JP4116804B2 - 紫外線遮蔽層形成用樹脂組成物および紫外線遮蔽性積層体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、紫外線吸収性モノマーから得られる樹脂組成物に関し、例えば、プラスチック等の紫外線劣化性樹脂基材にコーティングして、太陽光等の紫外線を吸収して紫外線の侵入を遮断し、紫外線による基材の着色、退色、劣化等を防止する紫外線遮蔽層形成用樹脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
最近、例えば、ポリカーボネートを始めとする樹脂フィルムや樹脂シート、樹脂板のような樹脂成形部材は、透明性、耐熱性、難燃性等に優れていることから、自動車部品、道路建材、建築資材等に広く用いられており、今後もその用途がますます拡大していくことが期待されている。しかしながらそれらの樹脂は、一般に耐候性が不充分であり、特に紫外線に曝されることにより、表面が劣化したり変色するといった問題がある。
【0003】
上記問題を解決するために、プライマー層や表面硬化層等の表層に紫外線吸収剤を含有させ、表層で紫外線を吸収する方法が多数提案されている。これらの方法によれば基材の紫外線による劣化がある程度は抑えられるが、低分子量の紫外線吸収剤では、表層の表面にブリードアウトしてきて雨等に流されてしまうため、長期間に亘る紫外線遮蔽能が望めないという問題があった。
【0004】
こういったことから、最近では、紫外線吸収性基を有するモノマーを用いて、紫外線吸収能を有するポリマーを合成し、これにより紫外線遮蔽層を形成する試みがなされるようになった。高分子量のポリマーの側鎖に紫外線吸収性基を組み込んだため、低分子量紫外線吸収剤のときのようなブリードアウトといった問題は起こらない。ところが、ベンゾトリアゾール環やベンゾフェノン骨格を紫外線吸収性基としてポリマー中に導入した場合、紫外線遮蔽能が次第に低下してしまうという新たな問題が生じていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明では、ベンゾトリアゾール環またはベンゾフェノン骨格を有するモノマーを用いて紫外線遮蔽層形成用のポリマーを合成するに当たり、紫外線遮蔽能を長期間に亘って維持することのできるポリマーを見出し、しかも、紫外線遮蔽層(塗膜)としての性能、すなわち、基材密着性、耐水性、耐アルカリ性、耐屈曲性等にも優れた塗膜を形成することができる樹脂組成物の提供を課題として掲げた。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の紫外線遮蔽層形成用樹脂組成物の第1のタイプは、下式(1)で示されるベンゾトリアゾール系紫外線吸収性モノマーおよび炭素数4以上のアルキル基を有するモノマーを必須的に含むモノマー混合物から合成されるポリマーを含有するところに要旨を有する。
【0007】
【化6】
【0008】
[式中、R1は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、シアノ基またはニトロ基を表し、W1は炭素数3〜12のアルキル基または下式(2)で表される基を示し、
【0009】
【化7】
【0010】
(R2は水素結合を形成し得る基を有する結合であり、R3は水素原子またはメチル基を表す。)
W1が炭素数3〜12のアルキル基の場合には、X1は上記式(2)で表される基を表し、W1が上記式(2)で表される基の場合には、X1は水素原子または炭素数1〜8の炭化水素基を表す。]
【0011】
上記(1)式で示される特定位置に特定の置換基を有するベンゾトリアゾール系モノマーと、塗膜の疎水性を高める炭素数4以上のモノマーを用いてポリマーを合成することで、紫外線遮蔽能の長期間に亘る維持が可能となった。
【0012】
本発明の紫外線遮蔽層形成用樹脂組成物の第2のタイプは、下式(3)で示されるベンゾフェノン系紫外線吸収性モノマーおよび炭素数4以上のアルキル基を有するモノマーを必須的に含むモノマー混合物(II)から合成されるポリマーを含有するところに要旨を有する。
【0013】
【化8】
【0014】
[式中、R4は水素原子または水酸基を表し、R5は水素原子または炭素数1〜6のアルコキシ基を表し、W2は炭素数3〜12のアルキル基または下式(4)で表される基を示し、
【0015】
【化9】
【0016】
(R6は水素結合を形成し得る基を有する結合であり、R7は水素原子またはメチル基を表す。)
W2が炭素数3〜12のアルキル基の場合には、X2は上記式(4)で表される基を表し、W2が上記式(4)で表される基の場合には、X2は水素原子または炭素数1〜8の炭化水素基を表す。]
【0017】
上記(3)式で示される特定位置に特定の置換基を有するベンゾフェノン系モノマーと、塗膜の疎水性を高める炭素数4以上のモノマーを用いてポリマーを合成することによっても、紫外線遮蔽能の長期間に亘る維持が可能となった。
【0018】
炭素数4以上のアルキル基を有するモノマーが、下式(5)で表される(メタ)アクリレートであることは、特に好ましい本発明の実施態様である。上記ベンゾトリアゾール系モノマーおよびベンゾフェノン系モノマーとの共重合性に優れ、塗膜物性も高めることができる。
【0019】
【化10】
【0020】
(式中、R8は水素原子またはメチル基を表し、Yは炭素数が4以上のアルキル基を表す。)
【0021】
ポリマーを合成するに当たり、モノマー混合物(I)および/または(II)がさらに紫外線安定性基を有するモノマーを含むものであることも好ましく、一層高度な紫外線遮蔽能を得ることができる。
【0022】
なお、本発明には、上記本発明の紫外線遮蔽層形成用樹脂組成物から形成された紫外線遮蔽層が紫外線劣化性樹脂基材に積層された紫外線遮蔽性積層体も含まれる。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明者等は、ベンゾトリアゾール系モノマーを用いたポリマーの紫外線遮蔽効果がなぜ経時的に劣化していくかについて検討した。ベンゾトリアゾール系化合物においては、ベンゾトリアゾール環に連結したベンゼン環の2位のヒドロキシル基の水素原子とベンゾトリアゾール環の窒素原子とが分子内水素結合によって一種の環が形成されて、この環部分が光エネルギーを吸収して熱エネルギーに変えることで紫外線吸収能が発揮されると考えられている。ところが、ベンゼン環の2位のヒドロキシル基の水素原子とベンゾトリアゾール環の窒素原子との分子内水素結合の形成が、何らかの要因で阻害されると紫外線吸収能が発揮されなくなる。
【0024】
