JP4142306B2 - 紫外線遮蔽層形成用樹脂組成物および紫外線遮蔽性積層体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、紫外線遮蔽層の形成に用いられる有機シラン系樹脂組成物に関し、例えば、プラスチック等の透明基材にコーティングして、太陽光等の紫外線を吸収して内部への紫外線の侵入を遮断し、紫外線による着色、退色、劣化を防止する紫外線遮蔽能を付与する樹脂組成物であって、有機シラン系でありながら硬化性とポットライフを両立させ得た樹脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
最近、例えば、ポリカーボネートを始めとする樹脂フィルムや樹脂シート、樹脂板のような樹脂成形部材は、透明性、耐熱性、難燃性等に優れていることから、自動車部品、道路建材、建築資材等に広く用いられており、今後もその用途がますます拡大していくことが期待されている。しかしながらそれらの樹脂は、一般に耐候性が不充分であり、特に紫外線に曝されることにより、表面が劣化したり変色するといった問題がある。また、ガラスに匹敵する硬さを得るために、最表層には例えばシリコーン系樹脂等からなるハードコート層が形成されるが、ハードコート層形成時にクラックが発生し易いという問題があった。
【0003】
本願発明者等は、上記問題につき検討した結果、耐候性・耐擦傷性等に優れ、密着性にも優れた紫外線遮蔽層形成用樹脂組成物を見出し、既に出願した(特開2000-351642号)。この出願に記載された発明は、反応性シリル基を有するモノマー:50〜90質量%、紫外線吸収性基を有するモノマー:10〜50質量%およびその他のモノマー:0〜40質量%を共重合して得られる共重合体を樹脂組成物の主成分とするというものである。この共重合体の反応性シリル基は加水分解縮合反応を起こすため、自己架橋を行って、SiとOとが交互に3次元的に結合した緻密な硬化塗膜を形成することができる。また、反応性シリル基を有するモノマーを多く使用することで硬化塗膜のクラックの発生も抑えることに成功した。さらに、紫外線吸収性基を共重合体中に組み込んでいるので、低分子紫外線吸収剤を添加したときのブリードアウトといった問題も起こさず、長期間に亘って優れた紫外線遮蔽効果を発揮する。
【0004】
しかし、反応性シリル基を有するモノマーの構成比率を例えば90質量%以上に高めすぎると、紫外線吸収性モノマーの量や、用途に応じてポリマー設計するために用いられるその他のモノマーの量を相対的に少なくせざるを得ず、硬化塗膜の耐候性そのものや、最終塗膜として必要な靭性・耐水性等の特性が低下することが見出された。また、反応点が多くなるために、ポリマー合成時にゲル化しやすく、樹脂組成物のポットライフ(安定に保存できる期間)も短くなって、塗工作業前に樹脂組成物がゲル化により固化しやすくなるという実操業上重要な問題が発生した。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明では、硬化性が速く、しかもポットライフが長い樹脂組成物であって、耐候性、耐水性、硬度等の特性に優れた塗膜を形成することができ、ハードコート層のプライマーとして使用する場合にも、紫外線劣化性樹脂基材とハードコート層との密着性や耐候性に優れた塗膜を形成することのできる樹脂組成物の提供を課題として掲げた。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本願の紫外線遮蔽層形成用樹脂組成物の第1のタイプは、少なくとも末端に反応性シリル基を有すると共に、この末端反応性シリル基が、置換基を有していてもよいポリシロキサン結合を介して炭素原子に連結した構造の反応性シリル基含有モノマー(A1)、紫外線吸収性基を有するモノマー(B)および炭素数6以上のアルキル基を有するモノマー(C1)を必須的に含むモノマー混合物(D1)から合成されるポリマーを含有するところに特徴を有する。
【0007】
上記ポリシロキサン結合と反応性シリル基を有するモノマー(A1)は、末端の反応性シリル基と炭素原子の間にポリシロキサン結合(置換基を有していてもよい。以下単位「ポリシロキサン結合」という)が位置しているモノマーであるため、重合の際にこのモノマー(A1)を多量に使用しなくても、ポリマー中にポリシロキサン結合を多く導入することができる。また、ポリシロキサン結合が置換基を有する場合には、置換基として反応性シリル基も多数存在しているので、これらの反応によっても塗膜の硬化性が向上すると共に、硬度や耐水性に優れた塗膜が得られる。
【0008】
また、炭素数6以上のアルキル基を有するモノマー(C1)を用いることで、ポリマーの疎水性が高まったため、反応性シリル基が空気中の水分等で加水分解縮重合反応を起こして自己架橋する速度および度合いを抑制することができ、樹脂組成物としてのポットライフ(保存安定性)を高めることができた。なお本発明における「モノマー」はラジカル重合性単量体を意味し、ポリマーというときは、2元以上の共重合体も含む意味である。
【0009】
本願の紫外線遮蔽層形成用樹脂組成物の第2のタイプは、第1のタイプとは異なる原料から作られる。すなわち、分子中にSi原子を1個のみ有し、かつ、炭素原子に直結する反応性シリル基を有するモノマー(A2)と、紫外線吸収性基を有するモノマー(B)および炭素数6以上のアルキル基を有するモノマー(C1)を必須的に含むモノマー混合物(D2)から合成されるポリマーに対し、有機シラン化合物を反応させて得られる変性ポリマーを含有する紫外線遮蔽層形成用樹脂組成物である。
【0010】
先に上記モノマー混合物(D2)を重合し、その後、ポリマーに導入された反応性シリル基に有機シラン化合物を反応させて、ポリマー側鎖にポリシロキサン結合を形成して変性ポリマーとするのである。タイプ1の場合と同様に、重合の際にモノマー(A2)を多量に使用しなくても、得られる変性ポリマー中にポリシロキサン結合を多く導入することができ、塗膜の硬化性が向上すると共に、硬度や耐水性に優れた塗膜が得られる。また、炭素数6以上のアルキル基を有するモノマー(C1)の効果もタイプ1と同様に発揮される。
【0011】
上記モノマー(A2)は、下記一般式で示されるモノマー(A−1)、(A−2)および(A−3)よりなる群から選択される1種以上であることが好ましい。なお、タイプ1のモノマー(A1)の原料として用いられるモノマー(A2)と、タイプ2で用いられるモノマー(A2)は同一の化合物でも異なる化合物であってもよく、2種以上を併用するものであっても構わない。
【0012】
【化4】
【0013】
(式中、R1は水素原子またはメチル基を表し、R2は炭素数1〜6の炭化水素基を表し、aは1〜5の整数、bは0または1を表す)
【0014】
【化5】
【0015】
(式中、R3は前記R2と同じ意味もしくはアルキルオキシアルキル基を表し、cは0または1を表す)
【0016】
【化6】
【0017】
(式中、R4はR2と同じ意味、dは0または1を表す)
タイプ1、タイプ2いずれの場合においても、モノマー混合物(D1)または(D2)は、さらに、炭素数4〜5のアルキル基を有するモノマー(C2)を含むものであることが好ましい。ポリマーの疎水性を維持しつつ、樹脂組成物の硬化性とポットライフをコントロールすることができる。
【0018】
モノマー混合物(D1)または(D2)が、さらに、紫外線安定性基を有するモノマー(E)を含むものであることも、紫外線遮蔽効果が一層高まるため、本発明の好ましい実施態様である。
【0019】
上記紫外線遮蔽層形成用樹脂組成物は、紫外線劣化性樹脂基材とハードコート層との間に紫外線遮蔽層を形成するために用いることが好ましく、紫外線劣化性樹脂基材とハードコート層との間に、本願の紫外線遮蔽層形成用樹脂組成物から得られた紫外線遮蔽層を備える紫外線遮蔽性積層体も、本発明の範囲に包含される。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明者等は、硬化が速く、しかもポットライフが長い樹脂組成物を提供するために検討した結果、樹脂組成物の主体となるポリマー中にポリシロキサン結合および反応性シリル基を導入する2つの手法を見つけた。さらに、反応性シリル基がポリマー中に多数導入された結果、一層、空気中の水分によって加水分解縮重合反応を起こし易くなり、樹脂組成物がゲル化により固化してしまうという問題を、炭素数6以上のアルキル基を有するモノマー(C1)を併用することで解決した。このため、硬化性とポットライフを両立させることに成功した。
【0021】
さらに、本発明で採用したポリマー中にポリシロキサン結合および反応性シリル基を導入する手法では、反応性シリル基を有するモノマーを多く使う必要がないため、必須モノマー以外のモノマーの選択肢が広がり、用途に応じたポリマー設計が可能となる。従って、本発明の樹脂組成物から得られる塗膜は、硬度、耐水性等の塗膜としての基本物性を備えつつ、長期にわたって紫外線遮蔽性能に優れたものとなり、さらに、ハードコート層のプライマーとして使用する場合には、紫外線劣化性樹脂基材とハードコート層との密着性や耐候性に優れたものとなる。以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
