JP4007136B2 - 無段変速装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
この発明に係る無段変速装置は、自動車用自動変速装置として、或はポンプ等の各種産業機械の運転速度を調節する為の変速装置として利用する。
【0002】
【従来の技術】
自動車用自動変速装置として、図3に示す様なトロイダル型無段変速機を使用する事が研究され、一部で実施されている。このトロイダル型無段変速機は、ダブルキャビティ型と呼ばれるもので、入力軸1の両端部周囲に入力側ディスク2、2を、それぞれボールスプライン3、3を介して支持している。従ってこれら両入力側ディスク2、2は、互いに同心に、且つ、同期した回転を自在に支持されている。又、上記入力軸1の中間部周囲に出力歯車4を、この入力軸1に対する相対回転を自在として支持している。そして、この出力歯車4の中心部に設けた円筒部の両端部に1対の出力側ディスク5、5を、スプライン係合させている。従ってこれら両出力側ディスク5、5は、上記出力歯車4と共に、同期して回転する。
【0003】
又、上記各入力側ディスク2、2と上記各出力側ディスク5、5との間には、それぞれ複数個ずつ(通常2〜3個ずつ)のパワーローラ6、6を挟持している。これら各パワーローラ6、6は、それぞれトラニオン7、7の内側面に、支持軸8、8及び複数の転がり軸受を介して、回転自在に支持されている。上記各トラニオン7、7は、それぞれの長さ方向(図3の表裏方向)両端部に、これら各トラニオン7、7毎に互いに同心に設けられた枢軸(図示せず)を中心として揺動変位自在である。これら各トラニオン7、7を傾斜させる動作は、図示しない油圧式のアクチュエータによりこれら各トラニオン7、7を上記枢軸の軸方向に変位させる事により行なうが、総てのトラニオン7、7の傾斜角度は、油圧式及び機械式に互いに同期させる。
【0004】
上述の様なトロイダル型無段変速機の運転時には、エンジン等の動力源に繋がる駆動軸9により一方(図3の左方)の入力側ディスク2を、ローディングカム式の押圧装置10を介して回転駆動する。この結果、前記入力軸1の両端部に支持された1対の入力側ディスク2、2が、互いに近づく方向に押圧されつつ同期して回転する。そして、この回転が、上記各パワーローラ6、6を介して上記各出力側ディスク5、5に伝わり、前記出力歯車4から取り出される。
【0005】
上記入力軸1と出力歯車4との回転速度の比を変える場合で、先ず入力軸1と出力歯車4との間で減速を行なう場合には、上記各トラニオン7、7を図3に示す位置に揺動させ、上記各パワーローラ6、6の周面をこの図3に示す様に、上記各入力側ディスク2、2の内側面の中心寄り部分と上記各出力側ディスク5、5の内側面の外周寄り部分とにそれぞれ当接させる。反対に、増速を行なう場合には、上記各トラニオン7、7を図3と反対方向に揺動させ、上記各パワーローラ6、6の周面を、図3に示した状態とは逆に、上記各入力側ディスク2、2の内側面の外周寄り部分と上記各出力側ディスク5、5の内側面の中心寄り部分とに、それぞれ当接する様に、上記各トラニオン7、7を傾斜させる。これら各トラニオン7、7の傾斜角度を中間にすれば、入力軸1と出力歯車4との間で、中間の変速比(速度比)を得られる。
【0006】
上述の図3に示したトロイダル型無段変速機の場合には、入力軸1から出力歯車4への動力の伝達を、一方の入力側ディスク2と出力側ディスク5との間と、他方の入力側ディスク2と出力側ディスク5との間との、2系統に分けて行なうので、大きな動力の伝達を行なえる。
【0007】
更に、上述の様に構成され作用するトロイダル型無段変速機を実際の自動車用の無段変速機に組み込む場合、遊星歯車機構(遊星歯車式変速ユニット)等の歯車式の差動ユニットと組み合わせて無段変速装置を構成する事が、特許文献1〜4等に記載されている様に、従来から提案されている。
【0008】
図4は、上記各特許文献のうちの特許文献4に記載された、パワー・スプリット型と称される無段変速装置を示している。この無段変速装置は、ダブルキャビティ型のトロイダル型無段変速機11と、歯車式の差動ユニットである遊星歯車式変速ユニット12とを組み合わせて成る。そして、低速走行時には動力をこのトロイダル型無段変速機11のみで伝達し、高速走行時には動力を、主として上記遊星歯車式変速ユニット12により伝達すると共に、この遊星歯車式変速ユニット12による速度比を、上記トロイダル型無段変速機11の変速比を変える事により調節自在としている。
【0009】
この為に、上記トロイダル型無段変速機11の中心部を貫通し、両端部に1対の入力側ディスク2、2を支持した入力軸1の先端部(図4の右端部)と、上記遊星歯車式変速ユニット12を構成するリング歯車13を支持した支持板14の中心部に固定した伝達軸15とを、高速用クラッチ16を介して結合している。上記トロイダル型無段変速機11の構成は、次述する押圧装置10aの点を除き、前述の図3に示した従来構造の場合と、実質的に同じである。
【0010】
又、駆動源であるエンジン17のクランクシャフト18の出力側端部(図4の右端部)と上記入力軸1の入力側端部(=基端部=図4の左端部)との間に、発進クラッチ19と油圧式の押圧装置10aとを、動力の伝達方向に関して互いに直列に設けている。この押圧装置10aには、図示しない制御器の信号に基づき、上記クランクシャフト18から上記トロイダル型無段変速機11に伝えられる動力の大きさ(トルク)に応じた押圧力を発生できるだけの、所望の油圧を導入自在としている。
【0011】
