JP4110837B2 - 無段変速機の作動油漏れ量算出装置及びそれを含む無段変速機の制御装置 - Google Patents
無段変速機の作動油漏れ量算出装置及びそれを含む無段変速機の制御装置 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、無段変速機の制御装置に関し、特に無段変速機の油室における作動油の漏れ量を算出する装置に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
従来、自動車等の変速機として、無段変速機が利用されている。この無段変速機では、ベルト式においては、エンジン側のプライマリシーブと車輪側のセカンダリシーブとにVベルトが掛け回され、プライマリシーブ及びセカンダリシーブの溝幅を変更することで変速比を連続的に変更している。
【0003】
この無段変速機において変速比を変更するための駆動力については、一般的に油圧アクチュエータからの油圧によって発生させる。そして、油圧アクチュエータの一例として、アップシフト用の増速用流量制御弁とダウンシフト用の減速用流量制御弁を別々に備えている流量制御装置が用いられている。アップシフト時には、増速用流量制御弁を通ってプライマリシーブの油室に作動油が流入することで、Vベルトがプライマリシーブに巻きかかる部分の回転半径が増大してアップシフトが行われる。一方、ダウンシフト時には、減速用流量制御弁を通ってプライマリシーブの油室から作動油が流出することで、Vベルトがプライマリシーブに巻きかかる部分の回転半径が減少してダウンシフトが行われる。また、増速用流量制御弁及び減速用流量制御弁がともに非作動となる状態において、プライマリシーブの油室の圧力を補償するためにバイパス油路が設けられている。
【0004】
上記のように、無段変速機の変速比はプライマリシーブの油室における作動油の流入出によって変化するが、プライマリシーブの油室には漏れ流量が存在し、その漏れ経路の一例としてはシャフト部におけるシールリングの隙間から外へ作動油が漏れる経路が挙げられる。したがって、流量制御装置によって変速比を正確に制御するためには、この漏れ流量も考慮に入れる必要があるが、無段変速機ユニットの製造ばらつきにより漏れ流量もばらつきを持つため、所望の流量と実際の流量との間に誤差が発生し、所望の変速比に対する実際の変速比の追従性が悪化してしまう。特に、増速用流量制御弁及び減速用流量制御弁の両方を非作動として変速比固定制御を行う場合においては、この漏れ流量のばらつきが原因で変速比を固定したいにもかかわらず変速比が変化してしまう。したがって、変速比を正確に制御するためには、無段変速機ユニット固有の漏れ流量を正確に把握することが必要となってくる。
【0005】
特開平4−248060号公報においては、オイルポンプの吐出圧と作動油温度に基づいて油圧回路の漏れ流量を算出する車両用無段変速機の圧力制御装置が開示されている。この従来の装置においては、漏れ流量はオイルポンプの吐出圧に比例し、作動油粘度の増加に伴い減少する関係にあることから、吐出圧と作動油温度に基づいて漏れ流量を算出している。
【0006】
しかしながら、この従来の装置においては、油圧回路の漏れ流量をオイルポンプの吐出圧と作動油温度に基づいて経験的に算出しているにすぎず、無段変速機ユニットの製造ばらつきが考慮されていないため、無段変速機ユニット固有の漏れ流量を正確に算出することができない。したがって、所望の変速比に対する実際の変速比の追従性が悪化してしまうという課題があった。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、無段変速機ユニット固有の漏れ流量を正確に算出することができる無段変速機の作動油漏れ量算出装置を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、所望の変速比に対する変速比の追従性を向上させる無段変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
このような目的を達成するために、本発明の参考例に係る無段変速機の作動油漏れ量算出装置は、油室における作動油の流入出によって駆動されることで変速比を連続的に変化させる変速機構を有する無段変速機の該油室における作動油の漏れ量を算出する装置であって、前記油室へ作動油を供給するための油圧を発生させる油圧源と、該油圧源から前記油室に供給される作動油の量を調整する変速制御手段と、無段変速機の変速比を検出する変速比検出手段と、前記変速制御手段の非作動時における変速比の変化に基づいて、前記油室における作動油の漏れ量を算出する漏れ量算出手段と、を有することを特徴とする。
【0010】
このように、変速制御手段の非作動時における変速比の変化に基づいて、油室における作動油の漏れ量を算出するので、無段変速機ユニット固有の作動油の漏れ量を外乱なく精度よく算出することができる。
【0011】
第1の本発明に係る無段変速機の作動油漏れ量算出装置は、油室における作動油の流入出によって駆動されることで変速比を連続的に変化させる変速機構を有する無段変速機の該油室における作動油の漏れ量を算出する装置であって、前記油室へ作動油を供給するための油圧を発生させる油圧源と、該油圧源から前記油室に供給される作動油の量を調整する変速制御手段と、該油圧源と前記油室の間に設けられ、前記油室における圧力を補償する圧力補償手段と、前記変速制御手段の非作動時の第1の所定時間中に、前記油室における作動油の量の変化を検出する第1の油量変化検出手段と、前記第1の所定時間中に、前記圧力補償手段を通って前記油室へ流入した作動油の量を算出する補償量算出手段と、前記第1の油量変化検出手段の検出値及び前記補償量算出手段の算出値に基づいて前記油室における作動油の漏れ量を算出する漏れ量算出手段と、を有し、前記補償量算出手段は、前記油圧源の圧力及び前記油室の圧力を検出する手段を有し、前記油圧源の圧力と前記油室の圧力との差に基づいて前記圧力補償手段を通って前記油室へ流入した作動油の量を算出し、前記漏れ量算出手段は、前記第1の油量変化検出手段の検出値及び前記補償量算出手段の算出値に基づいて算出した漏れ量及び該漏れ量の算出に用いた油室の圧力を、それぞれ基準漏れ量及び基準圧力として記憶し、該基準漏れ量、該基準圧力及び前記油室の圧力に基づいて前記油室における作動油の漏れ量を算出することを特徴とする。
【0014】
このように、変速制御手段の非作動時における油室における作動油の量の変化及び圧力補償手段を通って前記油室へ流入した作動油の量に基づいて算出した漏れ量と、この漏れ量の算出に用いた油室の圧力を、それぞれ基準漏れ量及び基準圧力として記憶し、基準漏れ量、基準圧力及び油室の圧力に基づいて油室における作動油の漏れ量を算出するので、油室の圧力に応じた漏れ量を容易に算出することができる。
【0015】