水素結合阻害要因としては、例えば、ポリイソシアネート系硬化剤(架橋剤)等のヒドロキシル基との反応性を有する物質を樹脂組成物中に含有させたために、ベンゼン環の2位のヒドロキシル基が消費されてしまうこと、あるいはこのヒドロキシル基が金属イオンの存在下で錯体を形成してしまうこと等が考えられた。さらに、ベンゾトリアゾール環自体が光と水の作用によって分解することも見出された。
【0025】
ベンゾフェノン系モノマーの場合も、カルボニル基で連結されている少なくとも一方のベンゼン環には2位にヒドロキシル基があり、カルボニルの酸素原子と水素結合を作って、環を形成する。従って、紫外線吸収能の発揮メカニズムと、ヒドロキシル基の消費による紫外線吸収能の経時低下メカニズムは、ベンゾトリアゾール系モノマーの場合と同じであると考えられた。また、光と水によってベンゾフェノン骨格が分解して紫外線吸収能が低下することも見出された。
【0026】
そこで本発明者等は、2位のヒドロキシル基の消費および紫外線吸収性基の光と水による分解等の作用が総合されて、ベンゾトリアゾール系およびベンゾフェノン系モノマーの紫外線吸収能が経時的に低下すると結論付け、鋭意検討の結果、本発明に想到した。
【0027】
すなわち本発明は、特定位置に特定の置換基を有するベンゾトリアゾール系モノマーと炭素数4以上のアルキル基を有するモノマーを必須的に含むモノマー混合物(I)から紫外線遮蔽能を有するポリマーを合成して、これを含む紫外線遮蔽層形成用樹脂組成物とするか(第1のタイプ)、あるいは特定位置に特定の置換基を有するベンゾフェノン系モノマーと炭素数4以上のアルキル基を有するモノマーを必須的に含むモノマー混合物(II)から紫外線遮蔽能を有するポリマーを合成して、これを含む紫外線遮蔽層形成用樹脂組成物とする(第2のタイプ)ものである。
【0028】
特定位置に特定の置換基を有するベンゾトリアゾール系モノマーおよびベンゾフェノン系モノマーは、ベンゼン環の2位のヒドロキシル基に隣接する3位にW1またはW2という立体障害性の高い嵩高な置換基を有する化合物である。この3位にW1またはW2が存在しているために、2位のヒドロキシル基がヒドロキシル基との反応性のある化合物や金属イオンと結合するのを妨害するため、ヒドロキシル基が消費されることがなくなり、その結果として、2位のヒドロキシル基の水素原子とベンゾトリアゾール環中の窒素原子との環形成、あるいは、2位のヒドロキシル基の水素原子とベンゾフェノン骨格のカルボニル基の酸素原子との環形成による紫外線吸収能が長期間に亘って維持されることとなった。さらに、アルカリ溶液に浸漬したときの着色等も防ぐことができた。
【0029】
また、炭素数4以上のアルキル基を有するモノマーは、塗膜の耐水性を上げるため、光と水とによって分解が促進されると考えられるベンゾトリアゾール環やベンゾフェノン骨格の分解を抑制することができた。以下、本発明をより詳細に説明する。
【0030】
▲1▼ベンゾトリアゾール系紫外線吸収性モノマー(以下(A1)とする。)
本発明で用いられるベンゾトリアゾール系紫外線吸収性モノマー(A1)は、下式(1)によって示される。
【0031】
【化11】
【0032】
(式中、R1、W1、X1は前記と同じ意味である。)
W1は、炭素数3〜12のアルキル基か、下記式(2)で表される基である。
【0033】
【化12】
【0034】
(式中、R2、R3は前記と同じ意味である。)
【0035】
W1は前記したように、ベンゾトリアゾール環に連結するベンゼン環の2位のヒドロキシル基が消費されてしまうのを防ぐ立体障害基として働く。このため3位に位置していなければならない。また、アルキル基であれば、炭素数が多い方が、また分岐している方が好ましい。上記式(2)で表される基は、ラジカル重合性不飽和二重結合を有する(メタ)アクリロイル基と水素結合を形成し得る基を有する部分であり、ポリマー中にベンゾトリアゾール環を導入するために必須の基であるが、これだけで充分嵩高いため、W1がこの基であるときは、さらなる立体障害基はなくてもよく、X1は水素原子でもよい。もちろん、3位以外の位置に、別途炭素数3〜12のアルキル基があっても構わない。
【0036】
炭素数3〜12のアルキル基の具体例としては、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、ヘプチル基、オクチル基、tert−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基の直鎖状または分枝状のアルキル基やシクロヘキシル基等の脂環式アルキル基であり、中でも分岐状のアルキル基が好ましく、特に下式で表されるtert−オクチル基が非常に嵩高く最も好ましい。
【0037】
【化13】
【0038】
W1が前記式(2)で表される基である場合のR2は、水素結合を形成し得る基を有する結合でなければならない。このR2は、合成後のポリマー分子間で水素結合を形成し、塗膜の物性(耐屈曲性、耐水性等)を高める作用を有する。R2の具体例としては、−NH−、−CH2NH−、−OCH2CH(OH)CH2O−、−CH2CH2COOCH2CH(OH)CH2O−等が挙げられる。アミノ基またはヒドロキシル基と反応性のある架橋剤(硬化剤)を樹脂組成物に配合した場合には、R2の中のアミノ基やヒドロキシル基が架橋剤と反応して化学的に結合し、分子間水素結合を形成しないこともあり得るが、化学結合の結果、分子間水素結合を形成したのと同様の塗膜物性向上効果が得られるため、本発明ではこのような態様を排除するものではない。R2の中では、活性水素を有する窒素原子が含まれている−NH−、−CH2NH−が、特に後者が好ましい。
【0039】
ベンゾトリアゾール系モノマー(A1)の好ましい具体例としては、2−[2'−ヒドロキシ−3'−(メタ)アクリロイルアミノフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2'−ヒドロキシ−3'−(メタ)アクリロイルアミノメチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2'−ヒドロキシ−3’−(メタ)アクリロイルアミノ−5’−tert−オクチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2'−ヒドロキシ−3’−(メタ)アクリロイルアミノメチル−5’−tert−オクチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2'−ヒドロキシ−3’−tert−オクチル−5’−(メタ)アクリロイルアミノフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2'−ヒドロキシ−3’−tert−オクチル−5’−(メタ)アクリロイルアミノメチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2'−ヒドロキシ−5’−(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)−3’−tert−ブチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール等が挙げられ、モノマー混合物(I)にはこれらの1種または2種以上を含有させることができる。