又、上記入力軸1の回転に基づく動力を取り出す為の出力軸20を、上記入力軸1と同心に配置している。そして、この出力軸20の周囲に前記遊星歯車式変速ユニット12を設けている。この遊星歯車式変速ユニット12を構成する太陽歯車21は、上記出力軸20の入力側端部(図4の左端部)に固定している。従ってこの出力軸20は、上記太陽歯車21の回転に伴って回転する。この太陽歯車21の周囲には前記リング歯車13を、上記太陽歯車21と同心に、且つ、回転自在に支持している。そして、このリング歯車13の内周面と上記太陽歯車21の外周面との間に、複数の遊星歯車22、22を設けている。これら各遊星歯車22、22は、それぞれ1対ずつの遊星歯車素子23a、23bにより構成している。これら各遊星歯車素子23a、23bは、互いに噛合すると共に、外径側に配置した遊星歯車素子23aが上記リング歯車13に噛合し、内径側に配置した遊星歯車素子23bが上記太陽歯車21に噛合している。この様な各遊星歯車22、22は、キャリア24の片側面(図4の左側面)に回転自在に支持している。又、このキャリア24は、上記出力軸20の中間部に、回転自在に支持している。
【0012】
又、上記キャリア24と、前記トロイダル型無段変速機11を構成する1対の出力側ディスク5、5とを、動力伝達機構25により、回転力の伝達を可能な状態に接続している。この動力伝達機構25は、上記入力軸1及び上記出力軸20と平行な伝達軸26と、この伝達軸26の一端部(図4の左端部)に固定したスプロケット27aと、上記各出力側ディスク5、5に固定したスプロケット27bと、これら両スプロケット27a、27b同士の間に掛け渡したチェン28と、上記伝達軸26の他端(図4の右端)と上記キャリア24とにそれぞれ固定されて互いに噛合した第一、第二の歯車29、30とにより構成している。従って上記キャリア24は、上記各出力側ディスク5、5の回転に伴って、これら出力側ディスク5、5と反対方向に、上記第一、第二の歯車29、30及び上記1対のスプロケット27a、27bの歯数に応じた速度で回転する。
【0013】
一方、上記入力軸1と上記リング歯車13とは、この入力軸1と同心に配置された前記伝達軸15を介して、回転力の伝達を可能な状態に接続自在としている。この伝達軸15と上記入力軸1との間には、前記高速用クラッチ16を、これら両軸15、1に対し直列に設けている。従って、上記高速用クラッチ16の接続時にこの伝達軸15は、上記入力軸1の回転に伴って、この入力軸1と同方向に同速で回転する。
【0014】
又、図4に示した無段変速装置は、モード切換手段を構成するクラッチ機構を備える。このクラッチ機構は、上記高速用クラッチ16と、上記キャリア24の外周縁部と上記リング歯車13の軸方向一端部(図4の右端部)との間に設けた低速用クラッチ31と、このリング歯車13と無段変速装置のハウジング(図示省略)等、固定の部分との間設けた後退用クラッチ32とから成る。各クラッチ16、31、32は、何れか1個のクラッチが接続された場合には、残り2個のクラッチの接続が断たれる。
【0015】
上述の様に構成する無段変速装置は、先ず、低速走行時には、上記低速用クラッチ31を接続すると共に、上記高速用クラッチ16及び後退用クラッチ32の接続を断つ。この状態で前記発進クラッチ19を接続し、前記入力軸1を回転させると、トロイダル型無段変速機11のみが、この入力軸1から上記出力軸20に動力を伝達する。この様な低速走行時には、それぞれ1対ずつの入力側ディスク2、2と、出力側ディスク5、5との間の変速比を、前述の図3に示したトロイダル型無段変速機単独の場合と同様にして調節する。
【0016】
これに対して、高速走行時には、上記高速用クラッチ16を接続すると共に、上記低速用クラッチ31及び後退用クラッチ32の接続を断つ。この状態で上記発進クラッチ19を接続し、上記入力軸1を回転させると、この入力軸1から上記出力軸20には、前記伝達軸15と前記遊星歯車式変速ユニット12とが、動力を伝達する。即ち、上記高速走行時に上記入力軸1が回転すると、この回転は上記高速用クラッチ16及び伝達軸15を介してリング歯車13に伝わる。そして、このリング歯車13の回転が複数の遊星歯車22、22を介して太陽歯車21に伝わり、この太陽歯車21を固定した上記出力軸20を回転させる。この状態で、上記トロイダル型無段変速機11の変速比を変える事により上記各遊星歯車22、22の公転速度を変化させれば、上記無段変速装置全体としての速度比を調節できる。
【0017】
即ち、上記高速走行時に上記各遊星歯車22、22が、上記リング歯車13と同方向に公転する。そして、これら各遊星歯車22、22の公転速度が遅い程、上記太陽歯車21を固定した出力軸20の回転速度が速くなる。例えば、上記公転速度とリング歯車13の回転速度(何れも角速度)が同じになれば、上記リング歯車13と出力軸20の回転速度が同じになる。これに対して、上記公転速度がリング歯車13の回転速度よりも遅ければ、上記リング歯車13の回転速度よりも出力軸20の回転速度が速くなる。反対に、上記公転速度がリング歯車13の回転速度よりも速ければ、上記リング歯車13の回転速度よりも出力軸20の回転速度が遅くなる。
【0018】
従って、上記高速走行時には、前記トロイダル型無段変速機11の変速比を減速側に変化させる程、無段変速装置全体の速度比は増速側に変化する。この様な高速走行時の状態では、上記トロイダル型無段変速機11に、入力側ディスク2、2からではなく、出力側ディスク5からトルクが加わる(低速時に加わるトルクをプラスのトルクとした場合にマイナスのトルクが加わる)。即ち、前記高速用クラッチ16を接続した状態では、前記エンジン17から入力軸1に伝達されたトルクは、前記伝達軸15を介して前記遊星歯車式変速ユニット12のリング歯車13に伝達される。従って、入力軸1の側から各入力側ディスク2、2に伝達されるトルクは殆どなくなる。
【0019】
一方、上記伝達軸15を介して前記遊星歯車式変速ユニット12のリング歯車13に伝達されたトルクの一部は、前記各遊星歯車22、22から、キャリア24及び動力伝達機構25を介して各出力側ディスク5、5に伝わる。この様に各出力側ディスク5、5からトロイダル型無段変速機11に加わるトルクは、無段変速装置全体の速度比を増速側に変化させるべく、トロイダル型無段変速機11の変速比を減速側に変化させる程小さくなる。この結果、高速走行時に上記トロイダル型無段変速機11に入力されるトルクを小さくして、このトロイダル型無段変速機11の構成部品の耐久性向上を図れる。