第2の本発明に係る無段変速機の作動油漏れ量算出装置は、第1の本発明に記載の装置であって、前記漏れ量算出手段は、前記基準漏れ量及び前記基準圧力に基づいて前記油室の漏れ開口面積を算出し、該漏れ開口面積及び前記油室の圧力に基づいて前記油室における作動油の漏れ量を算出することを特徴とする。
【0016】
第3の本発明に係る無段変速機の作動油漏れ量算出装置は、第1または第2の本発明に記載の装置であって、前記変速機構は、原動機からの駆動トルクが入力されるプライマリシーブと、該駆動トルクを負荷へ出力するセカンダリシーブと、プライマリシーブ及びセカンダリシーブに掛け回されたベルトと、を備え、前記変速制御手段は、プライマリシーブの油室に供給される作動油の量を調整することで変速比を連続的に変化させ、前記油圧源は、セカンダリシーブの油室へ油圧を供給する無段変速機の作動油漏れ量算出装置において、プライマリシーブの回転速度を検出する入力回転速度検出手段と、セカンダリシーブの回転速度を検出する出力回転速度検出手段と、プライマリシーブへの入力トルクを検出する入力トルク検出手段と、セカンダリシーブの油室における作動油の圧力を検出するセカンダリ圧力検出手段と、をさらに有し、前記補償量算出手段は、前記入力回転速度検出手段の検出値、前記出力回転速度検出手段の検出値、前記入力トルク検出手段の検出値及び前記セカンダリ圧力検出手段の検出値に基づいてプライマリシーブの油室における作動油の圧力を検出することを特徴とする。
【0017】
このように、プライマリシーブの回転速度、セカンダリシーブの回転速度、プライマリシーブへの入力トルク及びセカンダリシーブの油室における作動油の圧力に基づいてプライマリシーブの油室における作動油の圧力を検出するので、プライマリシーブの油室における作動油の圧力を検出するための圧力センサを省略することができ、コスト削減が図れる。
【0018】
本発明に係る無段変速機の作動油漏れ量算出装置では、無段変速機の変速比を検出する変速比検出手段を有し、前記第1の油量変化検出手段は、前記第1の所定時間における変速比の変化に基づいて前記油室における作動油の量の変化を検出することを特徴とする。
【0019】
本発明に係る無段変速機の作動油漏れ量算出装置では、前記圧力補償手段は、前記油圧源の圧力と前記油室の圧力との差が閾値以上の場合に前記油圧源から前記油室への作動油の流入を許容するチェック弁であることを特徴とする。
【0020】
第4の本発明に係る無段変速機の制御装置は、油室における作動油の流入出によって駆動されることで変速比を連続的に変化させる変速機構を有する無段変速機を制御する装置であって、前記油室へ作動油を供給するための油圧を発生させる油圧源と、該油圧源から前記油室に供給される作動油の量を調整する変速制御手段と、無段変速機の変速比を検出する変速比検出手段と、前記変速制御手段の非作動時における変速比の変化に基づいて、前記油室における作動油の漏れ量を算出する漏れ量算出手段と、前記変速制御手段の油圧制御信号−流量制御出力特性に基づいて所望の変速比を得るための流量制御出力に対応した油圧制御信号を算出して前記変速制御手段へ出力する油圧制御信号算出手段と、前記変速制御手段の作動時の第2の所定時間中に、前記油室における作動油の量の変化を検出する第2の油量変化検出手段と、前記第2の所定時間中に、前記油室における作動油の量の変化を前記油圧制御信号及び前記油室における作動油の漏れ量に基づいて推定する油量変化推定手段と、前記第2の油量変化検出手段の検出値と前記油量変化推定手段の推定値との偏差に基づいて前記変速制御手段の油圧制御信号−流量制御出力特性を補正する補正手段と、を有することを特徴とする。第5の本発明に係る無段変速機の制御装置は、第1〜3の本発明のいずれか1に記載の装置を含む無段変速機の制御装置であって、前記変速制御手段の油圧制御信号−流量制御出力特性に基づいて所望の変速比を得るための流量制御出力に対応した油圧制御信号を算出して前記変速制御手段へ出力する油圧制御信号算出手段と、前記変速制御手段の作動時の第2の所定時間中に、前記油室における作動油の量の変化を検出する第2の油量変化検出手段と、前記第2の所定時間中に、前記油室における作動油の量の変化を前記油圧制御信号及び前記油室における作動油の漏れ量に基づいて推定する油量変化推定手段と、前記第2の油量変化検出手段の検出値と前記油量変化推定手段の推定値との偏差に基づいて前記変速制御手段の油圧制御信号−流量制御出力特性を補正する補正手段と、をさらに有することを特徴とする。
【0021】
このように、第2の油量変化検出手段の検出値と油量変化推定手段の推定値との偏差に基づいて変速制御手段の油圧制御信号−流量制御出力特性を補正し、その際に油室における作動油の量の変化を油圧制御信号及び油室における作動油の漏れ量に基づいて推定しているので、電子制御装置内に記憶されている油圧制御信号−流量制御出力特性マップと変速制御手段の実際の油圧制御信号−流量制御出力特性との特性差を精度よく学習補正することができる。したがって、所望の変速比に対する実際の変速比の追従性を改善することができる。
【0022】
第6の本発明に係る無段変速機の制御装置は、油室における作動油の流入出によって駆動されることで変速比を連続的に変化させる変速機構を有する無段変速機を制御する装置であって、前記油室へ作動油を供給するための油圧を発生させる油圧源と、該油圧源から前記油室に供給される作動油の量を調整する変速制御手段と、無段変速機の変速比を検出する変速比検出手段と、前記変速制御手段の非作動時における変速比の変化に基づいて、前記油室における作動油の漏れ量を算出する漏れ量算出手段と、変速比固定制御を実行する変速比固定制御手段と、を有し、前記変速比固定制御手段は、前記油室における作動油の漏れ量に基づいて油圧制御信号を算出し、該油圧制御信号を前記変速制御手段へ出力することを特徴とする。
【0023】
このように、油室における作動油の漏れ量に基づいて油圧制御信号を算出して変速制御手段へ出力するので、変速比固定制御時に油室における作動油の量の変化によって変速比が変化するのを確実に防止でき、変速比固定制御を精度よく行うことができる。
【0024】
第7の本発明に係る無段変速機の制御装置は、第1〜3の本発明のいずれか1に記載の装置を含む無段変速機の制御装置であって、変速比固定制御を実行する変速比固定制御手段をさらに有し、前記補償量算出手段は、変速比固定制御実行時に前記圧力補償手段を通って前記油室へ流入する作動油の量を算出し、前記変速比固定制御手段は、変速比固定制御実行時に算出された前記補償量算出手段の算出値及び前記油室における作動油の漏れ量に基づいて油圧制御信号を算出し、該油圧制御信号を前記変速制御手段へ出力することを特徴とする。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)を、図面に従って説明する。
【0026】
(1)第1実施形態
