JP4149573B2 - 内燃機関用潤滑油組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は内燃機関用潤滑油組成物に関し、さらに詳しくは、内燃機関の排気ガス低減を目的とした排気ガス浄化触媒のリン被毒を抑制するとともに、ピストン清浄性、スラッジ防止性、酸化安定性および摩耗防止性に優れた内燃機関用潤滑油組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛(以下、ZDTPという)は内燃機関用潤滑油の酸化防止剤、摩耗防止剤として1950年ごろから使用されており、現在も必須の添加剤として添加されている。しかしながらZDTPは、1978年の国内の排気ガス規制以降ガソリンエンジン装着されるようになった排気ガスを浄化するための触媒に悪影響を及ぼすことが明らかになってきた。例えば南谷ら[石油学会誌、21巻、2号、116頁(1978年)]は、初期に使用されていたペレットタイプの酸化触媒(炭化水素および一酸化炭素を酸化して浄化する)に対する添加剤の効果を調べ、潤滑油中にZDTPを添加すると触媒の浄化率が著しく低下し、その低下率は触媒上に付着したリン化合物の量と関係があることを見いだしている。このため1970年代以降、国内の潤滑油中のリン濃度は低く抑えられた。
【0003】
1980年代中頃からは、炭化水素および一酸化炭素を酸化すると同時に窒素酸化物を還元する三元触媒が主流になってきた。三元触媒は酸素が存在しない状態、すなわち、理論空燃比で燃焼した場合効果的に作用するため、理論空燃比を維持するための酸素センサーが同時に装着されるようになった。ペレット状の三元触媒についても潤滑油中のリンの被毒に関する報告が多くなされている。例えば、F.Caraccioloら(SAE Paper 790941)は、潤滑油中のZDTPの増加とともに、触媒上のリンが増加し、触媒性能が低下することを明らかにしている。またリンが酸素センサー上に堆積することによりセンサー出力に影響を与えることを見いだしている。D.R.Monroeも(SAEPaper 800859)同様な結果を得ており、三元触媒に対するリンの被毒は広く知られるようになった。
【0004】
最近では、ペレットタイプの三元触媒の耐久性を改良したモノリスタイプ(触媒の担体をハニカム状に成型し一体型としたもの)の触媒が主流になっているが、このタイプでもZDTP中のリンが触媒および酸素センサーに付着して悪影響を与えることが明らかになっている(例えば、井上ら、SAE Paper 920654、植田ら、SAE Paper 940746)。
【0005】
ZDTP中のリンによる触媒被毒は金属系清浄剤によりある程度緩和されることが知られている[例えば南谷ら、石油学会誌、21巻、2号、116頁(1 978年)、井上ら、SAE Paper 920654]が、灰分は燃焼室デポジット(CCD;Combustion Chamber Deposit)などの原因となる[例えば武井ら、石油製品討論会(1995年)予稿集、182頁]ので、おのずと使用量は限定せざるを得ない。
【0006】
このような背景から、ILSAC(International Lubricant Standard and Approval Committee)ではエンジン油中のリン濃度を規制しており、ILSACの規格であるGF−1では0.12%以下、最新の規格であるGF−2では0.10%以下となっている。
またリンは触媒のみならず排出されると環境にも悪影響を与えるので、最近では、なるべくリンの含有量が少ないエンジン油が望ましいとされている。
【0007】
低リン油としては、ジチオカルバミン酸亜鉛およびアルキルヒドロキシアリールスルフィドを含有するエンジン油(特開昭62−253691号公報)、アルキルチオカルバモイル化合物を含む低リン油(特開平6−41568号公報)、硫黄源とディールスアルダー付加物の反応物およびテルペン類を含有するエンジン油(特開平1−500912号公報)などが知られている。
【0008】
