JP4117720B2 - 記録体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は記録体及び画像形成方法に関し、詳しくは、表面記録層に液体付着性領域と液体反撥性領域とが形成され、これに記録剤(例えば液体インクのように溶液又は分散液の状態で用いる)を供給して画像を形成し、これを普通紙等へ転写して画像を得るのに適した記録体及び画像形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、コンピュータ上で組み版したデータをそのまま版に書きこむCTP版が注目されている。CTP版として、湿し水を用いない水なし版は、特別な印刷技術を持たないユーザでも使えこなせるため、次世代CTP版のひとつの候補となっている。従来、特開平7−314934号公報に示すごとく、水なしCTP版材として、最表層をシリコーン樹脂のコーティング層で形成したものが提案されている。この技術は、油性インクに対して優れた離型性を示すシリコーン樹脂を用い、画像部をレーザによるアブレーションにより機械的にシリコーン樹脂被膜を破壊・除去する方式である。ところが、この方法は、簡便である反面、シリコーン樹脂のカス(デブリ)が発生し、これを版上から除去するための洗浄手段が必要となる問題点がある。
【0003】
一方、本発明者らは、特開平3−178478号公報において、書き込み前後で何らの現像処理やデブリ処理等のプロセスを必要としない版(記録体)を提案した。更に、この記録体の改良として、本発明者らは、地肌汚れをしにくくする目的で、吸油性バインダー樹脂を記録層に含有した記録体を提案した(特願平11−102405号)。しかし、単に吸油性バインダー樹脂を含有しただけでは、地肌がインクに汚れにくくなる半面、画像部にインクが付着しにくくなる問題点があることがわかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、インクに対して地汚れしにくく、且つ、画像部へのインク付着性が良好に保たれる記録体、及び該記録体を用いる画像形成方法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、上記課題は下記(1)〜(9)によって達成される。
(1)記録層に、液体と接触した状態で加熱・冷却すると液体との後退接触角が低下し、空気中で加熱すると後退接触角の値が回復する性質を有する部材と、ポリオルガノシロキサン構造を有する部材とを独立分散した状態で含有したことを特徴とする記録体。
【0006】
(2)記録層に、液体と接触した状態で加熱・冷却すると液体との後退接触角が低下し、空気中で加熱すると後退接触角の値が回復する性質を有する部材と、ポリオルガノシロキサン構造を有する部材とを独立分散した状態で含有し、且つ、これら部材を固定するバインダー樹脂を含有したことを特徴とする記録体。
【0007】
(3)記録層に、液体と接触した状態で加熱・冷却すると液体との後退接触角が低下し、空気中で加熱すると後退接触角の値が回復する性質を有する部材と、ポリオルガノシロキサン構造を有する部材とを独立分散した状態で含有し、且つ、これら部材を固定する耐油性弾性バインダー樹脂を含有したことを特徴とする記録体。
【0008】
(4)記録層に、液体と接触した状態で加熱・冷却すると液体との後退接触角が低下し、空気中で加熱すると後退接触角の値が回復する性質を有する部材と、ポリオルガノシロキサン構造を有するオイル状部材とを分散した状態で含有してなり、該オイル状部材は未架橋のオルガノシロキサンが記録層中に分散した後に架橋されたことを特徴とする記録体。
【0009】
(5)記録層に、液体と接触した状態で加熱・冷却すると液体との後退接触角が低下し、空気中で加熱すると後退接触角の値が回復する性質を有する部材と、ポリオルガノシロキサン構造を有する部材とを分散した状態で含有してなり、該ポリオルガノシロキサン構造を有する部材は予め架橋したポリオルガノシロキサン構造を有する微粒子状部材が記録層中に分散した後に微粒子どうしが架橋されたことを特徴とする記録体。
【0010】
(6)上記(1)〜(5)のいずれかの記載の記録体において、前記部材の固形分重量比率が4/6〜6/4であることを特徴とする記録体。
(7)基体上に、液体と接触した状態で加熱・冷却すると液体との後退接触角が低下し、空気中で加熱すると後退接触角の値が回復する性質を有する部材と、ポリオルガノシロキサン構造を有する部材とを独立分散した状態で含有する記録層を設けた記録体を用い、該記録体の記録層を液体と接触した状態で加熱し、冷却して該記録層全面をインク付着性状態とし、全面がインク付着性状態となった記録層に、空気中で非画像部にあたる箇所を加熱して潜像を形成し、次いで、該記録層の画像部にインクを供給して画像を得ることを特徴とする画像形成方法。