本発明の第1実施形態に係る図1は、本発明をベルト式無段変速機の制御に適用した全体構成図を示し、エンジン出力軸22に連結されるトルクコンバータ10、前後進切換装置12、ベルト式無段変速機14、変速機14の変速比を制御する油圧制御装置40、油圧制御装置40の油圧を制御する電子制御装置42を備えている。原動機としてのエンジンから出力される駆動トルクは、トルクコンバータ10、前後進切換装置12、ベルト式無段変速機14及び図示しない差動歯車装置を経て図示しない駆動輪へ伝達される。
【0027】
トルクコンバータ10は、エンジン出力軸22に連結されたポンプ翼車10aと、トルクコンバータ出力軸24に連結され流体を介してポンプ翼車10aから駆動トルクが伝達されるタービン翼車10bと、ワンウェイクラッチ10eを介して位置固定のハウジング10fに固定された固定翼車10cと、ポンプ翼車10aとタービン翼車10bとをダンパを介して締結するロックアップクラッチ10dを備えている。
【0028】
前後進切換装置12は、ダブルプラネタリ式歯車装置を備え、サンギヤ12s、キャリア12c及びリングギヤ12rを有している。サンギヤ12sは、トルクコンバータ出力軸24に連結されている。キャリア12c群は、クラッチ28を介してトルクコンバータ出力軸24に連結されると共に、ベルト式無段変速機入力軸26に連結されている。リングギヤ12rは、ブレーキ12bに連結されている。
【0029】
ベルト式無段変速機14は、入力軸26に連結されたプライマリシーブ30、出力軸36に連結されたセカンダリシーブ32及びプライマリシーブ30とセカンダリシーブ32とに掛け回されたV字型断面のVベルト34を備え、入力軸26からプライマリシーブ30へ伝達されたトルクをVベルト34及びセカンダリシーブ32を介して出力軸36へ伝達する。
【0030】
プライマリシーブ30は、入力軸26方向に移動可能なプライマリ可動側シーブ半体30aとプライマリ固定側シーブ半体30bで構成されている。同様にセカンダリシーブ32は、出力軸36方向に移動可能なセカンダリ可動側シーブ半体32aとセカンダリ固定側シーブ半体32bで構成されている。プライマリ可動側シーブ半体30aは、プライマリ油室30cに供給される油圧によって入力軸26方向に移動する。これによってVベルト34がプライマリシーブ30及びセカンダリシーブ32に巻きかかる部分の回転半径が変化し、ベルト式無段変速機14の変速比が連続的に変化する。また、セカンダリ可動側シーブ半体32aに設けられたセカンダリ油室32cへ供給される油圧によってVベルト34にベルト挟圧力が与えられる。これによって、シーブとVベルト34との間に発生する滑りを抑制している。
【0031】
ベルト式無段変速機14のプライマリ油室30cとセカンダリ油室32cに供給される油圧は、油圧制御装置40によって供給され、それらの油圧は電子制御装置42によって制御される。
【0032】
電子制御装置42には、スロットル開度TAを検出するスロットル開度センサ76、エンジン回転速度Neを検出するエンジン回転速度センサ78、入力軸26の回転速度Ninを検出する入力軸回転速度センサ80、出力軸36の回転速度Noutを検出する出力軸回転速度センサ82、油圧制御装置40内の作動油の油温TOILを検出する油温センサ88及びセカンダリ油室32c内の作動油圧力Poutを検出する圧力センサ74等からの信号が入力される。電子制御装置42は、上記入力信号を処理し、その処理結果に基づいて、ベルト式無段変速機14のプライマリ油室30c及びセカンダリ油室32cに供給する油圧をそれぞれ制御する。
【0033】
次に油圧制御装置40の主な構成について図2を用いて説明する。
【0034】
ライン圧制御装置90は、図示しないリニアソレノイド弁を備えており、エンジンによって回転駆動される油圧源としてのポンプ52の出力油圧がライン圧PLとなるようにリニアソレノイド弁によって調圧し、このライン圧PLを油路R1に出力する。ここで、リニアソレノイド弁への制御指令値は入力軸26トルクに基づいて決定され、入力軸26トルクに応じてライン圧PLが制御される。セカンダリ圧制御装置60は、油路R1内のライン圧PLに応じて調圧されたベルト挟圧力を油路R3を通じてセカンダリ油室32cへ供給する。このベルト挟圧力はライン圧PLを制御するためのリニアソレノイド弁によって制御される。また、油路R1にはライン圧PLを常に一定の油圧となるように調圧して出力するための一定圧制御装置70が設けられている。一定圧制御装置70によって一定に維持された油圧は、油路R7を通じて後述する増速用電磁弁66及び減速用電磁弁68に供給される。
【0035】
変速制御手段としての流量制御装置50は、プライマリシーブ30のプライマリ油室30cに流入出する作動油の流量を制御し、増速用流量制御弁62及び減速用流量制御弁64と、増速用流量制御弁62及び減速用流量制御弁64にそれぞれ制御圧を供給する増速用電磁弁66及び減速用電磁弁68を備えている。増速用流量制御弁62は、4つのポート62a、62b、62c、62d、図2の上下方向に移動するスプール62s、スプール62sを図2の下方に押圧するばね62f及び制御圧が供給される制御圧室62hを有している。増速用電磁弁66は、3つのポート66a、66b、66cを有している。増速用電磁弁66がオンのとき(図2の右側)、ポート66aと66bとが連通する。そして、増速用電磁弁66はオンとオフを繰り返すデュ−ティ制御により油路R7内の一定に調圧された油圧を大気圧からこの一定圧の間で制御し、制御圧として増速用流量制御弁62のポート62aから制御圧室62hに供給する。また、増速用電磁弁66がオフのとき(図2の左側)、ポート66bと66cとが連通し、制御圧室62hの油圧がポート66cから排出され、大気圧まで減圧される。
【0036】
増速用流量制御弁62のポート62aから増速用電磁弁66からの制御圧が制御圧室62hに供給されると、この制御圧によってスプール62sは図2の上方に押圧される。一方、ばね62fによってスプール62sは図2の下方に押圧されており、これらの力のバランスにより油路R4を通じてポート62cから供給されたライン圧PLが調圧され、ポート62dから油路R5を介してプライマリ油室30cへ供給される。
【0037】
減速用流量制御弁64は、5つのポート64a、64b、64c、64d、64e、図2の上下方向に移動するスプール64s、スプール64sを図2の下方に押圧するばね64f及び制御圧が供給される制御圧室64hを有している。減速用電磁弁68は、3つのポート68a、68b、68cを有している。減速用電磁弁68がオンのとき(図2の右側)、ポート68aと68bとが連通する。そして、減速用電磁弁68はオンとオフを繰り返すデュ−ティ制御により油路R7内の一定に調圧された油圧を大気圧からこの一定圧の間で制御し、制御圧として減速用流量制御弁64のポート64aから制御圧室64hに供給する。また、減速用電磁弁68がオフのとき(図2の左側)、ポート68bと68cとが連通し、制御圧室64hの油圧がポート68cからドレインされ、大気圧まで減圧される。
【0038】