また無リン油としては、5〜500ppmの銅オレート、油溶性含硫黄化合物およびホウ酸エステル系腐食防止剤を含有するエンジン油(特開昭63−304095号公報および特開昭63−304096号公報)、過塩基性金属スルホネート、無灰分散剤およびジチオカルバミン酸亜鉛を含有するエンジン油(特開昭52−39704号公報)、置換ピリジンおよび置換ジアジンを含有するエンジン油(特開昭62−243692号公報)、油溶性無灰分散剤、ジチオカルバミン酸金属塩、スルフィドおよびチアジアゾールを含有するエンジン油(特開昭62−501917号公報)、ジチオカルバミン酸金属塩および硫化ディールスアルダー付加物を含有するエンジン油(特開昭62−501571号公報)、ジチオカルバミン酸金属塩、油溶性アミン、ジチオカルバミン酸モリブデンまたはジチオリン酸モリブデンを含有するエンジン油(特開平5−311186号公報)、ジチオカルバミン酸金属塩および油溶性アミンを含有するエンジン油(特開平5−39495号公報)、硫化フェネートを含有するエンジン油(特開平6−264082号公報)、サリシレートとフェネートの混合物を含有するエンジン油(特開平6−264083号公報および特開平6−264084号公報)、ジチオカルバミン酸金属塩とアミンの反応物を含有するエンジン油(特開平7−118680号公報)、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールとグリセリドの反応物を含有し、亜鉛およびリンを含有しないエンジン油(特開平8−67891号公報)などが知られている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ZDTPはエンジン油の酸化防止剤および摩耗防止剤として極めて優れた性能を発現するため、ZDTPを含有せずかつ優れた酸化安定性や耐摩耗性、安定な粘度特性を有する潤滑油の開発は困難であった。
本発明の目的は、従来の問題に鑑み、内燃機関の排気ガス低減を目的とした排気ガス浄化触媒のリン被毒を抑制するとともに、ピストン清浄性、スラッジ防止性、酸化安定性および摩耗防止性に優れた、ZDTPを含有しない内燃機関用潤滑油組成物を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、ZDTPを添加しないエンジン油処方について研究を重ねた結果、特定の性状を有する鉱油系潤滑油基油に、特定の各種添加剤を特定量含有させた内燃機関用潤滑油組成物を用いることによって、課題を解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、本質的にリン元素含有添加剤を含有しない内燃機関用潤滑油組成物であって、
(1)100℃における動粘度が2〜8mm2 /sであり、全芳香族含有量が0〜15質量%の鉱油系潤滑油基油、
(2)フェノール系無灰酸化防止剤を組成物全量基準で0.5〜2質量%、
(3)数平均分子量900〜3500のポリブテニル基を有する無灰分散剤を組成物全量基準で1〜10質量%、
(4)含硫黄化合物を組成物全量基準で硫黄濃度換算にして0.05〜0.5質量%、
(5)全塩基価60〜400mgKOH/gの清浄剤を組成物全量基準で硫酸灰分として0.5〜1.2質量%
および
(6)組成物の100℃における動粘度が9.3〜16.5mm2 /sになるような量の粘度指数向上剤
を含有することを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物に関する。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いる成分(1)の鉱油系潤滑油基油としては、例えば、原油を常圧蒸留および減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理などを適宜組み合わせて精製したパラフィン系、ナフテン系などの油がある。
【0013】
本発明で用いる成分(1)の鉱油系潤滑油基油としては、100℃における動粘度が2〜8mm2 /sの範囲で、かつ全芳香族含有量の下限が0質量%以上、好ましくは2質量%以上、上限が15質量%以下、好ましくは13質量%以下であることが肝要である。基油の全芳香族含有量が15質量%を越える場合は酸化安定性が悪いので好ましくない。
【0014】
なお、本発明でいう全芳香族含有量とは、ASTM D 2549に規定される“Standard Test Method for Separation of Representative Aromatics and Nonaromatics Fractions of High−BoilingOils by Elution Chromatography”に準拠して測定した芳香族留分(aromatics fraction)含有量を意味しており、通常、この芳香族留分には、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、アントラセン、フェナントレン、およびこれらのアルキル化物、四環以上のベンゼン環が縮合した化合物、またはピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類などのヘテロ芳香族を有する化合物などが含まれる。
