JP4136318B2 - 1,3−ジフルオロアセトンの製造方法 - Google Patents

1,3−ジフルオロアセトンの製造方法 Download PDF

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、医薬・農薬の中間体として、また含フッ素基導入試薬として有用な1,3−ジフルオロアセトンの製造方法に関する。
【0002】
【従来技術】
1,3−ジフルオロアセトンは種々の方法で得られることが知られている。例えば、J.Chem.Soc. 1958, 2259-62には1,3−ジフルオロ−2−プロパノールの無水クロム酸による製造法が記されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、多量のクロム酸を使用する必要のない工業的に可能な1,3−ジフルオロアセトンの製造法を提供することにある。
【0004】
【問題点を解決するための具体的手段】
本発明者らは、工業的規模での製造に適した1,3−ジフルオロアセトンの製造方法を確立するべく各種の製造プロセスについて鋭意検討を加えたところ、1,1,3,3−テトラクロロ−1,3−ジフルオロアセトンを水素で接触還元するにあたって気相法において、白金−スズ触媒、白金−ビスマス触媒、パラジウム−銅触媒、又は白金−銅触媒を用いることにより、高収率で目的とする1,3−ジフルオロアセトンを得ることができることを見出し、本発明に到達したものである。
【0005】
すなわち、本発明は1,1,3,3−テトラクロロ−1,3−ジフルオロアセトンを白金−スズ触媒、白金−ビスマス触媒、パラジウム−銅触媒、又は白金−銅触媒存在下、水素により還元することからなる1,3−ジフルオロアセトンの製造方法である。
【0006】
本発明の方法は、流通式反応装置において実施することができ、以下においてその反応条件を述べるが、それぞれの反応装置において、当業者が容易に調節しうる程度の反応条件の変更を妨げるものではない。
【0007】
本発明に使用する原料は1,1,3,3−テトラクロロ−1,3−ジフルオロアセトンであるが、段階的な還元であるため部分還元物も原料として用いることが可能であり、例えば、1,1,3−トリクロロ−1,3−ジフルオロアセトン、1,1−ジクロロ−1,3−ジフルオロアセトン、1,3−ジクロロ−1,3−ジフルオロアセトン、1−クロロ−1,3−ジフルオロアセトンを原料として使用しても1,3−ジフルオロアセトンを得ることができる。これらは公知の方法で合成することができる。例えば、1,1,3,3−テトラクロロ−1,3−ジフルオロアセトンはヘキサクロロアセトンをアンチモンを触媒としてフッ化水素でフッ素化することにより得ることができる(USP253524号公報)。
【0008】
本発明の方法においては、金属を担体に担持した触媒を使用する。担体としては活性炭、アルミナ、またはクロミア等が使用される。金属としては、パラジウム、白金から選ばれる触媒金属に、添加金属(スズ、ビスマス、銅)加えて使用するこれら添加金属の添加により選択率を向上させることができる。これらのうち、活性炭に触媒金属(パラジウム、白金)を担持し、これにさらに添加金属(スズ、ビスマス、銅)を加えたもの好ましい。反応中には金属は反応系の水素化分解条件による特定の形態をとるものと考えられるが、反応に先立ち予め水素などによる還元で金属単体としておくことが好ましい。
【0009】
添加金属(スズ、ビスマス、銅としては銅が特に好ましい
【0010】
金属の担体への担持方法は公知の方法で行えばよい。触媒金属及び添加金属は通常金属化合物の形態のものを使用するが、金属化合物は溶媒に溶解するものであればよく、例えば、金属の塩化物、臭化物、フッ化物、酸化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩等であり、塩化物、硝酸塩が好ましい。
【0011】
