JP4139871B2 - 鋼板セル護岸 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本願発明は、不透水性地盤上に形成される鋼板セル護岸に関するものであり、例えば海面に建設される管理型廃棄物埋立護岸等、高い止水性が要求される場合に特に有用である。
【0002】
【従来の技術】
護岸構造物の形態として、特許文献1、2に示されるような鋼板セルを用いたものが知られている。
【0003】
鋼板セル護岸は、鋼板セルと、鋼板セルどうしを連結する前面側(海側)および背面側(陸側)のアークで構成されることが多い。鋼板セルおよびアークは、鋼板や補剛用の形鋼の溶接による一体構造のため、完全な遮水構造である。
【0004】
このような鋼板セル護岸は、通常、原地盤に鋼板セルを打設し、鋼板セル内に中詰材を充填し、次いで、アークを鋼板セルにあらかじめ設けられた継手に差し込み、前面側および背面側のアーク間に、中詰材を充填することで形成される。また、継手内には、モルタルあるいはコンクリート等で間詰を行い、遮水構造とする。
【0005】
このように、鋼板セル護岸は、根入れ下端までは止水性が確保された構造となっている。
【0006】
また、このような鋼板セルは、予め工場やヤードで製作、一体化して、現地に運搬・施工することができ、現場における作業時間が大幅に短縮され、急速施工が可能であること、鋼板の板厚の選定により、水深20m以上の護岸にも十分対応可能であること、中詰材の充填により安定性、耐波性に優れ、海水の汚濁も少ないといった利点がある。
【0007】
ところで、不透水性地盤上に廃棄物処分場を建設するために、護岸を構築する場合、通常、不透水性地盤である原地盤が粘性土地盤であることが多い。なお、不透水性地盤とは、層の厚さが5m以上であり、かつ透水係数が1×10-5cm/s以下である地層またはこれと同等以上の遮水の効力を有する地層をいう。
【0008】
粘性土地盤は透水性が低く、汚染水の流出が少ない利点がある。一方、粘性土地盤は、上からの荷重に対して強度が小さく、護岸等の基礎とするには、強度上の問題から、そのままで使用することは困難である。
【0009】
すなわち、図6に示すように、護岸aに背面側の埋立土bより土圧が作用すると、護岸底部には大きな鉛直荷重pが発生する。この鉛直荷重pにより粘性土cは沈下やすべり破壊を起こし、その結果、護岸aの沈下や傾きを生じる恐れがある。
【0010】
この問題を解決するため、通常、護岸の底部を人工的な砂杭で置き換える地盤改良を施し、原地盤の強度を増加させることが行われている。
【0011】
しかし、砂杭による地盤改良では、砂杭部分の透水性が高いため、根入れ下端からの汚染水の流出が防止できず、図7に示すような形で、護岸aの底部より汚染水が外海へ流出してしまうという問題がある。
【0012】
このような問題に対し、特許文献3には、透水性の地盤に通常の砂杭に加え、骨材にアスファルト、セメントまたはそれらの混合物を添加して締め固めた難透水性の砂杭を水平方向に密接するように施工して、難透水性地盤を人工的に形成する方法が記載されている。
【0013】
また、特許文献4には、護岸構造物の下方を、支持層までセメント系深層混合処理工法により地盤改良した遮水護岸構造が記載されている。
【0014】
【特許文献1】
実開昭55−123022号公報
【特許文献2】
実開昭56−091720号公報
【特許文献3】
特開2000−186321号公報
【特許文献4】
特開2002−227166号公報
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
特許文献3記載の発明は、人工的な難透水性地盤を形成するため、アスファルト、セメント等を混合して固化させた砂杭を密に施工するものであり、コストが嵩む他、後から杭や鋼板セルを打ち込むことが困難であるという問題がある。
