JP4120212B2 - 自動変速機の潤滑装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動変速機の潤滑装置に関し、特に、自動変速機の軸部から変速機構へ潤滑油を供給する部分の構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動変速機の変速機構の軸支持部、歯車の支持部及び噛合い部、摩擦係合部材の当接部、スプライン係合部等の相対摺動部は、摩耗防止や冷却のために潤滑される。自動変速機における潤滑は、トルクコンバータのタービン出力軸の回転で駆動されるオイルポンプを油圧源とし、その吐出圧を調圧して生成される摩擦係合要素の油圧サーボ作動のためのライン圧と、その余剰圧により生成されるトルクコンバータへの供給のためのセカンダリ圧を生成させた残余の低圧の油圧の供給によりなされる。こうした潤滑用の油の機構各部への供給は、バルブボディから変速機ケース内油路を通り、変速機構の中心軸部を通る動力伝達軸内油路、その軸周に開口する径方向油孔を経て、軸の回転による遠心力で外径方向に放出されることでなされる。
【0003】
上記のような潤滑油の供給経路において、動力伝達軸内油路の軸周の開口は、その外周に嵌る支持部材を直接潤滑する場合は別として、径方向外方への放出を意図する場合は、外周に嵌る支持部材が無い位置に開口させるのが望ましい。しかしながら、自動変速機の多段化に伴い、変速機構を構成する部材は、軸周に径方向にも、軸方向にも密接した配置とされることが多く、軸周に支持部材が配置された位置においても、それを貫通させる形態で径方向の油孔を開口させざるを得ない場合も少なくない。
【0004】
こうした場合、トルク伝達に関与する動力伝達軸の強度保持の観点から、配置個数の限られる動力伝達軸側の径方向の油孔(通常2本とされる)に対して、その外周に嵌る部材側の油孔の開口を多くして、動力伝達軸と外周側部材の相対回転により、可及的に両開口の連通が遮断される期間が短く、あるいは常時いずれかの開口間の連通状態が保たれるようにするのが、円滑な潤滑を成立させるのに有効である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、前記のような構成は、動力伝達軸と、その外周に嵌る部材との間に常時相対回転があることを前提として成立するもので、両部材間に相対回転が無くなる時期がある部位に適用した場合、潤滑に支障をきたす恐れがある。特に、潤滑対象部位が高負荷の歯車のベアリングや噛合面である場合、更には、両部材間に相対回転が無くなる時期が、通常の車両走行において、達成時間が長い最高速段やそれに近い高速段達成時である場合、長時間潤滑油の供給が途絶えることになるので、こうした状態は避けなければならない。
【0006】
そこで、本発明は、潤滑油路を連通する油孔を備える油路構成部材間に相対回転が無くなった状態でも、必ず連通状態を確保することができる、自動変速機の潤滑装置を提供することを概括的な目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、中心部に軸方向に延びる潤滑油用油路を有する動力伝達軸(11)と、該動力伝達軸にクラッチ(C−2)を介してつながる変速要素(C2)と、を備え、前記動力伝達軸(11)を内径側とし、前記変速要素(C2)を外径側として、該変速要素と一体に回転するブッシュ(12)を介して径方向に重なるように支持し、
前記動力伝達軸(11)に、前記潤滑油用油路に連通すると共に外周に開口する径方向に延びる複数の油孔(11a)と、前記ブッシュ(12)に、径方向に貫通して形成された複数の油孔(12a)と、を備え、前記動力伝達軸の油孔(11a)と前記ブッシュの油孔(12a)とが軸方向に同じ位置に配置されて、前記動力伝達軸の潤滑油用油路の潤滑油が、前記動力伝達軸及び前記ブッシュの油孔を介して前記変速要素の油路に導かれてなる、自動変速機の潤滑装置において、
前記動力伝達軸の油孔(11a)は、径方向に亘って同一径であると共にその外周の開口が前記ブッシュの油孔の内周の開口と対接して配置され、