(8)上記(7)記載の画像形成方法において、前記接触液体の粘度が10Pa・s〜300Pa・sであることを特徴とする画像形成方法。
(9)請求項7記載の画像形成方法において、前記液体と接触した状態で加熱・冷却すると液体との後退接触角が低下し、空気中で加熱すると後退接触角の値が回復する性質を有する部材と、前記ポリオルガノシロキサン構造を有する部材との固形分重量比率が4/6〜6/4であることを特徴とする画像形成方法。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
上記のように、本発明は、記録層に、液体と接触した状態で加熱・冷却すると液体との後退接触角が低下し、空気中で加熱すると後退接触角の値が回復する性質を有する部材(以後、F材と記す)とポリオルガノシロキサン構造を有する部材(以後、S材と記す)とを独立分散した状態で含有したことを特徴とする記録体である。図1(a)に記録体断面の概念図を示す。図1(b)はF材とS材とが独立分散した状態にあることを示す。インクが選択的に付着する機能は、このF材の性質を利用する。インクに対する離型性は、S材の性質を利用する。図2(a)に示す如く、画像部においてはF材の液体(インクを含めて)に対する後退接触角が低いため、インクはF材に付着する。一方、図2(b)に示すごとく、地肌では、F材の液体(インクを含めて)に対する後退接触角が高いため、F材上でインクは弾き付着しない。さらに、S材は、ポリオルガノシロキサン構造を含有しているため、所謂WFBL理論に基づき、インクの極薄層のインクオイル層をS材表面に形成するため、インクが直接S材に接触しないため極めて強いインク離型性を示す。この結果、従来のF材のみの記録体に比べて、地肌に対してインク離型性が増加し、地汚れを発生しにくくする。
【0012】
ところで、記録層にF材とインク離型性部材を含有すると、一般には、画像部では、後退接触角が低下しインク付着性を示すF材とインク離型性を示す部材とのバランスによりインク付着性能が決まる。F材の割合が多ければインク付着性が増加し、少なければインクは付着しなくなる。逆に、地肌では、インク離型性部材の割合が少なくなるとF材単独と性能が変わらない程度のインク離型性しか持たなくなる。即ち、地肌汚れの低減と画像部へのインク付着性は相反する。本発明者らはこの相反する性質を克服するために鋭意検討した結果、インク離型性部材としてS材を用いることで、画像部のインク付着性を損なうことなく、地肌汚れに強い記録体と成りうることを発見した。しかも、両者の部材(F材、S材)は独立した形で記録層中に分散していることが望ましいことも分かった。
【0013】
F材は液体と接触した状態で加熱・冷却すると液体との後退接触角が低下し、空気中で加熱すると後退接触角の値が回復する性質を有する部材であり、具体的には、(i)疎水基の表面自己配向機能をもつ有機化合物、又は(ii)疎水基を有する有機化合物であって疎水基が表面に配向されたものである。
【0014】
(i)にいう「表面自己配向機能」とは、ある化合物を支持体上に形成した固体又は或る化合物自体による固体を空気中で加熱すると、表面において疎水基が空気側(自由表面側)に向いて配合する性質があることを意味する。このことは(ii)においても同様にいえる。一般に、有機化合物では疎水基は疎水性雰囲気側へ向きやすい現象をもっている。これは、固−気界面の界面エネルギーが低くなるように配向する現象である。この現象は疎水基の分子長が長くなるほどその傾向が強くなるが、これは分子長が長くなると加熱による分子の運動性が上がるためである。
【0015】
更に具体的には、末端に疎水基を有する(即ち表面エネルギーを低くする)分子であると、疎水基は空気側(自由表面側)を向いて表面配向しやすい。同様に−(CH2)n−(nは12以上の整数)を含む直鎖状分子では−(CH2)n−の部分が結晶性を有するため分子鎖どうしが配向しやすい。また、フェニル基を含む分子もフェニル基の部分が平面構造であり、分子鎖どうしが配向しやすい。さらに、弗素などの電気陰性度の高い元素を含む直鎖状分子は自己凝集性が高く、分子鎖どうしが配向しやすい。
【0016】
これらの検討結果をまとめると、より好ましくは、自己凝集性の高い分子や平面構造をもつ分子を含み、かつ、末端に疎水基を有する直鎖状分子、或いは、そうした直鎖状分子を含む化合物は表面自己配向機能が高い化合物といえる。
【0017】