【0040】
これらのモノマー(A1)は、例えば、対応するベンゾトリアゾール(紫外線吸収剤として市販されている)に、(メタ)アクリル酸クロライドを反応させる等の方法で合成することができる。
【0041】
▲2▼ベンゾフェノン系紫外線吸収性モノマー(以下(A2)とする。)
本発明で用いられるベンゾフェノン系モノマー(A2)は、下式(3)によって示される。
【0042】
【化14】
【0043】
(式中、R4、R5、W2、X2は前記と同じ意味である。)
W2は、炭素数3〜12のアルキル基か、下記式(4)で表される基である。
【0044】
【化15】
【0045】
(式中、R6、R7は前記と同じ意味である。)
【0046】
W2、R6、R7、X2の意義、好ましい基等は、それぞれ、ベンゾトリアゾール系モノマー(A1)におけるW1、R2、R3、X1の意義および好ましい基と同じである。ベンゾフェノン系モノマー(A2)の好ましい具体例としては、2−ヒドロキシ−4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]−3−プロピルベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]−3−tert−ブチルベンゾフェノン等を挙げることができ、モノマー混合物(II)にはこれらの1種または2種以上を含有させることができる。
【0047】
これらのモノマー(A2)は、例えば、対応するベンゾフェノン(紫外線吸収剤として市販されている)に、グリシジル(メタ)アクリレートを反応させる等の方法で合成することができる。
【0048】
▲3▼炭素数4以上のアルキル基を有するモノマー(以下(B)とする。)
このモノマー(B)は、具体的には、下記一般式で表される(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。
【0049】
【化16】
【0050】
(式中、R7、Yは前記と同じ意味である)。
【0051】
上記モノマー(B)は、得られるポリマーの疎水性を高めて、ベンゾトリアゾール環やベンゾフェノン骨格が水と光の作用によって分解してしまうのを抑制する作用を有する。塗膜の耐水性等も向上する。従って、(メタ)アクリレートのエステル結合に連結するアルキル基は疎水性が高いものでなければならず、Yは炭素数4以上のアルキル基であることが必要である。さらに、(メタ)アクリレート類は、もともと耐候性に優れており、前記ベンゾトリアゾール系モノマーやベンゾフェノン系モノマーとの共重合性にも優れているため、好ましい。
【0052】
上記式中、Yで表される置換基の具体例は、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロドデシル基などの炭素数4以上の脂環式炭化水素基;ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基等の炭素数4以上の直鎖状または分枝鎖状のアルキル基;ボルニル基、イソボルニル基等の炭素数4以上の多環式炭化水素基である。炭素数は大きい方が疎水性が高まるため好ましく、これらの中でも、脂環式炭化水素基、分枝鎖状アルキル基、炭素数6以上の直鎖状アルキル基が特に好ましい。
【0053】
上記一般式(5)で表されるモノマーのより具体的な例としては、例えばシクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート、tert−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等が非限定的に挙げられ、これらの1種または2種以上を、それぞれモノマー混合物(I)あるいは(II)の成分とすることができる。
【0054】
本発明の第1のタイプで用いられるモノマー混合物(I)には、モノマー(A1)とモノマー(B)とが、また第2のタイプで用いられるモノマー混合物(II)には、モノマー(A2)とモノマー(B)とが必須的に含まれるが、モノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)において用いられるモノマー(B)は、同一でも異なる化合物でも構わない。また、モノマー混合物(I)においてモノマー(A2)を併用してもよく、逆にモノマー混合物(II)においてモノマー(A1)を併用してもよい。さらに、必要に応じて、以下のモノマーを併用してもよい。
【0055】
▲4▼紫外線安定性基を有するモノマー(以下(C)とする。)
紫外線安定性基を有するモノマー(C)を共重合させると、塗膜に紫外線安定性が付与される。また、モノマー(A1)および(A2)の紫外線吸収性基の光分解抑制効果が一層高まり、紫外線遮蔽性能が長期間持続することとなる。紫外線安定性基を有するモノマー(C)とは、分子中に重合性二重結合と紫外線安定性基を同時に有するものであれば特にその種類は限定されないが、中でも特に好ましいのは、下記一般式(C−1)や(C−2)で示されるモノマーである。
【0056】
【化17】
【0057】
(式中、R9は水素原子またはシアノ基を表し、R10、R11はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、R12は水素原子または炭化水素基を表し、Z1は酸素原子またはイミノ基を表す。)
【0058】
【化18】
【0059】
(式中、R13は水素原子またはシアノ基を表し、R14、R15、R16、R17はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、Z2は酸素原子またはイミノ基を表す。)。
【0060】
上記モノマー(C−1)の具体例としては、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等が非限定的に挙げられ、これらは単独でも、必要により2種以上を適宜組み合わせて使用しても構わない。
【0061】
