12c 遊星歯車式変速ユニット
13、13a、13b リング歯車
14 支持板
15 伝達軸
16、16a、16b 高速用クラッチ
17 エンジン
18 クランクシャフト
19 発進クラッチ
20、20a 出力軸
21、21a 太陽歯車
22、22a、22b 遊星歯車
23a、23b 遊星歯車素子
24、24a、24b、24c、24d、24e、24f キャリア
25 動力伝達機構
26 伝達軸
27a、27b スプロケット
28 チェン
29 第一の歯車
30 第二の歯車
31、31a、31b 低速用クラッチ
32 後退用クラッチ
33 中空回転軸
34 伝達軸
35 歯車
36 第一の伝達軸
37a、37b 遊星歯車素子
38 第二の伝達軸
39a、39b、39c 太陽歯車
40 遊星歯車素子
41、41a 第二のキャリア
42a、42b 遊星歯車素子
43、43a 第二のリング歯車
44、44a、44b 第一の遊星歯車
45 第一の太陽歯車
46、46a、46b 第二の遊星歯車
47 第二の太陽歯車
48、48a リング歯車
49a、49b、49c 支持板
50 第一の連結軸
51 第二の連結軸
52a、52b 遊星歯車素子
53a、53b 遊星歯車素子
54 伝達軸
55 遊星歯車素子
Claims (3)
- トロイダル型無段変速ユニットと遊星歯車式変速ユニットとを組み合わせて成り、
このうちのトロイダル型無段変速ユニットは、第一の回転軸を介して互いに同心に且つ同期した回転を自在として結合された1対の外側ディスクと、これら両外側ディスク同士の間にこれら両外側ディスクと同心に且つこれら両外側ディスクとは独立した回転を自在として支持された内側ディスクと、この内側ディスクの両側面と上記両外側ディスクの側面との間にそれぞれ複数個ずつ挟持されてこれら内側ディスクと両外側ディスクとの間で動力を伝達する複数のパワーローラとを備えたものであり、
上記遊星歯車式変速ユニットは、上記1対の外側ディスクにこれら両外側ディスクと同心に結合固定されてこれら両外側ディスクと共に回転するキャリアと、このキャリアの両側面のうちで一方の外側ディスクに対向する片面に回転自在に支持された複数の第一の遊星歯車と、上記第一の回転軸の周囲に配置された中空回転軸により上記内側ディスクに結合された状態で上記各ディスクと同心に且つ回転自在に設けられ、上記各第一の遊星歯車と噛合した第一の太陽歯車と、上記キャリアの他面に回転自在に支持された複数の第二の遊星歯車と、上記各ディスクと同心に且つ回転自在に設けられてこれら各第二の遊星歯車と噛合した第二の太陽歯車と、上記各ディスクと同心に且つ回転自在に設けられて上記各第一の遊星歯車と噛合したリング歯車とを備えたものである
無段変速装置に於いて、
上記各第一の遊星歯車と上記各第二の遊星歯車とは上記キャリアに対し、互いに独立して支持された状態で単一の上記リング歯車に噛合しており、上記第一の回転軸と同心に且つこの第一の回転軸に対する相対回転を自在に支持された第二の回転軸が、上記第二の太陽歯車に結合されている
事を特徴とする無段変速装置。 - 各第一の遊星歯車を、互いに噛合した1対の第一の遊星歯車素子により構成し、一方の第一の遊星歯車素子を第一の太陽歯車に噛合させ、他方の第一の遊星歯車素子を、この第一の太陽歯車の周囲に回転自在に支持したリング歯車に噛合させると共に、このリング歯車と第二の回転軸とのうちの何れか一方の部材と他の動力伝達部材とを選択的に結合自在とした、請求項1に記載した無段変速装置。
- 各第二の遊星歯車を、互いに噛合した1対の第二の遊星歯車素子により構成し、一方の第二の遊星歯車素子を第二の太陽歯車に噛合させると共に、リング歯車の歯数と第一の太陽歯車の歯数との差、並びに、このリング歯車の歯数と上記第二の太陽歯車の歯数との差を、何れも第一、第二の遊星歯車の数の整数倍とし、上記リング歯車と噛合する第一、第二の遊星歯車素子を一体とした、請求項2に記載した無段変速装置。
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