これまでの記述から明らかなように、表面自己配向機能と後退接触角とは関連があり、また、後退接触角と液体付着性との間にも関係がある。即ち、固体表面での液体の付着は、主に液体の固体表面でのタッキングによって生じる。このタッキングはいわば液体が固体表面を滑べる時の一種の摩擦力とみなすことができる。従って、本発明でいう“後退接触角”θrは、前記摩擦力をγfとすると、下記の関係式が成立つ(斉藤、北崎ら「日本接着協会誌」Vol.22、No.12,No.1986号)。
【数1】
cosθr=(γ/γlV)・(γs-γsl-πe+γf)
(但し、γ :真空中の固体の表面張力
γsl:固-液界面張力
γlV:液体がその飽和蒸気と接しているときの表面張力
πe:平衡表面張力
γf:摩擦張力
γs:吸着層のない固体の表面張力、である)
【0018】
従って、θrの値が低くなるときγf値は大きくなる。即ち、液体は固体面を滑べりにくくなり、その結果、液体は固体面に付着するようになる。
【0019】
これら相互の関連から推察しうるように、液体付着性は後退接触角θrがどの程度であるかに左右され、その後退接触角θrは表面自己配向機能を表面に有する部材の何如により定められる。本発明の印刷用版材は、その表面に所望パターン領域の形成及び/又は記録剤による顕像化の必要から、必然的に、表面自己配向機能を表面に有する部材が選択される。
【0020】
本発明の表面層は「加熱状態で液体と接触させたときに後退接触角θrが低下し、空気中で再加熱すると後退接触角θrが回復する性質を有する材料を含む層」であるが、ここでの「液体」は、当初から液体であるものの他、蒸気あるいは後退接触角θrの低下開始温度以下で結果的に液体を生じさせる固体であってもよい。ここで蒸気とは、印刷用版材の表面又は表面近傍で、少なくともその一部が凝縮して液体を生じ、その液体が印刷用版材の表面を濡らすものであれば充分である。一方、ここでの固体は、後退接触角θrの低下開始温度以下で液体か、液体を発生させるか、又は、蒸気を発生させるものである。固体から発生した蒸気は印刷用版材の表面又はその近傍で凝縮して液体を生じる。
【0021】
液体としては、水の他に、電解質を含む水溶液;エタノール、n−ブタノール等のアルコール;グリセリン、エチレングリコール等の多価アルコール;メチルエチルケトン等のケトン類のごとき有極性液体や、n−ノナン、n−オクタン等の直鎖状炭化水素;シクロヘキサン等の環式状炭化水素;m−キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素のごとき無極性液体が好ましい。特に有極性液体が好ましい。これらは混合体でもよく、各種分散液や液状インクも使用できる。
【0022】
結果的に液体を生じさせる蒸気としては、水蒸気の外に、接触材料の液体の蒸気が使用できるが、特にエタノールやm−キシレンなどの有機化合物の蒸気(噴霧状態を含む)が好ましい。この有機化合物の蒸気の温度は印刷用版材の表面を形成する化合物の融点或いは軟化点以下である。
【0023】
結果的に液体を生じさせる固体としては、高級脂肪酸、低分子量ポリエチレン、高分子ゲル(ポリアクリルアミドゲル、ポリビニルアルコールゲル)、シリカゲル、結晶水を含んだ化合物などがあげられる。
【0024】
上記表面層を形成する材料は、例えば特開平3−178478号等に記載されており、それ自体は公知である。従って、本発明の表面層においては、これら公知の材料のうち、疎水性性基を有する疎水性重合体を含む材料から形成される層であるのが好ましい。該疎水性重合体は、骨格を形成する主鎖と該主鎖から枝分れする側鎖からなるのが好ましく、側鎖中に疎水性基が存在するのが好ましい。また該疎水性基と主鎖とは直接または結合基を介して結合しているのが好ましい。
【0025】
疎水性基としては、末端構造が−CF2CH3、−CF2CF3、−CF(CF3)2、−C(CF3)3、−CF2H、−CFH2等である基が挙げられる。また、疎水性基としては、結晶融点を有するものが好ましいことから、炭素鎖長の長い基が好ましく、炭素数4以上のものがより好ましい。疎水性基としては、アルキル基の水素原子の2個以上がフッ素原子に置換されたポリフルオロアルキル基(以下、Rf基と記す。)が好ましく、特に炭素数4〜20のRf基が好ましく、とりわけ、炭素数6〜12のRf基が好ましい。Rf基は直鎖構造であっても分岐構造であってもよいが、直鎖構造の方が好ましい。
【0026】
さらに疎水性基は、アルキル基の水素原子の実質的に全てがフッ素原子に置換されたパーフルオロアルキル基が好ましい。パーフルオロアルキル基はCnF2n+1−(ただし、nは4〜16の整数。)で表わされる基が好ましく、特にnが6〜12の整数である場合の該基が好ましい。パーフルオロアルキル基は直鎖構造であっても分岐構造であってもよく、直鎖構造が好ましい。
【0027】
Rf基の具体例としては、以下の基が挙げられる。