前記動力伝達軸(11)の油孔(11a)の外周の開口と前記ブッシュ(12)の油孔(12a)の内周の開口は、前記クラッチ(C−2)の接続による前記動力伝達軸(11)と前記変速要素(C−2)との相対回転停止時に、少なくとも1つずつが相互に連通する位置関係に配置されたことを特徴とする
自動変速機の潤滑装置にある。
【0008】
具体的には、図5を参照して示すと、前記動力伝達軸(11)の複数の油孔(11a)は、周方向ピッチが135度隔てて配置された2個の油孔を有し、
前記ブッシュ(12)の油孔(12a)は、その開口が周方向ピッチに対して実質上半分の周方向長さを有しかつ等ピッチで配置された4つの油孔である。
【0009】
また、図6を参照して示すと、前記動力伝達軸(11)の油孔(11a)は、周方向ピッチが180度隔てて配置された2個の油孔であり、
前記ブッシュ(12)の油孔(12a)は、その開口が周方向ピッチに対して実質上半分の周方向長さを有しかつ等ピッチで配置された3つの油孔である。
【0013】
また、上記いずれかの構成において、前記内径側軸状部材は、動力伝達軸(11)であり、外径側軸状部材は、動力伝達軸の外周に高速段達成時に動力伝達軸に連結されるキャリア(C2)を支持するブッシュ(12)であり、外径側軸状部材の油孔(12a)は、ブッシュ(12)を径方向に貫通し、キャリア(C2)に支持されたピニオンシャフト(14,15)の軸端の径方向内側に開口する油孔(14a,15a)である構成とすることもできる。
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これにより特許請求の範囲の記載に何等影響を及ぼすものではない。
【0014】
【発明の作用及び効果】
求項1記載の構成では、内径側軸状部材である動力伝達軸と外径側軸状部材であるブッシュの油孔の関係が、内径側軸状部材側の一方の油孔の開口が、外径側軸状部材により塞がれた状態で相対回転が無くなった場合でも、内径側軸状部材の他方のいずれかの油孔は必ず外径側軸状部材側の油孔の開口に連通した状態となるため、内径側軸状部材と外径側軸状部材との相対回転無しの状態における潤滑油の流動が確保される。
【0015】
径側軸状部材が動力伝達軸であり、外径側軸状部材が、動力伝達軸にクラッチを介してつながる変速要素を支持する支持部材であることで、相対回転とその停止状態が生じる両部材間で、相対回転の有無に関わり無く、潤滑油の流動を確保することができる。
【0016】
更に、内径側軸状部材の油孔と外径側軸状部材の油孔の配列関係により、両部材の相対回転停止時の油路連通状態を確保できる。したがって、内径側軸状部材を動力伝達軸とする場合に、軸強度の維持が容易となる。
【0017】
更に、請求項記載の構成では、内径側軸状部材について、少ない油孔数で相対回転停止時の油路連通状態を確保できる。また、内径側軸状部材を動力伝達軸とする場合でも、油孔数を増やす必要がないため、軸強度の維持が容易となる。
【0019】
また、請求項記載の構成では、内径側軸状部材、外径側軸状部材共に最小限の油孔数で相対回転停止時の油路連通状態を確保できる。また、両部材の油孔配置が周方向に均一なバランスの良い配置となり、軸状部材を動力伝達軸とする場合に、軸強度の維持が容易となる。
【0020】
また、請求項記載の構成では、変速機構中にあって特に負荷の大きいプラネタリギヤユニットのピニオンギヤの潤滑状態を、特に達成時間の長い最高速段において、十分に確保することができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、図面に沿い、本発明の実施形態を説明する。図1は本発明の一適用対象としての前進6速・後進1速の自動変速機のギヤトレインをスケルトンで示す。図に示すように、この自動変速機は、フロントエンジン・リヤドライブ用の縦置式とされ、ロックアップクラッチ付のトルクコンバータ2と遊星歯車変速装置1とで構成されている。
【0022】