【0016】
また、特許文献4記載の発明も、護岸構造物の下方全体をセメントを用いて固化させるものであり、特許文献3記載の発明と同様な問題がある。
【0017】
本願発明は、原地盤である粘性土地盤などからなる不透水性地盤の遮水性をそのまま利用し、安価な方法で鉛直荷重に対する地盤強度を高めることができ、構造物全体として高い止水性を有する鋼板セル護岸を提供することを目的としたものである。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本願発明の鋼板セル護岸は、不透水性地盤上に形成される根入れ鋼板セル護岸であって、前記鋼板セルの一部が地盤改良部に根入れされているものである。
【0019】
本願発明は、不透水性地盤上に鋼板セル護岸が形成されることにより鋼板セル護岸内外の遮水性を確保するとともに、この鋼板セルの一部が地盤改良部に根入れされていることにより護岸の沈下や傾きを防止することができる。
【0020】
地盤改良部には遮水性を期待しないので、不透水性の地盤や不透水性の中詰材等により地盤改良部と鋼板セル護岸の内側または外側との間の遮水性を確保すればよい。
【0021】
本願の請求項1に係る鋼板セル護岸は、前記不透水性地盤に対し、前記鋼板セル護岸の護岸前面側から護岸背面側のアークの手前まで砂杭による地盤改良区間が設けられ、護岸背面側のアーク下は未改良区間として残してあり、前記護岸背面側のアーク部分とそれに連結する護岸背面側の鋼板セル部分が不透水性地盤に根入れされ、前記護岸前面側のアーク部分とそれに連結する護岸前面側の鋼板セル部分が砂杭による地盤改良部に根入れされていることを特徴とするものである。
【0022】
すなわち、地盤改良区間を、鋼板セル護岸の護岸前面側(海側)から護岸背面側(陸側)のアークの手前までとし、護岸背面側のアーク下は未改良区間として残すことで、遮水護岸を構成するものである。
【0023】
鋼板セル護岸の背面土圧による護岸構造物下端の反力分布は、図5に示すように護岸前面側(海側)が大きい台形分布となり、地盤はこの反力に耐える強度が必要となる。
【0024】
本願発明では、反力の大きい護岸前面側(海側)区間は、原地盤のままでは強度不足となるため地盤改良し、反力の小さい護岸背面側(陸側)区間は地盤改良を施さない未改良区間とする。
【0025】
なお、粘性土は、通常、地表面の部分は非常に弱く、深くなるほど強度が増加するが、鋼板セルの場合、根入れ下端部の粘性土強度が利用できるため、ケーソンのような重力式構造物による護岸に比べ有利である。
【0026】
このような構成により、例えば処分場における汚染水の流出経路を考えた場合、処分場である陸側の上部は、鋼板セルおよび背面側のアークで遮水され、その下部は原地盤の不透水性地盤で遮水されているため、海側への汚染水の流出が遮断される。
【0027】
したがって、護岸前面側(海側)の区間における地盤改良部には必ずしも高い遮水性が要求されないため、任意の地盤改良方法が適用可能であり、従来、安価で効率的な方法として行われている砂杭などによる地盤改良が有効となる。
【0028】
本願の請求項2に係る鋼板セル護岸は、該鋼板セル護岸を構成する鋼板セルどうしが護岸前面側と護岸背面側とで複数のアークによって連結されており、前記不透水性地盤に対し、該鋼板セル護岸の両側に砂杭による地盤改良を施し、その間を不透水性地盤のまま残してあり、該鋼板セル護岸の両側のアーク部分とそれに連結する護岸両側の鋼板セル部分が前記砂杭による地盤改良部に根入れされ、前記鋼板セル内の不透水性地盤上および鋼板セルとアークとで囲まれる領域の不透水性地盤上に不透水性の中詰材が充填されていることを特徴とするものである。
【0029】
鋼板セル護岸が不透水性地盤上に形成されていれば、護岸底部での遮水性は確保されるが、鋼板セルの根入れ下端鋼板セル護岸の両側に地盤改良部が存在すると、鋼板セルの内部を通じて水路が形成され遮水性が損なわれる恐れがある。