本発明の紫外線遮蔽層形成用樹脂組成物の第1のタイプは、少なくとも末端に反応性シリル基を有すると共に、この末端反応性シリル基が、置換基を有していてもよいポリシロキサン結合を介して炭素原子に連結した構造の反応性シリル基含有モノマー(A1)、紫外線吸収性基を有するモノマー(B)および炭素数6以上のアルキル基を有するモノマー(C1)を必須的に含むモノマー混合物(D1)から合成されるポリマーを主成分とするものである。
【0023】
また第2のタイプは、分子中にSi原子を1個のみ有し、かつ、炭素原子に直結する反応性シリル基を有するモノマー(A2)、紫外線吸収性基を有するモノマー(B)および炭素数6以上のアルキル基を有するモノマー(C1)を必須的に含むモノマー混合物(D2)から合成されるポリマーに対し、有機シラン化合物を反応させて得られる変性ポリマーを含有する樹脂組成物である。以下、各原料を説明する。
【0024】
ポリシロキサン結合と反応性シリル基を有するモノマー(A1)
このモノマー(A1)は、少なくとも末端に反応性シリル基を有すると共に、重合性二重結合を有するモノマーである。そして、末端の反応性シリル基は、置換基を有していてもよいポリシロキサン結合を介して、モノマー中の炭素原子と連結している。ポリシロキサン結合とは、通常−SiH2−O−SiH2−O−を示すが、置換基を有していてもよい。すなわち、Siに結合するいずれか1個以上の水素原子が、炭素数1〜6のアルコキシ(アルキルオキシ)基や炭素数1〜10のアルキル基と置換されていてもよい。もちろん各置換基は同一でも異なっていても構わない。置換基としてアルコキシ基が存在すればポリシロキサン結合部分にも反応性シリル基が存在することとなる。なお、反応性シリル基とは、加水分解性シリル基を意味し、加水分解反応によってシラノール(Si−OH)基を生成することのできる官能基全てを意味する。
【0025】
上記モノマー(A1)は、具体的には、後述する第2のタイプで使用される「分子中にSi原子を1個のみ有し、かつ、炭素原子に直結する反応性シリル基を有するモノマー(A2)」と有機シラン化合物を加水分解縮合反応させることにより得られる。従って、モノマー(A2)と有機シラン化合物について続いて説明する。
【0026】
炭素原子に直結する反応性シリル基を有するモノマー(A2)
分子中にSi原子を1個のみ有し、かつ、炭素原子に直結する反応性シリル基を有するモノマー(A2)は、重合性二重結合と、炭素原子に直結する反応性シリル基を1個有する化合物である。具体例としては、前記一般式(A−1)〜(A−3)で示される。
【0027】
前記モノマー(A−1)は、加水分解性のアルコキシシリル基と、(メタ)アクリロイル基を有するモノマーであり、前記一般式(A−1)において、式中、炭素数1〜6の炭化水素基とは、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;ビニル基、イソプロペニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基等のアリール基を表す。
【0028】
モノマー(A−1)の具体例としては、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリブトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリイソプロペノキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルトリブトキシシラン等が挙げられる。
【0029】
取り扱い易さや反応性、架橋密度等を考慮すれば、モノマー(A1)の原料としてあるいはモノマー(A2)として特に好ましいのは、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシランである。
【0030】
また前記モノマー(A−2)は、ビニル基と、加水分解性のアルコキシシリル基を有するビニル官能性モノマーであり、前記モノマー(A−3)は、ビニル官能性アルコキシシラン化合物である。
【0031】
これらビニル官能性モノマーの具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン等のA−2の具体例;3−ビニロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ビニロキシプロピルトリエトキシシラン、3−ビニロキシプロピルメチルジメトキシシラン等のA−3の具体例等が挙げられる。取り扱い易さや反応性を考慮してモノマー(A1)の原料としてあるいはモノマー(A2)として特に好ましいのは、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−ビニロキシプロピルトリメトキシシラン等である。なお、後述するモノマー(C1)との重合性の点からは、(メタ)アクリロイル基を有する前記(A−1)の方が、(A−2)、(A−3)よりも好ましい。
【0032】
有機シラン化合物
有機シラン化合物は、下記一般式で示される有機シラン化合物および/またはその加水分解縮合物である。
R5 mSi(OR6)n
(式中、R5は同一または異なっていてもよく、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−へキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等の直鎖または分岐鎖のアルキル基や、γ−クロロプロピル基、γ−ブロモプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、γ−メルカプトプロピル基、γ−アミノプロピル基、γ−ジメチルアミノプロピル基、フェニル基、または3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基等を表し、R6は同一または異なっていてもよく、水素原子、低級(炭素数1〜5)アルキル基またはアシル基を表し、mは0または正の整数、nは1以上の整数でかつm+nはSiの原子価と一致する)。
【0033】
具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジイソプロポキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジイソプロポキシシラン、ジエチルジブトキシシラン、またはこれらの化合物を含む高分子有機化合物類が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0034】
有機シラン化合物としては、反応性に優れ、塗膜が良好な耐湿性を示す点から、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシランが好ましい。なお、第1のタイプおよび第2のタイプで用いられる有機シラン化合物は同じ化合物群であっても異なる化合物群であっても構わない。
【0035】
反応性シリル基含有モノマー(A1)の合成
上記反応性シリル基を有するモノマー(A2)と有機シラン化合物の反応に際しては、反応物である反応性シリル基含有モノマー(A1)の側鎖に導入したい−O−Si結合の数によって有機シラン化合物の量を調整する。例えば、平均5つの−O−Si結合を導入したい場合は、モノマー(A2)1モルに対し、有機シラン化合物が5モルとなるように反応させることが好ましい。ここで、(A2)と有機シラン化合物の合計を100モル%として、(A2)が30モル%を超えると、反応物であるモノマー(A1)中に重合性二重結合が多数導入されることとなり、モノマー混合物(D1)を重合する際にゲル化しやすくなる。(A2)が0.1モル%よりも少ないと、(A1)の中に重合性二重結合が導入されなくなる場合があるため、好ましくない。(A1)中の好ましい二重結合量は、1分子当たり1〜4個の範囲である。
【0036】
両者の反応は、(A2)と有機シラン化合物とを混合することにより行う。必要によりメタノールや水等の溶媒を用いてもよい。加水分解縮合反応の進行に応じてアルコールが生成するので、このアルコールを留去しながら50〜100℃で10分から5時間程度反応させるとよい。高温下で、あるいは長時間反応を行うと、反応生成物である(A1)の重合が起きるおそれがある。なお、圧力は、0.13Pa〜1.0MPa程度とするのが好ましい。
【0037】
また、加水分解縮合反応の速度を高めるには触媒を用いることが好ましく、分離の容易な固体触媒が好適である。固体触媒としては、「アンバーリスト15」、「アンバーライト15」、「アンバーライト200C」(いずれも商品名;ローム・アンド・ハース社製)等の陽イオン交換樹脂が好ましいものとして挙げられる。触媒の使用量は特に限定されないが、(A2)と有機シラン化合物との合計量に対して0.1〜20質量%が好ましい。(A2)と有機シラン化合物との反応に関しては、特許第2721106号にさらに詳細に記載されている。
【0038】