遊星歯車変速装置1は、ラビニヨタイプのプラネタリギヤユニットGと、プラネタリギヤユニットGに減速回転を入力する減速用のプラネタリギヤG1とで構成されている。プラネタリギヤユニットGは、大径のサンギヤS2と、小径のサンギヤS3と、互いに噛合して且つ小径のサンギヤS3に噛合するショートピニオンP3と、大径のサンギヤS2に噛合するロングピニオンP2と、それら一対のピニオンを支持するキャリアC2と、ロングピニオンP2に噛合するリングギヤR2から構成されている。また、減速用のプラネタリギヤG1は、サンギヤS1と、それに噛合するピニオンP1を支持するキャリアC1と、ピニオンP1に噛合するリングギヤR1の3要素かなるシンプルプラネタリギヤから構成されている。
【0023】
プラネタリギヤユニットGの小径のサンギヤS3は、第1のクラッチC−1(以下、C1クラッチと略記する)により減速プラネタリギヤG1のキャリアC1に連結され、大径のサンギヤS2が第3のクラッチC−3(以下、C3クラッチと略記する)により減速プラネタリギヤG1の同じくキャリアC1に連結されるとともに第1のブレーキB−1(以下、B1ブレーキと略記する)によりケース10に係止可能とされ、キャリアC2が第2のクラッチC−2(以下、C2クラッチと略記する)により入力軸11に連結されるとともに第2のブレーキB−2(以下、B2ブレーキと略記する)によりケース10に係止可能とされ、リングギヤR2が出力軸19に連結されている。また、B2ブレーキに並列させてワンウェイクラッチF−1が配置されている。減速プラネタリギヤG1は、そのサンギヤS1を変速機ケース10に固定され、リングギヤR1を入力軸11に連結され、キャリアC1をC1クラッチを介してプラネタリギヤユニットGの小径のサンギヤS3に連結され、かつC3クラッチを介してプラネタリギヤユニットGの大径のサンギヤS2に連結されている。
【0024】
このように構成された遊星歯車変速装置1の上記各クラッチ及びブレーキは、周知のように、それぞれ摩擦材とそれらを係合・解放操作するピストン・シリンダ機構からなる油圧サーボを備えており、電子制御装置と油圧制御装置とによる制御で、運転者により選択されたレンジに応じた変速段の範囲で車両負荷に基づき、変速機ケース10に付設した油圧制御装置による各油圧サーボに対する油圧の給排で摩擦材が係合・解放されて変速が行われる。図2は遊星歯車変速装置1中の各クラッチ及びブレーキ並びにワンウェイクラッチの作動とそれにより達成される変速段との関係を図表化して示す。図において○印は係合、△印はエンジンブレーキ達成のための係合を表す。
【0025】
このギヤトレインの各変速段での各変速要素の作動を図3に速度線図で示す。速度線図において、縦軸は、図の左側から順に、それぞれ減速プラネタリギヤG1のサンギヤS1、キャリアC1、リングギヤR1、プラネタリギヤユニットGの大径サンギヤS2、キャリアC2、リングギヤR2、小径サンギヤS3を示し、縦軸間の幅は、関連する要素間のギヤ比に従って配分されており、縦軸方向の位置は、歯車変速装置1への入力回転を1としたときの回転速度比、それらの値の正負は回転方向を示す。また、●印はそれらの直近に付記する摩擦要素による係合を示す。更に、出力要素を構成するリングギヤR2の速度比を示す○印の直近に変速段を付記する。
【0026】
例えば、第3速(3rd)は、プラネタリギヤユニットGへの2つの減速回転の入力により達成される。この場合、C1クラッチとC3クラッチの同時係合により、入力軸11からサンギヤS1固定の減速プラネタリギヤG1のリングギヤR1に入力された速度比1の回転が、減速プラネタリギヤG1で減速されて、キャリアC1からC1クラッチとC3クラッチ経由で同時に大径サンギヤS2と小径サンギヤS3に入力され、プラネタリギヤユニットGが直結状態となるため、両サンギヤへの入力回転と同速のリングギヤR2の回転が、入力軸11の回転に対しては減速された回転として、出力軸19に出力される。この状態が、速度線図上では、小径サンギヤS3のC1クラッチ係合による減速プラネタリギヤG1の減速比に従う速度比と、大径サンギヤS2のC3クラッチ係合による減速プラネタリギヤG1の減速比に従う速度比の点を結ぶ直線がリングギヤR2を示す縦軸と交わる交点の速度比、すなわち第3速(3rd)ギヤ比の回転となる。
