JP4147945B2 - 内燃機関用バルブリフタ - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は高強度、低フリクション、耐摩耗性を両立させた熱可塑性樹脂組成物に関し、さらに詳しくは内燃機関用の樹脂バルブリフタ或いは樹脂ピストンスカートとして使用される熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
エンジンの直動式動弁装置において、強度・対摩耗性・耐熱性の要求から鉄製のバルブリフタが一般的に採用されている。しかし、近年動弁系フリクションの低減による燃費向上及び高回転化による出力向上の観点から、バルブリフタの軽量化による慣性質量の軽減が求められている。
【0003】
軽量化手法の一つとして、金属材料に比べて比強度が大きい繊維強化樹脂製バルブリフタを適用する手法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、上記の高回転時のフリクションを抑制するためには、バルブリフタ側面の熱膨張量を抑制することが有効である。そこで、常温時のバルブリフタ側面形状を上端側より下端側の外径を縮小したテーパー形、或いは断面中央部の肉厚を上端・下端部より薄肉にした鼓形にする手法が検討されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
【特許文献1】
特開平5−288017号公報
【特許文献2】
特開平7−233712号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
特許文献1には、繊維強化樹脂製バルブリフタが記載されている。図13は鉄製バルブリフタと従来の樹脂製バルブリフタのエンジン動弁駆動トルクを比較して示すグラフである。図13に示されるように、樹脂製バルブリフタは高エンジン回転領域においてボアとの摺動発熱により熱膨張し、ボア−バルブリフタ間のクリアランスが詰ることでフリクションが増大する。それとともに、側面が異常摩耗して半径方向のガタツキが増大するという問題点がある。
【0007】
また、特許文献2には、バルブリフタの側面全体をテーパー形にすること、およびバルブリフタ断面形状を鼓形にすることが記載されている。
【0008】
しかし、側面全体をテーパー形にした場合、内燃機関始動直後でバルブリフタが十分に熱膨張していないときにバルブリフタがボア内で傾き、薄肉のため強度の低いバルブリフタ下端部がボアと高面圧で接触する。そのため、異常摩耗や破損が発生するという問題点がある。
【0009】
また、バルブリフタ断面形状を鼓形にした場合は、摺動時に最も高面圧が作用する側面中央部の肉厚が最も薄肉になるため破損が起こやすくなる。それに加え、形状作製のために切削加工、又はスライド機構を有する高価な射出成型用型が必要になるため、バルブリフタの製造コストが大幅に上昇してしまうという問題点もある。
【0010】
一方、他のフリクション低減方策としては、樹脂製バルブリフタの母材中にポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂や二硫化モリブデン等の固体潤滑材を添加する方法が知られている。しかし、高面圧・高すべり速度領域においては、固体潤滑材が母材から脱落し、その脱落部が起点となってピッチング摩耗が発生したり、耐摩耗性に劣る固体潤滑材存在部が選択的に摩滅したりして、バルブリフタ側面の摩耗が促進されるという問題点がある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に着目してなされたもので、必要強度・耐摩耗性を保持した上で、高面圧・高回転時のフリクション増加を低減することのできる、摺動部位用の樹脂組成物、樹脂材料、及びこれらを用いた摺動部材、内燃機関用バルブリフタを提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、フッ素樹脂分子鎖を構成する炭素原子の少なくとも一部が、分子鎖を構成する他の炭素原子との間に架橋構造を有すると共に、フッ素樹脂分子の少なくとも一部が活性末端基を有するフッ素樹脂5〜20質量部と、活性末端基を有するフッ素樹脂と結合可能な反応点を有する他の熱可塑性樹脂85〜40質量部と、炭素繊維10〜40質量部と、を含む熱可塑性樹脂組成物を用いて成る樹脂製ボディと、この樹脂製ボディに係合される金属製シムとから構成されたことを特徴とする内燃機関用バルブリフタ、に関する。
【0016】
【発明の効果】
本発明の熱可塑性樹脂組成物では、フッ素樹脂分子鎖を構成する炭素原子の少なくとも一部が、分子鎖を構成する他の炭素原子との間に架橋構造を有すると共に、フッ素樹脂分子の少なくとも一部が活性末端基を有するフッ素樹脂5〜20質量部と、活性末端基を有するフッ素樹脂と結合可能な反応点を有する他の熱可塑性樹脂85〜40質量部と、炭素繊維10〜40質量部と、を含むので、フッ素樹脂の活性末端基と他の熱可塑性樹脂の反応点または官能基とが結合することにより、高強度・耐摩耗性・低摩擦抵抗を両立させた樹脂材料、摺動部材、および内燃機関用のバルブリフタを提供できる。
【0017】
本発明のフッ素樹脂を含有する樹脂材料では、前記のフッ素樹脂及び他の熱可塑性樹脂を、それらの融点付近まで加熱及び真空ベントしながら混練することにより、前記活性末端基の少なくとも一部を、他の熱可塑性樹脂の分子鎖を構成する原子と化学的に結合させたので、高強度・耐摩耗性・低摩擦抵抗を両立させることができる。かかる特性を有するので、摺動部材、内燃機関用のバルブリフタへの適用が可能である。