【0020】
更に、自動車を後退させるべく、前記出力軸20を逆回転させる際には、前記低速用、高速用両クラッチ31、16の接続を断つと共に、前記後退用クラッチ32を接続する。この結果、上記リング歯車13が固定され、上記各遊星歯車22、22が、このリング歯車13並びに前記太陽歯車21と噛合しつつ、この太陽歯車21の周囲を公転する。そして、この太陽歯車21並びにこの太陽歯車21を固定した出力軸20が、前述した低速走行時並びに上述した高速走行時とは逆方向に回転する。
【0021】
又、特許文献5には、図5に示す様な無段変速装置が記載されている。この無段変速装置は、ギヤード・ニュートラル型と称されるもので、トロイダル型無段変速機11aと遊星歯車式変速ユニット12aとを組み合わせて成る。このうちのトロイダル型無段変速機11aは、入力軸1と、1対の入力側ディスク2、2と、出力側ディスク5aと、複数のパワーローラ6、6とを備える。この出力側ディスク5aは、軸方向両側面をこれら各パワーローラ6、6の周面と転がり接触するトロイド曲面とした、一体型である。
【0022】
又、上記遊星歯車式変速ユニット12aは、上記入力軸1及び一方(図5の右方)の入力側ディスク2に結合固定されたキャリア24aを備える。このキャリア24aの径方向中間部に、その両端部にそれぞれ遊星歯車素子33a、33bを固設した第一の伝達軸34を、回転自在に支持している。又、上記キャリア24aを挟んで上記入力軸1と反対側に、その両端部に太陽歯車35a、35bを固設した第二の伝達軸36を、上記入力軸1と同心に、回転自在に支持している。そして、上記第一の伝達軸34の両端部に固設した各遊星歯車素子33a、33bと、上記出力側ディスク5aに結合した中空回転軸45の端部に固設した太陽歯車21a又は上記第二の伝達軸36の一端部(図5の左端部)に固設した太陽歯車35aとを、それぞれ噛合させている。又、一方(図5の左方)の遊星歯車素子33aを、別の遊星歯車素子37を介して、上記キャリア24aの周囲に回転自在に設けたリング歯車13aに噛合させている。
【0023】
一方、上記第二の伝達軸36の他端部(図5の右端部)に固設した太陽歯車35bの周囲に設けた第二のキャリア38に遊星歯車素子39a、39bを、回転自在に支持している。尚、この第二のキャリア38は、上記入力軸1と同心に配置された出力軸20aの基端部(図5の左端部)に固設されている。又、上記各遊星歯車素子39a、39bは、互いに噛合すると共に、一方の遊星歯車素子39aを上記太陽歯車35bに、他方の遊星歯車素子39bを、上記第二のキャリア38の周囲に回転自在に設けた第二のリング歯車40に、それぞれ噛合させている。又、上記リング歯車13aと上記第二のキャリア38とを低速用クラッチ31aにより係脱自在とすると共に、上記第二のリング歯車40とハウジング等の固定の部分とを、高速用クラッチ16aにより係脱自在としている。
【0024】
上述の様な、図5に示した無段変速装置の場合、上記低速用クラッチ31aを接続し、上記高速用クラッチ16aの接続を断った状態では、上記入力軸1の動力が上記リング歯車13aを介して上記出力軸20aに伝えられる。そして、前記トロイダル型無段変速機11aの変速比を変える事により、無段変速装置全体としての速度比、即ち、上記入力軸1と上記出力軸20aとの間の速度比が変化する。この際のトロイダル型無段変速機11aの変速比(CVU速度比)と無段変速装置全体としての速度比(T/M速度比)との関係は、図6の線分αに示す様になる。この図6の縦軸に関して、速度比が「−」であるとは、出力部(出力側ディスク5a、出力軸20a)が入力部(入力側ディスク2、2)と逆方向に回転する状態を表す。又、上記無段変速装置全体としての速度比が「0」の場合には、上記入力部が回転したままで、上記出力軸20aが停止状態となる。即ち、この状態では、上記入力軸1を同一方向に回転させた状態のまま、上記出力軸20aの停止状態を実現できる事に加えて、この出力軸20aの回転方向を変換できる。
【0025】
この様な図6から明らかな通り、上記図5に示した構造で、上記低速用クラッチ31aを接続し、上記高速用クラッチ16aの接続を断った状態では、上記リング歯車13aの歯数z13と上記太陽歯車21aの歯数z21との比i(z13/z21)を適切に規制する事により、上記出力軸1を一方向に回転させたままで出力軸20aの回転方向を、停止状態を挟んで変換できる、速度比が無限大の無段変速装置を実現できる。
【0026】
これに対して、上記低速用クラッチ31aの接続を断ち、上記高速用クラッチ16aを接続した状態では、上記入力軸1の動力が上記第一、第二の伝達軸34、36を介して上記出力軸20aに伝えられる。そして、前記トロイダル型無段変速機11aの変速比を変える事により、無段変速装置全体としての速度比が変化する。この際のトロイダル型無段変速機11aの変速比と無段変速装置全体としての速度比との関係は、図6の線分βに示す様になる。この場合には、上記トロイダル型無段変速機11aの変速比を大きくする程、無段変速装置全体としての速度比が大きくなる。尚、上記図6は、上記太陽歯車35aの歯数Z35と上記リング歯車13aの歯数Z13との比i1 (=Z35/Z13)を2とし、上記太陽歯車21aと前記太陽歯車35aとの間の歯車伝達機構の歯数の比i2 を1.1(10%増速)とし、前記太陽歯車35bの歯数と上記第二のリング歯車40の歯数との比i3 を2.8とした場合で示している。
【0027】