C4F9−(CF3(CF2)3−、(CF3)2CFCF2−、(CF3)3C−、およびCF3CF2CF(CF3)−等の構造異性の基のいずれであってもよい)、
C5F11−(たとえば、CF3(CF2)4−等)、
C6F13−(たとえば、CF3(CF2)5−等)、
C7F15−(たとえば、CF3(CF2)6−等)、
C8F17−(たとえば、CF3(CF2)7−等)、
C9F19−(たとえば、CF3(CF2)8−等)、
C10F21−(たとえば、CF3(CF2)9−等)、
CHF2(CF2)m−(ここで、mは1〜15の整数)。
【0028】
表面層としては、疎水性基としてのRf基を有する重合体を含む層であるのが好ましい。Rf基を有する重合体としては、Rf基含有(メタ)アクリレートの重合単位を含む重合体が好ましい。Rf基含有(メタ)アクリレートとは、アクリル酸またはメタクリル酸のアルコール残基中にRf基を含む化合物をいう。なお、本明細書においては、アクリレートとメタクリレートとを総称して(メタ)アクリレートと記す。
【0029】
Rf基含有(メタ)アクリレートの重合単位を含む重合体においてRf基含有(メタ)アクリレートの重合単位は、1種であっても2種以上であってもよい。2種以上である場合には、Rf基の炭素数の異なるRf基含有(メタ)アクリレートを2種以上であるのが好ましい。
Rf基含有(メタ)アクリレートの重合単位を含む重合体は、Rf基含有(メタ)アクリレートの単独重合体、またはRf基含有(メタ)アクリレートの重合単位とRf基含有(メタ)アクリレート以外の重合性単量体(以下、Rf基含有(メタ)アクリレート以外の重合性単量体をコモノマーという。)とを共重合させた共重合体が好ましい。該コモノマーにより、重合体中のフッ素含有量を調節したり、性能を調節することができる。コモノマーは、ラジカル重合性の不飽和結合基を有する化合物が好ましく、1種または2種以上を用いうる。
【0030】
上記のコモノマーとしては、塩化ビニル、ステアリル(メタ)アクリレートをはじめとして、エチレン、酢酸ビニル、フッ化ビニル、ハロゲン化スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、(メタ)アクリル酸とそのアルキルエステル、ポリ(オキシアルキレン)(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、メチロール化(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、アルキルビニルエーテル、(ハロゲン化アルキル)ビニルエーテル、アルキルビニルケトン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、グリシジル(メタ)アクリレート、アジリジニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソシアナートエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、無水マレイン酸、ポリジメチルシロキサン部分を有する(メタ)アクリレート、N−ビニルカルバゾール等が挙げられる。コモノマーとしては、塩化ビニル、ステアリルアクリレートが好ましい。コモノマー量は共重合本中に20〜80重量%が好ましい。
【0031】
これらのF材については特開平3−178478号公報に記載されている。さらに、好ましいRf基、含有(メタ)アクリレートとしては、下記一般式(1)で表される化合物であり、ここで側鎖のパーフルオロアルキル基中の炭素数が6以上のものが望ましい。
(一般式)
【化1】
【0032】
S材は、下記一般式(2)に記載のごとく、ポリオルガノシロキサン構造を有する部材である。ここで、R1,R2はアルキル基である。また、これらアルキル基の変わりに、フェノール変性、エポキシ変性、アミノ変性した構造でもよい。(一般式2)
【化2】
【0033】
これらのF材及びS材は、おのおの独立に分散していることが望ましく、それぞれのドメインの大きさは、1μm〜5μm程度が望ましい。1μmよりも小さい場合、画像部において、F材にインクが付着しにくくなり、5μm以上では、地肌でのインク離型性が落ちてしまう。
【0034】
上記の記録層は一般にフィルム基板上に形成される。
本発明におけるフィルム基板としては、公知の合成樹脂フィルムが挙げられる。合成樹脂フィルムとしては、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、セロハンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、芳香族ポリアミドフィルム、ポリスルホンフィルム、およびポリオレフィンフィルム等が挙げられる。これらのうち、機械的特性、熱的特性、または価格などの理由から、ポリエステルフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルムが好ましく、特にポリエステルフィルムが好ましい。