【0018】
本発明の摺動部材では、前記樹脂組成物または前記樹脂材料を用いてなるので、過酷な摺動条件下においても摩擦抵抗の低減が可能になる。
【0019】
本発明の内燃機関用バルブリフタでは、前記樹脂組成物または前記樹脂材料を用いてなる樹脂製ボディと、この樹脂製ボディに係合される金属製シムとから構成されているので、高回転領域のボア−バルブリフタ間のフリクション増加をバルブリフタに要求される強度・耐摩耗性を維持したまま低減できる。さらに、樹脂バルブリフタの適用による動弁系フリクションの低減効果をより効果的に発揮させられる。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、テトラフルオロエチレンに上記条件で放射線照射を行い、次のことを見出した。テトラフルオロエチレンに放射線照射を行なった場合、フッ素原子の脱離が発生し、ラジカルを有する分子鎖が出現し、このラジカルを有する分子鎖が最終的に架橋構造や炭素原子同士の不飽和結合を形成する。
【0021】
図1は本発明に従い電離性放射線照射による架橋構造及び活性末端基を付与されたテトラフルオロエチレン樹脂のFT−IRチャートの一例を示す図面である。図2は一般的なテトラフルオロエチレン樹脂のFT−IRチャートの一例を示す図面である。不飽和結合の増大は、図1,2に示すFT−IRによる分析結果において、不飽和結合に由来する吸収ピークの面積が電離性放射線照射後に表1に示すように増大していることから確認できる。
【0022】
【表1】
Figure 0004147945
【0023】
この際、フッ素樹脂を融点以上に加熱して分子鎖の運動性を高めておくことにより、効率的に架橋反応を促進することが可能になる。
【0024】
図3は本発明に従い電離性放射線照射により架橋構造及び活性末端基を付与されたテトラフルオロエチレン樹脂と一般的なテトラフルオロエチレン樹脂の可視光線の透過性の一例を示すグラフである。フッ素樹脂に電離性放射線を照射することにより、図3に示されるように、透過可能な光の波長が小さくなっていることから、電離性放射線の照射により結晶サイズが縮小していると考えられる。この結晶サイズの縮小により、電離性放射線を照射後のフッ素樹脂は、塑性流動性が向上し、通常のフッ素樹脂に比較して摺動相手材に移着膜を形成しやすくなっている。
【0025】
これらの知見に基づいて、補強材として炭素繊維を用いることにより、本発明を案出した。
【0026】
(樹脂組成物)
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、フッ素樹脂分子鎖を構成する炭素原子の少なくとも一部が、分子鎖を構成する他の炭素原子との間に架橋構造を有すると共に、フッ素樹脂分子の少なくとも一部が活性末端基を有するフッ素樹脂5〜20質量部と、活性末端基を有するフッ素樹脂と結合可能な反応点または官能基を有する他の熱可塑性樹脂85〜40質量部と、炭素繊維10〜40質量部と、を含むことを特徴とする。
【0027】
本発明に用いられる他の熱可塑性樹脂には、活性末端基を有するフッ素樹脂と結合可能な反応点または官能基を有する必要がある。一般的なフッ素樹脂を可塑化するためには少なくとも250℃以上の温度が必要となることから、成形温度が250℃以上、好ましくは250〜400℃である熱可塑性樹脂を適用することが好ましい。400℃を越える温度で成形すると、架橋フッ素樹脂が劣化し、所定のフリクション低減効果、耐磨耗性などの性能が得られなくなるからである。
【0028】
本発明の樹脂組成物を潤滑油存在下で使用する場合、母材となる他の熱可塑性樹脂には潤滑油の表面エネルギーの+0〜20×105 N/cm、好ましくは+5〜20×105 N/cmの表面エネルギーを有する熱可塑性樹脂を選定する。上記表面エネルギーを有する熱可塑性樹脂を選定することにより、他の熱可塑性樹脂は潤滑油に対して良好な濡れ性を示すようになり、摺動時の流体潤滑領域が拡大される。上記の流体潤滑領域の拡大により、過酷な摺動条件下においても摩擦抵抗の低減が可能になる。一般的に、熱可塑性樹脂の表面エネルギーと無潤滑下の摩擦係数には相関がある。例えば、表面エネルギーが大きくなると摩擦係数も増大することから、濡れ性向上による摩擦抵抗低減効果をより有効に発揮させるためには、上記範囲内の表面エネルギーを有する他の熱可塑性樹脂を選定する必要がある。
【0029】
上記の条件を全て満たす他の熱可塑性樹脂材料としては、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0030】
他の熱可塑性樹脂は熱可塑性樹脂組成物の質量に対し85〜40質量部用いる。この範囲を外れると、高強度、耐磨耗性、低摩擦抵抗性を両立させることができなからである。
【0031】
本発明に用いられるフッ素樹脂は、フッ素樹脂分子鎖を構成する炭素原子の少なくとも一部が、分子鎖を構成する他の炭素原子との間に架橋構造を有すると共に、フッ素樹脂分子の少なくとも一部が活性末端基を有する。
【0032】
フッ素樹脂への活性末端基と架橋構造の付与は、酸素濃度1.33kPa以下の不活性ガス雰囲気下で且つそのフッ素樹脂を融点以上に加熱した状態で電離性放射線を1kGy〜10MGyの線量範囲でフッ素樹脂に照射することによって行なうことが好ましい。
【0033】
フッ素樹脂分子鎖末端に形成された不飽和結合は活性末端基であるため、成型時の熱負荷で他の熱可塑性樹脂の反応点または官能基等と化学的に結合し、熱可塑性樹脂とフッ素樹脂の密着力を向上させる。
