JP4140700B2 - 主軸と工具ホルダの位置決め構造 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
工作機械の主軸と工具ホルダの係合部における位置決め構造であって、詳しくは主軸端面に設けられたドライブキーと工具ホルダのドライブキー溝との係合に関する。
【0002】
【従来の技術】
主軸を高速回転させると、回転が高くなるにつれて工具を装着した工具ホルダが嵌着された主軸周辺では振動や騒音が大きくなってくる。これらの原因の一つは、工具を含めた回転体のアンバランスであり他の一つは回転部の風切り音である。
【0003】
前者の振動は回転体のアンバランスを解消することにより解決可能である。図5は、従来の慣用技術として使用されている主軸と工具ホルダの係合部断面図である。図5において、主軸101の前端にドライブキー溝101aが等分割に刻設され、ドライブキー102が固定されている。
【0004】
工具Tを装着した工具ホルダ103は主軸テーパ穴101aに嵌着され、工具ホルダ103のフランジ部103aの外周部分にドライブキー102と外周方向に隙間なく係合する切欠部103bが刻設され、主軸と工具との回転方向の位置決めを行うと共に主軸101の回転トルクを工具ホルダ103に確実に伝達するように構成されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来技術で述べたように、主軸101に工具Tを取着する主たる構成の主軸101,ドライブキー102,工具ホルダ103の三要素については主軸の軸心に対し対称に配設されており、アンバランスにもとづく振動発生の余地はないと考えられる。しかしながら回転部に風切り面が形成されていると回転が高速になるにつれて風切り音は増大する。
【0006】
図5において、主軸101のドライブキー溝101bの外周に形成される角部101c,ドライブキー102の角部102aおよび102bは風切り部であり、この風切り部で発生する風切り音は高速回転時には無視できないほど大きくなるという問題を有している。従って、主軸と一体に高速回転する部材は回転対称となる形状に設けることが望ましい。しかし、マシニングセンタ,グライディングセンタ,旋盤或いはこれらの複合加工機では風切り音がないような回転形状を構成するのは困難という問題を有している。
【0007】
例えば、旋盤では回転体はチャック,面板,回転センタ等であり、グライディングセンタでは、砥石の把持部である工具ホルダのツーリング部と駆動部である主軸前部に相当する。また、マシニングセンタでは工具ホルダやドライブキー等の主軸前部が相当し、主軸の後部側にあって主軸と一体で回転する部分も発生源となり得るわけであり、これらの構成に起因する風切り音発生源の存在は無視できないという問題を有している。
【0008】
特に、マシニングセンタの場合は自動工具交換(ATC)できることが前提であり、工具の回転方向の位置決めと切削時の負荷トルクを主軸を介しモータが負担する必要があるため、工具ホルダ側にはドライブキー溝が刻設されており、主軸側にはドライブキーが主軸端面から前面側に突出して設けられる場合が多い。これらの部分は周速が速い部分であり、主軸の回転数3000m/minを越え始めると風切り音が顕著となり6500m/minでは作業環境が極めて悪化するという問題が生じていた。
こうした溝などに関連する風切り音対策に関する先行技術は見つかっていない。
【0009】
本発明は従来技術の有するこのような問題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、直方体形状のドライブキーを主軸端面に取着する場合に、回転するドライブキーの外側を、主軸と工具ホルダの外周面から可及的突出しないように形成し、ドライブキーの外側のコーナ部分と工具ホルダの外周のコーナ部分において空気が滑らかに流れるようにした風切り音を発生しない緩斜面を軸方向に平行に形成して主軸高速回転時の風切り音発生を抑制する。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、工作機械の主軸端面に設けられたドライブキーと、前記主軸に嵌装される工具ホルダのドライブキー溝との係合による位置決め構造であって、前記ドライブキー溝はそのフランジ部の外周面に軸線方向に沿って刻設され少なくとも回転方向と直交する溝壁面と前記フランジ部の外周面とが交差する角部に形成される緩斜面の角度θ1、θ2が5度乃至40度でなり風切り音の発生を減少させるものである。
【0011】