本発明の方法において触媒金属(白金、パラジウム)の担持量は担体100mlに対し0.01g〜10gであり、0.05〜5gが好ましい。0.01g以下では1,1,3,3−テトラクロロ−1,3−ジフルオロアセトンの反応率、及び1,3−ジフルオロアセトンの収率が共に低下し、また10gを超えると経済的に好ましくない。
【0012】
本発明の方法において添加金属の量は活性炭100mlに対し0.001g〜10gであり、0.01〜5gが好ましい。0.001g以下では添加による1,3−ジフルオロアセトンの選択率向上に効果を示さないので好ましくない。
【0013】
反応温度は50〜400℃であり、100〜300℃が好ましく、130〜200℃がより好ましい。50℃未満では原料の1,1,3,3−テトラクロロ−1,3−ジフルオロアセトンの反応率、1,3−ジフルオロアセトンの収率共低下し、また400℃を超えるとフッ素原子の水素化分解が進行し1,3−ジフルオロアセトンの収率が減少するので好ましくない。反応圧力は特に反応に影響を与えないので0〜1.0MPaで行うが、雰囲気圧で行えばよい。接触時間は1〜1000秒程度、好ましくは3〜100秒程度である。
【0014】
出発原料の1,1,3,3−テトラクロロ−1,3−ジフルオロアセトンに対する水素のモル比は4〜100の範囲であり、5〜50が好ましく、特に好ましくは10〜20である。モル比4未満では還元が完全に進行しないため1,3−ジフルオロアセトンの収率が減少し、一方、モル比100を超えても1,1,3,3−テトラクロロ−1,3−ジフルオロアセトンの選択性の向上は認められず、未反応水素回収の点から経済的に有利でないので何れも好ましくない。
【0015】
本発明においては、反応の調節、触媒劣化の防止を目的として反応系に窒素ガスを共存させることができる。
【0016】
本発明の反応を行う反応器は、鉄またはステンレス鋼などで製作したものを使用する。
【0017】
本発明の方法を実施する方法は限定されるものではないが、例として流通式で実施する際の詳細を述べる。反応条件に耐えられる流通式反応器に触媒金属及び添加金属を担持して調製した触媒を充填し、外部より加熱し水素を流通させる。金属化合物及び添加金属を担持しただけの場合は十分に化合物の還元を行う。その後、反応管の内温が所定の温度となったら原料の1,1,3,3−テトラクロロ−1,3−ジフルオロアセトンを気化器に導入し気化させて水素とともに反応管に流通させる。反応管より流出した生成物は冷却して液体として、または水、有機溶剤などの液体と接触させて回収する。
【0018】
本発明の方法で製造された1,3−ジフルオロアセトンは、類似の水素化による反応生成物についての公知の方法を適用して精製されるが、例えば、反応器より塩化水素とともに液体または気体状態で流出した有機物は冷却され液体として回収される。回収液体中には塩化水素が残留するため塩基により塩化水素を中和し蒸留あるいは液相分離などの操作により分離する、もしくは回収有機物の減圧蒸留により塩化水素を除去することができる。これらの操作の後、精製蒸留を行うと目的とする高純度の1,3−ジフルオロアセトンを得ることができる。
【0019】
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するがこれらの実施態様に限られない。実施例においてガスクロマトグラフ分析組成の「%」は「面積%」を表す。
【0020】
[調製例1]
金属重量換算で0.5gの塩化白金酸6水和物H2PtCl6・6H2Oを10%塩酸水溶液250gに溶解した後、椰子殻活性炭(粒状4mmφ)100g(250ml)を加え18時間浸漬させた。水を減圧して除去し、ガラス管(30mmφ、400mm)に充填し120℃まで加熱して窒素を流通しながら乾燥を行った。十分に乾燥した後、水素を100ml/分で流通し50℃/hrで250℃まで昇温して更に2時間その温度でコンディショニングを継続して白金触媒を調製した。