上記モノマー(C−2)の具体例としては、1−(メタ)アクリロイル−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−クロトノイル−4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等が非限定的に挙げられ、これらも単独でも、必要により2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0062】
▲5▼その他のモノマー(以下(D)とする。)
本発明では第1および第2のタイプいずれにおいても、上記炭素数4以上のアルキル基を有するモノマー(B)を必須成分とするが、塗膜の物性を用途に応じて設計変更するために、炭素数3以下のアルキル基を有するモノマーを併用することができる。具体的には、メチル(メタ)アクリレートやエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの(メタ)アクリレートは、前記したモノマー(A1)、(A2)、(B)および(C)との共重合性に優れ、硬く、耐水性や機械的強度に優れた遮蔽層を形成する役割を担う上、安価なため使いやすい。中でも、紫外線遮蔽性積層体を形成するときの基材として、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、あるいはポリエステル系樹脂を使用する場合は、基材との密着性に優れた塗膜を形成するので、メチルメタクリレートが特に好ましい。ただし、メチルメタクリレートは若干疎水性が低いため、多量に使用すると紫外線吸収性モノマーの水と光による分解を防ぐ効果が発現しにくいことから、紫外線吸収性モノマー(A1)または(A2)と炭素数4以上のアルキル基を有するモノマー(B)との合計量(質量)と同量以下で使用することが好ましい。
【0063】
また、塗膜物性の調整の目的で、架橋性官能基を有するモノマーを用いてポリマーを合成し、別途硬化剤(架橋剤)を配合することによって、紫外線遮蔽層を架橋させてもよい。架橋性官能基を有するモノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸等のカルボキシル基を有するモノマー;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート等の酸性リン酸エステル系モノマー;グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、脂環式エポキシ基含有(メタ)アクリレート(例えば、ダイセル化学工業社製;商品名「CYCLOMER M−100」)等のエポキシ基含有(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、水酸基末端可撓性(メタ)アクリレート(例えば、ダイセル化学工業株式会社製;商品名「プラクセルFM」)等の活性水素(ヒドロキシル)基を有するモノマー等が使用可能である。
【0064】
これらの中でも、ヒドロキシル基含有モノマーを用いると共に、紫外線遮蔽層用樹脂組成物に硬化剤としてポリイソシアネートを含有させて、ヒドロキシル基とイソシアネート基の反応によって紫外線遮蔽層を架橋させるのが好ましい。本発明では、前記したように特定位置に立体障害基を有する紫外線吸収性モノマー(A1)または(A2)を用いるので、ヒドロキシル基と反応し得る架橋剤を用いても、紫外線吸収能力を低下させるような不都合は起こらない。
【0065】
さらに、塗膜物性調整の目的で、(メタ)アクリルアミド、イミド(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の含窒素モノマー;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の2個の重合性二重結合を有するモノマー;塩化ビニル等のハロゲン含有モノマー;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族系モノマー;ビニルエーテル;トリアジン系の紫外線吸収性モノマー、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等の反応性シリル基含有モノマー等のモノマーを用いることもできる。
【0066】
以上が、本発明の第1のタイプで用いられるモノマー混合物(I)および第2のタイプで用いられるモノマー混合物(II)として用いることのできるモノマーである。
【0067】
モノマー混合物(I)または(II)において用いることのできる各モノマーの好ましい量は、以下の通りである。なお、下記の量範囲は、使用するモノマーの合計量が100質量%になるように選択する場合の各モノマーの好ましい使用量の目安である。
【0068】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収性モノマー(A1)およびベンゾフェノン系紫外線吸収性モノマー(A2)は、いずれも、0.1質量%以上(より好ましくは5質量%以上)、70質量%以下(より好ましくは50質量%以下)が好ましい。少な過ぎると紫外線遮蔽能が不充分となる。また、モノマー(A1)または(A2)が少な過ぎ、かつ、炭素数4以上のアルキル基を有するモノマー(B)を多くした場合には、塗膜が硬くなって可撓性が低下するため好ましくない。逆にモノマー(A1)または(A2)が多過ぎると、耐水性向上のためのモノマー(B)が相対的に減少することとなり、耐水性が低下するため好ましくない。
【0069】
炭素数4以上のアルキル基を有するモノマー(B)は、3質量%以上(より好ましくは5質量%以上)、80質量%以下(より好ましくは60質量%以下)が好ましい。少な過ぎると添加効果が発揮されず、耐水性や耐候性が不充分となる。
【0070】
紫外線安定性基を有するモノマー(C)は、0.1質量%以上(より好ましくは0.5質量%以上)、20質量%以下(より好ましくは10質量%以下)が好ましい。少な過ぎると耐候性改善効果が発揮されず、多過ぎると、耐水性向上のためのモノマー(B)が相対的に減少することとなり、耐水性が低下するため好ましくない。
【0071】
その他のモノマー(D)は、その種類や製品の用途・要求特性等に応じて適宜使用量を調整するとよい。
【0072】
これまで説明したモノマー混合物(I)を重合することにより、第1のタイプの樹脂組成物に必須のポリマーが合成され、モノマー混合物(II)を重合することにより、第2のタイプの樹脂組成物に必須のポリマーが合成される。
【0073】