紫外線吸収性基を有するモノマー(B)
紫外線吸収性基を有するモノマー(B)としては、分子中に重合性二重結合と紫外線吸収性基を同時に有する全てのモノマーを使用できるが、本発明において特に好ましく用いられるのは、下記一般式(B−1)〜(B−3)で表されるモノマーから選ばれる少なくとも1種であり、これらのモノマーを共重合成分として使用することにより、得られるポリマーに紫外線吸収能が付与される。つまり、得られる塗膜に紫外線が照射されても、遮蔽層で紫外線が吸収されてしまうので、遮蔽層よりも下側の部材の変色や劣化を抑えることが可能となる。しかも、添加型紫外線吸収剤を配合した場合のように紫外線吸収剤がブリードアウトすることもないので、紫外線遮蔽性能の持続性が高められると共に、その上にハードコート層が形成される場合の密着性も阻害されない。
【0039】
【化7】
【0040】
(式中、R7は水素原子または炭素数1〜8の炭化水素基を表し、R8は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、シアノ基またはニトロ基を表し、R9は炭素数1〜12の直鎖状もしくは枝分れ鎖状のアルキレン基または−O−R’−(R’は炭素数2または3の直鎖状もしくは枝分れ鎖状のアルキレン基を合わす)を表し、R10は水素原子またはメチル基を表す)で表されるベンゾトリアゾール化合物(B−1)。
【0041】
【化8】
【0042】
(式中、R7、R10は上記と同じ意味を表し、R11は水素原子または水酸基を表し、R12は水素原子または炭素数1〜6のアルコキシ基を表し、R13は炭素数1〜12の直鎖状もしくは枝分れ鎖状のアルキレン基を表す。)で表されるベンゾフェノン化合物(B−2)。
【0043】
【化9】
【0044】
(式中、R10は上記と同じ意味を表し、R14は直接結合、−(CH2CH2O)p−または−CH2CH(OH)−CH2O−を表し、pは1〜5の整数を表す。R15,R16,R17,R18,R19,R20,R21,R22は各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルコキシ基、アルケニル基またはアルキル基を表す。)で表されるトリアジン化合物(B−3)。
【0045】
モノマー(B−1)の好ましい具体例としては、例えば2−[2'−ヒドロキシ−5'−(メタ)アクリロイルオキシメチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2'−ヒドロキシ−5'−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2'−ヒドロキシ−5'−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2'−ヒドロキシ−5'−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2'−ヒドロキシ−3'−tert−ブチル−5'−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2'−ヒドロキシ−5'−(β−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)−3'−tert−ブチルフェニル〕−5−tert−ブチル−2H−ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0046】
モノマー(B−2)の具体例としては、2−ヒドロキシ−4−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]エトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]ブトキシベンゾフェノン、2,2'−ジヒドロキシ−4−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]エトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]エトキシ−4'−(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−4−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]エトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−4−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]ブトキシベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0047】
モノマー(B−3)の具体例としては、例えば2,4−ジフェニル−6−[2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)]−s−トリアジン、2,4−ビス(2−メチルフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)]−s−トリアジン、2,4−ビス(2−メトキシフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)]−s−トリアジン等を挙げることができる。
【0048】
なお、モノマー(B−1)および/またはモノマー(B−2)を使用する場合、紫外線遮蔽層にアルカリ金属や塩基性の強い塩基性化合物が共存すると、塗膜着色の問題や経時的な紫外線吸収性能の低下を招き易いため、これらを抑制する点から、各々の一般式中のR7が、ヒドロキシル基に隣接した位置、すなわち3位にあり、かつ、炭素数4以上のアルキル基であるモノマーの使用が特に好ましい。
【0049】
上記紫外線吸収性基を有するモノマー(B−1)〜(B−3)は、各々化合物特有の紫外線吸収特性を有しているため、紫外線により劣化する樹脂基材や内容物の種類、あるいは、紫外線遮蔽層やハードコート層が積層される透明基材に求められる紫外線遮蔽性能に応じて、単独で使用したり2種以上を適宜組み合わせて使用することが好ましい。
【0050】
各種の樹脂製品や繊維製品は固有の劣化波長を有しており、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等の樹脂製品は、280〜370nmの紫外線で最も劣化するため、トリアジン系モノマー(B−3)を単独で使用するよりも、ベンゾフェノン系モノマー(B−2)やベンゾトリアゾール系モノマー(B−1)をそれぞれ単独で使用することが好ましい。最も好ましいのは、モノマー(B−1)または(B−2)と、モノマー(B−3)との2種併用パターンである。
【0051】
なお、上記紫外線吸収性基を有するモノマー(B−1)〜(B−3)を各々単独で重合し、もしくは2種以上を適宜共重合することによって得られるポリマーを、単独であるいは2種以上をブレンドして、樹脂組成物中に含有させることもできる。
【0052】
炭素数6以上のアルキル基を有するモノマー(C1)
このモノマー(C1)は、具体的には、下記一般式で表される(メタ)アクリレート系モノマーが好ましく用いられる。
【0053】
【化10】
【0054】
(式中、R23は水素原子またはメチル基を表し、Zは炭素数が6以上のアルキル基を表す)。
【0055】
上記モノマー(C1)は、得られるポリマーの疎水性を高めることにより、ポリマー中の反応性シリル基が空気中の水分等で加水分解反応を起こす時の速度と度合いを抑制する作用を有する。このため、樹脂組成物のポットライフを長くすることができる。また、塗膜の耐水性等も向上する。従って、(メタ)アクリレートのエステル結合に連結するアルキル基は疎水性が高いものでなければならず、炭素数6以上が必要である。さらにモノマー(C1)に限られず、(メタ)アクリレート類は、耐候性に優れ、モノマー(B)の有する紫外線吸収性基が光分解されるのを抑制する効果も発揮する。
【0056】
上記式中、Zで表される置換基の具体例としては、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロドデシル基等の脂環式炭化水素基;2−エチルヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基等の直鎖状または分枝鎖状のアルキル基;ボルニル基、イソボルニル基等の多環式炭化水素基であり、中でも脂環式炭化水素基、分枝鎖状アルキル基、直鎖状アルキル基が好ましい。
【0057】
上記モノマー(C1)のより具体的な例としては、例えばシクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等が非限定的に挙げられ、これらの1種または2種以上が使用できる。中でも最も好ましいのは、シクロヘキシル(メタ)アクリレートである。
【0058】
本発明の第1のタイプで用いられるモノマー混合物(D1)および第2のタイプで用いられるモノマー混合物(D2)には、これまで説明した各種モノマー((A1)または(A2)および(B)と(C1))が必須的に含まれるが、必要に応じて、以下のモノマー((C2)、(C3)、(E)、(F)))を併用してもよい。