【0015】
本発明で用いる成分(2)のフェノール系無灰酸化防止剤の具体例としては、例えば4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−4(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルベンジル)スルフィド、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、2,2’−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートおよびこれらの混合物などが挙げられる。
【0016】
本発明の潤滑油組成物における成分(2)のフェノール系無灰酸化防止剤の含有量は組成物全量基準で下限が0.5質量%以上、上限が2質量%以下、好ましくは1.8質量%以下である。
含有量が0.5質量%に満たない場合は酸化安定性が悪く、また含有量が2質量%を越える場合は貯蔵安定性が悪いので好ましくない。
また、本発明では無灰酸化防止剤として成分(2)フェノール系無灰酸化防止剤を用いるが、さらにアミン系無灰酸化防止剤と混合して用いるとより優れた酸化安定性の効果を得ることができる。
【0017】
アミン系無灰酸化防止剤の好ましい具体例としては、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミンおよびこれらの混合物などが挙げられる。
【0018】
本発明の潤滑油組成物において無灰酸化防止剤としてフェノール系酸化防止剤およびアミン系酸化防止剤を組み合わせて使用する場合の含有量はそれぞれ組成物全量基準で下限が0.5質量%以上、上限が2質量%以下、好ましくは1.8質量%以下であることが望ましい。
それぞれの含有量が0.5質量%に満たない場合は酸化安定性に劣り、また含有量が2質量%を越える場合は貯蔵安定性が悪化する恐れがある。
【0019】
本発明で用いる成分(3)の無灰分散剤は、数平均分子量900〜3500、好ましくは1000〜2000のポリブテニル基を有するものであり、その具体例としてはポリブテニルコハク酸イミド、ポリブテニルベンジルアミン、ポリブテニルコハク酸エステルまたはこれらの混合物が挙げられる。
ここでいうポリブテニルコハク酸イミドとしては、例えば、次の一般式(1)で示されるモノイミドまたは次の一般式(2)で示されるビスイミドが挙げられる。
【0020】
【化1】
【0021】
【化2】
【0022】
上記一般式(1)および一般式(2)においてR1 、R2 およびR3 はそれぞれに個別に数平均分子量900〜3500、好ましくは1000〜2000のポリブテニル基を、nは2〜4の整数をそれぞれ示す。
【0023】
またポリブテニルベンジルアミンとしては、例えば、次の一般式(3)で示されるものが挙げられる。
【0024】
【化3】
【0025】
上記一般式(3)においてR4 およびR5 はそれぞれ個別に数平均分子量900〜3500、好ましくは1000〜2000のポリブテニル基を、nは2〜4の整数をそれぞれ示す。
【0026】
またポリブテニルコハク酸エステルとしては、例えば、次の一般式(4)で示されるものが挙げられる。
【0027】
【化4】
【0028】
上記一般式(4)においてR6 は数平均分子量900〜3500、好ましくは1000〜2000のポリブテニル基を示す。
【0029】
本発明の潤滑油組成物における成分(3)の無灰分散剤の含有量は組成物全量基準で下限が1質量%以上、好ましくは5質量%以上、上限が10質量%以下、好ましくは8質量%以下である。
成分(3)の無灰分散剤の含有量が1質量%に満たない場合は耐摩耗性が悪化するので好ましくなく、また含有量が10質量%を越える場合は低温時の潤滑油粘度が増加するので好ましくない。
【0030】
本発明で用いる成分(4)の含硫黄化合物としては、例えば、硫化油脂、硫黄架橋された金属フェネート、チアジアゾール、ポリサルファイド、無灰アルキルチオカルバモイル化合物、金属アルキルチオカルバモイル化合物などを用いることができる。