【0034】
図3に示されるように、透過可能な光の波長が小さくなっていることから、フッ素樹脂に電離性放射線を照射することにより、結晶サイズが縮小していると考えられる。この結晶サイズの縮小により、電離性放射線を照射後のフッ素樹脂は、塑性流動性が向上し、通常のフッ素樹脂に比較して摺動相手材に移着膜を形成しやすくなっている。
【0035】
上記の塑性流動性向上及び活性末端基の付与により、電離性放射線を照射したフッ素樹脂は、摺動相手面に対して密着性の高い強固な移着膜を生成することが可能になる。このため、通常のフッ素樹脂の移着膜が破壊してしまうような過酷な摺動条件においても、移着膜によるフリクション低減効果が十分に発揮できる。
【0036】
なお、フッ素樹脂に電離性放射線を照射する際、酸素濃度が1.33kPaを越えると、電離性放射線の照射で発生したラジカルを有する分子鎖が酸素と反応してしまい、活性末端基及び架橋構造を付与できなくなる。この際、フッ素樹脂を融点以上に加熱して分子鎖の運動性を高めておくことにより、効率的に架橋反応を促進することが可能になる。一方、融点以下の加熱温度や融点よりも大幅に高い温度では、フッ素樹脂の架橋反応よりも分子鎖の分解が主体的に発生してしまうため、加熱温度はフッ素樹脂の融点の+10〜+30℃の範囲とするのが好ましい。
【0037】
電離放射線は、通常、1kGy〜10MGy、好ましくは10kGy〜1500kGyの線量範囲で照射される。線量が1kGy未満では脱フッ素反応が十分進行しないため、フッ素樹脂に活性末端基及び架橋構造を付与することができない。これに対し、線量が10MGyを越えるとフッ素樹脂の架橋反応よりも分子鎖の分解が主体的に発生してしまう。
【0038】
熱可塑樹脂中に添加する活性末端基及び架橋構造を有するフッ素樹脂の平均直径または平均相当直径は、通常、2〜30μmとする。フッ素樹脂粉末の平均直径が2μm未満だと分散性が悪化し、熱可塑樹脂中へ均一に分散することが困難になる。ここで、平均直径は測定すべき粒子を容器に所定量採取し、レーザー光を照射し、その回折先と散乱光とを測定し、それをもとに粒子分布を求める(測定装置:例えば、日機装(株)製マイクロトラックHRA)。一方、平均直径が30μmを超えると熱可塑性樹脂との密着性が低下し、摺動時にフッ素樹脂が脱落し易くなってしまう。
【0039】
かかるフッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン系重合体、テトラフルオロエチレン―パーフルオロ(アルキルビニールエーテル)系重合体、或いはテトラフルオロエチレン―ヘキサフルオロプロピレン系重合体等のフッ素樹脂であって、分子鎖中に架橋構造と活性末端基が同時に付与されている。
【0040】
上記の活性末端基と架橋構造を有するフッ素樹脂は、熱可塑樹脂中に5〜20質量部、好ましくは10〜20質量部の割合で添加される。フッ素樹脂の添加量が5質量部未満だと相手材表面にフッ素樹脂移着膜が十分に形成されないため、摩擦抵抗の低減効果が十分認められず、20質量部を越えると組成物の強度が大幅に低減してしまう。
【0041】
さらに、他の熱可塑性樹脂とフッ素樹脂との密着性を向上させるためには、混練時に他の熱可塑性樹脂及びフッ素樹脂の双方を十分可塑化させて混合することが好ましい。
【0042】
本発明の樹脂組成物を高強度・低フリクション・低摩耗が要求される内燃機関用のバルブリフタに適用する場合には、他の熱可塑性樹脂にポリフェニレンサルファイド樹脂またはポリエーテルエーテルケトン樹脂を、フッ素樹脂にポリテトラフルオロエチレンを選定するのが最適である。ポリフェニレンサルファイド樹脂及びポリエーテルエーテルケトン樹脂は耐熱性・耐油性・機械的強度・耐疲労性・アルミとの摺動性に優れている。さらに、その表面エネルギーがエンジンオイルの表面エネルギーの+20N/cmの範囲であるためエンジンオイルとの濡れ性に優れており、流体潤滑下において摩擦抵抗を低減することが可能になる。一方、テトラフルオロエチレンはフッ素樹脂中で最も摩擦抵抗が小さいことから、境界潤滑領域において最大限摩擦抵抗を低減することが可能である。上記の2材料を組み合わせることによって、流体潤滑領域〜境界潤滑領域の幅広い範囲において摺動部の摩擦抵抗を低下させることができる。
【0043】
次に、熱可塑性樹脂組成物には、補強材として炭素繊維を10〜40質量部、好ましくは20〜30質量部添加する。本発明において補強材に炭素繊維を適用するのは、ガラス繊維よりも補強効果が大きいこと、樹脂の放熱性向上が可能なこと、及び自己潤滑性を有しているためである。炭素繊維の適用によって、高強度・熱膨張量の低減・フリクションの低減が可能になる。
【0044】
炭素繊維にはPAN系、ピッチ系の2種類があるが、本発明には繊維強度が高く、弾性率が低いPAN系繊維が好ましい。繊維強度が高いことから他の熱可塑性樹脂材に対する補強効果が高まり、弾性率が低いことで摺動相手材に対する攻撃性を低下させることが可能になる。また、フリクション低減効果をより有効に発揮させるためには、炭素繊維を摺動方向と平行方向に配向させることが好ましい。また、炭素繊維と他の熱可塑性樹脂の密着性を向上させるために、予めシランカップリング剤等によって表面処理された炭素繊維を適用することが好ましい。
【0045】
熱可塑性樹脂組成物に添加される炭素繊維の平均直径または平均相当直径は、通常、5〜20μm、好ましくは5〜10μm、平均繊維長は、通常、30〜300μm、好ましくは50〜200μmである。上記の炭素繊維の平均直径又は平均相当直径及び平均繊維長が上記範囲未満だと補強効果が低下し、上記範囲を超えると成型性が悪化してしまう。