【0030】
そこで本願の請求項に係る発明では、鋼板セルの内部および鋼板セルとアークとで囲まれる領域に不透水性の中詰材が充填されていることにより、護岸の遮水性が確保される。
【0031】
この不透水性の中詰材としては、例えばアスファルト、コンクリート、モルタル等を用いることができる。護岸の遮水性を十分に確保するために、この不透水性の中詰材が、不透水性地盤の直上でかつ鋼板セルの内部および鋼板セルとアークとで囲まれる領域の全てに不透水性地盤と同等以上の透水係数が確保できる適当な厚みで充填されていれば良く、その上部は砂などの一般的に用いられている中詰材を充填しても良い。
【0032】
本願の請求項1、2に係る鋼板セル護岸において、地盤改良部は、前記不透水性地盤に打設された多数の砂杭によって鉛直荷重に対する強度を向上させたものである。
【0033】
【発明の実施の形態】
図1および図2は、本願発明の一実施形態を模式的に示したもので、粘性土からなる不透水性地盤5上に、鋼板セル1および前面側(海側)および背面側(陸側)の鋼板アーク2a,2bからなる鋼板セル護岸が構築されている。
【0034】
この例では、鋼板セル護岸の前面側(海側)に当たる所要区間について、砂杭による地盤改良を施す。図中、符号6が地盤改良部である。
【0035】
次いで、ヤードまたはドックで製作され、曳航されてきた鋼板セル1をバイブロハンマーなどの施工機械により、所定深度まで根入れし、鋼板セル1間を図2に示すように鋼板アーク2a,2bの継手嵌合により連結する。
【0036】
その際の地盤改良部6と鋼板セル1間をつなぐ前面側および背面側のアーク2との位置関係は、前面側のアーク2aの下端が地盤改良部6内に位置し、背面側のアーク2bの下端が原地盤である粘性土からなる不透水性地盤5内に位置するようにする。
【0037】
その上に、鋼板セル1および鋼板セル1とアーク2a,2bで囲まれる領域に砂や砕石などの中詰材3を充填し、鋼板セル護岸として安定させる。必要があれば、鋼板セルやアークを根入れする前に盛砂7を敷設して設計海底面7aを形成しても良い。
【0038】
本実施形態では、その後、鋼板セル護岸の背面側を処分場として廃棄物を含む埋立土8による埋め立てを行っている。なお、必要に応じ、鋼板セル護岸の背面から背面側の盛砂7にかけて防水シート9などを敷設するか、鋼板セル護岸の背面部分に重防食塗装あるいは金属溶射を施してから背面側の埋め立てを行う。
【0039】
以上のように構築された鋼板セル護岸は、鋼板セル1とアーク2bの継手部を含む背面側部分の下端が不透水性地盤5内まで連続することで、鋼板セル護岸背面からの汚染水を含んだ水流が完全に遮断され、前面側への汚染水の漏出の恐れがない。
【0040】
一方、鋼板セル護岸の前面側については、砂杭などによる地盤改良部6によって背面土圧によって生ずる力に対し、十分な地盤反力が確保でき、護岸構造物としての安定性が保たれる。
【0041】
また、地盤改良部6については、それほど止水性が要求されないため、必要な地盤強度が得られるものであれば、砂杭など透水係数が大きくなるものでもよく、安価で効率のよい施工が可能である。
【0042】
図3および図4は、本願発明の他の実施形態を模式的に示したもので、粘性土からなる不透水性地盤5上に、鋼板セル1および前面側(海側)および背面側(陸側)の鋼板アーク2a,2bからなる鋼板セル護岸が構築されている。
【0043】
この例では、鋼板セル護岸の両側に当たる所要区間について、砂杭による地盤改良が施されている。図中、符号6が地盤改良部である。このような態様は、例えば処分場内の仕切りを構成する鋼板セル護岸や、使用状況に応じて処分場が外側に拡張されることが予定されている場合(最終的に当該護岸の内外双方に廃棄物が処分されるようになる場合)など、当該護岸の内外双方から護岸に土圧が作用する場合に適用することができる。