パワー・スプリット型であると、ギヤード・ニュートラル型であるとを問わず、トロイダル型無段変速機と遊星歯車式変速ユニット等の歯車式の差動ユニットとを組み合わせて成り、低速用クラッチと高速用クラッチとにより、低速モードと高速モードとの切り換えを行なう無段変速装置の場合、モード切り換え時に変速ショックが生じない様にする事が、乗員に不快感を与えない面から重要である。この為に従来から、特許文献6に記載されている様に、低速モード時の変速比と高速モード時の変速比とが一致する状態で、上記低速用クラッチと高速用クラッチとの切り換えを行なう事が提案されている。
【0028】
【特許文献1】
特開平1−169169号公報
【特許文献2】
特開平1−312266号公報
【特許文献3】
特開平10−196759号公報
【特許文献4】
特開平11−63146号公報
【特許文献5】
特開2000−220719号公報
【特許文献6】
特開平11−108147号公報
【0029】
【発明が解決しようとする課題】
特許文献6に記載されている様に、低速モード時の変速比と高速モード時の変速比とが一致する状態で、上記低速用クラッチと高速用クラッチとの切り換えを行なえば、トロイダル型無段変速機の変速比が、理論通りにモード切り換えの前後で一致する限り、変速ショックが生じる事はない。ところが、実際の場合に上記トロイダル型無段変速機の変速比は、通過するトルクの大きさ及び方向で変化する。この理由は、このトロイダル型無段変速機の構成部品が、各部の弾性変形や組み付けの為に不可避な隙間の存在等に基づいて変位する為である。即ち、このトロイダル型無段変速機を通じて送られるトルク(通過トルク)が変動すると、このトロイダル型無段変速機の構成部品の変位方向や変位量が変化し、その結果、このトロイダル型無段変速機の変速比が、変速の為の指令がでていないにも拘らず変化する。
【0030】
図7は、この様な通過トルクの変動に伴うトロイダル型無段変速機の変速比の変動状態を知る為に行なった実験の結果を示している。実験は、トロイダル型無段変速機の変速比を1(等速)とし、入力軸の回転速度を2000min-1 とし、トラクションオイルの温度を実際に自動車が走行状態にある場合と同様に上昇させた状態で行なった。この様な条件の下で、上記入力軸に加えるトルクを、−250N・mと+350N・mとの間で変化させた。トルク変化は、慣性の影響を極力排除する為、徐々に行なった。尚、入力軸に加えるトルクが負の状態とは、出力側ディスクから入力側ディスクにトルクが伝わる状態である。この様な実験の結果を表す図7から明らかな通り、トロイダル型無段変速機の変速比は、通過するトルクの大きさと方向とが変化する事によって、無視できない程変化する。特に、トルクの方向が変化する(入力トルクが0を境に変動する)瞬間には、変速比が大きく変化する。
【0031】
一方、トロイダル型無段変速機と歯車式の差動ユニットとを組み合わせた無段変速装置の場合、図4に示したパワー・スプリット型であっても、図5に示したギヤード・ニュートラル型であっても、モード切り換えの瞬間に、トロイダル型無段変速機を通過するトルクの方向が変化(逆転)する。この点に就いて、図8により説明する。この図8は、上記図5に示したギヤード・ニュートラル型の無段変速装置で、無段変速装置全体としての速度比と、トロイダル型無段変速機を通過するトルクの方向(±)及び大きさと、このトロイダル型無段変速機の変速比との関係を示している。上記図8中、実線aは無段変速装置に入力されたトルクに対するトロイダル型無段変速機を通過するトルクの割合を、同じく破線bはトロイダル型無段変速機の変速比を、それぞれ表している。無段変速装置の低速モードと高速モードとは、上記破線bの折れ曲がり部である、点c部分で切り換わる。そして、このモード切り換えに伴って、上記トロイダル型無段変速機を通過するトルクの大きさが不連続的に変化し、しかも方向が逆転する。
【0032】
この様にモード切り換えに伴ってトロイダル型無段変速機を通過するトルクの大きさ及び方向が変化する為、上記モード切り換えの瞬間に上記トロイダル型無段変速機の変速比が、制御器からの変速制御に関係なく変化する。この結果、上記モード切り換えの瞬間に無段変速装置全体としての変速比が急変動し、乗員に不快な変速ショックを生じる。
本発明は、この様な原因で生じる変速ショックを生じない無段変速装置を実現すべく発明したものである。
【0033】
【課題を解決するための手段】
本発明の無段変速装置は、前述の図4或は図5に示した、従来から知られている無段変速装置と同様に、入力軸及び出力軸と、トロイダル型無段変速機及び歯車式の差動ユニットと、モード切換手段と、制御器とを備える。
このうちのトロイダル型無段変速機及び歯車式の差動ユニットは、互いの間での動力の伝達を可能に組み合わされた状態で、上記入力軸と出力軸との間に設けられている。
又、上記モード切換手段は、上記入力軸と出力軸との間の変速状態を少なくとも2種類のモードのうちから選択する為、上記トロイダル型無段変速機と差動ユニットとの接続状態を切り換える。
又、上記制御器は、上記モード切換手段による上記少なくとも2種類のモードの切り換えのタイミングを含めて、上記入力軸と上記出力軸との間の変速比を制御する。
そして、上記制御器からの指令に基づいて上記モード切換手段により上記少なくとも2種類のモードを、これら両モードによる上記入力軸と出力軸との間の変速比がほぼ一致する状態で切り換える。
特に、本発明の無段変速装置に於いては、上記トロイダル型無段変速機を通過するトルクの大きさと方向とを検出する為のトルク検出手段を設けると共に、上記各モードのそれぞれに就いて予め求めた、上記トロイダル型無段変速機を通過するトルクと、このトルクに対応するこのトロイダル型無段変速機の構成部品の変位量と変位方向とにより定まる変速比のずれ量との関係を、上記制御器のメモリ内に記憶させている。
そして、このトルク検出手段の検出値に基づいて上記トロイダル型無段変速機の構成部品の変位量と変位方向とにより定まる変速比のずれ量を求め、この変位量と変位方向とにより定まる変速比のずれ量に基づいて上記モード切換手段による上記両モードを切り換えのタイミングを補正する。
そして、上記トロイダル型無段変速機を通過するトルクを勘案した無段変速装置全体としての速度比が、モード切り換えの前後で一致する状態で上記両モードを切り換える。