重合方法には格別の制限はなく、公知の重合法、例えば溶液重合法、分散重合法、懸濁重合法、乳化重合法等を使用できる。溶液重合法では、得られた反応生成物をそのままあるいは希釈するだけで、本発明の樹脂組成物を得ることができるため、好ましい重合法である。溶液重合の際に用いる溶媒としては、トルエン、キシレン、その他の芳香族系溶媒;n−ブチルアルコール、プロピレングリコールメチルエーテル、ダイアセトンアルコール、エチルセロソルブ等のアルコール系溶媒;酢酸ブチル、酢酸エチル、セロソルブアセテート等のエステル系溶媒;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ジメチルホルムアミド等を使用できる。使用する溶媒の種類はこれらに限定されるものではない。これらの溶媒は1種のみを使用してもよいし、2種以上を混合溶媒として使用してもよく、溶媒の使用量は、モノマー濃度、ポリマーの所望の分子量、ポリマー溶液濃度等を考慮し適宜定めればよい。
【0074】
モノマー混合物(I)や(II)を重合させる際には、重合開始剤が通常使用される。重合開始剤としては、例えば、2,2'−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド等の公知のラジカル重合開始剤が使用可能である。重合開始剤の使用量は、ポリマーの要求特性等に応じて適宜決定すべきものであり、特に限定はないが、モノマー混合物(I)や(II)の全量に対し0.01質量%以上、50質量%以下が好ましく、より好ましくは0.05質量%以上、20質量%以下である。また必要に応じて、例えば、n−ドデシルメルカプタンのような連鎖移動剤を1種以上添加し、ポリマーの分子量を調整してもよい。
【0075】
重合反応の温度も特に限定されないが、室温〜200℃の範囲が好ましく、40〜140℃がより好ましい。なお反応時間は、用いるモノマー混合物の組成や重合開始剤の種類等に応じて、重合反応が効率よく完結し得るように適宜設定すればよい。
【0076】
ポリマーの分子量も特に限定されないが、重量平均分子量(Mw)で2,000〜1,000,000が好ましい。また、より好ましいMwの下限は5,000、さらに好ましい下限は10,000であり、より好ましいMwの上限は800,000、さらに好ましい上限は500,000である。ここでいう重量平均分子量とは、GPCを用いて標準ポリスチレンを基準として求めた値を意味する。
【0077】
第1のタイプの樹脂組成物はモノマー混合物(I)から得られたポリマーを含有するものであるが、第1のタイプの樹脂組成物はモノマー混合物(II)から得られたポリマーを含有するものであるが、いずれにおいても塗工の際の作業性等の観点からは、溶媒にポリマーを溶解させた溶液状態であることが好ましい。溶媒としては、前記溶液重合の際に例示した溶媒がいずれも使用可能である。溶液重合以外の方法でポリマーを合成した場合は、重合後、ポリマーを分取して溶媒に溶解させればよい。
【0078】
本発明の樹脂組成物(以下の説明では第1および第2のタイプの樹脂組成物を単に樹脂組成物で代表する)には、種々の添加剤が含まれていてもよい。以下、添加剤として好適に使用できる化合物を説明する。
【0079】
硬化剤
前記したその他のモノマー(D)のうちの架橋性官能基を有するモノマーを含むモノマー混合物(I)または(II)からポリマーを得た場合には、そのモノマーの官能基と反応し得る官能基を有する硬化剤(架橋剤)を樹脂組成物に添加して、塗膜化の際に架橋反応を行わせることが好ましく、これにより紫外線遮蔽層の各種特性が向上する。用いられるモノマーの官能基に応じて公知の各種硬化剤が使用可能である。これら硬化剤の使用量は特に限定されず、用いられるモノマーの量(ポリマー中の官能基量)に応じて、適宜増減すればよい。
【0080】
上記架橋性官能基を有するモノマーとしてヒドロキシル基含有モノマーを用いた場合には、イソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物またはその変性物やアミノプラスト樹脂を硬化剤として使用すると、速やかな架橋硬化反応が起こるため好ましい実施態様である。
【0081】
ポリイソシアネート化合物の具体例としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等の公知のジイソシアネート化合物;「スミジュールN」(住友バイエルウレタン社製)等のビュレットポリイソシアネート化合物;「デスモジュールIL」、「デスモジュールHL」(いずれもバイエルA.G.社製)、「コロネートEH」(日本ポリウレタン工業社製)等として知られるイソシアヌレート環を有するポリイソシアネート化合物;「スミジュールL」(住友バイエルウレタン社製)等のアダクトポリイソシアネート化合物;「コロネートL」および「コロネートL−55E」(いずれも日本ポリウレタン社製)等のアダクトポリイソシアネート化合物等を挙げることができる。これらは、単独で使用し得るほか、2種以上を併用することもできる。また、これらの化合物のイソシアネート基を活性水素を有するマスク剤と反応させて不活性化したいわゆるブロックイソシアネートも使用可能である。
【0082】
アミノプラスト樹脂としては、メチルエーテル化メラミン樹脂、ブチルエーテル化メラミン樹脂、ブチルエーテル化ベンゾグアナミン系樹脂、ブチルエーテル化シクロヘキシルベンゾグアナミン系樹脂等およびこれらの水溶化物が挙げられる。
【0083】
紫外線安定剤
前記した紫外線安定性基を有するモノマー(C)を用いずにポリマーを合成した場合には、添加型の紫外線安定剤を用いることもできる。添加型の紫外線安定剤として好ましいのは、立体障害ピペリジン化合物であり、例えば市販品としては、「チヌビン123」、「チヌビン144」、「チヌビン765」(いずれもチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)等が挙げられる。また、これらの比較的低分子量の紫外線安定剤はブリードアウトの可能性があるため、前記した紫外線安定性基を有するモノマー(C)から別途ポリマー型の紫外線安定剤を合成し、これを添加してもよい。
【0084】
紫外線安定剤の好ましい配合量は、ポリマー100質量%に対して0.1〜20質量%の範囲である。0.1質量%未満では紫外線遮蔽能を長期的に維持できないことがあるが、20質量%を超えて過度に添加するとブリードアウトし易くなったり、耐水性を低下させるため好ましくない。
【0085】
その他の樹脂