【0059】
炭素数4〜5のアルキル基を有するモノマー(C2)および炭素数3以下のアルキル基を有するモノマー(C3)
本発明では第1および第2のタイプいずれにおいても、上記炭素数6以上のアルキル基を有するモノマー(C1)を必須成分とするが、ポリマーの疎水性を高めつつ、塗膜の物性を用途に応じて設計変更するために、炭素数4〜5のアルキル基を有するモノマー(C2)や炭素数3以下のアルキル基を有するモノマー(以下、C3とする)を併用することができる。具体的には、モノマー(C2)としては、炭素数4〜5のアルキル基を有する(メタ)アクリレートが、モノマー(C3)としては炭素数3以下のアルキル基を有する(メタ)アクリレートが好ましいものとして挙げられる。
【0060】
より具体的には、炭素数4〜5のモノマー(C2)としては、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、炭素数3以下のモノマー(C3)としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0061】
これらの(メタ)アクリレートは、前記したモノマー(A1)、(A2)、(B)および(C1)との共重合性に優れ、硬く、耐水性や機械的強度に優れた遮蔽層を形成する役割を担う上、安価なため使いやすい。中でも、紫外線遮蔽性積層体を形成するときの基材として、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、あるいはポリエステル系樹脂を使用する場合は、基材との密着性に優れた塗膜を形成するので、メチルメタクリレートが特に好ましい。ただし、メチルメタクリレートは、若干疎水性が低く、ポットライフ延長効果が発現しにくいことから、炭素数6以上のモノマー(C1)と炭素数4〜5のアルキル基を有するモノマー(C2)との合計量(質量)と同量以下で使用することが好ましい。
【0062】
紫外線安定性基を有するモノマー(E)
紫外線安定性基を有するモノマー(E)を共重合させると、塗膜に紫外線安定性が付与され、紫外線遮蔽効果が一層高まる。また、モノマー(B)の紫外線吸収性基の光分解が抑制され、紫外線遮蔽性能が長期間持続することとなる。紫外線安定性基を有するモノマー(E)とは、分子中に重合性二重結合と紫外線安定性基を同時に有するものであれば特にその種類は限定されないが、中でも特に好ましいのは、下記一般式(E−1)や(E−2)で示されるモノマーである。
【0063】
【化11】
【0064】
(式中、R24は水素原子またはシアノ基を表し、R25、R26はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、R27は水素原子または炭化水素基を表し、Yは酸素原子またはイミノ基を表す。)
【0065】
【化12】
【0066】
(式中、R28は水素原子またはシアノ基を表し、R29、R30、R31、R32はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、Xは酸素原子またはイミノ基を表す。)。
【0067】
上記モノマー(E−1)の具体例としては、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等が非限定的に挙げられ、これらは単独でも、必要により2種以上を適宜組み合わせて使用しても構わない。
【0068】
上記モノマー(E−2)の具体例としては、1−(メタ)アクリロイル−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−クロトノイル−4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等が非限定的に挙げられ、これらも単独でも、必要により2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0069】
その他のモノマー(F)
本発明の第1のタイプで用いられるモノマー混合物(D1)および第2のタイプで用いられるモノマー混合物(D2)には、塗膜物性の調整の目的で、これまで説明したモノマー以外のその他のモノマー(F)を含有させてもよい。このようなその他のモノマー(F)の具体例としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸等のカルボキシル基を有するモノマー;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート等の酸性リン酸エステル系モノマー;グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、脂環式エポキシ基含有(メタ)アクリレート(例えば、ダイセル化学工業社製;商品名「CYCLOMER M−100」)等のエポキシ基含有(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、水酸基末端可撓性(メタ)アクリレート(例えば、ダイセル化学工業株式会社製;商品名「プラクセルFM」)等の活性水素基を有するモノマー;(メタ)アクリルアミド、イミド(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の含窒素モノマー;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の2個の重合性二重結合を有するモノマー;塩化ビニル等のハロゲン含有モノマー;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族系モノマー;ビニルエーテル等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0070】
以上が、本発明の第1のタイプで用いられるモノマー混合物(D1)および第2のタイプで用いられるモノマー混合物(D2)として用いることのできるモノマーである。なお、ポリシロキサン結合と反応性シリル基を有するモノマー(A1)と、分子中にSi原子を1個のみ有し、かつ、炭素原子に直結する反応性シリル基を有するモノマー(A2)以外は、第1のタイプと第2のタイプで共通する上位概念のモノマーが用いられるが、その内容は同一である必要はなく、各モノマーの下位概念から適宜1種または2種以上選択することができる。すなわち、例えば、モノマー混合物(D1)に用いられるモノマー(B)と、モノマー混合物(D2)に用いられるモノマー(B)とは、モノマー(B)を構成する化合物群が同じであっても異なっていてもよいという意味である。また、タイプ1のモノマー(A1)の原料として用いられるモノマー(A2)と、タイプ2で用いられるモノマー(A2)は同一の化合物でも異なる化合物であってもよく、2種以上を併用するものであっても構わない。
【0071】
モノマー混合物(D1)において用いることのできる各モノマーの好ましい量は、以下の通りである。なお、下記の量範囲は、使用するモノマーの合計量が100質量%になるように選択する場合の各モノマーの好ましい使用量の目安である。
【0072】
ポリシロキサン結合と反応性シリル基を有するモノマー(A1);3質量%以上(より好ましくは5質量%以上)、50質量%以下(より好ましくは30質量%以下)、
紫外線吸収性基を有するモノマー(B);0.1質量%以上(より好ましくは3質量%以上)、60質量%以下(より好ましくは40質量%以下)、
炭素数6以上のアルキル基を有するモノマー(C1);3質量%以上(より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上、最も好ましくは11質量%以上)、80質量%以下(より好ましくは60質量%以下)、
炭素数4〜5のアルキル基を有するモノマー(C2)および炭素数3以下のアルキル基を有するモノマー(C3);適宜調整、
紫外線安定性基を有するモノマー(E);0.1質量%以上(より好ましくは0.5質量%以上)、30質量%以下(より好ましくは10質量%以下)、
その他のモノマー(F);適宜調整
【0073】
モノマー混合物(D2)において用いることのできる各モノマーの好ましい量については、反応性シリル基を有するモノマー(A2)が3質量%以上(より好ましくは5質量%以上)、50質量%以下(より好ましくは40質量%以下)である以外は、モノマー混合物(D1)の場合のモノマー(B)、(C1)〜(C3)、(D)、(E)および(F)の好ましい量と同じである。ポリマー合成後に、有機シラン化合物を反応させるときには、モノマー(A2)と有機シラン化合物からモノマー(A1)を合成する反応の際と同様の理由で、ポリマー中の(A2)と有機シラン化合物の合計を100モル%として、有機シラン化合物が70モル%を超えるように、(A2)が30モル%以下となるように、使用することが好ましい。
【0074】