【0035】
上記の「ポリエステルフィルム」は、エステル結合を主鎖の主要な結合鎖とするポリエステルのフィルムを総称している。
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン2,6−ナフタレート、ポリエチレンα,β−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン4,4’−ジカルボキシレート、ポリブチレンテレフタレート等が挙げられ、品質および経済性等から、特にポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0036】
フィルム基板表面はそのままであってもよいが、本発明においては、該表面を粗面化しておくのが好ましい。粗面化の方法としては、特に限定されず、たとえば、サンドブラストによりフィルム面を削るサンドマット加工や、あらかじめフィルムに微粒子を混ぜるダイレクトマット加工や、フィルム面に微粒子を混ぜた樹脂層をコートするコーティングマット加工のいずれでもよい。フィルム基板の形状は、ベルト状、板状、ドラム状のいずれでもよく、装置の使用用途に応じて選定する。
フィルム基板の厚さは10〜200μmが好ましく、特にコスト面から、20〜100μmが好ましい。
【0037】
この記録体による画像の形成方法を図3(a)及び(b)に示す。
図3(a)は、予め、記録層全面を液体に接触した状態で加熱し、記録層全面をインク付着性状態とする。その後。画像書き込み時に、非画像部(地肌部)のみ空気中で加熱し、潜像を形成する。その後、インクの付着したインキングローラにて画像部にインクを付着させ、紙に転写する。
一方、図3(b)は、最初の状態がインク離型性のままで、液体に接触した状態で画像部のみ選択的に加熱する。これにより画像部はインク付着性を示し、画像形成が可能となる。
【0038】
加熱源としては、サーマルヘッドのごとき接触加熱体やレーザのごとき非接触加熱源が望ましい。インクとしては、S材としてのポリオルガノシロキサンに対して優れた離型性を示す油性インクが望ましい。画像記録装置としては、オフセット印刷機や凸版印刷機のごとく、高粘度インクを用いた印字が可能な装置が望ましい。インクの粘度は、10Pa・s〜300Pa・s程度が望ましい。
【0039】
ところで、上記(1)の発明ではS材はインキング時にインクの溶剤を吸収するため若干の膨張を示す。このため、記録層被膜が柔らかくなり、擦り等の機械的影響により皮膜が破壊される恐れがある。これを防ぐために被膜強度を補強する必要がある。そこで、本発明は上記(2)の発明のように、記録層に、部材Fと部材Sとを独立分散した状態で含有し、且つ、これら部材Fと部材Sを固定するバインダー樹脂を含有させることが好ましい。
【0040】
図4にその具体例を示す。2つの部材は独立して分散し、その間をバインダー樹脂が覆っている。F材およびS材の二つの部材を固定するバインダー樹脂は、コート液に対して溶解性を示すものが望ましい。これは、2つの部材が独立して分散している状態で両者の間をつなげつためにはバインダーがコート液中で分散状態ではつなぎの効率がわるく、溶解することで繊維が絡まるごとく両者を覆い隠すことが望まれるためである。従って、コ−ト液溶媒が水ベースである場合、固定用のバインダー樹脂は水溶性樹脂が望ましい。バインダー樹脂の例としては、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンやポリビニルブチラールやポリアクリルアミドなどが望ましい。また、記録体は画像書き込み処理時に液体と接触するが、記録層被膜としてこの液体に対して溶解性がないことが望ましい。従って、コート後、バインダー樹脂は架橋させておく方がより望ましい。
【0041】
また、F材とS材の固定化のためのバインダー樹脂が耐油性弾性を示すとS材の膨張に伴う被膜への内部応力増加を緩和できる。そこで、上記(3)の発明のように、記録層に、部材Fと部材Sとを独立分散した状態で含有し、且つ、これら部材F、部材Sを固定する耐油性弾性バインダー樹脂を含有させることが好ましい。バインダー樹脂が耐油性を有すると油性インクと接しても膨潤することがない。また、弾性を有しているとS材の膨張に伴う被膜の内部応力増加を緩和する。ここでいう耐油性とは、10cm×10cm×1mmの部材をインク溶剤中に24時間含浸した後の体積膨張率が10%以下であることを言う。弾性の程度は使用目的、その他本発明の意図する範囲内で任意に規定することができる。耐油性弾性樹脂の具体例としては、インクが油性である場合、ウレタン樹脂等が望ましい。