樹脂組成物中には、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、その他の樹脂を一部共存させてもよい。例えば、熱可塑性樹脂や樹脂自身の作用あるいは硬化剤(架橋剤)によって架橋硬化する熱硬化性樹脂が挙げられる。これら他の樹脂の種類や使用量は、紫外線遮蔽性樹脂積層体の用途や要求特性等に応じて適宜決定すればよい。その他の樹脂の具体例としては、塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂等の熱可塑性樹脂;ウレタン系樹脂、アミノプラスト系樹脂、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂等の単独硬化型の熱・紫外線・電子線硬化性樹脂;ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等の硬化剤によって硬化する熱硬化性樹脂を挙げることができる。
【0086】
その他の添加剤
塗料等の層形成用組成物に一般に使用されるレベリング剤、酸化防止剤、タルク等の充填剤、防錆剤、蛍光性増白剤、酸化防止剤、帯電防止剤、顔料、染料、増粘剤、コロイダルシリカ、アルミナゾル等の無機微粒子やポリメチルメタクリレート系のアクリル系微粒子等を添加してもよい。また、特開平7−178335号公報や同9−302257号公報に記載されているような無機微粒子の表面に有機ポリマーが固定された複合無機微粒子を添加することもできる。さらには、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系、インドール系等の有機系紫外線吸収剤や酸化亜鉛等の無機系紫外線吸収剤を一部含んでも構わない。
【0087】
本発明の樹脂組成物は、基材の表面側に紫外線遮蔽層を形成して、紫外線遮蔽性積層体を形成するために用いられる。このとき、基材の表面に直接または必要に応じて接着改善層(プライマー層等)や印刷層、熱線遮蔽層、粘着層、(半)透明無機蒸着膜等のガスバリヤー層等を介して形成することができる。樹脂組成物から得られる乾燥塗膜(紫外線遮蔽層)100質量%中の本発明に係るポリマーが50質量%以上、好ましくは80質量%以上含まれるように、上記各種添加剤の量を規制することが望ましい。50質量%未満では塗膜の耐候性が不充分となるおそれがある。
【0088】
紫外線遮蔽性積層体
以下、本発明の樹脂組成物を用いて形成される紫外線遮蔽性積層体について説明する。基材として最適なのは、紫外線により劣化し易い樹脂であり、このような樹脂基材こそが本発明の紫外線遮蔽層を必要とするからである。紫外線により劣化するとは、紫外線により主鎖が切断して分子量が低下したり、逆に架橋によってゲルが形成する等の化学構造が変化して、その結果として、機械強度・透明性低下あるいは黄変等の物性低下を起こすことをいう。このような樹脂としては、ポリカーボネート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ABS系樹脂、ポリスチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。中でも、安価で軽くて丈夫でかつ透明性に優れたポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂が好ましい。
【0089】
上記樹脂基材の形状や製法はどのようなものでもよく、特に限定はないが、汎用性の高いものは、平板状や曲板状、波板状等の板状あるいはフィルム状のものである。また、木目印刷等の印刷を施した意匠性のある樹脂基材を使用することも可能である。さらに、ガラス等の無機質透明基材で作られた容器等の内容物を紫外線から守る目的で、無機質透明基材の表側に紫外線遮蔽層を設けることもできる。
【0090】
紫外線遮蔽層形成用樹脂組成物を基材に塗布する方法としては、浸漬、吹き付け、刷毛塗り、カーテンフローコート、グラビアコート、ロールコート、スピンコート、バーコート、静電塗装等の公知の塗工方法がいずれも採用可能である。
【0091】
紫外線遮蔽層の厚さは、Lambert−Beerの法則により、ポリマーに導入されている紫外線吸収性基の量、すなわち重合の際の紫外線吸収性モノマー(A1)または(A2)の使用量に依存する。従って、ポリマー中の紫外線吸収性基の量と、紫外線遮蔽性積層体に要求される耐候性や紫外線遮蔽性能を勘案して、層の厚さを決定すればよい。通常、0.5〜500μmの範囲内である。厚さが500μmを超えると、紫外線吸収性能が飽和してコスト的に無駄である。逆に厚さが0.5μm未満では、基材上へ均一に塗工するのが困難であり、紫外線遮蔽能も不充分になるおそれがある。より好ましい厚さの範囲は1〜300μm、さらに好ましくは2〜50μmである。
【0092】
本発明の樹脂組成物を基材に薄膜状に塗布して紫外線遮蔽層を形成するときの乾燥温度は、樹脂組成物に硬化剤(架橋剤)が配合されているか否かで適宜変更すればよく、一般的には室温〜200℃で乾燥させるのが好ましい。
【0093】
本発明の積層体は、基材と紫外線遮蔽層(基材と紫外線遮蔽層との間に前記した他の層があっても構わない)の積層構造であっても、紫外線遮蔽性層が耐水性・強度・耐候性等種々の特性に優れているものであるため、このまま種々の用途に活用することができる。しかし、窓ガラス等の用途に用いるには、耐擦傷性や表面硬度を一層高めるため、紫外線遮蔽層の表層(基材と反対側)にハードコート層を備える構造のものが好ましい。ハードコート層は、高硬度で耐擦傷性に優れた塗膜を形成することのできる樹脂を用いて形成することが好ましく、このような樹脂であれば特に限定されないが、特開2000−177070号公報で開示されているようなシリコーン系硬化性樹脂や有機系硬化性樹脂等が好ましく使用できる。
【0094】
本発明の積層体は、ハードコート層と共に、またはハードコート層を用いずに、積層構造内もしくは積層体の最表層に熱線遮蔽層を備えるものであってもよい。自動車用や建築物用の窓材として用いるときに、車内や室内の備品等の紫外線劣化を防ぐと共に、車内や室内の温度上昇を防いで冷暖房費の節減に効果的である。また積層体構造内もしくは積層体の最表層に、耐汚染性向上のための光触媒機能層;ガスバリア層;導電層、磁性層等;防曇層等を形成することも有効である。さらに、有機系基材と無機系基材のような2枚の基材の間に本発明の紫外線遮蔽層を中間層として形成し、合せガラスとしての使用も可能である。
【0095】
熱線遮蔽層を形成するには、例えば、基材内部に熱線遮蔽性物質を分散させたり、基材の片面もしくは両面に、熱線遮蔽性物質を含む塗料を塗布する方法が採用可能である。また、本発明の樹脂組成物中に熱線遮蔽性物質を添加して、紫外線と熱線を同時に遮蔽できる層を形成してもよい。
【0096】