【0027】
これに対して、第4速(4th)は、プラネタリギヤユニットGへの減速回転と、非減速回転の入力により達成される。この場合、C1クラッチの係合により小径サンギヤS3に、先述の減速回転が入力されると共に、C2クラッチが係合することで、入力軸11からの非減速回転がキャリアC2に入力される。したがって、この場合にリングギヤR2から減速回転が出力軸19に出力される。このときの減速比は、速度線図上で、小径サンギヤS3のC1クラッチ係合による減速プラネタリギヤG1の減速比に従う速度比と、キャリアC2のC2クラッチ係合による非減速の速度比1の点を結ぶ直線がリングギヤR2を示す縦軸と交わる交点の速度比、すなわち第4速(4th)ギヤ比の回転となる。
【0028】
また、第5速(5th)は、プラネタリギヤユニットGへの減速回転と、非減速回転の入力により達成される。この場合、C2クラッチの係合により入力軸11からの非減速回転がキャリアC2に入力されると共に、C3クラッチの係合により減速プラネタリギヤG1で減速された回転が大径サンギヤS2に入力され、リングギヤR2の増速回転が出力軸19に出力される。このときの減速比は、速度線図上で、キャリアC2のC2クラッチ係合による非減速回転の速度比1と、大径サンギヤS2のC3クラッチ係合による減速回転の速度比の点を結ぶ直線がリングギヤR2を示す縦軸と交わる交点の速度比、すなわち第5速(5th)ギヤ比の回転となる。
【0029】
そして、最高速段である第6速(6th)は、プラネタリギヤユニットGへの非減速回転の入力により達成される。この場合、C2クラッチの係合によるキャリアC2への非減速回転の入力に対して、B1ブレーキの係合により大径サンギヤS2を固定することで、リングギヤR3が増速回転し、この回転が出力軸19に出力される。この状態が、速度線図上では、キャリアC2のC2クラッチ係合による非減速回転の速度比1と、大径サンギヤS2のB1ブレーキ係合による減速比0の点を結ぶ直線がリングギヤR2を示す縦軸と交わる交点の速度比、すなわち第6速(6th)ギヤ比の回転となる。
【0030】
他の変速段についても、摩擦要素の係合と、それによるプラネタリギヤユニットG及びプラネタリギヤG1の各要素の相互連結又は係止による入力回転に対する出力回転の関係で、同様に達成されるが、この詳細については、速度線図の参照をもって説明に代える。
【0031】
このギヤトレインでは、図2の作動図表を参照して、第1速〜第3速においては、C2クラッチが解放状態とされるのに対して、第4速〜第6速において、C2クラッチが係合される。この状態では、図3の速度線図に端的に示すように、プラネタリギヤユニットGにおけるキャリアC2の速度比が1となり、入力軸11との相対回転がなくなる。
【0032】
図4は前記のようなギヤトレインのプラネタリギヤユニットGとC2クラッチの中間部分の断面を示す。図にみるように、この部分に、内外径位置関係にあって径方向に重なり、相対回転可能な内径側軸状部材と外径側軸状部材として、動力伝達軸を構成する入力軸11と、その外周に嵌り、キャリアC2の支持部材を構成するブッシュ12が配置されている。内径側軸状部材を構成する入力軸11には、外周に開口する複数(図にはそれらの1つだけが示されている)の油孔11aが形成され、外径側軸状部材を構成するブッシュ12には、内周に開口する複数(図にはそれらの1つだけが示されている)の油孔12aが形成されている。これらの油孔11a,12aは、入力軸11とブッシュ12の相対回転により、適宜位置で連通して、潤滑油を両油孔11a,12aを通して流す自動変速機の潤滑装置を構成している。本形態において、前記相対回転は、先の変速段の達成の説明から明らかなように、第1速〜第3速達成時に生じる。この場合の入力軸11の回転速度比は1、ブッシュ12の回転速度比は、ブッシュ12を介して入力軸11に支持される変速要素としてのキャリアC2の回転に連れ回りするとして、第1速時の0〜第3速時の減速速度比の間の速度比となる。