【0042】
実際に本発明の記録体を作成する際、F材及びS材の形成方法の違いにより両部材の分散状態が変わり、記録層の特性に影響を与える。本発明者は鋭意検討した結果、記録層に、部材Fとポリオルガノシロキサン構造を有するオイル状部材とを分散した状態で含有し、且つ、未架橋のオルガノシロキサンを記録層中に分散した後に架橋したことを特徴とする記録体がよいことを発見した。S材をオイル状とすることで、コート液中では、固形状のF材とオイル状S材がそれぞれ独立して分散し、基板にコート後、溶媒の蒸発した後、固形状F材の回りに隙間なくS材が分散する。その後、S材を架橋させて固形化することで記録層被膜が形成される。図5に被膜形成過程のイメージを図示した。オイル状S材は、O/Wエマルジョンの形態が望ましく、乳化重合や分散重合にて水系でF材を重合した水ベースの溶媒中にS材エマルジョンを混合することでコート液を調整する。
【0043】
記録体の作成の別の方法を述べる。S材において、コート後の熱キュア時間は、S材が固形の方がS材がオイルの場合よりも短縮できる(オイルの場合、架橋反応であるため)。そこで、上記(5)の発明のように、記録層に、部材Fとポリオルガノシロキサン構造を有する部材とを分散した状態で含有し、当該予め架橋したポリオルガノシロキサン構造を有する微粒子を記録層中に分散した後に微粒子どうしを架橋されるのが有利である。
【0044】
上記(1)〜(5)においては、F材とS材の比率が画像部へのインク付着性と地肌のインク離型性の両立を左右する。本発明者が鋭意検討した結果、上記(6)のように、F材とS材との固形分重量比率が4/6〜6/4であることを特徴とする記録体が望ましいことが分かった。上記(7)においては、実質上記(1)の記録体を用いて画像形成を行うので、上記(8)のように、接触液体の粘度が10〜300Pa・sであるのが望ましく、また、上記(9)のように、F材とS材との固形分重量比率が 4/6 〜 6/4 であることを特徴とする記録体の使用が望ましい。
【0045】
【実施例】
次に実施例、比較例をあげて本発明を具体的に説明する。
【0046】
(実施例1)
F材:含フッ素アクリレート重合体の乳化重合液(固形分10wt%)
S材:シリコーン樹脂分散液(東レダウコーニングシリコーン、SE1950、固形分50wt%)
基板:ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み100μm)
F材とS材を固形分比1/1にて混合したコート液を調合し、ワイヤーバー(ワイヤー径0.35mm)にてPETフィルム上にコート(固形分厚み3μm)し、自然乾燥後160℃1分間熱キュアを実施して、記録体を作成した。
【0047】
(比較例1)
F材:含フッ素アクリレート重合体の乳化重合液(固形分10wt%)
基板:ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み100μm)
F材液のみをワイヤーバー(ワイヤー径0.35mm)にてPETフィルム上にコート(固形分厚み3μm)し、自然乾燥後160℃1分間熱キュアを実施して、記録体を作成した。
【0048】
(実施例2)
F材:含フッ素アクリレート重合体の乳化重合液(固形分10wt%)
S材:シリコーン樹脂分散液(東レダウコーニングシリコーンBY244、固形分50wt%)
バインダ樹脂:ポリビニルアルコール(重合度1900、けんか率95%)
基板:ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み100μm)
バインダ樹脂を10wt%水にて溶解した液に、F材液とS材液を固形分比1/1にて混合したコート液を調合し、ワイヤーバー(ワイヤー径0.35mm)にてPETフィルム上にコート(固形分厚み3μm)し、自然乾燥後160℃1分間熱キュアを実施して、記録体を作成した。
【0049】
(比較例2)
F材:含フッ素アクリレート重合体の乳化重合液(固形分10wt%)
基板:ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み100μm)
F材液のみをワイヤーバー(ワイヤー径0.35mm)にてPETフィルム上にコート(固形分厚み3μm)し、自然乾燥後160℃1分間熱キュアを実施して、記録体を作成した。
【0050】
(実施例3)
F材:含フッ素アクリレート重合体の乳化重合液(固形分10wt%)
S材:シリコーン樹脂分散液(東レダウコーニングSE1950、固形分50wt%)
耐油性弾性樹脂:水性ポリウレタン樹脂(固形分5wt%)