【0031】
硫化油脂としては、オリーブ油、ひまし油、茶実油、ぬか油、綿実油、菜種油、トウモロコシ油、牛脂油、マッコウ鯨油、鯨ロウなど、不飽和結合を有する動植物油脂に硫黄を加え、加熱することにより得られる化合物が挙げられる。
【0032】
硫黄架橋された金属フェネートとしては、炭素数8〜30のアルキル基が付加されたアルキルフェノールの硫化物のアルカリ土類金属塩が挙げられ、下記一般式(9)で表されるものに代表される。
【0033】
ポリサルファイドの具体的としては、ジブチルポリサルファイド、ジヘキシルポリサルファイド、ジオクチルポリサルファイド、ジノニルポリサルファイド、ジデシルポリサルファイド、ジドデシルポリサルファイド、ジテトラデシルポリサルファイド、ジヘキサデシルポリサルファイド、ジオクタデシルポリサルファイド、ジエイコシルポリサルファイド、ジフェニルポリサルファイド、ジフェネチルポリサルファイド、ポリプロペニルポリサルファイド、ポリブテニルポリサルファイドおよびこれらの混合物などが挙げられるが、特に、ポリプロペニルポリサルファイド、ポリブテニルポリサルファイドおよびこれらの混合物が好ましい。
【0034】
チアジアゾールとしては、例えば、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスアルキルポリサルファイド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメートなどのチアジアゾール誘導体を使用することができる。
【0035】
無灰アルキルチオカルバモイル化合物としては、例えば、次の一般式(5)で示されるものを用いることができる。
【0036】
【化5】
【0037】
上記一般式(5)においてR7 、R8 、R9 およびR10はそれぞれ個別に炭素数1〜18、好ましくは1〜10の直鎖あるいは分岐アルキル基を表し、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基などが挙げられる。また(X)はS、S−S、S−CH2 −S、S−(CH2 )2 −SあるいはS−(CH2 )3 −Sであることができる。
【0038】
本発明で使用する金属アルキルチオカルバモイル化合物としては、例えば、次の一般式(6)で示される亜鉛ジチオカーバメートあるいは一般式(7)で示されるモリブデンジチオカーバメートを用いることができる。なお添加量が一定の場合亜鉛ジチオカーバメートよりモリブデンジチオカーバメートの方が添加効果が優れている。
【0039】
【化6】
【0040】
上記一般式(6)において、R11、R12、R13およびR14はそれぞれ個別に炭素数1〜18、好ましくは1〜10の直鎖あるいは分岐アルキル基を表し、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基などが挙げられる。
【0041】
【化7】
【0042】
上記一般式(7)において、R15、R16、R17およびR18はそれぞれ個別にアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基などの炭化水素基を示し、特にアルキル基が好ましい。R15、R16、R17およびR18の具体例としては、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基などの炭素数2〜18、好ましくは8〜13のアルキル基(これらアルキル基は直鎖でも分枝でもよく、また1級アルキル基、2級アルキル基または3級アルキル基でもよい。);ブチルフェニル基、ノニルフェニル基などのアルキルアリール基(これらアルキルアリール基のアルキル部分は直鎖でも分枝でもよく、アルキル部分のアリール基上の置換位置は任意である。)などが挙げられる。
R15、R16、R17およびR18としてアルキル基を導入する際にα−オレフィンの混合物を原料とすることができるが、この場合は異なる構造のアルキル基を有するモリブデンジチオカーバメートの混合物となる。
またX3 、X4 、X5 およびX6 は別個に硫黄原子または酸素原子とすることができる。
【0043】
本発明の潤滑油組成物における成分(4)の含硫黄化合物の含有量は組成物全量基準で、硫黄濃度換算で下限が0.05質量%以上、好ましくは0.08質量%以上、上限が0.5質量%以下、好ましくは0.3質量%以下である。