減速用流量制御弁64のポート64aから減速用電磁弁68からの制御圧が制御圧室64hに供給されると、この制御圧によってスプール64sは図2の上方に押圧される。一方、ばね64fによってスプール64sは図2の下方に押圧されており、これらの力のバランスによりポート64cとポート64dとの連通状態が制御され、プライマリ油室30cへ供給されている油圧が油路R5を通じてポート64dから排出される。また、減速用電磁弁68からの制御圧が制御圧室64hに供給されていないときに、ポート64eとポート64cとが連通する。
【0039】
油路R1と減速用流量制御弁64のポート64eとが油路R2によって接続され、油路R2には圧力補償手段としてのチェック弁72が設けられている。チェック弁72は、減速用流量制御弁64のポート64eとポート64cとが連通し、かつライン圧PLとプライマリ油室30cの圧力との差が所定値以上のときのみ開放し、このとき減速用流量制御弁64のポート64e、64cを通ってプライマリ油室30cへ作動油が供給される。ここで、プライマリ油室30cには漏れ流量が存在し、漏れ経路としては、図示しないシャフト部におけるシールリングの隙間から外へ作動油が漏れる経路、増速用流量制御弁62及び減速用流量制御弁64を通過する漏れ経路等が挙げられる。したがって、増速用流量制御弁62及び減速用流量制御弁64の両方が作動していない状態でもこの漏れ流量によってプライマリ油室30cの圧力が低下する場合があるが、この場合はチェック弁72が開放してプライマリ油室30cへ作動油が供給されることでプライマリ油室30cの圧力が補償される。
【0040】
次に、図2における電子制御装置42内の主な構成について説明する。
【0041】
電子制御装置42内には、増速用電磁弁66及び減速用電磁弁68へのデュ−ティ制御指令値のデュ−ティ比を算出する油圧制御信号算出手段124が設けられている。油圧制御信号算出手段124は、電子制御装置42内に記憶された流量制御装置50の油圧制御信号−流量制御出力特性としてのデュ−ティ比−オリフィス面積特性に基づいて所望の入力軸26回転速度を得るためのオリフィス面積に対応したデュ−ティ比を算出し、このデュ−ティ比のデュ−ティ制御指令値を増速用電磁弁66または減速用電磁弁68へ出力する。さらに本実施形態においては、電子制御装置42は、増速用流量制御弁62及び減速用流量制御弁64の非作動時にプライマリ油室30cにおける作動油の量の変化を検出する第1の油量変化検出手段130、増速用流量制御弁62及び減速用流量制御弁64の非作動時にチェック弁72を通ってプライマリ油室30cへ流入した作動油の量を算出する補償量算出手段132、プライマリ油室30cにおける作動油の漏れ量を算出する漏れ量算出手段134、増速用流量制御弁62または減速用流量制御弁64の作動時にプライマリ油室30cにおける作動油の量の変化を検出する第2の油量変化検出手段136、増速用流量制御弁62または減速用流量制御弁64の作動時にプライマリ油室30cにおける作動油の量の変化を推定する油量変化推定手段138及び電子制御装置42内に記憶されたデュ−ティ比−オリフィス面積特性を補正する補正手段126を備えている。
【0042】
次に電子制御装置42内で実行される漏れ流量算出ルーチンについて図3に示すフローチャートを用いて説明する。この漏れ流量算出ルーチンの実行はある所定時間おきごとに繰り返される。
【0043】
まずステップ(以下Sとする)101において、現サンプル時刻nにおいて変速比γ(n)(入力軸26回転速度Nin(n)/出力軸36回転速度Nout(n))が演算可能か否かが判定される。具体的には、入力軸26回転速度Nin(n)及び出力軸36回転速度Nout(n)の値がともに所定値以上であり、かつそれらの時間変化量がともに所定値以下であるか否かが判定される。S101の判定結果がNOの場合は、変速比γ(n)の演算誤差が大きいと判断して本ルーチンの実行を終了する。一方、S101の判定結果がYESの場合はS102に進む。S102では、増速用流量制御弁62及び減速用流量制御弁64がともに非作動、すなわち増速用電磁弁66へのデューティ制御指令値のデューティ比DS1(n)及び減速用電磁弁68へのデューティ制御指令値のデューティ比DS2(n)がともに0であるか否かが判定される。S102の判定結果がNOの場合は、後述するS107へ進む。一方、S101の判定結果がYESの場合はS103に進む。
【0044】
S103では、DS1(n)=DS2(n)=0である時間を計測するためのカウンタCDS0をスタートさせる。次にS104に進み、カウンタCDS0の値が閾値α以上であるか否かが判定される。ここでの閾値αは、デューティ制御指令値の出力をオフにしてからプライマリ可動側シーブ半体30aが移動しなくなるまでの時間遅れに基づいて実験により設定され、作動油温度TOIL(n)の関数である。S104の判定結果がNOの場合は、本ルーチンの実行を終了する。一方、S104の判定結果がYESの場合はS105に進み、CDS0≧αとなった時刻n1での変速比RATIOS1の値を記憶してS106に進む。
【0045】
S106では、補償量算出手段132において、時刻nでのチェック弁72を通過してプライマリ油室30cへ流入する流量Qcheck(n)を以下に示す物理モデルを用いて算出して本ルーチンの実行を終了する。ここで、Qcheck(n)は(1)式で表される。
【0046】
【数1】
Qcheck(n)=C1×Ac×(2×(PL(n)−Pin(n))/ρ)0.5 (1)
ここで、C1は流量係数、Acはチェック弁72のオリフィス面積、ρは作動油の密度、PL(n)はライン圧、Pin(n)はプライマリ油室30cの圧力である。流量係数C1は、オリフィス面積Ac、作動油温度TOIL(n)等から実験により設定される。オリフィス面積Acについては、PL(n)−Pin(n)≧γ(所定値)の場合はAcは一定値であり、PL(n)−Pin(n)<γの場合はAc=0である。ライン圧PL(n)は、セカンダリ油室32cの圧力Pout(n)(圧力センサ74により検出)から算出することができる。あるいはライン圧を制御するためのリニアソレノイド弁への制御指令値及びリニアソレノイド弁の動特性(作動油温度TOIL(n)の関数)に基づいてライン圧PL(n)を算出してもよい。また、プライマリ油室30cの圧力Pin(n)は、圧力センサを用いない場合は、(2)式から算出することができる。
【0047】
【数2】
Pin(n)=(Win(n)−kin×Nin(n)2)/Sin (2)
ここで、kinはプライマリシーブ遠心油圧係数、Sinはプライマリ可動側シーブ半体30aの受圧面積である。Win(n)は時刻nでのプライマリ可動側シーブ半体30aの推力であり、(3)式で表される。
【0048】
【数3】
ここで、係数a、b、c、dは実験により求められる。Tin(n)は時刻nでの入力軸26トルクであり、エンジントルクTe(n)、トルクコンバータ10のトルク比t(n)及び入力慣性トルク等から算出することができる。ここで、エンジントルクTe(n)は例えばスロットル開度TA(n)及びエンジン回転速度Ne(n)から算出することができ、トルク比t(n)は(Nin(n)/Ne(n))の関数であり、入力慣性トルクは入力軸26回転速度Nin(n)の時間変化量から算出することができる。Wout(n)は時刻nでのセカンダリ可動側シーブ半体32aの推力であり、(4)式で表される。