いずれのモノマー混合物を用いる場合においても、モノマー(A1)または(A2)の使用量が30質量%を超えると、反応点が増加する結果、樹脂組成物のポットライフが短くなっていく。そして次第に、炭素数6以上のアルキル基を有するモノマー(C1)の存在によってもゲル化の進行を止められなくなるため好ましくない。逆に、モノマー(A1)または(A2)の使用量が3質量%未満では、速やかな硬化性を有する樹脂組成物を提供するという本発明のもう一つの目的を達成することが難しくなる。
【0075】
次に本発明の樹脂組成物を製造する方法を説明する。まず第1のタイプの樹脂組成物は、前記した方法で合成したポリシロキサン結合と反応性シリル基を有するモノマー(A1)と紫外線吸収性基を有するモノマー(B)と炭素数6以上のモノマー(C1)を必須的に含むモノマー混合物(D1)を重合すればよい。また、第2のタイプの樹脂組成物においては、炭素原子に直結する反応性シリル基を有するモノマー(A2)と紫外線吸収性基を有するモノマー(B)と炭素数6以上のモノマー(C1)を必須的に含むモノマー混合物(D2)を最初に重合する。
【0076】
重合方法には格別の制限はなく、公知の重合法、例えば溶液重合法、分散重合法、懸濁重合法、乳化重合法等を使用できる。溶液重合法では、得られた反応生成物をそのままあるいは希釈するだけで、本発明の樹脂組成物を得ることができるため、好ましい重合法である。溶液重合の際に用いる溶媒としては、トルエン、キシレン、その他の芳香族系溶媒;n−ブチルアルコール、プロピレングリコールメチルエーテル、ダイアセトンアルコール、エチルセロソルブ等のアルコール系溶媒;酢酸ブチル、酢酸エチル、セロソルブアセテート等のエステル系溶媒;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ジメチルホルムアミド等を使用できる。使用する溶媒の種類はこれらに限定されるものではない。これらの溶媒は1種のみを使用してもよいし、2種以上を混合溶媒として使用してもよく、溶媒の使用量は、モノマー濃度、ポリマーの所望の分子量、ポリマー溶液濃度等を考慮し適宜定めればよい。
【0077】
またモノマー混合物(D1)や(D2)を重合させる際には、重合開始剤が通常使用される。重合開始剤としては、例えば、2,2'−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド等の公知のラジカル重合開始剤が使用可能である。重合開始剤の使用量は、ポリマーの要求特性等に応じて適宜決定すべきものであり、特に限定はないが、モノマー混合物(D1)または(D2)の全量に対し0.01質量%以上、50質量%以下が好ましく、より好ましくは0.05質量%以上、20質量%以下である。
【0078】
また必要に応じて、例えば、n−ドデシルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、(CH3O)3Si−S−S−Si(OCH3)3のような連鎖移動剤を1種以上添加し、ポリマーの分子量を調整してもよい。
【0079】
重合反応の温度も特に限定されないが、室温〜200℃の範囲が好ましく、40〜140℃がより好ましい。なお反応時間は、用いるモノマー混合物の組成や重合開始剤の種類等に応じて、重合反応が効率よく完結し得るように適宜設定すればよい。
【0080】
ポリマーの分子量も特に限定されないが、重量平均分子量(Mw)で2,000〜1,000,000が好ましい。また、より好ましいMwの下限は20,000、さらに好ましい下限は50,000であり、より好ましいMwの上限は800,000、さらに好ましい上限は500,000である。ここでいう重量平均分子量とは、GPCを用いて標準ポリスチレンを基準として求めた値を意味する。
【0081】
第1のタイプの樹脂組成物は、モノマー混合物(D1)から得られたポリマーを含有するものであるが、塗工の際の作業性等の観点からは、溶媒でポリマーを溶解させた溶液状態であることが好ましい。溶媒としては、前記溶液重合の際に例示した溶媒がいずれも使用可能である。溶液重合以外の方法でポリマーを合成した場合は、重合後、ポリマーを分取して溶媒に溶解させればよい。
【0082】
第2のタイプの樹脂組成物を得るには、モノマー混合物(D2)から得られたポリマーを有機シラン化合物で変性する必要がある。変性ポリマーの合成反応は、モノマー混合物(D2)から得られたポリマーと有機シラン化合物を混合すればよく、前記したポリシロキサン結合と反応性シリル基を有するモノマー(A1)と有機シラン化合物を反応させるときと同様に行えばよい。なお、第1のタイプの樹脂組成物と第2のタイプの樹脂組成物を混合して用いても本願の目的を達成できるため、何ら差し支えない。
【0083】
本発明の樹脂組成物(以下の説明では第1および第2のタイプの樹脂組成物を単に樹脂組成物で代表する)には、種々の添加剤が含まれていてもよい。以下、添加剤として好適に使用できる化合物を説明する。
【0084】
脱水剤
脱水剤は、保存時の加水分解反応とそれによるポットライフの短縮化を抑える効果を有する。脱水剤としては、例えば、オルト蟻酸メチル、オルト蟻酸エチル、オルト酢酸メチル、オルト酢酸エチル、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メチルシリケート、エチルシリケート等の加水分解性エステル化合物等が非限定的に挙げられ、これらの1種または2種以上を使用できる。
【0085】
硬化触媒
樹脂組成物の主成分のポリマー(第2のタイプの変性ポリマーも含む。以下同様)は、反応性シリル基の存在によって硬化反応性を示すが、さらに硬化反応を促進させたい場合には、硬化触媒を使用することも有効である。硬化触媒としては、例えばジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジマレエート、ジオクチルスズジラウレート、オクチル酸スズ等の有機スズ化合物;リン酸、モノメチルホスフェート等のリン酸またはリン酸エステル;アルキルチタン酸塩;トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム等の有機アルミニウム化合物;テトラブチルジルコネート、テトラキス(アセチルアセトナート)ジルコニウム等の有機ジルコニウム化合物;酢酸、プロピオン酸、マレイン酸およびこれらの酸無水物、パラトルエンスルホン酸等の酸性化合物;トリエチルアミン、4級アンモニウム塩類の他、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤類;アミンと酸性リン酸エステルとの混合物または反応物;水酸化ナトリウム等のアルカリ性化合物等が非限定的に例示される。
【0086】
これら硬化触媒の中でも好ましいのは、触媒活性の特に高い有機スズ化合物、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルとアミンの混合物または有機スズ化合物と有機酸との混合物、飽和もしくは不飽和多価カルボン酸またはその酸無水物、アミノ基を有するシランカップリング剤、有機チタネート化合物、有機アルミニウム化合物またはこれらの混合物等である。
【0087】
これら硬化触媒の好ましい使用量は、ポリマーの固形分に対して、0.001〜20質量%、より好ましくは0.01〜10質量%の範囲である。
【0088】
紫外線安定剤
前記した紫外線安定性基を有するモノマー(E)を用いずにポリマーを合成した場合には、添加型の紫外線安定剤を用いることもできる。添加型の紫外線安定剤として好ましいのは、立体障害ピペリジン化合物であり、例えば市販品としては、「チヌビン123」、「チヌビン144」、「チヌビン765」(いずれもチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)等が挙げられる。また、これらの比較的低分子量の紫外線安定剤はブリードアウトの可能性があるため、前記した紫外線安定性基を有するモノマー(E)から別途ポリマー型の紫外線安定剤を合成し、これを添加してもよい。なお、添加型の紫外線吸収剤はブリードアウトの影響が大きいため、使用しないことが好ましい。
【0089】
紫外線安定剤の好ましい配合量は、ポリマー100質量%に対して0.1〜15質量%の範囲である。0.1質量%未満では、特にモノマー(E)を使用しない場合にモノマー(B)の紫外線吸収性基の光分解抑制作用が不充分となり、紫外線遮蔽能を長期的に維持できないことがあるが、15質量%を超えて過度に添加するとブリードアウトし易くなったり、耐水性を低下させるため好ましくない。
【0090】
その他の樹脂
樹脂組成物中には、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、その他の樹脂を一部共存させてもよい。例えば、熱可塑性樹脂や樹脂自身の作用あるいは硬化剤(架橋剤)によって架橋硬化する熱硬化性樹脂が挙げられる。これら他の樹脂の種類や使用量は、紫外線遮蔽性樹脂積層体の用途や要求特性等に応じて適宜決定すればよい。その他の樹脂の具体例としては、塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂等の熱可塑性樹脂;ウレタン系樹脂、アミノプラスト系樹脂、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂等の単独硬化型の熱・紫外線・電子線硬化性樹脂;ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等の硬化剤によって硬化する熱硬化性樹脂を挙げることができる。