成分(4)の含硫黄化合物の含有量が硫黄濃度換算で0.05質量%に満たない場合は耐摩耗性が劣り、また含有量が硫黄濃度換算で0.5質量%を越える場合は酸化安定性が劣り好ましくない。
【0044】
本発明で用いる成分(5)の清浄剤としては、全塩基価が下限が60mgKOH/g以上、好ましくは200mgKOH/g以上、上限が400mgKOH/g以下のものを使用することができる。
成分(5)の清浄剤の全塩基価が60mgKOH/gに満たない場合は酸化安定性が劣るので好ましくない。
なお、本発明でいう全塩基価とは過塩素酸法によるものであって、JIS K2501(1992)の「石油製品及び潤滑油−中和価試験方法」に規定する方法に準拠して測定される値を意味する。
【0045】
本発明で用いる成分(5)の清浄剤としては、例えば、アルカリ土類金属スルフォネート、アルカリ土類金属フェネートおよびアルカリ土類金属サリシレートなどが挙げられる。
【0046】
ここでいうアルカリ土類金属スルフォネートとは、例えば分子量300〜1500、好ましくは400〜700のアルキル芳香族化合物をスルフォン化することによって得られるアルキル芳香族スルフォン酸のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩および/またはカルシウム塩であり、カルシウム塩が好ましく用いられる。
【0047】
上記アルキル芳香族スルフォン酸としては、具体的にはいわゆる石油スルフォン酸や合成スルフォン酸などが挙げられる。
【0048】
ここでいう石油スルフォン酸としては、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルフォン化したものやホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸などが用いられる。また合成スルフォン酸としては、例えば洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生したり、ポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる、直鎖状や分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルフォン化したもの、あるいはジノニルナフタレンなどのアルキルナフタレンをスルフォン化したものなどが用いられる。またこれらアルキル芳香族化合物をスルフォン化する際のスルフォン化剤としては特に制限はないが、通常、発煙硫酸や無水硫酸が用いられる。
【0049】
アルカリ土類金属フェネートとしてはアルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩および/またはカルシウム塩が挙げられ、例えば下記の一般式(8)〜(10)で表されるものを挙げることができる。
【0050】
【化8】
【0051】
【化9】
【0052】
【化10】
【0053】
上記一般式(8)〜(10)中、R19、R20、R21、R22、R23およびR24は、それぞれ個別に炭素数8〜30、好ましくは9〜20の直鎖または分枝アルキル基を、M1 〜M3 はアルカリ土類金属、好ましくはカルシウムおよび/またはマグネシウムを、xは1〜4、好ましくは1〜2の整数を示す。
【0054】
また、サリシレートとしてはアルキルサリチル酸のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩および/またはカルシウム塩が挙げられ、例えば下記一般式(11)で表されるものを挙げることができる。
【0055】
【化11】
【0056】
上記一般式(11)中、R25は炭素数12〜30、好ましくは14〜18の直鎖アルキル基を、M4 はアルカリ土類金属、好ましくはカルシウムおよび/またはマグネシウムを示す。
【0057】