基板:ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み100μm)
F材液とS材液とウレタン樹脂液を固形分比1/1/0.5にて混合したコート液を調合し、ワイヤーバー(ワイヤー径0.35mm)にてPETフィルム上にコート(固形分厚み3μm)し、自然乾燥後160℃1分間熱キュアを実施して、記録体を作成した。
【0051】
(比較例3)
F材:含フッ素アクリレート重合体の乳化重合液(固形分10wt%)
基板:ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み100μm)
F材液のみをワイヤーバー(ワイヤー径0.35mm)にてPETフィルム上にコート(固形分厚み3μm)し、自然乾燥後160℃1分間熱キュアを実施して、記録体を作成した。
【0052】
(実施例4)
F材:含フッ素アクリレート重合体の乳化重合液(固形分10wt%)
S材:O/W型シリコーンオイル液(信越化学、X52−195、固形分40wt%)
基板:ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み100μm)
F材とS材を固形分比1/1にて混合したコート液を調合し、ワイヤーバー(ワイヤー径0.35mm)にてPETフィルム上にコート(固形分厚み3μm)し、自然乾燥後160℃1分間熱キュアを実施して、記録体を作成した。
【0053】
(比較例4)
F材:含フッ素アクリレート重合体の乳化重合液(固形分10wt%)
基板:ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み100μm)
F材液のみをワイヤーバー(ワイヤー径0.35mm)にてPETフィルム上にコート(固形分厚み3μm)し、自然乾燥後160℃1分間熱キュアを実施して、記録体を作成した。
【0054】
(実施例5)
F材:含フッ素アクリレート重合体の乳化重合液(固形分10wt%)
S材:シリコーン樹脂分散液(固形分10wt%)
基板:ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み100μm)
F材とS材を固形分比1/1にて混合したコート液を調合し、ワイヤーバー(ワイヤー径0.35mm)にてPETフィルム上にコート(固形分厚み3μm)し、自然乾燥後160℃1分間熱キュアを実施して、記録体を作成した。
【0055】
(比較例5)
F材:含フッ素アクリレート重合体の乳化重合液(固形分10wt%)
基板:ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み100μm)
F材液のみをワイヤーバー(ワイヤー径0.35mm)にてPETフィルム上にコート(固形分厚み3μm)し、自然乾燥後160℃1分間熱キュアを実施して、記録体を作成した。
【0056】
これら実施例1〜5及び比較例1〜5の評価を行った。
[印刷評価]
インク:市販水なし平版インク
印刷機:市販オフセット印刷機
画像書き込み:600dpiサーマルヘッドにて書き込み(図3(b)の書き込み方法にて)
接触液体:水
紙:市販コート紙(王子製紙社製、NPIダルコート)
画像書き込み後の記録体を印刷機の版ドラムに張りつけて印刷評価を実施した。なお、印刷枚数は、実施例1が500枚、実施例2が1000枚、実施例3、4、5が2000枚であり、比較例1、2、3、4及び5は500枚である。実施結果を表1に示す。表1のごとく、実施例1〜5の方が比較例1〜5に比べて地肌汚れに強いことが判る。
【0057】
【表1】
【0058】
(実施例6)
F材:含フッ素アクリレート重合体の乳化重合液(固形分10wt%)
S材:O/W型シリコーンオイル(信越化学、X52−195、固形分40wt%)
バインダー樹脂:ポリビニルアルコール溶解液(固形分10wt%)
基板:ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み100μm)
F材とS材を固形分比7/3から3/7にて混合したコート液を各種調合し、ワイヤーバー(ワイヤー径0.35mm)にてPETフィルム上にコート(固形分厚み3μm)し、自然乾燥後160℃1分間熱キュアを実施して記録体を作成し、評価を行った。
【0059】
[印刷評価]
インク:市販水なし平版インク
印刷機:市販オフセット印刷機
画像書き込み:600dpiサーマルヘッドにて書き込み(図3(b)の書き込み方法にて)
接触液体:水
紙:市販コート紙(王子製紙社製、NPIダルコート)
画像書き込み後の記録体を印刷機の版ドラムに張りつけて印刷評価を実施した。実施結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
