JP4126602B2 - 制電性を有する,接着剤又は塗料及びそれらを含む積層体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は特定の塩を含む,耐熱性,耐水性,透明性,に優れた制電性を有する,接着剤又は塗料及びそれらを用いて形成される積層体を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に合成樹脂は電気絶縁性であり,容易に帯電するため,加工時の操作性を阻害したり,製品となっては電気電子機器の誤動作や故障の原因となり,場合によっては火災の様な重大な災害を招く原因となったりする。
【0003】
そのため,合成樹脂成形物に制電性を付与する必要がある。制電性を付与するために従来,いわゆる帯電防止剤(導電性化合物)を合成樹脂に練り込んだり,成形物の表面に塗布している。
導電性化合物として,炭素粉,金属粉,などの導電性粒子,酸化錫などの金属酸化物,界面活性剤,有機導電性ポリマーなどが使用されている。
【0004】
炭素粉,金属粉,導電性ポリマーなどは優れた制電性を付与するが,透明性を損ね,着色したりする。界面活性剤は着色や透明性を損ねることはないが,制電性を発揮するには水分の存在が必須で,そのため低湿度下の制電性は期待出来ず,また水によって容易に溶出し制電性が失われる。
【0005】
さらに,接着剤の様に被着体と被着体との間にあって表面に存在しない接着層に制電性を付与しても,その接着剤で接合された積層体に制電性を付与することは通常では困難である。又,制電性を付与した塗料をフィルムやシートの片面にコーティングして,反対側の面に制電性を発現させたり,制電剤を含む塗料の上に制電材を含まないトップコートをかけ,その表面に制電性を発現させることは,通常では困難である。
【0006】
以上の様に,優れた制電性と共に,透明性(無着色性を含む),耐水性,低湿度下の制電性,加工性などを併せ持ち,さらに制電剤を含む層が樹脂膜で隔絶された状態で制電性を発現できる制電剤は未だ無く,それを利用した接着剤や塗料も無いのが現状である。
【参考特許文献1】
特開2002−054072
【参考特許文献2】
特開平11−256143
【0007】
【発明が解決しようとする問題点】
我々は,透明性,耐水性を有し,高湿度下から低湿度下までの優れた制電性とフィルムなどの樹脂膜で隔絶された状態においても優れた制電性を発現する接着剤や塗料を発明することによって,上記の様な現状の問題を解決しようとするものである。
【0008】
【問題を解決するための手段】
上記の問題を解決するために,本発明は,
(1)総炭素数が4〜20であり,窒素原子に直接結合した水素原子を含まないアンモニウムカチオンおよびフッ素原子含有アニオンとから成る塩を,全樹脂分に対して0.1〜20重量%含有することを特徴とする制電性を有する,接着剤又は塗料及びそれらから形成される積層体
(2)塩が1,3−ジアルキルイミダゾリウムビス{(トリフルオロメチル)スルフォニル}アミドであることを特徴とする(1)の制電性を有する,接着剤又は塗料及びそれらから形成される積層体
(3)接着剤又は塗料がポリウレタン系樹脂又は,及び天然系樹脂を含むことを特徴とする(1)の制電性を有する,接着剤又は塗料及びそれらから形成される積層体を提供するものである。
【0009】
以下に,本発明を更に詳細に説明する。
本発明の総炭素数4〜20であり,窒素原子に直接結合した水素原子を含まないアンモニウムカチオンとは,4級化された窒素カチオンであって,窒素は4個の炭素原子と結合しており,結合している基(窒素原子が環の1員である場合を含む)に含まれる総炭素数が4〜20であるアンモニウムカチオンである。
【0010】
窒素に結合している基に含まれる総炭素数が4未満で,窒素原子に直接結合している水素原子がある場合は,アンモニウムカチオンから生成する塩は耐水性が悪く,また総炭素数が20以上のアンモニウム塩は導電性が小さくなり,いずれも本発明には適さない。好ましくは,総炭素数が5〜15であるアンモニウムカチオンである。
【0011】
本発明のアンモニウムカチオン種の例を具体的に示せば,