【0049】
【数4】
Wout(n)=Pout(n)×Sout+kout×Nout(n)2 (4)
ここで、koutはセカンダリシーブ遠心油圧係数、Soutはセカンダリ可動側シーブ半体32aの受圧面積である。
【0050】
S107では、カウンタCDS0の値が閾値β以上であるか否かが判定される。S107の判定結果がNOの場合は、DS1(n)=DS2(n)=0である時間が短いため、漏れ流量の演算誤差が大きいと判断して本ルーチンの実行を終了する。一方、S107の判定結果がYESの場合はS108に進む。S108では、デューティ制御指令値の出力がオンとなった時刻n2での変速比RATIOE1の値を記憶してS109に進む。ただし、ここでもデューティ制御指令値の出力をオンにしてからプライマリ可動側シーブ半体30aが移動するまでの時間遅れを考慮し、時刻n2からさらに所定時間(例えば作動油温度TOIL(n)に基づいて設定)経過後の変速比の値をRATIOE1として記憶してもよい。
【0051】
S109では、第1の油量変化検出手段130において、時刻n2での変速比RATIOE1の値と時刻n1での変速比RATIOS1の値との差からプライマリ可動側シーブ半体30aの移動量を算出し、この移動量及び(β−α)の値に基づいてプライマリ油室30c内において流入出した全体の流量Q1real(流入側を正)を算出する。次にS110に進み、補償量算出手段132において、チェック弁72を通過してプライマリ油室30cへ流入する流量Qcheck(n)の時刻n1から時刻n2までにおける平均値Q0checkを算出する。次にS111に進み、漏れ量算出手段134において、漏れ流量Qdrainを算出して本ルーチンの実行を終了する。ここで、Qdrainは(5)式で表される。
【0052】
【数5】
Qdrain=Q0check−Q1real (5)
なお、漏れ流量Qdrainの値は、実際は作動油温度TOIL(n)、プライマリ油室30c内の圧力Pin(n)、変速比γ(n)に応じて変化する。したがって、漏れ流量Qdrainについては、作動油温度TOIL(n)、プライマリ油室30c内の圧力Pin(n)、変速比γ(n)に応じた特性を把握することが好ましい。ここで、漏れ経路としてシールリング隙間が支配的とみなせる場合は、時刻nでの漏れ流量Qdrain(n)を以下に示す(6)式によりモデル化して考えることができる。
【0053】
【数6】
Qdrain(n)=C2×Ap×(2×Pin(n)/ρ)0.5 (6)
(6)式において、Apはシール隙間をオリフィスでモデル化したときのオリフィス面積で、変速比γ(n)の関数である。また、C2は流量係数(オリフィス面積Ap、作動油温度TOIL(n)等から実験により設定)である。ここで、プライマリシーブ30の製造ばらつきによりApの値がばらつきを持つために、漏れ流量Qdrainの値がばらつきを持つ。本実施形態では、漏れ量算出手段134において、TOIL、Pin、γ(例えばいずれも時刻n1から時刻n2までにおける平均値を用いる)及びS111で算出したQdrainを基準値として(6)式に代入してApの値を算出することで、製造ばらつきを持っていたシール隙間面積を正確に算出することができる。そして、シール隙間面積Apが正確に把握できているので、作動油温度TOIL(n)、プライマリ油室30c内の圧力Pin(n)、変速比γ(n)の値が変化しても、これらの値、基準値を用いて算出したApの値及び(6)式から漏れ流量Qdrain(n)の値を漏れ量算出手段134において算出することができる。このように、漏れ流量をモデル化して考えることで、漏れ流量特性の正確な把握が容易となる。
【0054】
次に電子制御装置42内で実行される流量特性学習補正ルーチンについて図4に示すフローチャートを用いて説明する。この流量特性学習補正ルーチンの実行はある所定時間おきごとに繰り返される。ただし、ここではダウンシフトの場合についてのみ説明し、アップシフトの場合については説明を省略するが、アップシフトの場合も同様のルーチンで実現できる。
【0055】
まずS201において、減速用流量制御弁64が作動しているか否か、すなわち減速用電磁弁68へのデュ−ティ制御指令値を出力しているか否かが判定される。S201の判定結果がNOの場合は、後述するS209に進む。一方、S201の判定結果がYESの場合はS202に進み、現サンプル時刻nでのデュ−ティ制御指令値のデュ−ティ比の値をメモリDS2(n)に記憶する。次にS203に進み、デュ−ティ制御指令値を出力している場合のデュ−ティ比の最大値DS2max及び最小値DS2minを更新する。具体的には、デュ−ティ比DS2(n)の値が現在のDS2maxの値より大きい場合はDS2maxの値をDS2(n)の値に更新し、デュ−ティ比DS2(n)の値が現在のDS2minの値より小さい場合はDS2minの値をDS2(n)の値に更新する。
【0056】
S204では、減速用電磁弁68へのデュ−ティ制御指令値を出力し始めてから所定時間t1経過したか否かが判定される。ここでの所定時間t1はデュ−ティ制御指令値を出力し始めてからプライマリ可動側シーブ半体30aが移動し始めるまでの時間遅れに基づいて実験により設定され、作動油温度TOIL(n)の関数である。S204の判定結果がNOの場合は、ダウンシフトが開始されていないと判断して本ルーチンの実行を終了する。一方、S204の判定結果がYESの場合はS205に進み、ダウンシフトが開始されたと判断してFLAG1の値を1に設定して、S206に進む。
【0057】
S206では、ダウンシフト開始時刻n3での変速比RATIOS2の値を記憶する。次にS207に進み、油量変化推定手段138において、時刻nでのプライマリ油室30cから流出している流量推定値Qout(n)を以下に示す物理モデルを用いて算出する。ここで、プライマリ油室30cから流出している流量として、減速用流量制御弁64を通る流量分と漏れ流量分とがあるため、流量推定値Qout(n)は(7)式で表される。
【0058】
【数7】
ここで、C3は流量係数、Ar(n)は時刻nでの減速用流量制御弁64内のオリフィス面積、ρは油の密度、δP(n)は時刻nでの減速用流量制御弁64通過前後における作動油の圧力差である。流量係数C3は、オリフィス面積Ar(n)、作動油温度TOIL(n)等から実験により設定される。δP(n)は、ダウンシフト時は時刻nでのプライマリ油室30cの圧力Pin(n)となる。オリフィス面積Ar(n)については、減速用電磁弁68へのデュ−ティ制御指令値のデュ−ティ比DS2(n)と減速用流量制御弁64内のオリフィス面積Ar(n)との間の動特性を考慮した特性モデルを用いて算出することができる。例えば、デュ−ティ比DS2(n)とオリフィス面積Ar(n)との間の動特性は、時定数t0の1次遅れモデルで考える。ここで、t0の値については、実験により設定され、作動油温度TOIL(n)の関数である。そして、デュ−ティ比−オリフィス面積特性マップは、例えば特性のばらつきの中央値の特性を用いる。また、プライマリ油室30cの圧力Pin(n)は、圧力センサを用いない場合は、(2)〜(4)式を用いて算出することができる。