【0033】
本発明の特徴に従い、入力軸11の油孔11aの開口とブッシュ12の油孔12aの開口は、両軸状部材11,12の相対回転停止時(C2クラッチが係合する第4〜6速時)に、少なくとも1つずつが相互に連通する位置関係に配置されている。なお、動力伝達軸11の油孔11aは、動力伝達軸の中心部に軸方向に延びる潤滑油用油路に連通すると共に外周に開口する径方向に延びる複数の油孔であり、かつ径方向に亘って同一径からなる。ブッシュ12の油孔12aは、径方向に貫通して形成された複数の油孔であり、動力伝達軸の油孔11aの外周開口とブッシュ12の油孔12aの内周開口とは互に対接している。
【0034】
次に示す図5は、図4の油孔位置の軸横断方向断面を、在来の手法で設定した油孔配置(図の左側に示す)と、本発明の適用に係る配置(図の右側に示す)との比較で示す。この形態では、入力軸11の油孔11aの開口は、軸周方向に不等ピッチで開口する偶数個の開口であり、ブッシュ12の各油孔12aの開口は、軸周方向に等ピッチで開口する偶数個の開口である。更に詳しくは,入力軸11の油孔11aの開口は、周方向ピッチを円周角で135度と225度とする2つの開口であり、ブッシュ12の油孔12aの開口は、周方向ピッチに対して実質上半分の周方向長さを持つ4つの開口であり、この場合、各油孔12aの周方向長さは、円周角で44度、油孔間の長さは、円周角で46度とされている。
【0035】
在来の設定手法による設定では、入力軸11の一方の油孔11aが、その外周のブッシュ12の油孔12a間で塞がれたときに、他方の油孔11aも必ず塞がれて、油孔11aと油孔12aとの間の閉鎖状態が生じるのに対して、前記のような本発明に手法に従う構成を採ることで、双方の開口寸法を全く同じとして、入力軸11とブッシュ12の油孔の関係が、入力軸11側の一方の油孔11aの開口が、ブッシュ12により塞がれた状態で相対回転が無くなった場合でも、他方の油孔11aは必ずブッシュ12側の油孔12aの開口に連通した状態となるため、C2クラッチの係合による相対回転無しの状態における潤滑油の流動が確保される。
【0036】
こうしてブッシュ12の油孔12aから遠心力で径方向外側に放出される油は、先の図4を参照して、本形態では、内径側軸状部材が動力伝達軸としての入力軸11であり、外径側軸状部材は、入力軸11の外周に嵌められ、高速段達成時に入力軸11に連結されるキャリアC2を支持するブッシュ12であり、ブッシュ12の油孔12aは、ブッシュ12を径方向に貫通し、キャリアC2に支持されたピニオンシャフト14,15の軸端の径方向内側に開口する油孔であることから、C2クラッチハブ13から径方向内側にキャリアC2の軸周まで延ばされたガイド13aにより、キャリアC2のピニオンギヤP2をベアリングを介して支持するピニオンシャフト14と、同様にピニオンギヤP5をベアリングを介して支持するピニオンシャフト15端部まで導かれ、それぞれのピニオンシャフト14,15の軸内油路14a,15aを経て各ピニオンギヤP2,P3の支持ベアリングに供給される。
【0037】
上記の形態は、入力軸11側の油孔11aを在来の設定手法に対して変更したものであるが、逆にブッシュ12側の油孔12aの変更により同様の目的を達成することもできる。最後に示す図6は、こうした第2実施形態を示す、先の図5と同様の部分の断面図である。
【0038】
この形態では、入力軸11の油孔11aの開口は、軸周方向に等ピッチで開口する偶数個の開口であり、ブッシュ12の油孔12aの開口は、軸周方向に等ピッチで開口する奇数個の開口である。更に詳しくは,入力軸11の油孔11aの開口は、2つの開口であり、ブッシュ12の油孔12aの開口は、周方向ピッチに対して実質上半分の周方向長さを持つ3つの開口であり、この場合の各油孔12aの周方向長さは円周角で60度、油孔間の長さは円周角で60度とされている。
【0039】