この構成により、上記トルクに基づく上記トロイダル型無段変速機の構成部品の変位に拘らず、上記両モードの切り換え時に於ける上記入力軸と上記出力軸との間の変速比の変動を抑える。
【0034】
【作用】
上述の様に構成する本発明の無段変速装置の場合には、モード切り換えに基づくトロイダル型無段変速機の変速比変動に拘らず、切り換えの前後での入力軸と出力軸との間の変速比の変動を抑える事ができる。
【0035】
【発明の実施の形態】
図1は、請求項1、3に対応する、本発明の実施の形態の1例を示している。本例は、前述の図5に示した構造に改良を加えて、この図5に示した構造と同様の機能を確保しつつ、組立性を向上させたものである。
この様な本例の場合、遊星歯車式変速ユニット12bを構成し、入力軸1及び1対の入力側ディスク2、2と共に回転するキャリア24bに、それぞれがダブルピニオン型である、第一、第二の遊星歯車41、42を支持している。即ち、これら第一、第二の遊星歯車41、42は、それぞれ1対ずつの遊星歯車素子43a、43b、44a、44bにより構成している。そして、これら各遊星歯車素子43a、43b、44a、44bを、互いに噛合させると共に、内径側の遊星歯車素子43a、44aを中空回転軸45及び伝達軸46に固設した第一、第二の太陽歯車47、48に、外径側の遊星歯車素子43b、44bをリング歯車49に、それぞれ噛合させている。
【0036】
一方、上記伝達軸46の他端部(図1の右端部)に固設した太陽歯車35cの周囲に設けた第二のキャリア38aに遊星歯車素子50a、50bを、回転自在に支持している。尚、この第二のキャリア38aは、上記入力軸1と同心に配置された出力軸20aの基端部(図1の左端部)に固設されている。又、上記各遊星歯車素子50a、50bは、互いに噛合すると共に、一方の遊星歯車素子50aを上記太陽歯車35cに、他方の遊星歯車素子50bを、上記第二のキャリア38aの周囲に回転自在に設けた第二のリング歯車40aに、それぞれ噛合させている。又、上記リング歯車49と上記第二のキャリア38aとを低速用クラッチ31bにより係脱自在とすると共に、上記第二のリング歯車40aとハウジング等の固定の部分とを、高速用クラッチ16bにより係脱自在としている。
【0037】
この様に構成する本例の無段変速装置の場合、上記低速用クラッチ31bを接続し、上記高速用クラッチ16bの接続を断った状態では、上記入力軸1の動力が上記リング歯車49を介して上記出力軸20aに伝えられる。そして、トロイダル型無段変速機11aの変速比を変える事により、無段変速装置全体としての速度比eCVT 、即ち、上記入力軸1と上記出力軸20aとの間の速度比が変化する。この際のトロイダル型無段変速機11aの変速比(速度比)eCVU と無段変速装置全体としての速度比eCVT との関係は、上記リング歯車49の歯数z49と前記第一の太陽歯車47の歯数z47との比をi1 (=z49/z47)とした場合に、次の(1)式で表される。
CVT =(eCVU +i1 −1)/i1 −−− (1)
そして、上記両速度比eCVU 、eCVT 同士の関係が、図2の実線αに示す様になる。
【0038】
これに対して、上記低速用クラッチ31bの接続を断ち、上記高速用クラッチ16bを接続した状態では、上記入力軸1の動力が前記第一の遊星歯車41、前記リング歯車49、前記第二の遊星歯車42、前記伝達軸46、前記各遊星歯車素子50a、50b、前記第二のキャリア38aを介して、上記出力軸20aに伝えられる。そして、上記トロイダル型無段変速機11aの速度比eCVU を変える事により、無段変速装置全体としての速度比eCVT が変化する。この際のトロイダル型無段変速機11aの速度比eCVU と無段変速装置全体としての速度比eCVT との関係は、次の(2)式の様になる。尚、この(2)式中、i1 は上記リング歯車49の歯数z49と前記第一の太陽歯車47の歯数z47との比(z49/z47)を、i2 は上記リング歯車49の歯数z49と前記第二の太陽歯車48の歯数z48との比(z49/z48)を、i3 は前記第二のリング歯車40aの歯数z40と前記太陽歯車35cの歯数z35との比(z40/z35)を、それぞれ表している。
CVT ={1/(1−i3 )}・{1+(i2 /i1 )・(eCVU −1)}
−−− (2)
そして、上記両速度比eCVU 、eCVT 同士の関係が、図2の実線βに示す様になる。この場合には、上記トロイダル型無段変速機11aの変速比を大きくする程、無段変速装置全体としての速度比が大きくなる。
【0039】
上記図2に記載した、上記両速度比eCVU 、eCVT 同士の関係は、前述の図6に記載した、前述の図5に記載した従来構造に於ける両速度比eCVU 、eCVT 同士の関係と実質的に同じである。但し、本例の場合には、各歯車同士の位相合わせが容易で、製造作業の能率化によるコスト低減を図れる。
【0040】
上述の様な構造を有する、ギヤード・ニュートラル型の無段変速装置に関して本発明を実施する場合には、前記トロイダル型無段変速機11aを通過するトルクの大きさと方向とを検出する為のトルク検出手段を設ける。このトルク検出手段の構成は特に問わないが、各パワーローラ6、6を支持したトラニオン7、7(図3参照)を、それぞれの両端部に設けた枢軸の軸方向に変位させる為の油圧式のアクチュエータに設けた、油圧センサにより構成する事が好ましい。即ち、トロイダル型無段変速機11aの変速比を変えるべく上記各トラニオン7、7の上記各枢軸の軸方向に変位させる為の油圧式のアクチュエータを、これら各トラニオン7、7に対し結合している。
【0041】