本発明で用いる成分(5)の清浄剤としては、例えば、上記のアルキル芳香族スルフォン酸、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物、アリキルサリチル酸などを直接、マグネシウムおよび/またはカルシウムのアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物などのアルカリ土類金属塩基と反応させたり、または一度ナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と置換させることなどにより得られる中性(正塩)アルカリ土類金属フェネートおよび中性(正塩)アルカリ土類金属サリシレート(これらの塩基価は60〜80mgKOH/g程度ある。)や中性(正塩)アルカリ土類金属スルフォネート、中性(正塩)アルカリ土類金属フェネートおよび中性(正塩)アルカリ土類金属サリシレートを水の存在下で加熱することにより得られる塩基性アルカリ土類金属スルフォネート、塩基性アルカリ土類金属フェネートおよび塩基性アルカリ土類金属サリシレート、さらに炭酸ガスの存在下で中性アルカリ土類金属スルフォネート、中性アルカリ土類金属フェネートおよび中性アルカリ土類金属サリシレートをアルカリ土類金属の塩基と反応させることにより得られる過塩基性(超塩基性)アルカリ土類金属スルフォネート、過塩基性(超塩基性)アルカリ土類金属フェネートおよび過塩基性(超塩基性)アルカリ土類金属サリシレートおよびこれらの混合物などを用いることができる。
【0058】
本発明で用いる成分(5)の清浄剤の含有量は組成物全量基準で、硫酸灰分として下限が0.5質量%以上、好ましくは0.8質量%以上、上限が1.2質量%以下、好ましくは1.1質量%以下である。含有量が0.5質量%に満たない場合は酸化安定性が劣るので好ましくなく、また含有量が1.2質量%を越える場合は燃焼室内のデポジットが生じやすくなるので好ましくない。なお硫酸灰分試験方法はJIS K2272−1985の「原油及び石油製品の灰分並びに硫酸灰分試験法」による。
【0059】
本発明の潤滑油組成物には、さらに潤滑油組成物の100℃での動粘度が下限が9.3mm2 /s以上、上限が16.5mm2 /s以下になるような量の成分(6)粘度指数向上剤を含有する。
【0060】
本発明で用いる成分(6)の粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート、オレフィンコポリマーもしくはその水素化物、スチレン−ジエンコポリマー、ポリメタクリレートおよびオレフィンコポリマーのグラフトコポリマーもしくはその水素化物、ポリメタクリレートおよびオレフィンコポリマーもしくはその水素化物の混合物が挙げられる。
ここでいうオレフィンコポリマーとしてはエチレンと炭素数3〜18のα−オレフィンのコポリマーが具体的な例として挙げられる。またここでいうスチレン−ジエンコポリマーでいうジエンとしては炭素数4〜10のジエン、好適にはブタジエンやペンタジエンが挙げられる。
【0061】
ポリメタクリレート、オレフィンコポリマーもしくはその水素化物、スチレン−ジエンコポリマー、ならびにポリメタクリレートおよびオレフィンコポリマーのグラフトコポリマーもしくはその水素化物の重量平均分子量は、それぞれ、通常、50,000〜1,000,000、10,000〜500,000、10,000〜1,000,000、50,000〜1,000,000の範囲である。
【0062】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、そのままでもピストン清浄性、スラッジ防止性、酸化安定性および摩耗防止性に優れたものであるが、その各種性能をさらに高める目的で、公知の潤滑油添加剤、例えば、極圧添加剤、耐摩耗剤、摩擦調整剤、錆止め剤、腐食防止剤、流動点降下剤、ゴム膨潤剤、消泡剤、着色剤などを単独で、または数種類組み合わせた形で使用することができる。
【0063】
極圧低減剤および耐摩耗性としては、例えば、本発明で用いる成分(4)以外の硫黄系化合物、具体的には例えば、ジスルフィド類、硫化オレフィン類が挙げられる。
【0064】
摩擦抵抗剤としては、具体的には例えば、モリブデンジチオフォスフェート、二流化モリブデン、長鎖脂肪族アルコール、長鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸エステル、長鎖脂肪族アミン、長鎖脂肪族アミン塩、長鎖脂肪酸アミドなどが挙げられる。
【0065】
錆止め剤としては、具体的には、例えば、アルケニルコハク酸、本発明で用いる成分(3)以外のアルケニルコハク酸エステル、例えば、前記一般式(4)のR6 の炭素数が18程度の低分子量アルケニルコハク酸部分エステル、多価アルコールエステル、ポリアルキレングリコールエステルなどが挙げられる。
【0066】
腐食防止剤としては、具体的には例えば、ベンゾトリアゾール系、イミダゾール系の化合物などが挙げられる。
【0067】