熱線遮蔽性物質としては、赤外線領域に吸収を有する物質であれは特に制限されないが、用途によっては、可視光領域(400〜700nm)での着色が少なく、かつモル吸光係数の大きいものが望ましく、有機系・無機系の公知の熱線遮蔽性物質を1種もしくは2種以上組合わせて使用できる。また用途によっては可視光線領域の調色を行ったり、目的とする色に着色するために可視光線領域に吸収のある物質を併用してもよい。
【0097】
本発明の紫外線遮蔽層形成用樹脂組成物は、成型品表面に紫外線遮蔽層を形成するための転写シートとしても使用することができる。例えば、基材フィルムの片面に本発明の紫外線遮蔽層形成用樹脂組成物からなる層(紫外線遮蔽層)を形成し、さらにその上に接着剤層を積層した構成の転写シートである。この転写シートを成型品表面に密着させて加熱接着させた後、基材フィルムを剥離して紫外線遮蔽層を硬化させれば、表面保護層としても機能する紫外線遮蔽層が成型品表面に形成される。紫外線遮蔽層と接着剤層との間には、必要に応じて絵柄や文字等が印刷された装飾層が設けられていてもよい。
【0098】
【実施例】
以下、実施例および比較例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるわけではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお下記実施例および比較例において、「部」および「%」とあるのは、質量部または質量%を表す。
【0099】
合成例1
攪拌機、滴下口、温度計、冷却管および窒素ガス導入管を備えたフラスコに、酢酸エチル20部と、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルアミノメチル−3’−tert−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール(UVA▲1▼とする)10部を仕込み、窒素ガスを導入して撹拌しながら還流温度まで加熱した。別途、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)30部、2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)10部、メチルメタクリレート(MMA)20部、ブチルアクリレート(BA)10部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)15部および前記UVA▲1▼5部と、開始剤として、2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)3部とを、酢酸エチル80部に溶解させて混合物を調整し、得られた混合物を1時間かけて滴下した。滴下後さらに6時間加熱した後、酢酸エチル50部で希釈して、不揮発分濃度40.0%のポリマー溶液No.1を得た。このポリマーの重量平均分子量(Mw)は17,000であった。なお各合成例において、不揮発分濃度は、ポリマー溶液1gを秤量し、200℃で15分加熱乾燥させて測定した値であり、重量平均分子量はGPCを用いて標準ポリスチレンを基準として求めた値である。表1にモノマーの種類等と仕込み・配合量等をまとめた。
【0100】
ポリマー合成例2〜10
表1に示したようにモノマー種類等と仕込み・配合量を変えた以外は、上記ポリマー合成例1と同様にしてポリマー溶液No.2〜10を製造し、それらの特性を表1に併記した。
【0101】
【表1】
【0102】
なお、表1中の略語は、下記の意味である。
UVA▲1▼:2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルアミノメチル−3’−tert−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール
UVA▲2▼:2−(2’−ヒドロキシ−3’−メタクリロイルアミノメチル−5’−tert−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール
UVA▲3▼:2−(2’−ヒドロキシ−3’−メタクリロイルアミノメチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール
UVA▲4▼:2−(2’−ヒドロキシ−3’−メタクリロイルアミノ−5’−tert−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール
UVA▲5▼:2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルアミノメチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール
UVA▲6▼:2−ヒドロキシ−4−(3−メタクリロイルオキシエトキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)−3−tert−ブチルベンゾフェノン
UVA▲7▼:2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)ベンゾフェノン
CHMA:シクロヘキシルメタクリレート
2EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
t−BMA:tert−ブチルメタクリレート
BA:ブチルアクリレート
HALS:2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリレート(;旭電化工業社製;商品名「アデカスタブLA87」)
MMA:メチルメタクリレート
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
【0103】
実験例1〜7および比較実験例1〜3
ポリマー合成例1〜5および7〜10で得られたポリマー溶液No.1〜5および7〜10に、イソシアネート系硬化剤(「N3200」;住友バイエルウレタン社製)を、ポリマー中のヒドロキシル基1当量に対し、イソシアネート基が1当量となるように配合し、トルエンで最終不揮発分濃度が20%になるまで希釈した。ポリマー合成例6で得られたポリマー溶液No.6には、硬化剤を配合せずに、トルエンで不揮発分濃度が20%になるまで希釈した。得られた溶液を、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(「E5101」;東洋紡績社製)に乾燥厚さが5μm(No.5は20μm、No.6は2μm)となるように塗工し、室温で10分間、さらに80℃で2時間乾燥させた。硬化塗膜(紫外線遮蔽層)が形成された積層フィルム試験片が得られた。各実験例において下記項目の評価を行い、結果を表2に示した。