【0091】
その他の添加剤
塗料等の層形成用組成物に一般に使用されるレベリング剤、酸化防止剤、タルク等の充填剤、防錆剤、蛍光性増白剤、酸化防止剤、帯電防止剤、顔料、染料、増粘剤、コロイダルシリカ、アルミナゾル等の無機微粒子やポリメチルメタクリレート系のアクリル系微粒子等を添加してもよい。また、特開平7−178335号公報や同9−302257号公報に記載されているような無機微粒子の表面に有機ポリマーが固定された複合無機微粒子を添加することもできる。さらには、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系、インドール系等の有機系紫外線吸収剤や酸化亜鉛等の無機系紫外線吸収剤を一部含んでも構わない。
【0092】
本発明の樹脂組成物は、基材の表面側に紫外線遮蔽層を形成して、紫外線遮蔽性積層体を形成するために用いられる。このとき、基材の表面に直接または必要に応じて接着改善層(プライマー層等)や印刷層、熱線遮蔽層、粘着層、(半)透明無機蒸着膜等のガスバリヤー層等を介して形成することができる。樹脂組成物から得られる乾燥塗膜(紫外線遮蔽層)100質量%中の本願に係るポリマー(変性ポリマーも含む。以下同じ)が50質量%以上、好ましくは80質量%以上含まれるように、上記各種添加剤の量を規制することが望ましい。50質量%未満では塗膜の耐候性が不充分となるおそれがある。
【0093】
紫外線遮蔽性積層体
以下、本発明の樹脂組成物を用いて形成される紫外線遮蔽性積層体について説明する。基材として最適なのは、紫外線により劣化し易い樹脂であり、このような樹脂基材こそが本願の紫外線遮蔽層を必要とするからである。紫外線により劣化するとは、紫外線により主鎖が切断して分子量が低下したり、逆に架橋によってゲルが形成する等の化学構造が変化して、その結果として、機械強度・透明性低下あるいは黄変等の物性低下を起こすことをいう。このような樹脂としては、ポリカーボネート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ABS系樹脂、ポリスチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。中でも、安価で軽くて丈夫でかつ透明性に優れたポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂が好ましい。
【0094】
上記樹脂基材の形状や製法はどのようなものでもよく、特に限定はないが、汎用性の高いものは、平板状や曲板状、波板状等の板状あるいはフィルム状のものである。また、木目印刷等の印刷を施した意匠性のある樹脂基材を使用することも可能である。さらに、ガラス等の無機質透明基材で作られた容器等の内容物を紫外線から守る目的で、無機質透明基材の表側に紫外線遮蔽層を設けることもできる。
【0095】
紫外線遮蔽層形成用樹脂組成物を基材に塗布する方法としては、浸漬、吹き付け、刷毛塗り、カーテンフローコート、グラビアコート、ロールコート、スピンコート、バーコート、静電塗装等の公知の塗工方法がいずれも採用可能である。
【0096】
紫外線遮蔽層の厚さは、Lambert−Beerの法則により、ポリマーに導入されている紫外線吸収性基の量、すなわち重合の際の紫外線吸収性基を有するモノマー(B)の使用量に依存する。従って、ポリマー中の紫外線吸収性基の量と、紫外線遮蔽性積層体に要求される耐候性や紫外線遮蔽性能を勘案して、層の厚さを決定すればよい。通常、0.5〜500μmの範囲内である。厚さが500μmを超えると、紫外線吸収性能が飽和してコスト的に無駄である。逆に厚さが0.5μm未満では、基材上へ均一に塗工するのが困難であり、紫外線遮蔽能も不充分になるおそれがある。より好ましい厚さの範囲は1〜300μm、さらに好ましくは2〜50μmである。
【0097】
本発明の樹脂組成物を基材に薄膜状に塗布して紫外線遮蔽層を形成するときの硬化温度は、樹脂組成物の主成分であるポリマーに含まれる反応性シリル基の量や使用する硬化触媒の種類によって異なるが、一般的には室温〜200℃で硬化させるのが好ましい。
【0098】
本発明の積層体は、基材と紫外線遮蔽層(基材と紫外線遮蔽層との間に前記した他の層があっても構わない)の積層構造であっても、紫外線遮蔽性層が耐水性・強度・耐候性等種々の特性に優れているものであるため、このまま種々の用途に活用することができる。しかし、窓ガラス等の用途に用いるには、耐擦傷性や表面硬度を一層高めるため、紫外線遮蔽層の表層(基材と反対側)にハードコート層を備える構造のものが好ましい。ハードコート層は、高硬度で耐擦傷性に優れた塗膜を形成することのできる樹脂を用いて形成することが好ましく、このような樹脂であれば特に限定されないが、シリコーン系硬化性樹脂や有機系硬化性樹脂等が好ましく使用できる。
【0099】
シリコーン系硬化性樹脂とは、シロキサン結合を持った硬化性の樹脂であり、例えばトリアルコキシシランやテトラアルコキシシラン等のアルコキシシランまたはそれらのアルキル化物の部分加水分解物、メチルトリアルコキシシランやフェニルトリアルコキシシラン等の混合物を共加水分解したもの、コロイド状シリカ充填オルガノトリアルコキシシランの部分加水分解縮合物、ペルヒドロポリシラザン等が挙げられる。市販品としては、例えば「トスガード510」、「UVHC8553」(以上、東芝シリコーン社製);「KP−851」、「X−12−2400」、(以上、信越シリコーン社製);「ソルガードNP720」、「ソルガードRF0831」(以上、日本ダクロシャムロック社製)、「P110」、「L110」、「V110」(以上、クラリアントジャパン社製)等が例示される。
【0100】
一方、有機系硬化性樹脂としては、例えばメラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、多官能アクリル樹脂等が挙げられ、多官能アクリル樹脂としては、ポリオールアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート等の樹脂が好ましいものとして例示される。
【0101】
また、ハードコート層の形成のため、上記シリコーン系硬化性樹脂と上記有機系硬化性樹脂をブレンドして用いてもよく、さらに、本発明に係るポリマーをブレンドしてもよい。ハードコート層に要求される硬度や耐擦傷性等の性能レベルに応じて、ブレンド量は適宜決定すればよいが、ハードコート層を構成する樹脂100質量%に対しシリコーン系硬化性樹脂が60質量%以上含まれ、好ましくは80質量%以上含まれていることが望ましい。60質量%未満では、硬度や耐擦傷性等が不足するおそれがある。なお、前記した各種添加剤をハードコート層形成のために用いても構わない。
【0102】
本発明の積層体は、ハードコート層と共に、またはハードコート層を用いずに、積層構造内もしくは積層体の最表層に熱線遮蔽層を備えるものであってもよい。自動車用や建築物用の窓材として用いるときに、車内や室内の備品等の紫外線劣化を防ぐと共に、車内や室内の温度上昇を防いで冷暖房費の節減に効果的である。また積層体構造内もしくは積層体の最表層に、耐汚染性向上のための光触媒機能層;ガスバリア層;導電層、磁性層等;防曇層等を形成することも有効である。さらに、有機系基材と無機系基材のような2枚の基材の間に本発明の紫外線遮蔽層を中間層として形成し、合せガラスとしての使用も可能である。
【0103】
熱線遮蔽層を形成するには、例えば、基材内部に熱線遮蔽性物質を分散させたり、基材の片面もしくは両面に、熱線遮蔽性物質を含む塗料を塗布する方法が採用可能である。また、本発明の樹脂組成物中に熱線遮蔽性物質を添加して、紫外線と熱線を同時に遮蔽できる層を形成してもよい。
【0104】
熱線遮蔽性物質としては、赤外線領域に吸収を有する物質であれは特に制限されないが、用途によっては、可視光領域(400〜700nm)での着色が少なく、かつモル吸光係数の大きいものが望ましく、有機系・無機系の公知の熱線遮蔽性物質を1種もしくは2種以上組合わせて使用できる。また用途によっては可視光線領域の調色を行ったり、目的とする色に着色するために可視光線領域に吸収のある物質を併用してもよい。
【0105】
【実施例】
以下、実施例および比較例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるわけではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお下記実施例および比較例において、「部」および「%」とあるのは、質量部または質量%を表す。
【0106】
モノマー合成例(第1のタイプのモノマー(A1)の合成)