【0059】
S208では、油量変化推定手段138において、S207で算出された流量推定値Qout(n)の値を積算していくことで、ダウンシフト開始時刻n3から時刻nまでにおけるプライマリ油室30c内の作動油容量の変化量推定値Qmodel(n)を算出して本ルーチンの実行を終了する。ここで、推定値Qmodel(n)は(8)式で表される。
【0060】
【数8】
Qmodel(n)=Qmodel(n−1)+Qout(n) (8)
S201の判定結果がNOの場合は、S209に進み、FLAG1の値が1であるか否かが判定される。S209の判定結果がNOの場合は、ダウンシフトが行われていないと判断して本ルーチンの実行を終了する。一方、S209の判定結果がYESの場合は、ダウンシフト中であると判断してS210に進む。
【0061】
S210では、減速用電磁弁68へのデュ−ティ制御指令値の出力をオフにしてから所定時間t2経過したか否かが判定される。ここでの所定時間t2はデュ−ティ制御指令値の出力をオフにしてからプライマリ可動側シーブ半体30aが移動しなくなるまでの時間遅れに基づいて実験により設定され、作動油温度TOIL(n)の関数である。S210の判定結果がNOの場合は、ダウンシフトが終了していないと判断してS207に進み、プライマリ油室30cから流出している流量推定値Qout(n)を算出する。一方、S210の判定結果がYESの場合はS211に進み、ダウンシフトが終了したと判断してダウンシフト終了時刻n4での変速比RATIOE2の値を記憶する。
【0062】
S212では、第2の油量変化検出手段136において、ダウンシフト終了時刻n4での変速比RATIOE2の値とダウンシフト開始時刻n3での変速比RATIOS2との値の差からプライマリ可動側シーブ半体30aの移動量を算出し、この移動量に基づいてダウンシフト開始時刻n3からダウンシフト終了時刻n4までにおけるプライマリ油室30c内の作動油容量の変化量検出値Q2realを算出する。次にS213に進み、この検出値Q2realとダウンシフト開始時刻n3からダウンシフト終了時刻n4までにおけるプライマリ油室30c内の作動油容量の変化量推定値Qmodel(n4)との偏差δQ=Q2real−Qmodel(n4)を算出する。
【0063】
S214では、補正手段126において、減速用電磁弁68及び減速用流量制御弁64のデュ−ティ比−オリフィス面積特性マップを学習補正する。具体的には、図5に示すようにDS2minからDS2maxまでのデュ−ティ比の範囲においてオリフィス面積の値をδA=K1×δQ分補正する。図5ではδQの値が負でオリフィス面積の値を減らす方向に補正する場合について示している。ここでK1の値については実験により設定され、学習補正を短時間で行う場合はK1の値を大きくし、学習補正を時間をかけて正確に行う場合はK1の値を小さくする。最後にS215において、FLAG1の値を0に設定して、本ルーチンの実行を終了する。
【0064】
なお、S214における学習補正は繰り返し行い、δQの絶対値が閾値以下になった時点で学習補正を終了する。そして、学習補正の途中の段階では、図5に示すようにデュ−ティ比−オリフィス面積特性マップに段差が生じる場合(特にK1の値が大きい場合)もあるため、学習補正を行うデュ−ティ比の範囲をDS2min〜DS2maxだけでなく、図5に示すようにDS2min〜DS2max以外のデュ−ティ比についてもオリフィス面積の値をK2×δA(0<K2<1)分学習補正することで、デュ−ティ比−オリフィス面積特性マップの段差を抑えるようにしてもよい。
【0065】
本実施形態においては、DS1(n)=DS2(n)=0、すなわち増速用流量制御弁62及び減速用流量制御弁64の両方が作動していない状態において、まずチェック弁72を通過してプライマリ油室30cへ流入する流量Qcheck(n)を(1)式に示す物理モデルを用いて算出する。一方、プライマリ油室30c内において流入出した全体の流量Q1realを変速比γ(n)の変化量に基づいて算出する。そして、Qcheck(n)の平均値Q0checkとQ1realとの差から漏れ流量Qdrainを算出している。このように、増速用流量制御弁62及び減速用流量制御弁64の両方の非作動時に、チェック弁72の物理モデルを用いて漏れ流量Qdrainを算出しているので、無段変速機ユニット固有の漏れ流量Qdrainを外乱なく精度よく算出することができる。さらに、漏れ流路であるシール隙間面積Apを(6)式に示す物理モデルを用いて算出することにより、製造ばらつきを持っているシール隙間面積Apを精度よく算出することができ、作動油温度TOIL(n)、プライマリ油室30c内の圧力Pin(n)及び変速比γ(n)に応じて変化する漏れ流量特性を正確かつ容易に把握することができる。
【0066】
そして、流量制御弁のデュ−ティ比−オリフィス面積特性マップの学習補正の際には、流量制御弁を通る流量推定値とプライマリ油室30c内における作動油容量の全体の変化量だけでなく、漏れ流量特性も用いている。このように、(7)式に示す漏れ流量も考慮に入れた物理モデルを用いて流量制御弁の学習補正を行うので、流量制御弁の学習補正の精度を向上させることができる。したがって、所望の変速比に対する実際の変速比の追従性を向上させることができる。
【0067】
また、漏れ流量算出及び流量制御弁の学習補正の際に用いるプライマリ油室30c内の作動油圧力Pin(n)については、(2)〜(4)式に示す物理モデルを用いて求めているので、プライマリ油室30c内の作動油圧力を検出するための圧力センサを省略することができ、コスト削減が図れる。
【0068】
本実施形態においては、変速開始時から変速終了時までにおける作動油容量の変化量検出値と作動油容量の変化量推定値を用いて流量制御弁の学習補正をしているが、変速動作中の所定時間における作動油容量の変化量検出値と作動油容量の変化量推定値を用いて流量制御弁の学習補正を行ってもよい。あるいは所定時刻における作動油流量検出値と作動油流量推定値を用いて流量制御弁の学習補正を行ってもよい。そして、漏れ流量特性の作動油温度TOIL(n)、プライマリ油室30c内の圧力Pin(n)及び変速比γ(n)に応じた変化量が小さい場合は、S207での流量推定値Qout(n)算出に用いる漏れ流量として、S111で算出した漏れ流量を用いてもよい。また、本実施形態における漏れ流量の算出については、製造ばらつきを考慮した漏れ流量特性の把握だけでなく、経時劣化を考慮した漏れ流量特性の把握においても有効である。
【0069】
(2)第2実施形態