一方、上記トロイダル型無段変速機11aによる動力伝達時に上記各トラニオン7、7には、上記各パワーローラ6、6の周面と入力側、出力側両ディスク2、5aの側面との転がり接触部(トラクション部)から、上記各枢軸の軸方向の力が加わる。この力は、所謂2Ftと呼ばれるもので、上記トロイダル型無段変速機11aを通過するトルクの大きさに比例する。このトルクは、上記油圧式のアクチュエータが支承するが、これに伴ってこのアクチュエータを構成するピストンを挟んで設けられた1対の油圧室の油圧に差が生じる。上記トルクのうち、1個のパワーローラ6を介して伝達されるトルクは、上記1対の油圧室の油圧の差と、上記ピストンの受圧面積との積になる。従って、これら両油圧室のうちの何れの油圧室の油圧が高いかでトルクの方向が分かり、上記油圧の差によりこのトルクの大きさが分かる。
【0042】
そこで、本発明を実施する場合には、上記油圧センサにより構成するトルク検出手段の検出値に基づいて、上記トロイダル型無段変速機11aの構成部品の変位量と変位方向とにより定まる変速比のずれ量を求める。この様に、トロイダル型無段変速機11aを通過するトルクと変速比のずれ量(構成部品の変位量と変位方向)との関係は、予め行なった実験により、例えば前述した図7に示す様な関係として求める。そして、これらトルクと変速比のずれ量(構成部品の変位量と変位方向)との関係を、無段変速装置の変速比を制御する為の制御器のメモリ内に、マップ或は実験式として記憶させておく。この様なマップ或は実験式は、前記低速用クラッチ31bを接続して前記高速用クラッチ16bの接続を断った低速モード時と、この低速用クラッチ31bの接続を断ってこの高速用クラッチ16bを接続した高速モード時との双方で作成し、上記制御器のメモリに記憶させておく。
【0043】
そしてこの制御器は、高速モードと低速モードとの切り換え時に、上記メモリ内に記憶したマップ或は実験式に基づいて、このモード切り換えの方向に対応する変位量と変位方向と(により定まる変速比のずれ量)に応じて、上記低速用クラッチ31bと上記高速用クラッチ16bとの断接に基づく、上記両モードを切り換えのタイミングを補正する。そして、この補正に基づいて、上記トロイダル型無段変速機11aを通過するトルク(通過トルク)に基づく、このトロイダル型無段変速機11aの構成部品の変位に拘らず、上記両モードの切り換え時に於ける前記入力軸1と前記出力軸20aとの間の変速比の変動を抑える。言い換えれば、上記通過トルクを勘案した無段変速装置全体としての速度比が、モード切り換えの前後で一致する様にしている。この点に就いて、図2を参照しつつ説明する。尚、この図2の縦軸は、実際に得られる無段変速装置全体の速度比を、横軸は、上記トロイダル型無段変速機11aの目標速度比を、それぞれ表している。この目標速度比とは、無段変速装置全体としての速度比を得る為に必要とされる、上記トロイダル型無段変速機11aの速度比である。
【0044】
先ず、上記トロイダル型無段変速機11aの構成部品が、上記通過トルクにより変位しない状態を考える。この場合には、前述した様に、無段変速装置全体の速度比eCVT は、上記トロイダル型無段変速機11aの速度比eCVU の変化に伴って、図2の実線α、βの様に変化する。従って、この場合には、これら両実線α、β同士の交点▲1▼で上記モード切り換えるべく、上記低速用クラッチ31bと上記高速用クラッチ16bとのうちの一方のクラッチの接続を断つと共に他方のクラッチを接続すれば、滑らかな変速動作を行なえる。
【0045】
但し、実際の場合には、上記通過トルクに基づいて、上記トロイダル型無段変速機11aの速度比eCVU からずれる。図1に示す様な無段変速装置の場合、上記低速用クラッチ31bを接続し、上記高速用クラッチ16bの接続を断った低速モード時には、上記無段変速装置全体の速度比eCVT と上記トロイダル型無段変速機11aの速度比eCVU との関係は、図2の破線α´の様になる。これに対して、上記低速用クラッチ31bの接続を断ち、上記高速用クラッチ16bを接続した高速モード時には、上記無段変速装置全体の速度比eCVT と上記トロイダル型無段変速機11aの速度比eCVU との関係は、図2の破線β´の様になる。尚、この図2で、実線α、βと破線α´、β´とのずれ量は、実際の場合よりも誇張して描いている。又、このずれ量は、上記通過トルクに応じて変化する。又、上記破線α´が非直線状で実線αの両側に分布する理由は、低速モード時には、速度比が無限大の状態を挟んで、上記トロイダル型無段変速機11aを通過するトルクの方向が変化する為である。何れにしても、上記通過トルクに基づいて上記トロイダル型無段変速機11aの速度比eCVU は、制御器からの(通過トルクの変動を考慮しない)指令値とは異なったものとなる。従って、上記両実線α、β同士の交点▲1▼で上記モードを切り換える事は、モード切り換え時の変速ショックを抑える面からは論理的ではない。
【0046】
同様に、前述した特許文献6に記載されている様に、それまでのモードで実際に得られていた(図2の破線α´又はβ´により表される)上記無段変速装置全体の速度比eCVT に対応してモード切り換えを行なう場合でも、切り換え後の速度比eCVT を(図2の実線α又はβにより表される)理論値とした場合には、モード切り換えに伴って変速ショックを生じる。例えば、低速モードから高速モードへの切り換えを、破線α´と実線βとの交点である▲2▼点で行なった場合を考える。この場合には、モード切り換えに伴う通過トルクの変動に伴って、切り換え後に於ける上記無段変速装置全体の速度比eCVT と上記トロイダル型無段変速機11aの速度比eCVU との関係が図2の破線β´の様になる。この為、上記モード切り換えの前後で上記無段変速装置全体の速度比eCVT は、上記▲2▼点から▲2▼´点まで変化する。この結果、モード切り換えに伴って変速ショックを生じる。
【0047】
又、高速モードから低速モードへの切り換えを、破線β´と実線αとの交点である▲3▼点で行なった場合には、切り換え後に於ける上記無段変速装置全体の速度比eCVT と上記トロイダル型無段変速機11aの速度比eCVU との関係が図2の破線α´の様になる。この為、上記モード切り換えの前後で上記無段変速装置全体の速度比eCVT は、上記▲3▼点から▲3▼´点まで変化する結果、モード切り換えに伴って変速ショックを生じる。