この場合も、在来の設定手法による設定では、入力軸11の一方の油孔11aが、その外周のブッシュ12の油孔12a間で塞がれたときに、他方の油孔11aも必ず塞がれて、油孔11aと油孔12aとの間の閉鎖状態が生じるのに対して、本発明に手法に従う構成を採ることで、入力軸11とブッシュ12の油孔の関係が、入力軸11側の一方の油孔11aの開口が、ブッシュ12により塞がれた状態で相対回転が無くなった場合でも、他方の油孔11aは必ずブッシュ12側の開口12aに連通した状態となるため、C2クラッチの係合による相対回転無しの状態における潤滑が確保される。
【0040】
以上、本発明を実施形態を挙げて詳説したが、本発明の思想は例示の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の事項に基づく種々の具体的構成の変更を包含するものである。例えば、内径側軸状部材は、入力軸に限らず中間軸や出力軸とすることができるし、外径側軸状部材も、ブッシュのような支持部材に限らず、二重軸や多重軸における他の軸に対する外側の軸や、サンギヤ、キャリア、リングギヤ等の変速に関わる回転要素自体とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の適用に係る実施形態の自動変速機のギヤトレインを示すスケルトン図である。
【図2】ギヤトレインの作動を示す係合図表である。
【図3】ギヤトレインの作動を示す速度線図である。
【図4】ギヤトレインの詳細な構造を示す軸方向部分断面図である。
【図5】第1実施形態の潤滑油路の連通関係を示す軸横断方向断面図である。
【図6】第2実施形態の潤滑油路の連通関係を示す軸横断方向断面図である。
【符号の説明】
11 入力軸(内径側軸状部材、動力伝達軸)
11a 油孔
12 ブッシュ(外径側軸状部材、支持部材)
12a 油孔
14,15 ピニオンシャフト
C−2 C2クラッチ
C3 キャリア

Claims (4)

  1. 中心部に軸方向に延びる潤滑油用油路を有する動力伝達軸と、該動力伝達軸にクラッチを介してつながる変速要素と、を備え、前記動力伝達軸を内径側とし、前記変速要素を外径側として、該変速要素と一体に回転するブッシュを介して径方向に重なるように支持し、
    前記動力伝達軸に、前記潤滑油用油路に連通すると共に外周に開口する径方向に延びる複数の油孔と、前記ブッシュに、径方向に貫通して形成された複数の油孔と、を備え、前記動力伝達軸の油孔と前記ブッシュの油孔とが軸方向に同じ位置に配置されて、前記動力伝達軸の潤滑油用油路の潤滑油が、前記動力伝達軸及び前記ブッシュの油孔を介して前記変速要素の油路に導かれてなる、自動変速機の潤滑装置において、
    前記動力伝達軸の油孔は、径方向に亘って同一径であると共にその外周の開口が前記ブッシュの油孔の内周の開口と対接して配置され、
    前記動力伝達軸の油孔の外周の開口と前記ブッシュの油孔の内周の開口は、前記クラッチの接続による前記動力伝達軸と前記変速要素との相対回転停止時に、少なくとも1つずつが相互に連通する位置関係に配置されたことを特徴とする
    自動変速機の潤滑装置。
  2. 前記動力伝達軸の複数の油孔は、周方向ピッチが135度隔てて配置された2個の油孔を有し、
    前記ブッシュの油孔は、その開口が周方向ピッチに対して実質上半分の周方向長さを有しかつ等ピッチで配置された4つの油孔である、
    請求項1記載の自動変速機の潤滑装置。
  3. 前記動力伝達軸の油孔は、周方向ピッチが180度隔てて配置された2個の油孔であり、
    前記ブッシュの油孔は、その開口が周方向ピッチに対して実質上半分の周方向長さを有しかつ等ピッチで配置された3つの油孔である、
    請求項1記載の自動変速機の潤滑装置。
  4. 前記変速要素は、キャリヤであり、高速段達成時に前記クラッチが接続してなる、
    請求項1ないし3のいずれか記載の自動変速機の潤滑装置。
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