図6は、本発明の第2実施形態において電子制御装置42内で実行される制御ルーチンを示すフローチャートである。このルーチンの実行はある所定時間おきごとに繰り返される。なお、図示はしていないが電子制御装置42には、後述する変速比固定制御手段が第1実施形態からさらに追加されている。その他の油圧制御装置40等の全体構成については第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0070】
まずS301において漏れ流量を算出するか否かが判定される。ここでは、例えば漏れ特性がまだ把握できていない場合や一旦は把握したものの経時劣化によって漏れ特性が変化した場合はS301の判定結果はYESとなり、S302に進み、図3に示す漏れ流量算出ルーチンを実行して本ルーチンの実行を終了する。漏れ流量算出ルーチンについては、第1実施形態と同様のため説明を省略する。一方、S301の判定結果がNOの場合はS303に進み、後述する変速比固定制御ルーチンを実行して本ルーチンの実行を終了する。
【0071】
次に電子制御装置42内で実行される変速比固定制御ルーチンについて図7に示すフローチャートを用いて説明する。この変速比固定制御ルーチンの実行については、S301の判定結果がNoの場合に、ある所定時間おきごとに繰り返される。
【0072】
まずS401において、変速比固定制御を行うか否かが判定される。S401の判定結果がNOの場合は本ルーチンの実行を終了する。一方、S401の判定結果がYESの場合はS402に進み、例えば出力軸36回転速度Nout(n)の値により車両が停止しているか否かが判定される。S402の判定結果がYESの場合は本ルーチンの実行を終了する。一方、S402の判定結果がNOの場合はS403に進む。
【0073】
S403では、補償量算出手段132において、チェック弁72を通過してプライマリ油室30cへ流入する流量Qcheck(n)を物理モデルを用いて算出する。ここで物理モデルについては第1実施形態の(1)〜(4)式と同様であるため説明を省略する。次にS404に進み、漏れ量算出手段134において、漏れ流量Qdrain(n)を算出する。漏れ流量Qdrain(n)は第1実施形態の(6)式を用いて算出することができる。このとき(6)式におけるApの値については漏れ流量算出ルーチンに基づいて算出された値を用いる。
【0074】
次にS405に進み、変速比固定制御手段において、減速用電磁弁68へのデュ−ティ制御指令値のデュ−ティ比DS2(n)を算出し、デュ−ティ制御指令値を減速用電磁弁68へ出力して本ルーチンの実行を終了する。ここで、デュ−ティ比DS2(n)の値については、プライマリ油室30cへ流入した全体の流量(Qcheck(n)−Qdrain(n))によってアップシフトするのを抑えるために、(Qcheck(n)−Qdrain(n))の値に基づいて算出される。具体的な一例としては、まず以下の(9)式による物理モデルを用いて減速用流量制御弁64において(Qcheck(n)−Qdrain(n))の流量が発生するオリフィス面積Ar(n)を算出する。
【0075】
【数9】
ここで、プライマリ油室30cの圧力Pin(n)は第1実施形態の(2)〜(4)式を用いて算出することができる。次に、オリフィス面積Ar(n)とデュ−ティ比−オリフィス面積特性マップからデュ−ティ比DS2(n)の値を算出する。このときデュ−ティ比DS2(n)とオリフィス面積Ar(n)との間の動特性(作動油温度TOIL(n)の関数)も考慮してデュ−ティ比DS2(n)の値を算出することが好ましい。ただし、ここではモデルの精度を考慮して(Qcheck(n)−Qdrain(n))の値が閾値以下の場合は、DS2(n)=0としてもよい。
【0076】
本実施形態では、変速比固定制御時において、チェック弁72を通過してプライマリ油室30cへ流入する流量Qcheck(n)及び漏れ流量Qdrain(n)を物理モデルを用いて算出し、(Qcheck(n)−Qdrain(n))の値に基づいて減速用電磁弁68へのデュ−ティ制御指令値のデュ−ティ比DS2(n)を算出している。ここで、変速比固定制御を行うために、DS1(n)=DS2(n)=0としてもプライマリ油室30cには漏れ流量Qdrain(n)が存在するため、プライマリ油室30cの圧力Pin(n)が低下する。その場合はチェック弁72が開放してプライマリ油室30cへ作動油が流入することでプライマリ油室30cの圧力Pin(n)の補償が行われる。しかし、プライマリシーブ30には製造ばらつきがあるため、シール隙間面積Apがばらつき、Apの値が小さいものについては変速比γ(n)を固定したいにもかかわらずアップシフトしてしまう場合がある。しかし本実施形態では、(1)〜(4)、(6)式に示す物理モデルを用いることでプライマリ油室30cへ流入した全体の流量(Qcheck(n)−Qdrain(n))を精度よく算出することができる。さらに、この(Qcheck(n)−Qdrain(n))の値に基づいてデュ−ティ比DS2(n)を算出しているので、変速比固定制御時にアップシフトするのを確実に防止でき、精度よく変速比固定制御を行うことができる。
【0077】
本実施形態においても、漏れ流量特性の作動油温度TOIL(n)、プライマリ油室30c内の圧力Pin(n)及び変速比γ(n)に応じた変化量が小さい場合は、S404で算出する漏れ流量として、S111で算出した漏れ流量を用いてもよい。
【0078】
各実施形態における圧力補償手段は、チェック弁72に限るものではなく、油室における圧力を補償することができる手段であるならば本発明を適用可能である。
【0079】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、変速制御手段の非作動時における変速比の変化に基づいて、油室における作動油の漏れ量を算出するので、無段変速機ユニット固有の作動油の漏れ量を外乱なく精度よく算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態に係る無段変速機の制御装置を含む車両用動力伝達装置の構成を示す図である。
【図2】 本発明の実施形態における油圧制御装置及び電子制御装置の構成の概略を示す図である。
【図3】 本発明の第1実施形態における漏れ流量算出ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】 本発明の第1実施形態における流量特性学習補正ルーチンを示すフローチャートである。
【図5】 本発明の第1実施形態におけるデュ−ティ比−オリフィス面積特性マップの学習補正を説明する図である。
【図6】 本発明の第2実施形態における電子制御装置内で実行される制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図7】 本発明の第2実施形態における変速比固定制御ルーチンを示すフローチャートである。
【符号の説明】