【0048】
これに対して本例の場合には、低速モードと高速モードとの切り換えを、何れも通過トルクによる構成各部材の変動(に基づく変速比のずれ)を考慮した、図2の破線α´と破線β´との交点である、▲4▼(丸付数字の4)点で行なう。上述の説明から明らかな通り、これら両破線α´、β´の位置は、上記トロイダル型無段変速機11aの通過トルクの方向及び大きさの変動に伴って変化する。本例の場合、前述した様に、アクチュエータに設けた両油圧室に設けた油圧センサからの信号により、トルクの方向と大きさとを求められる為、前述したマップ或は実験式から、上記両破線α´、β´の位置を求める事ができる。そして、切り換えに伴って新たに実現されるモード状態での、上記トロイダル型無段変速機11aの速度比eCVU と上記無段変速装置全体の速度比eCVT との関係を求め、上記切り換えに伴ってこの無段変速装置全体の速度比eCVT が変動しない様にできる。この点に就いて、加速時(無段変速装置全体の速度比eCVT を図2の縦軸の上方に変化させる状態)と減速時(同じく下方に変化させる状態)とのそれぞれに就いて説明する。
【0049】
先ず、低速モード状態での加速時には、上記トロイダル型無段変速機11aの速度比eCVU と上記無段変速装置全体の速度比eCVT との関係が、図2の破線α´上を、図2の左下から右上に変化する。この際には、前記図1に示した入力軸1の回転速度と出力軸20aの回転速度とを、図示しない回転速度検出センサにより求める。そして、上記無段変速装置全体の速度比eCVT を、上記両軸1、20aの回転速度の比として、実際に求める。上記トロイダル型無段変速機11aの実際の速度比eCVU に関しても、必要に応じて、入力側ディスク2と出力ディスク5aとの回転速度から求める。同時に、上記トロイダル型無段変速機11aの通過トルクの方向及び大きさにより、その時点でモード切り換えを行なった場合に上記トロイダル型無段変速機11aを通過するトルク(予測通過トルク)の方向と大きさとを求める。そして、この予測通過トルクに基づいて前述したマップ或は実験式から、モードを低速モードから高速モードに切り換えた後に於ける、上記トロイダル型無段変速機11aの速度比eCVU と上記無段変速装置全体の速度比eCVT との関係、即ち、図2の破線β´(又は破線β´に対応した速度比eCVT )を求める。
【0050】
この様にして、低速モードから高速モードに切り換えた場合に於ける上記両速度比eCVU 、eCVT 同士の関係、即ち、上記破線β´を求めたならば、その時点でのこれら両速度比eCVU 、eCVT 同士の関係がこの破線β´上に存在するか否かを検討する。そして、その時点でのこれら両速度比eCVU 、eCVT 同士の関係がこの破線β´上に存在した場合(無段変速装置の状態が図2の▲4▼点になった場合)に、低速モードから高速モードへの切り換えを行なう。即ち、加速時には、前記破線α´上を図2の左下から右上に移動し、上記破線β´に達した▲4▼点時点で、それまで接続されていた低速用クラッチ31bの接続を断つと共に、それまで接続を断たれていた高速用クラッチ16bを接続する。
【0051】
図2から明らかな通り、上記▲4▼点は両破線α´、β´の交点に位置する。又、この場合に於ける破線α´は、実際に通過トルクに基づく変位の影響を受けた状態での、上記両速度比eCVU 、eCVT 同士の関係を表している。更に、上記破線β´は、モード切り換え後に予想される通過トルクの影響を勘案した、上記両速度比eCVU 、eCVT 同士の関係を表している。従って、上記▲4▼点でモード切り換えを行なえば、上記通過トルクに基づく、上記トロイダル型無段変速機11aの構成各部材の変位に拘らず、切り換えの前後で上記無段変速装置全体の速度比eCVT が大きく変化する事がなくなる。この結果、モード切り換えに伴う変速ショックを僅少に抑えて、乗員等に不快感を与える事を防止できる。
【0052】
又、減速時には、上述の加速時の場合とは逆に、前記入力軸1の回転速度と前記出力軸20aの回転速度とから上記無段変速装置全体の速度比eCVT を実際に求めつつ、図2の破線β´を左上から右下に移動する。同時に、その時点での上記トロイダル型無段変速機11aの通過トルクの方向及び大きさに基づいて、モードを低速モードに切り換えた後に予想される通過トルクの影響を勘案した、上記両速度比eCVU 、eCVT 同士の関係、即ち、図2の破線α´(又は破線α´に対応した速度比eCVT )を求める。そして、その時点でのこれら両速度比eCVU 、eCVT 同士の関係がこの破線α´上に存在する状態で、高速モードから低速モードへの切り換えを行なう。この様にして行なう高速モードから低速モードへの切り換え時にも、モード切り換えに伴う変速ショックを僅少に抑えて、乗員等に不快感を与える事を防止できる。
【0053】
尚、上記モードの切り換え時、切り換えるべき旨の指令を出してから実際にモードが切り換わるまでに遅延時間を要する事が避けられない。この様な遅延時間を考慮せずに上記指令を発すると、実際にモードが切り換わった瞬間が、上記破線α´、β´から外れ、変速ショックが生じる可能性がある。そこで、上記遅延時間を予め実験により求めておき、この遅延時間に応じて、上記指令を出すタイミングを速くする事が、より円滑なモード切り換えを行なう為には好ましい。
又、以上の説明は、ギヤード・ニュートラル型の無段変速装置で本発明を実施する場合であるが、本発明は、前述の図4に示す様な、パワー・スプリット型の無段変速装置でも、同様に実施できる。
【0054】
【発明の効果】
本発明は、以上に述べた通り構成され作用するので、トロイダル型無段変速機と、遊星歯車式変速ユニット等の歯車式の差動ユニットとを組み合わせた無段変速装置で、モード切り換え時に変速ショックのない構造を実現して、当該無段変速装置の性能向上を図れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態の1例を示す略断面図。