【0046】
なお、炭素繊維の配合量が、10質量部未満では十分な補強効果が発揮されず、40質量部を超えると成型性が大幅に悪化してしまい、複雑形状の成型が困難になる。
【0047】
他の熱可塑性樹脂に架橋構造と活性末端基の双方を有するフッ素樹脂と炭素繊維を添加することによって得られた本発明の樹脂組成物は、高強度・耐摩耗性・低摩擦抵抗を両立させた樹脂材料または摺動部材を内燃機関用のバルブリフタに適用することができる。
【0048】
(樹脂材料)
本発明のフッ素樹脂を含有する樹脂材料は、前記のフッ素樹脂、及び他の熱可塑性樹脂を、フッ素樹脂及び他の熱可塑性樹脂の融点付近まで加熱及び真空ベントしながら混練することにより、前記活性末端基の少なくとも一部を、他の熱可塑性樹脂の分子鎖を構成する原子と化学的に結合させてなることを特徴とする。
【0049】
さらに、熱可塑性樹脂とフッ素樹脂との密着性を向上させるためには、混練時に熱可塑性樹脂及びフッ素樹脂の双方を十分可塑化させて混合することが好ましい。一般的なフッ素樹脂を可塑化するためには少なくとも250℃以上の温度が必要となることから、250〜400℃の温度範囲が望ましい。400℃を越える温度で成形すると、架橋フッ素樹脂が劣化し、所定のフリクション低減効果、耐磨耗性などの性能が得られなくなるからである。
【0050】
一般的に、フッ素樹脂を熱可塑性樹脂に添加した場合、フッ素樹脂は活性な反応点を持たないことから、熱可塑性樹脂とフッ素樹脂は物理的に密着しているだけであり、両物質間の密着力は低い。そのため、バルブリフタが熱膨張し、ボア−バルブリフタ間の面圧が増大した場合には母材となる熱可塑性樹脂からフッ素樹脂が脱落してしまい、その脱落痕がピッチング摩耗の起点となり組成物全体の摩耗が促進してしまう。結果的に、熱可塑性樹脂単体のときよりも大幅に耐摩耗性が低下してしまう。また、熱可塑性樹脂からフッ素樹脂が脱落してしまうと、フッ素樹脂が摺動面に効果的に留まれず、十分な摩擦抵抗低減効果が得られない。
【0051】
そこで、本発明ではフッ素樹脂自体に活性末端基(熱エネルギーにより容易にラジカルを発生可能な末端基)を付与することにより、フッ素樹脂の活性末端基と他の熱可塑性樹脂の反応点または官能基等を成型時の熱を利用して化学的に結合させることにより、他の熱可塑性樹脂とフッ素樹脂の密着力を増大させている。上記密着力を十分高めるためには、他の熱可塑性樹脂とフッ素樹脂を押し出し機で混練時に他の熱可塑性樹脂及びフッ素樹脂の双方を成形可能な温度まで加熱するとともに、押し出し機内を真空ベントする必要がある。混練時に他の熱可塑性樹脂及びフッ素樹脂を成形可能な温度まで加熱することにより、変態して発生したラジカルを有するフッ素樹脂の活性末端基が、活性が高まった他の熱可塑性樹脂中の反応点または官能基と反応して化学的に結合する。また、上記の加熱によって他の熱可塑性樹脂及びフッ素樹脂の双方を十分に可塑化させ混ざり合いやすくさせることで、フッ素樹脂の活性末端基と他の熱可塑性樹脂中の反応点または官能基との結合頻度が増大し、密着性が向上する。一方、フッ素樹脂の活性末端基が変態して生成したラジカルが酸素と結合して失効することを抑制するために、押し出し機内を真空ベントしなければならない。
【0052】
例えば、本発明の樹脂材料をバルブリフタに用いた場合、上記の熱可塑性樹脂とフッ素樹脂の密着力が向上することにより、バルブリフタが熱膨張し、ボア−バルブリフタ間の面圧が増大した場合にもフッ素樹脂の脱落が抑制される。このように、かかる樹脂材料は良好な耐摩耗性を示すようになる。
【0053】
本発明では、上記のフッ素樹脂の脱落防止に加え、フッ素樹脂に架橋構造を付与することでフッ素樹脂自体の耐摩耗性を改善し、フッ素樹脂存在部の部分的な摩滅を抑制することによって樹脂組成物の耐摩耗性を更に改善している。上記の活性末端基の付与によるフッ素樹脂の脱落防止及び架橋構造の付与によるフッ素樹脂の耐摩耗性向上を同時に行なうことにより、他の熱可塑性樹脂とフッ素樹脂の組成物の耐摩耗性は熱可塑性樹脂単体よりも大幅に向上する。
【0054】
本発明の樹脂材料は、前記活性末端基の少なくとも一部を他の熱可塑性樹脂の分子鎖を構成する原子と化学的に結合させたので、摺動部材または内燃機関用のバルブリフタに用いることができる。さらに、炭素繊維により補強されているので、高強度であって、熱膨張量の低減およびフリクションの低減が可能となる。
【0055】
(摺動部材)
本発明の摺動部材では、前記樹脂組成物または前記樹脂材料を用いて成ることを特徴とする。
【0056】
このような摺動部材は、過酷な摺動条件下においても摩擦抵抗の低減が可能なので、軸受け・ローラー・ギアなどの摺動部品の他に内燃機関用バルブリフタに用いることができる。
【0057】
(内燃機関用バルブリフタ)
本発明の内燃機関用バルブリフタは、前記樹脂組成物または前記樹脂材料を用いて成る樹脂製ボディと、この樹脂製ボディに係合される金属製シムとから構成されてなることを特徴とする。
【0058】
図4は内燃機関の直動式動弁機構の一例を示す説明図である。図4において、バルブ28のバルブステム29とカムシャフトのカム27との間にバルブリフタ11が介在する。そして、バルブリフタ11は、カムシャフトのカム27と接触し、カム27の矢印方向の回転によりバルブリフタ11はボア30の内周面に沿って降下し、バルブスプリング31の反力に抗してバルブステム29を押し下げる。これと同時に、バルブ28はバルブガイド32に沿って降下して弁が開く。
【0059】