【0021】
[調製例2]
金属重量換算で0.5gの塩化白金酸6水和物及び金属重量換算で0.2gの塩化第一スズSnCl2を10%塩酸水溶液250gに溶解した後、椰子殻活性炭(粒状4mmφ)100g(250ml)を加え18時間浸漬させた。水を減圧で除去し、ガラス管(30mmφ、400mm)に充填し120℃まで加熱し窒素を流通しながら乾燥を行った。十分に乾燥した後、水素を100ml/分で流通し50℃/hrで250℃まで昇温して更に2時間その温度でコンディショニングを継続して白金−スズ触媒を調製した。
【0022】
[調製例3]
塩化第一スズSnCl2に代えて金属重量換算0.2gの三塩化ビスマスBiCl3を使用し、他は調整例2と同様にして白金−ビスマス触媒を調製した。
【0023】
[調製例4]
金属重量換算で0.5gの塩化パラジウムPdCl2と金属重量換算4.0gの塩化第二銅CuCl2を使用して調製例2と同様にしてパラジウム−銅触媒を調製した。
【0024】
[調製例5]
塩化第一スズSnCl2に代えて金属重量換算0.2gの四塩化テルルTeCl4を使用し、他は調製例2と同様にして白金−テルル触媒を調製した。
【0025】
[調製例6]
金属重量換算で0.5gの塩化白金酸6水和物H2PtCl6・6H2Oと金属重量換算4.0gの塩化第二銅CuCl2を使用し、他は調製例2と同様にして白金−銅触媒を調製した。
【0026】
比較例1
流通式のガラスの反応管(30mmφ、L150mm)に調製例1で調製した白金触媒を反応器に25ml充填し、水素を80ml/分の流量で流しながらヒーターにより反応器を130℃に加温した。内部温度が安定した後1,1,3,3−テトラクロロ−1,3−ジフルオロアセトン12gを水素とともに130℃に設定した気化器を通じて2時間にわたって反応器に送り込んだ。接触時間は11秒。反応器から流出する液体及び気体を水に吸収させたのちガスクロマトグラフで分析したところ、1,3−ジフルオロアセトン12%、1−フルオロアセトン15%、1−クロロ−1−フルオロアセトン16%、1−クロロ−1,3−ジフルオロアセトン11%、その他が含まれていた。
【0027】
実施例1
流通式のガラスの反応管(30mmφ、L150mm)に調製例2で調製した白金−スズ触媒を反応器に25ml充填し、水素を80ml/分の流量で流しながらヒーターにより反応器を130℃に加温した。内部温度が安定した後1,1,3,3−テトラクロロ−1,3−ジフルオロアセトン12gを水素とともに130℃に設定した気化器を通じて2時間にわたって反応器に送り込んだ。接触時間は11秒。反応器から流出する液体及び気体を水に吸収させたのちガスクロマトグラフで分析したところ、1,3−ジフルオロアセトン34%、1−フルオロアセトン35%、1−クロロ−1−フルオロアセトン5%、1−クロロ−1,3−ジフルオロアセトン4%、その他が含まれていた。
【0028】
実施例2
流通式のガラスの反応管(30mmφ、L150mm)に調製例3で調製した白金−ビスマス触媒を反応器に25ml充填し、水素を80ml/分の流量で流しながらヒーターにより反応器を130℃に加温した。内部温度が安定した後1,1,3,3−テトラクロロ−1,3−ジフルオロアセトン12gを水素とともに130℃に設定した気化器を通じて2時間にわたって反応器に送り込んだ。接触時間は11秒。反応器から流出する液体及び気体を水に吸収させたのちガスクロマトグラフで分析したところ、1,3−ジフルオロアセトン37%、1−フルオロアセトン32%、1−クロロ−1−フルオロアセトン4%、その他が含まれていた。
【0029】
実施例3