【図2】トロイダル型無段変速機の目標速度比と無段変速装置全体の速度比との関係を示す線図。
【図3】従来から知られているトロイダル型無段変速機の1例を示す断面図。
【図4】従来から知られている、トロイダル型無段変速機と遊星歯車式変速機とを組み合わせて成る無段変速装置の第1例を示す略断面図。
【図5】同第2例を示す断面図。
【図6】この第2例の構造で、トロイダル型無段変速機の変速比と無段変速装置全体としての速度比との関係を示す線図。
【図7】通過トルクの変動に伴ってトロイダル型無段変速機の変速比が変動する状態を示す線図。
【図8】無段変速装置全体としての速度比と、トロイダル型無段変速機を通過するトルクの方向及び大きさと、このトロイダル型無段変速機の変速比との関係を示す線図。
【符号の説明】
1 入力軸
2 入力側ディスク
3 ボールスプライン
4 出力歯車
5、5a 出力側ディスク
6 パワーローラ
7 トラニオン
8 支持軸
9 駆動軸
10、10a 押圧装置
11、11a トロイダル型無段変速機
12、12a、12b 遊星歯車式変速ユニット
13、13a リング歯車
14 支持板
15 伝達軸
16、16a、16b 高速用クラッチ
17 エンジン
18 クランクシャフト
19 発進クラッチ
20、20a 出力軸
21、21a 太陽歯車
22、22a、22b 遊星歯車
23a、23b 遊星歯車素子
24、24a、24b キャリア
25 動力伝達機構
26 伝達軸
27a、27b スプロケット
28 チェン
29 第一の歯車
30 第二の歯車
31、31a、31b 低速用クラッチ
32 後退用クラッチ
33a、33b 遊星歯車素子
34 第一の伝達軸
35a、35b、35c 太陽歯車
36 第二の伝達軸
37 遊星歯車素子
38、38a 第二のキャリア
39a、39b 遊星歯車素子
40、40a 第二のリング歯車
41 第一の遊星歯車
42 第二の遊星歯車
43a、43b 遊星歯車素子
44a、44b 遊星歯車素子
45 中空回転軸
46 伝達軸
47 第一の太陽歯車
48 第二の太陽歯車
49 リング歯車
50a、50b 遊星歯車素子

Claims (4)

  1. 入力軸及び出力軸と、互いの間での動力の伝達を可能に組み合わされた状態でこれら入力軸と出力軸との間に設けられた、トロイダル型無段変速機及び歯車式の差動ユニットと、上記入力軸と出力軸との間の変速状態を少なくとも2種類のモードのうちから選択する為、上記トロイダル型無段変速機と差動ユニットとの接続状態を切り換えるモード切換手段と、このモード切換手段による上記少なくとも2種類のモードの切り換えのタイミングを含めて、上記入力軸と上記出力軸との間の変速比を制御する制御器とを備え、この制御器からの指令に基づいて上記モード切換手段により上記少なくとも2種類のモードを、これら両モードによる上記入力軸と出力軸との間の変速比がほぼ一致する状態で切り換える無段変速装置に於いて、上記トロイダル型無段変速機を通過するトルクの大きさと方向とを検出する為のトルク検出手段を設けると共に、上記各モードのそれぞれに就いて予め求めた、上記トロイダル型無段変速機を通過するトルクと変速比のずれ量との関係を上記制御器のメモリ内に記憶させておき、上記トルク検出手段の検出値に基づいて上記トロイダル型無段変速機の変速比のずれ量を求め、この変速比のずれ量に基づいて上記モード切換手段による上記両モードを切り換えのタイミングを補正し、上記トロイダル型無段変速機を通過するトルクを勘案した無段変速装置全体としての速度比が、モード切り換えの前後で一致する状態で上記両モードを切り換える事により、上記トルクに基づく上記トロイダル型無段変速機の構成部品の変位に拘らず、上記両モードの切り換え時に於ける上記入力軸と上記出力軸との間の変速比の変動を抑える事を特徴とする無段変速装置。
  2. トロイダル型無段変速機は、入力軸と共に回転する入力側ディスクと、パワーローラを介してこの入力側ディスクとの間でトルクの伝達を行なう出力側ディスクとを備えたものであり、モード切換手段は高速用クラッチと低速用クラッチとから成るものであり、低速用クラッチを接続して高速用クラッチの接続を断った低速モードの状態では、上記トロイダル型無段変速機を通過するトルクが上記入力側ディスクから上記出力側ディスクに伝達され、上記低速用クラッチの接続を断って上記高速用クラッチを接続した高速モードの状態では、上記トロイダル型無段変速機を通過するトルクが上記出力側ディスクから上記入力側ディスクに伝達されると共に、差動ユニットの変速比を上記トロイダル型無段変速機の変速比を変える事により調節する、請求項1に記載した無段変速装置。
  3. トロイダル型無段変速機は、入力軸と共に回転する入力側ディスクと、パワーローラを介してこの入力側ディスクとの間でトルクの伝達を行なう出力側ディスクとを備えたものであり、モード切換手段は高速用クラッチと低速用クラッチとから成るものであり、低速用クラッチを接続して高速用クラッチの接続を断った低速モードの状態では、上記トロイダル型無段変速機を通過するトルクが上記出力側ディスクから上記入力側ディスクに伝達され、差動ユニットの速度比を上記トロイダル型無段変速機の変速比を変える事により調節し、上記低速用クラッチの接続を断って上記高速用クラッチを接続した高速モードの状態では、上記トロイダル型無段変速機を通過するトルクが、上記入力側ディスクから上記出力側ディスクに伝達される、請求項1に記載した無段変速装置。
  4. モード切換手段にモードを切り換えるべき旨の指令を出してから実際にモードが切り換わるまでに要する遅延時間に応じて、この指令を出すタイミングを速くする、請求項1〜3の何れかに記載した無段変速装置。
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