図5はスカート部圧壊荷重測定試験及び動弁フリクション測定に用いた樹脂製バルブリフタ11の一例の側面図(a)及びV−V線に沿う断面図(b)である。図5において、樹脂製バルブリフタは、ステンレス鋼などの金属製シム12とスカート部13aを有する樹脂製ボディ13とからなっている。樹脂製バルブリフタ11では高温時の熱膨張により、スカート部13a下端部がラッパ状に拡張する。そのため、スカート下端からスカート中央部に向けて、全高の1/3〜1/5程度の長さに渡ってスカート断面形状をテーパー形状にするのが一般的である。
【0060】
常用時のバルブリフタ周辺温度は80〜150℃であることから、本発明の樹脂組成物または樹脂材料中の他の熱可塑性樹脂としては、ISO75で規定される1.8MPa応力作用下での熱変形温度が非強化状態で100℃以上、好ましくは100〜300℃の範囲である熱可塑性樹脂を適用することが望ましい。上記熱変形温度が100℃未満の熱可塑性樹脂を選定した場合には、高回転時に摺動発熱によりバルブリフタ本体が溶損或いは変形してしまうからである。また、これより熱変形温度の高い樹脂を用いても、高速摺動または発熱時の耐熱性能はさほど向上せず、かえってコスト高となってしまう。
【0061】
ISO75で規定される1.8MPa応力作用下での熱変形温度が100℃以上の他の熱可塑性樹脂40〜85質量部と、炭素繊維10〜40質量部と、フッ素樹脂5〜20質量部とを配合する。上記フッ素樹脂は分子鎖を構成する炭素原子の少なくとも一部が、分子鎖を構成する他の炭素原子との間に架橋構造を有すると共に、フッ素樹脂分子の少なくとも一部が活性末端基を有しており、この活性末端基の少なくとも一部が、他の熱可塑性樹脂の分子鎖を構成する原子と化学的に結合されている。
【0062】
内燃機関用バルブリフタは、前記金属製シムを前記樹脂製ボディの成形型にインサートして成形することが好ましい。簡単な方法により、金属製シムと樹脂製ボディを強固に合体できるからである。
【0063】
図5のバルブリフタにおいて、スカート中央部付近の熱膨張量が最も大きくなり、ボア―バルブリフタスカート間の面圧が最大となる。具体的には、バルブリフタの最大外径を30mmとした場合、150℃雰囲気下におけるスカート中央部の周長は常温時よりも1〜2mm程度増大する。ただし、図5における寸法は相対比率を示す。
【0064】
バルブリフタの摩擦抵抗低減のためには、上記のバルブリフタスカート中央部分−ボア間の面圧を低減するのが有効である。そこで、本発明では該当部に楕円状のスリットを設定することでスカート中央部付近の周方向の熱膨張を吸収し、上記接触面圧を低減する。
【0065】
図6はスカート部圧壊荷重測定試験及び動弁フリクション測定に用いたスリット付き樹脂製バルブリフタの一例を示す側面図(a)及びVI−VI線に沿う断面図(b)である。図6において、樹脂製バルブリフタは金属製シム12とスカート部13aを有する樹脂製ボディ部13とからなっている。スカート部13aには、スリット15が設定されている。内燃機関用バルブリフタは、前記樹脂製ボディのリフターボアとの摺動面にスリットが設けられ、熱による樹脂材の円周方向の膨張を最小限に抑えることが望ましい。前記スリットは、前記摺動面の摺動方向中央部に位置し、摺動方向に長径を有する楕円形状であることが好ましい。したがって、小径が0.5mmの楕円状スリットを90°置きに4箇所設置すれば、スカート中央部の周方向の熱膨張はほぼ吸収可能になる。なお、スリットの小径が4mmを超えるとスカート強度が一気に低下するため、スリットの小径は0.5〜4mmとし、バルブリフタの円周方向に等間隔で3〜6個設置するのが望ましい。一方、スリット長径については、スカート強度を保持するため5〜10mm程度に留める必要がある。ただし、図6における寸法は相対比率を示す。
【0066】
以上説明してきたように、本発明の内燃機関用のバルブリフタによって、従来の樹脂製バルブリフタで課題となっていた、高回転領域のボア−バルブリフタ間のフリクション増加をバルブリフタに要求される強度・耐摩耗性を維持したまま低減でき、樹脂バルブリフタの適用による動弁系フリクションの低減効果をより効果的に発揮できる。
【0067】
上記に加え、バルブリフタ側面中央部に摺動方向に長径を有する楕円形状のスリットを配置することにより、更に動弁系フリクションの低減効果を上積みすることができる。
【0068】
なお、本発明の内燃機関用のバルブリフタは動弁系フリクションの低減による車両の燃費向上に貢献できるだけではなく、エンジンヘッド周りの騒音を低減化できるという効果も有している。
【0069】
【実施例】
以下、この発明を下記実施例に基づいて詳細に説明する。
【0070】
(測定に用いた試験機)
図7は縦型リングオンディスク方式の摩擦磨耗試験機の一例の概略断面図である。図7において、試験機の上部にリングホルダー16を有し、リングホルダー16には、摺動時に図8に記載されたリング試験片10の径方向の移動を抑制するための固定用溝と、溝の円周上の一箇所にリングの回転を防止するための周り止めピンが設定されている。一方、試験機下部には回転軸21に結合されたディスクホルダー20を有し、ディスク19をディスクホルダー20にボルトで固定すると、ディスク19はリング試験片10に対し回転自在となる。次に、リングホルダー16の軸線方向から圧力Pを加えることによって、リング試験片10とディスク19を摺接関係とさせ、さらに、リングホルダー16の軸線方向から圧力Pを加えることによって、リング試験片10とディスク19を圧接させる。なお、この際リング試験片10とディスク19の圧接部はエンジンオイル22(日産純正エンジンオイル SJストロングセーブX Mスペシャル5W−30)中に十分浸漬されている。