攪拌機、温度計、冷却管を備えたフラスコに、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(モノマー(A2))12.4部(0.05モル)、有機シラン化合物として、テトラメトキシシラン106.4部(0.7モル)とジメチルジメトキシシラン30部(0.25モル)、メタノール100部、水18部(1モル)、固体触媒(ローム・アンド・ハース・ジャパン社製の陽イオン交換樹脂;商品名「アンバーリスト15」)5部を入れ、メタノールの還流下(65℃)で2時間撹拌し、反応させた。
【0107】
反応混合物を室温まで冷却した後、冷却管に変えて、冷却管と留出口を備えた蒸留塔をセットし、常圧下で80℃まで2時間かけて昇温し、留出する液(メタノール)が無くなるまで同温度で保持した。さらに、26.6kPa(200mmHg)、90℃で留出液が無くなるまで保持し、反応させた。再度、室温まで冷却した後、固体触媒を濾別し、数平均分子量が1800のポリシロキサン結合と反応性シリル基を有するモノマー(A1)を得た。
【0108】
ポリマー合成例1(第1のタイプのポリマーの合成)
モノマー合成例1で合成したモノマー(A1)10部、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシシエチル)フェニル]―2H−ベンゾトリアゾール(モノマー(B);大塚化学社製;商品名「RUVA93」)20部、シクロヘキシルメタクリレート(モノマー(C1))20部、2−エチルヘキシルアクリレート10部(モノマー(C1))、ブチルアクリレート(モノマー(C2))10部、メチルメタクリレート(モノマー(C3))30部、ダイアセトンアルコール110部、メチルイソブチルケトン30部およびオルソ蟻酸メチル(脱水剤)10部を仕込み、窒素ガスを導入して撹拌しながら110℃に昇温させた。開始剤としてtert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート4部とメチルイソブチルケトン30部との混合物を2時間かけて滴下し、滴下後さらに4時間加熱して、重合を行った。不揮発分濃度が38.8%のポリマー溶液No.1を得た。このポリマーの重量平均分子量(Mw)は56000であった。なお各合成例において、不揮発分濃度は、ポリマー溶液1gを秤量し、200℃で15分加熱乾燥させて測定した値であり、重量平均分子量はGPCを用いて標準ポリスチレンを基準として求めた値である。表1にモノマーの種類等と仕込み・配合量等をまとめた。
【0109】
ポリマー合成例2〜13
表1に示したようにモノマー種類等と仕込み・配合量を変えた以外は、上記ポリマー合成例1と同様にしてポリマー溶液No.2〜13を製造し、それらの特性を表1に併記した。なお、合成例2では、添加型紫外線安定剤(立体障害ピペリジン化合物;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製;商品名「チヌビン123」)2部を、重合終了後にフラスコ内へ添加した。
【0110】
【表1】
【0111】
なお、表1中の略語は、下記の意味である。
モノマー(A1):モノマー合成例1で合成したポリシロキサン結合と反応性シリル基を有するモノマー(A1)
モノマー(B):紫外線吸収性基を有するモノマー(B)
UVA▲1▼:2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]―2H−ベンゾトリアゾール(大塚化学社製;商品名「RUVA93」)
UVA▲2▼:2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)ベンゾフェノン(大阪有機化学工業社製;商品名「BP−1A」)
UVA▲3▼:2,4−ジフェニル−6−[2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)−s−トリアジン
モノマー(C1):炭素数6以上のアルキル基を有するモノマー(C1)
CHMA:シクロヘキシルメタクリレート
2EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
モノマー(C2):炭素数4〜5のアルキル基を有するモノマー(C2)
t−BMA:tert−ブチルメタクリレート
BA:ブチルアクリレート
モノマー(C3):炭素数3以下のアルキル基を有するモノマー(C3)
MMA:メチルメタクリレート
モノマー(E):紫外線安定性基を有するモノマー(E)
HALS▲1▼:紫外線安定性基を有するモノマー(旭電化工業社製;商品名「アデカスタブLA82」)
DAA:ダイアセトンアルコール
MIBK:メチルイソブチルケトン
【0112】
ポリマー合成例14(第2のタイプのポリマーの合成および変性)
3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(モノマー(A2))を用い、表2に示したようにモノマー種類等と仕込み・配合量等を変えた以外はポリマー合成例1と同様にしてポリマー(変性前)の合成を行い、不揮発分38.7%のポリマー溶液を得た。このポリマー溶液が入っているフラスコ内に、テトラメトキシシラン100部とジメチルメトキシシラン30部、メタノール13部、水18部、前記固体触媒5部を加え、撹拌しつつ65℃で4時間反応させた。トルエンで不揮発分が15%になるように希釈し、室温まで冷却した後、固体触媒を濾別した。変性ポリマーが含まれたポリマー溶液No.14を得た。
【0113】
ポリマー合成例15〜22
表2に示したようにモノマー種類等と仕込み・配合量等を変えた以外は、上記ポリマー合成例14と同様にして、ポリマーの合成および変性を行って、ポリマー溶液No.15〜22を製造した。特性を表2に併記した。
【0114】
【表2】
【0115】
表2中の「モノマー(A2)」は、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの意味である。
【0116】
実験例1〜19
ポリマー合成例1〜11とポリマー合成例14〜21で得られたポリマー溶液No.1〜11とNo.14〜21をトルエンで不揮発分が10%になるように希釈し、硬化触媒としてN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシランを不揮発分に対して5000ppm添加して混合した後、得られた溶液を、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(商品名「ルミラーT」;東レ社製)にバーコーターで乾燥厚さが約10μmとなるように塗工し、80℃で1時間乾燥させた。硬化塗膜(紫外線遮蔽層)が形成された積層体が得られた。
【0117】
各実験例において下記項目の評価を行い、結果を表3および表4に示した。なお、一部の実験例(比較実験例も含む)については、紫外線劣化性樹脂基材として、厚さ500μmポリカーボネート(PC)シート(商品名「レキサン9034クリヤ」;旭硝子社製)を用いた。
【0118】
比較実験例1〜3
ポリマー合成例12〜13とポリマー合成例22で得たポリマー溶液No.12〜13とNo.22をトルエンで不揮発分が10%になるように希釈し、硬化触媒としてN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシランを不揮発分に対して5000ppm添加して混合した後、得られたポリマー溶液を用いて、実験例1〜19の場合と同様に硬化塗膜が形成された積層体を作製した。下記項目の評価を行い、結果を表3および表4に示した。
【0119】
(1)硬化性
各基材上に積層された紫外線遮蔽層(塗膜)の表面を、トルエンを充分に含ませた脱脂綿で50回擦り、硬化性を下記の基準で評価した。
〇;塗膜に異常なし、△;塗膜に僅かに傷が付く、×;塗膜全面に傷が付く、または塗膜が膨潤あるいは一部溶解する。
【0120】
(2)ポットライフ
硬化触媒を配合する前の各合成例で得られた不揮発分10%のポリマー溶液70gを100mlの容器に入れ、蓋をすることなく、40℃、相対湿度90%に調湿された雰囲気下で、マグネットスターラーで撹拌しながら放置した。ゲル化して内容物が完全に固化するまでの時間を測定し、下記基準で評価した。
○;30日間以上放置してもゲル化しない、○〜△;20日間以上30日間未満でゲル化した、△〜×;10日間以上20日間未満でゲル化した、×;10日間未満でゲル化した。
【0121】
(3)耐候性1(UVカット率とその保持率)
紫外線遮蔽層が積層された積層体試験片を、固定式メタルハライドランプ型促進耐候性試験機であるスガ試験機社製の超エネルギー照射試験機「UE−IDEC型」(インナーフィルターとして石英、アウターフィルターとして#275を使用)に、紫外線入射側が紫外線遮蔽層となるようにセットした。[70℃、70%RHの環境下、100mW/cm2の紫外線を6時間照射]→[50℃、90%RHの環境下、6時間放置]を1サイクルとし、20サイクル、40サイクル、60サイクルと曝露を繰り返した。
【0122】