流通式のガラスの反応管(30mmφ、L150mm)に調製例4で調製したパラジウム−銅触媒を反応器に25ml充填し、水素を80ml/分の流量で流しながらヒーターにより反応器を130℃に加温した。内部温度が安定した後1,1,3,3−テトラクロロ−1,3−ジフルオロアセトン12gを水素とともに130℃に設定した気化器を通じて2時間にわたって反応器に送り込んだ。接触時間は11秒。反応器から流出する液体及び気体を水に吸収させたのちガスクロマトグラフで分析したところ、1,3−ジフルオロアセトン40%、1−フルオロアセトン33%、1−クロロ−1−フルオロアセトン2%、1−クロロ−1,3−ジフルオロアセトン1%、その他が含まれていた。
【0030】
比較例2
流通式のガラスの反応管(30mmφ、L150mm)に調製例5で調製した白金−テルル触媒を反応器に25ml充填し、水素を80ml/分の流量で流しながらヒーターにより反応器を130℃に加温した。内部温度が安定した後1,1,3,3−テトラクロロ−1,3−ジフルオロアセトン12gを水素とともに130℃に設定した気化器を通じて2時間にわたって反応器に送り込んだ。接触時間は11秒。反応器から流出する液体及び気体を水に吸収させたのちガスクロマトグラフで分析したところ、1,3−ジフルオロアセトン17%、1−フルオロアセトン42%、1−クロロ−1−フルオロアセトン7%、1−クロロ−1,3−ジフルオロアセトン1%、その他が含まれていた。
【0031】
実施例4
流通式のステンレス鋼の反応管(30mmφ、L500mm)に調製例6により調製した白金−銅触媒を100ml充填し、水素を160ml/分の流量で流しながらヒーターにより反応器を130℃に加温した。内部温度が安定した後1,1,3,3−テトラクロロ−1,3−ジフルオロアセトン87gを水素とともに130℃に設定した気化器を通じて7時間にわたって反応器に送り込んだ。接触時間は23秒。反応器から流出する液体及び気体を−78℃に冷却して捕集すると41.0gの液体が得られた。この液体をガスクロマトグラフで分析したところ、1,3−ジフルオロアセトン65%、1−フルオロアセトン22%、1−クロロ−1−フルオロアセトン2%、1−クロロ−1,3−ジフルオロアセトン3%、その他が含まれていた。
【0032】
得られた液体のうち25.4gを減圧蒸留(70mmHg)で精製したところ8.7gの62〜65℃の留分が得られ、ガスクロマトグラフで分析したところ、1,3−ジフルオロアセトン93%、1−クロロ−1,3−ジフルオロアセトン4%、その他が含まれていた。原料の1,1,3,3−テトラクロロ−1,3−ジフルオロアセトンからの収率は38%であった。
【0033】
【発明の効果】
本発明の方法は、対応する1,1,3,3−テトラクロロ−1,3−ジフルオロアセトンから一段階の反応で収率よく1,3−ジフルオロアセトンを製造することができるという効果を奏する。

Claims (4)

  1. 1,1,3,3−テトラクロロ−1,3−ジフルオロアセトンを白金−スズ触媒、白金−ビスマス触媒、パラジウム−銅触媒、又は白金−銅触媒の存在下、水素により還元することからなる1,3−ジフルオロアセトンの製造方法。
  2. 上記、白金−スズ触媒、白金−ビスマス触媒、パラジウム−銅触媒、又は白金−銅触媒が、活性炭、アルミナ、又はクロミアに担持された触媒である、請求項1記載の1,3−ジフルオロアセトンの製造方法。
  3. 1,1,3,3−テトラクロロ−1,3−ジフルオロアセトンを白金−スズ触媒、白金−ビスマス触媒、パラジウム−銅触媒、又は白金−銅触媒存在下、気相で水素により還元することからなる1,3−ジフルオロアセトンの製造方法であって、出発原料における水素/1,1,3,3−テトラクロロ−1,3−ジフルオロアセトンのモル比4〜100、反応温度50〜400℃、接触時間1〜1000秒で行うことを特徴とする1,3−ジフルオロアセトンの製造方法。
  4. 上記、白金−スズ触媒、白金−ビスマス触媒、パラジウム−銅触媒、又は白金−銅触媒が、活性炭、アルミナ、またはクロミアに担持された触媒である、請求項3記載の1,3−ジフルオロアセトンの製造方法。
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