主軸が高速回転するときに、工具ホルダはフランジ外周部分に高速気流が発生している。フランジ部内周はおよそ円筒に形成され突出する部分はない。しかし、回転時周速が最も大きくなるフランジの外周部はドライブキー溝があり、このドライイブキー溝の外周角部から風切り音が発生する。そのため、工具ホルダのドライブキー溝を緩斜面すなわち緩やかな傾斜面で形成して風切り音発生を防止するものである。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の発明に加えて前記ドライブキーは直方体形状をなし前記ドライブキー溝と係合する時の外側面と回転方向と直交する側面とが交差する稜線部に前記ドライブキー溝の緩斜面の角度と同程度の傾斜角の緩斜面が形成されているものである。
【0013】
工具ホルダが嵌着された主軸が高速回転するときに、主軸の円筒外周面と主軸端面に固設されたドライブキーの外側に高速気流が発生するので主軸端面に設けた直方体形状のドライブキーの中心から離れた外側の主軸軸心と平行な稜線部から風切り音が発生する。そのため、この角部を緩斜面で形成して風切り音発生を防止するものである。
【0015】
フランジ部のドライブキー溝の外周角部を風切り音発生を防ぐ緩斜面に形成した請求項1に記載する工具ホルダと、ドライブキー溝と係合するドライブキーを前記工具ホルダの角部に形成した緩斜面に対峙するように直方体形状の外側稜線部に風切り音発生を防ぐ緩斜面を形成したので風切り音発生の防止効果はさらに大きいものである。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の態様を図面にもとづいて説明する。
図1は本発明の工具ホルダで、(a)は軸方向視図、(b)はフランジ部視図、図2は本発明のドライブキーを取着した主軸前端部視図、図3は図2に示すドライブキーの詳細図で、(a)は上面図、(b)は正面図、(c)は右側面図である。図4は本発明に係る工具ホルダとドライブキー付主軸との組合せ図である。
【0017】
図1(a)(b)において、(a)はプルスタッド2の軸端から見た工具ホルダ1の軸方向視図である。本発明の工具ホルダ1において、ドライブキー溝3は主軸端面に取着された後述のドライブキー4に嵌着され主軸の回転を伝達すると共に工具自動交換装置(ATC)との関係における基準位置の役割を負っている。ドライブキー溝3は、軸テーパ面1fに近いフランジ外周面1aに工具ホルダ1の軸線方向に沿って軸心に対し点対称若しくは等分割に刻設され、回転方向と直交する溝壁面1bとフランジ部の外周面1aとが交差する角部に緩斜面1c,1dが形成されている。なお、回転方向と直交する溝壁面とフランジ部の外周面とが交差する角部には図1(b)において、フランジ部のV溝と交差する角部1eを含むものである。
【0018】
緩斜面1cは後述するドライブキー4の緩斜面4aと対応して設けられるものであり、同程度の傾斜角にするのが望ましい。緩斜面1dの大きさはドライブキー4と関係なく決定すればよい。ドライブキー溝3が果たす機能を損なわない程度に緩斜面の角度θや大きさを定めればよい。緩斜面の角度θ1,θ2は5度乃至40度の範囲であり20度乃至35度の範囲で適当である。緩斜面の切り込み後の深さdはドライブキー4の形状寸法またはドライブキー溝3の形状寸法により決定されるべきである。
【0019】
なお、図示していないがドライブキー溝3を工具ホルダ1の軸に直角なエンドミルで加工した場合に溝の上方に形成される稜線1eとの角部を1dに近い傾斜面に形成することにより、前記角部に緩斜面1c,1dを形成させたときに得られる風切り音の発生を減少させる効果を一層高めることができる。
【0020】
図2において、ドライブキー4は直方体形状であり主軸5の前側の端面5aに刻設された溝5bで案内され螺設されている。ドライブキー溝3と係合するときのドライブキー4の主軸回転中心に対する外側面4bと回転方向と直交する二つの側面4cとが交差して形成する角部に風切り音の発生を減少させる平面4aが形成されている。
【0021】
図3において、ドライブキー溝3と係合する2個の側面4c,ドライブキー4を主軸5に取着した時の外側面4bがそれぞれ図示されている。2個の側面4cと外側面4bとが交差して形成する角部に風切り音発生を防止する緩斜面4aがそれぞれに形成されている。ドライブキー4に嵌合部4eを設けず単純な直方体形状に形成して使用することも可能である。
【0022】
図4において、主軸5に端面に取着される緩斜面4aが形成されたドライブキー4にこれまた緩斜面1cおよび1dがドライブキー溝1bに形成された工具ホルダ1が嵌装されている。主軸5の高速回転時に発生する風切り音の発生源は、回転する主軸5と工具ホルダ1の外周部であって、周速が大となる位置に存在する。円筒部材の外周面に沿って形成される空気の流線を切断したり乱流を発生させる鋭角部を生じないようにする必要がある。