トリメチルヘキシルアンモニウム,トリメチルオクチルアンモニウムなどの4級アンモニウム,1−エチル−3−メチルイミダゾリウム,1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムなどの1,3位がアルキル置換されたイミダゾリウム,N−ブチルピリジニウムなどのN置換ピリジニウム,N−メチル−N−ブチルピロリジニウムなどのN,N−ジアルキルピロリジニウム,N−メチル−N−ブチル−ピペリジニウムなどのN,N−ジアルキルピペリジニウムなどを挙げることが出来る。
【0012】
本発明のフッ素原子含有アニオンは,フッ素原子を含む,無機または有機のアニオンであり,例示すれば,PF6,BF4,
N(SO2CnF2n+1)2 (ただし,nは0〜4の整数)で表されるイミド系アニオン,例えば,N(SO2F)2,N(SO2CF3)2,
N(SO2C2F5)2,さらに,CF3SO2−N−COCF3などを挙げることが出来る。これらのフッ素原子含有アニオンは,他のハロゲン原子含有のアニオンや他の無機アニオンに比し,耐熱性や耐酸化性に優れており,中でも,
N(SO2CF3)2などの有機イミド系アニオンが合成樹脂との親和性が良い点でも好ましい。
【0013】
本発明の特定のアンモニウムカチオンとフッ素原子含有アニオンの組み合わせによる,好ましい塩として,1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス{(トリフルオロメチル)スルフォニル}アミド,1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス{(ペンタフルオロエチル)スルフォニル,N−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス{(トリフルオロメチル)スルフォニル}アミドを挙げることが出来る。
【0014】
本発明において接着剤とは,被着体と被着体との間にあって両者を接合するために使用されるものであり,バインダー(結合剤),アンカーコート剤(下塗り剤),粘着剤などを含む。これらは通常,溶剤や水に溶解または分散された液状で塗工し,溶剤や水を乾燥させた後,加熱し又は加熱せずに圧着する場合が多い。又は溶融状態で塗工するホットメルト接着剤,フィルム状で被着体と被着体の間に挟み,加熱あるいは加熱せずに圧着するフィルム状接着剤などもある(粘着テープも一種のフィルム状接着剤と云える)。本発明は上記のいずれにも適用できる。
【0015】
本発明において塗料とは,物体の表面を覆うために用いるもので,コーティング剤,オーバーコート剤,インク,スプレーなどを含む。塗料も溶剤や水に溶解や分散させたものを物体の表面に塗工し,溶剤や水を乾燥させ,さらに加熱し,あるいは加熱せずにフィルム(あるいは膜)を形成する。また粉体で塗工し加熱融着させる粉体塗料もある。本発明は上記いずれにも適用できる。
【0016】
これら接着剤や塗料には,樹脂成分の他に溶剤,水などの媒体や染料,顔料,充填剤(フィラー),酸化防止剤,重合開始剤,離型剤,その他の金属塩などの添加剤が含まれていても何ら差し支えない。
【0017】
本発明における接着剤や塗料への塩の添加量は,全樹脂分に対して0.1〜20重量%である。0.1重量%未満では制電性が充分発現せず,また20重量%を越えると接着剤や塗料として接着性や凝集力が損なわれるため,いずれも不都合である。好ましくは2〜10重量%,特に好ましくは3〜6重量%である。
【0018】
本発明の接着剤や塗料に用いる樹脂として,ポリ酢酸ビニル,ポリ塩化ビニル,ポリメチルメタクリレートなどのビニル系樹脂,熱可塑性ポリエステル樹脂,熱可塑性ポリアミド樹脂,ポリウレタン樹脂,エポキシ樹脂,フェノール樹脂,不飽和ポリエステル樹脂,アクリル系熱(または/および光)硬化性樹脂,ゴム系樹脂,天然系樹脂,及びこれらの共重合樹脂を挙げることが出来る。天然系樹脂としては,セルロース系樹脂,グアーガム,タマリンド,ローカストビーンガム,キサンタンガム,カラーギンなど及びこれらの誘導体を挙げることが出来る。
【0019】
本発明の接着剤や塗料を塗工する被着材あるいは基材を例示すれば金属,ガラス,セラミック,木材,紙,合成樹脂などからなる成形物(繊維,編織物,不織布,フィルム,シート,板,これらの加工品)を挙げることが出来る。特に合成樹脂からなる布帛,フィルム,シート,板およびこれらの加工品に良く適用される。
【0020】