【0071】
図8は図7に記載の摩擦磨耗試験機に使用するリング試験片の形状を示す斜視図である。
【0072】
図9はスカート部圧壊荷重測定試験機の一例の概略断面図である。図9において、樹脂製バルブリフタ11がバルブリフタ支持具23によって支持されている。圧力Pが荷重軸25下端に取り付けられた圧子24を通じて、樹脂製バルブリフタ11に負荷される。
【0073】
(実施例1)
架橋構造及び活性末端基を有するフッ素樹脂の原料には、フッ素樹脂の中でも低摩擦抵抗に優れるテトラフルオロエチレンを用いた。このテトラフルオロエチレン製のモールディングパウダー(旭硝子G−163 平均直径40μm)に、酸素濃度0.133kPa、窒素濃度105.4kPaの雰囲気下、350℃加熱条件のもとで、電子線(加速電圧2MeV)を照射線量100kGy照射して架橋構造及び活性末端基を付与した。電子線を放射後、フッ素樹脂の平均が約10μmとなるまでジェットミルで粉砕した。
【0074】
次に、予め平均直径7μm、平均繊維長約150μmのPAN系炭素繊維(東邦テナックス HTA−CA−UH)を30質量部配合させたポリエーテルエーテルケトン樹脂(ビクトレックス・エムシー 450CA30)100質量部に対し、上記フッ素樹脂を20質量部の割合で配合し、押し出し機を用いて、真空ベントを引きながら溶融混練し、造粒した。上記の分量で配合すると、最終的な配合比率はポリエーテルエーテルケトン樹脂58質量部、炭素繊維25質量部、放射線照射後のテトラフルオロエチレン17質量部となる。次に、射出成型機を用いて造粒したペレットを、図8に示すリング試験片10及び図5,6(実施例1−1 スカート部13にスリット15設定)に示すバルブリフタ11に成型した。
【0075】
(実施例2)
実施例1と同様の手法で架橋構造及び活性末端基を付与したフッ素樹脂を製造し、予め平均直径6μm、平均繊維長130μmのPAN系炭素繊維(東レ トレカミルドファイバー MLD‐300)を30質量部配合させたポリフェニレンサルファイド樹脂(東レ 架橋型 トレリナA630T30)100質量部に対し、上記フッ素樹脂を15質量部の割合で配合し、押し出し機を用いて、真空ベントを引きながら溶融混練し、造粒した。上記の分量で配合すると、最終的な配合比率はポリフェニレンサルファイド樹脂61質量部、炭素繊維26質量部、放射線照射後のテトラフルオロエチレン13質量部となる。次に、射出成型機を用いて造粒したペレットを、図8に示すリング試験片10を成型した。
【0076】
(比較例1)
予め、平均直径6μm、平均繊維長130μmのPAN系炭素繊維(東レ トレカミルドファイバー MLD‐300)を30質量部配合させたポリエーテルエーテルケトン樹脂(ビクトレックス・エムシー 450CA30)のペレットを乾燥した。その後、射出成型機を用いて造粒したペレットを、図8に示すリング試験片10及び図5に示す樹脂バルブリフタ11に成型した。
【0077】
(比較例2)
予め、平均直径6μm、平均繊維長130μmのPAN系炭素繊維(東レ トレカミルドファイバー MLD−300)を30質量部配合させたポリエーテルエーテルケトン樹脂(ビクトレックス・エムシー 450CA30)100質量部に対し、テトラフルオロエチレンモールディングパウダー(旭硝子G−163平均直径40μm)を20質量部の割合で配合し、押し出し機を用いて混練・造粒した。上記の分量で配合すると、最終的な配合比率はポリエーテルエーテルケトン樹脂58質量部、炭素繊維25質量部、テトラフルオロエチレン17質量部となる。次に、射出成型機を用いて造粒したペレットを、図8に示すリング試験片10に成型した。
【0078】
(比較例3)
予め、平均直径13μm、平均繊維長150μmのガラス繊維(旭ファイバーガラス MF20MH2−20)を30質量部配合させたポリエーテルエーテルケトン樹脂(ビクトレックス・エムシー 450GL30)100質量部に対し、テトラフルオロエチレンモールディングパウダー(旭硝子G−163 平均直径40μm)を20質量部の割合で配合し、押し出し機を用いて混練・造粒した。最終的な配合比率はポリエーテルエーテルケトン樹脂58質量%、ガラス繊維25質量%、テトラフルオロエチレン17質量%となる。次に、射出成型機を用いて造粒したペレットを、図8に示すリング試験片10に成型した。
【0079】
(比較例4)
ポリアミド66樹脂(デュポン ザイテル45HSB)60質量部に対し、テトラフルオロエチレンモールディングパウダー(旭硝子G−163 平均直径40μm)を20質量部配合し、ミキサーを用いてドライブレンドした。その後、平均直径6μm、平均繊維長130μmのPAN系炭素繊維(東レ トレカミルドファイバー MLD−300)を20質量部サイドフィーダーから供給し、2軸押し出し機で混練・造粒した。その後、射出成型機を用いて造粒したペレットを、図8に示すリング試験片10に成型した。
【0080】
(摩擦試験)
まずは、本発明の樹脂組成物の摺動特性を確認するため、実施例1〜2及び比較例1〜4の摩擦試験をエンジンオイル(日産純正エンジンオイル SJストロングセーブX Mスペシャル 5W−30)中で実施した。摺動する相手材には、自動車用内燃機関のヘッド材として用いられるアルミ材(AC2A−T7 硬さHRB60)を選定した。試験装置に取り付けるためアルミ材の試験片形状は、直径60mm、厚さ10mmのディスク19とし、摺動表面の表面粗さは平均粗さ(JIS B0601−2001の最大高さ粗さ)Rz=1μm程度とした。図7に記載の試験機を用い、圧接面圧:4MPa、すべり速度:5m/s、試験時間:6時間の条件で摩擦試験を行なった。その結果を図10,11に示す。