流動点降下剤としては、具体的には例えば、使用する潤滑油基油に適合するポリメタクリレート系のポリマーなどが挙げられる。
【0068】
消泡剤としては、具体的には例えば、ジメチルシリコーンやフルオロシリコーンなどのシリコーン類が挙げられる。
本発明において、これらの添加剤の添加量は任意であるが、通常、潤滑油組成物全量基準で、消泡剤の含有量は0.0005〜1重量%、腐食防止剤の含有量は0.005〜1重量%、その他の添加剤の含有量は、それぞれ0.1〜15重量%程度である。
【0069】
【実施例】
以下、本発明の内容を実施例および比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
(実施例1〜10)
表1〜4に示す処方で本発明の内燃機関用潤滑油組成物を製造し、各潤滑油組成物の性状を測定するとともに、下記の性能評価試験により耐摩耗性、酸化安定性、貯蔵安定性などの性能を評価した。結果を表1〜4に示す。
なお、表1〜4中のCCS粘度(−20℃)は、JIS K2010に規定されている「コールド・クランキング・シミュレーターを用いた−40℃から0℃のエンジン油の見掛け粘度試験方法」に準拠し、−20℃で測定した粘度である。
【0070】
(比較例1〜10)
表1〜4に示す処方で比較のための潤滑油組成物を製造し、実施例1〜10と同様にして、各潤滑油組成物の性状を測定するとともに耐摩耗性、酸化安定性、貯蔵安定性などの性能を評価した。結果を表2〜4に示す。
【0071】
(参考例1〜2)
表4に示す処方で下記のジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDTP)を添加した潤滑油組成物を製造し、実施例1〜10と同様にして、各潤滑油組成物の性状を測定するとともに耐摩耗性、酸化安定性、貯蔵安定性などの性能を評価した。結果を表4に示す。
【0072】
なお、実施例1〜10、比較例1〜10および参考例1〜2で用いた成分(1)鉱油系潤滑油基油、成分(2)フェノール系無灰酸化防止剤、成分(3)無灰分散剤、成分(4)含硫黄化合物、成分(5)清浄剤、および成分(6)粘度指数向上剤は以下の通りである。
【0073】
成分(1)鉱油系潤滑油基油:
鉱油系基油A:水素化分解鉱油 動粘度5.5mm2 /s@100℃、全芳香族含有量5質量%
鉱油系基油B:水素化分解鉱油 動粘度5.5mm2 /s@100℃、全芳香族含有量10質量%
鉱油系基油C:溶剤精製鉱油 動粘度5.0mm2 /s@100℃、全芳香族含有量20質量%
鉱油系基油D:溶剤精製鉱油 動粘度5.0mm2 /s@100℃、全芳香族含有量30質量%
【0074】
成分(2)フェノール系無灰酸化防止剤:4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)
アミン系無灰酸化防止剤:ジオクチルジフェニルアミン
成分(3)無灰分散剤:コハク酸イミド:ポリブテニルコハク酸ビスイミド、ポリブテニル基の数平均分子量1300、窒素濃度1.7質量%
成分(5)清浄剤:Caスルフォネート:全塩基価320mgKOH/g、硫酸灰分42.5質量%
【0075】
成分(4)含硫黄化合物:
無灰DTC:メチレンビス(ジアルキルジチオカーバメート)、硫黄濃度29.4質量%
硫化油脂:硫黄濃度11.0質量%
Ca硫化フェネート:硫黄濃度7.5質量%
チアジアゾール:2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール誘導体、硫黄濃度18.5質量%
ポリサルファイド:ポリプロペニルポリサルファイド、硫黄濃度9.0%
ZnDTC:炭素数5のアルキル基を有する亜鉛ジアルキルジチオカーバメート。硫黄濃度12.1質量%。
成分(6)粘度指数向上剤:重量平均分子量152,000のポリメタクリートおよびオレフィンコポリマーのグラフトコポリマー
ZDTP:ジアルキルジチオリン酸亜鉛、アルキル基はsec−ブチル基またはsec−ヘキシル基、リン濃度7.2質量%
【0076】
(性能評価試験):
JASO動弁系試験:
JASO(Japanese Automobile Standardization Organization)M328−95で規定されている「自動車用ガソリン機関用潤滑油の動弁系摩耗試験方法」に従い、日産KA24Eエンジンを使用し、100h運転後のカムシャフト摩耗量を測定した。
この試験はエンジン油の摩耗防止性を評価するもので、摩耗量が10μm以下の場合、摩耗防止性に優れているとされている。