合成樹脂としてはポリエチレン,ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂,ポリスチレン,ポリ塩化ビニル,ポリメチルメタクリレート,ポリアクリロニトリルなどのビニル系樹脂,ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリオキシベンゾエートなどのポリエステル系樹脂,ポリカプロラクタム,ポリヘキサメチレンアジペート,ポリ−m−フェニレンイソフタルアミドなどのポリアミド系樹脂,ポリフェニレンサルファイド樹脂,ポリカーボネート樹脂,ポリスルフォン,ポリエーテルスルフォンなどのポリスルフォン系樹脂,ポリエーテルエーテルケトンなどのポリエーテルケトン系樹脂,ポリイミド系樹脂,エポキシ樹脂,ポリウレタン樹脂,フェーノール樹脂,不飽和ポリエステル樹脂フッ素系樹脂などを例示でき,いずれも市販品を利用できる。
【0021】
本発明の制電性を有する,接着剤や塗料は,それらを用いて形成される積層体の表面,つまり被着体や基材で隔絶されている表面にも優れた制電性を発現させることが出来るという特徴を有す。これを利用すれば,表面に直接,塩が出ないことから,制電耐久性が向上し,また表面の特性を阻害することなく,制電性を付与できる。たとえば磁気テープやフロッピーディスクの磁性層と基材フィルムの中間のアンカーコート層に塩を含ませる用途が考えられる。また基材フィルムとポリオレフィンヒートシール層の中間のアンカーコート層に塩を含ませれば,それから加工した袋などの容器内の食品などに塩が直接触れることなく袋内面に制電性或いは防曇性を付与できる。又粘着テープのアンカーコート剤や粘着剤に塩を含ませた粘着テープを種々の物体の表面に貼れば,その表面に制電性を付与できる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下に,本発明の実施の形態を説明する。
煙草灰付着テスト:煙草の吸い殻を手の指で揉みつぶしたものを用意する。テスト対象物の表面を木綿の布帛で擦って,その面を上記灰塵の垂直方向から近つけ,5mmの距離まで近つけたとき,灰塵の吸い付き有り無しを観察する(灰塵の付着の無いことは制電性が発現していることを示す)。
【0023】
【実施例1】
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス−{(トリフルオロメチル)スルフォニル}アミド (EMI・TFSI)の合成例を示す。
1−メチルイミダゾール37.0gr(0.45モル)を1,1,1−トリクロロエタン200mlに溶解し,室温で攪拌しながら,ブロモエタン98.1gr(0.9モル)を1時間かけて滴下・添加し,50℃で10時間,攪拌を続け反応を行った。生成した沈殿を分離し,各100mlの1,1,1−トリクロロエタンで2回,洗浄後,70℃で2時間,真空乾燥し,白色の結晶 1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド(EMIBr)77gr(90%)を得た。
次に,カリウムビス−{(トリフルオロメチル)スルフォニル}アミド(KTFSI)を70℃で水100mlに溶解し,50℃で攪拌しながら,上で得たEMIBr19.1gr(0.1モル)を水50mlに溶解した溶液を10分間で滴下・添加後,さらに30分攪拌し反応を行った。生成した油層を分離し,各50mlの水で2回洗浄後,100℃で2時間,真空乾燥し,常温で液体の塩1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス−{(トリフルオロメチル)スルフォニル}アミド(EMI・TFSI)33.2gr(収率85%)を得た。
なお合成物はIRスペクトル,NMRスペクトルで同定した。
本実施例で合成したEMI・TFSIは,アルゴン中で測定した熱分解温度が,350℃以上で,優れた耐熱性を示した。
【0024】
【実施例2】
実施例1で得たEMI・TFSI 1.25gr,熱可塑性ポリエステル樹脂(東洋紡バイロン300)25grをトルエン−メチルエチルケトン混合溶媒(1:1容量比)75grに溶解した接着剤溶液を調整した。この溶液を,50μmのポリエステルフィルム(東レルミラーTタイプ)の表面に塗布した後,80℃で5分間熱風乾燥し,厚さ20μmの接着剤層を形成した。塗布面に他の50μmのポリエステルフィルムを重ね,100℃,10kg/cm2,2分間,温度と圧力と時間をかけ,熱圧着して2枚のポリエステルフィルムを張り合わせ,無色透明の積層フィルムを得た。剥離強度(5cm/分で180度剥離)は1.3kg/cmであった。