【0081】
図10は摩擦係数の経時変化を示すグラフである。図10において、実施例1〜2は比較例1〜4と比べて摩擦係数の絶対値が低下している。実施例1、2では、フッ素樹脂に活性末端基を付与することにより母材となる熱可塑性樹脂からのフッ素樹脂の脱落が抑制されており、摺動面にフッ素樹脂が留まりやすくなっている。このため、フッ素樹脂の摩擦抵抗低減効果がより有効に発揮され、摺動部の摩擦抵抗が低減している。上記に加え、実施例では放射線照射によりフッ素樹脂の塑性流動性が増大している。そのため、アルミディスク摺動表面上に均質なフッ素樹脂移着膜を形成しやすいとともに、形成されたフッ素樹脂移着膜が架橋構造を有している。このように、フッ素樹脂移着膜の耐摩耗性が大幅に向上しており、長期にわたり摩擦抵抗低減効果を発揮することが可能になる。
【0082】
実施例1と2を比較した場合、実施例2よりも実施例1の摩擦抵抗が減少している。これは実施例2の母材であるポリフェニレンサルファイド材の摩擦抵抗が、実施例1のポリエーテルエーテルケトンに比べて元々高いためである。上記の摺動試験条件では、リング試験片の摺動面温度は200〜250℃程度に上昇している。このような高温時において、ポリエーテルエーテルケトンはポリフェニレンサルファイドに比較して高硬度であるため、アルミディスクに対する凝着が少なく、結果として材料単体の摩擦抵抗が低い。
【0083】
一方、比較例2を比較例1と比べた場合、比較例2では樹脂中にテトラフルオロエチレンを添加しているにもかかわらず、摩擦抵抗低減効果が認められない。これは今回の試験条件が一般的なポリテトラフルオロエチレンのPV限界を超えているため、アルミディスク摺動表面にフッ素樹脂移着膜が生成したとしても直ぐに移着膜が破壊してしまうことが原因と考える。また、比較例3では、ポリエーテルエーテルケトン樹脂中に強化材としてガラス繊維が含まれている。しかし、樹脂表面に露出したガラス繊維自体の摩擦抵抗が高いことに加え、樹脂表面に突出したガラス繊維のエッジがアルミディスク表面を荒らしてしまう。そのため、ポリテトラフルオロエチレンを添加しているにもかかわらず、実施例1よりも摩擦抵抗が増大している。比較例4では、母材であるポリアミド66樹脂の耐熱性がポリフェニレンサルファイド樹脂・ポリエーテルエーテルケトン樹脂に比較して劣っているため、摺動熱によりリングが軟化し、摩耗が一気に進行している。
【0084】
図11は摩擦試験後のリング試験片及びアルミディスクの磨耗高さを示すグラフである。図11において、実施例1〜2はアルミディスクに対して良好な摺動特性を示すため、比較例1〜4に比べてリング試験片及びアルミディスクの摩耗高さが減少している。実施例1と2を比べた場合、実施例1のポリエーテルエーテルケトン樹脂の方が実施例2のポリフェニレンサルファイド樹脂よりも、耐熱性に優れるとともに、上記のように摩擦係数が低く摺動部の発熱量が小さい。そのため、リング試験片及びアルミディスクの摩耗高さが減少している。
【0085】
比較例2〜4においては、比較例1よりも試験後のリング試験片の摩耗高さが増大しており、樹脂組成物自体の耐摩耗性が悪化している。比較例2では、フッ素樹脂脱落部が起点となってピッチング摩耗が発生したことにより摩耗が促進されている。比較例3では、上記のフッ素樹脂脱落によるピッチング摩耗に加え、ガラス繊維によって荒されたアルミディスク表面がリング試験片表面を切削するため、リング試験片の摩耗が更に促進されている。また比較例4では、母材であるナイロン66樹脂が摺動発熱により熱分解しているため、比較例中で最もリング試験片の摩耗量が増大している。
【0086】
次に、実施例1及び比較例1については、図5,6に示されるバルブリフタを試作し、スカート部圧壊荷重測定並びに実際のエンジンで動弁系のみの駆動トルク測定を行った。
【0087】
スカート部13圧壊荷重は、図9に示す装置を用いて、雰囲気温度150℃下で測定を行った。その結果、放射線を照射したポリテトラフルオロエチレンを含有する実施例1及び実施例1にスリットを設定した実施例1−1では、比較例1に対し強度が低下しているものの、実機入力最大荷重に対しては5倍以上の安全率を確保しており、実使用上十分な強度を保持している。
【0088】
【表2】
Figure 0004147945
【0089】
(モータリング試験)
次に、上記のバルブリフタを日産製ガソリンエンジン(GA16DE)に組み込み、モータリング試験で動弁系のフリクション測定を行った。モータリング試験の際は、油・水温を80℃に保ち、2000r.p.m.で12時間慣らし運転後、エンジン回転800〜6000r.p.m.の範囲で動弁系のフリクション測定を実施した。その結果を図12に示す。
【0090】
図12は各エンジン回転におけるエンジン動弁駆動トルクを示すグラフである。図12において、実施例1は比較例1に対し、動弁系フリクションがエンジン回転数全域に渡って20%程度低減している。このように、電離性放射線を照射したポリテトラフルオロエチレンの摩擦抵抗低減効果が、リングオンディスク方式の試験と同様に出現している。
【0091】
但し、一般的に動弁系フリクションはエンジン回転数の増加に伴い潤滑状態が良好になるため、回転数とともにエンジンフリクションは低下する。しかし、実施例1及び比較例1については、高回転領域で樹脂バルブリフタが熱膨張し、ボア−バルブリフタの接触面圧が高まるため、低回転領域と高回転領域のフリクションがほぼ同一になっている。