【0104】
(1)密着性
積層フィルム試験片の硬化塗膜に100個の碁盤目(1mm2)を刻み、碁盤目部分にセロファンテープを密着させ、次いで密着したセロファンテープを、剥離角度が試験片に対して直角となるように急激に手で剥がし、剥離した碁盤目の個数を勘案しながら、試験片の外観を下記基準で評価した。
○:異常なし、△:碁盤目が僅かに剥離する、×:全ての碁盤目が剥離した。
【0105】
(2)耐水性
積層フィルム試験片を、80℃の温水中に30日間浸漬した後、取り出し、硬化塗膜の外観を下記基準で評価し、前記密着性も前記基準で評価した(耐水密着性)。
○:異常なし、△:僅かに艶引けまたは白化、×:全体が艶引け・白化
【0106】
(3)耐アルカリ性
40℃の0.1NのNaOH水溶液に積層フィルム試験片を浸漬し、10日間後および20日間後の塗膜外観と密着性を下記基準で評価した。
○:異常なし、△:僅かに着色、×:全体が着色
【0107】
(4)耐屈曲性
積層フィルム試験片を180度折り曲げて、折り曲げ部の外観を目視で下記基準で評価した。また、後述する条件で8サイクルの曝露を行った後についても、耐屈曲性を評価した。
○:異常なし、△:僅かに白化、×:折り曲げ部全体が白化
【0108】
(5)耐候性1(引張強度と伸び率の保持率)
温度可変式引張試験機(「島津オートグラフAGS−100D」;島津製作所製)を用い、幅10mmに切り取った積層フィルム試験片を、23℃、チャック間距離40mm、引張速度200mm/分の条件で引っ張って、破断に至るまでの引張強度と伸び率を求めた。未塗工のPETフィルムについても同様に引張強度と伸び率を求めた結果、塗工後の積層フィルム試験片と塗工前基材との引張強度(17.8kN/cm2)および伸び率(168%)に相違がないことを確認した。
【0109】
積層フィルム試験片を、固定式メタルハライドランプ型促進耐候性試験機であるスガ試験機社製の超エネルギー照射試験機「UE−IDEC型」(インナーフィルターとして石英、アウターフィルターとして#275を使用)に、紫外線入射側が紫外線遮蔽層となるようにセットした。[70℃、70%RHの環境下、100mW/cm2の紫外線を6時間照射]→[80℃、90%RHの環境下、6時間放置]を1サイクルとし、12サイクル曝露を行った。
【0110】
曝露後の積層フィルム試験片について、前記条件で引張強度と伸び率を測定し、曝露前の引張強度に対する比率(曝露後の引張強度を前記曝露前の引張強度17.8kN/cm2で除し、100をかけた値)を引張強度保持率(%)とし、同様にして伸び率の保持率(%)を求めた。基材が曝露によって劣化すると、これらの保持率が低下することとなる。
【0111】
(6)耐候性2(UVカット率の保持率)
積層フィルム試験片を、前記耐候性1の場合と同様にして、12サイクル曝露を繰り返した。島津製作所社製の分光光度計(「UV−3100」)を使用して、ブランクとして各積層体の基材のみの紫外線透過率(%)を測定すると共に、耐候性試験前後の360nmにおける紫外線透過率(%)を測定し、試験前(初期)のUVカット率[(100−紫外線透過率)(%)]を求めた。また、この初期のUVカット率をX、曝露後のUVカット率をYとしたときに、[(X−Y)/X]×100(%)によって求められる値をUVカット率の保持率(%)とした。
【0112】
【表2】
【0113】
本発明に係るベンゼン環の3位の位置に立体障害基を有しているベンゾトリアゾール系モノマー(A1)であるUVA▲1▼〜▲4▼と、炭素数4以上のアルキル基を有するモノマー(B)とを用いてポリマーを合成している実験例1〜6では、優れた塗膜物性を示すと共に、長期に亘って良好な耐屈曲性・耐候性・紫外線遮蔽性を発揮した。
【0114】
ヒドロキシル基の消費抑制のための立体障害基を有していないベンゾトリアゾール系モノマーUVA▲5▼を用いた比較実験例1は、アルカリ性溶液に浸漬したときに着色が認められた。また、UVカット率の保持率も低下しており、紫外線吸収性基の分解が起こっていることが確認された。また、塗膜の耐水性を高める炭素数4以上のアルキル基を有するモノマー(B)を用いていない比較実験例2では、初期の耐屈曲性以外の特性全てに劣っていた。
【0115】
ベンゾフェノン系モノマー(A2)の場合でも、3位の位置に水素結合を形成することのできる立体障害基を有しているUVA▲6▼を用いた実験例7に比べ、そのような立体障害基を有していないUVA▲7▼を用いた比較実験例3が、耐水密着性、耐アルカリ性、耐屈曲性、耐候性に劣っていることが確認できた。
【0116】
【発明の効果】
本発明では、特定位置に特定の置換基を有する紫外線吸収性モノマーと、塗膜の耐水性を高める炭素数4以上のアルキル基を有するモノマーを併用することで、紫外線吸収能の低下現象や、紫外線吸収性基の光と水による分解を抑制することに成功した。
【0117】
このため、本発明の紫外線遮蔽層形成用樹脂組成物から形成された紫外線遮蔽層は、紫外線遮蔽能を長期に亘って発揮するので、紫外線により劣化する基材等に適用することで、紫外線遮蔽性積層体を製造することができる。
【0118】
従って、本発明の紫外線遮蔽性積層体は、例えば内容物保護用や表面保護用(各種食品包材や、太陽電池等)、絶縁用(絶縁膜や表示素子等)、光学用(レンズ、反射防止膜、光拡散フィルム等)、建築材料用(防音壁等)、防汚用シート・テント用、マーキングフィルム用、屋外展張用(農業ハウス等)、屋内外のオーバーレイ(表示材料、電飾看板等)、窓用(車輌、建築、採光材等)等、様々の用途に幅広く活用できる。
Claims (5)
- 下式(3)で示されるベンゾフェノン系紫外線吸収性モノマーおよび炭素数4以上のアルキル基を有するモノマーを必須的に含むモノマー混合物(II)から合成されるポリマーを含有することを特徴とする紫外線遮蔽層形成用樹脂組成物。
W2が炭素数3〜12のアルキル基の場合には、X2は上記式(4)で表される基を表し、W2が上記式(4)で表される基の場合には、X2は水素原子または炭素数1〜8の炭化水素基を表す。] - 上記炭素数4以上のアルキル基を有するモノマーが、シクロヘキシルメタクリレートである請求項1〜3のいずれかに記載の紫外線遮蔽層形成用樹脂組成物。
- 請求項1〜4のいずれかに記載された紫外線遮蔽層形成用樹脂組成物から形成された紫外線遮蔽層が、紫外線劣化性樹脂基材に積層されていることを特徴とする紫外線遮蔽性積層体。
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