島津製作所社製の分光光度計(「UV−3100」)を使用して、ブランクとして各積層体の基材のみの紫外線透過率(%)を測定すると共に、耐候性試験前後の360nmにおける紫外線透過率(%)を測定し、試験前(初期)のUVカット率[(100−紫外線透過率)(%)]を求めた。また、この初期のUVカット率をX、各サイクル後のUVカット率をYとしたときに、[(X−Y)/X]×100(%)によって求められる値をUVカット率の保持率(%)とした。なお、表中「××」とあるのは基材(PETまたはPC)が劣化して破壊してしまい、測定不能であったことを意味する。
【0123】
(4)耐候性2(塗膜外観)
上記(3)の耐候性1の各サイクル毎に、紫外線遮蔽層の外観を下記基準で評価した。
○:異常なし、○〜△:マイクロクラックが僅かに入る、△:僅かに艶引けまたは黄変、×:全体が艶引け・黄変、××:基材破壊により評価不能
【0124】
(5)耐湿性
紫外線遮蔽層が積層された積層体試験片を、50℃、95%RHの環境下に、1000時間および2000時間保持した後の紫外線遮蔽層の外観をそれぞれ下記基準で評価した。
○:異常なし、△:僅かに艶引けまたは白化、×:全体が艶引け・白化
【0125】
(6)耐温水性
紫外線遮蔽層が積層された積層体試験片を、60℃の温水中に14日間および28日間浸漬した後、取り出し、紫外線遮蔽層の外観をそれぞれ下記基準で評価した。
○:異常なし、△:僅かに艶引けまたは白化、×:全体が艶引け・白化
【0126】
【表3】
【0127】
【表4】
【0128】
表3の結果から、紫外線吸収性基を有するモノマー(B)が用いられていない比較実験例1では初期特性はともかく、耐候性、耐水性、耐温水性のいずれの特性も非常に劣った結果となった。比較実験例2および3では、必須モノマー(C1)が用いられていないため、ポットライフが短い。他の特性も経時的に劣化しており、紫外線吸収性基が光分解しているためと考えられる。一方、実験例1〜19は、硬化性とポットライフが両立していた上に、硬化塗膜の耐候性が長期に亘って優れていた。また、耐湿性、耐温水性にも優れるものであった。なお、実験No.8、9、17、18の硬化性が△になっているのは、モノマー(A1)または(A2)の使用量が少ないため、No.11のポットライフが○〜△になっているのは、モノマー(A1)の量に比べてモノマー(C1)の使用量が少ないためであると考えられる。
【0129】
実験例20〜38および比較実験例4〜6
実験例1〜19および比較実験例1〜3で得られた紫外線遮蔽層積層体の紫外線遮蔽層の上に、シリコーン樹脂系ハードコート剤として「ソルガードNP730」(日本ダクロシャムロック社製)を乾燥後の塗膜厚が5μmとなるように塗工して、120℃で1時間加熱して硬化させ、ハードコート層を形成した。得られた各ハードコート層含有積層体について次のように評価し、その結果を表5および表6に示した。
【0130】
[耐候性促進条件]
ハードコート層と紫外線遮蔽層が積層された積層体試験片を、前記スガ試験機社製のサンシャインウエザーメーターで、サンシャインスーパーロングライフカーボンを使用し、63℃で降雨なし2時間と、同じく63℃で降雨18分間のサイクルを繰り返す条件で、3000時間および5000時間の曝露を行った。初期(促進試験前)、3000時間後、5000時間後のそれぞれについて、塗膜外観、層間密着性、表面硬さを評価した。
【0131】
[塗膜外観]
初期(促進試験前)、曝露3000時間後および5000時間後に、積層体試験片の外観を下記基準で評価した。
○:異常なし、○〜△:マイクロクラックが僅かに入る、△:僅かに艶引けまたは黄変、×:全体が艶引け・黄変、××:基材破壊により評価不能
【0132】
[層間密着性]
初期(促進試験前)、曝露3000時間後、曝露5000時間後の各積層体試験片に、ハードコート層側から100個の碁盤目(1mm2)を刻み、碁盤目部分にセロファンテープを密着させ、次いで密着したセロファンテープを、剥離角度が積層体に対して直角となるように急激に手で剥がし、剥離した碁盤目の個数を勘案しながら、積層体試験片の外観を下記基準で評価した。
○:異常なし、△1:碁盤目が僅かにハードコート層と紫外線遮蔽層との間で剥離する、△2:碁盤目が僅かに紫外線遮蔽層と基材との間で剥離する、×1:かなりの碁盤目がハードコート層と紫外線遮蔽層との間で剥離する、×2:かなりの碁盤目が紫外線遮蔽層と基材との間で剥離する。
【0133】
[表面硬さ]
ASTM D 1044に準拠し、テーバー摩耗試験機で摩耗輪としてCS−10Fを用いハードコート層を摩耗させる。試験荷重は4.9N(500gf)、試験回数は500回とした。試験片の摩耗試験前後のヘイズの変化を、分光側色色差計(「SZ−Σ90」;日本電色工業社製)を用いて測定した。ブランクとして、試験前の積層体のヘイズを測定してから、試験後の積層体のヘイズを測定し、下記基準で表面硬さを評価した。
A:ヘイズ変化10%未満…充分な表面硬度がある、B:ヘイズ変化10%以上20%未満…やや傷が付きやすい、C:ヘイズ変化20%以上…傷が付きやすい。
【0134】
【表5】
【0135】
【表6】
【0136】
表5の結果から、紫外線吸収性基を有するモノマー(B)が用いられていない比較実験例4は初期特性は良好であるが、曝露3000時間後には層間密着性試験においてかなりの碁盤目がハードコート層と紫外線遮蔽層との間で剥離し、表面も傷が付きやすい状態となったため、以後の評価を中止した。比較実験例5(表5)および6(表6)では、塗膜外観は良好であったが、必須モノマー(C1)が用いられていないため、他の特性が経時的に劣化しており、紫外線吸収性基が光分解しているためと考えられる。一方、本発明例である実験例20〜38では、塗膜外観、層間密着性、表面硬さが長期に亘って優れていた。なお、実験No.28および37の層間密着性や表面硬さが、若干、経時低下しているのは、モノマー(A1)または(A2)の使用量が少ないためであると考えられる。
【0137】
【発明の効果】
紫外線遮蔽層形成用の樹脂組成物の主体となるポリマー中に反応性シリル基を多数導入したので、硬化性に優れた樹脂組成物を得ることができた。また、炭素数6以上のアルキル基を有するモノマー(C1)を併用することで、樹脂組成物がゲル化により固化してしまうという問題を解決し、硬化性とポットライフを両立させることができた。
【0138】
本発明の紫外線遮蔽層形成用樹脂組成物から形成された紫外線遮蔽層は、紫外線遮蔽能を長期に亘って発揮するので、紫外線により劣化する基材等に適用することで、紫外線遮蔽性積層体を製造することができる。また、紫外線劣化し易い樹脂基材の表面にシリコーン樹脂系のハードコート層を形成して耐擦傷性を改善する際に、紫外線遮蔽層を下地層として使用することにより、基材樹脂の変色・劣化等を抑えて耐候性を高めると共に、ハードコート層との密着性も大幅に高めることができた。
【0139】
従って、本発明の紫外線遮蔽性積層体は、例えば表面保護用(各種食品包材や、太陽電池、ポリマー電池等)、絶縁用(絶縁膜や表示素子等)、光学用(レンズ、反射防止膜等)、建築材料用(防音壁等)、防汚用シート・テント用、マーキングフィルム用、屋外展張用(農業ハウス等)、屋内外のオーバーレイ(表示材料、電飾看板等)、窓用(車輌、建築、採光材等)等、様々の用途に幅広く活用できる。
Claims (7)
- 少なくとも末端に反応性シリル基を有すると共に、この末端反応性シリル基が、置換基を有していてもよいポリシロキサン結合を介して炭素原子に連結した構造の反応性シリル基含有モノマー(A1)、紫外線吸収性基を有するモノマー(B)および炭素数6以上のアルキル基を有するモノマー(C1)を必須的に含むモノマー混合物(D1)から合成されるポリマーを含有し、モノマー混合物(D1)において、上記モノマー(A1)、上記モノマー(B)および上記モノマー(C1)の合計を100質量%としたときに、上記モノマー(A1)が5質量%以上、30質量%以下、上記モノマー(B)が3質量%以上、40質量%以下、上記モノマー(C1)が5質量%以上、60質量%以下であり、前記モノマー混合物(D1)は、前記モノマー(C1)として、少なくともシクロヘキシル(メタ)アクリレートを含むことを特徴とする紫外線遮蔽層形成用樹脂組成物。
- 上記反応性シリル基を有するモノマー(A1)が、分子中にSi原子を1個のみ有し、かつ、炭素原子に直結する反応性シリル基を有するモノマー(A2)と有機シラン化合物との反応物である請求項1に記載の紫外線遮蔽層形成用樹脂組成物。
- 上記モノマー混合物(D1)が、さらに、炭素数4〜5のアルキル基を有するモノマー(C2)を含むものである請求項1〜3のいずれかに記載の紫外線遮蔽層形成用樹脂組成物。
- 上記モノマー混合物(D1)が、さらに、紫外線安定性基を有するモノマー(E)を含むものである請求項1〜4のいずれかに記載の紫外線遮蔽層形成用樹脂組成物。
- 紫外線劣化性樹脂基材とハードコート層との間に紫外線遮蔽層を形成するために用いられるものである請求項1〜5のいずれかに記載の紫外線遮蔽層形成用樹脂組成物。
- 紫外線劣化性樹脂基材とハードコート層との間に、請求項1〜5のいずれかに記載の紫外線遮蔽層形成用樹脂組成物から得られた紫外線遮蔽層を備えることを特徴とする紫外線遮蔽性積層体。
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