【0092】
これに対し、実施例1−1ではバルブリフタ側面に熱膨張吸収のためのスリットを設定したことにより、実施例1に比較して、中回転〜高回転領域の動弁系フリクションが低減している。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に従い電離性放射線照射により架橋構造及び活性末端基を付与されたテトラフルオロエチレン樹脂のFT−IRチャートである。
【図2】一般的なテトラフルオロエチレン樹脂のFT−IRチャートである。
【図3】本発明に従い電離性放射線照射により架橋構造及び活性末端基を付与されたテトラフルオロエチレン樹脂と一般的なテトラフルオロエチレン樹脂の可視光線の透過性を示すグラフである。
【図4】直動式動弁機構の一例を示す説明図である。
【図5】スカート部圧壊荷重測定試験及び動弁フリクション測定に用いた樹脂製バルブリフタの側面図(a)及びV−V線に沿う断面図(b)である。
【図6】スカート部圧壊荷重測定試験及び動弁フリクション測定に用いたスリット付き樹脂製バルブリフタの側面図(a)及びVI−VI線に沿う断面図(b)である。
【図7】摩擦試験に用いた縦型リングオンディスク方式摩擦摩耗試験機の概略断面図である。
【図8】摩擦試験に使用したリング試験片の形状を示す斜視図である。
【図9】スカート部圧壊荷重測定試験機の概略断面図である。
【図10】摩擦係数の経時変化を示すグラフである。
【図11】摩擦試験後のリング試験片及びアルミディスクの摩耗高さを示すグラフである。
【図12】各エンジン回転におけるエンジン動弁駆動トルクを示すグラフである。
【図13】鉄製バルブリフタと従来の樹脂製バルブリフタのエンジン動弁駆動トルクを比較したグラフである。
【符号の説明】
10:リング試験片
11:樹脂製バルブリフタ
12:金属製シム
13:樹脂製ボディ
13a:スカート部
14:バルブステム接触部
15:スリット
16:リングホルダー
17:ロードセル
18:トルク検出器
19:ディスク
20:ディスクホルダー
21:回転軸
22:エンジンオイル
23:バルブリフタ支持具
24:圧子
25:荷重軸
26:直動式動弁装置
27:カムシャフトのカム
28:バルブ
29:バルブステム
30:ボア
31:バルブスプリング
32:バルブガイド
33:リテーナ

Claims (11)

  1. フッ素樹脂分子鎖を構成する炭素原子の少なくとも一部が、分子鎖を構成する他の炭素原子との間に架橋構造を有すると共に、フッ素樹脂分子の少なくとも一部が活性末端基を有するフッ素樹脂5〜20質量部と、活性末端基を有するフッ素樹脂と結合可能な反応点を有する他の熱可塑性樹脂85〜40質量部と、炭素繊維10〜40質量部と、を含む熱可塑性樹脂組成物を用いて成る樹脂製ボディと、この樹脂製ボディに係合される金属製シムとから構成されたことを特徴とする内燃機関用バルブリフタ
  2. 前記フッ素樹脂の架橋構造及び活性末端基が、酸素濃度1.33kPa以下の不活性ガス雰囲気下でかつそのフッ素樹脂を融点以上に加熱した状態で電離性放射線を1kGy〜10MGyの線量範囲で照射することにより付与されたことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用バルブリフタ
  3. 前記フッ素樹脂の平均直径または平均相当直径が2〜30μmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の内燃機関用バルブリフタ
  4. 前記炭素繊維の平均直径または平均相当直径が5〜20μmで平均繊維長が30〜300μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関用バルブリフタ
  5. 前記他の熱可塑性樹脂が、250℃以上の成形温度を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の内燃機関用バルブリフタ
  6. 前記樹脂組成物が潤滑油存在下で使用される場合には、他の熱可塑性樹脂の表面エネルギーが、使用する潤滑油の表面エネルギーの+0〜20×10N/cmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の内燃機関用バルブリフタ
  7. 前記他の熱可塑性樹脂がポリフェニレンサルファイド樹脂又はポリエーテルエーテルケトン樹脂で、フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の内燃機関用バルブリフタ
  8. 前記他の熱可塑性樹脂が、ISO75で規定される1.8MPa応力作用下での熱変形温度が非強化状態で100℃以上ことを特徴とする請求項記載の内燃機関用バルブリフタ。
  9. 前記金属製シムを前記樹脂製ボディの成形型にインサートして成形することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の内燃機関用バルブリフタ。
  10. 前記樹脂製ボディのリフターボアとの摺動面にスリットが設けられていることを特徴とする請求項のいずれか1項に記載の内燃機関用バルブリフタ。
  11. 前記スリットは、前記摺動面の摺動方向中央部に位置し、摺動方向に長径を有する楕円形状であることを特徴とする請求項10記載の内燃機関用バルブリフタ。
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