表2にみられるように、画像濃度が高く且つ地肌汚れしにくいF材/S材の比率は、固形分比で6/4から4/6が望ましいことが判る。
【0061】
【発明の効果】
請求項1に係る発明によれば、従来よりも地肌汚れにつよくなるため、画像品質が向上する。更に、シリコーンをオイル状とするため、コート時の分散性に優れ、所望の記録体作成の歩留まりが向上する。請求項2に係る発明によれば、請求項1に比べ、記録層被膜の機械的強度が向上するため、耐刷性がよくなる。請求項3に係る発明によれば、請求項1に比べ、油性インクに対する耐油性が向上し、耐刷性が向上する。本発明によれば、シリコーンを固形状微粒子とするため、コート時の分散性が良く、かつ、熱キュア時間が早いため、歩留まり良く、かつ製造時間の短縮が図れる。請求項4に係る発明によれば、F材とS材の最適な配合比を提供するため、画像品質の安定化が図れる。更に、シリコーンをオイル状とするため、コート時の分散性に優れ、所望の記録体作成の歩留まりが向上する。請求項5〜7に係る発明によれば、画像濃度が高く且つ地肌汚れが殆どない画像が得られる。更に、シリコーンをオイル状とするため、コート時の分散性に優れ、所望の記録体作成の歩留まりが向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1(a)は本発明の記録体の断面の概念図であり、図1(b)はこれを紙面上方からみた場合の図である。
【図2】図2(a)及び(b)は記録層にインクが選択的に付着する様子を説明するための図である。
【図3】図3(a)及び(b)は記録体による画像形成が行われる様子を説明するための図である。
【図4】図4(a)は本発明の別の記録体の断面の概念図であり、図4(b)はこれを紙面上方からみた場合の図である。
【図5】図5(a)及び(b)は本発明のさらに別の記録体についてその被膜形成過程のイメージを表わした図である。
Claims (7)
- 記録層に、液体と接触した状態で加熱・冷却すると液体との後退接触角が低下し、空気中で加熱すると後退接触角の値が回復する性質を有する部材と、未架橋のオルガノシロキサン構造を有するオイル状部材とを独立分散した後に、該オイル状部材が架橋されて固形化されてなることを特徴とする記録体。
- 記録層に、液体と接触した状態で加熱・冷却すると液体との後退接触角が低下し、空気中で加熱すると後退接触角の値が回復する性質を有する部材と、未架橋のオルガノシロキサン構造を有するオイル状部材とを独立分散した後に、該オイル状部材が架橋されて固形化されてなり、且つ、これら部材を固定するバインダー樹脂を含有したことを特徴とする記録体。
- 記録層に、液体と接触した状態で加熱・冷却すると液体との後退接触角が低下し、空気中で加熱すると後退接触角の値が回復する性質を有する部材と、未架橋のオルガノシロキサン構造を有するオイル状部材とを独立分散した後に、該オイル状部材が架橋されて固形化されてなり、且つ、これら部材を固定する耐油性弾性バインダー樹脂を含有したことを特徴とする記録体。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の記録体において、前記液体と接触した状態で加熱・冷却すると液体との後退接触角が低下し、空気中で加熱すると後退接触角の値が回復する性質を有する部材と、前記オイル状部材が架橋されてなるポリオルガノシロキサン構造を有する部材との固形分重量比率が4/6〜6/4であることを特徴とする記録体。
- 基体と、前記基体上に、液体と接触した状態で加熱・冷却すると液体との後退接触角が低下し、空気中で加熱すると後退接触角の値が回復する性質を有する部材と、未架橋のオルガノシロキサン構造を有するオイル状部材とを独立分散した後に、該オイル状部材が架橋されて固形化されてなる記録層を設けた記録体を用い、
該記録体の記録層を液体と接触した状態で加熱し、冷却して該記録層全面をインク付着性状態とし、全面がインク付着性状態となった記録層に、空気中で非画像部にあたる箇所を加熱して潜像を形成し、次いで、該記録層の画像部にインクを供給して画像を得ることを特徴とする画像形成方法。 - 請求項5記載の画像形成方法において、前記インクの粘度が10Pa・s〜300Pa・sであることを特徴とする画像形成方法。
- 請求項5記載の画像形成方法において、前記液体と接触した状態で加熱・冷却すると液体との後退接触角が低下し、空気中で加熱すると後退接触角の値が回復する性質を有する部材と、前記オイル状部材が架橋されてなるポリオルガノシロキサン構造を有する部材との固形分重量比率が4/6〜6/4であることを特徴とする画像形成方法。
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