【0077】
高温酸化安定性試験(HT-FRT:High Temperature Free Radical Titration):試験油1mlを精製ヘキサデカンで希釈し、155℃に保ちながらNOx混合ガス(NOx400ppm、酸素20%、窒素80%)240ml/minを吹き込み、酸素吸収が開始されるまでの誘導時間を測定した。
この試験はエンジン油の高温酸化安定性を測定するもので、誘導時間が長いほど酸化安定性に優れていることを示す。市販油の調査結果より、市場レベルは40min程度以上であることがわかっている。しかし、40倍に希釈して測定するため基油の効果については評価できない。
【0078】
高圧示差熱分析(PDSC:Pressurized Differencial Scanning Calorimetry):試験油数mgをアルミニウム製の皿に秤取り、示差熱分析計により200℃、酸素圧2MPaにおいて、試料の酸化により発熱が開始されるまでの誘導時間を測定した。
誘導時間が長いほど酸化安定性に優れており、HT−FRTと異なり基油の影響を評価することができる。
【0079】
潤滑油酸化安定度試験:
JIS K2514 3.1に規定されている「内燃機関用潤滑油酸化安定度試験方法」に準拠し、恒温槽の温度を150℃に調整して、72h後の酸化劣化油の性状を測定した。
この試験で測定した全塩基価は塩酸法によるものであって、JIS K2501−1992の「石油製品及び潤滑油−中和価試験方法」に規定する電位差滴定法による方法に準拠して測定した。潤滑油が酸化劣化を受けると酸性成分が生成することにより全塩基価が低下し、触媒として使用している銅が油中に溶出してくる。この為全塩基価の低下が小さく、銅溶出量が少ないほど酸化安定性に優れている。
【0080】
貯蔵安定性試験:
試料油を、JIS K2839の図105に規定されているI型目盛試験管に100ml入れ、−5℃の低温恒温槽中に1ケ月間静置し、沈殿や濁りの有無を調べた。目視により、沈殿および濁りの認められなかったものを「○」、沈殿あるいは濁りの認められたものを「×」として示した。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
【表4】
【0085】
表1〜4から、実施例1〜10の本発明の内燃機関用潤滑油組成物は各性能が優れていることが判る。しかし、比較例1および比較例2の潤滑油組成物は摩耗量が多いため好ましくなく、比較例3〜比較例7および比較例10の潤滑油組成物は酸化安定性が劣り、比較例8の潤滑油組成物は貯蔵安定性が劣り、比較例9の潤滑油組成物は低温粘度が劣っていることが判る。なお参考例1および参考例2はジアルキルジチオリン酸亜鉛を使用した例である。
【0086】
【発明の効果】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、ZDTPを含有せず、内燃機関の排気ガス低減を目的とした排気ガス浄化触媒のリン被毒を抑制するとともに、ピストン清浄性、スラッジ防止性、酸化安定性および摩耗防止性に優れており、安定な粘度特性を有する。
Claims (2)
- 本質的にリン元素含有添加剤を含有しない内燃機関用潤滑油組成物であって、
(1)100℃における動粘度が2〜8mm2/sであり、全芳香族含有量が0〜15質量%の鉱油系潤滑油基油、
(2)フェノール系無灰酸化防止剤を組成物全量基準で0.5〜2質量%、
(3)数平均分子量900〜3500のポリブテニル基を有する無灰分散剤を組成物全量基準で1〜10質量%、
(4)硫化油脂、硫黄架橋された金属フェネート、チアジアゾール、ポリサルファイドおよび無灰アルキルチオカルバモイル化合物からなる群から選ばれるいずれかの含硫黄化合物を組成物全量基準で硫黄濃度換算にして0.05〜0.5質量%、
(5)全塩基価60〜400mgKOH/gの、スルホネート系清浄剤を組成物全量基準で硫酸灰分として0.5〜1.2質量%
および
(6)組成物の100℃における動粘度が9.3〜16.5mm2/sになるような量の粘度指数向上剤を含有することを特徴とする、排気ガス浄化触媒を備えた内燃機関用であって、触媒被毒防止性、ピストン清浄性、スラッジ防止性、酸化安定性および摩耗防止性に優れた潤滑油組成物。 - 前記(2)フェノール系無灰酸化防止剤にアミン系無灰酸化防止剤を併用する請求項1の潤滑油組成物。
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