該積層フィルムを30%RH,45%RH,60%RHで煙草灰付着テストを行ったが,いずれの湿度,いずれの面も灰塵の付着は認められなかった。
【0025】
【比較例1】
実施例2の接着剤溶液にEMI・TFSIを加えない以外,同じ様に作成した積層フィルムは,いずれの条件でも煙草灰付着テストで灰塵の付着が認められた。
【0026】
【実施例3】
熱可塑性ポリエステル樹脂(東洋紡バイロン500)25gr,トリメチロールプロパン トリレンジイソシアネート付加物3.75gr,実施例1で得たEMI・TFSI 1.4grをトルエン−メチルエチルケトン(1:1容量比)grに溶解し,接着剤(アンカーコート剤)溶液を調整した。
本溶液を12μmのポリエステルフィルムの片面に塗布し,80℃で3分間,乾燥し,厚さ5μmのアンカーコート層を形成させた。
ポリプロピレン樹脂をイクストルーダーで溶融し,230℃のT−ダイより押し出した溶融膜を50℃のチルロールに密着させた上記コートフィルムのコート面に押し出しコーティングした。次いでチルロール上に設けたニップロールで押圧・冷却・固化させ,厚さ72μmの,ポリプロピレンフィルムとポリエステルフィルムの積層フィルムを作成した。剥離強度(5cm/分で180度剥離)は0.6kg/cmであった。60%RHにおける煙草灰付着テストの結果,両面とも灰塵の付着は認められなかった。
【0027】
【実施例4】
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート25gr,実施例1で合成したEMI・TFSI 1.3gr,エチルベンゾインエーテル0.75grをエチレングリコールモノメチルエーテル75grに溶解し,ハードコート剤を調整した。本コート剤を厚さ4mmのポリメチルメタクリレート板の片面に塗工し,50℃で10分間乾燥後,高圧水銀灯で0.7mJ/cm2照射した。表面に無色透明のハードコート層(5μm)を形成することが出来た。
本ハードコート層をNo.0のスチールウールで32gr/cm2の押圧で擦ったが傷はつかず耐磨耗性があるとわかった。又,60%RHで煙草灰付着テストを行った結果,コート面,非コート面とも灰塵の付着は認められなかった。
【0028】
【比較例2】
実施例4のハードコート剤において,EMI・TFSIを加える以外,実施例4と同様にして調整したハードコート剤を用い,実施例4と同様にして作成したハードコートポリメチルメタクリレート板は,コート面,非コート面とも,煙草灰付着テストで灰塵の付着が認められた。
【0029】
【実施例5】
アクリロニトリル−ブタジエン共重合ポリマー(JSR N215SL)25gr,実施例1と同様にして合成した1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス{(ペンタフルオロエチル)スルフォニル}アミド2.0grをメチルエチルケトン75grに溶解した接着剤溶液を調整した。本溶液を25μmのポリエステルフィルムに塗布後,60℃で5分間,熱風乾燥し.10μmの接着剤層付のポリエステルフィルムを得た。60%RHにおいて煙草灰付着テストを行った結果,ポリエステルフィルム面の灰塵付着が認められなかったことから,接着層を介して種々の表面に張りつければ,その表面に制電性を付与できることがわかった。
【0030】
【発明の効果】
総炭素数が4〜20のアンモニウムカチオンとフッ素原子を含有するアニオンから成る塩を,全樹脂分に対し0.1〜20重量%含む接着剤や塗料は無着色透明で,低湿度下から高湿度下まで優れた制電性を有し,それらから形成される積層体表面にも上記と同様の制電性を付与することが出来る。
Claims (3)
- 総炭素数が4〜20であり,窒素原子に直接結合した水素原子を含まないアンモニウムカチオンおよびフッ素原子含有アニオンとから成る塩を,全樹脂分に対して0.1〜20重量%含有することを特徴とする制電性を有する,接着剤又は塗料から形成される積層体。
- 塩が1,3−ジアルキルイミダゾリウムビス{(トリフルオロメチル)スルフォニル}アミドであることを特徴とする請求項1の制電性を有する,接着剤又は塗料から形成される積層体。
- 接着剤又は塗料がポリウレタン系樹脂又は,及び天然系樹脂を含むことを特徴とする請求項1の制電性を有する,接着剤又は塗料から形成される積層体。
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