【0023】
そのため工具ホルダ1のドライブキー溝3周辺の鋭角部を傾斜面にするとともに、ドライブキー4とドライブキー溝3との接合する部分にも鋭角部が存在しないようにした工具ホルダ1とドライブキー付主軸5を組み合わせて使用することにより風切り音発生を更地に減少させることが可能となる。
なお、工具ホルダ1の回転駆動のためのみであれば、ドライブキー溝3の形状を小さくし、1d,1eを縮小することにより風切り音の発生を更に減少させることも可能である。
【0024】
ここで、風切り音抑制のために設ける緩斜面1c,1d,4aは平面としているが、必ずしも厳密な平面形状に限定されるものではなく、曲面形状とすることも可能なのは言うまでもない。また、ドライブキー4と主軸5は個々に分離されたものとしているが、これらが一体構造であっても上記の実施形態と同様に適用可能である。
【0025】
次に図4に示す本発明に係る工具ホルダ1を本発明に係るドライブキー4を取着した主軸5に装着して主軸部を構成した場合に、フランジ外周の周速を6280m/min、本機カバーの外側で騒音を実計測した結果は次の通りである。
(1)従来のV溝付フランジ 83dB(A)
(2)ドライブキー溝に緩斜面形成 80dB(A)
(3)(2)に加えドライブキーに緩斜面形成 78dB(A)
上記実測結果から本発明が開示するように風切り音の発生源である工具ホルダのドライブキー溝とドライブキーに緩斜面を形成することにより風切り音を含む雑音のレベルを低下させることが可能であることが判明した。
なお、騒音計測法はJIS−B6004,工作機械の騒音レベル測定方法による。
【0026】
【発明の効果】
本発明の主軸と工具ホルダの位置決め構造は上述のとおり構成されているので次に記載する効果を奏する。
【0027】
請求項1の発明は、工具ホルダのフランジ部に切欠いて設けたドライブキー溝のフランジ部の外周の角部を発生源とする主軸高速回転時の風切り音発生を抑制できる効果を有する。フランジ外周面の気流の流線を滑らかな曲線にすることにより作業者に不快感を与えない効果を有する。
【0028】
請求項2の発明は、工具ホルダ位置決め用の直方体状のドライブキーを主軸端面に取着した時に、外側の面を構成する稜線のうち、主軸軸線に平行な稜線部を発生源とする主軸高速回転時の風切り音発生を抑制する効果を有する。ドライブキー外側面の気流の流線を滑らかな曲線にすることにより作業者に不快感を与えない効果を有する。
【0029】
主軸高速回転時の工具ホルダのドライブキー溝の形状と主軸のドライブキーの形状とに起因する両方の風切り音を抑制する効果と作業環境の改善を可能とする効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】ドライブキー溝に緩斜面を形成した工具ホルダで、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図2】緩斜面が形成されたドライブキーを取着した主軸の前端部視図である。
【図3】緩斜面を形成したドライブキーの詳細図で、(a)は上面図、(b)は正面図、(c)は右側面図である。
【図4】それぞれに緩斜面が形成された工具ホルダとドライブキー付主軸との組合せ図である。
【図5】従来の工具ホルダとドライブキー付主軸との組合せ図である。
【符号の説明】
1 工具ホルダ 2 プルスタッド
3 ドライブキー溝 4 ドライブキー
4d 面取り 5 主軸
1c,1d,4a 緩斜面
θ 傾斜角 d 切込み後の深さ
Claims (2)
- 工作機械の主軸端面に設けられたドライブキーと、前記主軸に嵌装される工具ホルダのドライブキー溝との係合による位置決め構造であって、前記ドライブキー溝はそのフランジ部の外周面に軸線方向に沿って刻設され少なくとも回転方向と直交する溝壁面と前記フランジ部の外周面とが交差する角部に形成される緩斜面の角度θ1、θ2が5度乃至40度でなり風切り音の発生を減少させることを特徴とする主軸と工具ホルダの位置決め構造。
- 前記ドライブキーは直方体形状をなし前記ドライブキー溝と係合する時の外側面と回転方向と直交する側面とが交差する稜線部に前記ドライブキー溝の緩斜面の角度と同程度の傾斜角の緩斜面が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の主軸と工具ホルダの位置決め構造。
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