【0044】
鋼板セル護岸の両側に砂杭による地盤改良部分が存在するので、鋼板セルの内部に不透水性の中詰材10を充填することにより汚染水の流出が防止される。
【0045】
【発明の効果】
本願発明では、不透水性地盤上に鋼板セル護岸が形成されることにより鋼板セル護岸内外の遮水性を確保するとともに、この鋼板セルの一部が地盤改良部に根入れされていることにより護岸の沈下や傾きが防止される。
【0046】
また、鋼板セルとアークの継手部を含む下端が原地盤である不透水性地盤内まで連続することで、鋼板セル護岸背面における高い止水性が確保される。
【0047】
鋼板セル護岸の前面側については、背面土圧によって生ずる力に対し、地盤改良部による十分な地盤反力が確保でき、護岸構造物としての安定性が保たれる。
【0048】
この場合は、背面側の地盤改良を必要としないだけでなく、前面側の地盤改良部については、それほど止水性が要求されないため、安価で施工性のよい地盤改良工法を選定することが可能である。
【0049】
また、該鋼板セル護岸の両側が地盤改良部に根入れされている場合は、前記鋼板セル内の不透水性地盤上および鋼板セルとアークとで囲まれる領域の不透水性地盤上に不透水性の中詰材が充填されることにより、高い止水性が確保される。
【0050】
鋼板セルの場合、地盤中へ根入れされるため、下端部は粘性土の強度が比較的高いところに位置し、安定性がよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本願発明の一実施形態を示す鉛直断面図である。
【図2】 図1のA−A断面図である。
【図3】 本願発明の他の実施形態を示す鉛直断面図である。
【図4】 図3のB−B断面図である。
【図5】 本願発明における鋼板セル護岸背面側の土圧と地盤反力との関係を説明するための鉛直断面図である。
【図6】 護岸の背面側の土圧と護岸底部の鉛直荷重との関係を説明するための鉛直断面図である。
【図7】 砂杭による地盤改良における汚染水流出経路を説明するための鉛直断面図である。
【符号の説明】
1…鋼板セル、2a,2b…アーク、3…中詰材、4…蓋部、5…不透水性地盤(粘性土)、6…地盤改良部、7…盛砂、7a…設計海底面、8…埋立土(廃棄物)、9…防水シート、10…不透水性の中詰材
a…護岸、b…埋立土、c…粘性土、d…地盤改良部(砂杭)

Claims (2)

  1. 不透水性地盤上に形成される根入れ鋼板セル護岸であって、該鋼板セル護岸を構成する鋼板セルどうしが護岸前面側と護岸背面側とでアークによって連結されており、前記不透水性地盤に対し、前記鋼板セル護岸の護岸前面側から護岸背面側のアークの手前まで砂杭による地盤改良区間が設けられ、護岸背面側のアーク下は未改良区間として残してあり、前記護岸背面側のアーク部分とそれに連結する護岸背面側の鋼板セル部分が不透水性地盤に根入れされ、前記護岸前面側のアーク部分とそれに連結する護岸前面側の鋼板セル部分が砂杭による地盤改良部に根入れされていることを特徴とする鋼板セル護岸。
  2. 不透水性地盤上に形成される根入れ鋼板セル護岸であって、該鋼板セル護岸を構成する鋼板セルどうしが護岸前面側と護岸背面側とで複数のアークによって連結されており、前記不透水性地盤に対し、該鋼板セル護岸の両側に砂杭による地盤改良を施し、その間を不透水性地盤のまま残してあり、該鋼板セル護岸の両側のアーク部分とそれに連結する護岸両側の鋼板セル部分が前記砂杭による地盤改良部に根入れされ、前記鋼板セル内の不透水性地盤上および鋼板セルとアークとで囲まれる領域の不透水性地盤上に不透水性の中詰材が充填されていることを特徴とする鋼板セル護岸。
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