10 トルクコンバータ、12 前後進切換装置、14 ベルト式無段変速機、30 プライマリシーブ、32 セカンダリシーブ、34 Vベルト、40 油圧制御装置、42 電子制御装置、50 流量制御装置、60 セカンダリ圧制御装置、62 増速用流量制御弁、64 減速用流量制御弁、66 増速用電磁弁、68 減速用電磁弁、72 チェック弁、90 ライン圧制御装置、124 油圧制御信号算出手段、126 補正手段、130 第1の油量変化検出手段、132 補償量算出手段、134 漏れ量算出手段、136 第2の油量変化検出手段、138 油量変化推定手段。
Claims (7)
- 油室における作動油の流入出によって駆動されることで変速比を連続的に変化させる変速機構を有する無段変速機の該油室における作動油の漏れ量を算出する装置であって、
前記油室へ作動油を供給するための油圧を発生させる油圧源と、
該油圧源から前記油室に供給される作動油の量を調整する変速制御手段と、
該油圧源と前記油室の間に設けられ、前記油室における圧力を補償する圧力補償手段と、
前記変速制御手段の非作動時の第1の所定時間中に、前記油室における作動油の量の変化を検出する第1の油量変化検出手段と、
前記第1の所定時間中に、前記圧力補償手段を通って前記油室へ流入した作動油の量を算出する補償量算出手段と、
前記第1の油量変化検出手段の検出値及び前記補償量算出手段の算出値に基づいて前記油室における作動油の漏れ量を算出する漏れ量算出手段と、
を有し、
前記補償量算出手段は、前記油圧源の圧力及び前記油室の圧力を検出する手段を有し、前記油圧源の圧力と前記油室の圧力との差に基づいて前記圧力補償手段を通って前記油室へ流入した作動油の量を算出し、
前記漏れ量算出手段は、
前記第1の油量変化検出手段の検出値及び前記補償量算出手段の算出値に基づいて算出した漏れ量及び該漏れ量の算出に用いた油室の圧力を、それぞれ基準漏れ量及び基準圧力として記憶し、
該基準漏れ量、該基準圧力及び前記油室の圧力に基づいて前記油室における作動油の漏れ量を算出することを特徴とする無段変速機の作動油漏れ量算出装置。 - 請求項1に記載の無段変速機の作動油漏れ量算出装置であって、
前記漏れ量算出手段は、
前記基準漏れ量及び前記基準圧力に基づいて前記油室の漏れ開口面積を算出し、
該漏れ開口面積及び前記油室の圧力に基づいて前記油室における作動油の漏れ量を算出することを特徴とする無段変速機の作動油漏れ量算出装置。 - 請求項1または2に記載の無段変速機の作動油漏れ量算出装置であって、
前記変速機構は、原動機からの駆動トルクが入力されるプライマリシーブと、該駆動トルクを負荷へ出力するセカンダリシーブと、プライマリシーブ及びセカンダリシーブに掛け回されたベルトと、を備え、
前記変速制御手段は、プライマリシーブの油室に供給される作動油の量を調整することで変速比を連続的に変化させ、
前記油圧源は、セカンダリシーブの油室へ油圧を供給する無段変速機の作動油漏れ量算出装置において、
プライマリシーブの回転速度を検出する入力回転速度検出手段と、
セカンダリシーブの回転速度を検出する出力回転速度検出手段と、
プライマリシーブへの入力トルクを検出する入力トルク検出手段と、
セカンダリシーブの油室における作動油の圧力を検出するセカンダリ圧力検出手段と、
をさらに有し、
前記補償量算出手段は、前記入力回転速度検出手段の検出値、前記出力回転速度検出手段の検出値、前記入力トルク検出手段の検出値及び前記セカンダリ圧力検出手段の検出値に基づいてプライマリシーブの油室における作動油の圧力を検出することを特徴とする無段変速機の作動油漏れ量算出装置。 - 油室における作動油の流入出によって駆動されることで変速比を連続的に変化させる変速機構を有する無段変速機を制御する装置であって、
前記油室へ作動油を供給するための油圧を発生させる油圧源と、
該油圧源から前記油室に供給される作動油の量を調整する変速制御手段と、
無段変速機の変速比を検出する変速比検出手段と、
前記変速制御手段の非作動時における変速比の変化に基づいて、前記油室における作動油の漏れ量を算出する漏れ量算出手段と、
前記変速制御手段の油圧制御信号−流量制御出力特性に基づいて所望の変速比を得るための流量制御出力に対応した油圧制御信号を算出して前記変速制御手段へ出力する油圧制御信号算出手段と、
前記変速制御手段の作動時の第2の所定時間中に、前記油室における作動油の量の変化を検出する第2の油量変化検出手段と、
前記第2の所定時間中に、前記油室における作動油の量の変化を前記油圧制御信号及び前記油室における作動油の漏れ量に基づいて推定する油量変化推定手段と、
前記第2の油量変化検出手段の検出値と前記油量変化推定手段の推定値との偏差に基づいて前記変速制御手段の油圧制御信号−流量制御出力特性を補正する補正手段と、
を有することを特徴とする無段変速機の制御装置。 - 請求項1〜3のいずれか1に記載の無段変速機の作動油漏れ量算出装置を含む無段変速機の制御装置であって、
前記変速制御手段の油圧制御信号−流量制御出力特性に基づいて所望の変速比を得るための流量制御出力に対応した油圧制御信号を算出して前記変速制御手段へ出力する油圧制御信号算出手段と、
前記変速制御手段の作動時の第2の所定時間中に、前記油室における作動油の量の変化を検出する第2の油量変化検出手段と、
前記第2の所定時間中に、前記油室における作動油の量の変化を前記油圧制御信号及び前記油室における作動油の漏れ量に基づいて推定する油量変化推定手段と、
前記第2の油量変化検出手段の検出値と前記油量変化推定手段の推定値との偏差に基づいて前記変速制御手段の油圧制御信号−流量制御出力特性を補正する補正手段と、
をさらに有することを特徴とする無段変速機の制御装置。 - 油室における作動油の流入出によって駆動されることで変速比を連続的に変化させる変速機構を有する無段変速機を制御する装置であって、
前記油室へ作動油を供給するための油圧を発生させる油圧源と、
該油圧源から前記油室に供給される作動油の量を調整する変速制御手段と、
無段変速機の変速比を検出する変速比検出手段と、
前記変速制御手段の非作動時における変速比の変化に基づいて、前記油室における作動油の漏れ量を算出する漏れ量算出手段と、
変速比固定制御を実行する変速比固定制御手段と、
を有し、
前記変速比固定制御手段は、前記油室における作動油の漏れ量に基づいて油圧制御信号を算出し、該油圧制御信号を前記変速制御手段へ出力することを特徴とする無段変速機の制御装置。 - 請求項1〜3のいずれか1に記載の無段変速機の作動油漏れ量算出装置を含む無段変速機の制御装置であって、
変速比固定制御を実行する変速比固定制御手段をさらに有し、
前記補償量算出手段は、変速比固定制御実行時に前記圧力補償手段を通って前記油室へ流入する作動油の量を算出し、
前記変速比固定制御手段は、変速比固定制御実行時に算出された前記補償量算出手段の算出値及び前記油室における作動油の漏れ量に基づいて油圧制御信号を算出し、該油圧制御信号を前記変速制御手段へ出力することを特徴とする無段変速機の制御装置。
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